説明

ウルツ鉱型ナノ結晶の製造方法

【課題】ウルツ鉱型ナノ結晶およびその製造方法を提供する。
【解決手段】六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子(Cu2−δS)(ここで、δは0≦δ≦1を表す。)と、インジウム化合物および硫黄化合物をアミン溶液中にて混合することを特徴とする一般式CuIn(ここで、0<x<2、0<y<2、x+y=2、z=0.5x+1.5yである。)で表されるウルツ鉱型ナノ結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルツ鉱型ナノ結晶の製造方法、およびその製造方法により得られるルツ鉱型ナノ結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルク物質とは異なった特異な物性から、ナノ材料が盛んに研究されている。半導体は、そのサイズがナノメートルオーダーになると、電子−正孔対(エキシトン)が狭い領域に閉じ込められる「量子閉じ込め効果」が観測されるようになる。その一例として、CdSを始めとする直接遷移型半導体ナノ粒子は「量子ドット」と呼ばれ、粒子サイズにより発光波長及びバンドギャップが制御できることがよく知られている。また、電子線リソグラフィー等の方法を用いて、半導体超薄膜を一方向に切り刻み、線状の量子井戸構造が造られ、形状の伴った量子サイズ効果が得られることが知られている。このように、電子状態を制御できる半導体ナノ粒子は、次世代の発光材料、光学材料又はエネルギー変換材料への応用が期待されている。
【0003】
光電変換材料としては、CdS、HgS、PbS、PbSeなどの化合物半導体が有力であるが、Hg、Cd、Pbなどの重金属類は欧州のRoHS指令などで使用が厳しく制限されており、これらの重金属を含まない材料の開発が強く望まれている。
Hg、Cd、Pbなどの重金属類を含まない光電変換材料としてカルコパイライト系化合物も数多く提案されている。カルコパイライト系化合物は、そのバンドギャップが、CuInSで〜1.5eV、CuInSeで〜1eVと、太陽光とのマッチングが良く、また、光吸収係数が可視領域で〜10cm−1と非常に大きいため太陽電池の吸収層として非常に優れている。しかも、構成する元素は比較的無害なものであり、環境に調和した代替物質として、その光電変換材料への応用が期待されている。なかでも、これらの化合物がナノ粒子の形態で得られれば、光電変換素子等の素子の作成が容易になると考えられる。
【0004】
また、近年、母体材料に半導体結晶を用いた蛍光体がさかんに研究されており、とくに量子サイズ効果によって発光効率を増大させた周期律表第II〜VI族化合物半導体であるZnSやCdSe等のナノ粒子蛍光体の開発が進んでいる(特許文献1)。
従来のナノ粒子の作成法は、ブレイクダウン法(トップダウン法)とビルドアップ法(ボトムアップ法)とに大別される。ブレイクダウン法は、バルク物質を粉砕して微粒子とする方法であるが、粒子サイズはサブミクロンレベルが限界である。ビルドアップ法は、さらに固相法、気相法及び液相法の三種類に分類される。固相法は、製造過程に長時間を要し、粒子の凝集が著しく、サイズ制御が困難であるため、実用には不向きであり、主に気相法と液相法とが利用されている。気相法では、蒸気及び反応ガスの濃度とキャリアガス種の選択とにより、粒子サイズ、結晶構造等を制御できる上、純粋な組成のナノ粒子が得られるが、大量合成には向いていない、また、得られたナノ粒子が基板上にランダムに蓄積するため、ナノ粒子を秩序配列させてデバイスを形成することは困難である。一方、液相法は、大量生産が可能であること、またナノ粒子の自己組織化の利用によるデバイスの作成が可能となること等の利点がある(非特許文献1)。
【0005】
液相法では、希薄溶液中での合成が古くから試みられており(均一液相合成)、初期における量子ドットの研究において多大な貢献をした。また、逆ミセルを利用したナノ粒子の合成も近年盛んに研究されており、単分散ナノ粒子が比較的大量に合成できることが示されている(逆ミセル法)。このような研究の流れの中で、BawendiやAlivissatosらのグループは、高温極性溶媒中で非常に単分散な半導体ナノ粒子を合成する方法を見出した(ホットソープ法)。この方法では、粒子の表面に吸着する界面活性剤が粒子成長の制御及び凝集防止をすることで、単分散なナノ粒子を得ることができる。このホットソープ法は、逆ミセル法とは異なり、非水溶媒中で合成を行うため、酸化等の影響が少なく、また界面活性剤が表面のダングリングボンドを不活性化するため、従来のナノ粒子に比べ非常に量子効率が高いということが特徴である。
しかし、ホットソープ法は、金属アルコキシド等の危険な原材料を用いることや、表面保護剤として用いられるTOP/TOPOが高価な上に腐食性も強いため、生産工程のスケールアップが非常に困難である(非特許文献2、3)という欠点があった。
【0006】
カルコパイライト系化合物のナノ粒子の製造法については、非特許文献4、5においては、特殊な原材料“シングルプレカーサー”(PPhCuIn(SEt)を用いて高品位なカルコパイライトナノ粒子を合成しているが、組成制御の自由度がないという欠点を有する。非特許文献6においては、生成した粒子が粗大であり、またカルコパライト構造でない相(固溶体)が共存するという欠点がある。
本発明者ら及びKorgelのグループは、銅前駆体とチオール化合物とを反応させて硫化銅ナノ粒子を得ており(非特許文献7、8)、また金属前駆体とチオール化合物とを反応させて硫化金属ナノ粒子を製造する方法を提案している(特許文献2)。
【0007】
【非特許文献1】奥村喜久夫,「ナノマテリアル最前線」,化学同人,2002年
【非特許文献2】「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイアティー(J. Am. Chem. Soc.)」,1993年,第115巻,p.8706
【非特許文献3】「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイアティー(J. Am. Chem. Soc.)」,1997年,第119巻,p.7019
【非特許文献4】「ザ ジャーナル オブ フィジカル ケミストリー B(J.Phys.Chem.B),2004年,第108巻,p.12429−12435
【非特許文献5】「ナノ レターズ(Nano Lett.)」,2006年,第6巻,p.1218
【非特許文献6】「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイアティー(J. Am. Chem. Soc.)」,2006年,第128巻,p.2520
【非特許文献7】「ケミストリー レターズ(Chem. Lett.)」,2004年,第33巻,p.352−353
【非特許文献8】「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイアティー(J. Am. Chem. Soc.)」,2003年,第125巻,p.5638
【特許文献1】特開2003―226521号公報
【特許文献2】特開2005−325016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、高品位なカルコパイライトナノ結晶を温和な条件で合成すべく、幅広く検討した結果、特定の組成のとき、ウルツ鉱型ナノ結晶が得られることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、一般式CuIn(ここで、0<x<2、0<y<2、x+y=2、z=0.5x+1.5yである。)で表されるウルツ鉱型ナノ結晶に関する。
また本発明は、六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子(Cu2−δS)(ここで、δは0≦δ≦1を表す。)を種結晶として製造されることを特徴とする請求項1記載のウルツ鉱型ナノ結晶に関する。
また本発明は、六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子(Cu2−δS)(ここで、δは0≦δ≦1を表す。)と、インジウム化合物および硫黄化合物をアミン溶液中にて混合して得られることを特徴とする前記記載のウルツ鉱型ナノ結晶に関する。
さらに本発明は、六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子(Cu2−δS)(ここで、δは0≦δ≦1を表す。)と、インジウム化合物および硫黄化合物をアミン溶液中にて混合することを特徴とする一般式CuIn(ここで、0<x<2、0<y<2、x+y=2、z=0.5x+1.5yである。)で表されるウルツ鉱型ナノ結晶の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、新規なウルツ鉱型ナノ結晶を温和な条件で合成でき、かつ、本発明により得られる新規なウルツ鉱型ナノ結晶は光電変換素子、エレクトロルミネッセンス素子、その他の電子、光学デバイスへ応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
先ず、本発明のウルツ鉱型ナノ結晶を製造する方法について説明する。
すなわち、本発明においては、予め、六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子を合成する。しかる後、種結晶としての該硫化銅ナノ粒子、インジウム化合物、および硫黄化合物をアミン溶液中にて混合することにより、目的のウルツ鉱型ナノ結晶を得ることができる。
【0012】
(1)硫化銅ナノ粒子の合成(Step1)
六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子は、銅化合物と硫黄化合物を有機溶媒中で混合することにより合成することができる。
銅化合物としては、具体的には、銅−アミン錯体(以下「前駆体銅錯体」ともいう。)が好ましく用いられる。また、硫黄化合物としては、硫黄を溶解したチオール化合物溶液(以下、「硫黄/チオール溶液」ともいう。)が好ましく用いられる。この前駆体銅錯体と硫黄/チオール溶液とを混合することにより、硫化銅ナノ粒子を合成する。
【0013】
上記前駆体銅錯体は、銅を含有する銅塩とアミン化合物とをエーテル化合物、トルエン、ヘキサン等の溶媒中で接触させたり、あるいはアミン化合物自体を溶媒としてアミン化合物の中に直接銅塩を加えたりすることにより調製することができる。
銅塩とアミン化合物との反応で、銅−アミン錯体(前駆体銅錯体)が形成される。
【0014】
本発明において、銅塩としては、酢酸塩、アセチルアセトナート塩、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、塩酸塩、過塩素酸塩、酸化物、有機酸塩等が挙げられ、なかでも酢酸塩、アセチルアセトナート塩が好ましい。具体的には、酢酸銅、銅アセチルアセトナートを挙げることができる。
【0015】
アミン化合物としては、例えば炭素数6〜20の炭化水素基を有する第1級アミン化合物、例えば炭素数6〜20の炭化水素基を有する第2級アミン化合物、例えば炭素数6〜20の炭化水素基を有する第3級アミン化合物が挙げられる。特に、バルキーな炭化水素基(アルキル、アルケニル、アリール基)を持つ物が最適であり、より好ましくはトリオクチルアミンなどの3級アミンや炭素数が12以上の炭化水素基を持つアミン(ドデシルアミン)である。
【0016】
この銅−アミン錯体に硫黄/チオール溶液を反応させて硫化することにより硫化銅ナノ粒子が得られる。
硫黄/チオール溶液は、硫黄とチオール化合物を混合して調製される。硫黄はチオール化合物に溶解する際、下記式(1)の反応式(Rはアルキル基である。)の下、チオール化合物の還元能により硫化水素となり、目的とする硫化金属ナノ粒子の硫黄源となる。
S+2RSH→(RSH)2S→H2S+RSSR (1)
【0017】
チオール化合物は、炭素数3〜20のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、又は窒素、硫黄及び酸素から選ばれる1種以上を含む複素環基から選ばれる官能基を有し得る。チオール化合物は、硫黄の還元剤として機能する以外に、表面保護剤としても機能する。
アルキル基を有するチオール化合物としては、具体的には、エタンチオール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、1−ペンタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ペンタデカンチオール等を挙げることができる。また、チオール部を複数有するジチオール、トリチオール等も使用できる。
アリール基を有するチオール化合物としては、具体的には、チオフェノール、2−ナフタレンチオール、3−ナフタレンチオール、ジメチルベンゼンチオール、エチルベンゼンチオール等を挙げることができる。また、チオール部を複数有するジチオール、トリチオール等も使用できる。
アラルキル基を有するチオール化合物としては、具体的には、ベンジルチオール、2−フェニルエタンチオール、3−フェニルプロピルチオール等を挙げることができる。また、チオール部を複数有するジチオール、トリチオール等も使用できる。
複素環基を有するチオール化合物としては、具体的には、2−メルカプトピリジン、4−メルカプトピリジン、2−メルカプトピリミジン、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール等を挙げることができる。また、チオール部を複数有するジチオール、トリチオール等も使用できる。
以上挙げたチオール化合物の中で、アルキル基を有するチオール化合物が好ましく用いられ、特に好ましくはアルキル基の炭素数が6以上のチオール化合物が用いられる。
【0018】
チオール化合物に硫黄を溶解させる方法は特に限定されないが、硫黄の溶解を促進するため、混合後加熱攪拌を行うのが好ましい。攪拌時間は10分〜1時間程度であり、温度によって任意に設定できる。加熱攪拌温度は、室温から200℃、好ましくは50℃〜150℃の範囲である。
【0019】
本発明においては、上記前駆体銅錯体と硫黄/チオール溶液とを有機溶媒中で混合する。
本発明においては、かくして得られる硫化銅ナノ粒子が六方晶結晶構造を有することが必要である。六方晶構造にするには、Cu/S比(原子比)が1以上(すなわち銅リッチ)であり、より好ましくは1.5以上である。
また六方晶構造にするために、銅―アミン錯体の種類も重要であり、アミン化合物としては、前述したようにバルキーな炭化水素基(アルキル、アルケニル、アリール基)を持つアミン化合物が好ましい。
【0020】
使用できる有機溶媒としては、エーテル類、アルコール類、ハロゲン化物、炭化水素、芳香族類(トルエンやベンゼンなど)、アミン類等が挙げられる。
反応温度は、0℃以上、好ましくは室温以上であり、300℃以下、好ましくは200℃以下である。反応温度によって、粒子サイズをコントロールすることができる。また、同様に粒子の形状をコントロールすることもできる。具体的には、反応温度やアルキルアミンの種類や、チオール/アミン比などによりコントロール可能である。反応時間は、通常10分〜2時間程度である。
なお、六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子の合成方法は、上述の方法に限定されるものではない。
【0021】
(2)硫化銅ナノ粒子へのインジウムのドープ(Step2)
上記により得られた硫化銅ナノ粒子にインジウムをドープすることにより、本発明のウルツ鉱型ナノ結晶を製造することができる。
先ず、インジウム化合物と硫黄化合物を有機溶媒中で混合し、不活性ガス雰囲気下で攪拌しながら所定時間加温して均一溶液とする(以後、溶液Aと呼ぶ。)。
インジウム化合物としては特に限定されないが、酢酸塩、アセチルアセトナート塩、金属ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、塩酸塩、過塩素酸塩、酸化物、有機酸塩、水素化物等が挙げられ、なかでも酢酸塩、アセチルアセトナート塩が好ましい。インジウム化合物の具体例としては、酢酸インジウム、インジウムアセチルアセトナート、硝酸インジウム、硫酸インジウム等が挙げられ、このうち酢酸インジウム、インジウムアセチルアセトナートが特に好ましい。
硫黄化合物としては、前述したチオール化合物と同様のものを用いることができる。
また有機溶媒としても前述したものと同様のものを用いることができ、エーテル、3級アミン、ジクロロベンゼンなどの低配位性溶媒がとくに好ましい。
【0022】
次いで、前記Step1で得られた硫化銅ナノ粒子を有機溶媒中に分散して得られる硫化物ナノ粒子分散液(以後、分散液Bと呼ぶ。)を、溶液Aに加えて攪拌混合する。
溶液Aと分散液Bの混合比は、目的とするウルツ鉱型ナノ結晶の元素比となるように硫化銅ナノ粒子とインジウム化合物を仕込めば良く、溶液Aおよび分散液Bの濃度により任意に調整可能である。
溶液Aと分散液Bを攪拌混合する際、混合温度は特に限定されないが、通常、室温以上、好ましくは100℃以上であり、また、300℃以下、好ましくは260℃以下である。混合時間は特に限定されないが、通常0.5〜2時間である。
【0023】
上記の反応を行うことにより、分散液B中の硫化銅ナノ粒子がアニーリングされ、また、インジウム金属が、硫化銅ナノ粒子にドープされ、目的とするウルツ鉱型ナノ結晶が得られる。得られたウルツ鉱型ナノ結晶を反応液から分離する方法は特に限定されないが、通常、エタノール等を加えて凝集させたのち、遠心分離法により回収する方法が好ましく採用される。
【0024】
以上の2step合成法により、本発明のウルツ鉱型ナノ結晶を製造することができる。
本発明の2step合成法で得られるウルツ鉱型ナノ結晶の組成としては、CuIn(ここで、0<x<2、0<y<2、x+y=2、z=0.5x+1.5yである。)で表される。
【0025】
本発明のウルツ鉱型ナノ結晶のサイズ、形状、結晶構造は、通常、ステップ1で合成された硫化銅ナノ粒子が、ステップ2において種粒子として働くために、硫化銅ナノ粒子のサイズ、形状、組成、結晶構造の影響を受け、特に、硫化銅ナノ粒子の組成、結晶構造に大きく影響を受ける。すなわち、硫化銅ナノ粒子の組成は、Cu2−δSにおいて、δは、0≦δ≦1であり、好ましくは、0≦δ≦0.5、さらに好ましくはδ=0である。また、硫化銅ナノ粒子の結晶構造は 六方晶構造であることが必要である。
【0026】
また、本発明のウルツ鉱型ナノ結晶の組成(Cu/In原子比)、結晶構造は、溶液Aと分散液Bの反応条件、すなわち、銅化合物/インジウム化合物仕込みモル比、アニーリング温度(混合温度)の影響を受ける。
ウルツ鉱型ナノ結晶の平均粒径は、1〜50nmであり、好ましくは、2〜20nmで制御可能である。ナノサイズの粒径とすることで、光閉じ込め効果を有することができ、光吸収あるいは蛍光を短波長化することができる。
本発明で得られるウルツ鉱型ナノ結晶は結晶の対照性がカルコパイライト構造と異なることが特徴であり、エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)、非線形光学材料、太陽電池などに半導体として幅広く応用可能である。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制限されるものではない。
【0028】
[実施例1]
Cu酢酸塩(79mg)とオレイルアミン(1.8ml)をトルエン(20ml)中で混合し、アルゴン雰囲気下に数分間攪拌した後、100℃まで昇温した。
次に硫黄(13mg)をドデカンチオール(2.5ml)に溶解した後、この溶液を上記のCu酢酸塩とオレイルアミンのトルエン溶液に添加した。90℃で30分間攪拌した後、冷却し、続いて遠心分離機にて目的の硫化銅ナノ粒子を得た。得られたナノ粒子のX線回折にて、六方晶β―CuSであることを確認した(平均粒径4.4nm)。
続いて酢酸インジウム(117mg)と1−ドデカンチオール(2.46ml)をトリオクチルアミン(15ml)中で混合し、アルゴン雰囲気下で攪拌しながら90℃まで昇温し、約30分間攪拌した。次に、硫化銅ナノ粒子(CuS,0.2mmol)をトリオクチルアミン(5ml)に溶解した物を、上記の酢酸インジウム溶液に加え200℃で30分間攪拌した。得られたナノ粒子は、反応溶液にエタノールを加える事で凝集させ、遠心分離により回収した。得られたウルツ鉱型ナノ結晶のTEM像および粒子径分布を図1に、吸光スペクトル、発光スペクトルを図2に、XRD測定結果を図3に示した。また、元素分析の結果、Cu/In/S原子比は1/1/2であった。
【0029】
[実施例2]
Cu酢酸塩(79mg、0.4mmol)と1−ドデカンチオール(1ml)をジオクチルエーテル(20ml)中で混合し、60℃アルゴン雰囲気下で30分間攪拌した後、230℃まで昇温した。溶液の色は黄色から黒色に変化しナノ粒子の生成が確認できる。結晶構造は、電子線回折により六方晶β―CuSと同定された。
上記のコロイド溶液を、冷却し続いて酢酸インジウム(117mg)と1−ドデカンチオール(2.46ml)を加え、アルゴン雰囲気下で攪拌しながら90℃まで昇温し、約30分間攪拌した。その後に、200℃まで昇温し30分間攪拌した。得られたナノ結晶は、反応溶液にエタノールを加える事で凝集させ、遠心分離により回収した。得られた銅インジウム硫化物のXRD測定結果を図3に示した。元素分析の結果、Cu/In/S原子比は1/1/2であった。
【0030】
[比較例1]
酢酸銅(79mg)とオクチルアミン(0.136ml)をトルエン(20ml)中で混合し、アルゴン雰囲気下に数分間攪拌した後、100℃まで昇温した。
次に硫黄(26mg)をドデカンチオール(2.5ml)に溶解した後、この溶液をCu酢酸塩とオクチルアミンのトルエン溶液に添加した。90℃で30分間攪拌した後、冷却し、続いて遠心分離機にて目的の硫化銅ナノ粒子を得た。得られたナノ粒子のX線回折にて、逆蛍石構造を持つCu1.8Sであった。
続いて酢酸インジウム(117mg)と1−ドデカンチオール(2.46ml)をトリオクチルアミン(15ml)中で混合し、アルゴン雰囲気下で攪拌しながら90℃まで昇温し、約30分間攪拌した。次に、硫化銅ナノ粒子(Cu1.8S)をトリオクチルアミン(5ml)に溶解した物を、上記の酢酸インジウム溶液に加え200℃で30分間攪拌した。得られたナノ粒子は、反応溶液にエタノールを加える事で凝集させ、遠心分離により回収した。得られたナノ粒子のTEM像および粒子径分布を図4に、XRD測定結果を図5に示した。XRD測定結果より、カルコパイライト型CuInSと同定された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1において得られたウルツ鉱型ナノ結晶のTEM像および粒子径分布を示す図である。
【図2】実施例1において得られたウルツ鉱型ナノ結晶の吸光スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1および2において得られたウルツ鉱型ナノ結晶のXRDを示す図である。
【図4】比較例1において得られたカルコパイライト型ナノ粒子のTEM像および粒子径分布を示す図である。
【図5】比較例1において得られたカルコパイライト型ナノ粒子のXRDを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式CuIn(ここで、0<x<2、0<y<2、x+y=2、z=0.5x+1.5yである。)で表されるウルツ鉱型ナノ結晶。
【請求項2】
六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子(Cu2−δS)(ここで、δは0≦δ≦1を表す。)を種結晶として製造されることを特徴とする請求項1記載のウルツ鉱型ナノ結晶。
【請求項3】
六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子(Cu2−δS)(ここで、δは0≦δ≦1を表す。)と、インジウム化合物および硫黄化合物をアミン溶液中にて混合して得られることを特徴とする請求項1または2に記載のウルツ鉱型ナノ結晶。
【請求項4】
六方晶構造を有する硫化銅ナノ粒子(Cu2−δS)(ここで、δは0≦δ≦1を表す。)と、インジウム化合物および硫黄化合物をアミン溶液中にて混合することを特徴とする一般式CuIn(ここで、0<x<2、0<y<2、x+y=2、z=0.5x+1.5yである。)で表されるウルツ鉱型ナノ結晶の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−13019(P2009−13019A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177371(P2007−177371)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ナノ学会第5回大会 講演予稿集,第131ページ,平成19年5月21日発行
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)