説明

インビボでの酸化窒素送達用ポリマー

【課題】治療部位にNOを送達することが可能な新規の組成物を提供する。
【解決手段】下記構造式:


(式中、Rは有機ラジカルであり;各Xは(置換)アルキレン基)で表されるモノマー単位を含んで構成されるポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先行技術の欠点を克服する方法で治療部位にNOを送達することが可能な新規の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
現在の多くの医療的処置では、合成医療器具が治療を受けている個体の中にあることが必要とされる。例えば、冠状動脈および末梢の処置には、診断カテーテル、ガイドワイヤ、ガイドカテーテル、(経皮経管冠状動脈形成用)PTCAバルーンカテーテルおよびステントを血管中へ挿入することが含まれる。他の例としては、(静脈のおよび動脈の)内在しているシース、動脈内バルーンポンプカテーテル、心肺装置中の管、ゴア・テックス(GORE−TEX)外科用人工器官の導管および尿道に内在しているカテーテルがある。しかしながら、これらの医療方法が原因で引き起こされる合併症がある。例えば、合成材料の管腔内への挿入は、瘢痕や再狭窄を引き起こすことがあり、それにより管腔の閉塞または封鎖が生じることがある。血管中の合成材料は、血小板の凝集も引き起こすことがあり、ある場合には、潜在的に生命を脅かす血栓形成を生じる。
酸化窒素(本明細書では「NO」という)は、血小板の凝集を阻害する。また、NOは、平滑筋の増殖を低減させ、再狭窄を減少させることが知られている。従って、NOを個体内の、合成医療器具と接触している治療部位に送達すると、NOを用いて、再狭窄や血栓形成等の合併症を予防および/または治療することができる。さらに、NOは、抗炎症性であり、内在の尿道またはTPNのカテーテルに価値がある。
【0003】
しかしながら、NOを治療部位へ送達する現在の方法に関する欠点は多い。NOは、それ自身が反応性が高すぎるため、治療部位に到達するまで分子を安定化させる方法がなければ使用できない。NOは、NOを放出するポリマーや低分子を用いて個体内の治療部位に送達され得る。しかしながら、これらのポリマーや低分子は、一般的にはNOをすばやく放出する。その結果、これらは、短い貯蔵寿命しかもたず、生理学的条件下でNOを送達する能力を急速に失う。例えば、生理溶液中のS−ニトロソ−D,L−ペニシラミンやS−ニトロソシステインの寿命は、わずか約1時間以下にすぎない。これらの組成物による急速なNO放出の結果、より長い期間、十分な量のNOを治療部位に送達したり、送達されるNOの量を調整することは難しい。
【0004】
NOを送達することが可能な基を含有するポリマー、例えば、ジアゼニウムジオレート基(NONOエート基)を含有するポリマーは、医療器具を被覆するのに用いられてきた。しかしながら、酸素化処理条件下でのNONOエートの分解生成物には、ニトロソアミンが含まれ(非特許文献1)、それらのうちのいくつかは、発癌性である。さらに、NONOエートは、一般にNO・を放出し、ヘモグロビンによりすばやく消費され、動脈硬化症の個体に有毒なものとなり得る。さらに、公知のNO送達ポリマーの弾性は、一般に不十分であり、該ポリマーで医療器具を被覆し、その被覆した器具を用いてNOを生理学的条件下で送達することは難しい。蛋白質を基材としたポリマーは、血液への溶解性が高いため、寿命が短い。最後に、多くのNO送達ポリマーは、ポリマーからNOを失わせずに滅菌することができず、送達されるNOの量が限られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ラグスダール(Ragsdale)ら、Inorg. Chem. 4:420(1965)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、前記の欠点を克服する方法で治療部位にNOを送達することが可能な新規の組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕下記構造式:
【化1−1】


(式中、Rは有機ラジカルであり;各Xは独立して、置換または非置換のアルキレン基であり;pは0または正の整数であり;及びmは、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表されるモノマー単位を含んで構成されるポリマー、
〔2〕ポリマーが、下記構造式:
【化1−2】


(式中、R’は、−X−CO−O−R’−O−CO−X−がRであるような有機ラジカルである)
で表されるモノマー単位を含む〔1〕記載のポリマー、
〔3〕全てのXが同一である〔2〕記載のポリマー、
〔4〕p+mが8以下である〔3〕記載のポリマー、
〔5〕各Xが、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH2−である〔4〕記載のポリマー、
〔6〕ポリマーが架橋されている〔5〕記載のポリマー、
〔7〕ポリマーが、下記構造式:
【化1−3】


(式中、R”は有機ラジカルであり;m’は1より大きく、かつm+1以下の整数であり;及びp’は1以上p+1以下の整数である)
で表されるモノマーによって架橋されている〔6〕記載のポリマー、
〔8〕下記構造式:
【化1−4】


(式中、Rは有機ラジカルであり;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基であり;及びpとmはそれぞれ、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表される化合物を重合することにより製造されたポリマー、
〔9〕全てのXが同一である〔8〕記載のポリマー、
〔10〕p+mが8以下である〔9〕記載のポリマー、
〔11〕各Xが、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH2−である〔10〕記載のポリマー、
〔12〕ポリマーが、ニトロシル化剤を下記構造式:
【化1−5】


(式中、Rは有機ラジカルであり;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基であり;及びpは2より大きい正の整数である)
で表される化合物と反応させることによって製造される〔1〕記載のポリマー、
〔13〕各Xが、完全に飽和したまたは1以上の不飽和単位を含む、直鎖、分岐鎖または環状のC1〜C8炭化水素である〔1〕〜〔12〕いずれか記載のポリマー、
〔14〕安定化されたS−ニトロシル基を含むポリマーの製造方法であって、下記構造式:
【化1−6】


(式中、Rは有機ラジカルであり;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基であり;及びpは0または正の整数であり、かつmは、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表される化合物を重合する工程を含む方法、
〔15〕全てのXが同一である〔14〕記載の方法、
〔16〕p+mが8以下である〔15〕記載の方法、
〔17〕各Xが、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH2−である〔16〕記載の方法、
〔18〕各Xが、完全に飽和したまたは1以上の不飽和単位を含む、直鎖、分岐鎖または環状のC1〜C8炭化水素である〔14〕〜〔17〕いずれか記載の方法、
〔19〕NOの放出が可能な、被験体に植え込むための医療器具、または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルであって、〔2〕記載のポリマーで被覆された、医療器具、チューブまたはカテーテル、
〔20〕NOの放出が可能な、被験体に植え込むための医療器具、または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルであって、〔8〕に従って得られたポリマーで被覆された、医療器具、チューブまたはカテーテル、
〔21〕NOの放出が可能な、酸化窒素を被験体の治療部位に送達するための医療器具または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルの製造方法であって、〔2〕記載のポリマーで医療器具、チューブまたはカテーテルを被覆することを含む方法、
〔22〕NOの放出が可能な、酸化窒素を被験体の治療部位に送達するための医療器具または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルの製造方法であって、〔8〕記載のポリマーで医療器具、チューブまたはカテーテルを被覆することを含む方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、前記の欠点を克服する方法で治療部位にNOを送達することが可能な新規の組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、イヌの動脈に差し込まれた、S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンで被覆されたステントおよび被覆されていない対照ステントの1平方センチメートルあたりに沈着した血小板数を示すグラフである。
【図2】図2は、ペル−6−チオ−β−シクロデキストリンを1倍(1×)、2倍(2×)、3倍(3×)、6倍(6×)および10倍(10×)当量の酸性亜硝酸塩と反応させて得られた生成物におけるシクロデキストリンあたりの−S−NO基の数を示すグラフである。
【図3】図3は、β−シクロデキストリンおよび50倍過剰量の酸性亜硝酸塩を含む反応混合物の可視/紫外線スペクトルであり、(1)5分間、(2)15分間、(3)30分間、(4)45分間、(5)60分間、(6)75分間および(7)90分間の間隔で取った。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の概要
本発明は、S−ニトロシル基とも呼ばれる、−SNO基を有する新規のポリマーに関する。−SNO基を有するポリマーは、「S−ニトロシル化されたポリマー」と呼ばれる。本発明のポリマーは、一般にポリマー1200原子質量単位(amu)あたり、好ましくはポリマー600amuあたり、少なくとも1つの−SNO基を有する。
【0011】
一つの態様において、S−ニトロシル化されたポリマーは、安定化された−S−ニトロシル基を有する。該ポリマーは、一般に1200amuあたり少なくとも1つの安定化されたS−ニトロシル基、およびしばしば600amuあたり1つの安定化されたS−ニトロシル基を含む。S−ニトロシル基は、同じ分子の遊離チオールまたは遊離アルコールにより安定化され得る。各安定化されたSNO基は、異なる遊離アルコールまたはチオール基により安定化される。従って、安定化されたS−ニトロシル基を有するポリマーは、一般にポリマー1200amuあたり、好ましくはポリマー600amuあたり、少なくとも1つの遊離アルコールおよび/またはチオール基を有する。本発明のその他の態様は、構造式(I):
【0012】
【化2】

【0013】
で示された化合物を重合することにより調製されるS−ニトロシル化されたポリマーである。
【0014】
Rは、有機ラジカルである。
【0015】
各X’は独立して選択された脂肪族基または置換された脂肪族基である。好ましくは、各X’は同一であり、C2−C6アルキレン基、より好ましくは−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH2−である。
【0016】
pおよびmは独立してp+mが2より大きな正の整数である。好ましくは、p+mは約8以下である。
【0017】
本発明のその他の態様は、安定化された−S−ニトロシル基を有するS−ニトロシル化されたポリマーの製造方法である。該方法は、構造式(I)で示される化合物を重合させることを含む。
【0018】
本発明のその他の態様において、S−ニトロシル化されたポリマーは、S−ニトロシル化されたポリチオール化された多糖類である。好ましくは、ポリチオール化された多糖類は、ポリチオール化されたシクロデキストリンである。
【0019】
本発明のその他の態様は、チオール基をニトロシル化するのに好適な条件下でポリチオール化されたポリマーをニトロシル化剤と反応させることにより調製されるS−ニトロシル化されたポリマーである。好ましくは、ポリチオール化されたポリマーは、ポリチオール化された多糖類である。
【0020】
本発明のその他の態様は、S−ニトロシル化されたポリマーの製造方法である。該方法は、遊離チオール基をニトロシル化するのに好適な条件下で、多数のペンダント状のチオール基を有するポリマー、即ちポリチオール化されたポリマーをニトロシル化剤と反応させることを含む。好ましい態様において、ポリチオール化されたポリマーは、ポリチオール化された多糖類である。
【0021】
本発明のその他の態様は、NOを放出することが可能な物品(article)である。該物品は、本発明のポリマーの少なくとも1つで被覆される。該物品は、NO放出により有用な結果が達成されうるいかなる器具でもよく、被験体(個体または動物)の治療部位へ差し込むのに好適な医療器具を含む。次いで、該医療器具は、被験体の治療部位に酸化窒素を送達することができる。その他の例では、物品は、被験体の体液に接触させるためのチューブまたはカテーテルである。
【0022】
本発明のその他の態様は、個体または動物の治療部位に酸化窒素を送達する方法である。該方法は、本発明のS−ニトロシル化されたポリマーで被覆された医療器具を提供することを含む。次いで、該医療器具を個体または動物の治療部位に差し込む。体液を、1つ以上の本発明のポリマーで被覆されたチューブまたはカテーテルと接触させることにより、体液、例えば血液に酸化窒素を送達することができる。
【0023】
さらに、本発明のその他の態様は、NOを放出することが可能な物品、例えば、個体または動物の治療部位へ酸化窒素を送達するための医療器具、或いは体液に接触させるためのチューブまたはカテーテルを製造する方法である。該方法は、前記物品を本発明のS−ニトロシル化されたポリマーで被覆することを含む。
【0024】
安定化されたS−ニトロシル基を有するポリマーおよび構造式(I)で示される化合物を重合することで得られるポリマーは、生物検定において血管拡張を引き起こしうる(実施例16)。これらのポリマーはまた、少なくとも数週間持続する長い期間の間、NOを送達することがわかっている(実施例15)。従って、それらは、被験体への差し込み用医療器具の被覆剤として有用であり、それにより治療部位にNOを送達することが期待される。
【0025】
S−ニトロシル化されたポリチオール化された多糖類で被覆された医療器具は、動物モデル内に差し込まれた場合に血小板の沈着および再狭窄を低減させるのに効果的である。特に、S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンまたはS−ニトロソ−N−アセチル−D,L−ペニシラミンもしくはS−ニトロソ−ペニシラミンで錯化されたS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンで被覆されたステントは、イヌの冠状またはコートイド(cortoid) 動脈内に挿入した場合には、ポリマーの被覆がないステントと比べて血小板の沈着を低減させた(実施例12)。また、S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンおよびS−ニトロソ−N−アセチル−D,L−ペニシラミンで錯化されたS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンは、生物検定において血管拡張を引き起こすことがわかった(実施例8および10)。さらに、開示されているS−ニトロシル化された多糖類は、インビボでNOを送達するのに現在用いられている化合物と比べて、長期間、NOに関連した活性を送達し、貯蔵安定性の向上を発現することがわかった。
【0026】
S−ニトロシル化された多糖類のさらなる利点は、該多糖類が他のNOを送達する組成物の脆性がなく、生理学的条件下でステント等の医療器具に被覆や接着するのに十分な弾性を有していることである。
【0027】
発明の詳細な説明
本明細書で用いられているように、「ポリマー」とは、用語として一般に使用されている意味を有する。その例には、ホモポリマー(即ち、1つのタイプのモノマーを重合することにより得られるポリマー)、ブロックコポリマーおよびグラフトコポリマーを含む、コポリマー(即ち、2つ以上の異なるタイプのモノマーを重合することにより得られるポリマー)、樹枝状ポリマー、架橋ポリマー等が含まれる。好適なポリマーには、合成および天然ポリマー(例えば、多糖類)ならびに縮合、付加および開環重合により調製されたポリマーが含まれる。ゴム、繊維およびプラスチックも含まれる。ポリマーは、親水性、両親媒性または疎水性であってもよい。本発明のポリマーは、一般的に非ペプチドポリマーである。
【0028】
「安定化されたS−ニトロシル基」を有するポリマーは、S−ニトロシル基に加えて、各安定化されたS−ニトロシル基について、1つの遊離チオール基または遊離アルコール基を含み、遊離チオールまたはアルコール基のない、類似の化合物またはポリマーよりかなり大きな(例えば、約2倍大きな、好ましくは約10倍大きな)NO放出の半減期を有する。本件出願人は、いかなる特定の機構により限定されることも決して望まないが、S−ニトロシル基は遊離チオールまたは遊離アルコール基と−S−ニトロシル基との間の相互作用により安定化され得ると考えられる。例えば、遊離チオールまたは遊離アルコールがS−ニトロシル基の(アルファ位の)3つの共有結合内に局在している場合、安定化相互作用が形成されうる。その他の例において、分子内の共有結合のエネルギー的に影響を受けやすい配座回転により、約1〜1.5倍の結合長さのS−ニトロシル基に遊離チオールまたはアルコールを導入し得る場合、安定化相互作用が形成されうる。
【0029】
安定化されたS−ニトロシル基を有するポリマーは、一般に、約2百時間より大きく、しばしば約1千時間より大きなNO放出の半減期を有する。NOを放出する殆どの既知化合物は、約12時間より少ないNO放出の半減期を有する。
【0030】
「有機ラジカル」という用語は、本明細書で使用されているように、主として水素と炭素を含む部分を示すが、少量の他の、硫黄、窒素、酸素及びハロゲン等の非金属元素も含み得る。Rは、構造式(I)で示される分子の残りといっしょにした場合、小さな有機分子であり、一般的には、約2000amu未満、より一般的には1000amu未満の分子量を有する。従って、構造式(I)で示される化合物は、タンパク質、ポリペプチドまたは多糖類ではない。
【0031】
有機ラジカルは、−S−ニトロシル基の安定性を有意に低減しない官能基も含む。好適な官能基は、1)−S−ニトロシル基に関して実質的に不活性である、即ち、NO放出する分子からのNO放出の割合を、実質的に、例えば割合を2倍に増大しない基、かつ2)遊離チオール基のニトロシル化を実質的に妨げない、即ち、ニトロシル化の収率を実質的に低減しない(例えば、収率の50%低減)または有意な量の副生物の生成を引き起こさないものを含む。好適な官能基の例には、アルコール類、チオール類、アミド類、チオアミド類、カルボン酸類、アルデヒド類、ケトン類、ハロゲン類、二重結合、三重結合およびアリール基(例えば、フェニル、ナフチル、フラニル、チエニルなど)が含まれる。
【0032】
脂肪族基には、完全に飽和したまたは1以上の不飽和単位を含有する、直鎖、分岐鎖または環状のC1−C8炭化水素類が含まれる。
【0033】
脂肪族基に好適な置換基は、1)−S−ニトロシル基に関して実質的に不活性である、即ち、NO放出する分子からのNO放出の割合を、実質的に、例えば割合を2倍に増大しない基、かつ2)遊離チオール基のニトロシル化を実質的に妨げない、即ち、ニトロシル化の収率を実質的に低減しない(例えば、収率の50%低減)または有意な量の副生物の生成を引き起こさないものである。好適な置換基の例には、ハロゲン類、C1 −C5 の直鎖または分岐鎖アルキル基、アルコール類、カルボン酸類、アミド類、チオアミド類等が含まれる。
【0034】
構造式(I)で示される化合物は、室温で数日〜約2週間かけて、自発的に重合し、ゴム様のNO放出ポリマーを形成する。重合は、一般にそのまま行われるが、約0.1Mより大きな濃度の溶液中、例えばジエチルエーテル等の好適な溶媒中でも行うことができる。これらのポリマーは、少なくとも数週間NOを放出する(実施例15)。それらは、インビトロで大動脈平滑筋を弛緩させることが示されている(実施例16)。従って、それらは、インビボの治療部位にNOを送達するための医療器具用被覆剤として大いに見込みがある。
【0035】
構造式(I)で示される化合物の調製は、1998年6月23日に出願された同時係属出願の米国特許出願「安定性NO送達化合物(STABLE NO-DELIVERING COMPOUNDS) 」(代理人明細書番号DUK97−03)に記載されており、その教示は、参照により全て本明細書に取り込まれる。簡単には、構造式(II) :
【0036】
【化3】

【0037】
で示されるエステル化されたポリオールをニトロシル化することにより前記化合物を生成する。
【0038】
Rは、前記のような有機ラジカルである。
【0039】
nは2より大きな整数、好ましくは3〜約10の整数である。より好ましくは、nは3〜約8の整数である。
【0040】
各Xは、独立してチオールを含有する脂肪族基または置換されたチオールを含有する脂肪族基である。好ましくは、各Xは同じチオールを含有する脂肪族基である。好適なチオールを含有する脂肪族基の例には、−CH2SH、−CH2CH2SH、−CH2CH2CH2SHおよび−CH2CH2CH2CH2SHが含まれる。脂肪族基に好適な置換基は、前記されている。
【0041】
エステル化されたポリオールのニトロシル化は、エステル化されたポリオールを室温でニトロシル化剤と反応させることにより行われる。好適なニトロシル化剤を以下に記載する。好ましくは、遊離チオールおよび遊離アルコールあたり、約0.5〜約0.7当量のニトロシル化剤を使用する。S−ニトロソ−N−アセチル−D,L−ペニシラミン(SNAP)は構造式(I)で示される化合物を調製するのに好ましいニトロシル化剤である。該ニトロシル化剤を、エステル化されたポリオールに添加することが好ましい。ニトロシル化は、そのまままたは約0.01Mより大きな濃度でジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはアセトニトリル等の溶媒中で行うことができる。
【0042】
構造式(I)で示される化合物を重合することにより調製されたポリマーは、構造式(III):
【0043】
【化4】

【0044】
で示されるモノマー単位を含む。
【0045】
Rは、前記のような有機ラジカルである。
【0046】
各Xは、独立して置換または非置換の脂肪族基である。好ましくは、各Xは同一である。Xの例には、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH−等のアルキレン基が含まれる。
【0047】
構造式(III)において、pは0または正の整数(interger)であり、mは正の整数である。好ましくは、p+mは8以下である。
【0048】
好ましくは、前記モノマーは構造式(IV):
【0049】
【化5】

【0050】
で示される。
【0051】
R’は、−X−CO−O−R’−O−CO−X−がRであるような有機ラジカルである。X、mおよびpは、構造式(III)について記載されているのと同様である。
【0052】
構造式(III)または(IV)で示されるモノマー(monomers) 単位を含むS−ニトロシル化されたポリマーは、前記のように架橋され得る。例えば、構造式(III)または(IV)で示されるモノマー単位中の−SNO基は、NOを放出した後、硫黄原子が他のS−ニトロシル化されたポリマー分子中のチオール基とジスルフィド結合を形成するのに利用可能である。一つの例において、架橋モノマー単位は構造式(V):
【0053】
【化6】

【化7】

【0054】
で示される。
【0055】
R" は、前記のような有機ラジカルである。
【0056】
m’は、1より大きく且つm+1以下の整数である。
【0057】
p’は、1以上かつp+1以下の整数である。
【0058】
p、mおよびXは、構造式(III)について記載されているのと同様である。
【0059】
S−ニトロシル化されたポリマーは、遊離チオール基をニトロシル化するのに好適な条件下でニトロシル化剤と反応させることにより、本明細書で「ポリチオール化されたポリマー」と呼ぶ、多数のペンダント状のチオール基を有するポリマーから調製することができる。
【0060】
好適な、ニトロシル化剤は、フィーリッシュ(Feelisch)とスタムラー(Stamler)、"Donors of Nitrogen Oxides" 、Methods in Nitric Oxide Research フィーリッシュとスタムラー編、(John Wiley & Sons)(1996) に開示されており、その内容は参照により本明細書に取り込まれている。好適なニトロシル化剤には、酸性亜硝酸塩、塩化ニトロシル、S−ニトロソ基を含む化合物であるS−ニトロソ−N−アセチル−D,L−ペニシラミン(SNAP)、S−ニトロソグルタチオン(SNOG)、N−アセチル−S−ニトロソペニシラミニル−S−ニトロソペニシラミン、S−ニトロソシステイン、S−ニトロソチオグリセロール、S−ニトロソジチオトレイトールおよびS−ニトロソメルカプトエタノール)、有機亜硝酸エステル(例えば、亜硝酸エチル、亜硝酸イソブチルおよび亜硝酸アミル)ペルオキシ亜硝酸塩、ニトロソニウム塩(例えば、硫酸水素ニトロシル)、オキサジアゾール(例えば、4−フェニル−3−フロキサンカルボニトリル)等が含まれる。
【0061】
酸性亜硝酸塩を用いるポリチオール化されたポリマーのニトロシル化は、例えば、水溶液中で亜硝酸塩、例えば、NaNO2、KNO2、LiNO2等を用いて、酸、例えば、HCl、酢酸、H3PO4等の存在下で、約−20℃〜約50℃の温度で、好ましくは常温で行うことができる。一般に、ニトロシル化されるチオールあたり約0.8〜約2.0、好ましくは約0.9〜約1.1当量のニトロシル化剤が用いられる。十分な酸を添加し、全ての亜硝酸塩を亜硝酸またはNO+均等物に変換する。酸性亜硝酸塩を用いてポリチオール化されたポリマーをニトロシル化させるのに特定の条件が、実施例3に与えられている。
【0062】
NOClを用いるポリチオール化されたポリマーのニトロシル化は、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒中で、約−20℃〜約50℃の温度で、好ましくは常温で行うことができる。NOClを溶液中で泡立てることにより、遊離チオール基をニトロシル化させる。ポリチオール化されたポリマーをNOClを用いてニトロシル化させる特定の条件が、実施例4に与えられている。
【0063】
ポリチオール化されたポリマーは、アルコールやアミン等の多数のペンダント状の求核基を有するポリマーから生成させることができる。ペンダント状の求核基は、当該技術分野に公知の方法や、ガッデル(Gaddell) とデファイエ(Defaye)、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 30:78(1991) やロジャス(Rojas) ら、J. Am. Chem. Soc. 117:336(1995) に開示された方法により、ペンダント状のチオール基に変換することができ、その内容は参照により本明細書に取り込まれている。
【0064】
一つの態様において、S−ニトロシル化されたポリマーは、S−ニトロシル化された多糖類である。好適なS−ニトロシル化された多糖類の例は、S−ニトロシル化されたアルギン酸、κ−カラギーナン、デンプン、セルロース、フコイジン、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリン等のシクロデキストリンを含む。他の好適な例は、Bioactive Carbohydrates 、ケネディ(Kennedy) とホワイト(White) 編、(John Wiley Sons) 、8 章、142-182 頁、(1983)に開示されており、その内容は参照により本明細書に取り込まれている。多糖類は、ペンダント状の第一および第二アルコール基を有している。従って、S−ニトロシル化された多糖類は、前記した方法によりポリチオール化された多糖類から調製することができる。好ましい多糖類には、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリンが含まれる。多糖類は、まず、例えば、ガッデル(Gaddell) とデファイエ(Defaye)らやロジャス(Rojas) らに開示された方法により、ポリチオール化された多糖類に変換される。これらの方法において、第一アルコールは第二アルコールよりも優先的にチオール化される。好ましくは、十分な過剰量のチオール化剤を用いて、ペルチオール化された多糖類を生成する。多糖類は、全ての第一アルコールがチオール基に変換されているとき、「ペルチオール化される」。β−シクロデキストリンをペルチオール化させる特定の条件は、実施例1および2に与えられている。ポリチオール化およびペルチオール化された多糖類は、前記のように、酸性亜硝酸塩(実施例3)または塩化ニトロシル(実施例4)等の好適なニトロシル化剤の存在下でニトロシル化することができる。
【0065】
一つの面において、S−ニトロシル化された多糖類、例えば、S−ニトロシル化されたシクロデキストリンを調製する場合には、過剰量の酸性亜硝酸塩を遊離チオール基について用いる。過剰量の酸性亜硝酸塩により、ペンダント状の−S−NOおよび−O−NO基を有する多糖類が得られる。O−ニトロシル化の程度は、どのくらいの過剰量の酸性亜硝酸塩を用いるかによって決まる。例えば、50倍過剰量の酸性亜硝酸塩を用いるペル−6−チオ−β−シクロデキストリンのニトロシル化により、各シクロデキストリンに対して約10モルのNO(実施例14)、または140amuあたり約1モルのNOを含む生成物が得られる。100倍過剰量の酸性亜硝酸塩を用いるペル−6−チオ−β−シクロデキストリンのニトロシル化により、各シクロデキストリンに対して約21モルのNO(実施例14)、または70amuあたり約1モルのNOを含む生成物が生じる。ペンダント状の−O−NOおよび−S−NO基を有するβ−シクロデキストリンの特定の調製条件が、実施例14に開示されている。
【0066】
他の面において、ポリチオール化された多糖類は、多糖類のアルコール基、好ましくは第一アルコール基を、遊離チオールまたは保護されたチオールを含有する部分をアルコールに付加する試薬と反応させることにより、調製することができる。一つの例において、多糖類は、構造式(VI):
【0067】
【化8】

【0068】
に示されるように、ビスイソシアナトアルキルジスルフィドと反応させ、次いでアルコールを官能基化するために還元する。この反応を行うための条件は、Cellulose and its Derivatives 、フカモタ(Fukamota)、ヤマダ(Yamada)とトナミ(Tonami)編、(John Wiley & Sons) 、40章、(1985)に見られ、その内容は参照により本明細書に取り込まれている。この経路により得ることができるポリチオール化された多糖類の一例を構造式(VII):
【0069】
【化9】

【0070】
に示す。
【0071】
遊離チオールをニトロシル化させることができる試薬は、ある場合には、遊離チオールも酸化させ、ジスルフィド結合を形成することがわかる。従って、ポリチオール化されたポリマー(例えば、ポリチオール化されたシクロデキストリン等のポリチオール化された多糖類)をニトロシル化剤、例えば酸性化された亜硝酸塩、塩化ニトロシル、S−ニトロソチオールで処理することにより、ある場合には、架橋S−ニトロシル化されたポリマーマトリックスが生成することになる。「ポリマーマトリックス」とは、分子間結合によって結合または「架橋した」多数の個々のポリマーを含む分子である。従って、ある場合には、ニトロシル化剤は、いくつかのチオールをニトロシル化し、さらに分子内ジスルフィド結合を形成させることにより個々のポリマーを架橋する。そのようなポリマーマトリックスは、「S−ニトロシル化されたポリマー」という用語に含まれ、本発明の範囲内に含まれている。
【0072】
前記合成物に存在する−S−NO基の量は、"Preparation and Detection of S-Nitrosothiols," 、Methods in Nitric Oxide Research、フィーリッシュ(Feelisch)とスタムラー(Stamler)編、(John Wiley & Sons) 、521-541 頁 (1996) に開示されているサヴィル(Saville) の方法により測定することができる。ポリマーの分子量あたりのNOの量を計算するため、ポリマー濃度、例えば、炭水化物の濃度も測定する。炭水化物の濃度は、デュボイス(Dubois)ら、Anal. Chem. 28:350(1956)に開示の方法により測定することができる。過剰量のニトロシル化剤を用いる場合、およびニトロシル化剤が十分な大きさのものである場合には、それは、個々のポリマー分子を架橋する分子間ジスルフィド結合により重合体マトリックス内に取り込まれ、または「からみ合って」、それによりポリマーとニトロシル化剤との間で錯体が形成される。
【0073】
S−ニトロシル化された多糖類、特に、S−ニトロシル化されたシクロデキストリン等のS−ニトロシル化された環状多糖類は、前記のように、ニトロシル化反応の際にポリチオール化された多糖類中の遊離チオールに対して1当量を超えるニトロシル化剤を用いた場合、好適なニトロシル化剤と錯体を形成しうる。一般に、約1.1〜約5.0当量のニトロシル化剤を用いると、好ましくは約1.1〜約2.0当量の錯体が形成される。
【0074】
S−ニトロシル化された環状多糖類と錯化することができるニトロシル化剤には、環状多糖類との包接錯体を形成するのに必要な大きさや疎水性を有するものが含まれる。「包接錯体」とは、シクロデキストリン等の環状多糖類と該環状多糖類の空洞内に位置する低分子等の低分子との間の錯体である。シクロデキストリン等の環状多糖類の空洞の大きさや、包接錯体の調製のために適当な分子を選択する方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、スゼジトリ(Szejtli) Cyclodextrins In Pharmaceutical 、Kluwer Academic Publishers、186-307 頁、(1988)に見ることができ、その全ての関連した内容は参照により本明細書に取り込まれている。
【0075】
S−ニトロシル化された環状多糖類と錯化しうるニトロシル化剤には、ニトロシル化剤がS−ニトロシル化された多糖類のポリマーマトリックスの構造の中に取り込まれうるような十分な大きさを有するニトロシル化剤も含まれる。前述したように、ある例では、ポリチオール化されたポリマーのニトロシル化も、分子間のジスルフィド結合の形成により個々のポリマー分子を架橋し、ポリマーマトリックスを与えることになりうる。好適なニトロシル化剤は、ニトロシル化剤がこのマトリックスの中に取り込まれうるような適した大きさのものである。大きさに要求される条件は、それぞれ個々のポリチオール化されたポリマーの構造により決定され、好適なニトロシル化剤は、調製される個々のS−ニトロシル化されたポリマーに応じて、当業者によりごく普通に決定することができることが理解される。
【0076】
S−ニトロシル化されたシクロデキストリンと錯体を形成しうるニトロシル化剤には、S−ニトロソ基を有する化合物(S−ニトロソ−N−アセチル−D,L−ペニシラミン(SNAP)、S−ニトロソグルタチオン(SNOG)、N−アセチル−S−ニトロソペニシラミニル−S−ニトロソペニシラミン、S−ニトロソシステイン、S−ニトロソチオグリセロール、S−ニトロソジチオトレイトールおよびS−ニトロソメルカプトエタノール)、有機亜硝酸エステル(例えば、亜硝酸エチル、亜硝酸イソブチルおよび亜硝酸アミル)、オキサジアゾール(例えば、4−フェニル−3−フロキサンカルボニトリル)、ペルオキシ亜硝酸塩、ニトロソニウム塩およびニトロプルシド(nitroprusside)ならびに他の金属のニトロシル錯体(フィーリッシュ(Feelisch) およびスタムラー(Stamler)著、「窒素酸化物の供与体(Donors of Nitrogen Oxides)」、フィーリッシュおよびスタムラー編、酸化窒素の研究における方法(Methods in Nitric Oxide Research) (ジョンウィリー・アンド・ソンズ(John Wiley & Sons))(1996年)を見よ)が含まれる。以下でさらに詳細に論議するように、S−ニトロシル化されたシクロデキストリンのNO送達時間および送達容量は、ニトロシル化剤の取り込みによって増大される。送達時間および容量が増大される程度および度合いはニトロシル化剤に依存する。
【0077】
S−ニトロシル化されたシクロデキストリンとニトロシル化剤との間で錯体を形成するための特定の条件が、実施例5および6に与えられている。これらの実施例に記載された条件により、多糖類中の少なくとも数個の遊離チオールをニトロシル化することになる。なぜなら、過剰のニトロシル化剤は、用いられた多糖類中の遊離チオールの量について用いられているので、生成する組成物は、未反応のニトロシル化剤を含有する。S−ニトロシル化された多糖類がニトロシル化剤と錯体を形成するという確証は、本明細書で報告されているように、ペル−(6−デオキシ−6−−チオ)β−チオシクロデキストリンとS−ニトロソ−N−アセチルペニシラミンの反応生成物から放出されるNOの割合が、S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン単独と比較して大きい(実施例10)という発見からきている。
【0078】
本件出願人は、いかなる特定の機構により限定されることも決して望まないが、S−ニトロシル化された環状多糖類中へのニトロシル化剤の取り込みが、該多糖類および該ニトロシル化剤の両者による治療部位へのNOの送達を可能にすると考えられる。また、該環状多糖類と該ニトロシル化剤との間の相互作用がニトロシル化剤中の−S−NO官能基を安定化するとも考えられる。さらに、組成物中にニトロシル化剤が存在することで、S−ニトロシル化された多糖類中にニトロシル基を与え、即ち補給し、それによりポリマーがNO供与体として働きうる寿命を延ばすのに役立つとも考えられる。S−ニトロシル化された環状多糖類の寿命を延ばすことが可能な程度は、ニトロシル化剤がチオ亜硝酸塩であるとき、S−ニトロシル基の安定性により決定される。−S−NO基の安定性は多くの因子に依存し;金属と化合してキレート環を形成する−S−NO基の能力は、ホモリシスな分解を促進し;第三級の−S−NO基は、第一級の基よりも安定な第二級の−S−NO基よりもさらに安定であり;シクロデキストリンの疎水性ポケットに適合する−S−NO基は、適合しないものよりも安定であり;−S−NO基へのアミンの近接は安定性を低下させ;β位での−S−NO基への修飾は安定性を変える。
【0079】
1つの態様において、本発明は、本発明のポリマーおよびポリマーに望ましい特性を与える少なくとも1つの他の成分を含む組成物である。例えば、可塑剤およびエラストマーを該組成物に添加して、ポリマーにより強い弾性を与えてもよい。一般に、好適な可塑剤およびエラストマーは、1)生物学的適合性であり、すなわちそれが投与された個体における血小板およびタンパク質の沈着などの有害な反応を最小限にし、そして2)NOを送達することができるポリマーに溶解し、代わって前記ポリマーの溶解度を高めうる化合物である。好適な可塑剤の例には、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールが含まれる。好ましい可塑剤は、NOも送達することができるもの、例えばニトロソチオグリセロールである。
【0080】
本発明のもう1つの態様は、NOを送達する本発明の新規なポリマーおよび組成物を用いて、NOを被験体(個体または動物)の治療部位に送達する方法である。「治療部位」には、NOを該部位に接触させることにより望ましい治療効果が得られうる個体または動物の体内の部位が含まれる。「個体」とは、ヒトをいう。好適な動物には、犬、猫などの家畜動物および馬、牛、豚などの農地動物が含まれる。
【0081】
治療部位は、例えば、該部位を合成物質または医療器具と接触させることによって生じた外傷の結果として、再狭窄、創傷または血栓症が発現した体内の部位で見出される。例えば、再狭窄は、PTCAバルーンカテーテルによる冠状動脈の処置または末梢の処置(例えば、経皮経管動脈形成術)を受けた血管内で発現しうる。再狭窄は、術後約3〜6ヵ月の瘢痕組織の発現であり、血管を狭くする。NOは、血小板の沈着と平滑筋の増殖を阻害することにより、再狭窄を軽減する。NOは、血小板を阻害することによって血栓症を抑制したり、抗炎症性剤として働くことにより創傷を制限することもできる。
【0082】
治療部位は、しばしば合成物質または医療器具と接触している管の部位で展開する。例えば、血管形成などの処置後の再狭窄および血管の再収縮を防止するために、ステントをしばしば血管中に挿入する。血栓を形成させる血小板の凝集は、ステントの挿入から生じたであろう合併症である。NOは、抗血小板物質剤であり、それゆえこれらの医療器具の使用に関係する血栓の形成の危険を軽減するために用いることができる。管の部位と接触し、それにより血栓形成の危険を増加させる他の医療器具の例には、静脈および動脈用シースならびにゴアテックス(GORE-TEX) の外科的プロテーゼが含まれる。
【0083】
治療部位は、管でない部位、例えば炎症性応答を軽減することにより、有効な治療効果が得られうる部位でも展開しうる。例には、気道、胃腸管、膀胱、子宮および海綿体が含まれる。このように、本発明の組成物、方法および器具は、呼吸障害、胃腸障害、泌尿器機能不全、不能症、子宮機能障害および早産を治療するために用いられうる。治療部位でのNO送達により、平滑筋の弛緩も生じ、例えば気管支鏡検査、内視鏡検査、腹腔鏡検査および膀胱鏡検査などの処置における医療器具の挿入を容易にする。NOの送達は、大脳の血管痙攣後の出血を予防したり、膀胱の被刺激性、尿道狭窄および胆管痙縮を治療するためにも用いることができる。
【0084】
治療部位は、体外で、治療のために体から一時的に取り出された体液、例えば血液を処置するために用いられる医療器具の中にも展開することができる。例には、心肺機内の導管、透析装置のチューブおよびカテーテルが含まれる。
【0085】
個体または動物の治療部位にNOを送達する方法には、該治療部位に本発明のポリマーで被覆された医療器具を差し込むことが含まれる。NOは、体液を本発明のポリマーで被覆された医療器具と接触させることにより、体液、例えば血液に送達することができる。個体または動物の治療部位、該治療部位で行なうのに好適な医療器具および血液などの体液を接触させるのに好適な医療器具の例は、前記段落に記載している。
【0086】
「治療部位に医療器具を差し込むこと」とは、治療部位との実際の身体の接点に医療器具を持ってくること、あるいはかわりに医療器具から放出されたNOが治療部位との身体の接点にくるように、治療部位に十分に近接した部分に医療器具を持ってくることをいう。例えば、医療器具による治療のために体液を一時的に体内から取り出すとき、体液は本発明のポリマーで被覆された医療器具と接触し、ポリマー被膜が体液と医療器具との間の界面となる。例には、透析のための、または心肺機による血液の除去が含まれる。
【0087】
本発明の1つの態様において、物品、例えば医療器具、チューブまたはカテーテルは、本発明のポリマーで被覆される。1つの例では、物品はS−ニトロシル化された多糖類、好ましくは環状のS−ニトロシル化された多糖類、さらにより好ましくはS−ニトロシル化されたシクロデキストリンで被覆されている。ポリチオール化された多糖類を含む溶液と該溶液中に溶解しない物品とを組み合わせることにより、混合物が形成される。次に、遊離チオール基をニトロシル化するのに好適な条件下で、該混合物をニトロシル化剤と合わせて、S−ニトロシル化された多糖類を形成させる。水溶液中で、S−ニトロシル化された多糖類は、該溶液から沈澱し、物品を被覆する。ジメチルホルムアミド(DMF)またはジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性の非プロトン性溶媒中で、物品を反応混合物の中に浸し、次いで、減圧下または窒素もしくはアルゴンなどの不活性ガスの気流下で乾燥させ、それにより物品を被覆することができる。好適なニトロシル化剤には、酸性化された亜硝酸エステル、S−ニトロソチオール、有機亜硝酸エステル、塩化ニトロシル、オキサジアゾール、ニトロプルシドおよび他の金属のニトロシル錯体、ペルオキシ亜硝酸塩、ニトロソニウム塩(例えば、ニトロシル硫酸水素塩)などが含まれる。
【0088】
その他の例において、前記物品を、安定化されたS−ニトロシル基を有するポリマーまたは構造式(I)で示される化合物を重合することにより得られるポリマーで被覆する。該ポリマーは、好適な溶媒中に溶解される。次いで、物品を前記溶液中に浸し、減圧下または窒素もしくはアルゴンなどの不活性ガスの気流下で乾燥させ、それにより物品を被覆する。あるいは、次いで重合される構造式(I)で示される化合物で物品を被覆する。
【0089】
本発明のポリマーは、脆くなく、従って生理的条件下であっても、物品に付着して残存する。したがって、これらのポリマーは、長期間患者に差し込まれる医療器具を被覆するのに特に好適である。
【0090】
当該技術分野で知られている方法を含めて、物品にポリマーの被膜を塗布する他の方法が、本発明のポリマーで物品を被覆するために用いられうることが理解されるべきである。
【0091】
本発明のもう1つの態様は、S−ニトロシル化されたポリマーからのNO基の損失を補う方法である。前記で論議したように、NOは時間を経るにつれてS−ニトロシル化された化合物から失われる。さらに、S−ニトロシル化された化合物を含む医療機具の殺菌は、S−ニトロシル化された化合物からNOを損失させることにもなる。S−ニトロシル化された化合物からのNOの損失は、治療部位にNOを送達する化合物の容量を減少させる。NO基は、S−ニトロシル化されたポリマーを、有効量の塩化ニトロシルまたは酸化窒素などのガス状のニトロシル化剤と接触させることにより、補うことができる。
【0092】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、いかなる限定をも意味するものでない。
【実施例】
【0093】
実施例1
ペル−(6−デオキシ−6−ヨード)−β−ヨードシクロデキストリンの調製
β−シクロデキストリン(20.0g、17.6mmol、123mmolの第一級水酸基)を、ジメチルホルムアミド(DMF)(400mL)中でトリフェニルホスフィン(97.2g、371mmol、第一級水酸基あたり3当量)およびヨウ素片(93.5g、371mmol、第一級水酸基あたり3当量)を攪拌した溶液に添加した。該混合物を、添加時に温めた。該溶液を油浴中で80℃で20時間置き、次いで室温まで冷却し、DMF(350mL)を減圧下で除去して、濃縮物を得た。この濃いシロップは元の溶液の容量のおおよそ3分の1であった。氷浴中で冷却したこのシロップに、3MのNaOMe160mLを添加した。そのpHは9であった(水滴を用いたpH紙)。添加後、該シロップを室温まで温め、さらに1時間攪拌した。該シロップを次いでMeOH(3600mL)中に注いで、少量の沈澱物を得た。水(1000mL)をゆっくりと該MeOH溶液に添加すると、濃い茶色の溶液中に乳白色の沈澱物が生成した。該沈澱物を濾過により除去し、黄色の固体を得、それをMeOH(総量1000mL)で数回洗浄して、色をほとんど除去し、黄褐色の固体を得、12時間よりも長くソックスレー抽出し、高真空下で乾燥させて、わずかに灰色がかった白色の固体19.84gを得た(59%)。
【0094】
実施例2
ペル−(6−デオキシ−6−−チオ)β−チオシクロデキストリンの調製
ペル−(6−デオキシ−6−ヨード)−β−シクロデキストリン(19.84g、10.4mmol、72.9mmolの第一級ヨウ化物)をDMF(210mL)に溶解させ、チオ尿素(6.3g、82.8mmol、1.13当量)を添加した。その溶液を窒素下、70℃で48時間攪拌した。DMFを減圧下で除去して、オレンジ色の油を得、それをNaOH水溶液(1000mL中に5.4g、135mmol)に添加し、攪拌時に白色の沈澱物を得た。該溶液を加熱して1時間おだやかに還流させると、該沈澱物の完全な溶媒和が生じ、次いで冷却すると、沈澱物を生成し、それを濾過により除去し、水で洗浄した(この沈澱物は用いない)。該溶液を1MのKHSO4で酸性にし、微細な白色の沈澱物を得、それを濾過し、水で洗浄し、次いで一晩風乾させた。該沈澱物を水(700mL)中に懸濁させ、次いで1MのNaOH水溶液70mLを添加して溶媒和させ、次いで1MのKHSO4水溶液90mLで再び沈澱させた。該沈澱物を濾過し、一晩風乾し、次いで高真空下で乾燥させて、わずかに灰色がかった白色の固体6.0g(46%)、融点289℃(dec)を得た。
【0095】
実施例3
酸性亜硝酸塩を用いたペル−6−チオ−β−シクロデキストリンのニトロシル化
ペル−(6−デオキシ−6−チオ)−β−シクロデキストリン(500mg、0.401mmol、2.81mmolの第一級チオール)を0.5MのNaOH水溶液(10mL)に溶解させ、淡黄色の溶液を得た。1MのNaNO2水溶液2.8mL(2.8mmol、遊離チオール1モル当たり1当量)と2MのHCl(15mL)の混合物をすばやく添加して、赤煉瓦色の沈澱物を得た。該沈澱物を遠心分離によりペレット化し、酸性の上澄みをシリンジにより除去した。脱イオン水を添加し、該沈澱物を攪拌して十分に分散させた。遠心分離/上澄みの除去工程を(上澄みがpH紙で中性になるまで)6回繰り返し、少量の水中に濃赤色のペレットを得た。
【0096】
実施例4
DMF中での塩化ニトロシルを用いたペル−6−チオ−β−シクロデキストリンのニトロシル化
ペル−(6−デオキシ−6−チオ)−β−シクロデキストリン(50mg、0.04mmol、0.28mmolの第一級チオール)をDMF(1mL)に溶解させた。塩化ニトロシルをバブリングし、濃い茶色の溶液を得た。該溶媒を減圧下または窒素、アルゴンなどの不活性ガスの気流下で除去することにより、ポリマー生成物を得ることができる。
【0097】
実施例5
S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミンを用いたペル−6−チオ−β−シクロデキストリンのニトロシル化
ペル−(6−デオキシ−6−チオ)−β−シクロデキストリン(32.3mg、0.0259mmol、0.181mmolの第一級チオール)を1MのNaOH1mLに溶解させた。D(+)−S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン(57.0mg、チオールあたり1.4当量)を添加して、濃い赤色の沈澱物を得た。該沈澱物を遠心分離によりペレット化し、酸性の上澄みをシリンジにより除去した。脱イオン水を添加し、該沈澱物を攪拌して十分に分散させた。遠心分離/上澄みの除去工程を(上澄みがpH紙で中性になるまで)4回繰り返し、少量の水中に濃赤色のペレットを得た。
【0098】
実施例6
ジメチルホルムアミド中でのS−ニトロソ−N−アセチルペニシラミンを用いたペル−6−チオ−β−シクロデキストリンのニトロシル化
ペル−(6−デオキシ−6−チオ)−β−シクロデキストリン(10mg、0.0080mmol、0.056mmolの第一級チオール)をDMF1mLに溶解させた。D(+)−S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン(17.7mg、0.080mmol、チオールあたり1.4当量)を添加して、緑色の溶液を得た。2時間放置後、該溶液は深赤色に変化した。該溶媒を減圧下または窒素、アルゴンなどの不活性ガスの気流下で除去することにより、ポリマー生成物を得ることができる。
【0099】
実施例7
酸化窒素の放出をアッセイする方法
化合物に血管が曝されることから生じる血管拡張の程度および持続時間により測定される、血管平滑筋の弛緩を生じさせる化合物の容量は、インビボでNOを送達する能力の尺度である。スタムラーら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:444(1992年) 、オズボーン(Osborne)ら、J. Clin. Invest. 83:465(1989年)ならびに酸化窒素の研究における方法(Methods in Nitric Oxide Research) 、フィーリッシュおよびスタムラー編、(ジョンウィリー・アンド・ソンズ(John Wiley & Sons))(1996年)におけるファーチゴット(Furchgott)による章に報告されている方法を血管平滑筋の収縮を測定するために用いた。より低い濃度のNOが血管拡張よりも血小板の凝集を阻害するために必要とされるので、平滑筋の収縮の測定は、組成物が十分なNOを送達して血小板の凝集を低減させるかどうかのよい指標を提供する。
【0100】
体重が3〜4kgのニュージーランドホワイト雌ウサギをペントバルビタールナトリウム(30mg/kg)で麻酔した。下行性の胸大動脈を単離し、その管を付着した組織を除去してきれいにし、管腔の中に差し込んだ、コットンが先についたアプリケーターでやさしくこすり落とすことにより、内皮を除去した。その管を5mmの環に切断し、器官浴20mL中のあぶみに据えつけた。該環を、37℃の酸素化したクレブズの(Kreb's) 緩衝液(pH7.5)7mlに1gの静止圧下で懸垂させ、1時間平衡化させた。等長性の収縮を変換器(TO3C型、ガラスインストルメント、Quincy、MA)に接続した7型のオシログラフ記録器で測定した。新しいクレブズ溶液を平衡期間中および各試験応答の後で定期的に該浴に添加した。試験化合物の添加の前に7μMノルエピネフリンを用いて、持続した収縮を誘発した。
【0101】
実施例8
ポリマーで被覆したステントによる酸化窒素の送達
持続的な血管拡張を生じさせるS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリン(「遊離ポリマー」という)の能力を、S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンにより被覆されたステントのNO放出活性と比較した。S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンを実施例3に記載の方法により得た。実施例3に記載の方法に従って調製した反応混合物中にステントを懸濁させ、それにより、該ステントに沈澱したS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンを被覆させることにより、ポリマーで被覆したステントを得た。あるいは、実施例4の方法により調製した反応混合物中にステントを浸漬することにより、ポリマーで被覆したステントを得た。いずれの場合においても、ポリマーで被覆したステントを次いで減圧下または窒素気流下で乾燥させた。ポリマーで被覆したステントおよび遊離ポリマーによるNOの送達を実施例7に記載の方法に従ってアッセイした。
【0102】
ポリマーで被覆したステントは持続的な血管拡張を1時間以上生じさせた。該ステントを除去すると、すぐに正常な状態に回復し、持続的なNO放出を示した。
【0103】
ポリマーで被覆した新しいステントを器官室に添加した。次に、ステントを該器官室から除去し、第2の器官室へ移した。同様の程度の平滑筋の弛緩が各器官室に生じることが観察された。それはS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンからの持続的なNOの放出を示している。
【0104】
実施例9
S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミンを用いてペル−6−チオ−β−シクロデキストリンをニトロシル化することにより調製されたポリマーの安定性
実施例5に記載された方法により調製されたS−ニトロシル化されたポリマーを金属の土台上に置き、減圧下または窒素気流下で乾燥させて、茶色の固体を得た。この固体は、約540〜約600ナノメーターの可視範囲で約15の吸光度を有していた。1.0mMの範囲のNOの濃度は、この領域の可視スペクトルで約0.15の吸光度を与えるのに十分である。
【0105】
次に、該ポリマーを保管し、3週間光から保護した。約540〜600ナノメーターの領域での吸光度は、本質的には変化せず、ポリマーによるS−NOの保持を示していた。加えて、実施例7で記載したアッセイにより測定したように、血管拡張を生じさせる化合物の能力もまた、3週間の期間を越えても本質的に変化せず残存していた。
【0106】
実施例10
S−ニトロシル化されたポリマーの中へのS−ニトロソ−N−アセチルペニシラミンの取り込みが酸化窒素の送達容量と該ポリマーの半減期を増加させる
S−ニトロソ−ペニシラミン、S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリン(実施例3の方法に従って調製)およびS−ニトロソ−ペニシラミンと錯体を形成したS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリン(実施例5の方法に従って調製)を、実施例7に記載された方法により血管拡張を生じさせる能力についてアッセイした。加えて、生理学的溶液中のこれらの組成物に関する半減期を測定した。半減期とは、組成物が結合したNOの半分を失うのに必要とされる時間である。組成物中のNOの量は実施例13に記載したように、サビル(Saville)の方法により測定する。
【0107】
S−ニトロソ−ペニシラミンと錯体を形成したS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンは、S−ニトロソ−ペニシラミンよりも、生理学的溶液中で数次数多いNOを送達することが発見された。加えて、S−ニトロソ−ペニシラミンは、約1時間しかNOを送達できず、一方、S−ニトロソ−ペニシラミンと錯体を形成したS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンは、40時間より長い半減期を有していた。この結果は、ポリマーマトリックスへのS−ニトロソ−ペニシラミンの取り込みが、S−ニトロソ−ペニシラミンの−S−NO基を安定化させることを示している。
【0108】
S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンのポリマーマトリックスへのS−ニトロソ−ペニシラミンの取り込みは、酸化窒素が放出されうる期間を延長させた。S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンの半減期が約18時間より長く、一方、S−ニトロソ−ペニシラミンと錯体を形成したS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンの半減期は約40時間よりも長かった。この結果は、ポリマーマトリックス中に取り込まれるNO供与体の種類に基づいて、S−ニトロシル化されたポリマーがNOを放出しうる期間を延長することができることを示している。この結果はまた、NO供与体がNO活性を有するポリマーに「機能を与え」、それゆえにポリマーの寿命を延長するのに役立つことも示唆している。
【0109】
実施例11
抗血小板物質の効果を測定するためのアッセイ
3.4mMのクエン酸ナトリウムで血液凝固が阻止された静脈血を、少なくとも10日間アセチルサリチル酸または他のいかなる血小板に活性のある薬剤をも消費していないボランティアから得た。150xgで10分間25℃で遠心分離することにより、多血小板血漿を調製した。血小板の数は、コールターカウンター(ZM型)で測定した。
【0110】
血小板の一部0.3mlを37℃でインキュベートし、PAP−4血小板凝集計(バイオデータ(Biodata)、ハツボロ(Hatsboro) 、PA)中で1000rpmで攪拌する標準的な比濁分析の技術により多血小板血漿の凝集をモニターした。
【0111】
実施例3に記載の方法に従って調製したS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンを、多血小板血漿400μL中1μM、10μMおよび100μMの濃度で3分間インキュベートした。10μMのADP100μLを添加することにより凝集を誘導した。対照実験はポリマーの非存在下で行なった。凝集を光の透過率の変化の最大比率と大きさを測定することにより定量し、対照実験の凝集と比較した標準値として表した。
【0112】
ADPで誘導された血小板の凝集の投与量に依存する阻害を、S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリン1μM〜100μMの範囲にわたって観察した。最も低い濃度であっても、血小板凝集の阻害が観察された。
【0113】
実施例12
S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンで被覆されたステントによるイヌにおける血小板沈着の阻害
血小板は、血管形成後の後期再狭窄のみならず、急性閉鎖の発現にも中心的な役割を果たす。血小板の糖蛋白IIB/IIIAの強力な阻害剤は、全身に与えられたとき、高い危険性を有する血管形成後30日および6ヶ月の臨床的な事件を減少させるのに効果的であることが示されてきた。しかしながら、これを行うと、より高い割合で出血を伴う合併症が生じた。強力な糖蛋白IIB/IIIAの阻害剤を局所的に送達することにより、血小板阻害の利益が全身的な血小板阻害の危険なく達成されるかもしれない。この研究の目的は、シクロデキストリン−酸化窒素の局所的な血小板阻害の効果を測定することである。
【0114】
方法
7匹の雑種犬を研究した。血管造影による診断後、ステントをLADおよびLCXの動脈内に差し込んだ。最初の3匹の動物は普通の8mmの波形の金属環ステントを与え、残りの4匹にはSNO−シクロデキストリンで被覆されたステントを与えた。冠動脈の大きさをオンラインのQCA測定を利用して測定し、ステント:動脈が1.2〜13:1の割合となる大きさに適正にステントを作製した。ステントの差し込みの前に、自己の血小板をインジウム111オキシムで標識し、再び注入して、1時間再循環させた。割り当てたステントを、次いで10〜14ATMで展開し、定量的な冠動脈の血管造影を繰り返した。血小板をさらに24時間循環させた後、血小板沈着の分析の研究を終了した。
【0115】
結果
その差は統計的にわずか、すなわち5.19±5.78対4.03±5.33血小板×108/cm2p=0.5827であったが、普通の金属ステントでの血小板沈着は、NO被覆されたステントよりも多かった。しかしながら、6個の金属対照物のうちの4個では、あらゆるNO被覆されたステントよりも多く血小板が沈着していた。金属対照物の平均値は、2つのかなり低い値に影響を受けていた。これらのデータは、6個のNO被覆なしの金属ステントのうちの4個で見られたような基準を超える血小板沈着を薬剤が防止することを示唆している。各対照ステントおよび各被覆ステントにおける1平方センチメートル当たりの血小板の数を図1に示す。
【0116】
実施例13
S−ニトロシル化された多糖類におけるS−ニトロシル化の量の測定
炭水化物濃度の測定
存在する炭水化物の量を次のドゥボイス(Dubois) ら、Anal. Chem. 28:350(1956年)に開示された方法より測定する。10〜70γの炭水化物を含有する炭水化物溶液2mlを比色分析の試験管にピペットで移し、80%フェノール0.05mlを添加する。次に、濃硫酸5mlをすみやかに添加する。酸は、十分な混合を得るために、試験管の側面よりもむしろ、液体表面に向かって流し込む。試験管を10分間放置し、次いで、振り動かして、記録を取る前に25℃〜30℃の水浴に10〜20分間置く。色は数時間安定であり、記録は必要なら後でとってもよい。特有の黄−オレンジ色の吸光度は、ヘキソースの490mμとペントースおよびウロン酸による480mμで測定される。糖溶液の代わりに蒸留水を用いることにより、ブランクを調製する。次いで、糖の量を、予め検査して、特定の糖で作成した標準曲線を参照して測定してもよい。
【0117】
セルロースの繊維片の偶発的な混入から生じる誤差を最小限にするため、すべての溶液を全く同じに3個調製する。
【0118】
R−S−NO濃度の測定
試料中のR−S−NO基の濃度は、サヴィル(Saville)、アナリスト(Analyst) 83:620(1958年)に報告された方法に基づいている。この方法により、R−S−NO基をアゾ染料に転換する。この染料の濃度は、540nmでの吸光度(ε〜50,000M-1cm-1)を測定することにより決定する。方法を以下に示す:
【0119】
試薬
溶液A:0.5MのHCl中に1%溶解したスルファニルアミド。
溶液B:0.2%のHgCl2を用いたAと同じ溶液
溶液C:0.5MのHCl中に溶解したN−(1−ナフチル)−エチレンジアミンジヒドロクロリドの0.02%溶液。
【0120】
方法
アッセイする試料の所定量(50μl−1m)を等容量の溶液Aと溶液Bに添加する。この2つの試料を5分間かたわらに置いて、ジアゾニウム塩を形成させ、その後等容量の溶液Cを各混合物に添加する。アゾ染料の生成を示す色の形成は、通常5分間で完了する。次に、試料の吸光度を540nmで吸光分光分析的に記録する。RSNOを溶液BとAの間の吸光度の差(すなわち、B−A)として定量する。バックグラウンドの亜硝酸塩の濃度が高い(すなわち、Aにおけるバックグラウンドを増加させる)時には、スルファニルアミドの添加の5分前に、酸(45mM)中の0.5%スルファミン酸アンモニウムを等容量添加することにより、測定の精密度を増加させることができる。溶液中の亜硝酸は、すぐに過剰のスルファミン酸アンモニウムと反応して、窒素ガスと硫酸塩を形成する。
【0121】
亜硝酸塩もミクロモルの濃度で存在しているなら、試料中の500μMより高いチオールの濃度はアッセイを妨げるかもしれない。なぜなら、亜硝酸塩は、採用された酸性条件下で無差別にニトロソ化し(nitrosate)、それらの濃度がミリモルの範囲に達すると、チオールはスルファニルアミド(このアッセイでは50mM存在)との反応と効果的に競争するであろう。これは、RSNOの人為的な検出に導くであろう。(1)チオールのスルファニルアミドあたりの割合を0.01未満に維持する、(2)最初に溶液中のチオールをアルキル化する、または(3)ありうる人為産物について補正するために、基準試料に遊離チオールを添加することにより、この問題を避けることができる。
【0122】
S−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンを、1mMのペルチオール化された(perthiolated)β−シクロデキストリンと、1)1当量(1X);2)2当量(2X);3当量(3X);6当量(6X);および10当量(10X)の酸性亜硝酸塩を用いて、実施例3に記載されたように調製した。次いでそれぞれの得られた炭水化物ポリマーの炭水化物濃度および−S−NO濃度を、前記のようにして測定した。結果を図2に示す。6倍過剰の酸性化された亜硝酸塩では、シクロデキストリン1モルあたり約3個の−S−NO基、または470分子量あたり約1個の−S−NO基となる。3および10当量の酸性化された亜硝酸塩を使用することにより、シクロデキストリンあたり約2〜2.5個の−S−NO基を有する生成物を得る。
【0123】
実施例14
O−およびS−ニトロシル化されたβ−シクロデキストリンの調製
ペンダント状の−O−NOおよび−S−NO基を有するβ−シクロデキストリンを、50および100当量の酸性亜硝酸塩を用いた以外は実施例3に記載の方法に従って調製した。
【0124】
−O−NO基の形成は、紫外/可視スペクトルの320〜360nmの範囲での吸光度の増加を伴う。なぜなら、−S−NO基もまた、紫外/可視スペクトルのこの領域において吸収し、O−ニトロシル化の確認は、320〜360nm領域での吸光度の増加が−S−NO濃度におけるさらなる増加を伴わないという観測により得られる。−S−NOの濃度は実施例13に記載されているサヴィルの方法により測定する。ポリマー中の−O−NOの存在量は320〜360nm領域での吸光度の強度および媒体からのNOの損失により測定することができる。分子量あたりの−O−NOの量は、前記実施例13に記載されているように、最初に炭水化物濃度を測定することにより算出することができる。
図3は前記のように、50倍過剰の酸性亜硝酸塩の存在下でのβ−シクロデキストリンの紫外/可視スペクトルを示す。見られるように、340〜350nm領域での吸光度は時間とともに増加し、約45分後最大に達する。−O−NOおよび−S−NO基を合わせた濃度は、50倍過剰の酸性亜硝酸塩を用いたときにはシクロデキストリンあたり約10個のNO基が、または140amuあたり約1個のNO基が測定された。−O−NOおよび−S−NO基を合わせた濃度は、酸性化された100倍過剰の亜硝酸塩を用いたときにはシクロデキストリンあたり約21個のNO基が、または67amuあたり約1個のNO基が測定された。
【0125】
実施例15
安定化され、S−ニトロシル化された基を用いたポリマーの一般的な調製方法
全ての前駆チオールをシグマ−アルドリッチケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Co.)から得、さらに精製することなく使用した。亜硝酸ターシャリーブチル(TBN、96%)をアルドリッチケミカル社(Aldrich Chemical Co.)から購入し、さらに精製することなく使用した。
【0126】
ポリチオールとTBNをそのまま混合し、室温で攪拌した。TBN0.5当量を、ポリチオール中に存在するそれぞれ等量の遊離チオールに使用した。次いで、反応容器をシールし、酸素を除去して、アルミ箔でくるみ、光を除いた。
【0127】
以下のポリチオールを先の段落に記載した方法に従って、TBNと反応させた。
【0128】
ポリチオール1−トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)
【0129】
【化10】

【0130】
ポリチオール2−ペンタエリスリトールテトラキス−(3−メルカプトプロピオネート)
【0131】
【化11】

【0132】
ポリチオール3−1,2,6−ヘキサントリオールトリチオグリコレート
【0133】
【化12】

【0134】
ポリチオール4−トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)
【0135】
【化13】

【0136】
それぞれのケースにおいて、ポリチオールとTBNの混合後、反応混合物は急速に深赤色に変化した。赤色はS−ニトロシル化を示している。約2週間放置後、各反応混合物はピンクのゲル状の固体になった。それぞれのケースにおいて、その色は少なくとも3週間持続し、これはNO放出能力を保持したポリマーがこの期間保持されていることを示した。実施例16に示すように、1週間たったポリマーは、血管平滑筋を弛緩させるのに十分なNOを放出した。
【0137】
実施例16
安定化したS−ニトロシル基を用いた、ポリマーによる血管平滑筋の弛緩
実施例15で調製されたポリマーの、血管平滑筋を弛緩させる能力を、ウィスターラットから得られた下行性の胸大動脈を用いて変更した、実施例7に記載の方法により測定した。ポリチオール1 20.5mg、ポリチオール2 7.1mg、ポリチオール3 25.5mg及びポリチオール4 6.6mgをそれぞれ試験した。全てのポリマーは少なくとも試験する1週間前に調製した。それぞれのケースにおいて、試験ポリマーを添加して1分以内に平滑筋の弛緩が生じた。
【0138】
均等物
当業者は、本明細書に記載された発明の特定の態様に対して多くの均等物を、日常的な経験を用いるだけで認識し、あるいは確認することができるであろう。これらおよび他のすべての均等物は、以下の請求の範囲に包含されることを意図する。
【0139】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1]ポリマーの1200原子質量単位あたり少なくとも1個の−SNO基で誘導されたポリマー。
[2]ポリマーの600原子質量単位あたり少なくとも1個の−SNO基を含む[1]記載のポリマー。
[3]さらに、ポリマーの600amuあたり少なくとも1個の遊離アルコールまたは遊離チオール基を含み、
a) 600原子質量単位あたり少なくとも1個の−SNO基が遊離チオールまたは遊離アルコール基の1つにより安定化されており、
b) 各安定化された−SNO基が異なった遊離アルコールまたは遊離チオール基により安定化されている、
[2]記載のポリマー。
[4]ポリマーが、下記構造式:
【化14−1】

(式中、Rは有機ラジカル;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基;pは0または正の整数;及びmは正の整数である)
で表されるモノマー単位を含む[3]記載のポリマー。
[5]ポリマーが、下記構造式:
【化14−2】

(式中、R’は−X−CO−O−R’−O−CO−X−がRであるような有機ラジカルである)
で表されるモノマー単位を含む[4]記載のポリマー。
[6]各Xが同一である[5]記載のポリマー。
[7]p+mが約8以下である[6]記載のポリマー。
[8]各Xが、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH−である[7]記載のポリマー。
[9]ポリマーが架橋されている[8]記載のポリマー。
[10]架橋モノマーが、下記構造式:
【化14−3】

(式中、R”は有機ラジカル;m’は1より大きく、かつm+1以下の整数;及びp’は1以上p+1以下の整数である)
で表される[9]記載のポリマー。
[11]少なくとも1つの−SNO基が遊離チオール基または遊離アルコール基により安定化されている、1個以上の−SNO基を含むポリマー。
[12]下記構造式:
【化14−4】

(式中、Rは有機ラジカル;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基;及びpとmはそれぞれ、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表される化合物を重合することにより製造されたポリマー。
[13]各Xが同一である[12]記載のポリマー。
[14]p+mが約8以下である[13]記載のポリマー。
[15]各Xが、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH−である[14]記載のポリマー。
[16]安定化されたS−ニトロシル基を含むポリマーの製造方法であって、下記構造式:
【化14−5】

(式中、Rは有機ラジカル;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基;及びpとmはそれぞれ、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表される化合物を重合する工程を含む方法。
[17]各Xが同一である[16]記載の方法。
[18]p+mが約8以下である[17]記載の方法。
[19]各Xが、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH−である[18]記載のポリマー。
[20]NOの放出が可能な物品であって、ポリマーの1200amuあたり少なくとも1個の−SNO基を含むポリマーで被覆された物品。
[21]物品が、被験体に差し込むための医療器具または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルである[20]記載の物品。
[22]ポリマーが、下記構造式:
【化14−6】

(式中、R’は有機ラジカル;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基;pは0または正の整数;及びmは正の整数である)
で表されるモノマー単位を含む[21]記載の物品。
[23]物品が、下記構造式:
【化14−7】

(Rは有機ラジカル;各X’は独立して選択された脂肪族基または置換された脂肪族基;及びpとmはそれぞれ、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表される化合物を重合することにより得られたポリマーで被覆されている[21]記載の物品。
[24]ポリマーがS−ニトロシル化された多糖類である[21]記載の物品。
[25]S−ニトロシル化された多糖類がS−ニトロシル化され、ポリチオール化されたシクロデキストリンである[24]記載の物品。
[26]物品が、ポリチオール化された多糖類をニトロシル化することにより得られたポリマーで被覆されている[21]記載の物品。
[27]ポリチオール化された多糖類がポリチオール化されたシクロデキストリンである[26]記載の物品。
[28]a) ポリマーの1200amuあたり少なくとも1個の−SNO基を含むポリマーで被覆された医療器具を供給し、
b) 該医療器具を治療部位に差し込む、または体液を該治療器具と接触させる、
工程を含む被験体の治療部位または体液に酸化窒素を送達する方法。
[29]ポリマーが、下記構造式:
【化14−8】

(式中、Rは有機ラジカル;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基;pは0または正の整数;及びmは正の整数である)
で表されるモノマー単位を含む[28]記載の方法。
[30]ポリマーが、下記構造式:
【化14−9】

(Rは有機ラジカル;各X’は独立して選択された脂肪族基または置換された脂肪族基;及びpとmはそれぞれ、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表される化合物を重合することにより得られる[28]記載の方法。
[31]ポリマーがS−ニトロシル化された多糖類である[28]記載の方法。
[32]S−ニトロシル化された多糖類がS−ニトロシル化され、ポリチオール化されたシクロデキストリンである[31]記載の方法。
[33]ポリマーが、ポリチオール化された多糖類をニトロシル化することにより製造される[28]記載の方法。
[34]ポリチオール化された多糖類がポリチオール化されたシクロデキストリンである[33]記載の方法。
[35]ポリマーの1200amuあたり少なくとも1個の−SNO基で物品を被覆することを含む、NOの放出が可能な物品の製造方法。
[36]物品が、酸化窒素を被験体の治療部位に送達するための医療器具または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルである[35]記載の方法。
[37]ポリマーが、下記構造式:
【化14−10】

(式中、R’は有機ラジカル;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基;pは0または正の整数;及びmは正の整数である)
で表されるモノマー単位を含む[36]記載の方法。
[38]ポリマーが、下記構造式:
【化14−11】

(式中、Rは有機ラジカル;各X’は独立して選択された脂肪族基または置換された脂肪族基;及びpとmはそれぞれ、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表される化合物を重合することにより得られる[36]記載の方法。
[39]ポリマーがS−ニトロシル化された多糖類である[36]記載の方法。
[40]S−ニトロシル化された多糖類がS−ニトロシル化され、ポリチオール化されたシクロデキストリンである[42]記載の医療器具。
[41]ポリマーが、ポリチオール化された多糖類をニトロシル化することにより得られた[39]記載の方法。
[42]ポリチオール化された多糖類がポリチオール化されたシクロデキストリンである[44]記載の方法。
[43]遊離チオール基をニトロ化させるのに適した条件下で、環状のポリチオール化された多糖類を含む溶液をニトロ化剤と反応させることによって製造されたポリマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式:
【化1】


(式中、Rは有機ラジカルであり;各Xは独立して、置換または非置換のアルキレン基であり;pは0または正の整数であり;及びmは、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表されるモノマー単位を含んで構成されるポリマー。
【請求項2】
ポリマーが、下記構造式:
【化2】


(式中、R’は、−X−CO−O−R’−O−CO−X−がRであるような有機ラジカルである)
で表されるモノマー単位を含む請求項1記載のポリマー。
【請求項3】
全てのXが同一である請求項2記載のポリマー。
【請求項4】
p+mが8以下である請求項3記載のポリマー。
【請求項5】
各Xが、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH2−である請求項4記載のポリマー。
【請求項6】
ポリマーが架橋されている請求項5記載のポリマー。
【請求項7】
ポリマーが、下記構造式:
【化3】


(式中、R”は有機ラジカルであり;m’は1より大きく、かつm+1以下の整数であり;及びp’は1以上p+1以下の整数である)
で表されるモノマーによって架橋されている請求項6記載のポリマー。
【請求項8】
下記構造式:
【化4】


(式中、Rは有機ラジカルであり;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基であり;及びpとmはそれぞれ、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表される化合物を重合することにより製造されたポリマー。
【請求項9】
全てのXが同一である請求項8記載のポリマー。
【請求項10】
p+mが8以下である請求項9記載のポリマー。
【請求項11】
各Xが、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH2−である請求項10記載のポリマー。
【請求項12】
ポリマーが、ニトロシル化剤を下記構造式:
【化5】


(式中、Rは有機ラジカルであり;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基であり;及びpは2より大きい正の整数である)
で表される化合物と反応させることによって製造される請求項1記載のポリマー。
【請求項13】
各Xが、完全に飽和したまたは1以上の不飽和単位を含む、直鎖、分岐鎖または環状のC1〜C8炭化水素である請求項1〜12いずれか記載のポリマー。
【請求項14】
安定化されたS−ニトロシル基を含むポリマーの製造方法であって、下記構造式:
【化6】


(式中、Rは有機ラジカルであり;各Xは独立して、置換または非置換の脂肪族基であり;及びpは0または正の整数であり、かつmは、p+mが2より大きいような正の整数である)
で表される化合物を重合する工程を含む方法。
【請求項15】
全てのXが同一である請求項14記載の方法。
【請求項16】
p+mが8以下である請求項15記載の方法。
【請求項17】
各Xが、−CH2−、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−または−CH2CH2CH2CH2−である請求項16記載の方法。
【請求項18】
各Xが、完全に飽和したまたは1以上の不飽和単位を含む、直鎖、分岐鎖または環状のC1〜C8炭化水素である請求項14〜17いずれか記載の方法。
【請求項19】
NOの放出が可能な、被験体に植え込むための医療器具、または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルであって、請求項2記載のポリマーで被覆された、医療器具、チューブまたはカテーテル。
【請求項20】
NOの放出が可能な、被験体に植え込むための医療器具、または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルであって、請求項8に従って得られたポリマーで被覆された、医療器具、チューブまたはカテーテル。
【請求項21】
NOの放出が可能な、酸化窒素を被験体の治療部位に送達するための医療器具または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルの製造方法であって、請求項2記載のポリマーで医療器具、チューブまたはカテーテルを被覆することを含む方法。
【請求項22】
NOの放出が可能な、酸化窒素を被験体の治療部位に送達するための医療器具または被験体の体液と接触させるためのチューブもしくはカテーテルの製造方法であって、請求項8記載のポリマーで医療器具、チューブまたはカテーテルを被覆することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−144376(P2011−144376A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11097(P2011−11097)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【分割の表示】特願2000−555946(P2000−555946)の分割
【原出願日】平成11年6月17日(1999.6.17)
【出願人】(500581478)デューク ユニバーシティ メディカル センター (1)
【Fターム(参考)】