説明

インパクトハンマー及びインパクトハンマー装置

【課題】 インパクトハンマーを被計測対象に向けて振り下ろす作業を伴うことなく、測定対象物に均一な衝撃力を加え得るようにしたインパクトハンマー及びインパクトハンマー装置を提供する。
【解決手段】 固定子20の周壁は、永久磁石22と、環状空所Arを形成し、かつ永久磁石と共に磁路Cを構成する磁性ヨーク21、23とからなる。可動子は、固定子20に嵌装される非磁性ロッド部31bと、このロッド部に設けられてヨーク部21b及びヨーク23に対向する非磁性鍔部31aとを有し、推力を受けたとき軸動するインパクトロッド31と、非磁性鍔部31aに力センサ33を介し同軸的に設けたインパクトチップ32と、鍔部31aに固定される非磁性コイルボビン35と、このボビンに巻装されて永久磁石から流れる磁束との間にて磁力を上記推力としてボビンの軸方向に発生する駆動コイル36とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトハンマー及びインパクトハンマー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のインパクトハンマーにおいては、例えば、下記特許文献1に開示されたインパクトハンマーがある。このインパクトハンマーを用いて被計測対象の振動解析を行うにあたっては、計測者が、インパクトハンマーを把持して被計測対象に向けて振り下ろすことで被計測対象に打撃力を加えて、当該被計測対象に振動を発生させるようになっている。
【特許文献1】特開平10−054140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記インパクトハンマーを用いて計測する場合、上述のように、計測者が当該インパクトハンマーを把持して振り下ろすことが必須の作業となっているため、この作業が計測者にとって不安定になりがちで、被計測対象に均一な衝撃力を与えることは困難である。
【0004】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、インパクトハンマーを被計測対象に向けて振り下ろす作業を伴うことなく、測定対象物に均一な衝撃力を加え得るようにしたインパクトハンマー及びインパクトハンマー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の解決にあたり、本発明に係るインパクトハンマーは、請求項1の記載によれば、筒状の固定子(20)と、可動子(30)とを備える。
【0006】
固定子の周壁は、
軸方向に着磁してなる環状の永久磁石(22)と、
この環状の永久磁石の軸方向一側端部(N)から軸方向他側端部(S)にかけて永久磁石の内周側にてその周方向に沿い環状空所(Ar)を形成するように断面湾曲状にて延在する磁性ヨーク部材であって永久磁石と共にその着磁方向に沿う磁路(C)を構成する磁性ヨーク部材(21、23)とからなる。
【0007】
また、可動子は
固定子の中空部内に同軸的にかつ軸動可能に嵌装される柱状の非磁性ロッド部(31b)と、このロッド部の前端部に同軸的に設けられて固定子の周壁のうち前壁部(21b、23)に対向する非磁性鍔部(31a)とを有し、推力を受けたとき軸動するインパクトロッド(31)と、
このインパクトロッドの上記非磁性鍔部に同軸的に設けたインパクトチップ(32)と、
固定子の上記前壁部に同軸的に形成された環状空隙(G)を通り上記環状空所内に同軸的にかつ変位可能に挿入される非磁性コイルボビンであってその前端部(35b)にてインパクトロッドの上記鍔部に固定される筒状の非磁性ボビン(35)と、
このボビンに巻装される駆動コイルであってその流入電流に応じて上記磁路を通り永久磁石から流れる磁束に基づきボビンの軸方向に上記推力として磁力を発生する駆動コイル(36)とを有しており、
可動子のうちインパクトロッド以外の構成部材の質量は、インパクトロッドの質量に比べて無視し得る程度に小さい。
【0008】
このように構成した請求項1に記載の発明によれば、インパクトハンマーをそのインパクトチップにて被計測対象に向けて保持した状態において、駆動コイルがその流入電流に応じて上記磁路を通り永久磁石から流れる磁束との間にてフレミングの左手の法則に従う磁力をボビンの軸方向に上記推力として発生すると、インパクトロッドが、ボビンを介し上記推力を受けて被計測対象に向けて軸動する。
【0009】
この軸動に伴い、インパクトチップが被計測対象に衝突することで当該被計測対象に衝撃を加えてこの被計測対象に振動を発生させる。従って、インパクトハンマーを上述のように被計測対象に向けて振り下ろすことなく保持すればよいので、被計測対象に対する衝撃力がばらつくことなく均一に維持され得る。その結果、被計測対象に生ずる振動もばらつくことなく均一になるので、被計測対象の振動解析が精度よく行える。
【0010】
また、インパクトハンマーを上述のように被計測対象に向けて振り下ろすことなく保持だけでよいので、被計測対象の凹状の狭い部位でも容易に、インパクトチップを衝突させ得る。
【0011】
また、可動子のうち前記インパクトロッド以外の構成部材の質量は、前記インパクトロッドの質量に比べて無視し得る程度に小さいので、インパクトハンマーに固有の共振周波数が単一になる。その結果、上述の作用効果がより一層向上する。
【0012】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載のインパクトハンマーにおいて、可動子のうちインパクトロッド以外の構成部材の質量は、インパクトロッドの質量の10(%)以下であることを特徴とする。
【0013】
これにより、請求項1に記載の発明の作用効果がより一層具体的に達成され得る。
【0014】
また、本発明に係るインパクトハンマー装置は、請求項3の記載によれば、
請求項1或いは2に記載のインパクトハンマー(H)と、
このインパクトハンマーのインパクトロッドに対する上記推力を制御するように所定の電圧パターンにて駆動電圧を発生する駆動電圧発生手段(251、261、291、114)と、
この駆動電圧発生手段からの駆動電圧に比例する電流を上記流入電流として駆動コイルに供給する電流供給手段(130)とを備える。
【0015】
このように、インパクトハンマーのインパクトロッドに対する上記推力を制御するように所定の電圧パターンにて駆動電圧を発生し、この駆動電圧に比例する電流を上記流入電流として駆動コイルに供給する。
【0016】
このため、駆動コイルがその流入電流に応じて上記磁路を通り永久磁石から流れる磁束との間にてフレミングの左手の法則に従う磁力をボビンの軸方向に上記推力として発生する。
【0017】
従って、請求項1に記載の発明の作用効果を達成し得るインパクトハンマー装置の提供が可能となる。
【0018】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項3に記載のインパクトハンマー装置において、
駆動コイルに流れる電流を検出し検出端子電圧として発生する検出抵抗(140)と、
駆動電圧発生手段からの駆動電圧と検出抵抗の検出端子電圧との差を差電圧として算出する差電圧算出手段(120)とを備えて、
電流供給手段は、駆動電圧発生手段からの駆動電圧に代えて、差電圧算出手段からの差電圧に比例する電流を上記流入電流として駆動コイルに供給することを特徴とする。
【0019】
これにより、検出抵抗の検出端子電圧がフィードバック電圧としての役割を果たすので、上記差電圧に比例する電流がより一層精度よく上記流入電流として駆動コイルに供給される。その結果、請求項3に記載の発明の作用効果がより一層向上され得る。
【0020】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項3或いは4に記載のインパクトハンマー装置において、
駆動電圧発生手段は、上記所定の電圧パターンを、加速電圧及びこの加速電圧に後続しかつ当該加速電圧よりも低い定速電圧でもって構成し、上記駆動電圧を上記所定の電圧パターンに基づき上記加速電圧及び定速電圧として発生するようになっており、
電流供給手段は、駆動電圧発生手段からの加速電圧及び定速電圧に比例する各電流を順次上記流入電流として駆動コイルに供給するようにしたことを特徴とする。
【0021】
これにより、インパクトロッドが、駆動コイルに上記加速電圧に比例する電流に応じて高速にて軸動し、その後に駆動コイルに上記定速電圧に比例する電流に応じて定速にて軸動する。従って、インパクトロッドを速やかに被計測対象に軸動させ得る。その結果、請求項3或いは4に記載の発明の作用効果がより一層向上され得る。
【0022】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項5に記載のインパクトハンマー装置において、
非磁性ボビンに巻装される検出コイルであって可動子のインパクトチップによる被計測対象との衝突に伴う急激な速度変化に応じて誘起する電圧を検出電圧として発生する検出コイル(37)と、
この検出コイルの検出電圧を微分して微分出力を発生する微分手段(150)とを備えており、
駆動電圧発生手段は、可動子を引き戻すための引き戻し電圧を上記定速電圧に後続するように含めて上記所定の電圧パターンを構成して、微分手段からの微分出力に基づき上記引き戻し電圧を発生するようになっており、
電流供給手段は、駆動電圧発生手段からの上記引き戻し電圧に基づきこの引き戻し電圧に比例する電流を引き戻し電流として駆動コイルに供給するようにしたことを特徴とする。
【0023】
これにより、検出コイルが可動子のインパクトチップによる被計測対象との衝突に伴う急激な速度変化に応じて誘起する電圧を検出電圧として発生すると、微分手段が当該検出電圧を微分して微分出力を発生し、駆動電圧発生手段は、微分手段からの微分出力に基づき引き戻し電圧を発生し、駆動コイルが上記引き戻し電流に基づきインパクトロッドを引き戻す方向に推力を発生するので、インパクトチップが被計測対象に衝突したとき瞬時にインパクトロッドが固定子内に引き戻される。
【0024】
従って、被計測対象がインパクトチップとの衝突で振動しても、当該被計測対象からインパクトチップに再衝突することがない。その結果、請求項5に記載の発明の作用効果がより一層精度よく達成され得る。
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項5或いは6に記載のインパクトハンマー装置において、
インパクトハンマーの水平方向に対する傾斜角(Θ)を検出する傾斜角検出手段(100)と、
可動子の質量が見かけ上増大する向きにインパクトハンマーが傾斜しているとき、(1−上記検出傾斜角)を第1補正係数として決定し、可動子の質量が見かけ上減少する向きにインパクトハンマーが傾斜しているとき、(1+上記検出傾斜角)を第2補正係数として決定する補正係数決定手段(210、220、221、230、231)とを備えて、
駆動電圧発生手段は、可動子の質量が見かけ上増大する向きにインパクトハンマーが傾斜しているとき上記第1補正係数を上記加速電圧及び定速電圧に乗じて当該加速電圧及び定速電圧を低下させるように補正して発生し、また、可動子の質量が見かけ上減少する向きにインパクトハンマーが傾斜しているとき上記第2補正係数を上記加速電圧及び定速電圧に乗じて当該加速電圧及び定速電圧を上昇させるように補正して発生するようになっており、
電流供給手段は、駆動電圧発生手段で補正した加速電圧及び定速電圧にそれぞれ比例する各電流を順次上記流入電流として駆動コイルに供給するようになっていることを特徴とする。
【0025】
これにより、インパクトハンマーが水平方向に対し傾斜していても、上述のように第1或いは第2の補正係数でもって記加速電圧及び定速電圧を順次補正することとなる。従って、インパクトハンマーが水平方向に対し傾斜していても、当該インパクトハンマーが水平方向に向いているときと同様の推力がインパクトハンマーに与えられる。その結果、インパクトハンマーの傾斜角がどのような角度であっても、常に、インパクトハンマーが水平方向に向いているときと同様の衝撃力が被計測対象に加えられるので、常に、安定した振動解析を可能とするように、請求項5或いは6に記載の発明の作用効果を達成し得る。
【0026】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を図面により説明する。図1は、本発明に係るインパクトハンマー装置の実施形態を示しており、このインパクトハンマー装置は、電磁式インパクトハンマーH及び制御装置Uでもって構成されている。
【0028】
インパクトハンマーHは、図1或いは図2にて示すごとく、ハウジング10と、固定子20と、可動子30とを備えている。なお、インパクトハンマーHは、人のこぶし程度の大きさを有する。
【0029】
ハウジング10は、図2にて示すごとく、円筒状周壁11の前後両軸方向端部に環板状前壁12及び円板状底壁13を組み付けることにより構成されている。前壁12は、その円形状中空部を、周壁11と同軸的な開口部12aとして有する。
【0030】
固定子20は、図2にて示すごとく、ヨーク21、永久磁石22及びヨーク23でもって円筒状に構成されており、これらヨーク21、永久磁石22及びヨーク23は、ハウジング10内に組み付けられている。
【0031】
ヨーク21は、図2にて示すごとく、環板状ヨーク部21a及び略円筒状ヨーク部21bでもって、磁性材料により、断面略T字状にて一体的に形成されている。ヨーク部21aは、その外周部にて、ハウジング10の周壁11内に圧入により同軸的に嵌装されて、周壁11の環状段部11aに当接している。なお、環状段部11aは、図1にて示すごとく、周壁11の内周面のうち軸方向中間部位に環状に形成されている。
【0032】
ヨーク部21bは、図2にて示すごとく、環板状ヨーク部21aの内周縁部から前壁12の開口部12a側へ向け円筒状にかつ同軸的に延出しており、このヨーク部21bの内周面には、窒化硬化処理が施されている。
【0033】
また、このヨーク部21bは、その環状延出端部側にて、ハウジング10の径方向に沿うように外方に向け湾曲し、環状延出端面21cにて、ハウジング10の軸に同軸的に位置している。なお、本実施形態において、ヨーク21を形成する磁性材料としては、住友金属株式会社製SSM250型電磁軟鉄が採用されている。
【0034】
永久磁石22は、永久磁石材料(例えば、相模化学金属株式会社製NF41H型ネオジウム)でもって、図2にて示すごとく、環状に形成されており、この永久磁石22は、その外周面にて、ハウジング10の周壁11内に圧入により同軸的に嵌装されて、ヨーク21のヨーク部21aの外周部に当接している。本実施形態では、永久磁石22は、その軸方向後端部(底壁13側の端部)及び軸方向前端部にて、それぞれ、N極及びS極を構成している。
【0035】
ヨーク23は、ヨーク21と同様の磁性材料でもって、図2にて示すごとく環状に形成されており、このヨーク23は、ハウジング10の周壁11内に圧入により同軸的に嵌装されて、永久磁石22の軸方向前端部に当接している。このため、ヨーク23は、図2にて示すごとく、永久磁石22を介しヨーク部21aの外周部に対向しており、当該ヨーク部23の環状内周面23aは、ヨーク部21bの環状延出端面21cに環状の空隙Gを介し対向している(図2参照)。
【0036】
これにより、磁路Cが、ヨーク21、永久磁石22及びヨーク23でもって形成される(図2参照)。ここで、ヨーク21、永久磁石22及びヨーク23がそれぞれ上述のように構成されているため、磁路Cは、ヨーク21、永久磁石22及びヨーク23の各断面に沿い環状に構成され、また、ヨーク21、永久磁石22及びヨーク23の周方向に沿い管状に構成される。
【0037】
また、上述のようにヨーク21、永久磁石22及びヨーク23を構成することで、環状空所Arが、図1にて示すごとく、環状空隙Gと連通するように、ヨーク21、永久磁石22及びヨーク23の間にて形成される。
【0038】
可動子30は、図2にて示すごとく、その主たる構成部材として、インパクトロッド31を備えており、このインパクトロッド31は、鍔部31a及び円柱状ロッド部31bでもって、高質量の非磁性材料により、T字状にて一体的に形成されている。本実施形態では、当該高質量の非磁性材料としては、密度18.5(g/cm3)を有するタングステン合金が採用されている。
【0039】
ロッド部31bは、鍔部31aの中央部から同軸的に延出してなるもので、このロッド部31bは、ヨーク21のヨーク部21b内に同軸的に軸動可能に嵌装されて、ハウジング10の底壁13側へ延出している。
【0040】
これにより、鍔部31aは、ハウジング10の前壁12の開口部12a内にて同軸的に位置し得るようになっている。なお、上述のように、ヨーク部21bの内周面には、窒化硬化処理が施されているので、ロッド部31bのヨーク部21bに対する軸動は、円滑になされ得る。
【0041】
また、可動子30は、図2にて示すごとく、インパクトチップ32、力センサ33及びストッパー34を備えている。
【0042】
インパクトチップ32は、非磁性材料でもって、図2にて示すごとく、半球状に形成されており、このインパクトチップ32は、その底壁32aにて、力センサ33の前側壁に対しインパクトロッド31と同軸的なるように着脱可能に支持されている。本実施形態では、インパクトチップ32を形成する非磁性材料として、合成樹脂、チタン、ナイロン或いはアルミニウム等の種々の材料が採用される。なお、インパクトチップ32の形成材料は、被計測対象の硬さや柔らかさの程度に合わせて選定される。
【0043】
力センサ33は、その後側壁にて、インパクトロッド31の鍔部31aにその表面側から同軸的に支持されている。ここで、当該力センサ33の鍔部31aに対する支持は、力センサ33をインパクトロッド31から磁気的に遮断するようになされている。
【0044】
本実施形態においては、力センサ33として、例えば、日本キスラー株式会社製9101A型の水晶圧電式力センサが採用されている。なお、力センサ33は、リード33aを介し周波数解析器(図示しない)に接続されるようになっている。また、当該周波数解析器は、力センサ33の検出出力に基づき被計測対象の振動解析を行う。
【0045】
ストッパー34は、図2にて示すごとく、インパクトロッド31のロッド部31bの外径よりも大きな外径を有するもので、このストッパー34は、ロッド部31bにその後端面側からネジ34aの締着により同軸的に支持されている。このストッパー34は、その外周縁部34bにて、ヨーク部21aの内周縁部に係止することで、インパクトロッド31のハウジング10に対する抜け止め部材としての役割を果たす。なお、本実施形態では、ストッパー34は、インパクトロッド31の質量に比べ無視し得る程小さな質量を有する材料でもって形成されている。
【0046】
また、可動子30は、図2にて示すごとく、コイルボビン35、駆動コイル36及び検出コイル37を備えている。コイルボビン35は、円筒部35a及び前後両側環状鍔部35b、35cでもって、低質量の非磁性材料により、断面エ字状となるように一体的に形成されている。なお、コイルボビン35を形成する低質量の非磁性材料としては、本実施形態では、密度1.75(g/cm3)を有するマグネシウム合金が採用されている。
【0047】
コイルボビン35は、その前側鍔部35bにて、ハウジング10の前壁12の開口部12a内にて、インパクトロッド31の鍔部31aにその外方から同軸的に嵌装されている。ここで、前側鍔部35bは、その内周面にて、鍔部31aの外周面に強固に固着することで、鍔部31aに嵌装されている。なお、鍔部35bの外周面は、環状の狭隙を介し前壁12の開口部12aの内周面に対向している。
【0048】
円筒部35aは、前側鍔部35bの内周縁部からヨーク23と同軸的に環状空隙Gを通り環状空所Ar内に延出しており、この円筒部35aの延出端部には、後側鍔部35cが同軸的に形成されている。
【0049】
駆動コイル36は、検出コイル37を介しコイルボビン35の円筒部35aにソレノイド状に巻装されている。これにより、直流電流が当該駆動コイル36に流れたとき、当該直流電流は、磁路Cとの間で、フレミングの左手の法則に従う磁力を円筒部35aの軸方向に発生させる。
【0050】
ここで、当該磁力は、コイルボビン35を軸方向に変位させる方向に発生する。従って、駆動コイル36は、上記磁力の発生方向を確保するように、円筒部35aに巻装されている。なお、駆動コイル36は、直径0.35(mm)の銅クラッドアルミ線でもって形成されている。
【0051】
また、コイルボビン35は、上述のごとく、可動子30の主たる構成部材であるインパクトロッド31と一体に構成されているから、インパクトロッド31はコイルボビン35を介し上記磁力を推力として受けて軸動する。このことは、可動子30は、上記推力を受けて軸動することを意味する。
【0052】
検出コイル37は、駆動コイル36の内周面側にて、コイルボビン35の円筒部35aにソレノイド状に巻装されている。これにより、検出コイル37がその軸方向に沿い永久磁石22に対し急激な速度変化を生じたとき、当該検出コイル37は、上記急激な速度変化に比例する電圧をフレミングの右手の法則に従い誘起してこの誘起電圧を検出電圧として発生する。
【0053】
なお、検出コイル37は、直径0.1(mm)の銅線でもって形成されている。また、図1或いは図2において、符号36aは、駆動コイル36のリード線を示し、符号37aは、検出コイル37のリード線を示す。
【0054】
本実施形態では、以上のように構成したインパクトハンマーHにおいて、インパクトロッド31の質量(以下、質量Miという)と、コイルボビン35、駆動コイル36及び検出コイル37の総質量(以下、総質量Mtという)との質量比は、Mi:Mt=9:1となるように設定されている。以下にその根拠について説明する。
【0055】
本実施形態では、インパクトハンマーHは、従来のインパクトハンマーと同等以上の性能を備えることを前提としている。この観点からすると、従来のインパクトハンマーは極めて単純な構造を有することから、当該従来のインパクトハンマーの共振周波数は、単一の共振周波数となっている。従って、インパクトハンマーHの可動子30の共振周波数は、単一の共振周波数であることが望ましい。
【0056】
一方、本実施形態においては、可動子30は、上述のような構成を有するため、インパクトロッド31、コイルボビン35及び駆動コイル36が、それぞれ、固有の共振周波数を有する。従って、可動子30の共振周波数は、上述した各固有の共振周波数を合成した複雑な周波数特性を有することとなり、単一の共振周波数とはなりにくい。
【0057】
そこで、本実施形態では、上述のごとく、インパクトロッド31の質量Miと、コイルボビン35、駆動コイル36及び検出コイル37の総質量Mtとの質量比を、Mi:Mt=9:1となるように設定した。
【0058】
この設定にあたり、上述のように、インパクトロッド31の形成材料として、高質量の非磁性材料、例えば、密度18.5(g/cm3)を有するタングステン合金を採用した。また、上記設定にあたり、コイルボビン35の形成材料として、低質量の非磁性材料、例えば、密度1.75(g/cm3)を有するマグネシウム合金を採用し、駆動コイル36として、直径0.4(mm)の銅クラッドアルミ線を採用し、検出コイル37として、直径0.1(mm)の銅線を採用した。
【0059】
なお、インパクトチップ32、力センサ33及びストッパー34の各質量は、上記質量比に影響を及ぼさない程度となっている。
【0060】
これにより、可動子30のうちインパクトロッド31以外の部材による可動子30の共振周波数への影響を削減でき、その結果、可動子30の共振周波数を、単一共振周波数に設定し得る。
【0061】
次に、制御装置Uの構成について、図1或いは図2に基づき説明する。当該制御装置Uは、図1或いは図2にて示すごとく、常開型操作スイッチSWを備えており、この操作スイッチSWは、当該制御装置Uを作動させるとき、オン操作される。
【0062】
また、制御装置Uは、傾斜角センサ100を備えており、この傾斜角センサ100は、図1にて示すごとく、ハウジング10の外壁の一部に設けられている。これにより、傾斜角センサ100は、水平方向Sに対するインパクトハンマーHの軸(換言すれば、ハウジング10の軸)の傾斜角(以下、傾斜角Θともいう)を検出する(図4或いは図5参照)。
【0063】
本実施形態では、インパクトハンマーHの軸が水平方向Sよりも下方に傾斜したときに傾斜角Θは正の傾斜角をとる。また、インパクトハンマーHの軸が水平方向Sよりも上方に傾斜したときに傾斜角Θは負の傾斜角をとる。
【0064】
ここで、可動子30の質量が傾斜角Θの変化に伴い見かけ上どのように変化するかについて説明する。なお、可動子30の質量をMとすれば、この質量Mは、上述したインパクトロッド31の質量Miと、コイルボビン35、駆動コイル36及び検出コイル37の総質量Mtとの和で特定される。
【0065】
傾斜角Θが0°の場合には、可動子30の重力の水平方向Sに沿う成分はない。このため、可動子30の推力は当該可動子30の重力の影響を受けることはない。このことは、可動子30の質量は当該可動子30の重力の影響を受けないことを意味する。
【0066】
しかし、傾斜角Θが0°でない場合には、可動子30の重力の当該可動子30の軸方向成分が発生する。このため、可動子30の質量Mは、上述の可動子30の重力の軸方向成分の影響を受けて、可動子30の推力に影響を与える。
【0067】
例えば、傾斜角Θが、負の傾斜角をとれば、可動子30の質量Mは、当該可動子30の重力の影響を受けて、見かけ上、(1+sinΘ)Mに増大する。一方、傾斜角Θが、正の傾斜角をとれば、可動子30の質量Mは、当該可動子30の重力の影響を受けて、見かけ上、(1−sinΘ)Mに減少する。
【0068】
そこで、可動子30の推力及びこの推力のときの加速度を、それぞれ、F及びαとすれば、推力Fは、F=Mαで表されることから、傾斜角Θが、0°、負或いは正の傾斜角をとる場合には、次の式(1)、(2)及び(3)が成立する。
【0069】
F0=Mα ・・・(1)
Fd=M(1+sinΘ)・αd ・・・(2)
Fu=M(1−sinΘ)・αu ・・・(3)
ここで、F0及びαは、それぞれ、傾斜角Θ=0°のときの可動子30の推力及び加速度を表し、Fd及びαdは、それぞれ、傾斜角Θ<0°のときの可動子30の推力及び加速度を表し、Fu及びαuは、それぞれ、傾斜角Θ<0°のときの可動子30の推力及び加速度を表す。
【0070】
さらに、フレミングの左手の法則によれば、駆動コイル36に作用する磁力、即ち可動子30の推力は、駆動コイル36に流れる直流電流に比例する。なお、可動子30の推力は、駆動コイル36に流れる直流電流に比例する電圧と比例関係にある。
【0071】
従って、傾斜角Θが、0°、負或いは正の傾斜角をとる場合には、次の式(4)、(5)及び(6)が成立する。
【0072】
F0=K・I ・・・(4)
Fd=K・Id・・・(5)
Fu=K・Iu・・・(6)
これら式(4)〜(6)において、Kは、正の定数を表し、I、Id及びIuは、それぞれ、傾斜角Θ=0°、Θ<0°及びΘ>0°のときに駆動コイル36に流れる電流を表す。
【0073】
このような前提のもと、傾斜角Θが、−90°<Θ<90°の範囲で、どのような傾斜角をとっても、可動子30の推力が、傾斜角Θ=0°のときの可動子30の推力に等しくなるようにするためには、駆動コイル36に流れる直流電流が、上述した可動子30の質量の増減に応じて補正される必要がある。
【0074】
即ち、傾斜角Θが負の傾斜角をとる場合には、式(2)から分かる通り可動子30の質量が、見かけ上、M(1+sinΘ)に増大する。従って、式(2)における加速度αd、つまり、式(5)における直流電流Idを、傾斜角Θ=0°のときの直流電流Iに等しくするには、次の式(7)が成立するように直流電流Idを減少補正する必要がある。
【0075】
Id=I(1−sinΘ)・・・(7)
このことは、上述した質量の見かけ上の増大に伴う補正係数(以下、補正係数Adという)は、次の式(8)で与えられることを意味する。
【0076】
Ad=1−sinΘ・・・(8)
また、傾斜角Θが正の傾斜角をとる場合には、式(3)から分かる通り可動子30の質量が、見かけ上、M(1−sinΘ)に減少する。従って、式(3)における加速度αu、つまり、式(6)における直流電流Iuを、傾斜角Θ=0°のときの直流電流I(以下、標準電流Iともいう)に等しくするには、次の式(8)が成立するように直流電流Iuを増大補正する必要がある。
【0077】
Iu=I(1+sinΘ)・・・(9)
このことは、上述した質量の見かけ上の減少に伴う補正係数(以下、補正係数Auは、次の式(10)で与えられることを意味する。
【0078】
Au=1+sinΘ・・・(10)
なお、以上のことから、電流補正後の推力をFda、Fuaで表せば、次の式(9)、(10)が得られることが分かる。
【0079】
Fda=M(1+sinΘ)・K・I(1−sinΘ)=F・・・(9)
Fua=M(1−sinΘ)・K・I(1+sinΘ)=F・・・(10)
次に、制御装置Uの構成について説明する。この制御装置Uは、図3にて示すごとく、制御回路110を備えており、当該制御回路110は、直流電源111と、タイマー112と、マイクロコンピュータ113と、電圧変換回路114とを備えている。
【0080】
直流電源111は、その正側端子にて、操作スイッチSWを介しマイクロコンピュータ113に接続されており、この直流電源111は、操作スイッチSWのオン操作に伴い、マイクロコンピュータ113に給電する。タイマー112は、そのリセット始動に伴い計時を開始する。
【0081】
マイクロコンピュータ113は、図6及び図7にて示すフローチャートに従い制御プログラムを実行し、この実行中において、傾斜角センサ100の検出出力、タイマー112の計時出力或いは微分回路150からの微分出力(後述する)に基づき、電圧変換回路114(後述する)の駆動制御に必要な処理をする。
【0082】
本実施形態では、マイクロコンピュータ113は、操作スイッチSWのオン操作に伴い直流電源111から給電されて作動状態となり、上記制御プログラムの実行を開始する。なお、上記制御プログラムは、マイクロコンピュータ113のROMに当該マイクロコンピュータ113により読み出し可能に予め記憶されている。
【0083】
また、本実施形態では、インパクトハンマーHの軸を水平方向Sに沿いおいた場合に当該インパクトハンマーHを駆動するために必要とされる標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)が導入されている。
【0084】
当該標準駆動電圧パターンは、駆動電圧Vpと時間tとの関係において、図8(a)にて示すごとく形成されており、この標準駆動電圧パターンは、標準保持電圧(図8(a)にて符号A参照)、標準加速電圧(図8(a)にて符号B参照)、標準定速電圧(図8(a)にて符号C参照)、零電圧、標準引き戻し電圧(図8(a)にて符号E参照)及び標準保持電圧(図8(a)にて符号F参照)と時間tとの関係でもって構成されている。
【0085】
ここで、標準保持電圧Aは、可動子30をハウジング10内に保持するための所定の負電圧−Vphでもって特定されている。標準加速電圧Bは、可動子30を初期的に加速駆動するための所定の正電圧Vpacでもって特定されている。標準定速電圧Cは、標準加速電圧Bによる加速駆動後に可動子30を定速にて被計測対象に向けて駆動するための所定の正電圧Vpcでもって特定されている。零電圧Dは、標準定速電圧Cによる定速駆動に伴う可動子30の被計測対象との衝突直後に形成される電圧である。
【0086】
標準引き戻し電圧Eは、被計測対象に対する可動子30の衝突に伴いこの可動子30をハウジング10内に引き戻すために必要とされる所定の負電圧−Vrでもって特定されている。ここで、標準引き戻し電圧Eを、零電圧Dとともに、標準定速電圧Cに後続させて形成する根拠について説明する。
【0087】
被計測対象は、通常、弾性を有する。このため、可動子30が被計測対象に衝突したとき、可動子30は、被計測対象にその弾性振動に起因して再衝突(いわゆる、2度打ち現象)する。この再衝突は、可動子30から被計測対象への衝突ではなく、被計測対象から可動子30への衝突であるため、当該被計測対象の弾性で決まるものであって、可動子30による被計測対象への最初の衝突とは異なる衝突特性を有する。従って、このような再衝突が発生すると、被計測対象の振動特性を適正に解析することができない。
【0088】
そこで、上述のような再衝突を防止するために、標準引き戻し電圧Eを標準駆動電圧パターンに採用した。なお、当該標準駆動電圧パターンは、マイクロコンピュータ113のROMに予め記憶されている。
【0089】
電圧変換回路114は、マイクロコンピュータ113からの出力をアナログ変換する。
【0090】
また、制御装置Uは、図2にて示すごとく、減算器120、電流増幅器130、検出抵抗140及び微分回路150を備えている。
【0091】
減算器120は、電圧変換回路114からのアナログ駆動電圧と検出抵抗140からの検出端子電圧との差を算出し、この差電圧を電流増幅器130に出力する。
【0092】
検出抵抗140は、その一端にて、駆動コイル36を介し電流増幅器130の出力端子に接続されており、この検出抵抗140の他端は接地されている。これにより、検出抵抗140は、駆動コイル36から流入する直流電流を検出し、この直流電流に比例する検出端子電圧を発生する。
【0093】
電流増幅器130は、減算器120からの差電圧に比例する電流を増幅する。このことは、当該増幅電流が、駆動コイル36に上記直流電流として流れることを意味する。
【0094】
微分回路150は、検出コイル37からの検出電圧を微分し、この微分電圧をマイクロコンピュータ113に出力する。
【0095】
本実施形態では、図3にて示す回路構成のうち駆動コイル36、検出コイル37、傾斜角センサ100及び操作スイッチSWを除く各構成素子が、ケーシングUa(図1参照)内の回路基板(図示しない)上に配設されている。
【0096】
従って、駆動コイル36のリード線36a、検出コイル37のリード線37a及び傾斜角センサ100のリード線100aは、ケーシングUaを介し当該ケーシング内に導入されている。また、操作スイッチSWは、ケーシングUaを介し導出されるリード線SWaの導出端部に接続されている(図1参照)。
【0097】
以上のように構成した本実施形態において、当該インパクトハンマー装置を用いて被計測対象、例えば自動車の振動計測を行う場合について説明する。
【0098】
この説明にあたり、当該自動車は、その車体の被計測部位として、例えば、垂直状壁部W1(図2参照)、傾斜状壁部W2(図4参照)及び傾斜状壁部W3(図5参照)を備えているものとする。
【0099】
ここで、垂直状壁部W2は、図2にて示すごとく、図示上下方向(水平方向Sに対し直交する方向)に形成されている。傾斜状壁部W2は、図4にて示すごとく、図示右側上方に向け傾斜して形成されており、傾斜状壁部W3は、図5にて示すごとく、図示左側上方に向け傾斜して形成されている。また、各壁部W1、W2、W3は、それぞれ、その周囲の壁部により筒状に囲われて、インパクトハンマーHを挿入し得る程度の狭い空間領域の底壁部となっているものとする。
【0100】
従って、当該インパクトハンマー装置でもって、垂直状壁部W1、傾斜状壁部W2或いはW3を起点とする自動車の振動の計測を行う場合には、計測者は、片手でインパクトハンマーHを把持しながら、図2、図4或いは図5にて示すごとく、インパクトチップ32を垂直状壁部W1、傾斜状壁部W2或いはW3に対向させる。
【0101】
このとき、垂直状壁部W1、傾斜状壁部W2或いはW3は、上述したごとく、インパクトハンマーHを挿入し得る程度の狭い空間領域の底壁部となっているが、インパクトハンマーHは、こぶし程の大きさであって、垂直状壁部W1、傾斜状壁部W2或いはW3に対向させたまま振ることなくそのまま保持するだけでよいので、被計測対象の計測部位の形状によって、計測の制限を受けることが殆どない。
【0102】
また、上述のようにインパクトチップ32を垂直状壁部W1、傾斜状壁部W2或いはW3に対向させたとき、インパクトハンマーHの軸が垂直状壁部W1、傾斜状壁部W2或いはW3の壁面に直交するように、インパクトハンマーHを把持する。このため、当該インパクトハンマーHの軸は、図2、図4或いは図5にて示すごとく、水平方向Sに沿い、この水平方向Sに対し下方或いは上方へΘ1(−90°<Θ<0°)或いはΘ2(0°<Θ<90°)だけ傾斜して位置する。従って、傾斜角センサ100は、傾斜角をΘ=0°、Θ=Θ1或いはΘ=Θ2として検出する。
【0103】
このような前提のもとに、操作スイッチSWがオン操作されると、マイクロコンピュータ113は、図6及び図7のフローチャートに従い上記制御プログラムの実行を開始する。
【0104】
すると、図6のステップ200において、初期化処理がなされる。この初期化処理では、マイクロコンピュータ113の内部が初期化される。ついで、ステップ201において、タイマー112の計時開始処理がなされる。これに伴い、当該タイマー112は、リセット始動されて、計時を開始する。
【0105】
然る後、ステップ202において、検出傾斜角の入力処理がなされる。この入力処理では、上述のように傾斜角センサ100により検出される傾斜角Θがマイクロコンピュータ113に入力される。
【0106】
しかして、ステップ210において、ステップ202における入力検出傾斜角はΘ=0°か否かが判定される。現段階において、インパクトハンマーHの軸が水平方向Sにあれば、ステップ202における入力検出傾斜角Θ=0°に基づき、ステップ210における判定はYESとなる。
【0107】
また、ステップ202における入力検出傾斜角Θが0°でなければ、ステップ210においてNOと判定される。これに伴い、次のステップ220において、ステップ202における入力検出傾斜角Θは、−90°<Θ<0°を満たすか否かについて判定される。
【0108】
現段階において、インパクトハンマーHの軸が水平方向Sに対し図4にて示すごとく下方に傾斜している場合には、ステップ202における入射検出傾斜角はΘ=Θ1は、−90°<Θ<0°であることから、ステップ220における判定はYESとなる。
【0109】
この判定に伴い、ステップ221において、見かけ上の質量増大に基づく補正係数決定処理が次のようになされる。即ち、ステップ202における入射検出傾斜角Θが負の傾斜角Θ1(図4参照)である場合には、補正係数Adは、式(8)に基づき、Ad=1−sinΘ=1−sinΘ1と決定される。
【0110】
ついで、ステップ222において、ステップ221にて決定した補正係数Ad=1−sinΘ1がマイクロコンピュータ113のRAMに一時的に記憶される。
【0111】
上述のようにステップ210にてNOと判定された後のステップ220における判定がNOとなる場合には、ステップ230において、ステップ202における入力検出傾斜角Θが、0°<Θ<90°を満たすか否かが判定される。
【0112】
ここで、インパクトハンマーHの軸が水平方向Sに対し図5にて示すごとく上方に傾斜していれば、ステップ202における入射検出傾斜角に基づきYESと判定される。
【0113】
これに伴い、ステップ231において、見かけ上の質量減少に基づく補正係数決定処理が次のようになされる。即ち、ステップ202における入射検出傾斜角Θが正の傾斜角Θ2(図5参照)である場合には、補正係数Auは、式(10)に基づき、Au=1+sinΘ=1+sinΘ2と決定される。
【0114】
ついで、ステップ232において、ステップ221にて決定した補正係数Au=1+sinΘ2がマイクロコンピュータ113のRAMに一時的に記憶される。
1.ステップ210においてYESと判定された場合
上述のごとく、ステップ210においてYESと判定された場合には、ステップ240において、保持電圧の設定出力処理がなされる。
【0115】
この設定出力処理では、マイクロコンピュータ113のROMに記憶済みの標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)に基づき標準保持電圧Aが保持電圧として設定され電圧変換回路114に出力される。これに伴い、当該保持電圧は、電圧変換回路114によりアナログ変換されて減算器120に出力される。
【0116】
ついで、電圧変換回路114からのアナログ保持電圧(標準保持電圧A=−Vphに対応)と検出抵抗140の検出端子電圧との差が、減算器120により、差電圧として算出されて電流増幅器130に出力される。
【0117】
すると、電流増幅器130は、減算器120からの差電圧に比例する電流を増幅し、増幅電流を保持電流(標準保持電圧A=−Vphに対応)として発生し駆動コイル36に流入させる。これに伴い、駆動コイル36は、その流入保持電流に基づき磁束を発生する。この磁束は、磁路Cを通る磁束との関係でコイルボビン35を環状空所Ar内に保持する方向に発生する。
【0118】
このため、可動子30は、ハウジング10内に、図2にて示すごとく、保持される。その結果、仮にハウジング10の開口部12aの向きがどのような向きになっても、可動子30からハウジング10から脱出する方向に動くことはない。
【0119】
このような状態にて、タイマー112の計時時間Tが時間t0に達すると、ステップ250においてYESと判定される。すると、ステップ251において、加速電圧の設定出力処理がなされる。この設定出力処理では、マイクロコンピュータ113のROMに記憶済みの標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)に基づき標準加速電圧Bが加速電圧として設定され電圧変換回路114に出力される。
【0120】
これに伴い、当該加速電圧は、電圧変換回路114によりアナログ変換して減算器120に出力される。すると、電圧変換回路114からのアナログ加速電圧(標準加速電圧B=+Vpaccに対応)と検出抵抗140の検出端子電圧との差が、減算器120により、差電圧として算出されて電流増幅器130に出力される。
【0121】
ついで、電流増幅器130は、減算器120からの差電圧に比例する電流を増幅し、増幅電流を加速電流(標準加速電圧B=+Vpaccに対応)として発生し駆動コイル36に流入させる。これに伴い、駆動コイル36は、その流入加速電流に基づき磁束を発生する。この磁束は、磁路Cを通る磁束との関係でコイルボビン35を環状空所Arから脱出させる方向に発生する。
【0122】
このとき、加速電流は、標準加速電圧B=+Vpaccに対応するため、コイルボビン35、ひいては、インパクトロッド31は、初期的には直線的に加速されて軸動する(図8(b)参照)。なお、検出コイル37の検出電圧も、図8(c)にて示すごとく、駆動コイル36に流れる電流に応じて増大する。
【0123】
然る後、所定加速時間Taccが経過してタイマー112の計時時間Tがt1に達すると、ステップ260において、YESと判定される。但し、当該、所定加速時間Taccは、インパクトロッド31を速やかに被計測対象である垂直状壁部W1に向けて軸動させるに必要な時間に設定され、マイクロコンピュータ113のROMに予め記憶されている。
【0124】
上述のようにステップ260における判定がYESになると、図7のステップ261において、定速電圧の設定処理がなされる。この設定処理では、マイクロコンピュータ113のROMに記憶済みの標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)に基づき標準定速電圧Cが定速電圧として設定され電圧変換回路114に出力される。これに伴い、当該定速電圧は、電圧変換回路114によりアナログ変換されて減算器120に出力される。
【0125】
すると、電圧変換回路114からのアナログ定速電圧(標準定速電圧C=+Vpcに対応)と検出抵抗140の検出端子電圧との差が、減算器120により、差電圧として算出されて電流増幅器130に出力される。
【0126】
ついで、電流増幅器130は、減算器120からの差電圧に比例する電流を増幅し、増幅電流を定速電流(標準定速電圧C=+Vpcに対応)として発生し駆動コイル36に流入させる。これに伴い、駆動コイル36は、その流入定速電流に基づき磁束を発生する。この磁束は、磁路Cを通る磁束との関係でコイルボビン35をさらに環状空所Arから脱出させる方向に発生する。このとき、標準定速電圧Cは、図8(a)にて示すごとく、標準加速電圧Aよりも低いから、駆動コイル36に流入する定速電流も加速電流よりも少ない。従って、インパクトロッド31は、上述の加速後、一定速度にて軸動する(図8(b)参照)。
【0127】
このような状態において、インパクトロッド31のインパクトチップ32が被計測対象である垂直状壁部W1に衝突すると、インパクトロッド31の速度が急激に減少する(図8(b)参照)。このため、検出コイル37が、永久磁石22でもって形成する磁路Cの磁束を切る速度も急激に減少する。これに伴い、検出コイル37が、上記急激な減少速度に比例して電圧を誘起し、検出電圧として発生する。この検出コイル37の検出電圧は、図8(c)にて示すごとく、減少する。これに伴い、微分回路150が、検出コイル37の検出電圧を微分して微分電圧を発生する(図8(d)参照)。
【0128】
ステップ261の処理後、ステップ270において、当該微分電圧の発生の有無が判定される。具体的には、当該微分電圧が所定の閾値電圧Vth(図8(d)参照)以下になったときに、当該微分電圧の発生として、ステップ270にてYESと判定される。
【0129】
本実施形態では、上記閾値電圧Vthは、上記微分電圧の立ち下がり直後の電圧に相当するものあって、実質的にt=t2(図8(d)参照)にて発生する電圧として扱って差し支えない。なお、上記閾値電圧Vthは、マイクロコンピュータ113のROMに予め記憶されている。
【0130】
上述のようにステップ270における判定がYESになると、次のステップ271において、零電圧設定出力処理がなされる。この零電圧設定処理では、零電圧Dがマイクロコンピュータ113のROMに記憶済みの標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)に基づき設定され電圧変換回路114に出力される。なお、この零電圧Dの電圧変換回路114への出力タイミングは、時間t=t2に実質的に等しい。
【0131】
しかして、当該零電圧は、電圧変換回路114によりアナログ変換されて減算器120に出力される。すると、電圧変換回路114からのアナログ零電圧が減算器120を介し電流増幅器130に出力される。このとき、当該アナログ零電圧に起因して、電流増幅器130から駆動コイル36への流入電流は実質的に零となる。このため、可動子30の軸動は実質的に停止される。
【0132】
ステップ271における処理後、ステップ280において微分電圧はピークレベルに低下したか否かが判定される。現段階において、微分回路150からの微分電圧がピークレベルVdifp(図8(d)参照)まで低下していれば、当該ステップ280における判定はYESとなる。
【0133】
これに伴い、ステップ290において遅延時間の経過か否かが判定される。ここで、微分回路150からの微分電圧VdifがピークレベルVdifpから零レベルまで上昇するに要する時間が上記遅延時間に相当する。なお、この遅延時間は、図8(d)において、{(t3−t2)/2}からt3までの時間に相当する。
【0134】
しかして、タイマー112の計時時間Tが上記遅延時間を経過したことからステップ290においてYESと判定されると、次のステップ291において、引き戻し電圧の設定出力処理がなされる。
【0135】
この設定出力処理では、マイクロコンピュータ113のROMに記憶済みの標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)に基づき標準引き戻し電圧Eが引き戻し電圧として設定され電圧変換回路114に出力される。これに伴い、当該引き戻し電圧は、電圧変換回路114によりアナログ変換されて減算器120に出力される。
【0136】
ついで、電圧変換回路114からのアナログ引き戻し電圧(標準引き戻し電圧E=−Vrに対応)と検出抵抗140の検出端子電圧との差が、減算器120により、差電圧として算出されて電流増幅器130に出力される。
【0137】
すると、電流増幅器130は、減算器120からの差電圧に比例する電流を増幅し、増幅電流を引き戻し電流(標準引き戻し電圧E=−Vrに対応)として発生し駆動コイル36に流入させる。これに伴い、駆動コイル36は、その流入引き戻し電流に基づき磁束を発生する。この磁束は、磁路Cを通る磁束との関係でコイルボビン35を環状空所Ar内に引き戻す方向に発生する。
【0138】
このため、可動子30は、ハウジング10内に引き戻される。ここで、標準引き戻し電圧E=−Vrは、可動子30を瞬時にハウジング10内に引き戻すに要する電圧に設定されているため、可動子30は、ハウジング10内に瞬時に引き戻される。その結果、被計測対象の垂直状壁部W1が、上述のインパクトチップ32との衝突で弾性振動しても、この垂直状壁部W1が、インパクトチップ32と再衝突することはない。
【0139】
ここで、ステップ291の処理は、ステップ300において、タイマー112の計時時間Tが所定の引き戻し時間(t3+Tp)の経過まで維持される。本実施形態では、所定の引き戻し時間、即ちTpは、可動子30を確実にハウジング10内に引き戻すに要する時間に設定されている。従って、ステップ300におけるYESとの判定があれば、可動子30の引き戻しが完了する。
【0140】
しかして、ステップ300における判定がYESになると、保持電圧の設定出力処理がステップ301においてなされる。この設定出力処理では、ステップ240における処理と同様の処理がなされる。その結果、可動子30は、上述と同様に、ハウジング10内に図2にて示すごとく、保持される。
2.ステップ220におけるYESとの判定に伴いステップ221、222の処理がなされた場合
上述のごとく、ステップ220におけるYESとの判定に伴いステップ221、222の処理がなされた場合には、以下のような処理がステップ240以後においてなされる。
【0141】
まず、ステップ240においては、上述と同様の保持電圧の設定処理がなされる。このため、このため、可動子30は、ハウジング10内に保持される(図2参照)。その結果、ハウジング10の開口部12aの向きが下方に向いていても、可動子30からハウジング10から脱出する方向に動くことはない。
【0142】
次に、ステップ251においては、加速電圧の算出出力処理が、上述した加速電圧の設定出力処理に代えてなされる。
【0143】
この加速電圧の算出出力処理では、ステップ222にて記憶済みの補正係数Ad(=1−sinΘ1)が、上述の記憶済みの標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)中の標準加速電圧Bに乗算されることで、加速電圧B・Adが算出される。ここで、当該加速電圧B・Adは、sinΘ1分だけ標準加速電圧Bよりも低い。このことは、可動子30に発生する推力が、上述した見かけ上の質量の増大による重力の影響を吸収するように減少することを意味する。
【0144】
そして、当該加速電圧B・Adが、電圧変換回路114によりアナログ加速電圧に変換され、このアナログ加速電圧と検出抵抗140の検出端子電圧との差電圧が、減算器120により算出され、この差電圧に比例する電流が電流増幅器130により電流増幅されて、加速電流として駆動コイル36に流入される。
【0145】
ここで、上述のごとく加速電圧B・Adが標準加速電圧Bよりも低いことから、これに対応して、当該加速電流及びこの加速電流に基づき駆動コイル36に発生する磁束量も少ない。しかしながら、この加速電流及び磁束量の減少は、上述のごとく可動子30の見かけ上の質量の増大に起因する当該可動子30の重力の影響をなくする役割を果たす。
【0146】
その結果、可動子30は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合の加速電流による加速状態と同様の加速状態にて傾斜状壁部W2に向けて軸動する。
【0147】
また、ステップ261においては、定速電圧の算出出力処理が、上述の定速電圧の設定出力処理に代えて、なされる。
【0148】
この定速電圧の算出出力処理においては、ステップ222にて記憶済みの補正係数Ad(=1−sinΘ1)が、上述の記憶済みの標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)中の標準定速電圧Cに乗算されることで、定速電圧C・Adが算出される。ここで、当該定速電圧C・Adは、sinΘ1分だけ標準定速電圧Cよりも低い。このことは、可動子30に発生する推力が、上述した見かけ上の質量の増大による重力の影響を吸収するように減少することを意味する。
【0149】
そして、当該定速電圧C・Adが、電圧変換回路114によりアナログ定速電圧に変換され、このアナログ定速電圧と検出抵抗140の検出端子電圧との差電圧が、減算器120により算出され、この差電圧に比例する電流が電流増幅器130により電流増幅されて、定速電流として駆動コイル36に流入される。
【0150】
ここで、上述のごとく定速電圧C・Adが標準定速電圧Cよりも低いことから、これに対応して、当該定速電流及びこの定速電流に基づき駆動コイル36に発生する磁束量も少ない。しかしながら、この定速電流及び磁束量の減少は、上述のごとく可動子30の見かけ上の質量の増大に起因する当該可動子30の重力の影響をなくする役割を果たす。
【0151】
その結果、可動子30は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合の定速電流による定速状態と同様の定速状態にて傾斜状壁部W2に向けて軸動する。
【0152】
このような軸動に伴い、インパクトロッド31のロッド速度及び検出コイル37の検出電圧は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様に変化する(図8(b)、(c)参照)。
【0153】
従って、インパクトロッド31のインパクトチップ32が被計測対象である傾斜状壁部W2に衝突するタイミングは、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様のタイミングになる。また、この衝突に伴うインパクトロッド31の速度の減少及び検出コイル37が磁路Cの磁束を切る速度の急激な減少は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様となる。
【0154】
このようなことから、微分回路150からの微分電圧は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様のタイミングにて発生する。従って、ステップ270においては、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様のタイミングにてYESと判定される。
【0155】
ついで、ステップ271においては、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様の零電圧の設定処理がなされる。このため、可動子30の軸動は、上述と同様に、実質的に停止される。
【0156】
また、ステップ280では、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様に微分電圧がピークレベルに低下することにより、YESと判定される。このため、可動子30の軸動は、上述と同様に、実質的に停止される。
【0157】
また、ステップ290において、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様にYESと判定された後、ステップ291において、上述と同様の引き戻し電圧の設定処理がなされる。
【0158】
このため、可動子30は、ハウジング10内に引き戻される。ここで、標準引き戻し電圧E=−Vrは、上述した質量の見かけ上の増大に起因する重力の影響をなくしつつ、可動子30を瞬時にハウジング10内に引き戻すに要する電圧に設定されているため、可動子30は、ハウジング10内に瞬時に引き戻される。その結果、傾斜状壁部W2が、上述のインパクトチップ32との衝突で弾性振動しても、この傾斜状壁部W2が、インパクトチップ32と再衝突することはない。
(3)ステップ230におけるYESとの判定に伴いステップ231、232の処理がなされた場合
上述のごとく、ステップ230におけるYESとの判定に伴いステップ231、232の処理がなされた場合には、以下のような処理がステップ240以後においてなされる。
【0159】
まず、ステップ240においては、上述と同様の保持電圧の設定処理がなされる。このため、このため、可動子30は、ハウジング10内に保持される(図2参照)。その結果、ハウジング10の開口部12aの向きが仮に下方に向いたとしても、可動子30からハウジング10から脱出する方向に動くことはない。
【0160】
次に、ステップ251においては、加速電圧の算出出力処理が、上述した加速電圧の設定出力処理に代えてなされる。
【0161】
この加速電圧の算出出力処理では、ステップ232にて記憶済みの補正係数Au(=1+sinΘ2)が、上述の記憶済みの標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)中の標準加速電圧Bに乗算されることで、加速電圧B・Auが算出される。ここで、当該加速電圧B・Auは、sinΘ2分だけ標準加速電圧Bよりも高い。このことは、可動子30に発生する推力が、上述した見かけ上の質量の増大による重力の影響を吸収するように増大することを意味する。
【0162】
そして、当該加速電圧B・Auが、電圧変換回路114によりアナログ加速電圧に変換され、このアナログ加速電圧と検出抵抗140の検出端子電圧との差電圧が、減算器120により算出され、この差電圧に比例する電流が電流増幅器130により電流増幅されて、加速電流として駆動コイル36に流入される。
【0163】
ここで、上述のごとく加速電圧B・Auが標準加速電圧Bよりも高いことから、これに対応して、当該加速電流及びこの加速電流に基づき駆動コイル36に発生する磁束量も多い。しかしながら、この加速電流及び磁束量の増大は、上述のごとく可動子30の見かけ上の質量の減少に起因する当該可動子30の重力の影響をなくする役割を果たす。
【0164】
その結果、可動子30は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合の加速電流による加速状態と同様の加速状態にて傾斜状壁部W3に向けて軸動する。
【0165】
また、ステップ261においては、定速電圧の算出出力処理が、上述の定速電圧の設定出力処理に代えて、なされる。
【0166】
この定速電圧の算出出力処理においては、ステップ232にて記憶済みの補正係数Au(=1+sinΘ2)が、上述の記憶済みの標準駆動電圧パターン(図8(a)参照)中の標準定速電圧Cに乗算されることで、定速電圧C・Auが算出される。ここで、当該定速電圧C・Auは、sinΘ2分だけ標準定速電圧Cよりも高い。このことは、可動子30に発生する推力が、上述した見かけ上の質量の減少による重力の影響を吸収するように増大することを意味する。
【0167】
そして、当該定速電圧C・Auが、電圧変換回路114によりアナログ定速電圧に変換され、このアナログ定速電圧と検出抵抗140の検出端子電圧との差電圧が、減算器120により算出され、この差電圧に比例する電流が電流増幅器130により電流増幅されて、定速電流として駆動コイル36に流入される。
【0168】
ここで、上述のごとく定速電圧C・Auが標準定速電圧Cよりも高いことから、これに対応して、当該定速電流及びこの定速電流に基づき駆動コイル36に発生する磁束量も多い。しかしながら、この定速電流及び磁束量の増大は、上述のごとく可動子30の見かけ上の質量の減少に起因する当該可動子30の重力の影響をなくする役割を果たす。
【0169】
その結果、可動子30は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合の定速電流による定速状態と同様の定速状態にて傾斜状壁部W3に向けて軸動する。
【0170】
このような軸動に伴い、インパクトロッド31のロッド速度及び検出コイル37の検出電圧は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様に変化する(図8(b)、(c)参照)。
【0171】
従って、インパクトロッド31のインパクトチップ32が被計測対象である傾斜状壁部W3に衝突するタイミングは、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様のタイミングになる。また、この衝突に伴うインパクトロッド31の速度の減少及び検出コイル37が磁路Cの磁束を切る速度の急激な減少は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様となる。
【0172】
このようなことから、微分回路150からの微分電圧は、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様のタイミングにて発生する。従って、ステップ270においては、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様のタイミングにてYESと判定される。
【0173】
ついで、ステップ271においては、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様の零電圧の設定処理がなされる。このため、可動子30の軸動は、上述と同様に、実質的に停止される。
【0174】
また、ステップ280では、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様に微分電圧がピークレベルに低下することにより、YESと判定される。このため、可動子30の軸動は、上述と同様に、実質的に停止される。
【0175】
また、ステップ290において、上述のようにインパクトハンマーHの軸が水平方向に沿う場合と同様にYESと判定された後、ステップ291において、上述と同様の引き戻し電圧の設定処理がなされる。
【0176】
このため、可動子30は、ハウジング10内に引き戻される。ここで、標準引き戻し電圧E=−Vrは、上述した質量の見かけ上の減少に起因する重力の影響をなくしつつ、可動子30を瞬時にハウジング10内に引き戻すに要する電圧でもあるため、可動子30は、ハウジング10内に瞬時に引き戻される。その結果、傾斜状壁部W3が、上述のインパクトチップ32との衝突で弾性振動しても、この傾斜状壁部W2が、インパクトチップ32と再衝突することはない。
【0177】
また、上述した1.〜3.の説明において、力センサ33は、インパクトチップ32の被計測対象の各計測部位との衝突をインパクト電圧としてそれぞれ検出する。従って、この各インパクト電圧に基づき上記振動解析器により振動解析すれば、良好な解析結果が得られる。
【0178】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限ることなく、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)コイルボビン35、駆動コイル36及び検出コイル37の総質量は、インパクトロッド31の質量の10(%)以下であってもよい。
【0179】
また、一般的には、コイルボビン35、駆動コイル36及び検出コイル37の総質量は、インパクトロッド31の質量に対し無視し得る程度であれば、インパクトハンマーHの共振周波数は単一に設定し得る。
(2)検出コイル37を廃止して、電流増幅器130の出力を微分回路150に入力するようにしても、電流増幅器130の出力が検出コイル37の検出出力と同様の特性を有することから、上記実施形態にて述べたと同様の微分出力が得られる。その結果、上記実施形態にて述べたと同様の当該微分出力に基づく作用効果が得られる。
(3)インパクトロッド31の形成材料としては、タングステン合金に限ることなく、例えば、金或いは白金を採用してもよい。
(4)力センサ33の検出出力と微分回路150の微分出力との間の関係は、ニュートンの法則(F=mα)により特定できることから、微分回路150の微分出力を力センサ33の検出出力に代えて上記振動解析器で振動解析しても、力センサ33の検出出力に基づく振動解析と同様の結果が得られる。従って、高価な力センサの廃止が可能となり、インパクトハンマー装置のコスト低減化に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】本発明に係るインパクトハンマー装置の一実施形態を示す部分破断概略側面図である。
【図2】図1のインパクトハンマーの縦断面図である。
【図3】図1の制御装置の内部回路構成図である。
【図4】図1のインパクトハンマーの下方への傾斜状態を示す側面図である。
【図5】図1のインパクトハンマーの上方への傾斜状態を示す側面図である。
【図6】図3のマイクロコンピュータの作用を示すフローチャートの前段部である。
【図7】図3のマイクロコンピュータの作用を示すフローチャートの後段部である。
【図8】(a)〜(e)は、それぞれ、図3の主要な回路構成素子の出力波形を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0181】
20…固定子、21、23…ヨーク、21b…ヨーク部、22…永久磁石、
30…可動子、31…インパクトロッド、31a…鍔部、31b…ロッド部、
32…インパクトチップ、33…力センサ、35…コイルボビン、35b…鍔部、
36…駆動コイル、37…検出コイル、100…傾斜角センサ、114…電圧変換回路、
120…減算器、130…電流増幅器、140…検出抵抗、150…微分回路、
Ar…環状空所、C…磁路、G…環状空隙、H…インパクトハンマー、N…N極、
S…S極、Θ…傾斜角。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の固定子と、可動子とを備えて、
前記固定子の周壁は、
軸方向に着磁してなる環状の永久磁石と、
この環状の永久磁石の軸方向一側端部から軸方向他側端部にかけて前記永久磁石の内周側にてその周方向に沿い環状空所を形成するように断面湾曲状にて延在する磁性ヨーク部材であって前記永久磁石と共にその着磁方向に沿う磁路を構成する磁性ヨーク部材とからなり、
前記可動子は
前記固定子の中空部内に同軸的にかつ軸動可能に嵌装される柱状の非磁性ロッド部と、このロッド部の前端部に同軸的に設けられて前記固定子の周壁のうち前壁部に対向する非磁性鍔部とを有し、推力を受けたとき軸動するインパクトロッドと、
このインパクトロッドの前記非磁性鍔部に同軸的に設けたインパクトチップと、
前記固定子の前記前壁部に同軸的に形成された環状空隙を通り前記環状空所内に同軸的にかつ変位可能に挿入される非磁性コイルボビンであってその前端部にて前記インパクトロッドの前記鍔部に固定される筒状の非磁性ボビンと、
このボビンに巻装される駆動コイルであってその流入電流に応じて前記磁路を通り前記永久磁石から流れる磁束に基づき前記ボビンの軸方向に前記推力として磁力を発生する駆動コイルとを有しており、
前記可動子のうち前記インパクトロッド以外の構成部材の質量は、前記インパクトロッドの質量に比べて無視し得る程度に小さいインパクトハンマー。
【請求項2】
前記可動子のうち前記インパクトロッド以外の構成部材の質量は、前記インパクトロッドの質量の10(%)以下であることを特徴とする請求項1に記載のインパクトハンマー。
【請求項3】
請求項1或いは2に記載のインパクトハンマーと、
このインパクトハンマーの前記インパクトロッドに対する前記推力を制御するように所定の電圧パターンにて駆動電圧を発生する駆動電圧発生手段と、
この駆動電圧発生手段からの駆動電圧に比例する電流を前記流入電流として前記駆動コイルに供給する電流供給手段とを備えるインパクトハンマー装置。
【請求項4】
前記駆動コイルに流れる電流を検出し検出端子電圧として発生する検出抵抗と、
前記駆動電圧発生手段からの駆動電圧と前記検出抵抗の検出端子電圧との差を差電圧として算出する差電圧算出手段とを備えて、
前記電流供給手段は、前記駆動電圧発生手段からの駆動電圧に代えて、前記差電圧算出手段からの差電圧に比例する電流を前記流入電流として前記駆動コイルに供給することを特徴とする請求項3に記載のインパクトハンマー装置。
【請求項5】
前記駆動電圧発生手段は、前記所定の電圧パターンを、加速電圧及びこの加速電圧に後続しかつ当該加速電圧よりも低い定速電圧でもって構成し、前記駆動電圧を前記所定の電圧パターンに基づき前記加速電圧及び定速電圧として発生するようになっており、
前記電流供給手段は、前記駆動電圧発生手段からの加速電圧及び定速電圧に比例する各電流を順次前記流入電流として前記駆動コイルに供給するようにしたことを特徴とする請求項3或いは4に記載のインパクトハンマー装置。
【請求項6】
前記非磁性ボビンに巻装される検出コイルであって前記可動子の前記インパクトチップによる被計測対象との衝突に伴う急激な速度変化に応じて誘起する電圧を検出電圧として発生する検出コイルと、
この検出コイルの検出電圧を微分して微分出力を発生する微分手段とを備えて、
前記駆動電圧発生手段は、前記可動子を引き戻すための引き戻し電圧を前記定速電圧に後続するように含めて前記所定の電圧パターンを構成して、前記微分手段からの微分出力に基づき前記引き戻し電圧を発生するようになっており、
前記電流供給手段は、前記駆動電圧発生手段からの前記引き戻し電圧に基づきこの引き戻し電圧に比例する電流を引き戻し電流として前記駆動コイルに供給するようにしたことを特徴とする請求項5に記載のインパクトハンマー装置。
【請求項7】
前記インパクトハンマーの水平方向に対する傾斜角を検出する傾斜角検出手段と、
前記可動子の質量が見かけ上増大する向きに前記インパクトハンマーが傾斜しているとき、(1−前記検出傾斜角)を第1補正係数として決定し、前記可動子の質量が見かけ上減少する向きに前記インパクトハンマーが傾斜しているとき、(1+前記検出傾斜角)を第2補正係数として決定する補正係数決定手段とを備えて、
前記駆動電圧発生手段は、前記可動子の質量が見かけ上増大する向きに前記インパクトハンマーが傾斜しているとき前記第1補正係数を前記加速電圧及び定速電圧に乗じて当該加速電圧及び定速電圧を低下させるように補正して発生し、また、前記可動子の質量が見かけ上減少する向きに前記インパクトハンマーが傾斜しているとき前記第2補正係数を前記加速電圧及び定速電圧に乗じて当該加速電圧及び定速電圧を上昇させるように補正して発生するようになっており、
前記電流供給手段は、前記駆動電圧発生手段で補正した加速電圧及び定速電圧にそれぞれ比例する各電流を順次前記流入電流として前記駆動コイルに供給するようになっていることを特徴とする請求項5或いは6に記載のインパクトハンマー装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−317348(P2006−317348A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141652(P2005−141652)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(591108237)明治電機工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】