説明

インプットシェーピングのためのホイスト長さ測定方法

インプットシェーピングのためのホイスト長さ測定方法は、ホイスト長さLを、初期長さ(Linit=L0+L1)に設定する第一ステップと、ホイストが動作を開始した後、予め設定した時間が経過した否かを判定する第二ステップと、予め設定した時間が経過した場合、フックが下降中若しくは上昇中であるかを判定する第三ステップと、フックが下降中若しくは上昇中である場合、それぞれに該当する次式を適用して判定時点でのホイスト長さLを算出する第四ステップとを主に具備する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプットシェーピングのためのホイスト長さ測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動制御方法の一つであるインプットシェーピング(input shaping:入力整形)の制御は、対象物の振動に対して逆位相の振動を付与して対象物の移動開始時、または停止時の対象物の揺動を最小化する制御をいう。これに関連する特許は、特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0003】
このようなインプットシェーピングの制御をクレーンに適用するためには、対象物の移動時に発生するホイストの固有振動数を算出し、この固有振動数の逆位相に対応するインプットシェーピングを発生させる必要がある。このとき、固有振動数を算出するためには、ホイストの長さがリアルタイムで測定されなければならない。
【0004】
これを図1を参照して具体的に説明する。クレーンを例にすると、図1のような大型構造物の天井に設置されたレール12にスライド可能に駆動部14が装着される。駆動部14の下部にはホイストが設置され、このホイストはモータと当該モータに長さ調整可能に接続されたロープ16とから構成され、ロープ16の下端部には対象物10が固定される。
【0005】
このクレーンにおいて、駆動部14を移動させると、ホイストに固定された対象物10は移動するが、対象物10は移動開始時、または停止時に周期的な揺れが発生するため、対象物10を希望経路に移動させることができず、対象物10を正確な位置に停止させることが難しいとともに、対象物10が完全に停止するまでに時間が必要される。
【0006】
ここで、ホイストの固有振動数をω、重力加速度をg、及びホイスト長さ、すなわち、駆動部14から対象物10までの距離をlとすると、ホイストの固有振動数は次式(数1)で表される。したがって、対象物10の固有振動数は、ホイスト長さlによって決定されることがわかる。
【0007】
【数1】

【0008】
さらに、ホイスト長さを算出する方法として、特許文献3では、ホイストと駆動部との間に超音波センサ部を設置し、駆動部またはホイストに反射した超音波を検出し、ホイスト長さを測定する方法が開示されている。しかしながら、この方法によれば、ホイストが揺れるため、超音波発振部と受信部とが一致していないか、或いは超音波センサそのものがその他の影響を受けるため、信頼性に欠ける問題点を有している。また、高価な超音波センサを設置しなければならないため、装備の製造コストが上昇するという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、ホイスト長さを高い信頼性で測定することができ、高価な装置を追加する必要がなく、ホイスト長さをリアルタイムで正確に測定できることが可能なホイスト長さの測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、ホイスト長さLを、初期長さ(Linit=L0+L1)に設定する第一ステップと、ホイストが動作を開始した後、サンプリング時間が経過したか否かを判定する第二ステップと、前記サンプリング時間が経過している場合、前記フックが下降中若しくは上昇中であるかを判定する第三ステップと、前記フックが下降中若しくは上昇中である場合、それぞれに該当する次式を適用してサンプリング時点でのホイスト長さLを算出する第四ステップとを含むホイスト長さの測定方法によって達成することができる。
【0011】
ここで、L0はホイストのフックが上限位置に到達した状態で、前記フックの中心と前記ホイストのモータの軸の中心間の距離に相当し、L1は前記フックの中心と前記フックにぶら下がった対象物の中心間の距離に相当し、上昇時L=L−ΔL、下降時L=L+ΔLの式に適用し、ΔLは前記フックの上昇速度または下降速度×サンプリング時間に相当し、前記フックの上昇または下降に伴う長さ変化を示している。
【0012】
さらに、第三ステップでは、フックが上昇中の場合、フックが上限位置に到達したか否かを判定し、フックが上限位置に到達している場合、ホイスト長さを初期長さに設定する。さらに、前記第三ステップでは、フックが上昇中の場合、フックが上限位置に到達したか否かを判定し、フックが上限位置に到達していない場合、第四ステップに移行することができる。
【0013】
さらに、第四ステップでは、フックが上昇中の場合、ホイスト長さを算出した後、算出されたホイスト長さが初期長さよりも大きい場合、算出されたホイスト長さをそのまま設定し、初期長さよりも小さい場合、算出したホイスト長さを初期長さに設定することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記構成によれば、ホイスト長さを高い信頼性で測定することができ、高価な装置を追加する必要がなく、ホイストの長さをリアルタイムで正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インプットシェーピングを説明するための概念図である。
【図2】ホイスト長さの測定方法が適用されるクレーンを概略的に示す斜視図である。
【図3】ホイスト長さの測定方法を説明するために、図2のクレーンの構造を単純化した構成図である。
【図4】本発明のホイスト長さの測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付した図面を参照して本発明のインプットシェーピングのためのホイスト長さの測定方法の実施例を詳細に説明する。ここで、図2は本発明のホイスト長さの測定方法が適用されるクレーンの概要を示す斜視図である。
【0017】
図2によると、水平移送ユニット100と垂直移送ユニット200、及び、制御コントローラ300が互いに結合した単一ユニットを組んでレール(図示しない)にスライド可能に装着される。
【0018】
垂直移送ユニット200のモータ210のモータの軸にロープ250の一端が連結され、その他は制御コントローラ300に連結され、中間に対象物を把持するフック400が装着され、モータ210の回転によりロープ250を巻き込むことでフック400が上昇または下降する。
【0019】
垂直移送ユニット200の一端に固定されたサポート220は、ロープ250の間に延設され、その裏面には接触センサ230が設置され、後述するフック400が上昇時の上限位置で接触センサ230と接触する。
【0020】
制御コントローラ300には、ペンダントタイプのスイッチボックス320が連結され、当該スイッチボックス320には上昇、下降、または停止のための操作ボタンが設置される。
【0021】
図3は本発明のホイスト長さの測定方法を説明するために、図2のクレーンの構造を単純化した構成図である。
【0022】
図3によると、L0は、フック400が上限位置にある状態、換言すると、フック400が接触センサ230と接触した状態であり、フック400の中心と垂直移送ユニット200のモータ210のモータ軸の中心間の距離に相当する。
【0023】
また、L1はフック400の中心とフック400にぶら下がる対象物10の中心間の距離に相当する。
【0024】
したがって、ホイスト長さL=L0+L1+ΔL=Linit+ΔLとなり、ここで、Linitは初期長さを示し、ΔLはフック400の上昇または下降に伴う長さ変化を意味し、上昇速度(または、下降速度)×設定時間によって算出される。
【0025】
以下、本発明のホイスト長さの測定方法を図2〜図4を参照して説明する。図4は本発明のホイスト長さの測定方法を示すフローチャートである。
【0026】
ここで、説明を簡略化するため、フック400は予め上限高さ位置にセットされ、下降して対象物をピックアップして移送する場合を例示する。
【0027】
まず、初期設定値を入力する(ステップS41)。すなわち、駆動されるクレーンの種類に応じて対象物の上昇、または下降速度(または、フックの上昇または下降速度)が異なることがあり、その他の構造と関連して、前述した長さL0とL1が異なることがある。したがって、初期設定値で対象物の上昇速度、下降速度、設定時間、フックと対象物間の距離L1、及びフックの上限で、かつモータ軸との距離L0の値をそれぞれ入力する。
【0028】
ここで、設定時間はホイストの長さ変化を算出するために設定されたサンプリング時間に相当し、入力された初期設定値は制御コントローラ300のメモリに保存される。また、初期設定値は操作者によって何時でも変更することが可能である。
【0029】
次に、設定時間が経過したのか否かを判定する(ステップS42)。設定時間は、例えば、30ms程度に設定することができ、設定時間を経過していないと復帰して設定時間の経過を継続してチェックする。
【0030】
ステップS42で、設定時間が経過したと判定すると、フックが下降しているかどうかを判定する(ステップS43)。そのためには、スイッチボックス320の下降ボタンが操作者によって押されたかをチェックし、下降ボタンからの押下信号が検出されると下降しているものと判定する。
【0031】
次に、ステップS44で現時点のホイスト長さLを算出する(ステップS45)。具体的には、ホイスト長さL=L+ΔLによって算出され、ここではΔLはフック400の下降速度と設定時間の積として算出される。
【0032】
続いて、ステップS50で算出されたホイスト長さLに基づいて、固有振動数を計算し(数2)、計算された固有振動数によって振動周期を計算し(数3)、この振動の周期を持つ逆位相の振動を付与してクレーンを制御する。
【0033】
【数2】

【0034】
【数3】

【0035】
ここで、Tは振動周期、ωはホイストの固有振動数、gは重力加速度、及びlはステップS44で算出されたホイスト長さを示す。
【0036】
このように、上記のステップS42〜ステップS50を繰り返しながら、ホイストが対象物のある地点まで下降し、下降ボタンから手を離し、別の操作をしなければ、ステップS42→ステップS43→ステップS45→ステップS42とされる繰り返しループを実行する。
【0037】
このとき、操作者はホイストのフック400を対象物に掛け、続いて上昇ボタンを押す。このように、上昇ボタンが押されることによりステップS43で、フック400が下降していないと判定されると、ステップS45でフックが上昇しているかどうかを判定する。
【0038】
ステップ45で、フック400が上昇していると判定されると、フック400が接触センサ230に接触したか否かを判定する(ステップS46)。すなわち、フック400が上限位置に到達し、これ以上上昇することができない状態にあるかどうかを判定する。ここで、判定は接触センサ230から送信される検知信号を受信することで判定することができる。
【0039】
ステップS46で、フック400が接触センサ230と接触していないと判定されると、現在のサンプリング時点でのホイスト長さLを算出する(ステップS47)。具体的には、ホイスト長さL=L−ΔLによって算出され、ここで、ΔLはフック400の上昇速度と設定時間の積として算出される。
【0040】
次に、ステップS48で、現在のホイスト長さLが初期長さLinitより小さいか否かを判定し、初期長さLinitより大きいと判定されると、ステップS50で算出されたホイスト長さLに基づいて固有振動数を計算し、計算された固有振動数に応じて振動周期を計算し、当該振動周期が有する逆位相の振動を付与してクレーンを制御する。
【0041】
一方、フック400が接触センサ230と接触したと判定される場合には、ステップS48で現在のホイスト長さLが初期長さLinitより小さいと判定した場合には、ステップS49でホイスト長さLを初期長さLinitに設置し、これに基づいてステップS50で振動周期を算出し、クレーンを制御する。
【0042】
以上、本発明の実施例を中心に説明したが、当業者のレベルと同様な変更を加えることが勿論可能である。したがって、本発明の権利範囲は前述した実施例に限定されて解釈することができず、以下に記載されている特許請求の範囲によって解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0043】
10 対象物
12 レール
14 駆動部
16,250 ロープ
100 水平移送センサ
200 垂直移送ユニット
210 モータ
220 サポート
230 接触センサ
300 制御コントローラ
320 スイッチボックス
400 フック
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】米国特許第4997095号明細書
【特許文献2】米国特許第5638267号明細書
【特許文献3】韓国登録実用新案第0437295号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイスト長さLを、初期長さ(Linit=L0+L1)に設定する第一ステップ(ここで、L0はホイストのフックが上限位置に到達した状態で、前記フックの中心と前記ホイストのモータの軸の中心間の距離に相当し、L1は前記フックの中心と前記フックにぶら下がった対象物の中心間の距離に相当する)と、
前記ホイストが動作を開始した後、サンプリング時間が経過したか否かを判定する第二ステップと、
前記サンプリング時間が経過している場合、前記フックが下降中若しくは上昇中であるかを判定する第三ステップと、
前記フックが下降中若しくは上昇中である場合、それぞれに該当する次式を適用してサンプリング時点でのホイスト長さLを算出する第四ステップと
を含むことを特徴とするインプットシェーピングのためのホイスト長さ測定方法。
上昇時 L=L−ΔL
下降時 L=L+ΔL
(ここで、ΔLは前記フックの上昇速度または下降速度×サンプリング時間に相当し、前記フックの上昇または下降に伴う長さ変化を意味する)
【請求項2】
請求項1において、前記第三ステップは、
前記フックが上昇中の場合、前記上限位置に到達したか否かを判定し、
前記フックが前記上限位置に到達している場合、前記ホイスト長さを初期長さに設定することを特徴とするインプットシェーピングのためのホイスト長さ測定方法。
【請求項3】
請求項1において、前記第三ステップは、
前記フックが上昇中の場合、前記フックが前記上限位置に到達したか否かを判定し、
前記フックが前記上限位置に到達していない場合、前記第四ステップに移行することを特徴とするインプットシェーピングのためのホイスト長さ測定方法。
【請求項4】
請求項1において、前記第四ステップは、
前記フックが上昇中の場合、前記ホイスト長さを算出した後、算出された前記ホイスト長さが前記初期長さよりも大きい場合、算出された前記ホイスト長さをそのまま設定し、
前記初期長さよりも小さい場合、前記ホイスト長さを前記初期長さに設定することを特徴とするインプットシェーピングのためのホイスト長さ測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−529409(P2012−529409A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514874(P2012−514874)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003152
【国際公開番号】WO2010/143824
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511295748)