説明

エキシマランプ

【課題】 放電容器にフッ素が取り込まれることを防止し、エキシマランプから放射される光出力の低下を抑えることができるエキシマランプを提供することを目的とする。
【解決手段】 ケイ素を含まない透光性セラミックスよりなる光取出し部材と、金属部材とを有し、当該光取出し部材と金属部材との間に溶加材が充填されて封止された放電容器を備え、前記光取出し部材が介在する状態で一対の電極が設けられると共に、放電空間内に希ガスおよびフッ化物が封入されてなり、前記放電容器の放電空間内においてエキシマ放電を発生させるエキシマランプであって、前記溶加材の放電容器の放電空間にさらされる表面にニッケル層が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマランプに関するものであり、特に、放電容器の内部にフッ素またはフッ化物が封入されているエキシマランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光化学反応用の紫外線光源としてエキシマランプが使用されており、放電空間を形成する放電容器内に適宜の発光ガスが充填され、エキシマ放電によりエキシマ分子を生成し、エキシマ分子から放射されるエキシマ光を放出するエキシマランプが知られている。
【0003】
このようなエキシマランプは、放電用ガスとしてアルゴン、クリプトンを使用するものであり、必要に応じてフッ素や塩素のハロゲンが封入されている。
例えば、アルゴン−フッ素の放電ガスでは波長193nmの光が放射され、クリプトン−フッ素の放電ガスでは波長248nmの光が放射され、キセノン−フッ素の放電ガスでは波長351nmの光が放射され、キセノン−塩素の放電ガスでは波長308nmの光が放射される。
【0004】
放電ガスとしてハロゲンを用いる場合、放電空間を形成する放電容器やその他の部材にハロゲンが取り込まれ、放電空間内に存在するハロゲン量が減少してエキシマ分子の生成量が減少し、エキシマランプから放射される光出力が低下する問題がある。
【0005】
図6は、特許3178162号公報に記載される従来のエキシマランプの構成を示す説明用一部断面図である。
放電容器は、筒状のサファイアガラスよりなる発光管101の両端を覆うようにチタン製キャップ102を配置し、フッ素樹脂系のOリング103で発光管101とキャップ102とを封止して構成されている。放電容器がOリング103によって気密封止されているので、外部と遮蔽された放電空間100が形成される。
発光管101の外表面に一対の外部電極104が離間して設けられている。放電空間100には発光ガスとしてキセノンと塩素が封入されており、外部電極104に高周波高電圧を印加することにより、放電空間100内に誘電体エキシマ放電によりエキシマが生成され、波長193nmのエキシマ光が放出される。
【0006】
発光管101を構成するサファイアガラスは塩素との反応性が低く、また、キャップ102を構成するチタンも塩素との反応性が低い。特許文献1には、放電容器100を塩素との反応性が低い部材により構成することによって、放電容器100にハロゲンが取り込まれることを防止し、ハロゲン量の減少によるエキシマランプから放射される光出力の低下を抑えることができることが記載されている。
【特許文献1】特許3178162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、放電容器100に封入される発光ガスとして、ハロゲンを塩素からフッ素に変更すると、フッ素は塩素に比べてさらに反応性が強いので、放電容器にフッ素が取り込まれる可能性が高まる。Oリング103を構成するフッ素樹脂には微量の不純物がふくまれているため、反応性の強いフッ素はこれら不純物がフッ素と反応し、Oリング103にフッ素が取り込まれてしまう。したがって、放電空間100内に存在するフッ素量の減少を完全に抑えることができない。特許文献1に記載のエキシマランプに封入される発光ガスとしてフッ素を選択すると、フッ素量の減少を原因とする、エキシマランプから放射される光出力の低下が発生する。
【0008】
フッ素樹脂系のOリングを用いて封止する以外にも、エポキシ樹脂や銀ロウ、ニッケル−銅−チタンの合金、さらには、ビスフェノールなどによって封止することも可能ではあるが、フッ素との反応を完全になくすことはできない。フッ素量が減少してしまうという問題はOリング以外を用いて封止する場合にも発生し、フッ素量の減少を原因としたエキシマランプから放射される光出力の低下が避けられない。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、放電容器にフッ素が取り込まれることを防止し、エキシマランプから放射される光出力の低下を抑えることができるエキシマランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願第1の発明は、ケイ素を含まない透光性セラミックスよりなる光取出し部材と、金属部材とを有し、当該光取出し部材と金属部材との間に溶加材が充填されて封止された放電容器を備え、前記光取出し部材が介在する状態で一対の電極が設けられると共に、放電空間内に希ガスおよびフッ化物が封入されてなり、前記放電容器の放電空間内においてエキシマ放電を発生させるエキシマランプであって、前記溶加材の放電容器の放電空間にさらされる表面にニッケル層が形成されていることを特徴とする。
また、本願第2の発明は、本願第1の発明において、前記金属部材はコバールよりなり、当該金属部材の放電容器の放電空間にさらされる表面にニッケル層が形成されていることを特徴とする。
また、本願第3の発明は、本願第1の発明において、前記金属部材はニッケルよりなることを特徴とする。
また、本願第4の発明は、本願第1乃至3のいずれかの発明において、前記光取出し部材は両端が開口した直管状の発光管よりなり、前記発光管の両端を覆うように、前記発光管の外径より大きい開口部径を有する底部と側面部からなる蓋部材よりなる金属部材が配置され、前記発光管の外表面と前記蓋部材の側面部との間に前記溶加材が充填されていることを特徴とする。
また、本願第5の発明は、本願第1乃至3のいずれかの発明において、前記光取出し部材は板状の窓部材よりなり、前記窓部材より大きい開口部を有する底面部と側部からなる基体部材よりなる金属部材を有し、前記窓部材は前記金属部材の開口部に配置され、前記基体部材の側部と前記窓部材の外端部との間に前記溶加材が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願第1の発明に係るエキシマランプによれば、溶加材の放電容器の放電空間にさらされる表面にニッケル層が形成されることにより、ニッケル層の表面にフッ化ニッケル(NiF)よりなる不動態の皮膜が形成されてフッ素が取り込まれることを防止することができる。ニッケル層を形成することによって溶加材によるフッ素の取り込みを抑え、放電容器内に存在するフッ素量を保ち、エキシマランプから放射される光出力がフッ素量に減少によって低下することを抑制することができる。
【0012】
また、本願第2の発明に係るエキシマランプによれば、金属部材をケイ素を含まない透光性セラミックスと膨張係数がほぼ等しいコバールにより形成することにより、透光性セラミックスより形成される発光管との膨張係数の差異を小さくすることができる。そのため、エキシマランプの点灯・消灯に伴って放電容器が加熱・冷却されても、発光管と蓋部材とが膨張収縮する長さが略等しくなるので放電容器が割れにくくすることができる。コバールはフッ素を取り込みやすい性質を有するが、金属部材の放電容器の放電空間にさらされる表面にニッケル層を形成することによって、フッ素が取り込まれることを防止することができる。
【0013】
また、本願第3の発明に係るエキシマランプによれば、金属部材をフッ素に腐食されにくいニッケルにより形成することにより、金属部材の放電容器の放電空間にさらされる表面にニッケル層を形成しなくても、フッ素が取り込まれることを防止することができる。
【0014】
また、本願第4の発明に係るエキシマランプによれば、光取出し部材である発光管と金属部材である蓋部材が溶加材を介して封止されるので、発光管と蓋部材とで熱膨張率が異なっていても膨張収縮を隙間によって許容できるので、放電容器が破裂しにくい。
また、本願第5の発明に係るエキシマランプによれば、光取出し部材である窓部材と金属部材である基体部材が溶加材を介して封止されるので、窓部材と基体部材とで熱膨張率が異なっていても膨張収縮を隙間によって許容できるので、放電容器が破裂しにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第1の実施形態について説明する。図1は、本発明のエキシマランプの構成を示す説明用断面図である。
エキシマランプの発光管1は、光取出し部材として機能し、平均厚みが0.3〜3mmの両端が開口した直管状で、ケイ素を含まない透光性セラミックスにより構成される。ケイ素を含まない透光性セラミックスとは、例えば、酸化アルミニウム(Al)を主成分とするサファイア(単結晶アルミナ)やアルミナ(多結晶アルミナ)、または、チタニア(TiO)、イットリア(Y)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化カルシウム(CaF)などであり、厚さ1mmの基板において波長193nmの光を30%以上透過する部材である。
【0016】
発光管1の長手方向における両端にカップ状の蓋部材2が配置される。蓋部材2の開口部径は発光管1の外径より大きくなっており、蓋部材2が発光管1の端部12を覆うようにして配置される。蓋部材2は、金属部材として機能し、例えば鉄(Fe)にニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を配合した合金のいわゆるコバールにより形成される。コバールはケイ素を含まない透光性セラミックスと膨張係数がほぼ等しい金属であり、サファイアやアルミナなどのケイ素を含まない透光性セラミックスより形成される発光管1との膨張係数の差異を小さくすることができる。ケイ素を含まない透光性セラミックスと膨張係数がほぼ等しい金属としては、コバールのほかにニオブ(Nb)などがある。蓋部材2をケイ素を含まない透光性セラミックスと膨張係数がほぼ等しい金属により形成することによって、エキシマランプの点灯・消灯に伴って放電容器が加熱・冷却されても、発光管1と蓋部材2とが膨張収縮する長さが略等しくなるので放電容器を割れにくくすることができる。
【0017】
発光管1と蓋部材2との間に、発光管1や蓋部材2よりも低い融点を持った金属の溶加材4が充填されて溶融することにより、光取出し部材として機能する発光管1と、金属部材である蓋部材2とが、封止されて放電容器が形成される。溶加材4の材料としては、例えば、銀と銅との合金(Ag−Cu合金)、銀と金と銅との合金(Ag−Au−Cu合金)、チタンと銅と銀との合金(Ti−Cu−Ag合金)、インジウムと銅と銀との合金(In−Cu−Ag合金)、インジウムと金との合金(In−Au合金)などの金属合金が挙げられる。エキシマランプの点灯時、溶加材4は紫外線が照射されると共に加熱されるため、耐紫外線性及び耐熱性を有するものでることが要求される。
【0018】
金属部材である蓋部材2には排気管3が設けられており、放電容器の内部が排気管3により排気されて減圧された後、発光ガスとして希ガスと化学的安定性の高いフッ化物が封入される。放電容器の放電空間10内に封入される発光ガスとして、アルゴン(Ar),クリプトン(Kr)又はキセノン(Xe)からなる希ガスと、六フッ化硫黄(SF)、四フッ化炭素(CF)又は三フッ化窒素(NF)からなるフッ化物とが挙げられる。発光ガスの封入後、排気管3を蓋部材2との付け根から3〜100mm突き出たところを終端として圧接切断されることにより、放電容器を密閉構造とする。
【0019】
発光管1の外面には、管軸方向に沿って延びるように一対の外部電極71が互いに離間して配置され、光取出し部材である発光管1が介在する状態で一対の外部電極71が設けられる。外部電極71は、例えば銅をペースト状にしたものを発光管1の外面に塗布して形成することができ、又、板状の例えばアルミニウムを接着剤などによって発光管1の外面に接着することもできる。一対の外部電極71間に電圧が印加されることにより、発光管1を介して外部電極71間で放電が発生する。
【0020】
希ガスがアルゴン(Ar)でフッ化物が六フッ化硫黄(SF)として発光ガスが放電空間10内に封入されている場合、アルゴンとフッ素の混合ガスが全圧で40kPa、このうちフッ素の割合は0.1%として封入する。フッ素をあまり多くすると、電子がフッ素に吸引されて負のイオンとなり放電が安定しないため、フッ素濃度を少なくしている。また、フッ素濃度を少なくしたことを補い、なるべく大量のエキシマ分子を作るために一定以上の圧力を必要とする。
【0021】
一対の外部電極71間に電圧が印加されると、アルゴンがエネルギーを得て電離されてアルゴンイオンとなり、六フッ化硫黄が解離してフッ素イオンとなり、アルゴンとフッ素が励起状態となる。励起状態に至ったアルゴンとフッ素が結合してアルゴン−フッ素からなるエキシマ分子に変化する。このように生成されたArFエキシマは脱励起することにより、波長193nmの真空紫外光を放射する。発光管1が光取出し部材として機能し、波長193nmの真空紫外光が発光管1から放電容器の外部に放出される。
【0022】
図2は、本発明のエキシマランプの発光管1と蓋部材2との接合部を示す拡大断面図である。
蓋部材2は、例えば平均厚みが2mmのコバールよりなる部材であり、直径φ10mmの円形の底部21の端部に高さ2〜10mmの筒状の側面部22の一端が接続されている。放電容器の放電空間10側の底部21と側面部22との接続部は滑らかなR形状となっている。底部21の中央部に直径φ1〜2mmの排気穴23が設けられ、排気穴23に続いて直径φ3mmのニッケルよりなる排気管3が取り付けられている。排気穴23の中間に段差24が設けられており、発光管側の排気穴開口径25が排気管側の排気穴開口径26より小さくなっている。排気管3の内径は蓋部材2の発光管側の排気穴開口径25に比べてわずかに大きいが略同程度の大きさであり、排気管3の外径は蓋部材2の排気管側の排気穴開口径26より大きくなっている。排気管3の蓋部材2に嵌合される先端31は薄肉になっており、排気穴23の段差24に当接できるようになっている。蓋部材2と排気管3の継ぎ目に放電容器の外側から、ロウ材6を注入して、蓋部材2に排気管3を固定している。
【0023】
蓋部材2の開口部径Rは、発光管1の外径rより0.1〜1mm大きくなっているので、発光管1を蓋部材2の開口部に余裕をもって挿入することができる。溶加材4がセラミックスに溶着しない性質を有するので、発光管1と溶加材4とのなじみを良くするために、発光管1の外表面において端部12から5mmまでの範囲にモリブデンおよびニッケルよりなるメタライズ層11が形成されている。発光管1のメタライズ層11と蓋部材2の側面部22との間に隙間が埋まるように溶加材4が充填される。発光管1と蓋部材2との間に隙間が残るとフッ素などの発光ガスが漏れ出して減少してしまうので、溶加材4は蓋部材2の開口部を埋める程度にまで十分に充填される。溶加材4が発光管1と蓋部材2との緩衝材となり、発光管1と蓋部材2の膨張伸縮によって生じるズレを許容し、ズレによって生じる隙間も塞いで放電容器の気密性を保つことができる。
【0024】
蓋部材2の底部21と発光管1の端部12とは、0.1〜1mm離間して配置されている。また、上記するように蓋部材2の側面部22と発光管1の外表面に形成されたメタライズ層11との間も0.1〜1mm離間して配置され、溶加材4を介して封止されている。このように発光管1と蓋部材2とが離間しているので、発光管1と蓋部材2とで熱膨張率が異なっていても膨張収縮を隙間によって許容できるので、放電容器が破裂しにくい。
蓋部材2の底部21と発光管1の端部12とが離間する箇所において、溶加材4が放電容器の放電空間10に露出する。溶加材4の露出面41は一方がメタライズ層11の端部につながり、他方が蓋部材2の底部21につながり、溶加材4自体の表面張力により露出面41が弓状に湾曲している。溶加材4の充填量が増えると、露出面41の一方がメタライズ層11の端部につながる位置は変わらないが、露出面41の他方がつながる蓋部材2の底部21の位置は排気穴23側に移動する。
【0025】
エキシマランプの放電によって放電容器の放電空間10に発生するフッ素イオンは酸化力が強く、ほとんど全ての元素と反応する。したがって、フッ素が取り込まれないように放電容器の放電空間10を形成することが必要である。ケイ素はフッ素イオンによって酸化されやすいため、ケイ素を含むセラミックスはフッ素との反応性が高い。そのため、発光管1を、波長193nmの真空紫外光を透過しつつ、フッ素との反応性が低い性質を有するケイ素を含まない透光性セラミックスにより構成することによって、発光管1によるフッ素の取り込みを防止するとともに、発光管1から波長193nmの真空紫外光を外部に放射することができる。
【0026】
また、ニッケルは、表面にフッ化ニッケル(NiF)など、不動態の皮膜を形成するので比較的フッ素に腐食され難い。そのため、ニッケルより構成される排気管3はフッ素を取り込まれにくい。しかし、蓋部材2を構成するコバールや、溶加材4を構成する銀と銅との合金は、フッ素を取り込んでしまう。そこで、蓋部材2、溶加材4およびメタライズ層11の放電容器の放電空間10にさらされる表面に、約5μmの均一な膜厚のニッケル層5を形成している。
【0027】
コバールよりなる蓋部材2や、銀と銅との合金からなる溶加材4や、モリブデンおよびニッケルよりなるメタライズ層11を、ニッケル層5によって表面を被覆することにより、ニッケル層5の表面にフッ化ニッケル(NiF)よりなる不動態の皮膜が形成されてフッ素が取り込まれることを防止することができる。ニッケル層5を形成することによって蓋部材2、溶加材4およびメタライズ層11によるフッ素の取り込みを抑え、放電容器内に存在するフッ素量を保ち、エキシマランプから放射される光出力がフッ素量に減少によって低下することを抑制することができる。
なお、図2に示すように、蓋部材2、溶加材4およびメタライズ層11の放電容器の放電空間10にさらされる表面だけでなく、ニッケルが付着しにくいセラミックスよりなる発光管1以外の部分の放電容器の全表面にニッケル層5を被覆すれば、後述するように容易にニッケル層5を形成することができる。
【0028】
次に、ニッケル層5の具体的な形成方法の一例を説明する。
発光管1と蓋部材2を溶加材4で密着封止して放電容器を形成した後で、放電容器の放電空間10に発光ガスが封入される前に、片方ずつ放電容器の端部にニッケル層5を形成する。まず、溶加材4の表面をアルカリ脱脂、水洗後、さらに酸洗、水洗を行って清浄化し、封止部の表面に欠陥なくニッケル層5が形成されるように準備する。一方の放電容器の端部を硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸が混合されたメッキ液に浸漬して、無電解ニッケルメッキ処理を施す。無電解ニッケルメッキ処理は化学的還元作用によりニッケルを析出させる方法であり、複雑な形状に対しても均一なニッケル皮膜が得られるという特徴を有する。
【0029】
放電容器の端部をメッキ液に浸漬すると、排気管3から放電容器の放電空間10にもメッキ液が侵入するので、放電容器の外表面だけでなく、放電容器の内表面もメッキ液に覆われることになる。90℃のメッキ液に20分浸漬すると、発光管1以外の部材、すなわち、蓋部材2、溶加材4およびメタライズ層11の表面に、約5μmの均一な膜厚のニッケル層5が形成される。ニッケルは発光管1を構成するセラミックスには析出しない性質を有するので、発光管1にはニッケル層5が形成されない。発光管1がニッケルによって遮光されることはなく、光取出し部材としての機能は妨げられない。
他方の放電容器の端部も同様にしてニッケル層5が形成される。
【0030】
放電容器の内部に残留するメッキ液の残渣を洗浄除去した後、一方の排気管3を圧接切断する。他方の排気管3から放電容器の内部が排気されて減圧された後、発光ガスとして希ガスと化学的安定性の高いフッ化物が封入される。その後、他方の排気管3を圧接切断してエキシマランプが完成する。
【0031】
続いて、本発明の第1の実施形態の変形例について説明する。図3は、本発明のエキシマランプの発光管1と蓋部材2との接合部を示す拡大断面図である。
上記するように、放電容器の内部を排気して発光ガスを封入するために排気管3が必要となるが、一方の排気管3は排気前に圧接切断されており、他方の蓋部材2にさえ排気管3が設けられればその機能を果たす。したがって、一方の蓋部材2には排気管3がなく、他方の蓋部材2にだけ排気管3を設けて放電容器を形成することもできる。図3は、排気管3が設けられていない一方の蓋部材2を示す拡大断面図である。
【0032】
蓋部材2は平均厚みが1mmのフッ素に腐食されにくいニッケルよりなる部材であり、円形の底部21の端部に筒状の側面部22の一端が接続されている。放電容器の放電空間10側の底部21と側面部22との接続部は滑らかなR形状となっている。フッ素に腐食されにくい金属としては、ニッケルのほかにニッケルと銅との合金(Ni−Cu合金)などがある。
発光管1はケイ素を含まない透光性セラミックスよりなり、発光管1の外表面において端部から10mmまでの範囲にモリブデンおよびニッケルよりなるメタライズ層11が形成されている。発光管1の端部が蓋部材2の開口部に余裕をもって挿入され、蓋部材2の底部21と発光管1の端部とが離間するように配置されている。発光管1のメタライズ層11と蓋部材2の側面部22との間の隙間が埋まるように溶加材4が充填されている。
【0033】
ケイ素を含まない透光性セラミックスよりなる発光管1だけでなく、蓋部材2をニッケルより構成することによって、蓋部材2にもフッ素が取り込まれない。蓋部材2をフッ素に腐食されにくいニッケルにより形成することにより、蓋部材2の放電容器の放電空間10にさらされる表面にニッケル層5を形成しなくても、フッ素が取り込まれることを防止することができる。
【0034】
しかしながら、溶加材4を構成する金属合金は、依然としてフッ素を取り込む恐れがある。そこで、溶加材4およびメタライズ層11の放電容器の放電空間10にさらされる表面に、約5μmの均一な膜厚のニッケル層5を形成している。銀と銅との合金からなる溶加材4や、モリブデンおよびニッケルよりなるメタライズ層11を、ニッケル層5によって表面を被覆することにより、ニッケル層5の表面にフッ化ニッケル(NiF)よりなる不動態の皮膜が形成されてフッ素が取り込まれることを防止することができる。ニッケル層5を形成することによって溶加材4およびメタライズ層11によるフッ素の取り込みを抑え、放電容器内に存在するフッ素量を保ち、エキシマランプから放射される光出力の低下を抑えることができる。
【0035】
蓋部材2の底部21には排気穴が設けられておらず、排気管3も取り付けられていないため、放電容器の端部をメッキ液に浸漬しても、放電容器の放電空間10にメッキ液が入っていかない。そのため、無電解ニッケルメッキ処理によっては、溶加材4およびメタライズ層11の放電容器の放電空間10にさらされる表面にニッケル層5を形成することができない。そこで、以下に示す電気ニッケルメッキ処理を行う。
【0036】
排気管3が取り付けられていない一方の蓋部材2だけが発光管1に取り付けられていて、排気管3が取り付けられている他方の蓋部材2が取り付けられていない状態で、放電容器をニッケルイオンを含む水溶液中に浸す。放電容器の放電空間10にニッケル板を挿入し、溶加材4を陰極として、ニッケル板を陽極として直流電流を流す。ニッケル板の陽極側では酸化反応が起こり、ニッケルは電子を放出してニッケルイオンとなる。一方、溶加材4の陰極側では還元反応が起こり、溶液中のニッケルイオンが電子を受け取り金属ニッケルとなる。還元反応は陰極である溶加材4の放電空間10にさらされる表面の周りで起こるので、生じた金属ニッケルが溶加材4の表面に析出してニッケル層5となる。
【0037】
排気管3が取り付けられていない一方の蓋部材2を発光管1に取り付け、電気ニッケルメッキ処理を行った後に、排気管が形成されている他方の蓋部材を発光管1にとりつけ、無電解ニッケルメッキ処理をすることになる。他方の蓋部材から放電容器の内部が排気されて減圧された後、発光ガスとして希ガスと化学的安定性の高いフッ化物が封入される。その後、排気管を圧接切断してエキシマランプが完成する。
【0038】
本発明の第2の実施形態について説明する。図4は、本発明のエキシマランプの構成を示す説明用断面図である。
第2の実施形態に係るエキシマランプは、円形の板状のケイ素を含まない透光性セラミックスよりなる窓部材8よりなる光取出し部材と、円形の底面部91の端部に側部92が形成されたキャップ状のコバールよりなる基体部材9よりなる金属部材とを有する放電容器を備える。開口部Pは窓部材8より大きくなっているので、窓部材8を基体部材9の開口部Pの内側に配置して、基体部材9の側部92と窓部材8の外端部83を溶加材4により封止して中空円盤状の放電容器が構成される。
【0039】
基体部材9は、開口部Pを有するキャップ状の部材であり、例えば直径φ50mmで平均厚みが5mmの円形の底面部91の端部に、高さ10〜20mmの筒状の側部92の一端が接続されている。側部92の放電空間10側の側面は、中間に段差が設けられており、基体部材9の側部92の開口部P側が薄肉になっている。基体部材9の開口面積は、開口部Pの表面積であり、つまり、薄肉部94の内側面を直径とする円の面積である。側部92は、厚みが1mmの薄肉部94と、厚みが3mmの厚肉部95から構成され、薄肉部94と厚肉部95をつなぐ厚肉部95の上面が平面部96となっている。平面部96は、底面部91に平行でリング状の表面となっている。
【0040】
光取出し部材として機能する窓部材8は、例えば直径φ40mmで平均厚みが1mmの円形の板状部材であり、開口部Pの表面積が窓部材の表面積より大きくなるように構成される。このように、窓部材8が基体部材の開口部Pより小さくなっているので、窓部材8は基体部材9の開口部Pの内側に配置されことになる。光取出し部材である窓部材8の外端部83と、金属部材である基体部材9の側部92との間に、窓部材8や基体部材9よりも低い融点を持った金属の溶加材4が充填されて溶融することにより封止されて放電容器が形成される。
【0041】
金属部材である基体部材9の側部92には直径φ1〜2mmの排気穴97が1つ設けられ、ニッケルよりなり直径φ3mmの排気管3が排気穴97に接続されている。放電容器の放電空間10内が排気管3により排気されて減圧された後、発光ガスとして希ガスと化学的安定性の高いフッ化物が封入される。発光ガスの封入後、排気管3を基体部材9との付け根から15mm突き出たところを終端として圧接切断されることにより、放電容器を密閉構造とする。
【0042】
窓部材8の外面には光を透過するためのメッシュ状の一方の電極72が配置されており、基体部材9が他方の電極73を兼ねており、光取出し部材である窓部材8が介在する状態で一対の電極72、73が設けられる。一方の電極72と他方の電極73である基体部材9とに高周波高電圧を印加することにより、放電容器の放電空間10に希ガスとフッ素からなるエキシマ分子が生成され、波長193nmの真空紫外光が放射される。
【0043】
図5は、本発明のエキシマランプの基体部材9と排気管3との接続部を示す拡大断面図である。
放電容器の中央部を中心とすると、基体部材9の側部92の薄肉部94の内側面の直径はφ40.2mmであり、窓部材8の外端部83の直径はφ40mmである。薄肉部94の内側面の直径が窓部材8の外端部83の直径より0.2mm大きくなっており、開口部Pは窓部材8より大きいので、窓部材8は蓋部材2の側部92の薄肉部94との間に余裕をもって配置されている。窓部材8の外端部83に、幅1mmの円周帯状にメタライズ層82が形成されている。基体部材9の側部92と窓部材8の外端部83との隙間に溶加材4が充填されて密着封止されている。
【0044】
基体部材9の側部92の平面部96と、窓部材8の下表面81とは離間するように形成されている。基体部材9の平面部96を研磨された滑らかな面とせず、適度な粗さの表面仕上げにすることにより、平面部96に窓部材8を載置しても密接しない。そのため、窓部材8と薄肉部94との間に溶加材4を充填すると、窓部材8のメタライズ層82に溶着する溶加材4が下面側81に回り込む。溶加材4が下表面81と平面部96とのスペーサーとして機能し、基体部材9の平面部96と窓部材8の下表面81とが離間するように保つ。
【0045】
窓部材8は、外端部83において基体部材9の側部92との間に溶加材4が充填されて封止されているので、溶加材4が窓部材8と基体部材9との緩衝材となり、窓部材8と基体部材9の膨張伸縮によって生じるズレを許容し、ズレによって生じる隙間も塞いで放電容器の気密性を保つことができる。また、基体部材9の平面部96と離間するように配置されているので、基体部材9と間に密接する箇所がない。このように、窓部材8と基体部材9が離間して配置され、溶加材4を介して封止されるので、窓部材8と基体部材9とで熱膨張率が異なっていても膨張収縮を許容できるので、放電容器が破裂しにくい。
【0046】
ケイ素を含まない透光性セラミックスよりなる窓部材8はフッ素を取り込まないが、基体部材9を構成するコバールや溶加材4を構成する金属合金はフッ素を取り込む恐れがある。そこで、基体部材9、溶加材4およびメタライズ層82の放電容器の放電空間10にさらされる表面に、約5μmの均一な膜厚のニッケル層5を形成している。コバールよりなる基体部材9や、銀と銅との合金からなる溶加材4や、モリブデンおよびニッケルよりなるメタライズ層82を、ニッケル層5によって表面を被覆することにより、ニッケル層5の表面にフッ化ニッケル(NiF)よりなる不動態の皮膜が形成されてフッ素が取り込まれることを防止することができる。ニッケル層5を形成することによって基体部材9、溶加材4およびメタライズ層82によるフッ素の取り込みを抑え、放電容器内に存在するフッ素量を保ち、エキシマランプから放射される光出力がフッ素量に減少によって低下することを抑制することができる。
【0047】
次に、ニッケル層5の具体的な形成方法の一例を説明する。
基体部材9と窓部材8とを溶加材4で密着封止して放電容器を形成した後で、放電容器の内部に発光ガスが封入される前にニッケル層5を形成する。放電容器の放電空間10をメッキ液で満たして、無電解ニッケルメッキ処理を施す。無電解ニッケルメッキ処理は化学的還元作用によりニッケルを析出させる方法であり、複雑な形状に対しても均一なニッケル皮膜が得られるという特徴を有する。
【0048】
90℃のメッキ液に20分浸漬すると、窓部材8を構成するセラミックスにはニッケルを析出しない性質を有するので、窓部材8以外の部材、すなわち、基体部材9、溶加材4およびメタライズ層82の表面に、約5μmの均一な膜厚のニッケル層5が形成される。
放電容器の内部に残留するメッキ液の残渣を洗浄除去した後、排気管3から放電容器の内部が排気されて減圧された後、発光ガスとして希ガスと化学的安定性の高いフッ化物が封入される。その後、他方の排気管3を圧接切断してエキシマランプが完成する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のエキシマランプの構成を示す説明用断面図
【図2】本発明のエキシマランプの発光管と蓋部材との接合部を示す拡大断面図
【図3】本発明のエキシマランプの発光管と蓋部材との接合部を示す拡大断面図
【図4】本発明のエキシマランプの構成を示す説明用断面図
【図5】本発明のエキシマランプの基体部材と排気管との接続部を示す拡大断面図
【図6】従来のエキシマランプの構成を示す説明断面図
【符号の説明】
【0050】
1 発光管
2 蓋部材
3 排気管
4 溶加材
5 ニッケル層
8 窓部材
9 基体部材
10 放電空間
11 メタライズ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素を含まない透光性セラミックスよりなる光取出し部材と、金属部材とを有し、当該光取出し部材と金属部材との間に溶加材が充填されて封止された放電容器を備え、前記光取出し部材が介在する状態で一対の電極が設けられると共に、放電空間内に希ガスおよびフッ化物が封入されてなり、前記放電容器の放電空間内においてエキシマ放電を発生させるエキシマランプであって、
前記溶加材の放電容器の放電空間にさらされる表面にニッケル層が形成されていることを特徴とするエキシマランプ。
【請求項2】
前記金属部材はコバールよりなり、当該金属部材の放電容器の放電空間にさらされる表面にニッケル層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項3】
前記金属部材はニッケルよりなることを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項4】
前記光取出し部材は両端が開口した直管状の発光管よりなり、
前記発光管の両端を覆うように、前記発光管の外径より大きい開口部径を有する底部と側面部からなる蓋部材よりなる金属部材が配置され、
前記発光管の外表面と前記蓋部材の側面部との間に前記溶加材が充填されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエキシマランプ。
【請求項5】
前記光取出し部材は板状の窓部材よりなり、
前記窓部材より大きい開口部を有する底面部と側部からなる基体部材よりなる金属部材を有し、
前記窓部材は前記金属部材の開口部に配置され、
前記基体部材の側部と前記窓部材の外端部との間に前記溶加材が充填されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエキシマランプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate