説明

インクジェット記録用紙

【課題】 高速のロール給紙タイプのインクジェットプリンターを用いて記録した場合、高いインク乾燥性を有すると共に両面印字可能で、かつ耐水性があり高白色度の普通紙タイプのインクジェット記録用紙を提供する。
【解決手段】 印字速度50m/min.以上のロール給紙タイプのプリンターに使用するインクジェット記録用紙であって、パルプ、填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウム、および内添サイズ剤として中性ロジンサイズ剤を含有する基紙に、カチオン性樹脂とアニオン性蛍光染料、及び結着剤を含有し、かつ顔料を含まない塗工液を塗工してなり、JIS−P 8122:2004に規定されたステキヒトサイズ度が2秒以上10秒未満、かつJIS−P 8251:2003に規定された灰分が13%〜25%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を含むインク受容層を有さない、普通紙タイプのインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、各種の方法により飛翔させたインクの微小液滴を、紙などの記録用紙に付着させて画像や文字を形成させる記録方式である。この記録方式は高速化、フルカラー化が容易であり、さらに記録時の騒音が低く、装置が低価格なことから、家庭用として広く普及している。一方、商業用途の分野においても、従来は電子写真方式のノンインパクトプリンター(NIP)を用いて可変情報(公共料金やクレジットの請求書、領収書、配送用伝票、広告など)が印字されてきたが、近年、印字速度に優れる、ラインヘッドを有する高速インクジェットプリンターによる印字に置き換えられている。
【0003】
ところで、インクジェット記録用紙は、顔料を含むインク受容層を設けた塗工紙タイプと顔料を含むインク受容層を設けない普通紙タイプに大別される。デジタルカメラの画像出力には高精細画像を再現できる塗工紙タイプが主に用いられ、一方、ビジネスレポートや公共料金の明細書や振込み用紙などの印字には安価な普通紙タイプが主に用いられる。
【0004】
上述のようなインクジェット記録の用途拡大に伴い、安価でかつ高白色度の普通紙タイプのインクジェット記録用紙が求められている。高白色度な記録用紙に印字することで、カラー印字の映えや文字の再現性が良好となる。また、普通紙タイプのインクジェット記録用紙には、さらに、耐水性、および高速印字に耐えうる高いインク乾燥性、両面印字適性(裏抜けが少ない、印字面の反対側から印字情報が透けて見えない)などが求められる。
【0005】
インク乾燥性について述べると、前記高速インクジェットプリンターにはマイクロ波乾燥、高周波乾燥、シリンダー乾燥、熱風乾燥などの補助乾燥装置が設置されているが、あくまで補助乾燥であり十分な乾燥能力は備わっていない。50m/min.以上の高速で印字されるため、記録用紙には印字後に素早くインクが浸透乾燥することが求められる。インク吸収層を有していない普通紙タイプの記録用紙においては特に重要な課題である。
【0006】
普通紙タイプのインクジェット記録用紙として、例えば、特許文献1には、パルプ繊維、填料として白色の無機鉱物粉末、内添サイズ剤としてロジン系サイズエマルジョンを含有し、基紙表面に水溶性高分子及び導電剤を含有するサイズプレス液が塗布されてなる記録用紙が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、カチオン性樹脂を0.2〜2.0g/mの範囲で付着させ、ブリストー吸収係数が1.07〜1.90(ml/m・ms1/2)である高速輪転インクジェットプリンティングシステムに用いるシートが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、蛍光染料と、ジアリルジメチルアンモニウム塩を含むモノマーを重合して得られるポリマー、染料固着剤、特定のカチオン性ポリマーを含有した紙塗工用組成物、及びそれを塗工してなるインクジェット記録用紙が記載されている。
【0009】
また、特許文献4には、針状、柱状、紡錘状、ウィスカー状のいずれかの形状を有しアスペクト比が5以上の軽質炭酸カルシウムを紙質量当たり10質量%含有し、内添サイズ剤としてをアルケニル無水コハク酸を含有させた、カラー印字適性を有する記録用紙が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2000−071606号公報
【特許文献2】特開平9−202042号公報
【特許文献3】特開2006−241626号公報
【特許文献4】特開2005−120510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献1〜4に記載の技術では、高白色度とインク乾燥性および両面印字適性の両立ができなかった。
【0012】
特に特許文献1、2に記載の技術の場合、両面印字適性が十分でない場合が多かった。また、特許文献3の技術の場合、塗工液中に4種の異なるカチオン性ポリマーとアニオン性の蛍光染料を混合する必要があり、塗工液の安定性が悪く塗工適性が劣っていた。さらに、特許文献4に記載の技術の場合、炭酸カルシウムを填料とすることで、ある程度の白色度を得ることができるが、インクジェット記録方式で記録した場合、記録部の耐水性が不十分であった。
【0013】
従って、本発明は、高いインク乾燥性を有すると共に両面印字可能で、かつ耐水性があり高白色度の普通紙タイプのインクジェット記録用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意研究した結果、パルプと填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウム、および内添サイズ剤として中性ロジンサイズ剤を含有する基紙に、少なくともカチオン性樹脂とアニオン性蛍光染料と結着剤を含有する塗工液を塗工して得られるインクジェット記録用紙により上記課題を解決できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、印字速度50m/min.以上のロール給紙タイプのプリンターに使用するインクジェット記録用紙であって、パルプと填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウムと内添サイズ剤として中性ロジンサイズ剤とを含有する基紙の表面に、カチオン性樹脂とアニオン性蛍光染料、及び結着剤を含有し、かつ顔料を含まない塗工液を塗工してなり、JIS−P 8122:2004に規定されたステキヒトサイズ度が2秒以上10秒未満で、かつJIS−P 8251:2003に規定された灰分が13質量%〜25質量%であるインクジェット記録用紙である。特に、前記カチオン性樹脂がポリアミンエピハロヒドリン系樹脂であり、前記アニオン性蛍光染料がスチルベン型蛍光染料であることが好ましい。また、前記カチオン性樹脂の分子量が10,000以下であることが好ましく、前記塗工液はトランスファーロールコーターを用いて基紙上に塗工されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高いインク乾燥性を有すると共に両面印字可能で、かつ耐水性があり高白色度の普通紙タイプのインクジェット記録用紙を得ることができる。基紙中に填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウムを比較的高い灰分で、また内添サイズ剤として中性ロジンサイズ剤を含有し、規定のサイズ度を付与することで、顔料を含むインク受理層を有さない場合であってもこれらの性能を確保できる。さらに、ポリアミンエピハロヒドリン系樹脂と蛍光染料がスチルベン型アニオン性蛍光染料、および結着剤を含有する塗工液を塗布することで、さらに白色度と耐水性を向上することが可能である。また、ポリアミンエピハロヒドリン系樹脂と蛍光染料がスチルベン型アニオン性蛍光染料、および結着剤を含有する塗工液を、トランスファーロールコーターを用いて両面に塗布することにより、両面ともに高い表面強度で印字適性に優れたインクジェット記録用紙を高い生産性で安定して製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のインクジェット記録用紙は、以下のパルプ、填料、サイズ剤などを含む基紙上に、カチオン性樹脂および蛍光染料を含有する塗工液を塗工してなる普通紙タイプのものである。顔料を含有するインク受容層は設けない。
【0018】
1.基紙
<パルプ>
基紙は、木材パルプおよび填料、助剤等を抄紙してなる。木材パルプとしては、公知の化学パルプ、機械パルプ、および古紙パルプ等が挙げられる。また、これら各種パルプは必要に応じて単独で使用され、または併用される。パルプとしては、抄紙に慣用される従来公知のものを用いることができ、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;等の木材パルプや、古紙パルプ(DIP)を挙げることができる。さらに、コットンパルプや麻、バガス、ケナフ、エスパルト、楮、三椏、雁皮等の非木材パルプも用いることができる。
【0019】
<填料>
基紙中に内添する填料は、ロゼッタ(rosette)型の軽質炭酸カルシウムを主に含む。ロゼッタ型の軽質炭酸カルシウムとは、紡錘形状の軽質炭酸カルシウムの一次粒子が放射状に凝集してロゼッタ型の二次粒子を形成したものであり、具体的にはSpecialty Minerals Inc.社のアルバカーHO、アルバカー5970、アルバカーLO等の製品を好ましく挙げることができる。ここで、放射状とは、例えば、上記二次粒子の中心近傍から、各一次粒子の長手方向が放射状に伸びたものを指す。
【0020】
軽質炭酸カルシウムは生産コストや操業性、および低添加量で高い白色度、および不透明度が得られる点で優れ、さらにロゼッタ型の軽質炭酸カルシウムはその特殊な形状のため吸油量が高い。基紙に高配合させることによりインクを吸収する能力が大きく向上し、インクジェット記録を行った際の乾燥性が大きく向上する。特に印字速度50m/min.以上の高速インクジェットプリンターを用いた場合に効果が大きい。
【0021】
図1は、液中に分散した状態のロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(二次粒子)の形態の一例を示す電子顕微鏡像である。この図において、各一次粒子の基部同士が凝集し、各一次粒子がその先端へ向かって放射状に伸びている。また、各一次粒子は基部の幅(径)がやや大きく、先端に向かって細くなっている。なお、図中のmicronは、μmを示す。
【0022】
填料としては、ロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの他、ロゼッタ型以外の軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、ゼオライト等従来から慣用されている無機微粒子を使用することができる。但し、填料全体に対する上記無機微粒子の割合は20質量%以下程度とするのが好ましい。
【0023】
<内添サイズ剤>
本発明においては、内添サイズ剤として中性ロジンサイズ剤を用いる。填料として軽質炭酸カルシウムを用いた中性領域で使用するサイズ剤としては、中性ロジンサイズ剤の他、アルケニル無水コハク酸(ASA)やアルキルケテンダイマー(AKD)が挙げられるが、アルキルケテンダイマーの場合には、用紙の摩擦係数が下がるため印刷、印字工程や後加工の工程で滑りの問題を生じる。一方、アルケニル無水コハク酸の場合、サイズの発現性が抄紙の際の他の添加薬品の影響を大きく受けるため、安定した品質を確保するには取扱いが難しい。このため、サイズの安定した発現性や滑りの問題の無い中性ロジンサイズ剤を用いる。
【0024】
中性ロジンサイズ剤の添加率は、原料パルプに対して0.1〜0.5質量%であることか好ましく、0.1〜0.3質量%であることが特に好ましい。添加率が0.1質量%未満である場合、インクの乾燥性は良好であるが耐フェザーリング性(印字部のニジミ)や裏抜けが劣る。一方、0.5質量%を超える場合、インクジェットプリンターで印字された際のインク乾燥性が低下する他、インク滴の用紙上での拡がりが抑制されるため本来の図柄が形成されず白く抜けた印字物を生じる場合がある。
【0025】
本発明で用いる中性ロジンサイズ剤は、pH6〜9の弱酸性〜弱アリカリ性領域(中性領域)で使用する、ロジン系物質を各種の乳化分散剤で分散させたエマルジョン型のロジンサイズ剤である。ここで、ロジン系物質としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類をフマール酸、マレイン酸、アクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性した強化ロジンや、前記ロジン類をグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の多価アルコールを反応させて得られるロジンエステルを例示でき、単独またはその混合物をエマルジョン化したものや、単独でエマルジョン化した後に混合したものを使用可能である。さらに、上記ロジンエマルジョン中に、サイズ発現性をより向上させるために各種ポリマーを添加したものも使用できる。
【0026】
<基紙の抄造>
基紙を抄造する抄紙機としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの公知の装置を適宣使用することができる。このうち、ツインワイヤー抄紙機を用いて抄造することが、原料パルプスラリーの上下より脱水を行うために紙表裏の組成差が小さくなることから、特に好ましい。本発明におけるインクジェット記録用紙を得るために、抄造条件としてパルプろ水度、ジェットワイヤー比、プロファイル、プレス、カレンダーなどの調整が行われ、また乾燥条件も抄紙機のドライヤーでの蒸気圧および通気方法の調整など、公知の方法が利用できる。抄紙pHは、酸性領域からアルカリ性領域で行うことが可能であるが、好ましくは、pH6〜9の弱酸性〜弱アルカリ性領域(中性領域)である。また、基紙中には、本発明の効果を損なわない範囲で、紙力増強剤、消泡剤、pH調整剤、歩留まり向上剤、色相を調整するための染料または有色顔料、視覚的白さを向上させるための蛍光染料等の抄紙用内添薬品を内添することができる。
【0027】
2.塗工液
<カチオン性樹脂>
本発明においては、アニオン性のインクジェット用インクに耐水性を付与すると共に、耐フェザーリング性を向上させるため、インク定着剤として効果のあるカチオン性樹脂を塗工液中に含む。
【0028】
カチオン性樹脂は、カチオン性の水溶性高分子であり、耐フェザーリング性およびインク耐水性を向上させる点から分子量200,000以下であることが好ましい。特に、本発明におけるインクジェット記録用紙に用いる場合、カチオン性樹脂の分子量は10,000以下であることが好ましい。また、カチオン性樹脂のカチオン密度は5meq/g以上であることが好ましい。カチオン密度が5meq/g未満である場合、インク定着能力が十分でない場合がある。
【0029】
なお、上記分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)で測定した質量平均分子量であり、カチオン密度は、通常滴定薬として(1/400)Nポリビニル硫酸カリウム(PVSK)溶液および指示薬として0.1%トルイジンブルー溶液を用いる一般的なコロイド滴定法によって測定し、下記の計算式により得られる。
【0030】
【数1】

【0031】
カチオン性樹脂としては、例えばポリエチレンイミン4級アンモニウム塩誘導体;アンモニア・ジアルキルアミン・エピハロヒドリン樹脂;ポリアミンエピハロヒドリン;ポリアミドエピハロヒドリン;ポリアミンポリアミドエピハロヒドリン、ジシアンアミド・ホルムアルデヒド樹脂;ジエチレントリアミン・ジシアンジアミド・アンモニウムクロライド樹脂;ジメチルジアリルアンモニウムクロライド樹脂等が例示される。このうち、アンモニアとアミン類とエピハロヒドリン類とを縮重合させてなるポリアミンエピハロヒドリン系樹脂を用いると、後述する高速インクジェットプリンターで印字した際の耐フェザーリング性がさらに向上するので特に好ましい。
【0032】
前記樹脂に用いられるアミン類としては、例えば、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ポリアルキルポリアミン、およびアルカノールアミンモノアミンなどを挙げることができる。具体的には第2級アミンとして、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、メチルオクチルアミン、メチルラウリルアミン、およびジベンジルアミン等を挙げることができる。第3級アミンとして具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−sec.−ブチルアミン、トリ−tert.−ブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、およびトリベンジルアミン等を挙げることができる。このうち、第2級アミンのジメチルアミンおよびジエチルアミンが特に好ましい。
【0033】
前記樹脂におけるエピハロヒドリン類として具体的には、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、メチルエピクロルヒドリン等から選ばれる1種類以上を使用できるが、特にエピクロロヒドリンを使用することが好ましい。
【0034】
前記樹脂の合成方法としては、例えば、特開平10−152544号公報、特開平10−147057号公報に記載される公知の方法を用いることができる。上記樹脂を1種単独でインク受容層塗工液に配合しても良く、また異なる重合度のものを混合して塗工液に配合しても良い。なお、上記樹脂は適宣合成したものを使用してもよく、市販品を用いてもよい。
【0035】
本発明においては、カチオン性樹脂の塗工量が両面で0.5〜5.0g/mであることが好ましく、1.0〜3.0g/mであることがより好ましい。両面の塗工量が0.5g/m未満である場合、十分な耐フェザーリング性および耐水性が得られない。一方、両面の塗工量が5.0g/mを超えるカチオン性樹脂を塗工してもこれ以上耐フェザーリング性および耐水性は向上せず、過剰に塗工した分、薬品コストも上昇するため好ましくない。
【0036】
<蛍光染料>
本発明においては、高い白色度を得るために、塗工液中に蛍光染料を配合することが好ましい。蛍光染料としては、ジアミノスチルベン型、イミダゾール型、オキサゾール型、トリアゾール型、クマリン型、ナフタルイミド型、およびピラゾリン型蛍光染料が挙げられる。一般的にアニオン性の蛍光染料はカチオン性樹脂との相溶性が悪く、混合時に凝集物が発生する。本発明においては、前述したカチオン性樹脂との相溶性が高く、高い白色度が得られる蛍光染料として、特にジアミノスチルベン型が好ましい。
【0037】
<結着剤>
塗工液中に含有する結着剤に特に制限はなく、公知の結着剤から適宣選択することができる。本発明においては、水溶性高分子接着剤、合成エマルジョン系接着剤等、水に溶解または分散可能なものが好ましい。水溶性高分子接着剤としては、デンプンまたはその変性物、ポリビニルアルコールおよびその変性物、カゼインなどを挙げることができる。また、合成エマルジョン系接着剤としては、アクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、スチレンブタジエンラテックス、ウレタン樹脂系エマルジョンなどを挙げることができるが、印字濃度の点から水溶性高分子接着剤を使用することが好ましい。
結着剤として具体的には、完全ケン化型ポリビニルアルコール、部分ケン化型ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、酸化デンプン、ヒドロキシルエチルエーテル化デンプン、リン酸エステル化デンプンなどが挙げられる。
【0038】
<その他の成分>
本発明の効果を損なわない範囲で、塗工液中にサイズ剤、染料、保水剤、耐水化剤、pH調整剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、界面活性剤、導電剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、などの添加剤を配合することが可能である。
<塗工方法>
本発明においては、塗工液はトランスファーロールコーターにより高速(300m/min.以上、1000m/min.以上も可能)で塗工されることが好ましい。これらは支持体に同時に両面塗工でき、抄紙機上に容易に設置できる塗工方式である。これにより、生産性が大幅に向上するとともに、支持体の両面同時に塗工することにより、両面印字可能なインクジェット記録用紙を安価に製造可能となる。トランスファーロールコーターとしては、ゲートロールコーター、ロッドメータリングサイズプレス、ブレードメータリングサイズプレスなどが挙げられ、前計量方式(印刷塗工方式)で支持体に塗工液を塗布する(複数のロールやバー、ブレード等で計量した塗工液を、アプリケーションロールを用いて支持体に塗布する)コーターであり、ブレードコーターやバーコーターなどの後計量方式(支持体に付着させた塗工液を掻き取る方式)で塗工するコーターと比較して、塗工時に用紙にかかる負荷が小さいため断紙し難く、より高速で塗工できる等の利点がある。また、トランスファーロールコーターを用いると基紙上に形成される塗膜厚が均一となるため、耐フェザーリング性が更に良好となる。
【0039】
本発明において、トランスファーロールコーターはオンマシンコーターであってもオフマシンコーターであっても良い。オンマシンコーターとは、支持体の製造機(抄紙機等)上に設置されて支持体の製造と同一ラインで塗工するものであり、オフマシンコーターとは、支持体の製造機と別に設置され、製造された支持体を一旦巻取り、別ラインのコーターで塗工するものである。生産効率を向上させてコストダウンを図る点では、オンマシンコータートランスファーロールコーターを用いるのが好ましい。なお、従来のインクジェット記録用紙の製造における塗工方式としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、バーコーター、カーテンコーターなどが用いられているが、これらの方式で支持体に同時に両面塗工することは困難であり、両面塗工するには、製造工程数の増加、乾燥負荷の増大などの問題がある。
【0040】
<灰分>
本発明のインクジェット記録用紙のJIS−P 8251:2003に規定された灰分は13質量%〜25質量%であることが必要であり、好ましくは14質量%〜20質量%である。灰分が13質量%〜25質量%であると、インクジェット記録時のインク乾燥性が向上すると共に、両面印字適性が良好となる。一方、灰分が13質量%未満であると、裏抜けし易くなるため両面印字適性が低下し、25質量%を超えるとインクが記録用紙における横方向へのインクの浸透を制御できず、インクがニジみ易くなる他、粉落ちし易くなる。なお、JIS−P 8251:2003に規定する灰分は、試料(紙)を525℃±25℃の温度で燃焼させた後の灰化残留物の量を、試料の絶乾質量に対する百分率で表したものである。
<ステキヒトサイズ度>
本発明においては、さらに、インクジェット記録用紙としてのJIS−P 8122:2004にて規定されるステキヒトサイズ度が2秒以上10秒未満であることが必要である。ステキヒトサイズ度が2秒未満である場合、インクジェット記録用紙に打ち込まれたインクが横方向に広がり易くなり、耐フェザーリング性が著しく低下する他、印字後の裏抜けを生じ易くなり両面印字適性が低下する。一方、ステキヒトサイズ度が10秒を超える場合、インク乾燥性が低下する。
【0041】
ステキヒトサイズ度は基紙中の内添サイズ剤の含有量や、塗工液を構成する各成分の塗工量等で調整できる。例えば、基紙中の内添サイズ剤の含有量が増えるとサイズ度は大きくなり、また、カチオン性樹脂の塗工量が増えるとサイズ度は小さくなる。
【0042】
<印字>
本発明における高速インクジェットプリンターとは、印字速度50m/min.以上のロール給紙タイプのプリンターを指す。前記インクジェットプリンターには、インク色毎にラインヘッドが搭載されており、高速印字を可能としている。インクは水性染料タイプ、または水性顔料タイプに分別される。また、マイクロ波乾燥、高周波乾燥、シリンダー乾燥、熱風乾燥などの補助乾燥装置が設置されている。具体的には、Kodak versamark社製VX5000e、イセトー社製イセトースーパージェット4000、ミヤコシ社製MJP600などが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の「部」、「%」は特に断らない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」を指す。
【0044】
[実施例1]
広葉樹クラフトパルプ(ろ水度360ml c.s.f.)100%からなるパルプスラリーに、填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(アルバカー5970:SMI社製)を対絶乾パルプ質量当たり20%、硫酸バンドを1.2%、内添サイズ剤として中性ロジンサイズ剤(CC1401:星光PMC社製)を0.2%、カチオン化デンプン(CATO304:日本エヌエスシー社製)を0.7%添加して原料スラリーを得た。これを、ツインワイヤー型抄紙機を使用して800m/min.の速度で坪量80g/mになるよう抄造して得られた基紙に、酸化澱粉(MS#3600:日本食品化工社製)10.0%、分子量数千のポリアミンエピハロヒドリン系樹脂(DK6802:星光PMC社製)4.0%、スチルベン型蛍光染料(カヤホールPASQリキッド:日本化薬社製)0.3%からなる塗工液を、オンマシン上に設置されたロッドメータリングサイズプレスを用いて両面で7g/mとなるよう塗工することにより、インクジェット記録用紙1を得た。
【0045】
[実施例2]
基紙に内添する中性ロジンサイズ剤の添加量をを0.35%とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙2を作製した。
【0046】
[実施例3]
基紙に内添する中性ロジンサイズ剤の添加量をを0.15%とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙3を作製した。
【0047】
[実施例4]
基紙に内添するロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの添加量を37%、中性ロジンサイズ剤の添加量を0.35%とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙4を作製した。
【0048】
[実施例5]
基紙に内添するロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの添加量を17%とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙5を作製した。
【0049】
[実施例6]
塗工液中のポリアミンエピハロヒドリン系樹脂を2.5%とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙6を作製した。
【0050】
[比較例1]
基紙に内添する中性ロジンサイズ剤の添加量を0.05%とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙7を作製した。
【0051】
[比較例2]
基紙に内添する中性ロジンサイズ剤の添加量を0.4%とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙8を作製した。
【0052】
[比較例3]
塗工液中の蛍光染料を無配合とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙9を作製した。
[比較例4]
塗工液中のポリアミンエピハロヒドリン系樹脂を無配合とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙10を作製した。
【0053】
[比較例5]
基紙に内添するロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの添加量を12%とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙11を作製した。
【0054】
[比較例6]
基紙に内添するロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの添加量を43%とした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙12を作製した。
【0055】
<評価項目−インクジェット記録用紙の物性>
・灰分
JIS−P 8251:2003に準拠して、各インクジェット記録用紙の525℃の灰分を測定した。
・ISO白色度
JIS−P 8148:2001(ISO 2470:99)に準拠して、各インクジェット記録用紙のISO白色度(UV−in)を測定した。90%を超えると十分高い白色度であり、良好である。
・ステキヒトサイズ度
JIS−P 8122:2004に準拠して、各インクジェット記録用紙のステキヒトサイズ度を測定した。
【0056】
<水系インクによるインクジェット記録>
各記録用紙について、インクジェットプリンターSCITEX6240システムプリンター(SCITEX社製、通紙速度100m/min.、高速インクジェットプリンター)で黒インク(#1040)を用いてインクジェット印字を行い、以下の評価項目について、インクジェット記録適性を評価した。評価結果を表に示す。
<インクジェット記録適性の評価項目>
・耐水性
黒色のベタ印字パターン1(50mm幅×15mm高さ)を印字した後、蒸留水に30秒間浸漬し、インクの流れの程度から耐水性を目視判定した。以下の評価が○、△であれば実用上問題なく使用できる。
○:インクが流れ落ちない
△:若干、インクが流れ落ちている
×:インクの流れ落ちが著しい
・インク乾燥性
黒色のベタ印字パターン2(85mm幅×5mm高さ)を印字した後、ベタ部を指でこすり、乾燥に要するまでの時間を測定した。以下の評価が○、△であれば優れた乾燥性である。
【0057】
○:乾燥に要する時間が3秒未満であった
△:乾燥に要する時間が3〜6秒であった
×:乾燥に要する時間が6秒を超えた
・両面印字適性(裏抜け)
黒色のベタ印字パターン1(50mm幅×15mm高さ)を印字した後、印字部を反対面より観察した際の裏抜けの様子を目視判定した。以下の評価が○、△であれば実用上問題なく使用できる。
○:裏抜けが認められない
△:裏抜けがやや認められるが、気にならない
×:裏抜けが著しく、反対面に印字した情報の読取り性に影響するレベル
実施例1〜6、比較例1〜6で得られたインクジェット記録用紙を上述した評価方法で評価した結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
本発明に相当する実施例1〜6において得られた記録用紙1〜6は、高い白色度を有し、インクジェット適性(耐水性、インク乾燥性、両面印字適性)が良好であった。
一方、ステキヒトサイズ度の値が低い比較例1は、両面印字適性が劣り、逆にステキヒトサイズ度の値が高い比較例2は、インク乾燥性が低下した。
また、塗工液中の蛍光染料を無配とした比較例3は白色度が大きく低下し、カチオン性樹脂を無配とした比較例4は耐水性が悪化した。
【0060】
記録用紙中の灰分が少なすぎる比較例5は両面印字適性に劣り、灰分が多すぎる比較例6は粉落ちし、また、ステキヒトサイズ度が低いために両面印字適性が劣った。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ロゼッタ型軽質炭酸カルシウムの二次粒子形状の電子顕微鏡像の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字速度50m/min.以上のロール給紙タイプのインクジェットプリンターに使用するインクジェット記録用紙であって、パルプ、填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウム、および内添サイズ剤として中性ロジンサイズ剤を含有する基紙に、カチオン性樹脂、アニオン性蛍光染料、および結着剤を含有し、かつ顔料を含まない塗工液を塗工してなり、JIS−P 8122:2004に規定されたステキヒトサイズ度が2秒以上10秒未満で、かつJIS−P 8251:2003に規定された灰分が13質量%〜25質量%であるインクジェット記録用紙。
【請求項2】
前記カチオン性樹脂がポリアミンエピハロヒドリン系樹脂であり、前記アニオン性蛍光染料がスチルベン型蛍光染料である請求項1記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】
前記カチオン性樹脂の分子量が10,000以下である請求項1ないし2に記載されたインクジェット記録用紙。
【請求項4】
前記基紙に前記塗工液をトランスファーロールコーターで塗工してなる請求項1〜3のいずれかに記載されたインクジェット記録用紙。

【図1】
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【公開番号】特開2010−82839(P2010−82839A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251862(P2008−251862)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】