説明

ウレタン防水工法およびウレタン防水構造

【課題】施工現場における下地形状等に拘らず下張りシートを簡単な作業で且つ強度低下も伴わず固定することができ、しかも地震等による内部破断の虞が少ない防水構造を安定して維持し続けることのできるウレタン防水工法を提供する。
【解決手段】防水施工を施すべき下地1に対し、フック部2aを有する複数のファスニング部材2を前記フック部2aが上面になるように配置して固定した後、不織布層3およびポリウレタン層4を有する下張り積層シート5を前記不織布層3と前記フック部2aとが対向するように敷設し、隣り合った下張り積層シート5同士の継ぎ目部分があるときには目地テープを貼付し、さらに全面にポリウレタン系塗膜防水材を塗工して防水塗膜6を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋上や屋根等に適用されるウレタン防水工法およびウレタン防水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の屋上や屋根等を防水する工法として、ポリウレタン系塗膜防水材等を下地に直接塗工して防水塗膜を形成する塗膜防水工法や、防水性を備えた下張りシートを下地に貼り付けるシート防水工法が知られている。さらに、これらを組み合わせた複合防水工法、具体的には、防水性を備えた下張りシートを下地に貼り付け、その上からポリウレタン系塗膜防水材等を塗工して防水塗膜を形成する工法も知られている。
【0003】
上述した複合防水工法としては、例えば、下地に合成繊維不織布からなる下張りシートもしくは絶縁下張りシートを敷設し、アンカーピンやビスや釘等の固定具を打ち込むことによって機械固定した後、その上に塗膜防水材を積層する防水工法が提案されている(特許文献1、2)。これら防水工法は、下張りシートを固定具によって機械固定することにより、新築建築物の若齢コンクリートや降雨後の水分を多く含む下地など、それまで接着剤では充分な接着力を得ることができなかった下地に対しても適用できるようにしたものであり、敷設した下張りシートの上から塗膜防水材を積層することにより、充分な水密性を付与するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−342719号公報
【特許文献2】特開2001−227117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1、2に記載のような従来の複合防水工法において下地に下張りシートを機械固定する際には、施工現場の下地形状(平面視または縦断面視した際の形状)応じて固定箇所の数(打ち込む固定具の数)が決定される。例えば施工現場の設置物(エアコン室外機、配管などの屋上設置物)によって下地の平面視や縦断面視が複雑で多様な形状になる場合等には、固定箇所の数は増えることになり、シート1枚当たりに打ち込む固定具の数も必然的に増加する。
【0006】
ところが、特許文献1、2に記載の防水工法においては、下張りシートの上から固定具を打ち込むにあたり、シートの固定箇所に相当する部分に現場加工で孔を開ける必要がある。そのため、上述したように固定箇所を増やす必要があるときには、孔の数が増えてシート強度が低下し、ひいては施工後のトラブルや耐用年数の短縮を招いたり、シートへの開孔作業が煩雑で施工性が低下することがあった。
また、下地と下張りシートとは釘等の固定具が打ち込まれた点で固定されており、その固定点では下地とシートは全く動く余地を持たないので、施工後の地震等によって下地が動いた際にこの固定点に応力が集中して防水構造内部が破断しやすくなることが懸念されるという問題もあった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、施工現場における下地形状等に拘らず下張りシートを簡単な作業で且つ強度低下も伴わず固定することができ、しかも地震等による内部破断の虞が少ない防水構造を安定して維持し続けることのできるウレタン防水工法と、該ウレタン防水工法により施工されたウレタン防水構造と、さらには該ウレタン防水工法に用いられる下張り積層シートとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、下張りシートを下地に貼り付け、その上からポリウレタン系塗膜防水材を塗工して防水塗膜を形成する防水工法において、下張りシートを貼り付けるに先立って、フック部を有する複数のファスニング部材を前記フック部が上面になるように配置して下地に固定し、他方、下張りシートとしては不織布層を備えた積層シートを用いることとし、該下張りシートの不織布層と前記フック部との係止力によって下張りシートを下地に貼り付けるようにすれば、上述した課題を一挙に解決しうることを見出した。
【0009】
すなわち、このように下地に対する下張りシートの固定を直接行うのではなくファスニング部材を介して行うようにすれば、たとえ下地への固定方法として機械固定を選択したとしても、固定具を打ち込むための孔はファスニング部材に開ければよく、下張りシートには孔を開ける必要がないので、シート強度が低下することはなく、施工後のトラブルを防ぎ耐用年数を延長できる。しかも、ファスニング部材は、敷設する下張りシートの全面積に設けるのではなく、原則として従来、固定具を打ち込んでいた箇所に設ければよいのであるから、運搬等において取り扱いやすい比較的小面積であってよい。そのためファスニング部材への開孔作業は必ずしも現場で行う必要はなく、予め孔を形成したものを用意し、施工現場で固定箇所に配置するようにすれば施工性が損なわれることもない。したがって、固定箇所の数を多く設定する必要がある現場に対しても、良好な施工性で固定作業を行うことができる。
また、上記防水工法によれば、ファスニング部材に対する下張りシートの固定は、ある程度の面積を持ったファスニング部材のフック部と下張りシートの不織布層との係止力によって接触面全体でなされるので、釘等の固定具を打ち込んだ点でのみ固定される機械固定に比べ、安定した確実な固定が可能になる。
さらに、上記防水工法によれば、施工後の地震等によって下地が動くことがあっても、不織布層がその動きを緩衝するので、応力が集中して内部が破断するおそれがなく、そればかりか、下地の動きによってフック部と不織布層との係止力はさらに増すので、防水構造はより強固になる。
本発明は、これらの知見により完成されたものである。
【0010】
本発明に係るウレタン防水工法は、防水施工を施すべき下地に対し、フック部を有する複数のファスニング部材を前記フック部が上面になるように配置して固定した後、不織布層およびポリウレタン層を有する下張り積層シートを前記不織布層と前記フック部とが対向するように敷設し、隣り合った下張り積層シート同士の継ぎ目部分があるときには目地テープを貼付し、さらに全面にポリウレタン系塗膜防水材を塗工することを特徴とする。
本発明に係る別のウレタン防水工法は、防水施工を施すべき下地に対し、フック部を有する複数のファスニング部材を前記フック部が上面になるように配置して固定した後、不織布層およびポリウレタン層を有する複数の下張り積層シートを前記不織布層と前記フック部とが対向するように敷設し、隣り合った下張り積層シート同士の継ぎ目部分に目地テープを貼付し、該目地テープの縁部を覆うようにポリウレタン系塗膜防水材を塗工することを特徴とする。
本発明に係るウレタン防水工法においては、前記ファスニング部材は固定具を用いて機械固定することが好ましい。また、その際、前記ファスニング部材には前記固定具を貫通させる孔を予め形成したものを準備しておくことが好ましく、それによって施工現場における孔開け作業が不要になり、工期全体を短くすることができる。
【0011】
本発明に係るウレタン防水構造は、下面は下地に固定され上面にフック部を備えた複数のファスニング部材と、前記ファスニング部材のフック部に係合した不織布層とともにポリウレタン層をも備えた下張り積層シートと、該下張り積層シートの上に形成されたポリウレタン系塗膜防水材からなる防水塗膜とを含んで構成されることを特徴とする。
本発明に係るウレタン防水構造においては、前記下張り積層シートにおける不織布層の目付が100g/m以上であることが好ましい。前記下張り積層シートにおけるポリウレタン層の厚みは200μm以上であることが好ましい。前記下張り積層シートはプライマー層をも備えたものであることが好ましい。前記ファスニング部材は固定具により機械固定されていることが好ましい。また、本発明のウレタン防水構造の好ましい態様においては、前記下張り積層シートと前記下地との間に空隙が存在する。
【0012】
本発明に係る下張り積層シートは、上述した本発明のウレタン防水工法に用いられるシートであって、目付が100g/m以上である不織布層と、厚みが200μm以上であるポリウレタン層とを有することを特徴とする。
本発明に係る下張り積層シートにおいては、プライマー層をも有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、施工現場における下地形状等に拘らず下張りシートを簡単な作業で且つ強度低下も伴わず固定することができ、しかも地震等による内部破断の虞が少ない防水構造を安定して維持し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のウレタン防水構造の一実施形態を示す断面図である。
【図2】ファスニング部材の配置パターンの一例を示す模式図である。
【図3】敷設した下張り積層シートの継ぎ目に目地テープを貼付する場合の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るウレタン防水工法、ウレタン防水構造および下張り積層シートに関して、本発明の一実施形態を示す図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明はもとより図示例に限定される訳ではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適切な変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
図1は、下地面に下張り積層シートを敷設し、さらにその上にポリウレタン系防水材層を塗工してなるウレタン防水構造の一実施形態を示す。
【0016】
(ウレタン防水工法)
まず、図1に基づき本発明に係るウレタン防水工法の一実施形態について説明する。
本発明のウレタン防水工法は、防水施工を施すべき下地1に対し、フック部2aを有する複数のファスニング部材2を前記フック部2aが上面になるように配置して固定した後、不織布層3およびポリウレタン層4を有する下張り積層シート5を前記不織布層3と前記フック部2aとが対向するように敷設し、隣り合った下張り積層シート5同士の継ぎ目部分があるときには目地テープを貼付し、さらに全面にポリウレタン系塗膜防水材を塗工して防水塗膜6を形成するものである。
【0017】
本発明の防水工法の適用対象となる下地1としては、例えば、建築物の屋上や屋根等を構成するコンクリート、アスファルト、塩化ビニルシート等が挙げられる。
【0018】
本発明の防水工法に用いるファスニング部材2は、基材2bの片面に複数のフック部2aを有するものである。フック部2aの形状としては特に制限されないが、例えば錨形、鉤形、きのこ型等の形状が挙げられる。また、基材2bの素材やその形状(すなわちファスニング部材の形状)は、下地1への固定方法に応じて適宜決定すればよい。例えば、ファスニング部材2を下地1へ接着固定する場合には、基材2bの素材と接着剤は相互の密着性に優れる材料を選択すればよい。他方、図1に示すようにファスニング部材2を固定具7を用いて機械固定する場合には、固定具7を貫通させるための孔2cを有するファスニング部材2とすることが好ましい。このとき一つのファスニング部材に対する孔2cの数は1個であってもよいし2個以上であってもよい。
【0019】
ファスニング部材2の形状や大きさは、施工現場の下地形状(下地を平面視または縦断面視した際の形状)を考慮し配置パターンに応じて決定すればよく、特に制限はされない。例えば平面視したときに下地1が矩形を呈しており、後述する図2に示す配置パターンを採用する場合、下地1の内側に点在させる内側用ファスニング部材2’の形状は、図2に示すように長方形であってもよいし、正方形や円形等であってもよく、その大きさは通常5cm×30cm、好ましくは5cm×10cmの範囲に入る程度とすればよい。一方、下地1の端部を囲う周囲用ファスニング部材2’’の形状としては、短冊状或いは帯状が好ましく挙げられ、その大きさは幅方向が通常3〜10cm、好ましくは4〜7cm程度であり、長手方向は辺に沿って切れ目がないような長さとすればよい。
【0020】
本発明の防水工法においては、まず、下地1に対してファスニング部材2を配置する。その際、各ファスニング部材2は、フック部2aが上面になるように、換言すれば基材2bが下地1に対向するように配置する。このとき、ファスニング部材2は、下地1の表面に必ずしも全面配置する必要はなく、局部的な非配置部があってよい。下地1総面積に対するファスニング部材2の合計面積の比率、下地1の単位面積あたりのファスニング部材2の個数、およびファスニング部材2の配置パターンについては、施工現場の諸条件(地形や風量など)に応じて決定することが好ましい。具体的には、ファスニング部材2の合計面積比率、個数および配置パターンは、施工現場ごとに下記計算式(建築基準法施行令82条の5および告示第1458号)から風荷重を算出し、得られた風荷重と、使用するファスニング部材2と下張り積層シート5との係止力(剥離強度)とを考慮して決定すればよい。
【0021】
Wc=qH(Cpe・Gpe−Cpi・Gpi)A
Wc:風荷重(kgf)
qH:設計用速度圧(kgf/m
Cpe:外圧係数
Gpe:外圧のガスト影響係数
Cpi:内圧係数
Gpi:内圧のガスト影響係数
A:受圧面積(m
【0022】
一般的には、下地1の単位面積あたりのファスニング部材2の個数は、下地1の内側に点在させる内側用ファスニング部材2’の場合、1〜5個/m、好ましくは2〜3個/mの範囲、下地1総面積に対するファスニング部材2の合計面積の比率は、1.0〜5.0%、好ましくは1.5〜4.0%の範囲で決定される。ファスニング部材2の配置パターンは、例えば平面視したときに下地1が矩形を呈している場合であれば、例えば図2に示すように、下地1の内側に内側用ファスニング部材2’を均等に点在させるよう配置するとともに、下地1の端部に周囲用ファスニング部材2’’を辺に沿って切れ目なく配置することが好ましい。
【0023】
下地1に配置したファスニング部材2を固定するに際しては、固定方法に特に制限はなく、従来公知の接着固定や機械固定を適宜採用することができる。固定作業がより簡便である点では、図1に示すようにファスニング部材2を固定具7を用いて機械固定する方法が好ましい。具体的には、機械固定とは、アンカーピン、ビス、釘などの固定具7を、ファスニング部材2を貫通して下地1に達するまで打ち込むことにより、ファスニング部材2を下地1に固定することを言う。このとき、固定具7の下地1への打ち込み深さは、下地1の状態に応じて適宜決定すればよいが、通常25〜50mm程度とするのが好ましい。
【0024】
ファスニング部材2を機械固定する場合、固定具7を貫通させるための孔2cを予め形成しておくことが好ましい。孔2cを予め形成したファスニング部材2を準備しておくと、施工現場における孔開け作業が不要になり、工期全体を短くすることができるからである。勿論、孔2cを予め形成していない場合は施工準備の一環としてファスニング部材2の孔開け作業を行なってもよい。なお、孔2cを形成せずにファスニング部材2を突き破るように固定具7を打ち込むこともできるが、ファスニング部材2の素材によっては打ち込む際に誤ってファスニング部材2を破断してしまう虞もあるので、そのような場合には接着固定を採用することが推奨される。
【0025】
ファスニング部材2を固定するに際には、固定箇所においてファスニング部材2を補強する目的で、ファスニング部材2の基材2b面(フック部2aを有する面の反対面)にプレート(図示せず)を設けることもできる。プレートとしては、特に制限はないが、通常、厚み0.2〜1.0mm程度の金属板または樹脂板が用いられ、好ましくはガルバニウム鋼板が用いられる。プレートは、例えば、内側用ファスニング部材2’に対しては、該内側用ファスニング部材2’と同程度の大きさ、形状のものを内側用ファスニング部材2’のほぼ全面に設ければよく、周囲用ファスニング部材2’’に対しては、該周囲用ファスニング部材2’’と同程度の幅を有する略正方形のものを周囲用ファスニング部材2’’の長手方向に30〜60cm程度の間隔ごとに設けるようにすればよい。プレートは、ファスニング部材2と予め一体化しておいてもよい。なお、ファスニング部材2を機械固定する場合には、プレートにもファスニング部材2の孔2cと同様の孔を形成し、該プレートをも貫通するようにアンカーピン等を打ち込み固定すればよい。
【0026】
本発明の防水工法においては、ファスニング部材2を下地1に固定した後、以下詳述する特定の下張り積層シート5を敷設する。
下張り積層シート5は、不織布層3およびポリウレタン層4を有するものである。不織布層3は、水平方向の通気性を確保することに加え、ファスニング部材2と係止して下張り積層シート5を固定するとともに、地震等による下地の動きを緩衝して内部の破断を回避する役割を果たす。また、ポリウレタン層4は、防水性に寄与するとともに、下張り積層シート5の上に塗布するポリウレタン系塗膜防水材との密着性を向上させる役割を果たす。
【0027】
不織布層3は、例えば一般的なスパンボンド不織布により形成することができる。中でも、ニードルパンチまたは流体交絡(ウォーターパンチ加工など)により交絡された不織布が好ましく用いられる。なお、不織布層3を形成するにあたっては、紡糸直後に繊維がバラバラにならないようにするため、ニードルパンチや流体交絡の前に予め弱くエンボス加工(プレエンボス加工)を施すことができる。
【0028】
不織布層3を形成する不織布を構成する繊維は、長繊維、短繊維のいずれであってもよいが、強度の観点からは長繊維であることが好ましい。繊維の素材としては、特に制限はなく、ガラス系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリビニルアルコール等のビニル系繊維等が好ましく挙げられる。
【0029】
不織布層3の目付は100g/m以上であることが好ましい。目付が100g/m未満であると、充分な通気性を確保できなくなるとともに、不織布層3の強度が不充分になり、地震等の応力によって該不織布層が層間剥離してしまうことが懸念される。不織布層3の目付は、より好ましくは150g/m以上、さらに好ましくは200g/m以上である。また不織布層3の目付の上限は特に制限されないが、800g/m以下が好ましく、より好ましくは600g/m以下、さらに好ましくは400g/m以下である。不織布層3の目付が大きすぎると、下張り積層シート5が重くなって取り扱いに支障をきたし施工時の作業性が低下することがある。
【0030】
不織布層3の厚みは、特に制限さないが、好ましくは0.9mm以上、より好ましくは1.3mm以上、さらに好ましくは1.8mm以上であり、好ましくは9.0mm以下、より好ましくは7.0mm以下、さらに好ましくは4.5mm以下である。不織布層3が薄すぎると、充分な通気性を確保できなくなるとともに、不織布層3の強度が不充分になり、地震等の応力によって該不織布層が層間剥離してしまうことが懸念される。逆に不織布層3が厚すぎると、下張り積層シート5が重くなって取り扱いに支障をきたし、施工時の作業性が低下する虞がある。
【0031】
不織布層3は、JASS8での評価法〔JASS(1986)参考試験1.メンブレン防水層の性能評価試験方法「8.下地との間の通気抵抗試験」(第340〜342頁)〕により求められる下地面との間の通気量が、10mmAq.圧力空気時に170cc以上の流出量であることが好ましい。この程度の通気性を有していると、施工後の防水構造の表面に膨れや浮き上がりを生じる懸念がない。
【0032】
ポリウレタン層4は、熱可塑性ポリウレタン樹脂をバンバリーミキサー等の混練機にて溶融混練し、ロールカレンダー法(例えば逆L字型4本ロール使用)にてシート状に成形することにより形成できる。なお、ポリウレタン層には、本発明の効果を損なわない範囲で顔料等を含有させておいてもよく、これにより下張り積層シートを所望の色に着色することができる。
【0033】
ポリウレタン層4の厚みは、200μm以上であることが好ましい。ポリウレタン層4の厚みが200μm未満であると、下張り積層シート5の防水能が不充分になる傾向があり、しかも地震等によって防水構造内部が破断しやすくなる虞もある。ポリウレタン層4の厚みは、より好ましくは300μm以上、さらに好ましくは700μm以上であり、4mm以下が好ましく、より好ましくは3.5mm以下、さらに好ましくは3mm以下である。ポリウレタン層4の厚みが大きすぎると、下張り積層シート5が重くなって取り扱いに支障をきたし施工時の作業性が低下することがある。
不織布層3とポリウレタン層4との積層方法としては、例えば、不織布3へ予めプライマー処理を施しておき、ロールカレンダー法にてシート状に成形されたポリウレタン層4を熱ラミネートして接合する方法等を採用することができる。
【0034】
下張り積層シート5は、図1に示すようにポリウレタン層4の表面にプライマー層8を有していることが好ましい。これにより下張り積層シート5の上にポリウレタン系塗膜防水材を塗工する際の接着性を向上させることができる。プライマー層8は、特に制限されるものではなく、塗膜防水工事において汎用されている公知のプライマー塗料で形成すればよい。プライマー層8の厚みは、適宜設定すればよいが、通常20μm以上、1000μm以下、好ましくは40μm以上、800μm以下である。
【0035】
本発明の防水工法において下張り積層シート5を敷設する際には、該シート5の不織布層3とファスニング部材2のフック部2aとが対向するように配置することが重要である。このように配置することにより、下張り積層シート5の不織布層3をファスニング部材2のフック部2aに係止させることができる。
【0036】
ファスニング部材2のフック部2aと下張り積層シート5の不織布層3と係止力として必要十分な程度は、施工現場の風荷重等によって異なるが、一般的には、例えば、後述する実施例で記載のせん断強さは、好ましくは200〜800N/4cmであり、より好ましくは300N/4cm以上、600N/4cm以下であるのがよく、後述する実施例で記載の建研式強さは、好ましくは10〜70N/cmであり、より好ましくは20N/cm以上、50N/cm以下であるのがよい。
本発明の防水工法においては、下張り積層シート5を敷設した際、隣り合った下張り積層シート同士の継ぎ目部分があるときには目地テープを貼付する。なお、施工現場の下地形状や大きさ等によっては(具体的には、例えばベランダなど施工面積が狭い場合には)、一枚ものの下張り積層シートを用いることもできるが、そのような場合には継ぎ目が生じないので、目地テープの貼付は必要ない。目地テープを貼付する場合の詳細については後述する。
【0037】
本発明の防水工法においては下張り積層シート5を敷設した後、該下張り積層シート5の全面にポリウレタン系塗膜防水材を塗工して防水塗膜6を形成する。
ポリウレタン系塗膜防水材としては、硬化して塗膜を形成しうるウレタン系の材料であれば特に制限はなく、例えば、立上り用ウレタン防水材、目止め用ウレタン防水材、平場用ウレタン防水材などとして一般に市販されている公知のポリウレタン系塗膜防水材を用いることができる。
【0038】
ポリウレタン系塗膜防水材を塗工する方法としては、特に制限はなく、例えば、刷毛、ウールローラー、マスチックローラー、こて、レーキ等を用いて塗布する方法や、エアレス又はエアスプレー等により吹き付ける方法などの公知の方法を採用することができる。
ポリウレタン系塗膜防水材を塗工する際の塗工量は、適宜設定すればよいが、例えば形成される防水塗膜6の膜厚が0.5mm以上、5mm以下、好ましくは1mm以上、3mm以下となるようにするのがよい。
【0039】
本発明の防水工法においては、必要に応じ、耐久性や外観の向上を目的として、防水塗膜6の上に仕上げ層(図示せず)を積層することができる。仕上げ層は、アクリルウレタン系2液型塗料やフッ素樹脂系2液型塗料など公知のトップコート用塗料により形成すればよい。なお、仕上げ層の形成に用いるトップコート用塗料には、着色剤、紫外線吸収剤、艶消し剤、ウレタンチップ、骨材などの添加物を適宜添加することもできる。仕上げ層の膜厚は、特に制限されないが、通常0.05mm以上、0.3mm以下である。
【0040】
次に、図3に基づき本発明に係る別のウレタン防水工法について説明する。
本発明の別のウレタン防水工法は、防水施工を施すべき下地1に対し、フック部2aを有する複数のファスニング部材2を前記フック部2aが上面になるように配置して固定した後、不織布層3およびポリウレタン層4を有する複数の下張り積層シート5を前記不織布層3と前記フック部2aとが対向するように敷設し、隣り合った下張り積層シート5、5同士の継ぎ目部分xに目地テープ9を貼付し、該目地テープ9の縁部を覆うようにポリウレタン系塗膜防水材6を塗工するものである。この実施形態のウレタン防水工法は、目地テープ9を使用するとともに、ポリウレタン系防水材6の塗工を該目地テープ9の縁部を覆うように行うこと以外、上述したウレタン防水工法(図1の実施形態のウレタン防水工法)と同様である。したがって、以下では相違点(本発明の別のウレタン防水工法独自の点)のみを詳述する。
【0041】
本発明の別のウレタン防水工法においては、複数の下張り積層シート5を敷設し、隣り合った下張り積層シート5、5同士の継ぎ目部分xに目地テープ9を貼付する。これにより、後に上塗りするポリウレタン系塗膜防水材6が下張り積層シート5の継ぎ目から防水構造内部に浸入することを防止できる。なお、本実施形態では複数の下張り積層シート5を敷設するが、先に述べた本発明に係るウレタン防水工法(図1の実施形態のウレタン防水工法)では、施工現場の下地形状や大きさ等によっては、一枚ものの下張り積層シートを用いることもできる。
【0042】
目地テープ9としては、従来から各種メンブレン防水工事で使用されているものを適宜採用すればよく、特に制限されないが、例えば、基材の上側面にポリウレタンフィルムが積層され、基材の下側面に粘着剤層を備えた目地テープが好ましく用いられる。かかる目地テープは上側面にポリウレタンフィルムを備えているので、後に上塗りされるポリウレタン系塗膜防水材との密着性に優れるという利点がある。ここで好ましいポリウレタンフィルムの厚みは20〜100μm程度である。さらに前記目地テープにおける基材は、合成樹脂フィルムのほか、合成繊維やガラス繊維等からなる織物または不織布などであればよいが、中でも不織布が好ましく、とりわけ目付15〜100g/m2程度の熱圧着タイプの不織布がよい。不織布を基材とした目地テープ6であれば、下地1の動きに追従しうるだけの伸縮性が得られる。目地テープ6の幅(幅方向の長さ)は、特に制限されないが、例えば、3cm以上、20cm以下が好ましく、より好ましくは4cm以上、10cm以下である。
【0043】
上述したように隣り合った下張り積層シート5の継ぎ目部分xに目地テープ6を貼付した場合、ポリウレタン系塗膜防水材6は、例えば図3に示すように、少なくとも目地テープ9を覆うように下地1の一部に塗工することが好ましい(ただし、図3においては、便宜上、複数ある継ぎ目部分xのうちの一つの継ぎ目部分x1についてのみ、目地テープ9およびポリウレタン系塗膜防水材6を示した)。このようにポリウレタン系塗膜防水材6を、下地1の全面ではなく、その一部に塗工することにより、ポリウレタン系塗膜防水材6の使用量を削減してコストダウンを図ることが可能になる。ポリウレタン系塗膜防水材6を下地1の一部に塗工する際の塗工面積(塗工幅)は、ポリウレタン系塗膜防水材6によって目地テープ9が縁まで全て覆われるよう設定すればよいが、具体的には、目地テープ6の幅に対して、好ましくは2.0〜6.0倍、より好ましくは3.0〜5.0倍の幅で塗工するのがよい。また、このとき塗工幅に直行する中心線が継ぎ目部分xと一致するように塗工するのがよい。
【0044】
(ウレタン防水構造)
次に、図1に基づき本発明に係るウレタン防水構造について説明する。
本発明のウレタン防水構造100は、下面は下地1に固定され上面にフック部2aを備えた複数のファスニング部材2と、前記ファスニング部材2のフック部2aに係合した不織布層3とともにポリウレタン層4をも備えた下張り積層シート5と、該下張り積層シート5の上に形成されたポリウレタン系塗膜防水材からなる防水塗膜6とを含んで構成される。
【0045】
本発明のウレタン防水構造は、本発明の防水工法によって容易に形成することができる。下地1、ファスニング部材2、下張り積層シート5および防水塗膜6については、(ウレタン防水工法)の項で説明した通りである。
図1に示す実施態様の防水構造においては、下地1の上には孔2cを有するファスニング部材2がフック部2aを上面にして配置され、固定具7として頭部を有する釘が孔2cを通して下地1にまで打ち込まれている。このとき、釘の頭部は少なくとも一方向において孔2cの径よりも大きくなっており、この頭部によりファスニング部材2は押さえられて固定されている。ファスニング部材2の上面には、不織布層3を下面にして下張り積層シート5が敷設されている。ここでループ機能を有する不織布層3がフック部2aに対向していることにより両者の係止力が生じ、下張り積層シート5とファスニング部材2とは確実に固定される。敷設された下張り積層シート5上面のプライマー層8の上には、さらにポリウレタン系塗膜防水材により形成された防水塗膜6が設けられている。
【0046】
図1に示すように、下張り積層シート5と下地1との間には空隙10が存在している。このように下張り積層シート5と下地1との間に空隙10が存在する態様は、水平方向に高い通気性を保持させ得る点で好ましい。しかも、この空隙10は、地震等によって下地が動いた場合に、その動きを緩衝する作用もなす。
以上のような本発明のウレタン防水工法およびウレタン防水構造は、例えば建築物の屋上、屋根などの防水施工工事に好適に利用される。
【0047】
(下張り積層シート)
本発明の下張り積層シートは、本発明の防水工法に特に好ましく用いられるシートである。すなわち、本発明の下張り積層シートは、(ウレタン防水工法)の項で説明した下張り積層シート5のうち、目付が100g/m以上である不織布層3と、厚みが200μm以上であるポリウレタン層4とを有するものである。好ましくは、プライマー層8をも有するものがよい。
本発明の下張り積層シートを構成する不織布層3、ポリウレタン層4およびプライマー層8については、(ウレタン防水工法)の項で説明した通りである。
なお、上記実施態様においては、本発明の防水工法に用いる下張り積層シート5もしくは本発明の下張り積層シートとして、不織布層3、ポリウレタン層4およびプライマー層8からなる三層構造の積層シートを示したが、例えば不織布層3とポリウレタン層4の間に任意の層(フィルムなど)を備えた三層乃至四層以上の積層シートも本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
なお、以下の実施例中、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものとする。
以下の実施例における各種物性は、下記のようにして測定した。なお、以下、試験片方向に関して機械方向(試験片における不織布層を製造した際の製造流れ方向)をMD方向、機械方向と直交する方向をCD方向と称する。
【0049】
<不織布層の目付>
下張り積層シートに用いた不織布層の目付けは、JIS−L1906に従って求めた。具体的には、20cm(MD方向)×25cm(CD方向)の試験片をCD方向に沿った5箇所から採取して、各試験片の質量を測定しそれらの平均値を算出した後、1m3当たりの質量に換算して目付(g/m2)とした。
<不織布層の厚み>
下張り積層シートに用いた不織布層の厚みは、JIS−L1906に従って求めた。具体的には、不織布のCD方向の全幅1m当たり10箇所において、加圧条件を1.96kPa(20gf/cm3)として測定し、それらの平均値を算出して厚み(mm)とした。
【0050】
<脱気通気性>
「JASS8(1986)参考試験1.メンブレム層の評価試験方法、8.下地との間の通気抵抗試験(第340〜342ページ)」に従って通気量(cc)を測定した。
【0051】
<ファスニング部材と下張り積層シートとの係止力>
(1)せん断強さ
ファスニング部材と下張り積層シートの不織布層とを長さ4cm×幅4cmの重なり部分を持つように対向させた後、バイブレーション工具(友定建機(株)製「インパクトハンマーIH−2S」)を振動数:弱(6000回転)、振動振幅:弱(0.2〜0.3mm)、アタッチメント:Φ50の条件で上記重なり部分の全体に均一に押し当てることにより係合させて、試験片とした。そして、JIS−L3416−7.4.1の引張せん断強さの試験方法に準じて、上記試験片を引張速度30cm/分で試験片のMD方向またはCD方向に引張り、係合面同士が平行にずれて係止が解けるまでの間の最大引張せん断荷重(N)を測定し、重なり部分の幅(引張り方向に対して垂直となる方向の長さ)で除することにより、引張せん断強さ(N/4cm)を求めた。なお、試験片における不織布層のMD方向に沿って引張ったときの引張せん断強さを「MD方向係止力」とし、試験片における不織布層のCD方向に沿って引張ったときの引張せん断強さを「CD方向係止力」とした。
【0052】
(2)建研式強さ
接着剤により下地に確実に固定した状態のファスニング部材に下張り積層シートの不織布層を重なり部分の面積が4cm×4cmとなるように対向させた後、バイブレーション工具(友定建機(株)製「インパクトハンマーIH−2S」)を振動数:弱(6000回転)、振動振幅:弱(0.2〜0.3mm)、アタッチメント:Φ50の条件で上記重なり部分の全体に均一に押し当てることにより係合させた。そして、係合させた下張り積層シートのポリウレタン層側の面をアタッチメント治具に接着剤にて確実に固定し、該アタッチメント治具をシャフトと固定し、建研式装置のハンドルを操作してシャフトを垂直方向へほぼ一定速度(建研式装置のハンドルを1回転/3秒程度の速さ)で引張った。このとき下張り積層シートが完全に剥離するまでの間の最大引張荷重(N)を測定し、重なり部分の面積で除することにより、建研式強さ(N/cm2)を求めた。
【0053】
(実施例1)
<下張り積層シートの作製>
まず、ポリエチレンテレフタレート(PET)を溶融紡糸し、スパンボンド法によってウェッブを得た。次いで、このウェッブにニードルパンチ機を用いてニードリングを施して、目付320g/mで厚みが3.0mmの不織布層を作製した。この不織布層にはプライマー処理を施しておいた。次に、熱可塑性ポリウレタン樹脂を加工助剤としての滑剤および顔料とともにバンバリーミキサーで溶融混練し、溶融した組成物を2本ロールでウォームアップ混練りした後、逆L字型4本ロールカレンダーにて700μmのシート状に成形すると同時に、上記不織布層とラミネートすることにより、不織布層(PETスパンボンド・ニードルパンチ加工不織布)とポリウレタン層が積層された下張り積層シート(1)を得た。この下張り積層シートの脱気通気性、および各実施例で用いたファスニング部材に対する係止力を表1に示す。
【0054】
<防水施工>
まず、5cm×10cmの長方形で6mm径の円形の孔を1個有する内側用ファスニング部材2’と、幅5cmの帯状で長手方向に50cm間隔で6mm径の円形の孔1個を形成した周囲用ファスニング部材2’ ’とを用意し、これらファスニング部材を、3m×5mのコンクリート(下地)面に、図2に示す配置でフック部が上になるように配置した。詳しくは、内側用ファスニング部材2’は、合計58個(1m2あたり3.7個)を均等な間隔で配置し、周囲用ファスニング部材2’ ’は、下地の周囲を切れ目なく囲うように配置した。このとき、内側用ファスニング部材2’は、コンクリート面との間に5cm×10cmの金属製プレート(内側用ファスニング部材に重ね合わせたときに内側用ファスニング部材と同じ位置に6mm径の円形の孔を有するもの)を介して載置し、他方、周囲用ファスニング部材2’ ’は、長手方向に30cm間隔で幅5cm×長手方向20cmの金属製プレート(周囲用ファスニング部材に重ね合わせたときに周囲用ファスニング部材と同じ位置に6mm径の円形の孔を有するもの)を介して載置した。そして、各ファスニング部材を固定具(長さ2.8cmの釘)を用いて機械固定した。
その後、上記下張り積層シート(1)(幅1m×10m巻)を不織布層が下面になるように互いの端面を隙間なくつき合わせて敷設した。その後、図3に示すように、隣り合った下張り積層シート5同士の継ぎ目部分xの上に、幅10cmの目地テープ(目付40g/m2の熱圧着タイプ不織布の上側面に厚み20μmのポリウレタンフィルムが積層され、下側面に粘着剤層を備えた積層テープ)9を貼付した。次いで、この上からポリウレタン系塗膜防水材として、汎用の平場用ポリウレタン系防水材1.0kg/mを下地(下張り積層シート)の全面に塗布し、硬化させることにより防水塗膜を形成した。次いで、この防水塗膜の上からさらに、紫外線吸収剤などを配合したトップコート用ポリウレタン防水材を0.2kg/mとなるように下地の全面に塗布して仕上げ層を形成し、ウレタン防水構造を施工した。このようにして形成したウレタン防水構造の施工仕上りについて、以下の基準で評価し、結果を表1に示した。すなわち、施工面を目視にて観察し、施工表面に皺が全く認められない場合を「○」、施工表面に一部でも皺が認められた場合を「×」とした。
【0055】
(実施例2)
実施例1の防水施工において、ポリウレタン系防水材を目地テープの縁部を覆うように塗布するようにしたこと以外、実施例1と同様にして、防水施工を行った。
すなわち、下張り積層シート(1)を互いの端面を隙間なくつき合わせて敷設した後、図3に示すように、隣り合った下張り積層シート5同士の継ぎ目部分xの上に、幅10cmの目地テープ(目付40g/m2の熱圧着タイプ不織布の上側面に厚み20μmのポリウレタンフィルムが積層され、下側面に粘着剤層を備えた積層テープ)9を貼付した。次いで、この目地テープの上から、ポリウレタン系塗膜防水材として汎用の平場用ポリウレタン系防水材1.0kg/mを、図3に示すように下地1の一部(図中、斜線部分)に塗布し、硬化させることにより防水塗膜を形成した。このとき、塗工幅20cmで、塗工幅に直行する中心線が継ぎ目部分xと一致するように塗工した。次いで、実施例1と同様に、この防水塗膜の上からトップコート用ポリウレタン防水材を0.2kg/mとなるように下地の全面に塗布して仕上げ層を形成し、ウレタン防水構造を施工した。このようにして形成したウレタン防水構造の施工仕上りについて、実施例1と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0056】
(実施例3)
<下張り積層シートの作製>
実施例1で用いた不織布層に代えて、以下のようにして得た目付580g/mで厚みが5.0mmの不織布層(PET短繊維・ニードルパンチ加工不織布)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、下張り積層シート(3)を作製した。
すなわち、ここで使用した不織布層は、繊度4.4デシテックス、カット長56mmのPETステープルファイバーを定法通りカードとクロスラッパーによりウェッブとし、このウェッブにニードルパンチ機を用いてニードリングを施すことにより得た。
<防水施工>
実施例1で用いた下張り積層シート(1)に代えて下張り積層シート(3)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ウレタン防水構造を施工した。このようにして形成したウレタン防水構造の施工仕上りについて、実施例1と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0057】
(実施例4)
<下張り積層シートの作製>
実施例1で用いた不織布層に代えて、以下のようにして得た目付100g/mで厚みが1.2mmの不織布層(PETスパンボンド・ニードルパンチ加工不織布)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、下張り積層シート(4)を作製した。
すなわち、ここで使用した不織布層は、実施例1と同様にして得たウェッブにニードルパンチ機を用いてニードリングを施すことにより得た。
<防水施工>
実施例1で用いた下張り積層シート(1)に代えて下張り積層シート(4)を用いるとともに、ファスニング部材の寸法を5cm×200cmに変更し、その載置数を1m2あたり2個に変更したこと以外、実施例1と同様にして、ウレタン防水構造を施工した。このようにして形成したウレタン防水構造の施工仕上りについて、実施例1と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0058】
(実施例5)
<下張り積層シートの作製>
実施例1で用いた不織布層に代えて、以下のようにして得た目付212g/mで厚みが2.0mmの不織布層(PETスパンボンド・ニードルパンチ加工不織布)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、下張り積層シート(5)を作製した。
すなわち、ここで使用した不織布層は、実施例1と同様にして得たウェッブにニードルパンチ機を用いてニードリングを施すことにより得た。
<防水施工>
実施例1で用いた下張り積層シート(1)に代えて下張り積層シート(5)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ウレタン防水構造を施工した。このようにして形成したウレタン防水構造の施工仕上りについて、実施例1と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0059】
(実施例6)
<下張り積層シートの作製>
実施例1で用いた不織布層に代えて、以下のようにして得た目付163g/mで厚みが1.6mmの不織布層(PETスパンボンド・ニードルパンチ加工不織布)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、下張り積層シート(6)を作製した。
すなわち、ここで使用した不織布層は、実施例1と同様にして得たウェッブにニードルパンチ機を用いてニードリングを施すことにより得た。
<防水施工>
実施例1で用いた下張り積層シート(1)に代えて下張り積層シート(6)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ウレタン防水構造を施工した。このようにして形成したウレタン防水構造の施工仕上りについて、実施例1と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0060】
(実施例7)
<下張り積層シートの作製>
実施例1で用いた不織布層に代えて、以下のようにして得た目付320g/mで厚みが3.0mmの不織布層(PET短繊維/アクリル短繊維混合綿(50/50(質量比))・ニードルパンチ加工不織布)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、下張り積層シート(7)を作製した。
すなわち、ここで使用した不織布層は、繊度4.4デシテックス、カット長56mmのPET繊維と繊度4.4デシテックス、カット長56mmのアクリル繊維との混綿比(50/50質量比)のステープルファイバーを定法通りカードとクロスラッパーによりウェッブとし、このウェッブにニードルパンチ機を用いてニードリングを施すことにより得た。
<防水施工>
実施例1で用いた下張り積層シート(1)に代えて下張り積層シート(7)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、ウレタン防水構造を施工した。このようにして形成したウレタン防水構造の施工仕上りについて、実施例1と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0061】
【表1】

【符号の説明】
【0062】
1 下地
2 ファスニング部材(内側用2’、周囲用2’’)
2a フック部
2b 基材
2c 孔
3 不織布層
4 ポリウレタン層
5 下張り積層シート
6 防水塗膜
7 固定具
8 プライマー層
9 目地テープ
10 空隙
100 ウレタン防水構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水施工を施すべき下地に対し、フック部を有する複数のファスニング部材を前記フック部が上面になるように配置して固定した後、不織布層およびポリウレタン層を有する下張り積層シートを前記不織布層と前記フック部とが対向するように敷設し、隣り合った下張り積層シート同士の継ぎ目部分があるときには目地テープを貼付し、さらに全面にポリウレタン系塗膜防水材を塗工することを特徴とするウレタン防水工法。
【請求項2】
防水施工を施すべき下地に対し、フック部を有する複数のファスニング部材を前記フック部が上面になるように配置して固定した後、不織布層およびポリウレタン層を有する複数の下張り積層シートを前記不織布層と前記フック部とが対向するように敷設し、隣り合った下張り積層シート同士の継ぎ目部分に目地テープを貼付し、該目地テープの縁部を覆うようにポリウレタン系塗膜防水材を塗工することを特徴とするウレタン防水工法。
【請求項3】
前記ファスニング部材は前記固定具を用いて機械固定する請求項1または2に記載のウレタン防水工法。
【請求項4】
前記ファスニング部材には固定具を貫通させる孔が予め形成されている請求項3に記載のウレタン防水工法。
【請求項5】
下面は下地に固定され上面にフック部を備えた複数のファスニング部材と、前記ファスニング部材のフック部に係合した不織布層とともにポリウレタン層をも備えた下張り積層シートと、該下張り積層シートの上に形成されたポリウレタン系塗膜防水材からなる防水塗膜とを含んで構成されることを特徴とするウレタン防水構造。
【請求項6】
前記下張り積層シートにおける不織布層の目付が100g/m以上である請求項5に記載のウレタン防水構造。
【請求項7】
前記下張り積層シートにおけるポリウレタン層の厚みが200μm以上である請求項5または6に記載のウレタン防水構造。
【請求項8】
前記下張り積層シートがプライマー層をも備えたものである請求項5〜7のいずれかに記載のウレタン防水構造。
【請求項9】
前記ファスニング部材が固定具により機械固定されている請求項5〜8のいずれかに記載のウレタン防水構造。
【請求項10】
前記下張り積層シートと前記下地との間に空隙が存在する請求項5〜9のいずれかに記載のウレタン防水構造。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載のウレタン防水工法に用いられるシートであって、目付が100g/m以上である不織布層と、厚みが200μm以上であるポリウレタン層とを有することを特徴とする下張り積層シート。
【請求項12】
プライマー層をも有する請求項11に記載の下張り積層シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−102487(P2012−102487A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250227(P2010−250227)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(598171508)株式会社秀カンパニー (15)
【出願人】(510295974)ICM株式会社 (1)
【出願人】(000222255)東洋クロス株式会社 (24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)