説明

インナーライナー用ゴム組成物

【課題】環境に配慮したうえで、耐亀裂成長性を維持しながら、空気保持性を向上させたインナーライナー用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムのみからなるゴム成分100重量部に対して、アスペクト比が50以上であり、平均粒子径が40〜100μmであるマイカを10〜50重量部、ならびにシリカを30重量部以上含有するインナーライナー用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーライナー用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の低燃費化に対する強い社会的要請から、タイヤの低発熱化や軽量化が図られており、タイヤ部材のなかでも、タイヤの内部に配され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れの量(空気透過量)を低減して空気保持性を向上するはたらきをもつインナーライナーにおいても、軽量化などが行なわれるようになってきた。
【0003】
現在、インナーライナー用ゴム組成物としては、ブチル系ゴムとジエン系ゴムとを配合し、ブチル系ゴムを高配合することで、タイヤの空気保持性を向上させることがおこなわれている。しかし、ブチル系ゴムは、空気透過量の低減効果は優れるが、得られたゴム組成物のヒステリシスロスが大きく、ブチル系ゴムを高配合とするほど、タイヤの発熱が増大し、車の燃費特性が低下するという問題があった。
【0004】
また、近年、環境問題が重視されるようになり、CO2排出の規制が強化され、さらに、石油資源は有限であり、供給量が年々減少していることから、将来的に石油価格の高騰が予測され、ブチル系ゴムやカーボンブラックなどの石油資源由来の原材料の使用には限界がある。そのため、将来石油が枯渇した場合を想定すると、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、シリカ、炭酸カルシウム、植物油などのような石油外資源をインナーライナー用ゴム組成物にも使用する必要があるが、例えば、天然ゴムの配合比率を増やすと空気透過量が増大するように、従来用いていた石油資源の使用により得られるインナーライナーの空気保持性と同等、またはそれ以上の性能は得られなかった。
【0005】
特許文献1には、層状ケイ酸塩を含有するインナーライナー用ゴム組成物が開示されているが、層状ケイ酸塩の平均粒子径が小さいため、充分に空気保持性を向上させたものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−339288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、環境に配慮したうえで、耐亀裂成長性を維持しながら、空気保持性を向上させたインナーライナー用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムのみからなるゴム成分100重量部に対して、アスペクト比が50以上であり、平均粒子径が40〜100μmであるマイカを10〜50重量部、ならびにシリカを30重量部以上含有するインナーライナー用ゴム組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムのみからなるゴム成分に対して、シリカならびにアスペクト比および平均粒子径の大きいマイカを特定量配合することにより、石油資源を石油外資源に積極的に代替したうえで、耐亀裂成長性を維持しながら、空気保持性を向上させたインナーライナー用ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、ゴム成分、マイカおよびシリカを含有する。
【0011】
ゴム成分としては、天然ゴム(NR)および/またはエポキシ化天然ゴム(ENR)のみからなる。
【0012】
NRとしては、TSR20、RSS♯3などのゴム工業において一般的に使用されているものでよい。また、ENRとしては、市販のENRを用いてもよいし、NRをエポキシ化して用いてもよい。NRをエポキシ化する方法としては、とくに限定されるものではないが、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などの方法を用いて行うことができる。過酸法としてはたとえば、NRに過酢酸や過蟻酸などの有機過酸を反応させる方法などがあげられる。
【0013】
NRおよびENRの合計含有量に対するENRの含有量の比率は、50重量%以上が好ましい。ENRの含有量の比率が50重量%未満では、耐空気透過性が不足する傾向がある。
【0014】
マイカ(雲母)としては、マスコバイト(白雲母)、フロゴバイト(金雲母)およびバイオタイト(黒雲母)から群から選ばれる1種以上であることが好ましい。これらのなかでも、他のマイカより扁平率が大きく空気遮断効果が優れるため、フロゴバイトを用いることが好ましい。
【0015】
マイカの平均粒子径は40μm以上、好ましくは45μm以上である。平均粒子径が40μm未満では、空気保持性の向上効果が充分でない。また、マイカの平均粒子径は100μm以下、好ましくは70μm以下である。平均粒子径が100μmをこえると、マイカが大きく亀裂の起点となり、インナーライナーが屈曲疲労により割れやすい。なお、平均粒子径は、長径の平均値をいう。
【0016】
マイカの表面を被覆する樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂などがあげられる。なかでも、ゴムとの相溶性が比較的高いという点から、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。被覆方法としては、樹脂を溶融させ、その中にマイカを入れて、撹拌したのち、凝固させ、それを粉砕するなどの方法が用いられている。
【0017】
マイカのアスペクト比(扁平率)は50以上、好ましくは55以上である。アスペクト比が50未満では、充分な空気保持性の向上効果が得られない。また、マイカのアスペクト比は100以下が好ましく、70以下がより好ましい。アスペクト比が100をこえると、マイカの強度が低下することで、マイカに割れが生じる傾向がある。ここでアスペクト比とは、マイカにおける厚さに対する長径の比をいう。
【0018】
マイカは、湿式粉砕、乾式粉砕などの粉砕方法によって得ることができる。湿式粉砕はきれいな表面ができ、空気保持性の向上効果がやや高い。また、乾式粉砕は製造工程が簡単でコストが安いというそれぞれの特徴があり、それぞれのケースにより使い分けるとよい。
【0019】
マイカの含有量は、ゴム成分100重量部に対して10重量部以上、好ましくは30重量部以上である。マイカの含有量が10重量部未満では、インナーライナーの充分な空気保持性および耐亀裂成長性が得られない。また、マイカの含有量は、ゴム成分100重量部に対して50重量部以下、好ましくは45重量部以下、より好ましくは40重量部以下である。マイカの含有量が50重量部をこえると、ゴム組成物の引き裂き強度が落ちるなどして、クラックが発生しやすくなる。
【0020】
本発明においてシリカは補強用充填剤として使用される。
【0021】
シリカのBET比表面積は100m2/g以上が好ましく、120m2/g以上がより好ましい。BET比表面積は100m2/g未満では、補強効果が充分ではない傾向がある。また、BET比表面積は300m2/g以下が好ましく、280m2/g以下がより好ましい。BET比表面積は300m2/gをこえると、シリカの分散性が低下し、発熱が大きくなり好ましくない傾向がある。
【0022】
シリカの含有量は、ゴム成分100重量部に対して30重量部以上、好ましくは35重量部以上である。シリカの含有量が30重量部未満では、ゴムの補強性が不足し、耐久面において問題が生じる。また、シリカの含有量は、ゴム成分100重量部に対して45重量部以下が好ましく、40重量部以下がより好ましい。シリカの含有量が45重量部をこえると、加工性が悪化する傾向がある。
【0023】
補強用充填剤としては、シリカのほかに、例えば、カーボンブラック、クレー、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンなどがあげられ、シリカと組み合わせて使用してもよい。
【0024】
補強用充填剤の合計量に対するシリカの含有率は70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましい。補強用充填剤の合計量に対するシリカの含有率が70重量%未満では、ゴムの補強性が不足し、耐久面で問題が生じやすい傾向がある。また、補強用充填剤の合計量に対するシリカの含有率は95重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。補強用充填剤の合計量に対するシリカの含有率が95重量%をこえると、ゴムの補強性を維持することができる傾向がある。
【0025】
補強用充填剤としては、シリカとともにとくにカーボンブラックも使用することが好ましく、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100重量部に対して2〜5重量部が好ましい。含有量が2重量部未満では、耐候性が悪化する傾向がある。また、含有量が5重量部をこえると、石油資源の含有比率が増大するため、環境面において好ましくない傾向がある。
【0026】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、さらに、軟化剤を含有することが好ましい。軟化剤としては、プロセスオイル、植物油脂、またはその混合物があげられる。
【0027】
プロセスオイルとしては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどがあげられる。
【0028】
また、植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、オリーブ油、ひまわり油、バーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、サフラワー油、桐油などがあげられる。
【0029】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、ゴム成分、マイカ、補強用充填剤および軟化剤のほかに、タイヤ工業において一般的に使用されるシランカップリング剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤および加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0030】
本発明のインナーライナー用ゴム組成物は、タイヤの製造に使用され、通常の方法によりタイヤとすることができる。すなわち、必要に応じて前記添加剤を配合した本発明のインナーライナー用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのインナーライナーの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。そしてこの未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを製造する。
【実施例】
【0031】
実施例にもとづいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0032】
本発明の実施例において用いられて各種薬品について詳細に記載する。
NR:RSS♯3
ENR:クンプーランガスリー社(Kumpulan Guthrie Berhad)製のENR25(エポキシ化率25モル%)
カーボンブラック:昭和キャボット(株)製のダイヤブラックI(N220)
シリカ:デグサ製のウルトラジルVN3(BET比表面積:210m2/g)
シランカップリング剤:デグサ製のSi69
マイカ1:(株)レブコ製のマイカ(雲母)S−200HG(アスペクト比55、平均粒子径50μm)
マイカ2:フォラム社製のセリサイトTK−S8(雲母、アスペクト比70、平均粒子径15μm)
マイカ3:フォラム社製のLPK(雲母、アスペクト比55、平均粒子径15μm)
マイカ4:フォラム社製のW1(雲母、アスペクト比30、平均粒子径15μm)
オイル:日清オイリオ製の植物油
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック224(アミン−ケトン系)
ステアリン酸:日本油脂(株)製
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の硫黄
加硫促進剤NS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルファンアミド)
【0033】
実施例1〜2および比較例1〜6
(試験用タイヤの作製)
(株)神戸製鋼所製1.7Lバンバリーを用いて、硫黄および加硫促進剤を除く前記各種薬品を表1に示す配合内容にて150℃で4分間混練りした。得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を加えて、二軸ローラーにて80℃で4分間練り込んだ未加硫ゴム組成物を金型にてシート状に圧延(厚み1.5mm)し、150℃にて30分間加硫することにより、ゴム試験片を作製した。
【0034】
得られたゴム試験片を用いて以下の試験をおこなった。
【0035】
<空気透過性試験>
ASTM D−1434−75M法にしたがって、前記ゴム試験片の空気透過量を測定し、それぞれ逆数をとった。そして、比較例1の空気透過量の逆数を100と基準として、そのほかの空気透過量の逆数について、それぞれ指数表示した(空気保持指数)。空気と保持指数が大きいほど、ゴムシートの空気透過量が小さく、ゴムシートの空気保持性が向上し、好ましいことを示す。
【0036】
<亀裂成長試験>
JIS K6260に基づいてゴム試験片からサンプルを作製し、屈曲亀裂成長試験を行ない、70%伸張を30万回繰り返してゴムシートを屈曲させたのち、発生した亀裂の長さを測定した。そして、測定値の逆数をとり、比較例1の逆数を100として、そのほかの逆数を指数表示した(耐亀裂成長指数)。指数が大きいほど、亀裂の成長が抑制され、好ましいことを示す。
【0037】
以上の試験結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1および2では、マイカ1を10〜50重量部配合することで、比較例1よりも空気保持性が向上した。
【0040】
マイカ1を5重量部しか配合していない比較例2では、空気保持性があまり改善されなかった。
【0041】
マイカ1を60重量部も配合する比較例3では、空気保持性が良好であるが、耐亀裂成長性に劣るものであった。
【0042】
平均粒子径が小さいマイカ2および3を配合する比較例4および5、ならびに平均粒子径およびアスペクト比の小さいマイカ4を配合する比較例6では、いずれも充分な空気保持性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムのみからなるゴム成分100重量部に対して、
アスペクト比が50以上であり、平均粒子径が40〜100μmであるマイカを10〜50重量部、ならびに
シリカを30重量部以上
含有するインナーライナー用ゴム組成物。

【公開番号】特開2007−177006(P2007−177006A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374634(P2005−374634)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】