説明

インフルエンザウイルス分離具及びインフルエンザウイルス分離方法

【課題】ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させて得られたウイルスを含む液体成分を、当該液体成分を吸収させた吸収体から簡便且つ確実に分離し、これを診断又は研究用の検体として供することが可能なウイルス分離具を提供する。
【解決手段】ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させるウイルス採取具で採取したウイルスを含む液体成分を、ウイルス採取具の内部に設置した液体成分を含む吸収体から分離するウイルス分離具であって、遠心分離処理を行うための液溜め24を有する分離管20と、分離管20の内部に装着され、吸収体を液溜め24から離間した状態で保持する保持部材30と、を備え、遠心分離処理が行われたときに、吸収体に含まれる液体成分のみが液溜め24に移動するように、保持部材30を液透過構造に構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させるウイルス採取具で採取した前記ウイルスを含む液体成分を、前記ウイルス採取具の内部に設置した前記液体成分を含む吸収体から分離するウイルス分離具及びウイルス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス等の感染性ウイルスに感染した患者は、その疾病の経過中に、患者の体内で増殖した感染性ウイルスの一部を呼気又は鼻汁中に排出すると考えられている。特に、患者の呼気中に排出された感染性ウイルスは、空気中で粒子状(飛沫又は飛沫核)となって拡散するため、飛沫感染や空気感染の原因になると考えられる。
【0003】
従来、感染性ウイルスが空気感染や飛沫感染によって、人から人へと感染するという確実な証拠を掴むことはできなかった。
【0004】
この問題に対し、本発明者は、本体に、患者の呼気を導入する呼気導入部と、前記患者の呼気に含まれる前記ウイルスを捕捉するトラップ部と、前記患者の呼気を含む気体成分を吸引する吸引部とを備え、前記呼気導入部は前記患者の呼気を圧縮及び膨張させることによって水蒸気を凝縮し、液化させるくびれ部を有し、前記トラップ部に前記くびれ部から排出される前記ウイルスを含んだ液体成分が導入されるウイルス分離培地を配置してあるウイルス採取具を先に発明した。そして、このウイルス採取具により、感染性ウイルスが空気感染や飛沫感染するという証拠を掴むことに成功した(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
ところで、上記ウイルス採取具では、水蒸気を凝縮して得られる液体の量は1回の使用につき数mlと少量である。このため、ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させて得られたウイルスを含む液体成分を確実に採取するには、一旦綿やガーゼのような吸収体に吸収させて採取することが好適である。そうすると、ウイルスを確認するための培養試験を行うためには、吸収体に含まれる液体成分を当該吸収体から分離する作業が必要となる。
【0006】
一方、液状試料に含まれるウイルスを分離するための機器として、管体の内部にフィルターを設けた遠心分離チューブが開発されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0007】
特許文献2の遠心分離チューブは、フィルターの上にウイルスを含む液状試料を置き、この状態で遠心分離チューブを遠心分離機にかけることにより、フィルター上にウイルスを捕捉するものである。なお、特許文献2では、液状試料として、痰、髄液、糞、唾液、血液、組織、スワブ、胃洗浄液、及び尿が挙げられているが、ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させて得たウイルスを含む液体成分については、全く想定されていない。
【0008】
【特許文献1】特開2008−119552号公報
【特許文献2】特開2004−180551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、本発明者が発明した特許文献1のウイルス採取具では、ウイルスを含む液体成分の採取量が少量であるため、吸収体に含まれる液体成分を当該吸収体からほぼ全量分離することが望まれる。ところが、例えば、遠心分離装置で使用される既存の遠心分離管は、比重の差を利用して混合物から目的物を分離するように構成されており、綿やガーゼのような吸収体から液体を分離するような使用方法は想定されていない。このため、既存の遠心分離管では、吸収体から液体成分のみを簡便且つ確実に分離することは容易ではない。
【0010】
一方、特許文献2のようにフィルターによってウイルスを捕捉する方法では、当然のことながら、孔径がウイルスのサイズ(例えば、数μm)よりも小さい特殊なフィルターを採用する必要がある。ところが、このような特殊なフィルターはコストが高いだけでなく、ウイルスの濾過に長時間を要するという問題がある。また、フィルターの孔径が非常に小さいため目詰まりを起こし易く、一回の遠心分離処理では培養試験に十分な量の検体を得ることができない。事実、特許文献2によれば、目詰まりを防止するため、事実上、ウイルス補足用のフィルターの前段にプレフィルターを設置することが必須となっている。従って、特許文献2の器具は、さらなるコストアップを招来することになる。
【0011】
このように、現状においては、ウイルス診断または研究用の検体を簡単且つ確実に得るための有効な器具は未だ開発されていない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させて得られたウイルスを含む液体成分を、当該液体成分を吸収させた吸収体から簡便且つ確実に分離し、これを診断又は研究用の検体として供することが可能なウイルス分離具及びウイルス分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るウイルス分離具の特徴構成は、
ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させるウイルス採取具で採取した前記ウイルスを含む液体成分を、前記ウイルス採取具の内部に設置した前記液体成分を含む吸収体から分離するウイルス分離具であって、
遠心分離処理を行うための液溜めを有する分離管と、
前記分離管の内部に装着され、前記吸収体を前記液溜めから離間した状態で保持する保持部材と、
を備え、
前記遠心分離処理が行われたときに、前記吸収体に含まれる前記液体成分のみが前記液溜めに移動するように、前記保持部材を液透過構造に構成してあることにある。
【0014】
例えば、綿やガーゼのような吸収体に含まれている液体成分を、当該吸収体から確実に分離するためには、吸収体を保持しながら液体成分のみを離脱させる必要がある。
この点に関し、本構成のウイルス分離具によれば、保持部材が、吸収体を液溜めから離間した状態で保持するように分離管の内部に装着されており、遠心分離処理が行われたときには、吸収体に含まれる液体成分のみが液溜めに移動するように、保持部材を液透過構造に構成してある。このため、ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させて得られたウイルスを含む液体成分は、液透過構造を容易に通過し、一方、吸収体は液溜めから離間した状態がそのまま保持されるので、液体成分を吸収体から簡便且つ確実に分離することができる。そして、この分離した液体成分は、診断又は研究用の検体として好適に供することができる。
【0015】
本発明に係るウイルス分離具において、
前記保持部材は、前記吸収体を載置するプレート部と、当該プレート部から前記液溜めの方向に延伸する柱部とを備え、
前記液透過構造として、前記プレート部の外周縁を前記分離管の内周面から非接触状態にしてあることが好ましい。
【0016】
本構成のウイルス分離具によれば、保持部材のプレート部の外周縁を分離管の内周面から非接触状態とすることで液透過構造を実現している。このため、遠心分離処理を行うと、吸収体に含まれる液体成分は吸収体から離脱し、プレート部の外周縁と分離管の内周面との隙間を通過して液溜めに溜まる。一方、吸収体は、プレート部によって液溜めから離間した状態のまま保持される。このように、比較的簡単な構成で、液体成分を吸収体から簡便且つ確実に分離することができる。
【0017】
本発明に係るウイルス分離具において、
前記プレート部の外周縁に複数の溝を形成してあることが好ましい。
【0018】
本構成のウイルス分離具によれば、プレート部の外周縁に複数の溝を形成することで、当該溝にピンセット等の工具を引っ掛けて保持部材を分離管の内部から取り出し易くすることができる。また、この溝は、遠心分離処理を行う際の液体成分の通路にもなるため、吸収体からの液体成分の分離がさらに容易となる。
【0019】
本発明に係るウイルス分離具において、
前記柱部は前記液溜めと点接触又は線接触するように構成してあることが好ましい。
【0020】
先に説明したように、本発明のウイルス分離具を使用する場合、ウイルスを含む液体成分の採取量は少量であるため、液体成分の器具等への付着量を最小限にすることが重要である。
この点に関し、本構成のウイルス分離具によれば、保持部材の柱部が液溜めと点接触又は線接触するように構成してあるので、保持部材を液溜めから引き上げた場合水切れが良く、液体成分の保持部材への付着量を少なくすることができる。
【0021】
本発明に係るウイルス分離方法の特徴構成は、
ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させるウイルス採取具で採取した前記ウイルスを含む液体成分を、前記ウイルス採取具の内部に設置した前記液体成分を含む吸収体から分離するウイルス分離方法であって、
液溜めを有する分離管の内部に保持部材を装着する装着工程と、
前記保持部材に前記液溜めから離間した状態で前記吸収体を保持させる保持工程と、
遠心分離処理により、前記吸収体に含まれる前記液体成分のみを前記液溜めに移動させる分離工程と、
を包含することにある。
【0022】
本構成のウイルス分離方法によれば、上記の装着工程、保持工程、及び分離工程を実行することにより、ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させて得られたウイルスを含む液体成分は、液透過構造を容易に通過し、一方、吸収体は液溜めから離間した状態がそのまま保持される。このため、液体成分を吸収体から簡便且つ確実に分離することができる。そして、この分離した液体成分は、診断又は研究用の検体として好適に供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のウイルス分離具に関する実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
ただし、本発明のウイルス分離具は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図せず、それらと均等な構成も含む。
【0025】
本発明のウイルス分離具100は、ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させるウイルス採取具10で採取したウイルスを含む液体成分を、そのウイルス採取具10の内部に設置した液体成分を含む吸収体から分離するための器具である。従って、本発明のウイルス分離具100の説明をする前に、その前段階で使用するウイルス採取具10について簡単に説明する。
【0026】
〔ウイルス採取具〕
図4は、ウイルス採取具10を例示する模式図である。
【0027】
ウイルス採取具10の本体1は、本管1aと当該本管1aから側方に分岐する分岐管1bとを備える。本体1には、以下に説明する呼気導入部2、トラップ部3、及び吸引部4が設けられる。
【0028】
呼気導入部2は、患者の呼気を導入する部位であり、本体1の本管1aの上方に設けられる。図4では、呼気導入部2を本体1とは別体の鍔部2aを有する筒状部材2b及び導入口2cで形成し、これを本管1aの上部に差し込んで装着する構成としている。
【0029】
ウイルス採取具10の使用状態においては、呼気導入部2の導入口2cに、通気性の又は通気孔を有するマスク(図示せず)を接続し、患者の呼気はマスクを介して、周囲の大気とともに呼気導入部2に導入される。呼気導入部2のうち、患者の呼気が導入される導入口2cと反対側は、下方に向けて徐々に縮径したくびれ部2dを形成している。このようなくびれ部2dを有する呼気導入部2において、呼吸器系ウイルスに感染した患者の呼気を、吸引部4に接続した吸引ポンプ(図示せず)を作動させて本体1の内部に導入すると、呼気はくびれ部2dの開口部手前で一旦圧縮され、その後直ちにくびれ部2dの開口部から放出されて減圧される。その結果、呼気の温度が低下して呼気中の水蒸気が凝縮し、液化する。このとき、呼気に含まれるウイルス(感染性ウイルス)は凝縮した液体中に取り込まれる。
【0030】
トラップ部3は、患者の呼気に含まれるウイルスを捕捉する部位であり、本体1の本管1aの下方に設けられる。図4では、トラップ部3を本体1に一体形成してある。このトラップ部3には、呼気導入部2のくびれ部2dから排出されるウイルスを含んだ液体成分が導入される。さらに、トラップ部3には、ウイルスの活性が損なわれ難いウイルス分離培地(Virus Isolation Medium;VIM)5が配置されている。このウイルス分離培地5は、例えば、1%のウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin)、リン酸バッファ(Phosphate Buffered Saline;PBS)、及び雑菌や真菌を除去するための抗生物質等の混合物で構成される。
【0031】
患者の呼気から採取したウイルスは、ウイルス分離培地5と混合されることにより、診断や研究等で用いる検体として、ウイルスの感染性が保たれた状態で利用可能となる。従って、患者の呼気を凝縮して得られるウイルスを含んだ液体成分を検体として十分な量確保するためには、呼気導入部2のくびれ部2dから排出される液体成分の略全量をトラップ部3に導くことが望ましい。そこで、呼気導入部2とトラップ部3との間に亘って、液体浸透性を有する浸透布6を着脱可能に設けている。浸透布6は、例えば、円筒形に形成したガーゼを用いることができる。この場合、円筒形ガーゼの一端をくびれ部2dの開口部を覆うように呼気導入部2の側に装着し、他端をトラップ部3に溜められたウイルス分離培地5に浸漬させる。これにより、くびれ部2dから排出されたウイルスを含んだ液体成分は、浸透布6を上方から下方に浸透し、トラップ部3に配置したウイルス分離培地5へと確実に導かれる。また、ウイルスを含んだ液体成分は浸透布6をゆっくりと移動することにより液体成分(水分)の気化が促進されるため、気化熱による冷却効果も得られる。一方、固体成分である粒子状のウイルスは、凝縮した液体成分に確実に取り込まれるため、飛散が防止される。
【0032】
吸引部4は、患者の呼気を含む気体成分を吸引する部位であり、本体1の分岐部1bに設けられる。図4では、吸引部4を本体1とは別体の鍔部4aを有する筒状部材4b及び吸引口4cで形成し、これを分岐管1bに差し込んで装着する構成としている。また、筒状部材4bの外径は分岐部1bの内径より十分小さくなるように構成され、さらに筒状部材4bの側面に複数の穴4dが設けられる。これにより、本体1の内部の気体は筒状部材4bの管軸方向に加えて側方からも通流し、吸引がスムーズに行われる。
【0033】
〔ウイルス分離具〕
次に、本発明のウイルス分離具100について説明する。図1は、本発明のウイルス分離具100を例示する分解模式図である。ウイルス分離具100は、ウイルスを含む液体成分が染み込んだ綿やガーゼ等の吸収体X(例えば、上記ウイルス採取具10の内部に設置した浸透布6)からウイルスを含む液体成分を分離するために使用される。
【0034】
ウイルス分離具100は、主な構成要素として、分離管20、及び保持部材30を備える。
【0035】
分離管20は、キャップ40が螺合するネジ溝21が形成された口部22と、管状の胴部23と、分離管20を遠心分離機(図示せず)にかけて遠心分離処理を行ったときに液体が溜まる先細形状の液溜め24とを有する。
【0036】
図2は、保持部材30の(a)上面図、(b)正面図、及び(c)下面図である。保持部材30は、分離管20の内部に装着され、吸収体Xを載置するプレート部31と、当該プレート部31から下方に突出する柱部32とを備える。プレート部31は分離管20の口部22から胴部23にかけて挿入可能なように、分離管20の断面形状よりも若干小さいサイズに構成される。プレート部31の上には、ウイルスを含む液体を染み込ませた吸収体Xが載置される。また、プレート部31の外周縁には、図2(a)に示すように、4つの溝33が形成されている。この溝33にピンセット等の工具を引っ掛けることにより、保持部材30を分離管20の内部から容易に取り出すことができる。
【0037】
柱部32は、図2(c)に示すように、十字形状の断面を有している。この十字断面形状により、保持部材30を分離管20の内部に装着すると、柱部32は、その下方端部34が液溜め24の内壁に四点で接触し、安定する。このようにして、プレート部31の上に載置した吸収体Xは、液溜め24から離間した状態で安定保持される。また、点接触による支持構造は、保持部材30を液溜め24から引き上げた場合水切れが良く、液体成分の保持部材30への付着量を少なくすることができる。
【0038】
〔ウイルス分離方法〕
次に、本発明のウイルス分離方法について説明する。図3は、分離管20の内部に保持部材30を装着し(装着工程)、プレート部31の上に吸収体Xを載置して液溜めから離間状態で保持し(保持工程)、分離管30の口部22のネジ溝21にキャップ40を螺合して密封したウイルス分離具について、(A)遠心分離処理を行う前の状態、及び(B)遠心分離処理を行った後の状態を示す模式図である。
【0039】
吸収体Xからウイルスを含む液体成分を分離する分離工程は、ウイルス分離具100を遠心分離機にかけて遠心分離処理をすることで実行される。遠心分離処理を実行すると、図3(B)に示すように、プレート部31の上に載置した吸収体Xは遠心力により圧縮され、ウイルスを含む液体成分は吸収体Xの外部に離脱する。そして、液体成分は、プレート部31の外周縁と分離管の内周面との隙間、及びプレート部材31の外周縁に形成した溝33を通過し、図2(B)中のYで示すように、液溜め24に溜まる。
【0040】
一方、吸収体Xは、プレート部31によって液溜め24から離間した状態のまま保持される。このように、プレート部31の外周縁を分離管20の内周面から非接触状態とすることで、吸収体Xに含まれる液体成分が液溜め24の方へ移動する液透過構造が構成される。なお、この分離して得た液体成分は、診断又は研究用の検体として好適に供することができる。
【実施例1】
【0041】
次に、本発明のウイルス分離具100を用いて行った実施例について説明する。本実施例で使用したウイルス分離具の仕様、及びウイルス分離方法の条件は以下のとおりである。
【0042】
(1)分離管
・容量15mlのプラスチック製チューブを使用
・分離管の内径:13mm
・分離管の胴部の長さ:96mm
・分離管の液溜めの深さ:22mm
(2)保持部材
・容量1mlのシリンジ内筒の先端ゴム部を切断したものを使用
・プレート部の直径:12mm
・プレート部の厚み:1mm
・柱部の長さ:55mm
・柱部の幅:8mm
(3)遠心分離処理条件
・毎分4000回転で1〜6分間処理
(4)液体成分の回収率測定方法
・遠心分離処理前後の吸収体の重量変化から算出
上記(1)〜(4)の条件で、吸収体Xとしての脱脂綿(1g)にウイルスを含む液体成分を模した水2ccを含ませたサンプルについて分離テストを行った。その結果、吸収体Xに含まれていた水2ccのうち、遠心分離処理1分後では1.55cc(77.4%)、3分後では1.57cc(78.6%)、6分後では1.59cc(79.6%)を回収することができた。
【実施例2】
【0043】
実施例1の(1)〜(4)の条件で、吸収体Xとしてのガーゼ(1g)にウイルスを含む液体成分を模した水2ccを含ませたサンプルについて分離テストを行った。その結果、吸収体Xに含まれていた水2ccのうち、遠心分離処理1分後では1.64cc(82.0%)、3分後では1.67cc(83.5%)、6分後では1.69cc(84.3%)を回収することができた。
【実施例3】
【0044】
実施例1の(1)〜(4)の条件で、吸収体Xとしてのポリエステルファイバー(1g)にウイルスを含む液体成分を模した水2ccを含ませたサンプルについて分離テストを行った。なお、このポリエステルファイバーは、水ろ過材として使用されるものを転用した。その結果、吸収体Xに含まれていた水2ccのうち、遠心分離処理1分後では1.91cc(95.3%)、3分後では1.93cc(96.6%)、6分後では1.95cc(97.3%)を回収することができた。
【実施例4】
【0045】
実施例1の(1)〜(4)の条件で、吸収体Xとしての脱脂綿(0.33g)、ガーゼ(0.33g)、及びポリエステルファイバー(0.33g)の混合物にウイルスを含む液体成分を模した水2ccを含ませたサンプルについて分離テストを行った。その結果、吸収体Xに含まれていた水2ccのうち、遠心分離処理1分後では1.74cc(87.2%)、3分後では1.78cc(89.0%)、6分後では1.81cc(90.7%)を回収することができた。
【0046】
上記実施例1〜4から分かるように、吸収体Xに含ませた液体成分の回収率は吸収体Xの材質により異なるが、いずれの場合においても、インフルエンザウイルス等の呼吸器系ウイルスを検出するためには十分な量を回収することができた。特に、吸収体Xとしてポリエステルファイバーを用いた実施例3では、優れた回収率を達成することができた。
なお、液体成分の回収率は遠心分離処理における遠心条件によっても変化する。
【0047】
〔別実施形態〕
<1>上記実施形態では、プレート部31の外周縁を分離管20の内周面から非接触状態とすることで液透過構造を実現しているが、プレート部31の代わりに、例えば、吸収体Xの移動を阻止し、液体成分のみを通過させる網構造物や多孔質体を採用することも可能である。
【0048】
<2>上記実施形態では、柱部32の断面を十字形状としているが、液溜め24の内壁に二点以上で接触するものであれば、他の形状でも構わない。また、点接触でなく、線接触する構成とすることも可能である。
【0049】
<3>上記実施形態では、プレート部31の外周縁に4つの溝33を形成しているが、溝の数は2つ以上であれば任意に設定することができる。
【0050】
<4>保持部材30の柱部32の長さは、分離管20の内部に収容できる範囲であれば、任意に設定することができる。吸収体Xの種類や形状、吸収体Xに含まれる液体成分の量、遠心分離機の性能等に応じて、柱部32の長さが最適となるように調整することができる。なお、保持部材30がプラスチック製であれば、長さ調整のための切断が容易である。
【0051】
<5>上記実施形態では、ウイルスを含む液体成分として、本発明者が先に発明したウイルス採取具で採取した液体を対象としているが、これ以外の応用も可能である。例えば、他物質に付着した血痕、痰、唾液、尿、精液等を生理食塩水等で湿らせたガーゼで拭き取り、これを分析するためのサンプルを調製するために、本発明を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のウイルス分離具、及びウイルス分離方法は、インフルエンザウイルス等のウイルス検査のための検体調製に好適に利用することができる。さらに、各種化学工業における分析サンプルの調製、食品検査における分析サンプルの調製、及び警察等の科学捜査における分析サンプルの調製等にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のウイルス分離具を例示する分解模式図
【図2】保持部材の(a)上面図、(b)正面図、及び(c)下面図
【図3】ウイルス分離具について、(A)遠心分離処理を行う前の状態、及び(B)遠心分離処理を行った後の状態を示す模式図
【図4】ウイルス採取具を例示する模式図
【符号の説明】
【0054】
10 ウイルス採取具
20 分離管
24 液溜め
30 保持部材
31 プレート部
32 柱部
33 溝
100 ウイルス分離具
X 吸収体
Y 液体成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させるウイルス採取具で採取した前記ウイルスを含む液体成分を、前記ウイルス採取具の内部に設置した前記液体成分を含む吸収体から分離するウイルス分離具であって、
遠心分離処理を行うための液溜めを有する分離管と、
前記分離管の内部に装着され、前記吸収体を前記液溜めから離間した状態で保持する保持部材と、
を備え、
前記遠心分離処理が行われたときに、前記吸収体に含まれる前記液体成分のみが前記液溜めに移動するように、前記保持部材を液透過構造に構成してあるウイルス分離具。
【請求項2】
前記保持部材は、前記吸収体を載置するプレート部と、当該プレート部から前記液溜めの方向に延伸する柱部とを備え、
前記液透過構造として、前記プレート部の外周縁を前記分離管の内周面から非接触状態にしてある請求項1に記載のウイルス分離具。
【請求項3】
前記プレート部の外周縁に複数の溝を形成してある請求項2に記載のウイルス分離具。
【請求項4】
前記柱部は前記液溜めと点接触又は線接触するように構成してある請求項2又は3に記載のウイルス分離具。
【請求項5】
ウイルスに感染した患者の呼気に含まれる水蒸気を凝縮させるウイルス採取具で採取した前記ウイルスを含む液体成分を、前記ウイルス採取具の内部に設置した前記液体成分を含む吸収体から分離するウイルス分離方法であって、
液溜めを有する分離管の内部に保持部材を装着する装着工程と、
前記保持部材に前記液溜めから離間した状態で前記吸収体を保持させる保持工程と、
遠心分離処理により、前記吸収体に含まれる前記液体成分のみを前記液溜めに移動させる分離工程と、
を包含するウイルス分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−28053(P2009−28053A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2008−260355(P2008−260355)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(508050808)医療法人宏知会 (2)
【Fターム(参考)】