説明

エスカレータの踏段清掃装置

【課題】エスカレータの溝内の異物を清掃する能力が高く、固着した異物が溝内に存在している場合でもエスカレータの損傷等を生じさせない安全機構を備えたエスカレータの清掃装置を提供する。
【解決手段】筐体10と、複数の溝の内部の異物を掻き取るための複数の掻き取り部材21と、掻き取り部材21を溝の底面に押し付ける力を複数の掻き取り部材21の各々に与える加圧部材と、掻き取られた異物を取り込む取込口31を有する異物通路32と、取り込まれた異物を排出する排出口33と、回転軸52が筐体10に支持され、踏段に接して回転する回転部材51とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータの踏段の踏面に設けられた溝を清掃するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータの踏段の踏面に設けられた溝の内部には、一般に、埃、乗客の衣類からの綿埃、靴の裏に付着した砂や土などが堆積することがある。特に積雪寒冷地においては、道路に散布される融雪剤や転倒防止用の砂が溝の内部に堆積することが多い。さらに、エスカレータに用いられる潤滑油が、溝に堆積した埃などに浸透して汚れを固形化させ、その結果、固形化した汚れが溝の内部に固着することもある。こうした溝の汚れ等(以下、「異物」という)は、乗降口における櫛板の破損とそれに伴うエレベータの非常停止、乗客のスリップや転倒事故、デマケーションラインの視認性の低下、乗客の衣服の汚損などといった問題の原因となっている。
【0003】
こうした踏段の溝の清掃は、一般に、作業員による手作業によって行われているが、多くの時間と労力を要するという問題がある。こうした問題を解決することを目的として、例えば特許文献1〜4に開示される技術が提案されてきた。特許文献1に開示される技術は、動力によって回転するブラシによって溝の内部の塵埃を清掃する装置に関するものである。この装置においては、ブラシによって溝から掻き出された塵埃は、装置に接続された真空掃除機によって吸引される。このようなブラシによる清掃装置は、他にも多くの特許文献で開示されている。こうしたブラシによる清掃装置は、短時間での清掃が可能であるが、踏段の溝内に固着した固形異物の除去が困難であり、特に踏段の両端における溝の異物除去が困難である。また、踏段表面のコーティグの剥離も懸念される。
【0004】
特許文献2に開示される技術は、複数のローラに掛け渡されて循環移動する無端状の複数の紐状清掃具によって溝の内部を清掃する装置に関するものである。この装置では、循環移動する紐状清掃具が溝の内部に挿入されることによって、溝の内部の塵埃が除去される。溝の幅に等しいかやや大きめの紐状清掃具は、綿などの柔軟性のある繊維によって構成されており、押圧装置によって溝の底面に押圧される。この技術もブラシを用いた技術同様、溝内に固着した固形異物の除去が困難であるという課題を有する。
【0005】
特許文献3に開示される技術は、弾性体である櫛状清掃体をエスカレータの溝に嵌合させることによって清掃を行う装置に関するものである。櫛状清掃体は、長さが溝の深さより長いため、櫛状清掃体の先端部が溝の底から離れることなく清掃することができるとされる。この技術もブラシを用いた技術同様、溝内に固着した固形異物の除去が困難であるという課題を有する。
【0006】
特許文献4に開示される技術は、踏み段の溝と嵌合する当接部(櫛部)が、踏み段の移動に伴って溝の底及び壁と摺動し、溝内の異物を掻き取る装置である。この技術では、溝内に掻き取ることができない固形の異物が存在する場合に、そのまま清掃を続けると、当接部とその異物とが噛み合い、エスカレータの稼働が制限されるため、エスカレータ本体に過大な負荷がかかり、エスカレータの損傷、非常停止等のおそれがあるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−276943公報
【特許文献2】特開2007−55790公報
【特許文献3】特開2000−44158公報
【特許文献4】特開2000−318965公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エスカレータの溝内の異物を単に清掃することのみを目的とした技術は、特許文献1〜4のように既に提案されている。しかし、これらの従来技術のうち、柔軟性のある掻き取り部材を用いた技術では、溝内の異物を十分に掻き取ることができない場合があり、一方、剛体を用いた技術では、溝内に固着して容易には掻き取ることのできない異物が溝内に存在した場合に、エスカレータの損傷や非常停止等のおそれがあるという問題があった。
【0009】
本発明は、エスカレータの溝内の異物を清掃する能力が高く、掻き出すことができない固着した異物が溝内に存在している場合でもエスカレータの損傷や緊急停止等を生じない安全機構を備えた、エスカレータの清掃装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、エスカレータの踏面に存在する複数の溝内に対応して溝内に挿入される複数の掻き取り部材が、各々独立に溝の底面から離れる方向に動作できるように装置を構成することにより、溝内の異物を効果的に掻き出すことができるとともに、掻き取ることができない異物が溝内に存在する場合でも複数の掻き取り部材がそれぞれ独立に異物から逃げることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、エスカレータの踏段に設けられた複数の溝を清掃するための装置が提供される。本装置は、筐体と、複数の溝の内部の異物を掻き取るための複数の掻き取り部材と、掻き取り部材を溝の底面に押し付ける力を複数の掻き取り部材の各々に与える加圧部材と、掻き取られた異物を取り込む取込口を有する異物通路と、取り込まれた異物を排出する排出口と、回転軸が筐体に支持され、踏段に接して回転する回転部材と、を備えることを特徴とする。
【0012】
複数の掻き取り部材は、筐体の内部において、踏段の進行方向に対して横方向に配列される。複数の掻き取り部材の各々は、筐体の内部において進行方向に対して横方向に延在する支持軸の周りに回転自在に支持された基部と、基部に対して進行方向の下流側に位置し、溝の底面に接する掻き取り部とを有し、基部が支持軸の周りに回転することに伴って掻き取り部が底面から離れる方向に動作するように構成される。また、掻き取り部は、前記底面と接したときに底面と成す角度が鋭角になるように形成された掻き取り面を有する。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、エスカレータの踏段に設けられた複数の溝を清掃するための装置に用いられ、装置が使用されるときにエスカレータの踏段に設けられた溝の底面に垂直な面となる対向する2つの主面を有する板状の掻き取り部材が提供される。掻き取り部材は、溝の底面に接する部分である底面当接部、底面当接部が底面に接したときに底面と鋭角を成す角度の方向に底面当接部から延びる第1の縁部、第1の縁部と底面との成す角度より小さい角度の方向に底面当接部から延びる第2の縁部、装置の筐体内部に設けられた支持軸の周りに回転自在に支持される部分である基部から、第2の縁部が延びる方向に向かって延びる上縁部、基部と第1の縁部の底面当接部とは反対側の端部とを結ぶ、第3の縁部、及び、上縁部の基部とは反対側の端部と第2の縁部の底面当接部とは反対側の端部とを結ぶ、第4の縁部、を有する。
【0014】
本発明の第3の態様によれば、エスカレータの踏段に設けられた複数の溝を清掃するための装置に用いられる異物掻き取りユニットが提供される。異物掻き取りユニットは、ユニット筐体と、ユニット筐体の内部においてエスカレータの踏段の進行方向に対して横方向に配列された、踏段の複数の溝の内部の異物を掻き取るための複数の掻き取り部材と、 複数の掻き取り部材を溝の底面に押し付ける力を複数の掻き取り部材の各々に与える加圧部材とを備える。掻き取り部材の各々は、底面と接したときに底面との成す角度が鋭角になるように形成された掻き取り面を含む掻き取り部を有し、掻き取り部が底面から離れる方向に動作するように構成される。
【0015】
本発明に係る清掃装置は、乗り口側のステップ上に支持され、その状態でエスカレータを運転することによって、本装置本体には動力源を設けることなく、適切な形状にされた異物の掻き取り部材が溝の内部から異物を掻き取り、エスカレータ踏段の溝の内部を効率的に清掃することができる。本装置には、複数の掻き取り部材が複数の溝の各々に対応して設けられており、複数の掻き取り部材の各々の掻き取り部が軸を支点として独立に上方に動作可能にしたことによって、溝の内部に固着した異物が存在する場合でも、エスカレータの損傷や、予期しない非常停止を、防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るエスカレータ踏段清掃装置の内部構造を側方から見た場合の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るエスカレータ踏段清掃装置がエスカレータの踏段に設置されたときの状態を説明するための、筐体の一部を取り除いて内部構造が見えるようにした装置の概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るエスカレータ踏段清掃装置をエスカレータに設置したときの状態を説明するための概略図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る異物掻き取りユニットを説明するための概略的な側方断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態に係る異物掻き取りユニットを説明するための概略的な側方断面図である。
【図6】本発明の別の実施形態に係る加圧部材の概略的な斜視図である。
【図7】図6に示される加圧部材を用いた実施形態に係る異物掻き取りユニットを説明するための概略的な側方断面図である。
【図8】固着異物が存在した場合における本発明の一実施形態に係る異物掻き取りユニットの変位の状態を説明するための概略的な側方断面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る異物収集ユニット及び動力伝達ユニットを説明するための概略的な側方断面図である。
【図10】異物収集ユニットの異物通路及び取込口を横方向に複数の通路に分割した場合を説明するための模式図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る異物受けユニットを説明するための概略的な側方断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るエスカレータ踏段清掃装置1の内部構造を側方から見た場合の概略図である。図2は、エスカレータ踏段清掃装置1がエスカレータの踏段102に設置されたときの状態を示す、筐体10の一部を取り除いて内部が見えるようにした装置1の斜視図である。図3は、エスカレータ踏段清掃装置1をエスカレータに設置したときの状態を説明するための概略図である。本明細書においては、図1〜図3を含むすべての図面において、図の右側をエスカレータの踏段の進行方向とし、図の右方向を進行方向の下流側、左方向を進行方向の上流側という。また、エスカレータ踏段清掃装置1は、エスカレータの進行方向の下流側を前部、上流側を後部とする。
【0018】
1.装置の概要
図1に示されるように、エスカレータ踏段清掃装置1は、筐体10の内部に、異物掻き取りユニット20、異物収集ユニット30、異物受けユニット40、動力伝達ユニット50、及び回転部材51を備える。
【0019】
筐体10は、上述の異物掻き取りユニット20、異物収集ユニット30、異物受けユニット40、動力伝達ユニット50、及び回転部材51を内部に収納できる形状のものであればよい。筐体10の材質は、特に限定されるものではないが、例えばポリカーボネート樹脂、ABS樹脂などのように、強度があって軽量の材質であればよい。図1に示されるように、筐体10の前部は、上昇する踏段102Bに接触しないように、例えば底面から前面にかけて斜めに面取りされた形状であることが好ましい。
【0020】
異物掻き取りユニット20は、複数の掻き取り部材21を備える。掻き取り部材21の各々は、図2に示されるように、エスカレータの踏段102の進行方向に対して横方向に配列されている。踏段102の移動とともに進行方向に移動する溝103内部の異物は、複数の掻き取り部材21の各々に設けられた掻き取り部22によって溝103の内部から掻き取られるようになっている。
【0021】
異物収集ユニット30は、溝103の内部から掻き取られた異物を収集するためのものである。異物収集ユニット30は、異物を取り込む取込口31を有する異物通路32と、取り込んだ異物を排出する排出口33とを備える。排出口33は、図3に示されるように、例えばホース36等を介して、例えば真空掃除機などの吸引装置106に接続される。
【0022】
異物受けユニット40は、異物掻き取りユニット20によって溝103から掻き取られた異物が、異物収集ユニット30によって取り込まれるまでの間に踏段102の進行と共に進行方向の下流側に排出されないようにするためのものである。
【0023】
動力伝達ユニット50は、複数の動力伝達部材54〜58(図9を用いて後述される)を有する。動力伝達ユニット50は、異物収集ユニット30に通路切替部材34(図9及び図10を用いて後述される)が設けられた実施形態の場合において、回転部材51が踏段102の上面と接して回転する回転力を通路切替部材34に伝達するためのものである。
【0024】
回転部材51は、端部が筐体10の側壁に支持された回転軸52を有する円柱形の部材である。回転部材51は、その側面が踏段102の上面に接し、踏段102の進行とともに回転することによって、装置1を支持し、装置1の稼働時に姿勢を安定させるためのものである。一実施形態においては、回転部材51は、一方の端部又は両方の端部に、溝103の凹部に挿入されるフランジ53を有することが好ましい。この実施形態の場合には、回転部材51のフランジ53が踏段102の溝103と嵌合することによって、より走行安定性が向上する。また、フランジ53は、装置1の踏段102上への配置の際の基準位置として利用することもできる(この点については、異物掻き取りユニット20の説明の部分において後述する)。
【0025】
エスカレータ踏段清掃装置1は、図3に示されるように、エスカレータの乗り口側において、櫛板104の下流側に配置される。装置1は、櫛板104の先端と、ステップ102Aとステップ102Bとの間に段差が生じる地点との間、すなわち図1における距離aの間に、掻き取り部材21の掻き取り部22から回転部材51までが収まり、装置1の筐体10の前部が、上昇する踏段102Bに接触しないように構成されることが好ましい。
【0026】
装置1は、エスカレータに設置する際には、好ましくは装置1の前部の適当な位置に設けられた取手2を支持しながら、回転部材51を踏段102上に降ろし、次いで、複数の溝103の各々の内部に複数の掻き取り部材21の各々を挿入する。次いで、好ましくは装置1の後部底面に設けられたゴム足4を介して、装置1の後部をエスカレータのランディングプレート101の上に載せる。最後に、例えば2つの手摺ベルト架台105の最下部間に渡した支持棒などの支持部材108と、装置1の筐体10における後部の側面の間に渡された支持部材60とを、例えば平ベルトなどの連結部材5で連結する。この状態でエスカレータを稼働させることによって、装置1がエスカレータの踏段102の進行方向に向かって吊り下げられた状態で支持され、踏段102の移動に伴って溝103内の異物が掻き取り部材21で掻き取られることになる。なお、本実施形態においては、手摺ベルト架台の最下部を固定点として装置1が支持されるが、エスカレータの旅客誘導柵、バキュームパット及び点検口枠などを固定点としてもよい。
【0027】
2.異物掻き取りユニット
図4は、本発明の一実施形態に係る異物掻き取りユニット20の側方断面図である。異物掻き取りユニット20は、本発明の一実施形態においては、複数の溝103の各々の内部の異物を掻き取るための複数の掻き取り部材21と、図2に示されるように進行方向に対して横方向に配列された複数の掻き取り部材21を支持するための、両端が筐体10の側壁に固定された支持軸23と、加圧部材24と、複数の掻き取り部材21の位置決めガイド26とを有する。本発明の別の実施形態においては、これらの部材一式をユニット筐体10’内に装備して、ユニット筐体10’を筐体10に組み込むようにすることもできる。この場合には、支持軸23の両端はユニット筐体10’の側壁に固定されることになる。このように構成することにより、例えば清掃するエスカレータ踏段の溝103の数に応じて、その数に対応する数の掻き取り部材21が装備されたユニット筐体10’ごと交換することが可能となる。
【0028】
複数の掻き取り部材21の数は、踏段102の溝103の溝数と同数、溝103の数の半分、又は、溝103の数の4分の1などというように、任意の数にすることができる。複数の掻き取り部材21の材質は、限定されるものではないが、踏段102及び溝103などの損傷の防止や、掻き取り部材21自体の破損の防止などを考慮して、例えばポリカーボネート樹脂、ABS樹脂などのように、強度があり、軽量で、柔軟性の高い材質が好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態においては、複数の掻き取り部材21の各々は、図2に示されるように支持軸23に垂直な主面を有する板状の部材であり、支持軸23に回転可能に接続される基部25と、溝104の内部から異物を掻き取るのに適した形状の掻き取り部22と、これらを接続する複数の縁部と、を備える。複数の掻き取り部材21の掻き取り部22は、複数の溝103の内部に挿入されて、溝103の内部の異物を掻き取ることができる。
【0030】
複数の掻き取り部材21の各々が、独立に、支持軸23に回転可能に接続されることによって、いずれかの溝103の内部に固着した掻き取りできない異物が存在する場合でも、その溝103に対応する掻き取り部材21のみが支持軸23の周りに回転して、掻き取り部22が上方に移動する。
【0031】
基部25の形状及び構造は、特に限定されるものではなく、支持軸23の周りに回転できるように接続されるとともに、掻き取り部材21に作用する力によって損傷しない形状であればよい。本発明の一実施形態においては、基部25は、図4に示されるように、円弧状縁部25aと、その両端から延びる2つの直線状縁部25b、25cと、該円弧状縁部25a及び直線状縁部25b、cで囲まれた板状部分に設けられた開口部25dとを有し、この開口部25dに軸23が通されることによって、基部25が支持軸23の周りに回転可能に接続される(すなわち、開口部25dの内周が軸23の周りに摺動する)。
【0032】
掻き取り部材21の厚みは、溝103の幅より若干薄い厚みとすることが好ましい。このような厚みとすることにより、例えば溝103の側面に固着している異物が存在する場合に、掻き取り部材21が側方に撓むための余裕が存在することになるため、掻き取り部材21の損傷が防止されると共に、装置1に過大な負荷がかかるのを防ぐことができる。
【0033】
掻き取り部22は、本発明の一実施形態においては、図4に示されるように、溝103の底面と接する底面当接部22aと、底面当接部22aの進行方向の上流側における端部22a1から進行方向の下流側に向かって上方に延びる第1の縁部22bと、底面当接部22aの進行方向の下流側における端部22a2から進行方向の下流側に向かって上方に延びる第2の縁部22cと、を有する。掻き取り部22の第1の縁部22bが、溝103内部の異物の掻き取り面を構成する。図4に示されるように、第1の縁部22b及び第2の縁部22cは、本発明の一実施形態においては円弧状であるが、これに限定されるものではなく、直線状であってもよい。
【0034】
図4においては、掻き取り部22の底面当接部22aは、進行方向に延びる所定の長さを有するものとされているが、本発明の別の実施形態においては、底面当接部22aは、進行方向には長さを持たない形状、すなわち、図4のように側面からみたときに溝103の底面に1点で接する形状であってもよい。このとき、底面当接部22aは、溝103の幅方向には、掻き取り部材21の厚みに相当する長さの、溝103の底面との接触部分を有することになる。この実施形態においては、第1の縁部22b及び第2の縁部22cはいずれも、図4のように側面からみたときには溝103の底面に接する1点から上方に延びることになる。
【0035】
本発明の一実施形態においては、複数の掻き取り部材21の各々はさらに、図4に示されるように、基部25の直線状縁部25cの端部から進行方向の下流側に向かって延びる上縁部21a、基部25の直線状縁部25bの端部と第1の縁部22bの底面当接部22側とは反対側の端部とを結ぶ第3の縁部21b、及び、上縁部21aの基部25側とは反対側の端部と第2の縁部22cの底面当接部22側とは反対側の端部とを結ぶ第4の縁部21cと、を有する。上縁部21aは、後述する加圧部材23との位置関係を考慮すると、溝103の底面と概ね平行に延びることが好ましい。
【0036】
本発明の別の実施形態によれば、複数の掻き取り部材21の各々は、図5に示されるような形状のものとすることもできる。図5に示される掻き取り部材21は、図4に示される掻き取り部材21の上縁部21a及び縁部21cが一つの縁部として構成され、縁部21dとなっている。
【0037】
複数の掻き取り部材21は、各々が同一形状であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、本発明の機能を発揮することができる限りにおいて、複数の掻き取り部材21の各々又は一部を互いに異なる形状としてもよい。
【0038】
本発明の一実施形態においては、加圧部材24は、例えば発泡ゴムなどの弾性体であることが好ましい。本発明の一実施形態においては、加圧部材24は、図2及び図4に示されるように断面矩形の柱状であり、1つの側面が、の筐体10の上面に、好ましくはスペーサ27を介して取り付けられる。ユニット筐体10’を設ける別の実施形態においては、加圧部材24は、異物掻き取りユニット20のユニット筐体10’の上面に取り付けることもできる。加圧部材24は、本発明の一実施形態においては、図2及び図4に示されるように、筐体10又は異物掻き取りユニット20の上面に取り付けられる側とは反対側の側面が、複数の掻き取り部材21の上縁部21aに当接し、加圧部材24の復元力によって掻き取り部材21を下方に押し付ける。これにより、掻き取り部22の底面当接部22aが、溝103の底面に一定の力で押し付けられる。本発明の別の実施形態においては、加圧部材24は、図5に示されるように、異物掻き取りユニット20の上面に取り付けられる側とは反対側の側面が複数の掻き取り部材21の縁部21dに当接し、加圧部材24の復元力によって掻き取り部材21を下方に押し付ける。
【0039】
加圧部材24の形状は、断面矩形の柱状に限定されるものではなく、円柱状又は多角柱状などといった任意の形状とすることもできる。加圧部材24は、1つの部材として複数の掻き取り部材21を加圧しているが、2つ以上の部材に分割して複数の加圧部材を設け、各々の加圧部材が複数の掻き取り部材21の幾つかずつを加圧するようにしてもよい。
【0040】
加圧部材24として、発泡ゴムなどの弾性体を用いることによって、掻き取り部材21の上縁部21a(又は縁部21d)が加圧部材24に食い込み、異物によって掻き取り部材21が左右にずれても元の位置への復元が容易であるため、掻き取り部材21が安定する。また、使用により掻き取り部材21の掻き取り部22が摩耗して押し付け圧力が減少した場合でも、発泡ゴムなどの弾性体の厚みを変えることによって、押し付け圧力を適切な値に修正することができる。使用により掻き取り部材21の掻き取り部22が摩耗した場合において、加圧部材24と筐体10(又は、異物掻き取りユニット20のユニット筐体10’の上壁)との間にスペーサ27を挿入することによって、一定の押し付け圧力を維持するようにしてもよい。
【0041】
図6は、本発明の別の実施形態に係る加圧部材240の概略的な斜視図を示す。図6に示されるように、加圧部材240は、基部241と、該基部241から突出する複数の櫛歯242とを有する、弾性板状体とすることができる。加圧部材240の材料は、特に限定されるものではなく、例えば鋼板、銅板、ステンレス鋼板などとすることができる。加圧部材240は、図7(a)及び(b)に示されるように、筐体10又はユニット筐体10’のいずれかの部分に、例えば穴245を介して固定具で固定される。複数の櫛歯242の各々の先端部は、一実施形態における掻き取り部材21の各々の上縁部21aに(図7(a))、又は、別の実施形態における掻き取り部材21の各々の縁部21dに(図7(b))当接することによって、加圧部材240の復元力により掻き取り部材21を下方に押し付ける。これにより、掻き取り部22の底面当接部22aが、溝103の底面に一定の力で押し付けられる。
【0042】
図6に示されるように、加圧部材240の櫛歯242の先端部には、先端部の両端から2つの突出部243を設けることが好ましい。この突出部243と櫛歯242とで形成される空間に、掻き取り部材21の上縁部21a(又は縁部21d)が収容される。これによって、溝103内に固着した異物により掻き取り部材21の掻き取り部22が上方に移動したときでも、加圧部材240の櫛歯242が掻き取り部材21の上縁部21a(又は縁部21d)から外れることを防止することができる。
【0043】
本発明の一実施形態においては、異物掻き取りユニット20は、さらに、複数の掻き取り部材21の各々の間に位置する複数の櫛歯26aと、該複数の櫛歯26aを支持する基部26bとを有する、掻き取り部材位置決めガイド26を備える。掻き取り部材位置決めガイド26は、例えば基部26bが筐体10又はユニット筐体10’に固定されている。複数の櫛歯26aは、それぞれの櫛歯26aの間隔が溝103の凸部の幅と概ね等しく、それぞれの櫛歯26aの幅(すなわち進行方向に対して横方向の長さ)が溝103の凹部の幅(すなわち、溝103の底面の進行方向に対して横方向の長さ)と概ね等しい。従って、装置1を踏段102に設置する際に、本装置1の側面を溝103と平行に合わせて降ろす事によって、掻き取り部材位置決めガイド26によって位置決めされた複数の掻き取り部材21を、溝103の凹部に一括して挿入することが容易になる。
【0044】
この点について、装置1の側面を基準として、回転部材51のフランジ53と、掻き取り部材位置決めガイド26の櫛歯26aのいずれかと、後述する異物受けユニット40の異物受け部材41の櫛歯41aいずれかとを、同一直線上に配置した構造とすることによって、フランジ53を溝103に挿入し、装置1の側面を溝103と平行にしてから装置1を踏段102上に降ろせば、複数の掻き取り部材21の各々を一括して複数の溝103内に挿入することができる。
【0045】
また、掻き取り部材位置決めガイド26を設けることによって、掻き取り部材21の支持軸23の部分への塵や埃などの進入を防止することもできる。櫛歯26aの形状は、断面が矩形であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、例えば断面を円形、楕円形、又は多角形とすることもできる。
【0046】
掻き取り部材位置決めガイド26の櫛歯26aが配置される位置は、支持軸23からの距離が遠いほど、掻き取り部材21の各々の横方向のぶれが軽減され、安定した異物掻き取りが可能となる。本発明の一実施形態においては、掻き取り部材位置決めガイド26の櫛歯26aの位置は、櫛歯26aの下面と筐体10の下面とが同一平面に位置するように設定されることが好ましい。
【0047】
ここで、本発明の一実施形態に係る掻き取り部材21について、溝103の内部に容易に除去できない固着した異物が存在する場合に、掻き取り部材21がどのように作動するかを、掻き取り部材21の形状及び各部分の角度の好ましい形態を明らかにしながら、図8を用いて説明する。図8は、図4と同様に、本発明の一実施形態に係る異物掻き取りユニット20を側方からみた場合の断面図である。溝103の内部に掻き取りできない固着した異物111が存在する場合(すなわち、加圧部材24の押し付け圧力では掻き取りすることができない異物111が存在する場合)に、掻き取り部22がその異物111に接触したときには、掻き取り部材21は、支持軸23を支点として回転して掻き取り部22が上方に移動し、底面当接部22aが溝103の底面から離れる。移動後の掻き取り部材21の位置は、図8において一点鎖線で示される。
【0048】
掻き取り部材21の掻き取り部22が溝103の底面に接触しているときにおける、掻き取り部22の上流側の端部22a1(すなわち、底面当接部22aと第1の縁部22bとの交点)と支持軸23の軸中心とを結ぶ直線が、溝103の底面と成す角度A(図8において「A」で示される角度)は、本発明の一実施形態においては、約40°〜約50°が好ましく、約45°がより好ましい。この角度Aは、小さければ小さいほど、加圧部材24による押し付け圧力を小さくしながら、異物111の除去効果を向上させることができる。しかし、この角度を小さくしすぎると、掻き取り部材21が掻き取りできない異物111によって上方に動作するための十分な空間を確保できない場合がある。これは、上述したように、本発明に係る装置1は、装置1の筐体10の前部が上昇する踏段102Bに接触しないようにコンパクトに構成されることが好ましいためである。また、このように装置1をコンパクトに構成するためには、支持軸23を装置1内の上方に設けることが好ましく、そのためには、角度Aを小さくすることが難しい。一方、角度Aを大きくしすぎると、掻き取り部材21の水平移動距離が大きくなるため好ましくない。したがって、これらのことを考慮した上で発明者が研究を行った結果、角度Aは、上述のとおり、約40°〜約50°が好ましく、約45°がより好ましいことが分かった。
【0049】
掻き取り部材21の掻き取り部22が溝103の底面に接触しているときにおける、端部22a1と支持軸23の軸中心とを結ぶ直線と、掻き取り部22の掻き取り面、すなわち端部22a1における第1の縁部22bの接線との間の角度(図8において「B」で示される角度)は、本発明の一実施形態においては、約60°〜約70°が好ましく、約65°がより好ましい。この角度Bが小さいほど、異物が掻き取り部材21に接触したときに掻き取り部材21の掻き取り部22が異物から逃げて移動することが容易になるが、角度Bが小さすぎる場合には、異物の除去効果が低下する可能性がある。一方、角度Bが大きいほど異物の除去効果は高くなるが、大きすぎる場合には掻き取り部22が逃げて移動しづらくなるため、掻き取り部材21の破損のおそれが高まる。したがって、これらのことを考慮した上で発明者が研究を行った結果、角度Bは、上述のとおり、約60°〜約70°が好ましく、約65°がより好ましいことが分かった。
【0050】
掻き取り部材21の掻き取り部22が溝103の底面に接触しているときにおける、掻き取り部22の掻き取り面、すなわち端部22a1における第1の縁部22bの接線が、溝の底面と成す角度C(図8において「C」で示される角度)は、本発明の一実施形態においては、約65〜約75°が好ましく、約70°がより好ましい。この角度Cが小さければ小さいほど、異物の除去効果は高いが、角度Cが小さすぎる場合には、掻き取りできない異物が溝103の内部に存在したときに、掻き取り部材21が上方に逃げられないため、掻き取り部21が破損する可能性が大きくなる。一方、角度Cを大きくしすぎると、異物の除去効果が低下する。したがって、これらのことを考慮した上で発明者が研究を行った結果、角度Cは、上述のとおり、約65°〜約75°が好ましく、約70度がより好ましいことが分かった。
【0051】
3.異物収集ユニット及び動力伝達ユニット
図9は、本発明の一実施形態に係る異物収集ユニット30及び動力伝達ユニット50の側方断面図である。異物収集ユニット30は、異物掻き取りユニット20に対して、進行方向の下流側に位置する。異物収集ユニット30は、掻き取り部材21によって掻き取られた異物を取り込む取込口31を有する異物通路32と、取り込まれた異物を排出する排出口33とを有する。排出口33から排出された異物は、図3に示されるように、例えばホース36などを介して、掃除機などの吸引装置106によって吸引される。取込口31の開口の進行方向の大きさは、本発明の一実施形態においては、異物の取り込みを容易にするために、溝103の凹部の幅より若干大きい距離とすることが好ましい。また、取込口31の開口の進行方向に対して横方向の大きさは、複数の掻き取り部材21によって掻き取られた異物を全て取り込むことができるように、複数の掻き取り部材21の横方向全体にわたる長さと概ね等しいことが好ましい。
【0052】
ところが、取込口31の横方向の大きさをこのようにすると、取込口31の開口面積が広すぎるため、吸引装置106の能力によっては十分な取り込み効果が得られない場合もある。そのため、本発明の別の実施形態においては、異物通路32及び取込口31を横方向に複数の通路に分割することが好ましい。この実施形態の異物通路32及び取込口31を進行方向に向かってみたときの断面の概略図を、図10に示す。図10においては、取込口31は、横方向に4つの取込口31a、31b、31c、及び31dに分割されており、同様に異物通路32も、横方向に4つの異物通路32a、32b、32c、及び32dに分割されている。取込口31及び異物通路32の分割数は、4つに限定されるものではない。
【0053】
この実施形態においては、通路32a〜32dと排出口33との間には、通路切替部材34が設けられる。通路切替部材34は、異物通路32a〜32dと排出口33との連通を、32aから32dまで順次切り替えるための部材である。すなわち、通路切替部材34によって異物通路32aと排出口33とが連通されることにより、取込口31aから取り込まれた異物は、異物通路32aを介して排出口33から排出され、次に、通路切替部材34によって異物通路32bと排出口33とを連通することにより、取込口31bから取り込まれた異物は、異物通路32bを介して排出口33から排出される。その後も同様に、通路切替部材34によって、順次、排出口33と連通する異物通路を、31c、31d、31a、31b・・・と切り替えることにより、掻き取り部材21によって掻き出された異物は、取込口31a〜31dに相当する部分の異物が、取込口31a〜31dの各々から順次取り込まれ、異物通路32a〜32dを通って排出口33から排出される。
【0054】
通路切替部材34は、一実施形態においては、図9及び図10に示されるように、軸34cを通る軸線の周りに回転する、筒状の部材が用いられる。通路切替部材34の側面には、複数の異物通路32a〜32dの1つ又は複数と連通する開口34aが設けられる。また、通路切替部材34の両端面のうちの一方(図9における進行方向の上流側)には、排出口33と連通する開口34bが設けられる。図10に示されるように、通路切替部材34が軸34cを通る軸線を中心として例えば矢印ALの方向に回転することによって、開口34aと異物通路32a〜32dとの間の連通が順次切り替わる。
【0055】
この実施形態においては、通路切替部材34の回転の駆動力は、動力伝達ユニット50によって、回転部材51から伝達される。動力伝達ユニット50は、複数の動力伝達部材によって構成されることが好ましい。すなわち、動力伝達ユニット50は、回転部材51の回転軸52に接続された第1のプーリー54、第1のプーリー54の回転力を伝達するベルト55、ベルト55によって第1のプーリー54と連結された第2のプーリー56、第2のプーリーの回転の方向を変えるウォーム歯車機構57、及びウォーム歯車機構57の回転を通路切替部材34に伝達する軸58で構成することができる。この動力伝達ユニット50によって、エスカレータの踏段の進行によって回転する回転部材51の回転力を、通路切替部材34に伝達することができる。動力伝達ユニット50の構成は、図9に示される構成に限定されるものではなく、回転部材51の回転力を通路切替部材34に伝達することができる構成であればよい。また、動力伝達ユニット50の代わりに、通路切替部材34を電気的に回転させるための機構、例えば軸34cと接続される軸58にモータを接続し、モータの回転力によって通路切替部材34を回転させてもよい。
【0056】
このように、取込口31及び異物通路32を複数に分割し、通路切替部材34によって各々の通路ごとに異物を取り込むことによって、各々の取込口及び異物通路の取り込み効率を向上させることができる。
【0057】
本発明の一実施形態においては、取込口31の異物掻き取りユニット20側には、下端が踏段102の上面(すなわち、溝103の凸部の上面)に接する程度の長さの板状体35を設けることが好ましい。板状体35の材質は、特に限定されない。この板状体35と、取込口31の下流側に設けられる異物受けユニット40の異物受け部材41及び異物受けブラシ42(後述される)とによって、異物収集ユニット30と踏段102との間の空間が閉鎖され、異物の取り込み効率が向上する。
【0058】
4.異物受けユニット
図11は、本発明の一実施形態に係る異物収集ユニット30及び異物受けユニット40の概略的な側方断面図である。異物受けユニット40は、異物収集ユニット30に対して進行方向の下流側に位置し、異物掻き取りユニット20によって溝103の内部から掻き出された異物が異物収集ユニット30によって取り込まれるまでの間、異物を取込口31の近くに留めておく機能を有する。特に、取込口31及び異物通路32が複数の通路に分割された実施形態の場合には、各々の通路と排気口33との間の連通が切り替わる間、掻き出された異物を排気口33と連通状態にない取込口31近くに留めておく必要があるため、異物受けユニット40を異物収集ユニット30の下流側に配置する利点は大きい。
【0059】
本発明の一実施形態においては、異物受けユニット40は、異物受け部材41、異物受けブラシ42、及び基部43を有し、異物受け部材41及び異物受けブラシ42は基部43に接続されている。異物受け部材41は、比較的大きい異物を受ける機能を有し、異物受けブラシ42は、異物受け部材41によって捉えられない異物、例えば粉塵などのような細かい異物を受ける機能を有する。異物受けユニット40の基部43は、例えばバネ付き蝶番などの接続部材44によって、異物収集ユニット30の壁面36に接続される。異物受けユニット40は、接続部材44のバネの力によって、異物受け部材41が溝103の底面に対して垂直になるように保たれる。壁面36の一部には、異物受け部材41の上部を収容できるように、切り欠き部が形成されることが好ましい。
【0060】
異物受け部材41は、図2及び図11に示されるように、溝103の凹凸に対応する形状の櫛歯状となっている。すなわち、異物受け部材41は、櫛歯41aが溝103の内部に挿入される。櫛歯41aと、溝103の底面及び側面との間には、適切な隙間が設けられることが好ましい。
【0061】
異物受けブラシ42は、図2に示されるように、進行方向に対して横方向に密に、基部43から溝103の底面方向に伸びる。異物受けブラシ42の長さは、図11に示されるように、基部43から溝103の底面までの距離より長く、そのため、掻き取り部材21によって掻き取られた異物のうち、例えば粉塵などの比較的細かい異物を溝103から拭き取ることができる。
【0062】
本発明の別の実施形態においては、異物受けユニット40を複数に分割することもできる。すなわち、異物受けユニット40の基部43を複数に分割し、その各々に、その幅に相当する幅の異物受け部材41と異物受けブラシ42とを設けるとともに、各々の基部43をそれぞれ独立して接続部材44によって壁面36に接続するようにしてもよい。
【0063】
5.固着異物の検知機構
本発明の一実施形態においては、本装置1は、異物掻き取りユニット20によっては掻き取ることができない固着した異物が溝103に存在した場合に、その異物の存在を検知するための固着異物検出機構70を備えることが好ましい。固着異物検出機構70は、一実施形態においては、固着異物検出スイッチ71と固着異物検出制御部72と警報装置73とを含む。溝103内に、掻き取りユニット20の掻き取り部材21によっては掻き取ることができない固着異物111が存在する場合、その固着異物111は、踏段102の進行に伴って異物受けユニット40の異物受け部材41に当たる。異物受け部材41に当たった固着異物111は、異物受け部材41を、接続部材44の蝶番を支点として、進行方向に向かって下流側上方に押し上げる。異物受けユニット40の基部43は、異物受け部材41の動作に伴って移動し、固着異物検出スイッチ71を作動させる。固着異物検出スイッチ71が作動すると、固着異物検出制御部72は、溝103内に掻き取りできない固着異物111が存在するものと判断し、警報装置73を作動させる。図11においては、固着異物検出スイッチ71は、リミットスイッチが用いられているが、これに限定されるものではなく、異物受けユニット40の動きを検出できるいずれかの機構であればよい。
【0064】
警報装置73は、音声による警報を発するものでもよく、表示灯によって警報を発するものでもよい。警報装置73を設けることによって、警報装置73の作動を確認した係員が手動でエスカレータを停止して、人力で異物を除去することが可能であり、事前の異物確認を省略することができる。また、警報装置73が作動した場合に、エスカレータの運行を自動で停止するようにすることも可能である。
【0065】
異物受けユニット40を複数に分割する実施形態においては、分割された異物受けユニット40の各々に対応して、複数の固形異物検出スイッチ71を設けることが好ましい。この実施形態においては、例えば、掻き取り部材21によっては掻き取ることができない固着した異物111が、複数の異物受けユニット40のうちの1つに当たったときには、その異物111が当たった異物受けユニット40のみが進行方向に向かって下流側上方に押し上げられる。次いで、その異物受けユニット40の基部43は、固着異物検出スイッチ71を作動させる。警報装置73もまた、複数の異物受けユニット40の各々に対応する複数の警報装置73として構成される。この実施形態によれば、警報が発生したときの異物の位置をより狭い範囲で特定することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 エスカレータ踏段清掃装置
5 連結部材
10 筐体
20 異物掻き取りユニット
21 掻き取り部材
22 掻き取り部
23 支持軸
24 加圧部材
25 基部
26 位置決めガイド
30 異物収集ユニット
31 取込口
32 異物通路
33 排出口
34 通路切替部材
36 ホース
40 異物受けユニット
41 異物受け部材
42 異物受けブラシ
43 基部
44 接続部材
50 動力伝達ユニット
51 回転部材
52 回転軸
53 フランジ
54、56 プーリー(動力伝達部材)
55 ベルト(動力伝達部材)
57 ウォーム歯車機構(動力伝達部材)
58 軸(動力伝達部材)
60 支持部材
70 固着異物検出機構
71 固着異物検出スイッチ
72 固着異物検出制御部
73 警報装置
101 ランディングプレート
102 踏段
103 溝
104 櫛板
105 手摺ベルト架台
106 吸引装置
108 支持部材
240 加圧部材
241 基部
242 櫛歯
243 突出部
245 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータの踏段に設けられた複数の溝を清掃するための装置であって、
筐体と、
前記筐体の内部において前記踏段の進行方向に対して横方向に配列された、前記複数の溝の内部の異物を掻き取るための複数の掻き取り部材であって、前記掻き取り部材の各々は、前記溝の底面と接したときに前記底面との成す角度が鋭角になるように形成された掻き取り面を含む掻き取り部を有し、前記掻き取り部が前記底面から離れる方向に動作可能である、複数の掻き取り部材と、
前記複数の掻き取り部材を前記底面に押し付ける力を前記複数の掻き取り部材の各々に与える加圧部材と、
前記複数の溝から掻き取られた異物の取込口を有する異物通路と、
前記異物通路からの異物を排出する排出口と、
回転軸が前記筐体に支持され、前記踏段に接して回転する、回転部材と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記複数の掻き取り部材の各々は、前記筐体の内部において前記進行方向に対して横方向に延在する支持軸の周りに回転自在に支持された基部と、前記基部に対して前記進行方向の下流側に位置する前記掻き取り部とを有し、前記基部が前記支持軸の周りに回転することに伴って前記掻き取り部が前記底面から離れる方向に動作するように構成されたことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の掻き取り部材の各々は、前記支持軸に垂直な主面を有する板状の部材であり、
前記掻き取り部は、
前記底面に接する部分である底面当接部、
前記底面当接部から前記進行方向に向かって上方に延びて前記掻き取り面を形成する第1の縁部、及び、
前記底面当接部から、前記第1の縁部よりも前記進行方向の下流側に向かって上方に延びる、第2の縁部、
を有することを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記掻き取り部材の各々は、
前記基部から前記進行方向の下流側に向かって延びる上縁部、
前記基部と、前記第1の縁部の前記底面当接部とは反対側の端部とを結ぶ、第3の縁部、及び、
前記上縁部の前記基部とは反対側の端部と前記第2の縁部の前記底面当接部とは反対側の端部とを結ぶ、第4の縁部、
をさらに有することを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記底面当接部は、前記進行方向に沿って延びる所定の長さを有し、前記第1の縁部は、前記底面当接部の前記進行方向の上流側における端部から上方に延び、前記第2の縁部は、前記底面当接部の前記進行方向の下流側における端部から上方に延びることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記第1の縁部と前記底面当接部との交点と、前記支持軸の軸中心とを結ぶ直線が、前記底面と成す角度を角度Aとし、前記第1の縁部と前記底面当接部との交点と、前記支持軸の軸中心とを結ぶ直線が、前記第1の縁部と前記底面当接部との交点における前記第1の縁部の接線と成す角度を角度Bとし、前記第1の縁部と前記底面当接部との交点における前記第1の縁部の接線が、前記底面と成す角度を角度Cとするとき、角度A、角度B及び角度Cはいずれも鋭角であることを特徴とする、請求項3から請求項5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記掻き取り部材の各々は、
前記基部と、前記第1の縁部の前記底面当接部とは反対側の端部とを結ぶ、第3の縁部、及び、
前記基部と、前記第2の縁部の前記底面当接部とは反対側の端部とを結ぶ、第4の縁部、
をさらに有することを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項8】
前記加圧部材は、前記複数の掻き取り部材の前記上縁部に当接するように配置された弾性体であることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項9】
前記加圧部材は、基部と、該基部から突出し、前記複数の掻き取り部材の各々の上方の縁部に当接する複数の櫛歯とを有する、弾性板状体であり、前記複数の櫛歯の各々の復元力によって前記複数の掻き取り部材を前記底面に押し付ける力を前記複数の掻き取り部材の各々に与えることを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記複数の掻き取り部材の各々の間に位置する複数の櫛歯を有し、該複数の櫛歯の間隔が前記溝の間隔と同一である掻き取り部材位置決めガイドを前記筐体内にさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記取込口及び前記異物通路は、前記進行方向に対して横方向にわたって複数の通路に分割されており、前記異物通路と前記排出口との間に、前記複数の通路の各々と前記排出口との連通を順次切り替えるための複数の開口を有する通路切替部材をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記異物通路の前記進行方向の下流側において、前記複数の溝の内部に先端部が位置する複数の櫛歯を有し、前記進行方向に対して横方向に延在する異物受け部材と、先端が前記複数の溝の底面に接する長さを有し、前記進行方向に対して横方向に延在するブラシとをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記異物受け部材は、前記溝の内部から掻き出されない異物が前記複数の櫛歯に当たったときに前記複数の櫛歯が前記進行方向の下流側に向かって動作するように構成されており、
前記複数の櫛歯が前記進行方向の下流側に向かって動作したときにその動作を検知して信号を出力する検知部と、前記出力を受信して警報を出力する制御部とをさらに備えることを特徴とする、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
請求項1に記載の装置に用いられ、前記装置が使用されるときにエスカレータの踏段に設けられた溝の底面に垂直な面となる対向する2つの主面を有する板状の掻き取り部材であって、
前記溝の底面に接する部分である底面当接部、
前記底面当接部が前記底面に接したときに前記底面と鋭角を成す角度の方向に、前記底面当接部から延びる第1の縁部、
前記第1の縁部と前記底面との成す角度より小さい角度の方向に、前記底面当接部から延びる第2の縁部、
前記装置の筐体内部に設けられた支持軸の周りに回転自在に支持される部分である基部から、前記第2の縁部が延びる方向に向かって延びる上縁部、
前記基部と、前記第1の縁部の前記底面当接部とは反対側の端部とを結ぶ、第3の縁部、及び、
前記上縁部の前記基部とは反対側の端部と前記第2の縁部の前記底面当接部とは反対側の端部とを結ぶ、第4の縁部、
を有することを特徴とする、掻き取り部材。
【請求項15】
前記底面当接部は所定の長さを有し、前記第1の縁部は、前記底面当接部の一方の端部から延び、前記第2の端部は、前記底面当接部の他方の端部から延びることを特徴とする、請求項請求項14に記載の掻き取り部材。
【請求項16】
請求項1に記載の装置に用いられる異物掻き取りユニットであって、
ユニット筐体と、
前記ユニット筐体の内部においてエスカレータの踏段の進行方向に対して横方向に配列された、前記踏段の複数の溝の内部の異物を掻き取るための複数の掻き取り部材と、
前記複数の掻き取り部材を前記溝の底面に押し付ける力を前記複数の掻き取り部材の各々に与える加圧部材と、
を備え、前記掻き取り部材の各々は、前記底面と接したときに前記底面との成す角度が鋭角になるように形成された掻き取り面を含む掻き取り部を有し、前記掻き取り部が前記底面から離れる方向に動作するように構成されたことを特徴とする、異物掻き取りユニット。
【請求項17】
前記複数の掻き取り部材の各々は、前記進行方向に対して横方向に延在する支持軸の周りに回転自在に支持された基部と、前記基部に対して前記進行方向の下流側に位置する前記掻き取り部とを有し、前記基部が前記支持軸の周りに回転することに伴って前記掻き取り部が前記底面から離れる方向に動作するように構成されたことを特徴とする、請求項16に記載の異物掻き取りユニット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−250840(P2012−250840A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126832(P2011−126832)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(506275025)札幌交通機械株式会社 (1)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】