説明

インピーダンスの変化に基づいて電気治療を調整するシステム及び方法

インピーダンス変化に基づいて電気治療を調整するシステム及び方法を開示する。特定の実施形態に係る方法は、患者の標的神経集団と電気的に通じる信号伝達装置を備える患者刺激システムの埋め込み部分を介して、患者に治療電気信号を供給する。電気信号は、第1の値を有する信号伝達パラメータに従って伝達される。患者刺激システムの埋め込み部分を用いて、信号伝達装置を含む電気回路のインピーダンス変化を検出する。さらに、本方法は、少なくとも部分的に、検出されたインピーダンス変化に基づいて、人による介入を行わずに、信号伝達パラメータの値を第1の値から第1の値とは異なる第2の値に自動的に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、患者の脊髄に治療電気信号を供給する間に検出される変化等、治療を行う回路のインピーダンス変化に基づいて、患者に対して行う電気治療を調整するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
痛み、運動障害、機能障害、痙攣、癌、心障害、その他の種々の病状を治療するために、神経刺激装置が開発されている。埋め込み型神経刺激システムは、一般に、埋め込み型パルス発生器と、神経組織や筋組織に電気パルスを伝達する1以上のリードとを有している。例えば、脊髄刺激(SCS)用の神経刺激システムには、断面円形のリード本体と、リード本体先端に互いに間隔を有して設けられた1以上の導電リングとを有する円筒状リードを備えたものがある。導電リングはそれぞれ個々の電極として動作し、多くの場合、SCSリードは、スタイレットによる補助を用いて、あるいは、そのような補助なしで、硬膜外腔に挿入された大型の針を介して経皮的に埋め込まれる。
【0003】
埋め込まれた状態になると、パルス発生器が電極に電気パルスを供給し、電極が、感覚刺激に対する患者の反応性を変える、及び/又は、患者の運動回路出力を変える等により、患者の神経系機能を修正する。痛みの治療では、パルス発生器が電極に電気パルスを供給し、電極が、患者の痛み感覚の遮蔽や変更を行うような感覚を発生させることができる。例えば、多くの場合、患者は、元の痛み感覚よりも快適だと感じられる、及び/又は、元の痛み感覚よりも不快ではないと感じられるピリピリ感や知覚異常があると言う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存の刺激システムに関するひとつの問題として、システムの状況、及び/又は、システムと患者のインタラクションが経時的に変化することがある。例えば、埋め込み部位に瘢痕組織が形成される、及び/又は、リードが患者の体内で移動する、及び/又は、リードが切断されたり、他の変化を起こしたりする場合に、刺激回路(埋め込み電極と患者の組織とを含む)のインピーダンスが変化する可能性がある。回路インピーダンスが変化すると、供給された信号の強度が変化し、信号の有効性の低下及び/又は患者の不快感が生じることがある。従って、長期間にわたって効果的かつ快適なやり方で患者の痛みに対処するための改良型の技術及びシステムが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(概要)
一般的な脊髄刺激治療計画、及び/又は、治療計画前の試行期間において、患者に電気治療を行う電気回路のインピーダンスは、種々の理由により変化することがある。例えば、患者が姿勢を変え、治療電極を保持する埋め込みリードが移動すると、異なるインピーダンス特性を有する組織及び/又は体液に電極が隣接することから、回路インピーダンスが変化する場合がある。回路インピーダンスが急に変化すると、患者は供給された電流及び/又は電圧の急な変化を感じ、患者が不快感を覚えるおそれがある。また、埋め込み部位に瘢痕組織がある、及び/又は、電極に瘢痕組織が集まり、電気信号を患者に与える際の有効性が低下する場合もある。さらに、個々の電極の短絡、あるいは、信号発生器からのリードの切断又は部分切断により、治療の有効性が低下したり有効性が失われたりする1以上の開回路が生じる場合もある。いずれの場合も、以下の開示の特定の側面により、回路インピーダンスの変化を自動的に検出し、患者の快適さの改善及び/又は治療有効性の改善を実現するようにその変化に自動的に対応することができる。
【0006】
本開示の一実施形態に係る方法では、患者の標的神経集団に電気的に通じている信号伝達装置を備えた患者刺激システムの埋め込み部分を介して、治療電気信号を患者に与える。電気信号は1以上の信号伝達パラメータに従って伝達される。また、本方法では、患者刺激システムの埋め込み部分を用いて、信号伝達装置を含む電気回路のインピーダンス変化を検出することができる。さらに、本方法では、少なくとも検出されたインピーダンス変化に基づき、人による介入を行わずに、信号伝達パラメータの値を自動的に調整することができる。従って、患者刺激システムの埋め込み部分により、インピーダンス変化を検出して、その検出した変化に対応するプロセスを自動的に行うことができる。
【0007】
本開示の他の側面に係る方法では、患者に治療を行う電気回路のインピーダンス変化を、時間関数として自動的に認識する。さらに、本方法では、少なくともインピーダンス変化を時間関数として認識することに基づき、インピーダンスの未来値を予測し、予測した未来値に基づいてタスクを自動的に実行する。代表的なタスクとしては、リード障害を予測すること、認識したインピーダンスの傾向が予想傾向に合致していることを確認すること、及び/又は、予測されるインピーダンス値の変化について患者又は治療者に通知することが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】本開示の一実施形態に係る、治療信号を伝達するために脊椎に配置された埋め込み型脊髄刺激システムの部分概略図である。
【図1B】本開示の方法によりインピーダンスが検出される1以上の治療回路を構成する電極接触部を備えたリードの部分概略図である。
【図2】検出された治療回路インピーダンスの変化に応じて、電気治療パラメータを調整するためのプロセスを示すフローチャートである。
【図3】本開示の他の実施形態に係る、治療回路インピーダンスの変化を検出し、その変化に対応するためのプロセスをさらに詳細に示すフローチャートである。
【図4A】本開示の一実施形態に係る代表的な検出システムの概略図である。
【図4B】本開示の他の実施形態に係る、インピーダンス変化を検出する代表的な回路の概略図である。
【図5A】本開示の実施形態に係る、インピーダンス検出を行うポイントを示す波形の概略図である。
【図5B】本開示の実施形態に係る、インピーダンス検出を行うポイントを示す波形の概略図である。
【図6】本開示の一実施形態に係る、インピーダンスの傾向に基づいて、インピーダンスの未来値を予測するためのプロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、一般に、電気治療を行う電気回路について検出されたインピーダンス変化に基づいて、電気治療パラメータを調整するシステム及び方法に関する。以下、慢性の痛みの治療に使用可能な脊髄刺激装置の治療パラメータを調整する場合を例に、本開示の特定の実施形態について具体的に詳細を説明する。なお、開示のシステム及び方法は、他の刺激装置及び/又は他の病状についても使用することができる。従って、幾つかの実施形態では、このセクションにて説明するものとは異なる構成、構成要素、あるいは手順を用い、他の実施形態では、特定の構成要素又は手順を省略する。従って、本発明が、追加構成要素を用いた他の実施形態をとることができる、及び/又は、図1A〜6を参照して以下に図示及び説明する特徴の幾つかを省略した他の実施形態をとることができることは、当該分野の通常の技術者であれば理解できるであろう。
【0010】
(代表的なシステム及び方法)
以下の説明において、図1A及び1Bは、患者の脊髄領域に埋め込まれたシステムの代表実施例を示し、図2〜6は、インピーダンス変化を検出して、検出した変化に対応するための代表的な方法と、関連する回路及び波形を示す。図1Aは、患者の脊髄191の一般解剖学構造に対して配置された、慢性的な痛み及び/又は他の病状を緩和するための代表的な治療システム100を概略的に示す。システム100はパルス発生器101を備えている。パルス発生器は、患者190の皮下に埋め込み、信号伝達素子109と接続することができる。代表例において、信号伝達素子109は、埋め込み後に患者190に治療を行うための機能又は素子を有するリード又はリード本体110を備えている。パルス発生器101は、リード本体110に直接接続することができるが、伝達リンク102(例えば、延長コード)を介してリード本体110に接続することもできる。ここで用いるリードやリード本体という用語には、患者190に治療信号を与えるための装置を有する任意の数の好適な基板及び/又は支持部材が含まれる。例えば、リード本体110は、患者の症状緩和等のため、患者の組織に電気信号を送り込む1以上の電極又は電気接触部により構成されてもよい。他の実施形態において、信号伝達素子109は、患者190に電気信号及び/又は他の種類の信号を送り込むリード本体以外の装置(例えば、パドル)を備えていてもよい。
【0011】
パルス発生器101は、標的神経の上方制御(例えば、刺激又は興奮)及び/又は下方制御(例えば、遮断又は抑制)を行う信号を信号伝達素子109に送る、ここで用いる「刺激する」、「刺激」という用語は、別段の記載がない限り、一般に、標的神経に対していずれかの種類の効果を有する信号のことである。パルス発生器101は、好適な治療信号の発生及び送信するための指示を保持する、機械読み取り可能な(例えば、コンピュータにより読み取り可能な)媒体を備えていてもよい。パルス発生器101、及び/又は、システム100の他の素子は、1以上のプロセッサ107、メモリ108及び/又は入出力装置を備えていてもよい。従って、コンピュータにより読み取り可能な媒体、例えば、(1以上の)プロセッサ107及び/又は(1以上の)メモリ108に保持された、コンピュータにより実行可能な指示によって、インピーダンスを判断し、継続管理を行うプロセスを行うことができる。パルス発生器101は、図1Aに示すように単一の収容部、あるいは、複数の収容部に収容された複数の部分、素子、及び/又は、サブシステム(例えば、複数の信号伝達パラメータに従って信号を送るためのもの)を備えていてもよい。これらの実施形態のいずれにおいても、パルス発生器101、及び/又は、システム100の他の埋め込み部品は、インピーダンスの変化を検出し、それに対応するための素子を備えていてもよい。
【0012】
幾つかの実施形態において、パルス発生器101は、治療信号を発生させるための電力を外部電源103から得ることができる。外部電源103は、電磁誘導(例えば、RF信号)により、埋め込まれたパルス発生器101に電力を送る。例えば、外部電源103は、埋め込み型パルス発生器101内の対応する内部コイル(図示せず)と通じる外部コイル104を備えていればよい。外部電源103は、使いやすいように持ち運び可能とすることができる。
【0013】
他の実施形態において、パルス発生器101は、外部電源103に加えて又は代えて、治療信号を発生させるための電力を内部電源から得ることができる。例えば、埋め込まれたパルス発生器101は、再充電できないバッテリ又は充電可能バッテリを備えて、このような電力を得てもよい。内部電源が充電可能バッテリにより構成される場合、外部電源103を使用してバッテリを充電すればよい。そして、外部電源103は、好適な電源(例えば、従来の壁面電源)により充電すればよい。
【0014】
パルス発生器101の埋め込み前の初期埋め込み手順の際に、外部プログラマ105(例えば、試行刺激装置)を信号伝達素子109に接続することができる場合もある。例えば、治療者(例えば、医師及び/又は会社代表者)は、外部プログラマ105を用いて、信号伝達素子109に与える刺激パラメータをリアルタイムに変化させ、最適あるいは特に効果的なパラメータを選択することができる。このプロセスの間、治療者は信号伝達素子109の位置を変えることもできる。外部プログラマ105を用いて信号伝達素子109の位置と適切な信号伝達パラメータを決定したら、患者190は、一般に所定期間、外部プログラマ105が発生させる信号を介して治療を受けることができる。代表的な適用例において、患者190は1週間このような治療を受ける。試行治療が効果的であること、あるいは、効果の見込みがあることを前提として、治療者は外部プログラマ105を埋め込み型パルス発生器101に取り換えて、試行期間における経験に基づいて選択されたパラメータを用いてパルス発生器101のプログラミングを行う。あるいは、治療者は信号伝達素子109を取り換えてもよい。埋め込み型パルス発生器101が患者190の体内に配置されてからも、パルス発生器101により得られる信号伝達パラメータは、医師の無線プログラマ(例えば、医師のリモコン)、及び/又は、患者の無線プログラマ106(例えば、患者のリモコン)を介して、遠隔的に更新することができる。一般に、患者190は治療者よりも制御できるパラメータが少ない。例えば、患者リモコン106の能力は、パルス発生器101の開始及び/又は停止、及び/又は、刺激振幅の調整に限定されている場合がある。
【0015】
上述の実施形態のいずれにおいても、パルス発生器101が信号供給の際に従うパラメータは、治療計画の一部において変更することができる。例えば、周波数、振幅、パルス幅、デューティ比、及び/又は、信号伝達位置は、所定のプログラム、患者及び/又は医師による入力に従って、及び/又は、ランダムあるいは擬似ランダム的に変更することができる。このようなパラメータ変更を用いて、患者の痛み知覚の変化、優先する標的神経集団の変化、及び/又は、患者の適応又は習慣化等、多くの臨床状況に対応することができる。また、このようなパラメータ変更を自動的に行って、検出したインピーダンス変化に対応することもできる。
【0016】
図1Bは、パルス発生器101に接続することができる代表的なリード110を示す。リード110は、患者に電気治療を行うために、その長さLに沿って任意の好適な数の接触部Cが配置されている。説明の都合上、図11Bには、個々の接触部C1、C2、…C11として識別される11個の接触部Cを示す。動作時には、各接触部Cのうちの1以上がカソードとなり、各接触部Cのうちの他の1以上がアノードとなる。各接触部Cは個々に扱うことができ、いずれか1つの接触部C、又は、いくつかの接触部Cの組み合わせがカソードとして動作し、いずれか1つの接触部C、又は、いくつかの接触部Cの組み合わせがアノードとして動作することができる。各接触部Cは、種々の組み合わせにより電気的にグループ化することができ、個々の接触部Cは治療計画における異なる時点に異なる機能(例えば、カソード機能及び/又はアノード機能)を行うことができる。これらの実施形態のいずれにおいても、各接触部Cは、対応するコンダクタ111を用いてパルス発生器101に接続することができる。各コンダクタ111は、その長さに沿って1以上の接続点を有していてもよい(例えば、パルス発生器101との接合点、及び、任意に延長コードとの接合点)。従って、ある一対の接触部Cの回路は、これら接触部Cと、接触部間にある患者の組織Tと、個々のコンダクタ111と、コンダクタ111に沿った接続点と、コンダクタ111とパルス発生器101との間の接続点とにより構成される。以下に説明するように、本開示の幾つかの側面においては、回路上の種々の点のいずれかにおける変化によって起こり得る全体的な回路インピーダンス変化を検出し、適切な対応を取る。
【0017】
図2は、本開示の特定の実施形態に係る全体プロセス220を示す。プロセス220では、埋め込まれたシステム又は部分的に埋め込まれたシステムを介して、患者に電気治療を行う(プロセス部225)。治療において、プロセス220ではさらに、システムの埋め込み部分を用いて、治療を行う電気回路のインピーダンス変化を検出することができる(プロセス部226)。さらに、プロセス220では、検出されたインピーダンス変化に基づいて、人による介入を行わずに、治療を行うための信号伝達パラメータを自動的に調整することができる(プロセス部227)。信号伝達パラメータとしては、信号強度、患者に治療を行う電気接触部の位置及び/又は数、及び/又は、他のパラメータがある。図3は、上述のプロセスの特定の実施形態のさらなる側面を示す。
【0018】
図3は、図2を参照して説明した全体プロセス220の各側面をさらに詳細に示すブロック図である。プロセス部221では、標的神経集団を認識する。例えば、プロセス部221では、患者の背骨に沿った特定の脊椎位置の1以上の神経集団を認識する。プロセス部222では、電気治療システムを埋め込む。例えば、図1A及び1Bを参照して説明した信号伝達素子109とパルス発生器101を埋め込む。図1Bを参照して説明したように、電気治療システムは、対応する初期インピーダンス値を有する少なくとも1つの電気治療回路を備えている。プロセス225では、初期インピーダンス値を有して埋め込まれたシステムを介して患者に電気治療を行う。インピーダンス値は経時的に変化することがあるが、これはプロセス部226で検出される。電気治療信号は、一般に時間変化する信号(例えば、パルス)であり、これに対応する回路は、容量及び/又は抵抗素子を備えることができる。従って、検出されたインピーダンスは、容量及び/又は抵抗成分を有していてもよい。特定の実施形態において、システムは、全体的なインピーダンスの抵抗成分と容量成分とを区別し、この情報を用いて、変更すべき適切な信号伝達パラメータを選択すればよい。例えば、インピーダンス変化が主に容量性の場合、信号伝達周波数を変更すれば、インピーダンス変化が主に抵抗性の場合よりも大きな効果がある。
【0019】
電気回路のインピーダンス変化は、回路に与える電力の変化(プロセス部227)、回路上の1以上のポイントにおける電圧の変化(プロセス部228)、回路を通る電流の変化(プロセス部229)、及び/又は、他の値の変化を検出することにより、検出することができる。特定の実施形態において(プロセス部230)、例えば、治療信号自体をサンプリングすることにより、治療信号を伝達する際に電気治療回路のインピーダンスを検出する。他の実施形態においては、電気治療回路に専用電気信号を供給してサンプリングすることにより、治療信号とは無関係に、インピーダンス及び/又はインピーダンス変化を検出することができる(プロセス部231)。従って、この構成を用いれば、そのときに治療信号を回路上でアクティブにしなくても、治療回路のインピーダンス及び/又はインピーダンス変化を検出することができる。
【0020】
上述の実施形態のいずれにおいても、プロセス220は、インピーダンス変化の大きさ及び/又は方向によって、異なるステップを有することができる。特定の実施形態では、プロセス部232にて、インピーダンス変化が増加か減少かを判断すればよい。変化が増加である場合、プロセス部233にて、回路が開いているか否かを判断すればよい。開回路の場合は、無限インピーダンスによって、あるいは、適切な閾値を超えるインピーダンス又はインピーダンス増加によってわかる。
【0021】
プロセス部233にて電気治療回路が開いていると判断された場合、プロセス部234〜240を行えばよい。例えば、プロセス部234にて、開回路を閉じる又は閉じようとする(プロセス部235)前に、信号強度(例えば、印加電流及び/又は電圧)を低下させればよい。特定の実施形態では、プロセス部234にて、回路を後で閉じたときに患者が不快感を覚えないように、信号強度をゼロ又は好適なゼロ以外の値に低下させればよい。プロセス部235にて、例えば、電気治療回路の一部を構成する接触部(例えば、図1Bに示すもの)のうちの1以上を変更すればよい。この変更は、パルス発生器101にて適切なスイッチを開閉することにより達成できる。この変更を行ったら、プロセス部236にて、治療回路に与える信号の強度を徐々に上げればよい。信号強度を下げてから(プロセス部234)、回路内の変化後に信号強度を徐々に上げること(プロセス部236)により、プロセス220では、患者に与える信号の急な増加によって患者に不快感を与えることを回避できる。
【0022】
信号強度が上がったら、プロセス部237にて、インピーダンスをチェックして、元のレベルに戻ったか、あるいは、それ以外の許容可能レベルに達したかどうかを判断すればよい。このプロセスでは、プロセス部227〜229を参照して説明したように、電力、電圧及び/又は電流をチェックすればよい。インピーダンスが許容可能レベルである場合、プロセス部238にて治療の提供を継続する。また、患者及び/又は治療者には、検出されたインピーダンス増加に対応する変更が行われたことを通知すればよい。通知は、振動信号、及び/又は、バッテリ充電動作又は診断動作の際に患者体外にダウンロードされた内部記憶信号等、種々の好適な形式のいずれであってもよい。変更によってもインピーダンスレベルの的確に改善されない場合、プロセス239にて、システムはチェックを行い、埋め込まれたリードのすべての接触部がチェックされたか否かを判断する。すべてチェックされていない場合、プロセスはプロセス部234に戻り、別の接触部を回路に配置する。すべての接触部がチェックされ、開回路を形成していると判断された場合、リードが切断されている場合があり、プロセス部240にて、任意の好適な通知方法によりユーザ及び/又は治療者にその旨を通知する。プロセス部250にて、システムは、開回路の判断のためにすべての接触部を再チェックすることにより、リードが再接続されているかどうかをチェックする。リードが再接続されていれば、システムはプロセス部236に戻り、信号強度を徐々に上げる。
【0023】
プロセス部232及び233にて、システムが、インピーダンスが減少した、あるいは、増加したが開回路には至らないと判断した場合、プロセス部241にて、インピーダンス値が許容可能レベルになるように信号伝達パラメータを自立的に調整する。そして、プロセス部241にて、プロセス部242〜245で認識したような種々の信号伝達パラメータのいずれかを変更すればよい。例えば、プロセス部242にて、電気治療回路内のアクティブ接触部の数を変更すればよい。アクティブ接触部の数は、特定の実施形態においては、回路インピーダンスが増加する場合に増加させればよく(例えば、並列電気パスを得るため)、他の実施形態においては、インピーダンスが減少する場合に減少させればよい。特定の例において、患者が姿勢を変えたり、リードが患者に対して位置を変えたりして、より高いインピーダンスを有する患者組織の一部にアクティブ接触部が隣接した結果、回路インピーダンスが増加する場合がある。アクティブ接触部の数を増やすことにより、より低いインピーダンスを有する患者組織の一部を回路に含むことができる。もちろん、このような変更を行ったときは、アクティブ接触部が配置される範囲が拡大しても、引き続き患者組織の適切な部分に治療が行われるようにする。例えば、このような変更のために図1Bに示す接触部のサブセットを使用し、あるいは、使用可能とし、はじめに意図した神経集団から遠すぎるところに治療信号を送ることを回避すればよい。
【0024】
他の実施形態において、システムは、治療回路のインピーダンスの減少を自動的に検出することができる。例えば、リードが患者の体内でインピーダンスの低下を招くような位置に移動した場合、システムはこれを自動的に検出することができる。この一例として、リードが初期位置から脳脊髄液に近接するように移動し、比較的低いインピーダンスとなることがある。このような場合、治療を行う電気接触部の数を減らせばよい。上述の実施形態のいずれにおいても、対応する変更を行ったら、プロセスはプロセス部251に進み、新たな回路が目標インピーダンス値を得ているか否かを判断する。得ている場合、プロセス部238にて、システムはさらに治療を行う。また、システムは、更新情報を患者及び/又は治療者に通知することができる。変更を行っても目標インピーダンス値が得られない場合、プロセスはプロセス部241に戻る。このとき、別の電極の組み合わせを用いてプロセス部242を再実行してもよく、あるいは、プロセス部243〜245のいずれを実行してもよい。
【0025】
プロセス部243にて、例えば、アクティブ接触部の数を増減させずに、アクティブ接触部の変更を行う。特定の例では、プロセス部243にて、ある接触部の代わりに別の接触部を用いてもよい。代わりに用いる接触部はアノード接触部でもカソード接触部でもよく、幾つかの実施形態においては、アノードとカソードの両方の接触部を変えてもよい。接触部を変更したら、インピーダンスをチェックして(プロセス部251)、プロセスは上述とほぼ同様に進む。
【0026】
プロセス部244にて、インピーダンスの変化に応じて信号強度を調整する(強度を上げる又は下げる)。信号強度は、電圧レベル、電流レベル、及び/又は、電力レベルに対応する。そして、プロセス部244では、プロセス部252に示すような更新した強度値(例えば、更新した電圧値又は電流値)を選択した後、更新強度が所定のコンプライアンス値を超えるか否かの判断(プロセス部246)を行ってもよい。例えば、一般的な定電流源は、印加電圧を変更しつつ、所定のコンプライアンス電圧値未満、例えば、プログラミングされたコンプライアンス電圧未満に印加電圧を維持することにより、定電流の信号を供給する。選択された更新強度値がコンプライアンス値を超えなくなった場合、プロセス部251にてインピーダンスの再チェックを任意に行えばよく、システムはさらに治療を行うことができる(プロセス部238)。この場合、信号強度を変更してもインピーダンスは変化しないので、プロセス部251のインピーダンスチェックは任意でよい。
【0027】
プロセス部246にて、選択された更新強度値がコンプライアンス値を超えると判断した場合、プロセス部247にてコンプライアンス値を調整する。上述のように、定電流源は、効果的に定電流を生成するように、回路インピーダンスにおける少なくとも幾つかの変化に対応するように印加電圧を自動的に調整する。回路インピーダンスが増加して、最大コンプライアンス電圧値以内の電圧変化で対応できるレベルを超えてしまう場合、患者の安全と快適性を得るために設定した所定の限界内で、コンプライアンス電圧を調整すればよい。従って、プロセス部248にて、システムは、このようなコンプライアンス電圧の調整可能範囲の所定限度を超えたか否かを判断する。超えていない場合、インピーダンスを任意にチェックすればよく(プロセス部251)、患者に治療を行うことができる(プロセス部238)。必要なコンプライアンス値が所定限度を超える場合、プロセス部249にて、コンプライアンス値を変更可能量の所定限度を超えずに推奨信号強度を利用できない旨を、ユーザ及び/又は治療者に通知すればよい。このような通知に加えて又は代えて、プロセスは、プロセス部242(アクティブ接触部の数の変更)、プロセス部243(どの接触部がアクティブかについての変更)、及び/又は、プロセス部245(他のパラメータの変更)等、他の信号伝達パラメータの調整方法のうちのいずれかに自動的に戻ることができる。変更できる他のパラメータとして、周波数、パルス幅、及び/又は、デューティ比が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
幾つかの実施形態において、例えば、増加した回路インピーダンスに対応するために、コンプライアンス電圧値を大きくする。他の実施形態においては、例えば、インピーダンスの低下に応じてコンプライアンス電圧値を小さくする。上述の実施形態のいずれにおいても、システムの消費電力を少なくするように、有効信号強度の信号を供給しつつ、コンプライアンス値をできるだけ小さく維持することが有利である。従って、システムは、コンプライアンスマージン(例えば、コンプライアンス電圧と実際に供給される電圧との差)を自動的に調整すればよい。例えば、システムは、コンプライアンスマージンを、実際に供給される電圧(例えば、更新強度値)より高い所定レベル(ボルト又はミリボルト)になるように自動的に設定すればよい。他の実施形態においては、コンプライアンスマージンを更新強度値の所定パーセントとすることができる。さらに他の実施形態において、コンプライアンスマージンは可変であり、所要の強度摂動範囲に基づいて、例えば、そのときに用いる強度値から更新強度値がどの程度はずれているかに基づいて、自動的に調整することができる。この範囲が広い場合、それに応じてコンプライアンスマージンを広くすることで、コンプライアンス値を繰り返し調整しなければならない事態を避けることができる。この範囲が狭い場合、それに応じてコンプライアンスマージンを狭くし、消費電力を低減することができる。従って、特定の実施形態において、システムは以前の摂動を自動的に追跡して、コンプライアンスマージンを自動的に調整することができる。
【0029】
特定の例において、上述の構成により、新たに埋め込まれたリードが「留置」されるとインピーダンス摂動範囲が徐々に小さくなるが、これを追跡することができる。また、信号強度の上方修正を頻繁に必要とするほど瘢痕組織が集まり続ける場合、及び/又は、回路インピーダンスに影響を与えるような他の変化がリード及び/又は患者に生じた場合、システムはインピーダンス摂動範囲の拡大を追跡することができる。
【0030】
上述のシステム及び方法は、種々の異なるモードによる動作が可能である。例えば、第1の動作モードにおいて、システムは、アクティブな治療接触部のみを有する1以上の回路のインピーダンスをチェックすることができる。第1の動作モード中、システムは、(1又は複数の)アクティブ接触部についてインピーダンス変化を認識した場合、第2の動作モード中に非アクティブ接触部のインピーダンスをチェックすればよい。第2のモード中に得られたインピーダンス測定値に基づいて、システムは、どの接触部がアクティブで、どの接触部が非アクティブであるかを自動的に変更すればよい。この構成により、1以上のアクティブ接触部についてインピーダンス変化が認識されたときだけ非アクティブ接触部をチェックするので、インピーダンスチェックを行うのに必要な時間と電力を低減することができる。
【0031】
ここで説明した幾つかの実施形態の一特徴は、システム100が、システムの埋め込み部分を介してインピーダンス変化を自動的に認識し、患者又は治療者による介入を行わずに、適切な動作を自動的に行うことができることである。この特徴により、システムが外部分析及び/又は診断に頼る必要がないため、より迅速に、及び/又は、より都合よく、動作を実行できるという利点がある。
【0032】
ここで説明した幾つかの実施形態の他の特徴は、システム100が、開回路(例えば、リードの切断)を自動的に認識し、その開回路を閉じた後に与える治療信号の強度を徐々に上げることができることである。治療信号を急に目標強度値で与えると急なショックや不快感を生じることがあるが、上記の特徴により、このようなショックや不快感を患者に与える可能性が低くなる、又は、なくなるという利点がある。
【0033】
ここで説明した幾つかの実施形態のさらに他の特徴は、システム100が、所定のコンプライアンスレベル(例えば、電圧又は電流)を自動的に調整して、インピーダンス変化に対応できることである。コンプライアンスレベルを上げることで、システム全体の効率が下がる(例えば、消費電力が大きくなる)場合、患者には、動的に更新される効果的な治療を短期間に与えればよい。この構成により、患者は、インピーダンス変化の原因(例えば、リードの移動や瘢痕組織)に対処するための院内処置が必要となるような場合と異なり、電源の再充電又は交換が行われるまで効果的な治療を引き続き受けることができる。
【0034】
また、開示された幾つかの実施形態のさらに他の特徴は、患者が治療を受けている間に、システムがインピーダンス変化を検出できることである。このため、この機能を行うために患者の治療を中断する必要がない。また、システムは、ある時点で治療を行うリード接触部のインピーダンスをチェックするだけでなく、他の接触部をチェックすることもできる。従って、システムは、現在アクティブな接触部の代わりに又はそれらに加えて用いることができる他の接触部を容易に認識し、インピーダンスの変化に対処することができる。また、この構成により、システムは、現在アクティブな接触部だけでなく、それ以外の接触部にも影響を与える可能性がある状況を迅速に認識することができる。このような状況としてリードの切断が挙げられる。
【0035】
図4Aは、本開示の一実施形態に係るインピーダンス検出に用いられるシステム100の一部を示す概略図である。システム100はインピーダンス検出器119を備えることができ、インピーダンス検出器119は、アナログ−デジタル(A/D)変換器112に接続されるマイクロコントローラ又はマイクロプロセッサ107を有する。A/D変換器112は、1以上の電気接触部を有する刺激回路113に接続され、患者190に埋め込まれる。従って、A/D変換器112はアナログ信号(例えば、電圧及び/又は電流レベル)をデジタル値に変換し、このデジタル値をマイクロプロセッサ107が分析して、インピーダンス変化を認識する。
【0036】
図4Bは、図1及び4Aを参照して説明したシステム100の一実施形態の代表的な回路図である。この特定の実施形態において、A/D変換器112は分圧器114に接続され、分圧器114は、イネーブル測定スイッチ115を介して刺激回路113に選択的に接続可能である。他の実施形態において、分圧器114の代わりに他の好適な素子、例えば、増幅器を用いることもできる。これらの実施形態のいずれにおいても、刺激回路113は、コンプライアンス電圧入力117を受ける定電流源116を備えることができる。コンプライアンス電圧入力117は、上述のように、初期設定することができ、その後、さらなる所定限度内で任意に調整することができる。定電流源116は接触部セレクタ118に接続することができ、接触部セレクタ118は、患者190に配置された接触部C1、C2、…C11に接続される。接触部セレクタ118は、患者への治療実施、及び/又は、インピーダンス検出のための接触部C1〜C11のうちの1つ以上を選択するのに使用される種々の好適なスイッチ装置のいずれを用いてもよい。回路には、接触部Cの1以上の組み合わせについて電流方向を選択的に反転させるHブリッジ又は他の好適な素子を備えることができる。他の実施形態において、システム100は、他の好適な構成、例えば、定電流源ではなく定電圧源を用いる、あるいは、定電流源に加えて電流シンクを用いる、及び/又は、当該分野の通常の技術者にとっては周知の他の好適な構成を有することもできる。
【0037】
上述の実施形態のいずれにおいても、検出器119は、一般に、少なくとも2つの接触部、例えば、C1とC2を含む回路のインピーダンスを検出する。回路インピーダンスが所定の閾値よりも大きくなる場合、システムは、例えば、C1とC3、C1とC4といった具合に他の接触部を自動的に通るようにする。この逐次プロセスは、患者の治療を続けるのに好適な接触部の組み合わせならば、いずれの組み合わせにおいても達成することができる。しかし、これらのいずれの場合においても、対象回路のインピーダンスには、回路内のすべての接触部のインピーダンスが含まれる。従って、マイクロプロセッサ107は、インピーダンス変化を孤立させて特定の1又は複数の接触部に限定する種々の手段の1以上を備えることができる。例えば、一例において、公称インピーダンスを、回路に含まれる他の接触部に割り当て(例えば、複数の接触部が回路内で並列に接続されている場合)、それを全インピーダンスから差し引くことによって、ある接触部のインピーダンスを得ることができる。他の実施形態において、一連の多変数方程式を用いて、各接触部のインピーダンスを求めることができる。このような構成では、他の場合のよりも消費電力が大きいことが予想されるため、少なくとも幾つかの実施形態においては、好適な電力が利用可能な場合のみ、このような構成を選択する。他の手法として、マイクロプロセッサ107は、1つの接触部についての初期測定値を用いて他の接触部の値を推定し、他の接触部を有する回路のインピーダンスを認識するときにこのプロセスを繰り返すことで、逐次比較方式を用いることができる。上述の実施形態のいずれにおいても、検出器119は、インピーダンス値及び/又はインピーダンス値変化を取得し、これらは図2及び3を参照して説明した自動変更を行うマイクロプロセッサ107の他の機能素子への入力として供給される。
【0038】
図5Aは、複数のパルス571を有する代表的な波形570aを示す。各パルスは、患者に治療を行うためのカソードフェーズ572とアノードフェーズ573とを有している。本実施形態の特定の側面において、図4Bを参照して説明した回路を介して波形570aを直接サンプリングし(例えば、カソードフェーズ572にて)、回路インピーダンスを認識する。例えば、矢印Sは好適なサンプリングポイントを示す。特定の実施形態において、波形570aを複数のポイントにてサンプリングし、その結果を分析して、複素インピーダンス値を得ることができる。
【0039】
図5Bは、別の波形570bであり、休止期間によって分離されたパルス571のバーストが複数存在する波形570bを示す。本実施形態では、休止期間において別の検出パルス574を波形570bに重畳することができる。従って、回路のインピーダンス特性は、検出パルス574に関するインピーダンスを分析することによって判断される。さらに他の実施形態において、そのときに治療を行っていない回路に検出パルス574を与えることがきる。この場合、波形570bは、検出パルス574があること以外は、全体として休止となる。これらの実施形態のいずれにおいても、検出パルス574は、患者の運動反応及び/又は知覚反応を引き起こすことを避けるために、閾値下のリードに与えるのが一般的である。
【0040】
上述の実施形態のいずれにおいても、治療信号は、約1.5kHz〜約100kHzの周波数、約50%〜約100%のデューティ比で与えることができ、例えば、約10ミリ秒〜約2ミリ秒の時間、刺激信号をオンにし、約1ミリ秒〜約1.5ミリ秒の時間、オフにすることができる。用いるパルスは、幅が約30〜35マイクロ秒、振幅が約1mA〜約4mAの範囲とすればよい。他の代表的なパラメータについては、係属中の米国仮出願第61/176,868号に記載されており、本願にて参照することにより援用する。他の実施形態において、これらのパラメータは、種々の患者の状態に対処するために、種々の神経集団に対する治療に好適な様々な値をとることができる。
【0041】
図6は、本開示の他の実施形態に係るプロセス620を示すフローチャートである。プロセス620では、患者に電気治療を行い(プロセス部625)、治療を行う際の電気回路のインピーダンス変化を、時間関数として自動的に認識すること(プロセス部626)ができる。プロセス部626で得られた情報に基づいて、プロセス部627では、インピーダンスの未来値を予測することができる。例えば、一次又は高次の関数、最小二乗曲線適合、あるいは、その他の手法等、好適な外挿法により未来値を予測することができる。予測したインピーダンス未来値に基づいて、プロセス部628にて、例えば、人による介入を行わずに、自動的にタスクを実行することができる。代表的なタスクとして、例えば、リードのインピーダンスが断続的に過剰になる場合、リード障害を予測することが挙げられる。他の実施形態では、プロセス部628にて、例えば、インピーダンスが安定した増加を示す場合、リード周辺の瘢痕組織形成により生じるような過剰インピーダンスを予測することができる。プロセス部628を介して行うことができるさらに他の機能としては、プロセス部626で認識したインピーダンスの傾向が、予想される傾向、例えば、瘢痕組織の予想増加量から得られる予想傾向又は計画に合致していることを確認する。さらに他の実施形態においては、タスクとして、上述の信号伝達パラメータのいずれかを更新すること、及び/又は、上述のようなコンプライアンス値及び/又はコンプライアンスマージンを調整することができる。これらの実施形態のいずれにおいても、プロセス部628では、患者及び/又は治療者に通知を行うことができ、これは単独で行ってもよく、また、上述の動作のいずれと組み合わせてもよい。
【0042】
以上、例示を目的として本開示の具体的な実施形態について説明してきたが、本開示から逸脱しない範囲で種々の変更を行えることがわかるであろう。例えば、慢性の痛みを治療するための脊髄刺激という場合を例に、本開示の幾つかの側面について説明したが、他の実施形態において、他の神経集団に対して治療を行う場合、及び/又は、他の病状の場合のインピーダンス変化及び/又は傾向を認識するために、同様の手法を用いてもよい。他の実施形態においては、上述の信号伝達パラメータは、例えば、上述の1.5kHz〜100kHzよりも低い周波数等、他の値を有してもよい。検出回路は、ここで具体的に開示したもの以外の構成をとることも可能である。マイクロプロセッサは、種々の好適なプログラミング言語や手法を用いて、検出されたインピーダンス変化への対応を行うことができる。
【0043】
特定の実施形態を例に説明した上述の開示内容の幾つかの側面は、他の実施形態において組み合わせ又は省略することができる。例えば、図6を参照して説明したインピーダンスの傾向を予測するプロセスは、図2及び3を参照して説明したインピーダンス値調整プロセスと組み合わせてもよい。インピーダンス値は、係属中の米国仮出願第61/151,464号に開示されるように、患者の姿勢又は活動に調和するような方法で追跡すればよい。この仮出願については、本願で参照することにより援用する。インピーダンス変化を時間関数として追跡し、インピーダンスの未来値を予測する方法は、幾つかの実施形態においては、システムの埋め込み部分により行う必要はなく、患者の体外で行うことができる。さらに、幾つかの実施形態に係る利点について、これらの実施形態の場合を例に説明したが、他の実施形態でもそのような利点を得られることもあり、本開示の範囲に一致するために、必ずしもすべての実施形態でそのような利点が得られる必要はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者治療装置の制御方法であって、
患者の標的神経集団と電気的に通じている信号伝達装置を備える患者刺激システムの埋め込み部分を介して、第1の値を有する信号伝達パラメータに従って伝達される治療電気信号を患者に供給し、
前記患者刺激システムの埋め込み部分を用いて、前記信号伝達装置を含む電気回路のインピーダンス変化を検出し、
少なくとも部分的に前記検出されたインピーダンス変化に基づいて、人による介入を行わずに、前記信号伝達パラメータを前記第1の値から前記第1の値とは異なる第2の値に自動的に調整することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記電気信号の伝達を停止することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記信号の強度、パルス幅、デューティ比のうちの少なくとも1つを変更することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電気信号を第1の接触部セットに供給し、前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記第1の接触部セットとは異なる部材を有する第2の接触部セットに前記電気信号を供給することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
電気回路のインピーダンス変化の検出において、前記標的神経集団を含む電気回路のインピーダンス変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
治療電気信号の供給において、前記信号伝達装置により保持されるとともに患者の組織に対して露出した埋め込み電気接触部を介して、前記電気信号を供給することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
治療電気信号の供給において、患者の脊髄領域に前記信号を供給することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
インピーダンス変化の検出において、インピーダンスの増加を検出することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記電気信号が供給される埋め込み電気接触部の数を増やすことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記電気信号を第1の埋め込み電気接触部セットに供給し、前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記第1の接触部セットとは異なる部材を有する第2の埋め込み電気接触部セットに前記電気信号を供給することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記信号の強度を上げることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記刺激システムの埋め込み部分は、第1の値のコンプライアンス電圧レベルを有する定電流源を備え、前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、
前記コンプライアンス電圧レベルを前記第1の値から前記第1の値より高い第2の値に上げ、
前記信号の強度を前記第1の値で利用可能な強度より高くすることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
インピーダンスの増加の検出において、前記信号伝達装置に供給される電力の増加と相関がある増加を検出することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項14】
インピーダンスの増加の検出において、開回路を検出することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記電気信号の強度を下げてから、前記回路を閉じた後に前記電気信号の強度を徐々に上げることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
インピーダンスの変化の検出において、インピーダンスの減少を検出することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記電気信号の強度を下げることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
減少の検出において、前記信号伝達装置の前記電気接触部が脳脊髄液に近接することによる減少を検出することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
減少の検出において、前記信号伝達装置の電気接触部間の電気的短絡による減少を検出することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
インピーダンス変化の検出において、前記信号伝達装置における瘢痕組織形成によるインピーダンス変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
インピーダンス変化の検出において、患者に対する前記信号伝達装置の位置変化によるインピーダンス変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】
インピーダンス変化の検出において、患者の姿勢の変化によるインピーダンスの変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項23】
インピーダンス変化の検出において、インピーダンス変化を時間関数として検出し、前記方法は、さらに、インピーダンスの未来の変化についての傾向を決定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項24】
インピーダンス変化の検出において、前記治療電気信号を監視することによりインピーダンス変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項25】
インピーダンス変化の検出において、前記治療電気信号に加えて電気信号を供給し、この追加電気信号を監視することによりインピーダンス変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項26】
信号伝達パラメータの自動調整において、検出されたインピーダンス変化に応じて、電気信号が伝達される際に従うコンプライアンス値を自動的に調整することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項27】
信号伝達パラメータの自動調整において、検出されたインピーダンス変化に応じて、電気信号が伝達される際に従うコンプライアンスマージンを自動的に調整することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項28】
患者治療装置の制御方法であって、
患者の標的神経集団と電気的に通じている信号伝達電気接触部を備える患者刺激システムを介して、第1の値の信号伝達パラメータを有する治療電気信号を患者に供給し、
前記信号伝達電気接触部を含む電気回路のインピーダンス変化を、時間関数として自動的に認識し、
前記インピーダンス変化を時間関数として認識することに少なくとも部分的に基づいて、前記インピーダンスの未来値を予測し、
前記予測されたインピーダンス未来値に少なくとも部分的に基づいて、自動的にタスクを実行することを特徴とする方法。
【請求項29】
タスクの自動的実行において、時間関数として認識されたインピーダンス変化を、目標インピーダンス変化率と自動的に比較することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
タスクの自動的実行において、人による介入を行わずに、前記信号伝達パラメータの値を前記第1の値から前記第1の値とは異なる第2の値に自動的に調整することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項31】
タスクの自動的実行において、
人による介入を行わずに、前記信号伝達パラメータの値を前記第1の値から前記第1の値とは異なる第2の値に自動的に調整し、
前記信号伝達パラメータの前記第2の値を用いて、第2の治療電気信号を患者に供給することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項32】
時間関数としてインピーダンス変化を自動的に認識することにおいて、人による介入を行わずに、患者に埋め込まれた患者刺激システム部分を用いて、前記変化を時間関数として自動的に認識することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項33】
時間関数としてインピーダンスの変化を自動的に認識することにおいて、患者の体外の患者刺激システム部分を用いて、前記変化を時間関数として自動的に認識することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記インピーダンスの未来値の予測において、過去の値に基づいて未来値を外挿することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項35】
患者治療システムであって、
パルス発生器と、埋め込まれたときに患者の標的神経集団と電気的に通じるように配置された電気接触部を有する信号伝達装置とを備えた患者埋め込み可能部と、
前記埋め込み可能部によって保持されるインピーダンス検出器であって、前記電気接触部を含む電気回路に動作可能に接続され、前記電気回路のインピーダンスを検出するインピーダンス検出器と、
前記患者埋め込み可能部によって保持されるプロセッサであって、実行時に、
前記インピーダンス検出器からインピーダンス変化を示す情報を受け取り、
少なくとも部分的に前記検出されたインピーダンス変化に基づいて、かつ、人による介入を行わずに、前記患者埋め込み部が前記電気接触部に電気信号を伝達する際に従う信号伝達パラメータの値を自動的に調整する
という指示がプログラミングされた、コンピュータにより読み取り可能な媒体を備えるプロセッサと
を有することを特徴とするシステム。
【請求項36】
前記プロセッサは、実行時に前記電気信号の振幅を自動的に調整するという指示がプログラミングされることを特徴とする請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
前記プロセッサは、実行時に前記電気信号を自動的に終了するという指示がプログラミングされることを特徴とする請求項35に記載のシステム。
【請求項38】
前記電気信号を第1の接触部セットに供給し、前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記第1の接触部セットとは異なる部材を有する第2の接触部セットに前記電気信号を供給することを特徴とする請求項35に記載のシステム。
【請求項39】
前記埋め込み可能部は、第1の値のコンプライアンス電圧レベルを有する定電流源を備え、前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、
前記コンプライアンス電圧レベルを前記第1の値から前記第1の値より高い第2の値に上げ、
前記信号の強度を前記第1の値で利用可能な強度より高くすることを特徴とする請求項35に記載のシステム。
【請求項40】
前記埋め込み可能部は、第1の値のコンプライアンス電圧レベルを有する定電流源を備え、前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記コンプライアンスレベルを前記第1の値から前記第1の値より低い第2の値に下げることを特徴とする請求項35に記載のシステム。
【請求項41】
インピーダンス変化の指示の受け取りにおいて、開回路を示す情報を受け取ることを特徴とする請求項35に記載のシステム。
【請求項42】
前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記電気信号の強度を下げてから、回路が閉じた後に前記電気信号の強度を徐々に上げることを特徴とする請求項41に記載のシステム。
【請求項43】
前記パルス発生器は、治療電気信号と診断信号とを出力し、前記インピーダンス検出器は、前記電気回路に接続されて診断電気信号の特性を検出することを特徴とする請求項35に記載のシステム。
【請求項44】
前記信号伝達パラメータの値の自動調整において、前記電気信号が伝達される際に従うコンプライアンス値とコンプライアンスマージンのうちの少なくとも1つを自動的に調整することを特徴とする請求項35に記載のシステム。
【請求項45】
患者治療システムであって、
パルス発生器と、埋め込まれたときに患者の標的神経集団と電気的に通じるように配置された電極を有する信号伝達装置とを備えた患者埋め込み可能部と、
前記電極を含む電気回路に動作可能に接続され、前記電気回路のインピーダンスを検出するインピーダンス検出器と、
実行時に、
前記電気回路のインピーダンスの変化を時間関数として自動的に認識し、
前記インピーダンス変化を時間関数として認識することに少なくとも部分的に基づき、前記インピーダンスの未来値を予測し、
前記予測されたインピーダンスの未来値に少なくとも部分的に基づき、自動的にタスクを実行するという指示がプログラミングされた、コンピュータにより読み取り可能な媒体を備えるプロセッサと
を有することを特徴とするシステム。
【請求項46】
前記プロセッサは、前記患者埋め込み可能部によって保持されることを特徴とする請求項45に記載のシステム。
【請求項47】
タスクの自動的実行において、前記認識されたインピーダンス変化を、所定のインピーダンス変化計画と比較することを特徴とする請求項45に記載のシステム。
【請求項48】
タスクの自動的実行において、自動的に通知を行うことを特徴とする請求項45に記載のシステム。
【請求項49】
インピーダンス変化の認識において、断続的なインピーダンスの増加を認識し、インピーダンスの未来値の予測において、前記信号伝達装置の障害を予測することを特徴とする請求項45に記載のシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−532672(P2012−532672A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519569(P2012−519569)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/040081
【国際公開番号】WO2011/005607
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(510119625)ネヴロ コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】