説明

ウインドラス

【課題】ワーピングドラムを用いた補助ロープの巻取速度の高速化を図る。
【解決手段】チェーンドラム4と、係船用の主ロープを巻き揚げるためのホーサードラム5と、主ロープの先端部に連結された先導用の補助ロープを掛け回すためのワーピングドラム8と、ドラム4,5,8を回転駆動する駆動モータ9とを備えたウインドラス1において、チェーンドラム4、ホーサードラム5及びワーピングドラム8を同一の回転軸12上に配置し、回転軸12にチェーンドラム4及びホーサードラム5を回転可能に、ワーピングドラム8を回転不能に設け、回転軸12とホーサードラム5との間に第1クラッチを介設し、チェーンドラム4に第1従動歯車41を設け、回転軸12に第2従動歯車42を設け、駆動モータ9の駆動軸に第1従動歯車41に噛合する第1駆動歯車44と、第2従動歯車42に噛合する第2駆動歯車45とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船首部に配設され、アンカー用のチェーンドラム、係船用のホーサードラム及びワーピングドラムを備えたウインドラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウインドラス(巻揚機又は揚錨機)は、船舶の船首部に配設され、アンカーに締結されたチェーンを巻き揚げ下げするためのチェーンドラムと、そのチェーンドラムを回転駆動する駆動モータとを備えている。チェーンドラムを駆動モータにより回転駆動させることにより、チェーンをチェーンドラムで巻き揚げ下げするようになっている(特許文献1参照)。
【0003】
また、ウインドラスとしては、係船用の主ロープ(ホーサー)を巻き揚げ下げするためのホーサードラムを備えたものや、主ロープの先端部に連結された先導用の補助ロープ(メッセンジャーロープ)を手繰り寄せて巻き揚げるためのワーピングドラムを備えたものもある。
【0004】
ホーサードラムを備えたウインドラスでは、ホーサードラムを前記駆動モータにより回転駆動させることにより、係船用の主ロープをホーサードラムで巻き揚げ下げするようになっている。
【0005】
また、ワーピングドラムを備えたウインドラスでは、補助ロープをワーピングドラムに数回掛け回した状態でワーピングドラムを前記駆動モータにより回転駆動させ、且つ、作業員が補助ロープを手繰り寄せることにより、補助ロープをワーピングドラムで巻き揚げるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−60185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、牽引用又は係船用の主ロープ(ホーサー)に連結された補助ロープ(メッセンジャーロープ)の巻取速度を所定速度以上とすることが求められることがあり、ワーピングドラムを用いた前記補助ロープの巻取速度を現状よりも増加させる必要がある場合がある。
【0008】
ワーピングドラムを用いた前記補助ロープの巻取速度を増加させるためには、ワーピングドラム全体のドラム径を大きくすることでワーピングドラムの周速を速くしたり、駆動モータ(油圧モータ)を駆動するポンプ(油圧ポンプ)の容量を大きくすることでワーピングドラムの回転数を上げることが考えられる。
【0009】
しかし、ワーピングドラムのドラム径を大きくすると、前記主ロープは一般的に前記補助ロープよりも太いため、前記主ロープをワーピングドラムに掛け回す作業性が悪くなるという問題がある。
【0010】
また、油圧ポンプの容量を大きくすると、油圧ポンプを駆動する電動機、油圧ポンプに供給する油を貯留するオイルタンク、内部を油が流れる配管や配管の途中に設けられる油圧バルブ等を大きくする必要があり、駆動源のコストアップを招くという問題がある。
【0011】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、主ロープをワーピングドラムに掛け回す作業性を悪化させることなく、且つ、ワーピングドラムを回転駆動する駆動モータの駆動源の大型化によるコストアップを招くこと無く、ワーピングドラムを用いた補助ロープの巻取速度の高速化が図れるウインドラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、船舶の船首部に配設され、アンカーに締結されたチェーンを巻き揚げ下げするためのチェーンドラムと、係船用の主ロープを巻き揚げるためのホーサードラムと、前記主ロープの先端部に連結された先導用の補助ロープを掛け回すためのワーピングドラムと、これらドラムを回転駆動する駆動モータとを備えたウインドラスにおいて、
前記チェーンドラム、前記ホーサードラム及び前記ワーピングドラムを同一の回転軸上に配置し、該回転軸に前記チェーンドラム及び前記ホーサードラムを回転可能に、前記ワーピングドラムを回転不能に設け、前記回転軸と前記ホーサードラムとの間に第1クラッチを介設し、
前記チェーンドラムに第1従動歯車を設け、前記回転軸に第2従動歯車を設け、前記駆動モータの駆動軸に第1従動歯車に噛合する第1駆動歯車と、第2従動歯車に噛合する第2駆動歯車とを設けたことを特徴とする。
【0013】
前記第2従動歯車の歯数は前記第1従動歯車の歯数よりも少なく、且つ前記第2駆動歯車の歯数は前記第1駆動歯車の歯数よりも多いことが好ましい。
【0014】
前記駆動モータの駆動軸に前記第1駆動歯車を回転可能に、前記第2駆動歯車を回転不能に設け、前記駆動軸と前記第1駆動歯車との間に第2クラッチを介設していることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、主ロープをワーピングドラムに掛け回す作業性を悪化させることなく、且つ、ワーピングドラムを回転駆動する駆動モータの駆動源の大型化によるコストアップを招くこと無く、ワーピングドラムを用いた補助ロープの巻取速度の高速化を図ることができるという優れた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るウインドラスの概略図である。
【図2】(a)はウインドラスの平面断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0018】
図1ないし図2に示すように、本実施形態に係るウインドラス1は、船舶Sの船首部に配設され、アンカーに締結されたチェーン3(図2(b)参照)を巻き揚げ下げするためのチェーンドラム4と、船舶Sの船首部に配設され、係船用のロープ(ホーサー)を巻き揚げ下げするためのホーサードラム5と、船舶Sの船首部に配設され、補助ロープを手繰り寄せて巻き揚げるためのワーピングドラム8と、これらドラム(チェーンドラム4、ホーサードラム5、ワーピングドラム8)を回転駆動するための駆動モータ(本実施形態では、油圧モータ)9と、油圧モータ9の駆動源(本実施形態では、ポンプユニット)10とを備えている。本実施形態に係るウインドラス1は、ホーサードラム5を複数(図示例では、二つ)備えている。
【0019】
図2に示すように、ウインドラス1は、第1〜第4軸受11a、11b、11c、11dで回転可能に支持された回転軸12を備えており、この同一の回転軸12に、チェーンドラム4、ホーサードラム5及びワーピングドラム8が配置されている。具体的には、チェーンドラム4及びホーサードラム5は回転軸12に回転可能に設けられ、ワーピングドラム8は回転軸12に回転不能に設けられている。回転軸12とホーサードラム5との間には第1クラッチ(ホーサードラム用クラッチ)30が介設され、この第1クラッチ30によりホーサードラム5が回転軸12に断接可能とされている。これにより、ホーサードラム5を必要に応じて容易に回転させたり、回転を停止させることができる。なお、ワーピングドラム8は、第4軸受11dよりも突出した回転軸12の軸端に固定されており、油圧モータ9が作動している時は常時回転している。
【0020】
前記チェーンドラム4は、第1軸受11aと第2軸受11bとの間の回転軸12の軸上に回転可能に装着され、このチェーンドラム4に第1従動歯車41が設けられ、このチェーンドラム4と第2軸受11bとの間の回転軸12の軸上に第2従動歯車42が回転不能に設けられている。前記駆動モータ9の駆動軸40に第1従動歯車41に噛合する第1駆動歯車44と、第2従動歯車42に噛合する第2駆動歯車45とが設けられている。
【0021】
前記第2従動歯車42の歯数は前記第1従動歯車41の歯数よりも少なく、且つ前記第2駆動歯車45の歯数は前記第1駆動歯車44の歯数よりも多い。これにより、油圧モータの低速駆動において、チェーンドラム4の巻取速度(9m/min)よりもホーサードラム5とワーピングドラム8の巻取速度(15m/min)を速くすることができる。
【0022】
また、前記駆動モータ9の駆動軸40に前記第1駆動歯車44を回転可能に、前記第2駆動歯車45を回転不能に設け、前記駆動軸40と前記第1駆動歯車44との間に第2クラッチ(チェーンドラム用クラッチ)46を介設している。これにより、チェーンドラム46を必要に応じて回転させたり、回転を停止させることができる。
【0023】
本実施形態の油圧モータ9は、3つのチャンバを有するベーンタイプのものであって、チャンバへの圧油の供給を切り替えることにより駆動速度を低速(高負荷速度)と中速(中負荷速度)と高速(軽負荷速度)との三段階に切り換えることができる3速度形のものである。
【0024】
図1に示すように、本実施形態では、オイルタンク15に貯留された油を油圧モータ9に供給する供給流路16には二つのポンプユニット10が並列に配設されており、ポンプユニット10よりも下流側の供給流路16には、二つの油圧モータ9が直列に配設されている。また、油を油圧モータ9からオイルタンク15に戻す戻し流路17には、上流側(油圧モータ9側)から順に、逆止弁18、フィルタ19、オイルクーラー20が配設されている。
【0025】
本実施形態のポンプユニット10は、電動機21と、電動機21により駆動される油圧ポンプ22と、油圧ポンプ22よりも下流側の供給流路16に配設された逆止弁23と、油圧ポンプ22と逆止弁23との間の供給流路16内の油圧が所定のリリーフ圧を超えると開いて供給流路16内の圧油をリリーフ流路24を通して解放するリリーフ弁25とを有している。
【0026】
また、図2に示すように、本実施形態に係るウインドラス1は、チェーンドラム4を制動するためのチェーンドラム用ブレーキ27を備えている。具体的には、チェーンドラム用ブレーキ27は、チェーンドラム4に一体に設けられたブレーキドラム28と、ブレーキドラム28に巻回されたブレーキバンド29とを有するドラムブレーキタイプのものである。
【0027】
また、本実施形態に係るウインドラス1は、ホーサードラム5を制動するためのホーサードラム用ブレーキ31を備えている。具体的には、ホーサードラム用ブレーキ31は、ホーサードラム5に一体に設けられたブレーキドラム32と、ブレーキドラム32に巻回されたブレーキバンド33とを有するドラムブレーキタイプのものである。
【0028】
次に、本実施形態に係るウインドラス1の作動を説明する。
【0029】
チェーンドラム4の駆動時には、第2クラッチ(チェーンドラム用クラッチ)46によって第1駆動歯車44を油圧モータ9の駆動軸40に連結し、油圧モータ9を低速で回転駆動させることで、チェーンドラム4を油圧モータ9で回転駆動するようになっている。チェーンドラム4により巻き揚げられたチェーン3はウインドラス1の下方のチェーン収容部36(図2(b)参照)に収容されるようになっている。本実施形態では、チェーンドラム4によるチェーン3の巻取速度は約9m/minである(表1参照)。
【0030】
【表1】

【0031】
また、ホーサードラム5の駆動時には、第1クラッチ(ホーサードラム用クラッチ)30によってホーサードラム5を回転軸12に連結し、油圧モータ9を低速で駆動させることで、ホーサードラム5を油圧モータ9で回転駆動するようになっている。ホーサードラム5により巻き揚げられた係船用の主ロープはそのままホーサードラム5に巻き取られるようになっている。本実施形態では、ホーサードラム5による係船用のロープの巻取速度は約15m/minである。
【0032】
また、ワーピングドラム8は回転軸12に回転不能に装着されているので、油圧モータ9を回転駆動させることで回転駆動される。本実施形態では、ワーピングドラム8を使用する際には、油圧モータ9を高速で駆動させることで、低速時の3倍の巻取速度(45m/min)とされている(表1参照)。なお、油圧モータを中速で駆動させることで、ホーサードラム5とワーピングドラム8を低速時の1.5倍の巻取速度(22.5m/min)で回転させることも可能である。
【0033】
次に、牽引用又は係船用の主ロープ及び主ロープに連結された補助ロープをワーピングドラム8により巻き揚げる方法を説明する。
【0034】
本実施形態では、主ロープ6は牽引用のロープ(例えば、φ60)であり、補助ロープ7は所謂メッセンジャーロープ(例えば、φ20)である。
【0035】
まず、補助ロープをワーピングドラム8に数回掛け回す。次いで、補助ロープをワーピングドラム8に掛け回した状態でワーピングドラム8を油圧モータ9により回転駆動させて、補助ロープをワーピングドラム8で巻き揚げる。本実施形態では、ワーピングドラム8による補助ロープの巻取速度は約45m/minである。
【0036】
主ロープが船舶Sの船首部に達するまで補助ロープを引き揚げたならば、補助ロープをワーピングドラム8から外して、主ロープをホーサードラム5に掛け回す。この状態でホーサードラム5を油圧モータ9により回転駆動させて、主ロープをホーサードラム5で巻き揚げる。本実施形態では、ホーサードラム5による主ロープの巻取速度は約15m/minである。
【0037】
そして、主ロープをホーサードラム5で所定長さ引き揚げたならば、主ロープを船舶Sの船首部に固定する。これにより、主ロープ6を利用して船舶Sを牽引することが可能になる。
【0038】
本実施形態によれば、ウインドラス1において、チェーンドラム4、ホーサードラム5及びワーピングドラム8を同一の回転軸12上に配置し、該回転軸12に前記チェーンドラム4及び前記ホーサードラム5を回転可能に、前記ワーピングドラム8を回転不能に設け、前記回転軸12と前記ホーサードラム5との間に第1クラッチ30を介設し、前記チェーンドラム4に第1従動歯車41を設け、前記回転軸12に第2従動歯車42を設け、前記駆動モータ9の駆動軸40に第1従動歯車41に噛合する第1駆動歯車44と、第2従動歯車42に噛合する第2駆動歯車45とを設けているため、ワーピングドラム8を用いた補助ロープの巻取速度の高速化を図ることが可能になる。
【0039】
この場合、前記第2従動歯車42の歯数を前記第1従動歯車41の歯数よりも少なくし、且つ前記第2駆動歯車45の歯数を前記第1駆動歯車44の歯数よりも多くして、チェーンドラムとホーサードラム・ワーピングドラムに速度差を与えると共に駆動速度を低速、中速、高速の三段階に切り換え可能な油圧モータ9を用いることにより、ワーピングドラム8を用いた補助ロープの巻取速度の高速化を容易に図ることができる。
【0040】
前記油圧モータ9の駆動軸40に前記第1駆動歯車44を回転可能に、前記第2駆動歯車45を回転不能に設け、前記駆動軸40と前記第1駆動歯車44との間に第2クラッチ44を介設しているため、チェーンドラム4を必要に応じて容易に回転させたり、回転を停止させることができる。
【0041】
ワーピングドラム8のドラム径を大きくしないので、主ロープをワーピングドラム8に掛け回す作業性を悪化させることがない。
【0042】
油圧モータ9の容量を大きくする必要はないので、油圧モータ9の駆動源であるポンプユニット10の大型化によるコストアップを招くこともない。
【0043】
特に、チェーンドラム4と、ホーサードラム5と、ワーピングドラム8とを同一の回転軸12上に配置しているため、ウインドラスのコンパクト化及び省スペース化が図れる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
S 船舶
1 ウインドラス
3 チェーン
4 チェーンドラム
5 ホーサードラム
8 ワーピングドラム
9 駆動モータ(油圧モータ)
12 回転軸
30 第1クラッチ
40 駆動軸
41 第1従動歯車
42 第2従動歯車
44 第1駆動歯車
45 第2駆動歯車
46 第2クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船首部に配設され、アンカーに締結されたチェーンを巻き揚げ下げするためのチェーンドラムと、係船用の主ロープを巻き揚げるためのホーサードラムと、前記主ロープの先端部に連結された先導用の補助ロープを掛け回すためのワーピングドラムと、これらドラムを回転駆動する駆動モータとを備えたウインドラスにおいて、
前記チェーンドラム、前記ホーサードラム及び前記ワーピングドラムを同一の回転軸上に配置し、該回転軸に前記チェーンドラム及び前記ホーサードラムを回転可能に、前記ワーピングドラムを回転不能に設け、前記回転軸と前記ホーサードラムとの間に第1クラッチを介設し、
前記チェーンドラムに第1従動歯車を設け、前記回転軸に第2従動歯車を設け、前記駆動モータの駆動軸に第1従動歯車に噛合する第1駆動歯車と、第2従動歯車に噛合する第2駆動歯車とを設けたことを特徴とするウインドラス。
【請求項2】
前記第2従動歯車の歯数は前記第1従動歯車の歯数よりも少なく、且つ前記第2駆動歯車の歯数は前記第1駆動歯車の歯数よりも多いことを特徴とする請求項1記載のウインドラス。
【請求項3】
前記駆動モータの駆動軸に前記第1駆動歯車を回転可能に、前記第2駆動歯車を回転不能に設け、前記駆動軸と前記第1駆動歯車との間に第2クラッチを介設していることを特徴とする請求項1記載のウインドラス。

【図1】
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【図2】
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