説明

ウエーハメッキ用電流分配装置

【課題】 ウエーハ用メッキ装置の分割された各カソード電極部分に供給される電流の大きさを均一に、または所定値に設定する。
【解決手段】
メッキ槽2の開口部に配置された等分割された複数個のカソード電極部分C1〜C6の特定の1個のカソード電極部分C1に定電流I1を供給すると共にその定電流の大きさを表わす電流指令信号Sを発生するマスター定電流供給回路12と、他のカソード電極部分C2〜C6に定電流I2〜I6を供給するスレーブ定電流供給回路14〜22とを含んでいる。スレーブ定電流供給回路14〜22は電流利得調整回路を有し、マスター定電流供給回路12から供給される電流指令信号Sに応答して前記他のカソード電極部分に供給される定電流の大きさを前記特定の1個のカソード電極部分に供給される電流と同じ大きさ、または所定の大きさに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハにメッキを施すメッキ装置のカソード電極とアノード電極との間に電流を供給するウエーハメッキ用電源装置において、複数個のカソード電極部分に所定の大きさの電流を供給するウエーハメッキ用電流分配装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエーハにメッキを施す装置としてカップ式のメッキ装置が知られている。この装置では、メッキ槽の開口部に配置されたリング状のカソード電極にウエーハの周辺部を接触させ、上記カソード電極とメッキ槽の内部に配置されたアノード電極との間に電流を流通させることにより、ウエーハの被メッキ面にメッキを施す。
【0003】
しかし、上記のような従来のメッキ装置では、メッキ槽内のメッキ液の流れ方、空気の混入、ウエーハとカソード電極との接触状態の不均一性等の要因により、ウエーハに施されるメッキ厚が均等にならないことがある。
【0004】
ウエーハの被メッキ面に可及的に均一にメッキを施すことができるようにしたメッキ装置が、例えば、特許文献1に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−115297(図2、図3、0011〜0013)
【0006】
上記の特許文献に記載のメッキ装置を図2乃至図4を参照して簡単に説明する。図2に示すメッキ装置1は、メッキ槽2と、該メッキ槽の上部開口部の周囲に配置された図3に示すような6分割されたリング状カソード電極C(C1〜C6)と、メッキ槽2の底部に配置されたアノード電極8とを有している。リング状カソード電極Cの下面にはメッキ液の漏洩防止用のシールパッキン5が設けられている。リング状カソード電極Cの上面にはメッキが施される半導体ウエーハ3が、その周縁部を上記リング状カソード電極Cに電気的に接触させた状態で配置されている。メッキ槽2の底部にはメッキ液供給口6が設けられており、これから供給されたメッキ液はウエーハ3に向けて上昇して該ウエーハ3の被メッキ面と接触し、流出口7からメッキ槽の外に流出する。
【0007】
図3に示すような分割された各カソード電極部分C1〜C6には、図4に示すような電流ミラー(current mirror)回路により構成された電流源から電流が供給される。ベース電極とコレクタ電極とが接続されたトランジスタT0は、負荷抵抗Rを経て電圧源Vccに接続されている。他のトランジスタT1〜T6のベース電極は、トランジスタT0のベース電極に共通に接続されている。トランジスタT1〜T6は、負荷として作用する各カソード電極部分C1〜C6を経て、上記電圧源Vccに接続されている。周知のように、電流ミラー回路は、トランジスタT0とトランジスタT1〜T6の特性が同じであれば、各負荷の大きさには関係なく、電圧源Vccから負荷抵抗Rを経てトランジスタT0に流れる電流と同じ大きさの電流が、トランジスタT1〜T6に流れる。すなわち、I0=I1=I2=I3=I4=I5=I6となる。このことにより、ウエーハ3の周縁部4と各カソード電極部分との接触面積あるいは接触状態の違いにより接触抵抗に差が生じても、ウエーハ3の被メッキ面全体に均一なメッキ電流が流れて、被メッキ面全体に均一な厚みのメッキ層が形成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4に示すような電流ミラー回路により構成された電流源を使用すると、理論上は各カソード電極部分C1〜C6に均等に電流が流れる筈である。しかし、実際には各トランジスタの僅かな特性の違いにより、または他の何らかの要因により各カソード電極部分C1〜C6に流れる電流の大きさが均等にならないことがある。また、メッキ槽2の各種の条件から、あるいは敢えてメッキ層の厚みに差異をもたせるために、各カソード電極部分C1〜C6に流れる電流を不均等にすることが望ましい場合もある。
【0009】
本発明は、メッキ装置の各カソード電極部分に均等に電流を流通させることができ、さらに必要に応じて各カソード電極部分に異なる大きさの電流を可制御的に流通させることができるウエーハメッキ用電流分配装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるウエーハメッキ用電流分配装置は、メッキ槽の開口部に配置された複数個のカソード電極部分、例えば等分割された複数個のカソード電極部分からなるリング状カソード電極と、上記メッキ槽の内部に配置されたアノード電極とを含むメッキ装置において、前記各カソード電極部分に所定の大きさの電流を供給する。メッキされるウエーハは、その周縁部で上記リング状カソード電極上に電気的に接触した状態で配置されることが望ましい。上記複数個のカソード電極部分のうちの特定の1個のカソード電極部分に定電流を供給するマスター定電流供給回路と、他のカソード電極部分に定電流を供給するスレーブ定電流供給回路とを、本ウエーハメッキ用電流分配装置は含んでいる。マスター定電流供給回路は、前記特定の1個のカソード電極部分に所定の大きさの定電流を供給すると共に、その定電流の大きさを表わす電流指令信号を発生して、これを前記スレーブ定電流供給回路に供給する。スレーブ定電流供給回路は、電流利得調整回路を有し、この電流利得調整回路が、前記電流指令信号に応答して、前記特定の1個のカソード電極部分を除く前記他のカソード電極部分に供給される定電流の大きさを前記1個のカソード電極部分に供給される電流と同じ大きさ、または所定の大きさに設定する。
【0011】
例えば、前記スレーブ定電流供給回路の電流利得調整回路は、前記スレーブ定電流供給回路から供給される定電流の大きさを前記マスター定電流供給回路から供給される定電流の大きさに、前記電流指令信号に応答して調整することが可能である。
【0012】
或いは、前記電流利得調整回路は、前記スレーブ定電流供給回路から供給される定電流の大きさを前記マスター定電流供給回路から供給される定電流と異なる大きさに、前記電流指令信号に応答して調整することが可能である。
【0013】
或いは、電流利得調整回路は、手動による利得調整モードと自動利得調整モードとを切換える切換手段を有するものとできる。この場合、前記自動利得調整モードでは、前記電流指令信号に応答して前記スレーブ定電流供給回路から供給される定電流の大きさを前記マスター定電流供給回路から供給される定電流の大きさに設定し、手動による利得調整モードでは、前記スレーブ定電流供給回路から供給される定電流の大きさを前記マスター定電流供給回路から供給される定電流と異なる値に前記電流指令信号に応答して調整する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるウエーハメッキ用電源装置によれば、複数個のカソード電極部分のうち特定の1個のカソード電極部分を除く他のカソード電極部分に流れる電流値を、前記特定のカソード電極部分に流れる電流と等しく設定することができることは勿論のこと、必要に応じて前記他のカソード電極部分に流れる電流値を、前記特定の1個のカソード電極部分に流れる電流と異なるように自由に設定することができる。これによってウエーハに対してより正確な厚みのメッキを施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明のウエーハメッキ用電源装置の1実施形態を示すものである。この電源装置から電流が供給されるメッキ装置1の構造は、基本的に図2、図3に示す従来のメッキ装置と同じ構造であるので、図1では本発明に関係する部分の構造のみを簡略化して示している。すなわち、符号2はメッキ槽、符号3はメッキが施されるウエーハを示し、ウエーハ3は、それの周縁部においてカソード電極部分C1〜C6上に設置されている。符号8はアノード電極、符号9はメッキ液を示す。
【0016】
各カソード電極部分C1〜C6に電流を供給する電源装置10は、電流分配装置11を含んでいる。電流分配装置11は、出力端子C11を経てカソード電極部分C1に電流を供給するマスター定電流供給回路12と、出力端子C12〜C16を経てカソード電極部分C2〜C6に定電流を供給するスレーブ定電流供給回路14〜22とを含んでいる。各定電流供給回路12〜22は、直流電圧源24の負電極に接続されており、該直流電圧源24の正電極は端子Aを経てメッキ装置1のアノード電極8に接続されている。マスター定電流供給回路12は、カソード電極部分C1に所定の大きさの定電流I1を供給し、またカソード電極部分C1に供給される定電流の大きさがI1であることを検出する電流検出器13を具備している。電流検出器13は、検出された電流I1の大きさを表わす電流値指令信号Sを発生し、これを各スレーブ定電流供給回路14〜22に供給する。
【0017】
スレーブ定電流供給回路14〜22は、マスター定電流供給回路12から供給される定電流I1の大きさを表わす電流値指令信号Sに応答して、対応する各カソード電極部分C2〜C6に供給される定電流I2〜I6の大きさを調整する電流利得調整回路を有している。また、スレーブ定電流供給回路14〜22の各電流利得調整回路は、該電流利得調整回路を手動によって定電流のI2〜I6の大きさを変更できる手動電流利得調整モードと、各カソード電極部分C2〜C6に供給される定電流I2〜I6の大きさを自動調整する自動電流利得調整モードとを備えている。これら2つのモードを切換える切換手段、例えば切換スイッチも、各電流利得調整回路には設けられている。スレーブ定電流供給回路14〜22は、自動電流利得調整モードでは、電流値指令信号Sによって指定される電流の100%の大きさの定電流を各カソード電極部分に供給するように自動的に設定される。手動電流利得調整モードでは、マスター定電流供給回路12から供給される電流値指令信号Sによって指定される電流の例えば5〜105%の範囲の大きさの電流を各カソード電極部分に供給することができるように手動調整することができるように構成されている。この調整は、スレーブ定電流供給回路14〜22において個別に行うことができる。
【0018】
本発明のウエーハメッキ用電源装置10によれば、通常にはスレーブ定電流供給回路14〜22を自動電流利得調整モードに設定することにより、特定のカソード電極部分C1に供給される電流と同じ大きさの電流を他のカソード電極部分C2〜C6に供給して、ウエーハの被メッキ面に均一な厚みのメッキを施すことができる。
【0019】
メッキ槽2の各部の特性の違い、あるいは分割されたカソード電極部分C1〜C6の化学的、物理的な特性の違い等の要因により、自動電流利得調整では各カソード電極部分に供給される電流を均等にすることができない場合、あるいは各カソード電極部分に供給される電流を敢えて不均等にする必要がある場合には、スレーブ定電流供給回路14〜22の電流利得調整回路を手動による電流利得調整モードに切換えて、手動で各別に利得調整することにより、各カソード電極部分に均等な大きさの電流、あるいは各カソード電極部分毎に異なる所望の大きさの電流を流通させることができる。
【0020】
上述の実施形態では、電源装置10は、1個のマスター定電流供給回路12に対して5個のスレーブ定電流供給回路14〜22が設けられている。しかし、スレーブ定電流供給回路の数は、カソード電極部分の数に従って決定されるものであり、5個以外の任意の数に設定可能であることは云うまでもない。また、スレーブ定電流供給回路を実用上の最大数設けておき、使用時にカソード電極部分の数に応じて動作するスレーブ定電流供給回路の数をスイッチにより設定することも可能である。
【0021】
本発明のウエーハメッキ用電源装置10は、電流制御部分11と直流電圧源24とを別々に構成して、使用時に両者を電気的に接続するようにすることもできるし、電流制御部分11と直流電圧源24とを一体化した構造としてコンパクトに作ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のウエーハメッキ用電源装置の一実施形態のブロック図である。
【図2】図1の本発明のウエーハメッキ用電源装置と組み合わせて使用されるカップ式メッキ装置のメッキ槽の構造を示す断面図である。
【図3】図2のウエーハメッキ用電源装置で使用される等分割されたリング状カソード電極の一例を示す平面図である。
【図4】従来のウエーハメッキ用電源装置の一例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0023】
10 ウエーハメッキ用電源装置
11 電流制御部分
12 マスター定電流供給回路
13 電流検出器
14〜22 スレーブ定電流供給回路
24 直流電圧源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ槽の開口部に配置された複数個のカソード電極部分と、前記メッキ槽の内部に配置されたアノード電極とを含むウエーハ用メッキ装置において、
前記複数個のカソード電極部分のうちの特定の1個のカソード電極部分に定電流を供給するマスター定電流供給回路と、
前記特定の1個のカソード電極部分を除く他のカソード電極部分にそれぞれ定電流を供給する、前記他のカソード電極部分と同数のスレーブ定電流供給回路とを、
含み、
前記マスター定電流供給回路は、前記特定の1個のカソード電極部分に所定の大きさの定電流を供給すると共に、その定電流の大きさを表わす電流指令信号を発生して、これを前記スレーブ定電流供給回路に供給し、
前記スレーブ定電流供給回路は、電流利得調整回路を有し、前記電流指令信号に応答して前記他のカソード電極部分に供給される定電流を所定の大きさに調整する、
ウエーハメッキ用電流分配装置。
【請求項2】
請求項1記載のウエーハメッキ用電流分配装置において、前記スレーブ定電流供給回路は、前記スレーブ定電流供給回路から供給される定電流の大きさを前記マスター定電流供給回路から供給される定電流の大きさに、前記電流指令信号に応答して前記電流利得調整回路が調整するウエーハメッキ用電流分配装置。
【請求項3】
請求項1記載のウエーハメッキ用電流分配装置において、前記スレーブ定電流供給回路は、前記スレーブ定電流供給回路から供給される定電流の大きさを前記マスター定電流供給回路から供給される定電流と異なる大きさに、前記電流指令信号に応答して前記電流利得調整回路が調整するウエーハメッキ用電流分配装置。
【請求項4】
請求項1記載のウエーハメッキ用電流分配装置において、前記スレーブ定電流供給回路の電流利得調整回路には、手動による利得調整モードと自動利得調整モードとを切換える切換手段が設けられており、前記自動利得調整モードでは、前記電流指令信号に応答して前記スレーブ定電流供給回路から供給される定電流の大きさを前記マスター定電流供給回路から供給される定電流の大きさに設定し、手動による利得調整モードでは、前記スレーブ定電流供給回路から供給される定電流の大きさを前記マスター定電流供給回路から供給される定電流と異なる値に前記電流指令信号に応答して調整することが可能である、ウエーハメッキ用電流分配装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−46138(P2007−46138A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234381(P2005−234381)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000228165)日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース株式会社 (29)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)