説明

インクチューブ

【課題】良好な水蒸気バリア性及び圧縮復元性を有するインクチューブを提供する。
【解決手段】インクチューブ1は、外側に配置され外気と接する外層2と、外層2の内側に配置されインクの送液時にインクと接する内層3と、外層2と内層3との間に位置する中間層4と、の3層構造をなしている。内外層2、3は、デュロメータA硬度が80未満であるスチレン系エラストマー組成物から成り、中間層4は、MFRが0.5〜4.5のポリオレフィン系樹脂から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置においてインクを送液するインクチューブに関し、たとえば、記録ヘッドより吐出された廃インクを廃インクカートリッジへ送る廃液系のインクチューブに好適なインクチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、インクジェット記録装置の概要図である。
【0003】
インクジェット記録装置等に用いられるインクチューブとしては、インクタンク10から記録ヘッド30にインクを供給するための供給用インクチューブ20と、記録ヘッド30から吐出されキャップ装置40で集められたインクを廃インクカートリッジ60に送るための廃液用のインクチューブ1と、がある。
【0004】
上述したインクジェット記録装置において、供給時のインクは、記録ヘッド30により制御されているが、廃液時のインクは、チューブポンプ装置50を介して制御されている。このため、インクチューブ1は、供給用インクチューブ20に要求されている水蒸気バリア性の他に、チューブポンプ装置50のポンプ機能を維持するための圧縮復元性も要求されている。
【0005】
インクチューブに関する先行技術文献として、例えば、特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂を含む内層と、スチレン系エラストマーとポリオレフィン系樹脂とを含む外層と、を有して構成するチューブについて開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、内外層にスチレン系エラストマー、接着層を介して中間層にフッ素樹脂を用いた構成について開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、ポリエチレンからなる内外層と、エチレンビニルアルコール共重合体もしくはポリ塩化ビニリデンからなる中間層と、を有して構成するチューブについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−69780号公報
【特許文献2】特開2007−38622号公報
【特許文献3】特開平9−300652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、廃液用のインクチューブとして使用する場合、上記特許文献1のチューブは、ポリオレフィン系樹脂を用いて内層を構成しているため、圧縮復元性と対インク性に問題がある。また、上記特許文献2のチューブ構成は、接着剤が必要になるため層構成が多くなり、製品コストが高くなる。また、上記特許文献3のチューブのように、エチレンビニルアルコール共重合体もしくはポリ塩化ビニリデンを用いた構成では、剛性が高すぎるために圧縮復元性に問題がある。
【0010】
本発明は、このような点に基いてなされたものであり、その目的とするところは、良好な水蒸気バリア性及び圧縮復元性を有するインクチューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明は、以下の特徴を有する。
【0012】
本発明にかかるインクチューブは、デュロメータA硬度が80未満であるスチレン系エラストマー組成物からなる内外層と、MFRが0.5〜4.5のポリオレフィン系樹脂からなる中間層と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な水蒸気バリア性及び圧縮復元性を有するインクチューブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態のインクチューブ1の構成例を示す図である。
【図2】インクチューブ1の評価結果を示す図である。
【図3】インクジェット記録装置の概略構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るインクチューブを示す拡大断面図である。
【0016】
インクチューブ1は、外側に配置され外気と接する外層2と、外層2の内側に配置されインクの送液時にインクと接する内層3と、外層2と内層3との間に位置する中間層4と、の3層構造を成している。
【0017】
インクチューブ1を構成する外層2及び内層3は、スチレン系エラストマー組成物を含んで構成し、中間層4は、ポリオレフィン系樹脂を含んで構成する。
【0018】
外層2および内層3を構成するスチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−ブチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−ブチレン−スチレン共重合体およびこれらの水素添加物などが挙げられる。なお、スチレン系エラストマー組成物は、物性調整のため、ポリオレフィンや軟化材等を添加して構成することも可能である。
【0019】
外層2,内層3は、JIS K 7215によるデュロメータA硬度が低いスチレン系エラストマー組成物で構成することが好ましい。内外層2,3の硬度が高いと、圧縮復元性を保つためには中間層4のポリオレフィン系樹脂を薄くしなければならず、その場合には水蒸気バリア性を良好に保つことができない。そのため、内外層2,3を構成するスチレン系エラストマーは、例えば、デュロメータA硬度が80未満のスチレン系エラストマーであることが好ましい。デュロメータA硬度が80以上の場合には、多層チューブとした場合に堅すぎて良好な圧縮復元性を得ることができない。
【0020】
中間層4を構成するポリオレフィン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸メチル共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、環状ポリオレフィンなどが挙げられ、これらを適宜混合して構成することができる。なお、中間層4を構成するポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが水蒸気バリア性に優れているため特に好ましい。
【0021】
また、中間層4を構成するポリオレフィン系樹脂の厚みは、インクチューブ1を構成する全体の厚みの5%以上30%未満であることが好ましい。中間層4を構成するポリオレフィン系樹脂の厚みがインクチューブ1を構成する全体の厚みに対して5%未満であると良好な水蒸気バリア性を得ることができず、また、中間層4を構成するポリオレフィン系樹脂の厚みがインクチューブ1を構成する全体の厚みに対して30%より大きいと良好な圧縮復元性を得ることができないため、好ましくない。
【0022】
また、中間層4を構成するポリオレフィン系樹脂は、230℃におけるMFR(JIS K 6760準拠)が0.5〜4.5g/10分の範囲であり、密度(JIS K 6760準拠)が0.85〜1.0g/cm3であることが好ましい。MFRが上記範囲にない場合には、成形性が悪いため好ましくない。また、密度が1.0g/cm3より高いと、柔軟性に乏しくなる。密度が0.85g/cm3より低いと、水蒸気バリア性に乏しくなるため好ましくない。
【0023】
なお、上記において、外層2及び内層3をポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン等)で構成し、中間層4をスチレン系エラストマー組成物(例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体を主とする組成物)で構成した場合は、圧縮復元性に優れず、好ましくない。
【0024】
本実施形態によれば、水蒸気バリア性を飛躍的に向上させることができるとともに、圧縮復元性を備えることができる。また、各層の接着に接着剤を使用せず、少なくとも3層構造で済むため、製造コストが安価なインクチューブを得ることができる。
【実施例】
【0025】
次に、上述した実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
本実施例において、インクチューブ1は、外層2,中間層4,内層3の3層構造で構成し、外径5.0mm、内径3.0mm、肉厚1000μmである。インクチューブ1は、公知の方法により共押出成形された3層構造からなる。なお、インクチューブ1に使用した樹脂のデュロメータA硬度は、JIS K 7215に従って測定した。
【0027】
[実施例1]
インクチューブ1の層構成および厚みを、外層2:スチレン系エラストマー組成物(600μm)/中間層4:ポリオレフィン系樹脂(50μm)/内層3:スチレン系エラストマー組成物(350μm)とした。
【0028】
スチレン系エラストマー組成物は、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体を主とする組成物であり、デュロメータA硬度が30となるものを用い、ポリオレフィン系樹脂は、230℃におけるMFR(JIS K6760準拠)が3.7g/10分であり、密度(JIS K6760準拠)が0.89g/cm3であるポリプロピレンを用いた。
【0029】
[実施例2]
インクチューブ1の層構成および厚みを、外層2:スチレン系エラストマー組成物(600μm)/中間層4:ポリオレフィン系樹脂(100μm)/内層3:スチレン系エラストマー組成物(300μm)とした以外は、実施例1と同様である。
【0030】
[実施例3]
インクチューブ1の層構成および厚みを、外層2:スチレン系エラストマー組成物(500μm)/中間層4:ポリオレフィン系樹脂(200μm)/内層3:スチレン系エラストマー組成物(300μm)とした以外は、実施例1と同様である。
【0031】
[実施例4]
インクチューブ1の層構成および厚みを、外層2:スチレン系エラストマー組成物(600μm)/中間層4:ポリオレフィン系樹脂(100μm)/内層3:スチレン系エラストマー組成物(300μm)とし、スチレン系エラストマー組成物に、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体を主とする組成物であり、デュロメータA硬度が52となるものを用いた以外は、実施例1と同様である。
【0032】
[実施例5]
インクチューブ1の層構成および厚みを、外層2:スチレン系エラストマー組成物(600μm)/中間層4:ポリオレフィン系樹脂(100μm)/内層3:スチレン系エラストマー組成物(300μm)とし、ポリオレフィン系樹脂として、MFRが3.8g/10分であり、密度が0.94g/cm3である直鎖状低密度ポリエチレンを用いた以外は、実施例1と同様である。
【0033】
[比較例1]
インクチューブ1の層構成および厚みを、外層2:スチレン系エラストマー組成物(600μm)/中間層4:ポリオレフィン系樹脂(30μm)/内層3:スチレン系エラストマー組成物(370μm)とした以外は、実施例1と同様である。
【0034】
[比較例2]
インクチューブ1の層構成および厚みを、外層2:スチレン系エラストマー組成物(450μm)/中間層4:ポリオレフィン系樹脂(300μm)/内層3:スチレン系エラストマー組成物(250μm)とした以外は、実施例1と同様である。
【0035】
[比較例3]
インクチューブ1の層構成および厚みを、外層2:スチレン系エラストマー組成物(600μm)/中間層4:ポリオレフィン系樹脂(100μm)/内層3:スチレン系エラストマー組成物(300μm)とし、スチレン系エラストマー組成物にスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体を主とする組成物であり、デュロメータA硬度が80となるものを用いた以外は、実施例1と同様である。
【0036】
[比較例4]
インクチューブ1の層構成および厚みを、外層2:スチレン系エラストマー組成物(600μm)/中間層4:フッ素樹脂(50μm)/内層3:スチレン系エラストマー組成物(350μm)とし、フッ素樹脂にMFRが0.6g/10分であり、密度が2.1g/cm3であるポリクロロトリフルオロエチレンを用いた以外は、実施例1と同様である。
【0037】
作成したインクチューブ1に対し、層間接着性、圧縮復元性、水蒸気バリア性の評価を以下の通り実施した。評価結果を図2に示す。
【0038】
(層間接着性)
成形時の層間剥離の有無を確認し、層間剥離の無いものを○、層間剥離がみられるものを×とした。
【0039】
(圧縮復元性)
チューブ外径が60%となるよう圧縮した状態のまま、60℃の温度下にて168時間保管した後にチューブを取り出し、試験前のチューブ外径に対する試験後のチューブ外径の比率を復元率とした。得られた復元率が75%以上のものを○、75%未満のものを×とした。
【0040】
(水蒸気バリア性)
40℃・90%RH条件下での透湿度を測定し、2.5g・mm/m2・day未満の場合は○、2.5g・mm/m2・day以上の場合は×とした。
【0041】
図2に示す評価結果から明らかなように、実施例1〜5のインクチューブ1は、層間接着性、圧縮復元性、水蒸気バリア性の何れについても良好な性能を示すことが確認された。
【0042】
一方、比較例1では水蒸気バリア性が、比較例2〜4では、圧縮復元性がそれぞれ不足することが確認された。
【0043】
また、比較例4では、層間接着性が無く、また圧縮復元性、水蒸気バリア性も不足することが確認された。
【0044】
上記の評価結果から明らかなように、外層2及び内層3を構成するスチレン系エラストマー組成物のJIS K 7215によるデュロメータA硬度が80未満とし、中間層4をポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン等)で全体の厚みに対して5%以上30%未満の厚みで構成することで、インクチューブ1が良好な圧縮復元性及び水蒸気バリア性を得ることが判明した。
【0045】
なお、上述した実施形態及び実施例は、本発明の好適な実施形態及び実施例であり、上記実施形態及び実施例のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0046】
例えば、上述した実施形態及び実施例では、廃液用インクチューブを例に説明した。しかし、この用途に限定されることなく、たとえば供給用インクチューブにも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 インクチューブ
2 外層
3 内層
4 中間層
10 インクタンク
20 供給用インクチューブ
30 記録ヘッド
40 キャップ装置
50 チューブポンプ装置
60 廃インクカートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュロメータA硬度が80未満であるスチレン系エラストマー組成物からなる内外層と、
MFRが0.5〜4.5、密度が0.85〜1.0のポリオレフィン系樹脂からなる中間層と、を有することを特徴とするインクチューブ。
【請求項2】
前記中間層の厚みは、インクチューブ全体の厚みに対して5%以上30%未満であることを特徴とする請求項1記載のインクチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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