説明

エステル樹脂組成物およびその成形品

本発明は、分子構造中にノボラック骨格を有するノボラック型ビニルエステル樹脂およびゴム系低収縮剤を含有するエステル樹脂組成物、およびそれから得られる成形品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、エステル樹脂組成物、特にモータまたはコイルを封入するためのエステル樹脂組成物、およびそれから得られる成形品に関する。
【背景技術】
電気・電子機器の性能向上に伴い、その部品、例えばモータおよびコイルの改良、特にモータの小型化、高効率化および高出力化などが求められている。
モータは、その発熱により温度が上昇するにつれ、出力が低下する。従ってモータが蓄熱すると、本来のモータ性能が得られず、機器の性能が次第に低下していく。その結果、モータの高効率化および高出力化の要請を満たすことができない。
温度上昇を防止し、モータを高効率で駆動させる手段として、モータの熱放散性を高めることが挙げられる。その具体的手段には、樹脂によるモータの封入化がある。即ち、無機充填材を含有させて熱伝導性を高めた樹脂組成物でモータを封入することにより、モータの熱放散性を高めることができる。
このような封入用樹脂組成物として、従来、イソフタル酸系、テレフタル酸系または水素化ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂が、その良好な成形性から一般に使用されている。
これらのエステル樹脂は、成形硬化時に収縮するという性質を有する。従ってエステル樹脂の収縮を抑制して、封入化モータの良好な寸法精度を達成するために、エステル樹脂組成物中で低収縮剤が使用される。これらの低収縮剤として、従来、ポリエステル系またはポリスチレン系低収縮剤が一般に使用されている。
しかしながら、モータの使用環境は200℃の高温を超える場合があり、不飽和ポリエステル樹脂およびポリエステル系またはポリスチレン系低収縮剤を含む従来の樹脂組成物では、そのような高温で著しい物性の低下がみられた。
従って、良好な成形性および低収縮性と従来のものよりも優れた耐熱性とを併せ持つ樹脂組成物が、なお求められている。
【発明の開示】
本発明の目的は、良好な成形性および低収縮性と優れた耐熱性とを併せ持つ樹脂組成物を提供することである。
分子構造中にノボラック骨格を有するノボラック型ビニルエステル樹脂およびゴム系低収縮剤を含有するエステル樹脂組成物は、良好な成形性および低収縮性と優れた耐熱性とを併せ持つことを見出した。
発明を実施するための形態
本発明のエステル樹脂組成物は、分子構造中にノボラック骨格を有するノボラック型ビニルエステル樹脂を含有することを特徴とする。ノボラック型ビニルエステル樹脂は、従来、封入用樹脂組成物として使用されているイソフタル酸系、テレフタル酸系または水素化ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂と比べて耐熱性に優れている。
本発明において基本的に、ノボラック型ビニルエステル樹脂として、従来既知のあらゆるノボラック型ビニルエステル樹脂を使用することができる。使用し得るノボラック型ビニルエステル樹脂の市販品の例として、品番8411L、8411Hまたは8450の日本ユピカ株式会社製ノボラック型ビニルエステル樹脂を挙げることができる。様々なノボラック型ビニルエステル樹脂の混合物を使用することもできる。成形性の観点から、25℃で10〜100dPa・sのブルックフィールド粘度を有するノボラック型ビニルエステル樹脂を使用することが好ましい。
また本発明のエステル樹脂組成物は、低収縮剤としてゴム系低収縮剤を使用することを特徴とする。以下の実施例1および比較例5から示されるように、ノボラック型ビニルエステル樹脂およびゴム系低収縮剤の両方を含有する本発明のエステル樹脂組成物は、ゴム系低収縮剤を含有しない樹脂組成物、即ちノボラック型ビニルエステル樹脂と従来のポリスチレン系低収縮剤とを含有する樹脂組成物よりも向上した耐熱性を有する。即ち、ノボラック型ビニルエステル樹脂とゴム系低収縮剤とを併用することにより、従来のポリスチレン系低収縮剤またはポリエステル系低収縮剤を使用したものと比べて、より良好な耐熱性を達成することができる。
ゴム系低収縮剤も知られており、基本的に、あらゆるゴム系低収縮剤を本発明において使用することができる。使用し得るゴム系低収縮剤の市販品の例として、品番A−33またはA−35の日本ユピカ株式会社製ゴム系低収縮剤を挙げることができる。様々なゴム系低収縮剤の混合物も使用することができる。
本発明のエステル樹脂組成物において、さらに良好な低収縮性を達成するために、ノボラック型ビニルエステル樹脂中でゴム系低収縮剤を、好ましくは均一分散、より好ましくは相溶化させる。
ここで本発明における「均一分散」とは、ゴム系低収縮剤が、ノボラック型ビニルエステル樹脂中に均一に微分散しており、ノボラック型ビニルエステル樹脂から沈殿または相分離しないことを意味する。またポリマーの均一分散の方法は当業者に既知であり、本発明におけるゴム系低収縮剤の均一分散の方法に特に限定は無い。成形性、低収縮性および耐熱性に悪影響を及ぼさない限り、分散剤または相溶化剤を、この目的のために使用することができる。
本発明のエステル樹脂組成物は、その全質量を基準に、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは11〜30質量%、最も好ましくは13〜25質量%のノボラック型ビニルエステル樹脂、および好ましくは0.5〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%、最も好ましくは1〜5質量%のゴム系低収縮剤を含有する。このような量のノボラック型ビニルエステル樹脂およびゴム系低収縮剤を含有することにより、本発明のエステル樹脂組成物は、特に優れた耐熱性と低収縮性とを併せ持つことができる。
本発明のエステル樹脂組成物は、無機充填材を含有し得る。この無機充填材は、耐熱性の観点から、300℃以上の分解温度を有することが好ましい。無機充填材の例として、炭酸カルシウム、アルミナまたはシリカなどを挙げることができ、これらを、単独または混合物で使用することができる。エステル樹脂組成物の質量を基準に50〜80質量%の無機充填材を使用することが、成形性の観点から好ましい。
本発明のエステル樹脂組成物を硬化させるために、過酸化物などの硬化剤を使用する必要がある。硬化剤の例として、日本油脂株式会社製のパーブチルZ(t−ブチルパーオキシベンゾエート)などが挙げられる。様々な硬化剤の混合物も使用することができる。硬化剤を、エステル樹脂組成物の製造中または樹脂組成物の成形前に添加することができる。
本発明のエステル樹脂組成物は、酸化マグネシウム(MgO)を用いて増粘させ、良好な成形性を達成し得ることも特徴とする。酸化マグネシウムのエステル樹脂に対する増粘効果は、エステル樹脂の分子構造等に影響を受ける。即ち、全てのエステル樹脂が、酸化マグネシウムによって良好に増粘されるとは限らない。それに対して本発明において使用するノボラック型ビニルエステル樹脂は、酸化マグネシウムにより良好に増粘される。従って本発明のエステル樹脂組成物は、良好な成形性を得るため、好ましくは酸化マグネシウムを含有する。
本発明のエステル樹脂組成物は、補強材として、例えばガラス繊維または炭素繊維など、好ましくはガラス繊維を含有し得る。これらのガラス繊維などは、無機充填材の概念に含まれるが、その高い補強効果から本発明では特に補強材として分類し、無機充填材と区別して取り扱う。1.5〜5mmの繊維長を有するガラス繊維を、通常、本発明において使用する。本発明のエステル樹脂組成物は、良好な成形性および強度の両方を達成するため、好ましくはエステル樹脂組成物の質量を基準に4〜10質量%のガラス繊維を含有する。
本発明のエステル樹脂組成物は、所望により、当業者に既知の添加剤および助剤、例えば離型剤(ワックス、ステアリン酸亜鉛、カルナバなど)または顔料(カーボンブラックなど)を含有することができる。
本発明のエステル樹脂組成物は、成形時における良好な低収縮性を有し、成形硬化後に良好な耐熱性を示すことから、モータまたはコイルを封入する成形品を製造するために特に適している。
従って本発明は、本発明のエステル樹脂組成物を成形することにより得られた成形品も提供する。本発明の成形品の製造方法には特に限定は無いが、例えばモータを金型内に固定してトランスファー成形または射出成形を行うことにより、モータを封入する成形品を製造することができる。
【実施例】
1.エステル樹脂組成物の製造
表1に示される原料をニーダーに投入し、25〜30℃で20〜40分間混合することにより、実施例1〜5および比較例1〜6のエステル樹脂組成物を製造した。
使用した原料は、以下のものである:
・ノボラック型ビニルエステル樹脂:大日本インキ株式会社製VP701
・水素化ビスフェノールA系不飽和ポリエステル樹脂:日本ユピカ株式会社製ユピカ7123
・イソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂:武田薬品工業株会社製ポリマール9516
・ゴム系低収縮剤:日本ユピカ株式会社製A−37
・ポリエステル系低収縮剤:株式会社日本触媒製AT600H
・ポリスチレン系低収縮剤:東洋スチレン株式会社製HRM−5B
・炭酸カルシウム:日東粉化工業株式会社製NS#100
・アルミナ:昭和電工株式会社製AS20
・水酸化アルミニウム:昭和電工株式会社製ハイジライトH32
・ガラス繊維:日本硝子繊維株式会社製RES03BM5
・硬化剤:日本油脂株式会社製パーブチルZ
・増粘剤:酸化マグネシウム(MgO)
・離型剤:ステアリン酸亜鉛
2.エステル樹脂組成物の特性評価
1)成形性
実施例および比較例のエステル樹脂組成物の成形性を、スパイラルフロー(金型温度150℃、注入圧力4.9MPa、注入時間30秒、硬化時間:90秒)により評価した。その結果を表1に示す。
2)成形収縮率
実施例および比較例のエステル樹脂組成物を、試験片金型(直圧成形用)を用いて、金型温度145℃、圧力10MPa、硬化時間180秒の条件で成形した。その際の成形収縮率を、JIS K6911に準拠して測定した。その結果を表1に示す。
3)耐熱性
実施例および比較例のエステル樹脂組成物から、試験片金型(トランスファー成形用)を用い、金型温度150℃、注入圧力5MPa、注入時間30秒、型締め圧力15MPa、型締め時間120秒の条件で、70mm×40mm×3mmの形状を有する試験片を製造した。
この試験片を240℃で200時間放置し、その質量減少率を測定した。その結果を表1に示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中にノボラック骨格を有するノボラック型ビニルエステル樹脂およびゴム系低収縮剤を含有するエステル樹脂組成物。
【請求項2】
ゴム系低収縮剤が、ノボラック型ビニルエステル樹脂中に均一分散されていることを特徴とする請求項1に記載のエステル樹脂組成物。
【請求項3】
エステル樹脂組成物の質量を基準に10〜50質量%のノボラック型ビニルエステル樹脂および0.5〜15質量%のゴム系低収縮剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のエステル樹脂組成物。
【請求項4】
300℃以上の分解温度を有する無機充填材をさらに含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエステル樹脂組成物。
【請求項5】
酸化マグネシウム(MgO)をさらに含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のエステル樹脂組成物を成形することにより得られた成形品。

【国際公開番号】WO2005/056626
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511681(P2005−511681)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015960
【国際出願日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】