説明

エアフィルタ用濾材およびエアフィルタ

【課題】
イオン性物質と有機物の両方の除去性能に優れ、さらに吸着蓄積された有機物が分解されて流側を二次汚染することのないエアフィルタ用濾材を提供する。
【解決手段】
イオン性物質と中和反応する化学薬品が付着した繊維シートを含む化学反応層と、JIS K 1474に準拠して測定したPHが5〜9である物理吸着剤を含む物理吸着層とを積層一体化してエアフィルタ用濾材を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中のガス状汚染物質の除去に好適に用いられるエアフィルタ用濾材およびエアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅の高気密化に伴い、建材や塗料等に含まれるホルムアルデヒドや揮発性有害物質(VOC)が住宅内から排出されず、これらを吸入した人間が化学物質過敏症を引き起こす、いわゆるシックハウス症候群が大きな問題となっている。また半導体デバイスを製造するための工業用クリーンルームにおいては、回路パターンの微細化とともにこれまで問題とならなかった微小なガス状の汚染物質がデバイスの特性や歩留まり、信頼性に大きな影響を及ぼすようになってきている。このように空気中の汚染物質の除去は、一般家庭から先端産業まであらゆる場面で、その必要性が高まっている。
【0003】
空気中の汚染物質の除去については、従来から活性炭のような物理吸着剤が一般に使用されている。活性炭は大きな表面積と細孔容積を利用して空気中の有機物を良好に吸着除去することができる。一方、活性炭などの物理吸着剤は、有機物に比べイオン性物質の吸着能力が低い。しかしながら空気中の汚染物質の除去においては、有機物に限らずイオン性の物質も同時に除去しなければならない場合が多い。例えばアルカリ性物質であるアンモニアは代表的な悪臭成分であるとともに、半導体デバイス製造工程においては化学増幅型レジストの解像不良を引き起こす物質であることが知られている。そのため、有機物に加えこれらのイオン性物質を除去しようと、そのイオン性物質と中和反応する酸性薬品やアルカリ性薬品を活性炭等の物理吸着剤に添着することが一般的に行われており、下記(1)〜(3)に示すようなエアフィルタ濾材が提案されてきている。
【0004】
(1)予め酸性薬品やアルカリ薬品を添着した活性炭粒子をトレイに充填したり、成型等により三次元に配置したもの。(特許文献1)
(2)予め酸性薬品やアルカリ薬品を添着した活性炭粒子を不織布等でサンドイッチシート化したもの。(特許文献2)
(3)無添着の活性炭を抄紙法等でシート化し、該シートに酸性薬品やアルカリ薬品を添着したもの。(特許文献3)
しかしながら、これらのエアフィルタは、空気中の有機物とイオン性物質の両方を吸着させることが可能となるものの、次の問題点が存在する。
【0005】
(1)活性炭表面の化学的特性は疎水性であり、薬品の添着量を増やしにくい。
【0006】
(2)添着した薬品が活性炭表面を覆うため、有機ガスの吸着性能が低下する。
【0007】
(3)活性炭に吸着保持された有機物が添着薬品の触媒作用により分解され、多量の分解生成物(分解ガス)が発生する。
【特許文献1】特開平7−16420号公報
【特許文献2】特開平7−39753号公報
【特許文献3】特開平5−132900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、分解生成物の発生を最小限に抑えつつイオン性物質と有機物質の両方を効率よく除去することができるエアフィルタ用濾材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、次の(1)〜(13)を特徴とするものである。
【0010】
(1)イオン性物質と中和反応する化学薬品が付着した繊維シートを含む化学反応層と、JIS K 1474に準拠して測定したPHが5〜9である物理吸着剤を含む物理吸着層とが積層されて一体化されていることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
(2)前記繊維シートは、BET比表面積が0.05m/g以上であり、かつ嵩密度が0.5g/cm以下であることを特徴とする上記(1)に記載のエアフィルタ用濾材。
【0011】

(3)前記繊維シートは、単糸繊度が1dtex以下である極細繊維を含んでいることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のエアフィルタ用濾材。
(4)前記繊維シートは二種類以上のポリマーからなる複合繊維を含み、該複合繊維は少なくとも1部が分割されていることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
(5)前記繊維シートは、ポリアミド繊維またはポリアミドを主成分とする複合繊維を含んでいることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
(6)前記繊維シートは、20〜80wt%が熱接着性成分であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
(7)プリーツ構造に成型されていることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
(8)前記物理吸着層は、前記物理吸着剤が繊維シートで挟持されたものであることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
(9)前記物理吸着剤が活性炭および/またはゼオライトであることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材を備えてなることを特徴とするエアフィルタ。
(11)上記(10)に記載のエアフィルタを搭載してなることを特徴とする空気清浄機。
(12)上記(10)に記載のエアフィルタを搭載してなることを特徴とするクリーンルーム。
(13)上記(10)に記載のエアフィルタを搭載してなることを特徴とする半導体製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るエアフィルタ用濾材は、除去対象物質であるイオン性物質と中和反応する化学薬品が付着した繊維シートを含む化学反応層と、有機物を除去する、JIS K 1474に準拠して測定したpHが5〜9である物理吸着剤を含む物理吸着層とを積層して一体化するので、イオン性物質と有機物とを同時に効率良く除去することができる。さらに物理吸着剤は、JIS K 1474に準拠して測定したpHが5〜9、すなわち物理吸着剤に化学薬品が添着されていないため、物理吸着剤が本来有している物理吸着性能を低下させることがなく、さらには、吸着蓄積された有機物が繊維シートに付着している薬品と反応して分解生成物(酢酸などの分解ガス)を発生するのを最小限に抑えることができる。すなわち、二次汚染を防ぐことができる。また、本発明に係るエアフィルタ濾材は、化学反応層と物理吸着層とが積層されて一体化されているので、取り扱い性に優れ、プリーツ加工等の後加工が容易である。そして、本エアフィルタ用濾材により成型されたエアフィルタは、二種類のエアフィルタ用濾材を別々に成型して枠体にはめ込んだエアフィルタに比べ、低コストでありかつ省スペース化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のエアフィルタ用濾材は、たとえば図1に示すように、除去対象となるイオン性物質と中和反応する化学反応層10と、有機物を吸着除去する物理吸着層20とが積層配置され一体化されている。
【0014】
化学反応層10は、たとえば繊維シート4に除去対象物質であるイオン性物質と中和反応する化学薬品を付着させてなる。この繊維シート4は、化学薬品の付着性を高めるため、単位体積あたりのBET比表面積が0.05m/g以上で、かつ嵩密度が0.5g/cm以下のものを用いることが好ましい。さらには0.2〜50m/g、0.05g/cm〜0.4g/cmの範囲内である。なお、本発明におけるBET比表面積とは、窒素を吸着質としたBET法により測定したものであり、島津製作所製流動式比表面積測定装置フローソーブIII 2305により測定する。嵩密度とは、単位面積当たりの重量(目付け)を、JIS L 1913の6.1.2(A法)項による厚さ測定に基づき測定した厚さで除した値である。
【0015】
繊維シート4のBET比表面積を大きくすると、薬品を含浸塗布する際の濡れ面積を増やすことができ、薬液の保持性が向上するが、逆に大きすぎると余分な有機物を大量に吸着保持し、添着薬品と反応して分解生成物を放出しやすくなる。またシートの嵩密度を小さくすると薬品を含浸塗布する際の付着量を大きくできるとともに、濾材としての通気性を高めることができ、除去対象物質と化学薬品がスムーズに接触し、高効率に化学反応を進めることができるが、大きすぎると薬液の保持性が悪くなり付着量が逆に低下しやすい。
【0016】
ここで、繊維シート4のBET比表面積を大きくする方法としては、
(a)極細繊維を含有させる
(b)異型断面繊維を含有させる
(c)表面に多数の孔やスリットを設けた繊維を含有させる
(d)多孔物質を繊維間に担持させる
等から選択することができる。
【0017】
(a)については、例えば多芯海島型複合繊維の海部を溶剤により溶かすか衝撃により破壊することにより島部で構成された極細繊維を取り出したり、2種以上の互いに非相溶性を有するポリマーからなる複合繊維に物理的な衝撃を与えて分割して極細繊維化することができる。さらに、繊維を叩解処理することによりフィブリル化させる方法等も好ましい。そして、繊維シートを構成する極細繊維は、薬品の吸収保持性の観点から単糸繊度が1dtex以下のものが好ましく、さらに好ましくは0.5dtex以下のものである。極細繊維の単糸繊度が細くなるほど薬品の吸収保持性に優れるが、逆に細すぎると目的の通気性を得られなくなるため、0.01dtex以上とするのがさらに良い。
【0018】
(b)については、異型断面口金からポリマーを紡糸することにより異型断面糸を得ることができる。異型断面形状とは、円形以外の形状を指し、例えば扁平、略多角形、楔型等とすることにより、繊維の表面積を大きくすることができる。
【0019】
(c)については、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上のポリマーをアロイ化した複合繊維を得て、その易溶解性ポリマーの方を溶剤で溶解除去することにより繊維表面に多数のスリットを形成し、その結果繊維を分割させることができる。この分割繊維は完全に単繊維が分離するまで分割しても良いが、分割状態を適度に調整することにより繊維束状態にすれば、通気性と薬品の吸水保持性をバランスさせることができさらに好ましい。
【0020】
そして、上記(a)〜(c)で説明した繊維そのものの表面積を上げる方法以外に、例えば三次元構造の多孔物質を繊維間に担持させても同様の薬品添着効果を得ることができる(d)。
【0021】
次に、繊維シート4に用いられる材質としては、好ましくは溶融紡糸が可能な熱可塑性樹脂を使用することができる。その例としてはポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ビニロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸等からなる長繊維不織布、短繊維不織布、マット、フェルト、紙のようなものである。これらの材質の中でさらに化学薬品の添着に適したものとしては、親水性、耐薬品性、経済性のバランスの面からナイロン6やナイロン66等のポリアミド系樹脂を主成分として選択するのが好ましい。
【0022】
また、繊維シート4には補強繊維や熱接着性成分を加えても良い。特に、繊維シートの20〜80wt%を熱接着性成分で構成し、薬品を添着する前に予めシート内の繊維同士を熱接着させておくと、薬品を添着した際の膨潤や寸法の変化を抑制することができ、好ましい。またこの熱接着性成分の存在により、後述するプリーツ加工等のフィルタ成型時の加工性を向上することができる。
【0023】
熱接着性成分としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、およびこれらの変成樹脂等の熱可塑性樹脂からなる繊維、粒子、粉末のようなものが挙げられる。なかでも、融点の異なる熱可塑性樹脂からなる芯鞘型複合繊維であって、鞘成分の融点が芯成分のそれよりも30〜200℃ほど低いような芯鞘型複合繊維であるのが好ましい。そのような芯鞘型複合繊維を使用し、加熱加圧時に、鞘成分は溶融または軟化するが芯成分は繊維形態を保持できる温度条件を選択すると、濾材の強度を向上させることができ、なおかつ繊維シート内部の空隙を保持して通気性を向上させることができる。通気性が向上すれば、汚染ガスと添着薬品の接触がスムーズに行われるようになって吸着性能が向上し、フィルタとしての圧力損失をも低減させることができる。芯鞘型複合繊維を用いる場合、通気性と接着強度のバランスから、太さが1〜数十dtex、特に2〜20dtexの範囲内にあるものを選択するのがよい。
【0024】
次に、上記繊維シート4に付着させる化学薬品の種類としては、除去対象となるイオン性物質の化学特性によって異なる。除去対象物質がアンモニアやアミン類等のアルカリ性物質である場合は、その対となる酸性薬品を付着させ、逆に除去対象物質がフッ酸、塩酸、硫黄酸化物、窒素酸化物等の酸性物質である場合はアルカリ性薬品を付着させる。酸性薬品としては、硫酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、等が使用され、アルカリ性薬品としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、等が使用されるが、対象ガスと中和反応をする薬品であれば、これら以外から選択して構わない。
【0025】
繊維シート4へ薬品を付着させる方法は特に制限されるものでは無く、通常の方法で付着させればよい。すなわち、薬品を含む水溶液に繊維シートを含浸させる方法や、薬品を含む水溶液を繊維シートに噴霧して付着させる方法等から選択すればよい。また、繊維シートをプリーツ構造体やハニカム構造体に成型した後で、薬品を前述のとおり付着しても良い。これら薬品の担持量は、繊維シートに対して2〜100重量%であり、好ましくは5〜50重量%であり、担持させる薬品および要求される除去性能によって調製する。
【0026】
次に化学反応層10と積層配置され一体化される物理吸着層20について説明する。
【0027】
物理吸着層20は、JIS K 1474に準拠して測定したPHが5〜9である物理吸着剤を含めばよく、物理吸着剤としては、多数の細孔を有し有機物を吸着除去する作用を有するものであればよい。具体的には、活性炭、ゼオライト、活性アルミナ、ケイ酸アルミニウム、多孔質ガラス、シリカゲル、活性白土、多孔質粘土のようなものを例示することができ、これらは粒状のものや繊維状のものがある。またこれらの物理吸着剤の中でも活性炭やゼオライトは比表面積が大きく、物理吸着性能に優れるため、特に好ましく使用される。そして、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。粒状の物理吸着剤を選択する場合は、その粒子径は20〜3000μm、好ましくは100〜1000μmの範囲内にあるのがよい。粒子径があまり小さいと付設時に不織布シートから脱落したり、飛散したりすることがある。また、あまり大きいと吸着作用を担う表面の面積が小さくなり、吸着速度が低くなる。
【0028】
そして、本発明においては、活性炭素繊維不織布のように物理吸着剤そのものが繊維シートを形成しているものを用いて物理吸着層20としてもよいが、物理吸着剤を繊維シートで挟持して物理吸着層20を構成することが好ましい。具体的には、図1に示すように、一対の不織布シート(繊維シート)5の間に物理吸着剤6の粒子を介在させ、その物理吸着剤6の粒子を各不織布シート5に止着したものが好ましく使用される。このような複合シートは、不織布シート5の一表面に物理吸着剤6の粒子と熱接着性材料とを布設し、この上にさらに別の不織布シート5を重ね合わせて2枚の不織布シート5の間に物理吸着剤6の粒子と熱接着性材料とを介在せしめ、得られた複層シートを加熱加圧し、熱接着性材料を溶融または軟化させて物理吸着剤6の粒子を各不織布シート5に止着することによって得ることができる。
【0029】
複合シートを構成する不織布シート5は、濾材に形態保持性や強度を与えるとともに、物理吸着剤6の不織布シート5からの脱落を防止するもので、後加工時の加熱加圧では溶融しないポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ビニロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、天然パルプ等からなる長繊維不織布、短繊維不織布、マット、フェルト、紙などが使用できる。
【0030】
また、複合シートを構成する不織布シート5は、通気性を有していることが必要であるが、後の加熱加圧時に溶融するようなものを採用すると、目が埋まったり覆われたりして通気性が低下するようになる。そして、不織布シート5の目付は、高すぎると通気性が低下するし、低すぎると物理吸着剤粒子が抜け落ちて止着が困難になることがあるので、5〜100g/m、好ましくは10〜50g/mの範囲内にあるものを選択するのがよい。
【0031】
そして、本発明においては、物理吸着層20には酸性薬品やアルカリ薬品等を添着させず、JIS K 1474に準拠して測定したPHが5〜9となるようにする。物理吸着剤に酸性薬品やアルカリ性薬品を添着すると、その添着量に応じてイオン性物質ガスの除去性能が向上するが、逆に薬品が物理吸着剤の細孔を閉塞するため有機物の吸着性能が低下する。さらに物理吸着剤により吸着保持された有機物が酸性薬品あるいはアルカリ性薬品と長時間接触することから、薬品の触媒作用により有機物が加水分解され、多量の分解生成物がフィルタの下流側に流出し、二次汚染を引き起こすことにもなりかねない。これらの問題を引き起こさないよう、本発明では化学薬品を添着した化学反応層と化学薬品を添着していない物理吸着層と分離し、これらを積層配置する。
【0032】
化学反応層および物理吸着層は目的に応じてその積層数を増やしても良く、またその順番を決めて良い。例えば、酸性薬品を付着した化学反応層と物理吸着層とアルカリ性薬品を付着した化学反応層の3層を積層、一体化したエアフィルタ用濾材とすれば、酸性ガス、アルカリ性ガス、有機ガスの3種類を1つのフィルタで除去することが可能となる。
【0033】
そして、上述の化学反応層10と物理吸着層20とは、プリーツ加工等の後加工の通過性を考慮すると、例えば熱接着パウダーやホットメルト樹脂を層間に散布して融着させるか、接着剤を層間に散布して接着させることにより貼り合せせて一体化することが好ましい。またこれらの貼り合せ方法の中でも、貼り合せ前後でシートの吸着性能と通気性をできるだけ低下させない方法を選択するのが好ましい。吸着性能を低下させないためには、アウトガスの少ない熱融着樹脂や接着剤を選定し、通気性を低下させないためには熱融着樹脂や接着剤を過剰に散布しないことが必要である。このような樹脂としては、有機溶剤を含まない低融点の樹脂が適しており、具体的には、日立化成ポリマー(株)製「ハイボン」等などポリオレフィン系ホットメルト樹脂が適している。
【0034】
このようにして得られたエアフィルタ用濾材は、そのまま平面状で使用しても良いが、さらにプリーツ加工を施して処理エアーの通過面積を大きくすれば、捕集効率の向上と低圧損化が可能となる。
【0035】
上述の本発明に係るエアフィルタ用濾材2は、たとえば図2、図3に示すように、枠体1に納めることによりエアフィルタとして使用できる。そして、本エアフィルタ用濾材およびエアフィルタは、健康住宅、ペット対応マンション、高齢者入所施設、病院、オフィス等で使用される空気清浄機、空気清浄システム等に好適に使用される。また半導体関連のクリーンルーム、半導体製造装置またはウエハ搬送経路のケミカルフィルタとしても使用できる。このような場合、限られたスペースで複数のガスに対応できるとともに、薬品添着活性炭でしばしば問題となる分解生成物による二次汚染を回避することができ特に好ましく使用される。
【実施例】
【0036】
以下に記載する実施例および比較例では、イオン性物質と有機物の同時除去能力を次のように評価した。なお、具体的な除去対象物質としては、半導体クリーンルーム内で使用されるケミカルフィルタ用途を想定し、レジスト解像不良の原因物質であるアンモニアと、プロセス溶剤として一般的に使用されているプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下PGMEAと記載)とした。
【0037】
枠体にエアフィルタ用濾材を装着してなるエアフィルタを実験用のダクトに取り付け、ダクトに温度23℃、湿度45%RHの空気を0.5m/secの速度で送風した。さらに上流側からアンモニアとPGMEAを添加し、アンモニアガス濃度を200μg/m、PGMEAガス濃度を6000μg/mに調整し、フィルタの上流側と下流側でエアをサンプリングし、両成分の濃度を測定した。
【0038】
アンモニアの濃度測定については、超純水入りのインピンジャーに通気、バブリングさせてアンモニアを捕集した後、アンモニア量をイオンクロマトグラフで定量し、上流側および下流側の濃度からアンモニア除去率を求めた。PGMEAについては、固体吸着管に通気して捕集した後、熱脱離ガスクロマトグラフにて定量し、上流側および下流側の濃度から除去率を求めた。
【0039】
各除去率は経時的に測定し、フィルタの寿命を比較した。
【0040】
また、PGMEAは加水分解されるとプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)と酢酸に変化し、この酢酸が下流側に放出されると刺激臭を発し、クリーンルーム内の作業者に健康被害を与えることが知られている。この酢酸発生量についても確認するため、アンモニア同様に超純水入りのインピンジャーで捕集した酢酸をイオンクロマトグラフで定量し、フィルタからの酢酸発生量を求めた。なお、フィルタからの酢酸発生量は下流側濃度から上流側濃度を差し引いて算出した。
(実施例1)
繊維長5mm、繊度1.1tex(繊維径3.5μm)の極細ナイロン6繊維と、繊維長5mm、繊度2.2dtex(繊維径14.4μm)の芯鞘型ポリエステル複合繊維(芯成分の融点:260℃、鞘成分の融点:110℃)とを、各繊維が50重量%ずつとなるように混合し、乾式抄紙することにより繊維シートを作成した。得られたシートは目付97g/m、厚み0.3mmであり、この繊維シートのBET比表面積は、0.8m/gであり、嵩密度は0.32g/cmであった。この繊維シートを、アンモニアと中和反応するリン酸水溶液に含浸した後、乾燥させたところ、シートの目付は132g/mとなり、35g/mのリン酸を容易に添着することができた。
【0041】
次に、BET比表面積が1200m/g、平均粒子径が330μmで、なおかつJIS K 1474に準拠して測定したPHが8である活性炭粒子と、繊維長5mm、繊度2.2dtexの芯鞘型ポリエステル複合繊維(芯成分の融点:260℃、鞘成分の融点:110℃)とを芯鞘型ポリエステル複合繊維の割合が繊維シートの30重量%になるように混合し、これを目付20g/mのポリエステル繊維不織布上に乾式抄紙し、さらにその上に同じポリエステル繊維不織布を重ね合わせた。この重ね合わせシートのトータル目付は144g/mであり、活性炭粒子が73g/m、芯鞘型ポリエステル複合繊維が31g/m、ポリエステル繊維不織布が40g/mであった。また、厚みは1.0mmであった。
【0042】
そして、リン酸を添着していない上記重ね合わせシート上に熱融着パウダーを5g/mの分量となるように散布した後、130℃の加熱炉を通過させ、熱融着パウダーが溶融状態となったところで、上記リン酸添着繊維シートを重ね合わせロールで加圧することにより一体化した。この複合シートをリン酸添着繊維シートを上流側、リン酸を添着していない活性炭粒子を含む重ね合わせシートが下流側になるように配置して実験用ダクトに取り付け、アンモニア除去率、PGMEA除去率、酢酸発生量を評価した。
【0043】
その結果、スタート直後から30時間後にかけて各特性は以下のとおり変化した。(詳細データは表1に記載)
アンモニア除去率:99% → 85%
PGMEA除去率:91% → 32%
酢酸発生量 :5μg/m3 → 23μg/m3
アンモニア、PGMEAは、時間の経過とともに除去許容容量に対して消費が進み、除去率が徐々に低下したが、PGMEAの分解生成物である酢酸の発生は軽微な増加に抑えられた。
(実施例2)
重ね合わせシートの一方のポリエステル繊維不織布を省略し、リン酸を添着していないポリエステル繊維不織布上に熱融着パウダーを5g/mの分量となるように散布した後、130℃の加熱炉を通過させ、熱融着パウダーが溶融状態となったところでリン酸添着繊維シートを直接重ね合わせてロールで加圧することにより一体化した以外は、実施例1と同様にエアフィルタ用濾材を作成し、評価した。
結果は以下のとおりであった。
【0044】
アンモニア除去効率:99% → 86%
PGMEA除去効率:90% → 34%
酢酸発生量 :6μg/m3 → 41μg/m3
アンモニア、PGMEAともにほぼ実施例1と同様の除去効率であったが、酢酸発生量が実施例1に比べ増加してしまった。化学反応層と活性炭が直接積層されたことにより、活性炭にリン酸が付着し、PGMEAの分解が進んでしまった。この結果から化学反応層と物理吸着剤は分離されていることが好ましいことがわかる。
(比較例1)
化学反応層の繊維シートにリン酸を添着させず、活性炭粒子にリン酸添着処理を施した以外は実施例1と同様にしてエアフィルタ濾材を得てアンモニア除去率、PGMEA除去率、酢酸発生量を評価した。なお、活性炭へのリン酸添着量は14g/mであり、JIS K 1474に準拠して測定した活性炭のPHは4であった。また、重ね合わせシートのトータル目付は162g/mであり、活性炭粒子が88g/m、芯鞘型ポリエステル複合繊維が34g/m、ポリエステル繊維不織布が40g/mであった。さらに、厚みは1.0mmであった。結果は以下のとおりであった。(詳細データは表1に記載)
アンモニア除去効率:92% → 52%
PGMEA除去効率:88% → −8%(放出)
酢酸発生量 :4μg/m3 → 165μg/m3
アンモニアについては、実施例1よりもリン酸の添着量が減ってしまったため、除去率が早期に低下した。PGMEAについても、活性炭の含有量が実施例1よりも多いにも関わらず、添着薬品が活性炭表面を覆ってしまったことにより吸着容量が低下し、30時間後には完全に破過してしまっていた。さらにPGMEAの吸着保持量が増えるのに伴い、下流側の酢酸濃度が急激に上昇しているのが確認された。これは活性炭に吸着し濃縮されたPGMEAに添着薬品のリン酸が酸触媒として作用し、加水分解反応が進んだためと思われる。
(比較例2)
活性炭へのリン酸の添着量を実施例1とほぼ同じ34g/mにした以外は、比較例1と同様にしてエアフィルタ濾材を得てアンモニア除去率、PGMEA除去率、酢酸発生量を評価した。なお、なお、JIS K 1474に準拠して測定した活性炭のPHは3であった。また、重ね合わせシートのトータル目付は182g/mであり、活性炭粒子が107g/m、芯鞘型ポリエステル複合繊維が35g/m、ポリエステル繊維不織布が40g/mであった。さらに、厚みは1.0mmであった。結果は以下のとおりであった。(詳細データは表1に記載)
アンモニア除去効率:96% → 78%
PGMEA除去効率:54% → −7%(放出)
酢酸発生量 :4μg/m3 → 246μg/m3
アンモニアについては、実施例1とほぼ同量のリン酸を添着したため、除去効率が向上したが、PGMEAの除去効率はリン酸が活性炭の物理吸着をさらに阻害したため比較例1よりも低下した。また酢酸の発生量もリン酸添着量の増加により比較例1よりも増加した。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によるエアフィルタ用濾材およびエアフィルタは、健康住宅、ペット対応マンション、高齢者入所施設、病院、オフィス等で使用される空気清浄機、空気清浄システム等、さらには半導体やFPD(フラットパネルディスプレー)製造における工業用クリーンルームや、その中に設置される装置用ケミカルフィルタとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態を示すエアフィルタ用濾材の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すエアフィルタの概略横断面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示すエアフィルタの概略斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 枠体
2 濾材
3 開口部
4 繊維シート
5 不織布シート
6 物理吸着剤
10 化学反応層
20 物理吸着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性物質と中和反応する化学薬品が付着した繊維シートを含む化学反応層と、JIS K 1474に準拠して測定したPHが5〜9である物理吸着剤を含む物理吸着層とが積層されて一体化されていることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記繊維シートは、BET比表面積が0.05m/g以上であり、かつ嵩密度が0.5g/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記繊維シートは、単糸繊度が1dtex以下である極細繊維を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記繊維シートは二種類以上のポリマーからなる複合繊維を含み、該複合繊維は少なくとも1部が分割されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
前記繊維シートは、ポリアミド繊維またはポリアミドを主成分とする複合繊維を含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項6】
前記繊維シートは、20〜80wt%が熱接着性成分であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項7】
プリーツ構造に成型されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項8】
前記物理吸着層は、前記物理吸着剤が繊維シートで挟持されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項9】
前記物理吸着剤が活性炭および/またはゼオライトであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のエアフィルタ用濾材を備えてなることを特徴とするエアフィルタ。
【請求項11】
請求項10に記載のエアフィルタを搭載してなることを特徴とする空気清浄機。
【請求項12】
請求項10に記載のエアフィルタを搭載してなることを特徴とするクリーンルーム。
【請求項13】
請求項10に記載のエアフィルタを搭載してなることを特徴とする半導体製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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