説明

ウイルスを含む組成物、およびウイルス調製物を濃縮するための方法

【課題】生きた組換えウイルスが治療用導入遺伝子を保有する場合にそれらを安定に保存し得る処方物を開発および調製すること、ならびに−80℃よりも上の温度で長期間、ウイルス調製物を安定化し得る処方物、約7〜約8.5の範囲のpHを長期の間維持し得るウイルス含有組成物、および比較的高濃度のウイルスを厳しい条件下で安定化させる処方物を開発すること。
【解決手段】約2℃〜27℃の範囲の温度で約7〜約8.5の範囲のpHを維持するように緩衝化されたポリヒドロキシ炭化水素を含む処方物中にウイルスを含む、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(I.発明の分野)
本発明は、有意に改善された安定性を有する、ウイルスを含む組成物に、特にウイルスベクターを含む組成物に関する。本発明の組成物は、保存の間にウイルスの安定性を維持するのに有用であり、そして本発明のウイルス含有組成物は、治療的用途(例えば、遺伝子治療)に特に有用である。ウイルス調製物を濃縮および精製するための新規な方法もまた提供される。
【背景技術】
【0002】
(II.背景)
ウイルスは、治療的用途(例えば、ワクチン接種および遺伝子治療)のためにますます重要になってきた。そして、容易に保存および輸送され得るが、なお十分な安全性および効力を保持する、安定なウイルス含有組成物を開発および調製する必要がある。特に、遺伝子治療におけるウイルスベクターの広範囲な使用を考慮すると、生きた組換えウイルスが治療用導入遺伝子を保有する場合にそれらを安定に保存し得る処方物を開発および調製することが重要である。
【0003】
さらに、−80℃よりも上の温度で長期間、ウイルス調製物を安定化し得る処方物についての重要な必要が存在する。ウイルス含有組成物は、通常、−80℃での保存を必要とし、そして標準的な冷蔵温度(例えば、2℃〜8℃、またはそれより高温)で実質的な期間の間、保存できない。この制限は、保存に対してだけでなく、処理、分配、および広範な臨床的用途に対してもまた深刻な障害を表す。
【0004】
冷蔵温度に供されているにもかかわらず、そして凍結/融解、特に大規模での産生、取り扱い、または分配に関連して起こり得る緩慢な速度の凍結/融解のような苛酷な条件に曝されているにもかかわらず、約7〜約8.5の範囲のpHを長期の間維持し得るウイルス含有組成物を開発する必要性もまた存在する。pHの維持は、ウイルス調製物に関して重要である。なぜなら、7.0未満のpHおよび8.5を超えるpHでは、生きたウイルス粒子は、物理的および生物学的な不安定性に起因して傷付きやすく、生存能力を失うからである。
【0005】
さらなる問題は、ウイルス濃度の増加に関連する。特に、高いウイルス濃度は、ウイルスの不安定性に有意に寄与する。しかし、ウイルスおよびウイルスベクターの濃度がますます高くなることが、治療的用途のために必要とされる。それゆえ、比較的高濃度のウイルスを、特に上記で言及した厳しい条件下で安定化させる処方物を開発する重要な必要性が存在する。そしてさらに、既存のウイルス調製物を濃縮して安定な調製物をより高い濃度レベルで達成する新規な方法を開発する具体的な必要性が存在する。より高いウイルス濃度に関連した不安定性の問題は、既存のウイルス調製物を濃縮しようと試みる場合、有意に悪化する。このことは部分的に、既存のウイルス調製物の濃度を増加させる努力の間に生じるさらなる機械的剪断力に起因する。ウイルスの安定性を実質的に損なわずにウイルス調製物を濃縮する方法を見出すことができれば、任意の所望の濃度での臨床的投薬量が容易に調製され得(たとえ、より低い濃度を有する材料から出発した場合であっても)、そして重要なことには、ウイルスを濃縮する能力は、種々の処理工程(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー)の間で有意により高い処理量を可能にすることにより、精製プロセスの間の問題のあるネックおよび他の規模拡大の問題を排除し得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、上記の目的を達成するための材料および方法についての必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する。
(項目1) 約2℃〜27℃の範囲の温度で約7〜約8.5の範囲のpHを維持するように緩衝化されたポリヒドロキシ炭化水素を含む処方物中にウイルスを含む、組成物。
(項目2) 上記ウイルスが組換えウイルスである、項目1に記載の組成物。
(項目3) 上記ポリヒドロキシ炭化水素がグリセロールである、項目1に記載の組成物。
(項目4) 二糖をさらに含む、項目1に記載の組成物。
(項目5) 上記組成物が、約0.5〜10mg/mLの濃度の一塩基性リン酸ナトリウム二水和物および約0.5〜10mg/mLの濃度のトロメタミンを含む緩衝液系を含む、項目1に記載の組成物。
(項目6) 約0.1〜1mg/mLの濃度の二価金属塩をさらに含む、項目1に記載の組成物。
(項目7) 水を含む希釈剤をさらに含む、項目1に記載の組成物。
(項目8) 上記ウイルスが、約1×109〜1×1013粒子/mLの濃度で存在する、項目1に記載の組成物。
(項目9) 上記ウイルスが、アデノウイルスである、項目1に記載の組成物。
(項目10) 上記組換えウイルスが、野生型p53遺伝子を含む、項目2に記載の組成物。
(項目11) 上記組換えウイルスが、A/C/N/53である、項目10に記載の組成物。
(項目12) 上記ウイルスがアデノウイルスであり;上記ポリヒドロキシ炭化水素がグリセロールであり;上記緩衝液系が、20℃〜27℃の範囲の温度で約7.3〜約7.9の範囲のpHを維持し;そして上記組成物が二糖をさらに含む、項目1に記載の組成物。
(項目13) 上記アデノウイルスがA/C/N/53であり;上記二糖がスクロースであり;上記緩衝液系が一塩基性リン酸ナトリウム二水和物およびトロメタミンを含み;そして上記組成物が二価金属塩および水をさらに含む、項目12に記載の組成物。
(項目14) ウイルス調製物を濃縮するための方法であって、以下の工程:
(a)ポリヒドロキシ炭化水素を、約20%以上の最終ポリヒドロキシ炭化水素濃度になるまでウイルス調製物に添加する工程;および
(b)該ウイルス調製物を濾過プロセスに供する工程であって、ここで、該ウイルスの濃度を、該ウイルスを維持しながら、フィルターを介して希釈剤が該ウイルス調製物から除去されるように該調製物に圧力をかけることにより増加させる、工程、
を包含する、方法。
(項目15) 上記濾過プロセスが限外濾過を含む、項目14に記載の方法。
(項目16) 上記濾過プロセスが接線流濾過を含む、項目14に記載の方法。
(項目17) ウイルス調製物を精製する方法であって、以下の工程:
(a)該ウイルス調製物を陰イオン交換クロマトグラフィーに供する工程であって、ここで、ウイルスが、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体からウイルス調製産物として溶出される、工程;
(b)該調製物中のポリヒドロキシ炭化水素の濃度が約25%以上のレベルに達するように、工程(a)のウイルス調製産物にポリヒドロキシ炭化水素を添加する工程;および
(c)該ウイルスを保持しながら、フィルターを介して希釈剤が該ウイルス調製物から除去されるように該調製物に圧力をかけることによって、工程(b)のウイルス調製産物中のウイルスの濃度を増加させる工程;ならびに
(d)工程(c)の濃縮されたウイルス調製産物を1以上のさらなる処理工程に供する工程、
を包含する、方法。
(項目18) 上記ウイルスが組換えウイルスである、項目14に記載の方法。
(項目19) 上記ウイルスが遺伝子治療で使用するための治療用導入遺伝子を保有する組換えウイルスである、項目14に記載の方法。
(項目20) さらなる処理工程がサイズ排除クロマトグラフィーを含む、項目17に記載の方法。
(項目21) 上記工程(c)のプロセスが、接線流濾過を含む、項目17に記載の方法。
(項目22) 上記工程(c)のプロセスが、Pellicon XL濾過系を含む装置を用いて実施される、項目21に記載の方法。
(項目23) 項目14に記載の方法により濃縮された、ウイルス調製物。
(項目24) 項目17に記載の方法により精製された、ウイルス調製物。
(項目25) ウイルス調製物を濃縮するための方法であって、以下の工程:
(a)35%(v/v)〜80%(v/v)の濃度のポリヒドロキシ炭化水素を含む第1層を含む組成物を遠心分離する工程であって、該第1層が、5%(v/v)〜30%(v/v)の濃度のポリヒドロキシ炭化水素を含む第2層に重層され、該第2層が、ウイルスを含む第3層に重層される、工程;ならびに
(b)該ウイルスを該第1層から回収する工程、
を包含する、方法。
(項目26) 上記組成物の貯蔵の間の微粒子形成の防止のために、該組成物をさらなる攪拌処理工程に供し、続いて微細濾過に供する、項目1に記載の組成物。
(項目27) 上記組成物の貯蔵の間の微粒子形成の防止のために、該組成物を1以上の凍結/融解サイクルに供し、続いて攪拌に供し、次いで微細濾過に供する、項目1に記載の組成物。
(項目28) 約0.6〜10.0mg/mLの濃度の一価の金属塩をさらに含む、項目12に記載の組成物。
【0008】
(III.発明の要旨)
本発明は、約2℃〜27℃の範囲の温度で約7〜約8.5の範囲のpHを維持するように緩衝化されたポリヒドロキシ炭化水素を含む処方物中にウイルスを含む安定な組成物を提供することにより、上記の必要性を満たす。
【0009】
広範囲の所望の濃度の臨床的投薬量を容易に選択および調製することを可能にする、既存のウイルス調製物を濃縮する新規な方法もまた提供される。ウイルス調製物を濃縮する好ましい方法は、以下の工程を含む:
(a)ポリヒドロキシ炭化水素を、約20%以上の最終ポリヒドロキシ炭化水素濃度になるまでウイルス調製物に添加する工程;および
(b)このウイルス調製物を濾過プロセスに供する工程であって、ここで、このウイルスの濃度が、このウイルスを維持しながら、フィルターを介して希釈剤がこのウイルス調製物から除去されるようにこの調製物に圧力をかけることにより増加する、工程。
【0010】
本明細書中では、以下の工程を含む、ウイルス調製物を濃縮するための方法もまた提供される:
(a)35%(v/v)〜80%(v/v)の濃度のポリヒドロキシ炭化水素を含む第1層を含む組成物を遠心分離する工程であって、この第1層が、5%(v/v)〜30%(v/v)の濃度のポリヒドロキシ炭化水素を含む第2層に重層され、この第2層が、ウイルスを含む第3層に重層される、工程;ならびに
(b)このウイルスをこの第1層から回収する工程。
【0011】
さらに、本発明者らは、本発明者らの、ウイルス濃度を増加させる新規な方法が、さらなる処理を増強する(例えば、処理工程(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー)の間に有意により高い処理量を可能にすることにより、続いての精製の間に問題のなるネックを低減または排除することによる)というさらなる利点を有することを見出した。従って、好ましい実施態様では、本発明に従ってウイルス調製物を濃縮する方法は、続く精製工程(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー)をさらに含む。このことについて、本発明の方法は、サイズ排除クロマトグラフィーの工程がイオン交換クロマトグラフィーに続いて行われ、そしてウイルス調製物が(本発明に従って)イオン交換クロマトグラフィーの後だがサイズ排除クロマトグラフィーの前に濃縮される場合に特に有用である。陰イオン交換クロマトグラフィーから得られたウイルス画分は、例えば、代表的に、高レベルの塩、およびおそらく濃縮手順の間にウイルス安定性をさらに損なう他の不純物を含む。従って、特に好ましい実施態様では、本発明は、以下の工程を含むウイルス調製物を精製する方法を提供する:
(a)このウイルス調製物を陰イオン交換クロマトグラフィーに供する工程であって、ここで、このウイルスが、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体からウイルス調製産物として溶出される、工程;
(b)この調製物中のポリヒドロキシ炭化水素の最終濃度が約25%以上に達するように、工程(a)のウイルス調製産物にポリヒドロキシ炭化水素を添加する工程;および
(c)このウイルスを保持しながら、フィルターを介して希釈剤がこのウイルス調製物から除去されるようにこの調製物に圧力をかけることによって、工程(b)のウイルス調製産物中のウイルスの濃度を増加させる工程;ならびに
(d)工程(c)の濃縮されたウイルス調製産物を1以上のさらなる処理工程に供する工程。
【0012】
本発明はまた、上記の方法によって濃縮および/または精製されたウイルス調製物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(IV.詳細な説明)
上記のように、本出願は、新規なウイルス含有組成物、ならびにウイルス含有組成物を濃縮および精製する新規な方法を開示する。
【0014】
組成物に関して、本発明者らは、増強された安定性でウイルス調製物を保存し得る新規な緩衝化された処方物を開発した。特に、この処方物は、ウイルス調製物を−80℃よりもずっと高い温度で安定化し得る。なおさらに重要なことには、本発明の組成物は、代表的な冷蔵温度で(例えば、2℃〜8℃以上で)でかなりの期間、好ましくは数ヶ月以上の間安定である。これは、重要な利点である。なぜなら、上記のように、臨床的必要性を満たすために、ウイルス調製物を保存および輸送の間に−80℃で凍結して保存することは非実用的であるからである。
【0015】
本発明の組成物の1つの重要な特徴は、ポリヒドロキシ炭化水素の添加である。本明細書中で使用される場合、ポリヒドロキシ炭化水素とは、2個以上(好ましくは2〜6個、より好ましくは2〜4個)の水酸基で置換された、分枝状、直鎖状、または環式の化合物を意味する。本発明に使用するためのポリヒドロキシ炭化水素は、好ましくは2〜7個の炭素原子を有する、ポリヒドロキシ置換アルキル化合物(分枝状または非分枝状)であり、そして例えば、グリセロール、ソルビトール、およびポリプロパノールを含み得る。グリセロールは、特に好ましい。以下に提供されるデータにより示されるように、本発明者らは、グリセロールが、標準的な冷蔵条件下でさえ、驚くほど高レベルの安定性を長期の間可能にすることを見出した。
【0016】
本発明の組成物について有効量のポリヒドロキシ炭化水素は、特にウイルスが遺伝子治療において使用される導入遺伝子を含む場合、さらなる使用のためのウイルスの有効性に有害な効果を及ぼさずに、本発明の処方物中のウイルスを、安定化し得る量である。ポリヒドロキシ炭化水素は、好ましくは、約20mg/mL〜約200mg/mLの最終濃度で存在する。より狭い範囲は、80mg/mL〜120mg/mLであり得る。1種より多くのポリヒドロキシ炭化水素を用いて、本発明の組成物中での所望の合計量のポリヒドロキシ炭化水素を達成し得る。
【0017】
本発明の組成物中のポリヒドロキシ炭化水素は、必要に応じて、アルデヒド基を含み得る。特に、ポリヒドロキシ炭化水素は、二糖(例えば、スクロース)であり得る。さらに、たとえ、組成物のために選択されたポリヒドロキシ炭化水素がアルデヒド基を含まなくとも、組成物はさらに二糖(例えば、スクロース)を安定剤および張度調節剤(tonicity−adjusting agent)として含み得る。本発明の組成物がすでに適切なポリヒドロキシ炭化水素(例えば、グリセロール)を含み、そして二糖がさらなる安定剤または張度調節剤として好ましい実施態様において用いられる場合、この二糖は、好ましくは、5mg/mL〜25mg/mLの範囲で、より好ましくは20mg/mLで存在し、そして好ましくはこの二糖はスクロースである。
【0018】
薬学的に受容可能な二価金属塩安定剤(例えば、マグネシウム塩、亜鉛塩、およびカルシウム塩)は、本発明の組成物の好ましい実施態様において用いられる。好ましくは、この塩は、塩化物塩またはマグネシウム塩であり、マグネシウム塩が特に好ましい。この塩(例えば、マグネシウム塩)は、好ましくは約0.1mg/mL〜約1mg/mLの量で、より好ましくは約0.4mg/mLの量で存在する。
【0019】
薬学的に受容可能な一価の金属塩安定剤(例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、およびセシウム塩)は、本発明の好ましい実施態様において、必要に応じて安定剤として含まれ得る。好ましくは、この塩は、0.6mg/ml〜10.0mg/mlの量、より好ましくは約5.8mg/mlの量で存在する塩化ナトリウムである。
【0020】
組成物を安定化することに加えて、塩化ナトリウムは、発酵の副産物の出現の速度および程度を抑制し得、おそらくタンパク質の凝集に起因して、抗原性の可能性が低減し得る、より薬学的に優れた提示をもたらす。塩化ナトリウムの添加は、処方物のpHに影響を与えない。
【0021】
本発明の組成物は、たとえ、厳しい条件(例えば、冷蔵および凍結/融解)に供された場合でさえ、約7〜約8.5の範囲のpHを長期間維持し得る。さらに、この組成物は、たとえ、より大規模での産生、分配、および取り扱いに関連して生じ得る、比較的遅い速度の凍結/融解に供された場合でさえ、安定なままであり得、そして必要とされるpH範囲を維持し得る。上記のように、pHの維持はウイルス調製物にとって重要である。なぜなら、7.0未満のpHおよび8.5を超えるpHでは、生きたウイルス粒子が不安定になり得、そして分解し得るからである。ウイルスの特定の組成物は、ウイルスを安定化および保存することを難しくする。
【0022】
厳しい条件下でのpH維持を達成するために、本発明は、好ましくは、−80℃と27℃との間での保存にかかわらず、そして凍結/融解条件に供されるにもかかわらず、約7.0〜約8.5の範囲の最適pHを維持し得る緩衝液系を含む。pHは温度に非常に依存し変化し得るので、本発明のpH範囲は、より詳細には、特定の温度範囲に関して以下に説明される。例えば、冷蔵温度(例えば、約2℃〜8℃)では、好ましいpH範囲は約7.7〜約8.3、より好ましくは約7.9〜約8.2である。室温(例えば、約20℃〜27℃、好ましくは22℃〜25℃)では、好ましいpH範囲は約7.3〜約8.2、より好ましくは約7.4〜約7.9である。
【0023】
本発明の好ましい緩衝液系は、約0.5mg/mL〜10mg/mLの濃度の一塩基性リン酸ナトリウム二水和物および約0.5mg/mL〜10mg/mLの濃度のトロメタミンを含む(トロメタミンはまた、TRISまたはSigma
Chemical Co.から入手可能な「Trizma」としても知られる)。しかし、他の緩衝液系が用いられ得る。例えば、一塩基性リン酸ナトリウム二水和物は、酸性形態のtris緩衝液と併用される場合に用いられ得る。特に好ましい実施態様では、この緩衝液系は、約1.7mg/mLの濃度の一塩基性リン酸ナトリウム二水和物および約1.7mg/mLの濃度のトロメタミンを含み、そして25℃で約7.3〜約7.9の最適pH範囲で処方物を維持する能力を有する。
【0024】
本発明の処方物は、上記の厳しい条件(例えば、冷蔵温度および凍結/融解処理)で高濃度のウイルスを安定化する能力を有するというさらなる利点を有する。特に、本発明の処方物は、1×1013粒子/mLまでの濃度でウイルスの安定性を維持し得る。本発明において使用するための好ましいウイルス濃度範囲は、1×109粒子/mL〜1×1013粒子/mL、より好ましくは1×1012粒子/mLまで、例えば、1×109(または1×1010)〜1×1012の量である。
【0025】
本明細書中で使用される用語「希釈剤」は、溶媒(例えば、水、好ましくは滅菌水)、または溶媒と他の成分(例えば、さらなる溶媒、さらなる安定剤、さらなる緩衝液、および/または処方物の安全性、効力、および安定性に有害な影響を及ぼさない他の物質)との混合物を含み得る。希釈剤、安定剤、緩衝液などに関して、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science,第15版,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvaniaに対して参照がなされ得る。
【0026】
界面活性剤、好ましくは非イオン性洗剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(例えば、ICI Americas,Inc.,Wilmington DelawareからのPolysorbate 20、Polysorbate 40、Polysorbate 60、もしくはPolysorbate 80、またはSigma,St.Louis,Mo.からのTween 20、Tween 40、Tween 60、およびTween 80のようなポリオキシエチレンソルビタン)が、必要に応じて、本発明の組成物中に含まれ得る。好ましくは、この非イオン性洗剤は、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルであり、そしてこのポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、好ましくはPolysorbate 80であり、これは、本発明の組成物中で安定剤として作用し得る。非イオン性洗剤の濃度は、好ましくは0.03mg/mL〜0.3mg/mLの範囲;より好ましくは0.15mg/mLである。
【0027】
本発明の組成物はさらに、1以上の「送達増強剤」を含み得る。「送達増強剤」とは、治療用遺伝子(例えば、腫瘍抑制遺伝子)の癌性組織または癌性器官への送達を増強する任意の薬剤をいう。このような送達増強剤の例としては、洗剤(detergent)、アルコール、グリコール、界面活性剤、胆汁酸塩、ヘパリンアンタゴニスト、シクロオキシゲナーゼインヒビター、高張性塩溶液、およびアセテートが挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
洗剤(この用語が本明細書中で用いられる場合)は、陰イオン性洗剤、陽イオン性洗剤、双性イオン性洗剤、および非イオン性洗剤を含み得る。例示的な洗剤としては、タウロコレート、デオキシコレート、タウロデオキシコレート、セチルピリジウム、塩化ベンザルコニウム(benalkonium chloride)、ZWITTERGENT(登録商標)3−14洗剤、CHAPS(3−[3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオル]−1−プロパンスルホネート水和物、Aldrich)、Big CHAP、Deoxy Big CHAP、TRITON(登録商標)−X−100洗剤、C12E8、オクチル−B−D−グルコピラノシド、PLURONIC(登録商標)−F68洗剤、TWEEN(登録商標)20洗剤、およびTWEEN(登録商標)80洗剤(CALBIOCHEM(登録商標)Biochemicals)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
送達増強剤の使用は、1997年7月8日出願の同時係属中の米国特許出願第08/889,335号、および国際出願公開第WO 97/25072号(1997年7月17日)、および1998年7月8日出願の米国特許出願第09/112,074号、国際出願第PCT/US 98/14241号に詳細に記載される。さらに、形質導入効率を増加させるためのウイルスベクターに関連したカルパインインヒビターの使用は、1998年10月15日出願の米国特許出願第09/172,685号および同第60/104321号に記載される。
【0030】
広範なウイルスが、本発明の組成物において用いられ得る。このウイルスとしては、アデノウイルス、ポックスウイルス、イリドウイルス、ヘルペスウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、ロタウイルスなど(例えば、Anderson,Science(1992)256:808−813を参照のこと)を含むがこれらに限定されない;アデノウイルスが特に好ましい。このウイルスは、好ましくは、組換えウイルスであるが、臨床的単離体、弱毒化ワクチン株などを含み得る。従って、例えば、本発明の組成物中で用いられ得る例示的な組換えアデノウイルスは、A/C/N/53であり、これは、PCT特許出願第WO 95/11984号に開示される。
【0031】
本発明の処方物は、組換えウイルス(例えば、生きた組換えアデノウイルス(または「ウイルスベクター」)を、遺伝子治療における治療的用途のために安定化するために特に充分に適切である。例えば、本発明において用いられるウイルスは、腫瘍抑制遺伝子(例えば、野生型p53遺伝子またはRb遺伝子(例えば、p110RBまたはp56RB)を含み得、そしてウイルスベクター中に挿入された導入遺伝子(例えば、野生型p53)とともに、本発明の組成物は、癌の処置のための薬学的組成物として用いられ得る。
【0032】
このことについて、本発明の処方物は、生きたウイルス(特に導入遺伝子(例えば、p53)をコードするヌクレオチド配列が挿入されたウイルスベクター)の生存力を維持する著しい能力を有する。この特徴は、ウイルスが標的細胞に感染する能力を維持することを可能にし、その結果、挿入された導入遺伝子によりコードされるその治療用タンパク質が適切に産生される。
【0033】
p53およびその使用に特に関連して、p53遺伝子の変異が、ヒトの癌における最も普通の遺伝的変化である(Bartek(1991)Oncogene,6:1699−1703、Hollstein(1991)Science,253:49−53)ことが留意される。内因性野生型p53タンパク質を欠く哺乳動物癌細胞への野生型p53の導入は、これらの細胞の新生物性表現型を抑制する(例えば、米国特許第5,532,220号を参照のこと)。
【0034】
以下の実施例では、このウイルスは、野生型p53遺伝子を含有する生きた組換えアデノウイルスである。これらの実施例において使用される特定のウイルスベクター構築物を、本明細書中で「A/C/N/53」という。A/C/N/53(「ACN53」とも言われる)は、1994年10月25日出願の同時係属中の出願米国特許出願第08/328,673号、およびWO 95/11984(1995年5月4日)(特に本明細書中に参考として援用される)に記載される、特に好ましいウイルスベクター構築物である。
【0035】
Polysorbate 80を含む本発明の好ましい実施態様のための代表的な処方を以下に示す:
【0036】
【数1】

4つの特に好ましい実施態様を以下に示す(Polysorbate 80は、実施例1および実施例2において存在するが、実施例3および4においては存在しない)。
【0037】
【数2】

以下の成分:一塩基性リン酸ナトリウム二水和物、トロメタミン、塩化マグネシウム六水和物、スクロース、およびグリセロールは全て、例えば、EM Industries,INC.,7 Skyline Drive,Hawthorne,New York 10532から入手され得る。Polysorbate 80は、例えば、ICI Americas,Inc.,Wilmington Delaware,19897から入手可能である。
【0038】
本発明の組成物は、ゲル濾過カラムにおいて所望の濃度の成分(Polysorbate−80を除く)と合わせることにより、ゲル濾過クロマトグラフィーカラムにおけるウイルスの精製の間に調製され得る(ゲル濾過法に関しては、例えば、以下の第V節を参照し得る)。次いで、ウイルスの濃度を希釈することが所望される場合、またはPolysorbate−80を組み込むことが所望される場合、希釈剤が標準的な技術によって調製され得る。例示的な例を以下に示す。
【0039】
一塩基性リン酸ナトリウム二水和物、トロメタミン、スクロース、塩化マグネシウム六水和物、およびグリセロールを、攪拌機を備えたステンレス鋼容器中の約75%のバッチ容量の注射用水に室温にて充填し、そして溶解する。得られた希釈剤のバッチを、注射用水を用いて最終容量に合わせる。pHをチェックする。懸濁液中のA/C/N/53(導入遺伝子として野生型p53を有するアデノウイルス)薬物物質の必要容量および必要容量の希釈剤を算出し、A/C/N/53注射剤を作製する。最終的なA/C/N/53注射剤がPolysorbate 80を含む場合、希釈剤中に10%過剰のPolysorbate 80を含む貯蔵溶液を調製する。算出された量の懸濁液中のA/C/N/53薬物物質および希釈剤をステンレス鋼容器に充填し、そして混合する。必要な場合は、総A/C/N/53注射剤バッチ容量の10%に基づいて、希釈剤の全てを添加する前にPolysorbate 80溶液を充填する。この懸濁液を滅菌フィルター(0.22μmまたは等価物)を通して無菌的に濾過する。濾過後に、このフィルターの完全性を試験する。滅菌した懸濁液を、適切な容量のバイアルに収集し、そして充填する。バイアルに栓をつけ、そして密閉する。
【0040】
実施例1、2、3、および4についての安定性データを、それぞれ以下の表1、2、3、および4に示す。
【0041】
以下の表では、抗増殖アッセイは、産物が癌細胞を抑制する能力を測定するために用いられるバイオアッセイであり、そして一般に、Willsら,1994,Human Gene Therapy,5:1079−1088により用いられた手順に基づく。列挙された数は活性を示し、一方、コントロールは活性を有さない。
【0042】
「プラークアッセイ」は、希釈の関数としてウイルスプラークの数を評価することによって培養物中のウイルス粒子を測定し、そして一般的に、Graham,F.L.およびPrevec,L.,Methods in Molecular Biology,第7巻:Gene Transfer and Expression Protocols,E.J.Murray編(Humana
Press Inc.,Clifton NJ)109−128頁(1991)に記載される手順に基づく;Graham,F.L.,Smiley,J.,Russel,W.C.,およびNairn,R.,J.Gen.Virol.第36巻,59−74頁(1977)もまた参照のこと。
【0043】
「FACS」アッセイは、ウイルスが細胞に感染する能力を示し、そしてこれらの測定は一般に、例えば、国際特許出願PCT/US97/11865(1998年1月15日に公開されたWO 98/01582)に記載される方法に基づく。次の右側の欄では、「濃度」という見出しの下で表された数は、ウイルス粒子の総数の濃度を表す。最後に、「粒子/FACS比」という見出しの下の数は、感染性ウイルス粒子の数と比較した場合のウイルス粒子の総数の比を表し、これにより、ウイルス調製物の相対的な能力を示す。
【0044】
「UV」の見出しの下のデータは、光散乱の指標として、波長A320/A260についてのUV吸収の比によって示されたウイルス粒子の凝集を示す。基本的に、320ナノメーターの波長での吸光度は、光散乱の量を測定し、一方、260ナノメートルの波長での吸光度は、DNAの量と相関する。
【0045】
「条件」の下で表の第2欄に列挙した温度は、貯蔵温度を表す。生理学的アッセイは、37℃にて行われ、そして最後の欄におけるpHは、室温、約25℃にて測定される。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

(実施例5)
実施例5についての処方:A/C/N/53(7.5×1011粒子/mL)、トロメタミン(TRIS)(1.7mg/mL)、一塩基性リン酸ナトリウム二水和物(1.7mg/mL)、スクロース(20mg/mL)、塩化マグネシウム六水和物(0.4mg/mL)、グリセロール(100mg/mL)、塩化ナトリウム(5.8mg/mL)、最終容量=10mL。
【0050】
【表5】

いくつかの場合では、4℃での貯蔵の間に処方物中で微粒子が形成されるのが観察された。SDS−PAGEによる微粒子の分析は、この微粒子が、微量の不純物(すなわち、さらなるタンパク質およびいくらかの未成熟ウイルス粒子)から構成され、従って、これらの微粒子は処方物の生存力に影響を及ぼさないことを示唆する。それにもかかわらず、処方物をさらに明澄化するための(起こり得る微粒子形成を防止するための)好ましい実施態様では、必要に応じて微細濾過の工程を行って、ウイルス粒子はほとんど失わずに、任意の潜在的な微粒子を除去し得る(微細濾過を実施する場合、濾過容量あたりで十分な微細濾過膜表面積が、微粒子を除去しながらもウイルスの損失は回避するために重要であることに留意すべきである)。
【0051】
さらに、好ましい実施態様では、本発明者らは、攪拌(agitation)(例えば、攪拌(stirring))が、微粒子形成を加速し得、それゆえ、明澄化プロセスにおける必要に応じたさらなる工程であることを見出した。従って、穏やかな攪拌(例えば、一晩、10℃、磁性攪拌子(magnetic stirbar)を用いて)に続いての微細濾過は微粒子を除去し、その結果、再度攪拌してもそれ以上微粒子が再形成されないことが示された。
【0052】
凍結/融解のサイクルが再攪拌の間に微粒子形成を促進し得ることもまた見出された。従って、別の好ましい手順では、1回以上の凍結/融解サイクルが必要に応じて実施され得、冷蔵温度(例えば、4℃)でのウイルス最終産物の貯蔵の間の微粒子形成を防止するために、続いて攪拌、次いで微細濾過が実施され得る。
【0053】
(ウイルス含有組成物を濃縮および精製する方法)
本出願はまた、接線流濾過(tangential flow filtration)(本明細書以下では時々、「TFF」という)を用いて既存のウイルス調製物を安定に濃縮する新規な方法を開示し、広範囲の所望の濃度で臨床的投薬量を容易に選択および調製することを可能にする。ウイルス調製物を濃縮する新規な方法は以下の工程を含む:
(a)ポリヒドロキシ炭化水素を、約20%以上の最終ポリヒドロキシ炭化水素濃度になるまでウイルス調製物に添加する工程;および
(b)このウイルス調製物を濾過プロセスに供する工程であって、ここで、このウイルスの濃度が、このウイルスを維持しながら、フィルターを介してこの希釈剤がこのウイルス調製物から除去されるようにこの調製物に圧力をかけることにより増加する、工程。
【0054】
本発明の方法は、以下を含むがこれらに限定されない広範囲のウイルスに受け入れられる:アデノウイルス、ポックスウイルス、イリドウイルス、ヘルペスウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、ロタウイルスなど;アデノウイルスが特に好ましい。このウイルスは、好ましくは、組換えウイルスであるが、臨床的単離体、弱毒化ワクチン株などを含み得る。本発明は、遺伝子治療における使用のための異種導入遺伝子を保有する組換えウイルスを濃縮するために特に有用である。このようなウイルスは、潜在的に不安定化にする力(例えば、ウイルス調製物を濃縮する方法に伴うさらなる機械的剪断力)に対して特に傷付きやすい。本発明の方法によって濃縮され得る例示的な組換えアデノウイルスは、A/C/N/53であり、これは、PCT特許出願第WO 95/11984号に開示される。
【0055】
本発明の方法に従ってウイルスを濃縮するために用いられる濾過プロセスは、任意の濾過プロセス(例えば、限外濾過)を含み得、ここで、ウイルスの濃度は、希釈剤がウイルス調製物から除去されるが、ウイルスがこのフィルターを通過できず、それゆえ、濃縮された形態でウイルス調製物中に残存するような様式で、希釈剤をフィルターに通すことによって、増加し得る。限外濾過は、例えば、Microfiltration and Ultrafiltration:Principles and Applications,L.ZemanおよびA.Zydney(Marcel Dekkar,Inc.,New York,NY,1996)に詳細に記載される。特に好ましい濾過プロセスは、例えば、「Pharmaceutical Process Filtration Catalogue」と題されたMILLEPOREカタログの177−202頁(Bedford,Massachusetts,1995/96)に記載されるような、接線流濾過(「TFF」)である。好ましいTFF装置は、Millipore Corporation,80 Ashby Rd.,Bedford,Massachusetts(インターネットアドレス:www.millipore.com)からのPellicon II濾過系またはPellicon XL濾過系のいずれかを含み、Pellicon XL系が特に好ましい。好ましい実施態様では、本発明の方法は、約2℃〜27℃の範囲の温度で実施される。
【0056】
他の濃縮プロセスは、本発明に従ってウイルス調製物を濃縮するために用いられ得る。例えば、ポリヒドロキシ炭化水素の使用は、遠心分離によってウイルス調製物を濃縮するために有利に用いられ得る。従って、本発明はまた、以下の工程を含む、ウイルス調製物を濃縮するための方法を提供する:
(a)35%(v/v)〜80%(v/v)の濃度のポリヒドロキシ炭化水素を含む第1層を含む組成物を遠心分離する工程であって、この第1層が、5%(v/v)〜30%(v/v)の濃度のポリヒドロキシ炭化水素を含む第2層に重層され、この第2層が、ウイルスを含む第3層に重層される、工程;ならびに
(b)このウイルスをこの第1層から回収する工程。
【0057】
例として、アデノウイルス調製物を、Beckman遠心分離機のスウィングバケットローターを用いる低速遠心分離によって3,200gで濃縮し得る。このことを達成するために、このウイルス調製物は、複数の5mlチューブに入れられ得る。各チューブは、チューブの底の第1層において6.25容量%の70%グリセロールを含有し、この層に2.5容量%の20%グリセロールが重層され、このウイルス調製物が頂部に置かれ得る。次いで、この調製物は、3,200gにて4℃で約16時間遠心分離されて、濃縮されたウイルスがグリセロール層中にペレット化され、次いで新たに濃縮されたウイルス調製物は続いて第1層から回収される。上記の手順によって濃縮されたウイルスは、良好な光散乱特性を有しており、適切な感染特性を有していた。
【0058】
本発明の方法において用いられるポリヒドロキシ炭化水素に関して、「ポリヒドロキシ炭化水素」とは、2個以上(好ましくは2〜6個、より好ましくは2〜4個)の水酸基で置換された、分枝状、直鎖状、または環式の化合物を意味し、そして有効量のポリヒドロキシ炭化水素は、本発明の処方物中のウイルスを、潜在的に不安定化する力(例えば、濃縮プロセスの間に生じる機械的剪断力)に対して安定化するのに充分な量である。好ましくは、本発明のウイルス濃縮方法におけるポリヒドロキシ炭化水素は、20%、より好ましくは25%の最少濃度で存在する。本発明に使用するためのポリヒドロキシ炭化水素は、好ましくは、ポリヒドロキシ置換アルキル化合物(分枝状または非分枝状)(好ましくは2〜7個の炭素原子を有する)であり、そしてグリセロール、ソルビトール、およびポリプロパノールを含み得る。グリセロールが、特に好ましい。
【0059】
本発明者らの新規な、ウイルス濃度を増加させる方法は、例えば、種々の処理工程(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー)の間で有意に高い処理量を可能にすることにより、問題のあるネックを排除することによって処理を増強するというさらなる利点を有する。従って、好ましい実施態様では、本発明に従ってウイルス調製物を濃縮する方法を、ウイルスを精製する方法に適用し得、ここでサイズ排除クロマトグラフィー工程(例えば、ゲル濾過)が、陰イオン交換クロマトグラフィーに続いて実施される。この実施態様では、速度制限(rate−limiting)サイズ排除クロマトグラフィー工程の前にウイルスを濃縮するために必要となる機械的剪断力に由来するウイルス安定性に対するさらなるおそれだけでなく、陰イオン交換クロマトグラフィー工程から溶出されたウイルス調製物が代表的に、ウイルス安定性をさらに損なう高レベルの塩および他の不純物を含むという事実に起因するウイルス安定性に対するさらなるおそれもまた存在する。従って、特に好ましい実施態様では、本発明は、以下の工程を含む、ウイルス調製物を精製する方法を提供する:
(a)このウイルス調製物を陰イオン交換クロマトグラフィーに供する工程であって、ここで、このウイルスが、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体からウイルス調製産物として溶出される、工程;
(b)この調製物中の該ポリヒドロキシ炭化水素の最終濃度が約25%以上に達するように、工程(a)のウイルス調製産物にポリヒドロキシ炭化水素を添加する工程;および
(c)このウイルスを保持しながら、フィルターを介して希釈剤がこのウイルス調製物から除去されるようにこの調製物に圧力をかけることによって、工程(b)のウイルス調製産物中のウイルスの濃度を増加させる工程;ならびに
(d)工程(c)の濃縮されたウイルス調製産物を1以上のさらなる処理工程に供する工程。
【0060】
陰イオン交換クロマトグラフィーに関連して上記に記載した好ましい実施態様では、最少レベルのグリセロールは、(本発明の濃縮方法の一般的な適用における20%という最少濃度ではなく)25%である。なぜなら、この特定の適用は、陰イオン交換カラムから溶出された産物における高い塩濃度によって与えられる、安定性に対するさらなるおそれを考慮に入れればならないからである。25%グリセロール(好ましくは、30%)の添加は、例えば、4℃にて10日間を超える、塩含有DEAEプールの安定性を生じる;それゆえ、続いてのウイルス濃縮および/またはゲル濾過の工程は、10日間にわたりかなりの融通性を伴って、別の日に実施され得る。認識されるように、25%以上のより高い濃度のポリヒドロキシ炭化水素の使用もまた、本発明の方法において用いられ得、ここで、このウイルス調製物は、他の処理条件に起因して高い塩含量を含む。
【実施例】
【0061】
(V.本発明の方法の実施例)
以下の実施例は、本発明の好ましい実施態様を例示する;本発明の範囲は、それによって限定されるとは解釈されるべきでない。
【0062】
(簡潔な概要)濃縮されたバッチは、発酵回収物に由来する、凍結された粗ウイルス材料を用いて開始する。1つの実施態様では、アデノウイルス産物を、陰イオン交換クロマトグラフィーによって最初に精製する。次いで、この調製物をサイズ排除カラムにロードする前に、陰イオン交換プールを、30%(v/v)グリセロールの存在下で接線流濾過(TFF)によって濃縮し得る。あるいは、別の実施態様では、TFF濃縮工程を、20%(v/v)以上(好ましくは、25%)のグリセロールの存在下で、サイズ排除クロマトグラフィー後に実施し得る。
【0063】
(TFFの前の陰イオン交換クロマトグラフィーによる出発材料の調製)
好ましい実施態様では、アデノウイルス陰イオン交換プールを、濃縮のために以下の通りに調製する。発酵工程および回収工程由来の凍結したウイルス材料を、融解し、そして0.45μm親水性膜を通して濾過する。濾液の塩濃度を、4M塩化ナトリウムを添加することにより調整する。次いで、この供給溶液を、50mMリン酸ナトリウム(pH 7.5)、260mM塩化ナトリウム、2mM塩化マグネシウム、2%(w/v)スクロース(緩衝液A)で予め平衡化したFractogel EMD DEAE−650Mカラムに適用する。アデノウイルスは、この陰イオン交換樹脂に結合し、一方、媒体の大部分および宿主細胞の不純物はカラムを通過して、結局、電荷を消費する。このカラムを最初に4容量の緩衝液Aで洗浄し、続いて8ベッド容量の94%緩衝液Aおよび6%緩衝液B(50mMリン酸ナトリウム(pH 7.5)、600mM塩化ナトリウム、2mM塩化マグネシウム、2%(w/v)スクロース))という第2のイソクラティク(isocratic)洗浄液で洗浄してさらなる不純物を除去する。このウイルスを、30ベッド容量の、6%〜100%の緩衝液Bの線形勾配を用いてカラムから溶出させる。A280によって決定した場合の溶出プロフィールのアデノウイルスピークを回収する。次いで、グリセロールを、さらなる処理のために30%(v/v)の最終濃度でDEAEプールに添加する。
【0064】
(接線流濾過を用いてのDEAEプールの濃縮)
DEAEプール(上記の説明に従って調製される)を、100万分子量カットオフのBiomax膜を備えたMillipore TFFユニット(Pellicon XL System)を用いて10倍〜20倍濃縮する。このプロセスを、2〜10℃または室温(25℃)のいずれかで実施する。以下の濾過パラメーターをこの手順において用いる:平均入口圧=14psi;平均透過圧=o
psi;平均流速=13リットル/時間平方メートル。アデノウイルスの最終濃度は、約1.0〜2.0×1013粒子/mlに達する。Resource Q−HPLCおよびUV吸光度(A260)分析に基づくと、濃縮工程の回収率は、有意な凝集を伴わずに、>80%である(A320/A260による光散乱アッセイ)。
【0065】
(サイズ排除クロマトグラフィー(ゲル濾過)による緩衝液交換)
濃縮されたアデノウイルス調製物を、20mMリン酸ナトリウム(pH 8.0)、100mM塩化ナトリウム、2mM塩化マグネシウム、2%(w/v)スクロース、10%グリセロール(緩衝液C)または11mMリン酸ナトリウム、14mM Tris、2mM塩化マグネシウム、2%(w/v)スクロース、10%グリセロール(pH 7.8)(緩衝液D)で予め平衡化したSuperdex−200サイズ排除カラムに適用する。このカラムを、平衡化緩衝液で溶出させる。A280によって決定した場合の溶出プロフィールのアデノウイルスピークを回収し、そしてプールする。濃縮されたアデノウイルス調製物を、0.2μmの親水性Durapore膜(Stericup,Millipore)を通して2〜10℃にて濾過し、そして−80℃またはより高い温度(例えば、2〜10℃)にて貯蔵し得る。
【0066】
(接線流濾過を用いてのSuperdex−200プールの濃縮)
上記で議論したように、本発明の好ましい実施態様は、陰イオン交換クロマトグラフィー後だがゲル濾過前にウイルスを濃縮する工程を含む。しかし、別の実施態様では、ウイルス調製物を濃縮する開示された方法はまた、(たとえウイルス濃縮工程が、陰イオン交換工程とゲル濾過工程との間で用いられない場合であっても)ゲル濾過工程の後に用いられ得る。この場合、濾過パラメーターは、ポリヒドロキシ炭化水素(例えば、グリセロール)が20%(v/v)程度の低い最終濃度でSuperdex−200プールに添加され得ること以外は、DEAEプールの濃縮のための濾過パラメーターと同じである。なぜなら、このDEAEプールにおいて高い塩濃度を扱う必要性がもうないからである。このことについて、ポリヒドロキシ炭化水素の添加がゲル濾過後まで延期される場合、このDEAEプールは(その高い塩濃度によるこのDEAEプールの傷付き易さに起因して)すぐにゲル濾過カラムに適用されるべきであることに留意すべきである。従って、(本発明に従って)ポリヒドロキシ炭化水素をこのDEAEプールに添加することのさらなる利点が、陰イオン交換クロマトグラフィーと続く処理との間の期間の時間間隔の選択肢および貯蔵の選択肢に関して増加した融通性であることが理解され得る。
【0067】
ウイルス調製物を濃縮する方法を、種々の精製方法に関連して適用し得る。精製方法についてのさらなる情報に関しては、例えば、Huygheら,Human Gene Therapy,第6巻,1403−1416頁(1995)および米国特許出願第08/989,227号(特に本明細書中に参考として援用される)を参照し得る。
【0068】
(VI.接線流濾過を用いてウイルス調製物を濃縮する方法についての安定性データ)
以下の実験データによって示されるように、本発明の方法は、ウイルスを濃縮する機械的剪断力にもかからわず、そしてDEAEプール中での高い塩レベルのような厳しい条件にもかかわらず、大いに増強されたウイルス安定性を可能にする。従って、本発明の方法は、とりわけ、以下を可能にする:(1)任意の所望の濃度での臨床投薬量の容易な調製(たとえ、より低い濃度を有する材料で始めた場合でさえも)、(2)処理の増強(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーの間の有意に多い処理量を可能にすることによる)、および(3)2〜10℃で10日間を超える塩含有DEAEプールの安定性(これにより、ウイルス濃縮および/またはゲル濾過という続きの工程が、10日間の期間にわたるかなりの融通性を伴って別の日に実施されることを可能にする)。
【0069】
(A.DEAEクロマトグラフィーに続くウイルスの濃縮)
以下の3つの実施例では、安定な濃度のアデノウイルスを、(本発明の方法に従って)30%グリセロール中のDEAEプールを濃縮することにより調製した。次いで、この調製物を、Superdex−200ゲル濾過クロマトグラフィーによるさらなる精製に供して、試験するための最終処方物を得た。
【0070】
【表6】

(B.ゲル濾過に続いてのウイルスの濃縮)
(実施例S−1)
以下の実施例では、ウイルス調製物を、ゲル濾過に続いて20%グリセロール中で濃縮した。
【0071】
【表7】

本明細書中に引用される全ての刊行物、特許、および特許出願は、各々の個々の刊行物、特許、または特許出願が、参考として援用されると具体的に、そして個々に示された場合と同じ程度に、その全体が参考として援用される。
【0072】
本発明の改変および変更は、当業者に明らかである。本明細書中に記載される特定の実施態様は、例示のためにのみ提供され、そして本発明は、それによって制限されると解釈されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約2℃〜27℃の範囲の温度で約7〜約8.5の範囲のpHを維持するように緩衝化されたポリヒドロキシ炭化水素を含む処方物中にウイルスを含む、組成物。

【公開番号】特開2006−166925(P2006−166925A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30336(P2006−30336)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【分割の表示】特願2000−531596(P2000−531596)の分割
【原出願日】平成11年2月12日(1999.2.12)
【出願人】(596129215)シェーリング コーポレイション (785)
【氏名又は名称原語表記】Schering Corporation
【Fターム(参考)】