インフルエンザウイルスの生産用多重プラスミドシステム
【課題】組換えインフルエンザワクチンとして適切なインフルエンザウイルスを細胞培養生産するためのベクター及び方法を提供する。多重プラスミドインフルエンザウイルス発現システムで使用するための両方向発現ベクターを提供する。
【解決手段】感染性B型インフルエンザウイルスを細胞培養で生産するためのヘルパーウイルスフリー方法であって、i)B型インフルエンザウイルスゲノムの核酸配列を含む複数のプラスミドベクターをVero細胞集団にエレクトロポレーションする段階と;ii)Vero細胞集団をウイルス複製に許容可能な条件下で培養する段階と;iii)複数の感染性B型インフルエンザウイルスを回収する段階を含む前記方法。
【解決手段】感染性B型インフルエンザウイルスを細胞培養で生産するためのヘルパーウイルスフリー方法であって、i)B型インフルエンザウイルスゲノムの核酸配列を含む複数のプラスミドベクターをVero細胞集団にエレクトロポレーションする段階と;ii)Vero細胞集団をウイルス複製に許容可能な条件下で培養する段階と;iii)複数の感染性B型インフルエンザウイルスを回収する段階を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
本願は米国仮特許出願第60/375,675号(出願日2002年4月26日);第60/394,983号(出願日2002年7月9日);第60/410,576号(出願日2002年9月12日);第60/419,802号(出願日2002年10月18日);第60/420,708号(出願日2002年10月23日);第60/457,699号(代理人整理番号26−000250US;出願日2003年3月24日)、及び代理人整理番号26−000260US(発明の名称「インフルエンザウイルスの生産用多重プラスミドシステム(Multi−Plasmid System for the Production of Influenza Virus)」,出願日2003年4月10日)の優先権を主張し、前記各出願の開示内容全体を全目的で本明細書に組込む。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスはセグメント化された1本鎖RNAゲノムを含む内部リボヌクレオプロテインコアとマトリックス蛋白質により裏打ちされた外部リポプロテインエンベロープから構成される。インフルエンザA及びBウイルスは各々負極性をもつ1本鎖RNAの8個のセグメントを含む。インフルエンザAゲノムは少なくとも11種のポリペプチドをコードする。セグメント1−3はRNA依存性RNAポリマーを構成する3種のポリペプチドをコードする。セグメント1はポリメラーゼ複合蛋白質PB2をコードする。残りのポリメラーゼ蛋白質PB1及びPAは夫々セグメント2及び3によりコードされる。更に、所定のインフルエンザA株のセグメント1はPB1コーディング領域内の別の読み枠から産生される小蛋白質PB1−F2をコードする。セグメント4は感染中の細胞接着及び侵入に関与するヘマグルチニン(HA)表面糖蛋白質をコードする。セグメント5はウイルスRNAに関連する主要構造成分であるヌクレオキャプシドヌクレオプロテイン(NP)ポリペプチドをコードする。セグメント6はノイラミニダーゼ(NA)エンベロープ糖蛋白質をコードする。セグメント7はディファレンシャルスプライシングされたmRNAから翻訳される2種のマトリックス蛋白質M1及びM2をコードする。セグメント8はオルタナティブスプライシングされたmRNA変異体から翻訳される2種の非構造蛋白質NS1及びNS2(NEP)をコードする。
【0003】
インフルエンザBの8個のゲノムセグメントは11種の蛋白質をコードする。3個の最大遺伝子はRNAポリメラーゼの成分PB1、PB2及びPAをコードする。セグメント4はHA蛋白質をコードする。セグメント5はNPをコードする。セグメント6はNA蛋白質とNB蛋白質をコードする。蛋白質NB及びNAはいずれも2シストロン性mRNAのオーバーラップする読み枠から翻訳される。インフルエンザBのセグメント7も2種の蛋白質M1及びBM2をコードする。最小セグメントは2種の産物をコードし、NS1は全長RNAから翻訳され、NS2はスプライスmRNA変異体から翻訳される。
【0004】
インフルエンザウイルスに特異的な防御免疫応答を生じることが可能なワクチンは50年以上前から生産されている。ワクチンは全ウイルスワクチン、スプリットウイルスワクチン、表面抗原ワクチン及び生弱毒ウイルスワクチンとして特徴付けることができる。これらのワクチン型のいずれも適切な製剤は全身免疫応答を生じることができるが、生弱毒ウイルスワクチンは気道で局所粘膜免疫を刺激することもできる。
【0005】
FluMist(登録商標)は幼児と成人をインフルエンザ疾患から防御する生弱毒ワクチンである(非特許文献1;非特許文献2)。FluMist(登録商標)ワクチン株は現在流布している野生型株に由来するHA及びNA遺伝子セグメントと一般マスタードナーウイルス(MDV)に由来する6個の遺伝子セグメントPB1,PB2,PA,NP,M及びNSを含む。FluMistのインフルエンザA株(MDV−A)のMDVは初代ニワトリ腎組織培養で順次温度を下げてwtA/Ann Arbor/6/60(A/AA/6/60)株を連続継代することにより作製された(非特許文献3)。MDV−Aは25℃で効率的に複製する(ca,低温適応)が、その増殖は38℃と39℃に制限される(ts,温度感受性)。更に、このウイルスは感染させたフェレットの肺では複製しない(att,弱毒)。ts表現型は気道の最低温領域以外の全領域にその複製を制限することによりヒトでワクチンを弱毒するのに有用であると考えられる。この特性の安定性は動物モデルと臨床試験で実証されている。化学的突然変異誘発により作製されたインフルエンザ株のts表現型とは対照的に、MDV−Aのts特性は感染させたハムスターの継代後又は幼児から脱落した単離体で復帰変異しなかった(最近の報告については、非特許文献4参照)。
【0006】
12種の別個の6:2リアソータント株を含む20,000人を超える成人と幼児の臨床試験から、これらのワクチンは弱毒され、安全で有効なことが示されている(非特許文献1;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献2)。MDV−Aの6個の内部遺伝子とwtウイルスの2個のHA及びNA遺伝子セグメントをもつリアソータント変異体(6:2リアソータント変異体)はca、ts及びatt表現型を常に維持する(非特許文献7)。
【0007】
現在までに米国で市販されている全インフルエンザワクチンは発育鶏卵で増殖されている。インフルエンザウイルスは鶏卵で良好に増殖するが、ワクチン生産が鶏卵の入手可能性に依存する。鶏卵供給を組織化しなければならず、次の流感時期の数カ月前にワクチン生産用株を選択しなければならないため、このアプローチのフレキシビリティは制限され、生産販売の遅れや不足を生じることが多い。
【0008】
インフルエンザウイルスの細胞培養生産システムも近年開発されている(例えば、非特許文献8;非特許文献9参照)。一般に、これらの方法は適当な不死化宿主細胞に選択ウイルス株を感染させる。鶏卵でのワクチン生産に関連する問題の多くは解消するが、インフルエンザの全病原株が良好に増殖するわけではなく、既存組織培養法に従って生産できるわけでもない。更に、生弱毒ワクチンの生産に適した望ましい特徴(例えば弱毒、温度感受性及び低温適応)をもつ多くの株は既存方法を使用して組織培養で増殖するのに成功していない。
【0009】
組換えDNAからインフルエンザウイルスを生産するならば、インフルエンザワクチンの組織培養生産法のフレキシビリティと有用性が著しく増すと思われる。最近、ウイルスゲノムをコードするcDNAを組込んだ組換えプラスミドからインフルエンザAウイルスを生産するためのシステムが報告されている(例えば、非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;特許文献1参照)。これらのシステムは任意選択株から免疫原性HA及びNA蛋白質を発現する組換えウイルスとリアソータントウイルスを生産する可能性を提供している。しかし、インフルエンザAウイルスと異なり、インフルエンザBウイルスのプラスミドオンリーシステムについて記載した報告はまだ発表されていない。
【0010】
更に、現在入手可能なプラスミドオンリーシステムのうちで生弱毒ワクチン生産に適した弱毒、温度感受性、低温適応株を作製するのに適切なものは皆無である。本発明は完全にクローン化cDNAからインフルエンザBウイルスを作製するための8プラスミドシステムと、鼻腔内投与に有用な生ウイルスワクチン製剤等のワクチン製剤に適した弱毒生インフルエンザA及びBウイルスの生産方法、更には明細書から自明の多数の他の利点を提供する。
【特許文献1】WO01/83794
【非特許文献1】Belsheら(1998)The efficacy of live attenuated,cold−adapted,trivalent,intranasal influenza virus vaccine in children N Engl J Med 338:1405−12
【非特許文献2】Nicholら(1999)Effectiveness of live,attenuated intranasal influenza virus vaccine in healthy,working adults :a randomized controlled trial JAMA 282:137−44
【非特許文献3】Maassab(1967)Adaptation and growth characteristics of influenza virus at 25 degrees C Nature 213:612−4
【非特許文献4】Murphy & Coelingh(2002)Principles underlying the development and use of attenuated cold−adapted Influenza A and B virus vaccines Viral Immunol 15:295−323
【非特許文献5】Boyceら(2000)Safety and immunogenicity of adjuvanted and unadjuvanted subunit influenza vaccines administered intranasally to healthy adults Vaccine 19:217−26
【非特許文献6】Edwardsら(1994)A randomized controlled trial of cold adapted and inactivated vaccines for the prevention of Influenza A disease J Infect Dis 169:68−76
【非特許文献7】Maassabら(1982)Evaluation of a cold−recombinant influenza virus vaccine in ferrets J Infect Dis 146:780−900
【非特許文献8】Furminger.Vaccine Production,in Nicholsonら(eds)Textbook of Influenza pp.324−332
【非特許文献9】Mertenら(1996)Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation,in Cohen & Shafferman(eds)Novel Strategies in Design and Production of Vaccines pp.141−151
【非特許文献10】Neumannら(1999)Generation of influenza A virus entirely from cloned cDNAs.Proc Natl Acad Sci USA 96:9345−9350
【非特許文献11】Fodorら(1999)Rescue of influenza A virus from recombinant DNA.J.Virol 73:9679−9682
【非特許文献12】Hoffmannら(2000)A DNA transfection system for generation of influenza A virus from eight plasmids Proc Natl Acad Sci USA 97:6108−6113(発明の要約)
【0011】
本発明はインフルエンザウイルスの細胞培養生産用多重ベクターシステムと、鼻腔内ワクチン製剤で投与するのに適したワクチン等の生弱毒インフルエンザワクチンを含むワクチンとして適切な組換え及びリアソータントインフルエンザウイルス(例えば弱毒(att)、低温適応(ca)及び/又は温度感受性(ts)インフルエンザウイルス)の生産方法に関する。
【0012】
第1の側面において、本発明は例えばヘルパーウイルスの不在下に組換えインフルエンザBウイルスを細胞培養生産するためのベクターと方法を提供する(即ちヘルパーウイルスフリー細胞培養システム)。本発明の方法はインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な宿主細胞集団にインフルエンザBウイルスの一部を各々組込んだ複数のベクターを導入する段階を含む。宿主細胞をウイルス増殖に許容可能な条件下で培養し、インフルエンザウイルスを回収する。所定態様では、インフルエンザBウイルスは弱毒ウイルス、低温適応ウイルス及び/又は温度感受性ウイルスである。例えば、1態様では、ベクター由来組換えインフルエンザBウイルスは例えば鼻腔内ワクチン製剤で生弱毒ワクチンとして投与するのに適したウイルス等の弱毒、低温適応、温度感受性ウイルスである。典型的態様では、ウイルスはインフルエンザB/Ann Arbor/1/66ウイルスゲノム、(例えばca B/Ann Arbor/1/66ウイルスゲノム)の全部又は一部を組込んだ複数のベクターを導入することにより生産される。
【0013】
例えば、所定態様では、インフルエンザBウイルスはインフルエンザ株ca B/Ann Arbor/1/66の特徴的生物学的特性を変化させる1個以上のアミノ酸置換を組込んだ人工構築インフルエンザウイルスである。このようなインフルエンザウイルスはPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34位の1個以上にアミノ酸置換をもたらす突然変異、例えばPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)を含む。温度感受性、低温適応又は弱毒を個々に又は組合せて野生型ウイルスよりも増加する(これらの位置の1個以上の)任意突然変異は本発明に関して適切な突然変異である。
【0014】
所定態様では、1個のインフルエンザB株の少なくとも6個の内部ゲノムセグメントと、別のインフルエンザ株の免疫原性インフルエンザ表面抗原をコードする1個以上のゲノムセグメントを宿主細胞集団に導入する。例えば、選択された弱毒、低温適応及び/又は温度感受性インフルエンザB株(例えばB/Ann Arbor/1/66のca,att,ts株又は上記位置の1個以上にアミノ酸置換を含む人工構築インフルエンザB株)の少なくとも6個の内部ゲノムセグメントと、別のウイルス株に由来する免疫原性抗原をコードする1個以上のセグメントを宿主細胞集団に導入する。一般に、免疫原性表面抗原としてはヘマグルチニン(HA)及び/又はノイラミニダーゼ(NA)抗原の一方又は両方が挙げられる。免疫原性表面抗原をコードする単一セグメントを導入する態様では、選択されたウイルスの7個の相補的セグメントも宿主細胞に導入する。
【0015】
特定態様では、インフルエンザBウイルスゲノムセグメントを組込んだ複数のプラスミドベクターを宿主細胞集団に導入する。例えば、各々異なるゲノムセグメントを組込んだ8種のプラスミドを使用して完全インフルエンザBゲノムを宿主細胞に導入する。あるいは、もっと小さいゲノム配列を組込んだもっと多数のプラスミドを使用することもできる。
【0016】
一般に、本発明のプラスミドベクターは両方向発現ベクターである。本発明の両方向発現ベクターは一般に第1のプロモーターと第2のプロモーターを含み、第1のプロモーターと第2のプロモーターはインフルエンザウイルスゲノムのセグメントを含むウイルス核酸をコードする同一2本鎖cDNAのどちらかの鎖に機能的に連結されている。場合により、両方向発現ベクターはポリアデニル化シグナル及び/又はターミネーター配列を含む。例えば、ポリアデニル化シグナル及び/又はターミネーター配列は2個のプロモーターの内部のインフルエンザウイルスゲノムのセグメントの両側に配置することができる。本発明に関して有利なポリアデニル化シグナルの1例はSV40ポリアデニル化シグナルである。本発明の典型的プラスミドベクターは図1に示すプラスミドpAD3000である。
【0017】
ベクターはベクタープロモーターからのインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な宿主細胞に導入する。宿主細胞の有利な例としてはVero細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、PCK細胞、MDCK細胞、MDBK細胞、293細胞(例えば293T細胞)、及びCOS細胞が挙げられる。本明細書に記載するpAD3000プラスミドベクターと併用するには、Vero細胞、293細胞、及びCOS細胞が特に適切である。所定態様では、これらの細胞株の少なくとも2種の混合物の共培養物、例えばCOS細胞とMDCK細胞の組合せ又は293T細胞とMDCK細胞の組合せが宿主細胞集団を構成する。
【0018】
インフルエンザBベクターを導入した宿主細胞を次にウイルスの複製と集合に許容可能な条件下で培養増殖させる。一般に、本発明のインフルエンザBプラスミドを導入した宿主細胞を37℃未満の温度、好ましくは35℃以下の温度で培養する。一般に、細胞を32℃〜35℃の温度で培養する。所定態様では、細胞を約32℃〜34℃の温度、例えば約33℃で培養する。ウイルスを高力価まで複製させるのに適した時間にわたって培養後、組換え及び/又はリアソータントウイルスを回収する。場合により、回収したウイルスを不活化してもよい。
【0019】
本発明はインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な宿主細胞集団にインフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターを導入し、細胞を35℃以下の温度で培養し、インフルエンザウイルスを回収することにより組換えインフルエンザウイルスを細胞培養生産する広く適用可能な方法も提供する。
【0020】
特定態様では、インフルエンザウイルスゲノムセグメントを組込んだ複数のプラスミドベクターを宿主細胞集団に導入する。特定態様では、各々異なるゲノムセグメントを組込んだ8種のプラスミドを使用して完全インフルエンザゲノムを宿主細胞に導入する。一般に、本発明のプラスミドベクター両方向発現ベクターである。本発明の典型的プラスミドベクターは図1に示すプラスミドpAD3000である。
【0021】
所定態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザBウイルスに対応する。所定態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザAウイルスに対応する。特定態様では、方法は対象に例えば鼻腔内投与すると免疫応答を誘発することが可能な組換え及び/又はリアソータントインフルエンザウイルスを回収する段階を含む。所定態様では、投与前にウイルスを不活化し、他の態様では、生きた弱毒ウイルスを投与する。本発明の方法により生産された組換え及びリアソータントインフルエンザA及びインフルエンザBウイルスも本発明の特徴である。
【0022】
特定態様では、ウイルスとしては弱毒インフルエンザウイルス、低温適応インフルエンザウイルス、温度感受性インフルエンザウイルス、又はこれらの望ましい特性の任意組合せをもつウイルスが挙げられる。1態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザB/Ann Arbor/1/66株ウイルス、例えばB/Ann Arbor/1/66の低温適応、温度感受性、弱毒株を含む。別の態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザA/Ann Arbor/6/60株ウイルス、例えばA/Ann Arbor/6/60の低温適応、温度感受性、弱毒株を含む。本発明の別の態様では、ウイルスは例えばca A/Ann Arbor/6/60又はca B/Ann Arbor/1/66の特徴的生物学的特性を変化させる1個以上の置換アミノ酸を含む人工構築インフルエンザウイルスである。このような置換アミノ酸はca A/Ann Arbor/6/60又はca B/Ann Arbor/1/66のユニークアミノ酸に対応するものが有利であり、例えばA株ウイルスでは、PB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)に対応し、B株ウイルスでは、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)に対応する。同様に、温度感受性、低温適応及び/又は弱毒をもたらすこれらの位置のいずれかにおける他のアミノ酸置換も本発明のウイルスと方法に含まれる。
【0023】
場合により、リアソータントウイルスは選択された例えば病原株の表面抗原(HA及びNA)をコードするゲノムセグメントと共に、ワクチン生産に関するその有利な特性により選択したウイルス株の6個の内部遺伝子を組込んだベクターを導入することにより生産される。例えば、HAセグメントはワクチン生産に日常的に行われているように病原関連H1、H3又はB株から選択すると有利である。同様に、HAセグメントはH2株(例えばH2N2)、H5株(例えばH5N1)又はH7株(例えばH7N7)等の新興病原株から選択することもできる。あるいは、HA又はNAをコードするセグメントと共に第1の株の7個の相補的遺伝子セグメントを導入してもよい。特定態様では、内部遺伝子セグメントはインフルエンザB/Ann Arbor/1/66又はA/Ann Arbor/6/60株に由来する。
【0024】
更に、本発明はワクチン生産に関して望ましい特性をもつ新規インフルエンザウイルス(例えば温度感受性、弱毒、及び/又は低温適応インフルエンザウイルス)の生産方法と、このような新規インフルエンザウイルスを含むインフルエンザワクチンを提供する。特定態様では、温度感受性表現型に重要であることが本発明で実証された1個以上の特定位置(例えばPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34)にアミノ酸置換をもたらす突然変異を導入することにより新規インフルエンザA株ウイルスを生産する。例えば、ヌクレオチド位置PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34、又は特定アミノ酸位置にアミノ酸置換をもたらす他のヌクレオチド位置に突然変異を導入する。温度感受性、低温適応又は弱毒を個々に又は組合せて野生型ウイルスよりも増加する(これらの位置の1個以上の)任意突然変異が本発明に関して適切な突然変異である。例えば、PB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される突然変異を野生型インフルエンザA株(例えばPR8)のゲノムに導入し、生弱毒ワクチンとして投与するのに適した温度感受性変異体を生産すると有利である。所望表現型の安定性を増すためには、一般に複数の突然変異を導入する。選択された突然変異をインフルエンザゲノムに導入後、ウイルスが産生される条件下で突然変異インフルエンザゲノムを複製する。例えば、突然変異インフルエンザウイルスゲノムを鶏卵で複製することができる。あるいは、インフルエンザウイルスゲノムを細胞培養で複製することができる。後者の場合には、場合により力価を増すためにウイルスを鶏卵で更に増幅してもよい。本発明の方法により生産された温度感受性、及び場合により弱毒及び/又は低温適応ウイルスと、このようなウイルスを含むワクチンも本発明の特徴である。同様に、PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34位に1個以上の突然変異、例えばPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される突然変異を組込んだ新規ウイルス核酸と、このようなアミノ酸置換をもつポリペプチドも本発明の特徴である。
【0025】
同様に、本発明の方法は1個以上の特定突然変異をインフルエンザBゲノムに導入することにより温度感受性、及び場合により弱毒及び/又は低温適応表現型をもつ新規インフルエンザB株を生産するのにも適している。例えば、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす1個以上の突然変異をインフルエンザB株ゲノムに導入し、温度感受性インフルエンザBウイルスを生産する。典型的アミノ酸置換としては、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)が挙げられる。上述のように、このようなウイルスを組込んだワクチンと、これらの突然変異とアミノ酸置換を組込んだポリペプチドはいずれも本発明の特徴である。
【0026】
従って、本発明の突然変異を組込んだインフルエンザウイルスは生産方法に関係なく本発明の特徴である。即ち、本発明は本発明の突然変異を含むインフルエンザ株、例えばPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される1個以上の位置に野生型に比較してアミノ酸置換をもつ任意インフルエンザAウイルス又はPB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される1個以上の位置に野生型に比較してアミノ酸置換をもつ任意インフルエンザBウイルスに関するが、但し、ca A/Ann Arbor/6/60及びB/Ann Arbor/1/66株は本発明の特徴とみなさない。特定好適態様では、夫々インフルエンザAウイルスはPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される複数の突然変異を含み、インフルエンザBウイルスはPB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V))から選択される複数の突然変異を含む。
【0027】
1態様では、インフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のプラスミドベクターを宿主細胞に導入する。例えば、インフルエンザウイルスゲノムのセグメントを少なくとも8種のプラスミドベクターに組込むことができる。1好適態様では、インフルエンザウイルスゲノムのセグメントを8種のプラスミドに組込む。例えば、8種のプラスミドの各々にインフルエンザウイルスゲノムの別のセグメントを組込むと有利である。
【0028】
本発明のベクターは両方向発現ベクターとすることができる。本発明の両方向発現ベクターは一般に第1のプロモーターと第2のプロモーターを含み、第1のプロモーターと第2のプロモーターはインフルエンザウイルスゲノムのセグメントを含む同一2本鎖ウイルス核酸のどちらかの鎖に機能的に連結されている。場合により、両方向発現ベクターはポリアデニル化シグナル及び/又はターミネーター配列を含む。例えば、ポリアデニル化シグナル及び/又はターミネーター配列は2個のプロモーターの内部のインフルエンザウイルスゲノムのセグメントの両側に配置することができる。本発明に関して有利なポリアデニル化シグナルの1例はSV40ポリアデニル化シグナルである。本発明の典型的プラスミドベクターは図1に示すプラスミドpAD3000である。
【0029】
ベクタープロモーターからのインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な任意宿主細胞が本発明に関して適切である。宿主細胞の有利な例としてはVero細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、PCK細胞、MDCK細胞、MDBK細胞、293細胞(例えば293T細胞)、及びCOS細胞が挙げられる。本明細書に記載するpAD3000プラスミドベクターと併用するには、Vero細胞、293細胞、及びCOS細胞が特に適切である。所定態様では、これらの細胞株の少なくとも2種の混合物の共培養物、例えばCOS細胞とMDCK細胞の組合せ又は293T細胞とMDCK細胞の組合せが宿主細胞集団を構成する。
【0030】
本発明の1つの特徴は本発明のプラスミドを導入した宿主細胞を37℃未満の温度、好ましくは35℃以下の温度で培養することである。一般に、細胞を32℃〜35℃の温度で培養する。所定態様では、細胞を約32℃〜34℃の温度、例えば約33℃で培養する。
【0031】
本発明の別の側面は培養Vero細胞から組換え又はリアソータントインフルエンザA又はインフルエンザBウイルス(即ちインフルエンザA及び/又はインフルエンザBウイルスの野生型及び変異体株)をレスキューするための新規方法に関する。インフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターをVero細胞集団にエレクトロポレーションする。ウイルス作製に許容可能な条件下で細胞を増殖させ、例えば低温適応、弱毒、温度感受性ウイルス株の場合には、Vero細胞を37℃未満の温度、好ましくは35℃以下の温度で増殖させる。一般に、細胞を32℃〜35℃の温度で培養する。所定態様では、細胞を約32℃〜34℃の温度、例えば約33℃で培養する。場合により(例えばワクチン生産のためには)、動物由来物質を加えずに無血清培地でVero細胞を増殖させる。
【0032】
上記本発明の方法では、インフルエンザゲノムプラスミドを導入した宿主細胞の培養後にウイルスを回収する。所定態様では、回収されるウイルスは組換えウイルスである。所定態様では、ウイルスは2種以上の親ウイルス株に由来する遺伝属性をもつリアソータントインフルエンザウイルスである。場合により、回収した組換え又はリアソータントウイルスを培養細胞又は鶏卵で継代することにより更に増幅してもよい。
【0033】
場合により、回収したウイルスを不活化してもよい。所定態様では、回収したウイルスはインフルエンザワクチンを含む。例えば、回収したインフルエンザワクチンはインフルエンザA又はインフルエンザBの選択株に由来するHA及び/又はNA抗原をもつリアソータントインフルエンザウイルス(例えば6:2又は7:1リアソータントウイルス)とすることができる。特定の有利な態様では、リアソータントインフルエンザウイルスは弱毒表現型をもつ。場合により、リアソータントウイルスは低温適応及び/又は温度感受性であり、例えば表17の置換から選択される1個以上のアミノ酸置換をもつ弱毒、低温適応又は温度感受性インフルエンザBウイルスである。このようなインフルエンザウイルスは例えば選択された例えば病原性インフルエンザ株に特異的な免疫応答の予防発生用生弱毒ワクチンとして有用である。本発明の方法により生産されたインフルエンザウイルス(例えば弱毒リアソータントウイルス)も本発明の特徴である。
【0034】
別の側面では、本発明はインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な宿主細胞集団にインフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターを導入する段階と、宿主細胞を35℃以下の温度で培養する段階と、対象に投与すると免疫応答を誘発することが可能なインフルエンザウイルスを回収する段階を含む組換えインフルエンザウイルスワクチンの生産方法に関する。本発明のワクチンはインフルエンザA又はインフルエンザB株ウイルスとすることができる。所定態様では、インフルエンザワクチンウイルスとしては弱毒インフルエンザウイルス、低温適応インフルエンザウイルス、又は温度感受性インフルエンザウイルスが挙げられる。特定態様では、ウイルスはこれらの望ましい特性の任意組合せをもつ。1態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザA/Ann Arbor/6/60株ウイルスを含む。別の態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザB/Ann Arbor/1/66株ウイルスを含む。あるいは、ワクチンはca A/Ann Arbor/6/60又はca B/Ann Arbor/1/66の特徴的生物学的特性を変化させる少なくとも1個の置換アミノ酸(例えばこれらの株のユニークアミノ酸)を含む人工構築インフルエンザA又はインフルエンザBウイルスを含む。例えば、本発明のワクチンとしては、PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異を含む人工構築組換え及びリアソータントインフルエンザAウイルスと、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異を含む人工構築組換え及びリアソータントインフルエンザBウイルスが挙げられる。
【0035】
所定態様では、ウイルスは2種以上のインフルエンザウイルス株に由来するウイルスゲノムセグメントをもつリアソータントインフルエンザウイルス(例えば6:2又は7:1リアソータントウイルス)を含む。例えば、リアソータントインフルエンザウイルスワクチンはワクチン生産に関するその望ましい特性により選択したウイルス株の内部ゲノムセグメントと共に、インフルエンザA又はBの選択株に由来するHA及び/又はNA表面抗原を含むと有利である。多くの場合には、HA及び/又はNAをコードするセグメントが由来するインフルエンザ株は(例えば上述のような)病原株の局地的又は世界的流行の予想に基づいて選択することが望ましい。場合により、内部ゲノムセグメントが由来するウイルス株は例えばA/Ann Arbor/6/60、B/Ann Arbor/1/66の弱毒、低温適応及び/又は温度感受性インフルエンザ株、又は所望表現型をもたらす1個以上のアミノ酸置換をもつ人工構築インフルエンザ株(例えばPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異を含むインフルエンザAウイルスと、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異を含むインフルエンザBウイルス)である。例えば、有利なリアソータントウイルスとしては、PB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される1個以上のアミノ酸置換を含む人工構築インフルエンザAウイルスと、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)から選択される1個以上のアミノ酸置換を含むインフルエンザBウイルスが挙げられる。
【0036】
所望により、回収後にインフルエンザワクチンウイルスを不活化する。
【0037】
本発明の方法により生産されたインフルエンザウイルスワクチン(弱毒生ワクチンを含む)も本発明の特徴である。特定の有利な態様では、インフルエンザウイルスワクチンはリアソータントウイルスワクチンである。
【0038】
本発明の別の側面は両方向発現ベクターであるプラスミドを提供する。本発明の両方向発現ベクターは第2のプロモーターとポリアデニル化部位(例えばSV40ポリアデニル化部位)の間に挿入された第1のプロモーターを含む。1態様では、第1のプロモーターと第2のプロモーターは少なくとも1個のクローニング部位の両側に逆方向に配置することができる。本発明の典型的ベクターは図1に示すプラスミドpAD3000である。
【0039】
所定態様では、インフルエンザウイルスゲノムの少なくとも1個のセグメントを例えば2本鎖核酸としてクローニング部位に挿入する。例えば、本発明のベクターは第2のプロモーターとSV40ポリアデニル化部位の間に挿入された第1のプロモーターをもつプラスミドを含み、第1のプロモーターと第2のプロモーターはインフルエンザウイルスの少なくとも1個のセグメントの両側に逆方向に配置されている。
【0040】
本発明の1個以上の発現ベクターを含むキットも本発明の特徴である。一般に、キットは更にインフルエンザウイルス複製を許容することが可能な細胞株、緩衝液、培養培地、説明書、パッケージング材料、及び容器の1種以上を含む。所定態様では、キットはインフルエンザウイルスゲノムの少なくとも1個のセグメントを各々含む複数の発現ベクターを含む。例えば、ワクチン生産又は投与に関するその望ましい特性により選択されたウイルス株の内部ゲノムセグメントの1個を各々含む複数の発現ベクターを含むキットが本発明の特徴である。例えば、選択ウイルス株は例えばA/Ann Arbor/6/60又はB/Ann Arbor/1/66の弱毒、低温適応及び/又は温度感受性株、又は本明細書(例えば表17)に記載するような1個以上のアミノ酸置換をもつ人工構築株等の所望特性をもつ代替株とすることができる。1態様では、キットは変異体HA及び/又はNA抗原をコードする核酸ライブラリーのメンバーを組込んだ発現ベクターを含む。
【0041】
インフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターを導入した少なくとも1個の細胞を含む35℃以下の温度で増殖する細胞培養物も本発明の特徴である。組成物は細胞培養培地も含むことができる。所定態様では、複数のベクターは例えば第2のプロモーターとSV40ポリアデニル化部位の間に挿入された第1のプロモーターを含む両方向発現ベクターを含む。例えば、第1のプロモーターと第2のプロモーターはインフルエンザウイルスの少なくとも1個のセグメントの両側に逆方向に配置することができる。本発明の細胞培養物は35℃以下の温度、例えば約32℃〜35℃、一般には約32℃〜約34℃、例えば約33℃に維持される。
【0042】
本発明は更に上述のようなインフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターを導入した少なくとも1個の細胞の増殖性細胞培養物と、培養物を35℃以下の温度に維持するための調節器を含む細胞培養システムにも関する。例えば、調節器は細胞培養物を約32℃〜35℃に維持すると有利であり、一般には約32℃〜約34℃、例えば約33℃に維持する。
【0043】
本発明の別の特徴は温度感受性、低温適応及び/又は弱毒を変化させる1個以上のアミノ酸置換を含む人工構築組換え又はリアソータントインフルエンザウイルスである。例えば、PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される位置に1個以上のアミノ酸置換をもつ人工構築インフルエンザAウイルスと、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置に1個以上のアミノ酸置換をもつ人工構築インフルエンザBウイルスが本発明の有利な態様である。典型的態様としては、PB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)のアミノ酸置換の任意1個以上をもつインフルエンザAウイルスと、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)のアミノ酸置換の任意1個以上をもつインフルエンザBウイルスが挙げられる。特定態様では、ウイルスは上記位置に複数の突然変異(例えば1、2、3、4、5、6、7、8又は9個のアミノ酸置換)を含む。従って、上記全5個の位置にアミノ酸置換(例えばPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G))をもつ人工構築インフルエンザAウイルスと、上記位置の8個又は全9個にアミノ酸置換(例えばPB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V))をもつ人工構築インフルエンザBウイルスが本発明に含まれる。更に、ウイルスは上記以外の1個以上の付加的アミノ酸置換を含むことができる。
【0044】
特定態様では、人工構築インフルエンザウイルスは温度感受性インフルエンザウイルス、低温適応インフルエンザウイルス及び/又は弱毒インフルエンザである。例えば、本発明による温度感受性インフルエンザウイルスは一般に39℃で野生型インフルエンザウイルスに比較して約2.0〜約5.0log10の増殖低下を示す。例えば、温度感受性ウイルスは39℃で野生型インフルエンザウイルスに比較して少なくとも約2.0log10、少なくとも約3.0log10、少なくとも約4.0log10、又は少なくとも約4.5log10の増殖低下を示す。必ずしもそうでない場合もあるが、一般に、温度感受性インフルエンザウイルスは33℃で強固な増殖特徴を維持する。本発明の弱毒インフルエンザウイルスは一般にフェレット弱毒アッセイで野生型インフルエンザウイルスに比較して約2.0〜約5.0log10の増殖低下を示す。例えば、本発明の弱毒インフルエンザウイルスは一般にフェレット弱毒アッセイで野生型インフルエンザウイルスに比較して少なくとも約2.0log10、多くの場合には少なくとも約3.0log10、有利には少なくとも約4.0log10の増殖低下を示す。
【0045】
図面の簡単な説明
図1はpAD3000プラスミドの模式図。
【0046】
図2は感染細胞の顕微鏡写真。
【0047】
図3はプラスミドトランスフェクションからのrMDV−A及び6:2H1N1リアソータントウイルスのゲノタイピング分析を示す。
【0048】
図4はインフルエンザBウイルス生産用の8プラスミドシステムの模式図。
【0049】
図5はA及びB.RT−PCRによる組換えMDV−Bウイルスの特性決定;C及びD.RT PCRによる組換えB/Yamanashi/166/98の特性決定。
【0050】
図6はGeneBankフォーマットによるpAD3000の配列。
【0051】
図7はMDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【0052】
図8はインフルエンザB株のHA及びNAセグメントの同時増幅から誘導されたRT−PCR産物。
【0053】
図9は組換え及びリアソータントウイルスの相対力価を示す棒グラフ。
【0054】
図10は許容温度と制限温度下のリアソータントウイルスの相対力価(温度感受性)を示す棒グラフ。
【0055】
図11は温度感受性と相関する特定突然変異(ノックイン)を組込んだリアソータントウイルスの模式図(左パネル)と、許容温度と制限温度下の相対力価(温度感受性)(右パネル)を示す。
【0056】
図12はミニゲノムアッセイにおけるts突然変異の測定。A.HEp−2細胞にPB1,PB2,PA,NP及びpFlu−CATをトランスフェクトし,33℃又は39℃で18時間インキュベートし、細胞抽出物のCATレポーター遺伝子発現を分析した。B.プライマー伸長アッセイによるCAT mRNA発現。
【0057】
図13はPA,NP,及びM1蛋白質の野生型残基をもつ三重遺伝子組換え体の模式図。
【0058】
図14は単一遺伝子及び二重遺伝子組換えウイルスの増殖をまとめた表。
【0059】
図15は非ts表現型に対応するヌクレオプロテインのアミノ酸残基をまとめた表。
【0060】
図16は組換えPR8突然変異体の模式図。PB1及び/又はPB2遺伝子に導入した突然変異を黒丸で示す。
【0061】
図17は33℃と39℃の相対力価を示す棒グラフ。
【0062】
図18は各種温度におけるPR8突然変異体のプラーク形態を示す顕微鏡写真。MDCK細胞に指定ウイルスを感染させ、33℃、37℃、及び39℃で3日間インキュベートした。ウイルスプラークを免疫染色により可視化し、写真撮影した。
【0063】
図19は許容温度と非許容温度の蛋白質合成。MDCK細胞に指定ウイルスを感染させ、33℃又は39℃で一晩インキュベートした。放射性標識ポリペプチドをSDS−PAGEで電気泳動させ、オートラジオグラフにかけた。ウイルス蛋白質HA,NP,M1及びNSを示す。
【0064】
図20はA.MDCK細胞での複製に比較したPer.C6細胞でのMDV−A及びMDV−Bの複製を示す折れ線グラフ;B.Per.C6細胞におけるMDV−A単一遺伝子リアソータントの複製の変動を示す折れ線グラフ。
(詳細な説明)
【0065】
多くの病原インフルエンザウイルス株は組織培養では不十分にしか増殖せず、生弱毒ウイルスワクチンの生産に適した株(例えば温度感受性、低温適応及び/又は弱毒インフルエンザウイルス)は商業的生産用培養細胞で増殖させるのに成功していない。本発明は標準細胞培養条件下での増殖に適さないインフルエンザウイルス株の増殖と回収を可能にする多重プラスミドトランスフェクションシステムを提供する。
【0066】
第1の側面では、本発明の方法は完全にクローン化DNAから組換えインフルエンザBウイルスを細胞培養生産するためのベクターと方法を提供する。別の側面では、本発明の方法はin vitro培養細胞ワクチン生産に関して望ましい特性(例えば弱毒病原性又は表現型、低温適応、温度感受性等)をもつウイルス株(A株及びB株両者のインフルエンザウイルス)の増殖を許容する組織培養条件の開発にも基づく。クローン化ウイルスゲノムセグメントを組込んだ複数のベクターを宿主細胞に導入し、35℃以下の温度で培養することによりインフルエンザウイルスを生産する。インフルエンザウイルスゲノムを組込んだベクターをトランスフェクトすると、標準精製法によりワクチンとして適切な組換ウイルスを回収することができる。本発明のベクターシステムと方法を使用すると、ワクチン生産に関するその望ましい特性により選択された株の6個の内部遺伝子セグメントと選択された例えば病原株に由来する免疫原性HA及びNAセグメントを組込んだリアソータントウイルスを迅速且つ効率的に組織培養生産することができる。従って、本明細書に記載するシステムと方法は鼻腔内投与に適したワクチン等の生弱毒ワクチンを含むワクチンとして使用するのに適したウイルスを含む組換え及びリアソータントインフルエンザA及びBウイルスの迅速な細胞培養生産に有用である。
【0067】
一般に、A及びBサブタイプの各々に単一マスタードナーウイルス(MDV)株を選択する。生弱毒ワクチンの場合には、マスタードナーウイルス株は一般にワクチン生産に関するその有利な特性(例えば温度感受性、低温適応及び/又は弱毒)により選択される。例えば、典型的マスタードナー株としては夫々A/Ann Arbor/6/60及びB/Ann Arbor/1/66のこのような温度感受性、弱毒及び低温適応株が挙げられる。本発明はこれらのウイルス株のca、ts及びatt表現型をもたらす基礎となる突然変異を解明し、組換え及びリアソータントワクチン生産に関してドナー株として使用するのに適した新規インフルエンザ株の生産方法を提供する。
【0068】
例えば、選択されたマスタードナーA型ウイルス(MDV−A)、又はマスタードナーB型ウイルス(MDV−B)はウイルスゲノムを構成する複数のクローン化ウイルスcDNAから生産される。1典型的態様では、8種のクローン化ウイルスcDNAから組換えウイルスを生産する。一方の鎖に由来するRNAポリメラーゼI(pol I)プロモーターpからウイルスゲノムRNAを転写し、他方の鎖に由来するRNAポリメラーゼII(pol II)プロモーターからウイルスmRNAを合成できるように、PB2、PB1、PA、NP、HA、NA、M及びNSの選択されたMDV−A又はMDV−B配列に相当する8種のウイルスcDNAをプラスミド(例えばpAD3000)等の両方向発現ベクターにクローニングする。場合により、(例えば多重塩基切断部位を除去するために)HAセグメントを含む任意遺伝子セグメントを修飾することができる。
【0069】
次に、8個のウイルスcDNAをもつプラスミドを適当な宿主細胞(例えばVero細胞、共培養MDCK/293T又はMDCK/COS7細胞)にトランスフェクトした後に感染性組換えMDV−A又はMDV−Bウイルスを回収する。本明細書に記載するプラスミドと方法を使用すると、本発明は例えば選択されたウイルス(例えばMDV−A,MDV−B)の6個の内部遺伝子(PB1,PB2,PA,NP,M及びNS)と別の対応型(A又はB)インフルエンザウイルスに由来するHA及びNAをコトランスフェクトすることにより6:2リアソータントインフルエンザワクチンを作製するのに有用である。例えば、HAセグメントはワクチン生産に日常的に行われているように、病原関連H1,H3又はB株から選択すると有利である。同様に、HAセグメントはH2株(例えばH2N2)、H5株(例えばH5N1)又はH7株(例えばH7N7)等の病原株に関連する新興株から選択することができる。MDVの7個のゲノムセグメントと選択株のHA又はNA遺伝子を組込んだリアソータント(7:1リアソータント)も生産することができる。更に、このシステムはワクチン生産に関連する表現型特徴(例えば弱毒(att)、低温適応(ca)、及び温度感受性(ts)表現型)の分子基盤を決定するのにも有用である。
定義
【0070】
特に定義しない限り、全科学技術用語はこれらの用語が属する分野で一般に使用されていると同一の意味をもつものとする。本発明の目的では、以下の用語は以下のように定義される。
【0071】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」及び「核酸配列」なる用語は1本鎖又は2本鎖デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマー、又はそのキメラもしくは類似体を意味する。本明細書で使用する場合、この用語は場合により天然ヌクレオチドと同様に1本鎖核酸とハイブリダイズするという点で天然ヌクレオチドの本質的特性をもつ天然ヌクレオチドの類似体のポリマー(例えばペプチド核酸)を含む。特に指定しない限り、本発明の特定核酸配列は明示配列に加えて相補配列も含む。
【0072】
「遺伝子」なる用語は生物学的機能に関連する任意核酸の意味で広義に使用する。従って、遺伝子はコーディング配列及び/又はその発現に必要な調節配列を含む。「遺伝子」なる用語は特定ゲノム配列と、このゲノム配列によりコードされるcDNA又はmRNAに適用される。
【0073】
遺伝子は更に、例えば他の蛋白質の認識配列を形成する非発現核酸セグメントも含む。非発現調節配列は転写因子等の調節蛋白質が結合して隣接又は近隣配列の転写を誘導する「プロモーター」と「エンハンサー」を含む。「組織特異的」プロモーター又はエンハンサーとは1又は複数の特定組織型又は細胞型で転写を調節するものである。
【0074】
「ベクター」なる用語は核酸を生物、細胞、又は細胞成分間に伝搬及び/又は輸送することができる手段を意味する。ベクターとしてはプラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、プロウイルス、ファージミド、トランスポゾン、及び人工染色体等の自律複製するか又は宿主細胞の染色体に組込むことができるものが挙げられる。ベクターは裸のRNAポリヌクレオチド、裸のDNAポリヌクレオチド、同一鎖内でDNAとRNAの両者により構成されるポリヌクレオチド、ポリリジン共役DNA又はRNA、ペプチド共役DNA又はRNA、リポソーム共役DNA等の自律複製しないものでもよい。本発明のベクターはプラスミドが最も一般的である。
【0075】
「発現ベクター」とはこれに組込んだ核酸の発現と複製を促進することが可能なベクター(例えばプラスミド)である。一般に、発現させようとする核酸はプロモーター及び/又はエンハンサーに「機能的に連結」され、プロモーター及び/又はエンハンサーにより転写調節制御される。
【0076】
「両方向発現ベクター」は一般に、両方向に発現を開始して例えば正(+)ないしセンス鎖及び負(−)ないしアンチセンス鎖RNAを生じるように、2個のプロモーターの間に配置された核酸に関して逆方向に配置された2個の選択的プロモーターにより特徴付けられる。あるいは、両方向発現ベクターはウイルスmRNA及び(cRNAとしての)ウイルスゲノムRNAが同一鎖から発現されるアンビセンスベクターでもよい。
【0077】
本発明に関して、「単離」なる用語はその天然環境で通常付随するか又は相互作用する成分を実質的に含まない生物材料(例えば核酸又は蛋白質)を意味する。単離材料は場合によりその天然環境(例えば細胞)ではその材料と併存しない材料を含む。例えば、単離材料がその天然環境(例えば細胞)にある場合には、その環境に存在する材料が本来存在しない細胞内の位置に配置されている(例えばゲノム又は遺伝子エレメント)。例えば、天然核酸(例えばコーディング配列、プロモーター、エンハンサー等)が非天然手段(例えばプラスミドもしくはウイルスベクター等のベクター又はアンプリコン)によりこの核酸の本来のゲノムの遺伝子座以外の遺伝子座に導入されるならばこの核酸は単離されたことになる。このような核酸を「異種」核酸とも言う。
【0078】
「組換え」なる用語は材料(例えば核酸又は蛋白質)が人的介入により人工的又は合成的(非天然)に改変されていることを意味する。改変はその天然環境又は状態で材料に実施してもよいし、その天然環境又は状態から除去してもよい。具体的にウイルス(例えばインフルエンザウイルス)について言うと、ウイルスは組換え核酸の発現により生産される場合に組換え体である。
【0079】
ウイルスに関して「リアソータント」なる用語は、ウイルスが2種以上の親ウイルス株又はソースに由来する遺伝子及び/又はポリペプチド成分を含むことを意味する。例えば、7:1リアソータントは第1の親ウイルスに由来する7個のウイルスゲノムセグメント(又は遺伝子セグメント)と、第2の親ウイルスに由来する(例えばヘマグルチニン又はノイラミニダーゼをコードする)単一相補的ウイルスゲノムセグメントを含む。6:2リアソータントは第1の親ウイルスに由来する6個のゲノムセグメント、最も一般的には6個の内部遺伝子と、第2の親ウイルスに由来する2個の相補的セグメント(例えばヘマグルチニンとノイラミニダーゼ)を含む。
【0080】
異種又は単離核酸に関して「導入」なる用語は真核又は原核細胞に核酸を組込み、核酸を細胞のゲノムに組込む(例えば染色体、プラスミド、プラスチド又はミトコンドリアDNA)か、自律レプリコンに変換するか、又は一過的に発現させる(例えばトランスフェクトmRNA)ことができることを意味する。この用語は「感染」、「トランスフェクション」、「形質転換」及び「形質導入」のような方法を意味する。本発明に関しては、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿法、脂質によるトランスフェクション(リポフェクション)等の種々の方法を使用して核酸を原核細胞に導入することができる。
【0081】
「宿主細胞」なる用語はベクター等の異種核酸を含み、核酸の複製及び/又は発現、及び場合によりポリペプチド及び/又はウイルスを含む1種以上のコード化産物の生産を補助する細胞を意味する。宿主細胞は大腸菌等の原核細胞でもよいし、酵母、昆虫、両生類、鳥類又はヒト細胞を含む哺乳動物細胞等の真核細胞でもよい。本発明に関して典型的宿主細胞としてはVero(アフリカミドリザル腎)細胞、Per.C6細胞(ヒト胚性網膜細胞)、BHK(ベビーハムスター腎)細胞、初代ニワトリ腎(PCK)細胞、Madin−Darbyイヌ腎(MDCK)細胞、Madin−Darbyウシ腎(MDBK)細胞、293細胞(例えば293T細胞)、及びCOS細胞(例えばCOS1,COS7細胞)が挙げられる。宿主細胞なる用語は例えば種々の細胞型又は細胞株の混合培養物等の細胞組み合わせ又は混合物を含む。
【0082】
「温度感受性」、「低温適応」及び「弱毒」なる用語は当分野で周知である。例えば、「温度感受性」(「ts」)なる用語はウイルスがインフルエンザA株では33℃に比較して39℃で100倍以上の力価低下を示し、ウイルスがインフルエンザB株では33℃に比較して37℃で100倍以上の力価低下を示すことを意味する。例えば、「低温適応」(「ca」)なる用語はウイルスが33℃におけるその増殖の100倍以内の増殖を25℃で示すことを意味する。例えば、「弱毒」(「att」)なる用語はウイルスがフェレットの上気道で複製するが、肺組織では検出できず、動物にインフルエンザ様疾患を誘発しないことを意味する。中間表現型をもつウイルス、即ち39℃(A株ウイルス)又は37℃(B株ウイルス)で100倍未満の力価低下を示し、33℃におけるその増殖の100倍を上回る(例えば200倍、500倍、1000倍、10,000倍以内)増殖を25℃で示し、及び/又はフェレットの上気道における増殖に比較して肺で増殖低下(即ち部分弱毒)を示すか及び/又は動物でインフルエンザ様疾患の低下を示し、本明細書に記載するアミノ酸置換の1個以上をもつウイルスも本発明の有用なウイルスであることが理解されよう。増殖は力価、プラークサイズもしくは形態、粒子密度又は当業者に公知の他の尺度により表されるウイルス量を示す。
【0083】
「人工構築」なる用語は本明細書ではウイルス、ウイルス核酸又はウイルスにコードされる産物(例えばポリペプチド、ワクチン)が組換え法(例えば部位特異的突然変異誘発、PCR突然変異誘発等)により導入された少なくとも1個の突然変異を含むことを表すために使用する。1個以上のヌクレオチド突然変異及び/又はアミノ酸置換を含むウイルス(又はウイルス成分もしくは産物)について「人工構築」と言う場合には、ウイルス(又はウイルス成分もしくは産物)をコードするウイルスゲノム又はゲノムセグメントが天然起源(例えば天然に存在するか又は非組換え法(例えば25℃での順次継代)により生産された既存実験室ウイルス株(例えば野生型又は低温適応A/Ann Arbor/6/60又はB/AnnArbor/1/66株))に由来しないことを意味する。
インフルエンザウイルス
【0084】
インフルエンザウイルスのゲノムは免疫原性ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)蛋白質をコードする直鎖(−)リボ核酸(RNA)の8個のセグメントと、6個の内部コアポリペプチド、即ちヌクレオキャプシドヌクレオプロテイン(NP);マトリックス蛋白質(M);非構造蛋白質(NS);及び3個のRNAポリメラーゼ(PA,PB1,PB2)蛋白質から構成される。複製中に、ゲノムウイルスRNAは宿主細胞の核で(+)鎖メッセンジャーRNAと(−)鎖ゲノムcRNAに転写される。8個のゲノムセグメントの各々はRNA以外にNPとポリメラーゼ複合体(PB1,PB2,及びPA)を含むリボヌクレオプロテイン複合体にパッケージングされる。
【0085】
本発明では、インフルエンザウイルスの操作と生産のために8個のセグメントの各々に対応するウイルスゲノムRNAを組換えベクターに挿入する。本発明に関しては、ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、ファージ、及び人工染色体等の種々のベクターを使用することができる。一般に、操作し易くするために、ウイルスゲノムセグメントをプラスミドベクターに挿入し、細菌及び真核細胞で機能的な1個以上の複製起点と、場合によりプラスミド配列を導入した細胞をスクリーニング又は選択するのに適したマーカーを加える。典型的ベクターであるプラスミドpAD3000を図1に示す。
【0086】
本発明のプラスミドベクターは挿入したウイルスゲノムセグメントの転写を両方向に開始すること、即ち(+)鎖及び(−)鎖ウイルスRNA分子の両者を生じることが可能な両方向発現ベクターが最も一般的である。両方向転写を行うためには、第1鎖に由来する第1のRNAポリメラーゼプロモーター(例えばPol I)によりウイルスゲノムRNAのコピーが転写され、第2のRNAポリメラーゼプロモーター(例えばPol II)からウイルスmRNAが合成されるように、少なくとも2個の独立したプロモーターをもつベクターにウイルスゲノムセグメントの各々を挿入する。従って、2個のプロモーターはウイルスゲノムRNAセグメントの挿入に適した少なくとも1個のクローニング部位(即ち制限酵素認識配列)、好ましくはユニーククローニング部位の両側に逆方向に配置される。あるいは、(+)鎖mRNAと(−)鎖ウイルスRNA(cRNAとして)がベクターの同一鎖から転写される「アンビセンス」ベクターを利用することもできる。
発現ベクター
【0087】
発現させるインフルエンザウイルスゲノムセグメントはmRNA合成を誘導するのに適した転写制御配列(プロモーター)に機能的に連結される。インフルエンザウイルスゲノムセグメントの転写を調節するために発現ベクターで使用するには種々のプロモーターが適している。例えばベクターがプロモーターpAD3000である特定態様では、サイトメガロウイルス(CMV)DNA依存性RNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーターを使用する。所望により、例えば条件付け発現を調節するためには、特定条件下又は特定組織もしくは細胞でRNA転写を誘導する他のプロモーターに代用することができる。多数のウイルス及び哺乳動物(例えばヒト)プロモーターが入手可能であるか、又は所期特定用途に応じて単離することができる。例えば、動物及びヒトウイルスのゲノムから得られる代替プロモーターとしては、アデノウイルス(例えばアデノウイルス2)、パピローマウイルス、B型肝炎ウイルス、ポリオーマウイルス、及びサルウイルス40(SV40)等のプロモーターや、種々のレトロウイルスプロモーターが挙げられる。哺乳動物プロモーターとしては特にアクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーター等が挙げられる。更に、バクテリオファージプロモーターをコグネイトRNAポリメラーゼ(例えばT7プロモーター)と併用してもよい。
【0088】
場合によりエンハンサー配列を加えることにより転写を増加してもよい。エンハンサーは一般に短く、例えばプロモーターと協同作用して転写を増加する10〜500bpのシス作用性DNAエレメントである。多くのエンハンサー配列が哺乳動物遺伝子(ヘモグロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテイン、及びインスリン)、及び真核細胞ウイルスから単離されている。エンハンサーは異種コーディング配列の5´又は3´位でベクターにスプライスすることができるが、一般にはプロモーターの5´部位に挿入される。一般に、プロモーターと所望により他の転写促進配列は異種DNAを導入する宿主細胞型における発現を最適化するように選択される(Scharfら(1994)Heat stress promoters and transcription factors Results Probl Cell Differ 20:125−62;Krieglerら(1990)Assembly of enhancers,promoters,and splice signals to control expression of transferred genes Methods in Enzymol 185:512−27)。場合により、アンプリコンは翻訳開始のためのリボソーム結合部位又は内部リボソーム進入部位(IRES)も含むことができる。
【0089】
本発明のベクターはポリアデニル化部位やターミネーター配列等の転写終結とmRNAの安定化に必要な配列も含むと有利である。このような配列は真核又はウイルスDNA又はcDNAの5´と場合により3´の未翻訳領域から一般に入手可能である。例えばプラスミドpAD3000を使用する1態様では、SV40ポリアデニル化配列がポリアデニル化シグナルを提供する。
【0090】
更に、上述のように、発現ベクターは場合により、上記遺伝子に加え、形質転換宿主細胞の選択用表現型形質を提供するための1個以上の選択マーカーを含み、真核細胞培養での選択にはジヒドロ葉酸レダクターゼやネオマイシン耐性等のマーカーが適している。
【0091】
上記のような適当なDNA配列と適当なプロモーター又は制御配列を含むベクターを使用して宿主細胞を形質転換し、蛋白質を発現させることができる。本発明のベクターは細菌細胞でも複製できるが、最も多くの場合には発現の目的で哺乳動物細胞(例えばVero細胞、BHK細胞、MDCK細胞、293細胞、COS細胞)に導入することが望ましい。
付加的発現エレメント
【0092】
最も一般的には、インフルエンザウイルス蛋白質をコードするゲノムセグメントは機能的ウイルス蛋白質への翻訳を含めたその発現に必要な任意付加的配列を含む。他の場合には、ウイルス蛋白質(例えばHA又はNA蛋白質)をコードするミニ遺伝子又は他の人工構築物を利用できる。この場合には、異種コーディング配列の効率的な翻訳を助長する特定開始シグナルを加えることが多くの場合に望ましい。これらのシグナルとしては、例えばATG開始コドンと隣接配列が挙げられる。完全インサートの翻訳を確保するためには、ウイルス蛋白質に対して適正な読み枠に開始コドンを挿入する。外来転写エレメント及び開始コドンは天然及び合成の両者の種々の起源とすることができる。発現効率は使用する細胞システムに適したエンハンサーを加えることにより促進することができる。
【0093】
所望により、例えばポリペプチド発現を所望細胞区画、膜、もしくはオルガネラ、又は細胞培養培地にターゲティングするために、通常は目的ポリヌクレオチド配列とインフレームでベクターにシグナル配列、分泌又は局在配列等の付加的発現エレメントをコードするポリヌクレオチド配列を組込むことができる。このような配列は当業者に公知であり、分泌リーダーペプチド、オルガネラターゲティング配列(例えば核局在配列、ER保持シグナル、ミトコンドリアトランジット配列)、膜局在/アンカー配列(例えばストップトランスファー配列、GPIアンカー配列)等が挙げられる。
インフルエンザウイルスワクチン
【0094】
従来、インフルエンザウイルスワクチンは関連株の経験的予測に基づいて選択されたウイルス株を使用して発育鶏卵で生産されている。より最近では、承認弱毒、温度感受性マスター株に関して選択されたヘマグルチニン及びノイラミニダーゼ抗原を組込んだリアソータントウイルスが生産されている。鶏卵で複数継代によるウイルスの培養後にインフルエンザウイルスを回収し、場合により、例えばホルムアルデヒド及び/又はβ−プロピオラクトンを使用して不活化する。しかし、このようなインフルエンザワクチンの生産にはいくつかの大きな欠点がある。鶏卵に残留している汚染物質は高度に抗原性、発熱性であり、投与すると有意副作用を生じることが多い。更に重要な点として、インフルエンザワクチンの生産と不活化のための時間を見込んで一般に次の流感時期の数カ月前に生産用株を選択し、販売しなければならない。組換え及びリアソータントワクチンを細胞培養生産する試みはワクチン生産に承認されている株が標準細胞培養条件下で効率的に増殖できないことにより阻まれている。
【0095】
本発明は1又は多数の選択ウイルス抗原株に対応するワクチンを迅速に生産できるように組換え及びリアソータントウイルスを培養生産するためのベクターシステムと方法を提供する。特に、多重プラスミドシステムから細胞培養でウイルスを効率的に生産する条件と株を提供する。場合により、所望によりウイルスを鶏卵で更に増幅してもよい。
【0096】
例えば、インフルエンザBマスター株B/Ann Arbor/1/66を標準細胞培養条件下、例えば37℃で増殖させることはまだ可能ではない。本発明の方法では、インフルエンザウイルスゲノムのセグメントを各々組込んだ多重プラスミドを適切な細胞に導入し、35℃以下の温度で培養する。一般に、培養物を約32℃〜35℃、好ましくは約32℃〜約34℃、例えば約33℃に維持する。
【0097】
一般に、培養物は温度が35℃を越えないように確保するためのサーモセット等の温度調節器を使用して一定温度にし、制御下の湿度とCO2条件で細胞培養インキュベーター等のシステムに維持する。
【0098】
目的株(例えば目的抗原変異体)に由来する相補的セグメントと共にマスターインフルエンザウイルスのゲノムセグメントに対応するベクターのサブセットを導入することによりリアソータントインフルエンザウイルスを容易に得ることができる。一般に、マスター株はワクチン投与に関して望ましい特性により選択される。例えば、ワクチン生産(例えば生弱毒ワクチンの生産)には、弱毒表現型、低温適応及び/又は温度感受性によりマスタードナーウイルス株を選択することができる。この点では、インフルエンザA株ca A/Ann Arbor/6/60;インフルエンザB株ca B/Ann Arbor/1/66;又はその望ましい表現型特性により選択された別の株(例えば実施例4に記載するような人工構築インフルエンザA株又は表17に記載するアミノ酸置換の1個以上を組込んだ人工構築インフルエンザB株等の弱毒,低温適応,及び/又は温度感受性株);をマスタードナー株として選択すると有利である。
【0099】
1態様では、インフルエンザマスターウイルス株の6個の内部遺伝子(即ちPB1,PB2,PA,NP,NB,M1,BM2,NS1及びNS2)を組込んだプラスミドを望ましい抗原株(例えば有意局地的又は世界的インフルエンザ感染を誘発すると予想される株)に由来するヘマグルチニン及びノイラミニダーゼセグメントと共に適切な宿主細胞にトランスフェクトする。効率的回収に適した温度(例えば35℃以下、例えば約32℃〜35℃、例えば約32℃〜約34℃、又は約33℃)でリアソータントウイルスの細胞培養複製後にリアソータントウイルスを回収する。場合により、回収したウイルスをホルムアルデヒド又はβ−プロピオラクトン等の変性剤で不活化してもよい。
弱毒、温度感受性及び低温適応インフルエンザウイルスワクチン
【0100】
1側面では、本発明は好ましいマスタードナーウイルス株におけるts表現型の基礎となる突然変異の解明に基づく。MDV株ゲノムにおける単一ヌクレオチド変異の機能的重要性を調べるために、A/AA/6/60系統内の近縁株に由来するリアソータントウイルスの温度感受性を評価した。2種の親株の同系性によりts表現型に及ぼす単一ヌクレオチド変異の影響を評価することができる。従って、MDV−Aのts表現型の遺伝子基盤はPB1,PB2,及びNP内の特定アミノ酸残基にヌクレオチドレベルでマッピングされる。
【0101】
caA/AA/6/60のts表現型の遺伝子基盤をマッピングする従来の試みはA/AA/6/60と無関係のwt株の間の単一及び多重遺伝子リアソータントを作製するために古典的な共感染/リアソータント技術を使用していた。これらの研究はPB2とPB1の両者がts表現型に関与していることを示唆している(Kendalら(1978)Biochemical characteristics of recombinant viruses derived at sub−optimal temperatures :evidence that ts lesions are present in RNA segments 1 and 3,and that RNA 1 codes for the virion transcriptase enzyme,p.734−743.In B.W.J.Mahy,and R.D.Barry(ed.)Negative Strand Viruses,Academic Press;Kendalら(1977)Comparative studies of wild−type and cold mutant(temperature sensitive)influenza viruses :genealogy of the matrix(M) and the non−structural(NS)proteins in recombinant cold−adapted H3N2 viruses J Gen Virol 37:145−159;Kendalら(1979)Comparative studies of wild−type and cold−mutant(temperature sensitive)influenza viruses :independent segregation of temperature−sensitivity of virus replication from temperature−sensitivity of virion transcriptase activity during recombination of mutant A/Ann Arbor/6/60 with wild−type H3N2 strains J Gen Virol 44:443−4560;Snyderら(1988)Four viral genes independently contribute to attenuation of live influenza A/Ann Arbor/6/60(H2N2)cold−adapted reassortant virus vaccines J Virol 62:488−95)。しかし、これらの研究の解釈は2種の分岐インフルエンザA株に由来する遺伝子セグメントを混合することにより生じたコンステレーション効果により混乱している。A/AA/6/60とA/AA/6/60バックグラウンドに由来するts表現型の発現に特異的に関与しているもの以外のwt遺伝子セグメントの間の変異により相互作用が弱まったと思われる。コンステレーション効果はM遺伝子セグメントとatt表現型の関連の解釈も混乱させることが示されている(Subbaraoら(1992)The attenuation phenotype conferred by the M gene of the influenza A/Ann Arbor/6/60 cold−adapted virus(H2N2)on the A/Korea/82(H3N2)reassortant virus results from a gene constellation effect Virus Res 25:37−50)。
【0102】
本発明では、PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34位にアミノ酸置換をもたらす突然変異がMDV−A株ウイルスに温度感受性表現型を付与するのに機能的に重要であるとみなす。当業者に自明の通り、PB11195、PB11766、PB12005、PB2821及びNP146位のヌクレオチドの突然変異は夫々PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34位のアミノ酸置換を意味する。従って、これらの位置にアミノ酸置換をもたらす任意ヌクレオチド置換が本発明の特徴である。典型的突然変異であるPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)は単独、及びより好ましくは組み合わせて温度感受性表現型をもたらす。これらの突然変異が野生型に同時に復帰変異するとts表現型は失われ、これらの突然変異を野生型バックグラウンドに導入するとts表現型をもつウイルスが得られる。ウイルスの継代中のこれらの表現型の安定性と一致して、単一変異は得られるウイルスの温度感受性プロフィルを野生型のものに個々に復帰変異させることができない。逆に、これらの変異はts表現型を完全に発現するように相互に協同作用するように思われる。この発見により、生弱毒インフルエンザワクチンの生産用マスタードナーウイルスに適した付加的温度感受性インフルエンザAウイルス株を構築することができる。
【0103】
同様に、マスタードナーウイルスB株における個々のアミノ酸の置換は表17に示すようにts表現型と相関する。従って、本明細書に記載する方法は1個以上の特定突然変異をインフルエンザBゲノムに導入することにより、温度感受性、及び場合により弱毒及び/又は低温適応表現型をもつ新規インフルエンザB株を生産するのに適している。例えば、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす1個以上の突然変異をインフルエンザB株ゲノムに導入し、温度感受性インフルエンザBウイルスを生産する。典型的アミノ酸置換としては、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)が挙げられる。
【0104】
本発明の突然変異を組込んだインフルエンザウイルスは生産方法に関係なく本発明の特徴である。即ち、本発明は本発明の突然変異を含むインフルエンザ株、例えばPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される1個以上の位置に野生型に比較してアミノ酸置換をもつ任意インフルエンザAウイルス又はPB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される1個以上の位置に野生型に比較してアミノ酸置換をもつ任意インフルエンザBウイルスに関するが、但し、ca A/Ann Arbor/6/60及びB/Ann Arbor/1/66株は本発明の特徴とみなさない。特定好適態様では、夫々インフルエンザAウイルスはPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される複数の突然変異(例えば2、又は3、又は4、又は5個以上の突然変異)を含み、インフルエンザBウイルスはPB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V))から選択される複数の突然変異を含む。例えば、ワクチン生産に関して所望表現型をもつウイルスを提供することに加え、ウイルスの表現型における付加的突然変異の関与を解明するには突然変異のサブセット(例えば1、又は2、又は3、又は4、又は5個の選択された突然変異)をもつウイルスが有用である。特定態様では、インフルエンザウイルスは(例えば場合により付加的アミノ酸置換をもたらす)少なくとも1個の付加的な非野生型ヌクレオチドを含み、場合により所望表現型を強化するか又は別の望ましい表現型属性を付与する。
細胞培養
【0105】
一般に、ウイルスの増殖は宿主細胞を通常培養する培地組成物中で実施される。インフルエンザウイルスの複製に適した宿主細胞としては例えばVero細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、MDCK細胞、293細胞及びCOS細胞(293T細胞、COS7細胞を含む)が挙げられる。一般に、複製効率を改善するために、上記細胞株の2種(例えばMDCK細胞と293T又はCOS細胞)を含む共培養物を例えば1:1の比で使用する。一般に、細胞は中性緩衝pH(例えばpH7.0〜7.2)を維持するのに適した湿度とCO2濃度に制御しながら血清(例えば10%胎仔ウシ血清)を添加したダルベッコ変法イーグル培地等の標準市販培地や無血清培地で培養する。場合により、細菌増殖を防ぐために抗生物質(例えばペニシリン、ストレプトマイシン等)及び/又は付加栄養(例えばL−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸)、有利な増殖特徴を促進するために付加的添加剤(例えばトリプシン、β−メルカプトエタノール等)を培地に加えてもよい。
【0106】
哺乳動物細胞の培養法は広く報告されており、当業者に公知である。一般プロトコールは例えばFreshney(1983)Culture of Animal Cells:Manual of Basic Technique,Alan R.Liss,New York;Paul(1975)Cell and Tissue Culture,5th ed.,Livingston,Edinburgh;Adams(1980)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Cell Culture for Biochemists,Work and Burdon(eds.)Elsevier,Amsterdamに記載されている。インフルエンザウイルスのin vitro生産に特に有利な組織培養法に関する他の詳細な文献としては、例えばその開示内容全体を本明細書に組込むMertenら(1996)Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation.In Cohen and Shafferman(eds)Novel Strategies in Design and Production of Vaccinesが挙げられる。更に、このような方法の本発明への応用は日常的実験により容易に決定される。
【0107】
インフルエンザウイルス生産用細胞は血清添加培地でも無血清培地でも培養することができる。場合により、例えば精製ウイルスを製造するためには、宿主細胞を無血清条件下に増殖させることが望ましい。細胞は例えば25ml未満の培地等の小規模の培養管もしくはフラスコで培養してもよいし、撹拌機付き大型フラスコ、ローテーター瓶でもよいし、フラスコ、瓶又は反応器培養液中でマイクロキャリヤービーズ(例えばDormacell,Pfeifer & Langen;Superbead,Flow Laboratories等のDEAE−デキストランマイクロキャリヤービーズ;Hillex,SoloHill,Ann Arbor等のスチレンコポリマー−トリメチレンビーズ)上で培養してもよい。マイクロキャリヤービーズは接着細胞増殖のために大きな細胞培養液容量当たりの表面積を提供する小球(直径100〜200ミクロン)である。例えば、培地1リットルに20,000,000万個を越えるマイクロキャリヤービーズを加えると、8000平方cmを上回る増殖表面積が得られる。例えばワクチン生産用のウイルスの商業的生産には、多くの場合にはバイオリアクター又は発酵器で細胞を培養することが望ましい。バイオリアクターは1リットル未満から100リットル以上の容量のものが市販されており、例えばCyto3バイオリアクター(Osmonics,Minnetonka,MN);NBSバイオリアクター(New Brunswick Scientific,Edison,N.J.);B.Braun Biotech International製品実験室及び商業規模バイオリアクター(B.Braun Biotech,Melsungen,ドイツ)が挙げられる。
【0108】
培養容量に関係なく、本発明に関しては、本明細書に記載する多重プラスミドシステムを使用して組換え及び/又はリアソータントインフルエンザウイルスの効率的回収を確保するために35℃以下の温度で培養することが重要である。例えば、細胞を約32℃〜35℃の温度、一般には約32℃〜約34℃の温度、通常は約33℃で培養する。
【0109】
一般に、例えばサーモセットや細胞培養システムの温度を感知して維持するための他の装置等の調節器を使用してウイルス複製中に温度が35℃を越えないように確保する。
宿主細胞へのベクターの導入
【0110】
インフルエンザゲノムセグメントを組込んだベクターは異種核酸を真核細胞に導入するための当分野で周知の方法(例えばリン酸カルシウム共沈殿法、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、及びポリアミントランスフェクション試薬を使用するトランスフェクション)に従って宿主細胞に導入(例えばトランスフェクト)する。例えば、ポリアミントランスフェクション試薬TransIT−LT1(Mirus)を製造業者の指示に従って使用してCOS細胞、293T細胞又はCOSもしくは293T細胞とMDCK細胞の組合せ等の宿主細胞にベクター(例えばプラスミド)をトランスフェクトすることができる。宿主細胞集団に導入しようとする各ベクター約1μgにつきTransIT−LT1約2μlを培地、好ましくは無血清培地160μlで希釈し、合計容量200μlとする。DNA:トランスフェクション試薬混合物を室温で45分間インキュベートした後に培地800μlを加える。トランスフェクション混合物を宿主細胞に加え、細胞を上述のように培養する。従って、組換え又はリアソータントウイルスを細胞培養生産するためには8個のゲノムセグメント(PB2,PB1,PA,NP,M,NS,HA及びNA)の各々を組込んだベクターをTransIT−LT1約20μlと混合し、宿主細胞にトランスフェクトする。場合により、トランスフェクションの前に血清添加培地を無血清培地(例えばOpti−MEMI)に交換し、4〜6時間インキュベートする。
【0111】
あるいは、インフルエンザゲノムセグメントを組込んだベクターを宿主細胞に導入するためにエレクトロポレーションを使用することもできる。例えば、インフルエンザA又はインフルエンザBウイルスを組込んだプラスミドベクターを以下の手順に従ってエレクトロポレーションによりVero細胞に導入すると有利である。要約すると、例えば10%胎仔ウシ血清(FBS)を添加した変法イーグル培地(MEM)で増殖させたVero細胞5x106個をOptiMEM0.4mlに再懸濁し、エレクトロポレーションキュベットに加える。25μlまでの容量中のDNA20μgをキュベット内の細胞に加えた後、タッピングにより温和に混合する。エレクトロポレーションは製造業者の指示に従って(例えばBioRad Gene Pulser IIにCapacitance Extender Plusを接続)300ボルト,950マイクロファラデー及び時定数28〜33m秒で実施する。細胞をタッピングにより再混合し、エレクトロポレーションから約1〜2分後に10%FBSを添加したMEM0.7mlをキュベットに直接加える。次にMEM,10%FBS又は無血清OPTI−MEM2mlを加えた標準6ウェル組織培養皿のウェル2個に細胞を移す。キュベットを洗浄して残留細胞を回収し、洗浄懸濁液をウェル2個に分配する。最終容量は3.5mlとする。次にウイルス増殖に許容可能な条件下、例えば低温適応細胞には約33℃で細胞をインキュベートする。
ウイルスの回収
【0112】
感染(トランスフェクト)細胞を増殖させた培養培地から一般にウイルスを回収する。一般に、インフルエンザウイルスの濃縮前に粗培地を清澄化する。一般的な方法としては濾過、限外濾過、硫酸バリウム吸着と溶離、及び遠心が挙げられる。例えば、細胞破片や他の大型粒状物を除去するために十分な時間(例えば10〜30分間)例えば1000〜2000xgで遠心することにより感染培養液からの粗培地をまず清澄化することができる。あるいは、0.8μm酢酸セルロースフィルターで培地を濾過し、無傷の細胞と他の大型粒状物を除去してもよい。場合により、清澄化培地上清をその後、例えば15,000xgで約3〜5時間遠心してインフルエンザウイルスをペレット化してもよい。ウイルスペレットをSTE(0.01M Tris−HCl;0.15MNaCl;0.0001M EDTA)又はリン酸緩衝食塩水(PBS)pH7.4等の適当な緩衝液に再懸濁後、ウイルスを蔗糖(60%−12%)又は酒石酸カリウム(50%−10%)で密度勾配遠心により濃縮する。連続又はステップ勾配(例えば12%ずつ4ステップで12%−60%の蔗糖勾配)が適切である。ウイルスを回収用可視バンドに濃縮するために十分な速度と時間で勾配を遠心する。あるいは、大半の大規模商業用途には、連続モードで運転するゾーナル遠心ローターを使用して密度勾配からウイルスを選別する。組織培養からのインフルエンザウイルスの製造の手引きとして当業者に十分な他の詳細は例えばFurminger.Vaccine Production,in Nicholsonら(eds)Textbook of Influenza pp.324−332;Mertenら(1996)Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation,in Cohen & Shafferman(eds)Novel Strategies in Design and Production of Vaccines pp.141−151、及び米国特許第5,690,937号に記載されている。所望により、回収したウイルスを安定剤として蔗糖−リン酸塩−グルタミン酸塩(SPG)の存在下に−80℃で保存することができる。
ワクチンの予防投与方法及び組成物
【0113】
本発明の組換え及びリアソータントウイルスは1種以上のインフルエンザウイルス株に特異的な免疫応答を刺激するのに適したキャリヤー又は賦形剤に加えて予防投与することができる。一般に、キャリヤー又は賦形剤は医薬的に許容可能なキャリヤー又は賦形剤であり、例えば滅菌水、食塩水溶液、緩衝食塩水溶液、デキストロース水溶液、グリセロール水溶液、エタノール、無感染鶏卵由来尿膜腔液(即ち正常尿膜腔液「NAF」)又はその組合せが挙げられる。無菌性、pH、等張性、及び安定性を確保するこのような溶液の調製は当分野で確立されているプロトコールに従って実施される。一般に、キャリヤー又は賦形剤はアレルギーや他の望ましくない作用を最小限にすると共に例えば皮下、筋肉内、鼻腔内等の特定投与経路に適合するように選択される。
【0114】
一般に、本発明のインフルエンザウイルスは1種以上のインフルエンザウイルス株に特異的な免疫応答を刺激するために十分な量を投与される。インフルエンザウイルスの投与により防御免疫応答を誘発することが好ましい。1種以上のインフルエンザ株に対する防御免疫応答を誘発するための用量と方法は当業者に公知である。例えば、投与用量当たり約1〜1000HID50(ヒト感染用量)、即ち約105〜108pfu(プラーク形成単位)の不活化インフルエンザウイルスを投与する。あるいは、アジュバントの不在下に約10〜50μg、例えば約15μgHAを投与するが、アジュバントを加える場合にはより低用量を投与する。一般に、用量は例えば年齢、健康状態、体重、性別、食事、投与時間、及び他の臨床因子に基づいてこの範囲内に調節される。予防ワクチン製剤は例えば注射針と注射器又は無針注射装置を使用して皮下又は筋肉内注射により全身投与する。あるいは、ワクチン製剤は滴剤、大粒子エアゾール(>約10ミクロン)、又はスプレーにより上気道に鼻腔内投与する。上記送達経路のいずれでも防御全身免疫応答が得られるが、鼻腔内投与はインフルエンザウイルスの進入部位に粘膜免疫を誘発するという付加利点が得られる。鼻腔内投与には、多くの場合には例えば弱毒、低温適応及び/又は温度感受性組換え又はリアソータントインフルエンザウイルス等の弱毒生ウイルスワクチンが好ましい。1回の投与で防御免疫応答を刺激することが好ましいが、所望予防効果を達成するために同一又は別経路で付加用量を投与してもよい。
【0115】
あるいは、インフルエンザウイルスを樹状細胞にex vivo又はin vivoターゲティングすることにより免疫応答を刺激することもできる。例えば、インフルエンザ抗原を樹状細胞に捕獲させるために十分な量と時間でウイルスに増殖中の樹状細胞を暴露する。次に、標準静脈内移植法によりワクチン接種すべき対象に細胞を導入する。
【0116】
場合により、インフルエンザウイルスの予防投与用製剤又はそのサブセットにインフルエンザ抗原に対する免疫応答を強化するための1種以上のアジュバントを加えてもよい。適切なアジュバントとしてはサポニン、ミネラルゲル(例えば水酸化アルミニウム)、表面活性物質(例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油又は炭化水素エマルション)、bacille Calmette−Guerin(BCG)、Corynebacterium parvum、並びに合成アジュバントQS−21及びMF59が挙げられる。
【0117】
所望により、インフルエンザウイルスの予防ワクチン投与と1種以上の免疫刺激分子の投与を併用して実施してもよい。免疫刺激分子としては免疫刺激、免疫強化及び炎症予防活性をもつ種々のサイトカイン、リンホカイン及びケモカインが挙げられ、例えばインターロイキン(例えばIL−1,IL−2,IL−3,IL−4,IL−12,IL−13);増殖因子(例えば顆粒球マクロファージ(GM)コロニー刺激因子(CSF));及び他の免疫刺激分子(例えばマクロファージ炎症因子、Flt3リガンド、B7.1;B7.2等)が挙げられる。免疫刺激分子はインフルエンザウイルスと同一製剤で投与してもよいし、別に投与してもよい。免疫刺激効果を生じるために、蛋白質又は蛋白質をコードする発現ベクターを投与することができる。
【0118】
別の態様では、インフルエンザゲノムセグメントを組込んだ本発明のベクターを使用して上記のような適切な医薬キャリヤー又は賦形剤と共に異種核酸を宿主生物又は宿主細胞(例えば哺乳動物細胞、例えばヒト対象に由来する細胞)に導入することができる。一般に、異種核酸は遺伝子又は遺伝子セグメントの非必須領域(例えばセグメント7のM遺伝子)に挿入する。異種ポリヌクレオチド配列はポリペプチドもしくはペプチド、又はアンチセンスRNAもしくはリボザイム等のRNAをコードすることができる。次に、異種核酸を組込んだ組換えウイルスを生産することにより異種核酸を宿主又は宿主細胞に導入し、上述のようにウイルスを投与する。
【0119】
あるいは、インフルエンザウイルスに感染させた細胞にベクターをコトランスフェクトすることにより、異種核酸を組込んだ本発明のベクターを宿主細胞に導入して発現させることができる。場合により、次に細胞を対象、一般にはその細胞を取得した部位に返却又は送達する。用途によっては、既存細胞導入又は移植法を使用して細胞を目的組織、臓器、又は(上記のような)身体部位に移植する。例えば、標準送達又は輸液技術を使用して骨髄、臍帯血、又は末梢血由来造血幹細胞等の造血系統の幹細胞を対象に送達することができる。
【0120】
あるいは、異種核酸を組込んだウイルスを対象の細胞にin vivo送達することができる。一般に、このような方法はベクター粒子をターゲット細胞集団(例えば血液細胞、皮膚細胞、肝細胞、(脳を含む)神経細胞、腎細胞、子宮細胞、筋肉細胞、腸細胞、子宮頚管細胞、膣細胞、前立腺細胞等、並びに種々の細胞、組織及び/又は臓器に由来する腫瘍細胞)に投与する。投与は例えばウイルス粒子の静脈内投与により全身に行ってよいし、(例えば注射針と注射器を使用する)注射、無針ワクチン送達、局所投与、又は組織、臓器もしくは皮膚部位への圧入等の種々の方法によりウイルス粒子を1又は複数の目的部位に直接投与してもよい。例えば、ウイルスベクター粒子は吸入、経口、静脈内、皮下、真皮下、真皮内、筋肉内、腹腔内、鞘内、膣もしくは直腸投与、又は例えば手術中にウイルス粒子を体腔もしくは他の部位に配置することにより送達することができる。
【0121】
上記方法は治療又は予防薬として有効なポリペプチド(又はペプチド)又はRNA(例えばアンチセンスRNA又はリボザイム)をコードする異種ポリヌクレオチドを組込んだ本発明のベクターをターゲット細胞集団にin vitro、ex vivo又はin vivo導入することにより疾病又は疾患を治療及び/又は予防処置するために有用である。一般に、目的ポリペプチド(又はペプチド)又はRNAをコードするポリヌクレオチドは「発現ベクター」及び「付加的発現エレメント」の表題のセクションで上述したように適当な調節配列に機能的に連結される。場合により、2種以上の異種コーディング配列を単一ベクター又はウイルスに組込んでもよい。例えば、治療又は予防活性ポリペプチド又はRNAをコードするポリヌクレオチドに加え、付加的治療又は予防ポリペプチド(例えば抗原、共刺激分子、サイトカイン、抗体等)及び/又はマーカー等もベクターに加えることができる。
【0122】
本発明の方法とベクターは例えばウイルス、細菌等による感染症用ワクチンとして遺伝病や後天性疾患等の多様な疾患を治療又は予防処置するために使用することができる。
キット
【0123】
本発明のベクター及びベクターシステムを使用し易くするために、ベクター(例えばコンセンサスインフルエンザウイルスプラスミド、変異体インフルエンザポリペプチドプラスミド、インフルエンザポリペプチドライブラリープラスミド等)のいずれかと実験又は治療目的でインフルエンザウイルスのパッケージングと感染に有用な付加的コンポーネント(例えば緩衝液、細胞、培養培地)をキットとしてパッケージングすることができる。一般に、キットは上記コンポーネントに加え、例えば本発明の方法を実施するための説明書、パッケージング材料、及び容器等の付加的材料を含む。
ウイルス核酸及び蛋白質の操作
【0124】
本発明に関して、インフルエンザウイルス核酸及び/又は蛋白質は周知分子生物学技術に従って操作する。増幅、クローニング、突然変異誘発、形質転換等を含む多数のこのような操作の詳細なプロトコールは例えばAusubelらCurrent Protocols in Molecular Biology(supplemented through 2000)John Wiley & Sons,New York(“Ausubel”);SambrookらMolecular Cloning−A Laboratory Manual(2nd Ed.),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,1989(“Sambrook”),及び Berger and Kimmel Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods inEnzymologv volume 152 Academic Press,Inc.,San Diego,CA(“Berger”)に記載されている。
【0125】
上記文献に加え、例えば本発明のcDNAプローブを増幅するために有用なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、Qβ−レプリカーゼ増幅、及び他のRNAポリメラーゼ技術(例えばNASBA)等のin vitro増幅技術のプロトコールはMullisら(1987)米国特許第4,683,202号;PCR Protocols A Guide to Methods and Applications(Innisらeds)Academic Press Inc.San Diego,CA(1990)(“Innis”);Arnheim and Levinson(1990)C & EN 36;The Journal Of NIH Research(1991)3:81;Kwohら(1989)Proc Natl Acad Sci USA 86,1173;Guatelliら(1990)Proc Natl Acad Sci USA 87 :1874;Lomellら(1989)J Clin Chem 35:1826;Landegrenら(1988)Science 241:1077;Van Brunt(1990)Biotechnology 8:291;Wu and Wallace(1989)Gene 4:560;Barringerら(1990)Gene 89:117,及びSooknanan and Malek(1995)Biotechnology 13 :563に記載されている。本発明に関して核酸のクローニングに有用な他の方法としては、Wallaceら米国特許第5,426,039号が挙げられる。PCRによる大型核酸の改善増幅法はChengら(1994)Nature 369:684とその引用文献に要約されている。
【0126】
本発明の特定ポリヌクレオチド(例えばオリゴヌクレオチド)はモノヌクレオチド及び/又はトリヌクレオチドホスホロアミダイトカップリング化学を含む種々の固相ストラテジーを使用して合成することができる。例えば、核酸配列は活性化モノマー及び/又はトリマーを伸長ポリヌクレオチド鎖に順次付加することにより合成することができる。例えばCaruthers,M.H.ら(1992)Meth Enzvmol 211 :3参照。
【0127】
所望配列を合成する代わりに、The Midland Certified Reagent Company(mcrc@oligos.com),The Great American Gene Company(www.genco.com),ExpressGen,Inc.(www.expressgen.com),Operon Technologies,Inc.(www.operon.com),及び他の多数の企業等の種々の商業ソースのに任意のものからほぼ任意の核酸を特注することができる。
【0128】
更に、例えば部位特異的突然変異誘発によりウイルスポリペプチドの選択されたアミノ酸残基の置換を行うことができる。例えば、ポリペプチドをコードするウイルス核酸セグメントに特定突然変異を導入することにより、望ましい表現型特徴(例えば弱毒表現型、低温適応、温度感受性)と機能的に相関したアミノ酸置換をもつウイルスポリペプチドを生産することができる。部位特異的突然変異誘発法は当分野で周知であり、例えばAusubel,Sambrook,and Berger,前出に記載されている。部位特異的突然変異を実施するためのキットは例えばChameleon Site Directed Mutagenesis Kit(Stratagene,La Jollaをはじめとする多数のものが市販されており、例えばインフルエンザA又はBポリペプチドを夫々コードするゲノムセグメントに表6又は表17に記載する1個以上のアミノ酸置換を導入するように製造業者の指示に従って使用することができる。
【実施例1】
【0129】
pAD3000の構築
ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナルをサルウイルス40(SV40)に由来するポリアデニル化シグナルで置換するようにプラスミドpHW2000(Hoffmannら(2000)A DNA transfection system for generation of influenza A virus from eight plasmids Proc Natl Acad Sci USA 97:6108−6113)を改変した。
【0130】
Taq MasterMix(Qiagen)と以下のオリゴヌクレオチド(5’→3’方向で示す):
polyA.1 :AACAATTGAGATCTCGGTCACCTCAGACATGATAAGATACATTGATGAGT(配列番号1)
polyA.2:TATAACTGCAGACTAGTGATATCCTTGTTTATTGCAGCTTATAATGGTTA(配列番号2)
を使用してSV40に由来する配列を増幅した。
【0131】
プラスミドpSV2Hisを鋳型として使用した。予想175bp産物に一致するフラグメントを取得し、Topo TAクローニングベクター(Invitrogen)を製造業者の指示に従って使用してpcDNA3.1にクローニングした。得られたプラスミドからSV40ポリアデニル化シグナルを含む所望138bpフラグメントをEcoRVとBstEIIで切り出し、アガロースゲルから単離し、慣用技術(例えばAusubel,Berger,Sambrook参照)を使用してpHW2000のユニークPvuII−BstEII部位間にライゲーションした。得られたプラスミドpAD3000(図1)を配列決定した処、正しい方向にSV40ポリアデニル化部位を含むことが判明した。pAD3000のヌクレオチド295−423はSV40株777(AF332562)の夫々ヌクレオチド2466−2594に対応する。
【実施例2】
【0132】
MDV−A生産用8プラスミドシステム
低温適応A型インフルエンザウイルス株A/AA/6/60変異体は鼻腔投与インフルエンザAワクチンの生産用マスタードナーウイルスとして一般に使用されている。この株は本発明に関して典型的なマスタードナーウイルス(MDV)である。簡単にするために、この株A/AA/6/60変異体を本明細書ではMDV−Aと言う。RNeasyミニキット(Qiagen)を使用してMDV−AウイルスRNAを抽出し、表1に示すプライマーを使用してRT−PCRにより8個の対応するcDNAフラグメントを増幅した。
【表1】
【0133】
HAとPB2をコードするインフルエンザゲノムセグメントはAarI制限酵素認識部位を含むプライマー使用して増幅したが、それ以外の6個の遺伝子はBsmBI制限酵素認識部位を含むプライマーを使用して増幅した。AarI及びBsmBIcDNAフラグメントのいずれもpAD3000ベクターの2個のBsmBI部位の間にクローニングした。
【0134】
シーケンシング分析の結果、クローニングした全cDNAフラグメントはコンセンサスMDV−A配列に対してクローニング段階中に導入されたと思われる突然変異を含んでいた。各遺伝子セグメントに検出された突然変異を表2に要約する。
【表2】
【0135】
QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)と表3に示す合成オリゴヌクレオチドプライマーを使用して全突然変異をコンセンサスMDV−A配列に補正した。
【表3】
【実施例3】
【0136】
感染性組換えMDV−A及びリアソータントインフルエンザウイルスの作製
10%胎仔ウシ血清(FBS)を添加した変法イーグル培地(MEM)にMadin−Darbyイヌ腎(MDCK)細胞とヒトCOS7細胞を維持した。5%FBSを添加したOpti−MEM I(Life Technologies)にヒト胚性腎細胞(293T)を維持した。MDCK細胞とCOS7細胞又は293T細胞を6ウェルプレートで1:1の比で共培養し、これらの細胞を約80%のコンフルエンシーでトランスフェクションに使用した。293T細胞とCOS7細胞はトランスフェクション効率が高いが、インフルエンザウイルス複製には許容されない。MDCK細胞と共培養すると、組換えウイルスの効率的な複製を確保することができる。トランスフェクションに先立ち、血清添加培地を無血清培地(Opti−MEM I)に交換し、4〜6時間インキュベートした。TransIT−LT1(Mirus)を使用し、20μlのTransIT−LT1を160μlのOpti−MEMIで希釈して8種のプラスミドDNA(PB2,PB1,PA,NP,M,NS,HA及びNA)各1μgと混合して総容量200μlとすることによりプラスミドDNAトランスフェクションを実施した。DNA:トランスフェクション試薬混合物を室温で45分間インキュベートした後に800μlのOpti−MEMIを加えた。次にトランスフェクション混合物を共培養MDCK/293T又はMDCK/COS7細胞に加えた。トランスフェクト細胞を35℃又は33℃で6時間〜24時間、例えば一晩インキュベートし、トランスフェクション混合物を各ウェルで1mlのOpti−MEMに交換した。35℃又は33℃で24時間インキュベーション後に1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した1mlのOpti−MEMIを各ウェルに加え、更に12時間インキュベートした。回収したウイルスを次にコンフルエントMDCK細胞で増幅するか又は発育鶏卵で直接増幅した。12ウェルプレート内のMDCK細胞にトランスフェクション混合物0.2mlを1時間室温で感染させた後、混合物を除去し、1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した2mlのOpti−MEMIに交換した。細胞を35℃又は33℃で3〜4日間インキュベートした。増幅したウイルスをSPG安定剤の存在下に−80℃で保存するか又はプラーク精製し、MDCK細胞もしくは発育鶏卵で増幅した。
MDV−Aポリメラーゼ蛋白質の機能的発現
【0137】
EGFPレポーター遺伝子をコードするインフルエンザウイルスミニゲノムを複製する能力により4種のMDV−Aポリメラーゼ蛋白質PB2,PB1,PA及びNPの機能活性を分析した。A/PR/8/34株(H1N1)のcDNAを含む8種1組の発現プラスミド(例えば表4参照)(Hoffmannら(2001)Eight plasmid rescue system for influenza A virus;Options for the control of influenza International Congress Series 1219:1007−1013)と強化緑色蛍光蛋白質をコードするレポーター遺伝子を含むインフルエンザウイルスミニゲノム(EGFP,pHW72−EGFP)を使用した。
【0138】
インフルエンザAウイルスEGFPミニゲノムに相当するプラスミド(pHW72−EGFP)と共にMDV−A PB1,PB2,PA及びNP又はPB1,PA,NP(陰性対照として−PB2)を共培養MDCK/293T細胞にトランスフェクトした(Hoffmannら(2000)“Ambisense”approach for the generation of influenza A virus :vRNA and mRNA synthesis from one template Virology 15:267(2):310−7)。トランスフェクト細胞をトランスフェクションから48時間後に位相コントラスト顕微鏡又は蛍光顕微鏡で観察した。あるいは、フローサイトメトリーを使用してEGFP発現を検出した。
【0139】
図2に示すように、MDV−AのPB2,PB1,PA及びNPをトランスフェクトした細胞にはEGFPミニゲノムの発現を示す緑色蛍光が観察されたが、ポリメラーゼ蛋白質を3種しかトランスフェクトしなかった細胞には観察されなかった。このことからpAD3000におけるMDV−Aポリメラーゼ蛋白質は機能的であると思われた。
【0140】
他のアッセイでは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を含むミノゲノムpFlu−CATを使用してポリメラーゼ活性を測定する。このようなアッセイでは、ミニゲノム複製の指標として(例えばELISAにより)蛋白質又はRNAレベルでCAT発現を測定する。
単一遺伝子リアソータント実験によるMDV−Aプラスミドの分析
【0141】
pAD3000にクローニングした8種のMDV−Aゲノムセグメントの各々はMDA−Aに由来する単一遺伝子セグメントを対照A/PR/8/34株に由来する相補的な7種のセグメントと共にコトランスフェクトすることによりリアソータント実験で機能的に発現されることが判明した。相補的対照セグメントと併用すると全8種の単一ゲノムセグメントプラスミドから感染性リアソータントウイルスが作製され、感染MDCK細胞に細胞変性効果を生じたので、全8種のプラスミドは機能的MDV−A蛋白質をコードすると思われた。表4。
【表4】
【0142】
インフルエンザAウイルスのパッケージング制約を更に調べるために、NSセグメントを2個の別個の遺伝子セグメントに分離し、一方がNS1ゲノムセグメントをコードし、他方がNS2ゲノムセグメントをコードするようにした。インフルエンザAのゲノムセグメントを含む9種のプラスミドを上述のようにMDCK/COS細胞にトランスフェクトし、回収したウイルスをMDCK細胞で力価測定する前に発育鶏卵で増幅した。9プラスミドシステムでは上記8プラスミドシステムに比較してプラークサイズの減少が観察された。RT−PCR分析によると、ビリオンにはNS2セグメントしか存在せず、NS1遺伝子セグメントはパッケージングされていないことが判明した。
MDV−A及び6:2リアソータントウイルスの回収
【0143】
上記手順に従い、8種のMDV−Aプラスミド(組換え)又は6個のMDV−A内部遺伝子とA/PR/8/34に由来するHAとNAを組込んだプラスミド(6:2リアソータント)のトランスフェクションから3日後に、トランスフェクト培養上清を使用して新鮮なMDCK細胞に感染させ、感染細胞を1μg/ml TPCK−トリプシンの存在下に33℃で3日間インキュベートした。感染MDCK細胞に及ぼす組換えウイルスの細胞変性効果を顕微鏡で観察した。標準血球凝集アッセイ(HA)を使用してウイルスヘマグルチニンの発現をモニターした。HAアッセイは96ウェルプレートで系列2倍希釈培養上清50μlを1%ヒヨコ赤血球細胞50μlと混合することにより実施した。トランスフェクトした8種のMDV−Aプラスミドと6:2リアソータントウイルスのどちらに由来する増幅ウイルスにも約1:254〜1:1024のHA力価が検出された。E.Hoffman博士から入手した8A/PR/8/34プラスミドを使用するトランスフェクション反応を陽性対照として使用した。表5に示すようにこれらの3種のトランスフェクション反応から感染性インフルエンザウイルスが生産された。
【表5】
【0144】
回収したウイルスの遺伝子型をマッピングするためにRT−PCRを実施した。RNeasyミニキット(Qiagen)を使用して感染細胞培養上清からウイルスRNAを単離し、各MDV−A遺伝子セグメントに特異的なプライマーとH1及びN1特異的プライマーを使用して8種のインフルエンザウイルスセグメントをRT−PCRにより増幅した。図3に示すように、rMDV−AはMDV−Aに特異的なPB2,PB1,NP,PA,M及びNSとH2及びN2サブタイプに特異的なHA及びNAを含んでいた。6:2リアソータントはMDV−Aに由来する6個の内部遺伝子と、A/PR/8/34(H1N1)に由来するHA及びNAを含んでいた。このことから、トランスフェクトプラスミドから作製したウイルスは正しい遺伝子型をもつことが確認された。
【0145】
レスキューされたウイルスをMDCK細胞でプラークアッセイにより力価測定した処、プラークはMDV−Aに対するニワトリ血清を使用する免疫染色によりインフルエンザウイルスであることが確認された。12ウェルプラークで100%コンフルエントのMDCK細胞に10倍系列希釈ウイルス100μlを室温で温和な振盪下に1時間感染させた。接種材料を除去し、0.8%アガロースと1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した1XL15を細胞に重層した。プレートを35℃又は33℃で3日間インキュベートし、100%メタノールで固定し、PBS中5%ミルクによりブロックし、2000倍希釈ニワトリ抗MDV−A抗血清と共に1時間インキュベートした後、HRP標識ウサギ抗ニワトリIgGと共に1時間インキュベートした。HRP基質溶液(DAKO)を加えることによりプラークを可視化した。回収された全ウイルスは陽性免疫染色を示した。
【実施例4】
【0146】
MDV−Aのca、ts、att表現型の遺伝子基盤のマッピング
MDV−Aインフルエンザウイルスワクチン株は低温適応(ca),温度感受性(ts)及び弱毒(att)等のワクチン(例えば生弱毒ワクチン)の生産に関連する数種の表現型をもつ。MDV−A株と非tsビルレントwtA/AA/6/60株の配列比較の結果、これらの2種の株の間には最低17ntの差異があることが判明した(表6)。MDV−A配列における置換のいくつかはGeneBankデータベースで入手可能な全A型インフルエンザウイルスに比較してこの株にユニークであり、これらのアミノ酸置換の1個以上がatt,ca及びts表現型に機能的に関係することを示唆している。PB2821における単一アミノ酸置換はMDV−Aのts表現型の決定基として従来報告されていた唯一のヌクレオチド位置であった(Subbaraoら(1995)Addition of Temperature−Sensitive Missense Mutations into the PB2 Gene of Influenza A Transfectant Viruses Can Effect an Increase in Temperature Sensitivity and Attenuation and Permits the Rational Design of a Genetically Engineered Live Influenza A Virus Vaccine J.Virol.69:5969−5977)。
【0147】
MDV−A表現型に関与する最小置換を特定するために、wtA/AA/6/60と相異するMDV−Aクローンのヌクレオチドを個々にwtA/AA/6/60のヌクレオチドに置換した(即ち「復帰変異させた」)。次に各復帰変異遺伝子セグメントをMDV−Aの相補的セグメントと共に宿主細胞に導入し、単一遺伝子リアソータントを回収した。更に、復帰変異遺伝子セグメントと対応するMDV−Aセグメントを他の野生型株(例えばA/PR/8/34株)に由来するセグメントと共にトランスフェクトし、各遺伝子セグメントがウイルス表現型に関与しているか否かを評価することもできる。上記組換えMDV−Aプラスミドシステムを使用して部位特異的突然変異誘発を実施し、非tsリアソータントを作製するように6個の内部遺伝子を更に改変した。表6に示すような組換え野生型A/AA/6/60ゲノム(rWt,Flu064)に相当するように合計15個のヌクレオチド置換突然変異を6種のMDV−Aプラスミドに導入した。Madin−Darbyイヌ腎(MDCK)細胞とCOS−7細胞を上述のように維持及びトランスフェクトした。回収したウイルスを次にMDCK細胞で1代継代した後、発育鶏卵の尿膜腔で増幅させた。トランスフェクションとMDCK及び鶏卵でのウイルス増殖は温度選択圧を最小限にするためにca及びwtウイルスの両者に許容される温度である33℃で実施した。ウイルスRNAから増幅したcDNAフラグメントの配列分析によりウイルス遺伝子型を確認した。
【表6】
【0148】
例えばその開示内容全体を本明細書に組込む米国特許第6,322,967号(Parkin,発明の名称「インフルエンザの組換えトリプトファン突然変異体(Recombinant tryptophan mutants of influenza)」)に従来記載されているような当分野で公知の方法により表現型特徴を決定した。要約すると、組換えウイルスの温度感受性をMDCK細胞でプラークアッセイにより33、38及び39℃で測定した。6ウェルプレート内のMDCK細胞に10倍系列希釈ウイルス400μlを感染させ、室温で60分間吸着させた。接種材料を除去し、1%アガロースと1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した1xL15/MEMに交換した。33℃でCO2インキュベーター又は38±0.1℃又は39±0.1℃に維持した循環水浴に沈めた5%CO2を収容する水密容器で感染細胞をインキュベートした(Parkinら(1996)Temperature sensitive mutants of influenza A virus generated by reverse genetics and clustered charged to alanine mutagenesis.Vir.Res.46:31−44)。3日間インキュベーション後、ニワトリ抗MDVポリクローナル抗体を使用して単層を免疫染色し、プラークを計数した。各温度で得られたプラークカウントを比較し、各ウイルスのts表現型を評価し、各アッセイを最低3回ずつ実施した。シャットオフ温度は33℃に比較して力価低下が100倍以上となる最低温度として定義した。
【0149】
8種のプラスミド(pMDV−PB2,pMDV−PB1,pMDV−PA,pMDV−NP,pMDV−HA,pMDV−NA,pMDV−M,及びpMDV−NS)をトランスフェクトした共培養COS−7/MDCK細胞から得られた感染性ウイルスを発育鶏卵で増幅させた処、非組換え生物由来MDV−Aの特徴的ts表現型を示すことが判明した(表7)。MDV−AとrMDV−Aのどちらも39℃では明白なプラークを形成しなかったが、どちらも33℃では容易に目に見えるプラークを形成した。
【表7】
【0150】
MDV−Aのts表現型の遺伝子基盤の系統的な詳細分析を実施するために、ca A/AA/6/60に対して7〜48ntの変異をもつ数種の近縁非ts、非att wtA/AA/6/60株(高度関連単離株wtA/AA/6/60E10SE2を含む)の配列を比較のために使用した。E10SE2とMDV−Aの間には合計19ntの変異が存在する(表6)。E10SE2はフェレットで非ts(表7)及び非attであることが判明した。組換え非tsウイルスを作製するために、MDV−Aプラスミドを部位特異的突然変異誘発により改変し、10個のアミノ酸置換に相当する19個の変異のうちの15個を組込んだ。MDV−AとE10SE2の間で相異するヌクレオチド位置のうちPB2−1182,1212,PB1−123、及びNP−1550の4個はA/AA/6/60の他の非ts単離株で観察され、従って、ts表現型の発現に関与するとは予想されないので、MDV−A配列から改変しなかった(Herlocherら(1996)Sequence comparisons of A/AA/6/60 influenza viruses :mutations which may contribute to attenuation.Virus Research 42:11−25)。8種1組のプラスミドpWt−PB2,pWt−PB1,pWt−PA,pWt−NP,pWt−M,pWt−NS,pMDV−HA,及びpMDV−NAをトランスフェクトした共培養COS−7/MDCK細胞から15個のヌクレオチド置換をコードする組換えウイルス(rWt,Flu064)が得られた。シーケンシング分析の結果、rWtは指定遺伝子変異を含み、39℃で非tsであり、生物由来wtA/AA/6/60に一致することが判明した。これらの知見から、ts表現型はこれらの15nt変異のサブセットにマッピングすることが立証された。
ウイルスts表現型への6個の内部遺伝子セグメントの関与
【0151】
組換え単一遺伝子リアソータント(表7)を作製することにより、MDV−A ts表現型に及ぼす各wt遺伝子セグメントの効果を調べた。wtPB2をrMDV−Aに導入すると、38℃では非tsのウイルスしか得られなかったが、39℃ではtsが維持された。MDCK細胞でプラークアッセイにより測定した場合、(33℃に対して)38℃と39℃のウイルス力価の低下は夫々0.6log10と2.7log10であった。wtPB1遺伝子セグメントを含むリアソータントは38℃と39℃の両者でそのプラーク形成能に関して非tsであった。しかし、この組換え体のプラークサイズは温度上昇により変化し、39℃ではrWtに比較して有意に減少した。wtNP遺伝子セグメントをrMDV−Aに導入すると、同様に38℃では非tsのウイルスとなったが、wtPB2組換え体と異なり、wtNP遺伝子セグメントを含むウイルスは39℃でプラークを形成しなかった。wtPA,M又はNS遺伝子セグメントを個々にrMDV−Aに導入すると、ts表現型は変化せず、これらの3種の遺伝子セグメントはこの表現型の維持に最小限の役割を果たすと思われた。
【0152】
MDV−Aバックグラウンドに個々に発現されたwtPB1,wtPB2又はwtNPはいずれも非ts rWTと同一のプラーク効率とプラークサイズプロフィルを生じることができなかったので、これらの遺伝子セグメントを種々に組合せてMDV−Aに導入した。wtPB1とwtPB2を組合せると、38℃と39℃のどちらでも非tsのウイルスになった(表7)。プラークサイズはどちらの単一遺伝子リアソータントよりも大きかったが、rWtより有意に小さかった。rMDV−AにwtPB1/PB2/NPの三重組合せを導入すると、39℃でそのプラーク効率とプラークサイズにおいてrWtに類似又は一致するウイルスが得られた。従って、個別に導入した場合にはwtPB2,PB1及びNP遺伝子セグメントはts表現型を一部だけ復帰変異させたが、全3種のwt遺伝子セグメントを組合せると、ts表現型をrWtと同一の非ts表現型に完全に復帰変異させることができた。
【0153】
これらの3種の遺伝子セグメントが特徴的MDV−A ts表現型をrWtに付与することができたか否かを調べるために、MDV−Aに由来する6種の内部遺伝子セグメントを個別又は組合せてrWtに導入した。単一PB1,PB2,又はNP遺伝子セグメントをrWtに導入すると、38℃のウイルス力価は低下し、39℃では更に低下したが、これらの単一遺伝子リアソータントのうちでrMDV−Aのように高温で制限されるものは皆無であった(図10)。mMDV−Aに由来するPA,M及びNS遺伝子セグメントはrWtの非ts表現型に影響を与えなかった。上記リアソートメントに一致して、MDV−APB1及びPB2遺伝子の両方をrWtバックボーンに導入すると、38℃でウイルスts表現型は著しく増加したが、ウイルスts表現型の完全な復帰変異にはNPを加える必要があることが立証された。従って、MDV−Aに由来するPB1,PB2及びNP遺伝子セグメントは完全なts表現型の付与に重要であった。
MDV−A ts表現型を決定した遺伝子座のマッピング
【0154】
rWt及びrMDV−AのPB1,PB2及びNP遺伝子セグメント間の特異的変異を系統的に検討し、ts表現型に有意な役割を果たした変異を同定した。rMDV−AのNP遺伝子はnt146のみがrWtNPと相異していた(G34D,表6)。rMDV−AのPB2遺伝子は3部位がrWtと相異していたが、nt821のみがアミノ酸置換を伴い(N265S,表6)、PB2遺伝子セグメントに位置するts遺伝子座に相当すると予想された。MDV−AのPB1遺伝子は6nt位置がwtPB1と相異し、そのうち4個はコーディング変異であった(表6)。wtアミノ酸残基置換の各々を個々にrMDV−AのPB1遺伝子セグメントに置換し、ts表現型におけるその役割を調べた。1395G(Glu−457)と2005G(Ala)はMDV−A ts表現型に影響がなかった。1195A(Lys−391)と1766A(Glu−581)は各々38℃でts表現型を僅かに低下させたが、39℃では影響がなかった(表8)。これらのデータから、1195Aと1766AがPB1遺伝子セグメントにおけるts遺伝子座ではないかと予想された。しかし、1195Aと1766Aを併用してもwtPB1に類似するts表現型は生じなかった(表6)。1395Aでなく2005GをPB1−1195A/1766Aに加えると、39℃でウイルスts表現型は更に低下し、2005AもMDV−AのPB1セグメントにより特定されるts表現型の発現に役割を果たすことが立証された。
【表8】
【0155】
次に、PB1単一部位突然変異をwtPB2及びwtNPと共にrMDV−Aに導入した。wtPB2/NP及びrMDV−Aリアソータントは38℃で非tsであり、39℃で力価低下が1.25log10であったが、そのプラークサイズはrWtに比較して著しく減少した。PB1−1195A又は1766Aを加えてもwtPB2/NPリアソータントの表現型は有意に変化しなかった。PB1−1195A及び1766AをwtPB2及びwtNPと併用した場合のみにwtPB1/PB2/NP及びrMDV−Aリアソータントと同一の非ts表現型をもつウイルスが得られた(表8)。PB1−1395G又は2005GをwtPB1−1766/PB2/NPに加えてもウイルスは特徴的rWt非ts表現型に変換しなかった。従って、これらのデータから3種のPB1,PB2及びNP遺伝子に分配された4種のアミノ酸がMDV−A ts表現型を完全に復帰変異させることができることが立証された。
MDV−A及びリアソータントウイルスの宿主細胞制限
【0156】
上述のようにMDV−Aウイルスと1個以上のMDV−A由来セグメントをもつリアソータントウイルスは温度感受性及び弱毒表現型を示すが、MDV−Aウイルスは更にMDCK細胞に比較してPer.C6細胞における増殖の低下から明らかように宿主細胞制限も示す。図20A及びBに示すように、MDV−AとMDV−A由来PB1及びPB2セグメントをもつリアソータントウイルスはMDCK細胞に比較してPer.C6細胞で有意増殖低下を示した。
温度感受性、弱毒ウイルス株の構築
【0157】
MDV−AのPB1,PB2及びNP遺伝子セグメントで同定された5種のアミノ酸がMDV−Aのts及びatt表現型を再現するか否かを調べるために、PB1−391E,581G,661T,PB2−265S,NP−34Gを分岐野生型ウイルス株(A/PR/8/34;“PR8”)に導入した処、得られたウイルスは38℃で1.9log10のウイルス力価の低下を示し、39℃では4.6log10の低下を示し、rMDV−Aと非常によく似ていた(図11)。
【0158】
ca A/AA/6/60(MDV−A)及びA/PR/8/34のPB1,PB2及びNP遺伝子の配列比較の結果、MDV−AのPB1及びPB2遺伝子で同定された4種の置換アミノ酸はユニークであることが判明した。NP34はMDV−AとPR8の間で保存されている。従って、MDV−AのPB1遺伝子で同定された3個のts部位PB1391(K391E)、PB1581(E581G)及びPB1661(A661T)をA/PR/8/34のPB1に部位特異的突然変異誘発により導入し、PB2265(N265S)をA/PR/8/34のPB2に導入した。PB1及びPB2遺伝子に導入された突然変異をシーケンシング分析により確認した。突然変異誘発反応に使用したプライマー対を表9に示す。これらのウイルスを図16に模式的に示す。
【表9】
【0159】
PR8のPB1及びPB2遺伝子に導入されたts突然変異がts表現型をin vitro付与するか否かを調べるために、ミニゲノムアッセイを実施した。インフルエンザミニゲノムレポーターpFlu−CATはアンチセンスCAT遺伝子をpol Iプロモーターの制御下にクローニングしたものである。CAT蛋白質の発現はインフルエンザPB1,PB2,PA,及びNP蛋白質に依存した。
【0160】
要約すると、HEp−2細胞にPB1,PB2,PA,NP及びpFlu−CATミニゲノム各1μgをリポフェクタミン2000(Invitrogen)によりトランスフェクトした。33℃又は39℃で一晩(約18時間)インキュベーション後に、細胞抽出物のCAT蛋白質発現をCAT ELISAキット(Roche Bioscience)により分析した。CAT mRNAレベルをプライマー伸長アッセイにより測定した。トランスフェクションから48時間後に全細胞RNAをTRIzol試薬(Invitrogen)で抽出し、水6μl中にてその5’末端を[r−32P]−ATPで標識した過剰のDNAプライマー(5’−ATGTTCTTTACGATGCGATTGGG)及びT4ポリヌクレオチドキナーゼとRNAの1/3を混合した。95℃で3分間変性後、0.5mMdNTPを添加した反応緩衝液にスーパースクリプト逆転写酵素(Invitrogen)50Uを添加後に1時間42℃でプライマー伸長を実施した。TBE緩衝液中8M尿素を加えた6%ポリアクリルアミドゲルで転写産物を分析し、オートラジオグラフにより検出した。
【0161】
図12A及びBに示すように、3個のアミノ酸置換(PR8−3s),PB1391(K391E)、PB1581(E581G)及びPB1661(A661T)をもつPB1遺伝子はPR8対照に比較して33℃の活性が低下していた。この突然変異体では39℃でCAT蛋白質発現の大幅な低下が観察され(図12A)、3個のMDV−A ts部位を導入したPB1遺伝子がこのin vitroアッセイで温度感受性複製を示すことが示唆された。PB2265(N265S)をPR8に導入しても許容温度(33℃)と非許容温度(39℃)のいずれでもその活性に殆ど影響がなかった。PB1−3sとPB2−1sを併用すると蛋白質活性は大きく低下し(PR8−4s)、MDV−Aよりも更にtsであると思われた。予想通り、MDV−Aに由来するPB1,PB2,PA,NP遺伝子をトランスフェクトした細胞ではwtA/AA/6/60(wtA/AA)に比較して39℃で低レベル活性(15%)が検出された。
【0162】
PR8突然変異体ウイルスを上述のように作製及び回収した。要約すると、PR8に由来するPR8 HA,NA,PB1,PB2,PA,NP,M及びNS遺伝子をコードする8種のプラスミドを共培養cos7及びMDCK細胞にトランスフェクトした。4個のts遺伝子座(PR8−4s)をもつウイルスを作製するために、nt1195(K391E),nt1766(E581G)及びnt2005(A661T)位に3個のPB1変異を含むPB1−3sと、821(N265S)位に1個のPB2変異を含むPB1−1sを使用した。更に、3個のPB1突然変異(PR8−3s)又は1個のPB2突然変異(PR8−1s)を含むPR8ウイルスも別に回収した。これらのウイルスを図16に模式的に示す。全4個の組換え突然変異体PR8ウイルスは発育鶏卵で非常に高力価まで増殖し、表10に示すように9.0log10pfu/ml以上の力価に達した。
【0163】
感染細胞におけるウイルス蛋白質合成を試験するために、MDCK細胞にウイルスをm.o.i=5で感染させ、感染から7時間後に細胞を35S−Transで1時間標識した。SDSを添加した1.5%ポリアクリルアミドゲルで標識細胞溶解液を電気泳動し、オートラジオグラフにかけた。蛋白質合成をウェスタンブロッティングでも試験した。感染から8時間後にウイルス感染細胞を回収し、4−15%勾配ゲルで電気泳動した。ブロットを抗M1抗体又はニワトリ抗MDV−Aポリクローナル抗体でプローブした後、HRP標識二次抗体と共にインキュベートした。抗体と結合した蛋白質バンドをChemiluminescent Detection System(Invitrogen)により検出した後、X線フィルムに露光した。
【0164】
図19に示すように、いずれも33℃で同等の蛋白質合成レベルであったが、39℃では蛋白質合成レベルはPR8−1sがやや低下し、PR8−3s及びPR8−4s感染細胞では大幅に低下した。ウェスタンブロッティング分析からもPR8−4s>PR8−3s>PR8−1sの順で蛋白質合成が低下することが分かった。従って、ts突然変異体の複製低下は非許容温度で複製が低下するためであると思われた。
【0165】
33℃,37℃,38℃及び39℃にてMDCK細胞でプラークアッセイによりPR8突然変異体ウイルスの温度感受性を測定した。回収したウイルスを上述のように発育鶏卵で増幅させ、細胞に導入した。ウイルス感染細胞を指定温度で3日間インキュベーション後、ニワトリ抗MDVポリクローナル抗体を使用して細胞単層を免疫染色し、プラークを計数した。各温度で得られたプラークカウントを比較し、各ウイルスのts表現型を調べた。シャットオフ温度は33℃に比較して力価低下が100倍以上となる最低温度として定義した。
【0166】
表10及び図17に示すように、ウイルス力価の僅かな低下が観察されたが、全突然変異体は33℃で良好に複製した。38℃では全突然変異体にウイルス力価の有意低下が観察された。39℃ではPB1遺伝子に3個のts遺伝子座をもつウイルス(PR8−3s及びPR8−4s)で4.0log10を上回るウイルス力価の低下が観察された。PR8−1sも39℃でtsであった。PR8−4sのts表現型は33℃に比較して39℃で4.6log10低下したMDV−Aに非常によく似ていた。全3種のPR8突然変異体は37℃でウイルス力価の低下が2.0log10以下であったが、それらのプラーク形態は33℃の形態と相違していた。図18に示すように、各突然変異体のプラークサイズは33℃ではPR8に比較して僅かしか減少しなかった。PR8−3sでは37℃でプラークサイズの有意減少が観察され、PR8−4sでは更大幅な減少が観察された。PR8−1sは37℃でプラークサイズが有意に減少しなかった。39℃では、PR8−3sとPR8−4sのいずれにも非常に小さいサイズのプラークが数個しか観察されなかった。PR8−1sにはwtPR8の約30%のプラークサイズが観察された。
【表10】
【0167】
突然変異体PR8ウイルスの弱毒をフェレットで試験した。要約すると、9−10週齢雄フェレットを使用して動物宿主の気道におけるウイルス複製を評価した。フェレットを1匹ずつ檻に入れ、ウイルス8.5log10pfuを鼻腔内接種した。感染から3日後にフェレットをケタミン−HCLで麻酔し、肺と鼻甲介(NT)を摘出した。肺組織ホモジネートを無菌希釈し、10日齢発育鶏卵で力価測定した。肺におけるウイルス力価(log10EID50/ml)をKarber法により計算した。NTにおけるウイルス複製をプラークアッセイにより測定し、log10pfu/mlとして表した。
【0168】
肺と鼻甲介におけるウイルス複製レベルをEID50又はプラークアッセイにより測定した(表11)。感染から3日後に、PR8は5.9log10EID50/g肺組織のレベルまで複製した。しかし、PR8−1sはフェレット肺の複製の3.0log10低下を示し、PR8−3には殆ど複製が検出されなかった。個々に得られたウイルスを感染させた2群で試験したPR8−4sでは全く複製が検出されなかった。EID50アッセイによるフェレット肺のウイルス検出限界は1.5log10であるので、PR8−4sに1.5log10EID50の力価を割当てた。対照として、MDV−Aはフェレット肺で複製せず、wtA/AA/6/60は力価4.4log10まで複製した。鼻甲介(NT)におけるウイルス複製をMDCK細胞でプラークアッセイにより試験した。PR8は鼻で力価6.6log10pfu/gまで複製した。PR8−1sとPR8−3sではウイルス力価の僅かな低下しか観察されなかった。PR8−4s(A)では2.2log10の低下が観察され、PB1遺伝子に変異(E390G)をもつPR8−4s(B)では4.3log10の低下が観察された。PR8−4s(B)の大幅な複製低下は37℃でのそのts表現型と良好に相関した。ここではMDV−A由来インフルエンザワクチンの弱毒表現型を評価するために通常使用した7.0log10pfuの代わりに8.5log10pfuの感染用量を使用した。この結果、MDV−Aに由来する4個のts遺伝子座をもつPR8はフェレットの下気道における複製で弱毒されたことが判明した。
【表11】
【0169】
ts及びattアッセイの両者でPR8突然変異体ウイルスはMDV−Aと非常によく似たts及びatt表現型を示した。これらのデータから、MDV−Aのユニークアミノ酸置換を分岐インフルエンザウイルス株に導入すると、例えば生弱毒ワクチンの生産に望ましい温度感受性及び弱毒表現型を示すウイルスが得られると思われる。更にts,att,PR−8ウイルスは生弱毒又は不活化インフルエンザワクチンの生産にマスタードナーウイルスとして使用するのに適した高力価まで増殖した。これらの結果から、5種のMDV−A突然変異:PB1−391E,PB1−581G,PB1−661T,PB2−265S,及びNP−34Gは任意インフルエンザA株にts及びatt表現型を付与できると思われる。同様に、MDV−B株の突然変異をインフルエンザB株ウイルスに導入することによりワクチン生産に適した新規ts,attB株も生産できる。生弱毒ウイルスワクチンの生産に加え、これらの突然変異をドナー株に導入すると、より安全な不活化ワクチンを生産できると思われる。
【実施例5】
【0170】
MDV−Bの生産用8プラスミドシステム
RNeasyキット(Qiagen,Valencia,CA)を使用して典型的インフルエンザBマスタードナー株(MDV−B)であるインフルエンザB/Ann Arbor/1/66の低温適応変異体(ca/Master Ann Arbor/1/66 P1 Aviron 10/2/97)に由来するウイルスRNAを感染発育鶏卵由来尿膜腔液100μlから抽出し、RNAをH2O 40μlに溶出させた。1ステップRT−PCRキット(Qiagen,Valencia,CA)を添付プロトコールに従って使用し、各反応に抽出RNA1μlを使用してゲノムセグメントのRT−PCRを実施した。RT反応は50分間50℃の後に15分間94℃で実施した。PCRは94℃1分、54℃1分、及び72℃3分を25サイクル実施した。BsmBI部位をもつセグメント特異的プライマーを使用してP遺伝子を増幅し、2個のフラグメントを作製した(表12)。
【表12】
【0171】
インフルエンザ配列に相補的な配列を太字で示す。5‘末端は制限エンドヌクレアーゼBsmBI(Bm)又はBsaI(Ba)の認識配列をもつ。
プラスミドのクローニング
【0172】
上述のようにPCRフラグメントを単離し、BsmBI(又はNPはBsaI)で消化し、pAD3000(アンチセンスvRNA及びセンスmRNAの転写を可能にするpHW2000の誘導体)のBsmBI部位に挿入した。得られたプラスミド各2〜4個を配列決定し、RT−PCRフラグメントの直接配列決定に基づくMDV−Bのコンセンサス配列と比較した。コンセンサス配列と相異するアミノ酸変異をもたらすヌクレオチド置換をもつプラスミドをプラスミドのクローニング又はQuikchangeキット(Stratagene,La Jolla,CA)の使用により「修復」した。得られたB/Ann Arbor/1/66プラスミドをpAB121−PB1,pAB122−PB2,pAB123−PA,pAB124−HA,pAB125−NP,pAB126−NA,pAB127−M,及びpAB128−NSと命名した。この両方向転写システムを使用して全ウイルスRNA及び蛋白質を細胞内で産生させると、感染性インフルエンザBウイルスが作製される(図4)。
【0173】
コンセンサス配列に比較してpAB121−PB1とpAB124−HAは2個、pAB128−NSは1個のサイレントヌクレオチド置換をもつことに注目すべきである(表13)。これらのヌクレオチド置換はアミノ酸変異を生じず、ウイルス増殖とレスキューに影響しないと予想される。これらのサイレント置換は組換えウイルスのゲノタイピングを容易にするために維持されている。
【表13】
【0174】
PA,NP及びM1遺伝子にヌクレオチド置換をもつプラスミドを構築するために、プラスミドpAB123−PA,pAB125−NP,pAB127−Mを鋳型として使用した。ヌクレオチドをQuikchangeキット(Stratagene,La Jolla,CA)により置換した。あるいは、所望突然変異を含むプライマーを使用して2個のフラグメントをPCR増幅し、BsmBIで消化し、3フラグメントライゲーション反応でpAD3000−BsmBIに挿入した。作製されたプラスミドを配列決定し、cDNAが不要な突然変異を含んでいないことを確かめた。
【0175】
ローダミン又はジクロロローダミン色素ターミネーターサイクルシーケンシングレディ反応キットとAmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼFS(Perkin−Elmer Applied Biosystems,Inc,Foster City,CA)を使用して鋳型DNAの配列を決定した。サンプルを電気泳動により分離し、PE/ABIモデル373、モデル373 Stretch、又はモデル377 DNAシーケンサーで分析した。
【0176】
別実験で、増幅を94℃30秒、54℃30秒、及び72℃3分の25サイクルで実施した以外はMDV−B株について上述したようにインフルエンザB/Yamanshi/166/98に由来するウイルスRNAを増幅し、pAD3000にクローニングした。NP及びNAセグメントの増幅に夫々以下のプライマー:MDV−B5´BsmBI−NP:TATTCGTCTCAGGGAGCAGAAGCACAGCATTTTCTTGTG(配列番号75)及びMDV−B3´BsmBI−NP:ATATCGTCTCGTATTAGTAGAAACAACAGCATTTTTTAC(配列番号76)とBm−NAb−1:TATTCGTCTCAGGGAGCAGAAGCAGAGCA(配列番号77)及びBm−NAb−1557R:ATATCGTCTCGTATTAGTAGTAACAAGAGCATTTT(配列番号78)を使用した以外はB/Yamanashi/166/98株セグメントの増幅にも同一のプライマーを使用した。B/Yamanashi/166/98プラスミドをAB251−PB1,pAB252−PB2,pAB253−PA,pAB254−HA,pAB255−NP,pAB256−NA,pAB257−M,及びpAB258−NSと命名した。組換え及びリアソータントB/Yamanashi/166/98ウイルスのPA助長ゲノタイピングで3個のサイレントヌクレオチド変異が同定された。
【実施例6】
【0177】
感染性組換えインフルエンザB及びリアソータントインフルエンザウイルスの作製
ヘルパーフリーウイルス細胞培養システムでインフルエンザBを増殖させようとする際に遭遇する問題を解決するために、本発明は組換え及びリアソータントB株インフルエンザウイルスの生産用新規ベクターとプロトコールを提供する。インフルエンザBウイルスのレスキューに使用されるベクターシステムはインフルエンザAウイルスの作製に開発されたシステムに基づく(Hoffmannら(2000)A DNA transfection system for generation of influenza A virus from eight plasmids Proc Natl Acad Sci USA 97:6108−6113;Hoffmann & Webster(2000)Unidirectional RNA polymerase I−polymerase II transcription system for the generation of influenza A virus from eight plasmids J Gen Virol 81:2843−7)。293T細胞は5%FBS細胞を添加したOptiMEMI−AB培地に維持し、COS−7細胞は10%FBSを添加したDMEMI−A培地に維持して293T又はCOS−7細胞(トランスフェクション効率とpolI活性の高い霊長類細胞)をMDCK細胞(インフルエンザウイルスに許容可能)と共培養した。MDCK細胞は抗生物質と抗カビ剤を添加した1×MEM,10%FBSに維持した。ウイルスゲノムベクターのトランスフェクションに先立ち、細胞をPBS又はFBS非添加培地5mlで1回洗浄した。75cm2フラスコでコンフルエント細胞にトリプシン−EDTA10mlを加えた(MDCK細胞は20〜45分間インキュベートし、293T細胞は1分間インキュベートした)。細胞を遠心し、OptiMEMI−AB10mlに再懸濁した。次に各懸濁細胞株1mlをOptiMEMI−AB18mlで希釈し、混合した。次に細胞3ml/ウェルを6ウェルプレートに分注した。6〜24時間後に各プラスミド1μgを1.5mlエッペンドルフチューブでOptiMEMI−ABと混合した(xμlプラスミド+xμl OptiMEM I−AB+xμl TransIT−LT1=200μl;プラスミドDNAμg当たり2μl TransIT−LT1)。混合物を室温で45分間インキュベートした。次にOptiMEMI−AB800μlを加えた。培地を細胞から除去し、トランスフェクション混合物を細胞(t=0)に33℃で6〜15時間加えた。トランスフェクション混合物を細胞からゆっくりと除去し、OptiMEMI−AB1mlを加え、細胞を33℃で24時間インキュベートした。トランスフェクションから48時間後に1μg/mlTPCK−トリプシンを添加したOptiMEMI−AB1mlを細胞に加えた。トランスフェクションから96時間後に1μg/mlTPCK−トリプシンを添加したOptiMEMI−AB1mlを細胞に加えた。
【0178】
トランスフェクション後4日〜7日の間に細胞培養上清1mlを回収し、HA又はプラークアッセイによりモニターした。要約すると、上清1mlをエッペンドルフチューブに分注し、5000rpmで5分間遠心した。上清900μlを新しいチューブに移し、(例えば12ウェルプレートで)MDCK細胞に500μl/ウェルで系列希釈を実施した。上清を細胞と共に1時間インキュベートした後に除去し、1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した感染培地(1xMEM)に交換した。次にHAアッセイ又はプラークアッセイを実施した。例えば、プラークアッセイでは0.8%アガロースゲルを重層して3日間33℃でインキュベートしたMDCK細胞で上清の力価を測定した。鶏卵に感染させるために、トランスフェクションから6又は7日後にトランスフェクト細胞の上清を回収し、Opti−MEM I中ウイルス希釈液100μlを11日齢発育鶏卵に33℃で注入した。インキュベーションから3日後にMDCK細胞でTCID50アッセイにより力価を測定した。
【0179】
MDV−Bを作製するために、共培養293T−MDCK又はCOS−7−MDCK細胞に各プラスミド1μgをトランスフェクトした。トランスフェクションから5〜7日後に試験した処、共培養MDCK細胞は細胞変性効果(CPE)を示し、クローン化cDNAから感染性MDV−Bウイルスが作製されたことが分かった。7種のプラスミドをトランスフェクトした細胞ではCPEは観察されなかった(表14)。ウイルス作製用DNAトランスフェクションシステムの効率を測定するために、トランスフェクションから7日後に細胞の上清をMDCK細胞で力価測定し、プラークアッセイによりウイルス力価を測定した。共培養293T−MDCKの上清のウイルス力価は5.0×106pfu/mlであり、COS7−MDCK細胞では7.6×106pfu/mlであった。
【表14】
【0180】
一過的共培養293T−MDCK(1,2)又は共培養COS7−MDCK細胞(3,4)に7又は8種のプラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションから7日後に共培養MDCK細胞で細胞変性効果(CPE)をモニターした。トランスフェクションから7日後にトランスフェクト細胞の上清をMDCK細胞で力価測定した。pfu/mlのデータは複数(例えば3又は4回)のトランスフェクション実験の平均を表す。
【0181】
B/Yamanashi/166/98プラスミドベクターを使用したトランスフェクション実験でも同等の結果が得られた。これらの結果は、トランスフェクションシステムが8種のプラスミドからインフルエンザBウイルスを再現可能にde novo作製できることを示す。
組換えインフルエンザBのゲノタイピング
【0182】
MDCK細胞で後続継代後に感染細胞の上清のRT−PCRを使用し、作製されたウイルスの信憑性を確認した。RT−PCRは全8種のセグメントにセグメント特異的プラスミドを使用して実施した(表12)。図5Aに示すように、全セグメントでPCR産物が作製された。PB1,HA,及びNSセグメントのPCR産物の直接シーケンシングの結果、分析した4種のヌクレオチドはプラスミドpAB121−PB1,pAB124−HA,及びpAB128−NSに存在するものと同一であることが判明した。これらの結果から、作製されたウイルスは所期プラスミドから作製され、(陰性対照に加えて)親ウイルスによる実験室汚染の可能性がないことが確認された(図5B)。
【0183】
同様に、B/Yamanashi/166/98プラスミドベクターのトランスフェクション後にウイルスを回収し、PAセグメントのヌクレオチド1280−1290を含む領域を増幅した。シーケンシングの結果、回収したウイルスはプラスミド由来組換えB/Yamanashi/166/98に対応することが確認された(図5C及びD)。
rMDV−Bのフェノタイピング
【0184】
MDV−Bウイルスは温度感受性(ts)と低温適応(ca)の2つの特徴的表現型を示す。定義によると、tsは33℃に比較した37℃のウイルス力価の差が2log(以上)として定義され、caは33℃に比較した25℃のウイルス増殖の差が2log未満として定義される。初代ニワトリ腎(PCK)細胞に親ウイルスMDV−Bとプラスミド由来トランスフェクトウイルスを感染させ、3種の温度でウイルス増殖を測定した。
【0185】
プラークアッセイでは、6ウェルプレートでコンフルエントMDCK細胞(ECACC)を使用した。ウイルス希釈液を30〜60分間33℃でインキュベートした。細胞に0.8%アガロースを重層した。感染細胞を33℃又は37℃でインキュベートした。感染から3日後に細胞を0.1%クリスタルバイオレット溶液で染色し、プラーク数を測定した。
【0186】
ca−ts表現型アッセイは25、33、及び37℃でウイルスサンプルのTCID50力価測定により実施した。このアッセイフォーマットは96ウェル細胞培養プレートで各種温度(25℃,33℃,37℃)にて初代ニワトリ腎細胞単層に及ぼすインフルエンザウイルスの細胞変性効果(CPE)を試験することによりTCID50力価を測定する。このアッセイは温度及びウイルス株と共に変化するプラーク形態に非依存性であり、インフルエンザウイルスが複製してCPEを誘導する能力のみに依存する。一次組織のトリプシン処理により調製した初代ニワトリ腎(PCK)細胞懸濁液を5%FCS添加MEM(アール)培地に再懸濁した。PCK細胞を96ウェル細胞培養プレートに48時間播種して>90%コンフルエントの単層を作製した。48時間後に表現型アッセイ培地(PAM)と呼ぶ5mM L−グルタミン、抗生物質、非必須アミノ酸を添加した無血清MEM培地でPCK細胞単層を1時間洗浄した。PAMを加えた96ウェルブロックでウイルスサンプルの系列10倍希釈液を調製した。希釈したウイルスサンプルを次に96ウェルプレートの洗浄後のPCK単層にプレーティングした。ウイルスサンプルの各希釈液でウェル6個ずつを使用して希釈ウイルスを感染させた。細胞対照として未希釈細胞も各サンプルにつき6ウェルずつ試験した。各ウイルスサンプルを2〜4回ずつ力価測定した。25℃、33℃、及び37℃で予め測定した力価をもつ表現型対照ウイルスも各アッセイに加える。ウイルスサンプルのts表現型を測定するために、プレートを33℃と37℃にて5%CO2細胞培養インキュベーターで6日間インキュベートした。ca表現型特性決定については、プレートを25℃で10日間インキュベートした。ウイルス力価をKarber法により計算し、Log10平均(n=4)TCID50力価/ml+標準偏差として報告した。図1〜3に示すウイルス力価の標準偏差は0.1〜0.3であった。33℃と37℃のウイルス力価の差を使用してts表現型を測定し、ウイルスの25℃と33℃の力価の差を使用してca表現型を測定した。
【0187】
プラスミド由来組換えMDV−B(recMDV−B)ウイルスは予想通り、細胞培養でcaとtsの2種類の特徴的表現型を発現した。25℃の効率的複製に相当するca表現型はPCK細胞でアッセイした場合に25℃と33℃で2log10以下の力価の差として機能的に測定される。親MDV−Bと組換えMDV−Bはいずれもcaを発現し、25℃と33℃の差は夫々0.3及び0.4log10であった(表15)。ts表現型もPCK細胞で2種の温度の力価を観察することにより測定されるが、この表現型では、37℃の力価が33℃の力価よりも2log10以上低くなければならない。親MDV−Bと組換えMDV−Bの33℃と37℃の差は夫々3.4及び3.7log10であった(表15)。従って、組換えプラスミド由来MDV−Bウイルスはca及びts表現型の両者を発現した。
【0188】
組換えウイルスの力価は33℃で7.0log10 TCID50/mlであり、37℃で3.3 TCID50/mlであり、25℃で8.8log10 TCID50/mlであった(表15)。従って、8種のインフルエンザMDV−Bゲノムセグメントプラスミドのトランスフェクションに由来する組換えウイルスはca及びts表現型の両者をもつ。
【表15】
【実施例7】
【0189】
リアソータントB/Yamanashi/166/98ウイルスの生産
インフルエンザBの主要系統に相当する数種の異なる株のHA及びNAセグメントをほぼ上述のように増幅し、pAD3000にクローニングした。プライマーはHA及びNAセグメントの同時RT−PCR増幅に最適化させた。セグメント4(HA)とセグメント6(NB/NA)の非コーディング領域に相当するvRNAの末端領域を比較した結果、5’末端の20個の末端ヌクレオチドと3’末端の15ヌクレオチドがインフルエンザBウイルスのHA及びNA遺伝子間で一致していることが判明した。RT−PCR用プライマー対(下線配列はインフルエンザBウイルス特異的である)Bm−NAb−1:TAT TCG TCT CAG GGA GCA GAA GCA GAG CA(配列番号79);Bm−NAb−1557R:ATA TCG TCT CGT ATT AGT AGT AAC AAG AGC ATT TT(配列番号80)を合成及び使用してHA及びNA遺伝子を種々のインフルエンザB株から同時に増幅した(図8)。B/Victoria/504/2000,B/Hawaii/10/2001,及びB/Hong Kong/330/2001のHA及びNA PCRフラグメントを単離し、BsmBIで消化し、pAD3000に挿入した。これらの結果、これらのプライマーはインフルエンザBの主要系統に相当する数種の異なる野生型ウイルスに由来するインフルエンザB HA及びNA遺伝子を含むプラスミドの効率的な作製に適用できることが立証された。RT−PCR産物はシーケンシング及び/又は発現プラスミドへのクローニングに使用することができる。
【0190】
種々のインフルエンザB系統から抗原を効率的に発現させるためにB/Yamanashi/166/98(B/Yamagata/16/88様ウイルス)を利用できることを立証するために、B/Yamanashi/166/98に由来するPB1,PB2,PA,NP,M,NSとVictoria及びYamagata系統の両者に相当する株に由来するHA及びNAを含むリアソータント(6+2リアソータント)を作製した。上記方法に従い、B/Yamanashi/166/98に相当する6種のプラスミドと、B/Victoria/2/87系統に由来する2株(B/Hong Kong/330/2001及びB/Hawaii/10/2001)とB/Yamagata/16/88系統に由来する1株(B/Victoria/504/2000)のHA及びNAセグメントのcDNAを含む2種のプラスミドを一過的共培養COS7−MDCK細胞にコトランスフェクトした。トランスフェクションから6〜7日後に上清を新鮮なMDCK細胞で力価測定した。全3種の6+2リアソータントウイルスの力価は4〜9×106pfu/mlであった(表16)。これらのデータから、B/Yamanashi/166/98の6個の内部遺伝子は両者インフルエンザB系統に由来するHA及びNA遺伝子セグメントと共に感染性ウイルス効率的に形成できることが立証された。
【0191】
トランスフェクションから6又は7日後に共培養COS7−MDCK細胞の上清を力価測定し、MDCK細胞でプラークアッセイによりウイルス力価を測定した。
【表16】
【0192】
鶏卵で野生型B/Yamanashi/166/98の複製により比較的高力価が得られた。この特性がこのウイルスの6個の「内部」遺伝子の固有表現型であるか否かを調べるために実験を行った。この特性を評価するために、鶏卵で中度にしか複製しなかった野生型B/Victoria/504/2000の効率と、B/Victoria/504/2000 HA及びNAを発現する6+2リアソータントの効率を比較した。これらのウイルスを野生型及び組換えB/Yamanashi/166/98に加えて各々3又は4個の発育鶏卵に100又は1000pfuで接種した。感染から3日後に尿膜腔液を鶏卵から回収し、TCID50力価をMDCK細胞で測定した。6+2リアソータントはwt及び組換えB/Yamanashi/166/98株と同等量のウイルスを尿膜腔液に産生した(図9)。B/Victoria/504/2000と6+2組換え体の力価の差は約1.6log10TCID50(0.7〜2.5log10TCID50/mL,95%CI)であった。B/Victoria/504/2000と6+2組換え体の差を3回の別個の実験で確認した(P<0.001)。これらの結果から、鶏卵での複製が不良な株から通常発現されるHA及びNA抗原にB/Yamanashi/166/98の鶏卵増殖特性を付与できることが立証された。
【実施例8】
【0193】
ca B/Ann Arbor/1/66の弱毒の分子基盤
MDV−Bウイルス(ca B/Ann Arbor/1/66)はヒトで弱毒されており、フェレットで弱毒表現型を示し、細胞培養で低温適応及び温度感受性表現型を示す。BLAST検索アルゴリズムを使用してMDV−Bの内部遺伝子の推定アミノ酸配列をLos Alamosインフルエンザデータベース(ワールドワイドウェブ:flu.lanl.gov)の配列と比較した。他の株には存在しないMDV−Bにユニークな8個のアミノ酸が同定された(表17)。PB1,BM2,NS1,及びNS2をコードするゲノムセグメントはユニーク置換残基を示さない。PA及びM1蛋白質は各々2個、NP蛋白質は4個のユニーク置換アミノ酸をもつ(表17)。PB2には630位に1個の置換アミノ酸が存在する(付加株B/Harbin/7/94(AF170572)も630位にアルギニン残基をもつ)。
【0194】
これらの結果は、遺伝子セグメントPB2,PA,NP及びM1がMDV−Bの弱毒表現型に関与していることを示唆している。MDV−Aについて上述したと同様に、8プラスミドシステムを使用してMDV−Aについて上述したようにヘルパーに依存せずに単に該当プラスミドを培養細胞にコトランスフェクトするだけで組換え及びリアソータント(単一及び/又は二重、即ち7:1;6:2リアソータント)を作製することができる。例えば、B/Lee/40に由来する6個の内部遺伝子をMDV−Bに由来するHA及びNAセグメントと併用して6+2リアソータントを作製することができる。
【表17】
【0195】
8個のユニークアミノ酸変異が特徴的MDV−B表現型に影響を与えるか否かを調べるために、全8個のヌクレオチド位置がwtインフルエンザ遺伝子相補体を表すアミノ酸をコードする組換えウイルスを構築した。(表17に示すように)野生型アミノ酸を表すようにPA,NP,及びM1遺伝子の8個の残基を部位特異的突然変異誘発により変異させた1組のプラスミドを構築した。構築したプラスミドを共培養COS7−MDCK細胞にコトランスフェクトすることにより全8個の変異をもつ組換え体rec53−MDV−Bを作製した。MDCK細胞の共培養と33℃での増殖により、トランスフェクションから6〜7日後に上清が高ウイルス力価を含むように確保した。トランスフェクト細胞の上清を力価測定し、MDCK細胞ではプラークアッセイにより力価を測定し、PCK細胞では33℃と37℃で力価を測定した。
【0196】
図13に示すように、2回の別個の独立した実験で、recMDV−BはMDCK細胞とPCK細胞の両者でts表現型を発現した。全8個のアミノ酸変異をもつようにデザインした三重リアソータントウイルスrec53−MDV−Bは非ts表現型を発現し、33℃と37℃の力価の差はPCK細胞で0.7log10しかなかった。力価はts定義の特徴である必要な2log10差のよりも低く、recMDV−Bで観察される〜3log10の差よりも有意に低かった。これらの結果は、PA,NP,及びM1蛋白質内の8個のアミノ酸の変異が相同及び異種の両者の糖蛋白質を使用して非ts野生型様ウイルスを作製するのに十分であることを示している。
【0197】
次に各遺伝子セグメントのts表現型への関与を調べた。PA,NP,又はM遺伝子セグメントと野生型アミノ酸相補体をもつプラスミド由来組換え体をDNAコトランスフェクション法により作製した。全単一遺伝子組換え体はMDCK細胞とPCK細胞で37℃の増殖制限を示し(図14)、遺伝子セグメントの変異によりts表現型を復帰変異させることができないと思われた。更に、NP及びM又はPA及びM遺伝子セグメントを併有する組換えウイルスもts表現型を維持した。他方、PA及びNP遺伝子セグメントを併有する組換えウイルスはrec53−MDV−Bと同様に37℃と33℃の力価の差が2.0log10以下であった。これらの結果は、NP及びPA遺伝子が主にts表現型に関与することを示している。
【0198】
NP蛋白質の4個のアミノ酸とPA蛋白質の2個のアミノ酸の全てが非tsに関与しているか否かを調べるために、NP遺伝子とPA遺伝子が変異した三重遺伝子及び二重遺伝子組換え体を作製した(図15)。2個のアミノ酸の置換A114→V114及びH410→P410の結果として非ts表現型となった。ヌクレオプロテインに単一置換H410→P410をもつウイルスはMDCKとPCKで非ts表現型を示した。他方、単一置換A55→T55はts表現型を示した。これらの結果から、NPのP410が37℃での効率的増殖に関与していると思われる。これらの結果はPA及びNPの6個のアミノ酸から4個の残基が非ts表現型に関与していることを示す。
【0199】
従来のデータによると、ts表現型と弱毒表現型は高度に相関している。ca B/Ann Arbor/1/66ウイルスは感染フェレットの肺組織で検出てきないが、鼻腔内感染後に非弱毒インフルエンザBウイルスが肺で検出可能であることはよく知られている。ts及びatt表現型も同一突然変異に基づくのか否かを調べるために、以下の試験を実施した。
【0200】
トランスフェクション後に得られた組換えウイルスを発育鶏卵で継代し、ウイルスストックを作製した。9週齢フェレットに各鼻腔0.5mlのウイルスを力価5.5、6.0又は7.0log10pfu/mlで鼻腔内接種した。感染から3日後にフェレットを屠殺し、その肺と鼻甲介を上述のように試験した。
【0201】
フェレット(各群4匹)にrecMDV−B又はrec53−MDV−Bを鼻腔内感染させた。ウイルス感染から3日後に鼻甲介と肺組織を摘出し、ウイルスの存在を試験した。7.0log10pfu recMDV−Bを感染させたフェレットの肺組織にウイルスは検出されなかった。rec53−MDV−Bウイルスを力価7.0log10pfuで感染させた4匹のうち3匹から肺組織にウイルスが検出された(この群の1匹の原因は不明)。rec53−MDV−Bを低用量(5.5logpfu/ml)で感染させた4匹の肺組織のうち2匹で肺組織からウイルスを単離することができた。従って、PA,NP,及びM1蛋白質の8種のユニークアミノ酸の野性型残基への変異はatt表現型を非att表現型に変換するために十分であった。
【0202】
細胞培養データによるとPAとNPがts表現型の要因であることがわかったので、第2の実験では、rec53−MDV−B(PA,NP,M)、rec62−MDV−B(PA)、NPrec71−MDV−B(NP)を6logpfuでフェレットに感染させた。rec53−MDV−Bを感染させた4匹のうちの2匹が肺にウイルスをもっていた。単一及び二重リアソータントウイルスを感染させたフェレットの肺組織のうちでウイルスレベルが検出可能なものは皆無であった。従って、PA及びNP蛋白質のアミノ酸に加え、M1蛋白質もatt表現型に重要である。wtPA及びNPをもつウイルスはフェレット肺で複製せず、弱毒に関与する突然変異のサブセットがts表現型に関与することが示唆された。
【0203】
従って、B/Ann Arbor/1/66のts表現型は最大3種の遺伝子により決定される。PA,NP,及びM1蛋白質の8個のアミノ酸が野性型残基に変換すると、37℃で効率的に複製する組換えウイルスが得られた。同様に、MDV−Bの6個の内部遺伝子とB/HongKong/330/01に由来するHA及びNAセグメントに相当する6+2組換えウイルスはts表現型を示し、三重組換え体は非tsであった。
【0204】
インフルエンザA株について上述したように、上記残基の置換、例えばPB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)はts及びatt表現型を付与する。従って、これらのアミノ酸置換の1個以上をもつインフルエンザB株の人工構築変異体はts及びatt表現型を示し、弱毒生インフルエンザウイルスワクチンの生産で例えばマスタードナー株ウイルスとして使用するのに適している。
【実施例9】
【0205】
Vero細胞のエレクトロポレーションによる8種のプラスミドからのインフルエンザのレスキュー
組換えインフルエンザAをVero細胞からレスキューできることは従来示唆されている(Fodorら(1999)Rescue of influenza A virus from recombinant DNA J.Virol.73:9679−82;Hoffmannら(2002)Eight−plasmid system for rapid generation of influenza virus vaccine Vaccine 20:3165−3170)。報告されている方法は脂質試薬を使用する必要があり、インフルエンザAの高度複製コンピテント実験室株の単一株(A/WSN/33及びA/PR/8/34)についてしか立証しておらず、ワクチン生産に適した生弱毒ウイルスの生産では適用が限られている。本発明はエレクトロポレーションを使用してVero細胞から組換えインフルエンザウイルスを回収するための新規方法を提供する。これらの方法はインフルエンザA及びインフルエンザB株両者のウイルスの生産に適しており、例えば鼻腔内ワクチン製剤で投与するのに適した生弱毒ワクチンの製造を容易にする無血清条件下で増殖させたVero細胞から例えば低温適応、温度感受性、弱毒ウイルスを回収することができる。エレクトロポレーションはウイルス株に広く適用できることに加え、細胞基質用増殖培地以外の付加的試薬を必要としないので望ましくない汚染の危険が少ない。特に、この方法は無血清条件下での増殖に適したVero細胞(例えば病原体フリーとみなされるワクチン生産に適切なVero細胞単離体)を使用して組換え及びリアソータントウイルスを作製するのに有効である。この特徴により、DNAを細胞基質に商業的に導入するのに適した方法としてエレクトロポレーションを選択することができる。
【0206】
多数の脂質試薬を使用するトランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿法及び細胞マイクロインジェクション等のDNAをVero細胞に導入するための種々の方法にエレクトロポレーションを比較した。インフルエンザAのレスキューに脂質試薬を使用した場合にはある程度成果が得られたが、インフルエンザAだけでなくインフルエンザBもVero細胞からレスキューすることが実証されたのはエレクトロポレーションのみであった。
【0207】
エレクトロポレーションの1日前に90〜100%コンフルエントVero細胞を分割し、ペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミン、非必須アミノ酸及び10%FBSを添加したMEM(MEM,10%FBS)中にT225フラスコ当たり細胞9×106個の密度で播種した。翌日、細胞をトリプシン処理し、T225フラスコ当たり50mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁した。次に細胞をペレット化し、T225フラスコ当たり0.5mlのOptiMEM Iに再懸濁した。場合により、ヒト又は動物由来成分を含まない特注OptiMEM培地を使用してもよい。例えば血球計で40倍希釈液をカウントすることにより細胞密度を測定後、細胞5×106個を0.4cmエレクトロポレーションキュベットにOptiMEMI最終容量400μlで加えた。次にMDV−A又はMDV−Bゲノムを組込んだ容量25μl以下の8種のプラスミドの等モル混合物から構成されるDNA20μgをキュベット内の細胞に加えた。細胞をタッピングにより温和に混合し、BioRad Gene Pulser IIにCapacitance Extender Plus(BioRad,Hercules,CA)を接続して300V、950μFでエレクトロポレーションした。時定数は28〜33msecの範囲にすべきである。
【0208】
キュベットの内容物をタッピングにより温和に混合し、エレクトロポレーションから1〜2分後にMEM,10%FBS0.7mlを1mlピペットで加えた。ピペットを数回上下させることにより細胞を再び温和に混合した後、MEM,10%FBS2ml/ウェルを加えた6ウェル皿の2個のウェルに分割した。次にキュベットをMEM,10%FBS1mlで洗浄し、2個のウェルに分割し、最収容量約3.5ml/ウェルとした。
【0209】
代替実験では、例えばOptiPro(SFM)(Invitrogen,Carlsbad,CA)中でVero細胞を無血清増殖条件に適応させ、OptiMEM I中でエレクトロポレーション後に細胞をOptiPro(SFM)で希釈した後、ウイルスレスキューのために培養した以外は上述のようにエレクトロポレーションした。
【0210】
エレクトロポレーションした細胞を次に、導入したウイルスの複製と回収に適した条件下(即ち低温適応マスタードナー株には33℃)で培養した。翌日(例えばエレクトロポレーションから約19時間後)、培地を除去し、細胞をOptiMEM I又はOptiPro(SFM)3ml/ウェルで洗浄した。ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したOptiMEM I又はOptiPro(SFM)1ml/ウェルを各ウェルに加え、培地を交換することにより上清を毎日採取した。上清を−80℃でSPGに保存した。ピークウイルス生産は一般にエレクトロポレーションから2〜3日後に観察された。
【表18】
【実施例10】
【0211】
遺伝子送達用インフルエンザウイルスベクターシステム
本発明のベクターは遺伝子送達システムとして遺伝子治療用にも使用することができる。このような用途には、組換えインフルエンザウイルス、例えば外来蛋白質を発現する組換えインフルエンザA又はBを作製することが望ましい。例えば、インフルエンザBウイルスのセグメント7はスプライスされないので、異種核酸配列の挿入に好都合な遺伝子エレメントとなる。mRNAはM1及びBM2蛋白質をコードする2個のオープンリーディングフレームをもつ2個のシストロンを含む。BM2又はM1のオープンリーディングフレームを目的異種核酸、例えば強化緑色蛍光蛋白質(EGFP)をコードする遺伝子で置換する。本発明のプラスミドベクターシステムを使用して、M1−EGFPのオープンリーディングフレームをコードするcDNAとBM2を2種の異なるプラスミドにクローニングする。オープンリーディングフレームは複製と転写に必要なシグナルを含むセグメント7の非コーディング領域の間に挿入する。あるいは、一方がM1 ORFを含み、他方がEGFP−BM2を含む2種のプラスミドを構築する。得られた9種のプラスミドのコトランスフェクションの結果、異種遺伝子配列を含む組換えインフルエンザBウイルスが作製される。同様に、インフルエンザAのNS1セグメントからEGFPを発現させることができる。
【0212】
典型的「緑色」インフルエンザBウイルスは微量中和アッセイ等のウイルスアッセイで標準化に使用することができる。プラスミド技術と蛋白質発現の単純な検出(図2に示すように、EGFPに由来する蛍光をモニターすることができる)を組合せることにより、蛋白質発現を最適化することができる。
【0213】
以上、明確に理解できるように本発明を多少詳細に記載したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく形態や細部に種々の変更が可能であることは以上の開示から当業者に自明である。例えば、上記全技術及び装置は種々に組合せて使用することができる。本明細書に引用した全刊行物、特許、特許出願、又は他の文献はその開示内容全体を全目的で参考資料として組込み、各刊行物、特許、特許出願、又は他の文献を全目的で参考資料として組込むと個々に記載しているものとして扱う。
【図面の簡単な説明】
【0214】
【図1】pAD3000プラスミドの模式図。
【図2】感染細胞の顕微鏡写真。
【図3】プラスミドトランスフェクションからのrMDV−A及び6:2H1N1リアソータントウイルスのゲノタイピング分析を示す。
【図4】インフルエンザBウイルス生産用の8プラスミドシステムの模式図。
【図5】A及びB.RT−PCRによる組換えMDV−Bウイルスの特性決定;C及びD.RT PCRによる組換えB/Yamanashi/166/98の特性決定。
【図6−1】GeneBankフォーマットによるpAD3000の配列。
【図6−2】GeneBankフォーマットによるpAD3000の配列。
【図7−1】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−2】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−3】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−4】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−5】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−6】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−7】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−8】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−9】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−10】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−11】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−12】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−13】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−14】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−15】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−16】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−17】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−18】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−19】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−20】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−21】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−22】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−23】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−24】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−25】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−26】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−27】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−28】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−29】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−30】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−31】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図8】インフルエンザB株のHA及びNAセグメントの同時増幅から誘導されたRT−PCR産物。
【図9】組換え及びリアソータントウイルスの相対力価を示す棒グラフ。
【図10】許容温度と制限温度下のリアソータントウイルスの相対力価(温度感受性)を示す棒グラフ。
【図11】温度感受性と相関する特定突然変異(ノックイン)を組込んだリアソータントウイルスの模式図(左パネル)と、許容温度と制限温度下の相対力価(温度感受性)(右パネル)を示す。
【図12】ミニゲノムアッセイにおけるts突然変異の測定。A.HEp−2細胞にPB1,PB2,PA,NP及びpFlu−CATをトランスフェクトし,33℃又は39℃で18時間インキュベートし、細胞抽出物のCATレポーター遺伝子発現を分析した。B.プライマー伸長アッセイによるCAT mRNA発現。
【図13】PA,NP,及びM1蛋白質の野生型残基をもつ三重遺伝子組換え体の模式図。
【図14】単一遺伝子及び二重遺伝子組換えウイルスの増殖をまとめた表。
【図15】非ts表現型に対応するヌクレオプロテインのアミノ酸残基をまとめた表。
【図16】組換えPR8突然変異体の模式図。PB1及び/又はPB2遺伝子に導入した突然変異を黒丸で示す。
【図17】33℃と39℃の相対力価を示す棒グラフ。
【図18】各種温度におけるPR8突然変異体のプラーク形態を示す顕微鏡写真。MDCK細胞に指定ウイルスを感染させ、33℃、37℃、及び39℃で3日間インキュベートした。ウイルスプラークを免疫染色により可視化し、写真撮影した。
【図19】許容温度と非許容温度の蛋白質合成。MDCK細胞に指定ウイルスを感染させ、33℃又は39℃で一晩インキュベートした。放射性標識ポリペプチドをSDS−PAGEで電気泳動させ、オートラジオグラフにかけた。ウイルス蛋白質HA,NP,M1及びNSを示す。
【図20A】MDCK細胞での複製に比較したPer.C6細胞でのMDV−A及びMDV−Bの複製を示す折れ線グラフ。
【図20B】Per.C6細胞におけるMDV−A単一遺伝子リアソータントの複製の変動を示す折れ線グラフ。
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
本願は米国仮特許出願第60/375,675号(出願日2002年4月26日);第60/394,983号(出願日2002年7月9日);第60/410,576号(出願日2002年9月12日);第60/419,802号(出願日2002年10月18日);第60/420,708号(出願日2002年10月23日);第60/457,699号(代理人整理番号26−000250US;出願日2003年3月24日)、及び代理人整理番号26−000260US(発明の名称「インフルエンザウイルスの生産用多重プラスミドシステム(Multi−Plasmid System for the Production of Influenza Virus)」,出願日2003年4月10日)の優先権を主張し、前記各出願の開示内容全体を全目的で本明細書に組込む。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスはセグメント化された1本鎖RNAゲノムを含む内部リボヌクレオプロテインコアとマトリックス蛋白質により裏打ちされた外部リポプロテインエンベロープから構成される。インフルエンザA及びBウイルスは各々負極性をもつ1本鎖RNAの8個のセグメントを含む。インフルエンザAゲノムは少なくとも11種のポリペプチドをコードする。セグメント1−3はRNA依存性RNAポリマーを構成する3種のポリペプチドをコードする。セグメント1はポリメラーゼ複合蛋白質PB2をコードする。残りのポリメラーゼ蛋白質PB1及びPAは夫々セグメント2及び3によりコードされる。更に、所定のインフルエンザA株のセグメント1はPB1コーディング領域内の別の読み枠から産生される小蛋白質PB1−F2をコードする。セグメント4は感染中の細胞接着及び侵入に関与するヘマグルチニン(HA)表面糖蛋白質をコードする。セグメント5はウイルスRNAに関連する主要構造成分であるヌクレオキャプシドヌクレオプロテイン(NP)ポリペプチドをコードする。セグメント6はノイラミニダーゼ(NA)エンベロープ糖蛋白質をコードする。セグメント7はディファレンシャルスプライシングされたmRNAから翻訳される2種のマトリックス蛋白質M1及びM2をコードする。セグメント8はオルタナティブスプライシングされたmRNA変異体から翻訳される2種の非構造蛋白質NS1及びNS2(NEP)をコードする。
【0003】
インフルエンザBの8個のゲノムセグメントは11種の蛋白質をコードする。3個の最大遺伝子はRNAポリメラーゼの成分PB1、PB2及びPAをコードする。セグメント4はHA蛋白質をコードする。セグメント5はNPをコードする。セグメント6はNA蛋白質とNB蛋白質をコードする。蛋白質NB及びNAはいずれも2シストロン性mRNAのオーバーラップする読み枠から翻訳される。インフルエンザBのセグメント7も2種の蛋白質M1及びBM2をコードする。最小セグメントは2種の産物をコードし、NS1は全長RNAから翻訳され、NS2はスプライスmRNA変異体から翻訳される。
【0004】
インフルエンザウイルスに特異的な防御免疫応答を生じることが可能なワクチンは50年以上前から生産されている。ワクチンは全ウイルスワクチン、スプリットウイルスワクチン、表面抗原ワクチン及び生弱毒ウイルスワクチンとして特徴付けることができる。これらのワクチン型のいずれも適切な製剤は全身免疫応答を生じることができるが、生弱毒ウイルスワクチンは気道で局所粘膜免疫を刺激することもできる。
【0005】
FluMist(登録商標)は幼児と成人をインフルエンザ疾患から防御する生弱毒ワクチンである(非特許文献1;非特許文献2)。FluMist(登録商標)ワクチン株は現在流布している野生型株に由来するHA及びNA遺伝子セグメントと一般マスタードナーウイルス(MDV)に由来する6個の遺伝子セグメントPB1,PB2,PA,NP,M及びNSを含む。FluMistのインフルエンザA株(MDV−A)のMDVは初代ニワトリ腎組織培養で順次温度を下げてwtA/Ann Arbor/6/60(A/AA/6/60)株を連続継代することにより作製された(非特許文献3)。MDV−Aは25℃で効率的に複製する(ca,低温適応)が、その増殖は38℃と39℃に制限される(ts,温度感受性)。更に、このウイルスは感染させたフェレットの肺では複製しない(att,弱毒)。ts表現型は気道の最低温領域以外の全領域にその複製を制限することによりヒトでワクチンを弱毒するのに有用であると考えられる。この特性の安定性は動物モデルと臨床試験で実証されている。化学的突然変異誘発により作製されたインフルエンザ株のts表現型とは対照的に、MDV−Aのts特性は感染させたハムスターの継代後又は幼児から脱落した単離体で復帰変異しなかった(最近の報告については、非特許文献4参照)。
【0006】
12種の別個の6:2リアソータント株を含む20,000人を超える成人と幼児の臨床試験から、これらのワクチンは弱毒され、安全で有効なことが示されている(非特許文献1;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献2)。MDV−Aの6個の内部遺伝子とwtウイルスの2個のHA及びNA遺伝子セグメントをもつリアソータント変異体(6:2リアソータント変異体)はca、ts及びatt表現型を常に維持する(非特許文献7)。
【0007】
現在までに米国で市販されている全インフルエンザワクチンは発育鶏卵で増殖されている。インフルエンザウイルスは鶏卵で良好に増殖するが、ワクチン生産が鶏卵の入手可能性に依存する。鶏卵供給を組織化しなければならず、次の流感時期の数カ月前にワクチン生産用株を選択しなければならないため、このアプローチのフレキシビリティは制限され、生産販売の遅れや不足を生じることが多い。
【0008】
インフルエンザウイルスの細胞培養生産システムも近年開発されている(例えば、非特許文献8;非特許文献9参照)。一般に、これらの方法は適当な不死化宿主細胞に選択ウイルス株を感染させる。鶏卵でのワクチン生産に関連する問題の多くは解消するが、インフルエンザの全病原株が良好に増殖するわけではなく、既存組織培養法に従って生産できるわけでもない。更に、生弱毒ワクチンの生産に適した望ましい特徴(例えば弱毒、温度感受性及び低温適応)をもつ多くの株は既存方法を使用して組織培養で増殖するのに成功していない。
【0009】
組換えDNAからインフルエンザウイルスを生産するならば、インフルエンザワクチンの組織培養生産法のフレキシビリティと有用性が著しく増すと思われる。最近、ウイルスゲノムをコードするcDNAを組込んだ組換えプラスミドからインフルエンザAウイルスを生産するためのシステムが報告されている(例えば、非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;特許文献1参照)。これらのシステムは任意選択株から免疫原性HA及びNA蛋白質を発現する組換えウイルスとリアソータントウイルスを生産する可能性を提供している。しかし、インフルエンザAウイルスと異なり、インフルエンザBウイルスのプラスミドオンリーシステムについて記載した報告はまだ発表されていない。
【0010】
更に、現在入手可能なプラスミドオンリーシステムのうちで生弱毒ワクチン生産に適した弱毒、温度感受性、低温適応株を作製するのに適切なものは皆無である。本発明は完全にクローン化cDNAからインフルエンザBウイルスを作製するための8プラスミドシステムと、鼻腔内投与に有用な生ウイルスワクチン製剤等のワクチン製剤に適した弱毒生インフルエンザA及びBウイルスの生産方法、更には明細書から自明の多数の他の利点を提供する。
【特許文献1】WO01/83794
【非特許文献1】Belsheら(1998)The efficacy of live attenuated,cold−adapted,trivalent,intranasal influenza virus vaccine in children N Engl J Med 338:1405−12
【非特許文献2】Nicholら(1999)Effectiveness of live,attenuated intranasal influenza virus vaccine in healthy,working adults :a randomized controlled trial JAMA 282:137−44
【非特許文献3】Maassab(1967)Adaptation and growth characteristics of influenza virus at 25 degrees C Nature 213:612−4
【非特許文献4】Murphy & Coelingh(2002)Principles underlying the development and use of attenuated cold−adapted Influenza A and B virus vaccines Viral Immunol 15:295−323
【非特許文献5】Boyceら(2000)Safety and immunogenicity of adjuvanted and unadjuvanted subunit influenza vaccines administered intranasally to healthy adults Vaccine 19:217−26
【非特許文献6】Edwardsら(1994)A randomized controlled trial of cold adapted and inactivated vaccines for the prevention of Influenza A disease J Infect Dis 169:68−76
【非特許文献7】Maassabら(1982)Evaluation of a cold−recombinant influenza virus vaccine in ferrets J Infect Dis 146:780−900
【非特許文献8】Furminger.Vaccine Production,in Nicholsonら(eds)Textbook of Influenza pp.324−332
【非特許文献9】Mertenら(1996)Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation,in Cohen & Shafferman(eds)Novel Strategies in Design and Production of Vaccines pp.141−151
【非特許文献10】Neumannら(1999)Generation of influenza A virus entirely from cloned cDNAs.Proc Natl Acad Sci USA 96:9345−9350
【非特許文献11】Fodorら(1999)Rescue of influenza A virus from recombinant DNA.J.Virol 73:9679−9682
【非特許文献12】Hoffmannら(2000)A DNA transfection system for generation of influenza A virus from eight plasmids Proc Natl Acad Sci USA 97:6108−6113(発明の要約)
【0011】
本発明はインフルエンザウイルスの細胞培養生産用多重ベクターシステムと、鼻腔内ワクチン製剤で投与するのに適したワクチン等の生弱毒インフルエンザワクチンを含むワクチンとして適切な組換え及びリアソータントインフルエンザウイルス(例えば弱毒(att)、低温適応(ca)及び/又は温度感受性(ts)インフルエンザウイルス)の生産方法に関する。
【0012】
第1の側面において、本発明は例えばヘルパーウイルスの不在下に組換えインフルエンザBウイルスを細胞培養生産するためのベクターと方法を提供する(即ちヘルパーウイルスフリー細胞培養システム)。本発明の方法はインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な宿主細胞集団にインフルエンザBウイルスの一部を各々組込んだ複数のベクターを導入する段階を含む。宿主細胞をウイルス増殖に許容可能な条件下で培養し、インフルエンザウイルスを回収する。所定態様では、インフルエンザBウイルスは弱毒ウイルス、低温適応ウイルス及び/又は温度感受性ウイルスである。例えば、1態様では、ベクター由来組換えインフルエンザBウイルスは例えば鼻腔内ワクチン製剤で生弱毒ワクチンとして投与するのに適したウイルス等の弱毒、低温適応、温度感受性ウイルスである。典型的態様では、ウイルスはインフルエンザB/Ann Arbor/1/66ウイルスゲノム、(例えばca B/Ann Arbor/1/66ウイルスゲノム)の全部又は一部を組込んだ複数のベクターを導入することにより生産される。
【0013】
例えば、所定態様では、インフルエンザBウイルスはインフルエンザ株ca B/Ann Arbor/1/66の特徴的生物学的特性を変化させる1個以上のアミノ酸置換を組込んだ人工構築インフルエンザウイルスである。このようなインフルエンザウイルスはPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34位の1個以上にアミノ酸置換をもたらす突然変異、例えばPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)を含む。温度感受性、低温適応又は弱毒を個々に又は組合せて野生型ウイルスよりも増加する(これらの位置の1個以上の)任意突然変異は本発明に関して適切な突然変異である。
【0014】
所定態様では、1個のインフルエンザB株の少なくとも6個の内部ゲノムセグメントと、別のインフルエンザ株の免疫原性インフルエンザ表面抗原をコードする1個以上のゲノムセグメントを宿主細胞集団に導入する。例えば、選択された弱毒、低温適応及び/又は温度感受性インフルエンザB株(例えばB/Ann Arbor/1/66のca,att,ts株又は上記位置の1個以上にアミノ酸置換を含む人工構築インフルエンザB株)の少なくとも6個の内部ゲノムセグメントと、別のウイルス株に由来する免疫原性抗原をコードする1個以上のセグメントを宿主細胞集団に導入する。一般に、免疫原性表面抗原としてはヘマグルチニン(HA)及び/又はノイラミニダーゼ(NA)抗原の一方又は両方が挙げられる。免疫原性表面抗原をコードする単一セグメントを導入する態様では、選択されたウイルスの7個の相補的セグメントも宿主細胞に導入する。
【0015】
特定態様では、インフルエンザBウイルスゲノムセグメントを組込んだ複数のプラスミドベクターを宿主細胞集団に導入する。例えば、各々異なるゲノムセグメントを組込んだ8種のプラスミドを使用して完全インフルエンザBゲノムを宿主細胞に導入する。あるいは、もっと小さいゲノム配列を組込んだもっと多数のプラスミドを使用することもできる。
【0016】
一般に、本発明のプラスミドベクターは両方向発現ベクターである。本発明の両方向発現ベクターは一般に第1のプロモーターと第2のプロモーターを含み、第1のプロモーターと第2のプロモーターはインフルエンザウイルスゲノムのセグメントを含むウイルス核酸をコードする同一2本鎖cDNAのどちらかの鎖に機能的に連結されている。場合により、両方向発現ベクターはポリアデニル化シグナル及び/又はターミネーター配列を含む。例えば、ポリアデニル化シグナル及び/又はターミネーター配列は2個のプロモーターの内部のインフルエンザウイルスゲノムのセグメントの両側に配置することができる。本発明に関して有利なポリアデニル化シグナルの1例はSV40ポリアデニル化シグナルである。本発明の典型的プラスミドベクターは図1に示すプラスミドpAD3000である。
【0017】
ベクターはベクタープロモーターからのインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な宿主細胞に導入する。宿主細胞の有利な例としてはVero細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、PCK細胞、MDCK細胞、MDBK細胞、293細胞(例えば293T細胞)、及びCOS細胞が挙げられる。本明細書に記載するpAD3000プラスミドベクターと併用するには、Vero細胞、293細胞、及びCOS細胞が特に適切である。所定態様では、これらの細胞株の少なくとも2種の混合物の共培養物、例えばCOS細胞とMDCK細胞の組合せ又は293T細胞とMDCK細胞の組合せが宿主細胞集団を構成する。
【0018】
インフルエンザBベクターを導入した宿主細胞を次にウイルスの複製と集合に許容可能な条件下で培養増殖させる。一般に、本発明のインフルエンザBプラスミドを導入した宿主細胞を37℃未満の温度、好ましくは35℃以下の温度で培養する。一般に、細胞を32℃〜35℃の温度で培養する。所定態様では、細胞を約32℃〜34℃の温度、例えば約33℃で培養する。ウイルスを高力価まで複製させるのに適した時間にわたって培養後、組換え及び/又はリアソータントウイルスを回収する。場合により、回収したウイルスを不活化してもよい。
【0019】
本発明はインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な宿主細胞集団にインフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターを導入し、細胞を35℃以下の温度で培養し、インフルエンザウイルスを回収することにより組換えインフルエンザウイルスを細胞培養生産する広く適用可能な方法も提供する。
【0020】
特定態様では、インフルエンザウイルスゲノムセグメントを組込んだ複数のプラスミドベクターを宿主細胞集団に導入する。特定態様では、各々異なるゲノムセグメントを組込んだ8種のプラスミドを使用して完全インフルエンザゲノムを宿主細胞に導入する。一般に、本発明のプラスミドベクター両方向発現ベクターである。本発明の典型的プラスミドベクターは図1に示すプラスミドpAD3000である。
【0021】
所定態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザBウイルスに対応する。所定態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザAウイルスに対応する。特定態様では、方法は対象に例えば鼻腔内投与すると免疫応答を誘発することが可能な組換え及び/又はリアソータントインフルエンザウイルスを回収する段階を含む。所定態様では、投与前にウイルスを不活化し、他の態様では、生きた弱毒ウイルスを投与する。本発明の方法により生産された組換え及びリアソータントインフルエンザA及びインフルエンザBウイルスも本発明の特徴である。
【0022】
特定態様では、ウイルスとしては弱毒インフルエンザウイルス、低温適応インフルエンザウイルス、温度感受性インフルエンザウイルス、又はこれらの望ましい特性の任意組合せをもつウイルスが挙げられる。1態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザB/Ann Arbor/1/66株ウイルス、例えばB/Ann Arbor/1/66の低温適応、温度感受性、弱毒株を含む。別の態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザA/Ann Arbor/6/60株ウイルス、例えばA/Ann Arbor/6/60の低温適応、温度感受性、弱毒株を含む。本発明の別の態様では、ウイルスは例えばca A/Ann Arbor/6/60又はca B/Ann Arbor/1/66の特徴的生物学的特性を変化させる1個以上の置換アミノ酸を含む人工構築インフルエンザウイルスである。このような置換アミノ酸はca A/Ann Arbor/6/60又はca B/Ann Arbor/1/66のユニークアミノ酸に対応するものが有利であり、例えばA株ウイルスでは、PB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)に対応し、B株ウイルスでは、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)に対応する。同様に、温度感受性、低温適応及び/又は弱毒をもたらすこれらの位置のいずれかにおける他のアミノ酸置換も本発明のウイルスと方法に含まれる。
【0023】
場合により、リアソータントウイルスは選択された例えば病原株の表面抗原(HA及びNA)をコードするゲノムセグメントと共に、ワクチン生産に関するその有利な特性により選択したウイルス株の6個の内部遺伝子を組込んだベクターを導入することにより生産される。例えば、HAセグメントはワクチン生産に日常的に行われているように病原関連H1、H3又はB株から選択すると有利である。同様に、HAセグメントはH2株(例えばH2N2)、H5株(例えばH5N1)又はH7株(例えばH7N7)等の新興病原株から選択することもできる。あるいは、HA又はNAをコードするセグメントと共に第1の株の7個の相補的遺伝子セグメントを導入してもよい。特定態様では、内部遺伝子セグメントはインフルエンザB/Ann Arbor/1/66又はA/Ann Arbor/6/60株に由来する。
【0024】
更に、本発明はワクチン生産に関して望ましい特性をもつ新規インフルエンザウイルス(例えば温度感受性、弱毒、及び/又は低温適応インフルエンザウイルス)の生産方法と、このような新規インフルエンザウイルスを含むインフルエンザワクチンを提供する。特定態様では、温度感受性表現型に重要であることが本発明で実証された1個以上の特定位置(例えばPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34)にアミノ酸置換をもたらす突然変異を導入することにより新規インフルエンザA株ウイルスを生産する。例えば、ヌクレオチド位置PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34、又は特定アミノ酸位置にアミノ酸置換をもたらす他のヌクレオチド位置に突然変異を導入する。温度感受性、低温適応又は弱毒を個々に又は組合せて野生型ウイルスよりも増加する(これらの位置の1個以上の)任意突然変異が本発明に関して適切な突然変異である。例えば、PB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される突然変異を野生型インフルエンザA株(例えばPR8)のゲノムに導入し、生弱毒ワクチンとして投与するのに適した温度感受性変異体を生産すると有利である。所望表現型の安定性を増すためには、一般に複数の突然変異を導入する。選択された突然変異をインフルエンザゲノムに導入後、ウイルスが産生される条件下で突然変異インフルエンザゲノムを複製する。例えば、突然変異インフルエンザウイルスゲノムを鶏卵で複製することができる。あるいは、インフルエンザウイルスゲノムを細胞培養で複製することができる。後者の場合には、場合により力価を増すためにウイルスを鶏卵で更に増幅してもよい。本発明の方法により生産された温度感受性、及び場合により弱毒及び/又は低温適応ウイルスと、このようなウイルスを含むワクチンも本発明の特徴である。同様に、PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34位に1個以上の突然変異、例えばPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される突然変異を組込んだ新規ウイルス核酸と、このようなアミノ酸置換をもつポリペプチドも本発明の特徴である。
【0025】
同様に、本発明の方法は1個以上の特定突然変異をインフルエンザBゲノムに導入することにより温度感受性、及び場合により弱毒及び/又は低温適応表現型をもつ新規インフルエンザB株を生産するのにも適している。例えば、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす1個以上の突然変異をインフルエンザB株ゲノムに導入し、温度感受性インフルエンザBウイルスを生産する。典型的アミノ酸置換としては、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)が挙げられる。上述のように、このようなウイルスを組込んだワクチンと、これらの突然変異とアミノ酸置換を組込んだポリペプチドはいずれも本発明の特徴である。
【0026】
従って、本発明の突然変異を組込んだインフルエンザウイルスは生産方法に関係なく本発明の特徴である。即ち、本発明は本発明の突然変異を含むインフルエンザ株、例えばPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される1個以上の位置に野生型に比較してアミノ酸置換をもつ任意インフルエンザAウイルス又はPB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される1個以上の位置に野生型に比較してアミノ酸置換をもつ任意インフルエンザBウイルスに関するが、但し、ca A/Ann Arbor/6/60及びB/Ann Arbor/1/66株は本発明の特徴とみなさない。特定好適態様では、夫々インフルエンザAウイルスはPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される複数の突然変異を含み、インフルエンザBウイルスはPB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V))から選択される複数の突然変異を含む。
【0027】
1態様では、インフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のプラスミドベクターを宿主細胞に導入する。例えば、インフルエンザウイルスゲノムのセグメントを少なくとも8種のプラスミドベクターに組込むことができる。1好適態様では、インフルエンザウイルスゲノムのセグメントを8種のプラスミドに組込む。例えば、8種のプラスミドの各々にインフルエンザウイルスゲノムの別のセグメントを組込むと有利である。
【0028】
本発明のベクターは両方向発現ベクターとすることができる。本発明の両方向発現ベクターは一般に第1のプロモーターと第2のプロモーターを含み、第1のプロモーターと第2のプロモーターはインフルエンザウイルスゲノムのセグメントを含む同一2本鎖ウイルス核酸のどちらかの鎖に機能的に連結されている。場合により、両方向発現ベクターはポリアデニル化シグナル及び/又はターミネーター配列を含む。例えば、ポリアデニル化シグナル及び/又はターミネーター配列は2個のプロモーターの内部のインフルエンザウイルスゲノムのセグメントの両側に配置することができる。本発明に関して有利なポリアデニル化シグナルの1例はSV40ポリアデニル化シグナルである。本発明の典型的プラスミドベクターは図1に示すプラスミドpAD3000である。
【0029】
ベクタープロモーターからのインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な任意宿主細胞が本発明に関して適切である。宿主細胞の有利な例としてはVero細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、PCK細胞、MDCK細胞、MDBK細胞、293細胞(例えば293T細胞)、及びCOS細胞が挙げられる。本明細書に記載するpAD3000プラスミドベクターと併用するには、Vero細胞、293細胞、及びCOS細胞が特に適切である。所定態様では、これらの細胞株の少なくとも2種の混合物の共培養物、例えばCOS細胞とMDCK細胞の組合せ又は293T細胞とMDCK細胞の組合せが宿主細胞集団を構成する。
【0030】
本発明の1つの特徴は本発明のプラスミドを導入した宿主細胞を37℃未満の温度、好ましくは35℃以下の温度で培養することである。一般に、細胞を32℃〜35℃の温度で培養する。所定態様では、細胞を約32℃〜34℃の温度、例えば約33℃で培養する。
【0031】
本発明の別の側面は培養Vero細胞から組換え又はリアソータントインフルエンザA又はインフルエンザBウイルス(即ちインフルエンザA及び/又はインフルエンザBウイルスの野生型及び変異体株)をレスキューするための新規方法に関する。インフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターをVero細胞集団にエレクトロポレーションする。ウイルス作製に許容可能な条件下で細胞を増殖させ、例えば低温適応、弱毒、温度感受性ウイルス株の場合には、Vero細胞を37℃未満の温度、好ましくは35℃以下の温度で増殖させる。一般に、細胞を32℃〜35℃の温度で培養する。所定態様では、細胞を約32℃〜34℃の温度、例えば約33℃で培養する。場合により(例えばワクチン生産のためには)、動物由来物質を加えずに無血清培地でVero細胞を増殖させる。
【0032】
上記本発明の方法では、インフルエンザゲノムプラスミドを導入した宿主細胞の培養後にウイルスを回収する。所定態様では、回収されるウイルスは組換えウイルスである。所定態様では、ウイルスは2種以上の親ウイルス株に由来する遺伝属性をもつリアソータントインフルエンザウイルスである。場合により、回収した組換え又はリアソータントウイルスを培養細胞又は鶏卵で継代することにより更に増幅してもよい。
【0033】
場合により、回収したウイルスを不活化してもよい。所定態様では、回収したウイルスはインフルエンザワクチンを含む。例えば、回収したインフルエンザワクチンはインフルエンザA又はインフルエンザBの選択株に由来するHA及び/又はNA抗原をもつリアソータントインフルエンザウイルス(例えば6:2又は7:1リアソータントウイルス)とすることができる。特定の有利な態様では、リアソータントインフルエンザウイルスは弱毒表現型をもつ。場合により、リアソータントウイルスは低温適応及び/又は温度感受性であり、例えば表17の置換から選択される1個以上のアミノ酸置換をもつ弱毒、低温適応又は温度感受性インフルエンザBウイルスである。このようなインフルエンザウイルスは例えば選択された例えば病原性インフルエンザ株に特異的な免疫応答の予防発生用生弱毒ワクチンとして有用である。本発明の方法により生産されたインフルエンザウイルス(例えば弱毒リアソータントウイルス)も本発明の特徴である。
【0034】
別の側面では、本発明はインフルエンザウイルスの複製を許容することが可能な宿主細胞集団にインフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターを導入する段階と、宿主細胞を35℃以下の温度で培養する段階と、対象に投与すると免疫応答を誘発することが可能なインフルエンザウイルスを回収する段階を含む組換えインフルエンザウイルスワクチンの生産方法に関する。本発明のワクチンはインフルエンザA又はインフルエンザB株ウイルスとすることができる。所定態様では、インフルエンザワクチンウイルスとしては弱毒インフルエンザウイルス、低温適応インフルエンザウイルス、又は温度感受性インフルエンザウイルスが挙げられる。特定態様では、ウイルスはこれらの望ましい特性の任意組合せをもつ。1態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザA/Ann Arbor/6/60株ウイルスを含む。別の態様では、インフルエンザウイルスはインフルエンザB/Ann Arbor/1/66株ウイルスを含む。あるいは、ワクチンはca A/Ann Arbor/6/60又はca B/Ann Arbor/1/66の特徴的生物学的特性を変化させる少なくとも1個の置換アミノ酸(例えばこれらの株のユニークアミノ酸)を含む人工構築インフルエンザA又はインフルエンザBウイルスを含む。例えば、本発明のワクチンとしては、PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異を含む人工構築組換え及びリアソータントインフルエンザAウイルスと、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異を含む人工構築組換え及びリアソータントインフルエンザBウイルスが挙げられる。
【0035】
所定態様では、ウイルスは2種以上のインフルエンザウイルス株に由来するウイルスゲノムセグメントをもつリアソータントインフルエンザウイルス(例えば6:2又は7:1リアソータントウイルス)を含む。例えば、リアソータントインフルエンザウイルスワクチンはワクチン生産に関するその望ましい特性により選択したウイルス株の内部ゲノムセグメントと共に、インフルエンザA又はBの選択株に由来するHA及び/又はNA表面抗原を含むと有利である。多くの場合には、HA及び/又はNAをコードするセグメントが由来するインフルエンザ株は(例えば上述のような)病原株の局地的又は世界的流行の予想に基づいて選択することが望ましい。場合により、内部ゲノムセグメントが由来するウイルス株は例えばA/Ann Arbor/6/60、B/Ann Arbor/1/66の弱毒、低温適応及び/又は温度感受性インフルエンザ株、又は所望表現型をもたらす1個以上のアミノ酸置換をもつ人工構築インフルエンザ株(例えばPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異を含むインフルエンザAウイルスと、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異を含むインフルエンザBウイルス)である。例えば、有利なリアソータントウイルスとしては、PB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される1個以上のアミノ酸置換を含む人工構築インフルエンザAウイルスと、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)から選択される1個以上のアミノ酸置換を含むインフルエンザBウイルスが挙げられる。
【0036】
所望により、回収後にインフルエンザワクチンウイルスを不活化する。
【0037】
本発明の方法により生産されたインフルエンザウイルスワクチン(弱毒生ワクチンを含む)も本発明の特徴である。特定の有利な態様では、インフルエンザウイルスワクチンはリアソータントウイルスワクチンである。
【0038】
本発明の別の側面は両方向発現ベクターであるプラスミドを提供する。本発明の両方向発現ベクターは第2のプロモーターとポリアデニル化部位(例えばSV40ポリアデニル化部位)の間に挿入された第1のプロモーターを含む。1態様では、第1のプロモーターと第2のプロモーターは少なくとも1個のクローニング部位の両側に逆方向に配置することができる。本発明の典型的ベクターは図1に示すプラスミドpAD3000である。
【0039】
所定態様では、インフルエンザウイルスゲノムの少なくとも1個のセグメントを例えば2本鎖核酸としてクローニング部位に挿入する。例えば、本発明のベクターは第2のプロモーターとSV40ポリアデニル化部位の間に挿入された第1のプロモーターをもつプラスミドを含み、第1のプロモーターと第2のプロモーターはインフルエンザウイルスの少なくとも1個のセグメントの両側に逆方向に配置されている。
【0040】
本発明の1個以上の発現ベクターを含むキットも本発明の特徴である。一般に、キットは更にインフルエンザウイルス複製を許容することが可能な細胞株、緩衝液、培養培地、説明書、パッケージング材料、及び容器の1種以上を含む。所定態様では、キットはインフルエンザウイルスゲノムの少なくとも1個のセグメントを各々含む複数の発現ベクターを含む。例えば、ワクチン生産又は投与に関するその望ましい特性により選択されたウイルス株の内部ゲノムセグメントの1個を各々含む複数の発現ベクターを含むキットが本発明の特徴である。例えば、選択ウイルス株は例えばA/Ann Arbor/6/60又はB/Ann Arbor/1/66の弱毒、低温適応及び/又は温度感受性株、又は本明細書(例えば表17)に記載するような1個以上のアミノ酸置換をもつ人工構築株等の所望特性をもつ代替株とすることができる。1態様では、キットは変異体HA及び/又はNA抗原をコードする核酸ライブラリーのメンバーを組込んだ発現ベクターを含む。
【0041】
インフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターを導入した少なくとも1個の細胞を含む35℃以下の温度で増殖する細胞培養物も本発明の特徴である。組成物は細胞培養培地も含むことができる。所定態様では、複数のベクターは例えば第2のプロモーターとSV40ポリアデニル化部位の間に挿入された第1のプロモーターを含む両方向発現ベクターを含む。例えば、第1のプロモーターと第2のプロモーターはインフルエンザウイルスの少なくとも1個のセグメントの両側に逆方向に配置することができる。本発明の細胞培養物は35℃以下の温度、例えば約32℃〜35℃、一般には約32℃〜約34℃、例えば約33℃に維持される。
【0042】
本発明は更に上述のようなインフルエンザウイルスゲノムを組込んだ複数のベクターを導入した少なくとも1個の細胞の増殖性細胞培養物と、培養物を35℃以下の温度に維持するための調節器を含む細胞培養システムにも関する。例えば、調節器は細胞培養物を約32℃〜35℃に維持すると有利であり、一般には約32℃〜約34℃、例えば約33℃に維持する。
【0043】
本発明の別の特徴は温度感受性、低温適応及び/又は弱毒を変化させる1個以上のアミノ酸置換を含む人工構築組換え又はリアソータントインフルエンザウイルスである。例えば、PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される位置に1個以上のアミノ酸置換をもつ人工構築インフルエンザAウイルスと、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置に1個以上のアミノ酸置換をもつ人工構築インフルエンザBウイルスが本発明の有利な態様である。典型的態様としては、PB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)のアミノ酸置換の任意1個以上をもつインフルエンザAウイルスと、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)のアミノ酸置換の任意1個以上をもつインフルエンザBウイルスが挙げられる。特定態様では、ウイルスは上記位置に複数の突然変異(例えば1、2、3、4、5、6、7、8又は9個のアミノ酸置換)を含む。従って、上記全5個の位置にアミノ酸置換(例えばPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G))をもつ人工構築インフルエンザAウイルスと、上記位置の8個又は全9個にアミノ酸置換(例えばPB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V))をもつ人工構築インフルエンザBウイルスが本発明に含まれる。更に、ウイルスは上記以外の1個以上の付加的アミノ酸置換を含むことができる。
【0044】
特定態様では、人工構築インフルエンザウイルスは温度感受性インフルエンザウイルス、低温適応インフルエンザウイルス及び/又は弱毒インフルエンザである。例えば、本発明による温度感受性インフルエンザウイルスは一般に39℃で野生型インフルエンザウイルスに比較して約2.0〜約5.0log10の増殖低下を示す。例えば、温度感受性ウイルスは39℃で野生型インフルエンザウイルスに比較して少なくとも約2.0log10、少なくとも約3.0log10、少なくとも約4.0log10、又は少なくとも約4.5log10の増殖低下を示す。必ずしもそうでない場合もあるが、一般に、温度感受性インフルエンザウイルスは33℃で強固な増殖特徴を維持する。本発明の弱毒インフルエンザウイルスは一般にフェレット弱毒アッセイで野生型インフルエンザウイルスに比較して約2.0〜約5.0log10の増殖低下を示す。例えば、本発明の弱毒インフルエンザウイルスは一般にフェレット弱毒アッセイで野生型インフルエンザウイルスに比較して少なくとも約2.0log10、多くの場合には少なくとも約3.0log10、有利には少なくとも約4.0log10の増殖低下を示す。
【0045】
図面の簡単な説明
図1はpAD3000プラスミドの模式図。
【0046】
図2は感染細胞の顕微鏡写真。
【0047】
図3はプラスミドトランスフェクションからのrMDV−A及び6:2H1N1リアソータントウイルスのゲノタイピング分析を示す。
【0048】
図4はインフルエンザBウイルス生産用の8プラスミドシステムの模式図。
【0049】
図5はA及びB.RT−PCRによる組換えMDV−Bウイルスの特性決定;C及びD.RT PCRによる組換えB/Yamanashi/166/98の特性決定。
【0050】
図6はGeneBankフォーマットによるpAD3000の配列。
【0051】
図7はMDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【0052】
図8はインフルエンザB株のHA及びNAセグメントの同時増幅から誘導されたRT−PCR産物。
【0053】
図9は組換え及びリアソータントウイルスの相対力価を示す棒グラフ。
【0054】
図10は許容温度と制限温度下のリアソータントウイルスの相対力価(温度感受性)を示す棒グラフ。
【0055】
図11は温度感受性と相関する特定突然変異(ノックイン)を組込んだリアソータントウイルスの模式図(左パネル)と、許容温度と制限温度下の相対力価(温度感受性)(右パネル)を示す。
【0056】
図12はミニゲノムアッセイにおけるts突然変異の測定。A.HEp−2細胞にPB1,PB2,PA,NP及びpFlu−CATをトランスフェクトし,33℃又は39℃で18時間インキュベートし、細胞抽出物のCATレポーター遺伝子発現を分析した。B.プライマー伸長アッセイによるCAT mRNA発現。
【0057】
図13はPA,NP,及びM1蛋白質の野生型残基をもつ三重遺伝子組換え体の模式図。
【0058】
図14は単一遺伝子及び二重遺伝子組換えウイルスの増殖をまとめた表。
【0059】
図15は非ts表現型に対応するヌクレオプロテインのアミノ酸残基をまとめた表。
【0060】
図16は組換えPR8突然変異体の模式図。PB1及び/又はPB2遺伝子に導入した突然変異を黒丸で示す。
【0061】
図17は33℃と39℃の相対力価を示す棒グラフ。
【0062】
図18は各種温度におけるPR8突然変異体のプラーク形態を示す顕微鏡写真。MDCK細胞に指定ウイルスを感染させ、33℃、37℃、及び39℃で3日間インキュベートした。ウイルスプラークを免疫染色により可視化し、写真撮影した。
【0063】
図19は許容温度と非許容温度の蛋白質合成。MDCK細胞に指定ウイルスを感染させ、33℃又は39℃で一晩インキュベートした。放射性標識ポリペプチドをSDS−PAGEで電気泳動させ、オートラジオグラフにかけた。ウイルス蛋白質HA,NP,M1及びNSを示す。
【0064】
図20はA.MDCK細胞での複製に比較したPer.C6細胞でのMDV−A及びMDV−Bの複製を示す折れ線グラフ;B.Per.C6細胞におけるMDV−A単一遺伝子リアソータントの複製の変動を示す折れ線グラフ。
(詳細な説明)
【0065】
多くの病原インフルエンザウイルス株は組織培養では不十分にしか増殖せず、生弱毒ウイルスワクチンの生産に適した株(例えば温度感受性、低温適応及び/又は弱毒インフルエンザウイルス)は商業的生産用培養細胞で増殖させるのに成功していない。本発明は標準細胞培養条件下での増殖に適さないインフルエンザウイルス株の増殖と回収を可能にする多重プラスミドトランスフェクションシステムを提供する。
【0066】
第1の側面では、本発明の方法は完全にクローン化DNAから組換えインフルエンザBウイルスを細胞培養生産するためのベクターと方法を提供する。別の側面では、本発明の方法はin vitro培養細胞ワクチン生産に関して望ましい特性(例えば弱毒病原性又は表現型、低温適応、温度感受性等)をもつウイルス株(A株及びB株両者のインフルエンザウイルス)の増殖を許容する組織培養条件の開発にも基づく。クローン化ウイルスゲノムセグメントを組込んだ複数のベクターを宿主細胞に導入し、35℃以下の温度で培養することによりインフルエンザウイルスを生産する。インフルエンザウイルスゲノムを組込んだベクターをトランスフェクトすると、標準精製法によりワクチンとして適切な組換ウイルスを回収することができる。本発明のベクターシステムと方法を使用すると、ワクチン生産に関するその望ましい特性により選択された株の6個の内部遺伝子セグメントと選択された例えば病原株に由来する免疫原性HA及びNAセグメントを組込んだリアソータントウイルスを迅速且つ効率的に組織培養生産することができる。従って、本明細書に記載するシステムと方法は鼻腔内投与に適したワクチン等の生弱毒ワクチンを含むワクチンとして使用するのに適したウイルスを含む組換え及びリアソータントインフルエンザA及びBウイルスの迅速な細胞培養生産に有用である。
【0067】
一般に、A及びBサブタイプの各々に単一マスタードナーウイルス(MDV)株を選択する。生弱毒ワクチンの場合には、マスタードナーウイルス株は一般にワクチン生産に関するその有利な特性(例えば温度感受性、低温適応及び/又は弱毒)により選択される。例えば、典型的マスタードナー株としては夫々A/Ann Arbor/6/60及びB/Ann Arbor/1/66のこのような温度感受性、弱毒及び低温適応株が挙げられる。本発明はこれらのウイルス株のca、ts及びatt表現型をもたらす基礎となる突然変異を解明し、組換え及びリアソータントワクチン生産に関してドナー株として使用するのに適した新規インフルエンザ株の生産方法を提供する。
【0068】
例えば、選択されたマスタードナーA型ウイルス(MDV−A)、又はマスタードナーB型ウイルス(MDV−B)はウイルスゲノムを構成する複数のクローン化ウイルスcDNAから生産される。1典型的態様では、8種のクローン化ウイルスcDNAから組換えウイルスを生産する。一方の鎖に由来するRNAポリメラーゼI(pol I)プロモーターpからウイルスゲノムRNAを転写し、他方の鎖に由来するRNAポリメラーゼII(pol II)プロモーターからウイルスmRNAを合成できるように、PB2、PB1、PA、NP、HA、NA、M及びNSの選択されたMDV−A又はMDV−B配列に相当する8種のウイルスcDNAをプラスミド(例えばpAD3000)等の両方向発現ベクターにクローニングする。場合により、(例えば多重塩基切断部位を除去するために)HAセグメントを含む任意遺伝子セグメントを修飾することができる。
【0069】
次に、8個のウイルスcDNAをもつプラスミドを適当な宿主細胞(例えばVero細胞、共培養MDCK/293T又はMDCK/COS7細胞)にトランスフェクトした後に感染性組換えMDV−A又はMDV−Bウイルスを回収する。本明細書に記載するプラスミドと方法を使用すると、本発明は例えば選択されたウイルス(例えばMDV−A,MDV−B)の6個の内部遺伝子(PB1,PB2,PA,NP,M及びNS)と別の対応型(A又はB)インフルエンザウイルスに由来するHA及びNAをコトランスフェクトすることにより6:2リアソータントインフルエンザワクチンを作製するのに有用である。例えば、HAセグメントはワクチン生産に日常的に行われているように、病原関連H1,H3又はB株から選択すると有利である。同様に、HAセグメントはH2株(例えばH2N2)、H5株(例えばH5N1)又はH7株(例えばH7N7)等の病原株に関連する新興株から選択することができる。MDVの7個のゲノムセグメントと選択株のHA又はNA遺伝子を組込んだリアソータント(7:1リアソータント)も生産することができる。更に、このシステムはワクチン生産に関連する表現型特徴(例えば弱毒(att)、低温適応(ca)、及び温度感受性(ts)表現型)の分子基盤を決定するのにも有用である。
定義
【0070】
特に定義しない限り、全科学技術用語はこれらの用語が属する分野で一般に使用されていると同一の意味をもつものとする。本発明の目的では、以下の用語は以下のように定義される。
【0071】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」及び「核酸配列」なる用語は1本鎖又は2本鎖デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマー、又はそのキメラもしくは類似体を意味する。本明細書で使用する場合、この用語は場合により天然ヌクレオチドと同様に1本鎖核酸とハイブリダイズするという点で天然ヌクレオチドの本質的特性をもつ天然ヌクレオチドの類似体のポリマー(例えばペプチド核酸)を含む。特に指定しない限り、本発明の特定核酸配列は明示配列に加えて相補配列も含む。
【0072】
「遺伝子」なる用語は生物学的機能に関連する任意核酸の意味で広義に使用する。従って、遺伝子はコーディング配列及び/又はその発現に必要な調節配列を含む。「遺伝子」なる用語は特定ゲノム配列と、このゲノム配列によりコードされるcDNA又はmRNAに適用される。
【0073】
遺伝子は更に、例えば他の蛋白質の認識配列を形成する非発現核酸セグメントも含む。非発現調節配列は転写因子等の調節蛋白質が結合して隣接又は近隣配列の転写を誘導する「プロモーター」と「エンハンサー」を含む。「組織特異的」プロモーター又はエンハンサーとは1又は複数の特定組織型又は細胞型で転写を調節するものである。
【0074】
「ベクター」なる用語は核酸を生物、細胞、又は細胞成分間に伝搬及び/又は輸送することができる手段を意味する。ベクターとしてはプラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、プロウイルス、ファージミド、トランスポゾン、及び人工染色体等の自律複製するか又は宿主細胞の染色体に組込むことができるものが挙げられる。ベクターは裸のRNAポリヌクレオチド、裸のDNAポリヌクレオチド、同一鎖内でDNAとRNAの両者により構成されるポリヌクレオチド、ポリリジン共役DNA又はRNA、ペプチド共役DNA又はRNA、リポソーム共役DNA等の自律複製しないものでもよい。本発明のベクターはプラスミドが最も一般的である。
【0075】
「発現ベクター」とはこれに組込んだ核酸の発現と複製を促進することが可能なベクター(例えばプラスミド)である。一般に、発現させようとする核酸はプロモーター及び/又はエンハンサーに「機能的に連結」され、プロモーター及び/又はエンハンサーにより転写調節制御される。
【0076】
「両方向発現ベクター」は一般に、両方向に発現を開始して例えば正(+)ないしセンス鎖及び負(−)ないしアンチセンス鎖RNAを生じるように、2個のプロモーターの間に配置された核酸に関して逆方向に配置された2個の選択的プロモーターにより特徴付けられる。あるいは、両方向発現ベクターはウイルスmRNA及び(cRNAとしての)ウイルスゲノムRNAが同一鎖から発現されるアンビセンスベクターでもよい。
【0077】
本発明に関して、「単離」なる用語はその天然環境で通常付随するか又は相互作用する成分を実質的に含まない生物材料(例えば核酸又は蛋白質)を意味する。単離材料は場合によりその天然環境(例えば細胞)ではその材料と併存しない材料を含む。例えば、単離材料がその天然環境(例えば細胞)にある場合には、その環境に存在する材料が本来存在しない細胞内の位置に配置されている(例えばゲノム又は遺伝子エレメント)。例えば、天然核酸(例えばコーディング配列、プロモーター、エンハンサー等)が非天然手段(例えばプラスミドもしくはウイルスベクター等のベクター又はアンプリコン)によりこの核酸の本来のゲノムの遺伝子座以外の遺伝子座に導入されるならばこの核酸は単離されたことになる。このような核酸を「異種」核酸とも言う。
【0078】
「組換え」なる用語は材料(例えば核酸又は蛋白質)が人的介入により人工的又は合成的(非天然)に改変されていることを意味する。改変はその天然環境又は状態で材料に実施してもよいし、その天然環境又は状態から除去してもよい。具体的にウイルス(例えばインフルエンザウイルス)について言うと、ウイルスは組換え核酸の発現により生産される場合に組換え体である。
【0079】
ウイルスに関して「リアソータント」なる用語は、ウイルスが2種以上の親ウイルス株又はソースに由来する遺伝子及び/又はポリペプチド成分を含むことを意味する。例えば、7:1リアソータントは第1の親ウイルスに由来する7個のウイルスゲノムセグメント(又は遺伝子セグメント)と、第2の親ウイルスに由来する(例えばヘマグルチニン又はノイラミニダーゼをコードする)単一相補的ウイルスゲノムセグメントを含む。6:2リアソータントは第1の親ウイルスに由来する6個のゲノムセグメント、最も一般的には6個の内部遺伝子と、第2の親ウイルスに由来する2個の相補的セグメント(例えばヘマグルチニンとノイラミニダーゼ)を含む。
【0080】
異種又は単離核酸に関して「導入」なる用語は真核又は原核細胞に核酸を組込み、核酸を細胞のゲノムに組込む(例えば染色体、プラスミド、プラスチド又はミトコンドリアDNA)か、自律レプリコンに変換するか、又は一過的に発現させる(例えばトランスフェクトmRNA)ことができることを意味する。この用語は「感染」、「トランスフェクション」、「形質転換」及び「形質導入」のような方法を意味する。本発明に関しては、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿法、脂質によるトランスフェクション(リポフェクション)等の種々の方法を使用して核酸を原核細胞に導入することができる。
【0081】
「宿主細胞」なる用語はベクター等の異種核酸を含み、核酸の複製及び/又は発現、及び場合によりポリペプチド及び/又はウイルスを含む1種以上のコード化産物の生産を補助する細胞を意味する。宿主細胞は大腸菌等の原核細胞でもよいし、酵母、昆虫、両生類、鳥類又はヒト細胞を含む哺乳動物細胞等の真核細胞でもよい。本発明に関して典型的宿主細胞としてはVero(アフリカミドリザル腎)細胞、Per.C6細胞(ヒト胚性網膜細胞)、BHK(ベビーハムスター腎)細胞、初代ニワトリ腎(PCK)細胞、Madin−Darbyイヌ腎(MDCK)細胞、Madin−Darbyウシ腎(MDBK)細胞、293細胞(例えば293T細胞)、及びCOS細胞(例えばCOS1,COS7細胞)が挙げられる。宿主細胞なる用語は例えば種々の細胞型又は細胞株の混合培養物等の細胞組み合わせ又は混合物を含む。
【0082】
「温度感受性」、「低温適応」及び「弱毒」なる用語は当分野で周知である。例えば、「温度感受性」(「ts」)なる用語はウイルスがインフルエンザA株では33℃に比較して39℃で100倍以上の力価低下を示し、ウイルスがインフルエンザB株では33℃に比較して37℃で100倍以上の力価低下を示すことを意味する。例えば、「低温適応」(「ca」)なる用語はウイルスが33℃におけるその増殖の100倍以内の増殖を25℃で示すことを意味する。例えば、「弱毒」(「att」)なる用語はウイルスがフェレットの上気道で複製するが、肺組織では検出できず、動物にインフルエンザ様疾患を誘発しないことを意味する。中間表現型をもつウイルス、即ち39℃(A株ウイルス)又は37℃(B株ウイルス)で100倍未満の力価低下を示し、33℃におけるその増殖の100倍を上回る(例えば200倍、500倍、1000倍、10,000倍以内)増殖を25℃で示し、及び/又はフェレットの上気道における増殖に比較して肺で増殖低下(即ち部分弱毒)を示すか及び/又は動物でインフルエンザ様疾患の低下を示し、本明細書に記載するアミノ酸置換の1個以上をもつウイルスも本発明の有用なウイルスであることが理解されよう。増殖は力価、プラークサイズもしくは形態、粒子密度又は当業者に公知の他の尺度により表されるウイルス量を示す。
【0083】
「人工構築」なる用語は本明細書ではウイルス、ウイルス核酸又はウイルスにコードされる産物(例えばポリペプチド、ワクチン)が組換え法(例えば部位特異的突然変異誘発、PCR突然変異誘発等)により導入された少なくとも1個の突然変異を含むことを表すために使用する。1個以上のヌクレオチド突然変異及び/又はアミノ酸置換を含むウイルス(又はウイルス成分もしくは産物)について「人工構築」と言う場合には、ウイルス(又はウイルス成分もしくは産物)をコードするウイルスゲノム又はゲノムセグメントが天然起源(例えば天然に存在するか又は非組換え法(例えば25℃での順次継代)により生産された既存実験室ウイルス株(例えば野生型又は低温適応A/Ann Arbor/6/60又はB/AnnArbor/1/66株))に由来しないことを意味する。
インフルエンザウイルス
【0084】
インフルエンザウイルスのゲノムは免疫原性ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)蛋白質をコードする直鎖(−)リボ核酸(RNA)の8個のセグメントと、6個の内部コアポリペプチド、即ちヌクレオキャプシドヌクレオプロテイン(NP);マトリックス蛋白質(M);非構造蛋白質(NS);及び3個のRNAポリメラーゼ(PA,PB1,PB2)蛋白質から構成される。複製中に、ゲノムウイルスRNAは宿主細胞の核で(+)鎖メッセンジャーRNAと(−)鎖ゲノムcRNAに転写される。8個のゲノムセグメントの各々はRNA以外にNPとポリメラーゼ複合体(PB1,PB2,及びPA)を含むリボヌクレオプロテイン複合体にパッケージングされる。
【0085】
本発明では、インフルエンザウイルスの操作と生産のために8個のセグメントの各々に対応するウイルスゲノムRNAを組換えベクターに挿入する。本発明に関しては、ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、ファージ、及び人工染色体等の種々のベクターを使用することができる。一般に、操作し易くするために、ウイルスゲノムセグメントをプラスミドベクターに挿入し、細菌及び真核細胞で機能的な1個以上の複製起点と、場合によりプラスミド配列を導入した細胞をスクリーニング又は選択するのに適したマーカーを加える。典型的ベクターであるプラスミドpAD3000を図1に示す。
【0086】
本発明のプラスミドベクターは挿入したウイルスゲノムセグメントの転写を両方向に開始すること、即ち(+)鎖及び(−)鎖ウイルスRNA分子の両者を生じることが可能な両方向発現ベクターが最も一般的である。両方向転写を行うためには、第1鎖に由来する第1のRNAポリメラーゼプロモーター(例えばPol I)によりウイルスゲノムRNAのコピーが転写され、第2のRNAポリメラーゼプロモーター(例えばPol II)からウイルスmRNAが合成されるように、少なくとも2個の独立したプロモーターをもつベクターにウイルスゲノムセグメントの各々を挿入する。従って、2個のプロモーターはウイルスゲノムRNAセグメントの挿入に適した少なくとも1個のクローニング部位(即ち制限酵素認識配列)、好ましくはユニーククローニング部位の両側に逆方向に配置される。あるいは、(+)鎖mRNAと(−)鎖ウイルスRNA(cRNAとして)がベクターの同一鎖から転写される「アンビセンス」ベクターを利用することもできる。
発現ベクター
【0087】
発現させるインフルエンザウイルスゲノムセグメントはmRNA合成を誘導するのに適した転写制御配列(プロモーター)に機能的に連結される。インフルエンザウイルスゲノムセグメントの転写を調節するために発現ベクターで使用するには種々のプロモーターが適している。例えばベクターがプロモーターpAD3000である特定態様では、サイトメガロウイルス(CMV)DNA依存性RNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーターを使用する。所望により、例えば条件付け発現を調節するためには、特定条件下又は特定組織もしくは細胞でRNA転写を誘導する他のプロモーターに代用することができる。多数のウイルス及び哺乳動物(例えばヒト)プロモーターが入手可能であるか、又は所期特定用途に応じて単離することができる。例えば、動物及びヒトウイルスのゲノムから得られる代替プロモーターとしては、アデノウイルス(例えばアデノウイルス2)、パピローマウイルス、B型肝炎ウイルス、ポリオーマウイルス、及びサルウイルス40(SV40)等のプロモーターや、種々のレトロウイルスプロモーターが挙げられる。哺乳動物プロモーターとしては特にアクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーター等が挙げられる。更に、バクテリオファージプロモーターをコグネイトRNAポリメラーゼ(例えばT7プロモーター)と併用してもよい。
【0088】
場合によりエンハンサー配列を加えることにより転写を増加してもよい。エンハンサーは一般に短く、例えばプロモーターと協同作用して転写を増加する10〜500bpのシス作用性DNAエレメントである。多くのエンハンサー配列が哺乳動物遺伝子(ヘモグロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテイン、及びインスリン)、及び真核細胞ウイルスから単離されている。エンハンサーは異種コーディング配列の5´又は3´位でベクターにスプライスすることができるが、一般にはプロモーターの5´部位に挿入される。一般に、プロモーターと所望により他の転写促進配列は異種DNAを導入する宿主細胞型における発現を最適化するように選択される(Scharfら(1994)Heat stress promoters and transcription factors Results Probl Cell Differ 20:125−62;Krieglerら(1990)Assembly of enhancers,promoters,and splice signals to control expression of transferred genes Methods in Enzymol 185:512−27)。場合により、アンプリコンは翻訳開始のためのリボソーム結合部位又は内部リボソーム進入部位(IRES)も含むことができる。
【0089】
本発明のベクターはポリアデニル化部位やターミネーター配列等の転写終結とmRNAの安定化に必要な配列も含むと有利である。このような配列は真核又はウイルスDNA又はcDNAの5´と場合により3´の未翻訳領域から一般に入手可能である。例えばプラスミドpAD3000を使用する1態様では、SV40ポリアデニル化配列がポリアデニル化シグナルを提供する。
【0090】
更に、上述のように、発現ベクターは場合により、上記遺伝子に加え、形質転換宿主細胞の選択用表現型形質を提供するための1個以上の選択マーカーを含み、真核細胞培養での選択にはジヒドロ葉酸レダクターゼやネオマイシン耐性等のマーカーが適している。
【0091】
上記のような適当なDNA配列と適当なプロモーター又は制御配列を含むベクターを使用して宿主細胞を形質転換し、蛋白質を発現させることができる。本発明のベクターは細菌細胞でも複製できるが、最も多くの場合には発現の目的で哺乳動物細胞(例えばVero細胞、BHK細胞、MDCK細胞、293細胞、COS細胞)に導入することが望ましい。
付加的発現エレメント
【0092】
最も一般的には、インフルエンザウイルス蛋白質をコードするゲノムセグメントは機能的ウイルス蛋白質への翻訳を含めたその発現に必要な任意付加的配列を含む。他の場合には、ウイルス蛋白質(例えばHA又はNA蛋白質)をコードするミニ遺伝子又は他の人工構築物を利用できる。この場合には、異種コーディング配列の効率的な翻訳を助長する特定開始シグナルを加えることが多くの場合に望ましい。これらのシグナルとしては、例えばATG開始コドンと隣接配列が挙げられる。完全インサートの翻訳を確保するためには、ウイルス蛋白質に対して適正な読み枠に開始コドンを挿入する。外来転写エレメント及び開始コドンは天然及び合成の両者の種々の起源とすることができる。発現効率は使用する細胞システムに適したエンハンサーを加えることにより促進することができる。
【0093】
所望により、例えばポリペプチド発現を所望細胞区画、膜、もしくはオルガネラ、又は細胞培養培地にターゲティングするために、通常は目的ポリヌクレオチド配列とインフレームでベクターにシグナル配列、分泌又は局在配列等の付加的発現エレメントをコードするポリヌクレオチド配列を組込むことができる。このような配列は当業者に公知であり、分泌リーダーペプチド、オルガネラターゲティング配列(例えば核局在配列、ER保持シグナル、ミトコンドリアトランジット配列)、膜局在/アンカー配列(例えばストップトランスファー配列、GPIアンカー配列)等が挙げられる。
インフルエンザウイルスワクチン
【0094】
従来、インフルエンザウイルスワクチンは関連株の経験的予測に基づいて選択されたウイルス株を使用して発育鶏卵で生産されている。より最近では、承認弱毒、温度感受性マスター株に関して選択されたヘマグルチニン及びノイラミニダーゼ抗原を組込んだリアソータントウイルスが生産されている。鶏卵で複数継代によるウイルスの培養後にインフルエンザウイルスを回収し、場合により、例えばホルムアルデヒド及び/又はβ−プロピオラクトンを使用して不活化する。しかし、このようなインフルエンザワクチンの生産にはいくつかの大きな欠点がある。鶏卵に残留している汚染物質は高度に抗原性、発熱性であり、投与すると有意副作用を生じることが多い。更に重要な点として、インフルエンザワクチンの生産と不活化のための時間を見込んで一般に次の流感時期の数カ月前に生産用株を選択し、販売しなければならない。組換え及びリアソータントワクチンを細胞培養生産する試みはワクチン生産に承認されている株が標準細胞培養条件下で効率的に増殖できないことにより阻まれている。
【0095】
本発明は1又は多数の選択ウイルス抗原株に対応するワクチンを迅速に生産できるように組換え及びリアソータントウイルスを培養生産するためのベクターシステムと方法を提供する。特に、多重プラスミドシステムから細胞培養でウイルスを効率的に生産する条件と株を提供する。場合により、所望によりウイルスを鶏卵で更に増幅してもよい。
【0096】
例えば、インフルエンザBマスター株B/Ann Arbor/1/66を標準細胞培養条件下、例えば37℃で増殖させることはまだ可能ではない。本発明の方法では、インフルエンザウイルスゲノムのセグメントを各々組込んだ多重プラスミドを適切な細胞に導入し、35℃以下の温度で培養する。一般に、培養物を約32℃〜35℃、好ましくは約32℃〜約34℃、例えば約33℃に維持する。
【0097】
一般に、培養物は温度が35℃を越えないように確保するためのサーモセット等の温度調節器を使用して一定温度にし、制御下の湿度とCO2条件で細胞培養インキュベーター等のシステムに維持する。
【0098】
目的株(例えば目的抗原変異体)に由来する相補的セグメントと共にマスターインフルエンザウイルスのゲノムセグメントに対応するベクターのサブセットを導入することによりリアソータントインフルエンザウイルスを容易に得ることができる。一般に、マスター株はワクチン投与に関して望ましい特性により選択される。例えば、ワクチン生産(例えば生弱毒ワクチンの生産)には、弱毒表現型、低温適応及び/又は温度感受性によりマスタードナーウイルス株を選択することができる。この点では、インフルエンザA株ca A/Ann Arbor/6/60;インフルエンザB株ca B/Ann Arbor/1/66;又はその望ましい表現型特性により選択された別の株(例えば実施例4に記載するような人工構築インフルエンザA株又は表17に記載するアミノ酸置換の1個以上を組込んだ人工構築インフルエンザB株等の弱毒,低温適応,及び/又は温度感受性株);をマスタードナー株として選択すると有利である。
【0099】
1態様では、インフルエンザマスターウイルス株の6個の内部遺伝子(即ちPB1,PB2,PA,NP,NB,M1,BM2,NS1及びNS2)を組込んだプラスミドを望ましい抗原株(例えば有意局地的又は世界的インフルエンザ感染を誘発すると予想される株)に由来するヘマグルチニン及びノイラミニダーゼセグメントと共に適切な宿主細胞にトランスフェクトする。効率的回収に適した温度(例えば35℃以下、例えば約32℃〜35℃、例えば約32℃〜約34℃、又は約33℃)でリアソータントウイルスの細胞培養複製後にリアソータントウイルスを回収する。場合により、回収したウイルスをホルムアルデヒド又はβ−プロピオラクトン等の変性剤で不活化してもよい。
弱毒、温度感受性及び低温適応インフルエンザウイルスワクチン
【0100】
1側面では、本発明は好ましいマスタードナーウイルス株におけるts表現型の基礎となる突然変異の解明に基づく。MDV株ゲノムにおける単一ヌクレオチド変異の機能的重要性を調べるために、A/AA/6/60系統内の近縁株に由来するリアソータントウイルスの温度感受性を評価した。2種の親株の同系性によりts表現型に及ぼす単一ヌクレオチド変異の影響を評価することができる。従って、MDV−Aのts表現型の遺伝子基盤はPB1,PB2,及びNP内の特定アミノ酸残基にヌクレオチドレベルでマッピングされる。
【0101】
caA/AA/6/60のts表現型の遺伝子基盤をマッピングする従来の試みはA/AA/6/60と無関係のwt株の間の単一及び多重遺伝子リアソータントを作製するために古典的な共感染/リアソータント技術を使用していた。これらの研究はPB2とPB1の両者がts表現型に関与していることを示唆している(Kendalら(1978)Biochemical characteristics of recombinant viruses derived at sub−optimal temperatures :evidence that ts lesions are present in RNA segments 1 and 3,and that RNA 1 codes for the virion transcriptase enzyme,p.734−743.In B.W.J.Mahy,and R.D.Barry(ed.)Negative Strand Viruses,Academic Press;Kendalら(1977)Comparative studies of wild−type and cold mutant(temperature sensitive)influenza viruses :genealogy of the matrix(M) and the non−structural(NS)proteins in recombinant cold−adapted H3N2 viruses J Gen Virol 37:145−159;Kendalら(1979)Comparative studies of wild−type and cold−mutant(temperature sensitive)influenza viruses :independent segregation of temperature−sensitivity of virus replication from temperature−sensitivity of virion transcriptase activity during recombination of mutant A/Ann Arbor/6/60 with wild−type H3N2 strains J Gen Virol 44:443−4560;Snyderら(1988)Four viral genes independently contribute to attenuation of live influenza A/Ann Arbor/6/60(H2N2)cold−adapted reassortant virus vaccines J Virol 62:488−95)。しかし、これらの研究の解釈は2種の分岐インフルエンザA株に由来する遺伝子セグメントを混合することにより生じたコンステレーション効果により混乱している。A/AA/6/60とA/AA/6/60バックグラウンドに由来するts表現型の発現に特異的に関与しているもの以外のwt遺伝子セグメントの間の変異により相互作用が弱まったと思われる。コンステレーション効果はM遺伝子セグメントとatt表現型の関連の解釈も混乱させることが示されている(Subbaraoら(1992)The attenuation phenotype conferred by the M gene of the influenza A/Ann Arbor/6/60 cold−adapted virus(H2N2)on the A/Korea/82(H3N2)reassortant virus results from a gene constellation effect Virus Res 25:37−50)。
【0102】
本発明では、PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34位にアミノ酸置換をもたらす突然変異がMDV−A株ウイルスに温度感受性表現型を付与するのに機能的に重要であるとみなす。当業者に自明の通り、PB11195、PB11766、PB12005、PB2821及びNP146位のヌクレオチドの突然変異は夫々PB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34位のアミノ酸置換を意味する。従って、これらの位置にアミノ酸置換をもたらす任意ヌクレオチド置換が本発明の特徴である。典型的突然変異であるPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)は単独、及びより好ましくは組み合わせて温度感受性表現型をもたらす。これらの突然変異が野生型に同時に復帰変異するとts表現型は失われ、これらの突然変異を野生型バックグラウンドに導入するとts表現型をもつウイルスが得られる。ウイルスの継代中のこれらの表現型の安定性と一致して、単一変異は得られるウイルスの温度感受性プロフィルを野生型のものに個々に復帰変異させることができない。逆に、これらの変異はts表現型を完全に発現するように相互に協同作用するように思われる。この発見により、生弱毒インフルエンザワクチンの生産用マスタードナーウイルスに適した付加的温度感受性インフルエンザAウイルス株を構築することができる。
【0103】
同様に、マスタードナーウイルスB株における個々のアミノ酸の置換は表17に示すようにts表現型と相関する。従って、本明細書に記載する方法は1個以上の特定突然変異をインフルエンザBゲノムに導入することにより、温度感受性、及び場合により弱毒及び/又は低温適応表現型をもつ新規インフルエンザB株を生産するのに適している。例えば、PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす1個以上の突然変異をインフルエンザB株ゲノムに導入し、温度感受性インフルエンザBウイルスを生産する。典型的アミノ酸置換としては、PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)が挙げられる。
【0104】
本発明の突然変異を組込んだインフルエンザウイルスは生産方法に関係なく本発明の特徴である。即ち、本発明は本発明の突然変異を含むインフルエンザ株、例えばPB1391、PB1581、PB1661、PB2265及びNP34から選択される1個以上の位置に野生型に比較してアミノ酸置換をもつ任意インフルエンザAウイルス又はPB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から選択される1個以上の位置に野生型に比較してアミノ酸置換をもつ任意インフルエンザBウイルスに関するが、但し、ca A/Ann Arbor/6/60及びB/Ann Arbor/1/66株は本発明の特徴とみなさない。特定好適態様では、夫々インフルエンザAウイルスはPB1391(K391E)、PB1581(E581G)、PB1661(A661T)、PB2265(N265S)及びNP34(D34G)から選択される複数の突然変異(例えば2、又は3、又は4、又は5個以上の突然変異)を含み、インフルエンザBウイルスはPB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V))から選択される複数の突然変異を含む。例えば、ワクチン生産に関して所望表現型をもつウイルスを提供することに加え、ウイルスの表現型における付加的突然変異の関与を解明するには突然変異のサブセット(例えば1、又は2、又は3、又は4、又は5個の選択された突然変異)をもつウイルスが有用である。特定態様では、インフルエンザウイルスは(例えば場合により付加的アミノ酸置換をもたらす)少なくとも1個の付加的な非野生型ヌクレオチドを含み、場合により所望表現型を強化するか又は別の望ましい表現型属性を付与する。
細胞培養
【0105】
一般に、ウイルスの増殖は宿主細胞を通常培養する培地組成物中で実施される。インフルエンザウイルスの複製に適した宿主細胞としては例えばVero細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、MDCK細胞、293細胞及びCOS細胞(293T細胞、COS7細胞を含む)が挙げられる。一般に、複製効率を改善するために、上記細胞株の2種(例えばMDCK細胞と293T又はCOS細胞)を含む共培養物を例えば1:1の比で使用する。一般に、細胞は中性緩衝pH(例えばpH7.0〜7.2)を維持するのに適した湿度とCO2濃度に制御しながら血清(例えば10%胎仔ウシ血清)を添加したダルベッコ変法イーグル培地等の標準市販培地や無血清培地で培養する。場合により、細菌増殖を防ぐために抗生物質(例えばペニシリン、ストレプトマイシン等)及び/又は付加栄養(例えばL−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸)、有利な増殖特徴を促進するために付加的添加剤(例えばトリプシン、β−メルカプトエタノール等)を培地に加えてもよい。
【0106】
哺乳動物細胞の培養法は広く報告されており、当業者に公知である。一般プロトコールは例えばFreshney(1983)Culture of Animal Cells:Manual of Basic Technique,Alan R.Liss,New York;Paul(1975)Cell and Tissue Culture,5th ed.,Livingston,Edinburgh;Adams(1980)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Cell Culture for Biochemists,Work and Burdon(eds.)Elsevier,Amsterdamに記載されている。インフルエンザウイルスのin vitro生産に特に有利な組織培養法に関する他の詳細な文献としては、例えばその開示内容全体を本明細書に組込むMertenら(1996)Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation.In Cohen and Shafferman(eds)Novel Strategies in Design and Production of Vaccinesが挙げられる。更に、このような方法の本発明への応用は日常的実験により容易に決定される。
【0107】
インフルエンザウイルス生産用細胞は血清添加培地でも無血清培地でも培養することができる。場合により、例えば精製ウイルスを製造するためには、宿主細胞を無血清条件下に増殖させることが望ましい。細胞は例えば25ml未満の培地等の小規模の培養管もしくはフラスコで培養してもよいし、撹拌機付き大型フラスコ、ローテーター瓶でもよいし、フラスコ、瓶又は反応器培養液中でマイクロキャリヤービーズ(例えばDormacell,Pfeifer & Langen;Superbead,Flow Laboratories等のDEAE−デキストランマイクロキャリヤービーズ;Hillex,SoloHill,Ann Arbor等のスチレンコポリマー−トリメチレンビーズ)上で培養してもよい。マイクロキャリヤービーズは接着細胞増殖のために大きな細胞培養液容量当たりの表面積を提供する小球(直径100〜200ミクロン)である。例えば、培地1リットルに20,000,000万個を越えるマイクロキャリヤービーズを加えると、8000平方cmを上回る増殖表面積が得られる。例えばワクチン生産用のウイルスの商業的生産には、多くの場合にはバイオリアクター又は発酵器で細胞を培養することが望ましい。バイオリアクターは1リットル未満から100リットル以上の容量のものが市販されており、例えばCyto3バイオリアクター(Osmonics,Minnetonka,MN);NBSバイオリアクター(New Brunswick Scientific,Edison,N.J.);B.Braun Biotech International製品実験室及び商業規模バイオリアクター(B.Braun Biotech,Melsungen,ドイツ)が挙げられる。
【0108】
培養容量に関係なく、本発明に関しては、本明細書に記載する多重プラスミドシステムを使用して組換え及び/又はリアソータントインフルエンザウイルスの効率的回収を確保するために35℃以下の温度で培養することが重要である。例えば、細胞を約32℃〜35℃の温度、一般には約32℃〜約34℃の温度、通常は約33℃で培養する。
【0109】
一般に、例えばサーモセットや細胞培養システムの温度を感知して維持するための他の装置等の調節器を使用してウイルス複製中に温度が35℃を越えないように確保する。
宿主細胞へのベクターの導入
【0110】
インフルエンザゲノムセグメントを組込んだベクターは異種核酸を真核細胞に導入するための当分野で周知の方法(例えばリン酸カルシウム共沈殿法、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、及びポリアミントランスフェクション試薬を使用するトランスフェクション)に従って宿主細胞に導入(例えばトランスフェクト)する。例えば、ポリアミントランスフェクション試薬TransIT−LT1(Mirus)を製造業者の指示に従って使用してCOS細胞、293T細胞又はCOSもしくは293T細胞とMDCK細胞の組合せ等の宿主細胞にベクター(例えばプラスミド)をトランスフェクトすることができる。宿主細胞集団に導入しようとする各ベクター約1μgにつきTransIT−LT1約2μlを培地、好ましくは無血清培地160μlで希釈し、合計容量200μlとする。DNA:トランスフェクション試薬混合物を室温で45分間インキュベートした後に培地800μlを加える。トランスフェクション混合物を宿主細胞に加え、細胞を上述のように培養する。従って、組換え又はリアソータントウイルスを細胞培養生産するためには8個のゲノムセグメント(PB2,PB1,PA,NP,M,NS,HA及びNA)の各々を組込んだベクターをTransIT−LT1約20μlと混合し、宿主細胞にトランスフェクトする。場合により、トランスフェクションの前に血清添加培地を無血清培地(例えばOpti−MEMI)に交換し、4〜6時間インキュベートする。
【0111】
あるいは、インフルエンザゲノムセグメントを組込んだベクターを宿主細胞に導入するためにエレクトロポレーションを使用することもできる。例えば、インフルエンザA又はインフルエンザBウイルスを組込んだプラスミドベクターを以下の手順に従ってエレクトロポレーションによりVero細胞に導入すると有利である。要約すると、例えば10%胎仔ウシ血清(FBS)を添加した変法イーグル培地(MEM)で増殖させたVero細胞5x106個をOptiMEM0.4mlに再懸濁し、エレクトロポレーションキュベットに加える。25μlまでの容量中のDNA20μgをキュベット内の細胞に加えた後、タッピングにより温和に混合する。エレクトロポレーションは製造業者の指示に従って(例えばBioRad Gene Pulser IIにCapacitance Extender Plusを接続)300ボルト,950マイクロファラデー及び時定数28〜33m秒で実施する。細胞をタッピングにより再混合し、エレクトロポレーションから約1〜2分後に10%FBSを添加したMEM0.7mlをキュベットに直接加える。次にMEM,10%FBS又は無血清OPTI−MEM2mlを加えた標準6ウェル組織培養皿のウェル2個に細胞を移す。キュベットを洗浄して残留細胞を回収し、洗浄懸濁液をウェル2個に分配する。最終容量は3.5mlとする。次にウイルス増殖に許容可能な条件下、例えば低温適応細胞には約33℃で細胞をインキュベートする。
ウイルスの回収
【0112】
感染(トランスフェクト)細胞を増殖させた培養培地から一般にウイルスを回収する。一般に、インフルエンザウイルスの濃縮前に粗培地を清澄化する。一般的な方法としては濾過、限外濾過、硫酸バリウム吸着と溶離、及び遠心が挙げられる。例えば、細胞破片や他の大型粒状物を除去するために十分な時間(例えば10〜30分間)例えば1000〜2000xgで遠心することにより感染培養液からの粗培地をまず清澄化することができる。あるいは、0.8μm酢酸セルロースフィルターで培地を濾過し、無傷の細胞と他の大型粒状物を除去してもよい。場合により、清澄化培地上清をその後、例えば15,000xgで約3〜5時間遠心してインフルエンザウイルスをペレット化してもよい。ウイルスペレットをSTE(0.01M Tris−HCl;0.15MNaCl;0.0001M EDTA)又はリン酸緩衝食塩水(PBS)pH7.4等の適当な緩衝液に再懸濁後、ウイルスを蔗糖(60%−12%)又は酒石酸カリウム(50%−10%)で密度勾配遠心により濃縮する。連続又はステップ勾配(例えば12%ずつ4ステップで12%−60%の蔗糖勾配)が適切である。ウイルスを回収用可視バンドに濃縮するために十分な速度と時間で勾配を遠心する。あるいは、大半の大規模商業用途には、連続モードで運転するゾーナル遠心ローターを使用して密度勾配からウイルスを選別する。組織培養からのインフルエンザウイルスの製造の手引きとして当業者に十分な他の詳細は例えばFurminger.Vaccine Production,in Nicholsonら(eds)Textbook of Influenza pp.324−332;Mertenら(1996)Production of influenza virus in cell cultures for vaccine preparation,in Cohen & Shafferman(eds)Novel Strategies in Design and Production of Vaccines pp.141−151、及び米国特許第5,690,937号に記載されている。所望により、回収したウイルスを安定剤として蔗糖−リン酸塩−グルタミン酸塩(SPG)の存在下に−80℃で保存することができる。
ワクチンの予防投与方法及び組成物
【0113】
本発明の組換え及びリアソータントウイルスは1種以上のインフルエンザウイルス株に特異的な免疫応答を刺激するのに適したキャリヤー又は賦形剤に加えて予防投与することができる。一般に、キャリヤー又は賦形剤は医薬的に許容可能なキャリヤー又は賦形剤であり、例えば滅菌水、食塩水溶液、緩衝食塩水溶液、デキストロース水溶液、グリセロール水溶液、エタノール、無感染鶏卵由来尿膜腔液(即ち正常尿膜腔液「NAF」)又はその組合せが挙げられる。無菌性、pH、等張性、及び安定性を確保するこのような溶液の調製は当分野で確立されているプロトコールに従って実施される。一般に、キャリヤー又は賦形剤はアレルギーや他の望ましくない作用を最小限にすると共に例えば皮下、筋肉内、鼻腔内等の特定投与経路に適合するように選択される。
【0114】
一般に、本発明のインフルエンザウイルスは1種以上のインフルエンザウイルス株に特異的な免疫応答を刺激するために十分な量を投与される。インフルエンザウイルスの投与により防御免疫応答を誘発することが好ましい。1種以上のインフルエンザ株に対する防御免疫応答を誘発するための用量と方法は当業者に公知である。例えば、投与用量当たり約1〜1000HID50(ヒト感染用量)、即ち約105〜108pfu(プラーク形成単位)の不活化インフルエンザウイルスを投与する。あるいは、アジュバントの不在下に約10〜50μg、例えば約15μgHAを投与するが、アジュバントを加える場合にはより低用量を投与する。一般に、用量は例えば年齢、健康状態、体重、性別、食事、投与時間、及び他の臨床因子に基づいてこの範囲内に調節される。予防ワクチン製剤は例えば注射針と注射器又は無針注射装置を使用して皮下又は筋肉内注射により全身投与する。あるいは、ワクチン製剤は滴剤、大粒子エアゾール(>約10ミクロン)、又はスプレーにより上気道に鼻腔内投与する。上記送達経路のいずれでも防御全身免疫応答が得られるが、鼻腔内投与はインフルエンザウイルスの進入部位に粘膜免疫を誘発するという付加利点が得られる。鼻腔内投与には、多くの場合には例えば弱毒、低温適応及び/又は温度感受性組換え又はリアソータントインフルエンザウイルス等の弱毒生ウイルスワクチンが好ましい。1回の投与で防御免疫応答を刺激することが好ましいが、所望予防効果を達成するために同一又は別経路で付加用量を投与してもよい。
【0115】
あるいは、インフルエンザウイルスを樹状細胞にex vivo又はin vivoターゲティングすることにより免疫応答を刺激することもできる。例えば、インフルエンザ抗原を樹状細胞に捕獲させるために十分な量と時間でウイルスに増殖中の樹状細胞を暴露する。次に、標準静脈内移植法によりワクチン接種すべき対象に細胞を導入する。
【0116】
場合により、インフルエンザウイルスの予防投与用製剤又はそのサブセットにインフルエンザ抗原に対する免疫応答を強化するための1種以上のアジュバントを加えてもよい。適切なアジュバントとしてはサポニン、ミネラルゲル(例えば水酸化アルミニウム)、表面活性物質(例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油又は炭化水素エマルション)、bacille Calmette−Guerin(BCG)、Corynebacterium parvum、並びに合成アジュバントQS−21及びMF59が挙げられる。
【0117】
所望により、インフルエンザウイルスの予防ワクチン投与と1種以上の免疫刺激分子の投与を併用して実施してもよい。免疫刺激分子としては免疫刺激、免疫強化及び炎症予防活性をもつ種々のサイトカイン、リンホカイン及びケモカインが挙げられ、例えばインターロイキン(例えばIL−1,IL−2,IL−3,IL−4,IL−12,IL−13);増殖因子(例えば顆粒球マクロファージ(GM)コロニー刺激因子(CSF));及び他の免疫刺激分子(例えばマクロファージ炎症因子、Flt3リガンド、B7.1;B7.2等)が挙げられる。免疫刺激分子はインフルエンザウイルスと同一製剤で投与してもよいし、別に投与してもよい。免疫刺激効果を生じるために、蛋白質又は蛋白質をコードする発現ベクターを投与することができる。
【0118】
別の態様では、インフルエンザゲノムセグメントを組込んだ本発明のベクターを使用して上記のような適切な医薬キャリヤー又は賦形剤と共に異種核酸を宿主生物又は宿主細胞(例えば哺乳動物細胞、例えばヒト対象に由来する細胞)に導入することができる。一般に、異種核酸は遺伝子又は遺伝子セグメントの非必須領域(例えばセグメント7のM遺伝子)に挿入する。異種ポリヌクレオチド配列はポリペプチドもしくはペプチド、又はアンチセンスRNAもしくはリボザイム等のRNAをコードすることができる。次に、異種核酸を組込んだ組換えウイルスを生産することにより異種核酸を宿主又は宿主細胞に導入し、上述のようにウイルスを投与する。
【0119】
あるいは、インフルエンザウイルスに感染させた細胞にベクターをコトランスフェクトすることにより、異種核酸を組込んだ本発明のベクターを宿主細胞に導入して発現させることができる。場合により、次に細胞を対象、一般にはその細胞を取得した部位に返却又は送達する。用途によっては、既存細胞導入又は移植法を使用して細胞を目的組織、臓器、又は(上記のような)身体部位に移植する。例えば、標準送達又は輸液技術を使用して骨髄、臍帯血、又は末梢血由来造血幹細胞等の造血系統の幹細胞を対象に送達することができる。
【0120】
あるいは、異種核酸を組込んだウイルスを対象の細胞にin vivo送達することができる。一般に、このような方法はベクター粒子をターゲット細胞集団(例えば血液細胞、皮膚細胞、肝細胞、(脳を含む)神経細胞、腎細胞、子宮細胞、筋肉細胞、腸細胞、子宮頚管細胞、膣細胞、前立腺細胞等、並びに種々の細胞、組織及び/又は臓器に由来する腫瘍細胞)に投与する。投与は例えばウイルス粒子の静脈内投与により全身に行ってよいし、(例えば注射針と注射器を使用する)注射、無針ワクチン送達、局所投与、又は組織、臓器もしくは皮膚部位への圧入等の種々の方法によりウイルス粒子を1又は複数の目的部位に直接投与してもよい。例えば、ウイルスベクター粒子は吸入、経口、静脈内、皮下、真皮下、真皮内、筋肉内、腹腔内、鞘内、膣もしくは直腸投与、又は例えば手術中にウイルス粒子を体腔もしくは他の部位に配置することにより送達することができる。
【0121】
上記方法は治療又は予防薬として有効なポリペプチド(又はペプチド)又はRNA(例えばアンチセンスRNA又はリボザイム)をコードする異種ポリヌクレオチドを組込んだ本発明のベクターをターゲット細胞集団にin vitro、ex vivo又はin vivo導入することにより疾病又は疾患を治療及び/又は予防処置するために有用である。一般に、目的ポリペプチド(又はペプチド)又はRNAをコードするポリヌクレオチドは「発現ベクター」及び「付加的発現エレメント」の表題のセクションで上述したように適当な調節配列に機能的に連結される。場合により、2種以上の異種コーディング配列を単一ベクター又はウイルスに組込んでもよい。例えば、治療又は予防活性ポリペプチド又はRNAをコードするポリヌクレオチドに加え、付加的治療又は予防ポリペプチド(例えば抗原、共刺激分子、サイトカイン、抗体等)及び/又はマーカー等もベクターに加えることができる。
【0122】
本発明の方法とベクターは例えばウイルス、細菌等による感染症用ワクチンとして遺伝病や後天性疾患等の多様な疾患を治療又は予防処置するために使用することができる。
キット
【0123】
本発明のベクター及びベクターシステムを使用し易くするために、ベクター(例えばコンセンサスインフルエンザウイルスプラスミド、変異体インフルエンザポリペプチドプラスミド、インフルエンザポリペプチドライブラリープラスミド等)のいずれかと実験又は治療目的でインフルエンザウイルスのパッケージングと感染に有用な付加的コンポーネント(例えば緩衝液、細胞、培養培地)をキットとしてパッケージングすることができる。一般に、キットは上記コンポーネントに加え、例えば本発明の方法を実施するための説明書、パッケージング材料、及び容器等の付加的材料を含む。
ウイルス核酸及び蛋白質の操作
【0124】
本発明に関して、インフルエンザウイルス核酸及び/又は蛋白質は周知分子生物学技術に従って操作する。増幅、クローニング、突然変異誘発、形質転換等を含む多数のこのような操作の詳細なプロトコールは例えばAusubelらCurrent Protocols in Molecular Biology(supplemented through 2000)John Wiley & Sons,New York(“Ausubel”);SambrookらMolecular Cloning−A Laboratory Manual(2nd Ed.),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,1989(“Sambrook”),及び Berger and Kimmel Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods inEnzymologv volume 152 Academic Press,Inc.,San Diego,CA(“Berger”)に記載されている。
【0125】
上記文献に加え、例えば本発明のcDNAプローブを増幅するために有用なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、Qβ−レプリカーゼ増幅、及び他のRNAポリメラーゼ技術(例えばNASBA)等のin vitro増幅技術のプロトコールはMullisら(1987)米国特許第4,683,202号;PCR Protocols A Guide to Methods and Applications(Innisらeds)Academic Press Inc.San Diego,CA(1990)(“Innis”);Arnheim and Levinson(1990)C & EN 36;The Journal Of NIH Research(1991)3:81;Kwohら(1989)Proc Natl Acad Sci USA 86,1173;Guatelliら(1990)Proc Natl Acad Sci USA 87 :1874;Lomellら(1989)J Clin Chem 35:1826;Landegrenら(1988)Science 241:1077;Van Brunt(1990)Biotechnology 8:291;Wu and Wallace(1989)Gene 4:560;Barringerら(1990)Gene 89:117,及びSooknanan and Malek(1995)Biotechnology 13 :563に記載されている。本発明に関して核酸のクローニングに有用な他の方法としては、Wallaceら米国特許第5,426,039号が挙げられる。PCRによる大型核酸の改善増幅法はChengら(1994)Nature 369:684とその引用文献に要約されている。
【0126】
本発明の特定ポリヌクレオチド(例えばオリゴヌクレオチド)はモノヌクレオチド及び/又はトリヌクレオチドホスホロアミダイトカップリング化学を含む種々の固相ストラテジーを使用して合成することができる。例えば、核酸配列は活性化モノマー及び/又はトリマーを伸長ポリヌクレオチド鎖に順次付加することにより合成することができる。例えばCaruthers,M.H.ら(1992)Meth Enzvmol 211 :3参照。
【0127】
所望配列を合成する代わりに、The Midland Certified Reagent Company(mcrc@oligos.com),The Great American Gene Company(www.genco.com),ExpressGen,Inc.(www.expressgen.com),Operon Technologies,Inc.(www.operon.com),及び他の多数の企業等の種々の商業ソースのに任意のものからほぼ任意の核酸を特注することができる。
【0128】
更に、例えば部位特異的突然変異誘発によりウイルスポリペプチドの選択されたアミノ酸残基の置換を行うことができる。例えば、ポリペプチドをコードするウイルス核酸セグメントに特定突然変異を導入することにより、望ましい表現型特徴(例えば弱毒表現型、低温適応、温度感受性)と機能的に相関したアミノ酸置換をもつウイルスポリペプチドを生産することができる。部位特異的突然変異誘発法は当分野で周知であり、例えばAusubel,Sambrook,and Berger,前出に記載されている。部位特異的突然変異を実施するためのキットは例えばChameleon Site Directed Mutagenesis Kit(Stratagene,La Jollaをはじめとする多数のものが市販されており、例えばインフルエンザA又はBポリペプチドを夫々コードするゲノムセグメントに表6又は表17に記載する1個以上のアミノ酸置換を導入するように製造業者の指示に従って使用することができる。
【実施例1】
【0129】
pAD3000の構築
ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナルをサルウイルス40(SV40)に由来するポリアデニル化シグナルで置換するようにプラスミドpHW2000(Hoffmannら(2000)A DNA transfection system for generation of influenza A virus from eight plasmids Proc Natl Acad Sci USA 97:6108−6113)を改変した。
【0130】
Taq MasterMix(Qiagen)と以下のオリゴヌクレオチド(5’→3’方向で示す):
polyA.1 :AACAATTGAGATCTCGGTCACCTCAGACATGATAAGATACATTGATGAGT(配列番号1)
polyA.2:TATAACTGCAGACTAGTGATATCCTTGTTTATTGCAGCTTATAATGGTTA(配列番号2)
を使用してSV40に由来する配列を増幅した。
【0131】
プラスミドpSV2Hisを鋳型として使用した。予想175bp産物に一致するフラグメントを取得し、Topo TAクローニングベクター(Invitrogen)を製造業者の指示に従って使用してpcDNA3.1にクローニングした。得られたプラスミドからSV40ポリアデニル化シグナルを含む所望138bpフラグメントをEcoRVとBstEIIで切り出し、アガロースゲルから単離し、慣用技術(例えばAusubel,Berger,Sambrook参照)を使用してpHW2000のユニークPvuII−BstEII部位間にライゲーションした。得られたプラスミドpAD3000(図1)を配列決定した処、正しい方向にSV40ポリアデニル化部位を含むことが判明した。pAD3000のヌクレオチド295−423はSV40株777(AF332562)の夫々ヌクレオチド2466−2594に対応する。
【実施例2】
【0132】
MDV−A生産用8プラスミドシステム
低温適応A型インフルエンザウイルス株A/AA/6/60変異体は鼻腔投与インフルエンザAワクチンの生産用マスタードナーウイルスとして一般に使用されている。この株は本発明に関して典型的なマスタードナーウイルス(MDV)である。簡単にするために、この株A/AA/6/60変異体を本明細書ではMDV−Aと言う。RNeasyミニキット(Qiagen)を使用してMDV−AウイルスRNAを抽出し、表1に示すプライマーを使用してRT−PCRにより8個の対応するcDNAフラグメントを増幅した。
【表1】
【0133】
HAとPB2をコードするインフルエンザゲノムセグメントはAarI制限酵素認識部位を含むプライマー使用して増幅したが、それ以外の6個の遺伝子はBsmBI制限酵素認識部位を含むプライマーを使用して増幅した。AarI及びBsmBIcDNAフラグメントのいずれもpAD3000ベクターの2個のBsmBI部位の間にクローニングした。
【0134】
シーケンシング分析の結果、クローニングした全cDNAフラグメントはコンセンサスMDV−A配列に対してクローニング段階中に導入されたと思われる突然変異を含んでいた。各遺伝子セグメントに検出された突然変異を表2に要約する。
【表2】
【0135】
QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)と表3に示す合成オリゴヌクレオチドプライマーを使用して全突然変異をコンセンサスMDV−A配列に補正した。
【表3】
【実施例3】
【0136】
感染性組換えMDV−A及びリアソータントインフルエンザウイルスの作製
10%胎仔ウシ血清(FBS)を添加した変法イーグル培地(MEM)にMadin−Darbyイヌ腎(MDCK)細胞とヒトCOS7細胞を維持した。5%FBSを添加したOpti−MEM I(Life Technologies)にヒト胚性腎細胞(293T)を維持した。MDCK細胞とCOS7細胞又は293T細胞を6ウェルプレートで1:1の比で共培養し、これらの細胞を約80%のコンフルエンシーでトランスフェクションに使用した。293T細胞とCOS7細胞はトランスフェクション効率が高いが、インフルエンザウイルス複製には許容されない。MDCK細胞と共培養すると、組換えウイルスの効率的な複製を確保することができる。トランスフェクションに先立ち、血清添加培地を無血清培地(Opti−MEM I)に交換し、4〜6時間インキュベートした。TransIT−LT1(Mirus)を使用し、20μlのTransIT−LT1を160μlのOpti−MEMIで希釈して8種のプラスミドDNA(PB2,PB1,PA,NP,M,NS,HA及びNA)各1μgと混合して総容量200μlとすることによりプラスミドDNAトランスフェクションを実施した。DNA:トランスフェクション試薬混合物を室温で45分間インキュベートした後に800μlのOpti−MEMIを加えた。次にトランスフェクション混合物を共培養MDCK/293T又はMDCK/COS7細胞に加えた。トランスフェクト細胞を35℃又は33℃で6時間〜24時間、例えば一晩インキュベートし、トランスフェクション混合物を各ウェルで1mlのOpti−MEMに交換した。35℃又は33℃で24時間インキュベーション後に1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した1mlのOpti−MEMIを各ウェルに加え、更に12時間インキュベートした。回収したウイルスを次にコンフルエントMDCK細胞で増幅するか又は発育鶏卵で直接増幅した。12ウェルプレート内のMDCK細胞にトランスフェクション混合物0.2mlを1時間室温で感染させた後、混合物を除去し、1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した2mlのOpti−MEMIに交換した。細胞を35℃又は33℃で3〜4日間インキュベートした。増幅したウイルスをSPG安定剤の存在下に−80℃で保存するか又はプラーク精製し、MDCK細胞もしくは発育鶏卵で増幅した。
MDV−Aポリメラーゼ蛋白質の機能的発現
【0137】
EGFPレポーター遺伝子をコードするインフルエンザウイルスミニゲノムを複製する能力により4種のMDV−Aポリメラーゼ蛋白質PB2,PB1,PA及びNPの機能活性を分析した。A/PR/8/34株(H1N1)のcDNAを含む8種1組の発現プラスミド(例えば表4参照)(Hoffmannら(2001)Eight plasmid rescue system for influenza A virus;Options for the control of influenza International Congress Series 1219:1007−1013)と強化緑色蛍光蛋白質をコードするレポーター遺伝子を含むインフルエンザウイルスミニゲノム(EGFP,pHW72−EGFP)を使用した。
【0138】
インフルエンザAウイルスEGFPミニゲノムに相当するプラスミド(pHW72−EGFP)と共にMDV−A PB1,PB2,PA及びNP又はPB1,PA,NP(陰性対照として−PB2)を共培養MDCK/293T細胞にトランスフェクトした(Hoffmannら(2000)“Ambisense”approach for the generation of influenza A virus :vRNA and mRNA synthesis from one template Virology 15:267(2):310−7)。トランスフェクト細胞をトランスフェクションから48時間後に位相コントラスト顕微鏡又は蛍光顕微鏡で観察した。あるいは、フローサイトメトリーを使用してEGFP発現を検出した。
【0139】
図2に示すように、MDV−AのPB2,PB1,PA及びNPをトランスフェクトした細胞にはEGFPミニゲノムの発現を示す緑色蛍光が観察されたが、ポリメラーゼ蛋白質を3種しかトランスフェクトしなかった細胞には観察されなかった。このことからpAD3000におけるMDV−Aポリメラーゼ蛋白質は機能的であると思われた。
【0140】
他のアッセイでは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を含むミノゲノムpFlu−CATを使用してポリメラーゼ活性を測定する。このようなアッセイでは、ミニゲノム複製の指標として(例えばELISAにより)蛋白質又はRNAレベルでCAT発現を測定する。
単一遺伝子リアソータント実験によるMDV−Aプラスミドの分析
【0141】
pAD3000にクローニングした8種のMDV−Aゲノムセグメントの各々はMDA−Aに由来する単一遺伝子セグメントを対照A/PR/8/34株に由来する相補的な7種のセグメントと共にコトランスフェクトすることによりリアソータント実験で機能的に発現されることが判明した。相補的対照セグメントと併用すると全8種の単一ゲノムセグメントプラスミドから感染性リアソータントウイルスが作製され、感染MDCK細胞に細胞変性効果を生じたので、全8種のプラスミドは機能的MDV−A蛋白質をコードすると思われた。表4。
【表4】
【0142】
インフルエンザAウイルスのパッケージング制約を更に調べるために、NSセグメントを2個の別個の遺伝子セグメントに分離し、一方がNS1ゲノムセグメントをコードし、他方がNS2ゲノムセグメントをコードするようにした。インフルエンザAのゲノムセグメントを含む9種のプラスミドを上述のようにMDCK/COS細胞にトランスフェクトし、回収したウイルスをMDCK細胞で力価測定する前に発育鶏卵で増幅した。9プラスミドシステムでは上記8プラスミドシステムに比較してプラークサイズの減少が観察された。RT−PCR分析によると、ビリオンにはNS2セグメントしか存在せず、NS1遺伝子セグメントはパッケージングされていないことが判明した。
MDV−A及び6:2リアソータントウイルスの回収
【0143】
上記手順に従い、8種のMDV−Aプラスミド(組換え)又は6個のMDV−A内部遺伝子とA/PR/8/34に由来するHAとNAを組込んだプラスミド(6:2リアソータント)のトランスフェクションから3日後に、トランスフェクト培養上清を使用して新鮮なMDCK細胞に感染させ、感染細胞を1μg/ml TPCK−トリプシンの存在下に33℃で3日間インキュベートした。感染MDCK細胞に及ぼす組換えウイルスの細胞変性効果を顕微鏡で観察した。標準血球凝集アッセイ(HA)を使用してウイルスヘマグルチニンの発現をモニターした。HAアッセイは96ウェルプレートで系列2倍希釈培養上清50μlを1%ヒヨコ赤血球細胞50μlと混合することにより実施した。トランスフェクトした8種のMDV−Aプラスミドと6:2リアソータントウイルスのどちらに由来する増幅ウイルスにも約1:254〜1:1024のHA力価が検出された。E.Hoffman博士から入手した8A/PR/8/34プラスミドを使用するトランスフェクション反応を陽性対照として使用した。表5に示すようにこれらの3種のトランスフェクション反応から感染性インフルエンザウイルスが生産された。
【表5】
【0144】
回収したウイルスの遺伝子型をマッピングするためにRT−PCRを実施した。RNeasyミニキット(Qiagen)を使用して感染細胞培養上清からウイルスRNAを単離し、各MDV−A遺伝子セグメントに特異的なプライマーとH1及びN1特異的プライマーを使用して8種のインフルエンザウイルスセグメントをRT−PCRにより増幅した。図3に示すように、rMDV−AはMDV−Aに特異的なPB2,PB1,NP,PA,M及びNSとH2及びN2サブタイプに特異的なHA及びNAを含んでいた。6:2リアソータントはMDV−Aに由来する6個の内部遺伝子と、A/PR/8/34(H1N1)に由来するHA及びNAを含んでいた。このことから、トランスフェクトプラスミドから作製したウイルスは正しい遺伝子型をもつことが確認された。
【0145】
レスキューされたウイルスをMDCK細胞でプラークアッセイにより力価測定した処、プラークはMDV−Aに対するニワトリ血清を使用する免疫染色によりインフルエンザウイルスであることが確認された。12ウェルプラークで100%コンフルエントのMDCK細胞に10倍系列希釈ウイルス100μlを室温で温和な振盪下に1時間感染させた。接種材料を除去し、0.8%アガロースと1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した1XL15を細胞に重層した。プレートを35℃又は33℃で3日間インキュベートし、100%メタノールで固定し、PBS中5%ミルクによりブロックし、2000倍希釈ニワトリ抗MDV−A抗血清と共に1時間インキュベートした後、HRP標識ウサギ抗ニワトリIgGと共に1時間インキュベートした。HRP基質溶液(DAKO)を加えることによりプラークを可視化した。回収された全ウイルスは陽性免疫染色を示した。
【実施例4】
【0146】
MDV−Aのca、ts、att表現型の遺伝子基盤のマッピング
MDV−Aインフルエンザウイルスワクチン株は低温適応(ca),温度感受性(ts)及び弱毒(att)等のワクチン(例えば生弱毒ワクチン)の生産に関連する数種の表現型をもつ。MDV−A株と非tsビルレントwtA/AA/6/60株の配列比較の結果、これらの2種の株の間には最低17ntの差異があることが判明した(表6)。MDV−A配列における置換のいくつかはGeneBankデータベースで入手可能な全A型インフルエンザウイルスに比較してこの株にユニークであり、これらのアミノ酸置換の1個以上がatt,ca及びts表現型に機能的に関係することを示唆している。PB2821における単一アミノ酸置換はMDV−Aのts表現型の決定基として従来報告されていた唯一のヌクレオチド位置であった(Subbaraoら(1995)Addition of Temperature−Sensitive Missense Mutations into the PB2 Gene of Influenza A Transfectant Viruses Can Effect an Increase in Temperature Sensitivity and Attenuation and Permits the Rational Design of a Genetically Engineered Live Influenza A Virus Vaccine J.Virol.69:5969−5977)。
【0147】
MDV−A表現型に関与する最小置換を特定するために、wtA/AA/6/60と相異するMDV−Aクローンのヌクレオチドを個々にwtA/AA/6/60のヌクレオチドに置換した(即ち「復帰変異させた」)。次に各復帰変異遺伝子セグメントをMDV−Aの相補的セグメントと共に宿主細胞に導入し、単一遺伝子リアソータントを回収した。更に、復帰変異遺伝子セグメントと対応するMDV−Aセグメントを他の野生型株(例えばA/PR/8/34株)に由来するセグメントと共にトランスフェクトし、各遺伝子セグメントがウイルス表現型に関与しているか否かを評価することもできる。上記組換えMDV−Aプラスミドシステムを使用して部位特異的突然変異誘発を実施し、非tsリアソータントを作製するように6個の内部遺伝子を更に改変した。表6に示すような組換え野生型A/AA/6/60ゲノム(rWt,Flu064)に相当するように合計15個のヌクレオチド置換突然変異を6種のMDV−Aプラスミドに導入した。Madin−Darbyイヌ腎(MDCK)細胞とCOS−7細胞を上述のように維持及びトランスフェクトした。回収したウイルスを次にMDCK細胞で1代継代した後、発育鶏卵の尿膜腔で増幅させた。トランスフェクションとMDCK及び鶏卵でのウイルス増殖は温度選択圧を最小限にするためにca及びwtウイルスの両者に許容される温度である33℃で実施した。ウイルスRNAから増幅したcDNAフラグメントの配列分析によりウイルス遺伝子型を確認した。
【表6】
【0148】
例えばその開示内容全体を本明細書に組込む米国特許第6,322,967号(Parkin,発明の名称「インフルエンザの組換えトリプトファン突然変異体(Recombinant tryptophan mutants of influenza)」)に従来記載されているような当分野で公知の方法により表現型特徴を決定した。要約すると、組換えウイルスの温度感受性をMDCK細胞でプラークアッセイにより33、38及び39℃で測定した。6ウェルプレート内のMDCK細胞に10倍系列希釈ウイルス400μlを感染させ、室温で60分間吸着させた。接種材料を除去し、1%アガロースと1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した1xL15/MEMに交換した。33℃でCO2インキュベーター又は38±0.1℃又は39±0.1℃に維持した循環水浴に沈めた5%CO2を収容する水密容器で感染細胞をインキュベートした(Parkinら(1996)Temperature sensitive mutants of influenza A virus generated by reverse genetics and clustered charged to alanine mutagenesis.Vir.Res.46:31−44)。3日間インキュベーション後、ニワトリ抗MDVポリクローナル抗体を使用して単層を免疫染色し、プラークを計数した。各温度で得られたプラークカウントを比較し、各ウイルスのts表現型を評価し、各アッセイを最低3回ずつ実施した。シャットオフ温度は33℃に比較して力価低下が100倍以上となる最低温度として定義した。
【0149】
8種のプラスミド(pMDV−PB2,pMDV−PB1,pMDV−PA,pMDV−NP,pMDV−HA,pMDV−NA,pMDV−M,及びpMDV−NS)をトランスフェクトした共培養COS−7/MDCK細胞から得られた感染性ウイルスを発育鶏卵で増幅させた処、非組換え生物由来MDV−Aの特徴的ts表現型を示すことが判明した(表7)。MDV−AとrMDV−Aのどちらも39℃では明白なプラークを形成しなかったが、どちらも33℃では容易に目に見えるプラークを形成した。
【表7】
【0150】
MDV−Aのts表現型の遺伝子基盤の系統的な詳細分析を実施するために、ca A/AA/6/60に対して7〜48ntの変異をもつ数種の近縁非ts、非att wtA/AA/6/60株(高度関連単離株wtA/AA/6/60E10SE2を含む)の配列を比較のために使用した。E10SE2とMDV−Aの間には合計19ntの変異が存在する(表6)。E10SE2はフェレットで非ts(表7)及び非attであることが判明した。組換え非tsウイルスを作製するために、MDV−Aプラスミドを部位特異的突然変異誘発により改変し、10個のアミノ酸置換に相当する19個の変異のうちの15個を組込んだ。MDV−AとE10SE2の間で相異するヌクレオチド位置のうちPB2−1182,1212,PB1−123、及びNP−1550の4個はA/AA/6/60の他の非ts単離株で観察され、従って、ts表現型の発現に関与するとは予想されないので、MDV−A配列から改変しなかった(Herlocherら(1996)Sequence comparisons of A/AA/6/60 influenza viruses :mutations which may contribute to attenuation.Virus Research 42:11−25)。8種1組のプラスミドpWt−PB2,pWt−PB1,pWt−PA,pWt−NP,pWt−M,pWt−NS,pMDV−HA,及びpMDV−NAをトランスフェクトした共培養COS−7/MDCK細胞から15個のヌクレオチド置換をコードする組換えウイルス(rWt,Flu064)が得られた。シーケンシング分析の結果、rWtは指定遺伝子変異を含み、39℃で非tsであり、生物由来wtA/AA/6/60に一致することが判明した。これらの知見から、ts表現型はこれらの15nt変異のサブセットにマッピングすることが立証された。
ウイルスts表現型への6個の内部遺伝子セグメントの関与
【0151】
組換え単一遺伝子リアソータント(表7)を作製することにより、MDV−A ts表現型に及ぼす各wt遺伝子セグメントの効果を調べた。wtPB2をrMDV−Aに導入すると、38℃では非tsのウイルスしか得られなかったが、39℃ではtsが維持された。MDCK細胞でプラークアッセイにより測定した場合、(33℃に対して)38℃と39℃のウイルス力価の低下は夫々0.6log10と2.7log10であった。wtPB1遺伝子セグメントを含むリアソータントは38℃と39℃の両者でそのプラーク形成能に関して非tsであった。しかし、この組換え体のプラークサイズは温度上昇により変化し、39℃ではrWtに比較して有意に減少した。wtNP遺伝子セグメントをrMDV−Aに導入すると、同様に38℃では非tsのウイルスとなったが、wtPB2組換え体と異なり、wtNP遺伝子セグメントを含むウイルスは39℃でプラークを形成しなかった。wtPA,M又はNS遺伝子セグメントを個々にrMDV−Aに導入すると、ts表現型は変化せず、これらの3種の遺伝子セグメントはこの表現型の維持に最小限の役割を果たすと思われた。
【0152】
MDV−Aバックグラウンドに個々に発現されたwtPB1,wtPB2又はwtNPはいずれも非ts rWTと同一のプラーク効率とプラークサイズプロフィルを生じることができなかったので、これらの遺伝子セグメントを種々に組合せてMDV−Aに導入した。wtPB1とwtPB2を組合せると、38℃と39℃のどちらでも非tsのウイルスになった(表7)。プラークサイズはどちらの単一遺伝子リアソータントよりも大きかったが、rWtより有意に小さかった。rMDV−AにwtPB1/PB2/NPの三重組合せを導入すると、39℃でそのプラーク効率とプラークサイズにおいてrWtに類似又は一致するウイルスが得られた。従って、個別に導入した場合にはwtPB2,PB1及びNP遺伝子セグメントはts表現型を一部だけ復帰変異させたが、全3種のwt遺伝子セグメントを組合せると、ts表現型をrWtと同一の非ts表現型に完全に復帰変異させることができた。
【0153】
これらの3種の遺伝子セグメントが特徴的MDV−A ts表現型をrWtに付与することができたか否かを調べるために、MDV−Aに由来する6種の内部遺伝子セグメントを個別又は組合せてrWtに導入した。単一PB1,PB2,又はNP遺伝子セグメントをrWtに導入すると、38℃のウイルス力価は低下し、39℃では更に低下したが、これらの単一遺伝子リアソータントのうちでrMDV−Aのように高温で制限されるものは皆無であった(図10)。mMDV−Aに由来するPA,M及びNS遺伝子セグメントはrWtの非ts表現型に影響を与えなかった。上記リアソートメントに一致して、MDV−APB1及びPB2遺伝子の両方をrWtバックボーンに導入すると、38℃でウイルスts表現型は著しく増加したが、ウイルスts表現型の完全な復帰変異にはNPを加える必要があることが立証された。従って、MDV−Aに由来するPB1,PB2及びNP遺伝子セグメントは完全なts表現型の付与に重要であった。
MDV−A ts表現型を決定した遺伝子座のマッピング
【0154】
rWt及びrMDV−AのPB1,PB2及びNP遺伝子セグメント間の特異的変異を系統的に検討し、ts表現型に有意な役割を果たした変異を同定した。rMDV−AのNP遺伝子はnt146のみがrWtNPと相異していた(G34D,表6)。rMDV−AのPB2遺伝子は3部位がrWtと相異していたが、nt821のみがアミノ酸置換を伴い(N265S,表6)、PB2遺伝子セグメントに位置するts遺伝子座に相当すると予想された。MDV−AのPB1遺伝子は6nt位置がwtPB1と相異し、そのうち4個はコーディング変異であった(表6)。wtアミノ酸残基置換の各々を個々にrMDV−AのPB1遺伝子セグメントに置換し、ts表現型におけるその役割を調べた。1395G(Glu−457)と2005G(Ala)はMDV−A ts表現型に影響がなかった。1195A(Lys−391)と1766A(Glu−581)は各々38℃でts表現型を僅かに低下させたが、39℃では影響がなかった(表8)。これらのデータから、1195Aと1766AがPB1遺伝子セグメントにおけるts遺伝子座ではないかと予想された。しかし、1195Aと1766Aを併用してもwtPB1に類似するts表現型は生じなかった(表6)。1395Aでなく2005GをPB1−1195A/1766Aに加えると、39℃でウイルスts表現型は更に低下し、2005AもMDV−AのPB1セグメントにより特定されるts表現型の発現に役割を果たすことが立証された。
【表8】
【0155】
次に、PB1単一部位突然変異をwtPB2及びwtNPと共にrMDV−Aに導入した。wtPB2/NP及びrMDV−Aリアソータントは38℃で非tsであり、39℃で力価低下が1.25log10であったが、そのプラークサイズはrWtに比較して著しく減少した。PB1−1195A又は1766Aを加えてもwtPB2/NPリアソータントの表現型は有意に変化しなかった。PB1−1195A及び1766AをwtPB2及びwtNPと併用した場合のみにwtPB1/PB2/NP及びrMDV−Aリアソータントと同一の非ts表現型をもつウイルスが得られた(表8)。PB1−1395G又は2005GをwtPB1−1766/PB2/NPに加えてもウイルスは特徴的rWt非ts表現型に変換しなかった。従って、これらのデータから3種のPB1,PB2及びNP遺伝子に分配された4種のアミノ酸がMDV−A ts表現型を完全に復帰変異させることができることが立証された。
MDV−A及びリアソータントウイルスの宿主細胞制限
【0156】
上述のようにMDV−Aウイルスと1個以上のMDV−A由来セグメントをもつリアソータントウイルスは温度感受性及び弱毒表現型を示すが、MDV−Aウイルスは更にMDCK細胞に比較してPer.C6細胞における増殖の低下から明らかように宿主細胞制限も示す。図20A及びBに示すように、MDV−AとMDV−A由来PB1及びPB2セグメントをもつリアソータントウイルスはMDCK細胞に比較してPer.C6細胞で有意増殖低下を示した。
温度感受性、弱毒ウイルス株の構築
【0157】
MDV−AのPB1,PB2及びNP遺伝子セグメントで同定された5種のアミノ酸がMDV−Aのts及びatt表現型を再現するか否かを調べるために、PB1−391E,581G,661T,PB2−265S,NP−34Gを分岐野生型ウイルス株(A/PR/8/34;“PR8”)に導入した処、得られたウイルスは38℃で1.9log10のウイルス力価の低下を示し、39℃では4.6log10の低下を示し、rMDV−Aと非常によく似ていた(図11)。
【0158】
ca A/AA/6/60(MDV−A)及びA/PR/8/34のPB1,PB2及びNP遺伝子の配列比較の結果、MDV−AのPB1及びPB2遺伝子で同定された4種の置換アミノ酸はユニークであることが判明した。NP34はMDV−AとPR8の間で保存されている。従って、MDV−AのPB1遺伝子で同定された3個のts部位PB1391(K391E)、PB1581(E581G)及びPB1661(A661T)をA/PR/8/34のPB1に部位特異的突然変異誘発により導入し、PB2265(N265S)をA/PR/8/34のPB2に導入した。PB1及びPB2遺伝子に導入された突然変異をシーケンシング分析により確認した。突然変異誘発反応に使用したプライマー対を表9に示す。これらのウイルスを図16に模式的に示す。
【表9】
【0159】
PR8のPB1及びPB2遺伝子に導入されたts突然変異がts表現型をin vitro付与するか否かを調べるために、ミニゲノムアッセイを実施した。インフルエンザミニゲノムレポーターpFlu−CATはアンチセンスCAT遺伝子をpol Iプロモーターの制御下にクローニングしたものである。CAT蛋白質の発現はインフルエンザPB1,PB2,PA,及びNP蛋白質に依存した。
【0160】
要約すると、HEp−2細胞にPB1,PB2,PA,NP及びpFlu−CATミニゲノム各1μgをリポフェクタミン2000(Invitrogen)によりトランスフェクトした。33℃又は39℃で一晩(約18時間)インキュベーション後に、細胞抽出物のCAT蛋白質発現をCAT ELISAキット(Roche Bioscience)により分析した。CAT mRNAレベルをプライマー伸長アッセイにより測定した。トランスフェクションから48時間後に全細胞RNAをTRIzol試薬(Invitrogen)で抽出し、水6μl中にてその5’末端を[r−32P]−ATPで標識した過剰のDNAプライマー(5’−ATGTTCTTTACGATGCGATTGGG)及びT4ポリヌクレオチドキナーゼとRNAの1/3を混合した。95℃で3分間変性後、0.5mMdNTPを添加した反応緩衝液にスーパースクリプト逆転写酵素(Invitrogen)50Uを添加後に1時間42℃でプライマー伸長を実施した。TBE緩衝液中8M尿素を加えた6%ポリアクリルアミドゲルで転写産物を分析し、オートラジオグラフにより検出した。
【0161】
図12A及びBに示すように、3個のアミノ酸置換(PR8−3s),PB1391(K391E)、PB1581(E581G)及びPB1661(A661T)をもつPB1遺伝子はPR8対照に比較して33℃の活性が低下していた。この突然変異体では39℃でCAT蛋白質発現の大幅な低下が観察され(図12A)、3個のMDV−A ts部位を導入したPB1遺伝子がこのin vitroアッセイで温度感受性複製を示すことが示唆された。PB2265(N265S)をPR8に導入しても許容温度(33℃)と非許容温度(39℃)のいずれでもその活性に殆ど影響がなかった。PB1−3sとPB2−1sを併用すると蛋白質活性は大きく低下し(PR8−4s)、MDV−Aよりも更にtsであると思われた。予想通り、MDV−Aに由来するPB1,PB2,PA,NP遺伝子をトランスフェクトした細胞ではwtA/AA/6/60(wtA/AA)に比較して39℃で低レベル活性(15%)が検出された。
【0162】
PR8突然変異体ウイルスを上述のように作製及び回収した。要約すると、PR8に由来するPR8 HA,NA,PB1,PB2,PA,NP,M及びNS遺伝子をコードする8種のプラスミドを共培養cos7及びMDCK細胞にトランスフェクトした。4個のts遺伝子座(PR8−4s)をもつウイルスを作製するために、nt1195(K391E),nt1766(E581G)及びnt2005(A661T)位に3個のPB1変異を含むPB1−3sと、821(N265S)位に1個のPB2変異を含むPB1−1sを使用した。更に、3個のPB1突然変異(PR8−3s)又は1個のPB2突然変異(PR8−1s)を含むPR8ウイルスも別に回収した。これらのウイルスを図16に模式的に示す。全4個の組換え突然変異体PR8ウイルスは発育鶏卵で非常に高力価まで増殖し、表10に示すように9.0log10pfu/ml以上の力価に達した。
【0163】
感染細胞におけるウイルス蛋白質合成を試験するために、MDCK細胞にウイルスをm.o.i=5で感染させ、感染から7時間後に細胞を35S−Transで1時間標識した。SDSを添加した1.5%ポリアクリルアミドゲルで標識細胞溶解液を電気泳動し、オートラジオグラフにかけた。蛋白質合成をウェスタンブロッティングでも試験した。感染から8時間後にウイルス感染細胞を回収し、4−15%勾配ゲルで電気泳動した。ブロットを抗M1抗体又はニワトリ抗MDV−Aポリクローナル抗体でプローブした後、HRP標識二次抗体と共にインキュベートした。抗体と結合した蛋白質バンドをChemiluminescent Detection System(Invitrogen)により検出した後、X線フィルムに露光した。
【0164】
図19に示すように、いずれも33℃で同等の蛋白質合成レベルであったが、39℃では蛋白質合成レベルはPR8−1sがやや低下し、PR8−3s及びPR8−4s感染細胞では大幅に低下した。ウェスタンブロッティング分析からもPR8−4s>PR8−3s>PR8−1sの順で蛋白質合成が低下することが分かった。従って、ts突然変異体の複製低下は非許容温度で複製が低下するためであると思われた。
【0165】
33℃,37℃,38℃及び39℃にてMDCK細胞でプラークアッセイによりPR8突然変異体ウイルスの温度感受性を測定した。回収したウイルスを上述のように発育鶏卵で増幅させ、細胞に導入した。ウイルス感染細胞を指定温度で3日間インキュベーション後、ニワトリ抗MDVポリクローナル抗体を使用して細胞単層を免疫染色し、プラークを計数した。各温度で得られたプラークカウントを比較し、各ウイルスのts表現型を調べた。シャットオフ温度は33℃に比較して力価低下が100倍以上となる最低温度として定義した。
【0166】
表10及び図17に示すように、ウイルス力価の僅かな低下が観察されたが、全突然変異体は33℃で良好に複製した。38℃では全突然変異体にウイルス力価の有意低下が観察された。39℃ではPB1遺伝子に3個のts遺伝子座をもつウイルス(PR8−3s及びPR8−4s)で4.0log10を上回るウイルス力価の低下が観察された。PR8−1sも39℃でtsであった。PR8−4sのts表現型は33℃に比較して39℃で4.6log10低下したMDV−Aに非常によく似ていた。全3種のPR8突然変異体は37℃でウイルス力価の低下が2.0log10以下であったが、それらのプラーク形態は33℃の形態と相違していた。図18に示すように、各突然変異体のプラークサイズは33℃ではPR8に比較して僅かしか減少しなかった。PR8−3sでは37℃でプラークサイズの有意減少が観察され、PR8−4sでは更大幅な減少が観察された。PR8−1sは37℃でプラークサイズが有意に減少しなかった。39℃では、PR8−3sとPR8−4sのいずれにも非常に小さいサイズのプラークが数個しか観察されなかった。PR8−1sにはwtPR8の約30%のプラークサイズが観察された。
【表10】
【0167】
突然変異体PR8ウイルスの弱毒をフェレットで試験した。要約すると、9−10週齢雄フェレットを使用して動物宿主の気道におけるウイルス複製を評価した。フェレットを1匹ずつ檻に入れ、ウイルス8.5log10pfuを鼻腔内接種した。感染から3日後にフェレットをケタミン−HCLで麻酔し、肺と鼻甲介(NT)を摘出した。肺組織ホモジネートを無菌希釈し、10日齢発育鶏卵で力価測定した。肺におけるウイルス力価(log10EID50/ml)をKarber法により計算した。NTにおけるウイルス複製をプラークアッセイにより測定し、log10pfu/mlとして表した。
【0168】
肺と鼻甲介におけるウイルス複製レベルをEID50又はプラークアッセイにより測定した(表11)。感染から3日後に、PR8は5.9log10EID50/g肺組織のレベルまで複製した。しかし、PR8−1sはフェレット肺の複製の3.0log10低下を示し、PR8−3には殆ど複製が検出されなかった。個々に得られたウイルスを感染させた2群で試験したPR8−4sでは全く複製が検出されなかった。EID50アッセイによるフェレット肺のウイルス検出限界は1.5log10であるので、PR8−4sに1.5log10EID50の力価を割当てた。対照として、MDV−Aはフェレット肺で複製せず、wtA/AA/6/60は力価4.4log10まで複製した。鼻甲介(NT)におけるウイルス複製をMDCK細胞でプラークアッセイにより試験した。PR8は鼻で力価6.6log10pfu/gまで複製した。PR8−1sとPR8−3sではウイルス力価の僅かな低下しか観察されなかった。PR8−4s(A)では2.2log10の低下が観察され、PB1遺伝子に変異(E390G)をもつPR8−4s(B)では4.3log10の低下が観察された。PR8−4s(B)の大幅な複製低下は37℃でのそのts表現型と良好に相関した。ここではMDV−A由来インフルエンザワクチンの弱毒表現型を評価するために通常使用した7.0log10pfuの代わりに8.5log10pfuの感染用量を使用した。この結果、MDV−Aに由来する4個のts遺伝子座をもつPR8はフェレットの下気道における複製で弱毒されたことが判明した。
【表11】
【0169】
ts及びattアッセイの両者でPR8突然変異体ウイルスはMDV−Aと非常によく似たts及びatt表現型を示した。これらのデータから、MDV−Aのユニークアミノ酸置換を分岐インフルエンザウイルス株に導入すると、例えば生弱毒ワクチンの生産に望ましい温度感受性及び弱毒表現型を示すウイルスが得られると思われる。更にts,att,PR−8ウイルスは生弱毒又は不活化インフルエンザワクチンの生産にマスタードナーウイルスとして使用するのに適した高力価まで増殖した。これらの結果から、5種のMDV−A突然変異:PB1−391E,PB1−581G,PB1−661T,PB2−265S,及びNP−34Gは任意インフルエンザA株にts及びatt表現型を付与できると思われる。同様に、MDV−B株の突然変異をインフルエンザB株ウイルスに導入することによりワクチン生産に適した新規ts,attB株も生産できる。生弱毒ウイルスワクチンの生産に加え、これらの突然変異をドナー株に導入すると、より安全な不活化ワクチンを生産できると思われる。
【実施例5】
【0170】
MDV−Bの生産用8プラスミドシステム
RNeasyキット(Qiagen,Valencia,CA)を使用して典型的インフルエンザBマスタードナー株(MDV−B)であるインフルエンザB/Ann Arbor/1/66の低温適応変異体(ca/Master Ann Arbor/1/66 P1 Aviron 10/2/97)に由来するウイルスRNAを感染発育鶏卵由来尿膜腔液100μlから抽出し、RNAをH2O 40μlに溶出させた。1ステップRT−PCRキット(Qiagen,Valencia,CA)を添付プロトコールに従って使用し、各反応に抽出RNA1μlを使用してゲノムセグメントのRT−PCRを実施した。RT反応は50分間50℃の後に15分間94℃で実施した。PCRは94℃1分、54℃1分、及び72℃3分を25サイクル実施した。BsmBI部位をもつセグメント特異的プライマーを使用してP遺伝子を増幅し、2個のフラグメントを作製した(表12)。
【表12】
【0171】
インフルエンザ配列に相補的な配列を太字で示す。5‘末端は制限エンドヌクレアーゼBsmBI(Bm)又はBsaI(Ba)の認識配列をもつ。
プラスミドのクローニング
【0172】
上述のようにPCRフラグメントを単離し、BsmBI(又はNPはBsaI)で消化し、pAD3000(アンチセンスvRNA及びセンスmRNAの転写を可能にするpHW2000の誘導体)のBsmBI部位に挿入した。得られたプラスミド各2〜4個を配列決定し、RT−PCRフラグメントの直接配列決定に基づくMDV−Bのコンセンサス配列と比較した。コンセンサス配列と相異するアミノ酸変異をもたらすヌクレオチド置換をもつプラスミドをプラスミドのクローニング又はQuikchangeキット(Stratagene,La Jolla,CA)の使用により「修復」した。得られたB/Ann Arbor/1/66プラスミドをpAB121−PB1,pAB122−PB2,pAB123−PA,pAB124−HA,pAB125−NP,pAB126−NA,pAB127−M,及びpAB128−NSと命名した。この両方向転写システムを使用して全ウイルスRNA及び蛋白質を細胞内で産生させると、感染性インフルエンザBウイルスが作製される(図4)。
【0173】
コンセンサス配列に比較してpAB121−PB1とpAB124−HAは2個、pAB128−NSは1個のサイレントヌクレオチド置換をもつことに注目すべきである(表13)。これらのヌクレオチド置換はアミノ酸変異を生じず、ウイルス増殖とレスキューに影響しないと予想される。これらのサイレント置換は組換えウイルスのゲノタイピングを容易にするために維持されている。
【表13】
【0174】
PA,NP及びM1遺伝子にヌクレオチド置換をもつプラスミドを構築するために、プラスミドpAB123−PA,pAB125−NP,pAB127−Mを鋳型として使用した。ヌクレオチドをQuikchangeキット(Stratagene,La Jolla,CA)により置換した。あるいは、所望突然変異を含むプライマーを使用して2個のフラグメントをPCR増幅し、BsmBIで消化し、3フラグメントライゲーション反応でpAD3000−BsmBIに挿入した。作製されたプラスミドを配列決定し、cDNAが不要な突然変異を含んでいないことを確かめた。
【0175】
ローダミン又はジクロロローダミン色素ターミネーターサイクルシーケンシングレディ反応キットとAmpliTaq(登録商標)DNAポリメラーゼFS(Perkin−Elmer Applied Biosystems,Inc,Foster City,CA)を使用して鋳型DNAの配列を決定した。サンプルを電気泳動により分離し、PE/ABIモデル373、モデル373 Stretch、又はモデル377 DNAシーケンサーで分析した。
【0176】
別実験で、増幅を94℃30秒、54℃30秒、及び72℃3分の25サイクルで実施した以外はMDV−B株について上述したようにインフルエンザB/Yamanshi/166/98に由来するウイルスRNAを増幅し、pAD3000にクローニングした。NP及びNAセグメントの増幅に夫々以下のプライマー:MDV−B5´BsmBI−NP:TATTCGTCTCAGGGAGCAGAAGCACAGCATTTTCTTGTG(配列番号75)及びMDV−B3´BsmBI−NP:ATATCGTCTCGTATTAGTAGAAACAACAGCATTTTTTAC(配列番号76)とBm−NAb−1:TATTCGTCTCAGGGAGCAGAAGCAGAGCA(配列番号77)及びBm−NAb−1557R:ATATCGTCTCGTATTAGTAGTAACAAGAGCATTTT(配列番号78)を使用した以外はB/Yamanashi/166/98株セグメントの増幅にも同一のプライマーを使用した。B/Yamanashi/166/98プラスミドをAB251−PB1,pAB252−PB2,pAB253−PA,pAB254−HA,pAB255−NP,pAB256−NA,pAB257−M,及びpAB258−NSと命名した。組換え及びリアソータントB/Yamanashi/166/98ウイルスのPA助長ゲノタイピングで3個のサイレントヌクレオチド変異が同定された。
【実施例6】
【0177】
感染性組換えインフルエンザB及びリアソータントインフルエンザウイルスの作製
ヘルパーフリーウイルス細胞培養システムでインフルエンザBを増殖させようとする際に遭遇する問題を解決するために、本発明は組換え及びリアソータントB株インフルエンザウイルスの生産用新規ベクターとプロトコールを提供する。インフルエンザBウイルスのレスキューに使用されるベクターシステムはインフルエンザAウイルスの作製に開発されたシステムに基づく(Hoffmannら(2000)A DNA transfection system for generation of influenza A virus from eight plasmids Proc Natl Acad Sci USA 97:6108−6113;Hoffmann & Webster(2000)Unidirectional RNA polymerase I−polymerase II transcription system for the generation of influenza A virus from eight plasmids J Gen Virol 81:2843−7)。293T細胞は5%FBS細胞を添加したOptiMEMI−AB培地に維持し、COS−7細胞は10%FBSを添加したDMEMI−A培地に維持して293T又はCOS−7細胞(トランスフェクション効率とpolI活性の高い霊長類細胞)をMDCK細胞(インフルエンザウイルスに許容可能)と共培養した。MDCK細胞は抗生物質と抗カビ剤を添加した1×MEM,10%FBSに維持した。ウイルスゲノムベクターのトランスフェクションに先立ち、細胞をPBS又はFBS非添加培地5mlで1回洗浄した。75cm2フラスコでコンフルエント細胞にトリプシン−EDTA10mlを加えた(MDCK細胞は20〜45分間インキュベートし、293T細胞は1分間インキュベートした)。細胞を遠心し、OptiMEMI−AB10mlに再懸濁した。次に各懸濁細胞株1mlをOptiMEMI−AB18mlで希釈し、混合した。次に細胞3ml/ウェルを6ウェルプレートに分注した。6〜24時間後に各プラスミド1μgを1.5mlエッペンドルフチューブでOptiMEMI−ABと混合した(xμlプラスミド+xμl OptiMEM I−AB+xμl TransIT−LT1=200μl;プラスミドDNAμg当たり2μl TransIT−LT1)。混合物を室温で45分間インキュベートした。次にOptiMEMI−AB800μlを加えた。培地を細胞から除去し、トランスフェクション混合物を細胞(t=0)に33℃で6〜15時間加えた。トランスフェクション混合物を細胞からゆっくりと除去し、OptiMEMI−AB1mlを加え、細胞を33℃で24時間インキュベートした。トランスフェクションから48時間後に1μg/mlTPCK−トリプシンを添加したOptiMEMI−AB1mlを細胞に加えた。トランスフェクションから96時間後に1μg/mlTPCK−トリプシンを添加したOptiMEMI−AB1mlを細胞に加えた。
【0178】
トランスフェクション後4日〜7日の間に細胞培養上清1mlを回収し、HA又はプラークアッセイによりモニターした。要約すると、上清1mlをエッペンドルフチューブに分注し、5000rpmで5分間遠心した。上清900μlを新しいチューブに移し、(例えば12ウェルプレートで)MDCK細胞に500μl/ウェルで系列希釈を実施した。上清を細胞と共に1時間インキュベートした後に除去し、1μg/ml TPCK−トリプシンを添加した感染培地(1xMEM)に交換した。次にHAアッセイ又はプラークアッセイを実施した。例えば、プラークアッセイでは0.8%アガロースゲルを重層して3日間33℃でインキュベートしたMDCK細胞で上清の力価を測定した。鶏卵に感染させるために、トランスフェクションから6又は7日後にトランスフェクト細胞の上清を回収し、Opti−MEM I中ウイルス希釈液100μlを11日齢発育鶏卵に33℃で注入した。インキュベーションから3日後にMDCK細胞でTCID50アッセイにより力価を測定した。
【0179】
MDV−Bを作製するために、共培養293T−MDCK又はCOS−7−MDCK細胞に各プラスミド1μgをトランスフェクトした。トランスフェクションから5〜7日後に試験した処、共培養MDCK細胞は細胞変性効果(CPE)を示し、クローン化cDNAから感染性MDV−Bウイルスが作製されたことが分かった。7種のプラスミドをトランスフェクトした細胞ではCPEは観察されなかった(表14)。ウイルス作製用DNAトランスフェクションシステムの効率を測定するために、トランスフェクションから7日後に細胞の上清をMDCK細胞で力価測定し、プラークアッセイによりウイルス力価を測定した。共培養293T−MDCKの上清のウイルス力価は5.0×106pfu/mlであり、COS7−MDCK細胞では7.6×106pfu/mlであった。
【表14】
【0180】
一過的共培養293T−MDCK(1,2)又は共培養COS7−MDCK細胞(3,4)に7又は8種のプラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクションから7日後に共培養MDCK細胞で細胞変性効果(CPE)をモニターした。トランスフェクションから7日後にトランスフェクト細胞の上清をMDCK細胞で力価測定した。pfu/mlのデータは複数(例えば3又は4回)のトランスフェクション実験の平均を表す。
【0181】
B/Yamanashi/166/98プラスミドベクターを使用したトランスフェクション実験でも同等の結果が得られた。これらの結果は、トランスフェクションシステムが8種のプラスミドからインフルエンザBウイルスを再現可能にde novo作製できることを示す。
組換えインフルエンザBのゲノタイピング
【0182】
MDCK細胞で後続継代後に感染細胞の上清のRT−PCRを使用し、作製されたウイルスの信憑性を確認した。RT−PCRは全8種のセグメントにセグメント特異的プラスミドを使用して実施した(表12)。図5Aに示すように、全セグメントでPCR産物が作製された。PB1,HA,及びNSセグメントのPCR産物の直接シーケンシングの結果、分析した4種のヌクレオチドはプラスミドpAB121−PB1,pAB124−HA,及びpAB128−NSに存在するものと同一であることが判明した。これらの結果から、作製されたウイルスは所期プラスミドから作製され、(陰性対照に加えて)親ウイルスによる実験室汚染の可能性がないことが確認された(図5B)。
【0183】
同様に、B/Yamanashi/166/98プラスミドベクターのトランスフェクション後にウイルスを回収し、PAセグメントのヌクレオチド1280−1290を含む領域を増幅した。シーケンシングの結果、回収したウイルスはプラスミド由来組換えB/Yamanashi/166/98に対応することが確認された(図5C及びD)。
rMDV−Bのフェノタイピング
【0184】
MDV−Bウイルスは温度感受性(ts)と低温適応(ca)の2つの特徴的表現型を示す。定義によると、tsは33℃に比較した37℃のウイルス力価の差が2log(以上)として定義され、caは33℃に比較した25℃のウイルス増殖の差が2log未満として定義される。初代ニワトリ腎(PCK)細胞に親ウイルスMDV−Bとプラスミド由来トランスフェクトウイルスを感染させ、3種の温度でウイルス増殖を測定した。
【0185】
プラークアッセイでは、6ウェルプレートでコンフルエントMDCK細胞(ECACC)を使用した。ウイルス希釈液を30〜60分間33℃でインキュベートした。細胞に0.8%アガロースを重層した。感染細胞を33℃又は37℃でインキュベートした。感染から3日後に細胞を0.1%クリスタルバイオレット溶液で染色し、プラーク数を測定した。
【0186】
ca−ts表現型アッセイは25、33、及び37℃でウイルスサンプルのTCID50力価測定により実施した。このアッセイフォーマットは96ウェル細胞培養プレートで各種温度(25℃,33℃,37℃)にて初代ニワトリ腎細胞単層に及ぼすインフルエンザウイルスの細胞変性効果(CPE)を試験することによりTCID50力価を測定する。このアッセイは温度及びウイルス株と共に変化するプラーク形態に非依存性であり、インフルエンザウイルスが複製してCPEを誘導する能力のみに依存する。一次組織のトリプシン処理により調製した初代ニワトリ腎(PCK)細胞懸濁液を5%FCS添加MEM(アール)培地に再懸濁した。PCK細胞を96ウェル細胞培養プレートに48時間播種して>90%コンフルエントの単層を作製した。48時間後に表現型アッセイ培地(PAM)と呼ぶ5mM L−グルタミン、抗生物質、非必須アミノ酸を添加した無血清MEM培地でPCK細胞単層を1時間洗浄した。PAMを加えた96ウェルブロックでウイルスサンプルの系列10倍希釈液を調製した。希釈したウイルスサンプルを次に96ウェルプレートの洗浄後のPCK単層にプレーティングした。ウイルスサンプルの各希釈液でウェル6個ずつを使用して希釈ウイルスを感染させた。細胞対照として未希釈細胞も各サンプルにつき6ウェルずつ試験した。各ウイルスサンプルを2〜4回ずつ力価測定した。25℃、33℃、及び37℃で予め測定した力価をもつ表現型対照ウイルスも各アッセイに加える。ウイルスサンプルのts表現型を測定するために、プレートを33℃と37℃にて5%CO2細胞培養インキュベーターで6日間インキュベートした。ca表現型特性決定については、プレートを25℃で10日間インキュベートした。ウイルス力価をKarber法により計算し、Log10平均(n=4)TCID50力価/ml+標準偏差として報告した。図1〜3に示すウイルス力価の標準偏差は0.1〜0.3であった。33℃と37℃のウイルス力価の差を使用してts表現型を測定し、ウイルスの25℃と33℃の力価の差を使用してca表現型を測定した。
【0187】
プラスミド由来組換えMDV−B(recMDV−B)ウイルスは予想通り、細胞培養でcaとtsの2種類の特徴的表現型を発現した。25℃の効率的複製に相当するca表現型はPCK細胞でアッセイした場合に25℃と33℃で2log10以下の力価の差として機能的に測定される。親MDV−Bと組換えMDV−Bはいずれもcaを発現し、25℃と33℃の差は夫々0.3及び0.4log10であった(表15)。ts表現型もPCK細胞で2種の温度の力価を観察することにより測定されるが、この表現型では、37℃の力価が33℃の力価よりも2log10以上低くなければならない。親MDV−Bと組換えMDV−Bの33℃と37℃の差は夫々3.4及び3.7log10であった(表15)。従って、組換えプラスミド由来MDV−Bウイルスはca及びts表現型の両者を発現した。
【0188】
組換えウイルスの力価は33℃で7.0log10 TCID50/mlであり、37℃で3.3 TCID50/mlであり、25℃で8.8log10 TCID50/mlであった(表15)。従って、8種のインフルエンザMDV−Bゲノムセグメントプラスミドのトランスフェクションに由来する組換えウイルスはca及びts表現型の両者をもつ。
【表15】
【実施例7】
【0189】
リアソータントB/Yamanashi/166/98ウイルスの生産
インフルエンザBの主要系統に相当する数種の異なる株のHA及びNAセグメントをほぼ上述のように増幅し、pAD3000にクローニングした。プライマーはHA及びNAセグメントの同時RT−PCR増幅に最適化させた。セグメント4(HA)とセグメント6(NB/NA)の非コーディング領域に相当するvRNAの末端領域を比較した結果、5’末端の20個の末端ヌクレオチドと3’末端の15ヌクレオチドがインフルエンザBウイルスのHA及びNA遺伝子間で一致していることが判明した。RT−PCR用プライマー対(下線配列はインフルエンザBウイルス特異的である)Bm−NAb−1:TAT TCG TCT CAG GGA GCA GAA GCA GAG CA(配列番号79);Bm−NAb−1557R:ATA TCG TCT CGT ATT AGT AGT AAC AAG AGC ATT TT(配列番号80)を合成及び使用してHA及びNA遺伝子を種々のインフルエンザB株から同時に増幅した(図8)。B/Victoria/504/2000,B/Hawaii/10/2001,及びB/Hong Kong/330/2001のHA及びNA PCRフラグメントを単離し、BsmBIで消化し、pAD3000に挿入した。これらの結果、これらのプライマーはインフルエンザBの主要系統に相当する数種の異なる野生型ウイルスに由来するインフルエンザB HA及びNA遺伝子を含むプラスミドの効率的な作製に適用できることが立証された。RT−PCR産物はシーケンシング及び/又は発現プラスミドへのクローニングに使用することができる。
【0190】
種々のインフルエンザB系統から抗原を効率的に発現させるためにB/Yamanashi/166/98(B/Yamagata/16/88様ウイルス)を利用できることを立証するために、B/Yamanashi/166/98に由来するPB1,PB2,PA,NP,M,NSとVictoria及びYamagata系統の両者に相当する株に由来するHA及びNAを含むリアソータント(6+2リアソータント)を作製した。上記方法に従い、B/Yamanashi/166/98に相当する6種のプラスミドと、B/Victoria/2/87系統に由来する2株(B/Hong Kong/330/2001及びB/Hawaii/10/2001)とB/Yamagata/16/88系統に由来する1株(B/Victoria/504/2000)のHA及びNAセグメントのcDNAを含む2種のプラスミドを一過的共培養COS7−MDCK細胞にコトランスフェクトした。トランスフェクションから6〜7日後に上清を新鮮なMDCK細胞で力価測定した。全3種の6+2リアソータントウイルスの力価は4〜9×106pfu/mlであった(表16)。これらのデータから、B/Yamanashi/166/98の6個の内部遺伝子は両者インフルエンザB系統に由来するHA及びNA遺伝子セグメントと共に感染性ウイルス効率的に形成できることが立証された。
【0191】
トランスフェクションから6又は7日後に共培養COS7−MDCK細胞の上清を力価測定し、MDCK細胞でプラークアッセイによりウイルス力価を測定した。
【表16】
【0192】
鶏卵で野生型B/Yamanashi/166/98の複製により比較的高力価が得られた。この特性がこのウイルスの6個の「内部」遺伝子の固有表現型であるか否かを調べるために実験を行った。この特性を評価するために、鶏卵で中度にしか複製しなかった野生型B/Victoria/504/2000の効率と、B/Victoria/504/2000 HA及びNAを発現する6+2リアソータントの効率を比較した。これらのウイルスを野生型及び組換えB/Yamanashi/166/98に加えて各々3又は4個の発育鶏卵に100又は1000pfuで接種した。感染から3日後に尿膜腔液を鶏卵から回収し、TCID50力価をMDCK細胞で測定した。6+2リアソータントはwt及び組換えB/Yamanashi/166/98株と同等量のウイルスを尿膜腔液に産生した(図9)。B/Victoria/504/2000と6+2組換え体の力価の差は約1.6log10TCID50(0.7〜2.5log10TCID50/mL,95%CI)であった。B/Victoria/504/2000と6+2組換え体の差を3回の別個の実験で確認した(P<0.001)。これらの結果から、鶏卵での複製が不良な株から通常発現されるHA及びNA抗原にB/Yamanashi/166/98の鶏卵増殖特性を付与できることが立証された。
【実施例8】
【0193】
ca B/Ann Arbor/1/66の弱毒の分子基盤
MDV−Bウイルス(ca B/Ann Arbor/1/66)はヒトで弱毒されており、フェレットで弱毒表現型を示し、細胞培養で低温適応及び温度感受性表現型を示す。BLAST検索アルゴリズムを使用してMDV−Bの内部遺伝子の推定アミノ酸配列をLos Alamosインフルエンザデータベース(ワールドワイドウェブ:flu.lanl.gov)の配列と比較した。他の株には存在しないMDV−Bにユニークな8個のアミノ酸が同定された(表17)。PB1,BM2,NS1,及びNS2をコードするゲノムセグメントはユニーク置換残基を示さない。PA及びM1蛋白質は各々2個、NP蛋白質は4個のユニーク置換アミノ酸をもつ(表17)。PB2には630位に1個の置換アミノ酸が存在する(付加株B/Harbin/7/94(AF170572)も630位にアルギニン残基をもつ)。
【0194】
これらの結果は、遺伝子セグメントPB2,PA,NP及びM1がMDV−Bの弱毒表現型に関与していることを示唆している。MDV−Aについて上述したと同様に、8プラスミドシステムを使用してMDV−Aについて上述したようにヘルパーに依存せずに単に該当プラスミドを培養細胞にコトランスフェクトするだけで組換え及びリアソータント(単一及び/又は二重、即ち7:1;6:2リアソータント)を作製することができる。例えば、B/Lee/40に由来する6個の内部遺伝子をMDV−Bに由来するHA及びNAセグメントと併用して6+2リアソータントを作製することができる。
【表17】
【0195】
8個のユニークアミノ酸変異が特徴的MDV−B表現型に影響を与えるか否かを調べるために、全8個のヌクレオチド位置がwtインフルエンザ遺伝子相補体を表すアミノ酸をコードする組換えウイルスを構築した。(表17に示すように)野生型アミノ酸を表すようにPA,NP,及びM1遺伝子の8個の残基を部位特異的突然変異誘発により変異させた1組のプラスミドを構築した。構築したプラスミドを共培養COS7−MDCK細胞にコトランスフェクトすることにより全8個の変異をもつ組換え体rec53−MDV−Bを作製した。MDCK細胞の共培養と33℃での増殖により、トランスフェクションから6〜7日後に上清が高ウイルス力価を含むように確保した。トランスフェクト細胞の上清を力価測定し、MDCK細胞ではプラークアッセイにより力価を測定し、PCK細胞では33℃と37℃で力価を測定した。
【0196】
図13に示すように、2回の別個の独立した実験で、recMDV−BはMDCK細胞とPCK細胞の両者でts表現型を発現した。全8個のアミノ酸変異をもつようにデザインした三重リアソータントウイルスrec53−MDV−Bは非ts表現型を発現し、33℃と37℃の力価の差はPCK細胞で0.7log10しかなかった。力価はts定義の特徴である必要な2log10差のよりも低く、recMDV−Bで観察される〜3log10の差よりも有意に低かった。これらの結果は、PA,NP,及びM1蛋白質内の8個のアミノ酸の変異が相同及び異種の両者の糖蛋白質を使用して非ts野生型様ウイルスを作製するのに十分であることを示している。
【0197】
次に各遺伝子セグメントのts表現型への関与を調べた。PA,NP,又はM遺伝子セグメントと野生型アミノ酸相補体をもつプラスミド由来組換え体をDNAコトランスフェクション法により作製した。全単一遺伝子組換え体はMDCK細胞とPCK細胞で37℃の増殖制限を示し(図14)、遺伝子セグメントの変異によりts表現型を復帰変異させることができないと思われた。更に、NP及びM又はPA及びM遺伝子セグメントを併有する組換えウイルスもts表現型を維持した。他方、PA及びNP遺伝子セグメントを併有する組換えウイルスはrec53−MDV−Bと同様に37℃と33℃の力価の差が2.0log10以下であった。これらの結果は、NP及びPA遺伝子が主にts表現型に関与することを示している。
【0198】
NP蛋白質の4個のアミノ酸とPA蛋白質の2個のアミノ酸の全てが非tsに関与しているか否かを調べるために、NP遺伝子とPA遺伝子が変異した三重遺伝子及び二重遺伝子組換え体を作製した(図15)。2個のアミノ酸の置換A114→V114及びH410→P410の結果として非ts表現型となった。ヌクレオプロテインに単一置換H410→P410をもつウイルスはMDCKとPCKで非ts表現型を示した。他方、単一置換A55→T55はts表現型を示した。これらの結果から、NPのP410が37℃での効率的増殖に関与していると思われる。これらの結果はPA及びNPの6個のアミノ酸から4個の残基が非ts表現型に関与していることを示す。
【0199】
従来のデータによると、ts表現型と弱毒表現型は高度に相関している。ca B/Ann Arbor/1/66ウイルスは感染フェレットの肺組織で検出てきないが、鼻腔内感染後に非弱毒インフルエンザBウイルスが肺で検出可能であることはよく知られている。ts及びatt表現型も同一突然変異に基づくのか否かを調べるために、以下の試験を実施した。
【0200】
トランスフェクション後に得られた組換えウイルスを発育鶏卵で継代し、ウイルスストックを作製した。9週齢フェレットに各鼻腔0.5mlのウイルスを力価5.5、6.0又は7.0log10pfu/mlで鼻腔内接種した。感染から3日後にフェレットを屠殺し、その肺と鼻甲介を上述のように試験した。
【0201】
フェレット(各群4匹)にrecMDV−B又はrec53−MDV−Bを鼻腔内感染させた。ウイルス感染から3日後に鼻甲介と肺組織を摘出し、ウイルスの存在を試験した。7.0log10pfu recMDV−Bを感染させたフェレットの肺組織にウイルスは検出されなかった。rec53−MDV−Bウイルスを力価7.0log10pfuで感染させた4匹のうち3匹から肺組織にウイルスが検出された(この群の1匹の原因は不明)。rec53−MDV−Bを低用量(5.5logpfu/ml)で感染させた4匹の肺組織のうち2匹で肺組織からウイルスを単離することができた。従って、PA,NP,及びM1蛋白質の8種のユニークアミノ酸の野性型残基への変異はatt表現型を非att表現型に変換するために十分であった。
【0202】
細胞培養データによるとPAとNPがts表現型の要因であることがわかったので、第2の実験では、rec53−MDV−B(PA,NP,M)、rec62−MDV−B(PA)、NPrec71−MDV−B(NP)を6logpfuでフェレットに感染させた。rec53−MDV−Bを感染させた4匹のうちの2匹が肺にウイルスをもっていた。単一及び二重リアソータントウイルスを感染させたフェレットの肺組織のうちでウイルスレベルが検出可能なものは皆無であった。従って、PA及びNP蛋白質のアミノ酸に加え、M1蛋白質もatt表現型に重要である。wtPA及びNPをもつウイルスはフェレット肺で複製せず、弱毒に関与する突然変異のサブセットがts表現型に関与することが示唆された。
【0203】
従って、B/Ann Arbor/1/66のts表現型は最大3種の遺伝子により決定される。PA,NP,及びM1蛋白質の8個のアミノ酸が野性型残基に変換すると、37℃で効率的に複製する組換えウイルスが得られた。同様に、MDV−Bの6個の内部遺伝子とB/HongKong/330/01に由来するHA及びNAセグメントに相当する6+2組換えウイルスはts表現型を示し、三重組換え体は非tsであった。
【0204】
インフルエンザA株について上述したように、上記残基の置換、例えばPB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)はts及びatt表現型を付与する。従って、これらのアミノ酸置換の1個以上をもつインフルエンザB株の人工構築変異体はts及びatt表現型を示し、弱毒生インフルエンザウイルスワクチンの生産で例えばマスタードナー株ウイルスとして使用するのに適している。
【実施例9】
【0205】
Vero細胞のエレクトロポレーションによる8種のプラスミドからのインフルエンザのレスキュー
組換えインフルエンザAをVero細胞からレスキューできることは従来示唆されている(Fodorら(1999)Rescue of influenza A virus from recombinant DNA J.Virol.73:9679−82;Hoffmannら(2002)Eight−plasmid system for rapid generation of influenza virus vaccine Vaccine 20:3165−3170)。報告されている方法は脂質試薬を使用する必要があり、インフルエンザAの高度複製コンピテント実験室株の単一株(A/WSN/33及びA/PR/8/34)についてしか立証しておらず、ワクチン生産に適した生弱毒ウイルスの生産では適用が限られている。本発明はエレクトロポレーションを使用してVero細胞から組換えインフルエンザウイルスを回収するための新規方法を提供する。これらの方法はインフルエンザA及びインフルエンザB株両者のウイルスの生産に適しており、例えば鼻腔内ワクチン製剤で投与するのに適した生弱毒ワクチンの製造を容易にする無血清条件下で増殖させたVero細胞から例えば低温適応、温度感受性、弱毒ウイルスを回収することができる。エレクトロポレーションはウイルス株に広く適用できることに加え、細胞基質用増殖培地以外の付加的試薬を必要としないので望ましくない汚染の危険が少ない。特に、この方法は無血清条件下での増殖に適したVero細胞(例えば病原体フリーとみなされるワクチン生産に適切なVero細胞単離体)を使用して組換え及びリアソータントウイルスを作製するのに有効である。この特徴により、DNAを細胞基質に商業的に導入するのに適した方法としてエレクトロポレーションを選択することができる。
【0206】
多数の脂質試薬を使用するトランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿法及び細胞マイクロインジェクション等のDNAをVero細胞に導入するための種々の方法にエレクトロポレーションを比較した。インフルエンザAのレスキューに脂質試薬を使用した場合にはある程度成果が得られたが、インフルエンザAだけでなくインフルエンザBもVero細胞からレスキューすることが実証されたのはエレクトロポレーションのみであった。
【0207】
エレクトロポレーションの1日前に90〜100%コンフルエントVero細胞を分割し、ペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミン、非必須アミノ酸及び10%FBSを添加したMEM(MEM,10%FBS)中にT225フラスコ当たり細胞9×106個の密度で播種した。翌日、細胞をトリプシン処理し、T225フラスコ当たり50mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁した。次に細胞をペレット化し、T225フラスコ当たり0.5mlのOptiMEM Iに再懸濁した。場合により、ヒト又は動物由来成分を含まない特注OptiMEM培地を使用してもよい。例えば血球計で40倍希釈液をカウントすることにより細胞密度を測定後、細胞5×106個を0.4cmエレクトロポレーションキュベットにOptiMEMI最終容量400μlで加えた。次にMDV−A又はMDV−Bゲノムを組込んだ容量25μl以下の8種のプラスミドの等モル混合物から構成されるDNA20μgをキュベット内の細胞に加えた。細胞をタッピングにより温和に混合し、BioRad Gene Pulser IIにCapacitance Extender Plus(BioRad,Hercules,CA)を接続して300V、950μFでエレクトロポレーションした。時定数は28〜33msecの範囲にすべきである。
【0208】
キュベットの内容物をタッピングにより温和に混合し、エレクトロポレーションから1〜2分後にMEM,10%FBS0.7mlを1mlピペットで加えた。ピペットを数回上下させることにより細胞を再び温和に混合した後、MEM,10%FBS2ml/ウェルを加えた6ウェル皿の2個のウェルに分割した。次にキュベットをMEM,10%FBS1mlで洗浄し、2個のウェルに分割し、最収容量約3.5ml/ウェルとした。
【0209】
代替実験では、例えばOptiPro(SFM)(Invitrogen,Carlsbad,CA)中でVero細胞を無血清増殖条件に適応させ、OptiMEM I中でエレクトロポレーション後に細胞をOptiPro(SFM)で希釈した後、ウイルスレスキューのために培養した以外は上述のようにエレクトロポレーションした。
【0210】
エレクトロポレーションした細胞を次に、導入したウイルスの複製と回収に適した条件下(即ち低温適応マスタードナー株には33℃)で培養した。翌日(例えばエレクトロポレーションから約19時間後)、培地を除去し、細胞をOptiMEM I又はOptiPro(SFM)3ml/ウェルで洗浄した。ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したOptiMEM I又はOptiPro(SFM)1ml/ウェルを各ウェルに加え、培地を交換することにより上清を毎日採取した。上清を−80℃でSPGに保存した。ピークウイルス生産は一般にエレクトロポレーションから2〜3日後に観察された。
【表18】
【実施例10】
【0211】
遺伝子送達用インフルエンザウイルスベクターシステム
本発明のベクターは遺伝子送達システムとして遺伝子治療用にも使用することができる。このような用途には、組換えインフルエンザウイルス、例えば外来蛋白質を発現する組換えインフルエンザA又はBを作製することが望ましい。例えば、インフルエンザBウイルスのセグメント7はスプライスされないので、異種核酸配列の挿入に好都合な遺伝子エレメントとなる。mRNAはM1及びBM2蛋白質をコードする2個のオープンリーディングフレームをもつ2個のシストロンを含む。BM2又はM1のオープンリーディングフレームを目的異種核酸、例えば強化緑色蛍光蛋白質(EGFP)をコードする遺伝子で置換する。本発明のプラスミドベクターシステムを使用して、M1−EGFPのオープンリーディングフレームをコードするcDNAとBM2を2種の異なるプラスミドにクローニングする。オープンリーディングフレームは複製と転写に必要なシグナルを含むセグメント7の非コーディング領域の間に挿入する。あるいは、一方がM1 ORFを含み、他方がEGFP−BM2を含む2種のプラスミドを構築する。得られた9種のプラスミドのコトランスフェクションの結果、異種遺伝子配列を含む組換えインフルエンザBウイルスが作製される。同様に、インフルエンザAのNS1セグメントからEGFPを発現させることができる。
【0212】
典型的「緑色」インフルエンザBウイルスは微量中和アッセイ等のウイルスアッセイで標準化に使用することができる。プラスミド技術と蛋白質発現の単純な検出(図2に示すように、EGFPに由来する蛍光をモニターすることができる)を組合せることにより、蛋白質発現を最適化することができる。
【0213】
以上、明確に理解できるように本発明を多少詳細に記載したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく形態や細部に種々の変更が可能であることは以上の開示から当業者に自明である。例えば、上記全技術及び装置は種々に組合せて使用することができる。本明細書に引用した全刊行物、特許、特許出願、又は他の文献はその開示内容全体を全目的で参考資料として組込み、各刊行物、特許、特許出願、又は他の文献を全目的で参考資料として組込むと個々に記載しているものとして扱う。
【図面の簡単な説明】
【0214】
【図1】pAD3000プラスミドの模式図。
【図2】感染細胞の顕微鏡写真。
【図3】プラスミドトランスフェクションからのrMDV−A及び6:2H1N1リアソータントウイルスのゲノタイピング分析を示す。
【図4】インフルエンザBウイルス生産用の8プラスミドシステムの模式図。
【図5】A及びB.RT−PCRによる組換えMDV−Bウイルスの特性決定;C及びD.RT PCRによる組換えB/Yamanashi/166/98の特性決定。
【図6−1】GeneBankフォーマットによるpAD3000の配列。
【図6−2】GeneBankフォーマットによるpAD3000の配列。
【図7−1】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−2】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−3】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−4】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−5】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−6】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−7】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−8】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−9】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−10】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−11】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−12】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−13】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−14】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−15】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−16】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−17】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−18】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−19】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−20】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−21】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−22】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−23】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−24】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−25】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−26】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−27】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−28】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−29】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−30】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図7−31】MDV−Bと8種のプラスミドの配列アラインメント。
【図8】インフルエンザB株のHA及びNAセグメントの同時増幅から誘導されたRT−PCR産物。
【図9】組換え及びリアソータントウイルスの相対力価を示す棒グラフ。
【図10】許容温度と制限温度下のリアソータントウイルスの相対力価(温度感受性)を示す棒グラフ。
【図11】温度感受性と相関する特定突然変異(ノックイン)を組込んだリアソータントウイルスの模式図(左パネル)と、許容温度と制限温度下の相対力価(温度感受性)(右パネル)を示す。
【図12】ミニゲノムアッセイにおけるts突然変異の測定。A.HEp−2細胞にPB1,PB2,PA,NP及びpFlu−CATをトランスフェクトし,33℃又は39℃で18時間インキュベートし、細胞抽出物のCATレポーター遺伝子発現を分析した。B.プライマー伸長アッセイによるCAT mRNA発現。
【図13】PA,NP,及びM1蛋白質の野生型残基をもつ三重遺伝子組換え体の模式図。
【図14】単一遺伝子及び二重遺伝子組換えウイルスの増殖をまとめた表。
【図15】非ts表現型に対応するヌクレオプロテインのアミノ酸残基をまとめた表。
【図16】組換えPR8突然変異体の模式図。PB1及び/又はPB2遺伝子に導入した突然変異を黒丸で示す。
【図17】33℃と39℃の相対力価を示す棒グラフ。
【図18】各種温度におけるPR8突然変異体のプラーク形態を示す顕微鏡写真。MDCK細胞に指定ウイルスを感染させ、33℃、37℃、及び39℃で3日間インキュベートした。ウイルスプラークを免疫染色により可視化し、写真撮影した。
【図19】許容温度と非許容温度の蛋白質合成。MDCK細胞に指定ウイルスを感染させ、33℃又は39℃で一晩インキュベートした。放射性標識ポリペプチドをSDS−PAGEで電気泳動させ、オートラジオグラフにかけた。ウイルス蛋白質HA,NP,M1及びNSを示す。
【図20A】MDCK細胞での複製に比較したPer.C6細胞でのMDV−A及びMDV−Bの複製を示す折れ線グラフ。
【図20B】Per.C6細胞におけるMDV−A単一遺伝子リアソータントの複製の変動を示す折れ線グラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染性B型インフルエンザウイルスを細胞培養で生産するためのヘルパーウイルスフリー方法であって、
i)B型インフルエンザウイルスゲノムの核酸配列を含む複数のプラスミドベクターをVero細胞集団にエレクトロポレーションする段階と;
ii)Vero細胞集団をウイルス複製に許容可能な条件下で培養する段階と;
iii)複数の感染性B型インフルエンザウイルスを回収する段階
を含む前記方法。
【請求項2】
B型インフルエンザウイルスが弱毒、温度感受性及び低温適応から構成される群から選択される1種以上の表現型属性をもつ請求項1に記載の方法。
【請求項3】
B型インフルエンザウイルスが弱毒、低温適応、温度感受性インフルエンザウイルスを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
B型インフルエンザウイルスが鼻腔内ワクチン製剤で投与するのに適している請求項1に記載の方法。
【請求項5】
Vero細胞を無血清培地で培養する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ウイルス複製に許容可能な条件がVero細胞を35℃以下の温度で培養する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ウイルス複製に許容可能な条件がVero細胞を33℃の温度で培養する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
複数のプラスミドベクターが8個のプラスミドベクターである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
(a)PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から構成される群から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異をB型インフルエンザウイルスゲノムに導入する段階と;
(b)ウイルスが産生される条件下で突然変異インフルエンザウイルスゲノムを複製する段階
を含む温度感受性(ts)インフルエンザウイルスの生産方法。
【請求項10】
PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)から構成される群から選択される置換アミノ酸をコードする少なくとも1個の突然変異をB型インフルエンザウイルスゲノムに導入する段階を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から構成される群から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす複数の突然変異をB型インフルエンザウイルスゲノムに導入する段階を含む請求項9に記載の方法。
【請求項12】
PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)から構成される群から選択される複数のアミノ酸置換をもたらす突然変異をB型インフルエンザウイルスゲノムに導入する段階を含む請求項9に記載の方法。
【請求項13】
突然変異インフルエンザウイルスゲノムを鶏卵で複製する段階を含む請求項9又は11に記載の方法。
【請求項14】
突然変異B型インフルエンザウイルスゲノムを細胞培養で複製する段階を含む請求項9又は11に記載の方法。
【請求項15】
ウイルスを鶏卵で増幅する段階を更に含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細胞を35℃以下の温度で培養する段階を含む請求項14に記載の方法。
【請求項17】
細胞培養がVero細胞、MDCK細胞、293T細胞及びCOS細胞の1種以上を含む請求項14に記載の方法。
【請求項1】
感染性B型インフルエンザウイルスを細胞培養で生産するためのヘルパーウイルスフリー方法であって、
i)B型インフルエンザウイルスゲノムの核酸配列を含む複数のプラスミドベクターをVero細胞集団にエレクトロポレーションする段階と;
ii)Vero細胞集団をウイルス複製に許容可能な条件下で培養する段階と;
iii)複数の感染性B型インフルエンザウイルスを回収する段階
を含む前記方法。
【請求項2】
B型インフルエンザウイルスが弱毒、温度感受性及び低温適応から構成される群から選択される1種以上の表現型属性をもつ請求項1に記載の方法。
【請求項3】
B型インフルエンザウイルスが弱毒、低温適応、温度感受性インフルエンザウイルスを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
B型インフルエンザウイルスが鼻腔内ワクチン製剤で投与するのに適している請求項1に記載の方法。
【請求項5】
Vero細胞を無血清培地で培養する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ウイルス複製に許容可能な条件がVero細胞を35℃以下の温度で培養する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ウイルス複製に許容可能な条件がVero細胞を33℃の温度で培養する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
複数のプラスミドベクターが8個のプラスミドベクターである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
(a)PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から構成される群から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす少なくとも1個の突然変異をB型インフルエンザウイルスゲノムに導入する段階と;
(b)ウイルスが産生される条件下で突然変異インフルエンザウイルスゲノムを複製する段階
を含む温度感受性(ts)インフルエンザウイルスの生産方法。
【請求項10】
PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)から構成される群から選択される置換アミノ酸をコードする少なくとも1個の突然変異をB型インフルエンザウイルスゲノムに導入する段階を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
PB2630、PA431、PA497、NP55、NP114、NP410、NP510、M1159及びM1183から構成される群から選択される位置にアミノ酸置換をもたらす複数の突然変異をB型インフルエンザウイルスゲノムに導入する段階を含む請求項9に記載の方法。
【請求項12】
PB2630(S630R)、PA431(V431M)、PA497(Y497H)、NP55(T55A)、NP114(V114A)、NP410(P410H)、NP510(A510T)、M1159(H159Q)及びM1183(M183V)から構成される群から選択される複数のアミノ酸置換をもたらす突然変異をB型インフルエンザウイルスゲノムに導入する段階を含む請求項9に記載の方法。
【請求項13】
突然変異インフルエンザウイルスゲノムを鶏卵で複製する段階を含む請求項9又は11に記載の方法。
【請求項14】
突然変異B型インフルエンザウイルスゲノムを細胞培養で複製する段階を含む請求項9又は11に記載の方法。
【請求項15】
ウイルスを鶏卵で増幅する段階を更に含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細胞を35℃以下の温度で培養する段階を含む請求項14に記載の方法。
【請求項17】
細胞培養がVero細胞、MDCK細胞、293T細胞及びCOS細胞の1種以上を含む請求項14に記載の方法。
【図6−1】
【図6−2】
【図12】
【図20A】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7−1】
【図7−2】
【図7−3】
【図7−4】
【図7−5】
【図7−6】
【図7−7】
【図7−8】
【図7−9】
【図7−10】
【図7−11】
【図7−12】
【図7−13】
【図7−14】
【図7−15】
【図7−16】
【図7−17】
【図7−18】
【図7−19】
【図7−20】
【図7−21】
【図7−22】
【図7−23】
【図7−24】
【図7−25】
【図7−26】
【図7−27】
【図7−28】
【図7−29】
【図7−30】
【図7−31】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20B】
【図6−2】
【図12】
【図20A】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7−1】
【図7−2】
【図7−3】
【図7−4】
【図7−5】
【図7−6】
【図7−7】
【図7−8】
【図7−9】
【図7−10】
【図7−11】
【図7−12】
【図7−13】
【図7−14】
【図7−15】
【図7−16】
【図7−17】
【図7−18】
【図7−19】
【図7−20】
【図7−21】
【図7−22】
【図7−23】
【図7−24】
【図7−25】
【図7−26】
【図7−27】
【図7−28】
【図7−29】
【図7−30】
【図7−31】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20B】
【公開番号】特開2011−217748(P2011−217748A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103852(P2011−103852)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【分割の表示】特願2003−587937(P2003−587937)の分割
【原出願日】平成15年4月25日(2003.4.25)
【出願人】(509110770)メディミューン・エルエルシー (4)
【氏名又は名称原語表記】MedImmune, LLC
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【分割の表示】特願2003−587937(P2003−587937)の分割
【原出願日】平成15年4月25日(2003.4.25)
【出願人】(509110770)メディミューン・エルエルシー (4)
【氏名又は名称原語表記】MedImmune, LLC
【Fターム(参考)】
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