インビボでのリガンドの抗体緩衝
組成物および方法は、抗体−抗原平衡原理が薬物クリアランス機構に対抗できるように抗体が身体区画の溶液に存続するという驚くべき発見に基づいて、被験体において1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持することに関する実施態様、および特に被験体の身体区画において望ましい薬物濃度を維持するための実施態様において提供される。望ましい薬物濃度に類似する解離定数KDを有する1つ以上の抗体が選択され、ここでKDは被験体における特異的な薬物標的(受容体)に対する薬物の親和性とは独立している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は35U.S.C.§119(e)の下で「Antibody buffering of a ligand in vivo」と題され、そしてCarol.E.O’HearおよびJefferson Footeにより2004年9月13日に出願された米国仮特許出願第60/609803号の利益を請求し、この仮出願はその全てを出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
(米国政府利権の記載)
本発明は国立衛生研究所により付与された認可番号NIH T32 CA80416の下で米国政府により為されたものであった。政府は本発明において特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
(関連分野の説明)
ヒトおよび動物における膨大な数の疾患が罹患した個体の特定の部位、組織または器官に局在する病態生理学的な悪影響を特徴とするという事実にも関わらず、かかる症状のための大部分の治療的処置計画が例えば経口または静脈内経路を介する治療用薬物の全身的または全体的投与を伴う(例えば、非特許文献1を参照)。結果的に、比較的限定された部位でかかる薬物を治療上有効なレベルに到達させるための努力の副産として、受容者内で臨床的に無関係な、不適切なおよび/または望ましくない解剖学的位置で(循環血漿濃度を含む)薬理学または超薬理学的薬物レベルがしばしば達成される。体内の薬物クリアランスおよび分解活性はしばしば薬物の反復投与を必要とし、これはしばしば実際に循環する薬物濃度の激しい変動の反復に至り得る。
【0004】
例えば、脳腫瘍の幼児のための現在の処置計画では、放射線照射がしばしばこれらの患者における発達遅延および神経内分泌欠損に至るので、化学療法が重要な役割を果たしている(非特許文献2)。中枢神経系(CNS)の腫瘍は15歳以下の子供の頻発する悪性腫瘍の第2位である(非特許文献3)。生存者の疾病率は十分には記録されていないが、現在用いられている積極的化学療法プロトコールおよび腫瘍自体に随伴される運動および知的障害の結果、これらの子供の45%がこれらの疾患で死亡する。多くの脳に内在する新生物が正常な脳実質の容赦ない腫瘍細胞浸潤を特徴とするとすれば、治療薬が腫瘍をターゲティングする計画はしばしば、血管の裂け目および軸索経路に沿って遊走する侵攻性腫瘍細胞クラスタに到達させるために拡散特性を有する薬物を特色とする(非特許文献4)。
【0005】
脳実質を伴う固形腫瘍の処置における化学療法薬の使用は、その広範囲適用にも関わらずあまり成功していない(非特許文献5)。CNSの腫瘍は通常進行遅延性であり、そのために現在利用可能な細胞サイクル阻止薬物を用いる処置計画は典型的には、これらの薬剤が長時間にわたり有効濃度を維持することを必要とする。腫瘍部位でかかる期間この有効薬物濃度を達成することは、重大な技術的障害を示している(非特許文献6)。化学療法の使用に対するさらなる欠点は化学療法薬耐性細胞の発達および不十分な薬物分配方法である(非特許文献5)。抗癌薬は腫瘍細胞を死滅させ得るが、かかる薬物の有用な投薬量範囲は、望ましくない骨髄抑制に至る造血細胞に対する全体的な薬物毒性により限定されるということもまた問題である。
【0006】
限局的な部位への有効な薬物分配の問題は、CNSであろうと、別の場所であろうと、薬物吸収およびインビボ安定性(例えば、非特許文献7)、生理学的薬物クリアランスおよび排泄機構(例えば、非特許文献8)、循環中の血漿タンパク質へのおよび/または間質液中のタンパク質への結合による薬物不活性化(例えば、非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)、ならびに罹患した細胞および組織中の特異的な薬物標的分子に対する薬物の接近可能性(例えば、非特許文献12)のような種々の因子により悪化する。特に、全身的に投与された薬物の限局的な部位への有効な分配に対する妨害は、多くの身体区画を分離する物理学的、解剖学的、薬物動態的および/または生理学的バリアの結果として生じる。
【0007】
例えばCNSは血液脳関門(BBB、例えば非特許文献12)により別個の身体区画が与えられる。別の実例としては、眼、比較的無血管性の関節軟骨を含む関節包(例えば、特許文献1およびそこに引用された参照文献)、胸膜嚢、腹膜および心膜は、有効な局在的な薬物分配が問題になり得るさらなる身体区画を表す。
【0008】
経口または静脈内経路のような全体投与を用いるかかる身体区画への有効量の治療用薬物を分配する試みで多数の計画が考案されている。これらの計画にはポリマー、ゲル、マイクロキャリア、リポソーム、凝集物、親和性ターゲティング抱合体、吸入剤、マイクロスフェア、ウイルスベクター、イオントフォレーシス薬剤、化学的修飾された誘導体、徐放製剤およびその他の形式が含まれる(例えば、非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24)。しかしながら、望ましい身体区画への特異的分配に関して、これらの研究法は例えば、望ましい局所薬物レベルの達成における困難、長時間の望ましい局所薬物レベルの維持における困難、薬物の望ましくない区画への非特異的受動拡散および/または能動輸送、薬物の時期尚早なクリアランスおよび/または排泄、薬物分配の結果である隣接する組織に及ぼす付随的な副作用、薬物に対する区画の不十分な接近可能性、分配の改変に対する活性成分の不適当性、ならびにその他の問題を含む1つ以上の欠点により悩まされる。(例えば、非特許文献25;非特許文献26;非特許文献27;非特許文献28;非特許文献29;非特許文献30)
特定の場合では、治療用薬物の身体区画への特異的および有効な分配を達成するための代替の試みは罹患部分への薬物の直接注射を伴っている(非特許文献1;非特許文献12;非特許文献8;非特許文献31;非特許文献32;非特許文献33;非特許文献34)。しかしながら、かかる研究法は安全性、有効性、経費、利便性およびその他の因子の課題により悩まされており、そして全ての身体区画が治療の時間枠内での複数回の直接的介入に反応するわけではない。例えばCNSへの直接注射はCNS組織に対する非可逆的損傷に随伴される危険性、および部位への反復する接近に随伴される微生物感染の可能性を伴い、そしてCNSおよびその他の区画は技術および労働集約的な外科的手順によってのみ直接接近可能である。加えて、CNSに直接投与される治療用薬物はそこに存続できず、代わりにCNS間質液の指向性のバルク流の結果としてCNSから全身循環に放出される(例えば、非特許文献35)。別の実例では、抗癌薬の直接的腹腔内注射を伴う癌治療は、腹膜区画から外へ、および全身循環への薬物の有意なそして毒性の可能性のあるレベルの漏出を招いている(例えば、非特許文献36;非特許文献37;非特許文献38)。
【特許文献1】国際公開第01/20018号パンフレット
【非特許文献1】Rang,H.P.ら(編)、Pharmacology(2003)、Churchill Livingstone,New York、第7章91−105頁
【非特許文献2】Zalutsky、Br.J.Canc.(2004)90:1469
【非特許文献3】Heidemanら、Cancer(1997)80:497
【非特許文献4】Merloら、Acta Neurochir.Suppl.(2003)88:83
【非特許文献5】Castroら、Pharmacol.Ther.(2003)98:71
【非特許文献6】Blasberg、J.Pharmacol.Exp.Ther.(1975)195:73
【非特許文献7】Bialer、Clin.Pharmacokinet.(1992)22:11
【非特許文献8】Andersonら、C1in.Pharmacokinet.(1994)27:191
【非特許文献9】Koch−Weserら、N.Engl.J.Med.(1976)294:311
【非特許文献10】Kremerら、Pharmacol.Rev.(1988)40:1
【非特許文献11】Sparreboomら、Neth.J.Med.(2001)59:196
【非特許文献12】Begley、Pharmacol.Therapeut.(2004)104:29
【非特許文献13】Chengら、Mol.Pharm.(2004)1:183
【非特許文献14】Goyalら、Acta Pharm.(2005)55:1
【非特許文献15】Aguら、Endocr.Res.(2004)30:455
【非特許文献16】Siashinら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.(2003)44:4989
【非特許文献17】Goskondaら、J.Pharm.Sci.(2001)90:12
【非特許文献18】Pettitら、Trends Biotechnol.(1998)16:343
【非特許文献19】Groothuisら、J.Neurovirol.(1997)3:387
【非特許文献20】Langnerら、200 Cell.Molec.Biol.Lett.5:433
【非特許文献21】Ohning、Neonatal Netw.(1995)14:7
【非特許文献22】Ohning、Neonatal Netw.(1995)14:15
【非特許文献23】Soodら、Int.J.Pharmaceut.(2003)261:27
【非特許文献24】Olivier、NeuroRx(2005)2:108
【非特許文献25】Baker、Controlled Release of Biologically Active Agents(1987)、John Wiley & Sons、New York
【非特許文献26】Dashら、J.Pharmacol.Toxicol.Meths.(1998)40:1
【非特許文献27】Huangら、J.Control Release(2001)73:121
【非特許文献28】Gordonら、Cancer(1995)75:2169
【非特許文献29】Lotemら、Arch.Dermatol.(2000)136:1475
【非特許文献30】Lyassら、Cancer(2000)89:1037
【非特許文献31】Dedrickら、Canc.Treat.Rep.(1978)62:1
【非特許文献32】Clayら、Hematol.Oncol.C1in.N.Am.(1992)6:915
【非特許文献33】Ohら、Pharm.Res.(1995)12:433
【非特許文献34】Hopkinsら、J.Drug Target(1993)1:175
【非特許文献35】Bergsneider、Neurosurg.Clin.N.Amer.(2001)12:631
【非特許文献36】Balthasarら、J.Pharmacol.Exp.Ther.(1994)268:734
【非特許文献37】Balthasarら、J.Pharm.Sci.(1996)85:1035
【非特許文献38】Loboら、J.Pharm.Sci.(2003)92:1665
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
明らかに、反復する直接介入を行わず薬物を投与および分配するための、そして選択された身体区画において望ましい薬物レベルを維持することを可能にする様式の改善された方法および組成物に関する必要性が存在する。新たな研究法はまた、局部薬物濃度の激しい変動またはその他の臨床上有害な影響のような非特異的薬物分配の好ましからざる結果を望ましく回避する。本発明はかかる必要性を満足し、そしてその他の関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明の特定の実施態様によれば、被験体に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体において1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法が提供され、ここで抗体に関しては、抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そしてここで抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している。
【0011】
別の実施態様では、身体区画に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体の身体区画において1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法が提供され、ここで該抗体に関しては、抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そしてここで抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している。
【0012】
前記で記載した方法のさらなる特定の実施態様では、身体区画は中枢神経系区画、心膜、胸膜腔、眼窩後区画、眼区画、関節包、リンパ区画、腹膜区画、鼻内区画、肺区画、および泌尿生殖器区画から選択される区画を含む。特定のかかる実施態様では、身体区画は中枢神経系区画を含む。前記で記載した方法のさらなる特定の実施態様では、身体区画は中枢神経系区画を含み、そして投与の工程は薬物の髄腔内、脳室内、実質、硬膜下、くも膜下または硬膜外導入を含む。
【0013】
前記で記載した方法の特定のその他のさらなる実施態様では、方法は少なくとも2用量の薬物を投与することを含む。その他のさらなる実施態様では、抗体および薬物をほぼ等モル濃度で投与する。その他のさらなる実施態様では、抗体対薬物モル比が少なくとも2:1で抗体および薬物を投与する。その他のさらなる実施態様では、抗体はモノクローナル抗体であり、そして特定のその他のさらなる実施態様では、抗体はキメラ抗体またはヒト化抗体である。特定のその他のさらなる実施態様では、抗原結合フラグメントはFabフラグメント、Fab’フラグメント、(Fab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、scFv、dAbおよびダイアボディ(diabody)から選択される。
【0014】
前記で記載した方法の異なるさらなる実施態様では、投与の工程は少なくとも1用量の第1薬物および第1薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第1抗体、またはその抗原結合フラグメントを投与すること;ならびに少なくとも1用量の第2薬物および第2薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第2抗体、またはその抗原結合フラグメントを投与することを含む。前記で記載した方法の特定のその他のさらなる実施態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは薬物に特異的に結合する複数の抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、ここで該抗体の各々は薬物の望ましい濃度範囲内である濃度範囲に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する。
【0015】
別の実施態様では本発明は、中枢神経系区画に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体の中枢神経系区画において薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法を提供し、ここで該抗体に関しては、抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そしてここで抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している。特定のさらなる実施態様では、被験体は中枢神経系疾患または障害を有し、特定のなおさらなる実施態様ではこれは新生物による症状、神経変成疾患、血管疾患または自己免疫疾患である。1つの実施態様では、被験体は中枢神経系の新生物による症状を有する。さらなる実施態様では、新生物による症状はグリオーマ、星細胞腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、リンパ腫、脳転移、ならびに脳実質、髄膜、脳神経、下垂体、松果体、乏突起膠細胞、上衣および脈絡叢のうちの少なくとも1つに存在する腫瘍から選択される。
【0016】
別の実施態様によれば、被験体の身体区画において維持される薬物の望ましい濃度範囲を決定すること;ならびに薬物に特異的に結合する、および身体区画において維持される薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する抗体を調製し、そしてそれにより薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定することを含む、被験体の身体区画における薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定するための方法が提供される。
【0017】
本発明のこれらのおよびその他の態様は以下の詳細な説明を参照したときに明白になろう。この目的のために、さらに詳細な特定の背景情報、手順、化合物および/または組成物を説明する種々の参照文献を本明細書にて示し、そして各々はその全てを示すがごとくに出典明示により本明細書の一部とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
特定の実施態様では、本発明は被験体に薬物および薬物に特異的に結合する抗体を投与することによりインビボで被験体において薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法および組成物に関する。
【0019】
(抗体緩衝)
ここで開示するようにこれらのおよび関連する実施態様は、抗薬物抗体の存在により統計的に有意な様式で身体区画内の薬物の有効半減期が延長され得る、すなわち薬物クリアランスを抑制または遅延させることができる驚くべき発見に由来する。したがってかかる抗体は本明細書で「抗体緩衝」効果として記載されるものを媒介し、それにより(i)抗体と複合体形成する薬物および(ii)未結合の遊離の薬物との間のインビボ平衡分布を抗体親和性特性に応じて制御して遊離の、生物学的に利用可能な薬物の望ましい濃度範囲を得ることができる。
【0020】
したがって、および抗体−薬物会合および解離のインビボ平衡動力学の予期せぬ、そして有用な機能として、適切に選択された抗薬物抗体を用いて、絶え間ない再平衡過程で、解離された遊離薬物分子が生理学的クリアランス機構により排泄され、そして/または特異的な薬物標的(薬理学的受容体)との相互作用により除去されるときに結合薬物分子の亜集団を放出することにより身体区画の薬物濃度を維持することがでる。
【0021】
身体区画における薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値である抗体解離定数KDを有する適当な抗薬物抗体を選択することができ、ここでKDは被験体における薬物の任意の薬物標的との親和性とは独立している。以下に詳記するように、ここで開示するようなこれらのおよび関連する実施態様は、薬物投与の頻度の減少、予想できる薬物濃度範囲の維持、薬物製品の消費および浪費の減少、過剰な薬物投薬量からの毒性の低減、ならびにその他の関連する利点を含む、治療方法に関する多くの利点を提供する。
【0022】
背景として、たいていの場合、単位時間あたりに除去される薬物の量が存在する薬物の量に比例する一次過程により、全薬物は身体から除去される。また前記で記したように、臨床投与は典型的には効果の閾値よりもはるかに高い初期薬物レベルを生じ、一次クリアランスの結果としてそのレベルは急落するが、次いで続く用量の投与により回復し得る。結果はインビボ薬物濃度における有意な変動のパターンの繰り返しである。対照的に最新の薬物は細胞、組織または器官において薬物と飽和できる受容体として挙動する特異的な薬物標的(薬理学的受容体)と相互作用し、その薬物標的は別個のもしくは一過性の単分子もしくは多分子構造または機能的な生物学的作用でよい。特異的な薬物標的の飽和濃度よりも高い薬物濃度ではそれ以上の薬物効果は生じず、そして実際には望ましくない効果が現れ得る。したがって、クリアランスの結果である薬物濃度の典型的な変動は、次善最適効果(最低薬物濃度で)と副作用(最高薬物濃度で)の間の揺れに至り得る。
【0023】
さらに背景として、溶液中の抗体−抗原相互作用が、質量作用の法則および化学平衡の法則(I.Pecht、The Antigens(1982)、第6巻(M.Sela編)、アカデミックプレス、ニューヨーク、1−68頁;M.W.Steward、Immunochemistry(1974)、チャップマン・アンド・ホール、ロンドン)を含み、そして抗体解離定数と称される周知のパラメーターに従って抗体の特徴付けを可能にする、化学動力学の十分に確立されている原理に合致することが解っている。抗体解離定数は、抗体−抗原複合体が解離し得る相対的な容易さの観点から、抗原に対する抗体結合の強度の定量的指標を提供する。換言すれば抗体解離定数を、好まれる抗体−抗原複合体形成のために、またはかかる複合体の好まれる遊離抗体および遊離抗原への解離のために存在する抗体および/または抗原の相対濃度の指標として考えることができる。
【0024】
簡単には、遊離抗体[Ab]、遊離抗原[Ag]および抗体−抗原複合体[AbAg]の濃度の間の平衡分布に基づいて、抗体解離定数KDを任意の特定の抗体に関して決定することができ、ここでKD=[Ab][Ag]/[AbAg]であり、そして物理学的な濃度のディメンションを有する(例えばモル濃度、M)。またAbAg複合体形成(kon)および遊離Abおよび遊離Agへの複合体解離(koff)の動態速度定数から、KD=koff/konでKDを測定することもできる。これに代えて、3つの構成成分全て(遊離Ab、遊離Agおよび複合体AbAg)を同時に測定できない場合、抗原濃度の半分が抗体と複合体化されている抗体濃度を決定することによりKDを決定することができ、その濃度でKD=[Ab]である。
【0025】
前記で記したように、典型的には薬物は飽和可能な受容体として機能する特異的な薬物標的を介してその生物学的および/または薬理学的効果を奏する。特定の薬物は周知の受容体−リガンド(薬物)結合相互作用に従ってかかる特異的な薬物標的に関して特徴的な親和性を有し、それに基づいて特異的な薬物標的との薬物親和性を決定することができる(例えばRang,H.P.ら(編)、Pharmacology(2003)、チャーチルリビングストン、ニューヨーク、第2章)。特定の発明によれば、本明細書に開示する実施態様は(例えば身体区画において)1つ以上の薬物の望ましい濃度を維持するための方法に関し得るが、抗体解離定数KDは特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立していることに注目すべきである。この点で本発明は、その教示が合成受容体の薬物との親和性に相対して高い天然受容体の薬物との親和性に依存するプロドラッグ複合体に限定されるUS2002/0122810とはその開示全体にわたって明らかに区別され得る。ここで開示される実施態様によれば、被験体における特異的な薬物標的との薬物親和性へのかかる依存性は存在しない。代わりに、および本明細書で記したように、本明細書で開示および特許請求する実施態様によれば、抗体解離定数KDは特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している。
【0026】
抗体解離定数KDを決定するための方法論が本明細書で記載され、そして当分野に公知である限り(例えばWeir,D.M.、Handbook of Experimental Immunology(1986)、ブラックウェルサイエンティフィック、ボストン;HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual(1988)、コールドスプリングハーバーラボラトリー)、特定の好ましい実施態様に従って、適当な抗体が被験体において使用するのに望ましい薬物濃度に実質的に類似するKD値を有することに基づいて選択され得る。(i)例えば特定の身体区画において特定の適応症の処置のために用いられる特定の薬物のための望ましい濃度範囲、および(ii)現在利用可能な方法論および器具類を用いて検出できるような抗体解離定数KD値の双方の決定に関する当分野で許容される基準によれば、かかる値は実質的に類似する。したがって、特定の実施態様では、実質的に類似する抗体解離定数KDが薬物の望ましい濃度範囲内の値に等しい値を有するのが好ましいが、別の実施態様では、実質的に類似する抗体解離定数KDは統計的に有意な様式で望ましい薬物濃度範囲内である薬物濃度の10倍内、さらに好ましくは望ましい薬物濃度の9倍、8倍、7倍、6倍、5倍、4倍、3倍、2倍またはそれ未満内でよく、そして特定の実施態様では、KD値は望ましい薬物濃度範囲内である薬物濃度の1.75倍、1.5倍、1.25倍または0.5から1倍の内またはそれ未満でよい。
【0027】
特定の関連する実施態様では、異なる抗体KD値を有する2つまたはそれより多い抗体を選択することができ、ここで各KD値は望ましい薬物濃度範囲内である薬物濃度に実質的に類似してよいが、各かかるKD値はその範囲内で異なる濃度を示す。これらのおよび関連するさらなる実施態様は本明細書に記載するような身体区画における薬物濃度を調節するための抗体緩衝の使用の微調整を可能にする。非限定的な理論によれば、そして前記で論じたように、各々が薬物の望ましい濃度範囲内である望ましい薬物濃度に実質的に類似する異なるKD値を有する複数の抗体のかかる使用は、平衡薬物濃度に及ぼす抗体の影響により身体区画内の薬物クリアランスの速度に影響する。関連する実施態様では、多量体抗体、例えば二重特異性抗体分子を本開示に従って緩衝抗体として使用するために操作することができ、それにより単一の抗体分子は抗原(薬物)に関して2つの異なる抗体結合部位を有することができ、かかる部位の各々は薬物の望ましい濃度範囲内である望ましい薬物濃度に実質的に類似する異なるKD値を有する。当業者は二重特異性およびその他の多量体抗体(Peippら、Biochem Soc.Transact.30:507(2002);Presta、Curr.Pharm.Biotechnol.3:237(2002))ならびにダイアボディ(Kipriyanov、Meths.Mol.Biol.178:317(2002))を調製するための種々の計画に精通している。多量体抗体には抗原に特異的な第1Fvを含み、その抗原は異なる抗原特異性を有する第2Fvに随伴される二重特異性および二機能性抗体を含む(例えばDrakemanら、Expert Opin.Investig.Drugs 6:1169−78(1997);Koelemijら、J.Immunother.22:514−24(1999);Marvinら、Acta Pharmacol.Sin.26:649−58(2005);Dasら、Methods Mol.Med.109:329−46(2005)参照)。
【0028】
同様に、特定のその他の実施態様によれば、本開示に鑑みて企図される実施態様で本発明により提供されるインビボ抗体緩衝を用いて薬物の各々に関する望ましい濃度範囲を維持するのが望ましいかもしれないような被験体の処置に2つまたはそれより多い薬物が適応とされ得る。例えばかかる方法は少なくとも1用量の第1薬物および第1薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第1抗体またはその抗原結合フラグメントを投与すること;ならびに少なくとも1用量の第2薬物および第2薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第2抗体またはその抗原結合フラグメントを投与することを含み得る。
【0029】
本発明の特定の実施態様に従って企図される方法および組成物は被験体を処置するのに有用であってよく、好ましい実施態様では、それはヒト被験体でよく、そしてその他の実施態様ではヒト以外の霊長類(例えばチンパンジー、ゴリラ、マカク、サル等)、家畜(例えばウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等)もしくはその他の哺乳動物(例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、スナネズミ、マウス、ラット、等)哺乳動物のようなヒト以外の動物またはその他の非哺乳動物種を含むでよい。特定の実施態様は、新生物による症状のような身体区画内にある細胞または組織の異常または異常症状を特徴とする疾患または障害を有する患者である被験体における薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法を含む。
【0030】
本明細書に開示する特定の実施態様は、中枢神経系区画である被験体の身体区画において薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法に関し、CNS内の新生物による症状を有すると診断された被験体を含むが、本発明はそのように限定されることを意図せず、そして同様に広範なその他の疾患、障害および症状に適用可能な処置方法を企図する。例えば本明細書に記載する抗体緩衝方法および組成物を転移(例えば転移性脳腫瘍)、神経変成疾患(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、および神経変成を特徴とするその他の疾患)もしくは血管疾患(例えば脳卒中、側頭動脈炎)を処置するためにCNS区画で薬物濃度を維持するために、または自己免疫疾患(例えば多発性硬化症およびCNS区画の脈管炎;リウマチ様関節炎および関節包および/または嚢包の脊椎炎;甲状腺のグレーブス病;等)を処置するためにもしくは身体区画において薬物の望ましい濃度範囲を維持することが有利であり得る任意のその他の適応のために身体区画における薬物濃度を維持するために有用に用いることができる。
【0031】
被験体における新生物による症状の存在は被験体における、例えば悪性、転移性、腫瘍、非接触性抑制性および/または腫瘍形成的に形質転換細胞等(例えばグリオーマ、星細胞腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、リンパ腫、メラノーマ、腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、燕麦細胞癌等のような癌腫、軟骨肉腫、骨肉腫等のような肉腫)を含む異形成性、癌性および/または形質転換細胞の存在を意味し、これらは当分野に公知であり、そしてそれらに関する診断および分類のための基準が確立されている。本発明により企図される特定の好ましい実施態様では、例えばかかる癌細胞は脳実質、髄膜、脳神経、下垂体、松果体、乏突起膠細胞、上衣および脈絡叢等の形質転換細胞のような、CMS区画内の新生物細胞である。特にこれらに関連するものおよび関連する実施態様は、限定するものではないが小細胞肺癌、腺癌、リンパ腫およびその他の新生物由来の転移を含む脳転移である。
【0032】
(薬物/医薬組成物および投与)
本発明に従って使用するための薬物は治療および/または診断目的で被験体に投与することができる物質の任意の組成物でよい。好ましくは薬物を可溶性形態で提供する。理論に束縛されることは望まないが、薬物は被験体の細胞または組織においてその同族特異的な薬物標的と特異的に相互作用して、薬物−標的相互作用の結果として直接的(例えば酵素の阻止、受容体の遮断)または間接的(例えば望ましい事象に至るためにシグナリングカスケードを開始する受容体アゴニストとして)のいずれかで治療上の利益を付与することができる。典型的には本明細書に開示する特定の好ましい実施態様に従って使用するための薬物は「小型分子」として当分野において公知であり、そして105ダルトン未満、好ましくは104ダルトン未満、さらに好ましくは8×103、5×103、3×103、2×103または1.5×103ダルトン未満、およびなおさらに好ましくは103ダルトン未満の分子量を有する化合物を含む。
【0033】
当業者に公知であるように、特定の疾患または障害に望ましい濃度範囲が確立されている適当な投薬量を含む1つ以上の薬物を適応とすることができる(例えばPhysician’s Desk Reference(2004)、トンプソンヘルスケア、ニューヨーク;BeersおよびBerkow(編)、Merck Manual of Diagnosis and Therapy第17版(1999)、ジョンワイリー・アンド・サンズ、ニューヨーク参照)。しかしながら本発明はそのように限定される必要はなく、そしてまた望ましい濃度範囲が公知であるか、または利用可能な情報に基づいてもしくは当分野で許容されている系を用いる標準的なインビトロおよびインビボ方法論から得られるような薬理学/薬物動態的、生物学的、化学的およびその他の特性に関連する容易に作成されるデータから決定され得る新しいおよび/または実験的薬物をも企図する。例えばインビトロ(例えば細胞培養基盤)の系は、細胞表現型に及ぼす影響を明白に示すことができる最小薬物濃度範囲を確立することができるが、薬物毒性の徴候(例えば壊死、アポトーシス、呼吸および/または代謝不全等)のモニタリングから明らかであるような、従来のプロトコールに従ってインビボモデルを用いて薬物濃度範囲の上限を確立することができる。したがって、一度1つの薬物または薬物の1つの組み合わせを被験体の処置に選択すると、定義された有効レベルに基づいて各薬物に関する望ましい濃度範囲が解り、そして適切な抗体解離定数(KD)値を有する抗体を選択することができる。抗体を作成する方法は、抗体解離定数を決定するための方法と同様に本明細書に記載され、そして当分野において公知であり、望ましい同族抗原(例えば薬物のようなリガンド)との特異的結合親和性を有する抗体を選択すること、およびさらにかかる抗体の中から望ましい薬物濃度範囲内である望ましい濃度に実質的に類似するKDを有するものを選択することはおよび過度な実験を行うことなく容易に達成され得る。
【0034】
したがって特定の実施態様では本発明は、被験体の身体区画において維持すべき薬物の望ましい濃度範囲を決定すること;および薬物に特異的に結合し、そして身体区画において維持すべき薬物の望ましい濃度範囲に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する抗体を調製すること、およびそれにより薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定することを含む、被験体の身体区画において薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定するための方法を提供する。
【0035】
本明細書に開示する特定の本発明の実施態様により得られる別の予期せぬ利点は、被験体においてインビボで、例えば被験体の身体区画において望ましい時間1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持する能力である。抗体−抗原平衡動力学に関する前記の議論から以下のように、インビボ抗体緩衝効果の結果である身体区画内の薬物半減期の驚くべき延長により、望ましい薬物濃度を維持することができる期間の制御が可能になる。抗体解離定数KDが本明細書に記載されるように到達し得る遊離(未結合)薬物のレベルを制御する場合、望ましい薬物濃度範囲を維持できる時間を算定する目的で区画容量および薬物クリアランス速度(遊離薬物の喪失の薬物動態速度)に鑑みて投与される抗体および薬物の絶対量を計算することができる。
【0036】
被験体における1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための本記載の方法は、周知の方法論および技術に従って投与するために医薬組成物に処方することができる薬物および抗体の用量を含む。特定の好ましい実施態様では、投与は身体区画に行われる。医薬組成物は一般に1つ以上の薬物および/または抗体を薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と組み合わせて含む。かかる担体は用いられる投薬量および濃度で受容者に対して無毒性である。特定の薬物および/または抗体に関して約0.01μg/kgから約100mg/kg体重が典型的には、(CNSでは)髄腔内、脳室内、硬膜外、硬膜下、くも膜下、髄膜、類洞もしくは脳実質投与による、または(その他の区画では)心膜、胸膜嚢、眼窩後腔、1つもしくはそれより多い前眼房、後眼房もしくは眼の硝子区画のような眼区画、関節包、嚢包、脾臓、胸腺もしくはリンパ節のようなリンパ区画、または卵巣、前立腺、陰嚢もしくは精巣のような泌尿生殖器区画への直接注射による、またはエアロゾル化水性溶液の鼻腔区画、細気管支もしくは肺区画への吸入による、またはその他の経路によるような(複数の)薬物の望ましい濃度範囲の維持が行われるべき身体区画に従って決定される経路により投与される。特定の好ましい実施態様に従って、身体区画は中枢神経系区画を含み、そして投与の工程は薬物の髄腔内、脳室内、実質、硬膜下、くも膜下または硬膜外導入を含む。
【0037】
好ましい投薬量は約1μg/kgから約1mg/kgであり、約5μg/kgから約200μg/kgが特に好ましい。投与の数および頻度は被験体の応答に依存することは当業者には明白であろう。同様に本発明の特定の実施態様は、(a)(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で身体区画に投与することであって、ここで該抗体に関しては、抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そしてここで抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している;ならびに(b)薬物の少なくとも1つのさらなる用量を逐次的に投与すること;を含む被験体の身体区画において1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法を企図する。
【0038】
さらにこの点で、身体区画液体容量中の可溶性抗体の驚くべき滞留時間を考えると、平衡計算および/または経験的な観察により、抗体−薬物解離および薬物クリアランスの組み合わせ効果が望ましい濃度を下回るまで薬物レベルを低下させたことが示された時点で、望ましい薬物濃度を維持するための方法を含む特定の関連する実施態様に従って、抗体および薬物が以前に投与された区画への遊離薬物の反復再投与(「再負荷」)が企図される。理論に束縛されることは望まないが、かかる状況下では身体区画中で薬物濃度が低く、そして薬物に対する過剰の抗体結合部位がリガンド(すなわち薬物)により占有されていない点に再平衡されている抗薬物抗体のプールは、新鮮な薬物でのかかる「再負荷」に利用可能であり、インビボでリガンドの抗体緩衝の平衡原理により再度有効な薬物濃度の維持の延長に至る。かかる再負荷はまた予期せぬ利点として、身体区画および、したがって被験体が、抗体−薬物複合体における薬物の網封鎖に至る迅速な平衡過程の初めに高々一過性のおよび短命の高レベルの遊離薬物に暴露される方法を提供する。
【0039】
本明細書に記載したいくつかの実施態様の中で、(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することができるものが含まれる。その他の関連する実施態様は、薬物および抗体が混合されるか、または投与の前に予め混合されるものを含み得るが、さらにその他の関連する実施態様は、抗体および薬物が別個に投与されるか、または投与時に混合されるものを含む。
【0040】
治療に使用するための「薬学的に許容される担体」は薬学の分野で周知であり、そして例えばRemingtons Pharmaceutical Sciences、マック出版社(A.R.Gennaro編(1985))に記載されている。例えば生理学的pHの滅菌食塩水およびリン酸塩緩衝食塩水を用いることができる。保存剤、安定剤、染料およびその他の補助剤を医薬組成物に提供することができる。例えば安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp−ヒドロキシ安息香酸のエステルを保存剤として加えることができる。同文献1449。加えて、抗酸化剤および懸濁剤を用いることができる。同文献。「薬学的に許容される塩」は、かかる化合物および有機もしくは無機酸(酸付加塩)または有機もしくは無機塩基(塩基付加塩)の組み合わせから誘導される薬物化合物の塩を意味する。本明細書での使用が企図される薬物を遊離塩基または遊離塩形態のいずれかで用いることができ、双方の形態は特定の本発明の実施態様の範囲内であると考えられる。
【0041】
1つもしくはそれより多い薬物および/または1つもしくはそれより多い抗体を含有する医薬組成物は、組成物を患者に投与することを可能にする任意の形態でよい。例えば組成物は固体、液体または気体(エアロゾル)の形態でよい。特定の好ましい実施態様に従って、組成物を液体形態にし、そして投与経路は少なくとも1用量の薬物および薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを身体区画に同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む。その他の典型的な投与経路には、限定するものではないが経口、舌下、局所、非経口(例えば舌下または口腔)、舌下、直腸、膣および鼻腔内が含まれ得る。本明細書で用いる非経口なる用語には、皮下注射、静脈内、筋肉内、髄内、胸骨内、空洞内、くも膜下腔内、道内、尿道内注射または注入技術が含まれる。
【0042】
ヒト患者のような被験体への組成物の投与時に、そこに含有される活性成分を生体内利用できるように医薬組成物を処方する。患者に投与される組成物は1つ以上の用量または投薬量単位の形態をとり、ここで例えば予め測定された液体容量は単一の投薬量単位を含むことができ、そして液体またはエアロゾル形態の1つ以上の組成物(例えば薬物、抗薬物抗体)の容器は複数の投薬量単位を入れることができる。薬物の用量は薬物の望ましい濃度範囲、例えば身体区画における薬物の望ましい濃度範囲を達成または維持するのに十分な様式で、および時間をかけて投与される特定の薬物の治療上有効量の全てまたは一部を含み、そしてここで用量を含む薬物の絶対量は薬物、被験体、身体区画ならびに医学および薬学および関連する分野の状態に鑑みて当業者が精通するその他の基準によって異なる。特定の実施態様では、少なくとも2用量の薬物を投与することができ、そして特定のその他の実施態様では抗体および薬物をおよそ等モル濃度で(すなわち現在の統計的に有意な検出限界による均等な濃度であり、標準偏差は15%未満、好ましくは10%未満、さらに好ましくは5%未満、なおさらに好ましくは3、2、1または0.1%未満である)投与することができる。その他の実施態様は、抗体および薬物を少なくともおよそ2:1、2.5:1、3:1、4:1、5:1または5:1より大きい抗体対薬物モル比で投与することを企図する。
【0043】
本明細書で用いる液体医薬組成物は溶液、懸濁液の形態またはその他の同様の形態であっても、1つ以上の以下の佐剤を含み得る:注射用水、食塩水溶液、好ましくは生理学的食塩水、リンガー溶液、食塩水溶液(例えば生理食塩水、または等張、低張もしくは高張塩化ナトリウム)、溶媒もしくは懸濁培地として提供できる合成モノもしくはジグリセリドのような不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の溶媒のような滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩のようなバッファーおよび塩化ナトリウムまたはデキストロースのような張度を調整するための薬剤。非経口調製物をガラスもしくはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは反復投与用バイアルに封入することができる。生理学的食塩水は好ましい佐剤である。注射用医薬組成物は滅菌されているのが好ましい。調製物中に、限定するものではないがアルミニウム塩、油中水エマルジョン、生分解性油ベヒクル、水中油エマルジョン、生分解性マイクロカプセルおよびリポソームを含む分配ベヒクルのようなその他の構成成分を含むのも望ましい。
【0044】
当業者に公知の任意の適当な担体を本発明の医薬組成物に用いることができるが、担体の型は投与の様式、および本発明による抗体により得られる生物薬理学的緩衝効果に加えて従来の薬物除放もまた望ましいかどうかに依存して異なる。薬物の追加注射のような非経口投与用に、担体は水、食塩水、アルコール、脂肪、ワックスまたはバッファーを含むのが好ましい。生分解性マイクロスフェア(例えばポリ酢酸ガラクチド)を本発明の医薬組成物に担体として用いることもできる。適当な生分解性マイクロスフェアは例えば米国特許第4,897,268号および第5,075,109号に開示されている。この点でマイクロスフェアがおよそ25ミクロンよりも大きいのが好ましい。
【0045】
医薬組成物はまたバッファーのような希釈剤、アスコルビン酸のような抗酸化剤、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、グルコース、スクロースまたはデキストリンを含む炭水化物、EDTAのようなキレート剤、グルタチオンならびにその他の安定剤および賦形剤をも含有し得る。中性の緩衝食塩水または非特異的血清アルブミンと混合した食塩水は適切な希釈剤の実例である。好ましくは、適切な賦形剤溶液(例えばスクロース)を希釈剤として用いて生成物を凍結乾燥物として処方する。
【0046】
(身体区画)
身体区画は、液体連絡において身体のその他の領域から絶対的である必要はないが実質的に分離された、例えば組織または器官構造の生成物であるような、薄膜(例えば髄膜、心膜、胸膜、骨膜、関節包膜、粘膜、基底膜、腹膜、網、器官被包膜等)によりその他の身体部分から分離され得る空間的に定義された区画のような任意の定義された解剖学的区画を含み得る。本明細書に記載する特定の好ましい実施態様では、身体区画は物理的および生理学的に血液脳関門により循環から分離されており(Begley、Pharmacal.Therapeut.104:29(2004))、そして髄腔内、脳室内、実質、硬膜下、くも膜下または硬膜外により接近可能なCNS区画でよい。
【0047】
簡単な背景としては、血液脳関門(BBB)はたいていの物質のCNS侵入に大きく影響し(Heidemanら、Cancer 80:497(1997))、そして積極的化学療法での脳腫瘍の処置の試みの失敗に関係している(Castroら、Pharmacol.Ther.98:71(2003))。その目的は血液から脳を分離して脳機能および代謝の調節を補助することである。BBBは小型の(200ダルトン未満)の親油性の非イオン化化合物以外の全ての侵入を制限する緊密な内皮細胞接合から成る。
【0048】
脳脊髄液(CSF)は脳室系およびくも膜下腔を満たす液体である。それは浸透作用および能動輸送の過程を介して脈絡叢により形成される。タンパク質は通常脈絡叢を通過できず、それは免疫物質のCSFへの通過を防御する。CSF流の方向は側脳室から脳室内孔、第3脳室、中脳水道を通り、そして第4脳室に向かう。次いでそれはくも膜下腔に入り、そこでは脳の表面のどこにでも自由に流れる。くも膜は増殖して硬膜内の空間に、または上矢状静脈洞に突出する分岐したくも膜絨毛の肉眼観察できる斑点を形成する。これらのくも膜下粒を介してCSFは血管系に再吸収される。
【0049】
髄腔内化学療法に用いられる現在利用可能な薬物は急速にCSFから除去される(Jaeckleら(2002))という事実にもかかわらず、本出願は実質的に望ましい薬物濃度に類似する解離定数を有することに基づいて選択される緩衝抗体が、かかるクリアランスを遅延させることができ、それによりその望ましい濃度でまたはそれ近くで薬物を維持することができるという予期せぬ発見を開示する。また前記でも記したように、特定の好ましい実施態様は特に、限定するものではないが小細胞肺癌、腺癌、リンパ腫およびその他の悪性腫瘍に由来する転移を含む脳転移のようなCNS新生物の処置に特に有用である。
【0050】
リガンド(例えば薬物)のインビボ抗体緩衝を実施できるさらなる身体区画には心膜、胸膜腔、眼窩後区画、眼(さらに前房、後房および硝子区画を含む)、関節包、嚢包、リンパ区画(例えば脾臓、胸腺およびリンパ節)、腹膜腔、鼻内区画、肺、および卵巣、前立腺および陰嚢のような泌尿生殖器区画、ならびにその他の比較的定義された身体区画が含まれる。身体区画の実例はまた解剖学的におよび薬物動態によりOhningら、Neonatal.Netw.14:7(1995);Ohningら、Neonatal.Netw.14:15(1995);ならびに米国特許第6,414,033号およびそこに引用された出版物(例えばNordenstrom,B.E.、Biologically Closed Electrical Systems:Clinical,Experimental and Theoretical Evidence of an Additional Circulatory System(1983)、ストックホルム、ノルディックメディカル出版;およびEvans,E.E.、Schentag J.J.、Jusko W.J.(編)、Applied Pharmacokinetics:Principles of Therapeutic Drug Monitoring(1992)、第3版、バンクーバー、ワシントン州)にも記載されている。少なくとも1用量の薬物および少なくとも1つの抗体を投与する目的のために、確立された経路による身体区画への治療のための接近は、本明細書に記載するような治療方法による医学および獣医学の分野のレパートリー内である。
【0051】
(抗体)
ペプチド、ポリペプチドおよび薬物に特異的に結合するその他の分子である抗薬物結合分子を含む抗体もまた本発明により企図される。かかる結合分子を本明細書に記載するような1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法において用いることができる。抗薬物結合分子のような抗体は、検出可能なレベルで薬物と反応する(例えば結合する)が、構造的に異なるまたは関連性のない分子とは検出可能なように反応しない場合に、特定の薬物に特異的に結合するとされている。したがって好ましい結合分子には、例えばポリクローナル、モノクローナル、一本鎖、キメラ、ヒト化、抗イディオタイプ、もしくはCDR移植免疫グロブリンでよい抗体、またはタンパク質溶解により作成されたもしくは組換えにより生成された免疫グロブリンF(ab’)2、Fab、Fab’、Fvおよび/もしくはFdフラグメントのようなその抗原結合フラグメント、単一ドメイン抗体(「dAb」;Holtら、Trends Biotech.21:484(2003))ならびにダイアボディ(Hudsonら、J.Immunol.Meth.231:177(1999))が含まれる。本発明による抗体は任意の免疫グロブリンクラス、例えばIgG、IgE、IgM、IgDまたはIgAに属してよい。それは動物、例えば家禽(例えばニワトリ)または、限定するものではないがマウス、ラット、ハムスター、ウサギもしくはその他のげっ歯類、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ヒトまたはその他の霊長類を含む哺乳動物から得られるか、またはそこから誘導することができる。抗体は内部移行型抗体でよいか、または抗体は細胞膜を通って容易に輸送され得るように修飾され得る。
【0052】
特定の好ましい抗体は、薬物がその同族の特異的な薬物標的と相互作用するのを阻止、妨害または遮断するこれらの抗体である。当業者が容易に実行できる例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫沈殿、ラジオイムノアッセイ、免疫ブロッティング等を含む従来の免疫検出法を用いて、抗体の薬物への結合特性を一般的に評価することができる。当業者はまたかかる免疫検出法に精通しており、薬物リガンドの立体構造エピトープに結合する抗体を検出するために用いる場合、薬物を変性させる可能性があり、そしてしたがってリガンド立体構造エピトープを変化させるかまたは破壊し得る任意の試薬または条件を避けるのが好ましいであろう。
【0053】
当分野において周知の、および本明細書に記載する方法を用いて所望による特定の薬物に特異的である、ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を含む抗体を作成することができる。また抗体を望ましい特性を有するように設計された、遺伝子操作された免疫グロブリン(Ig)またはIgフラグメントとして生成することもできる。例えば説明目的であり、限定するものではないが、抗体は第1の哺乳動物種からの少なくとも1つの可変(V)領域ドメインおよび第2の異なる哺乳動物種からの少なくとも1つの定常領域ドメインを有するキメラ融合タンパク質である組換えIgGを含み得る(例えばMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 81:6851−55(1984);Shinら、Methods Enzymol.178:459−76(1989);Wallsら、Nucleic Acids Res.21:2921−29(1993);米国特許第5,482,856号参照)。最も一般的には、キメラ抗体はネズミ可変領域配列およびヒト定常領域配列を有する。かかるネズミ/ヒトキメラ免疫グロブリンは、ヒト由来V領域フレームワーク領域およびヒト由来定常領域に、抗原に関する結合特異性を付与する、ネズミ抗体から誘導される相補性決定領域(CDR)を移植することにより「ヒト化」されていてよい(例えばJonesら、Nature 321:522−25(1986);Riechmannら、Nature 332:323−27(1988);Padlanら、FASEB 9:133−39(1995);Chothiaら、Nature 342:377−383(1989);Bajorathら、Ther.Immunol.2:95−103(1995);欧州特許第0578515−A3号)参照)。これらの分子のフラグメントをタンパク質消化により、または場合によってはタンパク質消化に続いてジスルフィド結合の穏やかな還元およびアルキル化により作成することができる。これに代えて、かかるフラグメントを組換え遺伝子操作技術により作成することもできる(例えばHarris,W.J.、Adair,J.R.(編)、Antibody Therapeutics(1997)、シーアールシープレス、ボカラトン、フロリダ州)。
【0054】
免疫特異的である、または本明細書で提供するような薬物に特異的に結合する抗体は検出可能なレベルで薬物と反応し、そして異なるまたは関連性のない構造を有する分子とは反応せず、好ましくは約104M−1より大きいかまたはそれに等しい、さらに好ましくは約105M−1より大きいかまたはそれに等しい、さらに好ましくは約106M−1より大きいかまたはそれに等しい、そしてなおさらに好ましくは約107M−1より大きいかまたはそれに等しい親和定数Kaを有する。抗体とその同族抗原との親和性は一般に解離定数KDとして表現され、そして抗薬物抗体が10−4M未満もしくはそれに等しい、10−5M未満もしくはそれに等しい、10−6M未満もしくはそれに等しい、10−7M未満もしくはそれに等しい、または10−8M未満もしくはそれに等しいKDで結合する場合、それは薬物と特異的に結合する。結合パートナーまたは抗体の親和性を従来の技術、例えばScatchardら(Ann.N.Y.Acad.Sci.USA 51:660(1949))に記載されるものを用いて、または表面プラスモン共鳴(ビアコア、バイオセンサー、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)により容易に決定することができる。例えばWolffら、Cancer Res.53:2560−2565(1993)参照。
【0055】
一般に当業者に公知の種々の技術のいずれかにより抗体を作成することができる。例えばHarlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、コールドスプリングハーバーラボラトリー(1988)参照。かかる技術の1つでは、例えば確立された方法論に従って、適当なキャリア上のハプテンとして薬物を用いて動物を薬物の免疫原形態で、ポリクローナル抗血清を作成するための抗原として免疫する。適当な動物には例えばウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシが含まれ、そしてマウス、ラットおよびハムスターまたはその他の種のような小型哺乳動物種もまた含まれ得る。
【0056】
免疫原は精製されたもしくは部分的に精製された薬物を含んでよいか、または(例えばポリペプチドまたはポリヌクレオチドまたは代謝産物である薬物に関して)薬物を発現するかもしくは薬物がその免疫原性を増強する様式で導入されている細胞からなってよい。ペプチドまたはポリペプチド薬物を標準的な組換え遺伝子方法論を用いて、もしくは天然発生タンパク質のタンパク質溶解切断により作成することができるか、または化学的に合成することができる。ペプチド薬物をポリアクリルアミドゲル電気泳動のような当分野において公知の技術、または液体クロマトグラフィーのようなその他の種々の分離方法のいずれか、またはその他の適当な方法論により単離することができる。
【0057】
ポリペプチドまたはペプチドである薬物に対して抗体を上昇させるために、免疫原として有用なペプチドは典型的には、薬物配列からの少なくとも4または5個の連続したアミノ酸配列を有し、そして好ましくは薬物ポリペプチド配列の少なくとも6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、18、19または20個の連続したアミノ酸配列を有し得る。特定のその他の好ましいペプチド免疫原は薬物ポリペプチド配列の21−25、26−30、31−35、36−40、41−50個またはそれより多い連続したアミノ酸配列を含み得る。また宿主動物において抗原応答を生じる可能性がより高いアミノ酸配列を決定するために、免疫に有用なポリペプチドまたはペプチドを当業者に公知の方法に従って薬物ポリペプチドの1次、2次および3次構造を分析することにより選択することもできる。例えばNovotny、Mol.Immunol.28:201−207(1991);Berzofsky、Science 229:932−40(1985);Changら、J.Biochem.117:863−68(1995);Kolaskarら、Viology 261:31−42 (1999))参照。好ましくはポリペプチドまたはペプチドは、その薬理学的活性形態で薬物ポリペプチドの立体構造に近似する様式でフォールディングするのに十分な数のアミノ酸を含む。
【0058】
免疫原を調製し、そして当分野において周知の方法に従って動物を免疫することができる。例えばHarlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、コールドスプリングハーバーラボラトリー(1988)参照。定期的に動物を出血させ、収集した血液から血清を分離し、そしてELISAまたはオクタロニー拡散アッセイ等のようなイムノアッセイで血清を分析して特異的抗体力価を決定することにより免疫応答をモニタリングすることができる。一度抗体力価が確立されると、動物を定期的に出血させてポリクローナル抗血清を集めることができる。次いで例えば親和性クロマトグラフィーにより、精製すべき(複数の)抗体の定常領域(重または軽鎖)に特異的に結合する黄色ブドウ球菌プロテインAまたはプロテインGを用いて、または適当な固体支持体に固定した薬物を用いてかかる抗血清から薬物に特異的に結合するポリクローナル抗体を精製する。
【0059】
望ましい結合特異性を有するモノクローナル抗体を生成する不死化真核細胞系である、薬物およびハイブリドーマに特異的に結合するモノクローナル抗体もまた、例えばKohlerおよびMilstein(Nature 256:495−497(1976);Eur.J.Immunol.6:511−519(1975))の技術ならびに当業者が精通するそれの改良法を用いて調製することができる。動物、例えばラット、ハムスターまたはマウスを薬物または薬物免疫原で免疫し;抗体形成細胞、典型的には脾臓細胞を含むリンパ球系細胞を免疫した動物から入手し;そしてかかる細胞を選択薬剤感受性骨髄腫(例えば形質細胞腫)細胞融合パートナーとの融合により不死化することができる。
【0060】
モノクローナル抗体をハイブリドーマ培養物の上澄から単離するか、またはモノクローナル抗体を含有する腹水の形成を促すように処理した(例えばプリスタン刺激した)マウスから単離することができる。モノクローナル抗体の特定の特性(例えば重または軽鎖アイソタイプ、結合特異性等)に基づいて選択された適切なリガンドを用いて親和性クロマトグラフィーにより抗体を精製することができる。固体支持体に固定された適当なリガンドの実例にはプロテインA、プロテインG、抗定常領域(軽鎖または重鎖)抗体、抗イディオタイプ抗体および特異的抗体に望ましい薬物抗原が含まれる。
【0061】
ヒトモノクローナル抗体を当業者が精通するさまざまな技術により作成することができる。またヒト免疫グロブリンファージライブラリーから、ウサギ免疫グロブリンファージライブラリーから、および/もしくはニワトリ免疫グロブリンファージライブラリーから(例えばWinterら、Annu.Rev.Immunol.12:433−55(1994);Burtonら、Adv.Immunol.57:191−280(1994);米国特許第5,223,409号;Huseら、Science 246:1275−81(1989);Schlebuschら、Hybridoma 16:47−52(1997)およびそこに引用された参照文献;Raderら、J.Biol.Chem.275:13668−76(2000);Popkovら、J.Mol.Biol.325:325−35(2003);Andris−Widhopfら、J.Immunol.Methods 242:159−31(2000)参照)、またはリボソームディスプレイ(例えばHanesら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:14130(1998))もしくは酵母ディスプレイ(例えばColbyら、Meths.Enzymol.388:348(2004))等のようなその他の方法論により抗体を同定し、そして単離することもできる。ヒト以外の種またはヒト以外の免疫グロブリンライブラリーから単離された抗体を本明細書に記載する、および当分野において公知の方法に従って遺伝子操作して抗体またはそのフラグメントを「ヒト化」することができる。
【0062】
特定の実施態様では、抗薬物、薬物、または抗二重変異体薬物を含む抗変異体薬物抗体を生成する免疫動物からB細胞を選択し、そして当分野において公知の(国際公開公報第92/02551号;米国特許第5,627,052号;Babcookら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:7843−48(1996))および本明細書に記載する分子生物学技術に従ってB細胞から軽鎖および重鎖可変領域をクローニングする。好ましくは薬物または二重変異体薬物に特異的に結合する抗体を生成する細胞を選択することにより、免疫動物からのB細胞を脾臓、リンパ節または末梢血試料から単離する。またB細胞をヒトから、例えば末梢血試料から単離することもできる。
【0063】
抗体フラグメントは特異的抗原に結合して複合体を形成するという点で抗体のように作用する任意の合成または遺伝子操作されたタンパク質でもよい。例えば抗体フラグメントには軽鎖可変領域からなる単離されたフラグメント;重および軽鎖の可変領域からなる「Fv」フラグメント;軽および重可変領域がペプチドリンカーにより連結されている組換え一本鎖ポリペプチド分子(scFvタンパク質);および超可変領域を擬似するアミノ酸残基からなる最小認識単位が含まれる。かかる抗体フラグメントは好ましくは少なくとも1つの可変領域ドメインを含む。(例えばBirdら、Science 242:423−26(1988);Hustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883(1988);欧州特許第B1−0318554号;米国特許第5,132,405号;米国特許第5,091,513号;および米国特許第5,476,786号参照)
特定の実施態様では、薬物に特異的に結合する抗体は細胞内タンパク質として発現される抗体でよい。かかる細胞内抗体はまた細胞内発現抗体とも称され、そしてFabフラグメントを含み得るか、または好ましくはscFvフラグメントを含み得る(例えばLecerfら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:4764−49(2001)参照)。CDR領域をフランキングするフレームワーク領域を修飾して発現レベルおよび細胞内の還元環境内での細胞内発現抗体の溶解性を改善することができる(例えばWornら、J.Biol.Chem.275:2795−803(2000)参照)。例えば細胞内の特定の標的抗原をコードするポリヌクレオチド配列に作動可能なように融合することができる細胞内発現抗体の可変領域をコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを構築することにより、細胞内発現抗体を特定の細胞位置またはオルガネラに志向させることができる(例えばGraus−Portaら、Mol.Cell Biol.15:1182−91(1995);Lenerら、Eur.J.Biochem.267:1196−205(2000)参照)。遺伝子治療ベクター、または脂質混合物(例えばイムゲネックス社、サンディエゴ、カリフォルニア州により製造されたProvectin(商標))を介するものを含む当業者に利用可能な種々の技術により、または光化学的内部移行法に従って細胞内発現抗体を細胞に導入することができる。
【0064】
核酸切断、ライゲーション、形質転換、およびトランスフェクションに関する種々の周知の手順のいずれかに従って、本明細書に記載するような薬物に特異的に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドをさまざまな公知の発現ベクターを用いて増殖および発現させることができる。したがって特定の実施態様では、大腸菌のような原核細胞宿主における抗体フラグメントの発現が好ましい(例えばPluckthunら、Methods Enzymol.178:497−515(1989)参照)。特定のその他の実施態様では、酵母(例えばサッカロミセス・セレビシエ、シゾサッカロミセス・ポンベおよびピチア・パストリス)、菌類(例えばニューロスポラ・クロッサのようなアカパンカビ細胞)、動物細胞(哺乳動物細胞を含む)または植物細胞を含む真核宿主細胞において抗体またはそのフラグメントを発現させることができる。適当な動物細胞の実例には、限定するものではないが骨髄腫、COS、CHO、またはハイブリドーマ細胞が含まれる。植物細胞の実例にはタバコ、トウモロコシ、ダイズおよびコメ細胞が含まれる。
【0065】
薬物に特異的に結合する抗体を前記したような、抗体のKdを決定するためのアッセイのような抗体親和性を決定するためのアッセイにおいてスクリーニングして、身体区画において維持すべき薬物の望ましい濃度に実質的に類似するKd値を有する抗体を同定することができる。そのようにして選択された、および薬物に特異的に結合する抗体を本明細書に記載した方法で用いて、被験体の身体区画を含む被験体において1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる。
【0066】
限定ではなく説明の目的で以下の実施例を提示する。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
(脳脊髄液中の抗体緩衝)
(方法)
抗体生成
抗OxハイブリドーマNQ11/7.12は以前に記載されている(Griffithsら、Nature 312:271−75(1984);Berekら、Eur.J.Immunol.17:1121−29(1987))。対照(非Ox結合)ネズミ抗リゾチーム抗体D1.3(Amitら、Science 233:747−53(1986))をも使用した。ハイブリドーマを振動気泡ローラーボトル中で成長させ(Pannellら、J.Immunol.Methods 146:43−48(1992))、そしてプロテインA−セファロースの親和性クロマトグラフィーにより各々のモノクローナル抗体を使用済み培養上澄から精製した。純度を検証するために抗体に関してSDS−PAGEを実施した。紫外分光法により配列から計算した減衰係数を用いてタンパク質濃度を決定した(Perkins、Eur.J.Biochem.157:169−80(1986))。抗体溶液をフィルター滅菌し、そして窒素下で4℃で保存した。
【0068】
トリチウム標識した2−フェニル−オキサゾール−5−オン−γ−アミノブチラート抱合体(Ox)の調製
本質的にBerekら(前出)に記載されるように粗製Oxを調製した。3H−γ−アミノ酪酸(GAGA)(1mCi/ml)をパーキンエルマーライフサイエンシズ社(ウェルズリー、マサチューセッツ州)から入手し、そして未標識GABA(1M NaHCO3中0.5mM)および4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン(アセトン中36.26mg/ml)の溶液を調製した。未標識GABA溶液5μlを氷上で3H−GABA 50μlと混合した。4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン溶液10μlを加え、そして反応混合物をときどき手動で混合しながら1時間氷上に置いた。次いでさらに4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン溶液11μlを加え、そして反応混合物を氷上で20分間放置した。未標識GABA溶液5μlを加え、そして反応物を高速で混合しながら20時間室温にした。次いで濃酢酸1μlを加え;得られた沈殿物をサーモサバントSPD1010スピードバックシステム中で加熱せずに乾燥させた。乾燥した沈殿物をPBSに溶解した(25mM NaH2PO4/125mM NaCl、pH7.0)。
【0069】
得られたOx生成物をHPLCを用いて精製した。0.1Mギ酸アンモニウム(pH4.8)(可動相A)およびアセトニトリル(可動相B)を使用前に0.2ミクロンフィルターを通して減圧ろ過した。アジレントテクノロジーズの分析用ガードカラムを伴うゾルバックスSB−C18 HPLCカラムにOxを適用し、そして0.1Mギ酸アンモニウム(pH4.8)(可動相A)およびアセトニトリル(可動相B)で溶出した。9.5%から70%可動相Bのグラジエントを流速0.5ml/分で26分間かけて流し、そして348nmの波長を用いて容離液をモニタリングした。Oxピークは20.5分に溶出された。そのピークに収集された分画のシンチレーションカウンティングによりその同一性を確認した。Oxピークからプールした分画を加熱せずにスピードバックシステムで乾燥させた。乾燥後残留物をPBS 1mlに再懸濁した。Oxの放射化学的純度をHPLCにより確認した。定量的HPLCおよび紫外分光法の双方により濃度を決定した。Ox 1μlをシンチバースII(フィッシャーサイエンティフィック)5mlに希釈し、そしてベックマンLS6500シンチレーションカウンターで計数することにより特異活性を決定した。Oxの特異活性は4.2×106cpm/ナノモルであった。
【0070】
37℃での抗Ox抗体親和性の決定
パーキンエルマーLS50B発光分光計を用いて蛍光分光法により(FooteおよびMilstein、Nature 352:530−32(1991))抗体親和性を決定した。37℃に加熱した水浴を循環させることによりキュベットブロックの温度制御を維持した。PBS中20nM NQ11/7.12を含有するキュベットを分光計内に置き、そして37℃に平衡させた。30μg/mlユビキチンをキャリアとして加えた。帯域幅5nmの励起波長280nmおよび帯域幅10nmの発光波長340nmを積分時間8秒で用いた。40nM増でOx−GABA溶液を加え、そして平衡になる時間を見越して蛍光の読みを行った。得られた濃度/蛍光の読みを最小二乗法(FooteおよびWinter、J.Mol.Biol.224:487−99(1992))により分析して各抗体のKdを決定した。
【0071】
動物
雄スプラーグドーリーラット(300g)をジビックラボラトリーズ社(ゼリエノープル、ペンシルバニア州)から入手した。各ラットは注射用に右側脳室にカニューレおよび脳脊髄液(CSF)試料採取のために大槽に第2カニューレを設置するための手術を施された。簡単にはラットを2.5%イソフルランで麻酔し、そして定位固定装置内で固定した。加熱パッドにより通常の体温を維持した。正中線切開により前頭、頭頂および後頭骨を暴露した。ラットの定位図譜から得られた座標(ブレグマから1.8mm後側、3.8mm外側および4mm腹側)を用いて側脳室を位置決定した(Paxinosら、The Rat Brain in Stereotaxic Coordinates(アカデミックプレス 1998))。頭蓋骨にドリルで孔を開け、カニューレを挿入し、そしてベトボンド(スリーエム、ミネアポリス、ミネソタ州)および歯科用セメントを用いて頭蓋骨に固定した。脳槽カニューレ用に、上矢状静脈洞の穿孔を避けるために後頭稜のちょうど後ろおよび中線の少し左にドリルで孔を開けた。頭蓋骨の底部の下2mmの深さまでカニューレを挿入し、そしてベトボンドおよび歯科用セメントを用いて固定した。ネジ口カニューレダミーワイヤーをカニューレガイドに挿入して閉鎖系を維持した。脳室内注射の前少なくとも24時間はラットを回復させた。
【0072】
大槽(CM)の同一部位を介する注射およびCSF採取を行うための実験では、雄スプラーグドーリーラット(250g)をチャールズリバーラボラトリーズ(ウィルミントン、マサチューセッツ州)から入手した。これらのラットは前記したものに類似する手順を用いて大槽に埋め込まれた単一のカニューレを有した。カニューレの閉塞の危険性を低減させるために、到着後実験前にラットを休ませるのはせいぜい3日間であった。
【0073】
抗体緩衝プロトコール
注射用の試料を調製した:抗Ox抗体104ピコモルおよびOx52ピコモル;D1.3対照抗体104ピコモルおよびOx52ピコモル;ならびにOx52ピコモル単独。各試料を滅菌PBSで10μlまで希釈した。試料を37℃まで加温し、そして次にスプラーグドーリーラットの脳室内または脳槽カニューレを通して1分間にわたって注入した。注入の終わりをゼロ(0)時と称した。種々の時点でCSF 10μlを採取した。ラット1組に関してCSF 10μlを、シンチバースII 5mlに入れ、そしてベックマンLS6500シンチレーションカウンター中で計数することにより直接計数した。ラットの別の組に関してCSF 10μlを氷冷PBS 100μlに希釈し、そして以下に記載する結合対遊離Ox実験で用いた。
【0074】
187.1セファロース親和性樹脂を用いる結合および遊離Oxの分離
ラット抗マウスカッパ抗体187.1(アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、マナサス、バージニア州)(Yeltonら、Hybridoma 1:5−11(1981))を使用済み培養培地から単離し、そしてプロテインA−セファロース親和性カラムを通過させることにより精製した。CNBr活性化セファロース4ファストフロー(アメルシャムバイオサイエンシズ)10gを洗浄し、そして製造者のプロトコールに従って187.1と結合させた。膨潤した樹脂10gあたり187.1を2mg使用した。
【0075】
抗体緩衝実験の間、CSF+氷冷PBS試料を希釈後すぐに187.1カラムに負荷した。0.5mlずつ増量して3mlのPBSをカラムに適用した後、0.5mlずつ増量して3mlの0.2Mグリシン(pH2.5)を適用した。全てのPBS分画および全てのグリシン分画を各時点で別個に収集し、そしてスピードバック内で乾燥させた。残留物をPBS 150μlに再懸濁し、そして次にシンチバースII 5mlの入ったシンチレーションバイアルに移して計数した。
【0076】
長時間抗体緩衝プロトコール
NQ11/7.12およびOxの試料およびOxを調製し、そして抗体緩衝プロトコールに関して前記したようにチャールズリバーラボラトリーズからのスプラーグドーリーラットの脳槽カニューレに注入した。1、10、20、30、60、90および120分にCSF 10μlを大槽から採取した。CSF試料10μlを直接的または氷冷PBS100μlに希釈してのいずれかで計数し、そして187.1カラムに負荷して結合および遊離Oxを分離した。最初の投与後24時間および48時間に、全容量10μl中Ox52ピコモル(滅菌PBSで希釈)を大槽カニューレを通して1分間かけて注入した。再度時点を取り、そして前記したように分析した。
【0077】
大槽からの抗Ox抗体の薬物動態分析
Oxに特異的に結合する動態学的に特徴的なモノクローナル抗体(NQ11/7.12)(FooteおよびMilstein、前出)を用いて抗Ox抗体のCSFへの添加の影響を試験した。この抗体の親和性を前記したような蛍光分光法を用いて37℃で決定し、そして1.3nMであることが判明した(NQ11/7.12)。アイソタイプ適合(IgG1)抗鶏卵リゾチーム抗体、D1.3(Amitら、Science 233:747−53(1986))を対照として使用した。これらの研究で各ラットを一度だけ用いてラット抗マウス抗体応答の可能性を制限した。
【0078】
クロラミンT法を用いてNQ11/7.12を125Iでヨウ素化した(Hunterら、Nature 194:495−96(1962);McConaheyら、Methods Enzymol.70(A):210−13(1980)参照)。ヨウ素の抗体への取り込みは97%であり、そして抗体溶液の特異活性は1.25×106cpm/μgであった。125I−NQ11/7.12(21.3ピコモル)を未標識NQ11/7.12と最終量1.04ナノモルまで混合した。試料を手でチャールズリバーラットの脳槽カニューレを通して1分間かけて注入し、そしてカニューレを生理食塩水2μlで流した。注入の終わりをゼロ(0)時と称した。種々の時点でCSF 10μlを脳槽カニューレから採った。パッカードコブラ・オートガンマを用いて全CSF試料を計数してCSF中のNQ11/7.12の濃度を決定した。データを図1に示す。CSF中の抗Oxモノクローナル抗体(NQ11/7.12)はたいていの薬物の薬物動態存続時間よりも有意に長い半減期を有した。NQ11/7.12の濃度はCSFから1時間の排泄半減期でゆっくりと下降した。この速度はCSFバルク流の速度に類似したが、Oxの速度よりも有意に長かった。
【0079】
ラットCSF中のOx存続時間に及ぼすNQ11/7.12の影響
CSF中のOxの薬物動態的挙動を決定するために、トリチウム標識したOxをその脳室内カニューレを通してラットに注入し、そして大槽(CM)カニューレからのCSF試料採取によりOXの排泄を追跡した。大槽が最大のCSF区画であるのでそこから試料採取を行った。小脳および脳幹上部の間のその位置ならびにその大きさにより、試料採取およびシンチレーション計数のためのCSFへの接近が比較的容易になる(van den Bergら、J.Neurosci.Methods 116:99−107(2002))。
【0080】
5匹のラットの1組に関して、脳室内カニューレを通してOxを単独で、または2倍モル量のNQ11/7.12を伴うかのいずれかで投与した。特異的抗体NQ11/7.12の存在下で、脳槽CSF試料採取により、それがCMに入り、ほぼ5分で濃度がピークに達し、そして次に排泄されたときのOx濃度の上昇および下降が示された。NQ11/7.12の不在下でOxの濃度は急速に下降し、大槽からの半減期は1.2分であった(図2)。この短い存続時間によりCSFのバルク流よりもさらに速い機構による排泄が示された。抗体バッファーを伴って投与されたOxはCMにおけるピーク濃度に決して到達しなかった。むしろOxが実にCMに達する前に排泄されてしまった。
【0081】
第2の実験では、ラット脳槽カニューレを通してOxを注入した。Oxを再度2倍モル量のNQ11/7.12または対照抗体と同時投与した。図3に示すように、NQ11/7.12を伴うOxの投与により、Ox滞留時間が有意に延長されてOx排泄半減期が10分であることが示された。D1.3と共に投与されたOxは半減期1.0分でCSFから排泄された。半減期のこの10倍増加は、NQ11/7.12結合がCSFからのOx排泄と拮抗していることを示している。
【0082】
遊離Ox濃度に及ぼすNQ11/7.12の影響
化学平衡の原理により、CSF中のOxが遊離形態と抗体結合形態の間で分割され、そして遊離プールは絶えず補給されて抗体Kdに近い濃度を保つはずであることが予測される。別のラットの組からのCSF試料中のOxを、親和性カラムを通過させることにより結合形態および遊離形態に分離した。Oxと同時投与したD1.3からの試料を並行して処理したが、有意な抗体結合標識は予測または見出されなかった。抗体−Ox複合体は固定したラット抗マウスカッパ抗体に結合したが、遊離OxはPBS洗浄でカラムから溶出された(遊離Ox分画)。
【0083】
この分析により、図4で示すように、OxをD1.3と共に投与しようと、NQ11/7.12と共に投与しようと、Oxの遊離プールはラットCSF中に存在したことが確認された。Oxを単独でまたはD1.3と共に初期に投与したときには、遊離Oxの量は高かった(1.4mM)が、1時間で500倍と急速に減少し、排泄半減期は0.61分であった。しかしながら、OxをNQ11/7.12共に投与したときには、Oxの初期遊離濃度は低かった(60nM)。この低濃度は長時間にわたってかなり安定し(およそ6nMまで10倍未満の低下)、Ox排泄半減期は1.55分であった。したがって、NQ11/7.12は本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って、遊離Oxを緩衝していると考えられた。
【0084】
長時間抗体緩衝
これらの実験に関して、NQ11/7.12を一度だけ投与した。OxをNQ11/7.12と初期に同時投与し、そしてOx単独のさらなるアリコートを24時間および48時間に脳槽カニューレを通して投与した。脳槽CSF試料を収集してCSFからの全Ox排泄を追跡した。図5Aに示すように、24時間および48時間に投与したOxの薬物動態半減期により、OxをNQ11/7.12と共に初期に投与した場合に観察されたプロフィールと、D1.3と共に投与した場合のOxプロフィールとの間の動態プロフィールが示された。非限定的な理論によればこの観察は、長時間にわたる循環抗体の緩徐なクリアランスに起因した可能性があった。CSF試料の別の組で遊離対結合Ox分離もまた実施し;データを図5Bに示す。初期の遊離Ox濃度は24時間および48時間で、Oxを抗体バッファーと組み合わせて投与した場合よりも高かった。しかしながら、この遊離濃度は減少し、そしてOxは、OxをD1.3と共に投与した場合よりも緩徐な排泄プロフィールを示した。この観察は明らかに、初期遊離Ox濃度が高いときにOxと初期結合した抗体の結果であり、そして次に抗体は続いて長時間にわたってOxを放出した。したがって、本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って、抗Ox抗体は初期抗体注入の後日のCSF中の遊離Oxの濃度を緩衝することができた。
【0085】
(実施例2)
(小型分子の抗体緩衝)
(方法)
抗体
3つの抗Oxハイブリドーマ(NQ11/7.12、NQ16/113.8、NQ22/16.4)のパネルは以前に記載されている(Griffithsら、前出;Berekら、前出)。対照(非Ox結合)ネズミ抗リゾチーム抗体、D1.3(Amitら、前出)もまた使用した。これらのハイブリドーマを振動気泡ローラーボトル中で成長させ(PannellおよびMilstein、前出)、そしてプロテインA−セファロースの親和性クロマトグラフィーにより使用済み培養上澄から各々のモノクローナル抗体を精製した(実施例1もまた参照)。抗体に関してSDS−PAGEを実施して純度を検証した。紫外線分光法により配列から計算した減衰係数を用いてタンパク質濃度を決定した(Perkins前出)。抗体溶液をフィルター滅菌し、そしてN2下4℃で保存した。
【0086】
トリチウム標識した2−フェニル−オキサゾール−5−オン−γ−アミノブチラート抱合体(Ox)の調製
実施例1に記載するように粗製Oxを調製した(Berekら、前出)。3H−γ−アミノ酪酸(GAGA)(1mCi/ml)をパーキンエルマーライフサイエンシズ社から入手し、そして未標識GABA(1M NaHCO3中0.5mM)および4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン(アセトン中0.17M)の溶液を調製した。未標識GABA溶液5μlを氷上で3H−GABA 50μlと混合した。4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン溶液10μlを加え、そして反応混合物をときどき手動で混合しながら1時間氷上に置いた。次いでさらに14−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン溶液11μlを加え、そして反応混合物を氷上で20分間放置した。未標識GABA溶液5μlを加え、そして反応物を高速で混合しながら20時間室温にした。次いで濃酢酸1μlを加え;得られた沈殿物をサーモサバントSPD1010スピードバックシステム中で加熱せずに乾燥させた。乾燥した沈殿物をPBSに溶解した(25mM NaH2PO4/125mM NaCl、pH7.0)。
【0087】
得られたOx生成物をHPLCを用いて精製した。0.1Mギ酸アンモニウム(pH4.8)(可動相A)およびアセトニトリル(可動相B)を使用前に0.2ミクロンフィルターを通して減圧ろ過した。アジレントテクノロジーズの分析用ガードカラムを伴うゾルバックスSB−C18 HPLCカラムにOxを適用し、そして0.1Mギ酸アンモニウム(pH4.8)(可動相A)およびアセトニトリル(可動相B)で溶出した。9.5%から70%可動相Bのグラジエントを流速0.5ml/分で26分間かけて流し、そして348nmの波長を用いた。Oxピークは20.5分に溶出した。そのピークに収集された分画の放射活性を測定することによりその同一性を確認した。Oxピークからプールした分画を加熱せずにサーモサバントSPD1010スピードバックシステムで乾燥させた。乾燥後残留物をPBS 1mlに再懸濁した。Oxの放射化学的純度をHPLCにより確認した。定量的HPLCおよび紫外分光法の双方により濃度を決定した。Ox 1μlをシンチバースII(フィッシャーサイエンティフィック)5mlに希釈し、そしてベックマンLS6500シンチレーションカウンターで計数することにより特異活性を決定した。Oxの特異活性は4.4×106cpm/ナノモルであった。
【0088】
37℃での抗Ox抗体親和性の決定
実施例1に記載するようにパーキンエルマーLS50B発光分光計を用いて蛍光分光法により(FooteおよびMilstein、前出)抗体親和性を決定した。37℃に加熱した水浴を循環させることによりキュベットブロックの温度制御を維持した。PBS中20nM(NQ11/7.12)または200nM(NQ16/113.8またはNQ22/16.4)のいずれかを含有するキュベットを分光計内に置き、そして37℃に平衡させた。NQ11/7.12の場合、30μg/mlユビキチンをキャリアとして加えた。帯域幅5nmの励起波長280nmおよび帯域幅10nmの発光波長340nmを積分時間8秒で用いた。40nM増でOx−GABA溶液を加え、そして平衡になる時間を見越して蛍光の読みを行った。得られた濃度/蛍光の読みを最小二乗法(FooteおよびWinter、前出)により分析して各抗体のKdを決定した。
【0089】
ラット血漿中の抗Ox抗体半減期の決定
クロラミンT法を用いてNQ11/7.12を125Iでヨウ素化した(HunterおよびGreenwood、前出;McConaheyおよびDixon、前出)。ヨウ素の抗体への取り込みは97%であり、そして抗体溶液の特異活性は1.25×106cpm/μgであった。ラット(300g雄スプラーグドーリーラット(ジビックラボラトリーズ社、ゼリエノープル、ペンシルバニア州))に頸静脈カニューレを埋め込んだ。納入後実験開始前に少なくとも72時間動物を休ませ、そして実験中自由に運動させた。125I−NQ11/7.12(0.39ナノモル)を未標識NQ11/7.12と最終量4.54ナノモルまで混合した。この量をさらに最終容量1mlまで滅菌PBSで希釈した。試料を手で頸部カニューレを通して1分間かけて注入し;カニューレをヘパリン添加した食塩水(250単位/ml)0.2mlで流して凝固の危険性を低減させた。注入の終わりをゼロ(0)時と称した。種々の時点で血液試料(0.4ml)をカニューレから採った。即座に血液を遠心して血漿を分離した。血漿100μlをパッカードコブラ・オートガンマを用いて計数して血漿中のNQ11/7.12の濃度を決定した。
【0090】
抗体緩衝実験
注射用の試料を調製した:抗Ox抗体4.54ナノモルおよびOx2.27ナノモル;D1.3対照抗体4.54ナノモルおよびOx2.27ナノモル;または抗体なしおよびOx2.27ナノモル。各試料を滅菌PBSで1mlまで希釈した。試料を37℃まで加温し、そして次に前記したようにスプラーグドーリーラットの頸静脈カニューレを通して1分間にわたって注入した。種々の時点で血液0.45mlを採り、そして即座に遠心して血漿を分離した。シンチバースII 5mlに血漿を入れ、そしてベックマンLS6500シンチレーションカウンター中で計数することにより血漿100μlを直接計数した。血漿100μlを以下に記載する結合対遊離Ox実験で用いた。幾匹かのラットに関して血漿を除いた血液0.1mlを分析した。これらの試料を最初にシンチゲスト(フィッシャーサイエンティフィック):イソプロパノール(1:2容量/容量)0.3ml中40℃で1時間インキュベートすることにより脱色した。次いで30% H2O2 0.2mlを滴加し、そして溶液を室温で15分間インキュベートした。いくつかの塊を崩壊させるために上下にピペッティングする必要があった。溶液を40℃でインキュベートした後、シンチバースII 5ml中に入れた。計数前に試料を一晩放置して化学発光を低減させた。分析を補助するために既知量のOxを用いて対照試料を調製した。
【0091】
187.1セファロース親和性樹脂を用いる結合および遊離Oxの分離
ラット抗マウスカッパ抗体187.1(実施例1参照)を使用済み培養培地から単離し、そしてプロテインA−セファロース親和性カラムを通過させることにより精製した。CNBr活性化セファロース4ファストフロー(アメルシャムバイオサイエンシズ)10gを洗浄し、そして製造者のプロトコールに従って187.1と結合させた。膨潤した樹脂10gあたり187.1を2mg使用した。
【0092】
抗体緩衝実験の間、血漿100μlを遠心後すぐに187.1カラムに負荷した。PBS 3mlに続いて0.2Mグリシン(pH2.5)3mlを実施例1に記載するようにカラムに適用した。全てのPBS分画および全てのグリシン分画を各時点で別個に収集し、そしてスピードバック内で乾燥させた。残留物をPBS 150μlに再懸濁し、そして次にシンチバースII 5mlの入ったシンチレーションバイアルに移して計数した。
【0093】
長時間抗体緩衝実験
NQ11/7.12およびOxの試料を調製し、そして前記したようにスプラーグドーリーラットに注入した。1、10、20、50、90および120分に血液試料(0.4ml)を採取した。血漿100μlを直接計数し、そして100μlを187.1カラムに入れて結合および遊離Oxを分離した。最初の投与後24時間および再度48時間に、PBS 0.5ml中Ox2.27ナノモルを頸部カニューレを通して1分間かけて注入した。再度時点を取り、そして前記したように分析した。
【0094】
ラット血漿中のOx存続時間に及ぼすNQ11/7.12の影響
薬物動態的挙動を決定するために、トリチウム標識したOxを頸部カニューレを通してラットに注入し、そして血液試料採取、遠心による血漿の分離、および血漿のシンチレーションカウンティングによりOxの排泄を追跡した。Oxの濃度は急速に下降し、血漿からの半減期は1.2分であった。
【0095】
Oxに特異的に結合する3つの動態学的に特徴的なモノクローナル抗体の親和性を蛍光分光法を用いて37℃で決定し、そして1.3nM(NQ11/7.12)、46nM(NQ16/113.8)および42nM(NQ22/16.4)であった。アイソタイプ適合(IgG1)抗鶏卵リゾチーム抗体D1.3を対照として使用した。これらの研究で各ラットを一度だけ用いてラット抗マウス抗体応答の可能性を制限した。様々な抗体と共に投与した場合のOxの薬物動態パラメーターを表1に示す。
【0096】
【表1】
抗体は1つにはたいていの薬物の存続時間よりも遙かに長い、その長い血漿半減期のために魅力的な治療用ベヒクルであった。放射性ヨウ素化モノクローナル抗体NQ11/7.12の血漿中の滞留時間を決定した。NQ11/7.12抗体をラットに注入し、そしてNQ11/7.12の排泄を血液試料採取、遠心による血漿の分離、および血漿のガンマ計数により追跡した。NQ11/7.12の濃度はゆっくりと下降し、血漿からの排泄半減期は20時間であった。この存続時間は非常に長いので、抗Ox抗体濃度は記載した場合を除いて全薬物動態研究の経過中に、抗Ox抗体濃度は効果的に一定であった(200±30nM)。
【0097】
Oxを2倍モル量のNQ11/7.12または対照抗体を伴ってラット頸部カニューレを通して投与した。図6に示すように、NQ11/7.12を伴うOxの投与により、Ox存在時間の有意な延長が示され、Ox排泄半減期は20±2分であった。2つの曲線の比較により、対照のOxの多くは最初の時点で試料採取される前に血漿から除去されたことが示された。D1.3と共に投与された残りのOxにより二相性の排泄動態が示され;ほとんどが1.2±0.2分の半減期で血漿から排泄され、そして少量が10±2分の半減期であった。抗Ox抗体と共に投与した場合のOxの半減期の17倍の増加により、NQ11/7.12結合が血漿からのOx排泄と拮抗していることが示された。対照として、細胞がOxの有意な貯蔵所であるかどうかを決定するために血液の細胞分画でも分析を実施した。細胞分画でのOx濃度は血漿中の全Ox濃度の1−2%の間の範囲であり、これによりこの分画には有意な量のOxが保持されなかったことが示された。動物被験体では副作用は指摘されなかった。
【0098】
遊離Ox濃度に及ぼすNQ11/7.12の影響
動物からの血漿分画におけるOxの結合形態および遊離形態を親和性カラムで分離した。同時投与したD1.3から得られた試料を並行して処理したが、有意な抗体結合標識は予測または見出されなかった。抗体−Ox複合体を捕捉するために固定したラット抗マウスカッパ抗体を使用したが、遊離OxはPBS洗浄でカラムから溶出された(遊離Ox分画)。
【0099】
この分析により、OxをD1.3と共に投与しようと、NQ11/7.12と共に投与しようと、Oxの遊離プールがラット血漿中に存在したことが確認された(図7)。Oxを単独でまたはD1.3と共に初期に投与した場合の初期遊離Ox量は高かった(6.8nM)が、急速に減少し、排泄半減期は6.0±1分であった。しかしながら、OxをNQ11/7.12共に投与した場合の初期Ox遊離濃度は低かった(2.2nM)。この低濃度は長時間にわたってかなり安定し、Ox排泄半減期は41±6分であった。したがって、NQ11/7.12の存在は本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って、遊離Oxを緩衝していると考えられた(非限定的な理論に従う)。図7に示す、緩衝された遊離Ox濃度は1時間の間に血漿中で2.2nMから0.8nMまで下降したが、緩衝されなかったOxの半分以上が最初の時点の試料採取の前に血漿から排泄された。2.2nMおよび0.8nM終点はNQ11/7.12のKd(1.3M)を挟んでいる。
【0100】
ラット血漿中のOx存在時間に及ぼす抗体Kdの影響
抗体Kdと血漿からのOx排泄を遅延させる抗体の能力との間の相関性を決定した。この実験のために、3つの抗Ox抗体NQ11/7.12、NQ16/113.8およびNQ22/16.4を使用した。NQ16/113.8およびNQ22/16.4は各々Oxに関して類似のKdを有し、それはNQ11/7.12のものよりも有意に高かった(表1参照)。OxをNQ16/113.8またはNQ22/16.4のいずれかと共にラットに投与した。全Ox濃度を血液試料採取により測定した(図8A)。比較のためにNQ11/7.12またはD1.3と共に投与したOxの濃度をも図8Aに示す。NQ16/113.8およびNQ22/16.4の双方は血漿からの全Ox排泄を遅延させた。このOx半減期の増加は、Oxとの親和性がより高いNQ11/7.12と共に投与した場合のOx半減期の増加の程度に近似しなかった。したがって、抗体Kdは血漿中の全Oxの排泄速度と相関した。
【0101】
加えて、図8Bに示すように抗体Kdはラット血漿中のOxの遊離プールに影響を及ぼした。血漿をラット抗マウスカッパ抗体親和性カラムに負荷し、そして遊離および結合Ox分画を溶出した。NQ16/113.8またはNQ22/16.4と共に投与したOxの遊離濃度(10と16nMの間)は初期にはNQ11/7.12と共に投与したOxの遊離濃度(2.2nM)よりも高かった。この遊離濃度はNQ11/7.12と共に投与した遊離Oxよりも非常に速く下降した。このように抗Ox抗体Kdにより抗体の緩衝能力が決定された。
【0102】
NQ11/7.12の長時間緩衝
初期抗体注入の後日の血漿中のOx濃度を緩衝するその能力をNQ11/7.12が保持するかどうかを決定した。これらの実験に関して、NQ11/7.12を一度だけ投与した。OxをNQ11/7.12と初期に同時投与した。Ox単独のさらなるアリコートを24時間および48時間に投与した。血液試料を入手して血漿からの全Ox排泄を追跡した。図9Aに示すように、24時間および48時間でのOxの薬物動態存在時間により、初期のNQ11/7.12投与の後の動態からは小さな変化しか示されず、それは長時間にわたる循環抗体の緩徐なクリアランスに起因し得る。D1.3対照抗体と同時投与したOxを比較のために示した。これらの血漿試料で遊離対結合Ox分離もまた実施し;データを図9Bに示す。初期の遊離Ox濃度は24時間および48時間で、Oxを抗体バッファーと同時に投与した場合よりも高かった。しかしながら血漿中にすでに存在するNQ11/7.12抗体とOxが結合したので、遊離濃度は急速に正常化された。これはOxおよびNQ11/7.12を一緒に投与した場合に観察されたパターンに類似する排泄パターンであった。したがって、抗Ox抗体は初期の抗体注入の後日の血漿中の遊離Oxの濃度を緩衝した。図9に示すように、後にOxを同時投与しても、再投与しても、血漿中のOxおよび抗体の平衡は遊離Oxの排泄よりもかなり急速であった。
【0103】
(実施例3)
(リゾチームの抗体緩衝)
(方法)
14Cリゾチームの調製
Habeeb(Habeeb、1983)から適用された手順である還元的メチル化を用いてリゾチームを14Cで標識した。14Cホルムアルデヒドをニューイングランドニュークリアから入手した(特異活性40−60mCi/ミリモル)。ガラスアンプルを乾燥氷上においてホルムアルデヒドガスを凝結させた。標識混合物はリゾチーム0.7μモル(リン酸塩バッファー中20mg/ml溶液から)、NaCNBH3(新たに調製した0.1M NaCNBH3溶液から)3.5μモル、および全容量1mlにするために加えた0.1Mリン酸塩バッファー(NaH2PO4、NaOHでpH8.0)からなった。標識混合物をアンプルに加え、そして反応物を8分毎に混合して30分間処理した。アンプルに0.05Mホウ酸塩バッファー0.5ml(H3BO3、pH8.0)を加え、そして量を制御する目的でシンチレーションカウンティングのために1μlアリコートを採った。次いで反応混合物を2×500mlホウ酸塩バッファー(pH7.0)に対して透析し、続いて滅菌PBS 5×500mlに対して透析した。透析バッファーのアリコートをシンチレーション液に加え、そして計数して透析を完了した時を決定した。SDS−PAGEを実施してタンパク質純度を評価し、そしてゲルをオートラジオグラフィーに供して14Cタグがリゾチームバンドにのみ局在したことを検証した。配列から計算した減衰係数を用いて(Perkins、1986)、紫外線分光法によりタンパク質濃度を決定した。シンチレーションカウンティングのために1μlのアリコートを採り、リゾチームの特異活性を決定した。抗体溶液をフィルター滅菌し、そしてN2下4℃で保存した。
【0104】
抗リゾチーム抗体
ネズミ抗リゾチームハイブリドーマ、D1.3(Amitら、前出;Bhatら、Nature 347:483−85(1990))を振動気泡ローラーボトル中で成長させた(PannellおよびMilstein(1992))。得られたモノクローナル抗体をリゾチーム−セファロース親和性カラムを通過させることにより使用済み培養上澄から精製した。分画をジエチルアミン(フィッシャーサイエンティフィック)で1Mトリス(pH7.4)150μlの入ったチューブに溶出し、そしてプロテインAバッファー(3M NaCl、0.1Mグリシン、pH8.9)に対して透析した。次いで透析液をプロテインA−セファロースCL−4B(ファルマシア)カラムを通過させた。クエン酸ナトリウムからクエン酸のグラジエントで分画を溶出し、そして3Mトリス(pH8.8)100μlの入ったチューブ内に収集した。次いで分画をPBS(25mM NaH2PO4/125mm NaCl、pH7.0)に対して透析した。SDS−PAGEを実施して純度を検証した。紫外線分光法により配列から計算した減衰係数を用いてタンパク質濃度を決定した(Perkins(1986))。抗体溶液をフィルター滅菌し、そしてN2下4℃で保存した。D1.3のKdは3.7nM(20℃)であった(FooteおよびWinter、前出)。
【0105】
D1.3抗体でELISAを実施して、14C抱合体を用いた場合にリゾチームに結合するその能力が保持されることが示された。96ウェルプレートのウェルを炭酸塩バッファー(5.0mM NaHCO3、pH9.6)中100μg/mlリゾチームまたは14Cリゾチームでコーティングし、そして37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBSで洗浄し、ミルクバッファーで遮断し、再度PBSで洗浄し、そして次に10mg/ml BSAを加えたPBS中20ng/ml D1.3と共に1時間インキュベートした。対照ウェルをリゾチームに結合していない抗体NQ10/2.22と共にインキュベートした。インキュベーションの後、プレートを再度洗浄し、そして2次抗体、Fcフラグメント特異的ペルオキシダーゼ抱合ヤギ抗マウスIgG(ジャクソンイムノケミカルズ、ウェストグローブ、ペンシルバニア州)と共に1時間インキュベートした。カラーミックス(50mMクエン酸ナトリウム/50mMクエン酸バッファー中1mM ATBS基質および4mM H2O2)を加えた後、プレートをカイネティックマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社、サニーベール、カリフォルニア州)で読んだ。
【0106】
抗体緩衝実験
ラット(300gスプラーグドーリー雄(ジビックラボラトリーズ社、ゼリエノープル、ペンシルバニア州))に頸静脈カニューレを埋め込んだ。ラットは実験中自由に運動させ、そして食餌および水に接近可能にした。D1.3抗体450μgを伴うかまたは伴わずに、14Cリゾチーム43μgからなる注入のための試料を調製した。滅菌生理食塩水を用いて容量を1mlにし、そして試料を使用前に37℃でインキュベートした。HP注入ポンプを用いて頸部カニューレを通して試料を5分間かけて注入した。注入後、カニューレをヘパリン添加した食塩水(250単位/ml)0.2mlで流して凝固の危険性を低減させた。注入の終わりをゼロ(0)時と称した。種々の時点で血液試料(0.5ml)をカニューレから採った。即座に血液を遠心して血漿を分離した。血漿(0.1ml)をシンチレーション液5mlと混合し、そして計数した。本明細書に記載する結合対遊離リゾチーム実験でさらに0.1mlを使用した。細胞ペレットをシンチレーション液と混合し、そしてまた計数した。
【0107】
遊離および結合リゾチームの分離
血漿を分離するために血液試料を遠心した後、血漿0.1mlをプロテインA−セファロースミニカラム1.5mlに負荷した。カラムを0.5mlずつ増量して3mlのPBSで、続いて0.5mlずつ増量して3mlの100mMクエン酸で洗浄した。PBS(遊離リゾチーム)およびクエン酸(抗体結合リゾチーム)分画を各時点で別個に収集した。分画でTCA沈殿を実施した。タンパク質沈殿物をアセトンで洗浄し、そして沈殿物をPBSに再溶解した(沈殿物の全てが溶解するわけではない)。液体および残存するペレットをシンチレーション液4mlに移して計数した。
【0108】
種々の量の抗体での抗体緩衝
頸静脈カニューレを埋め込んだスプラーグドーリーラットに14Cリゾチーム43μgおよびD1.3抗体450μgまたは900μgのいずれかを注入した。滅菌生理食塩水を用いて注入容量を1mlにした。試料を調製および注入し、そして時点を取り、そして前記したように分析した。結合対遊離分離分析を実施した。
【0109】
種々の量のリゾチームでの抗体緩衝
頸静脈カニューレを埋め込んだスプラーグドーリーラットにD1.3抗体450μgおよび14Cリゾチーム43μgまたは430μgのいずれかを注入した。試料を調製し、注入し、そして時点を取り、そして前記したように分析した。
【0110】
二重注入実験
注入用に2つの試料を調製した。第1の試料は生理食塩水0.5mlに希釈したD1.3抗体450μgからなり、これをHP注入ポンプを用いて4分間かけて注入した。循環中で抗体が平衡になる時間を見越して、ラットを10分間ケージ中で自由に運動させた。次いで第2の試料は滅菌生理食塩水を用いて0.5mlにした14Cリゾチーム43μgからなり、これを4分間かけて注入した。第2の注入の終わりをゼロ時(0)と称した。血液試料を採取し、そして前記したように分析した。
【0111】
14Cリゾチーム
ラットにおけるリゾチーム薬物動態の以前の研究では、血漿中のリゾチームの量を酵素アッセイにより定量した(Franssenら、Pharm.Res.8:1223−30(1991))。しかしながら、D1.3はリゾチームの酵素活性を遮断した;したがってリゾチームを14Cで放射標識して、血漿試料中のその量を測定することができた。リゾチームの14Cホルムアルデヒドでの還元的メチル化により、特異活性7.4×107cpm/mgを有する14Cリゾチーム抱合体を生じた。このように、リゾチームをラット血漿中のバックグラウンドレベルを超えて検出できるほど十分に標識した。図10で示すように、14Cリゾチームの純度をSDS−PAGEを用いて決定し(図10A)、そしてオートラジオグラフィーを用いてリゾチームバンドに局在する放射活性シグナルを示した(図10B)。D1.3の14Cリゾチーム抱合体に効率よく結合する能力をELISAにより決定した(図10C)。D1.3リゾチーム結合は14C抱合体で保持された。
【0112】
ラット血漿中のリゾチームの薬物動態
リゾチーム検出の放射活性法を用いてリゾチームの薬物動態プロフィールを決定するために、頸部カニューレを通してラットの血流に14Cリゾチームを注入した。4時間にわたって種々の時間間隔で血液試料採取することによりリゾチーム排泄を追跡した。遠心後血漿を収集し、そしてシンチレーションカウンティングに供した。リゾチームが16.4分の血漿β半減期を有することが判明した(図11)。これらのおよび以下の研究での各ラットは1回だけ使用して、リゾチームまたは抗体のいずれかに対する免疫応答の可能性を制限した。
【0113】
抗体緩衝リゾチームの薬物動態
本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って、ネズミ抗リゾチーム抗体D1.3を14Cリゾチームに関する抗体バッファーとして使用した。リゾチームを等モル量のD1.3と共にラットの頸部カニューレを通して投与した。図11で示すように、単独で投与したリゾチームの濃度は排泄半減期16.4分で急速に下降した。リゾチームを伴うD1.3の投与により、ラット血漿中のリゾチームの滞留時間は有意に延長され、β半減期が42.8分まで伸びた。リゾチームをそのままで投与した場合、リゾチームの初期濃度は高く現れたが、D1.3により緩衝されたリゾチームと比較して、その量は急速に低下し、これはD1.3複合体形成が実際に排泄速度を低下させたことを示している。
【0114】
血漿分離の後、細胞ペレットをこの研究および以前の研究(前出)の双方で計数した。この分画では放射活性はほとんど見出されず、これは細胞ペレットがリゾチームまたはリゾチーム抗体複合体の有意な貯蔵所ではなかったことを示している。
【0115】
遊離リゾチームの薬物動態
全リゾチーム濃度を決定するためのシンチレーションカウンティングのために遠心して血漿を分離した後、血漿のアリコートをプロテインA−セファロースミニカラムに適用して、リゾチームの結合形態および遊離形態を分離した。遊離リゾチームはPBS洗浄で溶出されたが、D1.3に特異的に結合したリゾチームはクエン酸で溶出された。得られた大容量の溶離液は直接的なシンチレーションカウンティングを妨害するので、TCSA沈殿を実施してタンパク質の分離を行った。得られたタンパク質ペレットは組織溶解剤およびその他の試薬を用いる試みにもかかわらず、再溶解に抵抗し;したがって正確な遊離リゾチーム濃度を確定するのは困難であった。それにもかかわらず、リゾチーム単独のレベルおよび同一に調製されたリゾチーム−D1.3溶離液のレベルの分析により、これらの試料中の遊離リゾチームレベルの差が示された。
【0116】
D1.3抗体がその同族リガンド、リゾチームに関してバッファーとして作用した場合、抗体はそのリガンドの貯蔵所として作用して、かなり一定したレベルで遊離リゾチームの濃度を維持した。図12に示すように、リゾチームをD1.3と共に投与した場合、リゾチームの遊離プールが存在し、そしてこの遊離プールは実験の経過中、リゾチームを単独で投与した場合に観察された遊離リゾチームのレベルよりもさらに一定で維持された(図12)。したがって、D1.3の存在は、本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って抗体緩衝を提供すると考えられた。
【0117】
D1.3の緩衝能力に及ぼす種々のリゾチームおよび抗体濃度の影響
ラット血漿中の全リゾチームの緩衝に及ぼす種々の抗体濃度の影響を決定するために、等モル量または2倍モル量のいずれかのD1.3と共に14Cリゾチームをラット血漿に投与した。4時間にわたって種々の時点で血液を採取した。血漿を再度遠心により分離し、そして全リゾチーム濃度をシンチレーションカウンティングにより決定した。図13に示すように、2倍モル量のD1.3を伴うリゾチームの投与によりリゾチームのβ半減期が61.3分まで延長された。この半減期は、リゾチームを等モル濃度のD1.3と共に投与した場合のリゾチームのβ半減期(β半減期42.8分)と有意に異なった。したがってさらなる抗体のバッファー系への添加はリガンド半減期を大きく延長させると考えられた。
【0118】
また長時間にわたってラット血漿中の全リゾチーム濃度に及ぼす漸増濃度のリゾチームの影響を決定するために実験を行った。等モル濃度または10倍モル濃度のいずれかの14Cリゾチームと共にD1.3をラット頸部カニューレに注入した。時点を取り、そして前記したように全リゾチーム濃度に関して血漿を分析した。10倍のリゾチームを投与されたラットにおける初期リゾチーム濃度は、リゾチーム等モル濃度のラットの濃度よりもかなり高かったが、それは低濃度リゾチームを与えられたラットのレベルの約2倍の高さのレベルまで急速に下落した(図14)。この観察により、リガンド量の有意な増加は初期全リゾチーム濃度に大きな影響を有したが、それは後の時点でのリガンド量ではわずかな増加しか生じなかったことが示された。
【0119】
血漿内でのD1.3平衡の後に投与されたリゾチーム
D1.3を単独でラット血漿に注入するさらなる実験を実施した。血漿内の抗体の平衡を可能にするためにこの注入の10分後に、ラット頸部カニューレを通して等モル量のリゾチームを投与した。得られた薬物動態は前記したように血液試料採取により追跡した。図15に示すように、リゾチームの初期濃度は高かったが、D1.3およびリゾチームを一緒に投与した場合に到達したレベルに非常に類似したレベルまで急速に平衡した。これにより、D1.3は循環中に十分に保持され、そしてリゾチームに効率よく結合するその能力はインビボで変化しなかったことが示された。
【0120】
本明細書に言及し、そして/または出願データシートに列挙された全ての前記の米国特許、特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許出版物は、その全てを出典明示により本明細書の一部とする。
【0121】
前記から本発明の具体的な実施態様は説明目的で本明細書に記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更を行うことができることは理解されよう。したがって、本発明は添付の請求の範囲による以外には限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】大槽からの抗Ox抗体NQ11/7.12の排泄を説明する。放射性ヨウ化NQ11/7.12を大槽に注入し;示された時間にCSF試料を採り、そして抗体濃度を決定するために計数した。
【図2】脳室内投与したOxの抗Ox抗体NQ11/7.12による緩衝を示す。OxをNQ11/7.12を伴って(四角)または抗体を伴わずに(丸)動物に注入した。大槽からCSF試料を採った。
【図3】抗体を伴って(四角)または抗体を伴わずにラットの大槽にOxを注入した場合の抗Ox抗体NQ11/7.12によるCSF中のOxの緩衝を説明する。脳槽からCSF試料を採り、そして3H−GABA−Oxの放射活性を計数して全Ox濃度を決定した。
【図4】抗Ox抗体NQ11/7.12を伴って(四角)および抗体を伴わずに(丸)Oxを投与した後のラットのCSF中の遊離Oxの濃度を示す。
【図5】抗Ox抗体NQ11/7.12によるOxの長時間緩衝を表す。5匹のラットの群で各ラットに0時にOxを抗体を伴って(四角)投与した。24時間(三角)および48時間(白丸)に抗体を伴わずにOxを再度投与した。動物の別の群では、Oxを非特異的抗体(D1.3、抗鶏卵白リゾチーム)と共に投与した(黒丸)。図5AはCSF中の全Ox濃度を示し、そして図5BはCSF中の遊離Ox濃度を示す。
【図6】Oxを抗Ox抗体NQ11/7.12を伴って投与した場合(黒丸、t1/2=19.7分)、対照抗体D1.3を伴って投与したOxの排泄(白丸、t1/2=1.2分)がより迅速に生じることを説明する。Oxを各抗体を伴って頸静脈カニューレを通してスプラーグドーリーラットに注入した。各点は5匹の動物から収集したデータを示す。
【図7】NQ11/7.12(黒丸)対D1.3(白丸)を伴ってOxを投与した場合の動物の血漿中の遊離Oxの濃度を示す。
【図8】Oxに関して異なるKdを有する抗Ox抗体を伴ってOxを投与した場合のOxの半減期およびラットの血漿中の遊離Ox濃度を説明する。図8A:全Ox対時間。NQ11/7.12よりも大きいKdを有する抗体NQ16/113.8(黒四角)およびNQ22/16.4(白四角)をOxと共に投与し、そしてNQ11/7.12を伴って投与したOxと比較した(黒丸)。またOxを非特異的抗リゾチーム抗体D1.3を伴って投与した(白丸)。図8B:遊離Ox対時間。NQ11/7.12(黒丸);NQ16/113.8(黒四角);NQ22/16.4(白四角);またはD1.3(白丸)を伴ってOxを投与された動物において血漿中の遊離Oxの濃度もまた決定した。
【図9】全Ox(図9A)および遊離Ox(図9B)の血漿半減期を示す。ラットにNQ11/7.12と同時投与(黒丸)またはNQ11/7.12注入後24時間に(半黒丸)、またはNQ11/7.12注入後48時間に(白丸)Oxを単独で投与した。また対照D1.3抗体を伴ってOxを投与した(白四角)。
【図10】14Cリゾチームの分析を説明する。図10Aは未標識リゾチーム(lyso)および14Cリゾチーム(14C−lyso)のSDS−PAGE分析を示す。図10BはSDS−PAGEゲルのオートラジオグラフィー分析を示す。図10Cは抗リゾチーム抗体D1.3のリゾチーム(lyso)および14Cリゾチーム(14C−lyso)に対する結合ならびに非特異的抗体(NQ10/2.22)のリゾチーム(対照抗体+lyso)および14Cリゾチーム(対照抗体+14C−lyso)に対する結合を決定するELISAの結果を提供する。
【図11】抗リゾチーム抗体の存在下および不在下のリゾチームの血漿中の薬物動態を示す。ラットに14Cリゾチームを単独で(四角)または抗リゾチーム抗体D1.3を伴って(丸)投与した。
【図12】ラットに14Cリゾチームを抗リゾチーム抗体D1.3を伴って投与した場合(菱形)および14Cリゾチームを単独で投与した場合(四角)の遊離14Cリゾチームの血漿濃度を示す。
【図13】漸増濃度の特異的抗体を伴って全身投与したリゾチームの半減期に及ぼす影響を説明する。ラットの群に14Cリゾチームを抗体を伴わずに(四角)、等モル濃度のD1.3を伴って(丸)、およびリゾチームの2倍モル濃度のD1.3を伴って(菱形)投与した。
【図14】抗リゾチーム抗体の存在下で動物に漸増濃度のリゾチームを投与した場合、全身投与したリゾチームの半減期に及ぼす影響を示す。抗リゾチーム抗体D1.3を等モル量の14Cリゾチームを伴って投与した(菱形)。またD1.3を、D1.3の10倍モル量の濃度の14Cリゾチームを伴って投与した(四角)。
【図15】リゾチームを抗リゾチーム抗体D1.3と並行してまたは逐次的に投与した場合の血漿中のリゾチームの排泄を説明する。ラットの1群に初期にD1.3のみを注入し、続いて10分後に14Cリゾチームを投与した(四角)。動物の別の群にD1.3および14Cリゾチームを並行して注入した(菱形)。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は35U.S.C.§119(e)の下で「Antibody buffering of a ligand in vivo」と題され、そしてCarol.E.O’HearおよびJefferson Footeにより2004年9月13日に出願された米国仮特許出願第60/609803号の利益を請求し、この仮出願はその全てを出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
(米国政府利権の記載)
本発明は国立衛生研究所により付与された認可番号NIH T32 CA80416の下で米国政府により為されたものであった。政府は本発明において特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
(関連分野の説明)
ヒトおよび動物における膨大な数の疾患が罹患した個体の特定の部位、組織または器官に局在する病態生理学的な悪影響を特徴とするという事実にも関わらず、かかる症状のための大部分の治療的処置計画が例えば経口または静脈内経路を介する治療用薬物の全身的または全体的投与を伴う(例えば、非特許文献1を参照)。結果的に、比較的限定された部位でかかる薬物を治療上有効なレベルに到達させるための努力の副産として、受容者内で臨床的に無関係な、不適切なおよび/または望ましくない解剖学的位置で(循環血漿濃度を含む)薬理学または超薬理学的薬物レベルがしばしば達成される。体内の薬物クリアランスおよび分解活性はしばしば薬物の反復投与を必要とし、これはしばしば実際に循環する薬物濃度の激しい変動の反復に至り得る。
【0004】
例えば、脳腫瘍の幼児のための現在の処置計画では、放射線照射がしばしばこれらの患者における発達遅延および神経内分泌欠損に至るので、化学療法が重要な役割を果たしている(非特許文献2)。中枢神経系(CNS)の腫瘍は15歳以下の子供の頻発する悪性腫瘍の第2位である(非特許文献3)。生存者の疾病率は十分には記録されていないが、現在用いられている積極的化学療法プロトコールおよび腫瘍自体に随伴される運動および知的障害の結果、これらの子供の45%がこれらの疾患で死亡する。多くの脳に内在する新生物が正常な脳実質の容赦ない腫瘍細胞浸潤を特徴とするとすれば、治療薬が腫瘍をターゲティングする計画はしばしば、血管の裂け目および軸索経路に沿って遊走する侵攻性腫瘍細胞クラスタに到達させるために拡散特性を有する薬物を特色とする(非特許文献4)。
【0005】
脳実質を伴う固形腫瘍の処置における化学療法薬の使用は、その広範囲適用にも関わらずあまり成功していない(非特許文献5)。CNSの腫瘍は通常進行遅延性であり、そのために現在利用可能な細胞サイクル阻止薬物を用いる処置計画は典型的には、これらの薬剤が長時間にわたり有効濃度を維持することを必要とする。腫瘍部位でかかる期間この有効薬物濃度を達成することは、重大な技術的障害を示している(非特許文献6)。化学療法の使用に対するさらなる欠点は化学療法薬耐性細胞の発達および不十分な薬物分配方法である(非特許文献5)。抗癌薬は腫瘍細胞を死滅させ得るが、かかる薬物の有用な投薬量範囲は、望ましくない骨髄抑制に至る造血細胞に対する全体的な薬物毒性により限定されるということもまた問題である。
【0006】
限局的な部位への有効な薬物分配の問題は、CNSであろうと、別の場所であろうと、薬物吸収およびインビボ安定性(例えば、非特許文献7)、生理学的薬物クリアランスおよび排泄機構(例えば、非特許文献8)、循環中の血漿タンパク質へのおよび/または間質液中のタンパク質への結合による薬物不活性化(例えば、非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)、ならびに罹患した細胞および組織中の特異的な薬物標的分子に対する薬物の接近可能性(例えば、非特許文献12)のような種々の因子により悪化する。特に、全身的に投与された薬物の限局的な部位への有効な分配に対する妨害は、多くの身体区画を分離する物理学的、解剖学的、薬物動態的および/または生理学的バリアの結果として生じる。
【0007】
例えばCNSは血液脳関門(BBB、例えば非特許文献12)により別個の身体区画が与えられる。別の実例としては、眼、比較的無血管性の関節軟骨を含む関節包(例えば、特許文献1およびそこに引用された参照文献)、胸膜嚢、腹膜および心膜は、有効な局在的な薬物分配が問題になり得るさらなる身体区画を表す。
【0008】
経口または静脈内経路のような全体投与を用いるかかる身体区画への有効量の治療用薬物を分配する試みで多数の計画が考案されている。これらの計画にはポリマー、ゲル、マイクロキャリア、リポソーム、凝集物、親和性ターゲティング抱合体、吸入剤、マイクロスフェア、ウイルスベクター、イオントフォレーシス薬剤、化学的修飾された誘導体、徐放製剤およびその他の形式が含まれる(例えば、非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24)。しかしながら、望ましい身体区画への特異的分配に関して、これらの研究法は例えば、望ましい局所薬物レベルの達成における困難、長時間の望ましい局所薬物レベルの維持における困難、薬物の望ましくない区画への非特異的受動拡散および/または能動輸送、薬物の時期尚早なクリアランスおよび/または排泄、薬物分配の結果である隣接する組織に及ぼす付随的な副作用、薬物に対する区画の不十分な接近可能性、分配の改変に対する活性成分の不適当性、ならびにその他の問題を含む1つ以上の欠点により悩まされる。(例えば、非特許文献25;非特許文献26;非特許文献27;非特許文献28;非特許文献29;非特許文献30)
特定の場合では、治療用薬物の身体区画への特異的および有効な分配を達成するための代替の試みは罹患部分への薬物の直接注射を伴っている(非特許文献1;非特許文献12;非特許文献8;非特許文献31;非特許文献32;非特許文献33;非特許文献34)。しかしながら、かかる研究法は安全性、有効性、経費、利便性およびその他の因子の課題により悩まされており、そして全ての身体区画が治療の時間枠内での複数回の直接的介入に反応するわけではない。例えばCNSへの直接注射はCNS組織に対する非可逆的損傷に随伴される危険性、および部位への反復する接近に随伴される微生物感染の可能性を伴い、そしてCNSおよびその他の区画は技術および労働集約的な外科的手順によってのみ直接接近可能である。加えて、CNSに直接投与される治療用薬物はそこに存続できず、代わりにCNS間質液の指向性のバルク流の結果としてCNSから全身循環に放出される(例えば、非特許文献35)。別の実例では、抗癌薬の直接的腹腔内注射を伴う癌治療は、腹膜区画から外へ、および全身循環への薬物の有意なそして毒性の可能性のあるレベルの漏出を招いている(例えば、非特許文献36;非特許文献37;非特許文献38)。
【特許文献1】国際公開第01/20018号パンフレット
【非特許文献1】Rang,H.P.ら(編)、Pharmacology(2003)、Churchill Livingstone,New York、第7章91−105頁
【非特許文献2】Zalutsky、Br.J.Canc.(2004)90:1469
【非特許文献3】Heidemanら、Cancer(1997)80:497
【非特許文献4】Merloら、Acta Neurochir.Suppl.(2003)88:83
【非特許文献5】Castroら、Pharmacol.Ther.(2003)98:71
【非特許文献6】Blasberg、J.Pharmacol.Exp.Ther.(1975)195:73
【非特許文献7】Bialer、Clin.Pharmacokinet.(1992)22:11
【非特許文献8】Andersonら、C1in.Pharmacokinet.(1994)27:191
【非特許文献9】Koch−Weserら、N.Engl.J.Med.(1976)294:311
【非特許文献10】Kremerら、Pharmacol.Rev.(1988)40:1
【非特許文献11】Sparreboomら、Neth.J.Med.(2001)59:196
【非特許文献12】Begley、Pharmacol.Therapeut.(2004)104:29
【非特許文献13】Chengら、Mol.Pharm.(2004)1:183
【非特許文献14】Goyalら、Acta Pharm.(2005)55:1
【非特許文献15】Aguら、Endocr.Res.(2004)30:455
【非特許文献16】Siashinら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.(2003)44:4989
【非特許文献17】Goskondaら、J.Pharm.Sci.(2001)90:12
【非特許文献18】Pettitら、Trends Biotechnol.(1998)16:343
【非特許文献19】Groothuisら、J.Neurovirol.(1997)3:387
【非特許文献20】Langnerら、200 Cell.Molec.Biol.Lett.5:433
【非特許文献21】Ohning、Neonatal Netw.(1995)14:7
【非特許文献22】Ohning、Neonatal Netw.(1995)14:15
【非特許文献23】Soodら、Int.J.Pharmaceut.(2003)261:27
【非特許文献24】Olivier、NeuroRx(2005)2:108
【非特許文献25】Baker、Controlled Release of Biologically Active Agents(1987)、John Wiley & Sons、New York
【非特許文献26】Dashら、J.Pharmacol.Toxicol.Meths.(1998)40:1
【非特許文献27】Huangら、J.Control Release(2001)73:121
【非特許文献28】Gordonら、Cancer(1995)75:2169
【非特許文献29】Lotemら、Arch.Dermatol.(2000)136:1475
【非特許文献30】Lyassら、Cancer(2000)89:1037
【非特許文献31】Dedrickら、Canc.Treat.Rep.(1978)62:1
【非特許文献32】Clayら、Hematol.Oncol.C1in.N.Am.(1992)6:915
【非特許文献33】Ohら、Pharm.Res.(1995)12:433
【非特許文献34】Hopkinsら、J.Drug Target(1993)1:175
【非特許文献35】Bergsneider、Neurosurg.Clin.N.Amer.(2001)12:631
【非特許文献36】Balthasarら、J.Pharmacol.Exp.Ther.(1994)268:734
【非特許文献37】Balthasarら、J.Pharm.Sci.(1996)85:1035
【非特許文献38】Loboら、J.Pharm.Sci.(2003)92:1665
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
明らかに、反復する直接介入を行わず薬物を投与および分配するための、そして選択された身体区画において望ましい薬物レベルを維持することを可能にする様式の改善された方法および組成物に関する必要性が存在する。新たな研究法はまた、局部薬物濃度の激しい変動またはその他の臨床上有害な影響のような非特異的薬物分配の好ましからざる結果を望ましく回避する。本発明はかかる必要性を満足し、そしてその他の関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明の特定の実施態様によれば、被験体に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体において1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法が提供され、ここで抗体に関しては、抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そしてここで抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している。
【0011】
別の実施態様では、身体区画に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体の身体区画において1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法が提供され、ここで該抗体に関しては、抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そしてここで抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している。
【0012】
前記で記載した方法のさらなる特定の実施態様では、身体区画は中枢神経系区画、心膜、胸膜腔、眼窩後区画、眼区画、関節包、リンパ区画、腹膜区画、鼻内区画、肺区画、および泌尿生殖器区画から選択される区画を含む。特定のかかる実施態様では、身体区画は中枢神経系区画を含む。前記で記載した方法のさらなる特定の実施態様では、身体区画は中枢神経系区画を含み、そして投与の工程は薬物の髄腔内、脳室内、実質、硬膜下、くも膜下または硬膜外導入を含む。
【0013】
前記で記載した方法の特定のその他のさらなる実施態様では、方法は少なくとも2用量の薬物を投与することを含む。その他のさらなる実施態様では、抗体および薬物をほぼ等モル濃度で投与する。その他のさらなる実施態様では、抗体対薬物モル比が少なくとも2:1で抗体および薬物を投与する。その他のさらなる実施態様では、抗体はモノクローナル抗体であり、そして特定のその他のさらなる実施態様では、抗体はキメラ抗体またはヒト化抗体である。特定のその他のさらなる実施態様では、抗原結合フラグメントはFabフラグメント、Fab’フラグメント、(Fab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、scFv、dAbおよびダイアボディ(diabody)から選択される。
【0014】
前記で記載した方法の異なるさらなる実施態様では、投与の工程は少なくとも1用量の第1薬物および第1薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第1抗体、またはその抗原結合フラグメントを投与すること;ならびに少なくとも1用量の第2薬物および第2薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第2抗体、またはその抗原結合フラグメントを投与することを含む。前記で記載した方法の特定のその他のさらなる実施態様では、抗体またはその抗原結合フラグメントは薬物に特異的に結合する複数の抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、ここで該抗体の各々は薬物の望ましい濃度範囲内である濃度範囲に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する。
【0015】
別の実施態様では本発明は、中枢神経系区画に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体の中枢神経系区画において薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法を提供し、ここで該抗体に関しては、抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そしてここで抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している。特定のさらなる実施態様では、被験体は中枢神経系疾患または障害を有し、特定のなおさらなる実施態様ではこれは新生物による症状、神経変成疾患、血管疾患または自己免疫疾患である。1つの実施態様では、被験体は中枢神経系の新生物による症状を有する。さらなる実施態様では、新生物による症状はグリオーマ、星細胞腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、リンパ腫、脳転移、ならびに脳実質、髄膜、脳神経、下垂体、松果体、乏突起膠細胞、上衣および脈絡叢のうちの少なくとも1つに存在する腫瘍から選択される。
【0016】
別の実施態様によれば、被験体の身体区画において維持される薬物の望ましい濃度範囲を決定すること;ならびに薬物に特異的に結合する、および身体区画において維持される薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する抗体を調製し、そしてそれにより薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定することを含む、被験体の身体区画における薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定するための方法が提供される。
【0017】
本発明のこれらのおよびその他の態様は以下の詳細な説明を参照したときに明白になろう。この目的のために、さらに詳細な特定の背景情報、手順、化合物および/または組成物を説明する種々の参照文献を本明細書にて示し、そして各々はその全てを示すがごとくに出典明示により本明細書の一部とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
特定の実施態様では、本発明は被験体に薬物および薬物に特異的に結合する抗体を投与することによりインビボで被験体において薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法および組成物に関する。
【0019】
(抗体緩衝)
ここで開示するようにこれらのおよび関連する実施態様は、抗薬物抗体の存在により統計的に有意な様式で身体区画内の薬物の有効半減期が延長され得る、すなわち薬物クリアランスを抑制または遅延させることができる驚くべき発見に由来する。したがってかかる抗体は本明細書で「抗体緩衝」効果として記載されるものを媒介し、それにより(i)抗体と複合体形成する薬物および(ii)未結合の遊離の薬物との間のインビボ平衡分布を抗体親和性特性に応じて制御して遊離の、生物学的に利用可能な薬物の望ましい濃度範囲を得ることができる。
【0020】
したがって、および抗体−薬物会合および解離のインビボ平衡動力学の予期せぬ、そして有用な機能として、適切に選択された抗薬物抗体を用いて、絶え間ない再平衡過程で、解離された遊離薬物分子が生理学的クリアランス機構により排泄され、そして/または特異的な薬物標的(薬理学的受容体)との相互作用により除去されるときに結合薬物分子の亜集団を放出することにより身体区画の薬物濃度を維持することがでる。
【0021】
身体区画における薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値である抗体解離定数KDを有する適当な抗薬物抗体を選択することができ、ここでKDは被験体における薬物の任意の薬物標的との親和性とは独立している。以下に詳記するように、ここで開示するようなこれらのおよび関連する実施態様は、薬物投与の頻度の減少、予想できる薬物濃度範囲の維持、薬物製品の消費および浪費の減少、過剰な薬物投薬量からの毒性の低減、ならびにその他の関連する利点を含む、治療方法に関する多くの利点を提供する。
【0022】
背景として、たいていの場合、単位時間あたりに除去される薬物の量が存在する薬物の量に比例する一次過程により、全薬物は身体から除去される。また前記で記したように、臨床投与は典型的には効果の閾値よりもはるかに高い初期薬物レベルを生じ、一次クリアランスの結果としてそのレベルは急落するが、次いで続く用量の投与により回復し得る。結果はインビボ薬物濃度における有意な変動のパターンの繰り返しである。対照的に最新の薬物は細胞、組織または器官において薬物と飽和できる受容体として挙動する特異的な薬物標的(薬理学的受容体)と相互作用し、その薬物標的は別個のもしくは一過性の単分子もしくは多分子構造または機能的な生物学的作用でよい。特異的な薬物標的の飽和濃度よりも高い薬物濃度ではそれ以上の薬物効果は生じず、そして実際には望ましくない効果が現れ得る。したがって、クリアランスの結果である薬物濃度の典型的な変動は、次善最適効果(最低薬物濃度で)と副作用(最高薬物濃度で)の間の揺れに至り得る。
【0023】
さらに背景として、溶液中の抗体−抗原相互作用が、質量作用の法則および化学平衡の法則(I.Pecht、The Antigens(1982)、第6巻(M.Sela編)、アカデミックプレス、ニューヨーク、1−68頁;M.W.Steward、Immunochemistry(1974)、チャップマン・アンド・ホール、ロンドン)を含み、そして抗体解離定数と称される周知のパラメーターに従って抗体の特徴付けを可能にする、化学動力学の十分に確立されている原理に合致することが解っている。抗体解離定数は、抗体−抗原複合体が解離し得る相対的な容易さの観点から、抗原に対する抗体結合の強度の定量的指標を提供する。換言すれば抗体解離定数を、好まれる抗体−抗原複合体形成のために、またはかかる複合体の好まれる遊離抗体および遊離抗原への解離のために存在する抗体および/または抗原の相対濃度の指標として考えることができる。
【0024】
簡単には、遊離抗体[Ab]、遊離抗原[Ag]および抗体−抗原複合体[AbAg]の濃度の間の平衡分布に基づいて、抗体解離定数KDを任意の特定の抗体に関して決定することができ、ここでKD=[Ab][Ag]/[AbAg]であり、そして物理学的な濃度のディメンションを有する(例えばモル濃度、M)。またAbAg複合体形成(kon)および遊離Abおよび遊離Agへの複合体解離(koff)の動態速度定数から、KD=koff/konでKDを測定することもできる。これに代えて、3つの構成成分全て(遊離Ab、遊離Agおよび複合体AbAg)を同時に測定できない場合、抗原濃度の半分が抗体と複合体化されている抗体濃度を決定することによりKDを決定することができ、その濃度でKD=[Ab]である。
【0025】
前記で記したように、典型的には薬物は飽和可能な受容体として機能する特異的な薬物標的を介してその生物学的および/または薬理学的効果を奏する。特定の薬物は周知の受容体−リガンド(薬物)結合相互作用に従ってかかる特異的な薬物標的に関して特徴的な親和性を有し、それに基づいて特異的な薬物標的との薬物親和性を決定することができる(例えばRang,H.P.ら(編)、Pharmacology(2003)、チャーチルリビングストン、ニューヨーク、第2章)。特定の発明によれば、本明細書に開示する実施態様は(例えば身体区画において)1つ以上の薬物の望ましい濃度を維持するための方法に関し得るが、抗体解離定数KDは特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立していることに注目すべきである。この点で本発明は、その教示が合成受容体の薬物との親和性に相対して高い天然受容体の薬物との親和性に依存するプロドラッグ複合体に限定されるUS2002/0122810とはその開示全体にわたって明らかに区別され得る。ここで開示される実施態様によれば、被験体における特異的な薬物標的との薬物親和性へのかかる依存性は存在しない。代わりに、および本明細書で記したように、本明細書で開示および特許請求する実施態様によれば、抗体解離定数KDは特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している。
【0026】
抗体解離定数KDを決定するための方法論が本明細書で記載され、そして当分野に公知である限り(例えばWeir,D.M.、Handbook of Experimental Immunology(1986)、ブラックウェルサイエンティフィック、ボストン;HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual(1988)、コールドスプリングハーバーラボラトリー)、特定の好ましい実施態様に従って、適当な抗体が被験体において使用するのに望ましい薬物濃度に実質的に類似するKD値を有することに基づいて選択され得る。(i)例えば特定の身体区画において特定の適応症の処置のために用いられる特定の薬物のための望ましい濃度範囲、および(ii)現在利用可能な方法論および器具類を用いて検出できるような抗体解離定数KD値の双方の決定に関する当分野で許容される基準によれば、かかる値は実質的に類似する。したがって、特定の実施態様では、実質的に類似する抗体解離定数KDが薬物の望ましい濃度範囲内の値に等しい値を有するのが好ましいが、別の実施態様では、実質的に類似する抗体解離定数KDは統計的に有意な様式で望ましい薬物濃度範囲内である薬物濃度の10倍内、さらに好ましくは望ましい薬物濃度の9倍、8倍、7倍、6倍、5倍、4倍、3倍、2倍またはそれ未満内でよく、そして特定の実施態様では、KD値は望ましい薬物濃度範囲内である薬物濃度の1.75倍、1.5倍、1.25倍または0.5から1倍の内またはそれ未満でよい。
【0027】
特定の関連する実施態様では、異なる抗体KD値を有する2つまたはそれより多い抗体を選択することができ、ここで各KD値は望ましい薬物濃度範囲内である薬物濃度に実質的に類似してよいが、各かかるKD値はその範囲内で異なる濃度を示す。これらのおよび関連するさらなる実施態様は本明細書に記載するような身体区画における薬物濃度を調節するための抗体緩衝の使用の微調整を可能にする。非限定的な理論によれば、そして前記で論じたように、各々が薬物の望ましい濃度範囲内である望ましい薬物濃度に実質的に類似する異なるKD値を有する複数の抗体のかかる使用は、平衡薬物濃度に及ぼす抗体の影響により身体区画内の薬物クリアランスの速度に影響する。関連する実施態様では、多量体抗体、例えば二重特異性抗体分子を本開示に従って緩衝抗体として使用するために操作することができ、それにより単一の抗体分子は抗原(薬物)に関して2つの異なる抗体結合部位を有することができ、かかる部位の各々は薬物の望ましい濃度範囲内である望ましい薬物濃度に実質的に類似する異なるKD値を有する。当業者は二重特異性およびその他の多量体抗体(Peippら、Biochem Soc.Transact.30:507(2002);Presta、Curr.Pharm.Biotechnol.3:237(2002))ならびにダイアボディ(Kipriyanov、Meths.Mol.Biol.178:317(2002))を調製するための種々の計画に精通している。多量体抗体には抗原に特異的な第1Fvを含み、その抗原は異なる抗原特異性を有する第2Fvに随伴される二重特異性および二機能性抗体を含む(例えばDrakemanら、Expert Opin.Investig.Drugs 6:1169−78(1997);Koelemijら、J.Immunother.22:514−24(1999);Marvinら、Acta Pharmacol.Sin.26:649−58(2005);Dasら、Methods Mol.Med.109:329−46(2005)参照)。
【0028】
同様に、特定のその他の実施態様によれば、本開示に鑑みて企図される実施態様で本発明により提供されるインビボ抗体緩衝を用いて薬物の各々に関する望ましい濃度範囲を維持するのが望ましいかもしれないような被験体の処置に2つまたはそれより多い薬物が適応とされ得る。例えばかかる方法は少なくとも1用量の第1薬物および第1薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第1抗体またはその抗原結合フラグメントを投与すること;ならびに少なくとも1用量の第2薬物および第2薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第2抗体またはその抗原結合フラグメントを投与することを含み得る。
【0029】
本発明の特定の実施態様に従って企図される方法および組成物は被験体を処置するのに有用であってよく、好ましい実施態様では、それはヒト被験体でよく、そしてその他の実施態様ではヒト以外の霊長類(例えばチンパンジー、ゴリラ、マカク、サル等)、家畜(例えばウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等)もしくはその他の哺乳動物(例えばイヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、スナネズミ、マウス、ラット、等)哺乳動物のようなヒト以外の動物またはその他の非哺乳動物種を含むでよい。特定の実施態様は、新生物による症状のような身体区画内にある細胞または組織の異常または異常症状を特徴とする疾患または障害を有する患者である被験体における薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法を含む。
【0030】
本明細書に開示する特定の実施態様は、中枢神経系区画である被験体の身体区画において薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法に関し、CNS内の新生物による症状を有すると診断された被験体を含むが、本発明はそのように限定されることを意図せず、そして同様に広範なその他の疾患、障害および症状に適用可能な処置方法を企図する。例えば本明細書に記載する抗体緩衝方法および組成物を転移(例えば転移性脳腫瘍)、神経変成疾患(例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、および神経変成を特徴とするその他の疾患)もしくは血管疾患(例えば脳卒中、側頭動脈炎)を処置するためにCNS区画で薬物濃度を維持するために、または自己免疫疾患(例えば多発性硬化症およびCNS区画の脈管炎;リウマチ様関節炎および関節包および/または嚢包の脊椎炎;甲状腺のグレーブス病;等)を処置するためにもしくは身体区画において薬物の望ましい濃度範囲を維持することが有利であり得る任意のその他の適応のために身体区画における薬物濃度を維持するために有用に用いることができる。
【0031】
被験体における新生物による症状の存在は被験体における、例えば悪性、転移性、腫瘍、非接触性抑制性および/または腫瘍形成的に形質転換細胞等(例えばグリオーマ、星細胞腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、リンパ腫、メラノーマ、腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、燕麦細胞癌等のような癌腫、軟骨肉腫、骨肉腫等のような肉腫)を含む異形成性、癌性および/または形質転換細胞の存在を意味し、これらは当分野に公知であり、そしてそれらに関する診断および分類のための基準が確立されている。本発明により企図される特定の好ましい実施態様では、例えばかかる癌細胞は脳実質、髄膜、脳神経、下垂体、松果体、乏突起膠細胞、上衣および脈絡叢等の形質転換細胞のような、CMS区画内の新生物細胞である。特にこれらに関連するものおよび関連する実施態様は、限定するものではないが小細胞肺癌、腺癌、リンパ腫およびその他の新生物由来の転移を含む脳転移である。
【0032】
(薬物/医薬組成物および投与)
本発明に従って使用するための薬物は治療および/または診断目的で被験体に投与することができる物質の任意の組成物でよい。好ましくは薬物を可溶性形態で提供する。理論に束縛されることは望まないが、薬物は被験体の細胞または組織においてその同族特異的な薬物標的と特異的に相互作用して、薬物−標的相互作用の結果として直接的(例えば酵素の阻止、受容体の遮断)または間接的(例えば望ましい事象に至るためにシグナリングカスケードを開始する受容体アゴニストとして)のいずれかで治療上の利益を付与することができる。典型的には本明細書に開示する特定の好ましい実施態様に従って使用するための薬物は「小型分子」として当分野において公知であり、そして105ダルトン未満、好ましくは104ダルトン未満、さらに好ましくは8×103、5×103、3×103、2×103または1.5×103ダルトン未満、およびなおさらに好ましくは103ダルトン未満の分子量を有する化合物を含む。
【0033】
当業者に公知であるように、特定の疾患または障害に望ましい濃度範囲が確立されている適当な投薬量を含む1つ以上の薬物を適応とすることができる(例えばPhysician’s Desk Reference(2004)、トンプソンヘルスケア、ニューヨーク;BeersおよびBerkow(編)、Merck Manual of Diagnosis and Therapy第17版(1999)、ジョンワイリー・アンド・サンズ、ニューヨーク参照)。しかしながら本発明はそのように限定される必要はなく、そしてまた望ましい濃度範囲が公知であるか、または利用可能な情報に基づいてもしくは当分野で許容されている系を用いる標準的なインビトロおよびインビボ方法論から得られるような薬理学/薬物動態的、生物学的、化学的およびその他の特性に関連する容易に作成されるデータから決定され得る新しいおよび/または実験的薬物をも企図する。例えばインビトロ(例えば細胞培養基盤)の系は、細胞表現型に及ぼす影響を明白に示すことができる最小薬物濃度範囲を確立することができるが、薬物毒性の徴候(例えば壊死、アポトーシス、呼吸および/または代謝不全等)のモニタリングから明らかであるような、従来のプロトコールに従ってインビボモデルを用いて薬物濃度範囲の上限を確立することができる。したがって、一度1つの薬物または薬物の1つの組み合わせを被験体の処置に選択すると、定義された有効レベルに基づいて各薬物に関する望ましい濃度範囲が解り、そして適切な抗体解離定数(KD)値を有する抗体を選択することができる。抗体を作成する方法は、抗体解離定数を決定するための方法と同様に本明細書に記載され、そして当分野において公知であり、望ましい同族抗原(例えば薬物のようなリガンド)との特異的結合親和性を有する抗体を選択すること、およびさらにかかる抗体の中から望ましい薬物濃度範囲内である望ましい濃度に実質的に類似するKDを有するものを選択することはおよび過度な実験を行うことなく容易に達成され得る。
【0034】
したがって特定の実施態様では本発明は、被験体の身体区画において維持すべき薬物の望ましい濃度範囲を決定すること;および薬物に特異的に結合し、そして身体区画において維持すべき薬物の望ましい濃度範囲に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する抗体を調製すること、およびそれにより薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定することを含む、被験体の身体区画において薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定するための方法を提供する。
【0035】
本明細書に開示する特定の本発明の実施態様により得られる別の予期せぬ利点は、被験体においてインビボで、例えば被験体の身体区画において望ましい時間1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持する能力である。抗体−抗原平衡動力学に関する前記の議論から以下のように、インビボ抗体緩衝効果の結果である身体区画内の薬物半減期の驚くべき延長により、望ましい薬物濃度を維持することができる期間の制御が可能になる。抗体解離定数KDが本明細書に記載されるように到達し得る遊離(未結合)薬物のレベルを制御する場合、望ましい薬物濃度範囲を維持できる時間を算定する目的で区画容量および薬物クリアランス速度(遊離薬物の喪失の薬物動態速度)に鑑みて投与される抗体および薬物の絶対量を計算することができる。
【0036】
被験体における1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための本記載の方法は、周知の方法論および技術に従って投与するために医薬組成物に処方することができる薬物および抗体の用量を含む。特定の好ましい実施態様では、投与は身体区画に行われる。医薬組成物は一般に1つ以上の薬物および/または抗体を薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤と組み合わせて含む。かかる担体は用いられる投薬量および濃度で受容者に対して無毒性である。特定の薬物および/または抗体に関して約0.01μg/kgから約100mg/kg体重が典型的には、(CNSでは)髄腔内、脳室内、硬膜外、硬膜下、くも膜下、髄膜、類洞もしくは脳実質投与による、または(その他の区画では)心膜、胸膜嚢、眼窩後腔、1つもしくはそれより多い前眼房、後眼房もしくは眼の硝子区画のような眼区画、関節包、嚢包、脾臓、胸腺もしくはリンパ節のようなリンパ区画、または卵巣、前立腺、陰嚢もしくは精巣のような泌尿生殖器区画への直接注射による、またはエアロゾル化水性溶液の鼻腔区画、細気管支もしくは肺区画への吸入による、またはその他の経路によるような(複数の)薬物の望ましい濃度範囲の維持が行われるべき身体区画に従って決定される経路により投与される。特定の好ましい実施態様に従って、身体区画は中枢神経系区画を含み、そして投与の工程は薬物の髄腔内、脳室内、実質、硬膜下、くも膜下または硬膜外導入を含む。
【0037】
好ましい投薬量は約1μg/kgから約1mg/kgであり、約5μg/kgから約200μg/kgが特に好ましい。投与の数および頻度は被験体の応答に依存することは当業者には明白であろう。同様に本発明の特定の実施態様は、(a)(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で身体区画に投与することであって、ここで該抗体に関しては、抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そしてここで抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している;ならびに(b)薬物の少なくとも1つのさらなる用量を逐次的に投与すること;を含む被験体の身体区画において1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法を企図する。
【0038】
さらにこの点で、身体区画液体容量中の可溶性抗体の驚くべき滞留時間を考えると、平衡計算および/または経験的な観察により、抗体−薬物解離および薬物クリアランスの組み合わせ効果が望ましい濃度を下回るまで薬物レベルを低下させたことが示された時点で、望ましい薬物濃度を維持するための方法を含む特定の関連する実施態様に従って、抗体および薬物が以前に投与された区画への遊離薬物の反復再投与(「再負荷」)が企図される。理論に束縛されることは望まないが、かかる状況下では身体区画中で薬物濃度が低く、そして薬物に対する過剰の抗体結合部位がリガンド(すなわち薬物)により占有されていない点に再平衡されている抗薬物抗体のプールは、新鮮な薬物でのかかる「再負荷」に利用可能であり、インビボでリガンドの抗体緩衝の平衡原理により再度有効な薬物濃度の維持の延長に至る。かかる再負荷はまた予期せぬ利点として、身体区画および、したがって被験体が、抗体−薬物複合体における薬物の網封鎖に至る迅速な平衡過程の初めに高々一過性のおよび短命の高レベルの遊離薬物に暴露される方法を提供する。
【0039】
本明細書に記載したいくつかの実施態様の中で、(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することができるものが含まれる。その他の関連する実施態様は、薬物および抗体が混合されるか、または投与の前に予め混合されるものを含み得るが、さらにその他の関連する実施態様は、抗体および薬物が別個に投与されるか、または投与時に混合されるものを含む。
【0040】
治療に使用するための「薬学的に許容される担体」は薬学の分野で周知であり、そして例えばRemingtons Pharmaceutical Sciences、マック出版社(A.R.Gennaro編(1985))に記載されている。例えば生理学的pHの滅菌食塩水およびリン酸塩緩衝食塩水を用いることができる。保存剤、安定剤、染料およびその他の補助剤を医薬組成物に提供することができる。例えば安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp−ヒドロキシ安息香酸のエステルを保存剤として加えることができる。同文献1449。加えて、抗酸化剤および懸濁剤を用いることができる。同文献。「薬学的に許容される塩」は、かかる化合物および有機もしくは無機酸(酸付加塩)または有機もしくは無機塩基(塩基付加塩)の組み合わせから誘導される薬物化合物の塩を意味する。本明細書での使用が企図される薬物を遊離塩基または遊離塩形態のいずれかで用いることができ、双方の形態は特定の本発明の実施態様の範囲内であると考えられる。
【0041】
1つもしくはそれより多い薬物および/または1つもしくはそれより多い抗体を含有する医薬組成物は、組成物を患者に投与することを可能にする任意の形態でよい。例えば組成物は固体、液体または気体(エアロゾル)の形態でよい。特定の好ましい実施態様に従って、組成物を液体形態にし、そして投与経路は少なくとも1用量の薬物および薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを身体区画に同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む。その他の典型的な投与経路には、限定するものではないが経口、舌下、局所、非経口(例えば舌下または口腔)、舌下、直腸、膣および鼻腔内が含まれ得る。本明細書で用いる非経口なる用語には、皮下注射、静脈内、筋肉内、髄内、胸骨内、空洞内、くも膜下腔内、道内、尿道内注射または注入技術が含まれる。
【0042】
ヒト患者のような被験体への組成物の投与時に、そこに含有される活性成分を生体内利用できるように医薬組成物を処方する。患者に投与される組成物は1つ以上の用量または投薬量単位の形態をとり、ここで例えば予め測定された液体容量は単一の投薬量単位を含むことができ、そして液体またはエアロゾル形態の1つ以上の組成物(例えば薬物、抗薬物抗体)の容器は複数の投薬量単位を入れることができる。薬物の用量は薬物の望ましい濃度範囲、例えば身体区画における薬物の望ましい濃度範囲を達成または維持するのに十分な様式で、および時間をかけて投与される特定の薬物の治療上有効量の全てまたは一部を含み、そしてここで用量を含む薬物の絶対量は薬物、被験体、身体区画ならびに医学および薬学および関連する分野の状態に鑑みて当業者が精通するその他の基準によって異なる。特定の実施態様では、少なくとも2用量の薬物を投与することができ、そして特定のその他の実施態様では抗体および薬物をおよそ等モル濃度で(すなわち現在の統計的に有意な検出限界による均等な濃度であり、標準偏差は15%未満、好ましくは10%未満、さらに好ましくは5%未満、なおさらに好ましくは3、2、1または0.1%未満である)投与することができる。その他の実施態様は、抗体および薬物を少なくともおよそ2:1、2.5:1、3:1、4:1、5:1または5:1より大きい抗体対薬物モル比で投与することを企図する。
【0043】
本明細書で用いる液体医薬組成物は溶液、懸濁液の形態またはその他の同様の形態であっても、1つ以上の以下の佐剤を含み得る:注射用水、食塩水溶液、好ましくは生理学的食塩水、リンガー溶液、食塩水溶液(例えば生理食塩水、または等張、低張もしくは高張塩化ナトリウム)、溶媒もしくは懸濁培地として提供できる合成モノもしくはジグリセリドのような不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の溶媒のような滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩のようなバッファーおよび塩化ナトリウムまたはデキストロースのような張度を調整するための薬剤。非経口調製物をガラスもしくはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは反復投与用バイアルに封入することができる。生理学的食塩水は好ましい佐剤である。注射用医薬組成物は滅菌されているのが好ましい。調製物中に、限定するものではないがアルミニウム塩、油中水エマルジョン、生分解性油ベヒクル、水中油エマルジョン、生分解性マイクロカプセルおよびリポソームを含む分配ベヒクルのようなその他の構成成分を含むのも望ましい。
【0044】
当業者に公知の任意の適当な担体を本発明の医薬組成物に用いることができるが、担体の型は投与の様式、および本発明による抗体により得られる生物薬理学的緩衝効果に加えて従来の薬物除放もまた望ましいかどうかに依存して異なる。薬物の追加注射のような非経口投与用に、担体は水、食塩水、アルコール、脂肪、ワックスまたはバッファーを含むのが好ましい。生分解性マイクロスフェア(例えばポリ酢酸ガラクチド)を本発明の医薬組成物に担体として用いることもできる。適当な生分解性マイクロスフェアは例えば米国特許第4,897,268号および第5,075,109号に開示されている。この点でマイクロスフェアがおよそ25ミクロンよりも大きいのが好ましい。
【0045】
医薬組成物はまたバッファーのような希釈剤、アスコルビン酸のような抗酸化剤、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、グルコース、スクロースまたはデキストリンを含む炭水化物、EDTAのようなキレート剤、グルタチオンならびにその他の安定剤および賦形剤をも含有し得る。中性の緩衝食塩水または非特異的血清アルブミンと混合した食塩水は適切な希釈剤の実例である。好ましくは、適切な賦形剤溶液(例えばスクロース)を希釈剤として用いて生成物を凍結乾燥物として処方する。
【0046】
(身体区画)
身体区画は、液体連絡において身体のその他の領域から絶対的である必要はないが実質的に分離された、例えば組織または器官構造の生成物であるような、薄膜(例えば髄膜、心膜、胸膜、骨膜、関節包膜、粘膜、基底膜、腹膜、網、器官被包膜等)によりその他の身体部分から分離され得る空間的に定義された区画のような任意の定義された解剖学的区画を含み得る。本明細書に記載する特定の好ましい実施態様では、身体区画は物理的および生理学的に血液脳関門により循環から分離されており(Begley、Pharmacal.Therapeut.104:29(2004))、そして髄腔内、脳室内、実質、硬膜下、くも膜下または硬膜外により接近可能なCNS区画でよい。
【0047】
簡単な背景としては、血液脳関門(BBB)はたいていの物質のCNS侵入に大きく影響し(Heidemanら、Cancer 80:497(1997))、そして積極的化学療法での脳腫瘍の処置の試みの失敗に関係している(Castroら、Pharmacol.Ther.98:71(2003))。その目的は血液から脳を分離して脳機能および代謝の調節を補助することである。BBBは小型の(200ダルトン未満)の親油性の非イオン化化合物以外の全ての侵入を制限する緊密な内皮細胞接合から成る。
【0048】
脳脊髄液(CSF)は脳室系およびくも膜下腔を満たす液体である。それは浸透作用および能動輸送の過程を介して脈絡叢により形成される。タンパク質は通常脈絡叢を通過できず、それは免疫物質のCSFへの通過を防御する。CSF流の方向は側脳室から脳室内孔、第3脳室、中脳水道を通り、そして第4脳室に向かう。次いでそれはくも膜下腔に入り、そこでは脳の表面のどこにでも自由に流れる。くも膜は増殖して硬膜内の空間に、または上矢状静脈洞に突出する分岐したくも膜絨毛の肉眼観察できる斑点を形成する。これらのくも膜下粒を介してCSFは血管系に再吸収される。
【0049】
髄腔内化学療法に用いられる現在利用可能な薬物は急速にCSFから除去される(Jaeckleら(2002))という事実にもかかわらず、本出願は実質的に望ましい薬物濃度に類似する解離定数を有することに基づいて選択される緩衝抗体が、かかるクリアランスを遅延させることができ、それによりその望ましい濃度でまたはそれ近くで薬物を維持することができるという予期せぬ発見を開示する。また前記でも記したように、特定の好ましい実施態様は特に、限定するものではないが小細胞肺癌、腺癌、リンパ腫およびその他の悪性腫瘍に由来する転移を含む脳転移のようなCNS新生物の処置に特に有用である。
【0050】
リガンド(例えば薬物)のインビボ抗体緩衝を実施できるさらなる身体区画には心膜、胸膜腔、眼窩後区画、眼(さらに前房、後房および硝子区画を含む)、関節包、嚢包、リンパ区画(例えば脾臓、胸腺およびリンパ節)、腹膜腔、鼻内区画、肺、および卵巣、前立腺および陰嚢のような泌尿生殖器区画、ならびにその他の比較的定義された身体区画が含まれる。身体区画の実例はまた解剖学的におよび薬物動態によりOhningら、Neonatal.Netw.14:7(1995);Ohningら、Neonatal.Netw.14:15(1995);ならびに米国特許第6,414,033号およびそこに引用された出版物(例えばNordenstrom,B.E.、Biologically Closed Electrical Systems:Clinical,Experimental and Theoretical Evidence of an Additional Circulatory System(1983)、ストックホルム、ノルディックメディカル出版;およびEvans,E.E.、Schentag J.J.、Jusko W.J.(編)、Applied Pharmacokinetics:Principles of Therapeutic Drug Monitoring(1992)、第3版、バンクーバー、ワシントン州)にも記載されている。少なくとも1用量の薬物および少なくとも1つの抗体を投与する目的のために、確立された経路による身体区画への治療のための接近は、本明細書に記載するような治療方法による医学および獣医学の分野のレパートリー内である。
【0051】
(抗体)
ペプチド、ポリペプチドおよび薬物に特異的に結合するその他の分子である抗薬物結合分子を含む抗体もまた本発明により企図される。かかる結合分子を本明細書に記載するような1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法において用いることができる。抗薬物結合分子のような抗体は、検出可能なレベルで薬物と反応する(例えば結合する)が、構造的に異なるまたは関連性のない分子とは検出可能なように反応しない場合に、特定の薬物に特異的に結合するとされている。したがって好ましい結合分子には、例えばポリクローナル、モノクローナル、一本鎖、キメラ、ヒト化、抗イディオタイプ、もしくはCDR移植免疫グロブリンでよい抗体、またはタンパク質溶解により作成されたもしくは組換えにより生成された免疫グロブリンF(ab’)2、Fab、Fab’、Fvおよび/もしくはFdフラグメントのようなその抗原結合フラグメント、単一ドメイン抗体(「dAb」;Holtら、Trends Biotech.21:484(2003))ならびにダイアボディ(Hudsonら、J.Immunol.Meth.231:177(1999))が含まれる。本発明による抗体は任意の免疫グロブリンクラス、例えばIgG、IgE、IgM、IgDまたはIgAに属してよい。それは動物、例えば家禽(例えばニワトリ)または、限定するものではないがマウス、ラット、ハムスター、ウサギもしくはその他のげっ歯類、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ヒトまたはその他の霊長類を含む哺乳動物から得られるか、またはそこから誘導することができる。抗体は内部移行型抗体でよいか、または抗体は細胞膜を通って容易に輸送され得るように修飾され得る。
【0052】
特定の好ましい抗体は、薬物がその同族の特異的な薬物標的と相互作用するのを阻止、妨害または遮断するこれらの抗体である。当業者が容易に実行できる例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫沈殿、ラジオイムノアッセイ、免疫ブロッティング等を含む従来の免疫検出法を用いて、抗体の薬物への結合特性を一般的に評価することができる。当業者はまたかかる免疫検出法に精通しており、薬物リガンドの立体構造エピトープに結合する抗体を検出するために用いる場合、薬物を変性させる可能性があり、そしてしたがってリガンド立体構造エピトープを変化させるかまたは破壊し得る任意の試薬または条件を避けるのが好ましいであろう。
【0053】
当分野において周知の、および本明細書に記載する方法を用いて所望による特定の薬物に特異的である、ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を含む抗体を作成することができる。また抗体を望ましい特性を有するように設計された、遺伝子操作された免疫グロブリン(Ig)またはIgフラグメントとして生成することもできる。例えば説明目的であり、限定するものではないが、抗体は第1の哺乳動物種からの少なくとも1つの可変(V)領域ドメインおよび第2の異なる哺乳動物種からの少なくとも1つの定常領域ドメインを有するキメラ融合タンパク質である組換えIgGを含み得る(例えばMorrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 81:6851−55(1984);Shinら、Methods Enzymol.178:459−76(1989);Wallsら、Nucleic Acids Res.21:2921−29(1993);米国特許第5,482,856号参照)。最も一般的には、キメラ抗体はネズミ可変領域配列およびヒト定常領域配列を有する。かかるネズミ/ヒトキメラ免疫グロブリンは、ヒト由来V領域フレームワーク領域およびヒト由来定常領域に、抗原に関する結合特異性を付与する、ネズミ抗体から誘導される相補性決定領域(CDR)を移植することにより「ヒト化」されていてよい(例えばJonesら、Nature 321:522−25(1986);Riechmannら、Nature 332:323−27(1988);Padlanら、FASEB 9:133−39(1995);Chothiaら、Nature 342:377−383(1989);Bajorathら、Ther.Immunol.2:95−103(1995);欧州特許第0578515−A3号)参照)。これらの分子のフラグメントをタンパク質消化により、または場合によってはタンパク質消化に続いてジスルフィド結合の穏やかな還元およびアルキル化により作成することができる。これに代えて、かかるフラグメントを組換え遺伝子操作技術により作成することもできる(例えばHarris,W.J.、Adair,J.R.(編)、Antibody Therapeutics(1997)、シーアールシープレス、ボカラトン、フロリダ州)。
【0054】
免疫特異的である、または本明細書で提供するような薬物に特異的に結合する抗体は検出可能なレベルで薬物と反応し、そして異なるまたは関連性のない構造を有する分子とは反応せず、好ましくは約104M−1より大きいかまたはそれに等しい、さらに好ましくは約105M−1より大きいかまたはそれに等しい、さらに好ましくは約106M−1より大きいかまたはそれに等しい、そしてなおさらに好ましくは約107M−1より大きいかまたはそれに等しい親和定数Kaを有する。抗体とその同族抗原との親和性は一般に解離定数KDとして表現され、そして抗薬物抗体が10−4M未満もしくはそれに等しい、10−5M未満もしくはそれに等しい、10−6M未満もしくはそれに等しい、10−7M未満もしくはそれに等しい、または10−8M未満もしくはそれに等しいKDで結合する場合、それは薬物と特異的に結合する。結合パートナーまたは抗体の親和性を従来の技術、例えばScatchardら(Ann.N.Y.Acad.Sci.USA 51:660(1949))に記載されるものを用いて、または表面プラスモン共鳴(ビアコア、バイオセンサー、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)により容易に決定することができる。例えばWolffら、Cancer Res.53:2560−2565(1993)参照。
【0055】
一般に当業者に公知の種々の技術のいずれかにより抗体を作成することができる。例えばHarlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、コールドスプリングハーバーラボラトリー(1988)参照。かかる技術の1つでは、例えば確立された方法論に従って、適当なキャリア上のハプテンとして薬物を用いて動物を薬物の免疫原形態で、ポリクローナル抗血清を作成するための抗原として免疫する。適当な動物には例えばウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシが含まれ、そしてマウス、ラットおよびハムスターまたはその他の種のような小型哺乳動物種もまた含まれ得る。
【0056】
免疫原は精製されたもしくは部分的に精製された薬物を含んでよいか、または(例えばポリペプチドまたはポリヌクレオチドまたは代謝産物である薬物に関して)薬物を発現するかもしくは薬物がその免疫原性を増強する様式で導入されている細胞からなってよい。ペプチドまたはポリペプチド薬物を標準的な組換え遺伝子方法論を用いて、もしくは天然発生タンパク質のタンパク質溶解切断により作成することができるか、または化学的に合成することができる。ペプチド薬物をポリアクリルアミドゲル電気泳動のような当分野において公知の技術、または液体クロマトグラフィーのようなその他の種々の分離方法のいずれか、またはその他の適当な方法論により単離することができる。
【0057】
ポリペプチドまたはペプチドである薬物に対して抗体を上昇させるために、免疫原として有用なペプチドは典型的には、薬物配列からの少なくとも4または5個の連続したアミノ酸配列を有し、そして好ましくは薬物ポリペプチド配列の少なくとも6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、18、19または20個の連続したアミノ酸配列を有し得る。特定のその他の好ましいペプチド免疫原は薬物ポリペプチド配列の21−25、26−30、31−35、36−40、41−50個またはそれより多い連続したアミノ酸配列を含み得る。また宿主動物において抗原応答を生じる可能性がより高いアミノ酸配列を決定するために、免疫に有用なポリペプチドまたはペプチドを当業者に公知の方法に従って薬物ポリペプチドの1次、2次および3次構造を分析することにより選択することもできる。例えばNovotny、Mol.Immunol.28:201−207(1991);Berzofsky、Science 229:932−40(1985);Changら、J.Biochem.117:863−68(1995);Kolaskarら、Viology 261:31−42 (1999))参照。好ましくはポリペプチドまたはペプチドは、その薬理学的活性形態で薬物ポリペプチドの立体構造に近似する様式でフォールディングするのに十分な数のアミノ酸を含む。
【0058】
免疫原を調製し、そして当分野において周知の方法に従って動物を免疫することができる。例えばHarlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、コールドスプリングハーバーラボラトリー(1988)参照。定期的に動物を出血させ、収集した血液から血清を分離し、そしてELISAまたはオクタロニー拡散アッセイ等のようなイムノアッセイで血清を分析して特異的抗体力価を決定することにより免疫応答をモニタリングすることができる。一度抗体力価が確立されると、動物を定期的に出血させてポリクローナル抗血清を集めることができる。次いで例えば親和性クロマトグラフィーにより、精製すべき(複数の)抗体の定常領域(重または軽鎖)に特異的に結合する黄色ブドウ球菌プロテインAまたはプロテインGを用いて、または適当な固体支持体に固定した薬物を用いてかかる抗血清から薬物に特異的に結合するポリクローナル抗体を精製する。
【0059】
望ましい結合特異性を有するモノクローナル抗体を生成する不死化真核細胞系である、薬物およびハイブリドーマに特異的に結合するモノクローナル抗体もまた、例えばKohlerおよびMilstein(Nature 256:495−497(1976);Eur.J.Immunol.6:511−519(1975))の技術ならびに当業者が精通するそれの改良法を用いて調製することができる。動物、例えばラット、ハムスターまたはマウスを薬物または薬物免疫原で免疫し;抗体形成細胞、典型的には脾臓細胞を含むリンパ球系細胞を免疫した動物から入手し;そしてかかる細胞を選択薬剤感受性骨髄腫(例えば形質細胞腫)細胞融合パートナーとの融合により不死化することができる。
【0060】
モノクローナル抗体をハイブリドーマ培養物の上澄から単離するか、またはモノクローナル抗体を含有する腹水の形成を促すように処理した(例えばプリスタン刺激した)マウスから単離することができる。モノクローナル抗体の特定の特性(例えば重または軽鎖アイソタイプ、結合特異性等)に基づいて選択された適切なリガンドを用いて親和性クロマトグラフィーにより抗体を精製することができる。固体支持体に固定された適当なリガンドの実例にはプロテインA、プロテインG、抗定常領域(軽鎖または重鎖)抗体、抗イディオタイプ抗体および特異的抗体に望ましい薬物抗原が含まれる。
【0061】
ヒトモノクローナル抗体を当業者が精通するさまざまな技術により作成することができる。またヒト免疫グロブリンファージライブラリーから、ウサギ免疫グロブリンファージライブラリーから、および/もしくはニワトリ免疫グロブリンファージライブラリーから(例えばWinterら、Annu.Rev.Immunol.12:433−55(1994);Burtonら、Adv.Immunol.57:191−280(1994);米国特許第5,223,409号;Huseら、Science 246:1275−81(1989);Schlebuschら、Hybridoma 16:47−52(1997)およびそこに引用された参照文献;Raderら、J.Biol.Chem.275:13668−76(2000);Popkovら、J.Mol.Biol.325:325−35(2003);Andris−Widhopfら、J.Immunol.Methods 242:159−31(2000)参照)、またはリボソームディスプレイ(例えばHanesら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:14130(1998))もしくは酵母ディスプレイ(例えばColbyら、Meths.Enzymol.388:348(2004))等のようなその他の方法論により抗体を同定し、そして単離することもできる。ヒト以外の種またはヒト以外の免疫グロブリンライブラリーから単離された抗体を本明細書に記載する、および当分野において公知の方法に従って遺伝子操作して抗体またはそのフラグメントを「ヒト化」することができる。
【0062】
特定の実施態様では、抗薬物、薬物、または抗二重変異体薬物を含む抗変異体薬物抗体を生成する免疫動物からB細胞を選択し、そして当分野において公知の(国際公開公報第92/02551号;米国特許第5,627,052号;Babcookら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:7843−48(1996))および本明細書に記載する分子生物学技術に従ってB細胞から軽鎖および重鎖可変領域をクローニングする。好ましくは薬物または二重変異体薬物に特異的に結合する抗体を生成する細胞を選択することにより、免疫動物からのB細胞を脾臓、リンパ節または末梢血試料から単離する。またB細胞をヒトから、例えば末梢血試料から単離することもできる。
【0063】
抗体フラグメントは特異的抗原に結合して複合体を形成するという点で抗体のように作用する任意の合成または遺伝子操作されたタンパク質でもよい。例えば抗体フラグメントには軽鎖可変領域からなる単離されたフラグメント;重および軽鎖の可変領域からなる「Fv」フラグメント;軽および重可変領域がペプチドリンカーにより連結されている組換え一本鎖ポリペプチド分子(scFvタンパク質);および超可変領域を擬似するアミノ酸残基からなる最小認識単位が含まれる。かかる抗体フラグメントは好ましくは少なくとも1つの可変領域ドメインを含む。(例えばBirdら、Science 242:423−26(1988);Hustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883(1988);欧州特許第B1−0318554号;米国特許第5,132,405号;米国特許第5,091,513号;および米国特許第5,476,786号参照)
特定の実施態様では、薬物に特異的に結合する抗体は細胞内タンパク質として発現される抗体でよい。かかる細胞内抗体はまた細胞内発現抗体とも称され、そしてFabフラグメントを含み得るか、または好ましくはscFvフラグメントを含み得る(例えばLecerfら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:4764−49(2001)参照)。CDR領域をフランキングするフレームワーク領域を修飾して発現レベルおよび細胞内の還元環境内での細胞内発現抗体の溶解性を改善することができる(例えばWornら、J.Biol.Chem.275:2795−803(2000)参照)。例えば細胞内の特定の標的抗原をコードするポリヌクレオチド配列に作動可能なように融合することができる細胞内発現抗体の可変領域をコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを構築することにより、細胞内発現抗体を特定の細胞位置またはオルガネラに志向させることができる(例えばGraus−Portaら、Mol.Cell Biol.15:1182−91(1995);Lenerら、Eur.J.Biochem.267:1196−205(2000)参照)。遺伝子治療ベクター、または脂質混合物(例えばイムゲネックス社、サンディエゴ、カリフォルニア州により製造されたProvectin(商標))を介するものを含む当業者に利用可能な種々の技術により、または光化学的内部移行法に従って細胞内発現抗体を細胞に導入することができる。
【0064】
核酸切断、ライゲーション、形質転換、およびトランスフェクションに関する種々の周知の手順のいずれかに従って、本明細書に記載するような薬物に特異的に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドをさまざまな公知の発現ベクターを用いて増殖および発現させることができる。したがって特定の実施態様では、大腸菌のような原核細胞宿主における抗体フラグメントの発現が好ましい(例えばPluckthunら、Methods Enzymol.178:497−515(1989)参照)。特定のその他の実施態様では、酵母(例えばサッカロミセス・セレビシエ、シゾサッカロミセス・ポンベおよびピチア・パストリス)、菌類(例えばニューロスポラ・クロッサのようなアカパンカビ細胞)、動物細胞(哺乳動物細胞を含む)または植物細胞を含む真核宿主細胞において抗体またはそのフラグメントを発現させることができる。適当な動物細胞の実例には、限定するものではないが骨髄腫、COS、CHO、またはハイブリドーマ細胞が含まれる。植物細胞の実例にはタバコ、トウモロコシ、ダイズおよびコメ細胞が含まれる。
【0065】
薬物に特異的に結合する抗体を前記したような、抗体のKdを決定するためのアッセイのような抗体親和性を決定するためのアッセイにおいてスクリーニングして、身体区画において維持すべき薬物の望ましい濃度に実質的に類似するKd値を有する抗体を同定することができる。そのようにして選択された、および薬物に特異的に結合する抗体を本明細書に記載した方法で用いて、被験体の身体区画を含む被験体において1つ以上の薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる。
【0066】
限定ではなく説明の目的で以下の実施例を提示する。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
(脳脊髄液中の抗体緩衝)
(方法)
抗体生成
抗OxハイブリドーマNQ11/7.12は以前に記載されている(Griffithsら、Nature 312:271−75(1984);Berekら、Eur.J.Immunol.17:1121−29(1987))。対照(非Ox結合)ネズミ抗リゾチーム抗体D1.3(Amitら、Science 233:747−53(1986))をも使用した。ハイブリドーマを振動気泡ローラーボトル中で成長させ(Pannellら、J.Immunol.Methods 146:43−48(1992))、そしてプロテインA−セファロースの親和性クロマトグラフィーにより各々のモノクローナル抗体を使用済み培養上澄から精製した。純度を検証するために抗体に関してSDS−PAGEを実施した。紫外分光法により配列から計算した減衰係数を用いてタンパク質濃度を決定した(Perkins、Eur.J.Biochem.157:169−80(1986))。抗体溶液をフィルター滅菌し、そして窒素下で4℃で保存した。
【0068】
トリチウム標識した2−フェニル−オキサゾール−5−オン−γ−アミノブチラート抱合体(Ox)の調製
本質的にBerekら(前出)に記載されるように粗製Oxを調製した。3H−γ−アミノ酪酸(GAGA)(1mCi/ml)をパーキンエルマーライフサイエンシズ社(ウェルズリー、マサチューセッツ州)から入手し、そして未標識GABA(1M NaHCO3中0.5mM)および4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン(アセトン中36.26mg/ml)の溶液を調製した。未標識GABA溶液5μlを氷上で3H−GABA 50μlと混合した。4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン溶液10μlを加え、そして反応混合物をときどき手動で混合しながら1時間氷上に置いた。次いでさらに4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン溶液11μlを加え、そして反応混合物を氷上で20分間放置した。未標識GABA溶液5μlを加え、そして反応物を高速で混合しながら20時間室温にした。次いで濃酢酸1μlを加え;得られた沈殿物をサーモサバントSPD1010スピードバックシステム中で加熱せずに乾燥させた。乾燥した沈殿物をPBSに溶解した(25mM NaH2PO4/125mM NaCl、pH7.0)。
【0069】
得られたOx生成物をHPLCを用いて精製した。0.1Mギ酸アンモニウム(pH4.8)(可動相A)およびアセトニトリル(可動相B)を使用前に0.2ミクロンフィルターを通して減圧ろ過した。アジレントテクノロジーズの分析用ガードカラムを伴うゾルバックスSB−C18 HPLCカラムにOxを適用し、そして0.1Mギ酸アンモニウム(pH4.8)(可動相A)およびアセトニトリル(可動相B)で溶出した。9.5%から70%可動相Bのグラジエントを流速0.5ml/分で26分間かけて流し、そして348nmの波長を用いて容離液をモニタリングした。Oxピークは20.5分に溶出された。そのピークに収集された分画のシンチレーションカウンティングによりその同一性を確認した。Oxピークからプールした分画を加熱せずにスピードバックシステムで乾燥させた。乾燥後残留物をPBS 1mlに再懸濁した。Oxの放射化学的純度をHPLCにより確認した。定量的HPLCおよび紫外分光法の双方により濃度を決定した。Ox 1μlをシンチバースII(フィッシャーサイエンティフィック)5mlに希釈し、そしてベックマンLS6500シンチレーションカウンターで計数することにより特異活性を決定した。Oxの特異活性は4.2×106cpm/ナノモルであった。
【0070】
37℃での抗Ox抗体親和性の決定
パーキンエルマーLS50B発光分光計を用いて蛍光分光法により(FooteおよびMilstein、Nature 352:530−32(1991))抗体親和性を決定した。37℃に加熱した水浴を循環させることによりキュベットブロックの温度制御を維持した。PBS中20nM NQ11/7.12を含有するキュベットを分光計内に置き、そして37℃に平衡させた。30μg/mlユビキチンをキャリアとして加えた。帯域幅5nmの励起波長280nmおよび帯域幅10nmの発光波長340nmを積分時間8秒で用いた。40nM増でOx−GABA溶液を加え、そして平衡になる時間を見越して蛍光の読みを行った。得られた濃度/蛍光の読みを最小二乗法(FooteおよびWinter、J.Mol.Biol.224:487−99(1992))により分析して各抗体のKdを決定した。
【0071】
動物
雄スプラーグドーリーラット(300g)をジビックラボラトリーズ社(ゼリエノープル、ペンシルバニア州)から入手した。各ラットは注射用に右側脳室にカニューレおよび脳脊髄液(CSF)試料採取のために大槽に第2カニューレを設置するための手術を施された。簡単にはラットを2.5%イソフルランで麻酔し、そして定位固定装置内で固定した。加熱パッドにより通常の体温を維持した。正中線切開により前頭、頭頂および後頭骨を暴露した。ラットの定位図譜から得られた座標(ブレグマから1.8mm後側、3.8mm外側および4mm腹側)を用いて側脳室を位置決定した(Paxinosら、The Rat Brain in Stereotaxic Coordinates(アカデミックプレス 1998))。頭蓋骨にドリルで孔を開け、カニューレを挿入し、そしてベトボンド(スリーエム、ミネアポリス、ミネソタ州)および歯科用セメントを用いて頭蓋骨に固定した。脳槽カニューレ用に、上矢状静脈洞の穿孔を避けるために後頭稜のちょうど後ろおよび中線の少し左にドリルで孔を開けた。頭蓋骨の底部の下2mmの深さまでカニューレを挿入し、そしてベトボンドおよび歯科用セメントを用いて固定した。ネジ口カニューレダミーワイヤーをカニューレガイドに挿入して閉鎖系を維持した。脳室内注射の前少なくとも24時間はラットを回復させた。
【0072】
大槽(CM)の同一部位を介する注射およびCSF採取を行うための実験では、雄スプラーグドーリーラット(250g)をチャールズリバーラボラトリーズ(ウィルミントン、マサチューセッツ州)から入手した。これらのラットは前記したものに類似する手順を用いて大槽に埋め込まれた単一のカニューレを有した。カニューレの閉塞の危険性を低減させるために、到着後実験前にラットを休ませるのはせいぜい3日間であった。
【0073】
抗体緩衝プロトコール
注射用の試料を調製した:抗Ox抗体104ピコモルおよびOx52ピコモル;D1.3対照抗体104ピコモルおよびOx52ピコモル;ならびにOx52ピコモル単独。各試料を滅菌PBSで10μlまで希釈した。試料を37℃まで加温し、そして次にスプラーグドーリーラットの脳室内または脳槽カニューレを通して1分間にわたって注入した。注入の終わりをゼロ(0)時と称した。種々の時点でCSF 10μlを採取した。ラット1組に関してCSF 10μlを、シンチバースII 5mlに入れ、そしてベックマンLS6500シンチレーションカウンター中で計数することにより直接計数した。ラットの別の組に関してCSF 10μlを氷冷PBS 100μlに希釈し、そして以下に記載する結合対遊離Ox実験で用いた。
【0074】
187.1セファロース親和性樹脂を用いる結合および遊離Oxの分離
ラット抗マウスカッパ抗体187.1(アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、マナサス、バージニア州)(Yeltonら、Hybridoma 1:5−11(1981))を使用済み培養培地から単離し、そしてプロテインA−セファロース親和性カラムを通過させることにより精製した。CNBr活性化セファロース4ファストフロー(アメルシャムバイオサイエンシズ)10gを洗浄し、そして製造者のプロトコールに従って187.1と結合させた。膨潤した樹脂10gあたり187.1を2mg使用した。
【0075】
抗体緩衝実験の間、CSF+氷冷PBS試料を希釈後すぐに187.1カラムに負荷した。0.5mlずつ増量して3mlのPBSをカラムに適用した後、0.5mlずつ増量して3mlの0.2Mグリシン(pH2.5)を適用した。全てのPBS分画および全てのグリシン分画を各時点で別個に収集し、そしてスピードバック内で乾燥させた。残留物をPBS 150μlに再懸濁し、そして次にシンチバースII 5mlの入ったシンチレーションバイアルに移して計数した。
【0076】
長時間抗体緩衝プロトコール
NQ11/7.12およびOxの試料およびOxを調製し、そして抗体緩衝プロトコールに関して前記したようにチャールズリバーラボラトリーズからのスプラーグドーリーラットの脳槽カニューレに注入した。1、10、20、30、60、90および120分にCSF 10μlを大槽から採取した。CSF試料10μlを直接的または氷冷PBS100μlに希釈してのいずれかで計数し、そして187.1カラムに負荷して結合および遊離Oxを分離した。最初の投与後24時間および48時間に、全容量10μl中Ox52ピコモル(滅菌PBSで希釈)を大槽カニューレを通して1分間かけて注入した。再度時点を取り、そして前記したように分析した。
【0077】
大槽からの抗Ox抗体の薬物動態分析
Oxに特異的に結合する動態学的に特徴的なモノクローナル抗体(NQ11/7.12)(FooteおよびMilstein、前出)を用いて抗Ox抗体のCSFへの添加の影響を試験した。この抗体の親和性を前記したような蛍光分光法を用いて37℃で決定し、そして1.3nMであることが判明した(NQ11/7.12)。アイソタイプ適合(IgG1)抗鶏卵リゾチーム抗体、D1.3(Amitら、Science 233:747−53(1986))を対照として使用した。これらの研究で各ラットを一度だけ用いてラット抗マウス抗体応答の可能性を制限した。
【0078】
クロラミンT法を用いてNQ11/7.12を125Iでヨウ素化した(Hunterら、Nature 194:495−96(1962);McConaheyら、Methods Enzymol.70(A):210−13(1980)参照)。ヨウ素の抗体への取り込みは97%であり、そして抗体溶液の特異活性は1.25×106cpm/μgであった。125I−NQ11/7.12(21.3ピコモル)を未標識NQ11/7.12と最終量1.04ナノモルまで混合した。試料を手でチャールズリバーラットの脳槽カニューレを通して1分間かけて注入し、そしてカニューレを生理食塩水2μlで流した。注入の終わりをゼロ(0)時と称した。種々の時点でCSF 10μlを脳槽カニューレから採った。パッカードコブラ・オートガンマを用いて全CSF試料を計数してCSF中のNQ11/7.12の濃度を決定した。データを図1に示す。CSF中の抗Oxモノクローナル抗体(NQ11/7.12)はたいていの薬物の薬物動態存続時間よりも有意に長い半減期を有した。NQ11/7.12の濃度はCSFから1時間の排泄半減期でゆっくりと下降した。この速度はCSFバルク流の速度に類似したが、Oxの速度よりも有意に長かった。
【0079】
ラットCSF中のOx存続時間に及ぼすNQ11/7.12の影響
CSF中のOxの薬物動態的挙動を決定するために、トリチウム標識したOxをその脳室内カニューレを通してラットに注入し、そして大槽(CM)カニューレからのCSF試料採取によりOXの排泄を追跡した。大槽が最大のCSF区画であるのでそこから試料採取を行った。小脳および脳幹上部の間のその位置ならびにその大きさにより、試料採取およびシンチレーション計数のためのCSFへの接近が比較的容易になる(van den Bergら、J.Neurosci.Methods 116:99−107(2002))。
【0080】
5匹のラットの1組に関して、脳室内カニューレを通してOxを単独で、または2倍モル量のNQ11/7.12を伴うかのいずれかで投与した。特異的抗体NQ11/7.12の存在下で、脳槽CSF試料採取により、それがCMに入り、ほぼ5分で濃度がピークに達し、そして次に排泄されたときのOx濃度の上昇および下降が示された。NQ11/7.12の不在下でOxの濃度は急速に下降し、大槽からの半減期は1.2分であった(図2)。この短い存続時間によりCSFのバルク流よりもさらに速い機構による排泄が示された。抗体バッファーを伴って投与されたOxはCMにおけるピーク濃度に決して到達しなかった。むしろOxが実にCMに達する前に排泄されてしまった。
【0081】
第2の実験では、ラット脳槽カニューレを通してOxを注入した。Oxを再度2倍モル量のNQ11/7.12または対照抗体と同時投与した。図3に示すように、NQ11/7.12を伴うOxの投与により、Ox滞留時間が有意に延長されてOx排泄半減期が10分であることが示された。D1.3と共に投与されたOxは半減期1.0分でCSFから排泄された。半減期のこの10倍増加は、NQ11/7.12結合がCSFからのOx排泄と拮抗していることを示している。
【0082】
遊離Ox濃度に及ぼすNQ11/7.12の影響
化学平衡の原理により、CSF中のOxが遊離形態と抗体結合形態の間で分割され、そして遊離プールは絶えず補給されて抗体Kdに近い濃度を保つはずであることが予測される。別のラットの組からのCSF試料中のOxを、親和性カラムを通過させることにより結合形態および遊離形態に分離した。Oxと同時投与したD1.3からの試料を並行して処理したが、有意な抗体結合標識は予測または見出されなかった。抗体−Ox複合体は固定したラット抗マウスカッパ抗体に結合したが、遊離OxはPBS洗浄でカラムから溶出された(遊離Ox分画)。
【0083】
この分析により、図4で示すように、OxをD1.3と共に投与しようと、NQ11/7.12と共に投与しようと、Oxの遊離プールはラットCSF中に存在したことが確認された。Oxを単独でまたはD1.3と共に初期に投与したときには、遊離Oxの量は高かった(1.4mM)が、1時間で500倍と急速に減少し、排泄半減期は0.61分であった。しかしながら、OxをNQ11/7.12共に投与したときには、Oxの初期遊離濃度は低かった(60nM)。この低濃度は長時間にわたってかなり安定し(およそ6nMまで10倍未満の低下)、Ox排泄半減期は1.55分であった。したがって、NQ11/7.12は本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って、遊離Oxを緩衝していると考えられた。
【0084】
長時間抗体緩衝
これらの実験に関して、NQ11/7.12を一度だけ投与した。OxをNQ11/7.12と初期に同時投与し、そしてOx単独のさらなるアリコートを24時間および48時間に脳槽カニューレを通して投与した。脳槽CSF試料を収集してCSFからの全Ox排泄を追跡した。図5Aに示すように、24時間および48時間に投与したOxの薬物動態半減期により、OxをNQ11/7.12と共に初期に投与した場合に観察されたプロフィールと、D1.3と共に投与した場合のOxプロフィールとの間の動態プロフィールが示された。非限定的な理論によればこの観察は、長時間にわたる循環抗体の緩徐なクリアランスに起因した可能性があった。CSF試料の別の組で遊離対結合Ox分離もまた実施し;データを図5Bに示す。初期の遊離Ox濃度は24時間および48時間で、Oxを抗体バッファーと組み合わせて投与した場合よりも高かった。しかしながら、この遊離濃度は減少し、そしてOxは、OxをD1.3と共に投与した場合よりも緩徐な排泄プロフィールを示した。この観察は明らかに、初期遊離Ox濃度が高いときにOxと初期結合した抗体の結果であり、そして次に抗体は続いて長時間にわたってOxを放出した。したがって、本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って、抗Ox抗体は初期抗体注入の後日のCSF中の遊離Oxの濃度を緩衝することができた。
【0085】
(実施例2)
(小型分子の抗体緩衝)
(方法)
抗体
3つの抗Oxハイブリドーマ(NQ11/7.12、NQ16/113.8、NQ22/16.4)のパネルは以前に記載されている(Griffithsら、前出;Berekら、前出)。対照(非Ox結合)ネズミ抗リゾチーム抗体、D1.3(Amitら、前出)もまた使用した。これらのハイブリドーマを振動気泡ローラーボトル中で成長させ(PannellおよびMilstein、前出)、そしてプロテインA−セファロースの親和性クロマトグラフィーにより使用済み培養上澄から各々のモノクローナル抗体を精製した(実施例1もまた参照)。抗体に関してSDS−PAGEを実施して純度を検証した。紫外線分光法により配列から計算した減衰係数を用いてタンパク質濃度を決定した(Perkins前出)。抗体溶液をフィルター滅菌し、そしてN2下4℃で保存した。
【0086】
トリチウム標識した2−フェニル−オキサゾール−5−オン−γ−アミノブチラート抱合体(Ox)の調製
実施例1に記載するように粗製Oxを調製した(Berekら、前出)。3H−γ−アミノ酪酸(GAGA)(1mCi/ml)をパーキンエルマーライフサイエンシズ社から入手し、そして未標識GABA(1M NaHCO3中0.5mM)および4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン(アセトン中0.17M)の溶液を調製した。未標識GABA溶液5μlを氷上で3H−GABA 50μlと混合した。4−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン溶液10μlを加え、そして反応混合物をときどき手動で混合しながら1時間氷上に置いた。次いでさらに14−エトキシ−メチレン−2−フェニル−オキサゾリン−5−オン溶液11μlを加え、そして反応混合物を氷上で20分間放置した。未標識GABA溶液5μlを加え、そして反応物を高速で混合しながら20時間室温にした。次いで濃酢酸1μlを加え;得られた沈殿物をサーモサバントSPD1010スピードバックシステム中で加熱せずに乾燥させた。乾燥した沈殿物をPBSに溶解した(25mM NaH2PO4/125mM NaCl、pH7.0)。
【0087】
得られたOx生成物をHPLCを用いて精製した。0.1Mギ酸アンモニウム(pH4.8)(可動相A)およびアセトニトリル(可動相B)を使用前に0.2ミクロンフィルターを通して減圧ろ過した。アジレントテクノロジーズの分析用ガードカラムを伴うゾルバックスSB−C18 HPLCカラムにOxを適用し、そして0.1Mギ酸アンモニウム(pH4.8)(可動相A)およびアセトニトリル(可動相B)で溶出した。9.5%から70%可動相Bのグラジエントを流速0.5ml/分で26分間かけて流し、そして348nmの波長を用いた。Oxピークは20.5分に溶出した。そのピークに収集された分画の放射活性を測定することによりその同一性を確認した。Oxピークからプールした分画を加熱せずにサーモサバントSPD1010スピードバックシステムで乾燥させた。乾燥後残留物をPBS 1mlに再懸濁した。Oxの放射化学的純度をHPLCにより確認した。定量的HPLCおよび紫外分光法の双方により濃度を決定した。Ox 1μlをシンチバースII(フィッシャーサイエンティフィック)5mlに希釈し、そしてベックマンLS6500シンチレーションカウンターで計数することにより特異活性を決定した。Oxの特異活性は4.4×106cpm/ナノモルであった。
【0088】
37℃での抗Ox抗体親和性の決定
実施例1に記載するようにパーキンエルマーLS50B発光分光計を用いて蛍光分光法により(FooteおよびMilstein、前出)抗体親和性を決定した。37℃に加熱した水浴を循環させることによりキュベットブロックの温度制御を維持した。PBS中20nM(NQ11/7.12)または200nM(NQ16/113.8またはNQ22/16.4)のいずれかを含有するキュベットを分光計内に置き、そして37℃に平衡させた。NQ11/7.12の場合、30μg/mlユビキチンをキャリアとして加えた。帯域幅5nmの励起波長280nmおよび帯域幅10nmの発光波長340nmを積分時間8秒で用いた。40nM増でOx−GABA溶液を加え、そして平衡になる時間を見越して蛍光の読みを行った。得られた濃度/蛍光の読みを最小二乗法(FooteおよびWinter、前出)により分析して各抗体のKdを決定した。
【0089】
ラット血漿中の抗Ox抗体半減期の決定
クロラミンT法を用いてNQ11/7.12を125Iでヨウ素化した(HunterおよびGreenwood、前出;McConaheyおよびDixon、前出)。ヨウ素の抗体への取り込みは97%であり、そして抗体溶液の特異活性は1.25×106cpm/μgであった。ラット(300g雄スプラーグドーリーラット(ジビックラボラトリーズ社、ゼリエノープル、ペンシルバニア州))に頸静脈カニューレを埋め込んだ。納入後実験開始前に少なくとも72時間動物を休ませ、そして実験中自由に運動させた。125I−NQ11/7.12(0.39ナノモル)を未標識NQ11/7.12と最終量4.54ナノモルまで混合した。この量をさらに最終容量1mlまで滅菌PBSで希釈した。試料を手で頸部カニューレを通して1分間かけて注入し;カニューレをヘパリン添加した食塩水(250単位/ml)0.2mlで流して凝固の危険性を低減させた。注入の終わりをゼロ(0)時と称した。種々の時点で血液試料(0.4ml)をカニューレから採った。即座に血液を遠心して血漿を分離した。血漿100μlをパッカードコブラ・オートガンマを用いて計数して血漿中のNQ11/7.12の濃度を決定した。
【0090】
抗体緩衝実験
注射用の試料を調製した:抗Ox抗体4.54ナノモルおよびOx2.27ナノモル;D1.3対照抗体4.54ナノモルおよびOx2.27ナノモル;または抗体なしおよびOx2.27ナノモル。各試料を滅菌PBSで1mlまで希釈した。試料を37℃まで加温し、そして次に前記したようにスプラーグドーリーラットの頸静脈カニューレを通して1分間にわたって注入した。種々の時点で血液0.45mlを採り、そして即座に遠心して血漿を分離した。シンチバースII 5mlに血漿を入れ、そしてベックマンLS6500シンチレーションカウンター中で計数することにより血漿100μlを直接計数した。血漿100μlを以下に記載する結合対遊離Ox実験で用いた。幾匹かのラットに関して血漿を除いた血液0.1mlを分析した。これらの試料を最初にシンチゲスト(フィッシャーサイエンティフィック):イソプロパノール(1:2容量/容量)0.3ml中40℃で1時間インキュベートすることにより脱色した。次いで30% H2O2 0.2mlを滴加し、そして溶液を室温で15分間インキュベートした。いくつかの塊を崩壊させるために上下にピペッティングする必要があった。溶液を40℃でインキュベートした後、シンチバースII 5ml中に入れた。計数前に試料を一晩放置して化学発光を低減させた。分析を補助するために既知量のOxを用いて対照試料を調製した。
【0091】
187.1セファロース親和性樹脂を用いる結合および遊離Oxの分離
ラット抗マウスカッパ抗体187.1(実施例1参照)を使用済み培養培地から単離し、そしてプロテインA−セファロース親和性カラムを通過させることにより精製した。CNBr活性化セファロース4ファストフロー(アメルシャムバイオサイエンシズ)10gを洗浄し、そして製造者のプロトコールに従って187.1と結合させた。膨潤した樹脂10gあたり187.1を2mg使用した。
【0092】
抗体緩衝実験の間、血漿100μlを遠心後すぐに187.1カラムに負荷した。PBS 3mlに続いて0.2Mグリシン(pH2.5)3mlを実施例1に記載するようにカラムに適用した。全てのPBS分画および全てのグリシン分画を各時点で別個に収集し、そしてスピードバック内で乾燥させた。残留物をPBS 150μlに再懸濁し、そして次にシンチバースII 5mlの入ったシンチレーションバイアルに移して計数した。
【0093】
長時間抗体緩衝実験
NQ11/7.12およびOxの試料を調製し、そして前記したようにスプラーグドーリーラットに注入した。1、10、20、50、90および120分に血液試料(0.4ml)を採取した。血漿100μlを直接計数し、そして100μlを187.1カラムに入れて結合および遊離Oxを分離した。最初の投与後24時間および再度48時間に、PBS 0.5ml中Ox2.27ナノモルを頸部カニューレを通して1分間かけて注入した。再度時点を取り、そして前記したように分析した。
【0094】
ラット血漿中のOx存続時間に及ぼすNQ11/7.12の影響
薬物動態的挙動を決定するために、トリチウム標識したOxを頸部カニューレを通してラットに注入し、そして血液試料採取、遠心による血漿の分離、および血漿のシンチレーションカウンティングによりOxの排泄を追跡した。Oxの濃度は急速に下降し、血漿からの半減期は1.2分であった。
【0095】
Oxに特異的に結合する3つの動態学的に特徴的なモノクローナル抗体の親和性を蛍光分光法を用いて37℃で決定し、そして1.3nM(NQ11/7.12)、46nM(NQ16/113.8)および42nM(NQ22/16.4)であった。アイソタイプ適合(IgG1)抗鶏卵リゾチーム抗体D1.3を対照として使用した。これらの研究で各ラットを一度だけ用いてラット抗マウス抗体応答の可能性を制限した。様々な抗体と共に投与した場合のOxの薬物動態パラメーターを表1に示す。
【0096】
【表1】
抗体は1つにはたいていの薬物の存続時間よりも遙かに長い、その長い血漿半減期のために魅力的な治療用ベヒクルであった。放射性ヨウ素化モノクローナル抗体NQ11/7.12の血漿中の滞留時間を決定した。NQ11/7.12抗体をラットに注入し、そしてNQ11/7.12の排泄を血液試料採取、遠心による血漿の分離、および血漿のガンマ計数により追跡した。NQ11/7.12の濃度はゆっくりと下降し、血漿からの排泄半減期は20時間であった。この存続時間は非常に長いので、抗Ox抗体濃度は記載した場合を除いて全薬物動態研究の経過中に、抗Ox抗体濃度は効果的に一定であった(200±30nM)。
【0097】
Oxを2倍モル量のNQ11/7.12または対照抗体を伴ってラット頸部カニューレを通して投与した。図6に示すように、NQ11/7.12を伴うOxの投与により、Ox存在時間の有意な延長が示され、Ox排泄半減期は20±2分であった。2つの曲線の比較により、対照のOxの多くは最初の時点で試料採取される前に血漿から除去されたことが示された。D1.3と共に投与された残りのOxにより二相性の排泄動態が示され;ほとんどが1.2±0.2分の半減期で血漿から排泄され、そして少量が10±2分の半減期であった。抗Ox抗体と共に投与した場合のOxの半減期の17倍の増加により、NQ11/7.12結合が血漿からのOx排泄と拮抗していることが示された。対照として、細胞がOxの有意な貯蔵所であるかどうかを決定するために血液の細胞分画でも分析を実施した。細胞分画でのOx濃度は血漿中の全Ox濃度の1−2%の間の範囲であり、これによりこの分画には有意な量のOxが保持されなかったことが示された。動物被験体では副作用は指摘されなかった。
【0098】
遊離Ox濃度に及ぼすNQ11/7.12の影響
動物からの血漿分画におけるOxの結合形態および遊離形態を親和性カラムで分離した。同時投与したD1.3から得られた試料を並行して処理したが、有意な抗体結合標識は予測または見出されなかった。抗体−Ox複合体を捕捉するために固定したラット抗マウスカッパ抗体を使用したが、遊離OxはPBS洗浄でカラムから溶出された(遊離Ox分画)。
【0099】
この分析により、OxをD1.3と共に投与しようと、NQ11/7.12と共に投与しようと、Oxの遊離プールがラット血漿中に存在したことが確認された(図7)。Oxを単独でまたはD1.3と共に初期に投与した場合の初期遊離Ox量は高かった(6.8nM)が、急速に減少し、排泄半減期は6.0±1分であった。しかしながら、OxをNQ11/7.12共に投与した場合の初期Ox遊離濃度は低かった(2.2nM)。この低濃度は長時間にわたってかなり安定し、Ox排泄半減期は41±6分であった。したがって、NQ11/7.12の存在は本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って、遊離Oxを緩衝していると考えられた(非限定的な理論に従う)。図7に示す、緩衝された遊離Ox濃度は1時間の間に血漿中で2.2nMから0.8nMまで下降したが、緩衝されなかったOxの半分以上が最初の時点の試料採取の前に血漿から排泄された。2.2nMおよび0.8nM終点はNQ11/7.12のKd(1.3M)を挟んでいる。
【0100】
ラット血漿中のOx存在時間に及ぼす抗体Kdの影響
抗体Kdと血漿からのOx排泄を遅延させる抗体の能力との間の相関性を決定した。この実験のために、3つの抗Ox抗体NQ11/7.12、NQ16/113.8およびNQ22/16.4を使用した。NQ16/113.8およびNQ22/16.4は各々Oxに関して類似のKdを有し、それはNQ11/7.12のものよりも有意に高かった(表1参照)。OxをNQ16/113.8またはNQ22/16.4のいずれかと共にラットに投与した。全Ox濃度を血液試料採取により測定した(図8A)。比較のためにNQ11/7.12またはD1.3と共に投与したOxの濃度をも図8Aに示す。NQ16/113.8およびNQ22/16.4の双方は血漿からの全Ox排泄を遅延させた。このOx半減期の増加は、Oxとの親和性がより高いNQ11/7.12と共に投与した場合のOx半減期の増加の程度に近似しなかった。したがって、抗体Kdは血漿中の全Oxの排泄速度と相関した。
【0101】
加えて、図8Bに示すように抗体Kdはラット血漿中のOxの遊離プールに影響を及ぼした。血漿をラット抗マウスカッパ抗体親和性カラムに負荷し、そして遊離および結合Ox分画を溶出した。NQ16/113.8またはNQ22/16.4と共に投与したOxの遊離濃度(10と16nMの間)は初期にはNQ11/7.12と共に投与したOxの遊離濃度(2.2nM)よりも高かった。この遊離濃度はNQ11/7.12と共に投与した遊離Oxよりも非常に速く下降した。このように抗Ox抗体Kdにより抗体の緩衝能力が決定された。
【0102】
NQ11/7.12の長時間緩衝
初期抗体注入の後日の血漿中のOx濃度を緩衝するその能力をNQ11/7.12が保持するかどうかを決定した。これらの実験に関して、NQ11/7.12を一度だけ投与した。OxをNQ11/7.12と初期に同時投与した。Ox単独のさらなるアリコートを24時間および48時間に投与した。血液試料を入手して血漿からの全Ox排泄を追跡した。図9Aに示すように、24時間および48時間でのOxの薬物動態存在時間により、初期のNQ11/7.12投与の後の動態からは小さな変化しか示されず、それは長時間にわたる循環抗体の緩徐なクリアランスに起因し得る。D1.3対照抗体と同時投与したOxを比較のために示した。これらの血漿試料で遊離対結合Ox分離もまた実施し;データを図9Bに示す。初期の遊離Ox濃度は24時間および48時間で、Oxを抗体バッファーと同時に投与した場合よりも高かった。しかしながら血漿中にすでに存在するNQ11/7.12抗体とOxが結合したので、遊離濃度は急速に正常化された。これはOxおよびNQ11/7.12を一緒に投与した場合に観察されたパターンに類似する排泄パターンであった。したがって、抗Ox抗体は初期の抗体注入の後日の血漿中の遊離Oxの濃度を緩衝した。図9に示すように、後にOxを同時投与しても、再投与しても、血漿中のOxおよび抗体の平衡は遊離Oxの排泄よりもかなり急速であった。
【0103】
(実施例3)
(リゾチームの抗体緩衝)
(方法)
14Cリゾチームの調製
Habeeb(Habeeb、1983)から適用された手順である還元的メチル化を用いてリゾチームを14Cで標識した。14Cホルムアルデヒドをニューイングランドニュークリアから入手した(特異活性40−60mCi/ミリモル)。ガラスアンプルを乾燥氷上においてホルムアルデヒドガスを凝結させた。標識混合物はリゾチーム0.7μモル(リン酸塩バッファー中20mg/ml溶液から)、NaCNBH3(新たに調製した0.1M NaCNBH3溶液から)3.5μモル、および全容量1mlにするために加えた0.1Mリン酸塩バッファー(NaH2PO4、NaOHでpH8.0)からなった。標識混合物をアンプルに加え、そして反応物を8分毎に混合して30分間処理した。アンプルに0.05Mホウ酸塩バッファー0.5ml(H3BO3、pH8.0)を加え、そして量を制御する目的でシンチレーションカウンティングのために1μlアリコートを採った。次いで反応混合物を2×500mlホウ酸塩バッファー(pH7.0)に対して透析し、続いて滅菌PBS 5×500mlに対して透析した。透析バッファーのアリコートをシンチレーション液に加え、そして計数して透析を完了した時を決定した。SDS−PAGEを実施してタンパク質純度を評価し、そしてゲルをオートラジオグラフィーに供して14Cタグがリゾチームバンドにのみ局在したことを検証した。配列から計算した減衰係数を用いて(Perkins、1986)、紫外線分光法によりタンパク質濃度を決定した。シンチレーションカウンティングのために1μlのアリコートを採り、リゾチームの特異活性を決定した。抗体溶液をフィルター滅菌し、そしてN2下4℃で保存した。
【0104】
抗リゾチーム抗体
ネズミ抗リゾチームハイブリドーマ、D1.3(Amitら、前出;Bhatら、Nature 347:483−85(1990))を振動気泡ローラーボトル中で成長させた(PannellおよびMilstein(1992))。得られたモノクローナル抗体をリゾチーム−セファロース親和性カラムを通過させることにより使用済み培養上澄から精製した。分画をジエチルアミン(フィッシャーサイエンティフィック)で1Mトリス(pH7.4)150μlの入ったチューブに溶出し、そしてプロテインAバッファー(3M NaCl、0.1Mグリシン、pH8.9)に対して透析した。次いで透析液をプロテインA−セファロースCL−4B(ファルマシア)カラムを通過させた。クエン酸ナトリウムからクエン酸のグラジエントで分画を溶出し、そして3Mトリス(pH8.8)100μlの入ったチューブ内に収集した。次いで分画をPBS(25mM NaH2PO4/125mm NaCl、pH7.0)に対して透析した。SDS−PAGEを実施して純度を検証した。紫外線分光法により配列から計算した減衰係数を用いてタンパク質濃度を決定した(Perkins(1986))。抗体溶液をフィルター滅菌し、そしてN2下4℃で保存した。D1.3のKdは3.7nM(20℃)であった(FooteおよびWinter、前出)。
【0105】
D1.3抗体でELISAを実施して、14C抱合体を用いた場合にリゾチームに結合するその能力が保持されることが示された。96ウェルプレートのウェルを炭酸塩バッファー(5.0mM NaHCO3、pH9.6)中100μg/mlリゾチームまたは14Cリゾチームでコーティングし、そして37℃で1時間インキュベートした。プレートをPBSで洗浄し、ミルクバッファーで遮断し、再度PBSで洗浄し、そして次に10mg/ml BSAを加えたPBS中20ng/ml D1.3と共に1時間インキュベートした。対照ウェルをリゾチームに結合していない抗体NQ10/2.22と共にインキュベートした。インキュベーションの後、プレートを再度洗浄し、そして2次抗体、Fcフラグメント特異的ペルオキシダーゼ抱合ヤギ抗マウスIgG(ジャクソンイムノケミカルズ、ウェストグローブ、ペンシルバニア州)と共に1時間インキュベートした。カラーミックス(50mMクエン酸ナトリウム/50mMクエン酸バッファー中1mM ATBS基質および4mM H2O2)を加えた後、プレートをカイネティックマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社、サニーベール、カリフォルニア州)で読んだ。
【0106】
抗体緩衝実験
ラット(300gスプラーグドーリー雄(ジビックラボラトリーズ社、ゼリエノープル、ペンシルバニア州))に頸静脈カニューレを埋め込んだ。ラットは実験中自由に運動させ、そして食餌および水に接近可能にした。D1.3抗体450μgを伴うかまたは伴わずに、14Cリゾチーム43μgからなる注入のための試料を調製した。滅菌生理食塩水を用いて容量を1mlにし、そして試料を使用前に37℃でインキュベートした。HP注入ポンプを用いて頸部カニューレを通して試料を5分間かけて注入した。注入後、カニューレをヘパリン添加した食塩水(250単位/ml)0.2mlで流して凝固の危険性を低減させた。注入の終わりをゼロ(0)時と称した。種々の時点で血液試料(0.5ml)をカニューレから採った。即座に血液を遠心して血漿を分離した。血漿(0.1ml)をシンチレーション液5mlと混合し、そして計数した。本明細書に記載する結合対遊離リゾチーム実験でさらに0.1mlを使用した。細胞ペレットをシンチレーション液と混合し、そしてまた計数した。
【0107】
遊離および結合リゾチームの分離
血漿を分離するために血液試料を遠心した後、血漿0.1mlをプロテインA−セファロースミニカラム1.5mlに負荷した。カラムを0.5mlずつ増量して3mlのPBSで、続いて0.5mlずつ増量して3mlの100mMクエン酸で洗浄した。PBS(遊離リゾチーム)およびクエン酸(抗体結合リゾチーム)分画を各時点で別個に収集した。分画でTCA沈殿を実施した。タンパク質沈殿物をアセトンで洗浄し、そして沈殿物をPBSに再溶解した(沈殿物の全てが溶解するわけではない)。液体および残存するペレットをシンチレーション液4mlに移して計数した。
【0108】
種々の量の抗体での抗体緩衝
頸静脈カニューレを埋め込んだスプラーグドーリーラットに14Cリゾチーム43μgおよびD1.3抗体450μgまたは900μgのいずれかを注入した。滅菌生理食塩水を用いて注入容量を1mlにした。試料を調製および注入し、そして時点を取り、そして前記したように分析した。結合対遊離分離分析を実施した。
【0109】
種々の量のリゾチームでの抗体緩衝
頸静脈カニューレを埋め込んだスプラーグドーリーラットにD1.3抗体450μgおよび14Cリゾチーム43μgまたは430μgのいずれかを注入した。試料を調製し、注入し、そして時点を取り、そして前記したように分析した。
【0110】
二重注入実験
注入用に2つの試料を調製した。第1の試料は生理食塩水0.5mlに希釈したD1.3抗体450μgからなり、これをHP注入ポンプを用いて4分間かけて注入した。循環中で抗体が平衡になる時間を見越して、ラットを10分間ケージ中で自由に運動させた。次いで第2の試料は滅菌生理食塩水を用いて0.5mlにした14Cリゾチーム43μgからなり、これを4分間かけて注入した。第2の注入の終わりをゼロ時(0)と称した。血液試料を採取し、そして前記したように分析した。
【0111】
14Cリゾチーム
ラットにおけるリゾチーム薬物動態の以前の研究では、血漿中のリゾチームの量を酵素アッセイにより定量した(Franssenら、Pharm.Res.8:1223−30(1991))。しかしながら、D1.3はリゾチームの酵素活性を遮断した;したがってリゾチームを14Cで放射標識して、血漿試料中のその量を測定することができた。リゾチームの14Cホルムアルデヒドでの還元的メチル化により、特異活性7.4×107cpm/mgを有する14Cリゾチーム抱合体を生じた。このように、リゾチームをラット血漿中のバックグラウンドレベルを超えて検出できるほど十分に標識した。図10で示すように、14Cリゾチームの純度をSDS−PAGEを用いて決定し(図10A)、そしてオートラジオグラフィーを用いてリゾチームバンドに局在する放射活性シグナルを示した(図10B)。D1.3の14Cリゾチーム抱合体に効率よく結合する能力をELISAにより決定した(図10C)。D1.3リゾチーム結合は14C抱合体で保持された。
【0112】
ラット血漿中のリゾチームの薬物動態
リゾチーム検出の放射活性法を用いてリゾチームの薬物動態プロフィールを決定するために、頸部カニューレを通してラットの血流に14Cリゾチームを注入した。4時間にわたって種々の時間間隔で血液試料採取することによりリゾチーム排泄を追跡した。遠心後血漿を収集し、そしてシンチレーションカウンティングに供した。リゾチームが16.4分の血漿β半減期を有することが判明した(図11)。これらのおよび以下の研究での各ラットは1回だけ使用して、リゾチームまたは抗体のいずれかに対する免疫応答の可能性を制限した。
【0113】
抗体緩衝リゾチームの薬物動態
本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って、ネズミ抗リゾチーム抗体D1.3を14Cリゾチームに関する抗体バッファーとして使用した。リゾチームを等モル量のD1.3と共にラットの頸部カニューレを通して投与した。図11で示すように、単独で投与したリゾチームの濃度は排泄半減期16.4分で急速に下降した。リゾチームを伴うD1.3の投与により、ラット血漿中のリゾチームの滞留時間は有意に延長され、β半減期が42.8分まで伸びた。リゾチームをそのままで投与した場合、リゾチームの初期濃度は高く現れたが、D1.3により緩衝されたリゾチームと比較して、その量は急速に低下し、これはD1.3複合体形成が実際に排泄速度を低下させたことを示している。
【0114】
血漿分離の後、細胞ペレットをこの研究および以前の研究(前出)の双方で計数した。この分画では放射活性はほとんど見出されず、これは細胞ペレットがリゾチームまたはリゾチーム抗体複合体の有意な貯蔵所ではなかったことを示している。
【0115】
遊離リゾチームの薬物動態
全リゾチーム濃度を決定するためのシンチレーションカウンティングのために遠心して血漿を分離した後、血漿のアリコートをプロテインA−セファロースミニカラムに適用して、リゾチームの結合形態および遊離形態を分離した。遊離リゾチームはPBS洗浄で溶出されたが、D1.3に特異的に結合したリゾチームはクエン酸で溶出された。得られた大容量の溶離液は直接的なシンチレーションカウンティングを妨害するので、TCSA沈殿を実施してタンパク質の分離を行った。得られたタンパク質ペレットは組織溶解剤およびその他の試薬を用いる試みにもかかわらず、再溶解に抵抗し;したがって正確な遊離リゾチーム濃度を確定するのは困難であった。それにもかかわらず、リゾチーム単独のレベルおよび同一に調製されたリゾチーム−D1.3溶離液のレベルの分析により、これらの試料中の遊離リゾチームレベルの差が示された。
【0116】
D1.3抗体がその同族リガンド、リゾチームに関してバッファーとして作用した場合、抗体はそのリガンドの貯蔵所として作用して、かなり一定したレベルで遊離リゾチームの濃度を維持した。図12に示すように、リゾチームをD1.3と共に投与した場合、リゾチームの遊離プールが存在し、そしてこの遊離プールは実験の経過中、リゾチームを単独で投与した場合に観察された遊離リゾチームのレベルよりもさらに一定で維持された(図12)。したがって、D1.3の存在は、本明細書に記載したリガンドの抗体緩衝の平衡原理に従って抗体緩衝を提供すると考えられた。
【0117】
D1.3の緩衝能力に及ぼす種々のリゾチームおよび抗体濃度の影響
ラット血漿中の全リゾチームの緩衝に及ぼす種々の抗体濃度の影響を決定するために、等モル量または2倍モル量のいずれかのD1.3と共に14Cリゾチームをラット血漿に投与した。4時間にわたって種々の時点で血液を採取した。血漿を再度遠心により分離し、そして全リゾチーム濃度をシンチレーションカウンティングにより決定した。図13に示すように、2倍モル量のD1.3を伴うリゾチームの投与によりリゾチームのβ半減期が61.3分まで延長された。この半減期は、リゾチームを等モル濃度のD1.3と共に投与した場合のリゾチームのβ半減期(β半減期42.8分)と有意に異なった。したがってさらなる抗体のバッファー系への添加はリガンド半減期を大きく延長させると考えられた。
【0118】
また長時間にわたってラット血漿中の全リゾチーム濃度に及ぼす漸増濃度のリゾチームの影響を決定するために実験を行った。等モル濃度または10倍モル濃度のいずれかの14Cリゾチームと共にD1.3をラット頸部カニューレに注入した。時点を取り、そして前記したように全リゾチーム濃度に関して血漿を分析した。10倍のリゾチームを投与されたラットにおける初期リゾチーム濃度は、リゾチーム等モル濃度のラットの濃度よりもかなり高かったが、それは低濃度リゾチームを与えられたラットのレベルの約2倍の高さのレベルまで急速に下落した(図14)。この観察により、リガンド量の有意な増加は初期全リゾチーム濃度に大きな影響を有したが、それは後の時点でのリガンド量ではわずかな増加しか生じなかったことが示された。
【0119】
血漿内でのD1.3平衡の後に投与されたリゾチーム
D1.3を単独でラット血漿に注入するさらなる実験を実施した。血漿内の抗体の平衡を可能にするためにこの注入の10分後に、ラット頸部カニューレを通して等モル量のリゾチームを投与した。得られた薬物動態は前記したように血液試料採取により追跡した。図15に示すように、リゾチームの初期濃度は高かったが、D1.3およびリゾチームを一緒に投与した場合に到達したレベルに非常に類似したレベルまで急速に平衡した。これにより、D1.3は循環中に十分に保持され、そしてリゾチームに効率よく結合するその能力はインビボで変化しなかったことが示された。
【0120】
本明細書に言及し、そして/または出願データシートに列挙された全ての前記の米国特許、特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許出版物は、その全てを出典明示により本明細書の一部とする。
【0121】
前記から本発明の具体的な実施態様は説明目的で本明細書に記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更を行うことができることは理解されよう。したがって、本発明は添付の請求の範囲による以外には限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】大槽からの抗Ox抗体NQ11/7.12の排泄を説明する。放射性ヨウ化NQ11/7.12を大槽に注入し;示された時間にCSF試料を採り、そして抗体濃度を決定するために計数した。
【図2】脳室内投与したOxの抗Ox抗体NQ11/7.12による緩衝を示す。OxをNQ11/7.12を伴って(四角)または抗体を伴わずに(丸)動物に注入した。大槽からCSF試料を採った。
【図3】抗体を伴って(四角)または抗体を伴わずにラットの大槽にOxを注入した場合の抗Ox抗体NQ11/7.12によるCSF中のOxの緩衝を説明する。脳槽からCSF試料を採り、そして3H−GABA−Oxの放射活性を計数して全Ox濃度を決定した。
【図4】抗Ox抗体NQ11/7.12を伴って(四角)および抗体を伴わずに(丸)Oxを投与した後のラットのCSF中の遊離Oxの濃度を示す。
【図5】抗Ox抗体NQ11/7.12によるOxの長時間緩衝を表す。5匹のラットの群で各ラットに0時にOxを抗体を伴って(四角)投与した。24時間(三角)および48時間(白丸)に抗体を伴わずにOxを再度投与した。動物の別の群では、Oxを非特異的抗体(D1.3、抗鶏卵白リゾチーム)と共に投与した(黒丸)。図5AはCSF中の全Ox濃度を示し、そして図5BはCSF中の遊離Ox濃度を示す。
【図6】Oxを抗Ox抗体NQ11/7.12を伴って投与した場合(黒丸、t1/2=19.7分)、対照抗体D1.3を伴って投与したOxの排泄(白丸、t1/2=1.2分)がより迅速に生じることを説明する。Oxを各抗体を伴って頸静脈カニューレを通してスプラーグドーリーラットに注入した。各点は5匹の動物から収集したデータを示す。
【図7】NQ11/7.12(黒丸)対D1.3(白丸)を伴ってOxを投与した場合の動物の血漿中の遊離Oxの濃度を示す。
【図8】Oxに関して異なるKdを有する抗Ox抗体を伴ってOxを投与した場合のOxの半減期およびラットの血漿中の遊離Ox濃度を説明する。図8A:全Ox対時間。NQ11/7.12よりも大きいKdを有する抗体NQ16/113.8(黒四角)およびNQ22/16.4(白四角)をOxと共に投与し、そしてNQ11/7.12を伴って投与したOxと比較した(黒丸)。またOxを非特異的抗リゾチーム抗体D1.3を伴って投与した(白丸)。図8B:遊離Ox対時間。NQ11/7.12(黒丸);NQ16/113.8(黒四角);NQ22/16.4(白四角);またはD1.3(白丸)を伴ってOxを投与された動物において血漿中の遊離Oxの濃度もまた決定した。
【図9】全Ox(図9A)および遊離Ox(図9B)の血漿半減期を示す。ラットにNQ11/7.12と同時投与(黒丸)またはNQ11/7.12注入後24時間に(半黒丸)、またはNQ11/7.12注入後48時間に(白丸)Oxを単独で投与した。また対照D1.3抗体を伴ってOxを投与した(白四角)。
【図10】14Cリゾチームの分析を説明する。図10Aは未標識リゾチーム(lyso)および14Cリゾチーム(14C−lyso)のSDS−PAGE分析を示す。図10BはSDS−PAGEゲルのオートラジオグラフィー分析を示す。図10Cは抗リゾチーム抗体D1.3のリゾチーム(lyso)および14Cリゾチーム(14C−lyso)に対する結合ならびに非特異的抗体(NQ10/2.22)のリゾチーム(対照抗体+lyso)および14Cリゾチーム(対照抗体+14C−lyso)に対する結合を決定するELISAの結果を提供する。
【図11】抗リゾチーム抗体の存在下および不在下のリゾチームの血漿中の薬物動態を示す。ラットに14Cリゾチームを単独で(四角)または抗リゾチーム抗体D1.3を伴って(丸)投与した。
【図12】ラットに14Cリゾチームを抗リゾチーム抗体D1.3を伴って投与した場合(菱形)および14Cリゾチームを単独で投与した場合(四角)の遊離14Cリゾチームの血漿濃度を示す。
【図13】漸増濃度の特異的抗体を伴って全身投与したリゾチームの半減期に及ぼす影響を説明する。ラットの群に14Cリゾチームを抗体を伴わずに(四角)、等モル濃度のD1.3を伴って(丸)、およびリゾチームの2倍モル濃度のD1.3を伴って(菱形)投与した。
【図14】抗リゾチーム抗体の存在下で動物に漸増濃度のリゾチームを投与した場合、全身投与したリゾチームの半減期に及ぼす影響を示す。抗リゾチーム抗体D1.3を等モル量の14Cリゾチームを伴って投与した(菱形)。またD1.3を、D1.3の10倍モル量の濃度の14Cリゾチームを伴って投与した(四角)。
【図15】リゾチームを抗リゾチーム抗体D1.3と並行してまたは逐次的に投与した場合の血漿中のリゾチームの排泄を説明する。ラットの1群に初期にD1.3のみを注入し、続いて10分後に14Cリゾチームを投与した(四角)。動物の別の群にD1.3および14Cリゾチームを並行して注入した(菱形)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)該薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的に、およびいずれかの順序で投与することを含む、該被験体において1つ以上の該薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法であって、ここで該抗体に関しては抗体解離定数KDは該薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、かつ該抗体解離定数KDは該被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している、方法。
【請求項2】
身体区画に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)該薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体の該身体区画において1つ以上の該薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法であって、ここで該抗体に関しては抗体解離定数KDは該薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、かつ該抗体解離定数KDは該被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している、方法。
【請求項3】
前記身体区画が中枢神経系区画、心膜、胸膜腔、眼窩後区画、眼区画、関節包、リンパ区画、腹膜区画、鼻内区画、肺区画、および泌尿生殖器区画からなる群より選択される区画を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記身体区画が中枢神経系区画を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記身体区画が中枢神経系区画を含み、そして投与の工程が薬物の髄腔内、脳室内、実質、硬膜下、くも膜下または硬膜外導入を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも2用量の前記薬物を投与することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体および前記薬物をほぼ等モル濃度で投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
抗体対薬物モル比が少なくとも2:1で前記抗体および前記薬物を投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記抗原結合フラグメントがFabフラグメント、Fab’フラグメント、(Fab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、scFv、dAbおよびダイアボディからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記投与の工程が
(a)少なくとも1用量の第1薬物、および該第1薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第1抗体またはその抗原結合フラグメントを投与すること;ならびに
(b)少なくとも1用量の第2薬物、および該第2薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第2抗体またはその抗原結合フラグメントを投与すること;
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントが前記薬物に特異的に結合する複数の抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、ここで該抗体の各々は該薬物の望ましい濃度範囲内である望ましい濃度範囲に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
中枢神経系区画に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)該薬物に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体の該中枢神経系区画において該薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法であって、ここで該抗体に関しては抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そして該抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している、方法。
【請求項15】
前記被験体が中枢神経系疾患または障害を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記中枢神経系疾患または障害が新生物による症状、神経変成疾患、血管疾患および自己免疫疾患からなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記被験体が中枢神経系の新生物による症状を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記新生物による症状がグリオーマ、星細胞腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、リンパ腫、脳転移、ならびに脳実質、髄膜、脳神経、下垂体、松果体、乏突起膠細胞、上衣および脈絡叢のうちの少なくとも1つに存在する腫瘍からなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
被験体の身体区画における薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定するための方法であって、該方法は、
(a)該被験体の身体区画において維持される該薬物の望ましい濃度範囲を決定すること;ならびに
(b)該薬物に特異的に結合し、かつ該身体区画において維持される該薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する抗体を調製し、そしてそれにより該薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定すること;
を含む、方法。
【請求項1】
被験体に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)該薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的に、およびいずれかの順序で投与することを含む、該被験体において1つ以上の該薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法であって、ここで該抗体に関しては抗体解離定数KDは該薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、かつ該抗体解離定数KDは該被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している、方法。
【請求項2】
身体区画に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)該薬物に特異的に結合する少なくとも1つの抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体の該身体区画において1つ以上の該薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法であって、ここで該抗体に関しては抗体解離定数KDは該薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、かつ該抗体解離定数KDは該被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している、方法。
【請求項3】
前記身体区画が中枢神経系区画、心膜、胸膜腔、眼窩後区画、眼区画、関節包、リンパ区画、腹膜区画、鼻内区画、肺区画、および泌尿生殖器区画からなる群より選択される区画を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記身体区画が中枢神経系区画を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記身体区画が中枢神経系区画を含み、そして投与の工程が薬物の髄腔内、脳室内、実質、硬膜下、くも膜下または硬膜外導入を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも2用量の前記薬物を投与することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体および前記薬物をほぼ等モル濃度で投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
抗体対薬物モル比が少なくとも2:1で前記抗体および前記薬物を投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記抗原結合フラグメントがFabフラグメント、Fab’フラグメント、(Fab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、scFv、dAbおよびダイアボディからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記投与の工程が
(a)少なくとも1用量の第1薬物、および該第1薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第1抗体またはその抗原結合フラグメントを投与すること;ならびに
(b)少なくとも1用量の第2薬物、および該第2薬物に特異的に結合する少なくとも1つの第2抗体またはその抗原結合フラグメントを投与すること;
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントが前記薬物に特異的に結合する複数の抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、ここで該抗体の各々は該薬物の望ましい濃度範囲内である望ましい濃度範囲に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
中枢神経系区画に(i)少なくとも1用量の薬物および(ii)該薬物に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを同時または逐次的かついずれかの順序で投与することを含む、被験体の該中枢神経系区画において該薬物の望ましい濃度範囲を維持するための方法であって、ここで該抗体に関しては抗体解離定数KDは薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有し、そして該抗体解離定数KDは被験体における特異的な薬物標的に対する該薬物の親和性とは独立している、方法。
【請求項15】
前記被験体が中枢神経系疾患または障害を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記中枢神経系疾患または障害が新生物による症状、神経変成疾患、血管疾患および自己免疫疾患からなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記被験体が中枢神経系の新生物による症状を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記新生物による症状がグリオーマ、星細胞腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、リンパ腫、脳転移、ならびに脳実質、髄膜、脳神経、下垂体、松果体、乏突起膠細胞、上衣および脈絡叢のうちの少なくとも1つに存在する腫瘍からなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
被験体の身体区画における薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定するための方法であって、該方法は、
(a)該被験体の身体区画において維持される該薬物の望ましい濃度範囲を決定すること;ならびに
(b)該薬物に特異的に結合し、かつ該身体区画において維持される該薬物の望ましい濃度に実質的に類似する値を有する抗体解離定数KDを有する抗体を調製し、そしてそれにより該薬物の望ましい濃度範囲を維持することができる抗体を同定すること;
を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2008−513372(P2008−513372A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531475(P2007−531475)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/032911
【国際公開番号】WO2006/036568
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(507079057)アロースミス テクノロジーズ エルエルピー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/032911
【国際公開番号】WO2006/036568
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(507079057)アロースミス テクノロジーズ エルエルピー (1)
【Fターム(参考)】
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