説明

エスカレーター装置

【課題】駆動モータや制御盤が配設されていない下階側の機械室内で保守点検作業を行う際に、作業毎に機械室床の清掃を行うことなく、作業時に安定した足場を確保することができ適切な姿勢で作業可能であるとともに、保守作業員の靴底が汚れることを未然防止することが可能であって、作業全体でみた場合の作業効率が良好であるエスカレーター装置を提供する。
【解決手段】エスカレーター1のトラス2の長手方向の両端部に機械室3a、3bがそれぞれ設けられ、一方の機械室3a内に前記エスカレーター1の運転を駆動する駆動モータ4及び前記エスカレーター1の運転を制御する制御盤5が配設されたエスカレーター装置において、他方の機械室3b内に設けられた足場板11を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレーター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エスカレーター装置においては、当該エスカレーターの運転を駆動する駆動モータは、上階側の端部に設けられた機械室内に配設されることが多く、この駆動モータと制御盤等を結ぶ配線は機械室床面に這わせて置かれることになる。
従来においては、この上階側の機械室内の床面に這わせて置かれた配線を損傷させることなく、安全に保守点検作業を行えるようにするために、駆動モータが載置されるマシンベッドに沿って略L字状を呈し足を有する足場板を、前記足によって機械室床との間に間隙を有するように設け、この間隙に前記配線を収納するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−345371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、特許文献1に示された従来におけるエスカレーター装置においては、駆動モータが配設される上階側の機械室にのみ足場板が設けられており、下階側の機械室内には足場板が設けられていない。
しかしながら、下階側の機械室床は、踏段等との位置関係から油や埃が溜まり易く、油汚れが著しい。従って、従来においては、下階側の機械室内で保守点検作業を行う際に、作業毎に機械室床の清掃を行う必要があり、煩雑で手数がかかるという課題があった。そして、この作業開始前の清掃を怠った場合には、足元が滑り易く足場が不安定であり作業効率が悪くなるという課題や、保守作業員の靴底が汚れてしまい靴底の清掃を行う必要が出てきてしまい、この靴底の清掃を怠ると周囲の床をも汚してしまうおそれがあって作業全体でみた場合の作業時間や手数がかかるという課題もある。
【0005】
また、特許文献1に示された従来におけるエスカレーター装置においては、足場板は、常時、機械室床に設置されているため、足場板自体が油や埃等で汚れてしまい、作業時に足場が不安定となってしまう、靴底が汚れてしまう等の課題や、足場板の形状がL字状で狭く、作業時の体勢が不安定となり作業性が悪いという課題もある。
【0006】
さらに、下階側の機械室には制御盤等の当該エスカレーターの運転状態を指示する機器が設けられていないため、作業開始時に運転を止めるために、また、作業終了時には運転を再開するために、作業を行う下階側の機械室から制御盤等が設けられた上階側の機械室に行かねばならず煩雑で手数がかかるという課題がある。
また、保守点検作業中に意図せず当該エスカレーターの運転が再開されてしまうと作業に支障が出てしまうという課題もある。
【0007】
この発明は、このような課題を解決するためになされたもので、第1の目的は、駆動モータや制御盤が配設されていない下階側の機械室内で保守点検作業を行う際に、作業毎に機械室床の清掃を行うことなく、作業時に安定した足場を確保することができ適切な姿勢で作業可能であるとともに、保守作業員の靴底が汚れることを未然防止することが可能であって、作業全体でみた場合の作業効率が良好であるエスカレーター装置を得るものである。
また、第2の目的は、制御盤が配設されていない下階側の機械室での作業開始時や作業終了時に上階側の機械室に行かなくともよく、併せて、保守点検作業中に意図せず当該エスカレーターの運転が再開されてしまうことを未然に防止することができるエスカレーター装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るエスカレーター装置においては、エスカレーターのトラスの長手方向の両端部に機械室がそれぞれ設けられ、一方の機械室内に前記エスカレーターの運転を駆動する駆動モータ及び前記エスカレーターの運転を制御する制御盤が配設されたエスカレーター装置であって、他方の機械室内に設けられた足場板を備えた構成とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明はエスカレーター装置において、エスカレーターのトラスの長手方向の両端部に機械室がそれぞれ設けられ、一方の機械室内に前記エスカレーターの運転を駆動する駆動モータ及び前記エスカレーターの運転を制御する制御盤が配設されたエスカレーター装置であって、他方の機械室内に設けられた足場板を備えた構成としたことで、駆動モータや制御盤が配設されていない下階側の機械室内で保守点検作業を行う際に、作業毎に機械室床の清掃を行うことなく、作業時に安定した足場を確保することができ適切な姿勢で作業可能であるとともに、保守作業員の靴底が汚れることを未然防止することが可能であって、作業全体でみた場合の作業効率が良好であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係るエスカレーター装置の全体構成を示す説明図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る図1中のA部を拡大したもので、足場板の使用時を示す要部拡大図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る足場板の収納時を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明を添付の図面に従い説明する。各図を通じて同符号は同一部分又は相当部分を示しており、その重複説明は適宜に簡略化又は省略する。
【0012】
実施の形態1.
図1から図3は、この発明の実施の形態1に係るもので、図1はエスカレーター装置の全体構成を示す説明図、図2は図1中のA部を拡大したもので、足場板の使用時を示す要部拡大図、図3は足場板の収納時を示す要部拡大図である。
図において、1は、設置された上階と下階との間で乗客を運搬するエスカレーターである。2はエスカレーター1の基本的枠組みを構成するトラスであり、上階と下階と間に架設されている。そして、このトラス2内の上階側の端部には上階側機械室3aが、このトラス2内の下階側の端部には下階側機械室3bが、それぞれ設けられている。
【0013】
上階側機械室3a内にはエスカレーター1の運転を駆動する駆動モータ4や、この駆動モータ4等の動作を制御することによりエスカレーター1の運転全般を制御する制御盤5等が設置されている。
そして、上階側機械室3a内には上部スプロケット6aが、下階側機械室3b内には下部スプロケット6bが、それぞれ回動自在に設けられており、これらの上部スプロケット6a及び下部スプロケット6bには無端状の踏段チェーン7が巻き掛けられている。
【0014】
この踏段チェーン7には、エスカレーター1の乗客が搭乗する複数の踏段8が、無端状に連結されて係止されており、駆動モータ4の回転駆動が上部スプロケット6aへと伝達されて踏段チェーン7が上部スプロケット6aと下部スプロケット6bとの間を循環することによって、踏段8がトラス2内を循環移動する。
また、トラス2上には、踏段8の左右両側に沿って一対の欄干9が立設されており、これら欄干9の周縁には、駆動モータ4により駆動され、踏段8と同期して循環移動する無端状の移動手摺10が設けられている。
【0015】
下階側機械室3b内には、下階側機械室3b内の下部スプロケット6b、踏段チェーン7や踏段8等の保守点検作業時に、作業員が使用する足場板11が設けられている。
この足場板11は平面視略長方形状であって下面四隅には脚部11aがそれぞれ設けられており、足場板11が下階側機械室3bの床面上に配置された際にこれらの脚部11aが床面に当接することにより、足場板11の下面と下階側機械室3bの床面との間に所定の間隙が形成されるようになっている。
【0016】
足場板11は、下階側機械室3bの反踏段8側の壁面と、折畳自在に構成された左右一対の連結腕12により支持、連結されており、この連結腕12は、より詳しくは次のようにして構成されている。
すなわち、下階側機械室3bの反踏段8側の壁面に設けられた一対の取付部12aに、一対の第1のリンク棒12bの一端部が第1のリンクピン12dによりそれぞれ回動自在に枢着されており、これら第1のリンク棒12bの他端部には、一対の第2のリンク棒12cの一端部が第2のリンクピン12eによりそれぞれ回動自在に枢着されている。
そして、これら第2のリンク棒12cの他端部は、第3のリンクピン12fにより、足場板11の左右両側の踏段8側端部に回動自在に枢着されている。
【0017】
このようにして、足場板11は連結腕12により下階側機械室3bの壁面に連結されており、通常時は図3に示すように連結腕12が折畳まれて足場板11は起立状態となって、下階側機械室3bの反踏段8側の壁面に沿うようにして収納されている。
この収納位置に足場板11が配置された状態においては、足場板11は踏段8等から十分に離間しており、足場板11が踏段8等と干渉するおそれがない。
【0018】
そして、下階側機械室3bの保守点検作業等を行う必要時には、図2に示すように、連結腕12は伸展され、足場板11が下階側機械室3bの床面上に載置されて使用位置に配置され、保守作業員はこの足場板11上に乗って作業を行う。ここで、前記使用位置においては、足場板11は、保守点検対象である踏段8等に近接した、下階側機械室3bの床面上に配置される。
こうして、折畳自在な連結腕12により、足場板11は前記収納位置と前記使用位置との間で移動自在に設けられている。
【0019】
下階側機械室3bの反踏段8の壁面、すなわち、足場板11が連結される壁面には、運転停止手段を構成する運転阻止スイッチ13が取付けられている。
この運転阻止スイッチ13は常時踏段8側へと突出するようにバネ等により付勢された検知部13aを有しており、この検知部13aが反踏段8側すなわち壁面側へと押込まれた状態においては運転阻止スイッチ13は動作せず、壁面側への押込が解放されて前記バネ等の付勢により検知部13aが踏段8側へと突出すると運転阻止スイッチ13が動作して、駆動モータ4が停止されてエスカレーター1の運転が停止されるようになっている。
【0020】
このように構成されたエスカレーター装置においては、通常時には、連結腕12が折畳まれ、起立状態となって下階側機械室3bの壁面に沿うようにして収納された、すなわち前記収納位置に配置された足場板11の上面が、運転阻止スイッチ13の検知部13aに当接してこの検知部13aを壁面側へと押込んだ状態となっており、従って、運転阻止スイッチ13は動作せず、エスカレーター1は運転可能である(図3)。
そして、必要時には、連結腕12は伸展されて足場板11が下階側機械室3bの床面上に載置される、すなわち足場板11が前記使用位置に配置されることにより、足場板11によって壁面側へと押込まれていた運転阻止スイッチ13の検知部13aは解放されて踏段8側へと突出し、運転阻止スイッチ13が動作してエスカレーター1の運転は停止される(図2)。
【0021】
なお、ここでは、エスカレーターに対して本発明を適用した実施形態を説明したが、いわゆる動く歩道を含むマンコンベア全般に適用可能であることはいうまでもない。
この場合は、機械室の位置について上階側、下階側といった区別はできないものの、内部に駆動モータや制御盤が配設された一方の機械室及びこれらが配設されない他方の機械室という区分が可能であって、一方の機械室が上階側機械室に他方の機械室が下階側機械室に対応することになる。
【0022】
以上のように構成されたエスカレーター装置においては、エスカレーターのトラスの長手方向の両端部にそれぞれ設けられた機械室のうち、一方の機械室内に駆動モータ及び制御盤が配設し、他方の機械室内に足場板を設けることにより、駆動モータや制御盤が配設されていない下階側の機械室内で保守点検作業を行う際に、作業毎に機械室床の清掃を行うことなく、作業時に安定した足場を確保することができ適切な姿勢で作業可能であるとともに、保守作業員の靴底が汚れることを未然に防止することが可能であって、作業全体でみた場合の作業効率が良好である。
【0023】
そして、足場板を、通常時に配置される収納位置と必要時に配置される使用位置との間で移動自在に設けることにより、足場板自体が油や埃等で汚れてしまうことを未然に防止することができ、また、収納位置を、他方の機械室内の、踏段から離間しかつ壁面に沿った位置とし、使用位置を、他方の機械室内の床面上の踏段に近接した位置とすることで、足場板の未使用時におけるこの足場板と踏段等との干渉を未然に防止することが可能である。
【0024】
さらに、足場板が使用位置に配置されている場合に、エスカレーターの運転を停止させる運転停止手段を備えたことで、制御盤が配設されていない下階側の機械室での作業開始時や作業終了時に上階側の機械室に行かなくともよく、併せて、保守点検作業中に意図せず当該エスカレーターの運転が再開されてしまうことを未然に防止することができる。
【0025】
加えて、足場板を略長方形とすることで、広く安定した作業足場を確保することが可能であり、また、この足場板を、特にエスカレーターの下階側の機械室内に設けたことにより、その位置関係等から油や埃等による汚れの著しい下階側機械室内での作業効率を良好なものとすることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 エスカレーター
2 トラス
3a 上階側機械室
3b 下階側機械室
4 駆動モータ
5 制御盤
6a 上部スプロケット
6b 下部スプロケット
7 踏段チェーン
8 踏段
9 欄干
10 移動手摺
11 足場板
11a 脚部
12 連結腕
12a 取付部
12b 第1のリンク棒
12c 第2のリンク棒
12d 第1のリンクピン
12e 第2のリンクピン
12f 第3のリンクピン
13 運転阻止スイッチ
13a 検知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレーターのトラスの長手方向の両端部に機械室がそれぞれ設けられ、一方の機械室内に前記エスカレーターの運転を駆動する駆動モータ及び前記エスカレーターの運転を制御する制御盤が配設されたエスカレーター装置であって、
他方の機械室内に設けられた足場板を備えたことを特徴とするエスカレーター装置。
【請求項2】
前記足場板は、通常時に配置される収納位置と必要時に配置される使用位置との間で移動自在に設けられたことを特徴とする請求項1に記載のエスカレーター装置。
【請求項3】
前記収納位置は、前記他方の機械室内の前記エスカレーターの踏段から離間し、かつ、前記他方の機械室の壁面に沿った位置であり、
前記使用位置は、前記他方の機械室内の床面上の前記踏段に近接した位置であることを特徴とする請求項2に記載のエスカレーター装置。
【請求項4】
前記足場板を、前記収納位置と前記使用位置との間で移動自在に支持し、前記他方の機械室の壁面に連結する、折畳自在に設けられた連結腕を備えたことを特徴とする請求項3に記載のエスカレーター装置。
【請求項5】
前記足場板が前記使用位置に配置されている場合に、前記エスカレーターの運転を停止させる運転停止手段を備えたことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載のエスカレーター装置。
【請求項6】
前記他方の機械室の壁面に設けられ、動作すると前記エスカレーターの運転を停止させる運転阻止スイッチと、
前記運転阻止スイッチに前記壁面から突出して設けられ、押込まれると前記運転阻止スイッチが不動作となり、押込まれないと前記運転阻止スイッチが動作する検知部と、を備え、
前記検知部は、前記収納位置に配置された前記足場板により押込まれ、かつ、前記足場板が前記使用位置に配置されると押込まれない位置に配設されることを特徴とする請求項3又は請求項4のいずれかに記載のエスカレーター装置。
【請求項7】
前記足場板は、略長方形を呈することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のエスカレーター装置。
【請求項8】
前記一方の機械室は、前記エスカレーターの上階側の機械室であり、前記他方の機械室は、前記エスカレーターの下階側の機械室であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のエスカレーター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−228846(P2010−228846A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77053(P2009−77053)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】