説明

ウィック構造

【課題】ウィックを流れる作動液の移動方向を積極的に制御すること。
【解決手段】断面扁平形状のコンテナの内部に設けられ、毛細管現象により作動液を移動させるための通路を形成するウィック構造であって、前記コンテナの内部にボンディング結合により設けた複数の線材107aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器などの冷却に使用するヒートパイプのウィックの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の発達は目覚ましく、これに伴い電子機器に搭載されるCPU等のデバイスの多機能化及び処理の高速化が望まれている。デバイスの多機能化等に伴いデバイスから発生する熱量も多くなるが、適切な熱対策を行わないと熱暴走によりシステムが正常に機能しなくなる恐れがある。また、電子機器の小型化に伴い電子機器に搭載されるデバイスもより小型化が求められている。デバイスからの発熱はデバイス表面から放熱されるが、デバイスの小型化によりデバイスの表面積が小さくなるため、十分な放熱が期待できないおそれがある。
【0003】
上述のような事情から、電子機器の熱管理設計がより重要となる。電子機器の冷却装置として、ヒートパイプは小型化が容易で、かつ高い冷却効率を有することから、今後多くの電子機器に搭載されることが期待される。
【0004】
ヒートパイプはデバイスから発生する熱を放熱装置まで移動させるための装置である。典型的な構成は、熱伝導性が高い材質からなるパイプ中に揮発性の液体(作動液)を封入して構成したものであり、パイプの一端を加熱して作動液を蒸発させ、その蒸気をパイプの他端に移動させる。パイプの他端に移動した蒸気は冷却されて凝縮し、このときに熱を放出する。作動液の蒸発・凝縮を繰り返すために、凝縮した作動液を再びパイプの一端に戻す必要がある。作動液の移動は、毛細管現象を呈するウィックにより行う(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−130972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヒートパイプで使用されるウィックの構造の多くは、凝縮部と蒸発部との間をメッシュ、ファイバ束、粉末焼結等で接続して構成される。上述のようにウィックの役目は、作動液を凝縮から蒸発部へ移動させるためのものであることから、ウィックの構造も、単に凝縮部と蒸発部とを間をメッシュ等で接続しているに過ぎない。
【0007】
作動液はウィックを構成する金属線に沿って移動するため、例えば、メッシュで構成したウィックを移動する作動液の振る舞いは、編み目状の金属線に沿って、上下左右の方向に移動する様子を観察することができる。また、複数の繊維を束ねて構成されるファイバ束で構成されるウィックを移動する作動液の振る舞いは、蛇行する繊維に沿って、上下左右の方向に移動する様子を観察することができる。また、粉末焼結で構成したウィックを移動する作動液の振る舞いは、表面の凹凸に沿って、上下左右の方向に移動する様子を観察することができる。
【0008】
作動液をヒートパイプの凝縮部から蒸発部まで効率良く移動させるためには、凝縮部から蒸発部までを最短距離で移動させる必要がある。しかし、作動液がウィック内を上下左右の方向に移動するため、凝縮部から蒸発部までの距離が長くなってしまう。また、作動液が上下左右の方向に移動するため、作動液を移動させるための推進力となるベクトル成分が上下左右に分散してしまい、移動方向のベクトル成分が小さくなる。このため、作動液を効率良く移動させることができないという問題もある。
【0009】
さらに、単に凝縮部と蒸発部とを接続したに過ぎないウィックの構造は、ヒートパイプ内の空間を有効に利用しているとはいえない。すなわち、凝縮部の作動液は、凝縮により熱を放出しているとはいえ、ある程度の熱が残ったままの状態となる。凝縮部から蒸発部へ異動する途中でも作動液を冷却することは可能であるから、ヒートパイプ内に設置されるウィックをヒートパイプ内で温度が低い場所に設置することができれば、作動液が移動しているときでも作動液を積極的に冷却することができる。
【0010】
上述のように、従来のウィック構造は、単に凝縮部と蒸発部とを接続するというに過ぎず、ウィックを移動する作動液の振る舞いを制御するというものではない。作動液の移動方向を積極的に制御することができれば、上述のようにヒートパイプの凝縮部から蒸発部まで作動液を最短距離で移動させることは勿論、作動液を冷却させながら移動させるということも可能となる。
【0011】
本発明は上記知見に基づいてなされたもので、作動液の移動方向を積極的に制御することが可能なウィック構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、断面扁平形状のコンテナの内部に設けられ、毛細管現象により作動液を移動させるための通路を形成するウィック構造であって、前記コンテナの内部にボンディング結合により設けた複数の線材を備えることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、作動液を移動させるための通路となるウィックを、ボンディング結合される線材で構成することにより、線材の配置方向を自由自在に変えることができるため、作動液の移動方向を積極的に制御することができる。
【0014】
上記構成において、前記線材が直線状に配置されていることを特徴する。この構成によれば、線材を直線状に配置しているため、凝縮部と蒸発部との間を最短距離で結ぶことができる。
【0015】
また、上記構成において、前記線材が曲線状に配置されていることを特徴とする。この構成によれば、線材を曲線状に配置しているため、凝縮部から蒸発部まで移動する作動液を冷却させるために必要な距離を設けることが可能となる。また、線材を曲線状に配置させることにより、冷却装置内の空いている空間に線材を引き回しながら配置することができ、冷却装置内の空間を有効に利用することができる。
【0016】
また、上記構成において、前記線材が前記コンテナに形成した溝と該溝に隣接する稜線に続く面に一端を結合した状態で設けられていることを特徴とする。凝縮部から蒸発部まで移動する作動液が、面と線材表面に接触するため、多くの作動液を蒸発部へ戻すことができる。また、ボンディング結合により線材を配置するため、細密な溝に線材を設けることができ、冷却装置内の空間を有効に利用することができる。
【0017】
また、上記構成において、前記線材が前記コンテナに形成した溝に端部を結合した状態で設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作動液を移動させるための通路となるウィックを、線材のボンディング結合により構成することにより、線材の配置方向を自由自在に変えることができるため、作動液の移動方向を積極的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の一実施の形態の冷却装置を示す分解斜視図である。
【図2】図2はウィックの他の実施形態を示す図である。
【図3】図3はウィックのさらに他の実施形態を示す図である。
【図4】図4はウィックのさらに他の実施形態を示す図である。
【図5】図5はウィックのさらに他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明のウィック構造を備える冷却装置の一実施形態を示す分解斜視図である。冷却装置100は、断面扁平形状のコンテナを長径方向に分割した上層101と下層103とで構成され、上層101には作動液を注入するための注入孔105が形成され、下層103にはコンテナの長手方向にわたって毛細管現象により作動液を移動させるための通路となるウィック107が形成されている。なお上層101と下層103とを接合させたときにウィック107を収容するとともに、蒸発した作動液が移動するための流路を確保するために上層101には図示しない空間が形成されている。ウィック107は金、銅又はアルミニウムなどの細い線材107aを下層103の長手方向にわたって複数配設して構成されている。
【0021】
各線材は略等ピッチで配設されており、各線材107aの両端はそれぞれボンディングにより下層103に接合されている。ボンディングにより線材を結合させることで、線材の方向を制御して配置することができる。
【0022】
線材の太さはヒートパイプの性能を左右する要素の一つである。ヒートパイプでは作動液を毛細管力を利用して移動させているが、毛細管力は線材の太さに反比例し、線材が細いほど毛細管力は大きくなる。一方、線材を細くすると浸透性が低下し、熱抵抗が大きくなってしまう。また、線材間のピッチもヒートパイプの性能を左右する要素の一つである。線材間のピッチは作動液の密度と線材の表面張力によって決まる。例えば、作動液の密度が小さく、細線の表面張力が大きい場合は、線材のピッチを広くしても毛細管現象を呈することができる。一方、作動液の密度が大きく、線材の表面張力が小さい場合は、各線材を密着させる程度の距離が必要である。
【0023】
以下、上記実施の形態のウィック構造の作用について説明する。上記実施形態に係るウィック構造を採用した冷却装置の一端を電子機器の熱源となるCPUの近傍に配置する。CPUから発生した熱が冷却装置に伝達し、冷却装置の一端で蒸発した作動液が上層101と下層103とで形成される内部空間を移動して冷却装置の他端に移動する。冷却装置の他端では作動液が凝縮して放熱する。冷却装置の他端で凝縮した作動液は、ウィック107の毛細管現象により冷却装置の一端に戻る。
【0024】
ウィック107を構成する複数の線材を、それぞれ下層103の長手方向に亘って直線状に整列させることにより、凝縮部と蒸発部とを最短距離で接続することができる。上記実施形態では、線材をボンディングにより結合させているため、下層103に対して線材を直線状に配置して、凝縮部と蒸発部とを最短距離で結合させることができる。
【0025】
なお、図1に示した実施形態は、ウィック107を下層103に形成した場合を示している。しかし上層101にウィック107を形成してもよく、さらに、上層101及び上層103にそれぞれウィック107を形成し、ウィック同士を対向させるようにしてもよい。
【0026】
以下、図2を参照してウィック構造を有する冷却装置の他の実施形態について説明する。冷却装置200において、ウィック207は、下層103の長手方向にわたって直線状に溝207aを設け、各溝に隣接する稜線207bに続く斜面207cに、線材207dの一端をワイヤボンディングで結合させ、線材207dの他端が稜線207bを越える位置となるように、線材207dを斜面207cに起立させたものである。溝207aは蛇腹状に折り曲げた箔を下層103に設けて形成することができる他、下層103の表面を公知のエッチング技術により形成することができる。
【0027】
溝間のピッチは毛細管現象を呈するために必要な距離であり、先の実施形態で説明したように、作動液の密度及び作動液が流れる斜面の表面張力によって決定される。また、上記実施形態と同様、ウィック207を上層101に形成してもよく、さらに、上層101及び下層103にそれぞれウィックを形成し、ウィック同士を対向させるようにしてもよい。
【0028】
ウィック207を構成する複数の溝207aが、下層103の長手方向に亘って直線状に整列しているため、凝縮部と蒸発部とは最短距離で接続される。また上記実施形態では、線材207dを斜面207cに起立させた構成により、作動液が接触する斜面207cの熱を線材207dを介して放出させることができる。線材207aをボンディングで結合する構成により、線材が起立する方向を自由自在に決めることができる。またボンディング結合により斜面から線材を起立させて冷却装置内の空いた空間に線材を延在させているため、冷却装置内の空間を有効に利用することができる。
【0029】
以下、図3を参照して本発明のウィック構造の他の実施形態について説明する。図3に示す冷却装置300は、図2に示す冷却装置200が線材斜面207cにボンディング結合しているのに対し、溝に線材307dを配置したものである。各溝に配置される線材307aの端部は下層303にボンディング結合される。
【0030】
ウィック307を構成する複数の溝と併せて線材307dも直線状に配置されるので、凝縮部から蒸発部まで移動する作動液が、斜面307cと線材307dの表面に接触するため、多くの作動液を蒸発部へ戻すことができる。また、ボンディング結合により線材を配置するため、細密な溝に線材を設けることができ、冷却装置内の空間を有効に利用することができる。
【0031】
図2及び図3に示した実施形態では、ウィック構造として公知の溝に本発明に係るボンディング結合により設けられる線材を組み合わせた構成を示しているが、溝の他にもウィック構造として公知のメッシュ、ファイバ束、粉末焼結等と本発明に係るボンディング結合により設けられる線材とを組み合わせてもよい。
【0032】
以下、図4を参照してウィック構造のさらに他の実施形態について説明する。図4に示すウィック407を搭載する冷却装置400を、電子機器の熱源となる図示しないCPUの近傍に配置する。CPUから発生した熱は冷却装置400に伝達する。CPUから発生する熱が伝達する下層403上の領域は蒸発部を示しており、蒸発部には線材407aが複数設けられている。線材407aはボンディングにより一端が蒸発部を示す領域内に結合され、他端が下層403の周縁に結合されている。蒸発部で蒸発した作動液は下層403の周縁に移動して熱を放出する。熱の放出により凝縮した作動液は線材407aの表面を毛細管現象により蒸発部まで移動する。
【0033】
上記実施形態によれば、凝縮部と蒸発部とを結び線材をボンディング結合により設けることで、線材の軸線方向を自由自在に決めた状態で下層403に設けることができる。線材407aを直線状に設けて凝縮部と蒸発部とを最短距離で結ぶこともできるが、実施形態のように、線材407aを曲線状に設けることで、凝縮部と蒸発部とを結ぶ距離をある程度長くし、凝縮部から蒸発部へ戻る途中で作動液から放熱している時間を確保することができる。また線材407aを下層403の面と直交する方向に立ち上げることで、冷却装置の空いている空間を有効に利用して凝縮部と蒸発部とを結ぶ距離を調整することができる。
【0034】
以下、図5を参照してウィック構造のさらに他の実施形態について説明する。図5に示すウィックは、図4に示した蒸発部の領域にさらにバンプ507bを設けて構成したものである。バンプ507bはボンディングにより蒸発部に結合させることができる。バンプ507baを設けることにより、蒸発部で発生する熱を効果的に放出することができる。またボンディングで結合することにより、より細かいピッチでバンプ507bを設けることができるため、冷却装置の空いている空間を有効に利用することができる。なお、バンプを下層503の蒸発部の領域以外に設けるようにしてもよい。
【0035】
次に冷却装置の製造方法について説明する。ここではウィックを下層又は上下層に形成する場合について説明する。まず、接着性及び濡れ性を向上させるために表面処理を施した上層及び下層を形成する。下層又は上下層に、その長手方向にわたって直線状にウィックを形成する。その後、上下層の周縁に熱及び圧力を加えて状態で接合する。その後、上層に設けた注入孔にチューブを接続し、作動液を注入する。作動液を注入した後、注入孔からチューブを外し、注入孔を封止する。
【符号の説明】
【0036】
100、200、300、400、500 冷却装置
101 上層
103 下層
105 注入孔
107、207、307、407、507 ウィック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面扁平形状のコンテナの内部に設けられ、毛細管現象により作動液を移動させるための通路を形成するウィック構造であって、
前記コンテナの内部にボンディング結合により設けた複数の線材を備えることを特徴とするウィック構造。
【請求項2】
前記線材が直線状に配置されていることを特徴とする請求項1記載のウィック構造。
【請求項3】
前記線材が曲線状に配置されていることを特徴とする請求項1記載のウィック構造。
【請求項4】
前記線材が前記コンテナに形成した溝と該溝に隣接する稜線に続く面に一端を結合した状態で設けられていることを特徴とする請求項1記載のウィック構造。
【請求項5】
前記線材が前記コンテナに形成した溝に端部を結合した状態で設けられていることを特徴とする請求項1記載のウィック構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−47599(P2011−47599A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197478(P2009−197478)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(592166137)河村産業株式会社 (31)