説明

エキシマランプ

【課題】透光性セラミックからなる発光管の両端部に金属ロウ材を用いて金属キャップが溶着され、該発光管内に希ガス及びフッ素が封入され、該発光管の外面には一対の外部電極が配設されてなるエキシマランプにおいて、点灯時間の経過によって発光管内のフッ素が減少して発光強度が減少していくことを抑制することができる構造を提供することにある。
【解決手段】前記金属キャップおよび前記金属ロウ材の表面に酸化物層が形成されとともに、該酸化物層の表面にフッ化物層が形成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマランプに関するものであり、特に、発光管内に希ガスとフッ素を封入してエキシマ光を放射するエキシマランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体集積回路において、高集積回路部分を作製する露光用光源として、アルゴンフッ素(ArF)エキシマレーザが広く利用されている。
しかし、ArFエキシマレーザを用いて半導体ウエハの露光を行なう場合、該ArFエキシマレーザのビーム径は小さく、照射面積が非常に狭くなり、1枚の半導体ウエハを露光する露光時間が長くなるといった問題があった。
一方、最近では、上記ArFエキシマレーザと同様にArFエキシマ分子からのエキシマ光を放射するエキシマランプの開発が進められている。このような従来の技術としては、例えば、特開2009−266704号公報(特許文献1)等が知られている。
この特許文献1には、放電容器の内部に種々の放電ガスを封入することにより、所望の波長の光が得られることが記載されており、Arとフッ素を封入することにより、発光波長180nm〜200nmの光が放射されることが記載されている。このエキシマランプでは、広い面積に対して一括照射が可能であり、照射装置自身も小型の設備にできるといった利点がある。
【0003】
図5に上記従来のArFエキシマランプの全体構造が示されており、(A)は管軸方向の側断面図であり、(B)はその横断面図である。
このエキシマランプ1は、円筒状のサファイア(Al)管からなる発光管2を有し、その外表面には一対の外部電極3、3が設けられており、また、その両端部には、金属キャップ4がロウ材5によって溶着されている。該金属キャップ4の一方には、排気管部6が形成されている。
そして、前記発光管2の両端部には、金属キャップ4の溶着を容易にすべくメタライズ層7が形成されている。
前記金属キャップ4は、例えば、ニッケル(Ni)で構成されており、該発光管2に封入されたフッ素(F)を含むガスによる影響が無く、Fを吸着する率も非常に低い、といった特徴を有している。
また、ロウ材5としては、例えば、銀銅合金(Ag−Cu合金)を使用している。
【0004】
ところで、この種エキシマランプでは、点灯中に発光管内部に封入したフッ素が発光管や金属キャップに吸着されて減少してしまい、十分な発光強度が得られなくなるという不具合を防止するために、それらの内表面を予めフッ化処理しておくことが行われている。
ところが、前記従来技術においては、図6(A)に示すように、発光管11と金属キャップ4の溶着に当たっては、ロウ材5を両者の間に挟み、これを加熱溶融させて溶着するものであるが、(B)に示すように、加熱により溶融したロウ材5は、発光管2と金属キャップ4の間から該キャップ4の内表面にまで流出していき、この流出部分5aが放電空間に曝されることになる。
そして、当該流出部分5aがフッ素と反応して該フッ素を吸着してしまうという不具合があった。
【0005】
前記したフッ化処理によって、図7に示すように、金属キャップ4上のロウ材5(5a)の表面にはロウ材フッ化物層10が形成されることが期待されているが、当該処理によってもなおフッ素が減少するという不具合は改善されないということが判明した。
そこで、その理由を調査すべく、ロウ材5の表面に形成したフッ化物層10を走査電子顕微鏡(SEM)で観察してみたところ、その表面には均一なフッ化物層が形成されていないことを発見した。
すなわち、ロウ材5の表面ではフッ化物層10がまばらに形成されてしまい、フッ化物が存在しない空孔が島状に形成されることにより、このフッ化物層が形成されていない空孔部分と、封入したフッ素とが反応し、フッ素量が減少しているものであると推測された。
なお、この減少する分を見込んで発光管内に予めフッ素を多めに封入すると、このフッ素ガスが電離により生じた電子を高い確率で捕獲するため、放電の形成を抑制してしまうことにより、発光効率が低下するという問題があって、解決策とはなりえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−266704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、透光性セラミックからなる発光管の両端部に金属ロウ材を用いて金属キャップが溶着され、該発光管内に希ガス及びフッ素が封入され、該発光管の外面には一対の外部電極が配設されてなるエキシマランプにおいて、発光管内に封入したフッ素が吸着されて減少することを防止して、長時間にわたって安定した照度が保てるようにした構造を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係るエキシマランプは、前記金属キャップおよび前記金属ロウ材の表面に酸化物層が形成されとともに、該酸化物層の表面にフッ化物層が形成されてなることを特徴とする。
また、前記金属キャップがニッケルからなり、前記金属ロウ材が金―ニッケル合金であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属キャップおよび金属ロウ材の表面に酸化物層を形成し、その表面にフッ化層を形成するようにしたので、特に、ロウ材の表面にフッ化物層を密に被覆することができて、ロウ材が発光管内のフッ素と反応することがなく、その吸着がないので、長時間にわたって安定した照度を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のエキシマランプの要部の断面図で、従来技術を示す図5に 対応した拡大断面図。
【図2】フッ化物層の形成プロセスの説明図。
【図3】本発明の処理工程の説明図。
【図4】本発明の実験結果を表すグラフ。
【図5】従来技術の側断面図と横断面図。
【図6】図5のA部の拡大断面図。
【図7】図6のB部の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の部分拡大図であり、従来技術を示す図5のA部の更にB部部分拡大図を示す、図7に相当する図であり、金属キャップ4上の金属ロウ材5の表面にロウ材酸化物層11が形成され、更に、その表面にロウ材フッ化物層10が形成されているものである。
具体的な一例として、金属キャップ4はニッケル(Ni)で構成され、金属ロウ材5は、金ニッケル合金(Au−Ni合金)で構成される。
【0012】
図2は、上記金属キャップ4における積層構造とその形成プロセスを、本発明と従来技術との対比で示す説明図である。
初めに、従来技術においては、金属キャップ(Ni)4上のロウ材(Au−Ni)5の表面上に、表面フッ化処理によってロウ材フッ化物層(AuF3−NiF2)10が形成される。
これに対して、本発明では、金属キャップ(Ni)4上のロウ材(Au−Ni)5の表面上に、表面酸化処理によってロウ材酸化物層(Au−NiO)11を形成し、その上に表面フッ化処理によってロウ材フッ化物層(AuF3−NiF2)10が形成されている。
【0013】
図3にランプの作成工程が示されている。
<ロウ材の表面酸化処理(A)>
発光管11内に大気が封入されている状態で、排気管6を封じる。
この発光管2を電気炉に入れ、大気中で50分間、温度580℃で加熱する。発光管内の酸素とロウ材とが反応してロウ材が酸化し、ロウ材の表面に金属酸化物(具体的には酸化ニッケルNiO)層が形成される。
<大気(酸素)排気(B)>
次いで、排気管6を開放して発光管内を排気する。
<フッ化処理(C)>
排気管6を排気設備に接続して発光管内を真空にした後、5%のフッ素(F2)と、95%のヘリウム(He)混合ガスを30kPa封入し、排気管2を封止する。
これを再び電気炉に入れて、大気中で50分間、温度580℃で加熱する。
この時、発光管内の金属酸化物層の表面に、金属フッ化物層が形成される。
<ガス排気(D)>
排気管6を開放して発光管2内のガスを排気する。
<発光ガス封入(E)>
排気管6を排気設備に接続して発光管2内を真空にした後、発光ガスとして希ガスおよびフッ素を封入し、排気管を封止する。
【0014】
図4に本発明の効果を実証するための実験を行った結果を示す。
本発明は、フッ化処理の前に酸化処理を施したものであり、従来例は酸化処理を施さずに、単にフッ化処理したものである。
点灯寿命は、ArFエキシマランプを連続点灯し、一定時間経過ごとに波長193nmの照度を測定することによる照度維持率の変化にて評価した。照度維持率は、点灯開始時の照度を1として百分率にて表した数値である。
酸化物層なし(従来例)では、65時間経過した時点で照度維持率が60%と著しく低下し、90時間経過時には26%まで落ち込んだ。
これに対して、酸化物層あり(本発明)では、65時間経過した時点でも照度維持率は、87%と高く、90時間経過時でも81%と維持率が高かった。そのまま試験を続行し、250時間経過しても30%と、酸化物層なしのランプよりも照度が高かった。
【0015】
以上の実験結果より、詳細は必ずしも明らかではないが、以下のように現象と思われる。
従来例にかかるランプで照度が著しく低下したことから、ロウ材の表面に酸化物層を形成せずに直接フッ化物層を形成すると、フッ化物層が表面全面に均一に形成できず、島状の空孔が発生した状態でランプが製造されたものと考えられる。これは、先に記述したように、その表面の走査電子顕微鏡(SEM)による観察の結果と一致する。
これにより、点灯によってその空孔部分で露出したロウ材と内部に封入したフッ素ガスとが反応して、フッ素が減少することにより、発光量が減少し、照度低下につながったものと考えられる。
一方、本発明では、ロウ材の表面を酸化物層が覆うことにより、フッ化物層が酸化物層を下地として均一にその表面に形成されることにより、島状の空孔を生じなかったと考えられる。これにより、点灯時にもロウ材とフッ素が反応しにくく、フッ素の量が減少しなかったので、照度低下が抑制されたである。
【0016】
以上のように、本発明のエキシマランプでは、発光管端部を封止する金属キャップおよび金属ロウ材の表面に酸化物層を形成するとともに、該酸化物層の表面にフッ化物層を形成したことにより、フッ化物層がその表面上に万遍なく形成されて、金属キャップや金属ロウ材などの下地が直接発光空間に露出することがなく、発光ガスとしてのフッ素が反応して減少することが防止され、長時間にわたって発光強度が低下することがないものである。
【符号の説明】
【0017】
1 エキシマランプ
2 発光管
3 外部電極
4 金属キャップ
5 金属ロウ材
6 排気管
7 メタライズ層
10 ロウ材フッ化物層
11 ロウ材酸化物層




【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性セラミックからなる発光管の両端部に金属ロウ材を用いて金属キャップが溶着され、該発光管内に希ガス及びフッ素が封入され、該発光管の外面には一対の外部電極が配設されてなるエキシマランプにおいて、
前記金属キャップおよび前記金属ロウ材の表面に酸化物層が形成されとともに、該酸化物層の表面にフッ化物層が形成されてなることを特徴とするエキシマランプ。
【請求項2】
前記金属キャップがニッケルからなり、前記金属ロウ材が金−ニッケル合金であることを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。





【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate