説明

ウイルス成分に結合させた蛍光染料を含む神経画像化用の画像化方法および組成物

神経細胞を画像化するための組成物および方法を開示する。この組成物は、蛍光染料と、神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分とを含む。蛍光染料はそれ自体では、神経細胞に入り込むことができないが、この蛍光染料は、ウイルス成分に結合して、神経細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、医用画像化分野に関係する組成物および方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願)
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下、その開示が参照により本明細書に組み込まれている、2008年5月14日に出願した米国特許仮出願第61/127,659号明細書および2008年7月23日に出願した米国特許仮出願第61/082,981号明細書に対する優先権の恩典を主張するものである。
【0003】
医原性の神経損傷は、人間の機能の低下につながることがある。医原性神経損傷の一般的な原因には、手術の失敗、牽引性もしくは圧迫性の病変、血腫、または患者の不適切な姿勢などがある(非特許文献1参照)。
【0004】
例えば、神経はしばしば、前立腺切除術中に画像化される。背景として、前立腺癌は、米国人男性において最も一般的なタイプの癌である。一般的な1つの治療選択肢は、癌が局所的に広がる前および転移する前に、前立腺の癌組織を除去する方法(すなわち前立腺切除術)である。根治的前立腺切除術の合併症には失禁およびインポテンス(impotence)が含まれる。手術中の海綿体神経の損傷によって、根治的前立腺切除術を受けた男性のうちかなりの割合がインポテンスになる。
【0005】
前立腺の表面に沿って走る、勃起に必要な神経束に対する損傷を防ぐことによって、医原性神経損傷の危険を低減させることができる。しかしながら、前立腺組織と支配神経組織とを区別することが難しいため、神経温存手術を成功させることはしばしば困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,013,265号明細書
【特許文献2】米国特許第6,054,131号明細書
【特許文献3】米国特許第6,207,168号明細書
【特許文献4】米国特許第6,915,154号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fercan Komurcu, MD et al., 2005, Annals of Plastic Surgery, 54(2): 135-139
【非特許文献2】http://www.americanairandwater.com/uv-facts/uv-dosage.htm
【非特許文献3】Peng et al., 1996, Virology, 216:184-196; LacZ-specific staining facilitates detection of cells that are infected with the mutant virus
【非特許文献4】Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York
【非特許文献5】Ausubel et al., 1997, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York
【非特許文献6】Gerhardt et al. eds., 1994, Methods for General and Molecular Bacteriology, American Society for Microbiology, Washington, D.C.
【非特許文献7】http://medical.nema.org/
【非特許文献8】Laing, J. et al., Intranasal administration of the growth compromised HSV-2 vector ΔRR prevents kainate induced seizures and neuronal loss in rats and mice, Mol. Ther. 2006 May; 13(5): 870-881
【非特許文献9】Peng et al., Virology 216:184 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
神経画像化用の改良された画像化方法および組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、神経を画像化するための組成物(compositions)および方法を開示する。神経は、対象のさまざまな領域に位置する。
【0010】
本明細書ではさらに、蛍光染料を、神経軸索に入り込む能力を有するウイルス成分(例えばウイルス、ウイルスタンパク質、カプシド)に結合させると、神経軸索に入り込むことができ、したがって神経細胞画像化を改良することができる染料/ウイルス成分複合体を形成することができるという発見を開示する。一実施形態は、
蛍光染料と、
神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と
を含み、
蛍光染料がウイルス成分に結合して、神経細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成した
組成物を提供する。
【0011】
この実施形態および本明細書に開示する他の実施形態では、神経向性複製欠陥性ウイルスを例えば、神経細胞に入り込む能力を有する弱毒化または不活化ウイルス成分とすることができる。他の実施形態では、この組成物を、蛍光染料と、神経向性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分とを含むワクチンとすることができる。したがって、他の実施形態は、
蛍光染料と、
神経向性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と
を含み、
蛍光染料がウイルス成分に結合して、神経細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成した
ワクチンを提供する。
【0012】
他の実施形態は、組成物を調製する方法であって、
蛍光染料を、神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と混合すること、
蛍光染料をウイルス成分に結合させて、神経細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成すること
を含む方法を提供する。
【0013】
他の実施形態は、神経を画像化し、かつ/あるいは神経の異常および/または状態を診断する方法を提供する。この方法は、(a)本明細書に開示した組成物を対象に投与するステップと、(b)染料/ウイルス成分複合体を神経細胞に入り込ませるステップと、(c)染料が蛍光を発するような十分な量の放射エネルギーを対象に当てるステップと、(d)手術中に対象の蛍光画像を得るステップとを含む。この方法は、蛍光画像を観察して、対象の体内の1つまたは複数の神経を見るステップ、あるいは、蛍光画像を観察して、1つまたは複数の神経が横切されているかどうかを判定するステップを含むことができる。
【0014】
したがって、他の実施形態は、手術中における対象に対する医原性損傷の危険を低減させる方法であって、
(a)
蛍光染料と、
神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と
を含み、
蛍光染料がウイルス成分に結合して、染料/ウイルス成分複合体を形成した
組成物を対象に投与すること、
(b)染料/ウイルス成分複合体を神経細胞に入り込ませること、
(c)染料が蛍光を発するような十分な量の放射エネルギーを対象に当てること、
(d)手術中に対象の蛍光画像を得ること、および
(e)蛍光画像を観察して、対象の体内の1つまたは複数の神経を見ること
を含む方法を提供する。
【0015】
他の実施形態は、神経の状態を診断する方法であって、
(a)
蛍光染料と、
神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と
を含み、
蛍光染料がウイルス成分に結合して、染料/ウイルス成分複合体を形成した
組成物を対象に投与すること、
(b)染料/ウイルス成分複合体を神経細胞に入り込ませること、
(c)染料が蛍光を発するような十分な量の放射エネルギーを対象に当てること、
(d)手術中に対象の蛍光画像を得ること、および
(e)蛍光画像を観察して、神経が横切されているかどうかを判定すること
を含む方法を提供する。
【0016】
他の実施形態は、本明細書に開示した組成物と、本明細書に記載した1つまたは複数の方法に従ってこの組成物を使用するための説明書とを含むキット(kit)を提供する。他の実施形態では、このキットが、本明細書に開示した組成物を調製する目的に使用することができる1種または数種の材料成分、試薬、染料、ウイルス、前駆物質または他のツールと、本明細書に記載した1つまたは複数の方法に従ってこの組成物を使用するための説明書とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】医用画像化システムを概略的に示す図である。
【図2】コンピュータプロセッサ上にインストールしたソフトウェアによって実行することができる医用画像化アルゴリズムを示す流れ図である。
【図3A】実施例3のマウスの背部の蛍光画像を示す図である。
【図3B】蛍光画像化を使用していない、図3Aのマウスの同じ背部の可視(白色)光画像である。
【図3C】ある可視光照明をした、実施例3のマウスの露出した脊髄の蛍光画像である。
【図3D】マウスの頭部により近い位置の同じ脊髄の蛍光画像であり、ICG/PBS/HSV−2 ΔRRで標識されていない脊髄に神経が合流している。
【図4A】実施例4の(仰向けに横たわった)マウス全体の腹側から見た、ICG/PBS/HSV−2 ΔRR(染料/ウイルス成分複合体)の蛍光を示す図である。
【図4B】脊柱および蛍光を発している左足からの神経を示すために解剖した、蛍光画像化および白色光画像化を使用した実施例4のマウスの背部(背面図)を示す画像である。
【図4C】図4Bと同じマウスの蛍光画像である。
【図4D】(i)実施例4のマウスの脊柱の左側からの蛍光を発する解剖された脊髄神経節の白色光のみの蛍光画像であり、その軸索の短い部分がこの神経節の右側に見えており、(ii)脊柱の右側からの対応する神経節の蛍光画像であり、その右フットパッドには注射されていない。
【図4E】(i)図4D(i)の神経節の蛍光画像および(ii)図4D(ii)の神経節の蛍光画像である。
【図4F】図4E(i)の神経節の拡大された蛍光画像である。
【図5A】蛍光画像と比較するためのウサギの左肢の解剖図である。
【図5B】ICG/HSV−2ΔRR複合体が、トウパッド注射部位から、上足底神経内まで移動したことを示す蛍光画像である。
【図5C】蛍光画像と比較するためのウサギの右肢の解剖図である。
【図5D】伏在神経の分離された部分の、可視白色光下での画像である。
【図5E】伏在神経の分離された部分を示す、ICG/HSV−2ΔRR複合体の蛍光を用いた蛍光画像である。
【図5F】図5Dおよび5Eの2つのフレームの伏在神経の切除された部分を示す蛍光画像である。
【図5G】UV不活化ICG/PBS/HSV−2 ΔRRウイルスのLacZ遺伝子に対して染色した、図5Fの伏在神経の切除された部分を示す蛍光画像である。
【図5H】図5Dおよび5Eの2つのフレームの伏在神経をin situで示す蛍光画像である。
【図5I】UV不活化ICG/PBS/HSV−2 ΔRRウイルスのLacZ遺伝子に対して染色した、図5Fの伏在神経の切除された部分を示す蛍光画像である。
【図5J】蛍光画像と比較するためのウサギの左肢の解剖図である。
【図5K】実施例5のウサギの左脚の背面の蛍光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一実施形態は、神経画像化用の組成物を提供する。
【0019】
一実施形態では、この組成物が、医用画像化に使用する蛍光染料(fluorescent dye)などの染料を含む。しかしながら、染料は一般に神経細胞に入り込むことができないため、多くの染料は、神経などの体のある部分を画像化する目的には適さない。本明細書では、神経向性ウイルス成分(neurotropic viral component)、すなわち神経細胞に入り込む能力を有するウイルス成分を使用して、ある神経網の一部または全体にわたって染料を軸索を通して輸送することができるという発見を開示する。この輸送は、染料をウイルス成分に結合させた複合体を形成することによって達成することができる。
【0020】
(染料)
本明細書で使用するとき、用語「蛍光染料」または「染料」は、適当な波長の放射光エネルギーによって励起されたときに可視または近赤外波長範囲の光を放出することで蛍光を発する小分子あるいはタンパク質または他の重合体もしくは高分子を意味する。
【0021】
適当な蛍光染料には、放射エネルギー、例えば光にさらされたときに蛍光を発する任意の非毒性染料が含まれる。ある種の実施形態では、この染料が、近赤外スペクトル範囲の光を放出する蛍光染料である。ある実施形態では、この染料が脂溶性でなくてもよく、他の実施形態では、この染料を脂溶性とすることができる。ある種の実施形態では、この染料が、Akorn,Inc.社(米イリノイ州Buffalo Grove)によって販売されているインドシアニングリーン(indocyanine green)(ICG)などのトリカルボシアニン染料(tricarbocyanine dye)である。ICG染料は、FDAによって人間への使用が承認されている。他の実施形態では、この染料がインフラシアニングリーン(infracyanine green)である。他の実施形態では、この染料が、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)、ローダミン(rhodamine)、フィコエリトリン(phycoerythrin)、フィコシアニン(phycocyanin)、アロフィコシアニン(allophycocyanin)、o−フタルデヒド(o−phthaldehyde)、フルオレサミン(fluorescamine)、ローズベンガル(Rose Bengal)、トリパンブルー(trypan blue)、フルオロゴールド(fluoro−gold)、3−インドシアニングリーン−アシル−1,3−チアゾリジン−チオン(3−indocyanine−green−acyl−1,3−hiazolidine−thione)、緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein)、赤色(red)蛍光タンパク質、黄色(yellow)蛍光タンパク質、青色(blue)蛍光タンパク質および他の蛍光タンパク質の中から選択される。これらの染料を混合する、すなわち一緒にすることができる。ある実施形態では、染料類似体(dye analog)を使用することができる。「染料類似体」は、化学的に改変されてはいるが、適当な波長の放射エネルギーにさらされたときに蛍光を発する能力を依然として保持している染料である。
【0022】
一実施形態では、この染料が、ウイルスタンパク質遺伝子を、緑色蛍光タンパク質遺伝子に融合させた同じウイルスタンパク質遺伝子に置き換えることによって構築された、ウイルスカプシド(viral capsid)中のタンパク質に共有結合した緑色蛍光タンパク質などの蛍光タンパク質である。一実施形態では、緑色蛍光タンパク質を、神経細胞に入り込む神経向性ウイルスタンパク質に共有結合させる。
【0023】
(ウイルス成分)
一実施形態では、ウイルス成分が、ウイルス、ウイルスタンパク質およびカプシドの中から選択される。一実施形態では、このウイルスタンパク質が、カプシドまたはカプシドタンパク質である。一実施形態では、このウイルスタンパク質が、ウイルスタンパク質類似体である。一実施形態では、このウイルスタンパク質およびウイルスタンパク質類似体が、ウイルスカプシドまたはウイルス全体の一部としてではなく、単独で神経細胞に入り込む能力を有する。他の実施形態では、このウイルスタンパク質および類似体を、それ自体が神経細胞に入り込むウイルスカプシドまたはウイルス全体の一部とすることができる。類似体は、タンパク質またはペプチドの1次配列は変化させるが、その機能は通常変化させないアミノ酸の保存的な(conservative)変更に帰着する異なる核酸構造を有する。保存的アミノ酸置換は一般に、以下のグループ内での置換を含む:
グリシン、アラニン;
バリン、イソロイシン、ロイシン;
アスパラギン酸、グルタミン酸;
アスパラギン、グルタミン;
セリン、トレオニン;
リシン、アルギニン;
フェニルアラニン、チロシン。
【0024】
一実施形態では、染料を結合させる前に、ウイルスタンパク質およびその類似体を単離することができる。
【0025】
医療用途において使用されるため、このウイルス成分は、非ビルレント(nonvirulent)または「複製欠陥性(replication−defective)」である。本明細書で使用するとき、用語「複製欠陥性」は、標的細胞(神経細胞)内においてウイルス粒子(ウイルス子孫(virus progeny))を形成できないことを意味する。一実施形態では、「複製欠陥性」が繁殖不能であることを指す。「複製欠陥性」ウイルスが弱毒化ウイルスを指すこともある。一実施形態では、弱毒化ウイルスが、低ビルレンス(virulence)の生きたウイルスである。一実施形態では、弱毒化ウイルスが複製しない。他の実施形態では、弱毒化ウイルスが、感染した細胞内において、複製せずに、ウイルス抗原を発現することができる。他の実施形態では、弱毒化ウイルスがゆっくりと複製し、弱毒化ウイルス子孫を産出する。
【0026】
一実施形態では、このウイルス成分がニューロビルレント(neurovirulent)ではない。
【0027】
一実施形態では、熱、光(例えばUV光)または化学処理による突然変異または不活化によって、ウイルスが複製欠陥性にされる。ある種のウイルスを殺すのに必要な紫外(「UV」)光の量および波長はよく知られている。例えば、非特許文献2は、ある種のウイルスのコロニー形成を抑制するUV光の量を一覧にして示しており、これを下表1に転載する。
【0028】
【表1】

【0029】
一実施形態では、ウイルス遺伝物質(例えばRNAウイルスに対するRNA、DNAウイルスに対するDNA)、またはウイルス複製、細胞変性効果もしくは細胞溶解に必要なタンパク質を除去し、または不活化することによって、突然変異を達成することができる。一実施形態では、このウイルスが、狂犬病ウイルスの突然変異体、例えばImovax(Sanofi Pasteur SA社)である。
【0030】
他の実施形態では、複製欠陥性ウイルスがワクチンである。本明細書で使用する「ワクチン」は、病気に対する免疫を向上させる(1種または数種のウイルス成分を含む)非ビルレント組成物を指す。他の実施形態では、Zostavax(登録商標)ワクチン(Merck & Co.,Inc.社、米ニュージャージー州Whitehouse Station)などのワクチンをウイルス成分として使用することができる。したがって、他の実施形態は、
蛍光染料と、
神経向性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と
を含み、
蛍光染料がウイルス成分に結合して、神経細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成した
ワクチンを提供する。
【0031】
このウイルス成分は、神経系(例えば運動神経および/または感覚神経)の細胞に入り込むという点において神経向性である。ある実施形態では、このウイルスが、軸索を通して神経系中を輸送されるウイルスである。そのウイルスは人間に使用しても安全であるべきである。したがって、ある種の実施形態では、溶解性(lytic)ではなく、好ましくは細胞変性効果を引き起こさない限りにおいて、神経細胞に入り込む能力および染料と結合する能力を有する任意のウイルス成分を使用することができる。
【0032】
蛍光染料をウイルス成分に結合させ、それにより、やはり神経向性である、すなわち神経系の細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成することによって、ウイルス成分の神経向性は画像化に利用される。染料とウイルスまたはウイルスタンパク質との間の結合は、ファンデルワールス相互作用、双極子−双極子相互作用、カチオン−π相互作用、水素結合、イオン結合、共有結合、あるいは染料がウイルスまたはウイルス粒子と一緒に神経細胞に入るのに十分な他のタイプの結合によることができる。ある実施形態では、染料とウイルスまたはウイルスタンパク質とを直接に結合させることができ、このことは、染料とその関連ウイルスまたはウイルス粒子との間に挿入された中間リンカー(linker)によってそれらが結合されていないことを意味する。
【0033】
一実施形態では、蛍光染料が結合した神経向性ウイルスのカプシドを使用することができる。
【0034】
ある実施形態では、このウイルスがヘルペスウイルスであり、このウイルスを、単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)またはその突然変異体とすることができる。HSV−2は神経系の細胞に侵入する。HSV−2遺伝子ICP10は、それぞれUL39およびUL40遺伝子によってコード化されたラージサブユニット(large subunit)およびスモールサブユニット(small subunit)と呼ばれる2つのサブユニットを含むリボヌクレオチドレダクターゼ(ribonucleotide reductase)(RR)酵素をコード化する。HSV−2 ICP10遺伝子(GeneBank No.M12700)は、特許文献1,2および3に記載されている。
【0035】
HSV−2突然変異体の一例では、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR)ドメイン(domain)がICP10から欠失している。このドメインの排除は、その結果生じる突然変異体を複製欠陥性とするのに有用である。
【0036】
一実施形態では、このウイルスが、ICP10のリボヌクレオチドレダクターゼドメインがLacZをコード化する遺伝子に置き換えられた、ICP10ΔRRで表されるHSV−2の突然変異体である。ICP10ΔRRウイルスは当技術分野で知られている(非特許文献3参照)。ICP10ΔRRは、LacZ遺伝子の付加のないRR遺伝子の欠失を有することもある。LacZ遺伝子を関心の任意の遺伝子に置き換えることもできる。RRドメインが欠失し、または不活化されたHSV−2突然変異体も有用なことがある。本明細書では、HSV−2 ICP10ΔRR突然変異体をHSV−2 ΔRRと呼ぶ。
【0037】
他の実施形態では、このウイルスをherpes varicellae(帯状ヘルペスウイルス)とすることができる。
【0038】
当技術分野で知られている標準分子生物学手順を使用して、適当なウイルスを調製することができる。例示的な手順が、非特許文献4、5および6に開示されている。
【0039】
(組成物)
前述のとおり、ある実施形態では、この組成物が、複製欠陥性ウイルス成分に結合した染料を含む。ある種の実施形態では、本明細書においてさらに説明するように、この組成物が、ウイルスタンパク質または不活化されたウイルスに結合した染料を含む。神経画像化のため、組成物を対象(subject)に投与することができる。
【0040】
したがって、他の実施形態は、組成物を調製する方法であって、
蛍光染料を、神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と混合すること、
蛍光染料をウイルス成分に結合させて、神経細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成すること
を含む方法を提供する。
【0041】
ある実施形態では、この組成物が、ウイルスまたはウイルスタンパク質に結合していない染料をほとんどまたは全く含まない。例えば、組成物を調製するために使用する染料の量を、使用するウイルスまたはウイルスタンパク質の量に用量設定することができる。同様に、透析によって、またはショ糖勾配を使用することによって、異質な(結合していない)染料を組成物から除去することもできる。
【0042】
本明細書では、本明細書に記載した組成物の調製および使用も開示する。このような組成物は、対象に投与するのに適した形態の活性材料成分(active ingredient)だけからなることができ、あるいは、活性材料成分と、薬物として許容される1種もしくは数種の担体、追加の1種もしくは数種の材料成分またはこれらのある組合せとを含むことができる。この活性材料成分は、当技術分野においてよく知られている生理的に許容されるカチオンまたはアニオンと混在した形態など、生理的に許容されるエステルまたは塩の形態で組成物中に存在することができる。
【0043】
本明細書で使用するとき、用語「活性材料成分(active ingredient)」は、蛍光染料が結合した、神経向性ウイルス、ウイルスカプシド、ウイルスタンパク質などのウイルス成分を意味する。
【0044】
本明細書で使用するとき、用語「薬物として許容される担体(pharmaceutically acceptable carrier)」は、活性材料成分と混合することができ、混合後に、活性材料成分を対象に投与するために使用することができる化学組成物を意味する。
【0045】
本明細書で使用するとき、用語「生理的に許容される(physiologically acceptable)」エステルまたは塩は、組成物の他の材料成分に対して適合性を有し、組成物を投与する対象に対して無害なエステルまたは塩の形態の活性材料成分を意味する。
【0046】
本明細書に記載した組成物の製剤は、薬理学の分野で知られている任意の方法または今後開発される任意の方法によって調製することができる。このような調製方法は一般に、活性材料成分を、担体あるいは他の1種または数種の副材料成分と混合し、次いで、必要な場合または望ましい場合に、その生成物を、望ましい1回または多回用量単位に成形し、包装するステップを含む。
【0047】
本明細書に示す組成物の説明は主に、人間への投与に適した組成物を対象としているが、このような組成物は一般に、あらゆる種類の動物への投与に適していることを当業者は理解するであろう。人間への投与に適した組成物をさまざまな動物への投与に適した組成物にするための組成物の改変はよく理解されており、獣医学分野の薬理学者は、仮に実験によるにしても単に通常の実験だけを用いて、このような改変を設計し、実行することができる。これらの組成物の投与が企図される対象には、限定はされないが、人間および人間以外の霊長類ならびに他の哺乳類が含まれる。
【0048】
これらの組成物は、非経口、静脈内、眼、髄腔内または他の任意の投与経路に適した製剤として調製し、包装し、販売することができる。
【0049】
これらの組成物は、バルク(bulk)で、または単一単位用量(single unit dose)として、あるいは複数の単一単位用量として、調製し、包装し、販売することができる。本明細書で使用するとき、「単位用量」は、所定量の活性材料成分を含む分離された組成物の量である。この所定の活性材料成分の量は一般に、対象に投与される活性材料成分の用量、あるいは、例えばこのような用量の1/2または1/3など、このような用量の都合のよい部分に等しい。
【0050】
本明細書で使用するとき、組成物の「非経口投与」は、対象の組織に物理的に裂け目(breach)を形成し、組織のその裂け目を通して組成物を投与することを特徴とする任意の投与経路を含む。非経口投与はしたがって、限定はされないが、注射による組成物の投与、外科的切開を通した組成物の投与、組織に貫入した非外科的創傷を通した組成物の投与などを含む。具体的には、非経口投与は、限定はされないが、皮下、腹腔内、筋肉内および胸骨内(intrasternal)注射、ならびに腎臓透析注入法を含むことが企図される。
【0051】
非経口投与に適した組成物の製剤は、無菌水、無菌等張食塩水などの薬物として許容される担体と混合した活性材料成分を含む。このような製剤は、ボーラス(bolus)投与に適した形態または連続投与に適した形態として調製し、包装し、または販売することができる。注射可能製剤は、アンプル剤(ampule)などの単位用量の形態として、または防腐剤を含む多用量容器に入れて、調製し、包装し、または販売することができる。非経口投与用製剤は、限定はされないが、懸濁剤、液剤、油性または水性賦形剤に乳濁させた乳剤、パスタ剤、および埋入可能な持効性または生分解性製剤を含む。このような製剤はさらに、限定はされないが、懸濁化剤、安定化剤または分散剤を含む、1種または数種の追加の材料成分を含むことができる。非経口投与用製剤の一実施形態では、適当な賦形剤(例えば発熱物質(pyrogen)を含まない無菌水)を用いて再形成し、その後に再形成組成物を非経口投与するため、活性材料成分が、乾燥形態(すなわち粉末、顆粒または凍結乾燥形態)で提供される。
【0052】
動物、例えば人間に投与することができる用量は、体重1グラムあたり、ウイルスとして、約10から約10、または約10から約10、あるいは約10から約10プラーク形成単位(plaque forming unit)である。他の実施形態では、この用量が、体重1gあたり、染料として、例えば約10−4mgから約2×10−3mgである。例えば、下記の実験セクションに記載した動物実験は、ICG染料および以下の量のウイルスを用いて実行した:(a)マウスに対しては、体重1グラムあたりウイルス4.2×10pfu、(b)ウサギに対しては、体重1グラムあたり972.8pfu。
【0053】
(画像化方法)
一実施形態は、対象の少なくとも1つの神経を画像化する方法を提供する。この画像は手術中に得ることができる。したがって、手術を実行する領域またはその近くの領域を外科的に露出させることができる。この方法は、(a)本明細書に記載した組成物を投与して、染料/ウイルス成分複合体を形成すること、(b)染料/ウイルス成分複合体を神経細胞に入り込ませること、(c)染料が蛍光を発するような十分な量の放射エネルギーを前記領域に当てること、(d)手術中に蛍光画像を得ること、および(e)蛍光画像を観察して、蛍光画像内に少なくとも1つの神経が存在するのか、または存在しないのかを判定することを含む。
【0054】
一実施形態では、「蛍光画像を観察すること」が、(印刷された、または画面上の)静止画像またはビデオモニタ上のリアルタイム画像を調べること、および画像を観察する他の方法を指すことがある。一実施形態では、蛍光染料をウイルス成分(例えばウイルスベクター(viral vector))に結合させることによって可能となる神経の個々の画像(すなわち神経マップ)を、診断目的および神経位置のドキュメンテーション(documentation)目的に使用することができる。一実施形態では、神経マッピングのための1つの使用が手術中の使用である。患者の内部構造のリアルタイム動画を得るために医師が一般的に使用する画像化技法である蛍光透視法(fluoroscopy)において使用するため、この技術を使用して、神経に染料タグを付けることができると予想される。例えば、使用可能な従来の何らかの手段による手術中の手術視野の可視化が、神経温存手術を確実なものにするのには、神経、特に神経の小さな枝の位置決定および/または認知が不十分であるような形で達成されることがある。このような状況では、本技術革新を手術中の蛍光透視法で使用することが、良好な結果を得るために決定的に重要である。
【0055】
後に報告する実験に基づくと、蛍光染料は、約2cm/時以上の速度で神経を逆方向に移動することができると推定された。この高速の染料の流れは、画像化を実行するほんの数時間(または数時間以上)前に、組成物を投与することを可能にすることがある。画像化する領域に染料が移動し、画像化の時点で染料が画像化する領域に存在するような画像化前の十分な時刻に、染料を含む組成物を投与することができる。必要な時間は、神経画像化の用途および投与部位によって異なることがある。一例として、ある種の手技では、例えば画像化部位までに染料が移動する必要がある距離に基づいて、画像化の1、2、3、4、5、6、7または8時間前までに、あるいは画像化の1、2、3、4、5、6、7または8時間前よりも前に、組成物を投与することができる。一実施形態では、画像化の1、2または3時間前までに組成物が投与される。
【0056】
蛍光画像を観察することによって、手術チームは、画像内に神経が存在するのかまたは存在しないのかを判定することができる。可視光を用いた従来の手術フィールド照明を使用することにより、しばしば、神経を、それらのサイズ、形状および大まかな位置によって識別することができる。しかしながら、神経、特に神経の小さな枝とその下の組織との間のコントラストが十分ではなく、そのため、神経が蛍光を発するようにすることによって得られるかなり大きなコントラストなしでは、神経を全く観察できないことがよくある。手術チームはさらに、蛍光画像を観察することによって、1つまたは複数の特定の神経の位置を決定することができる。手術チームはしたがって、1つまたは複数の神経の存在の有無または位置に関する情報を使用して、手術をどのように実行するのかを決定することができる。例えば、これらの方法を使用することによって得た情報に基づいて、手術チームは、その領域に神経が存在しないことを感知したことに基づいて、特定の神経を不注意によって切断したり、または手術中に触れたりする可能性がより低い対象上の点で切開を実施することを決めることができる。
【0057】
他の実施形態は、複数の画像を得ることを企図する。それらの複数の画像を互いに比較して、神経が損傷を受けていないと判定すること、例えば不注意によって神経が切断されていないと判定することができる。
【0058】
得られた画像から得られる情報は、神経が横切されている(transected)場合に、それらの神経の端部に移植を実施する助けとなることがある。横切の場合には、神経移植片を神経の端部に直接にあてがって、再生神経線維の新芽形成を促進することができる。この場合、横切された神経の端部の蛍光による目に見える光は、神経移植による神経の吻合術を誘導する標的を提供する。
【0059】
(診断方法)
他の実施形態は、神経の状態、例えば、手術中などに、神経が損傷を受けたりまたは横切されたりしていないかかどうか、あるいは神経がうまく切除されたかどうかを診断する方法を提供する。一実施形態では、この診断方法が、(a)本明細書に開示した組成物を対象に投与するステップと、(b)染料/ウイルス成分複合体を神経細胞に入り込ませるステップと、(c)染料が蛍光を発するような十分な量の放射エネルギーを対象に当てるステップと、(d)手術中に対象の蛍光画像を得るステップと、(e)蛍光画像を観察して、対象の体内の1つまたは複数の神経を見、かつ/あるいは1つまたは複数の神経が横切されているかどうかを判定するステップとを含む。
【0060】
したがって、神経の画像を見ることによって、ユーザは、特定の神経が横切されているかどうかを判定することができる。ある実施形態では、この画像が、横切された神経が矯正されたか(すなわち切除されたか)どうかを判定するために使用される。
【0061】
意図しない切断が生じたとき、または切断を防ぐことができないときに、これらの方法によって得られた画像を使用して、神経移植術の誘導に役立てることができる。ある実施形態では、神経移植術が実行された後に、神経がうまく切除されたことを確認するために、画像が観察される。
【0062】
熟練した医師は、開示した方法に従って得た画像を見ることによって、特定の神経が横切されているかどうかを判定することができる。例えば鋸歯状の線は、横切を示していることがある。同様に、第1の画像の方が後の画像よりも神経がより長くまたはより幅が広く見える場合も、神経が横切されたことを示していることがある。反対に、後の画像の方がより初期の画像よりも神経がより長くまたはより幅広く見える場合には、神経が切除されたことを示していることがある。したがって、ある実施形態では、この方法が、複数の画像を得ることを企図する。
【0063】
(画像化装置)
組成物を投与した後、組成物中の蛍光染料を励起して蛍光を放出するようにし、その放出光をカメラによって捕捉する。適当な装置は、SPYシステム(Novadaq Technologies Inc.社、カナダMississauga)、または特許文献4に記載されている装置である。
【0064】
適当な装置は一般に、蛍光染料を励起する能力を有する光源と、放出された染料蛍光を捕捉する能力を有するカメラとを有する。
【0065】
図1は、蛍光染料を励起し、画像化するのに適したシステムの一例を示す。ある種の実施形態では、電源110が、熱電冷却器およびコントローラ120、光エネルギー源130およびコントローラ/タイミング回路140に電力を供給する。コントローラ120は、光エネルギー源130の温度を制御する。例えば、ダイオードレーザの温度はその動作波長に影響を及ぼす(例えば1℃につき0.3nmシフトする)。ある実施形態では、本明細書に記載されているとおり、光エネルギー源130がダイオードレーザでなくともよく、したがってコントローラ120が必要ない場合がある。コントローラ/タイミング回路140は、コンピュータ150を介して、光エネルギー源130と検出器/カメラ100のタイミングを合わせる。コンピュータ150はさらに、コンピュータ150の可読媒体上に画像処理ソフトウェアを含む。コンピュータ150は、カメラ100および表示装置160と電気的に連絡している。表示装置160は、コンピュータ150から画像データを受け取り、そのデータを表示する。前述のとおり、ある実施形態では、光エネルギー源130がレーザである。光エネルギー源130は、光エネルギーを伝送するファイバ170を有する。ファイバ170は照射レンズ180まで光を導き、機械式シャッタ190が開いているとき、光は照射レンズ180を通過して標的視野へと向かう。バリアフィルタ(barrier filter)210を使用して、標的視野を発した光のうち、蛍光染料が励起する波長よりも長い波長範囲または短い波長範囲の光を除去することができる。他の実施形態では、光エネルギー源130をLEDとすることができる。それは、標的視野内の関心の組織を直接に照明するであろう(すなわちファイバ170が必要ないことがある)。カメラ100は、励起された後に染料が放出する放射を捕捉し、検出された画像データをコンピュータ150に送信する。レンズ180、ファイバ170およびカメラ100は画像化ヘッド230の部分である。ヘッド230は関節式ヘッドとすることができる。ある実施形態では、ヘッド230がさらに距離センサ/フォーカスインジケータ(focus indicator)220を含む。システムのこれらの構成要素については本明細書においてさらに説明する。
【0066】
ある種の実施形態では、蛍光染料が蛍光を発する十分な量の放射エネルギーを関心の組織に当て、それによって関心の組織を画像化することを可能にする。ある実施形態では、光エネルギー源がレーザである。このレーザは、ドライバ(driver)およびダイオードを含むことができる。このレーザは、高出力レーザダイオード(high power laser diode)(HPLD)であることが好ましい。HPLDの例には、当技術分野でよく知られているAlInGaAsPレーザおよびGaAsレーザが含まれる。このような光エネルギー源は、単一ダイオード(単一発光体)、または端面発光型半導体チップから作られたダイオードレーザバー(diode−laser bar)とすることができる。放出された放射が実質的に均一な波長を有することを保証するため、レーザは、任意選択で、フィルタ、例えば帯域フィルタを含むことができる。レーザは、レーザビームを発散させる光学部品を備えることができる。この光学部品を、照明フィールドの変更を可能にする調整可能な光学部品とすることができる。この調整可能な光学部品を使用して、所与の領域(例えば視野)全体にわたって均一な照明を提供することもできる。
【0067】
ある実施形態では、光エネルギー源の出力が連続または準連続である。他の実施形態では、レーザ出力がパルスである。パルス発生器を使用することによって、このパルス出力を画像取得と同期させることができる。ある実施形態では、レーザパルスが少なくとも3フェムト秒間続く。ある実施形態では、レーザ出力が約30秒間続く。他の実施形態では、レーザ出力が約0.5秒〜約60秒間続く。パルスレーザに対する適当な繰返し数は、以下のうちの任意の範囲とすることができる:約1Hz〜約80MHz、約10Hz〜約100Hz、約100Hz〜約1kHz、約1kHz〜約100kHz、約100kHz〜約80MHz。ある実施形態では、このレーザを、約1.8、約2.2または約2.5ワットの出力で動作させることができる。他の実施形態では、このレーザを、約1〜約4ワットの出力で動作させることができる。他の実施形態では平均出力が5ワット未満である。
【0068】
ある実施形態では、このエネルギー源が、蛍光染料が蛍光を発する適当な波長の光を供給する適当なフィルタを有する白熱灯である。他の実施形態では、この光源が発光ダイオード(LED)である。
【0069】
ある実施形態では、放射エネルギーが、150nm〜1500nmの範囲の波長を有することができる。このエネルギーは赤外光を含むことができる。ある実施形態では、励起光の波長が約805nmである。ある種の実施形態では、励起光の波長が約805nm〜850nmである。一実施形態では、励起光エネルギーが、放出波長すなわち検出波長よりも短い波長で与えられる。被照射組織を傷つけないように、励起光エネルギーを拡散的に与えることができる。ある実施形態では、励起光が、約7.5cm×7.5cmの面積に与えられる。他の実施形態では、励起光が、約1cm×1cmないし約20cm×20cmの面積に与えられる。一実施形態では、この面積が約25から100cmである。前述のとおり、ある実施形態では、複数の染料を使用することができる。これらの実施形態では、複数の光源、例えば第1の染料を励起する第1のレーザおよび第2の染料を励起する第2のレーザを使用することができる。この光源は、特定の染料を励起するように選択され、または特定の染料を励起するように構成されることを当業者は理解するであろう。他の実施形態では、例えばエネルギーを放出する波長を交番させることによって、単一の光源を、複数の染料を励起するように構成することができる。
【0070】
画像化ヘッド230は、光センサ、例えばカメラ100を含むことができる。画像取得は、蛍光信号を検出する能力を有する任意のセンサを使用して達成することができる。例には、シリコンベースのセンサ、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサおよび写真フィルムが含まれる。一実施形態では、このセンサが、カメラ、例えば電荷結合デバイス(CCD)を含む。CCDの例には、Hitachi KP−M2、KP−M3(日立製作所、東京)が含まれる。
【0071】
このカメラは、画像を集束させる手段を含むことができる。ある種の実施形態は、画像を集束させる手動手段を包含する。他の実施形態は、画像を集束させる自動手段を包含する。このカメラはさらに、画像フィールドの拡大を可能にするレンズ系を含むことができる。
【0072】
ある実施形態では、明瞭性(clarity)を高め、背景雑音を最小化するために、カメラとレーザの相対位置が固定される。これらの実施形態では、レーザが、レーザおよびカメラの軸に対して約85℃未満の角度に配置される。他の実施形態では、レーザが、レーザおよびカメラの軸に対して約20℃から約70℃の角度に配置される。ある実施形態では、レーザが、レーザおよびカメラの軸に対して約85℃よりも大きな角度に配置される。このような角度は例えば90℃とすることができる。
【0073】
ある種の実施形態では、このカメラが、捕捉された画像をアナログ−ディジタル変換器へ中継し、次いでコンピュータ上で実行されている画像捕捉および画像処理ソフトウェアに通す。この画像を、適当な媒体、例えばハードドライブ、光ディスク、磁気テープに記憶することができる。画像をリアルタイムで表示し、記録し、後に再生することができるように、このカメラはさらに、画像をテレビジョン/VCRシステムへ送ることができる。したがって、画像化は、リアルタイムで、またはある遅延時間の後に実行することができる。
【0074】
ある種の実施形態では、コンピュータ150が、少なくとも512メガバイトのランダムアクセスメモリ(RAM)と、少なくとも10ギガバイトの記憶装置とを備えるパーソナルコンピュータである。ある実施形態では、コンピュータ150が、Pentium(登録商標) IVプロセッサ(Intel社、米カリフォルニアSanta Clara)を含むことができる。ある実施形態では、コンピュータ150がさらにCD/DVDドライブを有することができる。このドライブは、読取りおよび書込み機能を有することができる。このシステムはさらに画像処理ソフトウェアを提供する。
【0075】
ある種の実施形態では、例えば介入用途(interventional application)に対して、内視鏡を使用して、組成物中の蛍光染料を励起し、その蛍光を検出することができる。この内視鏡は、センサおよび放射エネルギー源を含む。この内視鏡は光ファイバを含むことができる。他のある種の実施形態では、センサおよび放射源を備える顕微鏡、例えば外科用顕微鏡を使用することができる。ある実施形態では、このセンサがビデオカメラを含む。ある種の実施形態では、このセンサが、少なくとも10画像/秒、少なくとも15画像/秒、少なくとも20画像/秒、少なくとも30画像/秒または少なくとも50画像/秒の速度で画像を捕捉することができる。したがって、ある種の実施形態は複数の画像を企図する。他の実施形態では、本発明が1つの画像を企図する。
【0076】
図2は、画像化方法の一実施形態を示す。この方法は、コンピュータ可読媒体、ハードウェアまたはファームウェア上に記憶されたプログラムされた命令によって実施することができる。(当業者は、このようなソフトウェアが、コンピュータ可読媒体上に記憶された命令を含むことを理解するであろう。)実行されたとき、このソフトウェアプログラムは、コンピュータプロセッサに、後述するような命令を与える。当業者はさらに、このコンピュータが、本明細書に記載したレーザ、センサおよび表示装置と連絡していることを理解するであろう。
【0077】
開始(ステップ10)で、ユーザに、複数のダイアログボックス(dialog box)または他の一般的なユーザインタフェースパラダイム(paradigm)を提示することできる。例えば、新たなスタディ(study)を始めたいかどうかについてユーザに問い合わせることができる(ステップ20)。そうしたいとの意思をユーザが示した場合、そのスタディに対する患者を入力するか、または他の方法で選択するようユーザに指示することができる。例えば、コンピュータにアクセス可能なデータベースにリンクされたリストから名前を選択するようユーザに促すことができる。交互に、患者識別子を入力するようユーザに促すこともできる。コンピュータは次いでデータベースにアクセスして、患者に関連した追加情報の存在の有無を判定し、好ましくはそのような情報を取得することができる。好ましい一実施形態では、患者の名前、姓およびID番号フィールドに対応する値を入力するか、または他の方法でそれらの値を選択するように、ソフトウェアがユーザに要求する。DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)規格に従って画像を記憶することができるように、十分な情報が入力されるか、または他の方法でロードされることが最も好ましい。DICOM規格は、DICOM規格委員会(DICOM Standards Committee)およびその多くの国際的な作業グループの成果である。日々の運営は、北米電子機器工業会(National Electrical Manufacturers Association)(米ヴァージニア州Rosslyn)が管理している。この規格は、ウェブサイトである非特許文献7において一般に入手可能であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0078】
患者データが入力された後、モニタまたは他の表示装置は、コンピュータと連絡したカメラまたは他のセンサによって捕捉された画像を表示する(ステップ40)。この時点で、ユーザは、患者の所望の画像を得るため、カメラの位置、方向、利得または他のパラメータを変更することができる。
【0079】
あるいは、ユーザは、開始10で、スタディを続けること(ステップ25)を選択することもできる。このような意思が示されると、このプロセスはステップ40へ進む。
【0080】
画像を表示した後、シーケンス(sequence)を複写したいのか(ステップ35)、またはシーケンスを取得したいのか(ステップ50)についての意思を示すよう、ユーザに促す。用語「シーケンス」は、コンピュータと連絡したカメラまたは他のセンサによって捕捉されたリアルタイム画像に関連したデータを指す。ステップ50で、センサから画像を取得したいという意思をユーザが示すと、コンピュータは、レーザをオンにし、センサから得たビデオシーケンスをRAMに記憶する(ステップ70)。リアルタイム画像は表示装置上に表示され続ける。次いで、レーザをオフにしたいのかどうかについてユーザに問い合わせる(ステップ80)。そうしたいとの意思をユーザが示した場合、コンピュータはレーザをオフにする(ステップ100)。交互に、レーザをオフにしたいとの意思をユーザが示さない場合、コンピュータは、ステップ60から所定の時間(例えば34秒)が経過したかどうかを判定する。この所定の時間が経過すると、コンピュータはレーザをオフにする。レーザがオフになるまで、ビデオシーケンスはRAMに記憶され続ける。レーザをオフにした後、シーケンスを保存したいかどうかをユーザに問い合わせる(ステップ105)。そうしたいとの意思をユーザが示した場合には、ハードドライブ(ステップ115)または他の媒体にシーケンスを記憶する。
【0081】
次に、ソフトウェアを説明するためステップ40に戻る。リアルタイム画像を表示した後、シーケンスを複写したいかどうかについてユーザに問い合わせる(ステップ35)。そうしたいとの意思をユーザが示した場合には、そのスタディに関連した画像を選択し、その画像を、コンパクトディスクまたは他の選択された媒体に記録する(ステップ55)。交互に、ソフトウェアは、選択された媒体上に記憶する特定の画像をユーザが選択することを許す。この画像(1つまたは複数)は、あるピクチャアーカイビング(picture archiving)/コンピュータシステムに適合したフォーマット、例えばDICOMフォーマットで記憶されることが好ましい。
【0082】
他の実施形態では、この画像(1つまたは複数)をリアルタイムで表示し、かつ/または記録し、後に再生することができるように、このカメラがさらに、LCDモニタまたは他の表示装置(例えばテレビジョン/VCRシステムなど)に画像を送ることができる。この画像(1つまたは複数)を使用して、手術の全体または一部を誘導することができるため、手術時間の全体にわたってこの画像(1つまたは複数)を表示することができる。他の実施形態では、手術時間全体よりも短い時間の間、この画像(1つまたは複数)を表示することができる。他の実施形態では、ソフトウェアが、ズーミング(zooming)、関心領域の選択、明るさおよびコントラストの変更、複数画像の同時表示など、取得後の画像の操作を可能にする。
【0083】
ある実施形態では、このシステムが無菌ドレープ(drape)を備える。この無菌ドレープは関節式アームを覆って、対象が汚染されることを防ぎ、または対象が汚染される危険を最小化する。この無菌ドレープは開口部を有することができる。この開口部を、放射エネルギー、例えばレーザが発生させた赤外光を透過する能力を有する材料で覆うことができる。
【0084】
(定義)
本明細書では冠詞「a」および「an」が、その冠詞の文法上の対象が1つまたは2つ以上(すなわち少なくとも1つ)あることを示す。一例として、「an element」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。「複数」は少なくとも2つを意味する。
【0085】
本明細書で使用する「対象」は任意の動物を指す。この動物を哺乳類とすることができる。適当な哺乳類の例には、限定はされないが、人間および人間以外の霊長類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ウサギおよびモルモットが含まれる。
【0086】
「ICG」は、人間に対する使用が承認されている生物適合性の近赤外蛍光染料であるインドシアニングリーンである。
【0087】
「PBS」はリン酸緩衝食塩水である。
【0088】
「HSV−2」は単純ヘルペスウイルス2型である。
【0089】
「HSV−2 ICP10ΔRR」は、野生型HSV−2ウイルスのRRドメインが欠失し、または不活化された突然変異ウイルスである。
【0090】
用語「pfu」はプラーク形成単位であり、これは、この試験に適した細胞または細菌培養系において1つプラーク(1つの感染領域)を形成するのに必要なウイルスの最小数である。
【0091】
「S.C.」は脊髄(spinal cord)である。
【0092】
特に明記しない限り、以下の実施例は、例示だけを目的に示すものであり、限定することは意図されていない。したがって、本発明が以下の実施例に限定されると解釈すべきではなく、本発明は、本明細書に提供する教示の結果として明らかになる全ての変型実施形態を包含すると解釈すべきである。
【0093】
(実施例)
(実施例1:ウイルス突然変異体の調製)
HSV−2 ΔRR突然変異体は、非特許文献8および非特許文献9に記載されているとおりに調整することができる。
【0094】
(実施例2:組成物の調製)
以下の2種類の保存溶液を調製した。
【0095】
(1)ICG保存溶液:HO0.8ml中にICG25mgを含む
(2)HSV−2 ΔRRウイルス保存溶液:リン酸緩衝食塩水(PBS)20μl中に10pfuを含む
【0096】
このウイルス保存溶液20μLをICG保存溶液20μLと混合し、4℃で1時間放置した(ICG/PBS/HSV−2 ΔRR混合物)。
【0097】
(実施例3:動物実験)
実施例3は、蛍光染料だけを用いた画像化とウイルスに結合させた蛍光染料を用いた画像化との比較である。特に明記しない限り、全ての画像はCCDカメラによって得たディジタル画像である。
【0098】
ハロタン吸入法(halothane inhalation)によってマウス(60g)に一時的に麻酔をかけた。マウスの右フットパッド(footpad)に、ICG、リン酸緩衝食塩水(PBS)およびウイルス突然変異体HSV−2 ΔRR(「ICG/PBS/HSV−2 ΔRR混合物」)10μLを注射した。左フットパッドには、ICG/PBS混合物10μLを対照として注射した。これらの両方の混合物には同じ濃度のICGが存在する。
【0099】
フットパッドに注射してから2時間後、マウスに麻酔をかけ、次いでペントバルビタールナトリウム(sodium pentobarbital)の腹膜間注射によって安楽死させた。最初に無傷のマウスのICG蛍光画像を取得し、次いでさまざまな解剖段階におけるICG蛍光画像を取得した。
【0100】
(結果)
図3Aは、脊柱および背部の筋肉が露出した実施例3のマウスの背部の蛍光画像である。ICGだけを注射した左足の蛍光は、左足だけに限定されている。ICG/PBS/HSV−2 ΔRR混合物を注射した右足は、右足自体が蛍光を発しており、この蛍光は、足の神経の脊髄神経節(すなわちニューロン細胞体)が位置する脊柱まで延びている。ICG−PBS−HSV−2 ΔRR複合体は、右足から、軸索に沿って、脊柱にある軸索の細胞体まで移動した。ICG−PBS−HSV−2 ΔRRのフットパッド注射は、脊柱までずっとフットパッド神経をたどった。図3Bは、図3Aと同じ図を、蛍光画像化を使用していない可視(白色)光画像として示している。
【0101】
図3Cは、実施例3のマウスの露出した脊髄の蛍光画像である(ある可視白色光照明も使用されている)。(フットパッドへの注射の結果)蛍光を発している神経が脊髄に合流する位置に近いこの神経の部分が、3本の矢印によって指示されている。図3Dは、マウスの頭部により近い位置の同じ脊髄の蛍光画像であり、ICG/PBS/HSV−2 ΔRRで標識されていない脊髄に神経が合流している。図3Dは、矢印によって示されているように、その軸索が蛍光ウイルスを吸収し、輸送したフットパッド神経だけが標識され、他の無関係な神経は標識されないことを示している。図3Cおよび3Dでは、符号310が、符号312で示された脊髄から神経を引き離している鉗子の位置を示している。脊髄は、位置314(図3Cにだけ示されている)で切断されている。マウスの頭部は概ね図3Cの右側の方にあり、マウスの尾は概ね図の左側の方を指している。
【0102】
(実施例4:動物実験)
実施例4は、蛍光が、脊柱の左側に接続する左足からの神経だけに限定されることを示すため、ウイルスに結合させた蛍光染料を注射したものと、注射しなかったものとを比較したものである。
【0103】
ハロタン吸入法によってマウス(50g)に一時的に麻酔をかけた。マウスの左フットパッドにICG/PBS/HSV−2 ΔRR混合物10μLを注射し、右フットパッドには、対照として何も注射しなかった。
【0104】
フットパッドに注射してから2時間後、ペントバルビタールナトリウムの腹膜間注射によってマウスに麻酔をかけた。続いて、心臓を露出させ、頸静脈を切開し、心臓のアエリアルチャンバ(aerial chamber)に等張食塩水10mlをゆっくりと注入して放血し、マウスを死亡させた。放血(exanguation)の目的は、ウイルスに結合せず、リンパ系に入った、ボーラス注射したフットパッド内のICG分子に起因する背景組織蛍光を低減させることである。最初のマウスと同様に、最初に無傷のマウスのICG蛍光画像を取得し、次いでさまざまな解剖段階におけるICG蛍光画像を取得した。
【0105】
(結果)
図4Aは、マウス全体の腹側から見たICG/PBS/HSV−2 ΔRR蛍光画像を示す(マウスは仰向けに横たわっている)。左フットパッド注射の結果、左足全体に蛍光が見られ、蛍光は左脚内へ延びている。注射していない右フットパッド、右足および右脚は蛍光を発していない。
【0106】
図4Bは、脊柱および蛍光を発している左足からの神経を示すために解剖した、蛍光画像化および白色光画像化を使用したマウスの背部(背面図)を示す。符号320は左足からの神経の位置を示す。脊髄の位置は322で示されている。図4Cは、同じマウスの蛍光画像だけを示す。蛍光は、脊柱の左側だけに限定されており、右(注射していないフットパッドの)側に蛍光は見られない。
【0107】
図4Dは、(i)マウスの脊柱の左側からの蛍光を発する解剖された脊髄神経節330を白色光のみで示し、その軸索の短い部分がこの神経節の右側に見えており、(ii)脊柱の右側からの対応する神経節332を示す。右足には注射されていない。図4Eは、(i)図4D(i)の神経節の蛍光画像および(ii)図4D(ii)の神経節の蛍光画像を示す。図4Fは、図4E(i)の神経節の拡大された低放射照度(lower irradiance)画像を示す。図4D〜4Fは、左フットパッドの注射が、その脊髄神経節までずっと左足神経を標識すること、および右フットパッドには注射しなかったため、対応する右の脊髄神経節には蛍光が見られないことを示している。
【0108】
(実施例5:UV不活化ウイルス)
この実施例は、ウイルスを複製欠陥性にするUV照射によって不活化されたウイルスの画像化応用を示す。
【0109】
O0.8mlにICG25mgを溶解することによってICG保存溶液を調製した。PBS20μl中にHSV−2 ΔRR 10pfuを含むウイルス保存溶液を調製した。
【0110】
ウイルス保存溶液50μLとICG保存溶液50μlとを1つのフラスコに入れて混合し、4℃で1時間放置した(「ICG/PBS/HSV−2 ΔARR混合物」)。上記のICG/PBS/HSV−2 ΔRR混合物を、約350nm、約15分のUV照射によって不活化した。
【0111】
ハロタン吸入法によってダッチベルテッドウサギ(Dutch−belted rabbit)(2.57 kg)に一時的に麻酔をかけた。このウサギの右足の内側トウパッド(toe pad)に、ICG/PBS/HSV−2 ΔRR混合物100μlを注射し、左足の内側トウパッドに、UV不活化ICG/PBS/HSV−2 ΔRR混合物100μlを注射した。足パッドに注射してから4時間半後、ウサギに麻酔をかけ、次いでペントバルビタールナトリウムの腹腔内注射によって安楽死させた。最初に、トウパッドのICG/PBS/HSV−2 ΔRR射部位の約5cm上から出発して、右肢を解剖した。
【0112】
図5Aは、蛍光画像(図5B)と比較するためのウサギの肢の解剖図であり、位置340にある解剖鋏によって持ち上げられた右脚内側足底神経内のICG蛍光の位置を示すために示したものである。近くの血管からの蛍光も見える。図5Bの下部に、トウパッド注射部位342の蛍光が見える。
【0113】
図5Cは、ウサギの右肢の内側表面の解剖図である。矢印は、血管に隣接した大きな神経を指示している。UV不活化HSV−2−ΔRRウイルスを注射した左肢にも、同じ解剖手技を実施した。伏在神経の分離された部分の可視光画像(図5D)およびICG蛍光画像(図5E)が示されており、白い矢印は神経の位置を示す。
【0114】
この分離された神経部分を切除し、顕微鏡スライド上に置いた。等張食塩水で湿らせた後、カバーガラスをかけた。SPYシステム(Novadaq Technologies Inc.社(カナダMississauga)によって販売されている)によって記録したこの部分のICG蛍光を図5Fに示す。さらに、この神経ICG蛍光をin situで、倍率10×で記録した(図5H)。次いでこの神経部分を、LacZ(HSV−2ウイルスを弱毒化するために、HSV−2ウイルスから切り取られた遺伝子部分の代わりに組み込まれた遺伝子)を染色する酵素(C12−FDG)で染色した。この染色された神経内にウイルスが存在することを指示するこの神経の顕微鏡写真を、2段階の倍率で示す(図5G(倍率4×)および図5I(倍率10×))。
【0115】
図5Kは、実施例5のウサギの左脚の背面の蛍光画像を示し、この部分の解剖図を図5Jに示す。図5Jの矢印は、上肢の大きな神経を指している。図5Kは、ICG/PBS/HSV−2 ΔRRが、トウパッド注射部位から、上足底神経内まで移動したことを示している。ICG UV不活化ウイルスは、坐骨神経および脛骨神経であると推定される神経の小さな枝の中へ移動し(矢印)、このことが、これらの小さな神経の画像化さえも可能にした。これらの矢印は、トウパッド注射部位の約11cm上にあり、このことは、UV不活化蛍光ウイルスがトウパッドの11cm上まで移動したことを指示しており、このことは、遠隔の神経の画像化さえも可能にする。図5K右はおそらく、血管内の蛍光をも示している。
【0116】
当業者には明らかなとおり、多くの修正および変更を加えることができる。本明細書に記載した特定の実施形態は単に例として示したものであり、限定する意図は全くない。以上の明細書および実施例は、単なる例とみなすことが意図されており、本発明の真の範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲によって指示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光染料と、
神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と
を含み、
前記蛍光染料は前記ウイルス成分に結合して、神経細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成している
ことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記染料は、インドシアニングリーン、インフラシアニングリーン、緑色蛍光染料、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルデヒド、フルオレサミン、ローズベンガル、トリパンブルー、フルオロゴールド、3−インドシアニングリーン−アシル−1,3−チアゾリジン−チオン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質および他の蛍光タンパク質の中から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記染料はインドシアニングリーンであることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ウイルス成分は神経向性複製欠陥性ウイルスであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ウイルスは、ヘルペスウイルスあるいはヘルペスウイルスの突然変異体または変異体であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ヘルペスウイルスはHSV−2であることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ウイルスはherpes varicellaeであることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
前記ウイルスはHSV−2 ICP10ΔRRを含むことを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
前記ウイルスは、UV不活化、突然変異、化学処理または熱処理によって複製欠陥性にされることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項10】
前記複製欠陥性ウイルスは、弱毒化ウイルス、突然変異ウイルスおよびワクチンの中から選択されることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項11】
蛍光染料と、
神経向性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と
を含み、
前記蛍光染料は前記ウイルス成分に結合して、神経細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成している
ことを特徴とするワクチン。
【請求項12】
組成物を調製する方法であって、
蛍光染料を、神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と混合すること、
前記蛍光染料を前記ウイルス成分に結合させて、神経細胞に入り込む能力を有する染料/ウイルス成分複合体を形成すること
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記ウイルス成分は神経向性複製欠陥性ウイルスであることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスは、突然変異、UV照射、化学処理または熱処理によって複製欠陥性にされることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
手術中における対象に対する医原性損傷の危険を低減させる方法であって、
(a)
蛍光染料と、
神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と
を含み、
前記蛍光染料が前記ウイルス成分に結合して、染料/ウイルス成分複合体を形成した
組成物を前記対象に投与すること、
(b)前記染料/ウイルス成分複合体を神経細胞に入り込ませること、
(c)前記染料が蛍光を発するような十分な量の放射エネルギーを前記対象に当てること、
(d)手術中に前記対象の蛍光画像を得ること、および
(e)前記蛍光画像を観察して、前記対象の体内の1つまたは複数の神経を見ること
を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記蛍光染料は、インドシアニングリーン、インフラシアニングリーン、緑色蛍光染料、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルデヒド、フルオレサミン、ローズベンガル、トリパンブルー、フルオロゴールド、3−インドシアニングリーン−アシル−1,3−チアゾリジン−チオン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質および他の蛍光タンパク質の中から選択されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記蛍光染料はインドシアニングリーンであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物は複製欠陥性ヘルペスウイルスを含むことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記ヘルペスウイルスはHSV−2であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記複製欠陥性ウイルスはHSV−2 ICP10ΔRRを含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項21】
神経の状態を診断する方法であって、
(a)
蛍光染料と、
神経向性複製欠陥性ウイルス、神経向性ウイルスのウイルスタンパク質および神経向性ウイルスのカプシドの中から選択されたウイルス成分と
を含み、
前記蛍光染料が前記ウイルス成分に結合して、染料/ウイルス成分複合体を形成した
組成物を対象に投与すること、
(b)前記染料/ウイルス成分複合体を神経細胞に入り込ませること、
(c)前記染料が蛍光を発するような十分な量の放射エネルギーを前記対象に当てること、
(d)手術中に前記対象の蛍光画像を得ること、および
(e)前記蛍光画像を観察して、神経が横切されているかどうかを判定すること
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図5I】
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【図5J】
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【図5K】
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【公表番号】特表2011−520907(P2011−520907A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509706(P2011−509706)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/043975
【国際公開番号】WO2009/140510
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(504355583)ノヴァダク テクノロジーズ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】