説明

ウイルス除去剤

【課題】 ウイルスをより効果的に捕獲し除去できるウイルス除去剤を得る。
【解決手段】 造礁珊瑚の微粉末からなり、その粒径は平均粒径が10μm以下である、実験的な裏付けがあるウイルス除去剤であり、ウイルスを吸着し効果的に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスを効果的に除去するウイルス除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスを始めとし、コロナウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルスその他多くのウイルスが病原ウイルスとして存在している。これらのウイルスから人体への感染を防ぐため、ウイルスを捕獲し除去するウイルス除去剤やウイルスの感染力を消失させる抗ウイルス剤といったものの開発が要望されている。しかし、ウイルスの平均粒子直径は、短径が1〜1000nm、長径が5〜10000nmと非常に小さく、これを捕獲し除去することは非常に困難とされていた。
【0003】
従来、ウイルスを捕獲し除去する抗ウイルス剤として、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、その一部を水和して得た粉末が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−189765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記、特許文献1で開示されている抗ウイルス剤によれば、ウイルスを捕獲し除去する効果は認められるものの、その除去効果が十分とはいえないものであった。
【0005】
本発明者は、ウイルスをより効果的に捕獲し除去するために試験研究を重ねた結果、多孔質物質である珊瑚に着目し、珊瑚を微粉末にしたとき、微粉末の粒径が特定の粒径で非常に効果的にウイルスを捕獲し除去できることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0006】
本発明の目的とするところは、ウイルスをより効果的に捕獲し除去できるウイルス除去剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のウイルス除去剤は、造礁珊瑚の微粉末からなることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載のウイルス除去剤は、請求項1に記載の、前記造礁珊瑚の微粉末の粒径は、平均粒径が10μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るウイルス除去剤によれば、ウイルスを吸着し効果的に除去することができる。そして、吸着したウイルスの感染性は失活させるものではないが、安定化もせず、吸着したウイルスを、通常の培養液中とほぼ同じ速度で感染性を失わせることができる。
【0010】
このような構成からなるウイルス除去剤は、繊維に添着して、例えばフィルターとして使用することができ、また、洗浄剤やうがい薬等にも添加して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。本発明に係るウイルス除去剤は、造礁珊瑚の微粉末からなる。造礁珊瑚を微粉末にするにあたり、先ず、珊瑚骨格を水で洗い乾燥殺菌してから粉砕する。
【0012】
粉砕した造礁珊瑚の微粉末の粒径としては、特に制限はないが、0.1〜50μmが好ましい。また、造礁珊瑚の微粉末の平均粒径が10μm以下であることが好ましく、2μm以下であると特に好ましい。
【0013】
このようにして得られたウイルス除去剤は、その表面にウイルスを結合吸着して除去し、そして、吸着したウイルスの感染性は失活させるものではないが、安定化もせず、吸着したウイルスを、通常の培養液中とほぼ同じ速度で感染性を失わせる。このようにして得られたウイルス除去剤は極めて高いウイルス除去作用があり、従来のドロマイト(苦灰石)を焼成し粉末にして得た抗ウイルス剤に比べ遙かに高いウイルス除去作用を有する。
【0014】
この発明で除去の対象となるウイルスとしては、アデノウイルス,ヘルペスウイルス,ポックスウイルス,ポリオーマウイルス,パピローマウイルス,パルボウイルス,肝炎ウイルス,ピコルナウイルス,カリシウイルス,トガウイルス,フラビウイルス,インフルエンザウイルス,パラミキソウイルス,ラブドウイルス,フィロウイルス,コロナウイルス,アレナウイルス,ボルナウイルス,レオウイルス,レトロウイルス,昆虫ウイルス,植物ウイルス,バクテリオファージなどが挙げられる。
【0015】
以下、造礁珊瑚の微粉末のウイルス除去性の実施例及び比較例をあげて、造礁珊瑚の微粉末に極めて高いウイルス除去作用があることを例証する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
本実施例にて用いたウイルス液の調製法およびウイルス感染力価の測定法は、以下の通りである。
【0017】
<ウイルス液の調製法>
インフルエンザウイルスであるA/Hyogo/73/2002(H1N1)およびA/Hyogo/13/2004(H3N2)について、組織培養細胞を用いてウイルス液を調製した。MDCK(Madine−Darby Canine Kindney)細胞の単層培養にウイルスをMultiplicity of Infection(M.O.I.)が0.01(計算上1%の細胞が感染する)になるように接種し、5μg/mlトリプシン(例えばSigma製)添加、血清非添加Minimum Essential Medium(MEM、例えば日水製薬製)で34℃、3〜5日培養した。培養上清を2,500gで10分間遠心し、上清をウイルス液として−80℃で保存した。
【0018】
インフルエンザウイルスであるA/R/Hok/1/04(H5N1)について、発育鶏卵を用いてウイルス液を調製した。種ウイルスを10倍希釈して(感染価にして10CIU/ml)発育鶏卵10日卵の漿尿膜腔へ200μl接種し、34℃で転卵しながら3日間培養した。採取した漿尿液を2,500gで10分間遠心し、上清をウイルス液として−80℃で保存した。
【0019】
CIU(Cell Infecting Unit)は、感染性ウイルス粒子の数の単位で、1CIUは、理論上1感染性粒子に等しい。
【0020】
調製したウイルス液の力価を以下に示す方法で測定した。
【0021】
結果は、
A/Hyogo/73/2002(H1N1):3.010CIU/ml
A/Hyogo/13/2004(H3N2):1.610CIU/ml
A/R/Hok/1/04(H5N1):8.410CIU/ml
であった。
【0022】
<ウイルス感染力価の測定法>
MDCK細胞に4倍段階希釈したウイルス液を接種した。34℃で14時間培養した後、感染細胞を1%パラホルムアルデヒドで1時間、1%TritonX−100で15分間処理して固定した。一次抗体として抗インフルエンザウイルスA型NP蛋白モノクロナル抗体(例えばUK−Serotec製)、続いて二次抗体としてFITC結合抗マウスIgGウサギ血清(例えば医学生物学研究所製)を用いた間接蛍光抗体法で感染細胞を標識した後、蛍光顕微鏡(Zeiss製)で観察し、画像解析により計数して感染力価を算出し、ウイルス液からのウイルスの除去と、ウイルスの感染性の変化、ウイルスの除去への造礁珊瑚の微粉末の粒子径の影響を評価した。
【0023】
[実施例1]
平均粒径1.5μmの造礁珊瑚の微粉末(SMP)をリン酸緩衝食塩水(Phosphate Buffered Saline,PBS)に10、5、2.5、1.25および0.625mg/mlの濃度になるように懸濁し、その40μlと20倍に希釈したインフルエンザウイルス(A/Hyogo/73/2002(H1N1))360μlを混合した。5分おきに攪拌しながら室温に30分間置いた後、2,500gで5分間遠心して造礁珊瑚の微粉末(沈殿SMP)と上清とに分けた。沈殿の造礁珊瑚の微粉末(SMP)には新しいMEM(Minimum Essential Medium)を400μl添加して懸濁液とし、上清とともに、それぞれの液中のウイルス力価(感染力価)を測定し、インフルエンザウイルスの造礁珊瑚の微粉末(SMP)への吸着とウイルス液からの除去性を評価した。
【0024】
結果を図1に示す。図1から明らかなように、造礁珊瑚の微粉末(SMP)の濃度が増すにつれ試料中(上清中)のインフルエンザウイルス力価が減少し、10mg/mlの濃度では、残存ウイルス力価はほとんど検出できなくなった。反対に、沈殿SMP画分のウイルス力価は上昇し、造礁珊瑚の微粉末(SMP)がインフルエンザウイルスを吸着し、試料液中から除去したことを確認でき、インフルエンザウイルスの造礁珊瑚の微粉末(SMP)への吸着とウイルス液からの除去性はきわて良好であった。
【0025】
なお、造礁珊瑚の微粉末(SMP)が10mg/mlの濃度の場合では、造礁珊瑚の微粉末(SMP)の量が多すぎ、吸着したウイルスの感染価を正確に測定できなかった。
【0026】
[実施例2]
造礁珊瑚の微粉末(SMP)のウイルスへの作用として、造礁珊瑚の微粉末(SMP)にウイルスが吸着することで感染性に影響を与えるかどうか検討するために、インフルエンザウイルス(A/Hyogo/73/2002(H1N1)を実施例1と同じ平均粒径1.5μmの造礁珊瑚の微粉末(SMP)に吸着させた後4℃に保存し、3日および10日後に感染性を測定し、4℃に保存した通常の培養液中のウイルスの感染性の変化と比較し、造礁珊瑚の微粉末(SMP)に吸着したインフルエンザウイルスの感染性の変化を評価した。
【0027】
結果を図2に示す。図2から明らかなように、培養液中および造礁珊瑚の微粉末(SMP)に吸着したインフルエンザウイルスの感染力価は、3日後に、元の力価の約60%、10日後に数%にまで減少し、ほぼ同じ経過で失活した。したがって、造礁珊瑚の微粉末(SMP)はウイルスを失活させることも安定化することもなく、吸着により試料中のウイルス感染力価を減少させることができる。
【0028】
[実施例3]
造礁珊瑚の微粉末(SMP)の粒子の大きさによるウイルス吸着効果の違いを検討するため、平均粒径1.5μmと4μmの造礁珊瑚の微粉末(SMP)のPBS懸濁液(5mg/ml)40μlに、インフルエンザウイルス(A/Hyogo/73/2002(H1N1)、A/Hyogo/13/2004(H3N2)またはA/R/Hok/1/04(H5N1)を1.510CIU/mlに希釈した液360μlを加え、5分おきに攪拌しながら室温に30分間置いた後、2,500gで5分間遠心して造礁珊瑚の微粉末(沈殿SMP)と上清とに分けた。沈殿の造礁珊瑚の微粉末(SMP)には新しいMEM(Minimum Essential Medium)を400μl添加して懸濁液とし、上清とともに、それぞれの液中のウイルス力価(感染力価)を測定し、造礁珊瑚の微粉末(SMP)のインフルエンザウイルス除去性への粒子径の影響を評価した。
【0029】
結果は図3に示す。図3から明らかなように、造礁珊瑚の微粉末(SMP)はH1N1以外のインフルエンザウイルスも良く吸着し、試料液中から除去したことを確認できた。そして、また、粒子径1.5μmと4μmの造礁珊瑚の微粉末(SMP)を比較すると、ウイルス除去能力は平均粒径1.5μmの粒子の方が1.6〜4.3倍程度優れていることが確認できた。これは造礁珊瑚の微粉末(SMP)によるウイルス除去作用が吸着によるものなので、粒径の小さいものの方が、単位重量あたりの表面積が大きいためであると考えられる。
【0030】
[比較例1]
平均粒径1.5μmと4μmのドロマイト(DM)を実施例3と同じ条件でサンプルを作り、実施例3と同じ条件でウイルス試料からのウイルス力価(感染力価)を測定し、実施例3による造礁珊瑚の微粉末(SMP)のインフルエンザウイルス除去性と比較して評価した。
【0031】
実施例3の結果と比較した比較例1の結果を図4(平均粒径1.5μm粒子)と図5(平均粒径4μm粒子)に示す。ドロマイト(DM)処理後の残存ウイルス力価は、平均粒径1.5μmで比較した場合、造礁珊瑚の微粉末(SMP)の1.1〜4.3倍程度高く(図4)、平均粒径4μmで比較した場合、1.6〜4.2倍程度高い(図5)ことが示された。これにより、造礁珊瑚の微粉末(SMP)はドロマイト(DM)よりも試料中のウイルス除去能力が優れていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るウイルス除去剤によるウイルスの除去性を示すグラフ。
【図2】本発明に係るウイルス除去剤に吸着したウイルスの感染性の変化を示すグラフ。
【図3】本発明に係るウイルス除去剤のウイルス除去性への粒子径の影響を示すグラフ。
【図4】本発明に係るウイルス除去剤とドロマイトとのウイルス除去性の比較(平均粒径1.5μm粒子)を示すグラフ。
【図5】本発明に係るウイルス除去剤とドロマイトとのウイルス除去性の比較(平均粒径4μm粒子)を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造礁珊瑚の微粉末からなることを特徴とするウイルス除去剤。
【請求項2】
前記造礁珊瑚の微粉末の粒径は、平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス除去剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−207947(P2009−207947A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50524(P2008−50524)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(391044166)玉川衛材株式会社 (10)
【出願人】(503303466)学校法人関西文理総合学園 (26)
【Fターム(参考)】