説明

インプラントフィクスチャー

【課題】骨結合を強固にできるインプラントフィクスチャーを提供すること。
【解決手段】棒状の本体部1aと、本体部1aの外周面に形成された突起部5と、外周面において、突起部5よりも低く、少なくとも両側を突起部5で囲まれた凹部7と、を有するインプラントフィクスチャー1。突起部5及び凹部7としては、それぞれ、円形又は楕円形のものがある。また、突起部5を、一対の突条とし、凹部7は一対の突条により両側を挟まれた溝としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、歯科、整形外科、形成外科、口腔外科等の分野において、人工歯、人工骨として用いられるインプラントフィクスチャーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工歯根、人工骨などのインプラントフィクスチャーを生体に挿入し、失われた機能を回復させる、いわゆるインプラントテクノロジーが注目されている。
【0003】
例えば、歯科の分野では、歯の欠損した部位の歯肉を切開した後、ドリル等を用いて顎骨に所定の大きさの埋入窩を形成し、その埋入窩にインプラントフィクスチャーを埋入する。そして、一定の保持期間を設け、インプラントフィクスチャーの表面と、その表面に接する骨とをミクロレベルで結合させる(骨結合)。次に、インプラントフィクスチャーに、直接、又はアバットメントを介して、上部構造(クラウン)が取り付けられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−245994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インプラントフィクスチャーの表面と、その表面に接する骨との骨結合が、所定の保持期間が経過しても、充分強固にならない場合がある。この場合は、インプラントフィクスチャーにアバットメントや上部構造を取り付けようとして、インプラントフィクスチャーに力が加わると、インプラントフィクスチャーと骨との骨結合が破壊されてしまうおそれがある。また、骨結合を充分強固にするために、非常に長い保持期間を要することがある。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、骨結合を強固にできるインプラントフィクスチャーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインプラントフィクスチャーは、棒状の本体部と、前記本体部の外周面に形成された突起部と、前記外周面において、前記突起部よりも低く、少なくとも両側を前記突起部で囲まれた凹部と、を有することを特徴とする。
本発明のインプラントフィクスチャーは、上述したような突起部と凹部とを備えることにより、それらを備えない場合に比べて、骨との骨結合が強固になる。また、インプラントフィクスチャーを埋入してから、骨結合が所定の強度に達するまでに要する保持期間が短くてすむ。
【0008】
本発明における突起部と凹部の形態としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
(1)凹部は、その周囲全てを突起部で囲まれている。
(2)突起部及び凹部は、それぞれ、棒状の本体部の径方向から見て、円形又は楕円形である。
(3)突起部は一対の突条であり、凹部は、一対の突条により両側を挟まれた溝である。
(4)突起部は突条であり、凹部はその突条における外周面に形成された円形又は楕円形の凹部である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インプラントフィクスチャー1の外観を表す正面図である。
【図2】図1のA−A断面における断面図である。
【図3】突起部5及び凹部7の構成を表す説明図であって、(a)は正面図であり、(b)は(a)におけるB−B断面での断面図であり、(c)は(a)におけるC−C断面での断面図である。
【図4】インプラントフィクスチャー1の外観を表す正面図である。
【図5】インプラントフィクスチャー1の外観を表す正面図である。
【図6】図5のD−D断面における断面図である。
【図7】インプラントフィクスチャー1の外観を表す正面図である。
【図8】(a)は図7のE−E断面における断面図であり、(b)は図7のF−F断面における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0011】
a)インプラントフィクスチャー1の構成
インプラントフィクスチャー1の構成を、図1及び図2に基づいて説明する。図1はインプラントフィクスチャー1の正面図であり、図2は、図1のA−A断面における断面図である。
【0012】
インプラントフィクスチャー1は、生体に埋設される埋設部1aと、生体から露出し、上部構造物(図示略)が装着される露出部1bとから成る。埋設部1aは、棒状(先端にゆくほど直径が小さくなる円筒状)の形状を有し、その外周面のうち、上端付近には、断面6角形のナット部3が形成されている。このナット部3にスパナ等を装着し、埋設部1aを回転させることにより、埋設部1aを生体にねじ込むことができる。また、埋設部1aの外周面のうち、ナット部3以外の部分には、突起部5と凹部7とが形成されている。
【0013】
上記突起部5は、埋設部1aの外周面から、埋設部1aの径方向に突出する。突起部5は、円筒形状を有し、その円筒形状における軸方向は、埋設部1aの径方向と平行である。突起部5は、図1に示すように、埋設部1aの外周面に複数形成され、螺旋状に配列されている。
上記凹部7は、突起部5の中央部に位置し、周囲を突起部5で囲まれている。凹部7の、埋設部1aの径方向から見たときの形状は円形である。凹部7は、図2に示すように、埋設部1aの径方向に関して、突起部5よりも低い部分である。凹部7の底7aは、埋設部1aの径方向に関して、埋設部1aの外周面(突起部5以外の部分)と面一であってもよいし、外周面より高く(外周面よりも外側に突出し)てもよいし、外周面より低く(外周面よりも陥没し)てもよい。
突起部5の根本の部分(埋設部1aの外周面に接する部分)における直径d1(図2参照)は、100〜1500μm(好ましくは200〜800μm)の範囲内で設定できる。
突起部5の、埋設部1aの外周面からの高さh1(図2参照)は、50〜1000μm(好ましくは100〜500μm)の範囲内で設定できる。
凹部7の直径d2(図2参照)は、直径d1よりも小さい値であって、50〜1000μm(好ましくは100〜500μm)の範囲内で設定できる。
凹部7の深さh2(図2参照)は、20〜1000μm(好ましくは50〜500μm)の範囲内で設定できる。
【0014】
インプラントフィクスチャー1は、次の方法で製造できる。まず、ジルコニアセラミックスの粉末から成る成形体を、粉末プレス法により作成する。次に、この成形体を炉の中で1300〜1500℃にて焼成し、セラミックス焼結体を得る。このセラミックス焼結体を、ダイヤモンドツールを研削治具として有するマシニングセンターにより、図1及び図2に示す形状に機械加工し、インプラントフィクスチャー1を得る。
【0015】
また、その他の方法として、図1及び図2に示すインプラントフィクスチャー1の型を予め作成しておき、その型を用いて粉末プレス法で製造してもよい。さらに、一般的に用いられるセラミックスの成形技術を用いて製造することもできる。
なお、インプラントフィクスチャー1の表面は、さらに、フッ酸等を用いて、細かい(突起部5や凹部7の大きさに比べて小さい)凹凸をつけることができる。この細かい凹凸としては、5〜25μmの大きさの孔が多数形成されたものが好ましい。
【0016】
なお、突起部5の形状及び凹部7の形状は、埋設部1aの径方向から見たとき、図3(a)に示すように、楕円形であってもよい。この楕円形の長軸方向は、突起部5が配列する螺旋の方向に平行であってもよいし、他の方向であってもよい。なお、図3(a)は、埋設部1aの径方向から見たときの突起部5及び凹部7を表す図面であり、図3(b)は図3(a)のB−B断面(楕円形の短軸を通る断面)における断面図であり、図3(c)は図3(a)のC−C断面(楕円形の長軸を通る断面)における断面図である。
【0017】
楕円形の突起部5や凹部7においても、その直径、高さ、深さは、前述した円形の突起部5や凹部7の場合と同様とすることができる。
(b)インプラントフィクスチャー1の使用方法
歯の欠損した部位の歯肉を切開した後、ドリル等を用いて顎骨に所定の大きさの埋入窩を形成し、その埋入窩にインプラントフィクスチャー1のうち、埋設部1aを埋入する。そして、一定の保持期間を設け、インプラントフィクスチャー1の表面と、その表面に接する骨とをミクロレベルで結合させる(骨結合)。次に、所定の保持期間の後、インプラントフィクスチャー1に、直接、又はアバットメント(図示略)を介して、上部構造(クラウン、図示略)を取り付ける。
(c)インプラントフィクスチャー1が奏する効果
インプラントフィクスチャー1は、埋設部1aの外周面に突起部5及び凹部7を備えることにより、それらを備えない場合に比べて、骨結合が強固になる。また、インプラントフィクスチャー1を埋入してから、骨結合が所定の強度に達するまでに要する保持期間が短くてすむ。
上記の効果は、実験により確認することができる。その実験方法としては、以下のものが挙げられる。
インプラントフィクスチャー1を、生体骨(例えばうさぎの骨)に埋め込み、約1ヶ月間、骨の成長を観察する。その後、生体骨に埋め込まれた状態のインプラントフィクスチャー1を、その中心軸を中心として回転させるのに必要なトルクと、インプラントフィクスチャー1を生体骨から引き抜くのに必要な引っ張り力とを測定する。そして、上記のトルクと引っ張り力とから、インプラントフィクスチャー1の生体骨への固着力(骨結合の強さ)を評価する。
このとき、比較例として、以下のR1〜R3も同時に試験し、本実施例1のインプラントフィクスチャー1の試験結果と対比することにより、本実施例1のインプラントフィクスチャー1が奏する効果を示すことができる。
(R1)埋設部1aの外周面に、円盤状の突起部のみを備える(凹部7が形成されていない)もの
(R2)埋設部1aの外周面に、円形の窪みのみが形成されたもの(突起部5が形成されていない)もの
(R3)埋設部1aの外周面に、円盤状の突起部と、円形の窪みとが、別々の場所に形成されている(凹部の周囲が突起部で囲まれていない)もの
なお、上述したように、インプラントフィクスチャー1の表面に、フッ酸等を用いて、細かい凹凸を形成すると、骨結合が一層強固になる。
【実施例2】
【0018】
本実施例2のインプラントフィクスチャー1の構成は、基本的には前記実施例1と同じであり、前記実施例1の場合と同様に製造することができる。ただし、突起部5及び凹部7は、図4に示すように、埋設部1aの外周面において、ランダムに配置されている。なお、図4はインプラントフィクスチャー1の正面図である。
本実施例2のインプラントフィクスチャー1も、前記実施例1と略同様の効果を奏することができる。
【実施例3】
【0019】
本実施例3のインプラントフィクスチャー1の構成は、基本的には前記実施例1と同じであり、前記実施例1の場合と同様に製造することができる。ただし、本実施例3では、埋設部1aの外周面に、突起部5及び凹部7は形成されておらず、代わりに、図5及び図6に示すように、突条対9及び溝11が形成されている。なお、図5はインプラントフィクスチャー1の正面図であり、図6は図5のD−D断面での断面図である。
上記突条対9は、図5に示すように、埋設部1aの外周面に螺旋状に形成されている。突条対9は、一定の間隔をおいて平行に配置された、第1の突条13と第2の突条15とから成る。溝11は、第1の突条13と第2の突条15とにより両側を挟まれた部分である。
図6に示すように、第1の突条13及び第2の突条15は、それぞれ、埋設部1aの外周面から、埋設部1aの径方向に突出する。溝11は、埋設部1aの径方向に関して、第1の突条13及び第2の突条15よりも低い部分である。溝11の底11aは、埋設部1aの径方向に関し、埋設部1aの外周面(第1の突条13及び第2の突条15以外の部分)と面一であってもよいし、外周面より高く(外周面よりも外側に突出し)てもよいし、外周面より低く(外周面よりも陥没し)てもよい。
第1の突条13の根本の部分における外側から、第2の突条15の根本の部分における外側までの幅w1(図6参照)は、100〜1500μm(好ましくは200〜800μm)の範囲内で設定できる。
第1の突条13及び第2の突条15の、埋設部1aの外周面からの高さh3(図6参照)は、50〜1000μm(好ましくは100〜500μm)の範囲内で設定できる。
溝11の、入り口付近における幅w2(図6参照)は、幅W1より小さい値であって、50〜1000μm(好ましくは100〜500μm)の範囲内で設定できる。
溝11の深さh4(図6参照)は、20〜1000μm(好ましくは50〜500μm)の範囲内で設定できる。
本実施例3のインプラントフィクスチャー1も、前記実施例1と略同様の効果を奏することができる。
【実施例4】
【0020】
本実施例4のインプラントフィクスチャー1の構成は、基本的には前記実施例1と同じであり、前記実施例1の場合と同様に製造することができる。ただし、本実施例4では、埋設部1aの外周面に、突起部5及び凹部7は形成されておらず、代わりに、図7及び図8に示すように、突条17及び凹部19が形成されている。なお、図7はインプラントフィクスチャー1の正面図であり、図8(a)は図7のE−E断面での断面図であり、図8(b)は図7のF−F断面での断面図である。
上記突条17は、図7に示すように、埋設部1aの外周面に螺旋状に形成されている。凹部19は、突条17の外周面17aに複数形成された円形の窪みであって、突条17の長手方向に沿って、所定の間隔を空けて配列されている。
図8(a)及び(b)に示すように、突条17は、埋設部1aの外周面から、埋設部1aの径方向に突出する。凹部19は、埋設部1aの径方向に関して、突条17よりも低い部分である。凹部19の底19aは、埋設部1aの径方向に関し、埋設部1aの外周面(突条17以外の部分)と面一であってもよいし、外周面より高く(外周面よりも外側に突出し)てもよいし、外周面より低く(外周面よりも陥没し)てもよい。また、突条17において、凹部19間の部分では、図8(b)に示すように、一定の高さとなっている。
本実施例4のインプラントフィクスチャー1も、前記実施例1と略同様の効果を奏することができる。
なお、凹部19の、埋設部1aの径方向から見たときの形状は、楕円であってもよい。その場合、楕円の長軸方向は、突条17の長手方向と平行であってもよいし、その他の方向であってもよい。
尚、本発明は前記実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、インプラントフィクスチャー1の材質は、他のセラミックスや金属(例えばチタン)であってもよい。
【符号の説明】
【0021】
1・・・インプラントフィクスチャー、1a・・・埋設部、1b・・・露出部、
3・・・ナット部、5・・・突起部、7・・・凹部、
7a、11a、19a・・・底、9・・・突条対、11・・・溝、13・・・第1の突条、15・・・第2の突条、17・・・突条、17a・・・外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の本体部と、
前記本体部の外周面に形成された突起部と、
前記外周面において、前記突起部よりも低く、少なくとも両側を前記突起部で囲まれた凹部と、
を有することを特徴とするインプラントフィクスチャー。
【請求項2】
前記凹部は、その周囲を前記突起部で囲まれていることを特徴とする請求項1記載のインプラントフィクスチャー。
【請求項3】
前記突起部及び前記凹部は、それぞれ、円形又は楕円形であることを特徴とする請求項2記載のインプラントフィクスチャー。
【請求項4】
前記突起部は、一対の突条であり、
前記凹部は前記一対の突条により両側を挟まれた溝であることを特徴とする請求項1記載のインプラントフィクスチャー。
【請求項5】
前記突起部は、突条であり、
前記凹部は前記突条に形成された円形又は楕円形の凹部であることを特徴とする請求項1記載のインプラントフィクスチャー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−194170(P2010−194170A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44259(P2009−44259)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】