説明

インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法

【課題】好適な品位の柄模様が記録された好適な状態の記録媒体とすることができる、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【解決手段】インクジェット記録装置1は、搬送機構30と、押圧機構50と、記録部60とを有する。押圧機構50は、記録媒体に接し、記録媒体を、搬送機構30の搬送面38に形成された粘着部40に対して押圧する押圧ローラ52と、押圧ローラ52を支持し、押圧力を調整するための押圧調整部54とを含む。押圧調整部54は、押圧ローラ52に鉛直方向下向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、押圧ローラ52の自重による押圧力より高い第一状態と、押圧ローラ52に鉛直方向上向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、押圧ローラ52の自重による押圧力より低い第二状態とに調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット記録に関する技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1には、プリント媒体を導入する導入部、プリント媒体を搬送する搬送部、色数分の複数のインクジェットヘッドを有するプリント部等を有するインクジェット印刷装置が開示されている。インクジェット印刷装置では、連続するシート状の布帛が、プリント媒体とされる。プリント媒体が連続するシート状の布帛の場合、インクジェット印刷装置では、生地に適当な張力を与えるテンションコントロール装置、しわを伸ばすしわ伸ばし装置、布目を矯正する布目矯正装置、布の進行方向に対して、左右に蛇行しないように布の進行方向に対する左右方向の布位置センサを用いて、プリント媒体を所望の状態に維持し、搬送部を構成するベルトに張り付けてプリント媒体をプリント部に送る。プリント媒体のベルトへの張り付けは、接着剤(粘着剤)を、ベルトに塗布しておきニップロールによりプリント媒体に接着剤を張り付けることにより行われる。
【0003】
特許文献2には、搬送回転体対と、インクジェットヘッドと、挟圧力調整機構と、反力推定機構と、推定部、挟圧力制御部及び回転数算出部を有する制御部とを含んでいるインクジェットプリンタが開示されている。反力推定機構、推定部及び回転数算出部は、搬送回転体対によって用紙を搬送するときに、搬送回転体対に対して搬送方向とは逆方向に働く反力を推定する反力推定手段を構成する。インクジェットプリンタでは、反力推定手段によって推定された反力が大きい程、搬送回転体対による用紙に対する挟圧力が大きくなるように、挟圧力制御部が挟圧力調整機構を制御する。
【0004】
出願人においても、インクジェットプリント方法及び装置を提案している(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
この他、搬送路ベルトの上面に対し間隔を開けて上面側搬送ローラを設け、搬送路ベルトの下面と接し回転する下面側搬送ローラを設けた、シート搬送機構が提案されている(例えば、特許文献4参照)。シート搬送機構には、下面側搬送ローラを上方に加圧する加圧部と、その上限を決めるストッパが設けられている。上面側搬送ローラは、上搬送ローラ駆動モータにより、搬送路ベルトと同速で回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−63161号公報
【特許文献2】特開2009−107251号公報
【特許文献3】特開2010−83040号公報
【特許文献4】特開2004−59244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェット記録によれば、各種の記録媒体に、所定の柄模様を記録することができる。インクジェット記録では、各種の媒体が、記録媒体として採用される。例えば、布帛が採用されることもある。インクジェット記録によって、布帛に、所定の柄模様を記録する場合、布帛は、搬送機構の搬送面に形成された粘着部に対して押圧され、粘着部に固定された状態で、記録部に搬送される。布帛といっても、その種類は、他品種に及ぶ。例えば、薄手のもの、厚手のもの、毛足の短いもの、毛足の長いもの等、様々である。例えば、毛足の長いものに対して、インクジェット記録を行う場合、必要以上に押圧力が強いと、布帛表面の繊維が丸まり、及び/又は、折れ曲がり、その結果、布帛表面の状態が悪化(布帛表面の品位が低下)するおそれがある。一方、必要以上に押圧力が弱いと、布帛がしわになり、及び/又は、浮き、その結果、好適に布帛を固定できず、好適な品位の柄模様を記録できなくなるおそれがある。押圧力は、本来、布帛の種類(状態)に応じて設定される必要がある。例えば特許文献1のような、ローラでは、記録媒体に、少なくともローラ自重分の押圧力が付与されてしまう。従って、記録媒体の種類に応じ、押圧力を好適に調整することは、困難である。
【0008】
本発明は、好適な品位の柄模様が記録された好適な状態の記録媒体とすることができる、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来の課題に鑑みなされた本発明の一側面は、記録媒体を搬送し、搬送されている記録媒体に、所定の柄模様を記録するインクジェット記録装置であって、記録媒体が載せ置かれる搬送面に形成された、記録媒体を固定するための粘着部を含み、前記粘着部に固定された状態の記録媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構によって搬送される記録媒体を、前記粘着部に対して押圧するための押圧機構と、前記押圧機構によって押圧され、前記粘着部に固定された状態で搬送される記録媒体に、所定の柄模様を記録する記録部と、を有し、前記押圧機構は、記録媒体に接し、記録媒体を、前記粘着部に対して押圧する押圧部と、前記押圧部を支持し、前記押圧部によって記録媒体に付与される押圧力を調整するための押圧調整部と、を含み、前記押圧調整部は、前記押圧部に鉛直方向下向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、前記押圧部の自重による押圧力より高い第一状態と、前記押圧部に鉛直方向上向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、前記押圧部の自重による押圧力より低い第二状態と、に調整する、インクジェット記録装置である。
【0010】
これによれば、粘着部に記録媒体を固定するために、記録媒体に付与される押圧力を、第一状態又は第二状態の何れにも調整することができる。所定の柄模様が記録される記録媒体の種類に応じて、この記録媒体に好適な押圧力を付与することが可能となり、記録媒体を、好適な状態で固定することができる。
【0011】
このインクジェット記録装置は、次のようにすることもできる。前記搬送機構は、前記記録部より搬送方向上流側に設けられる第一ベルトローラと、前記記録部より搬送方向下流側に設けられる第二ベルトローラと、前記搬送面を形成し、前記搬送面と反対側の面である裏面が、前記第一ベルトローラ及び前記第二ベルトローラに接し、且つ、前記第一ベルトローラ及び前記第二ベルトローラに張架される、無端状の搬送ベルトと、を有するベルトコンベアを含み、前記押圧機構は、前記押圧部を介した記録媒体に対する押圧力を受ける受け部を含み、前記押圧部は、前記記録部より搬送方向上流側であって、前記搬送ベルトの裏面が前記第一ベルトローラに接しておらず、回転する前記搬送ベルトの移動方向が搬送方向となる前記搬送面に対向するように設けられ、前記受け部は、前記搬送ベルトの裏面側であって、前記搬送ベルトを介して前記押圧部と対向するように設けられている、ようにしてもよい。
【0012】
これによれば、固定された記録媒体を、好適な状態とすることができる。ところで、ベルトコンベアの搬送ベルトにおいて、搬送方向に対応した方向に回転される搬送ベルトの裏面が、第一ベルトローラ及び第二ベルトローラに接触し、移動方向が転換される領域は、これ以外の領域より、搬送ベルトの回転方向に対応した方向に伸びた状態となる。搬送ベルトが伸びると、搬送ベルトに形成された粘着部も同様に伸びる。搬送ベルトの裏面が、第一ベルトローラに接触している領域で、記録媒体を粘着部に固定すると、記録媒体は、伸びた状態の粘着部に固定される。固定された後、搬送ベルトが、搬送方向に対応した方向に回転すると、伸びた状態の搬送ベルトは、収縮し、これに伴い、粘着部も収縮する。この収縮に伴い、伸びた状態の粘着部に固定された記録媒体には、しわ及び/又はよれ等が発生する。インクジェット記録装置では、しわ及び/又はよれ等が発生している状態の記録媒体に、所定の柄模様が記録される。その結果、低品位の柄模様が記録された記録媒体となってしまう。上述したような構成を有するインクジェット記録装置では、前述した通り、固定された記録媒体を好適な状態とすることが可能であり、しわ及び/又はよれ等が発生していない状態の記録媒体に、所定の柄模様を記録することができる。
【0013】
また、記録媒体に接し、記録媒体を、前記粘着部に対して押圧するための前記押圧部の領域の幅寸法は、前記搬送面の幅寸法より幅広に設定されている、ようにしてもよい。
【0014】
これによれば、記録媒体を、粘着部に対して、好適に押圧することができる。例えば、搬送機構が、上述したようなベルトコンベアである場合において、搬送ベルトが、搬送方向に対して傾斜した状態で張架されているとする。このような状態で、搬送ベルトが回転すると、搬送面(粘着部)は、斜行又は蛇行する。押圧部の領域の幅寸法を、搬送面の幅寸法より幅広に設定する構成によれば、搬送面が斜行又は蛇行したとしても、粘着部の全幅を押圧対象とすることが可能である。
【0015】
また、前記押圧調整部は、前記押圧部を前記粘着部から離間した上方位置に上昇させ、且つ、前記押圧部を前記上方位置から前記粘着部に接近した位置であって、記録媒体を押圧することができる下方位置に下降させ、前記インクジェット記録装置は、前記押圧調整部が前記押圧部を下降させるときの下降速度を調整するための速度調整部を有する、ようにしてもよい。
【0016】
これによれば、押圧部が記録媒体に接触する速度を、調整することができる。例えば、押圧部を記録媒体に低速で接触させ、粘着部に対する記録媒体の押圧を、ゆっくりとした好適な状態で行うことができる。記録媒体を急激に押圧した場合、所定の柄模様が記録されることとなる記録媒体表面の状態が悪化し、柄模様の品位が低下することがある。押圧部の下降速度を、記録媒体に応じた好適な状態とすれば、記録媒体の表面を、好適な状態に維持し、好適な品位の柄模様を記録することができる。
【0017】
また、前記押圧調整部は、前記押圧部を、搬送方向に直交する幅方向の第一の側において支持し、前記押圧部を前記粘着部から離間した上方位置に上昇させ、且つ、前記押圧部を前記上方位置から前記粘着部に接近した位置であって、記録媒体を押圧することができる下方位置に下降させる、第一押圧調整部と、前記押圧部を、搬送方向に直交する幅方向の第二の側において支持し、前記上方位置に上昇させ、且つ、前記押圧部を前記下方位置に下降させる、第二押圧調整部と、を含み、前記第一押圧調整部による前記押圧部の下降と、前記第二押圧調整部による前記押圧部の下降と、は同期して行われる、ようにしてもよい。
【0018】
これによれば、押圧部が記録媒体に接触するタイミングを、幅方向において同様のタイミングとすることができる。ところで、第一押圧調整部による押圧部の下降と、第二押圧調整部による押圧部の下降とが、同期していない場合、記録媒体は、先に押圧部が接触した側の方向によれる。その結果、粘着部に固定された記録媒体には、しわ、伸び及び/又は縮みが発生する。しわ、伸び及び/又は縮みの発生は、記録媒体が、柔軟である場合に顕著となる。上述したように、押圧部が記録媒体に接触するタイミングを、幅方向において同様のタイミングとすることで、前述のような、よれの発生を防止し、粘着部に固定された記録媒体を、好適な品位の柄模様を記録することが可能な状態とすることができる。
【0019】
また、前記押圧調整部を制御するための制御部を有する、ようにしてもよい。これによれば、安定して、記録媒体を、粘着部に対して押圧し、固定することができる。そのため、粘着部に固定された記録媒体を、しわ、伸び及び/又は縮みが発生していない、好適な品位の柄模様を記録することが可能な状態とすることができる。
【0020】
また、所定の柄模様が記録される記録媒体が載せ置かれる搬送面に形成された、記録媒体を固定するための粘着部を含み、前記粘着部に固定された状態の記録媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構によって搬送される記録媒体を、前記粘着部に対して押圧するための押圧機構と、前記押圧機構によって押圧され、前記粘着部に固定された状態で搬送される記録媒体に、所定の柄模様を記録する記録部と、を有し、前記押圧機構は、記録媒体に接し、記録媒体を、前記粘着部に対して押圧する押圧部と、前記押圧部を支持し、前記押圧部によって記録媒体に付与される押圧力を調整するための押圧調整部と、を含み、前記押圧調整部は、前記押圧部に鉛直方向下向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、前記押圧部の自重による押圧力より高い第一状態と、前記押圧部に鉛直方向上向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、前記押圧部の自重による押圧力より低い第二状態と、に調整する、インクジェット記録装置で実行されるインクジェット記録方法であって、前記押圧機構を動作させ、記録媒体を前記粘着部に固定する固定工程と、前記固定工程によって前記粘着部に固定された状態の記録媒体を搬送する搬送工程と、前記搬送工程によって搬送されている記録媒体に、所定の柄模様を記録する記録工程と、を含み、前記固定工程は、前記押圧調整部によって押圧力が前記第一状態に調整された場合、前記第一状態にて記録媒体を押圧し、前記押圧調整部によって押圧力が前記第二状態に調整された場合、前記第二状態にて記録媒体を押圧する、インクジェット記録方法である。
【0021】
これによれば、粘着部に記録媒体を固定するために、記録媒体に付与される押圧力を、第一状態又は第二状態の何れにも調整することができる。所定の柄模様が記録される記録媒体の種類に応じて、この記録媒体に好適な押圧力を付与することが可能となり、記録媒体を、好適な状態で固定することができる。
【0022】
このインクジェット記録方法は、上述したインクジェット記録装置と同様、上述したような他の構成を有するインクジェット記録装置で実行される方法として特定することもできる。この場合、他の構成を有するインクジェット記録装置と同様の機能を奏することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、好適な品位の柄模様が記録された好適な状態の記録媒体とすることができる、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】押圧調整部の概略構成の一例を説明する図であって、インクジェット記録装置が待機状態となる場合を説明する図である。
【図3】押圧ローラに鉛直方向下向きの力を作用させ、布帛に付与される押圧力が、押圧ローラの自重による押圧力より高い第一状態とされた押圧動作を説明する図である。
【図4】押圧ローラに鉛直方向上向きの力を作用させ、布帛に付与される押圧力が、押圧ローラの自重による押圧力より低い第二状態とされた押圧動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための実施形態について、図面を用いて説明する。本発明は、以下に記載の構成に限定されるものではなく、同一の技術的思想において種々の構成を採用することができる。例えば、以下に示す構成の一部は、省略し又は他の構成等に置換してもよい。また、他の構成を含むようにしてもよい。
【0026】
<インクジェット記録装置>
インクジェット記録装置1は、図1に示すように、送出機構20と、搬送機構30と、押圧機構50と、記録部60と、剥離ローラ70と、巻取機構80とを有する。インクジェット記録装置1では、これら各構成等が動作し、記録媒体としての布帛3に、所定の柄模様(画像)が記録される。布帛3は、所定の幅を有する長尺状である。布帛3としては、例えば、カーシート等の目付が重い布帛、しわがより易い綿、麻、シルク等の天然素材の布帛、皮革等が、例示される。以下、このような布帛3を、第一種布帛ともいう。また、布帛3としては、例えば、ウレタン繊維等の伸び縮みし易い布帛、目の粗いメッシュ状の布帛、毛足の長い立毛布帛等が、例示される。以下、このような布帛3を、第二種布帛ともいう。
【0027】
送出機構20は、供給ローラ22と、複数の導入ローラ24と、センタリングローラ26と、位置検知センサ28とを含む。供給ローラ22には、コイル状に巻き取られた長尺状の布帛3がセットされる。供給ローラ22は、セットされた布帛3を、連続して繰り出す。供給ローラ22から繰り出された布帛3は、導入ローラ24を介して、センタリングローラ26の側に搬送される。図1では、3個の導入ローラ24が図示されている。図1における導入ローラ24の個数は、例示であって、その数は、適宜設定される。
【0028】
センタリングローラ26は、供給ローラ22から繰り出された布帛3の幅方向の位置を、調整する。位置検知センサ28は、センタリングローラ26の近傍に設けられている。位置検知センサ28は、センタリングローラ26を通過している布帛3の少なくとも一方の側辺部を検知する。インクジェット記録装置1では、位置検知センサ28からの検知信号に従い、センタリングローラ26を通過し、幅方向の位置が調整された布帛3の側辺部が、所定の位置にあるかが監視される。センタリングローラ26を通過した布帛3は、さらに、導入ローラ24と同様の構成の所定のローラを介して、搬送機構30の側に搬送される。
【0029】
搬送機構30は、所謂、ベルトコンベアである。搬送機構30は、上述したようにして搬送される布帛3を、送出機構20から巻取機構80の側に向かう搬送方向に搬送する。搬送機構30によって搬送される布帛3は、記録部60を通過する。搬送機構30は、一対の第一ベルトローラ32及び第二ベルトローラ34と、搬送ベルト36とを含む。第一ベルトローラ32は、記録部60より搬送方向上流側に設けられている。第二ベルトローラ34は、記録部60より搬送方向下流側に設けられている。搬送ベルト36は、環状とされた無端ベルトであって、第一ベルトローラ32及び第二ベルトローラ34に張架されている。例えば、搬送方向下流側の第二ベルトローラ34が、不図示の駆動部の駆動力によって、搬送方向に対応した方向に回転することで、搬送ベルト36が、これと同一方向に回転する。図1に基づけば、第二ベルトローラ34は、反時計回り(第二ベルトローラ34内の矢印参照)に回転する。このとき、搬送方向上流側の第一ベルトローラ32は、従動して回転する。搬送機構30において、布帛3の搬送方向への搬送は、このようにして実現される(搬送工程)。
【0030】
搬送ベルト36の表面である搬送面38には、図2〜図4に示すように、粘着部40が形成されている。従って、布帛3は、搬送機構30によって搬送される状態において、搬送面38に形成された粘着部40に固定される。粘着部40は、例えば、搬送面38の幅W2以下の幅を有した帯状の粘着テープであって、搬送面38の外周を全周にわたって覆うような状態で、搬送面38に固定(粘着)されている。搬送面38に設けられた帯状の粘着テープによる粘着部40の両端は、段差ができないよう、突き合わせた状態とされている。
【0031】
押圧機構50は、上述したように搬送機構30の側に搬送され、搬送機構30によって搬送されることとなる布帛3を、搬送面38に形成された粘着部40に固定する。押圧機構50は、押圧ローラ52と、押圧調整部54と、カウンタローラ58とを含む。押圧ローラ52は、搬送機構30の上方に設けられている。押圧ローラ52の外周面は、図1に示すポイントMより搬送方向下流側の位置において、搬送面38、詳細には、粘着部40の粘着面に対向する。ポイントMは、記録部60より搬送方向上流側の位置であって、搬送方向上流側において、搬送ベルト36の移動方向が、搬送方向に一致するように転換された後、第一ベルトローラ32の外周面と、搬送面38とは反対側の面である搬送ベルト36の裏面とが非接触状態となる位置である。押圧ローラ52は、搬送機構30によって搬送されることとなる布帛3を、搬送面38の粘着部40に押圧する。即ち、押圧ローラ52は、押圧部としての機能を有する。押圧ローラ52は、回転自在な状態で押圧調整部54に支持される。押圧ローラ52は、布帛3の搬送方向への搬送に従動して回転する。図1に基づけば、押圧ローラ52は、時計回りに回転する。
【0032】
押圧調整部54は、鉛直方向において、押圧ローラ52が存在する位置を移動させ、押圧ローラ52が布帛3を押圧する押圧力を調整するための構成である。押圧調整部54の具体的な構成については、後述する。カウンタローラ58は、搬送ベルト36の裏面側であって、搬送ベルト36を介して押圧ローラ52に対向するように設けられている。カウンタローラ58は、搬送ベルト36の回転に従動して回転する。図1に基づけば、カウンタローラ58は、反時計回りに回転する。カウンタローラ58は、押圧ローラ52によって布帛3に付与される押圧力を受ける。即ち、カウンタローラ58は、受け部としての機能を有する。搬送ベルト36及び布帛3は、押圧ローラ52とカウンタローラ58との間を通過する。通過する際、布帛3は、押圧ローラ52によって、搬送面38の側に押圧される。これによって、布帛3は、粘着部40に固定される(固定工程)。
【0033】
記録部60は、搬送機構30の上方で、押圧機構50によって粘着部40に固定された状態で、搬送機構30にて搬送される布帛3に対して、所定の柄模様を記録する。記録部60は、複数の記録ヘッドを含む。例えば、所定の柄模様の記録に、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの各インクが用いられるとする。この場合、記録部60は、ブラック用の記録ヘッドと、シアン用の記録ヘッドと、マゼンタ用の記録ヘッドと、イエロー用の記録ヘッドとを含む。各色用の記録ヘッドには、それぞれ、対応するインクを吐出するノズルが、搬送面38に対向するように形成されている。所定の柄模様の記録には、各種のインクが用いられる。例えば、着色料及び添加剤を含有し、水を媒体とする水系インクが用いられる。インクに用いる着色料としては、例えば、反応染料、酸性染料、直接染料、分散染料等の染料が例示される。着色料として、顔料を用いることもできる。インクには、必要に応じて分散剤、消泡剤、浸透剤、濃染剤、pH調整剤等を、添加してもよい。
【0034】
インクジェット記録装置1が、ライン型のインクジェット記録装置である場合、記録部60において、各色用の記録ヘッドは、搬送方向に隣り合った状態で配列されて設けられている。配列順序は、適宜設定される。ライン型のインクジェット記録装置1において、記録部60は、布帛3の幅方向に、布帛3を横断するように設けられている。記録部60を構成する各色用の記録ヘッドにおいて、ノズルは、搬送方向に直交する直交方向に複数個配列された状態で、ノズル列を形成する。直交方向は、布帛3の幅方向に対応する。ノズル列は、各色用の記録ヘッドそれぞれに、複数列形成されている。所定の柄模様の記録(記録工程)は、布帛3の記録部60の通過に合わせ、各色用の記録ヘッドの各ノズルから、それぞれの色のインクを吐出して行われる。
【0035】
インクジェット記録装置1が、シリアル型のインクジェット記録装置である場合、インクジェット記録装置1は、記録部60を、直交方向に往復移動させるための駆動機構を有する。所定の柄模様の記録(記録工程)は、駆動機構によって記録部60を往復移動させると共に、布帛3を搬送方向に、間欠搬送させながら、各色用の記録ヘッドの各ノズルから、それぞれの色のインクを吐出して行われる。
【0036】
剥離ローラ70は、図1に示すように、搬送方向において搬送機構30より下流側で、鉛直方向において搬送機構30より高い位置に設けられている。剥離ローラ70は、不図示の駆動部の駆動力によって、搬送方向に対応した方向に回転する。図1に基づけば、剥離ローラ70は、反時計回り(剥離ローラ70内の矢印参照)に回転する。剥離ローラ70は、搬送ベルト36の回転に対応して回転する。布帛3に接する剥離ローラ70の外周面は、布帛3との間で所定の摩擦力が発生するような状態をなしている。剥離ローラ70が回転すると、搬送機構30によって搬送されている布帛3は、剥離ローラ70の側に引っ張られる。これによって、所定の柄模様が記録された状態で搬送されている布帛3は、記録部60を通過した所定の位置で、粘着部40から剥離される。
【0037】
粘着部40から剥離され、剥離ローラ70を通過した布帛3は、さらに、導入ローラ24と同様の構成の所定のローラを介して、巻取機構80の側に搬送される。剥離ローラ70と巻取機構80との間に設けられる、前述の所定のローラの数は、適宜設定される。巻取機構80は、所定の柄模様が記録され、所定のローラを介して搬送される布帛3を順次巻き取る。巻き取られた布帛3は、その後、インクジェット記録装置1による工程の次の工程である、例えば発色工程に供給される。発色工程では、公知の発色処理が行われ、記録された所定の柄模様が、布帛3に固着される。
【0038】
インクジェット記録装置1は、接続インターフェース(不図示)を有する。接続インターフェースは、通信ケーブルを接続するための接続口を備え、同じく通信ケーブルが接続された外部装置(不図示)との間で、データ通信を行う。外部装置としては、パーソナルコンピュータ等が例示される。インクジェット記録装置1で記録される所定の柄模様を表す柄模様データは、外部装置から、接続インターフェースを介して、インクジェット記録装置1に入力される。
【0039】
この他、インクジェット記録装置1は、制御部90を有する。制御部90は、インクジェット記録装置1において実行される各種の動作及び処理を制御する。制御部90は、例えば、図2〜図4に基づき後述する各動作を制御する。制御部90は、外部装置から接続インターフェースを介してインクジェット記録装置1に入力された柄模様データを処理する。続けて、制御部90は、処理済みの柄模様データに従い、各色用の記録ヘッドの各ノズルから、それぞれの色インクが吐出されるよう制御する。これによって、粘着部40に固定された状態の布帛3には、所定の柄模様が記録される。制御部90は、送出機構20、搬送機構30、剥離ローラ70及び巻取機構80を、それぞれ制御する。これによって、これら各構成において、上述したような、布帛3の供給、搬送、剥離及び巻き取りの各動作(各工程)が行われる。
【0040】
<押圧調整部>
押圧調整部54は、図2に示すように、シリンダ542,544と、電磁弁554,556,558と、空気圧レギュレータ560,562とを含む。これら各構成は、配管564によって接続されている。図2におけるハッチングは、断面を示すものである。
【0041】
インクジェット記録装置1において、シリンダ542,544は、図2に示すように、ロッド546の突出方向が、鉛直方向下側となるようにして、取り付けられている。シリンダ542は、搬送方向(図1参照)に直交する幅方向の第一の側において、押圧ローラ52を回転自在に支持する。シリンダ544は、幅方向の第二の側において、押圧ローラ52を回転自在に支持する。押圧ローラ52は、シリンダ542,544によって支持された状態において、水平な状態とされる。図2から明らかな通り、布帛3を、粘着部40に対して押圧するための押圧ローラ52の領域の幅W1は、搬送面38の幅W2より幅広に設定されている。布帛3に対する押圧力を受けるカウンタローラ58の領域の幅W3は、押圧ローラ52の領域の幅W1と同程度又は幅W1以上とされる。
【0042】
シリンダ542,544は、複動タイプのエアシリンダであって、同一の構成を有する。電磁弁554,556,558は、電磁式の三方弁であって、同一の構成を有する。電磁弁554,556,558は、それぞれ、各ポートを開放又は遮断することで、配管564の空気の流れを切り替える。空気圧レギュレータ560,562は、圧縮空気源566から供給される空気(圧縮空気)の圧力を調整するレギュレータである。
【0043】
シリンダ542,544には、それぞれ、圧縮空気源566の元圧状態の空気、又は、空気圧レギュレータ560,562で空気圧が調整された空気が、電磁弁554,556,558と、配管564とによって形成された流路を通り、供給される。空気の供給に伴い、シリンダ542,544の内部の空気が、電磁弁554,556,558と、配管564とによって形成された流路を通り、排出される。このような空気の供給及び排出に伴い、シリンダ542,544では、それぞれ、ロッド546が伸長する。シリンダ542,544の各ロッド546の伸長に対応し、押圧ローラ52は、鉛直方向に移動(昇降)する。空気の吸排気は、シリンダ542,544のそれぞれで、同期して行われる。そのため、押圧ローラ52の鉛直方向の移動は、押圧ローラ52が水平に維持された状態で行われる。
【0044】
例えば、図2に示すような状態に、電磁弁554,556,558のそれぞれにおける各ポートが、切り替えられたとする。即ち、電磁弁554では、空気圧レギュレータ560と接続されたポートが遮断される。電磁弁554において、このポートが遮断されると、空気圧レギュレータ560で空気圧が調整された空気は、電磁弁554を介して、シリンダ542,544の各空気室552に供給されない。電磁弁554では、前述の遮断されるポート以外の2つのポートは、開放される。電磁弁556では、空気圧レギュレータ562と接続されたポートが遮断される。電磁弁556において、このポートが遮断されると、空気圧レギュレータ562で空気圧が調整された空気は、電磁弁556を介して、シリンダ542,544の各空気室550に供給されない。電磁弁558では、大気側に接続されたポートが遮断される。電磁弁556,558において、前述の遮断されるポート以外のポートは、開放される。
【0045】
電磁弁554,556,558が、このような状態とされると、シリンダ542,544には、鉛直方向下側となる各空気室550に、圧縮空気源566の元圧状態の空気が供給される。シリンダ542,544の各空気室550への空気の供給に伴い、シリンダ542,544では、ピストン548が、それぞれ、供給される空気の空気圧に対応して、鉛直方向上向きに加圧され、上昇する。シリンダ542,544の各ピストン548が上昇すると、鉛直方向上側となる各空気室552の容積は、減少し、各空気室552からは、ここに存在していた空気が排出される。シリンダ542,544の各空気室552から排出された空気は、配管564を通過し、開放状態の電磁弁554のポートから、大気中に排出(放出)される。これによって、シリンダ542,544の各ピストン548に連結されているロッド546は、それぞれ、同期して、鉛直方向上側に縮み、押圧ローラ52が上昇する。シリンダ542,544の各ロッド546が、上昇端として予め定めた位置まで縮むと、インクジェット記録装置1は、押圧ローラ52が待機位置とされた位置に配置された待機状態となる。
【0046】
一方、シリンダ542,544において、電磁弁554,556,558が、例えば、後述する図3に示すような状態に切り替えられると、シリンダ542,544では、ピストン548が、それぞれ、下降する。シリンダ542,544の各ピストン548が下降すると、各ピストン548に連結されているロッド546は、それぞれ、同期して、鉛直方向下側に伸び、押圧ローラ52が下降する。シリンダ542,544の各ロッド546が、押圧ローラ52と布帛3とが接触した状態より伸びると、布帛3は、粘着部40に押圧された状態となる。以下、布帛3に対する押圧動作について、説明する。
【0047】
<押圧動作>
粘着部40に布帛3を固定するための固定工程において、インクジェット記録装置1で実行される押圧動作について、図3及び図4を参照して説明する。図3及び図4におけるハッチングは、断面を示すものである。押圧動作において、押圧調整部54は、押圧ローラ52に鉛直方向下向きの力を作用させ、布帛3に付与される押圧力を、押圧ローラ52の自重による押圧力より高い第一状態とする。また、押圧調整部54は、押圧ローラ52に鉛直方向上向きの力を作用させ、布帛3に付与される押圧力を、押圧ローラ52の自重による押圧力より低い第二状態とする。押圧ローラ52の自重による押圧力は、鉛直方向下向きの力である。
【0048】
先ず、図3を参照して、第一状態で行われる押圧動作について、説明する。待機状態にあるインクジェット記録装置1において、第一状態での押圧動作が行われる場合、電磁弁554,556,558のそれぞれにおける各ポートは、次のような状態に切り替えられる。即ち、電磁弁554では、大気側に接続されたポートが遮断され、これ以外のポートは、開放される。電磁弁556,558では、シリンダ542,544の各空気室550に空気が供給されない状態となるよう、何れかのポートが遮断される。例えば、図3に示すように、電磁弁558の各ポートのうち、電磁弁556に接続されたポートが遮断される。電磁弁558では、前述の遮断されるポート以外の2つのポートは、開放される。電磁弁556において、各ポートは、どのような状態であってもよい。
【0049】
電磁弁554,556,558が、このような状態とされると、シリンダ542,544の各空気室552には、空気圧レギュレータ560で空気圧が調整された空気が供給される。シリンダ542,544の各空気室552への空気の供給に伴い、シリンダ542,544では、ピストン548が、それぞれ、供給される空気の空気圧に対応して、鉛直方向下向きに加圧され、下降する。各ピストン548が下降すると、シリンダ542,544の各空気室550の容積は、減少し、各空気室550からは、ここに存在していた空気が排出される。シリンダ542,544の各空気室550から排出された空気は、配管564を通過し、開放状態の電磁弁558のポートから、大気中に排出(放出)される。
【0050】
これによって、シリンダ542,544の各ピストン548に連結されているロッド546は、それぞれ、同期して、鉛直方向下側に伸び、押圧ローラ52が下降する。待機状態において、布帛3と押圧ローラ52との間に形成された隙間G(図2参照)だけ、押圧ローラ52が下降すると、押圧ローラ52は、布帛3に接触する。ただし、カウンタローラ58によって、押圧ローラ52の下降は規制されるため、押圧ローラ52の下降は、布帛3に接触した後、布帛3が所定量だけ潰れた位置で、停止する。
【0051】
このような状態において、電磁弁554,556,558のそれぞれにおける各ポートは、継続して、図3に示すような状態とされる。そのため、各空気室552の内部圧力は、空気圧レギュレータ560で調整された空気圧まで上昇する。従って、押圧ローラ52には、空気圧レギュレータ560で調整された空気圧に対応する力が、鉛直方向下向きに作用する。即ち、布帛3には、押圧ローラ52の自重による押圧力に加え、前述のようにして押圧ローラ52に作用する鉛直方向下向きの力が、押圧力として付与される。
【0052】
第一状態において、シリンダ542,544によってさらに付与される鉛直方向下向きの力は、空気圧レギュレータ560で調整された空気圧によって定まる。具体的に、第一状態において、さらに付与される鉛直方向下向きの力は、ピストン548の面積と、空気圧レギュレータ560によって調整される空気圧との積の2倍(シリンダ542,544それぞれによる力を合計)となる。布帛3を、好適な状態で粘着部40に固定し、且つ、記録後の布帛3を好適な状態とする、好適な押圧力は、例えば、布帛3の種類に応じて異なる。布帛3の種類によっては、布帛3の種類に応じた好適な押圧力が、押圧ローラ52の自重による押圧力より大きい場合がある。空気圧レギュレータ560は、布帛3の種類に応じて、不足する鉛直方向下向きの力を、シリンダ542,544で発生させることができる空気圧に設定される。圧縮空気源566から供給される元圧状態の空気は、空気圧レギュレータ560に設定された空気圧に調整される。第一状態による押圧動作の対象となる布帛3としては、例えば、上述した第一種布帛が例示される。
【0053】
空気圧レギュレータ560で調整される空気圧は、手動又は自動で設定される。自動で設定される場合について一例を示すと、ユーザは、インクジェット記録装置1に、布帛3の種類を入力する。制御部90は、布帛3の種類と、空気圧レギュレータ560の空気圧とが対応付けられたデータベースから、入力された布帛3の種類に従い、この布帛3に対応付けられた空気圧を取得する。続けて、制御部90は、取得された空気圧を、空気圧レギュレータ560に設定するための制御を実行する。
【0054】
次に、図4を参照して、第二状態で行われる押圧動作について、説明する。待機状態にあるインクジェット記録装置1において、第二状態での押圧動作が行われる場合、電磁弁554,556,558のそれぞれにおける各ポートは、例えば、図3に示すような状態に切り替えられる。その後、図4に示す状態に、再度、切り替えられる。電磁弁554,556,558のそれぞれにおける各ポートが、図3に示すような状態において、押圧ローラ52は、上述したように、下降する。これに関する説明は、上述した通りであるため、省略する。押圧ローラ52が、布帛3と押圧ローラ52との間に形成された隙間G(図2参照)だけ下降したタイミングで、電磁弁554,556,558のそれぞれにおける各ポートは、図4に示す状態に切り替えられる。
【0055】
図4に示す状態において、電磁弁554では、各ポートが、図2と同様な状態とされる。これに関する説明は、上述した通りであるため、省略する。電磁弁556では、圧縮空気源566に直接接続されたポートが遮断される。電磁弁556において、このポートが遮断されると、圧縮空気源566の元圧状態の空気は、電磁弁556を介して、シリンダ542,544の各空気室550に供給されない。電磁弁558では、大気側に接続されたポートが遮断される。電磁弁556,558において、前述の遮断されるポート以外のポートは、開放される。
【0056】
電磁弁554,556,558が、このような状態とされると、シリンダ542,544の各空気室550には、空気圧レギュレータ562で空気圧が調整された空気が供給される。そのため、各空気室550の内部圧力は、少なくとも、空気圧レギュレータ562で調整された空気圧まで上昇する。シリンダ542,544の各ピストン548は、それぞれ、供給される空気の空気圧に対応して、鉛直方向上向きに加圧される。従って、押圧ローラ52には、空気圧レギュレータ562で調整された空気圧に対応する力が、鉛直方向上向きに作用する。鉛直方向上向きの力は、押圧ローラ52を上昇させる方向の力であって、押圧ローラ52の自重による押圧力と反対方向の力である。即ち、布帛3には、押圧ローラ52の自重による押圧力から、シリンダ542,544による鉛直方向上向きの力を、差し引いた大きさの押圧力が付与される。
【0057】
第二状態において、シリンダ542,544によって付与される鉛直方向上向きの力は、空気圧レギュレータ562で調整された空気圧によって定まる。具体的に、第二状態において、押圧ローラ52の自重による押圧力に抗する鉛直方向上向きの力は、ピストン548の面積と、空気圧レギュレータ562によって調整される空気圧との積の2倍(シリンダ542,544それぞれによる力を合計)となる。布帛3を、好適な状態で粘着部40に固定し、且つ、記録後の布帛3を好適な状態とするための押圧力は、上述した通り、布帛3の種類に応じて異なる。布帛3の種類によっては、布帛3の種類に応じた好適な押圧力が、押圧ローラ52の自重による押圧力より小さい場合がある。空気圧レギュレータ562は、布帛3の種類等に応じて、押圧ローラ52の自重による押圧力において過分となる力に抗する鉛直方向上向きの力を、シリンダ542,544で発生させることができる空気圧に設定される。この場合、シリンダ542,544で発生させる鉛直方向上向きの力は、押圧ローラ52の自重未満となる。
【0058】
第二状態において、布帛3に対して付与される押圧力は、空気圧レギュレータ562による空気圧を適宜設定することにより、調整することができる。空気圧レギュレータ562で調整される空気圧は、上述した通り、押圧ローラ52に作用する鉛直方向上向きの力が、押圧ローラ52の自重未満となるような大きさである。そのため、第二状態において、布帛3に付与される押圧力は、限りなく0に等しい程度(>0)にまで、調整することができる。換言すれば、布帛3に押圧ローラ52が触れるか触れない程度にまで、調整することができる。第二状態による押圧動作の対象となる布帛3としては、例えば、上述した第二種布帛が例示される。
【0059】
シリンダ542,544の各空気室552は、大気側に接続された電磁弁554のポートを介して、大気に連通されている。従って、シリンダ542,544の各空気室550への空気の供給に伴い、各空気室550の内部圧力が、空気圧レギュレータ562で調整された空気圧へと上昇した場合においても、各空気室552の内部圧力は、大気圧である。
【0060】
空気圧レギュレータ562で調整される空気圧は、手動又は自動で設定される。自動で設定される場合について一例を示すと、ユーザは、インクジェット記録装置1に、布帛3の種類を入力する。制御部90は、布帛3の種類と、空気圧レギュレータ562の空気圧とが対応付けられたデータベースから、入力された布帛3の種類に従い、この布帛3に対応付けられた空気圧を取得する。続けて、制御部90は、取得された空気圧を、空気圧レギュレータ562に設定するための制御を実行する。空気圧レギュレータ560による空気圧の設定も自動で行われる場合、データベースは、布帛3の種類と、空気圧レギュレータ560,562それぞれの空気圧とを対応付けた構造としてもよい。
【0061】
<本実施形態による効果>
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
【0062】
(1)布帛3を、粘着部40に対して押圧する際、布帛3の種類に応じて、押圧力を好適に調整し、好適な品位の柄模様を記録することが可能な状態とすることができる。そのため、好適な品位の柄模様が記録された好適な状態の記録媒体を製造することができる。
【0063】
(2)押圧機構50を設ける位置に関し、本実施形態では、押圧ローラ52の外周面が、ポイントMより搬送方向下流側の位置で、搬送面38に対向するようにし、この位置で押圧することとしている。この点について、第一ベルトローラ32及び第二ベルトローラ34の外周面と、搬送ベルト36の裏面とが接触し、且つ、搬送ベルト36の移動方向が転換される領域では、搬送ベルト36は、これ以外の領域より、搬送ベルト36が回転する方向に伸びた状態となる。搬送ベルト36が伸びると、搬送ベルト36に粘着された粘着部40も同様に伸びる。このとき、粘着部40となる粘着テープの両端の間は、隙間が生じた状態となる。従って、ポイントMより搬送方向上流側で布帛3を粘着部40に固定すると、ポイントMより搬送方向下流側で、搬送ベルト36と粘着部40が収縮し、前述したような伸びが発生していない状態となった場合、布帛3にしわ等が発生することがあった。また、隙間が生じていた部分では、隙間がなくなることで、布帛3に浮き等が発生することがあった。
【0064】
本実施形態では、上述したような位置に押圧機構50を設けているため、粘着部40に固定された布帛3に、しわ及び/又は浮き等が発生することを防止することができる。粘着部40は、粘着テープによる構成に換えて、搬送面38に、のり剤等を塗布し、塗布されたのり剤等によって粘着部40を形成し、布帛3を固定するといった方法も考えられる。しかし、のり剤を用いる場合であっても、搬送ベルト36の伸びに起因し、のり剤にひび割れ等が生じることがある。そのため、搬送ベルト36が回転する方向に伸びた状態では、このひび割れの幅が広がることとなるため、上記同様の問題が生じる。
【0065】
<変形例>
本実施形態は、次のようにすることもできる。このような構成によっても、上述したような効果を得ることができる。
【0066】
(1)上記では、所定の柄模様が記録される記録媒体が、長尺状の布帛3である場合を例に説明した。この他、記録媒体は、短冊状の布帛であってもよい。この場合、インクジェット記録装置1では、送出機構20と、剥離ローラ70と、巻取機構80とが、省略される。短冊状の布帛は、搬送機構30において、搬送方向上流側の端部において、搬送面38に載せ置かれ、上記同様、押圧機構50で押圧されて、粘着部40に固定される。その後、記録部60を通過した所定の位置で、粘着部40から剥離される。記録媒体は、布帛以外の媒体であってもよい。
【0067】
(2)上記では、押圧調整部54を、シリンダ542,544とし、圧縮空気を利用した構成を例に説明した。押圧調整部54は、押圧ローラ52を昇降させ、所定の押圧力を布帛3に対して付与することが可能な構成であれば、各種の構成を採用することができる。例えば、電動モータを用いて、押圧調整部54を構成するようにしてもよい。この場合、インクジェット記録装置1では、制御部90によって、電動モータの回転が制御され、押圧ローラ52の昇降と、押圧ローラ52による押圧力とが制御される。電動モータが用いられる場合についても、上記同様、押圧ローラ52の両端側において、電動モータは、同期された状態で駆動される。この他、油を媒体とした油圧を用いた構成としてもよい。このような構成によっても、押圧ローラ52を好適な状態で鉛直方向に移動(昇降)させることが可能となり、好適な押圧を実現することができる。
【0068】
(3)インクジェット記録装置1は、圧縮空気源566から供給される空気の流量を調整する流量調整部を、配管564に設けた構成としてもよい。流量調整部としては、スピードコントローラと称される空圧機器が例示される。流量調整部は、例えば、空気圧レギュレータ560が接続された配管564に設けられる。この流量調整部は、圧縮空気源566から供給され、シリンダ542,544の各空気室552に供給(図3参照)されることとなる空気の流量を調整する。これによって、押圧ローラ52の下降速度を調整することができる。空気圧レギュレータ560を、流量調整機能を含むタイプとしてもよい。この場合、配管564に、独立した流量調整部を設ける必要がない。
【0069】
流量調整部は、上述した位置に加え、又は、この他の位置に接続されてもよい。例えば、流量調整部は、次に例示するような位置の全て又は何れかに設けられてもよい。流量調整部は、空気圧レギュレータ562が接続された配管564に設けてもよい。この場合、上記同様、空気圧レギュレータ562を、流量調整機能を含むタイプとしてもよい。このような位置に設けられた流量調整部は、圧縮空気源566から供給され、シリンダ542,544の各空気室550に供給(図4参照)されることとなる空気の流量を調整する。また、流量調整部は、空気圧レギュレータ562を介さず、電磁弁556及び圧縮空気源566を直接接続する配管564に設けられてもよい。このような位置に設けられた流量調整部は、圧縮空気源566から供給され、シリンダ542,544の各空気室550に供給(図2参照)されることとなる空気の流量を調整する。これによって、押圧ローラ52の上昇速度を調整することができる。
【0070】
上述したような流量調整部が設けられる場合、流量調整部で調整される空気量は、手動又は自動で設定される。自動で設定される場合について一例を示すと、ユーザは、インクジェット記録装置1に、布帛3の種類を入力する。制御部90は、布帛3の種類と、流量調整部それぞれの空気量とが対応付けられたデータベースから、入力された布帛3の種類に従い、この布帛3に対応付けられた空気量を取得する。続けて、制御部90は、取得された空気量を、対応する流量調整部に設定するための制御を実行する。空気圧レギュレータ560及び/又は空気圧レギュレータ562による空気圧の設定が自動で行われる場合、データベースは、布帛3の種類と、空気圧レギュレータ560,562それぞれの空気圧と、流量調整部それぞれの空気量とが対応付けられた構造としてもよい。
【0071】
(4)上記では、押圧機構50が、単一の押圧ローラ52を含む構成を例に説明した。押圧機構50は、外周表面の硬度が異なる複数の押圧ローラを含み、押圧に用いる押圧ローラを、適宜切り替えるようにしてもよい。これによれば、布帛3の種類に応じて、適切な硬度の押圧ローラに切り替え、布帛3をより好適に押圧することができる。また、押圧ローラ52に関し、布帛3を粘着部40に押圧することができる構成であればよく、ローラ形状以外の構成を有する押圧部としてもよい。カウンタローラ58についても同様であり、押圧力を受けることが可能な、他の構成を有する受け部としてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 インクジェット記録装置
3 布帛
20 送出機構
22 供給ローラ、 24 導入ローラ
26 センタリングローラ 28 位置検知センサ
30 搬送機構
32 第一ベルトローラ、34 第二ベルトローラ、 36 搬送ベルト
38 搬送面、 40 粘着部
50 押圧機構
52 押圧ローラ、 54 押圧調整部
542,544 シリンダ、 554,556,558 電磁弁
560,562 空気圧レギュレータ、 564 配管、 566 圧縮空気圧源
58 カウンタローラ
60 記録部
70 剥離ローラ
80 巻取機構
90 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送し、搬送されている記録媒体に、所定の柄模様を記録するインクジェット記録装置であって、
記録媒体が載せ置かれる搬送面に形成された、記録媒体を固定するための粘着部を含み、前記粘着部に固定された状態の記録媒体を搬送する搬送機構と、
前記搬送機構によって搬送される記録媒体を、前記粘着部に対して押圧するための押圧機構と、
前記押圧機構によって押圧され、前記粘着部に固定された状態で搬送される記録媒体に、所定の柄模様を記録する記録部と、を有し、
前記押圧機構は、
記録媒体に接し、記録媒体を、前記粘着部に対して押圧する押圧部と、
前記押圧部を支持し、前記押圧部によって記録媒体に付与される押圧力を調整するための押圧調整部と、を含み、
前記押圧調整部は、
前記押圧部に鉛直方向下向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、前記押圧部の自重による押圧力より高い第一状態と、
前記押圧部に鉛直方向上向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、前記押圧部の自重による押圧力より低い第二状態と、に調整する、インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記搬送機構は、
前記記録部より搬送方向上流側に設けられる第一ベルトローラと、
前記記録部より搬送方向下流側に設けられる第二ベルトローラと、
前記搬送面を形成し、前記搬送面と反対側の面である裏面が、前記第一ベルトローラ及び前記第二ベルトローラに接し、且つ、前記第一ベルトローラ及び前記第二ベルトローラに張架される、無端状の搬送ベルトと、を有するベルトコンベアを含み、
前記押圧機構は、前記押圧部を介した記録媒体に対する押圧力を受ける受け部を含み、
前記押圧部は、前記記録部より搬送方向上流側であって、前記搬送ベルトの裏面が前記第一ベルトローラに接しておらず、回転する前記搬送ベルトの移動方向が搬送方向となる前記搬送面に対向するように設けられ、
前記受け部は、前記搬送ベルトの裏面側であって、前記搬送ベルトを介して前記押圧部と対向するように設けられている、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
記録媒体に接し、記録媒体を、前記粘着部に対して押圧するための前記押圧部の領域の幅寸法は、前記搬送面の幅寸法より幅広に設定されている、請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記押圧調整部は、前記押圧部を前記粘着部から離間した上方位置に上昇させ、且つ、前記押圧部を前記上方位置から前記粘着部に接近した位置であって、記録媒体を押圧することができる下方位置に下降させ、
前記インクジェット記録装置は、
前記押圧調整部が前記押圧部を下降させるときの下降速度を調整するための速度調整部を有する、請求項1から請求項3の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記押圧調整部は、
前記押圧部を、搬送方向に直交する幅方向の第一の側において支持し、前記押圧部を前記粘着部から離間した上方位置に上昇させ、且つ、前記押圧部を前記上方位置から前記粘着部に接近した位置であって、記録媒体を押圧することができる下方位置に下降させる、第一押圧調整部と、
前記押圧部を、搬送方向に直交する幅方向の第二の側において支持し、前記上方位置に上昇させ、且つ、前記押圧部を前記下方位置に下降させる、第二押圧調整部と、を含み、
前記第一押圧調整部による前記押圧部の下降と、前記第二押圧調整部による前記押圧部の下降と、は同期して行われる、請求項1から請求項4の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記押圧調整部を制御するための制御部を有する、請求項1から請求項5の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
所定の柄模様が記録される記録媒体が載せ置かれる搬送面に形成された、記録媒体を固定するための粘着部を含み、前記粘着部に固定された状態の記録媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構によって搬送される記録媒体を、前記粘着部に対して押圧するための押圧機構と、前記押圧機構によって押圧され、前記粘着部に固定された状態で搬送される記録媒体に、所定の柄模様を記録する記録部と、を有し、前記押圧機構は、記録媒体に接し、記録媒体を、前記粘着部に対して押圧する押圧部と、前記押圧部を支持し、前記押圧部によって記録媒体に付与される押圧力を調整するための押圧調整部と、を含み、前記押圧調整部は、前記押圧部に鉛直方向下向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、前記押圧部の自重による押圧力より高い第一状態と、前記押圧部に鉛直方向上向きの力を作用させ、記録媒体に付与される押圧力を、前記押圧部の自重による押圧力より低い第二状態と、に調整する、インクジェット記録装置で実行されるインクジェット記録方法であって、
前記押圧機構を動作させ、記録媒体を前記粘着部に固定する固定工程と、
前記固定工程によって前記粘着部に固定された状態の記録媒体を搬送する搬送工程と、
前記搬送工程によって搬送されている記録媒体に、所定の柄模様を記録する記録工程と、を含み、
前記固定工程は、
前記押圧調整部によって押圧力が前記第一状態に調整された場合、前記第一状態にて記録媒体を押圧し、
前記押圧調整部によって押圧力が前記第二状態に調整された場合、前記第二状態にて記録媒体を押圧する、インクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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