説明

インパクト式ねじ締め装置

【課題】
設定された打撃トルクに基づき精度良く締め付けを行うことができるインパクト式ねじ締め装置を提供する。
【解決手段】
ブラシレス直流方式のモータと、衝撃トルクの発生を検知するトルクセンサを有し、トルクセンサの出力を用いて先端工具を所定の締め付けトルクで締め付けるインパクト式ねじ締め装置において、モータの起動時からねじ締め完了に至るまで、区間A、区間B、区間Cの3つのモードに分け、区間Aにおいては、モータの回転数を制限して最高回転よりも低い、一定回転数で締め付けを行い、区間Bでは回転数N(目標値)=N(前回値)+G×(T(目標値)−T(検出値))で締め付け、締め付けトルクの70%に達成したらいったん回転数を落としてから回転数N(目標値)=N(前回値)+G×(T(目標値)−T(検出値))、(G>G)で回転させて締め付けを行う(但し、T:トルク値(N・m)、G1、2:ゲイン定数)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにより回転駆動され、オイルパルスユニットよって発生する間欠的な打撃力を利用してボルト等の締結部材を締め付けるインパクト式ねじ締め装置に関し、特に、設定された打撃トルクに基づき精度良く締め付けを行うことができるインパクト式ねじ締め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクセンサを用いて一定のトルクでネジやボルト等の締め付けを行うねじ締め装置において、設定されたトルク値以上に締め付けてしまう、いわゆるトルクオーバーランを防ぐための種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、トルクセンサを用いて一定のトルクに締結するようにしたACナットランナにおいて、トルクオーバーランを防ぐために締め付けトルクの増加に伴ってACモータの回転数を低下させることが記載されている。特許文献2には、トルクオーバーランを防止しつつ作業時間の短縮を図るため、締め付けトルクに応じて出力軸の回転速度を3段階に低下させていくナットランナが開示されている。
【0003】
一方、ねじ締め装置として、油圧を利用して打撃力を発生させるオイルパルスユニットを用いた装置が知られている。オイルパルスユニットを用いたねじ締め装置は、金属同士の衝突がないため作動音が低いという特徴を有する。そのようなインパクト式ねじ締め装置を開示する例として、例えば特許文献3があり、オイルパルスユニットを駆動する動力としてエアモータが使用され、エアモータの出力軸がオイルパルスユニットに直結される。トリガスイッチを引くと、エアモータにエアーが供給され、規定の締め付けトルクで締め付けが行われたかを、トルクセンサや回転検出部からの出力を用いて検知し、規定の締め付け値に達したらエアモータの回転が停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−39772号公報
【特許文献2】特開平1−171777号公報
【特許文献3】特開平7−186060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ねじ締め装置のモータとして、ブラシレス直流モータが使われるようになってきた。ブラシレス直流モータは、ブラシの摩擦による騒音、火花や電気的ノイズ発生が無く、磨耗しない、接触不良などの故障がないというメリットを有する。ブラシレス直流モータを用いてオイルパルスユニットを駆動することにより省電力で作業効率の高いインパクト式ねじ締め装置を実現できる。このねじ締め装置においても、トルクオーバーランを防止することは重要な課題である。しかし、特許文献1の技術をブラシレス直流モータを用いたインパクト式ねじ締め装置に適用すると、モータの回転数が低下するとナットに与えるトルクが小さくなるという特性があるため、十分な締め付けトルクが得られなくなってしまう恐れがある。
【0006】
また、特許文献2の技術もナットランナに関するものであり、特許文献1の技術と同様に、インパクト式ねじ締め装置に適用するには向いていない。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、トルクオーバーランすることなしに設定された締め付けトルク値に基づき精度良く締め付けを行うことができるインパクト式ねじ締め装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの特徴によれば、ブラシレス直流方式のモータと、モータの回転を制御する制御回路と、モータによって駆動されるオイルパルスユニットと、オイルパルスユニットのシャフトに連結され先端工具が装着される出力軸と、出力軸における衝撃トルクの発生を検知するトルクセンサを有し、トルクセンサの出力を用いて先端工具を所定の締め付けトルクで締め付けるインパクト式ねじ締め装置において、
(1)制御回路は起動時からねじ締め完了に至るまで、区間A、区間B、区間Cの3つのモードに分け、
(2)区間Aにおいては、モータの回転数を制限して最高回転よりも低い、一定回転数で締め付けを行い、
(3)オイルパルスユニットにおいて最初の打撃が行われたら区間Bの制御に移行させ、下式によってモータの目標回転数を設定し、
(目標値)=N(前回値)+G×(T(目標値)−T(検出値)
ここで、N:モータの回転数(rpm)、T:トルク値(N・m)、G:ゲイン定数
この目標回転数における、モータへ供給するインバータ回路へのデューティーを、以下の式を用いて設定し、
Duty(目標値)=Duty(前回値)+G×(N(目標値)−N(検出値)
ここで、G:ゲイン定数
(4)オイルパルスユニットにおいて打撃が行われたときのトルクセンサの検出値が、設定された締め付けトルクの所定の値に達成したらいったん回転数を下げてから、区間Cの制御に移行させ、所定の値以下であったら区間Bの制御を繰り返し、
(5)区間Cにおいては、下式によってモータの目標回転数を設定し、
(目標値)=N(前回値)+G×(T(目標値)−T(検出値)
ここで、G:ゲイン定数(但し、G<G
この目標回転数における、モータへ供給するインバータ回路へのデューティーを、以下の式を用いて設定し、
Duty(目標値)=Duty(前回値)+G×(N(目標値)−N(検出値)
ここで、G:ゲイン定数(但し、G<G
(6)オイルパルスユニットにおいて打撃が行われたときのトルクセンサの検出値が、設定された締め付けトルクに達成しなかったら区間Cの制御を繰り返し、設定された締め付けトルクを超えたらモータを停止させるようにした。
【0009】
本発明の他の特徴によれば、区間Bから区間Cへの移行は、設定された締め付けトルク値の70%に達成したら行うようにした。また、区間Cにおいて、モータの回転数の上限値を設定しておき、上式によるN(目標値)が、上限値を超えた場合は、上限値の回転数でモータを回転させるようにした。制御回路にはマイコンを設け、区間A乃至Cにおけるモータの回転制御はマイコンによって行うようにした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によればトルクセンサによって検出されたトルク値が所定値を超えたら、回転数を落として、請求項1に記載した式に従って回転数を制御しながら打撃することにより目標トルクまで締め付けるようにしたので、目標トルクを大幅に超えて締め付けることを防止することができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、区間Bから区間Cへの移行は、設定された締め付けトルク値の70%に達成したら行うので、締め付け対象が着座する付近までは高速で締め付け、その後は低く設定された回転数で精度良く確実に打撃するので、理想的なトルク増減値で締め付けを行うことができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、区間Cにおいて、モータの回転数の上限値を設定しておき、上式によるN(目標値)が、上限値を超えた場合は、上限値の回転数でモータを回転させるので、締め付けトルク値を超えて締め付けをすることを防止することができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、制御回路はマイコンを有し、区間A乃至Cにおけるモータの回転制御はマイコンによって行うので、精度良く締め付けを行うことができる。
【0014】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るインパクト式ねじ締め装置の全体を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるインパクト式ねじ締め装置1の制御回路を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態において締め付け制御を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係るインパクト式ねじ締め装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図1は本発明の実施形態に係るインパクト式ねじ締め装置の概略構成を示すブロック図である。インパクト式ねじ締め装置1は、電源ボックス30からケーブル等によって供給される電力を利用してモータ3を駆動し、モータ3によってオイルパルスユニット10を駆動し、オイルパルスユニット10に連結された出力軸に回転力と打撃力を与えることによって六角ソケット等の図示しない先端工具に回転打撃力を連続的又は間欠的に伝達してナット締めやボルト締め等のねじ締め作業を行う。
【0017】
モータ3は、例えば永久磁石を有する回転子と、鉄心に巻かれた巻線をもつ固定子を有する公知のブラシレス直流モータが用いられる。モータ3には、回転子の回転位置を検出するための回転位置検出素子(図示せず)が搭載され、検出された位置に基づいてモータ駆動回路7によって、モータ3の回転制御が行われる。モータ駆動回路7には、トランジスタやMOSFETなどの半導体素子によって構成されるインバータ回路を含み、これらにパルス幅変調信号(PWM信号)を供給し、この信号のパルス幅(デューティ比)を変化させることによってモータ3への電力供給量を調整し、モータ3を所望の回転速度で回転させる。
【0018】
インパクト式ねじ締め装置1のグリップ部11には、トリガスイッチ8が配設され、トリガスイッチ8を引いた量に比例する信号が、制御回路2に伝達される。また、グリップ部11の下方、ハウジングの先端工具と反対側の面には、LED15が設けられる。LED15は、例えば、緑、赤の2種類のLEDであり、ねじ締め作業の完了が正常の行われたことを示すLED(第1の表示状態:例えば緑ランプ点灯)と、ねじ締め作業が正常の行われなかったことを示すLED(第2の表示状態:例えば赤ランプ点滅)を有する。さらに、外部の機器との通信状態を示すLED(第3の表示状態:例えば青ランプ点滅)を別途設けても良い。
【0019】
オイルパルスユニット10は、公知のものを用いることができ、主に、モータ3と同期して回転する駆動部分と、先端工具と同期して回転する出力部分の2つの部分により構成され、駆動部分と出力部分により形成される閉空間内には、トルクを発生するためのオイル(作動油)が充填される。
【0020】
トリガスイッチ8が引かれてモータ3が起動されると、制御回路2はトリガスイッチ8の引いた量及び設定された締め付けトルク値に応じてモータ3の目標回転数を設定し、モータ3が目標回転数で回転するように制御回路2でPWM信号のパルス幅(デューティ比:%)を計算して、その計算値に応じてモータ駆動回路7のインバータ回路を制御する。モータ3が回転すると、その回転力はオイルパルスユニット10に伝達される。オイルパルスユニット10は、出力軸に負荷のかかっていないとき、又は、負荷が小さい際には、オイルの抵抗のみでモータ3の回転にほぼ同期して回転する。出力軸に強い負荷がかかると出力軸の回転が止まるため、オイルパルスユニット10の外周側のライナのみが回転を続け、1回転に1箇所設けられたオイルを密閉する位置にてオイルの圧力が急激に上昇して衝撃パルスを発生し(打撃)、尖塔状の強いトルクにより出力軸を回転させる。以後、同様の衝撃パルスの発生が数回繰り返される。
【0021】
オイルパルスユニット10の出力軸には、歪ゲージ等のトルクセンサ9が取り付けられ、制御回路2は衝撃パルス発生時の締め付けトルク値を検出し、設定された締め付けトルクに到達したらモータ3の回転を停止させる。
【0022】
次に、図2のブロック図を用いてインパクト式ねじ締め装置1の制御回路を説明する。本実施形態では、モータ3は3相のブラシレス直流モータで構成され、永久磁石を含んで構成される回転子と、スター結線された3相の固定子巻線U、V、Wからなる固定子と、回転子の回転位置を検出するための回転位置検出素子を含む。回転位置検出素子からの位置検出信号に基づいて固定子巻線U、V、Wへの通電方向と通電時間の比率(デューティー比)が制御され、モータ3が回転する。
【0023】
モータ駆動回路7上には、3相ブリッジ形式に接続されたFET(Field effect transistor)等の6個のスイッチング素子からなるインバータ回路を含んで構成される。インバータ回路は、モータ3の回転数を検出して回転数制御回路17に送り、回転数制御回路17からスイッチング素子駆動信号を受けてスイッチング動作を行い、外部の電源ボックス30から供給される直流電源を、3相(U相、V相及びW相)電圧Vu、Vv、Vwに変換して固定子巻線U、V、Wに供給する。尚、インバータ回路の具体的な駆動方法は、PWM(Pulse Width Modulation)方式など公知の方法を用いることができるので、ここではその説明を省略する。
【0024】
マイコン16は、図示していないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するための中央処理装置(CPU)、処理プログラムや制御データを記憶するためのROM、データを一時記憶するためのRAM、時計機能をもつタイマ等を含んで構成される。
【0025】
電源ボックス30内には全波整流平滑回路31が設けられる。全波整流平滑回路31は、例えば、整流素子4個をブリッジ状に接続した整流回路とコンデンサによる平滑回路を組み合わせたもので、本実施形態ではトランスを利用しないので、AC商用電源29に対して非絶縁の状態にある。全波整流平滑回路31によって、例えば、140V直流に変換され、この高圧直流はモータ駆動回路7と18V定電圧回路18に供給される。18V定電圧回路18は、直流140Vの電源から18Vの直流電圧を作成するもので、公知のチョッパー回路で構成しても良いし、ツエナーダイオードとトランジスタを組み合わせた公知の定電圧回路で構成しても良い。次に、18V定電圧回路18の出力は、±12V電源19に入力される。±12V電源19では、+12Vと−12Vの電圧を生成する。−12Vは歪ゲージ12の駆動用に用いられる。なお、±12V電源19から歪ゲージ12に至る電源ラインは図示していない。±12V電源19の出力は、定電圧回路20に入力され、定電圧回路20によって、マイコン16が動作するための動作電圧Vdc、例えば5V直流と3.3V直流が生成される。
【0026】
歪ゲージ12には、トルク検出回路21の発信回路21aからの発信信号が入力用トランス22aを介して供給される。同時に発信回路21aからの基準振幅はマイコン16にも送られる。この基準振幅の入力がないとマイコン16はトルク波形から歪みを検出できないからである。出力軸5にオイルパルスユニット10による締め付けトルクが生ずると、歪ゲージ12の抵抗値が変化し、この抵抗値の変化により変化した基準振幅信号は出力用トランス22bを介して検波回路21bに伝達され検波される。検波回路21bには、マイコン16からオフセット調整用の信号が送られているので、オフセット補正された検波信号をマイコン16に出力する。マイコン16は、歪ゲージ12の出力値を用いて、どのくらいのトルク値で締め付けが行われたか(締め付けトルク)を算出する。
【0027】
この際、マイコン16は設定された締め付けトルクに応じて、モータ3の回転速度を決定する。また、マイコン16は設定された締め付けトルク値で正常に締め付けが完了したと判断したら、モータ3を停止させるとともに、LED15を点灯させる。作業者は、モータ3が自動停止したこと、及び、LED15の点灯により締め付け作業が正常に完了したか、異常に完了したかを認識できる。LED15として、本実施形態では3つのLEDが用いられる。1つ目は「正常締め付け完了」を示す緑色のLED15aで、作業者はこの緑色LED15aの表示によって設定された目標締め付けトルクに基づき、正常に締め付けが完了したことを認識できる。また、この緑色LED15aは締め付けが完了したことを示す「締め付け完了」を知らせるランプとしての意味もあるので、作業者はこのランプが付いたらトリガスイッチ8を戻すことができる。
【0028】
2つ目は、「締め付け異常」を示す赤色のLED15bである。この赤色LED15bは、緑色LED15aの代わりに点灯するもので、マイコン16が異常を検出した段階で直ちに点灯する。尚、作業者に異常であることを認識させるために、単なる点灯でなく点滅させるようにすると好ましい。3つ目は、「通信異常」を示す青色LED15cである。この青色ランプは、マイコン16と外部の通信機器との通信状態に異常を検出したら点灯する。
【0029】
図3は、本実施形態においてトルク制御をする方法を説明する図である。本実施形態によるねじ締め時においては、締め付け状態に応じて、モータ3を3段階に分けて制御する。図3の上側のグラフは、時間の経過とオイルパルスユニット10における打撃時のトルクとの締め付けトルクとの関係をプロットしたものであり、横軸は時間t(s)、縦軸はトルク値T(N・m)である。図3の下側のグラフは、時間t(s)とモータの回転数(rpm)との関係を示す図である。上下のグラフを対応させるため、横軸の間隔については共通にしてある。
【0030】
まず、ボルトの締め付け作業の前に、マイコン16に対して締め付けの設定トルク値(N・m)を設定しておく。設定の仕方は、インパクト式ねじ締め装置1に設けられる操作ボタンで設定しても良いし、図示しない信号ケーブルにより外部装置からマイコン16に指示を出すようにしても良い。作業者が先端工具にボルトやナット等をセットし、先端工具を被締結材に位置決めした後にトリガスイッチ8を引くと、その引かれたストロークに応じてマイコン16はモータ3を回転させる(区間A)。但し、区間Aには、マイコン16によって上限回転数41があらかじめ設定され、トリガスイッチ8をその上限回転数41以上のストロークで引いたとしても、上限回転数41を保って回転するように制限される。このように、区間Aでは、回転数を制限することによって1回目の打撃でいきなり目標トルク(カットトルク)を超えないように、モータ3の回転数を制限する。制限の仕方は、インバータ回路に供給されるパルス幅変調信号のデューティー比により制限できる。
【0031】
区間Aの回転によってボルトが締められ、オイルパルスユニット10による最初の打撃51が行われると、それを検出したマイコン16は、区間Bにおけるモータ3の回転制御に移行する。尚、最初の打撃51の検出は、歪ゲージ12の出力をモニタすることによって行う。
【0032】
区間Bにおいては、いわゆるソフトジョイント領域における制御を行うもので、この領域においての制御の特徴は、トリガスイッチ8のストローク量に比例させてモータ3を回転させるのではなく、以下の式を用いてモータ3の目標回転数を決定して制御することである。
(目標値)=N(前回値)+G×(T(目標値)−T(検出値)
ここで、N:モータの回転数(rpm)、T:トルク値(N・m)、G:ゲイン定数
この目標回転数における、デューティーは、以下の式を用いて制御する。
Duty(目標値)=Duty(前回値)+G×(N(目標値)−N(検出値)
ここで、N:モータの回転数(rpm)、G:ゲイン定数
【0033】
区間Bにおいて、目標回転速度を打撃が行われるごとに再設定しながら制御すると、その目標回転数は、図中42〜44のように決定される。また、その目標回転速度でモータ3が回転しながら、打撃52〜54が行われる。ここで、打撃54が行われた際にカットトルクの70%を超えたので、モータの回転数を所定数だけ落としてから区間Cにおけるモータの制御に移行する。この区間Cへの移行時にモータ3の回転速度を落とすのは、区間Bのまま目標回転数を決める方法を続けると、その目標回転数次第では、次の打撃の際に目標トルクを超えてしまう恐れがあり、場合によっては設定トルクよりも高すぎるトルクで締めてしまう恐れがあるためである。そのため、所定のトルク値、本実施例では締め付けトルク値が70%になったら回転数を落とし、区間Cの制御に切り替えている。尚、本実施形態では、ソフトジョイント方式の締め付けを想定しており、この70%付近でボルトが着座する。しかしながら、区間Bから区間Cへの切り替えタイミングは、締め付け対象や目標トルク値、ソフトジョイントやハードジョイントであるか等、様々なファクターに基づいて適宜設定できる。また、区間Bから区間Cに移行する際に落とす回転数は、区間Cで設定されるであろう最初の目標回転速度を考慮して適宜設定すればよい。
【0034】
区間Bにおいては、トリガスイッチ8は、単なるON/OFF制御用のトリガとして用い、トリガスイッチ8が少しでも引かれていれば、そのストローク量に関わりなくモータ3をマイコン16によって設定される回転数で回転させるようにすると良い。一方、トリガスイッチ8が離された場合、即ち、ストロークがゼロになった場合は、モータ3を停止させる。このようにすれば、作業者がストローク量を調節してモータ3の回転速度を調整してしまうことを防止でき、締め付け状態にばらつきが出ることを防止できる。
【0035】
目標回転数の設定は、打撃が行われる毎に再計算される。例えば、打撃51が行われたら上式によって目標回転数42が計算され、計算された目標回転数に対応するデューティー比を設定してモータ3を回転させる。以後、歪ゲージ12によって検出した打撃トルク値が、カットトルクの所定の割合、例えば70%となるまで、区間Bの制御を繰り返す。
【0036】
カットトルクの70%に達成した場合は、区間Cにおける制御に移り、モータ3の回転速度を区間Bよりも低めに設定して、以下の式を用いて制御する。
(目標値)=N(前回値)+G×(T(目標値)−T(検出値)
ここで、N:モータの回転数(rpm)、T:トルク値(N・m)、G:ゲイン定数
この目標回転数における、デューティーは、以下の式を用いて制御する。
Duty(目標値)=Duty(前回値)+G×(N(目標値)−N(検出値)
ここで、N:モータの回転数(rpm)、G:ゲイン定数
【0037】
図3の45〜46の傾きから理解できるように、ゲイン定数は、G>G、及び、G>Gの関係がある。ゲイン定数の値は、あらかじめマイコン16に設定しておくと良い。また、区間Cにおいては、締め付けトルク値が規定値を超えないように、上限回転数が設定され、それをキープするように制御される。図6の48においては、上式による回転数が上限回転数を超えたので、上式による計算値でなく、上限回転数で回転させているものである。
【0038】
このようにして、本実施形態では、区間Bにおいては早めの回転速度でボルトを速く締め付け、目標トルクの70%を超えてからは、モータ3の回転速度を制限してボルトを締めすぎないように制御することによって、目標トルクにて精度良く締め付けることができる。図3において、打撃58で目標トルクに達成したので、マイコン16はそれを検出して、モータ3の回転を停止させる。
【0039】
次に図4を用いて、制御回路2による制御手順を説明する。図4は、本実施形態に係るインパクト式ねじ締め装置1の動作を示すフローチャートである。このフローチャートによる手順は、制御回路2に含まれるマイコン16によって実行される。まず、締め付け作業を開始する前に、マイコン16は締め付けトルクの設定値である、目標トルク値を取得する(ステップ61)。次に、作業者によってトリガスイッチ6が引かれたかどうか検出され、引かれたらステップ63に進む(ステップ62)。トリガスイッチ62が引かれると、運転モードを設定する(ステップ63)。トリガスイッチ62が引かれた直後は、区間Aの運転モードを設定する。モータ3が回転すると、図3の51に示すように最初の打撃が行われるまでボルトが回転する。
【0040】
最初の打撃が行われると、その打撃の際の締め付けトルク値を検出する(ステップ65)。この検出は歪ゲージ12を用いて行われる。この検出値はマイコン16によって評価され、締め付けが正常に行われたか、異常であるかを判断する(ステップ66)。ここで、締め付け異常とは、想定した打撃回数以内で目標トルク値に達成した場合(例えば、1回目の打撃でいきなり目標トルクに達成した場合)や、目標トルク値よりも大幅に高いトルク値で締め付けられ、許容上限トルク(MAX)以上で締め付けられた場合や、いつまでたっても目標トルクに達しない場合等である。
【0041】
締め付け異常でないと判断されたら、運転モードの切替条件を満たしているかを判定する(ステップ67)。つまり、最初の打撃51の場合は、運転モードを区間Aから区間Bの制御への変更が必要となる。また、運転モードが区間Bの場合は、ステップ65で検出された締付けトルク値が目標トルク値の70%に否かを判定し、その打撃で初めて70%を超えたら運転モードを区間Bから区間Cの制御への変更が必要となる。変更が必要な場合は、ステップ63に戻る(ステップ67)。
【0042】
次に、検出された締め付けトルク値が目標トルクを超えているか判断し(ステップ68)、達していなかったらステップ64に戻り、達していたらモータ3の回転を停止させて(ステップ69)、正常締め付けを示すLED15a(緑色)を点灯させる(ステップ70)。その後、ステップ62に戻り次のボルトの締め付け作業に備える。
【0043】
ステップ66で、締め付け異常と判断されたら、モータ3の回転を停止させて(ステップ71)、異常締め付けを示すLED15b(赤色)を点滅させ(ステップ72)、処理を終了する。尚、図4のフローチャートでは、通信異常の発生を示すLED15cの点灯について言及していないが、これは回転・打撃状態と連動させる必要はなく、通信異常が発生したら任意のタイミングで点灯又は点滅させるようにすれば良いからである。
【0044】
上述の実施形態によれば、トルクオーバーランすることなしに、設定された打撃トルクに基づき精度良く締め付けを行うことができる。
【0045】
以上、本発明を示す実施形態に基づき説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施形態では区間Bにおいて、トリガスイッチ8を単なるON/OFF制御用のトリガとして用いたが、OFFの制御を省略して、トリガスイッチ8を少しでも引いたら区間A〜Cの制御を開始し、たとえトリガスイッチ8を戻してもネジやボルトの締め付けが終わるまでの動作を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0046】
1 インパクト式ねじ締め装置 2 制御回路
3 モータ 7 モータ駆動回路 8 トリガスイッチ
9 トルクセンサ 10 オイルパルスユニット 11 グリップ部
12 歪ゲージ 14 スイッチ回路基板 15 LED
16 マイコン 17 回転数制御回路 18 18V定電圧回路
19 ±12V電源 20 定電圧回路 21 トルク検出回路
21a 発信回路 21b 検波回路
22a、22b トランス 29 AC商用電源
30 電源ボックス 31 全波整流平滑回路
41〜48 目標回転数 51〜58 打撃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレス直流方式のモータと、該モータの回転を制御する制御回路と、前記モータによって駆動されるオイルパルスユニットと、該オイルパルスユニットのシャフトに連結され先端工具が装着される出力軸と、前記出力軸における衝撃トルクの発生を検知するトルクセンサを有し、前記トルクセンサの出力を用いて先端工具を所定の締め付けトルクで締め付けるインパクト式ねじ締め装置において、
(1)前記制御回路は起動時からねじ締め完了に至るまで、区間A、区間B、区間Cの3つのモードに分け、
(2)区間Aにおいては、前記モータの回転数を制限して最高回転よりも低い、一定回転数で締め付けを行い、
(3)前記オイルパルスユニットにおいて最初の打撃が行われたら区間Bの制御に移行させ、下式によって前記モータの目標回転数を設定し、
(目標値)=N(前回値)+G×(T(目標値)−T(検出値)
ここで、N:モータの回転数(rpm)、T:トルク値(N・m)、G:ゲイン定数
この目標回転数における、前記モータへ供給するインバータ回路へのデューティーを、以下の式を用いて設定し、
Duty(目標値)=Duty(前回値)+G×(N(目標値)−N(検出値)
ここで、G:ゲイン定数
(4)前記オイルパルスユニットにおいて打撃が行われたときの前記トルクセンサの検出値が、設定された前記締め付けトルクの所定の値に達成したらいったん回転数を下げてから区間Cの制御に移行させ、所定の値以下であったら区間Bの制御を繰り返し、
(5)区間Cにおいては、下式によって前記モータの目標回転数を設定し、
(目標値)=N(前回値)+G×(T(目標値)−T(検出値)
ここで、G:ゲイン定数(但し、G<G
この目標回転数における、前記モータへ供給するインバータ回路へのデューティーを、以下の式を用いて設定し、
Duty(目標値)=Duty(前回値)+G×(N(目標値)−N(検出値)
ここで、G:ゲイン定数(但し、G<G
(6)前記オイルパルスユニットにおいて打撃が行われたときの前記トルクセンサの検出値が、設定された締め付けトルクに達成しなかったら前記区間Cの制御を繰り返し、設定された前記締め付けトルクを超えたら前記モータを停止させる、
ことを特徴とするインパクト式ねじ締め装置。
【請求項2】
前記区間Bから区間Cへの移行は、設定された前記締め付けトルク値の70%に達成したら行うことを特徴とする請求項1に記載のインパクト式ねじ締め装置。
【請求項3】
前記区間Cにおいて、前記モータの回転数の上限値を設定しておき、上式によるN(目標値)が、前記上限値を超えた場合は、前記上限値の回転数で前記モータを回転させることを特徴とする請求項1又は2に記載のインパクト式ねじ締め装置。
【請求項4】
前記制御回路はマイコンを有し、前記区間A乃至Cにおけるモータの回転制御は前記マイコンによって行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインパクト式ねじ締め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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