説明

ウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法

【課題】ウエブの搬送状態に応じた適切な補正を行うことにより,ウエブのシワや破損を防止しつつ,適切に蛇行補正を行うことのできるウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のウエブ搬送装置は,ウエブを供給するウエブ供給部と,ウエブ供給部からのウエブ供給の幅方向位置を調整する幅方向位置調整部材と,ウエブ供給部から供給されたウエブの幅方向位置を検知するウエブ位置センサと,ウエブ位置センサによる検知位置に基づくフィードバック制御により,ウエブ供給部から供給されるウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように幅方向位置調整部材を操作する幅方向位置制御部とを有し,幅方向位置制御部は,フィードバック制御のフィードバックゲインとして,ウエブの搬送速度が遅いほど小さく速いほど大きい可変値を用いるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば電池用の電極板等を製造する工程において使用され,帯状の薄板(以下,ウエブ)を搬送するためのウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法に関する。さらに詳細には,ウエブロールからの巻き出し時や搬送路中の蛇行補正制御を行うウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン電池に使用される電極板は,帯状の金属箔の両面に活物質を塗工することによって製造される。すなわち,金属箔の両面に活物質ペーストを塗工し,塗工された活物質ペーストを乾燥し,乾燥した活物質ペーストをその金属箔とともに圧延し,圧延した活物質ペーストを金属箔とともに切断する。そのために,金属箔をロール状にしたもの(ウエブロール)からウエブを順次巻き出し,ウエブを搬送しつつ各工程を実施して電極板を製造する。
【0003】
従来より,ウエブを搬送するためのウエブ搬送装置では,ウエブロールからの巻き出し時・巻き取り時や,ウエブの搬送路の途中等における,ウエブの幅方向へのずれを補正するための蛇行補正制御が行われている。一般的なウエブの蛇行補正制御としては,エッジセンサによりウエブのエッジの位置を検出し,エッジが希望の位置となるように搬送ローラを移動させるものがある(例えば,特許文献1参照。)。本文献には,蛇行補正のための搬送ローラの移動の方式として,1本のローラをそのローラから離れたピボット点を中心に回動させるエンドピボット方式と,2本のローラをそのうちの1本の中央位置を中心にともに回動させるセンタピボット方式とが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−226005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,例えば,ウエブにつなぎ目がある場合や搬送停止状態からの搬送再開時等では,ウエブのエッジ位置が,その目標位置から大きくずれている場合がある。このような場合についても従来と同じ蛇行補正を行うと,ウエブの搬送位置に対して急激な補正が行われるおそれがある。急激な補正を行うことは,ウエブのシワや破損の原因となるため好ましくない。
【0006】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,ウエブの搬送状態に応じた適切な補正を行うことにより,ウエブのシワや破損を防止しつつ,適切に蛇行補正を行うことのできるウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた本発明のウエブ搬送装置は,ウエブを供給するウエブ供給部と,ウエブ供給部からのウエブ供給の幅方向位置を調整する幅方向位置調整部材と,ウエブ供給部から供給されたウエブの幅方向位置を検知するウエブ位置センサと,ウエブ位置センサによる検知位置に基づくフィードバック制御により,ウエブ供給部から供給されるウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように幅方向位置調整部材を操作する幅方向位置制御部とを有し,幅方向位置制御部は,フィードバック制御のフィードバックゲインとして,ウエブの搬送速度が遅いほど小さく速いほど大きい可変値を用いるものである。
【0008】
本発明のウエブ搬送装置によれば,ウエブ供給部から供給されるウエブは,その幅方向位置がウエブ位置センサにより検知され,その検知位置を利用してフィードバック制御される。すなわち,検知位置と目標位置との差に応じて,幅方向位置調整部材によるウエブの位置の調整を行う。ここで,そのフィードバック制御のフィードバックゲインが可変値であるので,ウエブの搬送速度によって幅方向位置調整部材による調整の速度が異なる。本発明では,フィードバックゲインを,ウエブの搬送速度が速くなるに従って大きくするのである。また,ウエブの搬送速度が遅くなるに従い,フィードバックゲインを小さくする。つまり,ウエブの搬送速度が速ければ,幅方向の位置制御も高精度なフィードバック制御となる。ウエブの搬送速度が遅ければ,緩やかなフィードバック制御となる。従って,ウエブのシワや破損を防止しつつ,適切に蛇行補正を行うことができる。
【0009】
さらに本発明では,幅方向位置制御部は,フィードバックゲインとして,ウエブの実際の搬送速度(V)の,目標搬送速度(Vd)に対する割合(V/Vd)が小さいほど値が小さく,割合が大きいほど値が大きい可変値を用いるものであることが望ましい。
このようにすれば,ウエブの搬送速度を適切に考慮して,その搬送位置の制御が行われる。すなわち,割合(V/Vd)が小さくなるに従い,フィードバックゲインを小さくする。また,割合(V/Vd)が大きくなるに従い,フィードバックゲインを大きくする。特に,搬送速度が小さいときのフィードバックゲインの値は小さくされるので,適切にウエブのシワや破損を防止できる。
【0010】
さらに本発明では,幅方向位置制御部は,フィードバックゲインとして,その時点での目標搬送速度(Vd)の,定常搬送時の目標搬送速度(Vmax)に対する割合(Vd/Vmax)が小さいほど値が小さく,割合が大きいほど値が大きい可変値を用いるものであることが望ましい。
このようにすれば,定常搬送時とは異なる速度を目標として搬送する場合には,フィードバックゲインも定常搬送時と異なる値が用いられる。すなわち,割合(Vd/Vmax)が小さくなるに従い,フィードバックゲインを小さくする。また,割合(Vd/Vmax)が大きくなるに従い,フィードバックゲインを大きくする。特に,低速で搬送される場合にはフィードバックゲインとして小さい値を用いるので,適切にウエブのシワや破損を防止できる。
【0011】
さらに本発明では,幅方向位置制御部は,ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた採用範囲内であった場合には,検知位置をそのままフィードバック制御に利用し,ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた採用範囲外であった場合には,検知位置に代えて,予め決めた採用範囲の上限値または下限値のうちの検知位置に近い方の値をフィードバック制御に使用することが望ましい。
このようにすれば,ウエブ位置検出センサによる検知位置が目標位置から大きく離れている場合には,上限値または下限値を採用するセンサ値制限処理を行う。すなわち,急激すぎるフィードバック制御は回避されている。
【0012】
さらに本発明では,幅方向位置調整部材およびウエブ位置センサよりウエブの搬送方向について下流側に配置され,ウエブの一部にマークを付加するマーク付加部を有し,マーク付加部は,ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた採用範囲外であった箇所のウエブにマークを付加することが望ましい。
このようにすれば,この段階ではマークを付加しておくだけなので,ウエブの搬送に影響を与えることはない。センサ値制限処理によってセンサ値が制限されたウエブの箇所は,確実な位置制御ができていない箇所である。そこで,この箇所のウエブは製品として使用しないことが望ましい。後段の処理においてマークを読み出すことにより,製品に不向きな箇所のウエブをはね出すことができる。
【0013】
さらに本発明では,ウエブ供給部は,ウエブを巻き重ねたウエブロールからウエブを巻き出して供給するものであり,ウエブ供給部のウエブロールの端面の幅方向位置を検知するロール端面位置センサを有し,幅方向位置制御部は,ロール端面位置センサによる検知結果を利用して,ウエブ供給部のウエブロールの位置を目標位置に近づける初期制御を行うことが望ましい。
このようなものであれば,ロール端面位置センサによって,巻き重ねたウエブの幅方向端部が重なった箇所であるウエブロールの端面の位置が検知される。そして,初期制御によってウエブロールの位置がまず調整される。従って,大きすぎる位置ずれは回避される。特に,ウエブロールを交換した場合等に有効である。
【0014】
さらに本発明では,幅方向位置制御部は,定常搬送中にウエブ位置センサによる検知位置が予め定めた許容範囲外となった場合には,警告または設備停止による異常処理を行うことが望ましい。
このようなものであれば,搬送装置に何らかの異常が発生したことを,迅速に把握することができる。定常搬送中にウエブが大きくずれることは,通常はあり得ないからである。
【0015】
さらに本発明では,幅方向位置制御部は,定常搬送中に幅方向位置調整部材が,その動作可能な最大範囲の端部に到達した場合には,警告または設備停止による異常処理を行うことが望ましい。
このようなものであれば,幅方向位置調整部材が動作不可能な位置へのウエブの位置を調整しようとすることを防止できる。動作可能な最大範囲より外側への位置の調整はできないからである。
【0016】
さらに本発明では,幅方向位置調整部材は,ウエブ供給部をウエブの幅方向に移動させるスライドテーブルであることが望ましい。
このようなものであれば,容易にウエブ供給部をウエブの幅方向に移動させることができる。
【0017】
さらに本発明では,幅方向位置調整部材として,上流側の第1幅方向位置調整部材と,それより下流側の第2幅方向位置調整部材とを有し,ウエブ位置センサとして,第1幅方向位置調整部材の下流側で第2幅方向位置調整部材の上流側に配置される第1ウエブ位置センサと,第2幅方向位置調整部材の下流側に配置される第2ウエブ位置センサとを有し,幅方向位置制御部として,第1ウエブ位置センサによる検知位置に基づくフィードバック制御により,ウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように第1幅方向位置調整部材を操作する第1幅方向位置制御部と,第2ウエブ位置センサによる検知位置に基づくフィードバック制御により,ウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように第2幅方向位置調整部材を操作する第2幅方向位置制御部とを有し,第1ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた第1の範囲外となった場合に警告を行い,第2ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた第2の範囲外となった場合に設備停止を行う異常制御部を有し,第1の範囲は,第2の範囲より大きい範囲であることが望ましい。
このようなものであれば,上流側の第1の幅方向位置調整部材によってまず大まかな調整を行い,下流側の第2の幅方向位置調整部材によってより詳細な調整を行うことができる。
【0018】
さらに本発明では,第1幅方向位置制御部がフィードバック制御に用いる第1フィードバックゲインは,第2幅方向位置制御部がフィードバック制御に用いる第2フィードバックゲインに比較して,小さいものであることが望ましい。
このようなものであれば,第1幅方向位置制御部によって,大きい位置ずれを緩やかに補正し,第2幅方向位置制御部によってその残りを高精度に補正することができる。
【0019】
さらに本発明では,第2幅方向位置制御部は,第2ウエブ位置センサの検知位置によるフィードバック制御に加えて,第1ウエブ位置センサの検知位置によるフィードフォワード制御をも利用して,第2幅方向位置調整部材を操作することが望ましい。
このようにすれば,第2幅方向位置制御部では,さらに高精度に目標位置に近づけることができる。
【0020】
さらに本発明では,第1幅方向位置調整部材および第2幅方向位置調整部材は,ウエブの搬送方向に対する傾斜角が変化する首振りローラであることが望ましい。
このようなものであれば,ウエブの位置を容易に調整することができる。なお,ここでのウエブの搬送方向とは,首振りローラの上流側における搬送方向でも,首振りローラの下流側における搬送方向でもよい。
【0021】
さらに本発明は,ウエブを,幅方向位置調整部材によりその幅方向に位置調整しつつ,その長手方向に搬送するウエブ搬送方法であって,搬送されるウエブの幅方向位置を検知し,検知した幅方向位置に基づくフィードバック制御により,搬送されているウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように幅方向位置調整部材を操作するとともに,そのフィードバック制御のフィードバックゲインとして,ウエブの搬送速度が遅いほど小さく速いほど大きい可変値を用いるウエブ搬送方法にも及ぶ。
【0022】
さらに本発明は,導体箔ウエブを,幅方向位置調整部材によりその幅方向に位置調整しつつ,その長手方向に搬送するとともに,搬送されている導体箔ウエブに対し,活物質層の塗工,塗工した活物質層の乾燥,塗工した活物質層のプレス,長手方向に沿った切断,からなる処理群の少なくとも1つを行って電極板を製造し,製造された電極板を電解液とともにケースに封入して電池を製造する電池の製造方法であって,搬送されるウエブの幅方向位置を検知し,検知した幅方向位置に基づくフィードバック制御により,搬送されているウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように幅方向位置調整部材を操作するとともに,そのフィードバック制御のフィードバックゲインとして,ウエブの搬送速度が遅いほど小さく速いほど大きい可変値を用いる電池の製造方法にも及ぶ。
【発明の効果】
【0023】
本発明のウエブ搬送装置及びその方法と電池の製造方法によれば,ウエブの搬送状態に応じた適切な補正を行うことにより,ウエブのシワや破損を防止しつつ,適切に蛇行補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本形態の搬送装置を示すブロック図である。
【図2】本形態の巻きだし部を示す説明図である。
【図3】センサ値の変換の例を示す説明図である。
【図4】蛇行補正の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下,本発明を具体化した形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,電池の電極板の製造方法,特に,ウエブの搬送工程における蛇行補正制御に本発明を適用したものである。
【0026】
本形態の製造装置を使用して製造されるリチウムイオン二次電池には,アルミ箔の両面に正極活物質を塗工した正極用の電極板と,銅箔の両面に負極活物質を塗工した負極用の電極板とが用いられている。このリチウムイオン二次電池は,例えば,これらの電極板の間にセパレータを挟んで捲回したものを,電解液とともにケース内に密封した,捲回タイプの二次電池である。本形態は,その正負の電極板の製造に際して,アルミ箔,銅箔,またはそれらに活物質が載った製造途中のもの等のウエブを搬送するための搬送装置である。
【0027】
まず,正極用の電極板の製造工程のうちの一部として使用される搬送装置を,図1に示すブロック図を参照して説明する。この搬送装置は,ウエブがロール状に巻かれた巻き出しロールからウエブを巻き出し,図中矢印で示す方向へ順にウエブを搬送しつつ各加工処理を行う。そして,加工後のウエブをロール状に巻き取るものである。この搬送装置にウエブを供給する巻き出しロールとしては例えば,厚さ約10μm,幅約600mm,長さ約4000mのアルミ箔の上に,その長手方向に沿って3条のペーストが幅方向に間隔をあけて塗布され,ロール状に巻かれたものが用いられる。
【0028】
この搬送装置には,図1に示すように,
巻き出し部1,
第1スリッタ部2,
リザーバ部3,
プレス部4,
箔部プレス部5,
膜厚センサ部6,
CPCユニット部7,
第2スリッタ部8,
超音波クリーナ部9,
検査部10,
巻き取り部11,
の各部がこの順に設けられている。
【0029】
巻き出し部1は,巻き出しロールからウエブを巻き出して供給するものである。
第1スリッタ部2は,切断刃を備え,上述のように間隔をあけて塗布されたペーストの間の箇所で長手方向に連続的に切断するものである。本形態では,2つの切断刃を備え,巻き出し部1によって巻き出されたウエブのうち,ペーストの塗布されていない2箇所の箔部を同時に切断するようになっている。従って,この第1スリッタ部2から出力されるウエブは,3本のウエブとなっている。この3本のウエブはいずれも,幅方向の両側に非塗工部があり,中央にペーストが塗工されているものである。
【0030】
リザーバ部3は,第1スリッタ部2によって3本となったウエブをそれぞれ搬送するとともに,それらの間隔を徐々に拡大するものである。さらにこのリザーバ部3では,3本のウエブのそれぞれの張力や搬送速度を調整し,次段のプレス部4へ3本のウエブが揃って供給されるようにしている。
【0031】
プレス部4は,ペーストの塗布されているウエブをプレスして,ペースト部分を高密度化するとともに厚さを均一化するものである。このとき,ペーストの塗工されている範囲のアルミ箔もプレスの影響を受け,やや伸びることが知られている。
箔部プレス部5は,プレス部4でプレスの影響を受けにくい箇所のアルミ箔,すなわち,非塗工部にプレスをかけるものである。これにより,塗工部と同程度に非塗工部も伸ばされ,ウエブの湾曲が防止される。
なお,このプレス部4及び箔部プレス部5は,リザーバ部3によって互いに間隔をあけて供給されてくる3本のウエブをまとめて処理するものである。
【0032】
膜厚センサ部6は,ウエブの厚みを検査するものである。特に,アルミ箔とペースト部分との厚みをそれぞれ取得できるものであればより望ましい。
CPCユニット部7は,3本のウエブの張力や搬送速度を揃えるとともに,蛇行を矯正して幅方向のウエブの搬送位置を調整するものである。これにより,次の第2スリッタ部8へ,3本のウエブがほぼ等間隔に並んで供給されるようにしている。
【0033】
第2スリッタ部8は,切断刃を備え,3本のウエブのそれぞれについてペースト塗工部分の中心位置で長手方向に連続的に切断するものである。本形態では,3本の切断刃を備え,3本のウエブを同時に切断して計6本のウエブとするものとしている。この第2スリッタ部8で切断されることにより,ここより下流側では,ペースト部分の片側のみに非塗工部があるウエブとなる。
超音波クリーナ部9は,6本の各ウエブの表面から,超音波により粉塵等を除去するものである。
【0034】
検査部10は,6本のウエブのそれぞれについてペースト等に欠陥がないか検査するものである。さらに,この検査部10では,ウエブのうち,ここまでの工程において欠陥があると判断された箇所に,欠陥を表示するマークを付加する。このマークが付加された箇所のウエブは,後の工程においてはね出され,製品には使用されない。
巻き取り部11は,6本のウエブを別々にロール状に巻き取るものである。
【0035】
これらのうち,巻き出し部1には,図2に示すような巻き出し装置20が設けられている。巻き出し装置20は,ウエブが巻かれたウエブロール21が巻き出しローラ22に取り付けられ,ここからウエブWを適切に巻き出して次工程へと供給するものである。本形態では,ウエブロール21から巻き出されたウエブWは,ローラ23,24に巻き掛けられて,さらに図中左下へ向かって搬送される。
【0036】
本形態は,巻き出しローラ22とローラ23とを載置するスライドテーブル25と,そのスライドテーブル25を水平移動させるネジ26とを有している。スライドテーブル25は,ネジ26の回転によって図2中で黒い矢印で示す方向に移動されるものである。すなわち,巻き出しローラ22とローラ23とは,スライドテーブル25によって,その軸方向に平行に移動される。これにより,ウエブWの巻き出される位置をその幅方向について調整することができる。一方,ローラ24は移動しない。従って,ローラ24におけるウエブWの幅方向の搬送位置を調整することができる。
【0037】
この巻き出し装置20はさらに,エッジセンサ28,端面センサ29とコントローラ30とを有している。エッジセンサ28は,ローラ23と24との間の位置に固定して配置され,搬送されるウエブWの幅方向のエッジの位置を検出するものである。本形態では,エッジセンサ28はウエブWの片側のエッジのみに配置されている。ここでは,エッジセンサ28として,ウエブWの幅方向に細長い検出領域を有する透過センサを採用している。
【0038】
端面センサ29は,ウエブロール21の端面(ウエブの幅方向端部が重なって面のようになっている箇所)の幅方向の位置を検出する反射型センサである。さらに,コントローラ30は,エッジセンサ28や端面センサ29の検出結果を受けて,ネジ26を調整することにより,ウエブWの搬送位置の調整を行うものである。
【0039】
単に蛇行を補正するだけであれば,ウエブWのエッジの位置が搬送によってぶれることなく,ほぼ一定の位置にあるようにすればよい。しかし,本形態ではこの後の工程における必要性から,ウエブWのエッジの位置を予め決めた位置にできるだけ近づけることが求められている。すなわち,エッジセンサ28や端面センサ29の検出結果には,その制御目標値が設定されている。そして,コントローラ30は,ウエブWのエッジの位置がその目標値に近づくように,スライドテーブル25の位置を制御する。
【0040】
そのためにコントローラ30は,PIDコントローラによるフィードバック制御を行って,エッジセンサ28の検出値xが目標値xdに近づくように制御している。この補正の指令速度vは,以下の式で与えられる。
v = KP × (xd−x) + KD × (d/dt)(xd−x) …(式1)
ここで,KPは,P成分(比例成分)のフィードバックゲインであり,
KDは,D成分(微分成分)のフィードバックゲインである。
本形態では,I成分(積分成分)は加えていない。
【0041】
従来のフィードバック制御では通常,これらのフィードバックゲイン(KPとKD)を定数としていた。このようにすると,どのような条件においても,大きな位置ずれが検出されると急激な位置制御が行われる。通常の定常搬送中には,さほど大きな位置ずれが発生することはないので,この式1によるフィードバック制御を行っても,問題はないからである。
【0042】
しかし,例えば,ウエブロール21のウエブWが残り少なくなると,その終端を次のウエブロール21のウエブWの先端と繋ぐ。このようなウエブロール21のつなぎ目では,テープのはみ出しやエッジ位置のずれはある程度避けられない。従来の巻き出し位置制御を常時行っていると,エッジセンサ28によってこのつなぎ目の位置ずれが検出されたとき,大きな位置ずれであると認識されることになる。この場合には,急激な位置補正が行われてしまう。このような急激な補正は,ウエブWのシワや破断の原因となるおそれがあるので好ましくない。
【0043】
一方で,つなぎ目等の大きな位置ずれが検出される箇所のウエブWは,製品としては使用しないので,必ずしも精密な位置制御を行う必要はない。そこで本形態のコントローラ30は,このつなぎ目の前後などの規格外部分のウエブWを対象として,通常の箇所とは異なる以下の2種類の制御を行うようにしている。通常,定常搬送中には,これらの制御の対象となることはない。
(A)エッジセンサ28の検出値に制限を設ける
(B)蛇行補正のフィードバックゲインを搬送速度の関数とする
【0044】
(A)の搬送制御では,図3に示すように,エッジセンサ28の検出値の変換を行う。この図で,横軸Xは,エッジセンサ28の検出値そのものであり,縦軸Yは,フィードバック制御に与える値である。XとYとの関係は,図中に太線で示したように変化する。そして,上記の式1のxには,エッジセンサ28の検出値に基づいて得られるYの値が入力される。
【0045】
例えば,図3に示すように,エッジセンサ28の検出値Xがその目標値を中心に,x2〜x3の範囲内の値であれば,そのまま制御に入力する。すなわち,Y=Xである。これがエッジセンサ28による検出値が採用範囲内であった場合である。しかし,この範囲外の値が検出された場合には,検出値Xがx2より大きい場合はY=x2とする。Xがx3より小さい場合はY=x3とする。これがエッジセンサ28による検出値が採用範囲外であった場合である。そして,上限値x2または下限値x3のうち,検出値Xに近い方の値が選択される。これにより,上記の式1における(xd−x)の値の幅が制限される。従って,式1におけるvの絶対値が大きくなりすぎて急激な蛇行補正となることが防止されている。
【0046】
これにより,エッジセンサ28の検出値が,予め決めた範囲を超えていた場合には,予め決めた上下限値であるものとしてフィードバック制御をすることになる。すなわち,予め決めた範囲を超える位置ずれは無視されるのである。エッジセンサ28の検出値が,エッジセンサ28の検出可能範囲の中央に近い場合には,検出値をそのままフィードバック制御に用いればよい。このようにすることにより,ウエブWのつなぎ目等による比較的大きな位置ずれがあった場合でも,ウエブWのシワや破断を防止できる。
【0047】
なお,ウエブWのつなぎ方には,機械によって自動的につなぐ自動つなぎと,人手によってつなぐ手つなぎとがある。自動つなぎは,ウエブWの搬送を停止するとウエブWに悪影響を与えかねない装置が,搬送経路中に含まれている場合に選択される。そのためこの場合には,搬送速度を通常通りに維持しつつ,装置によって自動的にウエブを繋ぐ。この方法では,手つなぎに比較してつなぎ位置での位置ずれが大きくなりがちであり,また,位置ずれの程度にバラツキが大きい。そこで,自動つなぎが選択されている搬送装置では,上記の(A)の制御を行うことが好ましい。
【0048】
(B)の処理は,上記の式1に含まれるフィードバックゲインKPおよびKDとして,それぞれ次式で算出される値を用いるものである。
KP = kp × (Vd / Vmax)mp × (V / Vd)np …(式2)
KD = kd × (Vd / Vmax)md × (V / Vd)nd …(式3)
ここで,
kp,kdはそれぞれ定数であり,例えば従来のフィードバックゲインの値である。
mp,md,np,ndはいずれもフィードバックゲインに対する搬送速度の値の影響力をどの程度とするかを決定する係数である。それぞれ,0より大きく,1.5以下の範囲内で,装置の構成に合わせて適切に選択される。例えば,mp=np=1としてもよい。また,mpとmd,npとndは,それぞれ同じでもよいし,異なる値でもよい。
【0049】
また,V,Vd,Vmaxは,いずれもウエブWの搬送速度である。
Vはその時の実際のウエブWの搬送速度である。
Vdはその時の搬送速度の制御の目標値(目標搬送速度)である。
Vmaxは最大の目標搬送速度すなわち定常搬送時の搬送速度であり,システム構成等に依存する固定値である。通常,製品を製造中には,ウエブはこの速度(Vmax)で搬送される。
【0050】
上記の式2,式3から,フィードバックゲインKP,KDは,いずれも,VdやVが大きいほど大きく,小さいほど小さい値となっている。すなわち,ウエブの搬送速度や目標搬送速度が速い場合には,大きい値のフィードバックゲインを用いる。ウエブの搬送速度や目標搬送速度が遅い場合には,小さい値のフィードバックゲインを用いる。そして,(Vd / Vmax)や(V / Vd)の割合が大きいほど大きく,小さいほど小さい値となっている。
【0051】
なお,通常,搬送速度Vは,そのときの目標速度Vdを目標値として制御されている。これは,本形態に係るウエブWの搬送位置の制御とは別のものである。そして,製品の製造時には,ウエブWの搬送速度は,最大の搬送速度Vmax(例えば100m/min)での定常的な搬送となっており,Vd=Vmaxであるとともに,Vはこれらにごく近い値となる。
【0052】
例えば手つなぎでは,ウエブWの搬送を一旦停止して人手によってつなぐ。そして,手つなぎによるウエブロール21の交換後などでは,定常的な搬送を始める前に,端面センサ29によってロールの端面位置を検出するようにしてもよい。そして,ウエブロール21の端面が適切な位置となるように,まずスライドテーブル25の位置またはウエブロール21の位置を調整してから,ウエブWの定常的な搬送の制御を開始するようにしてもよい。これが初期制御である。この端面の位置の調整中などには,低速でウエブWの搬送を行いつつ調整することが望ましい。
【0053】
このような場合には,当面の目標速度Vdは,最大速度Vmaxよりかなり小さい値に設定されることがある。搬送位置のずれが大きい間は,ゆっくり搬送しつつ位置ずれを修正する方が,ウエブWの無駄が少なく,好ましいからである。この場合には,VdはVmaxに比較してかなり小さい値に設定されるとともに,VはVdに近づくように制御される。
【0054】
このように,定常状態より遅い目標速度で搬送されている場合や,一旦搬送を停止した後の加速期間中などでは,上記の(B)を用いた制御を行うことが好ましい。すなわち,式1のフィードバック制御におけるフィードバックゲインとして,上記の式2および式3に示した各KPやKDを用いる。なお,上記の各KPおよびKDの式では,(Vd/Vmax)と(V/Vd)の両方を用いているが,いずれか片方のみを用いることとしてもよい。
【0055】
加速期間中などにおいて上記の(B)の制御を行うことにより,搬送速度が小さい期間はフィードバックゲインも小さく,緩やかなフィードバックとなる。ウエブWの搬送速度が低速である間は,スライドテーブル25を急に移動させるような補正の仕方は,ウエブWのシワや破断の原因となるからである。そこで,搬送速度が小さい間は,蛇行補正を緩やかに行う。このようにすることにより,ウエブWを傷つけることなく,適切に蛇行補正を行うことができる。
【0056】
次に,巻き出し部1の巻き出し装置20よりウエブWの搬送方向について下流側の位置における搬送制御について説明する。上記のように,ウエブWには,そのつなぎ目等の,製品として使用できない箇所ができることは避けられない。また,巻き出し装置20において,上記の(A)や(B)を用いて緩やかな蛇行補正を行った箇所も,製品に使用することは適さない。
【0057】
そこで本形態では,巻き出し部1より下流側の例えば図1の検査部10等に,この使用できない範囲のウエブWにマークを付加する機能を持たせている。検査部10が,マーク付加部として機能する。検査部10は,巻き出し部1から,精密な蛇行補正を行うことができなかった箇所についての情報を受け,その使用できない範囲のウエブWの端部に色を付ける。なお,ここではマークを付加するだけで,ウエブWの搬送は定常的に継続することが好ましい。
【0058】
さらに,より後段の工程において,ウエブWの端部にマークが付加されている箇所は,製品に使用せずにはね出すようにする。このようにすれば,ウエブWの搬送に影響を与えることなく,不具合品の流出が確実に防止される。
【0059】
なお,ウエブWのつなぎ目や上記の調整期間以外の定常速度での搬送中に,大きな蛇行が検出された場合は,何らかの設備異常のおそれがある。定常的に搬送しているウエブWが急に大きくずれることは,通常ありえないからである。そこで例えば,図3に示すように,エッジセンサの検出値に要求精度の範囲(許容範囲)を設けておく。通常,要求精度の範囲は,上記の(A)の制御によって,エッジセンサの検出値を制限される範囲より狭い範囲である。本形態では,定常搬送中にこの要求精度の範囲を超えた検出値が得られた場合には,異常発生として処理する。
【0060】
異常処理としては,例えば,警告表示によって管理者に通報するとしてもよい。制御パネルへの表示や,回転灯などによる広域表示,あるいはサイレン等の音による警告としてもよい。または,即座に設備を停止したり,搬送速度を低下させる等の対応をしてもよい。
【0061】
また,定常状態での搬送中において,スライドテーブル25が,その移動可能な範囲の限界に到達した場合にも同様に,警告表示などをすることが好ましい。このようになってしまうと,その方向へはそれ以上の蛇行補正ができないため,以後の搬送において正しい蛇行補正が行われる保証がないからである。
【0062】
次に,図4を参照して,図1や図2とは異なる箇所における,蛇行補正の制御について説明する。この図4は,図1に示す搬送装置の巻き出しローラ22に取り付けられるウエブロール21を製造する製造工程の一部であり,乾燥炉40と塗工部45との間の搬送装置を示している。この図の範囲よりさらに上流側において片面に活物質が塗工されたウエブWが,乾燥炉40に供給される。そして,その片面の活物質が乾燥炉40によって乾燥された後,塗工部45によって裏面に活物質が塗工される。表裏面の活物質の塗工範囲を合わせるために,この図の範囲において蛇行補正が行われる。
【0063】
ウエブWは,図4に示すように,図中右上の乾燥炉40の出口41から排出され,6本のローラ51〜56を介して,図中左下の塗工部45へと至るように搬送されている。乾燥炉40と塗工部45との間には,2つの蛇行補正装置が設けられている。首振りローラ51による第1の蛇行補正装置と,その下流側に設けられ,2本のローラ54,55の組による第2の蛇行補正装置である。そして,それ以外のローラ52,53,56はいずれも,装置内で固定して配置されている。なお,第1の蛇行補正装置と第2の蛇行補正装置との間には,少なくともウエブWの搬送状態に影響を与えるような部材は配置されていない。
【0064】
第1の蛇行補正装置は,図4に示すように,1本の首振りローラ51が支点P1を中心として回動される蛇行補正方式である。首振りローラ51より搬送方向の上流側に離れた位置に,回動中心の支点P1が配置されている。支点P1は,首振りローラ51の中心位置から首振りローラ51の軸に直角に,搬送方向の上流側へ遡った位置に設けられる。そして,首振りローラ51が支点P1を中心に回動されることにより,首振りローラ51が幅方向に移動するとともにその搬送方向に対する角度がやや変化する。従って,首振りローラ51を通過する際のウエブWの幅方向両端部における搬送距離に差が生じる。この差が,位置の変化しないローラ52によって,ウエブWの搬送方向の変化へと変換される。従って,搬送元である乾燥炉40やその出口41の位置が固定されたまま,ローラ52から下流におけるウエブWの位置を修正することができる。
【0065】
また本形態では,図4に示すように,首振りローラ51とローラ52との間にエッジセンサ61が設けられている。これにより,この位置において,ウエブWの幅方向の搬送位置が検出されている。さらに,その検出結果を受けて首振りローラ51の位置制御を行うコントローラ62も有している。
【0066】
このコントローラ62においては,式1のものと同様のフィードバック制御を行う。このフィードバック制御の速度指令vcは,以下の式4で表される。式4中のxは,エッジセンサ61の検出結果から取得されるウエブWの位置であり,xdはその目標値である。また,Kpc,Kdcは,それぞれ比例成分と微分成分のフィードバックゲインである。この制御によって首振りローラ51が回動されることにより,それより下流側におけるウエブWの幅方向の搬送位置が補正される。
vc = Kpc × (xd−x) + Kdc × (d/dt)(xd−x) …(式4)
【0067】
第2の蛇行補正装置は,図4に示すように,2本のローラ54,55の両端部が連結バー57,58によって固定され,その全体が一体的に回動される蛇行補正方式である。2本のローラ54,55のうち上流側のローラ54の表面に,回動の支点P2が配置されている。ローラ54,55は,連結バー57,58によって,一定の距離を置いて平行な配置となるように組み合わされている。ローラ54,55がまとめて回動されることにより,ウエブWの両端部における搬送距離を等しく保ったまま,幅方向の搬送位置を変更することができる。すなわち,このローラ54,55と連結バー57,58との組合せで,一体的な首振りローラを構成している。
【0068】
また,ローラ55とローラ56との間には,エッジセンサ65が設けられている。そして,その検出結果を受けて,ローラ54,55の位置制御を行うためのコントローラ66も設けられている。このコントローラ66においても,式1のものと同様のフィードバック制御を行う。コントローラ66におけるフィードバック制御の速度指令veは,以下の式5で表される。式5中のxは,エッジセンサ65の検出結果から取得されるウエブWの位置であり,xdはその目標値である。また,Kpe,Kdeは,それぞれ比例成分と微分成分のフィードバックゲインである。この制御によってローラ54,55が回動されることにより,下流側でのウエブWの幅方向の搬送位置が補正される。
ve = Kpe × (xd−x) + Kde × (d/dt)(xd−x) …(式5)
【0069】
本形態では,乾燥炉40において,ウエブWを浮かせてエアに当てる処理を行いつつ,ウエブWを搬送している。また,乾燥炉40の内部の搬送路は比較的長い上に,その途中では蛇行補正等の搬送制御は行われていない。そのため,その出口41におけるウエブWの配置は,他の搬送箇所に比較してかなりバラツキが大きいものとなっている。このことから,この出口41からの排出後すぐに,精密に蛇行補正を行おうとすると,ウエブWを急激に位置補正することになりがちである。このような急激な補正を行うと,ウエブWへの負担が大きく,シワやキズが発生するおそれがある。
【0070】
そこで本形態では,このように2つの蛇行補正装置を設け,段階的な蛇行補正を行っている。さらに,上流側のコントローラ62ではフィードバックゲイン(Kpc,Kdc)を下流側のコントローラ66のフィードバックゲイン(Kpe,Kde)に比較して小さくしている。これにより,第1の蛇行補正装置(首振りローラ51)では大まかな補正をするとともに,第2の蛇行補正装置(ローラ54,55)では,高精度な蛇行補正を行う。従って,ウエブWの急激な補正とはならず,ウエブWの破損を防止することができるとともに,下流側の塗工部45へは高精度に補正された位置で搬送される。
【0071】
さらに本形態では,図4に破線の矢印で示すように,エッジセンサ61の検出結果がコントローラ66にも入力されるようになっている。この結果を受けて,コントローラ66では,フィードフォワード制御を行う。この制御の速度指令vfは,以下の式6で表される。式6中のxは,エッジセンサ61の検出結果から取得されるウエブWの位置であり,xdは,エッジセンサ65におけるウエブWの位置の目標値である。また,Kpf,Kdfは,それぞれ比例成分と微分成分のフィードフォワードゲインである。
vf = Kpf × (xd−x) + Kdf × (d/dt)(xd−x) …(式6)
【0072】
すなわち,コントローラ66では,エッジセンサ65の検出結果に基づいたものである式5によるフィードバック制御に,エッジセンサ61の検出結果に基づいたフィードフォワード制御(式6)を加算した制御を行う。このようにすることにより,下流側の塗工部45におけるウエブWの位置をより精密に制御できる。
【0073】
このようにしているので,エッジセンサ61において,首振りローラ51の蛇行補正では補正しきれない大きな蛇行が検出された場合でも,下流側のローラ54,55による補正でカバーできることもある。そこで,本形態では,コントローラ62においては,補正可能な範囲をこえる蛇行が検出された場合でも警告にとどめ,装置を停止することはしない。その一方で,コントローラ66において,補正可能な範囲をこえる蛇行が検出された場合には,設備停止をする。コントローラ66での補正が不可能であれば,ウエブWを塗工部45へ適切な位置で供給することは不可能だからである。これにより不具合品の流出を防止しつつ,歩留まりを向上させることができる。
【0074】
なお,図4に示した構成においても,定常状態での搬送中において,首振りローラ51またはローラ54,55が,その移動可能な範囲の限界に到達した場合には,警告表示などをすることが好ましい。このようになってしまうと,その方向へはそれ以上の蛇行補正ができないため,以後の搬送において適切な蛇行補正が行われないおそれがあるからである。
【0075】
なお,首振りローラ51またはローラ54,55の回動の向きやその範囲等は,図に示したものに限らず,ウエブWの位置を適切に調整できるものであればよい。また,首振りローラ51の支点P1や,ローラ54,55の支点P2は,図示の位置に限らない。例えば,支点P1を首振りローラ51の搬送の下流側としてもよい。また,支点P2をローラ54と55との間に配置することもできる。
【0076】
さらに,以上に説明したようなウエブWの搬送装置を用いて,正極用の電極板および負極用の電極板を製造したら,これらを用いて以下のように電池を製造することができる。正極用の電極板と負極用の電極板との間にセパレータを挟み,まとめて捲回して捲回体を製造する。さらに,その捲回体を金属製等の電池ケースに挿入する。捲回体を挿入した電池ケースに,電解液を注入し,捲回体に含浸させる。両電極板にそれぞれ接続された電極端子を電池ケースの外部に突出させた状態で,電池ケースに蓋をして内部を密閉することにより,電池が完成する。
【0077】
以上詳細に説明したように本形態の搬送装置によれば,巻き出し部1における蛇行補正を,そのときの搬送速度に応じたフィードバックゲインでフィードバック制御する。すなわち,実搬送速度や目標搬送速度が小さいときはフィードバックゲインも小さく,急激な補正はされない。このようにすることにより,ウエブWのつなぎ目や搬送停止からの搬送再開時等のウエブWの搬送状態が安定していない間は,緩やかに補正するので,ウエブWの破損を防止できる。
【0078】
一方,定常搬送中には,フィードバックゲインが大きく,素早い補正を行う。この状態では通常,急激な位置ずれは発生しないので,速く精密な補正を行うことが望まれるからである。万一,この状態で急激な位置ずれが発生した場合には,何らかの異常が発生したと考えられる。そこでこの場合には,設備を停止したり,警告表示を行う等の異常処理を行う。このようにすることにより,ウエブの搬送状態に応じた適切な補正を行うことができ,ウエブのシワや破損を防止しつつ,適切に蛇行補正を行うことのできる搬送装置となっている。
【0079】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば本発明は,図1に示した搬送装置に限らず,そのうちの一部分の工程を実施するものや,さらに他の工程を付加したもの等の種々の搬送装置に適用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 巻き出し部
10 検査部
20 巻き出し装置
21 ウエブロール
25 スライドテーブル
28,61,65 エッジセンサ
29 端面センサ
30,62,66 コントローラ
51,54,55 首振りローラ
W ウエブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエブを供給するウエブ供給部と,
前記ウエブ供給部からのウエブ供給の幅方向位置を調整する幅方向位置調整部材と,
前記ウエブ供給部から供給されたウエブの幅方向位置を検知するウエブ位置センサと,
前記ウエブ位置センサによる検知位置に基づくフィードバック制御により,前記ウエブ供給部から供給されるウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように前記幅方向位置調整部材を操作する幅方向位置制御部とを有し,
前記幅方向位置制御部は,前記フィードバック制御のフィードバックゲインとして,ウエブの搬送速度が遅いほど小さく速いほど大きい可変値を用いるものであることを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載のウエブ搬送装置において,前記幅方向位置制御部は,
前記フィードバックゲインとして,ウエブの実際の搬送速度(V)の,目標搬送速度(Vd)に対する割合(V/Vd)が小さいほど値が小さく,割合が大きいほど値が大きい可変値を用いるものであることを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のウエブ搬送装置において,前記幅方向位置制御部は,
前記フィードバックゲインとして,その時点での目標搬送速度(Vd)の,定常搬送時の目標搬送速度(Vmax)に対する割合(Vd/Vmax)が小さいほど値が小さく,割合が大きいほど値が大きい可変値を用いるものであることを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載のウエブ搬送装置において,前記幅方向位置制御部は,
前記ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた採用範囲内であった場合には,検知位置をそのまま前記フィードバック制御に利用し,
前記ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた採用範囲外であった場合には,前記検知位置に代えて,予め決めた採用範囲の上限値または下限値のうちの前記検知位置に近い方の値を前記フィードバック制御に使用することを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項5】
請求項4に記載のウエブ搬送装置において,
前記幅方向位置調整部材および前記ウエブ位置センサよりウエブの搬送方向について下流側に配置され,ウエブの一部にマークを付加するマーク付加部を有し,
前記マーク付加部は,前記ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた採用範囲外であった箇所のウエブにマークを付加することを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載のウエブ搬送装置において,
前記ウエブ供給部は,ウエブを巻き重ねたウエブロールからウエブを巻き出して供給するものであり,
前記ウエブ供給部のウエブロールの端面の幅方向位置を検知するロール端面位置センサを有し,
前記幅方向位置制御部は,前記ロール端面位置センサによる検知結果を利用して,前記ウエブ供給部のウエブロールの位置を目標位置に近づける初期制御を行うことを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1つに記載のウエブ搬送装置において,
前記幅方向位置制御部は,定常搬送中に前記ウエブ位置センサによる検知位置が予め定めた許容範囲外となった場合には,警告または設備停止による異常処理を行うことを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1つに記載のウエブ搬送装置において,
前記幅方向位置制御部は,定常搬送中に前記幅方向位置調整部材が,その動作可能な最大範囲の端部に到達した場合には,警告または設備停止による異常処理を行うことを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1つに記載のウエブ搬送装置において,
前記幅方向位置調整部材は,前記ウエブ供給部をウエブの幅方向に移動させるスライドテーブルであることを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1つに記載のウエブ搬送装置において,
前記幅方向位置調整部材として,上流側の第1幅方向位置調整部材と,それより下流側の第2幅方向位置調整部材とを有し,
前記ウエブ位置センサとして,前記第1幅方向位置調整部材の下流側で前記第2幅方向位置調整部材の上流側に配置される第1ウエブ位置センサと,前記第2幅方向位置調整部材の下流側に配置される第2ウエブ位置センサとを有し,
前記幅方向位置制御部として,前記第1ウエブ位置センサによる検知位置に基づくフィードバック制御により,ウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように前記第1幅方向位置調整部材を操作する第1幅方向位置制御部と,前記第2ウエブ位置センサによる検知位置に基づくフィードバック制御により,ウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように前記第2幅方向位置調整部材を操作する第2幅方向位置制御部とを有し,
前記第1ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた第1の範囲外となった場合に警告を行い,前記第2ウエブ位置センサによる検知位置が予め決めた第2の範囲外となった場合に設備停止を行う異常制御部を有し,
前記第1の範囲は,前記第2の範囲より大きい範囲であることを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項11】
請求項10に記載のウエブ搬送装置において,
前記第1幅方向位置制御部がフィードバック制御に用いる第1フィードバックゲインは,前記第2幅方向位置制御部がフィードバック制御に用いる第2フィードバックゲインに比較して,小さいものであることを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載のウエブ搬送装置において,
前記第2幅方向位置制御部は,前記第2ウエブ位置センサの検知位置によるフィードバック制御に加えて,前記第1ウエブ位置センサの検知位置によるフィードフォワード制御をも利用して,前記第2幅方向位置調整部材を操作することを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項13】
請求項10から請求項12までのいずれか1つに記載のウエブ搬送装置において,
前記第1幅方向位置調整部材および前記第2幅方向位置調整部材は,ウエブの搬送方向に対する傾斜角が変化する首振りローラであることを特徴とするウエブ搬送装置。
【請求項14】
ウエブを,幅方向位置調整部材によりその幅方向に位置調整しつつ,その長手方向に搬送するウエブ搬送方法において,
搬送されるウエブの幅方向位置を検知し,
検知した幅方向位置に基づくフィードバック制御により,搬送されているウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように前記幅方向位置調整部材を操作するとともに,
そのフィードバック制御のフィードバックゲインとして,ウエブの搬送速度が遅いほど小さく速いほど大きい可変値を用いることを特徴とするウエブ搬送方法。
【請求項15】
導体箔ウエブを,幅方向位置調整部材によりその幅方向に位置調整しつつ,その長手方向に搬送するとともに,搬送されている前記導体箔ウエブに対し,活物質層の塗工,塗工した活物質層の乾燥,塗工した活物質層のプレス,長手方向に沿った切断,からなる処理群の少なくとも1つを行って電極板を製造し,製造された電極板を電解液とともにケースに封入して電池を製造する電池の製造方法において,
搬送されるウエブの幅方向位置を検知し,
検知した幅方向位置に基づくフィードバック制御により,搬送されているウエブの幅方向位置を目標位置に近づけるように前記幅方向位置調整部材を操作するとともに,
そのフィードバック制御のフィードバックゲインとして,ウエブの搬送速度が遅いほど小さく速いほど大きい可変値を用いることを特徴とする電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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