インクジェット記録装置および記録方法
【目的】 広い範囲でインク滴量を変調して十分な階調表現を行ない、駆動回路を増加させず、しかもヘッド寿命を低下させることなく高品質の階調記録を行なうことのできるサーマルインクジェット記録装置を提供する。
【構成】 バブルを発生させるために必要な最小エネルギーを互いに異ならせたヒーター7a,7bを1つの流路内に複数設け、さらにこれら複数のヒーター7a,7bを互いに電気的に並列に共通電極11および個別電極12に接続する。これら複数のヒーターに対して、記録する画像の階調信号に対応するエネルギーを供給する。このとき、印加エネルギー以下の最小エネルギーでバブルを発生するヒーターからのみ、バブルが発生し、ノズル5からインク滴13を噴射する。このため、選択的に噴射されるインク滴の体積を変えることができ、階調記録を行なうことができる。
【構成】 バブルを発生させるために必要な最小エネルギーを互いに異ならせたヒーター7a,7bを1つの流路内に複数設け、さらにこれら複数のヒーター7a,7bを互いに電気的に並列に共通電極11および個別電極12に接続する。これら複数のヒーターに対して、記録する画像の階調信号に対応するエネルギーを供給する。このとき、印加エネルギー以下の最小エネルギーでバブルを発生するヒーターからのみ、バブルが発生し、ノズル5からインク滴13を噴射する。このため、選択的に噴射されるインク滴の体積を変えることができ、階調記録を行なうことができる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ヒーターの発熱により発生する蒸気バブルの圧力によって、インク滴をノズルから噴射し記録を行なうサーマルインクジェット技術に関するものであり、特に、階調記録を行なうためのインクジェット記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、サーマルインクジェットを用いて階調記録を行なう一つの方法として、ディザ法のように、ドットマトリクス内のドットの分布により階調を表現するものである。このような方法では、解像度が低下しないように高密度に多数のノズルを必要とするため、それぞれに対応する駆動回路が増加するといった問題があった。そこで、解像度を犠牲にすることなく階調を表現する方法として、噴射するインク滴自体の大きさを変えることが試みられている。
【0003】インク滴量を変化させる方法として、実開昭57−141043号公報等に示すように、ヒーターに印加する駆動パルスの電圧値に応じてインク滴の噴射する量を変えようとするものがある。図12は、ヒーターに印加する電圧値と噴射されるインク滴量の関係を示すグラフである。図12に示すように、印加電圧が増加しても、ある値以上の印加電圧に対しては、インク滴量がほとんど変化しない平坦な領域を持つため、インク滴の噴射量の変化する範囲が狭く、十分な階調レベルが得られないという問題があった。
【0004】このため、特開昭55−132259号公報には、一つの流路内に複数のヒーターを有し、階調信号に応じて複数のヒーターを選択的に駆動する方法が示されている。また、特開昭62−261453号公報には、1つの流路内に複数のヒーターを直列に配置し、バブルを発生するヒーターを選択して駆動し、噴射するインク滴量を変えようとする方法が記載されている。これらの方法は、広い範囲で噴射するインク滴を変えることができるが、複数のヒーターに独立に信号を印加して駆動させるため、ヒーターの数に応じた配線や駆動回路が必要となり、装置の大型化や作製コストが増加するといった問題を有している。
【0005】この問題を解決するため、複数のヒーターを電気的に直列に接続し、印加する電圧によってバブルを発生するヒーターを選択し、噴射するインク滴量を変える方法も考えられる。このようにすれば、配線数や駆動回路の増加を抑えることができるが、電圧を供給する電極に遠いヒーターにバブルを発生させるに十分なエネルギーを与えるためには、高い電圧が必要となる。このとき、電圧を供給する電極の近傍の特定のヒーターにとっては、過剰な電圧となるため、ヒーターの劣化をもたらし、ヘッド寿命が短くなるという問題を有している。
【0006】また、特開昭57−89967号公報に記載された中間調記録方法は、特性の異なるドットを形成できる複数のノズルを設け、これらを選択的に組み合わせて、網点像を形成するものである。階調レベルを多く取れる利点はあるが、この方法も高密度に多数のノズルを配置する必要があり、記録ヘッドが大型化するとともに、駆動回路が複雑になるという問題点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、広い範囲でインク滴量を変調して十分な階調表現を行ない、駆動回路を増加させず、しかもヘッド寿命を低下させることなく高品質の階調記録を行なうことのできるサーマルインクジェット記録装置を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、インクを吐出するためのノズルと、該ノズルに連通した流路と、該流路にインクを供給するためのインク供給口と、前記流路内に設けられたヒーターを有し、該ヒーターの発熱により発生する上記バブルの圧力によってインク滴を前記ノズルから吐出するインクジェット記録装置において、1つの流路内に印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なる複数のヒーターを設け、これらのヒーターを互いに電気的に並列に接続したことを特徴とするものである。
【0009】また、インクを吐出するためのノズルと、該ノズルに連通した流路と、該流路にインクを供給するためのインク供給口と、前記流路内に設けられ印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なる複数のヒーターを有し、これらのヒーターは各流路毎に互いに電気的に並列に接続されており、該ヒーターの発熱により発生する上記バブルの圧力によってインク滴を前記ノズルから吐出するインクジェット記録装置における記録方法において、記録する画像の濃度に応じて前記複数のヒーターを駆動する印加エネルギーを制御し、ノズルから吐出されるインク滴の量を変化させて階調を有する記録を行なうことを特徴とするものである。
【0010】
【作用】本発明によれば、ノズルからインク滴を噴射させるためのヒーターを1つの流路内に複数設け、これら複数のヒーターの印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値を互いに異ならせ、さらにこれら複数のヒーターを互いに電気的に並列に接続する。この並列接続された複数のヒーターに対して、共通の駆動回路から記録する画像の階調信号に対応する印加エネルギーを供給する。それにより、印加エネルギーに応じて、蒸気バブルを発生するヒーターを追加することができ、選択的にバブルの体積、すなわち噴射されるインク滴の体積を変えることができる。ヒーターは、並列に接続されているから、駆動回路や配線数を増加させずに、階調記録を行なうことができる。
【0011】印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値異ならせた複数のヒーターは、ヒーターの抵抗値やヒーターの面積などを異ならせることにより実現することができる。ヒーターの抵抗値を変えた場合には、各ヒーターに流れる電流が異なり、発生するジュール熱が異なる。また、抵抗値が同じでもヒータの面積を変えれば、単位面積当たりの発熱量が変わりヒーター表面の温度上昇が変わり、バブルを発生させるための閾値が異なる。抵抗値と面積の両方を変えることもできる。このように、印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なるヒーターを並列に接続して、電圧パルスの電圧またはパルス幅などの印加エネルギーを選択することによって、蒸気バブルを発生するのに十分のジュール熱を発生するヒーターからのみバブルが発生するため、選択的にバブルの体積、すなわち噴射されるインク滴の体積を変えることができる。
【0012】また、複数のヒーターは並列に接続されているため、特定のヒーターに過剰に電圧が印加されることはなく、また、特定のヒーターに電流が集中することもないので、特定のヒーターが劣化しヘッド寿命を短くすることや、所望の階調レベルが得られないといった問題はない。
【0013】
【実施例】図1は、本発明のインクジェット記録装置の第1の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図、図2はノズル側からみた正面図、図3は各ノズルのインク流路方向の断面図である。図3におけるA−A’断面図を図1に、B−B’面を図2に示している。図中、1はチャネル基板、2はヒーター基板、3はインク室、4はインク供給口、5はノズル、6はインク流路、7a,7bはヒーター、8は厚膜樹脂層、9はピット、10はチャネル隔壁、11は共通電極、12は個別電極、13はインク滴、14は記録紙である。
【0014】このサーマルインクジェットヘッドは、研磨されたSi基板上に蓄熱層としてのSiO2 膜を形成し、その上にヒーターとなるpoly−Siを着膜し、パターニングする。さらに配線となるAlを蒸着し、同一流路内のヒーターが互いに並列接続されるようにパターニングする。また、ヒーターおよび配線の保護層となるポリイミド、SiNX 、Ta等を着膜し、パターニングし、ヒーター基板2が構成される。一方、もう一枚の研磨されたSi基板に、異方性エッチングによってインク流路6とインク室3、インク供給口4が形成され、チャネル基板1となる。この2枚のヒーター基板2、チャネル基板1を位置合わせして接着し、ダイシングによって1つのプリントヘッドに分離する。このとき、インク流路6が開口し、ノズル5が形成される。
【0015】このサーマルインクジェットヘッドは、ノズル5に連通したインク流路6の底面のポリイミド層8の凹所であるピット9にヒーター7a,7bが設けられ、各インク流路はチャネル隔壁10によって仕切られている。インクは、インク供給口4からインク室3を通り、各インク流路6に導かれる。ヒーター7a,7bは共通電極11と個別電極12とによって電気的に並列に接続され、図示しない1つの駆動回路によって駆動される。
【0016】インク流路6内に設けられ、電気的に並列に接続されたヒーターは、バブルを発生するための最小エネルギーがそれぞれ異なるように構成されている。この第1の実施例では、図1に示すように、1つの流路内のヒーターの数を2つとし、2つのヒーターの面積を互いに異ならせた。ここでは、ヒーター7aの面積の方がヒーター7bの面積よりも小さくしている。2つのヒーターの抵抗値が同じであれば、発熱面積を異ならせることにより、同じエネルギーが投入されたときに単位面積当たりの投入エネルギーが相違し、ヒーター表面の最高上昇温度に差が生じる。したがって、2つのヒーター7a,7bにおいて、バブルを生じる温度に到達するのに必要な最小エネルギーが異なることになるため、発熱面積が小さいヒーター7aの方がより小さなエネルギーでバブルを発生する。
【0017】2つのヒーターは並列に接続されているため、特定のヒーターに過剰に電圧が印加されることはなく、また、抵抗値も同じため、片方のヒーターに電流が集中することもないので、直列に接続した場合のように、特定のヒーターが劣化し、ヘッド寿命を短くすることや、所望の階調レベルが得られないといった問題はない。
【0018】図4は、本発明のインクジェットヘッドにおける印加エネルギーと噴射されるインク滴量の関係を示すグラフである。ヒーター7aにバブルを生じさせる最低エネルギーをE1,ヒーター7bにバブルを生じさせる最低エネルギーをE2とする。2つのヒーターは、バブルを発生させるのに必要な印加エネルギーがそれぞれ異なるため、閾値E2より小さい範囲のエネルギーを与えた場合には、一方のヒーター7aからのみバブルが発生し、インク滴が噴射され、図12で説明した従来例のものと同様に、平坦部16aを持つ依存性を示す。この閾値E2を越えたエネルギーを印加した場合には、2つのヒーター7a,7bからバブルが生じるため、一旦インク滴量は増加し、再び平坦部16bを持つ。このように、2つの平坦部に対応するエネルギー範囲15a、15b内の2値のエネルギーを印加することにより、2つの異なる噴射インク滴量VOL1とVOL2を得ることができ、階調表現を行なうことができる。
【0019】印加エネルギーはパルス電圧、パルス幅等に依存する。したがって、印加エネルギーを変えるには、これらのファクターの少なくとも1つを変えればよい。
【0020】インク滴量VOL1,VOL2は、従来例と同様、ヒーターの大きさや流路における位置、および、例えば、流路幅や流路の長さ、ピットの深さ等の流路の他のサイズで決まる。必要なインク滴量を得るための流路構造の決定には、従来のヘッドにおける設計方法が利用できる。したがって、インク滴量VOL1,VOL2は、良好な画質を得るために要求される値に、自由に設定することが可能であり、十分な階調レベルを得ることができる。
【0021】この実施例では、複数のヒーターを流路方向に配置し、バブルを発生するのに必要なエネルギーが小さいヒーターほど、ノズルに近い場所に設けた。これは、最初にバブルを発生するヒーターからノズルまでの距離を短くすることによって、インク滴量が少ない場合に、発生したバブルによって移動するインクの運動量の流路抵抗による損失をなるべく小さくし、噴射されるインク滴速度を低下させないためである。このようにして、2つのヒーターからバブルが生じたときに噴射される大きなインク滴との速度の差をなるべく小さくすることができる。
【0022】図5は、本発明のインクジェット記録装置の第2の実施例を示す平面方向の断面図である。図5に示すように、バブルを発生させるために必要なエネルギーが大きいヒーター7bをノズルに近く配置することもできる。この実施例でもバブルを発生させるエネルギーを異ならせるために、ヒーターのサイズを異ならせている。
【0023】この場合、閾値E2を越えた範囲のエネルギーを与えると、まずノズルから遠いヒーターからバブルが発生し、インクがノズル方向に運動を開始した後、ノズルに向かって順次ヒーターからバブルが生じるので、インク流路の奥からインクが順に押し出されてゆき、噴射されるインク滴が大きくなる。そのため、1つのヒーターによりインク滴が噴射される時のインク滴量と、2つのヒーターが順にバブルが生じ、インク滴が噴射される時のインク滴量との差が大きくなり、より階調差の大きな画像を得ることができる。このとき、ヒーターの駆動時の電圧変化を、ステップ状に変化させず、傾斜を有するように変化させる等により、各ヒーターからバブルが発生するタイミングを調整することができる。
【0024】このように、複数のヒーターの配置によって、違う特性を有する記録ヘッドを得ることができるので、用途に応じてヒーターの配置を決めればよい。すなわち、階調表現が必要なイメージ画像が多いカラープリンタには、ノズルに近いヒーターほどバブルを発生するのに必要な最小エネルギーが小さくなるような配置にすることが好ましい。これにより、小さいインク滴と大きいインク滴速度の差を小さくして、インク滴の着弾位置を揃え、中間調であっても高画質を得ることができる。また、単一インク滴量による文字等の出力が多く、階調表現が少ないモノクロプリンタには、ノズルに近いヒーターほどバブルを発生するのに必要な最小エネルギーが大きくなるような配置にし、インク滴量の差を大きくして階調差を大きくすることにより、鮮明な画像を得ることができる。
【0025】図6は、本発明のインクジェット記録装置の第3の実施例を示す平面方向の断面図である。第3の実施例では、図6に示すように2つのヒーターの形状、大きさ、膜厚は等しく、ヒーターの抵抗値のみを変えた。より具体的には、ヒーターの材料であるpoly−Si中の不純物濃度を変え、抵抗率を異ならせた。
【0026】図7は室温でのpoly−Siにおける不純物濃度とpoly−Siの体積抵抗率の関係を示すグラフである。図7に示すように、poly−Siにおける不純物濃度を増加させると、体積抵抗率は低下する。
【0027】この実施例では、不純物として燐を用い、不純物を与える方法としてイオン・インプランテーション(イオン打ち込み法)を用い、2つのヒーター領域でインプランテーション(イオン打ち込み法)の時間を変えることにより不純物濃度を変え、抵抗率を変えて抵抗値を異ならせた。
【0028】図6において、例えば、ヒーター7aをヒーター7bよりも不純物濃度を高くし、抵抗率を小さく、したがって、抵抗値を小さくすることができる。2つのヒーターは、電気的に並列に接続されているため、同じ電圧が印加されるが、抵抗値の小さいヒーター7aの方が7bより電流がより多く流れる。バブルを発生させるのに必要なエネルギーに到達する最小電圧、またはパルス幅はヒーター7aの方が小さくなり、第1の実施例と同様に電圧、パルス幅でバブルの発生するヒーターを選択することができ、インク滴量を変えることができる。
【0029】この実施例においても、2つのヒーターは並列に接続されているため、特定のヒーターに過剰に電圧が印加されることはない。また、バブルを発生させる電圧、パルス幅の選択により、1つのヒーターのみ、あるいは、2つのヒーターの両方からバブルが発生するように切り替えが可能な境界を有する構成とすれば良いのであるから、2つのヒーターの抵抗値の差は大きくする必要がない。したがって、特定のヒーターに電流が集中することもないので、第1の実施例と同様、特定のヒーターが劣化し、ヘッド寿命を短くすることや、所望の階調レベルが得られないといった問題は起こらない。
【0030】図8は、本発明のインクジェット記録装置の第4の実施例を示す平面方向の断面図である。この実施例では、ヒーターの形状を変えて抵抗値を変化させている。図6において、同じ体積抵抗率を有するヒーターの長さを変え、ヒーター7aをヒーター7bよりも短くし、抵抗値を小さくしている。2つのヒーターは、電気的に並列に接続されているため、同じ電圧が印加されるが、抵抗値の小さいヒーター7aの方が7bより電流がより多く流れる。バブルを発生させるのに必要なエネルギーに到達する最小電圧、またはパルス幅はヒーター7aの方が小さくなり、第1の実施例と同様に電圧、パルス幅でバブルの発生するヒーターを選択することができ、インク滴量を変えることができる。この実施例の場合にも、第3の実施例と同様、抵抗値の変化は大きくなくてよく、そのため、特定のヒーターが劣化することはない。
【0031】また、図8では、共通電極11をノズル側に、ノズルの配列方向に延在させている。このように共通電極11を配置することにより、共通電極11を全てのヒーターに接続することができる。
【0032】図9は、本発明のインクジェット記録装置の第5の実施例を示す平面方向の断面図である。図9に示すように、流路方向に複数のヒーターを配置するのではなく、流路方向に平行に配置することもできる。このような構成の場合にも、各ヒーターは、上述の第1乃至第4の実施例のようにして、バブルを発生させるのに必要な最小エネルギーを変えて形成する。これにより、電圧やパルス幅等を制御することによって、ヒーターを選択することができ、インク量を変えることができる。この実施例においても、共通電極11を全てのヒーターに接続している。
【0033】ヒーターの接続方法としては、上述したものだけでなく、例えば、多層配線を用いることによって、より高密度ピッチに対応したプリントヘッドを作製することができる。
【0034】複数のヒーター間でバブルが発生する最小エネルギーを異ならせる手段としては、上述した方法以外にヒーターの表面状態を異ならせることもできる。また、ヒーターの膜厚や形状を変えることにより、抵抗値を異ならせることもできる。さらに、種々の方法を組み合わせることも可能で、複数のヒーター間でバブルの発生する最小電圧値、パルス幅、電流の少なくとも1つが互いに異なるように構成すれば良いことはいうまでもない。
【0035】本発明は、上述のようなサイドシューター型のプリントヘッドだけでなく、ルーフシューター型のプリントヘッドに対しても適用することができる。図10R>0は、本発明のインクジェット記録装置の第6の実施例を示す断面図、図11は、同じく平面図である。図中、図1乃至図3と同様の部分には、同じ符号を付して説明を省略する。21はノズル板、22は厚膜樹脂層である。ノズル板21には、ノズル5となる開口が設けられている。このノズル5の下部にヒーター7a,7bが設けられている。ヒーター基板2とノズル板21の間がインク流路となる。各ノズル5の周辺には、厚膜樹脂層22が配置され、隣接するノズルとの間を区切っている。
【0036】この実施例においても、ヒーター7a,7bは、バブルを発生するための最小エネルギーがそれぞれ異なるように構成されている。上述のように、例えば、電圧値やパルス幅を変えることにより、一方のヒーターのみ、あるいは、両方のヒーターからバブルを発生させることができる。一方のヒーターのみからバブルが発生した場合には、少ないインク量のインク滴が、ノズル5から図中上方へ向けて吐出される。同様に、両方のヒーターからバブルが発生する場合には、多量のインク滴がノズル5から上方へ吐出されることになる。このようにして、階調画像を記録することができる。
【0037】図11では、各ヒーターを平行に並べて配置したが、各ヒーターを同心円状に配置することも可能である。この場合、各ヒーター上に発生するバブルの位置が円の中心にそろうので、インク滴の弾道が定まり、高画質を得ることができる。また、複数のヒーター間でバブルが発生する最小エネルギーを異ならせる手段としては、サイドシューター型のヘッドと同様、種々の手段を用いることができる。さらに、各ヒーターを選択的に駆動する方法や、配線の方法なども同様である。
【0038】上述の各実施例においては、1つのインク流路に配置され、電気的に並列に接続されるヒーターの数が2個の場合について述べたが、2個に限定されず、3個以上配置して、より多くの階調数を得ることもできる。
【0039】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、1つの流路内にバブルが発生する最小エネルギーを異ならせた複数のヒーターを設けるとともに、複数のヒーターを互いに電気的に並列に接続し、印加する電圧パルスの電圧値パルス幅、電流の少なくとも1つで駆動するヒーターを制御し、インク滴の量を制御するようにしたことにより、高品質な階調表現を行なうことができる。このとき、多数のヒーターを並列接続し、表現できる階調数を増加させても、複数のヒーターを共通の駆動回路で駆動するため、駆動回路が増加することがない。また、噴射するインク滴の量は、ヒーターの形状、数、流路形状によって広範囲に設定可能である。さらに、特定のヒーターに過剰な電圧や電流が集中することがないので、ヒーターの劣化を招きヘッド寿命を短くすることもない、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のインクジェット記録装置の第1の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図2】 図1のサーマルインクジェットヘッドのノズル側からみた正面図である。
【図3】 図1のサーマルインクジェットヘッドの各ノズルのインク流路方向の断面図である。
【図4】 本発明のインクジェットヘッドにおける印加エネルギーと噴射されるインク滴量の関係を示すグラフである。
【図5】 本発明のインクジェット記録装置の第2の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図6】 本発明のインクジェット記録装置の第3の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図7】 室温でのpoly−Siにおける不純物濃度とpoly−Siの体積抵抗率の関係を示すグラフである。
【図8】 本発明のインクジェット記録装置の第4の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図9】 本発明のインクジェット記録装置の第5の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図10】 本発明のインクジェット記録装置の第6の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの断面図である。
【図11】 図10に示したサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図12】 ヒーターに印加する電圧値と噴射されるインク滴量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 チャネル基板、2 ヒーター基板、3 インク室、4 インク供給口、5ノズル、6 インク流路、7 ヒーター、8 厚膜樹脂層、9 ピット、10チャネル隔壁、11 共通電極、12 個別電極、13 インク滴、14 記録紙、21 ノズル板、22 厚膜樹脂層。
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ヒーターの発熱により発生する蒸気バブルの圧力によって、インク滴をノズルから噴射し記録を行なうサーマルインクジェット技術に関するものであり、特に、階調記録を行なうためのインクジェット記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、サーマルインクジェットを用いて階調記録を行なう一つの方法として、ディザ法のように、ドットマトリクス内のドットの分布により階調を表現するものである。このような方法では、解像度が低下しないように高密度に多数のノズルを必要とするため、それぞれに対応する駆動回路が増加するといった問題があった。そこで、解像度を犠牲にすることなく階調を表現する方法として、噴射するインク滴自体の大きさを変えることが試みられている。
【0003】インク滴量を変化させる方法として、実開昭57−141043号公報等に示すように、ヒーターに印加する駆動パルスの電圧値に応じてインク滴の噴射する量を変えようとするものがある。図12は、ヒーターに印加する電圧値と噴射されるインク滴量の関係を示すグラフである。図12に示すように、印加電圧が増加しても、ある値以上の印加電圧に対しては、インク滴量がほとんど変化しない平坦な領域を持つため、インク滴の噴射量の変化する範囲が狭く、十分な階調レベルが得られないという問題があった。
【0004】このため、特開昭55−132259号公報には、一つの流路内に複数のヒーターを有し、階調信号に応じて複数のヒーターを選択的に駆動する方法が示されている。また、特開昭62−261453号公報には、1つの流路内に複数のヒーターを直列に配置し、バブルを発生するヒーターを選択して駆動し、噴射するインク滴量を変えようとする方法が記載されている。これらの方法は、広い範囲で噴射するインク滴を変えることができるが、複数のヒーターに独立に信号を印加して駆動させるため、ヒーターの数に応じた配線や駆動回路が必要となり、装置の大型化や作製コストが増加するといった問題を有している。
【0005】この問題を解決するため、複数のヒーターを電気的に直列に接続し、印加する電圧によってバブルを発生するヒーターを選択し、噴射するインク滴量を変える方法も考えられる。このようにすれば、配線数や駆動回路の増加を抑えることができるが、電圧を供給する電極に遠いヒーターにバブルを発生させるに十分なエネルギーを与えるためには、高い電圧が必要となる。このとき、電圧を供給する電極の近傍の特定のヒーターにとっては、過剰な電圧となるため、ヒーターの劣化をもたらし、ヘッド寿命が短くなるという問題を有している。
【0006】また、特開昭57−89967号公報に記載された中間調記録方法は、特性の異なるドットを形成できる複数のノズルを設け、これらを選択的に組み合わせて、網点像を形成するものである。階調レベルを多く取れる利点はあるが、この方法も高密度に多数のノズルを配置する必要があり、記録ヘッドが大型化するとともに、駆動回路が複雑になるという問題点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、広い範囲でインク滴量を変調して十分な階調表現を行ない、駆動回路を増加させず、しかもヘッド寿命を低下させることなく高品質の階調記録を行なうことのできるサーマルインクジェット記録装置を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、インクを吐出するためのノズルと、該ノズルに連通した流路と、該流路にインクを供給するためのインク供給口と、前記流路内に設けられたヒーターを有し、該ヒーターの発熱により発生する上記バブルの圧力によってインク滴を前記ノズルから吐出するインクジェット記録装置において、1つの流路内に印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なる複数のヒーターを設け、これらのヒーターを互いに電気的に並列に接続したことを特徴とするものである。
【0009】また、インクを吐出するためのノズルと、該ノズルに連通した流路と、該流路にインクを供給するためのインク供給口と、前記流路内に設けられ印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なる複数のヒーターを有し、これらのヒーターは各流路毎に互いに電気的に並列に接続されており、該ヒーターの発熱により発生する上記バブルの圧力によってインク滴を前記ノズルから吐出するインクジェット記録装置における記録方法において、記録する画像の濃度に応じて前記複数のヒーターを駆動する印加エネルギーを制御し、ノズルから吐出されるインク滴の量を変化させて階調を有する記録を行なうことを特徴とするものである。
【0010】
【作用】本発明によれば、ノズルからインク滴を噴射させるためのヒーターを1つの流路内に複数設け、これら複数のヒーターの印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値を互いに異ならせ、さらにこれら複数のヒーターを互いに電気的に並列に接続する。この並列接続された複数のヒーターに対して、共通の駆動回路から記録する画像の階調信号に対応する印加エネルギーを供給する。それにより、印加エネルギーに応じて、蒸気バブルを発生するヒーターを追加することができ、選択的にバブルの体積、すなわち噴射されるインク滴の体積を変えることができる。ヒーターは、並列に接続されているから、駆動回路や配線数を増加させずに、階調記録を行なうことができる。
【0011】印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値異ならせた複数のヒーターは、ヒーターの抵抗値やヒーターの面積などを異ならせることにより実現することができる。ヒーターの抵抗値を変えた場合には、各ヒーターに流れる電流が異なり、発生するジュール熱が異なる。また、抵抗値が同じでもヒータの面積を変えれば、単位面積当たりの発熱量が変わりヒーター表面の温度上昇が変わり、バブルを発生させるための閾値が異なる。抵抗値と面積の両方を変えることもできる。このように、印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なるヒーターを並列に接続して、電圧パルスの電圧またはパルス幅などの印加エネルギーを選択することによって、蒸気バブルを発生するのに十分のジュール熱を発生するヒーターからのみバブルが発生するため、選択的にバブルの体積、すなわち噴射されるインク滴の体積を変えることができる。
【0012】また、複数のヒーターは並列に接続されているため、特定のヒーターに過剰に電圧が印加されることはなく、また、特定のヒーターに電流が集中することもないので、特定のヒーターが劣化しヘッド寿命を短くすることや、所望の階調レベルが得られないといった問題はない。
【0013】
【実施例】図1は、本発明のインクジェット記録装置の第1の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図、図2はノズル側からみた正面図、図3は各ノズルのインク流路方向の断面図である。図3におけるA−A’断面図を図1に、B−B’面を図2に示している。図中、1はチャネル基板、2はヒーター基板、3はインク室、4はインク供給口、5はノズル、6はインク流路、7a,7bはヒーター、8は厚膜樹脂層、9はピット、10はチャネル隔壁、11は共通電極、12は個別電極、13はインク滴、14は記録紙である。
【0014】このサーマルインクジェットヘッドは、研磨されたSi基板上に蓄熱層としてのSiO2 膜を形成し、その上にヒーターとなるpoly−Siを着膜し、パターニングする。さらに配線となるAlを蒸着し、同一流路内のヒーターが互いに並列接続されるようにパターニングする。また、ヒーターおよび配線の保護層となるポリイミド、SiNX 、Ta等を着膜し、パターニングし、ヒーター基板2が構成される。一方、もう一枚の研磨されたSi基板に、異方性エッチングによってインク流路6とインク室3、インク供給口4が形成され、チャネル基板1となる。この2枚のヒーター基板2、チャネル基板1を位置合わせして接着し、ダイシングによって1つのプリントヘッドに分離する。このとき、インク流路6が開口し、ノズル5が形成される。
【0015】このサーマルインクジェットヘッドは、ノズル5に連通したインク流路6の底面のポリイミド層8の凹所であるピット9にヒーター7a,7bが設けられ、各インク流路はチャネル隔壁10によって仕切られている。インクは、インク供給口4からインク室3を通り、各インク流路6に導かれる。ヒーター7a,7bは共通電極11と個別電極12とによって電気的に並列に接続され、図示しない1つの駆動回路によって駆動される。
【0016】インク流路6内に設けられ、電気的に並列に接続されたヒーターは、バブルを発生するための最小エネルギーがそれぞれ異なるように構成されている。この第1の実施例では、図1に示すように、1つの流路内のヒーターの数を2つとし、2つのヒーターの面積を互いに異ならせた。ここでは、ヒーター7aの面積の方がヒーター7bの面積よりも小さくしている。2つのヒーターの抵抗値が同じであれば、発熱面積を異ならせることにより、同じエネルギーが投入されたときに単位面積当たりの投入エネルギーが相違し、ヒーター表面の最高上昇温度に差が生じる。したがって、2つのヒーター7a,7bにおいて、バブルを生じる温度に到達するのに必要な最小エネルギーが異なることになるため、発熱面積が小さいヒーター7aの方がより小さなエネルギーでバブルを発生する。
【0017】2つのヒーターは並列に接続されているため、特定のヒーターに過剰に電圧が印加されることはなく、また、抵抗値も同じため、片方のヒーターに電流が集中することもないので、直列に接続した場合のように、特定のヒーターが劣化し、ヘッド寿命を短くすることや、所望の階調レベルが得られないといった問題はない。
【0018】図4は、本発明のインクジェットヘッドにおける印加エネルギーと噴射されるインク滴量の関係を示すグラフである。ヒーター7aにバブルを生じさせる最低エネルギーをE1,ヒーター7bにバブルを生じさせる最低エネルギーをE2とする。2つのヒーターは、バブルを発生させるのに必要な印加エネルギーがそれぞれ異なるため、閾値E2より小さい範囲のエネルギーを与えた場合には、一方のヒーター7aからのみバブルが発生し、インク滴が噴射され、図12で説明した従来例のものと同様に、平坦部16aを持つ依存性を示す。この閾値E2を越えたエネルギーを印加した場合には、2つのヒーター7a,7bからバブルが生じるため、一旦インク滴量は増加し、再び平坦部16bを持つ。このように、2つの平坦部に対応するエネルギー範囲15a、15b内の2値のエネルギーを印加することにより、2つの異なる噴射インク滴量VOL1とVOL2を得ることができ、階調表現を行なうことができる。
【0019】印加エネルギーはパルス電圧、パルス幅等に依存する。したがって、印加エネルギーを変えるには、これらのファクターの少なくとも1つを変えればよい。
【0020】インク滴量VOL1,VOL2は、従来例と同様、ヒーターの大きさや流路における位置、および、例えば、流路幅や流路の長さ、ピットの深さ等の流路の他のサイズで決まる。必要なインク滴量を得るための流路構造の決定には、従来のヘッドにおける設計方法が利用できる。したがって、インク滴量VOL1,VOL2は、良好な画質を得るために要求される値に、自由に設定することが可能であり、十分な階調レベルを得ることができる。
【0021】この実施例では、複数のヒーターを流路方向に配置し、バブルを発生するのに必要なエネルギーが小さいヒーターほど、ノズルに近い場所に設けた。これは、最初にバブルを発生するヒーターからノズルまでの距離を短くすることによって、インク滴量が少ない場合に、発生したバブルによって移動するインクの運動量の流路抵抗による損失をなるべく小さくし、噴射されるインク滴速度を低下させないためである。このようにして、2つのヒーターからバブルが生じたときに噴射される大きなインク滴との速度の差をなるべく小さくすることができる。
【0022】図5は、本発明のインクジェット記録装置の第2の実施例を示す平面方向の断面図である。図5に示すように、バブルを発生させるために必要なエネルギーが大きいヒーター7bをノズルに近く配置することもできる。この実施例でもバブルを発生させるエネルギーを異ならせるために、ヒーターのサイズを異ならせている。
【0023】この場合、閾値E2を越えた範囲のエネルギーを与えると、まずノズルから遠いヒーターからバブルが発生し、インクがノズル方向に運動を開始した後、ノズルに向かって順次ヒーターからバブルが生じるので、インク流路の奥からインクが順に押し出されてゆき、噴射されるインク滴が大きくなる。そのため、1つのヒーターによりインク滴が噴射される時のインク滴量と、2つのヒーターが順にバブルが生じ、インク滴が噴射される時のインク滴量との差が大きくなり、より階調差の大きな画像を得ることができる。このとき、ヒーターの駆動時の電圧変化を、ステップ状に変化させず、傾斜を有するように変化させる等により、各ヒーターからバブルが発生するタイミングを調整することができる。
【0024】このように、複数のヒーターの配置によって、違う特性を有する記録ヘッドを得ることができるので、用途に応じてヒーターの配置を決めればよい。すなわち、階調表現が必要なイメージ画像が多いカラープリンタには、ノズルに近いヒーターほどバブルを発生するのに必要な最小エネルギーが小さくなるような配置にすることが好ましい。これにより、小さいインク滴と大きいインク滴速度の差を小さくして、インク滴の着弾位置を揃え、中間調であっても高画質を得ることができる。また、単一インク滴量による文字等の出力が多く、階調表現が少ないモノクロプリンタには、ノズルに近いヒーターほどバブルを発生するのに必要な最小エネルギーが大きくなるような配置にし、インク滴量の差を大きくして階調差を大きくすることにより、鮮明な画像を得ることができる。
【0025】図6は、本発明のインクジェット記録装置の第3の実施例を示す平面方向の断面図である。第3の実施例では、図6に示すように2つのヒーターの形状、大きさ、膜厚は等しく、ヒーターの抵抗値のみを変えた。より具体的には、ヒーターの材料であるpoly−Si中の不純物濃度を変え、抵抗率を異ならせた。
【0026】図7は室温でのpoly−Siにおける不純物濃度とpoly−Siの体積抵抗率の関係を示すグラフである。図7に示すように、poly−Siにおける不純物濃度を増加させると、体積抵抗率は低下する。
【0027】この実施例では、不純物として燐を用い、不純物を与える方法としてイオン・インプランテーション(イオン打ち込み法)を用い、2つのヒーター領域でインプランテーション(イオン打ち込み法)の時間を変えることにより不純物濃度を変え、抵抗率を変えて抵抗値を異ならせた。
【0028】図6において、例えば、ヒーター7aをヒーター7bよりも不純物濃度を高くし、抵抗率を小さく、したがって、抵抗値を小さくすることができる。2つのヒーターは、電気的に並列に接続されているため、同じ電圧が印加されるが、抵抗値の小さいヒーター7aの方が7bより電流がより多く流れる。バブルを発生させるのに必要なエネルギーに到達する最小電圧、またはパルス幅はヒーター7aの方が小さくなり、第1の実施例と同様に電圧、パルス幅でバブルの発生するヒーターを選択することができ、インク滴量を変えることができる。
【0029】この実施例においても、2つのヒーターは並列に接続されているため、特定のヒーターに過剰に電圧が印加されることはない。また、バブルを発生させる電圧、パルス幅の選択により、1つのヒーターのみ、あるいは、2つのヒーターの両方からバブルが発生するように切り替えが可能な境界を有する構成とすれば良いのであるから、2つのヒーターの抵抗値の差は大きくする必要がない。したがって、特定のヒーターに電流が集中することもないので、第1の実施例と同様、特定のヒーターが劣化し、ヘッド寿命を短くすることや、所望の階調レベルが得られないといった問題は起こらない。
【0030】図8は、本発明のインクジェット記録装置の第4の実施例を示す平面方向の断面図である。この実施例では、ヒーターの形状を変えて抵抗値を変化させている。図6において、同じ体積抵抗率を有するヒーターの長さを変え、ヒーター7aをヒーター7bよりも短くし、抵抗値を小さくしている。2つのヒーターは、電気的に並列に接続されているため、同じ電圧が印加されるが、抵抗値の小さいヒーター7aの方が7bより電流がより多く流れる。バブルを発生させるのに必要なエネルギーに到達する最小電圧、またはパルス幅はヒーター7aの方が小さくなり、第1の実施例と同様に電圧、パルス幅でバブルの発生するヒーターを選択することができ、インク滴量を変えることができる。この実施例の場合にも、第3の実施例と同様、抵抗値の変化は大きくなくてよく、そのため、特定のヒーターが劣化することはない。
【0031】また、図8では、共通電極11をノズル側に、ノズルの配列方向に延在させている。このように共通電極11を配置することにより、共通電極11を全てのヒーターに接続することができる。
【0032】図9は、本発明のインクジェット記録装置の第5の実施例を示す平面方向の断面図である。図9に示すように、流路方向に複数のヒーターを配置するのではなく、流路方向に平行に配置することもできる。このような構成の場合にも、各ヒーターは、上述の第1乃至第4の実施例のようにして、バブルを発生させるのに必要な最小エネルギーを変えて形成する。これにより、電圧やパルス幅等を制御することによって、ヒーターを選択することができ、インク量を変えることができる。この実施例においても、共通電極11を全てのヒーターに接続している。
【0033】ヒーターの接続方法としては、上述したものだけでなく、例えば、多層配線を用いることによって、より高密度ピッチに対応したプリントヘッドを作製することができる。
【0034】複数のヒーター間でバブルが発生する最小エネルギーを異ならせる手段としては、上述した方法以外にヒーターの表面状態を異ならせることもできる。また、ヒーターの膜厚や形状を変えることにより、抵抗値を異ならせることもできる。さらに、種々の方法を組み合わせることも可能で、複数のヒーター間でバブルの発生する最小電圧値、パルス幅、電流の少なくとも1つが互いに異なるように構成すれば良いことはいうまでもない。
【0035】本発明は、上述のようなサイドシューター型のプリントヘッドだけでなく、ルーフシューター型のプリントヘッドに対しても適用することができる。図10R>0は、本発明のインクジェット記録装置の第6の実施例を示す断面図、図11は、同じく平面図である。図中、図1乃至図3と同様の部分には、同じ符号を付して説明を省略する。21はノズル板、22は厚膜樹脂層である。ノズル板21には、ノズル5となる開口が設けられている。このノズル5の下部にヒーター7a,7bが設けられている。ヒーター基板2とノズル板21の間がインク流路となる。各ノズル5の周辺には、厚膜樹脂層22が配置され、隣接するノズルとの間を区切っている。
【0036】この実施例においても、ヒーター7a,7bは、バブルを発生するための最小エネルギーがそれぞれ異なるように構成されている。上述のように、例えば、電圧値やパルス幅を変えることにより、一方のヒーターのみ、あるいは、両方のヒーターからバブルを発生させることができる。一方のヒーターのみからバブルが発生した場合には、少ないインク量のインク滴が、ノズル5から図中上方へ向けて吐出される。同様に、両方のヒーターからバブルが発生する場合には、多量のインク滴がノズル5から上方へ吐出されることになる。このようにして、階調画像を記録することができる。
【0037】図11では、各ヒーターを平行に並べて配置したが、各ヒーターを同心円状に配置することも可能である。この場合、各ヒーター上に発生するバブルの位置が円の中心にそろうので、インク滴の弾道が定まり、高画質を得ることができる。また、複数のヒーター間でバブルが発生する最小エネルギーを異ならせる手段としては、サイドシューター型のヘッドと同様、種々の手段を用いることができる。さらに、各ヒーターを選択的に駆動する方法や、配線の方法なども同様である。
【0038】上述の各実施例においては、1つのインク流路に配置され、電気的に並列に接続されるヒーターの数が2個の場合について述べたが、2個に限定されず、3個以上配置して、より多くの階調数を得ることもできる。
【0039】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、1つの流路内にバブルが発生する最小エネルギーを異ならせた複数のヒーターを設けるとともに、複数のヒーターを互いに電気的に並列に接続し、印加する電圧パルスの電圧値パルス幅、電流の少なくとも1つで駆動するヒーターを制御し、インク滴の量を制御するようにしたことにより、高品質な階調表現を行なうことができる。このとき、多数のヒーターを並列接続し、表現できる階調数を増加させても、複数のヒーターを共通の駆動回路で駆動するため、駆動回路が増加することがない。また、噴射するインク滴の量は、ヒーターの形状、数、流路形状によって広範囲に設定可能である。さらに、特定のヒーターに過剰な電圧や電流が集中することがないので、ヒーターの劣化を招きヘッド寿命を短くすることもない、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のインクジェット記録装置の第1の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図2】 図1のサーマルインクジェットヘッドのノズル側からみた正面図である。
【図3】 図1のサーマルインクジェットヘッドの各ノズルのインク流路方向の断面図である。
【図4】 本発明のインクジェットヘッドにおける印加エネルギーと噴射されるインク滴量の関係を示すグラフである。
【図5】 本発明のインクジェット記録装置の第2の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図6】 本発明のインクジェット記録装置の第3の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図7】 室温でのpoly−Siにおける不純物濃度とpoly−Siの体積抵抗率の関係を示すグラフである。
【図8】 本発明のインクジェット記録装置の第4の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図9】 本発明のインクジェット記録装置の第5の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図10】 本発明のインクジェット記録装置の第6の実施例におけるサーマルインクジェットヘッドの断面図である。
【図11】 図10に示したサーマルインクジェットヘッドの平面方向の断面図である。
【図12】 ヒーターに印加する電圧値と噴射されるインク滴量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 チャネル基板、2 ヒーター基板、3 インク室、4 インク供給口、5ノズル、6 インク流路、7 ヒーター、8 厚膜樹脂層、9 ピット、10チャネル隔壁、11 共通電極、12 個別電極、13 インク滴、14 記録紙、21 ノズル板、22 厚膜樹脂層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 インクを吐出するためのノズルと、該ノズルに連通した流路と、該流路にインクを供給するためのインク供給口と、前記流路内に設けられたヒーターを有し、該ヒーターの発熱により発生する上記バブルの圧力によってインク滴を前記ノズルから吐出するインクジェット記録装置において、1つの流路内に印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なる複数のヒーターを設け、これらのヒーターを互いに電気的に並列に接続したことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】 インクを吐出するためのノズルと、該ノズルに連通した流路と、該流路にインクを供給するためのインク供給口と、前記流路内に設けられ印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なる複数のヒーターを有し、これらのヒーターは互いに電気的に並列に接続されており、該ヒーターの発熱により発生する上記バブルの圧力によってインク滴を前記ノズルから吐出するインクジェット記録装置における記録方法において、記録する画像の濃度に応じて前記複数のヒーターを駆動する印加エネルギーを制御し、ノズルから吐出されるインク滴の量を変化させて階調を有する記録を行なうことを特徴とするインクジェット記録装置における記録方法。
【請求項1】 インクを吐出するためのノズルと、該ノズルに連通した流路と、該流路にインクを供給するためのインク供給口と、前記流路内に設けられたヒーターを有し、該ヒーターの発熱により発生する上記バブルの圧力によってインク滴を前記ノズルから吐出するインクジェット記録装置において、1つの流路内に印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なる複数のヒーターを設け、これらのヒーターを互いに電気的に並列に接続したことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】 インクを吐出するためのノズルと、該ノズルに連通した流路と、該流路にインクを供給するためのインク供給口と、前記流路内に設けられ印加エネルギーに対してバブルを発生させるための閾値が異なる複数のヒーターを有し、これらのヒーターは互いに電気的に並列に接続されており、該ヒーターの発熱により発生する上記バブルの圧力によってインク滴を前記ノズルから吐出するインクジェット記録装置における記録方法において、記録する画像の濃度に応じて前記複数のヒーターを駆動する印加エネルギーを制御し、ノズルから吐出されるインク滴の量を変化させて階調を有する記録を行なうことを特徴とするインクジェット記録装置における記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開平6−320735
【公開日】平成6年(1994)11月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−139344
【出願日】平成5年(1993)5月17日
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【公開日】平成6年(1994)11月22日
【国際特許分類】
【出願日】平成5年(1993)5月17日
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
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