説明

インビトロでのタンパク質折りたたみのための方法およびシステム

再折りたたみされたタンパク質を回収する方法は、変性タンパク質の濃縮溶液と再折りたたみ希釈剤とを静的混合することによって再折りたたみされたタンパク質を得る工程を包含する。この方法は、大処理容量で微生物によって産生された組換えタンパク質に特に適する。この変性タンパク質溶液は、微生物宿主からタンパク質を単離し、そしてこれらを変性剤に曝露することによって得られ得る。この溶液は、タンパク質の適切な折りたたみに適合する静的混合条件下で適切な再折りたたみ希釈剤と混合されることにより、再折りたたみされたタンパク質が、好ましくは迅速かつ高収率で、得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1.技術分野)
本発明は、タンパク質化学の一般的な領域にある。より詳細には、本発明は、組換え技術によって生産されたタンパク質を再折りたたみするための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
(2.関連分野)
組換えタンパク質のための代表的な商業的生産スキームは、しばしば哺乳動物起源の異種産物を産生するために、細胞(しばしば、Eschericia coli(E.coli)のような細菌細胞)の形質転換を包含する。タンパク質をコードする遺伝子は宿主細胞に挿入され、通常の細胞媒介性の産生を介して対応するタンパク質に翻訳される。しかしながら、細菌宿主細胞は、このような組換えタンパク質を正しく折りたたむことができないかもしれない。なぜなら、細菌宿主細胞は、哺乳動物細胞において存在し組換えタンパク質を正しく折りたたむ環境および小器官を欠くからである。結果として、細胞は、折りたたまれていないか、不適切に折りたたまれたタンパク質の凝集体を生じ得る。高濃度で産生される場合、折りたたまれていないか、部分的に折りたたまれたタンパク質は、不溶性の凝集体または凝塊形成した不溶性の実体(封入体として知られる)を形成し始め得る。これらは、ペリプラズム空間(periplasmic space)に蓄積し、時折、細菌細胞の総タンパク質のうち50%を超えて占め得る。多くの封入体は、目的のタンパク質(時折、90%を超えて精製されたタンパク質を生じる)(封入体は、既に目的のタンパク質を高程度に精製する)から構成され、小分子、宿主細胞タンパク質および核酸が封入体の残りを構成する。
【0003】
頻繁に生じるミスフォールディングを考慮して、哺乳動物細胞ではなくE. coli細胞で組換えタンパク質を生産することの利点は、細菌細胞が、容易に利用可能であり、より速く増殖し、かつ目的のタンパク質を過剰生産することができることである。これらはまた、哺乳動物細胞で見出され得る特定のウイルスを保持することができない。したがって、E.coliからタンパク質を精製および適切に再折りたたむ試みが、研究によって調べられ、それによって、ヒト注射のための経済的かつより安全な産物が製造されている。
【0004】
例えば、凝集体または封入体からタンパク質を単離した後、タンパク質を精製することにおける第一の工程は、高い塩濃度(例えば、6Mグアニジン塩酸塩(GuHCL)または8M尿素)中でそれを可溶化することである。両方の塩は、一緒に封入体を保持する水素結合および疎水的相互作用を破壊することによってタンパク質を溶解および展開(unfold)するカオトロピック試薬である。例えば、非特許文献1を参照のこと。さらに、還元試薬(例えば、ジチオトレイトール、システインまたはβ−メルカプトエタノール)が、タンパク質の産生の間に、正しく連結されていないジスルフィド結合を破壊するために必要とされ得る。続いて、折りたたまれていないタンパク質溶液を、再折りたたみ緩衝液(refolding buffer)(おそらく、ジスルフィド結合形成を補助するためのオキシド−シャッフリング試薬(oxido−shuffling reagent)を含む)で希釈または透析し、変性剤濃度を低下させ、タンパク質を、その固有の化学構造を使用して再び折りたたませる。
【0005】
再折りたたみ工程の間の産物の損失についての主要な経路は凝集である。別個のタンパク質間の誘引力(attractive force)が、タンパク質と溶質との間の誘引力よりも、より有利である場合に、凝集が生じる。続いて、好ましい残基〜残基分子間引力(タンパク質をその天然の状態に再び折りたたむことを促進する)が、好ましくない分子間引力と競合し、可溶性の凝集体をもたらす。その後、これらの可溶性凝集体は蓄積し得、不溶性の凝集体の沈殿をもたらし得る。時折、凝集は可逆反応であり得るが、凝集体を再び折りたたむよう試みることは望ましくない。なぜなら、このことは、製造時間とコストとを増大させるからである。それゆえ、一度以前に凝集または凝塊形成したタンパク質を可溶化したら、概して、さらなる凝集は回避されるべきである。
【0006】
現在までに、タンパク質の再折りたたみおよび凝集の詳細な機構は、複雑であり、議論され続けている。再折りたたみが、一工程で生ぜず、その代わり、変性剤が除去されたときに、タンパク質が個別のコンフォメーション変化に従うことが知られている。折りたたまれていない状態と折りたたまれた状態との間のこれらの中間的なコンフォメーションにおいて、再折りたたみ、凝集またはミスフォールディングの経路(産物の損失への別の経路)が競合する。環境の条件およびタンパク質の固有の化学構造は、競合する経路のうちのどれが再折りたたみの間に優勢になるかを記載することを補助する。
【0007】
再折りたたみの間に凝集を回避することの試みは、環境の条件(タンパク質−溶質混合物のタンパク質濃度、変性剤濃度および局在化した温度を含む)を変化させることによってなされてきた。例えば、凝集反応の速度論は、タンパク質濃度に関して、再折りたたみ反応よりも高いオーダーであることが見出されている(非特許文献2)。この理由のため、再折りたたみは、しばしば、溶解度の限界と比較して薄めた条件下で実行される。このような条件下で、分子が互いに接触するようになる機会および誘引(attraction)の可能性が低減される。
【0008】
実験的に、タンパク質はまた、中間的な変性剤濃度において、再折りたたみの間に凝集する傾向を示す。中間的なコンフォメーションにある場合、タンパク質は、上述のように、その疎水性残基において凝集する能力を有する曝露された領域を有し得る。次いで、再折りたたみは、変性剤を除去するか、または減少させるのが遅すぎる場合に、失敗し得る。
【0009】
さらに、タンパク質に対する熱性ストレスは、再折りたたみの間のタンパク質凝集の可能性を高める。多くのタンパク質について、低い温度において凝集反応が抑制されるようであるが、一方で、報告されているように、他のタンパク質は、より高い温度において再折りたたみされ、凝集は重要な経路ではない場合がある。この再折りたたみ/凝集挙動の機構は、最終的に確立されていない。このことは、疎水力の温度依存性(タンパク質間の非極性表面の遮蔽を含む)(例えば、非特許文献3を参照)、または凝集する傾向のある中間体についての別の独立の経路に起因し得る。
【0010】
再折りたたみの間の凝集について公知のように、高いタンパク質濃度、変性剤濃度および温度の領域の偏在を回避するために、濃縮物質は、希釈緩衝液と迅速に混合される必要がある。従来の実験手順は、整流していない(unbaffled)タンク中での勾配刃インペラー(pitched blade impellor)の使用による、濃縮形態の溶解タンパク質と希釈緩衝液との迅速な混合を包含する。この型の動的ミキサーは、激しい混合のために産業界で最も一般的に使用されているデバイスである。このミキサーは、最初、乱流速度(turbulent speed)で撹拌し、上記希釈緩衝液に渦を導入するように設定される。次いで、ドロッパーが上記渦もしくは直接上記インペラーに向けられて、このドロッパーが、濃縮タンパク質溶液をゆっくりと送達する。
【0011】
しかし、機械的ミキサーをスケールアップすることは、挑戦的であることが証明されている。研究は、低速の撹拌において、混合が乱流にならない場合、隔離された混合の領域が形成されることを示している(非特許文献4)。これらの領域において、上述のように、タンパク質は、濃縮しすぎて、凝集の危険に晒される。したがって、解決策は、再折りたたみの間に、高い乱流速度で撹拌し、混合の領域の隔離を回避することである。しかし、亜音速パルスに起因するインペラーからの高い剪断ストレス、および刃のトレーリングエッジ(trailing edge)近くに偏在するキャビテーションを考慮すれば、タンパク質は、このプロセスをスケールアップするにつれ、より高い機械的変性ストレスを受け得る。例えば、非特許文献5を参照のこと。さらに、高速撹拌は、このシステムへの高い動力インプットをもたらし、それによって、動力散逸を介してタンパク質に熱変性ストレスを与える可能性がある。
【非特許文献1】Ladisch,Michael R、Bioseparations Engineering:Principles,Practice and Economics(2001)John Wiley and Sons,Inc.、118−123
【非特許文献2】Kiefhaber,T.、Rudolph,R.、Kohler,H.−H.、Buchner,J.「Protein Aggregation in vivo: A Quantitative Model of the Kinetic Competition Between Folding and Aggregation.」Bio/Technology,(1991)9,825−829
【非特許文献3】Baldwin,R.L.、「Temperature dependance of the hydrophobic interaction in protein folding.」Proc.Natl.Acad.Sci.(1986)83,8069−8072
【非特許文献4】Makino,T.,Ohmura,H.,Kataoka,K.「Observation of Isolated Mixing Regions in a Stirred Vessel.」Journal of Chemical Engineering of Japan(2001)34 (5),574−578
【非特許文献5】Fennema,OR.(1996)「Food Chemistry.」第3版、Marcel Dekker,Inc.、New York.、第6章
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
タンパク質(特に組換えタンパク質)のラージスケール産生のための、改善されたタンパク質再折りたたみプロセス(改善された混合スキームを含む)が、所望される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、変性タンパク質の濃縮溶液と再折りたたみ希釈剤とを静的混合し、再折りたたみされたタンパク質を含む混合物を取得することによって、タンパク質を再折りたたみする方法を提供することにより、これらの需要に取り組む。この方法は、ラージスケール処理容量(例えば30L以上、例えば200L以下、1000L以下、さらに10,000L以下)で微生物によって産生された組換えタンパク質に、特に適する。上記変性タンパク質溶液は、微生物宿主からタンパク質を単離し、そしてこのタンパク質を変性剤中に曝露することによって、取得され得る。この溶液は、タンパク質の適切な折りたたみに適合する静的混合条件下で適切な再折りたたみ希釈剤と混合されることによって、生物学的活性を有する再折りたたみされたタンパク質が、迅速にかつ高収率で得られる。本発明は、タンパク質(特に、組換えタンパク質)のラージスケール産生における特定の用途を見出す。
【0014】
本発明はまた、本発明のタンパク質再折りたたみ方法を実行するために適するシステムを提供する。このシステムは、静的ミキサー(static mixer)、該静的ミキサーとつながっておりかつその上流にあるコンジット、該静的ミキサーの上流にあるコンジットへの入口、ならびに該静的ミキサーの下流にある低剪断動的混合容器(dynamic mixing vessel)を備える。作動において、再折りたたみ希釈剤の供給源が、静的ミキサーの上流のコンジットに送達され、そして濃縮された変性タンパク質の供給源は、静的ミキサーの上流の入り口を介して該コンジットに送達される。静的混合の後で、この溶液は、低剪断動的混合容器中で一定時間維持され、プロセス収量を最適化する。上記静的ミキサーは、コンジット内に一連の混合要素を備える。この混合要素は、固定式であっても、可動式であってもよいが、非動力式(un−powered)(すなわち、静的)であり、そして、その上を流れる液体流れの動きによってのみ、混合作用を提供する。
【0015】
本発明のこれらのそして他の局面および特徴は、以下の発明の詳細な説明と添付の図面とが組み合わせて参照される場合に、より完全に明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(本発明の特定の実施形態の説明)
ここで、本発明の方法およびシステムは、いくつかの実施形態を参照して説明される。記載の実施形態の重要な性質および特徴は、文中の構造において説明される。本発明が、これらの実施形態と組み合わせて記載される場合、本発明は、これらの実施形態に限定されることを意図されないことが理解されるべきである。対照的に、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲内に含まれ得る代替物、改変および均等物を、網羅することが意図される。以下の記載において、多くの特定の詳細が、本発明のよりよい理解を提供するために示される。本発明は、これたの特定の詳細のいくつかもしくは全てを用いずに実施され得る。言い換えれば、周知のプロセス操作は、本発明を不必要に不明瞭にしないために、詳細には記載されていない。
【0017】
(序)
本発明は、変性タンパク質の濃縮溶液と再折りたたみ希釈剤とを静的に混合することによって再折りたたみされたタンパク質を含む混合物を取得することにより、再折りたたみされたタンパク質を回収する方法を提供する。この方法は、大処理容量(例えば、10L、30Lもしくは100L、またはそれより多い、例えば、200L以下、1000L以下、またはさらに10,000L以下)で、微生物によって産生された組換えタンパク質(例えば、インターフェロンβ−1b)に、特に適する。変性タンパク質溶液は、微生物宿主からタンパク質を単離し、そしてこのタンパク質を変性剤に曝露することによって、得られ得る。この変性タンパク質溶液は、タンパク質の適切な折りたたみに適合する静的混合条件下で適切な再折りたたみ希釈剤と混合されることにより、生物学的活性を有する再折りたたみされたタンパク質が、迅速かつ高収率で得られる。本発明は、再折りたたみされたタンパク質、特に組換えタンパク質のラージスケール産生における特定の用途を見出す。
【0018】
本発明はまた、本発明の再折りたたみされたタンパク質の回収方法を実施するためのシステムを提供する。このシステムは、静的ミキサー、該静的ミキサーとつながっておりかつその上流にあるコンジット、ならびに該静的ミキサーの上流にあるコンジットへの入口を備える。作動において、再折りたたみ希釈剤の供給源が、静的ミキサーの上流にあるコンジットに送達され、そして濃縮された変性タンパク質の供給源が、静的ミキサーの上流にある入り口を介して該コンジットに送達される。上記静的ミキサーは、一連の混合要素をコンジット内に備える。この混合要素は、固定式であっても、可動式であってもよいが、非動力式(すなわち、静的)であり、そして、その上を流れる液体流れの動きによってのみ、混合作用を提供する。
【0019】
(静的混合)
タンパク質混合は、2つの事象の結合である:凝集する可能性の高い環境の偏在する領域の減少、および、タンパク質に対する機械的ストレスの増大。したがって、混合が低い場合、タンパク質にかかる剪断は低いが、タンパク質は偏在する高タンパク質濃度によって凝集させられ得る。混合が高い場合、環境からの凝集は起こりにくいが、タンパク質にかかる機械的剪断は高く、タンパク質を損傷する可能性が高い。再折りたたみの間の、剪断と凝集しやすい環境の偏在する領域との間の中間点を見出すために、機械的混合の最適レベルを決定する必要がある。
【0020】
本発明は、静的混合によるタンパク質折りたたみのために有効な混合に挑戦する新規なアプローチを提供する。静的ミキサーは、コンジット(例えば、パイプ)内の一連の幾何学的要素であり、流体流れのエネルギーを用いて、該ミキサーを通って流れる2種以上の流体の混合をもたらすように構成されている。したがって、静的混合は、流体流れのエネルギーのみを用いる、2種以上の流れる流体の混合である。幾何学的混合要素は、静的ミキサーコンジット内に取り付けられた任意の構造の構成要素であり得、この要素を通り過ぎる流体ストリームの混合をもたらす。この要素は、多くの場合固定式であるが、この要素の任意の動きが外的動力源ではなくこの要素によって混合されるべき流体の動きの結果である限り、この要素は、動いてもよい。好ましい例は、刃およびヘリックスを備える。図1を参照すると、代表的な静的ミキサー100は、パイプ102と一組の固定式螺旋状要素104との組み合わせであり、流体ストリームを分離し、次いで得られたストリームを穏やかな渦を介して混合する。この一連の事象は、各要素において持続する。混合されるべき流体は、このミキサーとつながっている主入り口106を介して(代表的には、より大きな容量の流体について)、および、混合要素104のすぐ上流のコンジットの壁を介して入る副入り口108を介して、ミキサー100に供給される。混合は、穏やかにしかし迅速に起こり、塩濃度、温度およびタンパク質濃度のいかなる偏在も回避する。
【0021】
本発明のシステムのために適切な静的ミキサーは、種々の幾何および構成を有し得、これらは、少なくとも部分的に、処理する容量に依存し得る。30〜200Lの範囲内の容量について、1/4インチ未満から2インチまで(例えば、3/16インチ、1インチおよび2インチ)の直径を有するコンジットが、受容可能であることが見出されている。適切な静的ミキサーは、約2〜20個の間の混合要素(例えば、6〜12個の間の混合要素、例えば6個の要素もしくは12個の要素)を有し得る。この要素は、固定式であっても、可動式であっても、組み合わせであってもよい。この要素は、任意の適切な形状および構成を有し得る。特定の実施形態において、上記静的ミキサーは、6個または12個の固定式螺旋状要素を有する。このような静的ミキサーは、例えば、Koflo Corporation,Cary,ILから入手可能である。
【0022】
このようなミキサーは、タンパク質再折りたたみ用途のために、以下のように適切に作動する:初期濃度のタンパク質は、所望されるだけ低い濃度で存在し得るが、一般に、変性剤1mlあたり約10mgの濃度であり、そして溶解性が維持される限り、より高くてもよい(例えば、約20mg/mlまたはそれより高い)。この変性剤は、約3〜10M(例えば、5Mもしくは8M)の、例えばGu−HCLもしくは尿素であり得る。濃縮された変性タンパク質溶液は、再折りたたみが起こる点まで静的ミキサー内で希釈される。例えば、10、20、30または60倍希釈が、導入され得る。
【0023】
一般に、再折りたたみ希釈剤は、タンパク質が可溶性であり、そしてタンパク質の適正な折りたたみを促進する緩衝液である。再折りたたみ緩衝液は、タンパク質特異的であり得、適切な再折りたたみ緩衝液が多くのタンパク質について公知であるが、十分に当業者の技術範囲内である一定の程度の実験は、所定のタンパク質についての再折りたたみ希釈剤として作用する適切な緩衝液を決定するために必要とされ得る。本発明に従う再折りたたみ希釈剤として適切な緩衝液のいくつかの例としては、約5mMのグリシン(約pH3)、約5mMのリン酸(約pH2〜3)および約2mMのアスパラギン酸(約pH4)が挙げられる。
【0024】
上記プロセスのために適切な温度範囲は、約2〜30℃の間であり、例えば、約2〜8℃の間であり、例えば4℃である。タンパク質安定性と矛盾しない場合、室温が好ましく、したがって、冷却は必要ではないと考えられる。
【0025】
上記混合物の流量は、上記静的ミキサーが約200〜7000の間のレイノルズ数を有するように選択される。上記プロセスは、モノマーの75%(または少なくとも80、85、90、95、97、98または99%)を超える収率を、1日未満で、または1時間未満で(例えば30分未満で、または5分未満で)達成可能である。本発明を限定しないが、モノマーのパーセンテージは、医学的障害の緩和に関連する生物学的機能を果たすタンパク質の能力(本明細書中で生物学的活性(biological activity)または生物学的に活性(biologically active)であると呼ばれる)と相関していると考えられる。
【0026】
タンパク質再折りたたみにおいて静的ミキサーを用いることで、2つの機構により、タンパク質折りたたみの間の凝集を減少させ得る:
静的ミキサーは、流体ストリームを迅速かつ効率的に混合して、濃縮された変性タンパク質を再折りたたみ希釈剤中に迅速に希釈する。例えば、適切な静的ミキサーは、一般に、30〜200Lの流体を、30分未満(例えば、約20〜30分間)に混合し得る;このことは、このような大容量の動的混合に約6時間以上必要であることと比較される。結果として、非常に凝集しやすい種(例えば、溶解した小球)を支持する変性剤の一時的な濃度は、静的ミキサーの使用によって大いに低下する。凝塊形成濃度の閾値は、タンパク質によって変動する。例えば、インターフェロンβについては、約0.2mg/mlを超える濃度のポケット(例えば、0.1mg/mlが受容可能である)は、回避されるべきである。TFPIについては、約2mg/mlを超える濃度は、回避されるべきである。一般に、凝塊形成問題の危険の可能性のない高さの濃度は、処理容量を最小化することを好む。
【0027】
また、静的ミキサーは、動的混合と比較して、タンパク質についてのストレス環境を低下させる。撹拌タンクについて、バルクの再折りたたみ溶液は、タンパク質の希釈剤への添加の間を通じて連続的にボルテックス撹拌されるので、タンパク質が高い剪断を受ける時間の長さは、容量に比例する。タンパク質は、このプロセスが撹拌タンク中でスケールアップされるにしたがって、数分間から数時間までのいずれかの延長されたストレスを受け得る。しかし、静的ミキサーにおいて、タンパク質は、希釈剤によって迅速に(代表的に何秒か以内に)混合され、次いで、低剪断混合容器に排出されて、高い混合の滞留時間をより短くし、したがって、よりストレスを低くする。
【0028】
静的ミキサーの別の重要な利点は、このプロセスを駆動するために必要な動力の効率性である。上述のように、動力の増大によって引き起こされる負の影響は、動力散逸に起因する大量の熱が、このシステムに加えられることである。撹拌タンクおよび静的ミキサーのためのエネルギー需要を、200Lプロセスについて比較した。撹拌タンクの代表的なエネルギー需要は、約2〜5HP/1000galである(Rushton,J.H.,Costich,E.W.およびEverett,H.J.Power Characteristics of Mixing Impeller,Part 1,Chemical Engineering Progress,1950,46,467)が、一方で、静的ミキサーについてのエネルギー需要は、約0.005HPである。
【0029】
したがって、対応する温度の変化は、等式3を用いて計算され得る:
【0030】
【数1】

式中、mは質量であり、Cpは比熱であり、Tは温度であり、そしてtは時間である。20分間の処理時間であり、全動力が熱に変換され、そして液体が隔離される場合、以下が見出される:
【0031】
【数2】


【0032】
これらの起こり得る熱効果は、タンク全体を平均すると非常に小さいようであるが、偏在する熱は、インペラーの近くで影響を及ぼして高熱を発生させ、処理の間の重要な懸念となり得る。
【0033】
静的ミキサーをスケールアップするために、しばしば、混合についての数値を決定することが役立ち、かつ必要である。流体についての混合は、混合ゾーンの長さスケールの特徴、および混合種の速度の特徴に依存する。パイプ中の高分子スケールにおいて、混合ゾーンは、パイプの直径として規定され得、そして速度は入る流体の流量として規定され得る。したがって、流量およびパイプの直径を比例するように保つ場合、スケールアップに対する混合定数が維持される。速度と直径とを関連付けるために、一般に使用されるスケーリング因子は、レイノルズ数である。静的ミキサーについて、この因子は、等式1によって与えられる:
【0034】
【数3】

式中、Qは、流量(gal/分)であり、Sは、比重であり、μは、粘度(cP)であり、そしてDは、パイプの内径である。
【0035】
(システムおよび方法)
図2は、本発明に従う、変性タンパク質の溶液から再折りたたみされたタンパク質を回収するためのシステムの主な特徴を説明するブロック図である。このシステム200は、静的ミキサー202を備える。この静的ミキサー202は、コンジット(例えば、パイプ)204につながっており、このコンジットは、一般的に、該静的ミキサーとおよそ同じ直径を有する。このコンジット204は、静的ミキサー中で混合されるべき2種の流体のうちより大きな容量の流体(この場合、タンパク質希釈剤)のための入り口を静的ミキサーに提供する。静的ミキサーへの第2の入り口206は、静的ミキサー中で混合されるべき2種の流体のうちより小さな容量の流体(この場合、変性タンパク質溶液)のために提供される。
【0036】
本発明のシステムのために適切な静的ミキサーは、種々の幾何学および構成を有し得、これらは、少なくとも部分的に、処理容量に依存し得る。30〜200Lの範囲内の容量について、コンジットは、1/4インチ未満から2インチまで(例えば、3/16インチ、3/4インチ、1インチおよび2インチ)の直径であることが受容可能であることが見出されている。適切な静的ミキサーは、約2〜20個の間の混合要素(例えば、6〜12個の間の混合要素、例えば6個の要素もしくは12個の要素)を有し得る。この要素は、固定式であっても、可動式であっても、組み合わせであってもよい。この要素は、任意の適切な形状および構成を有し得る。特定の実施形態において、上記静的ミキサーは、6個または12個の固定式螺旋状要素を有する。
【0037】
静的ミキサー202は、第2コンジット208(代表的には、第1コンジット204の続きである)へ出る。第2コンジット208は、動的混合容器210に接続し、それによって、静的ミキサーによる混合タンパク質産物出口は、第2コンジット208を介して動的混合容器210まで運ばれて、折りたたみプロセスを完了し得る。必要に応じて、静的混合されたタンパク質産物は、動的混合容器に導かれる前に、別のコンジット(パイプ)を介して、1回以上静的ミキサー202を通って再循環してもよい。この動的混合容器は、一般的に、タンパク質の損傷をもたらす剪断を回避するように作動する。例えば、動的混合は、非乱流的(non−turbulent)であり得る。大容量かつ高収率で再折りたたみされたタンパク質は、次いで、薬学製品としての保存もしくは包装のために、動的混合容器210から収集される。この方法において、静的混合は、最適なタンパク質混合を達成し、そして最終的に、高濃度ポケット、剪断もしくは加熱なしで、低い動力消費によって、適切な折りたたみが、迅速に起こる。
【0038】
図3は、本発明に従う、変性タンパク質の溶液から再折りたたみされたタンパク質を回収するための方法を説明する、フローチャートである。この方法は、変性タンパク質の濃縮溶液を提供する工程(301)、および該変性タンパク質と再折りたたみ希釈剤とを静的に混合して、再折りたたみされたタンパク質(303)を得る工程を、包含する。本発明のシステムを参照して上記したとおり、好ましい実施形態において、タンパク質折りたたみは、上記静的混合の後、低剪断混合容器における作動に続く。
【0039】
図4Aは、変性剤の濃度 対 溶液中の折りたたまれていないタンパク質の画分を表すプロットである。このプロットは、変性タンパク質を折りたたむ変性剤(例えば、GuHCl)濃度が、比較的狭い範囲であることを示す。動的混合は、徐々に起こり、それによって、動的に混合される溶液中のタンパク質の折りたたまれた状態は、プロットの曲線を辿り、そしてプロセス全体にわたる混合物状態の不正確な制御が存在する。また、凝塊形成問題は、タンパク質混合物が部分的に折りたたまれた状態であるときにより起こりやすく、したがって、タンパク質混合物がこの状態である時間を短くすることが、有利である。静的混合は、より迅速に起こり、静的に混合されたタンパク質溶液の折りたたまれた状態は、次から次への(point−to−point)様式で、(折りたたまれていない状態から折りたたまれた状態へ)効率的に曲線に沿って動き、中間的な部分的混合状態の時間は非常に短い。このことは、上記プロセスに対し、よりずっと程度の高い制御、一貫性そしてそれゆえに堅固さを提供し、速度論の優良な制御を可能にして、天然のタンパク質折りたたみのために最適化された熱力学を達成する。
【0040】
図4Bは、動的混合および静的混合についての、時間 対 混合タンパク質の画分を表すプロット(混合挙動および速度)である。このプロットは、図4Aを参照して上記した、動的混合 対 静的混合によって達成される混合の相対速度の点をさらに説明する。動的混合(曲線410によって表される)は、徐々にしか起こらず、長い中間的な混合の状態をもたらすが、一方、静的混合(曲線420によって表される)は、迅速に起こる。
【0041】
(処方物)
本発明の方法およびシステムはまた、賦形剤をタンパク質混合物中に組み込んで、活性タンパク質の治療処方物を産生するために用いられ得る。例えば、本発明に従い、トレハロースが、上記混合されるべき流体に添加され得る。
【0042】
本発明の1つの特に有利な用途は、HAを含まないタンパク質(例えば、インターフェロン−β 1b)のラージスケール産生である。アルブミンは、IFNと複合体を形成し、それによって、IFN−IFN凝塊形成を妨害すると考えられる。アルブミンを除去してHAを含まないIFN処方物を製造することは、混合の間の凝塊形成問題を悪化させる。本発明は、この理論に制限されないが、トレハロースが、HAを含まない処方物におけるアルブミンの除去によって誘導される凝塊形成問題のいくらかを緩和し得ると考えられる。一実施形態において、混合されるべきタンパク質溶液は、2mM アスパラギン酸緩衝液(約pH4)中0.25mg/mlのHAを含まないインターフェロンβ−1b、および9% トレハロースを含む。上記プロセスの結果は、完全なHAを含まないタンパク質(例えば、IFN−β 1b)処方物である。
【実施例】
【0043】
以下の実施例は、本発明の特定の局面を説明するために提供される。この実施例は、本発明をさらに説明するために寄与するが、本発明の範囲を限定することは決して意味しない。
【0044】
(実施例1:1つのジスルフィド結合を有するタンパク質の再天然化(renaturation))
商業的産生のための目的の1種のタンパク質は、インターフェロン−β(IFN−β)であり、特に、インターフェロン−β 1b(IFN−β 1b)(IFN−βの18.5kDの合成組換えタンパク質アナログ)である。IFN−β 1bは、セリン残基によって置換されたシステイン残基を17位に有する、再折りたたみされたタンパク質である。微生物によって産生されたタンパク質であるIFN−β 1bは、グリコシル化されていない。また、N末端メチオニン欠失を有する。このタンパク質は、天然の状態における非常に疎水性の表面によって、そして1つのジスルフィド結合(処理の間中インタクトなままである)によって特徴付けられる。Betaseron(登録商標)として市販されるIFN−β 1bは、成功した製剤として処方されており、これは、多発性硬化症(MS)の処置および管理のために認可されている。このタンパク質アナログ、その製造のための材料および技術、治療薬としてのその処方およびMSを処置するためのその使用は、以下を含む多くの米国特許および米国特許出願によって記載され、そして特許請求されている:特許出願第435,154号(1982年10月19日出願);特許第4,588,585号(1986年5月13日発行);特許第4,737,462号(1988年4月12日発行);および特許第4,959,314号(1990年9月25日発行);これらの全ては、その全体が、全ての目的のために本明細書中で参考として援用される。
【0045】
さらに、幾種かのIFN−β薬学的処方物(Betaseron(登録商標)を含む)は、一般的なタンパク質安定化剤であるヒト血清アルブミン(HAもしくはHSA)を含む。HAは、ヒト血液製剤であり、ますます供給が少なくなってきている。したがって、最近では、HAを含まない薬物処方物が所望されている。
【0046】
本実験は、HAを含まないIFNを再折りたたみするために静的ミキサーを用いることの実行可能性を試験し、そしてこれを、種々の変数(種々のレイノルズ数、tee距離および温度)にわたって、分子内結合なしで適切に折りたたまれたタンパク質のモノマーのパーセントに対するその効果について試した。モノマーのパーセントを、サイズ排除クロマトグラフィーHPLCによって決定した。試験した変数を、同様の条件下で機械的混合プロセスによって得られたモノマーのパーセンテージと比較した。
【0047】
IFNを0.1gのスケールで再折りたたみするために、5M グアニジン塩酸塩(GuHCl)含有の、10mg/mLのHAを含まないIFN−β 1b溶液を、2〜8℃の低温室内で、希釈剤を用いて60倍に希釈した。この実験は、最初に、混合要素の約1mm上流に径違いホースバーブアダプタ(reducing hose barb adapter)(tee)を備えるように改変された、Koflo 12−要素3/16”使い捨てインラインミキサーを用いた。後の試験を、下で記載するKoflo 6−要素3/5”インラインミキサーを、1gスケールのために用いて実施した。試験したレイノルズ数は、300〜2000の間の値であった。コントロールを、8mL IFN溶液を用いて行い、472mLの再折りたたみ希釈剤に加えて、撹拌プレート上で激しく混合した。この段階における結果を、以下の表Iに示す。
【0048】
(表I. 0.1gスケールにおけるIFNについての結果)
【0049】
【表1】

1gスケールにおいて、10mg/mLのIFNを、2〜8℃の低温室内で再折りたたみ希釈剤を用いて60倍に希釈した。最初の実験は、入り口前に2.5”から4”の間を接続する径違いteeを備えたKoflo 6−要素3/5”使い捨てインライン(静的)ミキサーを用いた。後の試験は、以下に記載する3/4”ステンレス鋼静的ミキサーを、5gスケールで用いた。試験したレイノルズ数は、2000〜7000の間であった。流量を、フロアスケールが最終所望容量を読み取った後に停止した。この段階における結果を、以下の表IIに示す。
【0050】
(表II. 1gスケールにおけるIFNについての結果)
【0051】
【表2】

5gスケールにおいて、10mg/mLのIFNを、再折りたたみ希釈剤を用いて60倍に希釈した。3/4”KoFlo 6−要素ステンレス鋼静的ミキサーに、混合要素のすぐ上流に1/2”径違いteeを備えつけた。上記ミキサーを、壁インペラーを備える50Lジャケットスチールタンクの下部(該壁インペラーは反対側で作動する)に留めつけた。平均総流量を用いて、全静的ミキサー作動についてのレイノルズ数は、約4000であった。全内容物が濃縮IFNボトルから排出された後に、濃縮IFNポンプを停止した。一方で、(再折りたたみ希釈剤のための)緩衝液ポンプを、フロアスケールが最終所望容量(緩衝液タンクと再折りたたみタンクとの間のホールドアップ容量を含む)を読み取った後で停止した。材料の処理を、2〜10℃で行った。処理の後、再折りたたみタンクを、10分間以上混合し続けた。さらなる実験を、3/4”径違いteeを備えた2”Kofloステンレス鋼6−要素静的ミキサーを用いて行った。レイノルズ数を、4000で一定に保った。結果を、以下の表IIIに示す。
【0052】
(表III. 5gスケールにおけるIFNについての結果)
【0053】
【表3】

表Iおよび表IIIに示されるように、最終%モノマーは、各スケールのコントロール%よりも大きかった。1gスケールではコントロールを用いなかった;しかし、各試験は、0.1gスケールおよび5gスケールについてのコントロール%のいずれかと同様かもしくは高い収率を提示した。したがって、本発明の静的混合ベースのプロセスおよびシステムは、従来のプロセスと少なくとも同じくらい優良である収率、通常はより優良である収率を達成する。別の利点は、より大容量(すなわち、製造のための30gスケール)において、静的混合時間が一定(3〜15分間)に維持され、一方で、動的混合時間は、タンパク質または変性剤濃度の偏在(ここでIFNの凝集が起こり得る)の懸念に起因して増大する(30分〜数時間)ことである。したがって、静的混合は、ラージスケール産生へと、大きくスケール変更可能である。また、静的混合は、より一貫性のある結果を提示し、そしてより堅固なプロセスである。
【0054】
(実施例2:天然の状態で3つ以上のジスルフィド結合を有するタンパク質の再天然化)
雌ニワトリ卵白リゾチームは、4つのジスルフィド結合を有する14kD分子である。この分子は、複雑な再折りたたみスキームを有するが、よく研究されており、そして詳細に性質決定されている。本実験は、静的ミキサーが、IFNより複雑な折りたたみスキームについて機能することを示す。
【0055】
8M グアニジン塩酸塩(GuHCl)、50mM Tris、1mM EDTA、32mM ジチオスレイトール(DTT)緩衝液(pH8)中で、37℃にて1時間変性させたリゾチーム0.3gを、1.25M GuHCl、50mM Tris、1mM EDTA緩衝液(pH8)で、5分間以内に16倍に希釈し、25℃で24時間インキュベートし、最終濃度1mg/mLになるようにした。この実験は、混合要素のすぐ上流に径違いホースバーブアダプタを装着した、12個の螺旋状要素を備えた3/16”の使い捨て静的ミキサーを用いた。レイノルズ数が約1000(希釈緩衝液については60ml/分、変性リゾチーム溶液については4ml/分)になるように、流量を選択した。活性アッセイにより純度%を求めるためにサンプルを採取し、再折りたたみ速度論を評価した。図5は、時間 対 活性%を比較したプロットであり、3回の独立した再折りたたみについての再折りたたみ速度論を示す。
【0056】
リゾチーム速度論の最終分析は、Jolles,P.「Lysozymes from Rabbit Spleen and Dog Spleen.」、Methods in Enzymology 1962,5,137から採用した手順を用いて24時間後に実施した。24時間後の活性リゾチームの最終回収率は、3回の独立した試験で90%以上であった。この結果は、動的混合によって、約95%リゾチーム活性を生じたという公開された結果(De Bernardez−Clark,E.,Hevehan,D.,Szela,S.,Maachupalli,J.、「Oxidative Renaturation of Hen Egg−White Lysozyme. Folding vs Aggregation.」、Biotechnology Progress 1998, 14, 47−54)と同等である。したがって、この実験は、静的ミキサーを用いた複数のジスルフィド結合を有する組換えタンパク質の再折りたたみにおける有用性を示す。
【0057】
(実験結果の考察)
封入体からタンパク質を再折りたたみさせる際の主な問題は、凝集である。凝集は、誘引力によって説明することができ、凝集と再折りたたみをもたらす誘引力とが競合する。再折りたたみの間の凝集を制御するために、激しい混合が用いられる。しかし、機械的ミキサーを用いた一般的な混合スキームは、タンパク質を損傷し得るか、またはタンパク質を非効率に混合して凝集を引き起こし得る。静的ミキサーの使用は、この問題に対する新規な解決策である。なぜなら、機械的混合によって生じる過度の剪断をもたらさずにストリームを迅速に混合し、そして容易にスケール変更可能であるので製造施設で簡単に使用され得るからである。2種の別個のタンパク質による結果は、幅広い適用性を示唆する。
【0058】
(結論)
静的ミキサーベースのプロセスおよび本発明のシステムは、従来のプロセスと少なくとも同等の収率を達成することができる。さらに、これらは、ラージスケール産生へと大きくスケール変更可能であり、より迅速であり、より一貫した結果をもたらし、そしてより堅固なプロセスである。
【0059】
上記発明は、明瞭な理解の目的のためにある程度詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲の範囲内で、一定の変更および改変が行われ得ることが明らかである。本発明のプロセスおよび構成の両方を実施する多くの代替法が存在することに、留意されるべきである。したがって、本発明の実施形態は、説明的なものであって制限的なものではないと考えられるべきであり、そして本発明は、本明細書中で提示された詳細に限定されず、添付の特許請求の範囲の範囲および均等物の範囲内で改変され得る。
【0060】
本明細書中に列挙された全ての文献は、本明細書中でその全体が全ての目的のために参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、本発明に従う使用のための静的ミキサーの主な特徴を説明する、単純化した模式図である。
【図2】図2は、本発明に従う、変性タンパク質の溶液から再折りたたみされたタンパク質を回収するためのシステムの主な特徴を説明する、ブロック線図である。
【図3】図3は、本発明に従う、変性タンパク質の溶液から再折りたたみされたタンパク質を回収するための方法を説明する、フローチャートである。
【図4】図4Aは、溶液からの変性剤の濃度 対 折りたたまれていないタンパク質の画分を表すプロットである。図4Bは、動的混合および静的混合についての、時間 対 混合されたタンパク質の画分を表すプロット(混合挙動および速度)である。
【図5】図5は、実施例2に記載の実験の結果を示す、時間 対 %活性のプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を再折りたたみするための方法であって、
変性タンパク質の濃縮溶液を提供する工程;そして
該変性タンパク質と再折りたたみ希釈剤とを静的に混合して、再折りたたみされたタンパク質を含む混合物を取得する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記タンパク質が微生物によって産生された組換えタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
微生物宿主からタンパク質を単離し、該タンパク質を変性剤に曝露することによって、前記変性タンパク質溶液を取得する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記再折りたたみ希釈剤は、前記タンパク質が可溶性である緩衝液である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記静的混合が、コンジット内に一連の混合要素を備える静的ミキサー内で生じる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記再折りたたみ希釈剤の流れが前記静的ミキサーの混合要素に達する直前に、コンジット内において該流れに前記タンパク質溶液が送達される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記静的混合に続いて、前記混合物が動的混合容器に提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記混合物が前記動的混合容器内で動的に混合される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記再折りたたみされたタンパク質が、1時間未満で、モノマーの75%を超えた収率で取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記再折りたたみされたタンパク質が、95%を超えた収率で取得される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記再折りたたみされたタンパク質が、30分未満で取得される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記再折りたたみされたタンパク質が、5分未満で取得される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質溶液中の前記変性剤の濃度が少なくとも3Mである、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記希釈が少なくとも10倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記希釈が約60倍である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
混合中の温度が、約2℃と30℃との間である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
混合中の温度が、約4℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
混合中のタンパク質濃度が、0.2mg/ml未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
混合中のタンパク質濃度が、約0.1mg/mlである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記静的ミキサーが約200〜7000の間のレイノルズ数を有するように、前記混合物の流量が選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記混合物の体積が10Lよりも大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記混合物の体積が100Lよりも大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記混合物の体積が1000Lよりも大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
タンパク質が、その天然の形態において1つ以上の分子間ジスルフィド結合を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
タンパク質が、その天然の形態において1つの分子間ジスルフィド結合を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
タンパク質がインターフェロンβである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
タンパク質がインターフェロンβ−1bである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
タンパク質溶液が、HAを含まないインターフェロンβを含有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
再折りたたみされたタンパク質が生物学的に活性である、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記混合物が、前記活性タンパク質の治療処方物の安全な成分として一般的に認識される賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記賦形剤がトレハロースを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記タンパク質溶液が、pH約4の2mM アスパラギン酸中に0.1mg/mlのHAを含まないインターフェロンβ−1bを含み、前記賦形剤が9% トレハロースを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
溶液から再折りたたみされたタンパク質を回収するためのシステムであって、
静的ミキサー;
該静的ミキサーとつながっており、かつその上流にあるコンジット;および
該静的ミキサーの上流にあるコンジットへの入口
を備える、システム。
【請求項34】
前記静的ミキサーの上流にあるコンジットへの送達のために構成された再折りたたみ希釈剤の供給源;および
該静的ミキサーの上流にある入口を介した該コンジットへの送達のために構成された濃縮された変性タンパク質供給源、
をさらに備える、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記静的ミキサーが、コンジット内に一連の固定式混合要素、可動式混合要素、またはこれらの組み合わせを備える、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記静的ミキサーのコンジットが、2インチ以下の直径を有する、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
前記静的ミキサーのコンジットが、約3/4インチの直径を有する、請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
前記静的ミキサーが固定式要素を有する、請求項35に記載のシステム。
【請求項39】
前記静的ミキサーの下流に動的混合容器をさらに備える、請求項33に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−502173(P2009−502173A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524155(P2008−524155)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/029239
【国際公開番号】WO2007/016272
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】