説明

エステル可塑剤の製造方法

【課題】
塩化ビニル系樹脂用として主に用いられるエステル可塑剤の製造方法に関し、特に芳香族カルボン酸エステルを低温で短時間に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】
180〜200℃以下の温度において、温度が低下しないように減圧度を80〜20kPaに調整し、原料であるアルコールを還流させながら反応させることで、エステル化反応率99.9モル%以上に到達させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル系樹脂用として主に用いられるエステル可塑剤の製造方法に関し、特に芳香族カルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル可塑剤の製造方法として有機金属化合物触媒の存在下で、有機酸またはその無水物とアルコールとを脱水エステル化反応させることにより、エステル可塑剤を製造する方法がある(特許文献1)。しかしながらこの文献によれば、エステル化率99.9モル%の粗エステルを得るには190℃〜220℃において3時間加熱攪拌する必要があり、反応時間を長時間にする必要がある。
【0003】
また、常圧もしくは減圧下、180℃〜250℃において3〜6時間反応させることでジエステル化率99.9%の粗エステルを得る製造方法もある(特許文献2)。この文献の実施例によれば、210℃で減圧下に反応させているものの、あまり減圧度を上げると原料アルコールの急激な還流を伴うことから好ましくなく、そのため4〜5時間と長時間の反応が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−316623号公報
【特許文献2】特開昭61−68448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、塩化ビニル系樹脂用として主に用いられるエステル可塑剤の製造方法に関し、特に芳香族カルボン酸エステルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、180〜200℃以下の温度において、温度が低下しないように減圧度を80〜20kPaに調整し、原料であるアルコールを還流させながら反応させることで、エステル化反応率99.9モル%以上に到達させることを見出した。
【発明の効果】
【0007】
塩化ビニル系樹脂用として主に用いられるエステル可塑剤の製造方法に関し、特に芳香族カルボン酸エステルを低温で短時間に製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、塩化ビニル系樹脂用として主に用いられるエステル可塑剤の製造方法に関する。
【0009】
本発明でエステル化反応に用いられる有機金属化合物触媒には、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネートのようなアルキルチタネート類や、スズテトラエチレート、ブチルスズマレートのような有機スズ化合物が好適に用いられ、これらの1種または2種以上を混合して使用しても良い。
【0010】
エステル化反応に用いられる有機酸またはその無水物には、安息香酸、トルイル酸で代表される芳香族モノカルボン酸;フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸で代表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物;アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族多価カルボン酸;マレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和多価カルボン酸;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪族モノカルボン酸等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用しても良い。
【0011】
エステル化反応に用いられるアルコールには、脂肪族飽和一価アルコールとして、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、イソオクタノール、ブテン二量体のオキソ反応により製造されるイソノニルアルコール、デカノール、プロピレン三量体のオキソ反応により製造されるイソデシルアルコール、ウンデカノール、トリデカノール等;脂肪族多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用しても良い。
【0012】
本発明のエステル可塑剤は、有機酸またはその無水物とアルコールとを、有機金属化合物触媒の存在下、180℃〜200℃において、温度が低下しないように減圧度を80〜20kPaに調整し、アルコールの還流を行わせながら生成水を系外に除去し、エステル化反応させる。
【0013】
反応温度が180℃未満だと、有機金属触媒の活性が低く、エステル化反応率99.9モル%に到達するのは困難となり、好ましくない。また200℃を超えると原料アルコールの急激な還流を伴うため好ましくない。
【0014】
反応は減圧下で行う。反応圧力は80〜20kPaが好ましく、より好ましくは70〜30kPa、さらに好ましくは60〜35kPaである。80kPa以上だと、原料アルコールの還流が少なく、生成水の除去が困難となり、エステル化反応率99.9モル%に到達するのは困難となり、好ましくない。20kPa以下の場合は原料アルコールの急激な還流を伴うため好ましくない。
【0015】
エステル化反応に有機酸を用いる場合は、有機酸中のCOOHモル数に対するアルコールのモル比を、1/1.0〜1/1.4とするのが好ましく、より好ましくは1/1.1〜1.35、さらに好ましくは1/1.15〜1.3である。
また、エステル化反応に有機酸の無水物を用いる場合は、該無水物中の加水分解により有水化したCOOHモル数に対するアルコールのモル比を、1/1.0〜1/1.4とするのが好ましく、より好ましくは1/1.1〜1.35、さらに好ましくは1/1.15〜1.3である。
アルコールのモル比が1.0より少ないとアルコールの還流が実質的にできなくなり、好ましくない。またアルコールの仕込み量が1.4モルより多いと、減圧によるアルコールの還流が多すぎるため、好ましくない。
【0016】
エステル化反応で有機酸を用いる場合は、有機酸中のCOOHモル数に対する触媒の仕込み量を0.1〜1.0g/COOHモルとするのが好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/COOHモル、さらに好ましくは0.3〜0.6g/COOHモルである。
また、エステル化反応に有機酸の無水物を用いる場合は、該無水物中の加水分解により有水化したCOOHモル数に対する触媒の仕込み量を0.1〜1.0g/COOHモルとするのが好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/COOHモル、さらに好ましくは0.3〜0.6g/COOHモルである。
触媒量が0.1g/COOHモルより少ないと反応が十分に行えず、好ましくない。また触媒量が1.0 g/COOHモルより多いと、それ以上の触媒効果は望めず、経済的に好ましくない。
【0017】
反応時間は3時間を超えない範囲が好ましく、より好ましくは2時間以内である。反応が3時間以上だと、反応時間が長すぎるため、経済的に好ましくない。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0019】
<エステル化反応率>
反応液の中和滴定により酸価(mgKOH/g)を測定し、下記計算式により反応率を算出する。

式1:残存COOHモル数=反応液量×酸価÷56100

式2:残存有機酸またはその無水物モル数=残存COOHモル数÷原料カルボニル基当量
[たたし、原料カルボニル基当量とは、原料有機酸またはその無水物1分子あたりに存在するCOOH数であり、無水物の場合は加水分解により有水化した場合のCOOH数。]

式3:エステル化率モル%=(1−残存有機酸またはその無水物モル数÷反応前の有機酸またはその無水物モル数)×100
【0020】
<実施例1>
無水フタル酸2960g(20モル)と2−エチルヘキサノール5980g(46モル)を混合し、これにテトライソプロピルチタネート6gを添加して、180℃に昇温し、35kPaに減圧し、2時間反応させた。この時点でのエステル化反応率は99.98モル%であった。
【0021】
<実施例2>
イソフタル酸3320g(20モル)と2−エチルヘキサノール6240g(48モル)を混合し、これにテトライソプロピルチタネート6gを添加して、200℃に昇温し、45kPaに減圧し、2時間反応させた。この時点でのエステル化反応率は99.97モル%であった。
【0022】
<実施例3>
無水トリメリット酸3840g(20モル)と2−エチルヘキサノール8850g(68モル)を混合し、これにテトライソプロピルチタネート9gを添加して、200℃に昇温し、30kPaに減圧し、2時間反応させた。この時点でのエステル化反応率は99.96モル%であった。
【0023】
<実施例4>
無水フタル酸2960g(20モル)とイソノニルアルコール6630g(46モル)を混合し、これにテトライソプロピルチタネート6gを添加して、180℃に昇温し、50kPaに減圧し、2時間反応させた。この時点でのエステル化反応率は99.93モル%であった。
【0024】
<比較例1>
無水フタル酸2960g(20モル)と2−エチルヘキサノール5980g(46モル)を混合し、これにテトライソプロピルチタネート6gを添加して、170℃に昇温し、35kPaに減圧し、2時間反応させた。この時点でのエステル化反応率は95.78モル%であった。
【0025】
<比較例2>
無水フタル酸2960g(20モル)と2−エチルヘキサノール5980g(46モル)を混合し、これにテトライソプロピルチタネート6gを添加して、200℃に昇温し、90kPaで2時間反応させた。この時点でのエステル化反応率は98.14モル%であった。
【0026】
<比較例3>
イソフタル酸3320g(20モル)と2−エチルヘキサノール6240g(48モル)を混合し、これにテトライソプロピルチタネート6gを添加して、200℃に昇温し、90kPaに減圧し、2時間反応させた。この時点でのエステル化反応率は92.10モル%であった。
【0027】
【表1】

【0028】
以上の結果から、180〜200℃以下の温度において、温度が低下しないように減圧度を調整し、原料であるアルコールを還流させながら反応させることで、短時間にエステル化反応率99.9モル%以上に到達させることを見出した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のエステル可塑剤の製造方法は、塩化ビニル系樹脂用として主に用いられるエステル可塑剤の製造方法に関し、特に芳香族カルボン酸エステルの製造方法に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物触媒の存在下で、有機酸またはその無水物とアルコールとを、180℃〜200℃において、減圧下に反応させることを特徴とするエステル可塑剤の製造方法。
【請求項2】
減圧度が80〜20kPaである、請求項1記載のエステル可塑剤の製造方法。
【請求項3】
有機金属化合物触媒が、アルキルチタネート類、有機スズ化合物から選ばれる1種または2種以上である、請求項1ないし2記載のエステル可塑剤の製造方法
【請求項4】
有機金属化合物触媒が、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネート、スズテトラエチレート、ブチルスズマレートから選ばれる1種または2種以上である、請求項1ないし23記載のエステル可塑剤の製造方法
【請求項5】
有機酸またはその無水物が、芳香族カルボン酸またはその無水物である請求項1ないし4に記載のエステル可塑剤の製造方法。
【請求項6】
有機酸またはその無水物が、安息香酸、トルイル酸、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸である、請求項1ないし5に記載のエステル可塑剤の製造方法。
【請求項7】
アルコールがメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、イソオクタノール、イソノニルアルコール、デカノール、イソデシルアルコール、ウンデカノール、トリデカノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールから選ばれる1種または2種以上の混合物である請求項1ないし56に記載のエステル可塑剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−92074(P2012−92074A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242469(P2010−242469)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】