説明

インパクトレンチ

【課題】ハンマによる回転打撃力を弱めることなく、軸線方向の振動を緩和することができるインパクトレンチを提供する。
【解決手段】ハンマを、スピンドル5の外周に嵌合された主ハンマ6と、この主ハンマ6を覆うように配設され、かつ主ハンマ6と一体となって回転する円筒型の副ハンマ7とで構成する。さらに副ハンマ7を、芯ぶれ運動が起こらないように、芯保持手段によって、回転の軸線がスピンドル5の軸線と一致する状態で保持する。本発明のハンマ構成を採用すれば、副ハンマ7に比較して主ハンマ6の質量を減らし、回転打撃力を維持したまま、軸線方向の振動を緩和することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転方向に打撃を与えてボルトやナットを強固に締め付けるインパクトレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
インパクトレンチは、回転駆動されるハンマによる衝撃力を出力軸であるアンビルに加えることでボルトやナットの締め付けを行うものである。インパクトレンチは、主要な構成部材として、モータ、スピンドル、ハンマおよびアンビルを備えている。以下、その動作を簡単に説明する。
【0003】
モータによってスピンドルが所定の回転数で回転し、当該スピンドルの回転力がハンマに伝達され、当該ハンマの回転によって、ハンマに設けられた爪がアンビルに設けられた係合爪を打撃する。そしてこの打撃によって、アンビルの先端に取り付けられたソケット体に所定のトルクが付与され、ボルトやナットの締め付けが行われる。
【0004】
上述したインパクトレンチは、回転打撃を付与する機構の違いにより、いくつかの種類に分類される。代表的なものとして、回転打撃機構が、スピンドルおよびハンマに形成されたカム溝と、その間に挟まれる鋼球、およびハンマをアンビルの方向に付勢するバネによって構成されるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載のインパクトレンチにおいて、ハンマは原理上、回転すると共にスピンドルの軸線方向に移動し、ボルトやナットを回転させる衝撃以外に軸線方向にも衝撃が加わり、これらの衝撃によってスピンドルの軸線に直行する方向およびスピンドルの軸線方向に振動が発生する。これらの振動は作業者の疲労の原因となり、作業能率が低下するとともに手に痺れが生じるため、振動の緩和が求められている。
【0006】
これらの振動を実測したところ、スピンドルの軸線方向の振動は、スピンドルの軸線に直行する方向の振動に比べて3倍程度の大きさがあるため、スピンドルの軸線方向の振動を減少させることは、振動を緩和する上で有効である。
【0007】
インパクトレンチの軸線方向の振動を緩和する手段として、主ハンマとは別に、回転方向の衝撃の伝達のみに寄与する副ハンマを設けることにより、軸線方向の振動の発生源である主ハンマの質量を小さくすることが考えられるが、具体案が提案されるには至っていない。
【0008】
軸線方向の振動の緩和とは目的が異なるが、ハンマの回転打撃力を調整するため、回転方向の衝撃の伝達のみに寄与する副ハンマを設け、必要に応じて副ハンマを主ハンマに係合または離脱させることが提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−152448号公報
【特許文献2】特開平6−190741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これらの特許文献で提案された構造は、そのままでは、軸線方向の振動を緩和する手段として用いることができない。以下にその理由を説明する。
【0011】
第1は、質量の小さい主ハンマを用いることができないことである。主ハンマによる軸線方向の振動を小さくするためには、軸線方向の衝撃力を小さくする必要がある。そして軸線方向の衝撃力の大きさは、主ハンマの質量に比例する。従って、軸線方向の衝撃力を小さくするためには、副ハンマに比べて主ハンマの質量をできるだけ小さくする必要がある。
【0012】
しかし、特許文献に開示の主ハンマ(特許文献1ではハンマー4、特許文献2ではハンマー2)は、単独でもボルトやナットの締め付けを行うことができるように、十分な大きさの回転方向の衝撃力を確保する必要がある。そして回転方向の衝撃力の大きさは、主ハンマの慣性モーメントに比例する。なお、慣性モーメントは、物体内の各部分の質量と、その部分から回転軸までの距離の2乗との積を、物体全体にわたって積分したものである。
【0013】
特許文献に開示の主ハンマは、係脱可能な副ハンマが主ハンマを囲むように配置されているため、主ハンマの各部分の回転軸までの距離を大きくすることができない。そのため、十分な大きさの慣性モーメントを得るためには、回転軸の知近くで主ハンマの質量を大きくせざるを得ない。結果として主ハンマの質量が大きくなるため、軸線方向の振動はそれほど小さくはならない。
【0014】
第2は、副ハンマの回転の軸線を保持する手段が設けられていないことである。主ハンマの外周面と副ハンマの内周面にスプライン加工が施されており、相互の歯が噛み合うことにより主ハンマと副ハンマが一体となって回転する。しかし特許文献に開示された構造は、副ハンマ(特許文献1では付加ハンマー8、特許文献2では付加ハンマー6)を、手動操作により離脱位置から主ハンマとの係合位置に円滑に移動させることができるように、副ハンマと主ハンマとの間に大きな隙間(遊び)が設けられている。そのため副ハンマは、主ハンマによっては回転の軸線が保持されない。
【0015】
また、特許文献に開示された構造では、副ハンマの回転の軸線を保持するためのその他の手段も設けられていない。結果として、副ハンマが主ハンマに係合された状態において、スピンドルの回転に伴って主ハンマが軸線方向に移動するときに、スピンドルの回転の軸線に対して副ハンマの回転の軸線が振れて、いわゆる「芯ぶれ回転」が発生する。芯ぶれ回転の発生は、主ハンマの軸線方向への円滑な移動を妨げ、ハンマによる回転打撃力を弱める原因となる。
【0016】
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたもので、ハンマによる回転打撃力を弱めることなく、軸線方向の振動を緩和することができるインパクトレンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明にかかるインパクトレンチは、
モータによって回転される円柱状のスピンドルと、
前記スピンドルの回転の軸線方向の前方に配置され、かつ前記スピンドルの軸線と回転の軸線が一致し、前部に締付用のソケット体が装着される角軸部もしくはドライバービットが挿入される穴を有し、後部に第1の爪が設けられたアンビルと、
前記スピンドルの外周に嵌合され、かつ前部に前記第1の爪と係合する第2の爪が設けられ、前記スピンドルの回転の軸線を中心に回転可能かつ前記軸線方向に移動可能な主ハンマと、
前記主ハンマと一体となって回転する円筒部を有し、この円筒部の内部空間に前記スピンドルが挿通されると共に前記主ハンマが収容される副ハンマと、
前記スピンドルと前記主ハンマとの間に介在し、前記スピンドルと前記主ハンマとの間に所定の値を超えるトルクが作用すると、前記主ハンマを回転させると共に前記アンビルの方向に前進させ、前記第2の爪を前記第1の爪に衝撃的に係合させることにより前記第1の爪を打撃し、前記アンビルを軸線回りに回転させる回転打撃機構と、
前記副ハンマの回転の軸線を前記スピンドルの回転の軸線と一致する状態で保持する芯保持手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
ここで、前記副ハンマとして、前記円筒部の後端部に底部が形成された有底円筒型の副ハンマを用い、かつ前記底部の中心に形成された前記スピンドルを挿入する孔の内径を前記スピンドルの外径とほぼ等しくすることで、前記副ハンマの底部を芯保持手段として機能させてもよい。
【0019】
また前記スピンドルおよび前記副ハンマを、それぞれの軸線が一致する状態で、かつ前記スピンドルについては第1の軸受を介して、前記副ハンマについては第2の軸受を介してケースに回転自在に支持することで、前記ケースを芯保持手段として機能させてもよい。前記第1の軸受と前記第2の軸受は、円筒型のブッシュの内周面に取り付けられ、かつこのブッシュは前記ケースに固定されていることが好ましい。
【0020】
また前記副ハンマの円筒部の内周面を、前記アンビルに設けられた少なくとも2個の第1の爪の外周面によって回転自在に支持することで、前記アンビルの少なくとも2個の第1の爪を前記芯保持手段として機能させてもよい。
【0021】
また前記副ハンマの円筒部の内周面を、前記アンビルの後部に設けられたリング状のフランジにより直接、もしくは軸受を介して回転自在に支持することで、前記フランジを前記芯保持手段として機能させてもよい。
【0022】
本発明にかかるインパクトレンチにおいて、前記主ハンマの外周面に、断面が半円形で前記スピンドルの軸線と平行な複数の第1の溝が形成され、前記副ハンマの円筒部の内周面のうち前記第1の溝に対応する位置に、断面が半円形で前記スピンドルの軸線と平行な複数の第2の溝が形成され、かつ前記第1の溝と前記第2の溝に円柱部材が嵌め込まれることが好ましい。
【0023】
なお、前記副ハンマの底部、前記アンビルの後部に形成されたリング状のフランジ、および前記副ハンマの円筒部の前部開放端と前記フランジとの間に配設されたリング状のカバーにより、前記副ハンマの円筒部の内部空間が密閉されるように構成されていてもよい。
【0024】
また前記副ハンマの底部と前記主ハンマとの間に、前記主ハンマを前記アンビルの方向に付勢するバネが配設されていることが好ましい。
【0025】
また前記副ハンマの後端部に、前記副ハンマを前記ケースに対して回転自在に支持する複数のボールと、これらのボールを案内するリング状のボールガイドとが配設され、かつ前記副ハンマと前記ボールガイドとの間に、衝撃を吸収するリング状の第1の緩衝部材が配設されていることが好ましい。
【0026】
また、前記スピンドルの前部に形成された段部と前記アンビルの後端部との間に衝撃を吸収するリング状の第2の緩衝部材が配設されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、円筒型の副ハンマを用い、この副ハンマを主ハンマと一体となって回転させ、かつその副ハンマの円筒部の内部空間に主ハンマを収容することにより、副ハンマの軸線方向の長さを長くすることができ、主ハンマに比べて副ハンマの質量を大きくできるように構成している。更に、芯保持手段によって、副ハンマの回転の軸線をスピンドルの軸線と一致させることにより、芯ぶれ回転の発生を防止している。
【0028】
結果として、副ハンマに比較して主ハンマの質量を小さくし、回転打撃力を維持したままスピンドルの軸線方向の振動を緩和できるため、作業者の疲労を軽減して、作業能率の低下や痺れの発生を防止できる。また、円筒型の副ハンマを用いることで慣性モーメントを大きくすることができ、強い回転打撃力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1にかかるインパクトレンチの主要部を、スピンドルの軸線を含む縦方向の面で切断した要部正面図である。
【図2】実施の形態1にかかるインパクトレンチのケース部分を除く構成部品を展開して示した斜視図である。
【図3】図1のインパクトレンチにおいて、スピンドルの外周面と主ハンマの内周面を円周方向に展開して平面にした状態(円周の半分)を示す図である。
【図4】図1のインパクトレンチにおいて、主ハンマとアンビルの外周面を円周方向に展開して平面にした状態を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態2にかかるインパクトレンチの主要部を、スピンドルの軸線を含む縦方向の面で切断した要部正面図である。
【図6】ドライバービット挿入穴のあるアンビルを用いた本発明の実施の形態3にかかるインパクトレンチの前部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態にかかるインパクトレンチについて、図面を参照して説明する。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかるインパクトレンチの主要部を、スピンドルの軸線を含む縦方向の面で切断した要部正面図である。また図2は、図1のインパクトレンチのケース部分を除く構成部品を展開して示した斜視図である。
【0032】
<インパクトレンチの構成>
インパクトレンチ1は、ケース2、電動モータ3、回転伝達機構4、スピンドル5、主ハンマ6、副ハンマ7、バネ8、およびアンビル9を備えている。以下、それぞれの構成部品の構造と機能を説明する。
【0033】
最初にケース2について説明する。ケース2は、インパクトレンチ1の後部に配置された樹脂製のハウジング21と、前部に配置されたアルミニウム製のクラッチケース22で構成され、クラッチケース22は、図示しないビスによってハウジング21に固定されている。以降、アンビル9が配置された側を前方とし、電動モータ3が配置された側を後方として説明を行う。
【0034】
ハウジング21には、電動モータ3や回転伝達機構4、バッテリ等が収容されている。ハウジング21の下方には、電動モータ3のスイッチであるレバー23、および図示しないが、操作者用のグリップや電動モータ3の電源であるバッテリを収容するバッテリ収納部が設けられている。
【0035】
一方、クラッチケース22には、インパクトレンチ1の主要構成部品である主ハンマ6、副ハンマ7、アンビル9等が収容され、また前部に設けられた孔からアンビル9の角軸部91が突出している。
【0036】
次に回転伝達機構4について説明する。電動モータ3の回転軸31の回転は、回転伝達機構4を介して鋼製のスピンドル5に伝達される。回転伝達機構4は、電動モータ3の回転軸31に固定された太陽歯車41と、この太陽歯車41に噛み合う2個の遊星歯車42と、遊星歯車42に噛み合う内歯車43とで構成されている。遊星歯車42は、図2に示すように、スピンドル5の後方に形成された張出部51に回転自在に取り付けられた支軸44によって支持されている。
【0037】
回転伝達機構4の前方には、円筒の内周側にリング状のフランジが形成されたブッシュ24が配設され、内歯車43はこのブッシュ24によりハウジング21に固定されている。
【0038】
次にスピンドル5について説明する。図1に示すように、円柱状のスピンドル5は、後端部に配された玉軸受27を介してハウジング21に回転自在に取り付けられている。また玉軸受27の前部には、2枚のリング状の鍔が所定の間隔を隔てて配された張出部51が形成されている。前述したように張出部51の2枚の鍔の間には、支軸44に支持された2個の遊星歯車42が回転可能な状態で配設されている。
【0039】
また図2に示すように、スピンドル5の先端には、スピンドル5の本体部分(張出部51と後述するカム溝53のある円柱部)と同軸に円柱状の小径の突起部52が形成され、突起部52は、アンビル9の後部に形成された円柱状の内部空間を有する穴92に回転可能な状態で嵌め込まれている。なお、穴92はアンビル9の後述する角軸部91の後ろにある円柱部分と同軸に加工されている。
【0040】
次に主ハンマ6について説明する。スピンドル5の外周には、中心部に貫通孔が形成された鋼製の主ハンマ6が嵌合されている。図2に示すように、主ハンマ6の前端面には、アンビル9側に向けて突出する一対の爪63が設けられている。
【0041】
主ハンマ6とスピンドル5との間には、アンビル9に回転打撃を与える機構(以降、「回転打撃機構」という)が設けられている。具体的に説明すると、回転打撃機構は、スピンドル5の外周面に形成された2本のカム溝53、主ハンマ6の貫通孔の内周面に形成された2本のカム溝61、カム溝53とカム溝61に挟まれるように配置された2個の鋼球11、および主ハンマ6をアンビル9の方向に付勢するバネ8で構成されている。図3に、スピンドル5の外周面と主ハンマ6の貫通孔の内周面を円周方向に展開して平面にした状態のうち円周の半分(180°)を示す。
【0042】
図3から分かるように、スピンドル5のカム溝53はV字形に形成され、また主ハンマ6のカム溝61は端部が逆V字形に形成されている。鋼球11はカム溝53およびカム溝61に沿って移動することができる。鋼球11がカム溝53およびカム溝61に沿って移動することにより、主ハンマ6は、スピンドル5の外周面上をスピンドル5の回転の軸線(以降、「スピンドル5の軸線」と略す)Oに沿って前方または後方に移動しながら回転する。回転打撃機構の動作については、後に図3を用いて詳述する。
【0043】
次に副ハンマ7について説明する。図1に示すように、主ハンマ6の外周側には、有底円筒型の鋼製の副ハンマ7が配置されている。副ハンマ7は、円筒部71と、円筒部71の後端部に設けられた底部72とで構成され、底部72の中心にはスピンドル5が通る孔73が形成されている。
【0044】
図2に示すように、主ハンマ6の外周面の4箇所には、軸線Oと平行に、断面が半円形の溝62が形成されている。同様に、副ハンマ7の円筒部71の内周面の4箇所にも、軸線Oと平行に、断面が半円形の溝74が形成されている。そして溝62および溝74に円柱部材である針状コロ12が嵌め込まれている。
【0045】
副ハンマ7の回転の軸線を保持する手段がないときは、主ハンマ6と副ハンマ7の回転の軸線はそれぞれが軸線Oと一致するとは限らないが、針状コロ12が嵌め込まれた状態では、ある共通の回転の軸線を中心として一体となって回転する。そして、主ハンマ6は、針状コロ12をガイドとして前後方向に移動できる。なお図1では、断面の形状を分かり易く説明するため、下部にのみ針状コロ12と、溝62および74が描かれ、上部の針状コロ12と溝62、74は省略されている。
【0046】
副ハンマ7の底部72の外周側には段部74が形成され、ブッシュ24と段部74の間には、リング状のワッシャ−13、複数の鋼製のボール14およびフランジ付のボールガイド15が配設されている。ボール14の働きにより、副ハンマ7はブッシュ24に対し自由に回転できる。一方、副ハンマ7の円筒部71の前部開放端はリング状のカバー25で覆われている。
【0047】
主ハンマ6の後部と副ハンマ7の底部72との間にバネ8が介装されている。バネ8は一般にコイルスプリングと呼ばれる圧縮バネであり、主ハンマ6をアンビル9に向けて付勢する。主ハンマ6と副ハンマ7、およびバネ8は、軸線Oを中心として一体となって回転する。このようにバネ8の後方の端を副ハンマ7の底部72で受けることで、バネ8をハウジング21で直接受ける場合に必要となる捻り防止用の座金とボールが不要となるため、回転打撃機構の構成が簡素化される。
【0048】
次にアンビル9について説明する。図1に示すように、鋼製のアンビル9は、鋼製もしくは黄銅製のすべり軸受26を介してクラッチケース22に回転自在に支持されている。アンビル9の先端には、6角ボルトの頭部や6角ナットに装着するソケット体を取り付けるための、断面が四角形状の角軸部91が設けられている。角軸部91は、クラッチケース22に設けられた孔から突出している。
【0049】
アンビル9の後部には、主ハンマ6の爪63に係合する一対の爪93が設けられている。一対の爪93はそれぞれ扇形に形成され(図2参照)、その外周面は、副ハンマ7の円筒部71の前端部の内周面に接している。一対の爪93は、副ハンマ7が回転する時に回転の中心を保持する機能を果たしている。なお、アンビル9の爪93および主ハンマ6の爪63は必ずしも一対(2個)である必要はなく、それぞれの爪の数が等しければ、アンビル9および主ハンマ6の円周方向に等間隔に3個以上設けてもよい。
【0050】
アンビル9には、一対の爪93に接するようにリング状のフランジ94が形成されている。またフランジ94の外周側には、副ハンマ7の円筒部71の前部開放端を覆うようにリング状のカバー25が配設されている。またカバー25とすべり軸受26との間にはOリング19が配設され、カバー25と副ハンマ7の間に隙間が生じないように、カバー25を副ハンマ7に対して付勢している。
【0051】
<回転の軸線の一致>
ここで、スピンドル5、主ハンマ6、副ハンマ7およびアンビル9の各回転の軸線が一致することについて説明する。前述したように、スピンドル5は玉軸受27を介してハウジング21に回転自在に支持され、またアンビル9はすべり軸受26を介してクラッチケース22に回転自在に支持されている。更に、スピンドル5の先端に形成された円柱状の突起部52が、アンビル9の後部に形成された穴92に回転可能な状態で嵌め込まれている。
【0052】
スピンドル5の後部およびアンビル9全体は、それぞれの回転の中心が一致する状態でハウジング21およびクラッチケース22に取り付けられている。そしてスピンドル5の先端にある突起部52がアンビル9の穴92に回転可能に嵌め込まれることによって、スピンドル5とアンビル9は回転の軸線が一致し、かつ相互に自由に回転できる状態で結合されている。このように構成することによって、アンビル9の回転の軸線とスピンドル5の軸線Oが常に一致した状態で保持される。
【0053】
一方、副ハンマ7の前部は、円筒部71の前端部の内周面とアンビル9の一対の爪93の外周面が摺動することにより、アンビル9に回転自在に支持されている。また、副ハンマ7の後部は、底部72に形成された孔73の内周面がスピンドル5の外周面と摺動することにより、スピンドル5に回転自在に支持されている。このように構成することによって、副ハンマ7の回転の軸線とスピンドル5の軸線Oが常に一致した状態で保持される。
【0054】
また主ハンマ6は、副ハンマ7に針状コロ12が嵌め込まれた状態では、副ハンマ7と共通の回転の軸線周りに回転する。このとき、副ハンマ7の回転の軸線がスピンドル5の軸線Oと常に一致しているため、主ハンマ6もスピンドル5の軸線O周りに回転する。
【0055】
次に緩衝部材16、17および18について説明する。図1に示すように、副ハンマ7の底部72の外周側に形成された段部74とボールガイド15との間には、主として振動を吸収することを目的として、低反発のウレタンゴムで形成されたリング状の緩衝部材16が配設されている。
【0056】
同様の目的で、副ハンマ7の底部72に形成された張出部75の端面、およびスピンドル5の段部54(図2参照)とアンビル9の後端面との間にも、低反発のウレタンゴムで形成された緩衝部材17および18が配設されている。これらの緩衝部材を配設することによって、軸線O方向の振動を更に緩和できる。
【0057】
なお、緩衝部材16、17および18の材質としては、上述した低反発のウレタンゴムを含めて低反発ゴムを用いることが好ましく、それ以外には、低反発特性を備えた熱可塑性エラストマー、樹脂、繊維、皮革等を用いることができる。
【0058】
<インパクトレンチの動作>
次に、前述の図1と図3、さらに図4を参照してインパクトレンチ1の動作を説明する。図4に、主ハンマ6とアンビル9の外周面を円周方向に展開して平面にした模式的な状態を示す。図4は、主ハンマ6の爪63とアンビル9の爪93との係合状態を説明する際に用いる。
【0059】
電動モータ3が回転すると、その回転が回転伝達機構4によって減速された後スピンドル5に伝達され、スピンドル5が所定の回転数で回転する。スピンドル5の回転力は、スピンドル5のカム溝53と主ハンマ6のカム溝61の間に嵌め込まれた鋼球11を介して主ハンマ6に伝達される。
【0060】
図3(a)に、ボルトやナットの締め付け開始直後のカム溝53とカム溝61との位置関係を示す。また図4(a)に、同一時点の主ハンマ6の爪63とアンビル9の爪93との係合状態を示す。図4(a)に示すように、電動モータ3の回転によって、主ハンマ6には回転力Aが矢印で示す方向に加わる。またバネ8によって、主ハンマ6には直進方向の付勢力Bが矢印で示す方向に加わっている。なお主ハンマ6とアンビル9との間に若干の隙間があるが、これは緩衝部材18によって生じた隙間である。
【0061】
主ハンマ6が回転すると、主ハンマ6の爪63とアンビル9の爪93との係合によりアンビル9が回転し、主ハンマ6の回転力がアンビル9に伝達される。アンビル9の回転によって、アンビル9の角軸部91に取り付けられたソケット体(図示せず)が回転し、ボルトやナットに回転力を与えて初期の締め付けが行われる。
【0062】
ボルトやナットの締め付けが進むに伴ってアンビル9に加わる負荷トルクが大きくなると、図3(a)に示すように、主ハンマ6はそのトルクにより、スピンドル5に対し相対的にY方向に回転させられる。そしてバネ8の付勢力Bに打ち勝って、鋼球11がカム溝53およびカム溝61の斜面に沿って矢印Fで示す方向に移動しながら、主ハンマ6はX方向に移動する。
【0063】
そして、図3(b)に示すように、鋼球11がカム溝53およびカム溝61の斜面に沿って移動し、これに対応する形で主ハンマ6がX方向に移動すると、図4(b)に示すように、主ハンマ6の爪63がアンビル9の爪93から外れる。
【0064】
主ハンマ6の爪63がアンビル9の爪93から外れると、押し縮められたバネ8の付勢力Bが開放されることによって、主ハンマ6は高速で、Yとは逆方向に回転しながらXとは逆方向に前進する。そして図4(c)に示すように、主ハンマ6の爪63が、矢印Gで示す軌跡で移動してアンビル9の爪93に衝突し、アンビル9に回転方向の打撃力が付与される。その後、反動により主ハンマ6の爪63は、軌跡Gとは逆方向に移動するが、最終的には、回転力Aおよび付勢力Bが作用して図4(a)に示す状態に戻る。以上の動作が繰り返されることにより、アンビル9に回転打撃が繰り返し加えられる。
【0065】
なお、以上はボルトやナットを締め付ける際の動作について説明したが、締め付けられたボルトやナットを緩める際にも、回転打撃機構によって締め付け時とほぼ同様の動作が行われる。ただしこの場合には、電動モータ3を締め付けの際とは逆方向に回転させることにより、鋼球11が図3(a)に示すV字状の溝53に沿って右上方に移動し、主ハンマ6の爪63によって、アンビル9の爪93が締め付けの際とは逆方向に打撃される。
【0066】
<副ハンマの作用>
次に、回転打撃における副ハンマ7の作用について、ハンマが1つしかない従来のインパクトレンチと比較して説明する。
【0067】
主ハンマ6の爪63とアンビル9の爪93との係合が外れると、バネ8が圧縮状態から開放され、バネ8に蓄積されたエネルギーが主ハンマ6および副ハンマ7の運動エネルギーとして放出される。主ハンマ6は、カム溝53および61と鋼球11との作用により、図4(c)の軌跡Gに示すように、高速で回転しながら前進する。そして、主ハンマ6の爪63がアンビル9の爪93に衝突することにより、アンビル9に回転方向の衝撃が加わる。また主ハンマ6の前端面がアンビル9の後端面に衝突することにより、軸線O方向に衝撃が加わる。
【0068】
主ハンマ6によるアンビル9の打撃は1秒間に10回程度行われ、衝撃によってスピンドル5の軸線に直行する方向およびスピンドル5の軸線方向に振動が発生する。これらの振動は作業者に疲労を与え、作業能率が低下したり、手に痺れが生じる原因となるため、できるだけ小さい方がよい。
【0069】
これらの振動のうち、スピンドルの軸線方向の振動は、主としてアンビル9による軸線方向に加わる衝撃によって発生する。その一方で、アンビル9による軸線方向に加わる衝撃はボルトやナットの締め付けには寄与しない。
【0070】
前述したように、ハンマによる軸線O方向の衝撃の強さはハンマの質量に比例し、回転方向の衝撃の強さはハンマの慣性モーメント(物体内の各部分の質量と、その部分から回転軸までの距離の2乗との積の総和)に比例する。1つのハンマを用いてアンビル9に回転打撃を加える場合、軸線O方向の衝撃を小さくするためにはハンマの質量を減らす必要があるが、単純にハンマの質量を減らすと、慣性モーメントが小さくなるために回転方向の衝撃も小さくなり、アンビル9の回転打撃力が弱くなる。
【0071】
本発明では、スピンドル5に嵌合された主ハンマ6とは別に、主ハンマ6と一体となって回転するが、スピンドル5の軸線方向には移動しない副ハンマ7を用いることによって、上述した問題の解決を図っている。すなわち、主ハンマ6と副ハンマ7の合計の質量は、1つのハンマを用いた場合の質量とほぼ等しくすると共に、副ハンマ7の質量が主ハンマ6の質量より大きくなるように設定している。
【0072】
このようなハンマ構成においては、バネ8が圧縮状態から開放されることによってもたらされるアンビル9の回転方向に加わる衝撃力は、ハンマの慣性モーメント、すなわち主ハンマ6および副ハンマ7の合計の慣性モーメントに比例する。一方、アンビル9による軸線方向に加わる衝撃力は、主ハンマ6だけの質量に比例する。従って、回転方向の衝撃力にのみ寄与する副ハンマ7の質量を、主ハンマ6の質量と比較してできるだけ大きくすることにより、アンビル9による軸線方向に加わる衝撃力を小さくすることができる。
【0073】
さらに本発明では、慣性モーメントの大きさが回転半径の2乗に比例することを利用して、慣性モーメントの増大を図っている。すなわち、本発明に用いた円筒型の副ハンマは質量の大半が半径の大きい部分に集中するため、円筒型の副ハンマを採用することにより、回転の中心部に質量が集中する円柱型の副ハンマを採用する場合に比べて慣性モーメントが大きくなり、副ハンマによる衝撃力が増大する。
【0074】
従って、本実施の形態にかかるハンマ(主ハンマ6と副ハンマ7)を採用することにより、アンビル9の回転方向に加わる衝撃力が大きく、かつスピンドル5の軸線O方向に発生する振動の少ないインパクトレンチ1を実現できる。
【0075】
<芯ぶれ回転の問題点>
上述した効果を発揮するためには、主ハンマ6と副ハンマ7が一体となって回転し、その一方で、主ハンマ6が軸線O方向に滑らかに移動できる必要がある。本実施の形態では、主ハンマ6と副ハンマ7との間に針状コロ12を配置(図2参照)することによって、主ハンマ6と副ハンマ7の一体回転と、主ハンマ6の軸線O方向への滑らかな移動を実現している。
【0076】
しかし、副ハンマ7の回転の軸線がスピンドル5の軸線Oと一致せず、芯ぶれ回転をする場合には、主ハンマ6の軸線O方向への円滑な移動が妨げられ、所期の効果を発揮できない。以下に、芯ぶれ回転の問題点を説明する。
【0077】
第1に、ボルトやナットの締め付け力が弱くなる。主ハンマ6は副ハンマ7の内周面に設けられたガイド(針状コロ12)上を摺動して前後に移動する。前述の図4(c)で説明したように、主ハンマ6の爪63とアンビル9の爪93との係合が外れると、バネ8が圧縮状態から開放され、バネ8に蓄積されたエネルギーが主ハンマ6の運動エネルギー(および一部は副ハンマ7の回転エネルギー)として放出される。そして主ハンマ6は、カム溝53および61と鋼球11との作用により、高速で前進しながら回転する。
【0078】
その際、副ハンマ7が芯ぶれ回転していると、主ハンマ6にとって前進運動および回転運動を行う上での抵抗となり、前進速度と回転速度が遅くなる。同時に副ハンマ7の回転速度も遅くなる。そして回転速度の遅れに伴って角加速度も小さくなる。そのため角加速度に比例する衝撃トルク、つまり回転打撃力が小さくなってボルトやナットの締め付け力が弱くなる。
【0079】
第2に、爪の磨耗が著しくなる。図4(c)の軌跡Gに示すように、正常な状態では、主ハンマ6の爪63がアンビル9の爪93と深く係合した状態でアンビル9を打撃する。しかし芯ぶれ回転が生じると、スピンドル5自体の回転速度が加わった主ハンマ6の回転に比べて軸線方向の移動が相対的に遅れてしまう。結果として、主ハンマ6の爪63の先端のみでアンビル9の爪93を打撃することとなり、単位面積当りに加わる力が過大になって両方の爪の磨耗が著しくなる。
【0080】
本実施の形態では、副ハンマ7の回転の軸線をスピンドル5の軸線Oと一致する状態で保持する芯保持手段を設けることで、芯ぶれ回転の発生を防止している。具体的には、副ハンマ7の底部72の中心に形成された孔73の内径を、スピンドル5のカム溝53のある円柱部の外径とほぼ同じ大きさに設定すると共に、円筒部71の前端部の内径を、アンビル9の爪93の外径とほぼ同じ大きさに設定している。
【0081】
このような構成とすることで、常に副ハンマ7の回転の軸線をスピンドル5の軸線Oと一致させることができ、主ハンマ6の軸線O方向への円滑な移動を実現できる。なお、本実施の形態では、副ハンマ7の孔73の内周面および円筒部71の前端部の内周面にグリースを塗ることにより、摩擦によって円滑な回転が妨げられるのを防止している。
【0082】
<騒音の抑制>
本実施の形態では、副ハンマ7は、主ハンマ6の爪63とアンビル9の爪93との打撃によって発生する騒音を抑制する機能も果たしている。図1に示すように、打撃音の発生部である主ハンマ6の爪63とアンビル9の爪93は、副ハンマ7の円筒部71の内部空間に収容されている。すなわち、打撃音の発生部は副ハンマ7の円筒部71で覆われている。またアンビル9の後部にはリング状のフランジ94が形成され、さらに副ハンマ7の円筒部71の前部開放端を覆うようにリング状のカバー25が配設されている。
【0083】
従って、打撃音の発生部は、スピンドル5、副ハンマ7の円筒部71および底部72、アンビル9のフランジ94ならびにカバー25で覆われ、打撃音が外部に漏れるのが抑制される。
【0084】
なお、本実施の形態では、主ハンマ6を副ハンマ7の軸線方向に移動させる際のガイドとして針状コロ12を用いたが、それに限定されるものではなく、棒状コロや円筒コロを用いてもよい。またこれらのコロ軸受用コロ以外でも、円柱状の部材であれば、何ら問題はない。更には、主ハンマ6の外周面および副ハンマ7の内周面にスプライン加工を施し、それらを係合させることによって主ハンマ6を副ハンマ7の軸線方向に移動させるようにしてもよい。
【0085】
また本実施の形態では、アンビル9にフランジ94を設け、このフランジ94とカバー25によって副ハンマ7の円筒部71の前部開放端を覆うようにしたが、アンビル9にフランジを設けず、アンビル9の角軸部91の後ろにある円柱部分の外径とほぼ同じ内径の中心孔を有するカバー25を用いて円筒部71の前部開放端を覆うようにしてもよい。
【0086】
また本実施の形態では、副ハンマの材質に鋼を用いたが、銅等の鋼よりも比重の大きい金属またはその合金を用いて副ハンマを作製すると、回転打撃力を更に増加させることができる。
【0087】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2にかかるインパクトレンチの主要部を、スピンドルの軸線を含む縦方向の面で切断した要部正面図である。実施の形態2にかかるインパクトレンチ1aは、実施の形態1にかかるインパクトレンチ1と、副ハンマの回転の軸線をスピンドルの軸線と一致する状態で保持する芯保持手段の構成が異なっている。これに伴い、実施の形態1のスピンドル5、副ハンマ7およびアンビル9が、スピンドル5a、副ハンマ7aおよびアンビル9aに置き換わっている。
【0088】
以降、芯保持手段の構成を中心にして、インパクトレンチ1aの構成と動作を説明する。なお、図5において、図1のインパクトレンチ1と同一機能を有する構成部品には同一の符号を付すとともに、説明を省略する。
【0089】
実施の形態1では、副ハンマ7の底部72に形成された孔73とアンビル9の爪93とによって、副ハンマ7の回転の軸線をスピンドル5の軸線Oと一致させている。一方、本実施の形態では、ハウジング21に固定されたブッシュ24aおよびアンビル9aの後部に設けられたフランジ94aによって副ハンマ7aの回転の軸線をスピンドル5aの軸線Oと一致させている。
【0090】
具体的には、円筒型のブッシュ24aを介してハウジング21に取り付けられた玉軸受28によって、副ハンマ7aの後端部をハウジング21に回転可能な状態で支持している。また副ハンマ7aの円筒部71の前端部の内周面を、玉軸受29を介してアンビル9aの後部に設けられたフランジ94aに取り付けることにより、副ハンマ7aの円筒部71の前端部をアンビル9aに対して回転可能な状態で支持している。
【0091】
これに伴い、スピンドル5aの形状とアンビル9aの形状を若干変更している。スピンドル5aについては、肉厚の張出部51aを後端部に形成し、かつその外周面に玉軸受27を配置している。そしてその玉軸受27を、前述した円筒型のブッシュ24aによって副ハンマ7a用の玉軸受28と一体で支持する構造を採用している。
【0092】
このようにスピンドル5a用の玉軸受27と副ハンマ7a用の玉軸受28を1つの円筒型のブッシュ24aで支持することにより、副ハンマ7aの後部の回転の中心をスピンドル5aの軸線Oと一致させることができる。
【0093】
一方、アンビル9aのフランジ94aは、実施の形態1のアンビル9のフランジ94より肉厚に形成され、かつフランジ94aの外周面に玉軸受29が嵌め込まれている。また実施の形態1と同様に、アンビル9aはすべり軸受26を介してクラッチケース22に回転自在に支持され、かつアンビル9aの回転の軸線はスピンドル5aの軸線Oと一致している。
【0094】
実施の形態1では、アンビル9の一対の爪93の外周面で副ハンマ7の円筒部71の内周面を支持していたが、本実施の形態では、フランジ94aの外周面の全周を用いて副ハンマ7aの円筒部71の内周面を支持しているため、副ハンマ7aの前部の回転の中心をスピンドル5aの軸線Oと一致させる上でより効果的である。
【0095】
以上の結果として、副ハンマ7aは、その回転の軸線がスピンドル5aの軸線Oと一致する状態で、玉軸受28を介してブッシュ24aに取り付けられ、また玉軸受29を介してアンビル9aに取り付けられている。
【0096】
なお、スピンドル5aの張出部51aの付根部分にはリング状の溝が形成され、この溝と副ハンマ7aの底部72との間に複数の鋼製のボール14が配設されている。副ハンマ7aは、ボール14が回転することにより、スピンドル5aに対し自由に回転することができる。
【0097】
なお本実施の形態において、アンビル9aのフランジ94aにより玉軸受29を介して副ハンマ7aの円筒部71の内周面を支持したが、必ずしも玉軸受29を介する必要はなく、十分な滑り性を確保できれば、フランジ94aの外周面で直接、副ハンマ7aの円筒部71の内周面を支持してもよい。
【0098】
また本実施の形態において、アンビル9aのフランジ94aは、実施の形態1のフランジ94およびカバー25と同様に、副ハンマ7aの円筒部71の前部開放端を密閉しているため、打撃音が外部に漏れるのを抑制することができる。ただし、玉軸受29を介して副ハンマ7aを支持する場合は、玉軸受29に隙間があるため、完全には密閉できない。防音抑制効果は、玉軸受29を設けず、フランジ94aの外周面で直接、副ハンマ7aの円筒部71の内周面を支持する場合の方が優れている。
【0099】
また、本実施の形態では、3つの遊星歯車42を採用した回転伝達機構4aによって電動モータ3の回転をスピンドル5aに伝達しており、2つの遊星歯車42を採用した実施の形態1の回転伝達機構4と相違している。しかし遊星歯車42の数は、歯の強度等によって適宜変更されるものであり、本質的な違いではない。
【0100】
(実施の形態3)
上述した実施の形態1および2では、ボルトやナットの締付用アンビル9および9aを用いたインパクトレンチ1について説明したが、先端部にドライバービットである6角ビットを挿入する穴を設けたアンビルを用いることにより、すりわり付きや十字穴付き等の小ねじの締付用インパクトレンチとして使用することもできる。図6に、図1に示したインパクトレンチ1のアンビル9の代わりに、6角ビット挿入用の穴が形成されたアンビル9bを用いた、本発明の実施の形態3にかかるインパクトレンチ1bの前部の断面を示す。
【0101】
アンビル9bの前部には、6角ビットを着脱可能に装着するためのビット挿入穴95が、軸線Oに沿って形成されている。またアンビル9bの外周面に形成された孔96には、6角ビットに設けられた溝と係合する鋼球97が挿入されている。
【0102】
ビット挿入穴95に6角ビットを挿入する際には、アンビル9bの外周側に嵌め込まれた円筒状の鋼球おさえ98をバネ99の力に抗して前方に移動させ、鋼球97を径の外方向に移動できるようにする。
【0103】
ビット挿入穴95への6角ビットの挿入が完了した段階で、鋼球おさえ98を元の位置に戻すと、鋼球97が径の中心方向に移動して6角ビットの溝に係合され、6角ビットがビット挿入穴95から抜け落ちるのを阻止する。
【0104】
実施の形態1および2で説明したハンマ構成(主ハンマ6、副ハンマ7、7a)を、アンビル9bを取り付けた本実施の形態にかかるインパクトレンチ1bに採用することにより、小ねじ等を締め付ける際に発生する軸線O方向の振動を軽減できる。
【0105】
以上説明したように本発明にかかるインパクトレンチは、ハンマをスピンドルの外周に嵌合された主ハンマと、この主ハンマを覆うように配設され、かつ主ハンマと一体となって回転する円筒型の副ハンマとで構成するものである。さらに副ハンマを、芯ぶれ運動が起こらないように、芯保持手段によって、回転の軸線がスピンドルの軸線と一致する状態で保持するものである。本発明のハンマ構成を採用すれば、副ハンマに比較して主ハンマの質量を減らし、回転打撃力を維持したまま、スピンドルの軸線方向に生じる振動を緩和することができる。結果として、作業者の疲労を軽減し、作業能率の低下や痺れの発生を防止できる。
【0106】
なお、上述した各実施の形態では、芯保持手段として、副ハンマの底部の中心に形成された孔、アンビルに形成された爪やフランジ、さらにハウジングに固定されたブッシュ等を用いたが、これらに限定されないことは云うまでもない。例えば、アンビルの後部に設けられた爪を覆うように円筒型の張出部をアンビルのフランジに設け、この張出部の内周面を副ハンマの円筒部の外周面と係合させることによって副ハンマの芯ぶれ回転を防止するようにしてもよい。
【0107】
また上述した各実施の形態では、スピンドルを回転させるモータとして電動モータを用いる場合について説明したが、エアモータを用いても同様の効果が得られることは云うまでもない。
【0108】
また上述した実施の形態2では、副ハンマを回転支持する軸受として玉軸受を用いたが、必ずしもこれに限定されない。コロ軸受やすべり軸受の使用を含め、要求される仕様に応じて適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明にかかるインパクトレンチは、締め付け作業時の軸線方向の振動を緩和して、作業者の疲労を軽減できるため、大きな締め付け力を必要とする大型のレンチや連続して締め付け作業を行う用途のレンチに採用すると、特に有効である。
【符号の説明】
【0110】
1、1a、1b インパクトレンチ
2 ケース
3 電動モータ
4、4a 回転伝達機構
5 スピンドル
6 主ハンマ
7、7a 副ハンマ
8、99 バネ
9、9a、9b アンビル
11、97 鋼球
12 針状コロ
13 ワッシャー
14 ボール
15 ボールガイド
16、17、18 緩衝部材
21 ハウジング
22 クラッチケース
24、24a ブッシュ
25 カバー
26 すべり軸受
27、28、29 玉軸受
31 回転軸
51、51a 張出部
53、61 カム溝
63、93 爪
71 円筒部
72 底部
91 角軸部
94、94a フランジ
95 ビット挿入穴
98 鋼球おさえ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって回転される円柱状のスピンドルと、
前記スピンドルの回転の軸線方向の前方に配置され、かつ前記スピンドルの軸線と回転の軸線が一致し、前部に締付用のソケット体が装着される角軸部もしくはドライバービットが挿入される穴を有し、後部に第1の爪が設けられたアンビルと、
前記スピンドルの外周に嵌合され、かつ前部に前記第1の爪と係合する第2の爪が設けられ、前記スピンドルの回転の軸線を中心に回転可能かつ前記軸線方向に移動可能な主ハンマと、
前記主ハンマと一体となって回転する円筒部を有し、この円筒部の内部空間に前記スピンドルが挿通されると共に前記主ハンマが収容される副ハンマと、
前記スピンドルと前記主ハンマとの間に介在し、前記スピンドルと前記主ハンマとの間に所定の値を超えるトルクが作用すると、前記主ハンマを回転させると共に前記アンビルの方向に前進させ、前記第2の爪を前記第1の爪に衝撃的に係合させることにより前記第1の爪を打撃し、前記アンビルを軸線回りに回転させる回転打撃機構と、
前記副ハンマの回転の軸線を前記スピンドルの回転の軸線と一致する状態で保持する芯保持手段と、を備えることを特徴とするインパクトレンチ。
【請求項2】
前記副ハンマとして、前記円筒部の後端部に底部が形成された有底円筒型の副ハンマを用い、
かつ前記底部の中心に形成された前記スピンドルを挿入する孔の内径を前記スピンドルの外径とほぼ等しくすることで、前記副ハンマの底部を芯保持手段として機能させることを特徴とする、請求項1に記載のインパクトレンチ。
【請求項3】
前記スピンドルおよび前記副ハンマを、それぞれの軸線が一致する状態で、かつ前記スピンドルについては第1の軸受を介して、前記副ハンマについては第2の軸受を介してケースに回転自在に支持することで、前記ケースを芯保持手段として機能させることを特徴とする、請求項1または2に記載のインパクトレンチ。
【請求項4】
前記第1の軸受と前記第2の軸受は、円筒型のブッシュの内周面に取り付けられ、かつこのブッシュは前記ケースに固定されていることを特徴とする、請求項3に記載のインパクトレンチ。
【請求項5】
前記副ハンマの円筒部の内周面を、前記アンビルに設けられた少なくとも2個の第1の爪の外周面によって回転自在に支持することで、前記アンビルの少なくとも2個の第1の爪を前記芯保持手段として機能させることを特徴とする、請求項1または2に記載のインパクトレンチ。
【請求項6】
前記副ハンマの円筒部の内周面を、前記アンビルの後部に設けられたリング状のフランジにより直接、もしくは軸受を介して回転自在に支持することで、前記フランジを前記芯保持手段として機能させることを特徴とする、請求項1または2に記載のインパクトレンチ。
【請求項7】
前記主ハンマの外周面に、断面が半円形で前記スピンドルの軸線と平行な複数の第1の溝が形成され、
前記副ハンマの円筒部の内周面のうち前記第1の溝に対応する位置に、断面が半円形で前記スピンドルの軸線と平行な複数の第2の溝が形成され、
かつ前記第1の溝と前記第2の溝に円柱部材が嵌め込まれることを特徴とする、請求項1または2に記載のインパクトレンチ。
【請求項8】
前記副ハンマの底部、前記アンビルの後部に形成されたリング状のフランジ、および前記副ハンマの円筒部の前部開放端と前記フランジとの間に配設されたリング状のカバーにより、前記副ハンマの円筒部の内部空間が密閉されるように構成したことを特徴とする、請求項2に記載のインパクトレンチ。
【請求項9】
前記副ハンマの底部と前記主ハンマとの間に、前記主ハンマを前記アンビルの方向に付勢するバネが配設されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のインパクトレンチ。
【請求項10】
前記副ハンマの後端部に、前記副ハンマを前記ケースに対して回転自在に支持する複数のボールと、これらのボールを案内するリング状のボールガイドとが配設され、かつ前記副ハンマと前記ボールガイドとの間に、衝撃を吸収するリング状の第1の緩衝部材が配設されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のインパクトレンチ。
【請求項11】
前記スピンドルの前部に形成された段部と前記アンビルの後端部との間に衝撃を吸収するリング状の第2の緩衝部材が配設されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のインパクトレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−280021(P2010−280021A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133997(P2009−133997)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【特許番号】特許第4457170号(P4457170)
【特許公報発行日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000142517)株式会社空研 (9)