説明

エアフォイルへの着氷を軽減する耐摩耗被覆

堅牢な疎氷性耐摩耗被覆(10)をエアフォイル表面(12)に1回の塗工により塗布して、エアフォイル表面の除氷効果を上げることができる。当該被覆は、エアフォイル表面よりも硬くて水との接触角の大きな最上機能層(14)を含んでいる。最上機能層は、ダイアモンド状炭素、ガラス状又はアモルファス構造内に炭素(>35原子パーセント)及び水素(0−40原子パーセント)を含んでおり、またその中に珪素及び酸素(それぞれ0.1−40原子パーセント)も取り込んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願のクロスリファレンス)
本出願は、2003年3月3日に出願された米国出願番号第60/451439号の優先権及び利益を主張する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、耐摩耗被覆に関し、特に、エアフォイルに塗布することでエアフォイルへの着氷を軽減しうる疎水性且つ疎氷性の被覆に関する。
【背景技術】
【0003】
エアフォイルとは、空気中を移動する際、空気からの反力を発生させるよう設計された任意の表面であり、例えば、翼やプロペラの前縁や表面である。エアフォイルには、航空機胴体も含まれる。
【0004】
エアフォイルへの着氷は、エアフォイル表面の形状を変形し、エアフォイルの空気力学に悪影響を及ぼす。そのため、航空機が着氷条件に曝される状況下では、飛行前のエアフォイル表面の処理やエアフォイル表面の除去が必要とされる。既存の除氷技術は、短時間の除氷効果に有用であるが、究極的に下地表面を保護するものではない特定の流体や界面活性剤(例えば液状化学品/不凍液スプレーなど)を頻繁に塗布する必要がある。他の既存除氷技術としては、機械的誘導コイルショック除氷装置や、強制温風熱交換除氷装置などがある。テフロン状フルオロカーボンポリマー被覆を使用して着氷を軽減する特許も存在する。
【発明の開示】
【0005】
(発明の要旨)
エアフォイル表面に塗布することにより、エアフォイル表面への着氷を軽減しうる堅牢な疎氷性被覆が提供される。当該被覆は、基材に直接形成しうる約0.1乃至10μmの厚さの最上機能層、勾配(あるいは移行)層、及び/又は、中間接着層(一又は複数)を有している。最上機能層は、下地基材よりも硬い(好ましくはナノインデンテーションによって測定された硬度が約7GPa以上)。この機能層は、低表面エネルギー(好ましくは約50mN/m以下)を有し、水との高接触角(好ましくは約60°以上)を有する。この機能層は、ダイアモンド状炭素、ガラス状又はアモルファス構造内に炭素(約35原子パーセント以上)及び水素(約0乃至40原子パーセント)を含んでおり、またその中に珪素及び酸素(それぞれ約0.1乃至40原子パーセント)も取り込んでいる。
【0006】
当該機能層は、例えばプラズマ化学気相成長法(PECVD)、化学気相成長法(CVD)、物理気相成長法(PVD若しくはスパッタリング)及び/又は反応性スパッタリングなどの、低圧プラズマ気相成長法によって形成される。主題の薄く、堅固な、耐摩耗被覆は、下地基材の摩耗や着氷を軽減するために、エアフォイル表面及び/又はエアフォイル表面に存在する他の除氷装置上に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下の詳細な説明は、本発明を例示的に説明するためのものであって、限定する目的のものではない。この説明から、当業者が本発明を製造及び使用しうることは明瞭である。また、この説明は、本発明の幾つかの実施形態、改作、変形、代替及び使用について記載しており、現時点において、本発明の実施に最適な形態と思われるものを含んでいる。更に、本発明は、その応用において、以下の説明に記載又は図面に例示されている構成の詳細及び成分の配置に限定されるものではない。本発明は、他の実施形態も可能であり、多様な様式で実施若しくは実行しうる。また、ここで使用される用語及び語句は、説明を目的とするものであり、限定として解釈されるべきものではない。
【0008】
本発明者らは、エアフォイル表面12に堅固な耐摩耗被覆10を使用して、下地表面を摩耗(例えば腐食)から保護し、且つ、着氷を軽減することにより究極的に除氷に必要なエネルギー量及び/又は化学薬品を減少させることを提唱する。
【0009】
被覆10は、厚さが約0.1μmから約10μmまでの最上機能層14を有している。最上機能層は、基材上に直接形成することができる。あるいは、中間層16をエアフォイル表面12へ塗布することもでき、その場合、最上機能層14は、この中間層16上へ塗布される。この中間層は、勾配(若しくは移行)層及び/又は一又は複数の中間接着層とすることができる。いずれの場合でも、最上機能層14は、例えばプラズマ化学気相成長法(PECVD)、化学気相成長法(CVD)、物理気相成長法(PVD若しくはスパッタリング)及び/又は反応性スパッタリングなどの、低圧プラズマ気相成長法によって形成することができる。
【0010】
最上機能層14は、下地基材12よりも硬い。好ましくは、最上層14は、ナノインデンテーションによって測定された約7GPa以上の硬度を有している。また最上機能層は、低表面エネルギー(好ましくは約50mN/m以下)を有し、且つ、水との高接触角(好ましくは約60°以上)を有している。
【0011】
好ましくは、最上機能層14は、炭素、水素、珪素及び酸素を含んでいる。炭素は、35原子パーセントよりも多量に存在し、水素は0乃至40原子パーセントの量で存在し、取り込まれた珪素及び酸素は、それぞれ0.1乃至40原子パーセントの量で存在する。炭素及び水素(もし存在すれば)は、ダイアモンド状炭素、ガラス状又はアモルファス構造として形成される。珪素及び酸素は、炭素/水素組成の中に取り込まれている。
【0012】
主題の薄く、堅固な、耐摩耗被覆は、下地基材の摩耗や着氷を軽減するために、エアフォイル表面及び/又はエアフォイル表面に存在する他の除氷装置上に形成することができる。
【0013】
最上機能層は、疎氷性があることが確認されている。この薄く、堅固な、疎氷性耐摩耗被覆は着氷力が小さいので、被覆された表面から氷や積雪を除去することが容易となる。被覆は一度塗布されると、その化学的不活性、高い硬度、優れた耐摩耗特性によって、苛酷な環境においても長寿命を呈する。また高価な機械的及び電気的除氷装置を堅固な、疎氷性被覆で保護することにより、装置の性能を向上させることができる。本発明の予期せぬ効果は、一般的なフルオロカーボンポリマーと異なり、主題の炭素−水素−珪素−酸素系薄膜が、「疎氷性/疎水性」であると同時に硬いことである。従来使用されていたフルオロカーボンポリマーは、「軟らかく」(したがって摩耗/腐食し易い)且つ環境上好ましくないフッ素を含有している。
【0014】
上記構成においては、本発明の範囲を逸脱せずに多様な変更が可能であるので、上記説明に含まれる全ての事柄あるいは添付の図面に示される全ての事柄は、例示的なものとして解釈されるべきであり、限定の意味に解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エアフォイル表面に塗布された本発明被覆の断面図である。
【符号の説明】
【0016】
10 耐摩耗被覆
12 エアフォイル表面
14 最上機能層
16 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアフォイル表面(12)への着氷を軽減するために使用される被覆(10)であって、炭素、水素、珪素及び酸素からなる最上機能層(14)からなり、当該被覆が塗布されるエアフォイル表面の硬度よりも硬い硬度と、約60°よりも大きな水との接触角を有してなる被覆。
【請求項2】
ナノインデンテーションによって測定された硬度が少なくとも約7GPaである請求項1に記載の被覆。
【請求項3】
約50mN/mよりも小さな表面エネルギーを有する請求項1に記載の被覆。
【請求項4】
前記最上機能層(14)の厚さが約0.1μm乃至約10μmである請求項1に記載の被覆。
【請求項5】
前記最上機能層が、プラズマ化学気相成長法(PECVD)、化学気相成長法(CVD)、物理気相成長法(PVD若しくはスパッタリング)及び/又は反応性スパッタリングなどの、低圧プラズマ気相成長法によって形成される請求項1に記載の被覆。
【請求項6】
前記エアフォイル表面と、前記最上機能層との間に、勾配(又は移行)層(16)及び/又は中間接着層(一又は複数)を更に含んでなる請求項1に記載の被覆。

【図1】
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【公表番号】特表2006−521204(P2006−521204A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508724(P2006−508724)
【出願日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/004179
【国際公開番号】WO2004/078873
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(505219613)ザ ティムケン カンパニー (12)
【氏名又は名称原語表記】THE TIMKEN COMPANY
【住所又は居所原語表記】1835 Dueber Avenue S.W., Canton, OH 44706, United States of America
【Fターム(参考)】