説明

ウラン回収方法

【課題】大型で且つ特殊な設備を用いることなく、簡易且つ沿岸に設置した通常の施設で海水ウランを回収することができるウラン回収方法を提供する。
【解決手段】ビーカー10内の海水14及び内部海水16中にセルロース繊維円筒濾紙12を浸し、内部海水16に塩酸を加えて炭酸ウラニルイオンを分解し、ウラニルイオンを生成する。セルロース繊維円筒濾紙12を介して内部海水16と海水14とを接触し、放置して、セルロース繊維円筒濾紙12にイオン会合体としてウランを固定する。セルロース繊維円筒濾紙12をビーカー10から取り出し、別のビーカー18内の希塩酸に浸してウランを溶離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸ウラニルイオンを含む溶液中のウランを回収するウラン回収方法に関し、特に、海水中のウランを回収するウラン回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水中には約45億トンのウラン(以下、「海水ウラン」と言う。)が存在し、これは鉱山ウランの約1000倍に相当するものと言われている。黒潮に乗って日本に運ばれてくる海水ウランは年間約520万トンであり、このうちの0.2%を捕集することができれば、日本の年間ウラン需要量とされている800トンのウランを賄うことができると言われている。日本では年間ウラン需要量の100%を海外からの輸入に頼っているため、海水ウランの捕集により、長期的に安定した資源の確保をすることができるものとされている(非特許文献1参照)。
【0003】
海水ウランの捕集(回収)に関する研究は、世界的に見て日本が一番進んでいる。特に、独立行政法人日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所(旧日本原子力研究所高崎研究所)では、1980年頃から海水ウラン捕集材の作成に用いる放射性グラフト重合法の研究が行われてきている(非特許文献2参照)。現在は、アミドキシム基を固定した不織布による海水ウラン捕集の実用実験が行われている(非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】“有用金属捕集材”、[online]、独立行政法人 日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所ホーム・ページ、[平成18年6月1日検索]、インターネット<URL: http://www.taka.jaea.go.jp/eimr_div/j637/seawater_j.html>.
【非特許文献2】“放射線グラフト重合法”、[online]、独立行政法人 日本原子力研究開発機構 高崎量子応用研究所ホーム・ページ、[平成18年6月1日検索]、インターネット<URL: http://www.taka.jaea.go.jp/eimr_div/j637/graft_j.html>.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した海水ウラン捕集の実用実験では、大型で且つ捕集材等の材料を長期間海中に浸して放置するための特殊な設備が必要となるという問題があった。そこで、本発明の目的は上記問題を解決するためになされたものであり、大型で且つ特殊な設備を用いることなく、簡易且つ沿岸に設置した通常の施設で海水ウランを回収することができるウラン回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のウラン回収方法は、炭酸ウラニルイオンを含む溶液中のウランを回収するウラン回収方法であって、炭酸ウラニルイオンを含む溶液中に所定の閉形状のセルロース繊維濾紙を浸し、該セルロース繊維濾紙内の該溶液に塩酸を加えて炭酸ウラニルイオンを分解し、ウラニルイオンを生成するウラニルイオン生成工程と、前記セルロース繊維濾紙を介して、前記ウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含む該セルロース繊維濾紙内の溶液と炭酸ウラニルイオンを含む該セルロース繊維濾紙外の溶液とを接触し、該セルロース繊維濾紙にイオン会合体としてウランを固定するウラン固定工程と、前記ウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維濾紙を前記溶液から取り出し、該セルロース繊維濾紙を希塩酸に浸してウランを溶離するウラン溶離工程とを備えたことを特徴とする。
【0007】
ここで、この発明のウラン回収方法において、前記ウラン固定工程は、前記セルロース繊維濾紙を介して、前記ウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含む該セルロース繊維濾紙内の溶液と炭酸ウラニルイオンを含む該セルロース繊維濾紙外の溶液とを接触し、放置して、該セルロース繊維濾紙にイオン会合体としてウランを固定することができる。
【0008】
ここで、この発明のウラン回収方法において、前記ウラン固定工程における放置は前記セルロース繊維濾紙外の溶液の撹拌を伴うことができる。
【0009】
ここで、この発明のウラン回収方法において、前記所定の閉形状のセルロース繊維濾紙はセルロース繊維円筒濾紙とすることができる。
【0010】
この発明のウラン回収方法は、炭酸ウラニルイオンを含む溶液中のウランを回収するウラン回収方法であって、炭酸ウラニルイオンを含む溶液に塩酸を加えて炭酸ウラニルイオンの一部をウラニルイオンに変換し、該ウラニルイオンと該炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体を生成するイオン会合体生成工程と、前記イオン会合体生成工程で生成したイオン会合体を含む溶液を所定の形状のセルロース繊維濾紙を用いて濾過し、該セルロース繊維濾紙にイオン会合体としてウランを固定するウラン固定工程と、前記ウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維濾紙を前記溶液から取り出し、該セルロース繊維濾紙を希塩酸に浸してウランを溶離するウラン溶離工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、この発明のウラン回収方法において、前記イオン会合体生成工程は、炭酸ウラニルイオンを含む溶液に塩酸を加えて、放置し、炭酸ウラニルイオンの一部をウラニルイオンに変換し、該ウラニルイオンと該炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体を生成することができる。
【0012】
ここで、この発明のウラン回収方法において、前記イオン会合体生成工程における放置は前記溶液の撹拌を伴うことができる。
【0013】
ここで、この発明のウラン回収方法において、前記所定の形状のセルロース繊維濾紙はセルロース繊維円筒濾紙とすることができる。
【0014】
ここで、この発明のウラン回収方法において、前記炭酸ウラニルイオンを含む溶液は海水とすることができる。
【0015】
ここで、この発明のウラン回収方法において、前記炭酸ウラニルイオンは二炭酸ウラニルイオン及び/又は三炭酸ウラニルイオンとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のウラン回収方法によれば、海水にセルロース繊維円筒濾紙を浸し、塩酸をセルロース繊維円筒濾紙内部の海水に加えてウラニルイオンを生成し、セルロース繊維円筒濾紙を介してウラニルイオンとセルロース繊維円筒濾紙外の海水とを接触させ、セルロース繊維円筒濾紙に固定したイオン会合体に希塩酸を用いることにより、ウランを回収することができる。このため、従来技術のように大型で且つ特殊な設備を用いることなく、原理的に極めて簡易にウランを回収することができる。規模を拡大することは容易であり、沿岸に設置した通常の施設で十分に海水ウランを回収することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、本発明の実施例1におけるウラン回収方法の原理について説明し、次に実施例1における具体的な実験例について図面を参照して詳細に説明する。
本発明の実施例1におけるウラン回収方法の原理.
本発明の実施例1におけるウラン回収方法は、炭酸ウラニルイオンを含む溶液中のウランを回収するウラン回収方法である。炭酸ウラニルイオンを含む溶液としては海水が好適であり、以下の説明では海水を炭酸ウラニルイオンを含む溶液の例として用いる。ウランの化学種はウラニルイオン(UO2+)であるが、海水中では炭酸イオン(CO2−)と結びつき、炭酸ウラニルイオンとして存在している。炭酸ウラニルイオンは二炭酸ウラニルイオン([UO(CO2−)および三炭酸ウラニルイオン([UO(CO4−)の総称である。本発明の対象となる炭酸ウラニルイオンは、二炭酸ウラニルイオンおよび三炭酸ウラニルイオンであるが、いずれか一方を対象としてもよい。
【0019】
図1(A)ないし(C)は本発明の実施例1におけるウラン回収方法の原理を示す。図1(A)ないし(C)において、符号10はビーカー、12は所定の閉形状のセルロース繊維濾紙、14は海水、16はセルロース繊維濾紙12内の海水、18はビーカー10とは別のビーカーである。以下、セルロース繊維濾紙12内の海水16と海水14とを区別するために、セルロース繊維濾紙12内の海水16を特に内部海水16と言う。所定の閉形状のセルロース繊維濾紙12としてはセルロース繊維円筒濾紙が好適であり、以下の説明ではセルロース繊維円筒濾紙を所定の閉形状のセルロース繊維濾紙の例として用いる。図1(A)に示されるように、ビーカー10内の海水14および内部海水16中にセルロース繊維円筒濾紙12を浸し、セルロース繊維円筒濾紙12内の内部海水16に塩酸(HCl)を加えて内部海水16内の炭酸ウラニルイオンを分解し、内部海水16内にウラニルイオンを生成する(ウラニルイオン生成工程)。
【0020】
ここで、上述した炭酸ウラニルイオンのウラニルイオンへの分解(ウラニルイオン生成工程)について説明する。最初、内部海水16中では、以下の化学平衡式1ないし4が成立している。
【0021】
【化1】

【0022】
内部海水16に塩酸を加えて水素イオン濃度を増加させると、化学平衡式4の平衡は左に移動し、化学平衡式3の平衡も左に移動する。その結果、化学平衡式1および2の平衡は左に移動し、炭酸ウラニルイオンは分解してウラニルイオンが生成されることになる。以上の反応をまとめて示すと、三炭酸ウラニルイオンのウラニルイオンへの分解は以下の化学平衡式5で表され、二炭酸ウラニルイオンのウラニルイオンへの分解は以下の化学平衡式6で表される。
【0023】
【化2】

【0024】
図2は、ウラン化学種の分率に及ぼすpHの影響を示すグラフである。図2において、横軸は海水のpH、縦軸は海水のウラン化学種の分率であり、四角印がウラニルイオン(A)、丸印が二炭酸ウラニルイオン(B)、三角印が三炭酸ウラニルイオン(C)を示す。図2に示されるように、ウラニルイオン(A)、二炭酸ウラニルイオン(B)および三炭酸ウラニルイオン(C)の分率(存在比)は海水16のpHによって変化する。海水のpHは8.2程度であるため、三炭酸ウラニルイオン(C)の存在割合が大きい。上述のように内部海水16を酸性にすると、図2に示されるように、内部海水16中の炭酸ウラニルイオン(CおよびB)はウラニルイオン(A)となる。従って、酸性にしたセルロース繊維円筒濾紙12内の内部海水16にはウラニルイオン(A)が存在する。
【0025】
図1に戻って説明すると、図1(B)に示されるように、セルロース繊維円筒濾紙12を介して、上述のウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含むセルロース繊維円筒濾紙12内の内部海水16と炭酸ウラニルイオンを含むセルロース繊維円筒濾紙12外の海水14とを接触し、セルロース繊維円筒濾紙12にイオン会合体(UO2+[UO(CO2−または(UO2+[UO(CO4−)としてウランを固定する(ウラン固定工程)。このイオン会合体の生成反応は、二炭酸ウラニルイオン、三炭酸ウラニルイオンについて各々以下の化学式7、8のように表される。
【0026】
【化3】

【0027】
次に、図1(C)に示されるように、上述のウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維円筒濾紙12を内部海水16および14の入ったビーカー10から取り出し、セルロース繊維円筒濾紙12を別のビーカー18内の希塩酸に浸してウランを溶離する(ウラン溶離工程)。イオン会合体UO2+[UO(CO2−の分解反応は、化学式6と7とから以下の化学式9のように表される。
【0028】
【化4】

【0029】
同様にして、イオン会合体(UO2+[UO(CO4−の分解反応は、化学式5と8とから以下の化学式10のように表される。
【0030】
【化5】

【0031】
以上のように、ビーカー10内の海水14(および16)中にセルロース繊維円筒濾紙12を浸し、セルロース繊維円筒濾紙12内の内部海水16に塩酸を加えて内部海水16内の炭酸ウラニルイオンを分解し、内部海水16内にウラニルイオンを生成する(ウラニルイオン生成工程)。セルロース繊維円筒濾紙12を介して、ウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含むセルロース繊維円筒濾紙12内の内部海水16と炭酸ウラニルイオンを含むセルロース繊維円筒濾紙12外の海水14とを接触し、セルロース繊維円筒濾紙12にイオン会合体(UO2+[UO(CO2−または(UO2+[UO(CO4−)としてウランを固定する(ウラン固定工程)。ウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維円筒濾紙12を内部海水16および14の入ったビーカー10から取り出し、セルロース繊維円筒濾紙12を別のビーカー18内の希塩酸に浸してウランを溶離する(ウラン溶離工程)。本発明の実施例1におけるウラン回収方法の原理の特徴は、海水14および内部海水16にセルロース繊維円筒濾紙12を浸し、塩酸を内部海水16に加えてウラニルイオンを生成し、セルロース繊維円筒濾紙12を介してこのウラニルイオンと炭酸ウラニルイオンを含む海水14とを接触させ、セルロース繊維円筒濾紙12に固定したイオン会合体に希塩酸を用いることにより、ウランを回収するという点にある。このため、従来技術のように大型で且つ特殊な設備を用いることなく、原理的に極めて簡易にウランを回収することができる。規模を拡大することは容易であり、沿岸に設置した通常の施設で十分に海水ウランを回収することができる。
【0032】
上述の説明では、炭酸ウラニルイオンを含む溶液として海水を例として用いたが、本発明の実施例1におけるウラン回収方法は海水に限定されるものではない。ウランの希薄溶液に炭酸イオンを加えることにより、海水と同様な系ができるため、本発明の実施例1におけるウラン回収方法は、海水以外のウランの希薄溶液に対しても適用することができることは勿論である。
【0033】
以下、実施例1における具体的な実験例について説明する。図3(A)ないし(D)は、本発明の実施例1におけるウラン回収方法の一例を示す。図3(A)ないし(D)で図1(A)ないし(C)と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図3(A)ないし(D)において、符号10aは150mlのポリプロピレン製ビーカー、12aは外径28mm、内径24mm、長さ100mmのセルロース繊維製円筒濾紙、20は回転子、22はスターラーである。セルロース繊維製円筒濾紙12aとしては東洋濾紙株式会社のADVANTEC(登録商標)84を用いた。セルロース繊維製円筒濾紙12aの膜厚は、好適には約2mmである。
【0034】
図3(A)に示されるように、ポリプロピレン製ビーカー10aにセルロース繊維製円筒濾紙12aを入れ、海水100mlをポリプロピレン製ビーカー10aに加える。内部海水16は約20mlとなる。海水14および内部海水16には、上述したように炭酸ウラニルイオンが含まれている。海水14(および内部海水16)は青森県深浦町千畳敷海岸から採取した。海水14(および内部海水16)のウラン濃度は、21回の繰返し実験で、平均値3.23μg/L、標準偏差0.14μg/Lである。海水14(および内部海水16)のpHは8.2である。
【0035】
次に、図3(B)に示されるように、内部海水16に1M塩酸0.2mlを加える。この結果、上述したように内部海水16の炭酸ウラニルイオンは分解されてウランイオンが生成される(ウラニルイオン生成工程)。
【0036】
図3(C)に示されるように、セルロース繊維製円筒濾紙12aを介して、ウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含む内部海水16と炭酸ウラニルイオンを含む海水14とが接触し、セルロース繊維製円筒濾紙12aにイオン会合体(UO2+[UO(CO2−または(UO2+[UO(CO4−)としてウランが固定される(ウラン固定工程)。
【0037】
上述のウラン固定工程は、セルロース繊維製円筒濾紙12aを介して、ウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含む内部海水16と炭酸ウラニルイオンを含む海水14とを接触し、放置して、セルロース繊維製円筒濾紙12aにイオン会合体としてウランを固定することができる。放置は主としてセルロース繊維製円筒濾紙12a内外の海水のpHを所定の値に達せしめ、ウランをセルロース繊維製円筒濾紙12aに固定するウラン固定工程において必要となる。当該放置はセルロース繊維製円筒濾紙12a外の海水14の撹拌を伴うこともできる。具体的には、海水14をスターラー22で6時間以上撹拌しながら放置する。撹拌は、セルロース繊維製円筒濾紙12a内の内部海水16のpHとセルロース繊維製円筒濾紙12a外の海水14のpHとが等しくなった時点で止める。
【0038】
図4は、セルロース繊維製円筒濾紙12aの外部の海水14および内部海水16の各海水試料のpHに及ぼす放置時間の影響を示すグラフである。図4で、横軸は撹拌時間(時間)、縦軸はpHである。図4に示されるように、最初、海水14のpHは8.2であり、内部海水16のpHは約2であった。この状態で海水14を撹拌しながら放置すると、やがて海水14と内部海水16とが混ざり合い、6時間以上(好適には7時間)で両海水試料のpHは等しくなる。従って、放置する時間は、撹拌を伴う場合、6時間以上、好適には7時間である。
【0039】
図3に戻り説明すると、図3(D)に示されるように、上述のウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維製円筒濾紙12aを内部海水16および海水14の入ったポリプロピレン製ビーカー10aから取り出し、セルロース繊維製円筒濾紙12aを別のビーカー18aに入れる。ビーカー18aに0.5M希塩酸50mlを加えて、捕集したウランを溶離する(ウラン溶離工程)。
【0040】
ウラン溶離工程で溶離されたウランを定量し、ウランの回収率に及ぼすpHの影響を検討した。図5は、ウランの回収率に及ぼすpHの影響を示すグラフである。図5で、横軸はセルロース繊維製円筒濾紙12a内外におけるpH、縦軸はウラン回収率(%)であり、丸印はウラン固定工程において撹拌しながら7時間放置した場合、四角印はウラン固定工程において撹拌無しで24時間放置した場合を示す。上述したように、海水14(および内部海水16)のウラン濃度は、21回の繰返し実験で、平均値3.23μg/L、標準偏差0.14μg/Lであった。従って、ポリプロピレン製ビーカー10aに加えた海水100ml中のウランの量は0.323μgとなる。図5に示される回収率はこの0.323μgを基準として算出した。図5の点線近傍に示されるように、海水ウランはウラン固定工程において撹拌しながら7時間放置した場合、セルロース繊維製円筒濾紙12a内外におけるpHが6付近になると、80%近くが回収されることがわかった。さらに、図5の点線近傍に示されるように、海水ウランはウラン固定工程において撹拌無しで24時間放置した場合にも、セルロース繊維製円筒濾紙12a内外におけるpHが6付近になると、80%近くが回収されることがわかった。従って、撹拌を伴わない場合、放置する時間は好適には24時間である。
【0041】
以上より、本発明の実施例1によれば、ポリプロピレン製ビーカー10aにセルロース繊維製円筒濾紙12aを入れ、海水100mlをポリプロピレン製ビーカー10aに加える。次に、内部海水16(約20ml)に1M塩酸0.2mlを加える(ウラニルイオン生成工程)。セルロース繊維製円筒濾紙12aを介して、ウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含む内部海水16と炭酸ウラニルイオンを含む海水14とが接触し、セルロース繊維製円筒濾紙12aにイオン会合体(UO2+[UO(CO2−または(UO2+[UO(CO4−)としてウランが固定される(ウラン固定工程)。ウラン固定工程は、セルロース繊維製円筒濾紙12aを介して、ウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含む内部海水16と炭酸ウラニルイオンを含む海水14とを接触し、放置して、セルロース繊維製円筒濾紙12aにイオン会合体としてウランを固定することができる。当該放置はセルロース繊維製円筒濾紙12a外の海水14の撹拌を伴うこともできる。具体的には、海水14をスターラー22で6時間以上撹拌しながら放置する。撹拌は、セルロース繊維製円筒濾紙12a内の内部海水16のpHとセルロース繊維製円筒濾紙12a外の海水14のpHとが等しくなった時点(好適には撹拌しながら7時間放置した後)で止める。ウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維製円筒濾紙12aを内部海水16および海水14の入ったポリプロピレン製ビーカー10aから取り出し、セルロース繊維製円筒濾紙12aを別のビーカー18aに入れる。ビーカー18aに0.5M希塩酸50mlを加えて、捕集したウランを溶離する(ウラン溶離工程)。海水ウランはウラン固定工程において撹拌しながら7時間放置した場合、セルロース繊維製円筒濾紙12a内外におけるpHが6付近になると、80%近くが回収されることがわかった。さらに、海水ウランはウラン固定工程において撹拌無しで24時間放置した場合にも、セルロース繊維製円筒濾紙12a内外におけるpHが6付近になると、80%近くが回収されることがわかった。基本的には、酸性の内部海水16を含むセルロース繊維製円筒濾紙12aを天然の海水14に接触させ、海水14を撹拌しながら7時間放置するか、あるいは上記撹拌無しで24時間放置するだけで、海水ウランを回収することができる。すなわち、従来技術のように大型で且つ特殊な設備を用いることなく、極めて簡易にウランを回収することができる。海水ウランを捕集した後の海水はpH6付近であることから、そのまま海水に放出することができる。
【実施例2】
【0042】
まず、本発明の実施例2におけるウラン回収方法の原理について説明し、次に実施例2における具体的な実験例について図面を参照して詳細に説明する。
【0043】
本発明の実施例2におけるウラン回収方法の原理.
本発明の実施例2におけるウラン回収方法は、実施例1と同様に、炭酸ウラニルイオンを含む溶液中のウランを回収するウラン回収方法である。実施例1と同様に、炭酸ウラニルイオンを含む溶液としては海水が好適であり、以下の説明では海水を炭酸ウラニルイオンを含む溶液の例として用いる。本発明の実施例2において対象となる炭酸ウラニルイオンは、実施例1と同様に、二炭酸ウラニルイオンおよび三炭酸ウラニルイオンであるが、いずれか一方を対象としてもよい。
【0044】
図6(A)ないし(C)は本発明の実施例2におけるウラン回収方法の原理を示す。図6(A)ないし(C)で図1(A)ないし(C)と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため説明は省略する。図6(A)ないし(C)において、符号32は所定の形状のセルロース繊維濾紙である。所定の形状のセルロース繊維濾紙32としてはセルロース繊維円筒濾紙が好適である。通常、濾過の実験には、平板なセルロース繊維濾紙ではなくセルロース繊維円筒濾紙を用いているため、以下の説明ではセルロース繊維円筒濾紙を所定の形状のセルロース繊維濾紙の例として用いる。但し、これは実験の便宜上のためであり、濾過に用いることができるものであれば所定の形状のセルロース繊維濾紙32はセルロース繊維円筒濾紙に限定されるものではない。
【0045】
図6(A)に示されるように、ビーカー10内の海水14に塩酸を加えて炭酸ウラニルイオンの一部をウラニルイオンに変換し、ウラニルイオンと炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体を生成する(イオン会合体生成工程)。ここで、炭酸ウラニルイオンのウラニルイオンへの変換(または分解)についての説明は、実施例1において化学平衡式1ないし6を用いた説明と同じであるため省略する。実施例1において図2のウラン化学種の分率に及ぼすpHの影響を示すグラフを用いて説明したように、海水14のpHが5〜7に調整された場合、海水14中には、ウラニルイオン、二炭酸ウラニルイオンおよび三炭酸ウラニルイオンが共に存在している。従って、実施例1において化学式7および8を用いてイオン会合体の生成反応を説明したように、海水14中ではウラニルイオンと二炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体、およびウラニルイオンと三炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体が生成されている。
【0046】
次に、図6(B)に示されるように、上述のイオン会合体生成工程で生成したイオン会合体を含む海水14をセルロース繊維円筒濾紙32を用いて濾過し、セルロース繊維円筒濾紙32にイオン会合体(UO2+[UO(CO2−、(UO2+[UO(CO4−)としてウランを固定する(ウラン固定工程)。
【0047】
図6(C)に示されるように、上述のウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維円筒濾紙32を別のビーカー18内の希塩酸に浸してウランを溶離する(ウラン溶離工程)。イオン会合体の分解反応の説明は、実施例1において化学式9および10を用いた説明と同様であるため省略する。
【0048】
以上のように、ビーカー10内の海水14に塩酸を加えて炭酸ウラニルイオンの一部をウラニルイオンに変換し、ウラニルイオンと炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体を生成する(イオン会合体生成工程)。イオン会合体生成工程で生成したイオン会合体を含む海水14をセルロース繊維円筒濾紙32を用いて濾過し、セルロース繊維円筒濾紙32にイオン会合体としてウランを固定する(ウラン固定工程)。ウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維円筒濾紙32を別のビーカー18内の希塩酸に浸してウランを溶離する(ウラン溶離工程)。本発明の実施例2におけるウラン回収方法の原理によれば、実施例1のように予め海水14中にセルロース繊維円筒濾紙32を浸しておく必要がない。このため、実施例1と比較してさらに簡易にウランを回収することができる。
【0049】
上述の説明では、炭酸ウラニルイオンを含む溶液として海水を例として用いたが、実施例1と同様に、実施例2におけるウラン回収方法は海水に限定されるものではない。ウランの希薄溶液に炭酸イオンを加えることにより、海水と同様な系ができるため、実施例2におけるウラン回収方法も実施例1と同様に、海水以外のウランの希薄溶液に対しても適用することができることは勿論である。
【0050】
以下、実施例2における具体的な実験例について説明する。図7(A)ないし(C)は、本発明の実施例2におけるウラン回収方法の一例を示す。図7(A)ないし(C)で図6(A)ないし(C)および図3(A)ないし(D)と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図7(A)ないし(C)において、符号32aは外径28mm、内径24mm、長さ100mmのセルロース繊維製円筒濾紙(東洋濾紙株式会社製のADVANTEC(登録商標)84)である。セルロース繊維製円筒濾紙32aの膜厚は、好適には約2mmである。
【0051】
図7(A)に示されるように、ポリプロピレン製ビーカー10a内に海水14を100ml入れる。海水14は実施例1と同様に青森県深浦町千畳敷海岸から採取した。実施例1と同様に、海水14のウラン濃度は21回の繰返し実験で、平均値3.23μg/L、標準偏差0.14μg/Lであり、海水14のpHは8.2である。次に、図7(A)に示されるように、海水14に1M塩酸0.2mlを加える。この結果、上述したように海水14の炭酸ウラニルイオンの一部がウラニルイオンに変換され、ウラニルイオンと炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体が生成される(イオン会合体生成工程)。
【0052】
上述のイオン会合体生成工程は、炭酸ウラニルイオンを含む海水14に塩酸を加えて、放置し、炭酸ウラニルイオンの一部をウラニルイオンに変換し、ウラニルイオンと炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体を生成することができる。放置は主としてビーカー10a内の海水14のpHを所定の値(pH=5〜7)に達せしめ、ウラニルイオンと炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体を生成するイオン会合体生成工程において必要となる。
【0053】
次に、図7(B)に示されるように、上述のイオン会合体生成工程で生成したイオン会合体を含む海水14をセルロース繊維円筒濾紙32aを用いて濾過し、セルロース繊維円筒濾紙32aにイオン会合体としてウランを固定する(ウラン固定工程)。
【0054】
図7(C)に示されるように、上述のウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維円筒濾紙32aを別のビーカー18aに入れる。ビーカー18aに0.5M希塩酸50mlを加えて、捕集したウランを溶離する(ウラン溶離工程)。
【0055】
実施例1と同様に、ウラン溶離工程で溶離されたウランを定量し、ウランの回収率に及ぼすpHの影響を検討した。図8は、ウランの回収率に及ぼすpHの影響を示すグラフである。図8で、横軸はビーカー10a内の海水14のpH、縦軸はウラン回収率(%)であり、四角印はイオン会合体生成工程において撹拌無しで7時間放置した場合を示す。実施例1と同様に、ポリプロピレン製ビーカー10aに加えた海水100ml中のウランの量は0.323μgとなる。図8に示される回収率はこの0.323μgを基準として算出した。図8の点線近傍に示されるように、海水ウランはイオン会合体生成工程において撹拌無しで7時間放置した場合、ビーカー10a内の海水14のpHが5〜7付近になると、60%近くが回収されることがわかった。従って、撹拌無しで放置する時間は好適には7時間程度である。
【0056】
イオン会合体生成工程における上記放置は、ビーカー10a内の海水14の撹拌を伴っても良い。具体的には、海水14をスターラー22で所望の時間撹拌しながら放置する。撹拌は、ビーカー10a内の海水14のpHが所定の値(pH=5〜7)になった時点で止めればよい。
【0057】
以上より、本発明の実施例2によれば、ポリプロピレン製ビーカー10a内に海水14を100ml入れる。次に、海水14に1M塩酸0.2mlを加える。この結果、上述したように海水14の炭酸ウラニルイオンの一部がウラニルイオンに変換され、ウラニルイオンと炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体が生成される(イオン会合体生成工程)。上述のイオン会合体生成工程は、炭酸ウラニルイオンを含む海水14に塩酸を加えて、放置し、炭酸ウラニルイオンの一部をウラニルイオンに変換し、ウラニルイオンと炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体を生成することができる。イオン会合体生成工程で生成したイオン会合体を含む海水14をセルロース繊維円筒濾紙32aを用いて濾過し、セルロース繊維円筒濾紙32aにイオン会合体としてウランを固定する(ウラン固定工程)。ウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維円筒濾紙32aを別のビーカー18aに入れる。ビーカー18aに0.5M希塩酸50mlを加えて、捕集したウランを溶離する(ウラン溶離工程)。海水ウランはイオン会合体生成工程において撹拌無しで7時間放置した場合、ビーカー10a内の海水14のpHが5〜7付近になると、60%近くが回収されることがわかった。イオン会合体生成工程における上記放置は、ビーカー10a内の海水14の撹拌を伴っても良い。基本的には、天然の海水14に塩酸を加え、海水14を撹拌無しで7時間放置するか、あるいは撹拌しながら所望の時間放置するだけで、海水ウランを回収することができる。すなわち、従来技術のように大型で且つ特殊な設備を用いることなく、極めて簡易にウランを回収することができる。海水ウランを捕集した後の海水はpH5〜7付近であることから、そのまま海水に放出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の活用例として、特に海水ウランの回収に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例1におけるウラン回収方法の原理を示す図である。
【図2】ウラン化学種の分率に及ぼすpHの影響を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1におけるウラン回収方法の一例を示す図である。
【図4】セルロース繊維製円筒濾紙12aの外部の海水14および内部海水16の各海水試料のpHに及ぼす放置時間の影響を示すグラフである。
【図5】ウランの回収率に及ぼすpHの影響を示すグラフ図である。
【図6】本発明の実施例2におけるウラン回収方法の原理を示す図である。
【図7】本発明の実施例2におけるウラン回収方法の一例を示す図である。
【図8】ウランの回収率に及ぼすpHの影響を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0060】
10、10a、18 ビーカー、 12、12a、32、32a セルロース繊維製円筒濾紙、 14 海水、 16 内部海水、 20 回転子、 22 スターラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ウラニルイオンを含む溶液中のウランを回収するウラン回収方法であって、
炭酸ウラニルイオンを含む溶液中に所定の閉形状のセルロース繊維濾紙を浸し、該セルロース繊維濾紙内の該溶液に塩酸を加えて炭酸ウラニルイオンを分解し、ウラニルイオンを生成するウラニルイオン生成工程と、
前記セルロース繊維濾紙を介して、前記ウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含む該セルロース繊維濾紙内の溶液と炭酸ウラニルイオンを含む該セルロース繊維濾紙外の溶液とを接触し、該セルロース繊維濾紙にイオン会合体としてウランを固定するウラン固定工程と、
前記ウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維濾紙を前記溶液から取り出し、該セルロース繊維濾紙を希塩酸に浸してウランを溶離するウラン溶離工程とを備えたことを特徴とするウラン回収方法。
【請求項2】
請求項1記載のウラン回収方法において、前記ウラン固定工程は、前記セルロース繊維濾紙を介して、前記ウラニルイオン生成工程で生成したウラニルイオンを含む該セルロース繊維濾紙内の溶液と炭酸ウラニルイオンを含む該セルロース繊維濾紙外の溶液とを接触し、放置して、該セルロース繊維濾紙にイオン会合体としてウランを固定することを特徴とするウラン回収方法。
【請求項3】
請求項2記載のウラン回収方法において、前記ウラン固定工程における放置は前記セルロース繊維濾紙外の溶液の撹拌を伴うことを特徴とするウラン回収方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のウラン回収方法において、前記所定の閉形状のセルロース繊維濾紙はセルロース繊維円筒濾紙であることを特徴とするウラン回収方法。
【請求項5】
炭酸ウラニルイオンを含む溶液中のウランを回収するウラン回収方法であって、
炭酸ウラニルイオンを含む溶液に塩酸を加えて炭酸ウラニルイオンの一部をウラニルイオンに変換し、該ウラニルイオンと該炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体を生成するイオン会合体生成工程と、
前記イオン会合体生成工程で生成したイオン会合体を含む溶液を所定の形状のセルロース繊維濾紙を用いて濾過し、該セルロース繊維濾紙にイオン会合体としてウランを固定するウラン固定工程と、
前記ウラン固定工程でウランを固定したセルロース繊維濾紙を希塩酸に浸してウランを溶離するウラン溶離工程とを備えたことを特徴とするウラン回収方法。
【請求項6】
請求項5記載のウラン回収方法において、前記イオン会合体生成工程は、炭酸ウラニルイオンを含む溶液に塩酸を加えて、放置し、炭酸ウラニルイオンの一部をウラニルイオンに変換し、該ウラニルイオンと該炭酸ウラニルイオンとのイオン会合体を生成することを特徴とするウラン回収方法。
【請求項7】
請求項6記載のウラン回収方法において、前記イオン会合体生成工程における放置は前記溶液の撹拌を伴うことを特徴とするウラン回収方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載のウラン回収方法において、前記所定の形状のセルロース繊維濾紙はセルロース繊維円筒濾紙であることを特徴とするウラン回収方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のウラン回収方法において、前記炭酸ウラニルイオンを含む溶液は海水であることを特徴とするウラン回収方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載のウラン回収方法において、前記炭酸ウラニルイオンは二炭酸ウラニルイオン及び/又は三炭酸ウラニルイオンであることを特徴とするウラン回収方法。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−19150(P2008−19150A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194836(P2006−194836)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】