説明

エア・キヤブサスペンシヨンの制御装置

【目的】 凹凸の大きい路の走行時、または、急激な加速・減速時にボトミングを効果的に防止して、乗り心地を改善する。
【構成】 ティルト式キャブ1に装着されるエア・サスペンション10において、停車または通常走行時には、レベリングバルブ17によりエアベローズ11に比較的少量の高圧空気を供給し、ばね定数を小さく設定する。そして、Gセンサ25の加速度が設定値より大きい急加速時には、制御ユニット26からの制御信号を電磁弁手段30に出力し、一定時間だけエアベローズ11の圧縮空気を増大して一時的にばね定数を大きく制御することにより、ボトミングを確実に防止する。また、一定時間経過後はレベリングバルブ17によりエアベローズ11のばね定数を元の小さい状態に復帰して、通常の良好な乗り心地を確保する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、キャブの懸架装置として、圧縮空気により路面の凹凸に対してキャブの振動、衝撃を吸収、緩和するエア・キャブサスペンションにおいて、キャブに大きな加速度が生じた時にエア・キャブサスペンションのばね定数を一時的に変化する制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】ティルト式キャブの車両のキャブサスペンションに、エア・キャブサスペンションを使用しているものがある。このエア・キャブサスペンションは、キャブとフレームとの間にエアベローズが装着され、高圧空気をエアタンクからプロテクションバルブ、レベリングバルブ、サージタンクを介してエアベローズに供給するように構成される。
【0003】そして、エアベローズに貯えられる圧縮空気の弾性により、衝撃等を吸収、緩和するように作用する。また、キャブの重量が増大して車高が低下すると、レベリングバルブによりエアベローズに高圧空気を供給して車高を一定に保ち、このとき多量の圧縮空気によりばね定数が大きくなって、固いスプリングとして機能する。一方、キャブの重量が減じて車高が高くなると、エアベローズの圧縮空気を排出して同様に車高を一定化し、この場合は少ない圧縮空気によりばね定数が小さくなって、柔らかいスプリングとして機能するようになっている。
【0004】ところで、この種のエア・キャブサスペンションは、上述のように荷重条件によりばね定数が自動的に設定されるので、通常は最適な乗り心地を得ることができる。しかし、特にばね定数が小さい場合において凹凸の大きい路面の走行時、また、加速・減速の過渡時等に大きい加速度を生じるような走行条件では、車体が上下に大きく変位してボトミングを発生して、乗員に不快なショックを与えるという不具合を招く。
【0005】従来、上記エア・サスペンションのボトミング防止対策としては、レベリングバルブの変位に対する感度を鈍くする。また、ショックアブソーバの減衰力を増すようにチューニングしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来技術のものにあっては、例えばレベリングバルブの感度の鈍化により、一律にエア・サスペンションのばね特性、緩衝性能が悪化したものになる。このため、柔らかいスプリングの機能が犠牲にされ、定常走行での乗り心地が悪くなるという問題がある。
【0007】本発明は、この点に鑑みてなされたもので、凹凸の大きい路の走行時、または急激な加速時、減速時にボトミングを効果的に防止して、乗り心地を改善することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、キャブとフレームとの間にエアベローズが介設され、高圧空気を貯えるエアタンクが、少なくともキャブ重量条件に応じて高圧空気を供給または排出するように動作するレベリングバルブ、サージタンクを介しエアベローズに連通して構成されるエア・キャブサスペンションにおいて、車体の加速度を検出するGセンサと、加速度が設定値以上の場合に一定時間だけ制御信号を出力する制御ユニットと、制御信号によりエアベローズの圧縮空気を一時的に増大して、ばね定数を大きく変化する電磁弁手段とを備えるものである。また、上記電磁手段は、レベリングバルブのレバーにエアシリンダが連結され、このエアシリンダに高圧空気を導入する空気通路に電磁弁が設けられ、制御信号により電磁弁を動作して一定時間レベリングバルブのレバーを高圧空気供給側に動作するように構成される。さらに、上記電磁弁手段は、レベリングバルブの下流側に電磁弁が設けられ、これらのレベリングバルブと電磁弁にバイパスする空気通路に他の電磁弁が設けられ、制御信号により両電磁弁を動作し、一定時間レベリングバルブの動作を停止してエアベローズに高圧空気を供給するように構成される。さらにまた、上記エアベローズは、ティルト式キャブと、前輪を支持するフレームとの間に介設される。
【0009】
【作用】上記構成に基づき、停車または通常走行時には、レベリングバルブによりキャブ重量に対応した車高を検出して所定の高圧空気がエアベローズに供給され、例えばキャブ重量が小さい場合には、エアベローズの圧縮空気量が少なくなって小さいばね定数に設定される。そして、凹凸の大きい路の走行時、または急加速時・急減速時には制御ユニットからの制御信号が電磁弁手段に出力し、一定時間エアベローズの圧縮空気を増大するように制御され、これにより一時的にばね定数が大きくなってボトミングが確実に防止され、一定時間経過後はレベリングバルブによりエアベローズのばね定数が元の状態に復帰される。
【0010】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1において、本発明の第1の実施例について説明すると、符号1はキャブとして例えばティルト式キャブ、2は前輪であり、この前輪2のアクスル3を支持するフレーム4と上記キャブ1との間に、エア・キャブサスペンション10のエアベローズ11が装着される。また、高圧空気の配管系について説明すると、常に高圧空気が貯えられるエアタンク12を有し、このエアタンク12が空気通路13によりプロテクションバルブ14に連通し、このプロテクションバルブ14がリヤ側へのセパレータ15を有する空気通路16を介してレベリングバルブ17に連通する。また、レベリングバルブ17から空気通路18を介してサージタンク19に連通し、このサージタンク19から空気通路20を介してエアベローズ11に連通するように配管されている。
【0011】プロテクションバルブ14は、サージタンク19の側の圧力が異常低下する場合に閉じ、エアタンク12の高圧空気の低下を防止する。そして、このエアタンク12に連通して構成されるブレーキ系統の機能を、常に確保するものである。レベリングバルブ17は、キャブ1の高さを検出するレバー17aを有し、車高が低くなってレバー17a が水平位置より上方に回動すると、高圧空気をサージタンク19を介してエアベローズ11に供給する。また、車高が高くなってレバー17a が逆の下方に回動すると、エアベローズ11の圧縮空気を排出する。こうして、車高を常に一定化し、且つ重量条件に応じたばね定数に調節するものである。
【0012】次いで、このように構成されたエア・キャブサスペンション10の制御系について説明すると、車体の加速度Gを検出するGセンサ25を有する。このGセンサ25の加速度Gの信号は、マイコンで構成される制御ユニット26に入力し、設定値と比較して加速状態を判断し、加速度Gの凹凸の大きい路の走行時、または、急加速時・急減速時に一定時間tだけ制御信号を出力するようになっている。
【0013】ところで、凹凸の大きい路の走行時、または急加速時・急減速時のボトミングを防止するには、エアベローズ11のばね定数を大きくすれば良い。このためには、レベリングバルブ17を利用してそのレバー17a を上方に回動するように制御することが考えられる。この技術思想に基づき、レベリングバルブ17に電磁弁手段30が付設される。電磁弁手段30はレベリングバルブ17のレバー17a にエアシリンダ31が連結され、空気通路16から分岐する空気通路32がエアシリンダ31に連通され、この空気通路32に制御ユニット26からの制御信号が出力する電磁弁33が設けられる。電磁弁33は3方弁であり、制御信号がONする場合に入口ポート33a を開きドレンポート33b を閉じて高圧空気をエアシリンダ31に導入し、OFFすると逆に動作してエアシリンダ31をドレンするように構成される。
【0014】次に、この実施例の作用を、図2のタイムチャートを参照して説明する。先ず、車両のエンジン運転時にはエアタンク12に高圧空気が貯えられて、エア・キャブサスペンション10を作動することが可能になる。また、Gセンサ25により車体の加速度Gが検出されており、停車や定常走行時に加速度Gの値が小さい場合には、図2のように制御ユニット26の制御信号がOFFし、これにより電磁弁33でエアシリンダ31がドレンされる。このため、レベリングバルブ17のレバー17a はフリーになって車高が検出され、このレベリングバルブ17により所定の高圧空気がサージタンク19を介しエアベローズ11に供給される。そこで、キャブ1の重量が小さい場合には、エアベローズ11の圧縮空気が比較的少なくて、エア・キャブサスペンション10のばね定数が小さくなり、柔らかいスプリング特性に設定されて、乗り心地が良好に確保される。
【0015】一方、凹凸の大きい路の走行時、または急加速・急減速され、Gセンサ25により検出される加速度Gが設定値以上の大きい値になると、制御ユニット26から図2のように一定時間tだけONした制御信号が電磁弁33に出力する。そこで、高圧空気がエアシリンダ31に導入してレベリングバルブ17のレバー17a を高圧空気供給側に動作するようになり、これによりエアベローズ11に一時的に高圧空気が供給される。従って、この急加速時にはエアベローズ11の圧縮空気の量が多くなってエア・サスペンション10のばね定数が強制的に増大されるのであり、これに伴いキャブ1の変位が抑制されてボトミングが防止される。そして、一定時間tを経過すると、制御信号が図2のように再びOFFし電磁弁33によりエアシリンダ31がドレンされる。そのため、レベリングバルブ17においてエアベローズ11の圧縮空気を排出してレバー17a を水平位置に戻すように動作されることになり、こうしてエアベローズ11の圧縮空気が元の少ない状態、即ちばね定数の小さい状態に復帰する。
【0016】図3において、本発明の第2の実施例について説明する。この実施例はレベリングバルブ17の動作を一時的に停止して、エアベローズ11に高圧空気を供給するものである。そこで、電磁弁手段30として、レベリングバルブ17の下流側の空気通路18に開閉式の電磁弁35が設けられる。また、レベリングバルブ17と電磁弁35をバイパスして空気通路36が連通され、この空気通路36にも開閉式の電磁弁37が設けられる。そして、制御ユニット26からの制御信号がONすると、一方の電磁弁35は一定時間tだけ開から閉に動作し、他方の電磁弁37は逆に閉から開に動作するように構成されている。尚、これ以外の部分は図1と全く同一の構成であり、同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0017】次に、この実施例の作用を、図4のタイムチャートを参照して説明する。通常の走行時等では、図4R>4のように一方の電磁弁35が開き、レベリングバルブ17のレバー17a の位置によりサージタンク19を介してエアベローズ11に高圧空気が供給され、上述と同様にエア・キャブサスペンション10のばね定数が小さく設定される。そして、凹凸の大きい路の走行時、または急加速時・急減速時に制御ユニット26の制御信号がONすると、図4のように一定時間tだけ一方の電磁弁35が開から閉に動作することで、レベリングバルブ17の動作が停止する。このとき、他方の電磁弁37が閉から開に動作して、この電磁弁37を有する空気通路36により、高圧空気がエアベローズ11に強制的に供給されることになり、こうして凹凸の大きい路の走行時、または急加速時・急減速時に一時的にエアサスペンション10のばね定数が大きくなって、ボトミングが防止されることになる。また、一定時間tを経過すると、両電磁弁35,37が元に復帰してレベリングバルブ17による供給状態に戻り、これによりレベリングバルブ17でエアベローズ11の圧縮空気を排出して、エア・キャブサスペンション10がばね定数の小さい状態になる。
【0018】以上、本発明の実施例について説明したが、ティルト式キャブ以外の車体のエア・サスペンションにも同様に適応することができる。
【0019】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、車両のエア・サスペンションにおいて、凹凸の大きい路の走行時、または急加速・急減速時にはエアベローズの圧縮空気を増大して一時的にばね定数を大きくするように制御されるので、この走行条件でのボトミングを確実に防止して乗り心地を向上することができる。凹凸の大きい路の走行時、または急加速・急減速時には一定時間制御信号を出力して圧縮空気を増大するので、通常走行での乗り心地を損うことがない。
【0020】第1の実施例はレベリングバルブの機能を利用して圧縮空気を増大するように構成されるので、構造が簡単になって、動作性も良い。第2の実施例は2つの電磁弁を用いレベリングバルブと異なる経路により圧縮空気を増大するように構成されるので、設計の自由度が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のエア・キャブサスペンションの制御装置の第1の実施例を示す構成図である。
【図2】同実施例の車体加速度の大きい動作状態を示すタイムチャートである。
【図3】本発明の第2の実施例を示す構成図である。
【図4】同実施例の車体加速度の大きい動作状態を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
1 ティルト式キャブ
4 車輪側フレーム
10 エア・キャブサスペンション
11 エアベローズ
12 エアタンク
17 レベリンブバルブ
19 サージタンク
25 Gセンサ
26 制御ユニット
30 電磁弁手段
40 サスペンション

【特許請求の範囲】
【請求項1】 キャブとフレームとの間にエアベローズが介設され、高圧空気を貯えるエアタンクが、少なくともキャブ重量条件に応じて高圧空気を供給または排出するように動作するレベリングバルブ、サージタンクを介しエアベローズに連通して構成されるエア・キャブサスペンションにおいて、車体の加速度を検出するGセンサと、加速度が設定値以上の場合に一定時間だけ制御信号を出力する制御ユニットと、制御信号によりエアベローズの圧縮空気を一時的に増大して、ばね定数を大きく変化する電磁弁手段とを備えることを特徴とするエア・キャブサスペンションの制御装置。
【請求項2】 上記電磁弁手段は、レベリングバルブのレバーにエアシリンダが連結され、このエアシリンダに高圧空気を導入する空気通路に電磁弁が設けられ、制御信号により電磁弁を動作して一定時間レベリングバルブのレバーを高圧空気供給側に動作するように構成されることを特徴とする請求項1記載のエア・キャブサスペンションの制御装置。
【請求項3】 上記電磁弁手段は、レベリングバルブの下流側に電磁弁が設けられ、これらのレベリングバルブと電磁弁にバイパスする空気通路に他の電磁弁が設けられ、制御信号により両電磁弁を動作し、一定時間レベリングバルブの動作を停止してエアベローズに高圧空気を供給するように構成されることを特徴とする請求項1記載のエア・サスペンションの制御装置。
【請求項4】 上記エアベローズは、ティルト式キャブと、前輪を支持するフレームとの間に介設されることを特徴とする請求項1記載のエア・サスペンションの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平5−69860
【公開日】平成5年(1993)3月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−262896
【出願日】平成3年(1991)9月13日
【出願人】(000005463)日野自動車工業株式会社 (1,484)