説明

エシェリキア・コリによる異種タンパク質の発酵的製造方法

【課題】E.コリ菌株による異種タンパク質の発酵的製造方法であって、該タンパク質が発酵培地中に分泌される製造方法を提供する。
【解決手段】E.コリ菌株を発酵培地中で培養するにあたり、該E.コリ菌株が、異種タンパク質をコードする遺伝子を、シグナルペプチドをコードするシグナル配列と機能的に結合されて含み、かつ該E.コリ菌株が、前記異種タンパク質を発酵培地中に分泌する方法において、該E.コリ菌株が、減衰された(p)ppGpp−シンセターゼII活性を有することを特徴とする方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰された(p)ppGpp−シンセターゼII活性を有するエシェリキア・コリ(Escherichia coli)菌株による異種タンパク質の発酵的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組み換えタンパク質製薬学(医薬タンパク質/バイオロジクス)に関する市場は、近年になって大きく成長している。特に重要なタンパク質医薬品は、真核性タンパク質、とりわけ哺乳動物タンパク質及びヒトのタンパク質である。重要な医薬品タンパク質(製剤学的に有効なタンパク質)の例は、サイトカイン、成長因子、プロテインキナーゼ、タンパク質ホルモン及びペプチドホルモン並びに抗体及び抗体フラグメントである。医薬品タンパク質に関して今なお非常に高い生産コストに基づき、絶え間なく、より効率的であり、そのためより低コストで医薬品タンパク質を製造するための方法及び系が模索されている。
【0003】
一般に、組み換えタンパク質は、哺乳動物細胞培養か、微生物の系のいずれかで製造される。微生物の系は、哺乳動物細胞培養に対して、こうして組み換えタンパク質がより短時間でかつより低コストで製造できるという利点を有する。従って、組み換えタンパク質の生産のためには、とりわけ細菌が適している。その非常に十分に調査された遺伝学と生理学、短い世代時間及び取り扱いの容易さに基づき、グラム陰性の腸内細菌であるエシェリキア・コリ(E.コリ)は、目下、組み換えタンパク質の生産のために最も頻繁に用いられる生物である。E.コリにおける組み換えタンパク質のための生産方法であって、標的タンパク質が高収率かつ正確なフォールディングで発酵培地中に直接分泌される方法が特に好ましい。
【0004】
文献には、発酵培地中への組み換えタンパク質の分泌が達成される一連のE.コリ菌株とE.コリ菌株を用いた方法が開示されている。ここで、例えばUS2008254511号には、褐色リポタンパク質(Lpp)に関する遺伝子に突然変異を有し、かつ過剰産生された異種タンパク質を培地中に排出する種々のE.コリ菌株が記載されている。
【0005】
細胞がアミノ酸もしくはエネルギー源の欠乏状況に陥る条件下で代謝を調節及び連係するために、E.コリは、"緊縮制御"と呼ばれる機構を有する。その際に、アラーモングアノシン四リン酸(ppGpp)及びグアノシン五リン酸(pppGpp)(以下に一般に(p)ppGppとまとめる)は、調節性シグナル分子として、とりわけ、細胞内の(p)ppGpp濃度を高めることによって、安定なRNA類(rRNA、tRNA)の合成に歯止めがかかり、幾つかのアミノ酸生合成遺伝子の発現が強化されることによって、重要な役割を担う(Cashel et al.,1996,Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology,ed.Neidhardt,F.C.ASM Press,Washington,D.C.pp.1458−1496)。E.コリは、(p)ppGppをATP及びGDPから(ppGpp)もしくはATP及びGTPから(pppGpp)合成するための2種類の酵素を有する:relA遺伝子によってコードされる(p)ppGpp−シンセターゼI(PSI)は、細胞がアミノ酸欠乏に晒されている場合に、緊縮制御の範囲で(p)ppGpp合成を担う。しかしながら、細胞の増殖が、一次炭素源の消耗に基づき減速されると、その(p)ppGPP合成は、主に、spoT遺伝子によってコードされる(p)ppGpp−シンセターゼII(PSII)によって行われる。PSIとの違いにおいて、spoT遺伝子産物は、(p)ppGpp−シンセターゼ活性の他に、さらにまた(p)ppGpp−3′−ピロホスホヒドロラーゼ活性を有し、かつそれにより細胞の(p)ppGpp−濃度を、また能動的にこの化合物の分解によって制御することができる(Gentry und Cashel,1996,Mol.Microbiol.19,1373−84)。PSII酵素の2つの異なる触媒活性に関する活性中心は、確かに同一ではないものの、該タンパク質のN末端領域に狭い空間的近隣で位置していることが示された。
【0006】
本発明の範囲においては、名称"PSII−活性"とは、一方で(p)ppGpp−合成を触媒でき、かつ他方で(p)ppGpp−加水分解をも触媒できる酵素の活性を表すべきである。
【0007】
E.コリのrelA−突然変異体とspoT−突然変異体のいずれも公知である(Cashel et al.,1996,Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology,ed.Neidhardt,F.C.ASM Press,Washington,D.C.pp.1458−1496)。
【0008】
挿入エレメントIS2がrelA−遺伝子配列中に組み込まれているrelA1突然変異(relA::IS2)を有する菌株は、さらに低いPSI−残留活性を示し、それに対してrelA−欠失突然変異体(ΔrelA)は、もはやPSI−活性を有さない(Metzger et al.,1989,J.Biol.Chem.264,21146−52)。緊縮制御の機構がインタクトなrelA−野生型菌株("緊縮な"表現型)との違いにおいて、低減された又は失われたPSI−活性を有するrelA−突然変異体は、アミノ酸欠乏状況に陥った場合に、いわゆる"緩和された(relaxierten)"表現型を示す。このことは、とりわけ、その細胞が、基底濃度を越えて(p)ppGppを蓄積しえず、かつ安定なRNA分子の合成が停止されずに、そのまま進行するという形で現れる。その基底濃度とは、文献(Cashel et al.,1996,Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology,ed.Neidhardt,F.C.ASM Press,Washington,D.C.pp.1458−1496)から知られている、無制限の増殖条件下での対数増殖細胞についての(p)ppGppに関する濃度範囲(10〜30ピコモル/A450)を表すべきである。Gitter他(1995,Appl.Microbiol.Biotechnol.43,89−92)から、relA−突然変異体のE.コリ CP79が、relA−野生型菌株のCP78と比較して、人工的に誘発されたアミノ酸欠乏条件下で、ペリプラズム中に分泌されるタンパク質、例えばβ−ラクタマーゼ又はインターフェロンα1を培養培地中に増大排出することは公知である。
【0009】
spoT遺伝子中に突然変異を有する菌株は、PSII−活性を害する程度に応じて、特徴的な(p)ppGpp−代謝の欠損を示す。とりわけ、i)より低い増殖速度と結びついた、正常な(平衡した)増殖の間での高められた基底ppGpp濃度と、ii)緊縮応答の間のより高く誘導されたppGpp濃度と、iii)緊縮応答が終わった後のより低いppGpp転化率とを示す。
【0010】
E.コリのspoT遺伝子のDNA配列(配列番号1)は、配列番号2の配列を有するspoTタンパク質をコードしている。該spoT遺伝子は、5つの遺伝子gmk−rpoZ−spoT−spoU−recGを含むオペロンの部分として発現される。該オペロンの発現と、spoT発現もまた、一方で、gmk遺伝子の上流にあるP1−プロモーターと、他方で、gmk遺伝子のC末端をコードする領域中に位置するP2−プロモーターとによって調節される(Cashel et al.,1996,Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology,ed.Neidhardt,F.C.ASM Press,Washington,D.C.pp.1458−1496)。spoT1−突然変異(配列番号3)を有する菌株の場合に、そのspoT−タンパク質は、アスパラギン酸残基84の後ろでグルタミン及びアスパラギン酸の2つのアミノ酸の挿入と、位置255にヒスチジン−チロシン置換とを有する(Durfee et al.,2008,J.Bacteriol.190,2597−606)。更に、一連のspoT−挿入突然変異体もしくはspoT−欠失突然変異体も記載された(Xiao et al.,1991,J.Biol.Chem.266,5980−90)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US2008254511号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Cashel et al.,1996,Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology,ed.Neidhardt,F.C.ASM Press,Washington,D.C.pp.1458−1496
【非特許文献2】Gentry und Cashel,1996,Mol.Microbiol.19,1373−84
【非特許文献3】Metzger et al.,1989,J.Biol.Chem.264,21146−52
【非特許文献4】Gitter et al.,1995,Appl.Microbiol.Biotechnol.43,89−92
【非特許文献5】Durfee et al.,2008,J.Bacteriol.190,2597−606
【非特許文献6】Xiao et al.,1991,J.Biol.Chem.266,5980−90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、E.コリ菌株による異種タンパク質の発酵的製造方法であって、該タンパク質が発酵培地中に分泌される製造方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題は、E.コリ菌株を発酵培地中で培養するにあたり、該E.コリ菌株が、異種タンパク質をコードする遺伝子を、シグナルペプチドをコードするシグナル配列と機能的に結合されて含み、かつ該E.コリ菌株が、前記異種タンパク質を発酵培地中に分泌する方法において、該E.コリ菌株が、減衰された(p)ppGpp−シンセターゼII活性を有することを特徴とする方法によって解決される。
【0015】
E.コリ菌株の減衰された(p)ppGpp−シンセターゼII活性とは、該E.コリ菌株が、PSII−活性の改変前のE.コリ菌株(以下で、出発菌株と呼ぶ)の最大で50%の、好ましくは最大で20%の(p)ppGpp−シンセターゼII活性(PSII−活性)を有することを表すべきである。特に好ましくは、菌株の減衰されたPSII−活性とは、この菌株中のPSII−活性の欠乏を表すべきである。
【0016】
菌株のPSII−酵素のシンセターゼ活性及びヒドロラーゼ活性の測定方法は、当業者に公知である(Mechold et al.,1996,J.Bacteriol.178,1401−1411)。
【0017】
微生物菌株中でのPSII−活性の減衰のための方法は、技術水準において公知である。PSII−活性は、例えば、spoT−遺伝子の読み枠中に、該酵素の活性の低下をもたらす突然変異(単独もしくは複数のヌクレオチドの置換、挿入もしくは欠失)を導入することによって減衰させることができる。更に、細胞のPSII−活性は、spoT−遺伝子の発現を、発現調節に必要な少なくとも1つのエレメント(例えばプロモーター、エンハンサー、リボソーム結合部位)を、単独もしくは複数のヌクレオチドの置換、挿入もしくは欠失によって突然変異させることで低減させることによって減衰させることもできる。その塩基配列においてspoT−野生型遺伝子の配列と突然変異に基づき異なる係るDNA配列は、以下で、spoT−アレルとも呼称する。また、spoT−遺伝子又はその調節領域の染色体からの完全な欠失によっても、PSII−活性の減衰が可能である。
【0018】
当業者には、spoT−アレルの作成方法は公知である。spoT−遺伝子のアレルは、例えばspoT−野生型遺伝子のDNAを出発材料として用いて、非特異的もしくは標的突然変異誘発によって製造することができる。spoT−遺伝子又はspoT−遺伝子のプロモーター領域内での非特異的突然変異は、例えばニトロソグアニジン、エチルメタンスルホン酸などの化学薬剤によって、及び/又は物理的方法によって、及び/又は一定の条件下で行われるPCR反応によって引き起こすことができる。DNA断片内の特異的部位での突然変異の導入方法は、公知である。ここで、例えばspoT−遺伝子及びそのプロモーター領域を含むDNA断片中の1もしくは複数の塩基の交換は、プライマーとして好適なオリゴヌクレオチドを使用したPCRによって行うことができる。更に、spoT−遺伝子全体もしくは新たなspoT−アレルは、遺伝子合成によって製造することができる。
【0019】
spoT−アレルは、一般にまず、インビトロで作成され、引き続き細胞の染色体中に導入され、それにより本来存在するspoT−野生型遺伝子が置き換えられ、こうしてその菌株のspoT−突然変異体が作成される。spoT−アレルは、公知の標準的方法によって、宿主細胞の染色体中に、spoT−野生型遺伝子/プロモーターの代わりに導入することができる。それは、例えばLink他(1997,J.Bacteriol.179:6228−37)によって記載された、ある遺伝子への相同組み換えの機構による染色体性突然変異の導入方法によって行うことができる。spoT−遺伝子全体もしくはその一部の染色体的欠失の導入は、例えばλ−Redレコンビナーゼ系を用いて、Datsenko及びWanner(2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.97:6640−5)によって記載される方法に従って可能である。spoT−アレルは、また、P1−ファージによる形質導入又は接合によって、spoT−突然変異を有する菌株からspoT−野生型菌株へと移すことができ、その際、spoT−野生型遺伝子は、染色体内で相応のspoT−アレルと置き換えられる。記載されたspoT−突然変異を有するE.コリ菌株の他に、当業者には、任意のE.コリ菌株のspoT−突然変異の作成方法も知られている。
【0020】
好ましいspoT−突然変異は、spoT1−突然変異であるか、又は好ましいものとして定義された減衰されたPSII−活性をもたらすspoT−突然変異である。PSII−活性の完全な損失をもたらす突然変異が特に好ましい。
【0021】
好ましくは、本発明による方法で使用されるE.コリ菌株は、減衰されたPSII−活性の他に、緩和された表現型をもたらすrelA−遺伝子内の突然変異を有する。
【0022】
好ましいrelA−突然変異は、例えばrelA1−突然変異であるか、又はPSI−活性の完全な損失をもたらすrelA−突然変異である。
【0023】
同様に好ましくは、本発明による方法で使用されるE.コリ菌株は、減衰されたPSII−活性の他に、"漏出"突然変異を有する。"漏出突然変異"とは、細胞外膜もしくは細胞壁の構造エレメントのための、omp−遺伝子、tol−遺伝子、excD−遺伝子、excC−遺伝子、lpp−遺伝子、pal−遺伝子、env−遺伝子及びlky−遺伝子の群から選択される遺伝子中の突然変異であって、該細胞がペリプラズム性タンパク質の培地中への増大放出をもたらす突然変異を表すべきである(Shokri et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.60(2003),654−664)。lpp−遺伝子における"漏出"突然変異が好ましく、lpp1−突然変異、lpp3−突然変異及びlpp−欠失突然変異の群から選択される突然変異が特に有利である。lpp1−突然変異は、位置77でのシステイン残基に対するアルギニン残基の交換をもたらすlpp−遺伝子内での突然変異であり、lpp3−突然変異は、位置14でのアスパラギン酸残基に対するグリシン残基の交換をもたらすlpp−遺伝子内での突然変異である。これらの突然変異は、US2008254511号に詳細に記載されている。lpp−欠失突然変異は、好ましくは、lpp−遺伝子自体又はlpp−遺伝子のプロモーター領域における少なくとも1つのヌクレオチドの欠失であって、該細胞がペリプラズム性タンパク質に関しての高められた漏出を有することがもたらされる欠失である。
【0024】
高められた漏出とは、本発明の範囲においては、細胞の発酵により、同じ条件下で、E.コリ菌株W3110(ATCC27325)の発酵の場合よりも高められた濃度のペリプラズム性タンパク質、例えばアルカリ性ホスファターゼが栄養培地中に存在することを表すべきである。
【0025】
減衰されたPSII−活性の他に、緩和された表現型と"漏出"突然変異のいずれも有するE.コリ菌株が特に好ましく、その際、ここでも、それぞれ挙げられる好ましい実施形態が特に好ましい。
【0026】
異種タンパク質とは、本発明の範囲においては、E.コリK12菌株のプロテオーム、すなわち全体の天然のタンパク質一式に属さないタンパク質を表すべきである。E.コリK12菌株中に本来存在する全てのタンパク質は、E.コリK12の公知のゲノム配列から導き出すことができる(Genbankアクセッション番号NC_000913)。E.コリ中で産生される異種タンパク質は、その都度の異種タンパク質について天然条件下で同種宿主細胞において特徴的であるか又は同種宿主細胞から得られるものよりも、50%より高い、好ましくは70%より高い、特に好ましくは90%より高い比活性もしくは作用(機能)を有する。
【0027】
好ましくは、異種タンパク質は、真核性タンパク質であり、特に好ましくは、1もしくは複数のジスルフィド結合を有するか又はその機能的な形態で二量体もしくは多量体として存在するタンパク質であり、すなわち該タンパク質は、四次構造を有し、かつ複数の同一の(相同の)もしくは非同一の(非相同の)サブユニットから構成されている。
【0028】
最も重要な異種タンパク質クラスには、抗体及びそのフラグメント、サイトカイン、成長因子、プロテインキナーゼ、タンパク質ホルモン、リポカリン、アンチカリン、酵素、結合タンパク質及び分子骨格(molekulare Scaffold)及びそれらから誘導されるタンパク質が該当する。前記のタンパク質クラスのための例は、とりわけ重鎖抗体及びそのフラグメント(例えばナノボディ)、単鎖抗体、インターフェロン、インターロイキン、インターロイキン受容体、インターロイキン受容体アンタゴニスト、G−CSF、GM−CSF、M−CSF、白血病阻害因子、幹細胞増殖因子、腫瘍壊死因子、成長ホルモン、インスリン様成長因子、線維芽細胞増殖因子、血小板由来成長因子、形質転換増殖因子、肝細胞増殖因子、骨形成因子、神経成長因子、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来細胞栄養因子、血管新生阻害因子、組織性プラスミノーゲン活性化因子、血液凝固因子、トリプシン阻害因子、エラスターゼ阻害因子、補体成分、低酸素症誘導性ストレスタンパク質、癌原遺伝子産物、転写因子、ウイルス構成タンパク質、プロインスリン、プロウロキナーゼ、エリスロポエチン、トロンボポエチン、ニューロトロフィン、プロテインC、グルコセレブロシダーゼ、スーパーオキシド−ジスムターゼ、レニン、リゾチーム、P450、プロキモシン、リポコルチン、レプチン、血清アルブミン、ストレプトキナーゼ、テネクテプラーゼ、CNTF及びシクロデキストリン−グリコシル−トランスフェラーゼである。分子骨格由来タンパク質のための例は、とりわけエビボディ(Evibodies)(CTLA−4由来)、アフィボディ(S.アウレウス(aureus)由来のプロテインAから)、アビマー(Avimere)(ヒトAドメインファミリー由来)、トランスボディ(Transbodies)(トランスフェリン由来)、DARPins(アンキリン繰り返しタンパク質由来)、アドネクチン(Adnectin)(フィブロネクチンIII由来)、ペプチドアプタマー(チオレドキシン由来)、ミクロボディ(Microbodies)(ミクロプロテイン由来)、アフィリン(Affiline)(ユビキチン由来)、α−クリスタリン、カリブドトキシン、テトラネクチン、RAS結合タンパク質AF−6のPDZドメイン、タンパク質阻害因子のクニッツ型ドメインである。
【0029】
複数のタンパク質サブユニットからなる特に重要なタンパク質クラスは、抗体である。抗体は、研究において、診断において、かつ治療剤として広範囲で使用されるので、特に効率的かつ工業的規模で可能な製造方法が必要とされる。
【0030】
また、機能的なFab−抗体フラグメント及び全長抗体は、本発明による方法によって細胞外で製造することができる。好ましい全長抗体は、その際、IgG−クラス及びIgM−クラス、特にIgG−クラスの抗体である。
【0031】
機能的なFab−抗体フラグメントの製造に際して、細胞は、ドメインVL及びCLを含む軽鎖(LC)の相応のフラグメントと、ドメインVH及びCH1を含む重鎖(HC)を、同時に合成し、次いでペリプラズム中に、最終的には培養培地中に分泌せねばならない。細胞質の外側で、次いで両方の鎖の機能的なFab−フラグメントへの会合が行われる。
【0032】
Fab−フラグメントの製造と同様に、該細胞は、全長抗体の軽鎖と重鎖を同時に合成し、次いでペリプラズム中に、最終的には培養培地中に分泌せねばならない。細胞質の外側で、次いで両方の鎖の機能的な全長抗体への会合が行われる。
【0033】
細胞質からペリプラズム中へのタンパク質の分泌のためには、産生されるべきタンパク質の遺伝子の5′−末端が、タンパク質排出のためのシグナル配列の3′−末端と読み枠内で(in frame)結合することが必要である。そのためには、原則的に、E.コリ中で標的タンパク質の移動をSec−装置を用いて可能にするあらゆるシグナル配列の遺伝子が適している。種々のシグナル配列が、先行技術において記載されている。ここで、例えば以下の遺伝子のシグナル配列:phoA、ompA、pelB、ompF、ompT、lamB、malE、ブドウ球菌プロテインA、StIIなどが記載されている(Choi and Lee,Appl.Microbiol.Biotechnol.64(2004),625−635)。
【0034】
本発明によれば、E.コリのphoA−遺伝子もしくはompA−遺伝子のシグナル配列又はクレブシエラ・ニューモニア(Klebsiella pneumoniae)M5a1由来のシクロデキストリン−グリコシルトランスフェラーゼ(CGTアーゼ)のためのシグナル配列又は前記のシグナル配列から誘導されるUS2008076157号に開示される配列が好ましい。EP0448093号に開示される、配列番号4の配列を有するクレブシエラ・ニューモニアM5a1由来のシクロデキストリン−グリコシルトランスフェラーゼ(CGTアーゼ)のためのシグナル配列並びにUS2008076157号に開示される、前記シグナル配列から誘導される配列番号5を有する配列が特に好ましい。
【0035】
シグナル配列と組み換え標的タンパク質の遺伝子とからの読み枠内融合(in frame−Fusion)を含むDNA−分子の製造は、当業者に公知の方法に従って行われる。ここで、標的タンパク質の遺伝子は、まず、PCRによってプライマーとしてオリゴヌクレオチドを使用して増幅され、引き続き通常の分子生物学的技術によって、シグナルペプチドの配列を含み、かつ標的タンパク質の遺伝子と同様に作成されたDNA−分子と、読み枠内融合を生ずるように、すなわちシグナル配列と標的タンパク質の遺伝子を含む連続的な読み枠を生ずるように結合させることができる。選択的に、上述の両方の機能的断片を含む全DNA−分子は、遺伝子合成によっても製造することができる。これらのシグナル配列−組み換え遺伝子−融合物は、次いで、ベクター中に、例えばプラスミド中に導入して、それを宿主細胞中に形質転換によって導入できるか、又は公知の方法に従って直接的に宿主細胞の染色体中に組み込むことができる。好ましくは、該シグナル配列−組み換え遺伝子−融合物は、プラスミド中に導入され、そして宿主細胞はこのプラスミドで形質転換される。
【0036】
複数の異なるサブユニットからなるタンパク質を細胞質からペリプラズム中に分泌させるために、全ての産生されるべきサブユニットの遺伝子(標的遺伝子)を、タンパク質排出のためのシグナル配列とそれぞれ機能的に結合させる必要がある。その際、種々のサブユニットの遺伝子を異なるシグナル配列と結合させるか又は同じシグナル配列と結合させることができる。異なるシグナル配列との結合が好ましく、一方のサブユニットのE.コリのphoA−遺伝子もしくはompA−遺伝子のシグナル配列との結合及び他方のサブユニットのクレブシエラ・ニューモニアM5a1由来の配列番号4の配列(EP0448093号)を有するシクロデキストリン−グリコシルトランスフェラーゼ(CGTアーゼ)のためのシグナル配列又は該配列から誘導される配列、例えば配列番号5の配列(US2008076157号)との結合が特に好ましい。
【0037】
個々のサブユニットのシグナル配列−標的遺伝子−融合物は、次いで、ベクター中に、例えばプラスミド中に導入し、又は公知の方法に従って直接的に宿主細胞の染色体中に組み込むことができる。その際、個々のサブユニットのシグナル配列−標的遺伝子−融合物は、別々であるが、互いに和合性のプラスミドにクローニングし、又は該融合物を、1つのプラスミドにクローニングすることができる。その際、遺伝子−融合物は、1つのオペロンにまとめることができ、又は該融合物は、それぞれ別々のシストロンで発現させることもできる。本願では、1つのオペロンにまとめることが好ましい。同様に、両方の遺伝子構築物を1つのオペロンにまとめることができ、又はそれぞれ別々のシストロンで宿主細胞の染色体中に組み込むことができる。また、本願では、1つのオペロンにまとめることが好ましい。
【0038】
好ましくは、シグナル配列と分泌されるべきタンパク質をコードする組み換え遺伝子とからなるDNA−発現構築物(シグナル配列−標的遺伝子−融合物)に、E.コリにおいて機能的な発現シグナルが設けられる(プロモーター、転写開始、翻訳開始、リボソーム結合部位、ターミネーター)。
【0039】
プロモーターとしては、当業者に公知のあらゆるプロモーター、例えば、一方で、lac−プロモーター、tac−プロモーター、trc−プロモーター、λPL、ara−プロモーターもしくはtet−プロモーター又はそれらから誘導される配列が適している。他方で、また、例えばGAPDH−プロモーターなどの構成的プロモーターの使用によって持続的な発現を行うこともできる。しかし、産生されるべき組み換えタンパク質の遺伝子と通常どおり結合されたプロモーターも使用することができる。
【0040】
産生されるべきタンパク質のための前記の発現構築物(プロモーター−シグナル配列−組み換え遺伝子)は、その後に、当業者に公知の方法(例えば形質転換)を使用して、減衰されたPSII−活性を有する細胞中に導入される。
【0041】
それは、例えばベクター上で、例えばプラスミド上で、例えばpJF118EH、pKK223−3、pUC18、pBR322、pACYC184、pASK−IBA3もしくはpETなどの公知の発現ベクターの誘導体上で行われる。プラスミドのための選択マーカーとして適しているのは、例えばアンピシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、カナマイシン又は別の抗生物質に対する耐性をコードする遺伝子である。
【0042】
従って、本発明によれば、好ましくは、組み換え遺伝子が、E.コリ中で活性なシグナルペプチドをコードするシグナル配列と機能的に結合され、更に好ましくはE.コリ中で機能的な発現シグナル、好ましくはプロモーター、転写開始、翻訳開始、リボソーム結合部位及びターミネーターが設けられているE.コリ菌株が使用される。その際、上述の発現シグナルが好ましい。
【0043】
シグナル配列と分泌されるべきタンパク質をコードする組み換え遺伝子からなるDNA−発現構築物を含み、機能的発現シグナルと結合された減衰されたPSII−活性を有する細胞の培養(発酵)は、通常の当業者に公知の発酵法によりバイオリアクター(発酵器)中で行われる。
【0044】
発酵は、好ましくは、通常のバイオリアクター、例えば撹拌槽、バブルカラム−発酵器又はエアリフト−発酵器中で行われる。撹拌槽−発酵器が特に好ましい。
【0045】
発酵に際して、タンパク質−産生菌株の細胞を液体培地中で16〜150時間の期間にわたり培養し、その際、例えば培養の栄養素供給、酸素分圧、pH値及び温度が持続的に調整され、正確に制御される。培養の期間は、好ましくは24〜72時間である。
【0046】
発酵培地としては、原則的に、あらゆる通常の当業者に公知の、微生物の培養用の培地が該当する。
【0047】
その際、複合培地又は最少塩培地であって、定義された割合の複合成分、例えばペプトン、トリプトン、酵母エキス、糖蜜又はコーンスティープリカーなどの複合成分が添加された培地を用いることができる。医薬品タンパク質の製造のために好ましいのは、化学的に定義された塩培地、従って完全培地に対して正確に定義された基質組成を有する培地である。
【0048】
本発明による方法において、減衰されたPSII−活性並びに異種タンパク質をコードする遺伝子を有し、読み枠内でE.コリ内で機能的なシグナルペプチドをコードするシグナル配列と結合されているE.コリ菌株は、PSII−野生型活性を有する菌株に匹敵する短い発酵時間で匹敵する高い細胞密度まで増殖し、その際、異種タンパク質を塩培地中に分泌する。
【0049】
発酵のための一次炭素源としては、原則的に、該細胞によって使用可能なあらゆる糖、糖アルコール又は有機酸もしくはそれらの塩を使用することができる。その際、好ましくはグルコース、ラクトース又はグリセリンが使用される。グルコース及びラクトースが特に好ましい。また、複数の種々の炭素源の組み合わせた供給も可能である。該炭素源は、その際、発酵の開始時に全てが発酵培地中に初充填されてよく、又は開始時には炭素源が全く初充填されていないかもしくは一部のみしか初充填されておらず、炭素源を発酵の経過にわたり供給することもできる。その際、炭素源の一部が初充填し、そして一部を供給する実施態様が特に好ましい。特に好ましくは、炭素源は、10〜30g/lの濃度で初充填され、その濃度が5g/l未満に下降したら供給を開始し、5g/l未満の濃度が維持されるようにする。
【0050】
培養中の酸素分圧(pO2)は、好ましくは10〜70%飽和度である。好ましくは、pO2は、30〜60%飽和度であり、特に好ましくは、pO2は、45〜55%飽和度である。
【0051】
培養のpH値は、好ましくはpH6〜pH8である。好ましくは、pH値は、6.5〜7.5の間に調整され、特に好ましくは、培養のpHは、6.8〜7.2に維持される。
【0052】
培養の温度は、好ましくは15〜45℃である。温度範囲20〜40℃が好ましく、温度範囲25〜35℃が特に好ましい、30℃が殊に好ましい。
【0053】
分泌されたタンパク質の粗生成物からの精製は、通常の当業者に公知の精製方法によって行うことができ、それらは先行技術において知られている。通常は、第一工程において、遠心分離又は濾過などの分離法によって、細胞を分泌された標的タンパク質から分離する。該標的タンパク質を、次いで、例えば限外濾過によって濃縮し、次いで沈殿、クロマトグラフィー又は限外濾過などの標準的方法によって更に精製することができる。この場合に、アフィニティークロマトグラフィーなどの方法であって、既に正確に折り畳まれたタンパク質の本来のコンフォメーションが利用できる方法が特に好ましい。
【0054】
以下の実施例を用いて、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0055】
全体の使用される分子生物学的方法及び微生物学的方法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、遺伝子合成、DNAの単離及び精製、DNAの制限酵素、クレノウ断片及びリガーゼによる改変、P1−形質導入などは、当業者に公知の、文献に記載される、又はその都度の製造元に推奨される様式及び方法で実施した。
【0056】
実施例1: E.コリ野生型菌株からの染色体性relA−欠失突然変異体の作成(比較例)
本発明にとって最も近い先行技術は、relA−突然変異に基づき低減されたPSI−活性を有し、かつrelA−野生型菌株と比較してペリプラズム中に分泌されるタンパク質が培養培地中に増大排出されるE.コリ菌株であり、例えば該菌株は、Gitter他(1995,Appl.Microbiol.Biotechnol.43,89−92)によって記載されている。前記の先行技術に対して減衰されたPSII−活性を有する菌株の利点を明らかにするために、relA−突然変異体を作成した。
【0057】
そのために、E.コリ野生型菌株W3110(アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)番号27325)を、λ−Red−レコンビナーゼを用いてDatsenko及びWanner(2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.97:6640−5)の方法に従って突然変異させた。まず、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってプライマーとしてオリゴヌクレオチドrelAmut−fw(配列番号6)及びrelAmut−rev(配列番号7)を使用し、かつ鋳型としてプラスミドpKD3(大腸菌遺伝子保存センター(Coli Genetic Stock Center)(CGSC))を使用して、クロラムフェニコール耐性遺伝子を含み、かつrelA−遺伝子の5′−領域もしくは3′−領域のそれぞれ50塩基対によってフランキングされている直鎖DNA断片を作成した。菌株W3110を、まずプラスミドpKD46(CGSC番号7739)で形質転換した。こうして得られた、Datsenko及びWannerの指示により製造された菌株W3110 pKD46のコンピテント細胞を、PCRによって上述のように作成された直鎖DNA断片で形質転換した。W3110の染色体中のrelA−遺伝子の位置でのクロラムフェニコール耐性カセットの組み込みについての選択は、20mg/lのクロラムフェニコールを含有するLB−アガープレート上で行った。こうして、relA−遺伝子のコーディング領域の95%が除去され、かつクロラムフェニコール耐性カセットによって置き換えられた細胞が得られた。組み込みが染色体の正しい位置で行われたことは、PCRによって、オリゴヌクレオチドrelA−fw(配列番号8)及びrelA−rev(配列番号9)を使用し、かつ鋳型としてクロラムフェニコール耐性細胞の染色体DNAを使用して確認した。それらの細胞を、プラスミドpKD46によって記載された手順(Datsenko及びWanner)に従ってキュアリングし、こうして作成された菌株をW3110relA::catと呼称した。菌株W3110relA::catの染色体からのクロラムフェニコール耐性カセットの除去は、Datsenko及びWannerの方法に従って、FLP−レコンビナーゼ遺伝子を有するプラスミドpCP20(CGSC番号7629)を用いて行った。最後に、前記の手順によって得られたクロラムフェニコール感受性のW3110のrelA−欠失突然変異体を、W3110ΔrelAと呼称した。
【0058】
実施例2: E.コリΔrelA−菌株からの染色体性spoT−欠失突然変異体の作成
E.コリ菌株W3110ΔrelAからのspoT−欠失突然変異体の作成は、原則的に、実施例1に記載した菌株W3110ΔrelAの作成と同様に行った。クロラムフェニコール耐性遺伝子を含み、spoT−遺伝子の5′−領域もしくは3′−領域のそれぞれ50塩基対によってフランキングされている直鎖DNA断片の作成のために、プライマーとしてオリゴヌクレオチドspoTmut−fw(配列番号10)及びspoTmut−rev(配列番号11)と、鋳型としてプラスミドpKD3を使用した。菌株W3110ΔrelA/pKD46を、直鎖DNA断片で形質転換した。W3110ΔrelAの染色体中のspoT−遺伝子とクロラムフェニコール耐性カセットとの効果的な交換は、PCRによって、オリゴヌクレオチドspoT−fw(配列番号12)及びspoT−rev(配列番号13)を使用して、かつ鋳型としてクロラムフェニコール耐性細胞の染色体DNAを使用して確認した。実施例1に記載される手順による染色体からのクロラムフェニコール耐性カセットの除去によって、菌株W3110ΔrelAΔspoTが得られた。
【0059】
実施例3: 種々のE.コリ菌株における染色体性spoT1−突然変異の導入
W3110ΔrelAのΔspoT−突然変異体の代わりに、spoT1−アレル(配列番号3;Durfee et al.,2008,J.Bacteriol.190,2597−606)を有するW3110ΔrelAの突然変異体を作成した。このために、spoT1−アレルを、菌株K10(Hfr PO2A tonA22 ompF626 relA1 pit−10 spoT1 T2(R);CGSC番号4234)から、ファージP1を使用した形質導入によって菌株W3110ΔrelAへと移動させた。このために、まず、クロラムフェニコール耐性カセットを、K10の染色体中に、遺伝子recGとgltSとの間でspoT−遺伝子の約2900塩基対を超えて組み込んだ(recG−gltS::cat)。その際、原則的に実施例1に記載されるように行った。クロラムフェニコール耐性カセットを含み、recG−gltSの遺伝子間領域の50塩基対によってそれぞれフランキングされている直鎖DNA断片を、PCRによって、プライマーとしてオリゴヌクレオチドrecG−catfw(配列番号14)及びgltS−catrev(配列番号15)を使用し、かつ鋳型としてプラスミドpKD3を使用して作成し、引き続き該菌株K10/pKD46中に形質転換した。こうして、染色体中に遺伝子recGとgltSとの間で耐性カセットが組み込まれているクロラムフェニコール耐性クローンが得られた(K10recG−gltS::cat)。組み込みが染色体の正しい位置で行われたことは、PCRによって、オリゴヌクレオチドrecG−fw(配列番号16)及びgltS−rev(配列番号17)を使用し、かつ鋳型としてクロラムフェニコール耐性細胞の染色体DNAを使用して確認した。菌株K10recG−gltS::catから、先行技術に従ってP1−溶解産物を作成し、次いでそれを菌株W3110ΔrelAに感染させた。こうして、W3110ΔrelAのクロラムフェニコール耐性形質導入物を得た。形質導入過程では、ほぼ100%の理論的同時形質導入率で、耐性カセットの他にも、染色体上で狭い空間的近隣に局在されるspoT1−アレルが、K10recG−gltS::catからW3110ΔrelAへと移動されるべきであった。実際にそのような場合であることは、spoT−遺伝子のPCRにより、オリゴヌクレオチドspoT−fw(配列番号12)及びspoT−rev(配列番号13)を使用し、かつ鋳型として該菌株の染色体DNAを用いて増幅させ、引き続きPCR産物の配列決定により確認した。実施例1に記載される手順による菌株W3110ΔrelAspoT1recG−gltS::catの染色体からの耐性カセットの除去によって、最終的に、菌株W3110ΔrelAspoT1が得られた。
【0060】
同様の方法によって、spoT1−アレルを、更にまたE.コリ野生型菌株W3110に導入した。得られた菌株を、W3110spoT1と呼称した。
【0061】
実施例4: 減衰されたPSII−活性を有するE.コリ菌株中へのlpp−"漏出"突然変異の導入
lpp3−突然変異の導入:
菌株W3110ΔrelAΔspoTもしくはW3110ΔrelAspoT1の染色体におけるlpp野生型遺伝子とlpp3−アレルとの交換は、相同組み換えによって実施した。菌株W3110ΔrelAΔspoTlpp3もしくはW3110ΔrelAspoT1lpp3の作成のために、US2008254511号の実施例3に記載されるのと同じように行った。こうして得られた菌株を、W3110ΔrelAΔspoTlpp3もしくはW3110ΔrelAspoT1lpp3と呼称した。
【0062】
lpp−欠失突然変異の導入:
菌株W3110ΔrelAΔspoTもしくはW3110ΔrelAspoT1の染色体中へのlpp−欠失の導入は、λ−Red−レコンビナーゼ−系を用いて、Datsenko及びWannerの方法(2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA..97:6640−5)によって、かつUS2008254511号の実施例1と同様に実施した。こうして得られた菌株を、W3110ΔrelAΔspoTΔlppもしくはW3110ΔrelAspoT1Δlppと呼称した。
【0063】
実施例5: 減衰されたPSII−活性を有する菌株での10l規模におけるシクロデキストリン−グリコシルトランスフェラーゼの発酵的産生
10l−規模でのクレブシエラ・ニューモニアM5a1からのシクロデキストリン−グリコシルトランスフェラーゼ(CGTアーゼ)の産生のために、菌株W3110ΔrelA、W3110spoT1、W3110ΔrelAΔspoT、W3110ΔrelAspoT1、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp、W3110ΔrelAΔspoTlpp3、W3110ΔrelAspoT1Δlpp及びW3110ΔrelAspoT1lpp3をCaCl2法によってプラスミドpCGTを用いて形質転換した。プラスミド含有細胞の選択は、アンピシリン(100mg/l)によって行った。
【0064】
該プラスミドpCGTは、アンピシリンに対する耐性に関する遺伝子の他に、とりわけ、本来のCGTアーゼ−シグナル配列を含むCGTアーゼの構造遺伝子をも含む。CGTアーゼ−遺伝子の発現は、tac−プロモーターの制御下にある。プラスミドpCGTは、US2008254511号の実施例4に記載されている。
【0065】
CGTアーゼ−産生は、10Lの撹拌槽発酵器中で、菌株W3110ΔrelA/pCGT、W3110spoT1/pCGT、W3110ΔrelAΔspoT/pCGT、W3110ΔrelAspoT1/pCGT、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp/pCGT、W3110ΔrelAΔspoTlpp3/pCGT、W3110ΔrelAspoT1Δlpp/pCGT及びW3110ΔrelAspoT1lpp3/pCGTを用いて行った。
【0066】
発酵培地FM4(1.5g/lのKH2PO4;5g/lの(NH42SO4;0.5g/lのMgSO4×7H2O;0.15g/lのCaCl2×2H2O;0.075g/lのFeSO4×7H2O;1g/lのNa3クエン酸塩×2H2O;0.5g/lのNaCl;1ml/lの微量元素溶液(0.15g/lのNa2MoO4×2H2O;2.5g/lのNa3BO3;0.7g/lのCoCl2×6H2O;0.25g/lのCuSO4×5H2O;1.6g/lのMnCl2×4H2O;0.3g/lのZnSO4×7H2O);5mg/lのビタミンB1;3g/lのフィトン;1.5g/lの酵母エキス;10g/lのグルコース;100mg/lのアンピシリン)6lで充填した発酵器に、1:10の比率で、一晩同じ培地で培養した前培養を植えた。発酵の間に、温度30℃に調整し、そしてpH値を、NH4OHもしくはH3PO4の計量供給によって7.0の値で一定に保持した。グルコースを、発酵にわたって計量供給して、発酵培地中の最大グルコース濃度を<10g/lにするように努めた。発現の誘導は、対数増殖期の終わりに0.1mMまでイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することによって行った。
【0067】
72時間の発酵後に、サンプルを取り出し、細胞を遠心分離によって発酵培地から分離し、発酵上清中のCGTアーゼ含有率を以下の活性テストによって測定した:
テストバッファー: 5mMのトリスHClバッファー >pH6.5、5mMのCaSO4・2H2
基質: テストバッファー(pH6.5)中の10%のNoredux溶液
テストバッチ: 1mlの基質溶液+1mlの遠心分離され、場合により希釈された培養上清(5分、12000rpm)+3mlのメタノール
反応温度: 40℃
【0068】
酵素テスト:
・ 溶液を予熱する(約5分、40℃で)
・ 酵素溶液を基質溶液に添加する;迅速に混合する(渦ミキサ(Whirl−Mixer))
・ 40℃で3分間インキュベートする
・ 酵素反応をメタノールの添加によって停止させる;迅速に混合する(渦ミキサ)
・ バッチを氷上で冷却する(約5分間)
・ 遠心分離(5分、12000rpm)をし、そして澄明な上清をピペットで取り出す
・ 生じたCDをHPLCによって分析する
酵素活性: A=G*V1*V2/(t*MG)(ユニット/ml)
A=活性
G=CDの含有率(mg/l)=テストバッチ: 単位表面×104/標準溶液(10mg/ml)/単位表面
V1=テストバッチにおける希釈係数(前記のように実施した場合:V1=5)
V2=テストで使用する前の培養上清の希釈係数;非希釈の場合:V2=1
t=反応時間(分)
MG=分子量(g/モル)(CD=973g/モル)
1ユニット=1モルの産物/分
【0069】
こうして測定されたCGTアーゼ活性から、発酵上清中に存在するCGTアーゼの量を計算することができる。その際、150U/mlのCGTアーゼ活性は、約1g/lのCGTアーゼタンパク質に相当する。
【0070】
第1表は、それぞれ達成されたシクロデキストリン−グリコシルトランスフェラーゼ収率を示している。
【0071】
第1表: 72時間の発酵後の発酵上清中でのシクロデキストリン−グリコシルトランスフェラーゼ収率
【表1】

【0072】
実施例6: 減衰されたPSII−活性を有する菌株での10l規模におけるヒルジン誘導体の発酵的産生
この実施例においては、N末端アミノ酸配列Ala−Thr−Tyr−Thr−Aspを有するヒルジン誘導体の発酵的製造を記載する。ヒルジン誘導体の産生のために、菌株W3110ΔrelA、W3110spoT1、W3110ΔrelAΔspoT、W3110ΔrelAspoT1、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp、W3110ΔrelAΔspoTlpp3、W3110ΔrelAspoT1Δlpp及びW3110ΔrelAspoT1lpp3を、まず、それぞれプラスミドpCMT203でCaCl2法によって形質転換した。プラスミド含有細胞の選択は、アンピシリン(100mg/l)によって行った。
【0073】
プラスミドpCMT203は、アンピシリンに対する耐性のための遺伝子の他に、とりわけCGTアーゼ−シグナル配列の3′−末端で読み枠内で融合されているヒルジン誘導体の構造遺伝子をも有する。CGTアーゼ−シグナル配列−ヒルジン−融合物の発現は、tac−プロモーターの制御下にある。プラスミドpCMT203は、EP0448093号に記載されている。
【0074】
ヒルジン誘導体の10l規模での産生は、実施例5に記載される方法と同様にして、菌株W3110ΔrelA/pCMT203、W3110spoT1/pCMT203、W3110ΔrelAΔspoT/pCMT203、W3110ΔrelAspoT1/pCMT203、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp/pCMT203、W3110ΔrelAΔspoTlpp3/pCMT203、W3110ΔrelAspoT1Δlpp/pCMT203及びW3110ΔrelAspoT1lpp3/pCMT203を用いて行った。72時間の発酵後に、サンプルを取り出し、引き続き細胞を遠心分離によって発酵培地から分離し、そして発酵上清中のヒルジン含有率を、Chang(1991,J.Biol.Chem.266,10839−43)に記載されるトロンビン−不活性化テストによって測定した。その際、16000のアンチトロンビン(AT)ユニット/mlのヒルジン活性は、約1g/lのヒルジン−タンパク質に相当する。
【0075】
第2表は、それぞれ達成された発酵上清中でのヒルジン収率を示している。
【0076】
第2表: 72時間の発酵後の発酵上清中のヒルジン収率(AT−U/ml及びg/l)
【表2】

【0077】
実施例7: 減衰されたPSII−活性を有する菌株での10l規模におけるインターフェロンα2bの発酵的産生
インターフェロンα2bの製造のために、菌株W3110ΔrelA、W3110spoT1、W3110ΔrelAΔspoT、W3110ΔrelAspoT1、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp、W3110ΔrelAΔspoTlpp3、W3110ΔrelAspoT1Δlpp及びW3110ΔrelAspoT1lpp3を、それぞれプラスミドpIFNでCaCl2法によって形質転換した。プラスミド含有細胞の選択は、アンピシリン(100mg/l)によって行った。
【0078】
プラスミドpIFNは、アンピシリンに対する耐性のための遺伝子の他に、とりわけCGTアーゼ−シグナル配列の3′−末端で読み枠内で融合されているインターフェロンα2bの構造遺伝子をも有する。CGTアーゼ−シグナル配列−インターフェロンα2b−融合物の発現は、tac−プロモーターの制御下にある。プラスミドpIFNは、US2008254511号の実施例6に記載されている。
【0079】
インターフェロンα2bの10l規模での産生は、実施例5に記載される方法と同様にして、菌株W3110ΔrelA/pIFN、W3110spoT1/pIFN、W3110ΔrelAΔspoT/pIFN、W3110ΔrelAspoT1/pIFN、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp/pIFN、W3110ΔrelAΔspoTlpp3/pIFN、W3110ΔrelAspoT1Δlpp/pIFN及びW3110ΔrelAspoT1lpp3/pIFNを用いて行った。72時間の発酵後に、サンプルを取り出し、引き続き、細胞を遠心分離によって発酵培地から分離し、発酵上清中のインターフェロンα2b含有率を測定した。
【0080】
このために、発酵上清中のタンパク質を電気泳動によりSDSポリアクリルアミドゲル中で分離させ、そしてイムノブロットにおける抗インターフェロン特異抗体による検出によって以下のように定量化した:
1μlの上清を、サンプルバッファーと混合した(2×Tris SDS−サンプルバッファー(Invitrogen カタログ番号LC2676):0.125Mのトリス塩酸(pH6.8)、4%(w/v)のSDS、20%(v/v)のグリセリン、0.005%(v/v)のブロモフェノールブルー、5%のβ−メルカプトエタノール)。更に、定義された量のインターフェロンα2bを、スタンダードとして一緒に施与した。タンパク質の変性を、100℃に5分間加熱し、氷上で2分間冷却することにより行い、そして遠心分離した。それらのタンパク質を、電気泳動によって、12%のNuPAGE(登録商標)Bis−Tris−Gel(Invitrogen カタログ番号NP0341)中で、1×MES含有ランニングバッファー(Invitrogen カタログ番号NP0002)を用いて分離させた(電気泳動パラメータ: 200Vで40分間)。
【0081】
イムノブロットによる検出と定量化を、以下の方法に従って実施した:
湿式ブロッティング法での転写
モジュール: Amersham: Hoefer TE 22 Mini Tank Transfer Unit、コード番号:80−6204−26
メンブレン: ニトロセルロースメンブレン(Schleicher&Schuell,BA85,硝酸セルロース(E),0.45μmの細孔サイズ)
Whatmanフィルタとニトロセルロースメンブレンを、適切な大きさに切断し、そして発泡物品(スポンジ)で転写バッファー(Invitrogen カタログ番号LC3675)に気泡なく染み込ませた。
積層の構成: 黒い格子、カソードとの接続、各3mm厚を有する2つのスポンジ、Whatmanペーパー、SDSポリアクリルアミドゲル、NCメンブレン、Whatman、6mm厚を有する1つのスポンジ、白い格子、アノードとの接続
転写条件: I=200mAの一定の電流、U=無制限、運転時間60分
【0082】
プレハイブリダイゼーション
25mlのプレハイブリダイゼーションバッファー中で該メンブレンをインキュベートする。
室温で30分間振り動かす。
【0083】
一次抗体のハイブリダイゼーション
25mlのプレハイブリダイゼーションバッファー+0.15μg/ml(→3.75μg)の抗ヒトIFN抗体(Pepro Tech EC,Biozolを経由した カタログ番号:500−P32A)中で該メンブレンをインキュベートする。
室温で90分間又は一晩振り動かす。
【0084】
洗浄
1×PBSと一緒に室温で10秒間振り動かし、バッファーを捨てる。
1×PBSと一緒に室温で15分間2回振り動かし、バッファーを捨てる。
【0085】
二次抗体のハイブリダイゼーション
25mlのプレハイブリダイゼーションバッファー+25μl(1:1000)のヤギ抗ウサギIgGセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート(HRP)(Southern Biotech、Biozolを経由した カタログ番号4050−05)中で該メンブレンをインキュベートする。
室温で60分間振り動かす。
【0086】
洗浄
1×PBSと一緒に室温で10秒間振り動かし、バッファーを捨てる。
1×PBSと一緒に室温で15分間2回振り動かし、バッファーを捨てる。
【0087】
化学発光による検出
Lumi−Lightウェスタンブロッティング基質(Roche,カタログ番号2015200)を準備する: Lumi−Lightルミノール/エンハンサー溶液とLumi−Light安定ペルオキシド溶液とを1:1の比率で混合する: ニトロセルロースメンブレン当たり3ml。
【0088】
ブロットを室温でLumi−Lightウェスタンブロッティング基質と一緒に5分間インキュベートし、過剰の水気を切り、メンブレンをラップフィルムで覆って、直ちにX線フィルム(Kodak、X−OMAT)を載せ、2分間暴露し、現像し、そして固定する。シグナルが弱い場合に、暴露をより長時間にわたり繰り返す。
【0089】
バッファー
プレハイブリダイゼーションバッファー: 1×PBS中の5%脱脂粉乳
10×PBS: 100mMのNaH2PO4、1.5MのNaCl、NaOHでpH7.5、0.5%のTriton 100
1×PBS: 10×PBSを完全脱塩水で1:10希釈したもの
【0090】
定量化
定量的評価は、Biorad社製のGS−800 Calibrated Densitometerでイムノブロットをスキャンすることによって、Quantity One 1−D分析ソフト(Biorad)を用いて、施与されたスタンダードと比較することによって実施した。
【0091】
第3表において、こうして測定された発酵上清中のインターフェロンα2bの収率を示す。
【0092】
第3表: 72時間の発酵後の発酵上清中でのインターフェロンα2bの収率
【表3】

【0093】
実施例8: 減衰されたPSII−活性を有する菌株での10l規模におけるFab−抗体フラグメントの発酵的産生
本実施例は、十分に特徴付けられている抗リゾチーム抗体D1.3のFab−フラグメントの産生を記載する。
【0094】
抗リゾチーム−Fab−フラグメントの製造のために、菌株W3110ΔrelA、W3110spoT1、W3110ΔrelAΔspoT、W3110ΔrelAspoT1、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp、W3110ΔrelAΔspoTlpp3、W3110ΔrelAspoT1Δlpp及びW3110ΔrelAspoT1lpp3を、それぞれプラスミドpFab−Anti−LysozymでCaCl2法によって形質転換した。プラスミド含有細胞の選択は、アンピシリン(100mg/l)によって行った。
【0095】
プラスミドpFab−Anti−Lysozymは、アンピシリンに対する耐性のための遺伝子の他に、とりわけFab−フラグメントのHC及びLCについての構造遺伝子をもオペロンの形で含む。その際、HCは、ompA−シグナル配列(ompASS)の3′−末端に読み枠内で融合されており、かつLCは、CGTアーゼ−シグナル配列(CGTSS)の3′−末端に読み枠内で融合されている。ompASS−HC−CGTSS−LC−オペロンの発現は、tac−プロモーターの制御下にある。プラスミドpFab−Anti−Lysozymは、US2008254511号の実施例7に記載されている。
【0096】
抗リゾチーム−Fab−フラグメントの10l規模での産生は、実施例5に記載される方法と同様にして、菌株W3110ΔrelA/pFab−Anti−Lysozym、W3110spoT1/pFab−Anti−Lysozym、W3110ΔrelAΔspoT/pFab−Anti−Lysozym、W3110ΔrelAspoT1/pFab−Anti−Lysozym、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp/pFab−Anti−Lysozym、W3110ΔrelAΔspoTlpp3/pFab−Anti−Lysozym、W3110ΔrelAspoT1Δlpp/pFab−Anti−Lysozym及びW3110ΔrelAspoT1lpp3/pFab−Anti−Lysozymを用いて行った。72時間の発酵の後に、サンプルを取り出し、引き続き該細胞を遠心分離によって発酵培地から分離した。
【0097】
発酵上清からの抗リゾチーム−Fab−フラグメントの精製は、Skerra(1994,Gene 141,79−84)に記載されるアフィニティークロマトグラフィーによって実施した。
【0098】
精製された抗リゾチーム−Fab−フラグメントの定量化並びに活性の測定は、抗原としてリゾチームを用いたELISAテスト(Skerra,1994,Gene 141,79−84)によって実施した。
【0099】
第4表において、それぞれ20mlの発酵上清から72時間の発酵後に単離することができた機能的な抗リゾチーム−Fab−フラグメントの収率を列記する。
【0100】
第4表: 72時間の発酵後の発酵上清中での抗リゾチーム−Fab−フラグメントの収率
【表4】

【0101】
実施例9: 減衰されたPSII−活性を有する菌株での10l規模における全長抗体の発酵的産生
本実施例は、抗組織因子(αTF)IgG1−抗体の産生を記載している。
【0102】
抗αTF抗体の製造のために、菌株W3110ΔrelA、W3110spoT1、W3110ΔrelAΔspoT、W3110ΔrelAspoT1、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp、W3110ΔrelAΔspoTlpp3、W3110ΔrelAspoT1Δlpp及びW3110ΔrelAspoT1lpp3を、それぞれプラスミドpAK−Anti−TFでCaCl2法によって形質転換した。プラスミド含有細胞の選択は、アンピシリン(100mg/l)によって行った。
【0103】
プラスミドpAK−Anti−TFは、アンピシリンに対する耐性のための遺伝子の他に、とりわけ抗αTF抗体のHC及びLCについての構造遺伝子をもオペロンの形で含む。その際、HCは、ompA−シグナル配列(ompASS)の3′−末端に読み枠内で融合されており、かつLCは、CGTアーゼ−シグナル配列(CGTSS)の3′−末端に読み枠内で融合されている。ompASS−HC−CGTSS−LC−オペロンの発現は、tac−プロモーターの制御下にある。プラスミドpAK−Anti−TFは、US2008254511号の実施例8に記載されている。
【0104】
抗αTF抗体の10l規模での産生は、実施例5に記載される方法と同様にして、菌株W3110ΔrelA/pAK−Anti−TF、W3110spoT1/pAK−Anti−TF、W3110ΔrelAΔspoT/pAK−Anti−TF、W3110ΔrelAspoT1/pAK−Anti−TF、W3110ΔrelAΔspoTΔlpp/pAK−Anti−TF、W3110ΔrelAΔspoTlpp3/pAK−Anti−TF、W3110ΔrelAspoT1Δlpp/pAK−Anti−TF及びW3110ΔrelAspoT1lpp3/pAK−Anti−TFを用いて行った。72時間の発酵の後に、サンプルを取り出し、引き続き該細胞を遠心分離によって発酵培地から分離した。
【0105】
発酵培地中に分泌された抗αTF抗体の定量化を、ELISAテストでの活性測定によって、抗原(コーティング)として可溶性の組織因子を用い、かつ二次抗体としてペルオキシダーゼとコンジュゲートされたヤギ抗ヒトF(ab′)2−フラグメントを用いて、Simmons他(2002,J.Immunol.Methods 263,133−47)に記載されるようにして実施した。
【0106】
第5表において、こうして測定された、機能的な抗αTF抗体の収率を列記する。
【0107】
第5表: 72時間の発酵後の発酵上清中での抗αTF抗体の収率
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
E.コリ菌株を発酵培地中で培養することで、異種タンパク質を製造する方法であって、該E.コリ菌株が、異種タンパク質をコードする遺伝子を、シグナルペプチドをコードするシグナル配列と機能的に結合されて含み、かつ該E.コリ菌株が、前記異種タンパク質を発酵培地中に分泌し、該異種タンパク質が発酵培地から分離される、異種タンパク質の製造方法において、前記E.コリ菌株が、減衰された(p)ppGpp−シンセターゼII活性(PSII−活性)を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
E.コリ菌株が、そのPSII−活性の改変前の菌株のPSII−活性の最大で50%、好ましくは最大で20%を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
E.コリ菌株が、spoT1−突然変異もしくは減衰されたPSII−活性に導くspoT−突然変異を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
E.コリ菌株が、PSII−活性の完全な損失をもたらすspoT−突然変異を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
E.コリ菌株が、付加的に、緩和された表現型に導くrelA−遺伝子中の突然変異を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
relA−突然変異が、PSI−活性の完全な損失をもたらすことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
E.コリ菌株が、omp−遺伝子、tol−遺伝子、excD−遺伝子、excC−遺伝子、lpp−遺伝子、pal−遺伝子、env−遺伝子及びleaky−遺伝子の群から選択される遺伝子中に"漏出"突然変異を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
"漏出"突然変異が、lpp−遺伝子中の突然変異、特に有利にはlpp1−突然変異、lpp3−突然変異及びlpp−欠失突然変異の群から選択される突然変異であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
異種タンパク質が、真核性タンパク質であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
シグナル配列が、E.コリのphoA−遺伝子もしくはompA−遺伝子のシグナル配列又はクレブシエラ・ニューモニアM5a1由来のシクロデキストリン−グリコシルトランスフェラーゼ(CGTアーゼ)のためのシグナル配列又は前記のシグナル配列から誘導される配列番号5の配列であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2010−142227(P2010−142227A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286007(P2009−286007)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】