説明

エアロゲルシートの製造方法、エアロゲルシート、及び真空断熱材

【課題】繊維体にエアロゲルが担持されたエアロゲルシートを、超臨界乾燥を行わずに製造する。
【解決手段】界面活性剤及び熱加水分解性化合物を含み、冷却により熱加水分解性化合物の加水分解が抑制されている酸性の水溶液に、加水分解性官能基及び非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を添加しゾル溶液を得る。そして、得られたゾル溶液を高分子材料からなる第1及び第2の繊維体111,112が絡みあった構造を有する目付量200g/m以下の基材(不織布11)に含浸させる。次に、熱加水分解性化合物が加水分解するとともに第1の繊維体111が溶融する温度以上で、第2の繊維体112が溶融する温度未満の温度の熱を加え、ゲルシート1aを得る。そして、ゲルシート1aに含まれる水分を有機溶媒で置換した後、前記有機溶媒の臨界点未満の温度と圧力の条件下で、ゲルシート1aを乾燥させてエアロゲルシートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性を有するエアロゲルシートの製造方法、この製造方法により製造されたエアロゲルシート、及びこのエアロゲルシートを用いてなる真空断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家電製品等に用いられる断熱材として、断熱性を有する芯材を非通気性の外包材で包み込み、この外包材で包んだ内部を真空引きしてなる真空断熱材が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エアロゲルと繊維構造物との複合体を、非通気性の外装体内に収容し、真空引きしてなる真空断熱材が開示されている。
【0004】
この特許文献1に開示の真空断熱材の製造において、上記複合体の製造には、液状のエアロゲル前駆体に繊維構造物を浸漬し、超臨界乾燥によりエアロゲルを生成させることが必要である。しかし、この超臨界乾燥には、超臨界に耐え得る特殊な装置等、高額の設備を要するとともに、多くの手間と時間を要していた。
【0005】
ところで、特許文献2には、エアロゲルを生成させる方法として、界面活性剤と尿素とを含む反応溶液に、分子中に加水分解性官能基及び非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を添加してゾルを生成させた後、そのゾルをゲル化させ、これにより形成されたゲルを臨界点未満の温度及び圧力下で乾燥させてエアロゲルを得ることが開示されている。
【0006】
この方法によれば、超臨界乾燥を行わずに、エアロゲルを生成させることが可能である。さらに、上記した特許文献2に開示のエアロゲルは、30nm程度の中心細孔径と、5nm前後の直径を有するアルキルシロキサン骨格とからなる3次元網目構造を有し、気孔率の高い構造を有していることから、熱伝導率が低く、高い断熱性を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−3410194号公報
【特許文献2】国際公開第2007/010949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法を応用し、界面活性剤と尿素とを含む反応溶液に、分子中に加水分解性官能基及び非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を添加してゾルを生成させ、生成したゾルを不織布等の繊維構造物に浸漬させてから、臨界点未満の温度及び圧力下でゾルをゲル化させた場合には、ゾルをゲル化する段階で、繊維構造物の構造が破壊されてしまい、繊維構造物を構成する繊維体にエアロゲルが担持されたシート状又は板状の成形品(以下、エアロゲルシートを称す。)を得ることができないという不都合を生じていた。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、繊維体にエアロゲルが担持されたエアロゲルシートを、超臨界乾燥を行わずに製造することが可能なエアロゲルシートの製造方法、このエアロゲルシートの製造方法により製造されたエアロゲルシート、及びこのエアロゲルシートを用いてなる真空断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るエアロゲルシートの製造方法は、繊維体にエアロゲルが担持されたエアロゲルシートの製造方法であって、界面活性剤及び熱加水分解性化合物を含み、冷却により前記熱加水分解性化合物の加水分解が抑制されている酸性の水溶液に、加水分解性官能基及び非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を添加しゾル溶液を得るゾル溶液調製工程と、高分子材料からなる第1及び第2の繊維体が絡みあった構造を有する目付量200g/m2以下の基材に前記ゾル溶液を含浸させた後、前記熱加水分解性化合物が加水分解するとともに前記第1の繊維体が溶融する温度以上で、前記第2の繊維体が溶融する温度未満の温度の熱を加え、ゲルシートを得るゲル化工程と、前記ゲルシートに含まれる水分を有機溶媒で置換する置換工程と、前記置換工程の後、前記有機溶媒の臨界点未満の温度と圧力の条件下で、前記ゲルシートを乾燥させてエアロゲルシートを得る乾燥工程とを有することを特徴とするエアロゲルシートの製造方法。
【0011】
なお、本明細書中において、「非加水分解性官能基」とは、pHが5以下の水溶液、及びpHが9以上の水溶液中で加水分解されない官能基をいうものとする。また、熱加水分解性化合物とは、熱により加水分解する化合物をいうものとする。
【0012】
この製造方法によれば、繊維体にエアロゲルが担持された高断熱性のエアロゲルシートを製造することができる。
【0013】
または、本発明に係るエアロゲルシートの製造方法は、繊維体にエアロゲルが担持されたエアロゲルシートの製造方法であって、界面活性剤を含む酸性の水溶液に、加水分解性官能基及び非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を添加しゾル溶液を得るゾル溶液調製工程と、高分子材料からなる第1及び第2の繊維体が絡みあった構造を有する目付量200g/m2以下の基材に前記ゾル溶液を含浸させてから熱加水分解性化合物を添加した後、前記熱加水分解性化合物が加水分解するとともに前記第1の繊維体が溶融する温度以上で、前記第2の繊維体が溶融する温度未満の温度の熱を加え、ゲルシートを得るゲル化工程と、前記ゲルシートに含まれる水分を有機溶媒で置換する置換工程と、前記置換工程の後、前記有機溶媒の臨界点未満の温度と圧力の条件下で、前記ゲルシートを乾燥させてエアロゲルシートを得る乾燥工程とを有することを特徴とする。
【0014】
この製造方法によれば、繊維体にエアロゲルが担持された高断熱性のエアロゲルシートを製造することができる。
【0015】
また、ゾル溶液調製工程でシリコン化合物が添加される溶液の冷却を要しないから、エアロゲルシートの製造における温度調整を簡略化することができる。具体的には、冷却装置等の温度調整に必要な設備を削減することができるとともに、その設備の稼働に掛かる費用(例えば、電力費用等)及び設備のメンテナンスに掛かる費用を削減することができ、製造コストを大幅に削減することができる。また、製造設備が温度変化の激しい過酷な条件下で使用されることがないため、製造設備に負担がかかることがない。さらに、温度調整に伴って発生する二酸化炭素の量を削減することができる。
【0016】
また、本発明に係るエアロゲルシートの製造方法において、前記熱加水分解性化合物は、尿素であってもよい。
【0017】
この製造方法では、尿素の加水分解により発生する塩基性物質によりゾルゲル反応を十分に促進させることができるから、エアロゲルシートの生産性を高めることができる。
【0018】
また、本発明に係るエアロゲルシートは、上記した本発明に係るエアロゲルシートの製造方法により製造されたエアロゲルシートであって、0.015〜0.019W/m・Kの熱伝導率を有し、且つ、気孔率が86.3〜96.5%であることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、繊維体にエアロゲルが担持されたが高断熱性のエアロゲルシートを製造することができる。
【0020】
また、本発明に係る真空断熱材は、上記した本発明に係るエアロゲルシートをガスバリア性の外包材で包み込み、前記外包材で包まれた内部を真空引きすることにより得られた真空断熱材であって、0.0005〜0.0012W/m・Kの熱伝導率を有し、且つ、外包材で包まれた前記エアロゲルシートの気孔率が86.3〜96.5%であることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、繊維体にエアロゲルが担持された高断熱性のエアロゲルシートを用いてなる高断熱性の真空断熱材を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、繊維体にエアロゲルが担持された高断熱性のエアロゲルシートを、超臨界乾燥を行わずに製造することが可能なエアロゲルシートの製造方法、このエアロゲルシートの製造方法により製造されたエアロゲルシート、及びこのエアロゲルシートを用いてなる真空断熱材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るエアロゲルシートの製造方法のゲル化工程を説明するための説明図であって、(a)はゲル化工程で用いる基材の構成を説明するための説明図であり、(b)は、ゲルシートにおいてゲルが繊維体に担持されている状態を説明するための説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るエアロゲルシートを外包材で包み込んだ状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明に係るエアロゲルシートの製造方法は、ゾル溶液調製工程と、ゲル化工程と、置換工程と、乾燥工程とを有する。
【0026】
<ゾル溶液調製工程>
ゾル溶液調製工程では、界面活性剤を含む酸性の水溶液に、加水分解性官能基及び非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を添加しゾル溶液を得る。ここで、酸性の水溶液には、熱加水分解性化合物が含まれていてもよい。
【0027】
以下、酸性の水溶液に含まれる成分について具体的に説明する。
【0028】
酸性の水溶液の酸は、シリコン化合物の加水分解性官能基を加水分解させるものである。よって、この酸性の水溶液の酸は、シリコン化合物の加水分解性官能基を加水分解させることができるものであれば、特に限定されず、具体例としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、及びマロン酸等のカルボン酸を挙げることができ、これらの酸の中でも、特に、酢酸が好ましい。
【0029】
また、酸性の水溶液のpHは、2.0以上〜5.0以下の範囲であることが好ましく、3.0以上〜4.5以下の範囲であることが特に好ましい。pHが2.0以上〜5.0以下の範囲内にない場合には、シリコン化合物の加水分解性官能基が加水分解せず、ゾルが生成しなかったり、ゾルの生成に長時間を要したりするおそれがある。
【0030】
また、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0031】
ここで、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン基などの親水部と主にアルキル基又はアルケニル基からなる疎水部とを含むもの、及び親水部としてポリオキシプロピレンを含むものを挙げることができる。具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、及びポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルと、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルケニルエーテルと、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル及びポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステルと、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体とを挙げることができる。
【0032】
また、カチオン性界面活性剤としては、例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム及び塩化セチルトリメチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤、並びにイミダゾリン型カチオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0033】
また、アニオン性界面活性剤としては、アルキルジスルフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、及びアルキル硫酸ナトリウムを挙げることができる。
【0034】
さらに、両性界面活性剤としては、アシルグルタミン酸等のアミノ酸系両性界面活性剤、ラウリルメチルアミノ酢酸ベタイン及びステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のベタイン系両性界面活性剤、並びに、ラウリルジメチルアミンオキシド等のアミンオキシド系両性界面活性剤を挙げることができる。
【0035】
また、水溶液には、1種の界面活性剤が含まれていてもよいし、2種以上の界面活性剤が含まれていてもよい。
【0036】
なお、界面活性剤の量は、特に限定されるものではないが、具体例としては、シリコン化合物100重量部に対して、10重量部〜50重量部であることが好ましい。
【0037】
また、本発明において、上記した界面活性剤は、1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
また、熱加水分解性化合物は、熱加水分解により、塩基性物質を発生して、反応溶液を塩基性とし、後述するゲル化工程でのゾルゲル反応を促進するものである。よって、この熱加水分解性化合物は、加水分解後に反応溶液を塩基性にする化合物であれば、特に限定されず、具体例としては、尿素、及び、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの酸アミド、及び環状窒素化合物であるヘキサメチレンテトラミンを挙げることができ、これらの熱加水分解性化合物の中でも、特に、尿素が好ましい。
【0039】
熱加水分解性化合物の添加量は、後述するゲル化工程でのゾルゲル反応を十分に促進することができる量であれば、特に限定されないが、例えば、熱加水分解性化合物として尿素を用いた場合、その添加量は、シリコン化合物100重量部に対して、10重量部〜50重量部であることが好ましい。10重量部未満の場合には、ゲル化工程で、ゾルゲル反応が進行せず、ゲルを生成させることができなかったり、ゾルのゲル化に長時間を要するおそれがある。また、50重量部を超える場合には、ゲルが硬化するおそれがある。
【0040】
また、水溶液に熱加水分解性化合物を含む場合、水溶液は、熱加水分解性化合物の加水分解を抑制し、ゾルのゲル化を抑制する温度に冷却されている必要がある。この時の冷却温度は、熱加水分解性化合物が加水分解しない温度であれば、いずれの温度であってもよいが、例えば、熱加水分解性化合物として尿素を用いた場合には、−5℃以上〜10℃以下であることが好ましく、0℃以上〜5℃以下であることが特に好ましい。
【0041】
さらに、上記した酸性の水溶液に添加されるシリコン化合物としては、分子中に親水性の加水分解性官能基及び疎水性の非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を用いる。このようなシリコン化合物の具体例としては、アルキルケイ素アルコキシドを挙げることができ、アルキルケイ素アルコキシドの中でも、特に、非加水分解性官能基の数が1又は2であるもの、具体的には、メチルトリメトキシシラン及びジメチルメトキシシランを好適に用いることができる。
【0042】
このようなシリコン化合物の添加量は、酸性の水溶液100重量部に対し、30〜100重量部であることが好ましい。
【0043】
また、本発明において、上記したシリコン化合物は、1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
<ゲル化工程>
ゲル化工程では、ゾル溶液調製工程で得たゾル溶液を基材に含浸させた後、熱加水分解性化合物が加水分解する温度の熱を加えることによって、塩基性物質を発生させる。この塩基性物質により、ゾル溶液はゲル化し、さらに、ゲルを熟成させることで、ゲルシート1aを得る。なお、熟成は、熱加水分解性化合物を加水分解させてゲル化を起こすために用いたのと同じ温度範囲内で静置することにより行う。
【0045】
なお、ゾル溶液調製工程で界面活性剤のみを含む酸性の水溶液を使用してゾル溶液を調製した場合には、ゾル溶液調製工程で得たゾル溶液を基材に含浸させた後、上記した熱加水分解性化合物を加え、さらに、熱加水分解性化合物が加水分解する温度の熱を加えることによって、塩基性物質を発生させる。この塩基性物質により、ゾル溶液はゲル化し、さらに、ゲルを熟成させることで、ゲルシート1aを得る。なお、熟成は、熱加水分解性化合物を加水分解させてゲル化を起こすために用いたのと同じ温度範囲内で静置することにより行う。
【0046】
ここで、基材としては、高分子材料からなる第1及び第2の繊維体が絡み合った構造を有する目付量200g/m2以下の基材を用いる。ここで、第1の繊維体を構成する高分子材料と、第2の繊維体を構成する高分子材料とでは、融点が異なっており、例えば、第1の繊維体は、融点が130℃以下の高分子材料からなり、第2の繊維体は融点が150℃以上の高分子材料からなる。
【0047】
このような基材の具体例としては、図1(a)に示すように、シート状の第2の繊維体112が複数積層されており、これら第2の繊維体112同士が結合するように、糸状の第1の繊維体111が絡ませられた不織布11を挙げることができる。ここで、第1の繊維体111としては、ポリエチレン(以下、PEと略す)からなるものを使用することができ、第2の繊維体112としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)からなるものを使用することができる。
【0048】
このような基材(不織布11)を構成する第1の繊維体111は、第2の繊維体112の積層構造を補強する役割を担い、ゾルのゲル化の初期段階においては、第2の繊維体112の積層構造が維持された状態で不織布11に含浸されたゾルのゲル化が進むことを促進するが、図1(b)に示すように、ゲル化が進み、第2の繊維体112にゲル12が担持されると溶出し、ゲルシート1aと分離される。
【0049】
また、加える熱の温度は、熱加水分解性化合物が加水分解するとともに第1の繊維体111が溶融する温度以上で、第2の繊維体112が溶融する温度未満の温度であれば、特に限定されないが、例えば、尿素を熱加水分解性化合物として用い、さらに第1の繊維体111に融点が50℃以上〜130℃以下の高分子材料からなるものを用い、第2の繊維体112に融点が150℃以上の高分子材料からなるものを用いた場合には、50℃以上〜130℃以下の温度であることが好ましく、60℃以上〜130℃以下であることが特に好ましい。50℃未満の場合には、熱加水分解性化合物が加水分解せず、ゾルのゲル化が進行しないおそれ、若しくは第1の繊維体111が溶出しないおそれがあり、130℃を超える場合には、第2の繊維体112が溶けて、第2の繊維体112にゲル12を担持させることができないおそれがある。
【0050】
また、熟成時間を含めた加熱時間は、ゾルのゲル化が完全に終了し得る時間であれば特に限定されないが、具体例としては、4〜480時間であることが好ましく、4〜120時間であることが特に好ましい。4時間未満の場合には、ゾルのゲル化が完全に終了しないおそれがあり、また、480時間を超える場合には、ゲルが硬化するおそれがある。
【0051】
<置換工程>
置換工程では、ゲル化工程で得たゲルシート1aを有機溶媒で洗浄後、そのゲルシート1aに含まれる水分を、洗浄に使用した有機溶媒で置換する。ここで、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、及びギ酸等の各種の有機溶媒を使用することができる。
【0052】
<乾燥工程>
乾燥工程では、置換工程で使用した有機溶媒の臨界点未満の温度と圧力の条件下で、ゲルシート1aを乾燥させ、エアロゲルシート1を得る。
【0053】
例えば、置換工程でメタノールを使用した場合は、大気圧下、温度40℃以上〜100℃以下の条件下で、ゲルシート1aを乾燥させ、エアロゲルシート1を得る。
【0054】
以上のようにして製造したエアロゲルシート1は、基材(織布又は不織布)を構成する繊維体(第2の繊維体112)にエアロゲルが担持された構造を有している。また、そのエアロゲル部分の構造は、3次元網目状に連続した貫通孔と、アルキルシロキサンからなる3次元網目状に連続した骨格とから形成される3次元網目構造を有している。そして、この貫通孔の直径は、20nm以上〜60nm以下で、骨格の断面積の直径は、2nm以上〜30nm以下となっている。
【0055】
このような乾燥工程で得られたエアロゲルシート1を、図2に示すように、ガスバリア性を有する外包材2、例えば、表面にアルミが蒸着されたアルミ蒸着ガスバリア性フィルムで包み込み、この外包材2で包まれた内部を真空引きして、エアロゲルシート1を真空包装することで真空断熱材1を得る。
【0056】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
−実施例1−
容器に入れた純水110重量部に対し、0.07重量部の酢酸を溶かして、pH3〜4.5の酸性の水溶液を得た。この溶液に、16.7重量部の界面活性剤(三洋化成工業株式会社製のPE−108:ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体)を添加し、界面活性剤が溶解するまで攪拌を行った。
【0058】
酸性の水溶液に界面活性剤を溶解させた後、その水溶液を別の容器に移し、水溶液を0℃以下の温度まで冷却後、44.4重量部の尿素を加え、尿素が溶解するまで攪拌を行った。
【0059】
尿素を加えて攪拌後、水溶液の温度を0℃以下の温度に維持した状態で、メチルトリメトキシシランを100重量部加えて攪拌し、ゾル溶液を得た(ゾル溶液調製工程)。
【0060】
次いで、ゾル溶液を不織布の入った容器に入れて、不織布にゾル溶液を含浸させ、容器を密閉した。そして、密閉した容器内の温度を60℃に保ち、5日間静置して、ゾルをゲル化させ、ゲルシートを得た(ゲル化工程)。ここで、不織布には、図1(a)に示すような、シート状の第2の繊維体112が複数積層され、これら第2の繊維体112が結合されるように糸状の第1の繊維体111が絡められた不織布11(目付量:180g/m2、厚さ:6mm)であって、第1の繊維体111がPEからなり、第2の繊維体112がPETからなるものを使用した。
【0061】
5日間の静置後、容器からゲルシートを取り出して、メタノールで洗浄後、ゲルシートに含まれる水分をメタノールと置換するために、ゲルシートをメタノールに5日間浸漬させた。この際、メタノールは、24時間毎に新しいものに取り換えた(置換工程)。
【0062】
ゲルシート内の水分をメタノールで置換後、ゲルシートを大気圧下100℃の乾燥機内に48時間入れて乾燥させて、エアロゲルシートを得た(乾燥工程)。
【0063】
−実施例2−
容器に入れた純水110重量部に対し、0.07重量部の酢酸を溶かして、pH3〜4.5の酸性の水溶液を得た。この溶液に、16.7重量部の界面活性剤(三洋化成工業株式会社製のPE−108:ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体)を添加し、界面活性剤が溶解するまで攪拌を行った。
【0064】
酸性の水溶液に界面活性剤を溶解させた後、その水溶液を別の容器に移し、メチルトリメトキシシランを100重量部加えて攪拌し、ゾル溶液を得た(ゾル溶液調製工程)。
【0065】
次いで、ゾル溶液を不織布の入った容器に入れて、不織布にゾル溶液を含浸させ、さらに、44.4重量部の尿素を添加し、撹拌後、容器を密閉した。そして、密閉した容器内の温度を60℃に保ち、5日間静置して、ゾルをゲル化させて、ゲルシートを得た(ゲル化工程)。ここで、不織布には、実施例1で使用した不織布11(目付量:180g/m2、厚さ:6mm)と同じものを使用した。
【0066】
5日間の静置後、容器からゲルシートを取り出して、メタノールで洗浄後、ゲルシートに含まれる水分をメタノールと置換するために、ゲルシートをメタノールに5日間浸漬させた。この際、メタノールは、24時間毎に新しいものに取り換えた(置換工程)。
【0067】
ゲルシート内の水分をメタノールで置換後、ゲルシートを大気圧下100℃の乾燥機内に48時間入れて乾燥させて、エアロゲルシートを得た(乾燥工程)。
【0068】
−比較例1−
不織布として、図1(a)における第1の繊維体111及び第2の繊維体112が共にPETからなる不織布11(目付量:180g/m2、厚さ:6mm)を使用した以外は、実施例1と同様にしてエアロゲルシートを得た。
【0069】
−比較例2−
不織布として、図1(a)における第1の繊維体111がPEで、第2の繊維体112がPETである不織布11(目付量:300g/m2、厚さ:6mm)を使用した以外は、実施例1と同様の方法にして、エアロゲルシートを得ることを試みた。
【0070】
しかし、ゲル化工程において、粉状のゲルしか得られず、ゲルシートを得ることはできなかった。即ち、本比較例2では、エアロゲルシートを得ることができなかった。
【0071】
実施例1〜2及び比較例1のエアロゲルシートにおいて、エアロゲル部分の構造は、3次元網目状に連続した貫通孔と、アルキルシロキサンからなる3次元網目状に連続した骨格とから形成される3次元網目構造となっていた。
【0072】
そこで、実施例1〜2及び比較例1のエアロゲルシートについて、厚さ、3次元網目状に連続した貫通孔(細孔)の中心細孔径、アルキルシロキサンからなる3次元網目状に連続した骨格の断面を円とみなした場合の骨格直径、かさ密度、気孔率、及び熱伝導率を測定した。その結果を以下表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1における中心細孔径、アルキルシロキサンからなる3次元網目状に連続した骨格の断面を円とみなした場合の骨格直径、かさ密度、及び気孔率は、水銀圧入法により測定した。
【0075】
また、熱伝導率は、カトーテック株式会社製のKES−F7を用いて測定した。
【0076】
さらに、実施例1〜2、及び比較例1のエアロゲルシートの各々を、表面にアルミが蒸着されたガスバリア性のポリエチレンフィルムからなる外包材で包み込み、この外包材の内部を真空引きして真空断熱材を得、これら実施例1〜2及び比較例1の真空断熱材の熱伝導率を上記した方法により測定した。さらに、真空引き後の実施例1〜2及び比較例1のエアロゲルシートの各々の厚み及び気孔率を上記した方法により測定した。その結果を以下表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表1に示されるように、PEからなる第1の繊維体111とPETからなる第2の繊維体112とから構成された不織布11を用いて製造された実施例1及び2に係るエアロゲルシートは、第1の繊維体111及び第2の繊維体112が共にPETからなる不織布11を用いて製造された比較例1に係るエアロゲルシートに比べて、気孔率が高く熱伝導率が低いことが認められた。つまり、実施例1及び2に係るエアロゲルシートは、比較例1のエアロゲルシートに比べて高い断熱性を有することが認められた。
【0079】
このような結果は、実施例1及び2に係るエアロゲルシートの製造では、不織布11を構成する繊維体の一部がゲル化工程で溶出し、ゲルシートと分離されることに起因すると考えられる。
【0080】
つまり、実施例1及び2に係るエアロゲルシートの製造では、その製造に使用した不織布を構成する繊維体の一部、即ち、PEからなる第1の繊維体111がゲル化工程で溶出してゲルシートと分離されるから、このゲルシートに含まれる水分を有機溶媒で置換した後、乾燥させることにより得られたエアロゲルシートは、その構造中に、製造に用いた不織布を構成する繊維体の一部(即ち、第2の繊維体112)のみを含んだものとなる。一方、比較例1に係るエアロゲルシートの製造では、その製造に使用した不織布11を構成する繊維体は全てPEからなるから、ゲル化工程で、不織布11を構成する繊維体の一部が溶出することがなくゲルシートと分離されることがない。このため、このゲルシートに含まれる水分を有機溶媒で置換した後、乾燥させることにより得られたエアロゲルシートは、その構造中に、製造に用いた不織布11を構成する繊維体(第1及び第2の繊維体111,112)の全てを含んだものとなる。
【0081】
このため、実施例1及び2に係るエアロゲルシートは、比較例1に係るエアロゲルシートに比べ、その構造中含まれる繊維体の量が少なく、繊維体のもつ熱伝導性による影響が少なく抑えられているため、熱伝導率が低く、断熱性が低いものとなっているものと考えられる。
【0082】
また、表2に示されるように、実施例1及び2に係るエアロゲルシートは、真空断熱材とするために真空引きされた後においても、真空引き前と同等の厚みと気孔率を有することが認められた。また、実施例1及び2に係るエアロゲルシートをガスバリア性の外包材で包み込み、その外包材で包まれた内部を真空引きすることにより得られた真空断熱材は、実施例1及び2に係るエアロゲルシート単体よりも熱電伝導率が極めて低く、高い断熱性を備えることが認められた。
【符号の説明】
【0083】
1 エアロゲルシート
1a ゲルシート
11 不織布
111 経糸
112 横糸
12 ゲル
2 外包材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維体にエアロゲルが担持されたエアロゲルシートの製造方法であって、
界面活性剤及び熱加水分解性化合物を含み、冷却により前記熱加水分解性化合物の加水分解が抑制されている酸性の水溶液に、加水分解性官能基及び非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を添加しゾル溶液を得るゾル溶液調製工程と、
高分子材料からなる第1及び第2の繊維体が絡みあった構造を有する目付量200g/m2以下の基材に前記ゾル溶液を含浸させた後、前記熱加水分解性化合物が加水分解するとともに前記第1の繊維体が溶融する温度以上で、前記第2の繊維体が溶融する温度未満の温度の熱を加え、ゲルシートを得るゲル化工程と、
前記ゲルシートに含まれる水分を有機溶媒で置換する置換工程と、
前記置換工程の後、前記有機溶媒の臨界点未満の温度と圧力の条件下で、前記ゲルシートを乾燥させてエアロゲルシートを得る乾燥工程と
を有することを特徴とするエアロゲルシートの製造方法。
【請求項2】
繊維体にエアロゲルが担持されたエアロゲルシートの製造方法であって、
界面活性剤を含む酸性の水溶液に、加水分解性官能基及び非加水分解性官能基を有するシリコン化合物を添加しゾル溶液を得るゾル溶液調製工程と、
高分子材料からなる第1及び第2の繊維体が絡みあった構造を有する目付量200g/m2以下の基材に前記ゾル溶液を含浸させてから熱加水分解性化合物を添加した後、前記熱加水分解性化合物が加水分解するとともに前記第1の繊維体が溶融する温度以上で、前記第2の繊維体が溶融する温度未満の温度の熱を加え、ゲルシートを得るゲル化工程と、
前記ゲルシートに含まれる水分を有機溶媒で置換する置換工程と、
前記置換工程の後、前記有機溶媒の臨界点未満の温度と圧力の条件下で、前記ゲルシートを乾燥させてエアロゲルシートを得る乾燥工程と
を有することを特徴とするエアロゲルシートの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエアロゲルシートの製造方法であって、
前記熱加水分解性化合物が、尿素であることを特徴とするエアロゲルシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載のエアロゲルシートの製造方法により製造されたエアロゲルシートであって、
0.019〜0.015W/m・Kの熱伝導率を有し、且つ、気孔率が86.3〜96.5%であることを特徴とするエアロゲルシート。
【請求項5】
請求項4に記載のエアロゲルシートをガスバリア性の外包材で包み込み、前記外包材で包まれた内部を真空引きすることにより得られた真空断熱材であって、
0.0005〜0.0012W/m・Kの熱伝導率を有し、且つ、外包材で包まれた前記エアロゲルシートの気孔率が86.3〜96.5%であることを特徴とする真空断熱材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−178925(P2011−178925A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45702(P2010−45702)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(510057752)アサヒ科学株式会社 (4)
【Fターム(参考)】