説明

エキソヌクレアーゼが介する置換型二本鎖増幅法

【目的】本発明は核酸標的物の増幅法に関する。
【構成】単一温度において操作し、合成された鎖のプライマー部分を消化するエキソヌクレアーゼをポリメラーゼと共に使用して、該ポリメラーゼが標的鎖を消化することなく、プライマーが消化された鎖を外して、かつ、その間に新たな合成鎖を生じさせるように核酸標的物の増幅を実施する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、標的核酸配列の増幅法に関し、特定すればエキソヌクレアーゼを介する置換型二本鎖増幅法に関する。
【0002】
【従来の技術】核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)のいずれかの形態である。DNAおよびRNAは、多数のヌクレオチド骨格から形成される高分子量ポリマーである。各ヌクレオチドは塩基(プリンまたはピリミジン)、糖(リボースまたはデオキシリボース)およびリン酸分子からなる。DNAは、糖デオキシリボースおよび塩基アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)およびチミン(T)からなる。
【0003】核酸は直鎖状に連結されて遺伝子コードを構成する。3つのヌクレオチド各々の配列は、翻訳の過程において一つのアミノ酸のためのコードとして読まれうる。(DNAは転写の過程においてRNAに変換される。)それぞれの3つの塩基配列内の塩基の組み合わせを変えることにより、別のアミノ酸がコードされる。さまざまな3つの塩基配列の連結により、アミノ酸配列は蛋白質を構成できる。一つの蛋白質の完全なコードユニットは遺伝子と呼ばれる。ひとつまたは複数の遺伝子コピーが一つの生物内に存在しうる。幾つかの遺伝子は数百から数千コピー存在する。他の遺伝子は通常単一コピーで存在する。
【0004】コピー数にかかわらず、遺伝子は一つの生物内で連結されて、高等生物においては染色体と呼ばれるより高度な構造単位が構成される。幾つかの下等生物においては、プラスミドと呼ばれる染色体外ユニットの遺伝子が存在する。遺伝子は互いに直接末端同士で連結される必要はない。特定の非コード領域(即ちアミノ酸に翻訳されない塩基配列)が遺伝子間または遺伝子内において存在する。即ち、特定の生物のヌクレオチド配列はゲノムと呼ばれるその生物の遺伝子構造を決定する。(したがって、ひとつの生物から単離されたDNAはゲノミックDNAと呼ばれる。)
【0005】ほとんどの生物のDNAは、二本鎖の形で形成されており、DNAの二本の鎖は、接近した二重らせんにより対になっている。このモデルにおいて、対合している鎖同士はAとTおよびCとGの間で水素結合を形成している。即ち、一方の鎖の配列がATCG(5’→3’)であれば相補鎖はTAGC(3’→5’)となる。しかしながら、両方の鎖は相補的な塩基対合様式においてのみ同じ遺伝子コードを含む。したがって、いずれかのDNA鎖が読めれば、コードしている方の遺伝子配列が決定される。
【0006】核酸の配列、構造および機能のさらなる記述はワトソン(Watson)、Molecular Biology of the Gene、ベンジャミン(W.J. Bennjamin)、Inc.(第3版、1977年)の特に6章−14章を参照せよ。
【0007】試料中に存在する核酸の遺伝子配列の理解および決定は、多くの理由から重要である。第一に、多くの疾患は正常な遺伝子のヌクレオチド配列が幾つかの様式により変化を受けるという意味において遺伝的なものである。そのような変化は、ひとつの塩基が別の塩基に置換されることにより生じる。3つの塩基が一つのアミノ酸を供給するので、一つの塩基の変化(点突然変異とよばれる)が一つのアミノ酸の変更をもたらし、正常な蛋白質の代わりに欠損蛋白質が細胞内で作られる。鎌形赤血球貧血症は、一つの遺伝子内の一つの塩基の変化により引き起こされる、そのような遺伝的欠損の古典的な例である。一つの遺伝子の欠損により引き起こされる疾患の例は、第IX因子欠損および第VIII因子欠損、アデノシンデアミナーゼ欠損、プリンヌクレオチドホスホリラーゼ欠損、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損、アルギニンスクシネートシンターゼ欠損、ベータサラセミア、α1抗トリプシン欠損、グルコセレブロシダーゼ欠損、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ欠損およびヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損を含む。さらに他の疾患、例えば癌は、活性化、転座、転移、コピー数の増加および/またはオンコジーンと呼ばれる、ゲノム内に存在することが知られている遺伝子のサプレッションの除去により引き起こされると信じられている。特定の癌について明らかであると信じられているオンコジーンの例は、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫および小細胞肺癌のN−mycおよび慢性骨髄性白血病のc−ablを含む。癌の診断に関するオンコジーンの関連記述および特定のオンコジーンのリストはワインバーグ(Weinberg)、Sci.Amer.,1983年11月、スラモン(Slamon)ら、Science,224:256(1984)、米国特許第4,699,877号および第4,918,162号を参照せよ。
【0008】第二に、核酸の配列の変化に加えて、構造的なレベルで生じる遺伝的な変化がある。そのような変化は、挿入、欠失および染色体内の転座を含み、また染色体数の増加または減少を含む。前者の例として、そのような変化は交さと呼ばれる現象によりもたらされ、一つの染色体DNAの鎖がさまざまな長さの別の染色体DNAと交換される。即ち、例えば正常な個体において、蛋白質Xの遺伝子が第1染色体に存在する場合、交さ後にその遺伝子が第4染色体に転座し(第4染色体から第1染色体への同様な交換があってもなくても)、細胞はXを生産しない。
【0009】染色体数の増加または減少例において、各々の正確な染色体コピー数を有する正常な個体の代わりに(例えば、XおよびY染色体以外の二本のヒト染色体)、違う数になる。例えばヒトにおいては、ダウン症候群は正常な2コピーの代わりに第21染色体を3コピー有する結果になる。他の異数体条件は第13染色体と第18染色体を含むトリソミーによりもたらされる。
【0010】第三に、感染性疾患は、寄生虫、微生物およびウイルスにより引き起こされ、それらすべては自分の核酸を有する。生物学的材料の試料中のこれら生物の存在は、しばしば多くの慣用的な方法(例えば培養)により測定される。しかしながら、各々の生物は自分のゲノムをもっているために、単一の種(幾つかの近縁種、属またはより高いレベルの近縁種)に特定の核酸の遺伝子または配列があれば、ゲノムはそれらの生物(または種等々)に「跡(フィンガープリント)」を供給する。本発明が適用されるウイルスの例はHIV,HPV,EBV,HSV,B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルスおよびCMVを含む。本発明が適用される微生物の例はバクテリアを含み、より特定すればヘモフィルスインフルエンザ、マイコプラズマ、レジュネラ、マイコバクテリア、クラミジア、カンジダ、淋菌、赤痢菌およびサルモネラを含む。
【0011】上記の各例において、疾患または生物に特定の配列を同定することにより、その配列が存在すれば試料から核酸を単離し、そして配列を決定できる。多くの方法がこの目的のために開発されて来た。
【0012】疾患または生物に特定のひとつまたは複数の配列が同定されることが重要なことであっても、本発明の実施において標的配列が何かということまたはそれが如何にして同定されるかということは重要でない。核酸試料中の標的配列の存在を検出するためのもっとも直接的な手段は、標的配列に相補的なプローブ配列を合成することである。(装置としては例えばアプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)380Bが、この目的のための比較的短い核酸配列を合成するために使用される。)そして合成されたプローブ配列は核酸配列を含む試料に用いることができ、そして標的配列が存在すれば該プローブはそれと反応して反応産物を生成する。標的配列がなく、そして非特異的な結合も阻止すれば、反応産物は生成されない。合成プローブを検出可能な標識物で標識すれば、反応産物は標識物の存在量を測定することにより検出できる。サザンブロッティングは、この方法が使用される一つの例である。
【0013】しかしながら、このアプローチの困難性は、試料中に存在する標的配列のコピー数が少ない場合に(即ち、107未満)容易に応用されないことである。そのような場合、シグナルとノイズを区別すること(即ち、プローブと標的配列間の真の結合と、プローブと非標的配列間の非特異的な結合を区別すること)が困難である。この問題を解決するための一つの方法はシグナルを増やすことである。したがって、試料中に存在する標的配列を増幅するために、多くの方法が述べられてきた。
【0014】最もよく知られた増幅法の一つに、ポリメラーゼチェインリアクション法(PCRと呼ばれる)があるが、それは米国特許第4,683,195号および第4,683,202号に詳細に記述されている。PCRにおいては、簡単に言えば標的配列の反対の相補鎖の領域に相補的な2つのプライマーを調製することである。過剰量のデオキシヌクレオシド3リン酸をDNAポリメラーゼ(例えば、Taqポリメラーゼ)と共に反応混合物に加える。標的配列が試料中に存在すれば、プライマーは標的配列に結合し、そしてポリメラーゼは該プライマーから標的配列に沿ってヌクレオチドを付加することにより伸長合成反応を行う。反応混合物の温度を上昇および低下させることにより、伸長合成されたプライマーは標的配列から解離することにより反応産物を生成し、そして過剰量のプライマーが標的配列および反応産物に結合することにより、反応が繰り返される。
【0015】他の増幅法は1989年6月14日に公開された欧州特許出願第320,308号に記述されており、その内容はリガーゼチェインリアクション法(LCRと呼ばれる)である。LCRにおいて、二本の相補鎖プローブの対が調製され、そして標的配列の存在下において、その対が、標的配列の反対の相補鎖と結合してとなりあう。リガーゼの存在下において、2つのプローブの対が結合することにより、単一のユニットを生成する。PCRのように温度を上下させることにより、結合していた連結ユニットは標的配列から解離し、そして過剰量のプローブ対の連結のための標的配列として使用される。米国特許第4,883,750号は、LCRに類似した、プローブ対を標的配列に結合させるための方法を記述しているが、増幅段階は記述していない。
【0016】さらに別の増幅法が、1987年10月22日に公開されたPCT出願PCT/US87/00880に記述されており、その方法はQベータレプリカーゼ法と呼ばれる。この方法によれば、標的配列に相補的な領域を有するRNAの複製型配列をRNAポリメラーゼ存在下において試料に添加する。ポリメラーゼは複製型配列をコピーし、これを次に検出できる。
【0017】さらに別の増幅法は、1988年9月21日に公開された英国特許出願第2202 328号、および1989年10月5日に公開されたPCT出願PCT/US89/01025において記述されている。前者の出願は、修飾されたプライマーを用いる、PCRに類似の温度および酵素依存性合成である。プライマーは、捕捉モイエティ(Moiety)(例えばビオチン)および/または探知器モイエティ(例えば酵素)を用いて標識することにより修飾される。後者の出願においては、過剰量の標識プローブを試料に添加する。標的配列の存在下において、プローブが結合し、そして酵素により分解される。分解後、標的配列は過剰量のプローブにより結合していたときのままで解離する。標識プローブの分解は、標的配列の存在を示す。
【0018】上述のすべての方法において、さまざまな検出法が使用されるが、それらはどれも使用された増幅法に特有なものでない。一つの方法は電気泳動により特定の大きさを有する検出反応産物である。他の方法は、32Pでプローブ配列を放射標識し、そして例えば反応産物により発せられる放射活性をそのままあるいは電気泳動により検出する。さらなる方法は、プライマーに結合分子(例えばビオチン)、および酵素(例えばアルカリホスファターゼ)、蛍光染色剤(例えばフィコビリ蛋白質)またはそれらの組み合わせを添加することにより化学的に修飾する。他の方法は、反応産物に結合し、そしてポリメラーゼ存在下において伸長合成反応される検出プライマーの開発である。この検出プライマーは上述のように放射標識により、または化学的に修飾できる。これらの方法の多くは、固相法並びに液相系に使用される。これらの方法並びに他の方法の多くは、米国特許第4,358,535号、第4,705,886号、第4,743,535号、第4,777,129号、第4,767,699号、および第4,767,700号に記述されている。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】上記の引用された増幅法それぞれは、ひとつまたは複数の限界を有する。ほとんどの増幅法において鍵となる限界は、反応産物が標的から解離するときの温度の上げ下げの必要性である。これは、本発明の方法を実施するために使用する装置並びに反応産物を生成するために必要な酵素の選択の両方の限界を提起する。これら方法の他の限界は、内在性ヌクレアーゼの消化に感受性のRNA中間産物の生成、および関連する酵素の生産が困難であることを含む。そのような現存の増幅法にとって代わる別の方法が望まれる。
【0020】
【課題を解決するための手段】本発明は、エキソヌクレアーゼが介する二本鎖の置換による、試料中の標的核酸配列(およびその相補鎖)の増幅法を提供する。そのもっとも単純化された型において、該方法は、(a)核酸ポリメラーゼ、(b)デオキシヌクレオシド3リン酸のうちの少なくとも一つが置換された、複数のデオキシヌクレオシド3リン酸、(c)エキソヌクレアーゼ、および(d)標的断片の3’末端の領域に相補的な、少なくとも一つのプライマーからなる混合物を、増幅される標的核酸配列に添加し、そして反応産物を生じるのに十分な時間混合物を反応させる段階からなる。核酸を生物学的材料からなる試料から単離する場合は、該方法は、1)標的配列を含むと推測される核酸を試料から単離し、そして2)標的配列の一本鎖断片を生じる第一段階をさらに含む。該断片が二本鎖核酸からなる場合は、該方法はさらに、核酸断片を変成させることにより一本鎖の標的配列を生成することからなる。核酸がRNAからなる場合は、RNAをDNAに変換するために逆転写酵素を使用することが好ましい。
【0021】本発明はさらに、上述の方法により生じた反応産物の分離法および/または検出法に関する。この分離法は、磁気的な分離、膜による捕捉および固形支持体上での捕捉を含む。各方法において、捕捉モイエティは磁気ビーズ、膜または固形支持体に結合される。そしてビーズ、膜または固形支持体について、反応産物の存在または不在をアッセイできる。捕捉モイエティの例は、生成された反応産物に相補的な核酸配列およびプライマーまたは反応産物に取り込まれるリセプターに対する抗体を含む。分離系は検出系と連動していてもしていなくてもよい。
【0022】本発明の実施において有用である検出系は分離を要しない均一な系(ホモジニアスシステム)および不均一な系(ヘテロジニアスシステム)を含む。各系において、ひとつまたは複数の検出マーカーが使用され、好ましくは自動化された方法により、検出系からの反応または放射が監視される。均一な系の例は、蛍光偏光、酵素を介するイムノアッセイ、蛍光エネルギー転移、ハイブリダイゼーション保護(例えばアクリジニウムルミネッセンス)およびクローン化された酵素のドナーイムノアッセイを含む。不均一な系の例は、酵素標識(例えばペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼおよびベータ−ガラクトシダーゼ)、蛍光標識(例えば酵素標識および直接の蛍光標識[例えばフルオレセインおよびローダミン])、ケミルミネッセンスおよびバイオルミネッセンスを含む。リポソームまたは他の袋状粒子も染色剤または他の検出可能なマーカーにより満たされて、そのような検出系において使用されうる。これらの系において、検出可能なマーカーは直接または間接に捕捉モイエティに結合でき、また反応産物はリガンドにより認識されうるリセプターの存在下において生成しうる。
【0023】本発明はさらに、反応産物を生成する方法に関し、該反応産物は5’末端の認識配列を除去することにより、プローブとして機能しうる。このフォーマットにおいて、上述の方法および段階を使用することにより、反応産物を生成する。そして反応産物を制限酵素で処理することにより、反応産物から認識配列を分解する。この様式において、認識配列が除去され、そして残りの反応産物は他の系において使用できるプローブとなる。
【0024】一本鎖断片の存在下において、プライマーはそれに相補的な標的鎖に結合する。ポリメラーゼの存在下において、ヌクレオチドおよび置換されたヌクレオチドを、標的の残りの長さに沿ってプライマーの3’末端に付加することにより、プローブ鎖を生成する。結果として得られる二本鎖産物は、置換されていない標的鎖と、伸長合成された、標的配列に相補的な配列の5’末端に結合した置換されていないプライマーからなるプローブ鎖とからなる。
【0025】二本鎖に特異的な5’→3’エキソヌクレアーゼの存在下において、プローブのプライマー部分から最初の置換されたヌクレオチドの点まで消化するが、それ以上は置換された複数のヌクレオチドを含むので消化しない。次に新しいプライマーが標的物の一本鎖部分に結合する。こうして結合するとポリメラーゼにより伸長合成反応が行われるが、標的物にまだ結合しているプライマー部分を欠いたプローブ鎖はポリメラーゼにより下流方向(即ち5’→3’)に外されて、標的鎖に相補的な反応産物が新たに生成する。
【0026】この方法は、2つのプライマーを用いても作用でき、その場合一つのプライマーは標的配列の一つの鎖に結合し、そして他方のプライマーは標的配列の相補鎖に結合する。この態様を使用すると、各反応産物が他のプライマーのための標的物として作用できることは明らかである。このようにして、増幅が対数的に続いて起こる。
【0027】本発明において、標的核酸配列を含むと推定されているどのような生物学的材料からも試料が単離される。動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおけるそのような材料源は、血液、骨髄、リンパ球、硬組織(例えば、肝臓、脾臓、腎臓、肺、卵巣、等々)、唾液、便および尿からなる。他の材料源は、生物学的有機体を含むと推定されている、植物、土壌および他の材料に由来する。
【0028】これら材料からの核酸の単離は、あらゆる方法により行うことができる。そのような方法は、洗浄剤による溶解物、音波処理、ガラスビーズを用いた振盪撹拌およびフレンチプレスの使用を含む。幾つかの例において、単離された核酸を精製することが有利である(例えば、内在性ヌクレアーゼが存在するとき)。これらの例において、核酸の精製はフェノール抽出、クロマトグラフィー、イオン交換、ゲル電気泳動または密度に依存した遠心分離により実施される。
【0029】核酸が単離されたら、以後の説明の都合上ゲノミックな核酸はDNAであり、二本鎖であると想定する。そのような例において、試料中の核酸を約50bpから約500bpの断片に分解することが好ましい。これは例えば、制限酵素HhaI,FokIまたはDpnIにより実施される。酵素の選択および配列の長さは、標的配列がその断片中に完全に含まれるか、または標的配列の十分な部分が少なくとも断片中に存在することにより、プローブ配列の十分な結合を提供するようなものがよい。断片を生成する他の方法は、PCRおよび音波処理を含む。
【0030】この方法において使用されるプライマーは通常15ヌクレオチドから100ヌクレオチドの長さを有する。約20ヌクレオチドのプライマーが好ましい。この配列は極めて激しい条件において結合が生じるように、実質的に標的物の配列に相同であるべきである。
【0031】標的核酸断片が生成したら、それらを変成して一本鎖にすることにより標的鎖へのプライマーの結合を可能にさせる。反応温度を約95℃に上昇させることは、好ましい核酸変成法である。他の方法はpHの上昇を含むが、プローブを標的物に結合させるためにpHを低下させる必要がある。
【0032】核酸を変成する前または後に、過剰量の、少なくとも一つが置換されている、4つすべてのデオキシヌクレオシド3リン酸、ポリメラーゼおよびエキソヌクレアーゼからなる混合物を添加する。(高温により核酸を変成し、高温耐性の酵素を使用しないのならば、変成後に酵素を添加することが好ましい。)置換されたデオキシヌクレオシド3リン酸は、置換されたデオキシヌクレオチドを含む鎖の消化を阻害するように修飾されているべきである。そのような置換されたデオキシヌクレオシド3リン酸の例は、2’デオキシアデノシン5’−O−(1−チオ3リン酸)を含む。修飾されたヌクレオチドは化学的な合成によってもプライマーに取り込まれうる。この場合、修飾されたデオキシヌクレオシド3リン酸は必要ない。
【0033】この方法において使用されるエキソヌクレアーゼの選択は、二本鎖DNAを消化するようなものとすべきである。エキソヌクレアーゼはさらに、標的鎖またはプローブの置換された部分を消化しないように選択すべきである。高温耐性である必要はない。T7遺伝子6産物のエキソヌクレアーゼまたはラムダのエキソヌクレアーゼ(米国、バイオケミカル社)が特に有用である。
【0034】この方法に有用なポリメラーゼは標的物を5’から3’方向に重合するものを含む。しかしながら、ポリメラーゼは鋳型鎖を消化することなしに、重合した標的物の置換を行い、そして重要なことは5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠いていることも必要である。ポリメラーゼ、例えばDNAポリメラーゼIのクレノー断片およびDNAポリメラーゼIのエキソヌクレアーゼ欠損クレノー断片(米国、バイオケミカル社)およびBstポリメラーゼ由来の同様の断片(バイオラッド社)が有用である。
【0035】この方法のさらなる特徴は、合成において温度を変える必要がないことである。多くの増幅法は、温度を上下することにより合成鎖から標的物を解離する必要がある。この方法においては、変成後に単一の温度を使用することができる。非特異的な結合を最少にするために反応温度を十分に高く、しかし標的鎖にプローブが結合する時間を最少にするように反応温度を十分に低く、ストリンジェンシーのレベルを設定すべきである。37℃が好ましい温度であることが分かった。
【0036】図1において、本発明の一実施例が示されている。この実施例において、鎖Pはプライマーを表す。鎖Tは標的配列であり、これはすでに断片化され、一本鎖にされている。この方法において、プライマーは標的物に結合し、そしてポリメラーゼ、デオキシヌクレオシド3リン酸およびαチオ置換デオキシヌクレオシド3リン酸の存在下においてプライマーは標的物の長さだけ伸長合成される。エキソヌクレアーゼの存在下において、プローブ鎖は5’末端から始まって置換されたヌクレオチドに至るまで消化される。そして新しいプライマーが標的物に結合する。しかしながら、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠いたポリメラーゼの存在下においては、部分消化されたプローブ鎖は最初の置換されたヌクレオチド部分から始まって標的鎖から外れて反応産物を生成し、そして新しい鎖が新たに結合したプライマーから合成される。要約すれば(示さない)、新たに合成された鎖もエキソヌクレアーゼにより消化され、そしてポリメラーゼがこの鎖を置換合成する反応を停止させるかまたは試薬のうちの一つが使い尽くされるかのいずれかまで繰り返される。
【0037】図2は二本鎖の標的物における実施例を示す。即ち一つのプライマーを用いる代わりに2つのプライマー(P1およびP2)が存在し、それぞれは2つの標的配列(T1およびT2)に相補的である。そして反応は図1に記述されたようにして進行する。しかしながら、P1はT2から生産された反応産物に結合し、P2はT1から生産された反応産物に結合することに注意しなければならない。この様式により、増幅が対数的に進行する。
【0038】そして増幅された標的物の存在は、多くのあらゆる方法により検出できる。一つの方法は、ゲル電気泳動による特定のサイズの反応産物の検出である。この方法は使用したヌクレオチドが32Pのような放射性標識のときに特に有用である。他の方法はビオチンのような物理的な標識を用いた標識ヌクレオチドの使用を含む。そして反応産物を含むビオチンはペルオキシダーゼのようなシグナルを発する酵素に結合したアビジンにより同定されうる。
【0039】本発明のさらなる態様は、一本鎖核酸配列の高コピー数の調製にある。アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems)の380のような装置による合成プローブの生産は時間がかかり、そして数百ヌクレオチドのプローブの生産には不便であると判断されるであろう。エキソヌクレアーゼが介する置換合成法は、治療の目的のための標的物の存在を検出するためにシグナルを増幅する必要がない。また、あらゆる検出系におけるプローブの使用のために、高コピーの一本鎖核酸配列を生産するために容易に応用できる。
【0040】この態様において、増幅すべき一本鎖核酸配列が調製される。これは上述のように合成配列またはゲノミック核酸から生産される。上述と同様の反応混合物は、増幅される核酸配列に相補的なプローブを使用することにより調製される。そして反応は上述のとおりに行われる。その結果の反応産物は核酸配列の増幅コピーからなり、プライマーまたはプローブとして使用できる。
【0041】本明細書において述べられたすべての刊行物および特許出願は、本発明が属する分野の当業者のレベルを示す。すべての刊行物および特許出願は、引用により本明細書の一部をなす。
【0042】請求項の趣旨または目的から離れることなく、本発明の範囲において多くの変化および修飾がされることは当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明における一本鎖DNA断片に対する方法の一例を示す工程のフローチャートである。
【図2】図2は、本発明における二本鎖ゲノミックDNAに対する方法の一例を示す工程のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】a)試料から核酸断片を単離し、b)一本鎖標的核酸を調製し、c)少なくとも一つが置換された過剰量のデオキシヌクレオシド3リン酸、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠くDNAポリメラーゼ、標的配列の一本鎖に相補的なひとつまたは複数のプライマー、および二本鎖に特異的な5’→3’エキソヌクレアーゼからなる反応混合物を標的配列に添加し、d)反応産物を生成するのに十分な時間、反応混合物と一本鎖断片を反応させ、そしてe)生産された反応産物の存在を検出する段階からなる、標的核酸配列の増幅法。
【請求項2】核酸断片の生産を制限酵素を使用することにより行う、特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項3】該試料が血液、骨髄、リンパ球、硬組織、唾液、便および尿からなる動物材料、植物材料または土壌に由来する、特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項4】該試料を加熱することにより複数の核酸断片を一本鎖にすることからなる、特許請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項5】a)ヒトの生物学的材料に由来する試料から核酸を単離し、b)試料を加熱することにより一本鎖核酸を生じさせ、c)少なくとも一つが置換された過剰量のデオキシヌクレオシド3リン酸、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠くDNAポリメラーゼ、標的配列の一本鎖に相補的なひとつまたは複数のプライマー、および二本鎖に特異的な5’→3’エキソヌクレアーゼからなる反応混合物を添加し、d)反応産物を生成するのに十分な時間、反応混合物と一本鎖断片を反応させ、そしてe)生産された反応産物の存在を検出する段階からなる、標的核酸配列の増幅法。
【請求項6】ポリメラーゼが、DNAポリメラーゼIのクレノー断片、DNAポリメラーゼIのエキソヌクレアーゼ欠損クレノー断片およびBstポリメラーゼのクレノー断片からなるグループから選択される、特許請求の範囲第5項記載の方法。
【請求項7】ポリメラーゼがDNAポリメラーゼIのクレノー断片である、特許請求の範囲第6項記載の方法。
【請求項8】エキソヌクレアーゼがT7遺伝子6産物のエキソヌクレアーゼである、特許請求の範囲第5項記載の方法。
【請求項9】放射性標識、酵素および蛍光染料からなるグループから選択される標識物で標識されたプライマーを用いて反応産物の検出を実施することからなる、特許請求の範囲第5項記載の方法。
【請求項10】プローブがウイルスの核酸配列に特異的である、特許請求の範囲第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】プローブがバクテリアの核酸配列に特異的である、特許請求の範囲第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】プローブがオンコジーンの核酸配列に特異的である、特許請求の範囲第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】プローブが一か所の点突然変異を含む核酸配列に特異的である、特許請求の範囲第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平5−130870
【公開日】平成5年(1993)5月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−13001
【出願日】平成4年(1992)1月28日
【出願人】(591007332)ベクトン・デイツキンソン・アンド・カンパニー (4)
【氏名又は名称原語表記】BECTON DICKINSON AND COMPANY