説明

エステル系溶剤

【課題】高純度の品質が要求される電子材料分野でも使用可能なナトリウム及び酸成分の含有量が極めて低い高沸点エステル系溶剤、及びその効率的な工業的製法方法を提供すこと。
【解決手段】シクロヘキサノールアセテート、1,3−ジアセトキシブタン、プロピレングリコールジアセテート、1,6−ジアセトキシヘキサンから選ばれ、アルカリ金属含有量が2重量ppb以下であり、かつ酸分が0.008重量%以下であるエステル系溶剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レジスト、カラーレジスト、LCD用インクジェットインキなどの電子材料用途等に用いられ、高純度が要求される高沸点エステル系溶剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール類と酸との脱水反応によるエステル系溶剤の製造は、酸触媒の存在下に行われるのが一般的であり、高純度のエステル系溶剤を製造するためには反応終了後蒸留精製するのが一般的である。しかし、高沸点エステルの場合、蒸留時の熱劣化(エステルの熱分解など)による酸分上昇が問題になる。酸触媒が存在する系では製品の熱分解が顕著であり、高純度のエステル系溶剤を効率よく製造するためには蒸留前の酸触媒の除去が必要となる。従来、酸触媒の除去方法としてはアルカリ金属水酸化物などで中和する方法などが一般的に用いられていた(例えば、引用文献1)。しかし、このような方法では中和のために使用したアルカリ金属分が製品に混入する恐れがある。半導体レジスト、カラーレジスト、LCD用インクジェットインキなどの電子材料用途で溶剤として用いる際にはppbオーダーでの金属含有量の管理が必須であり、従来の精製方法では電子材料用途で要求される金属含有量や酸分の低減への要求に十分対応できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−112489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は高純度の品質が要求される電子材料分野でも使用可能なナトリウム等のアルカリ金属及び酸分が極めて低い高沸点エステル系溶剤、及びその効率的な工業的製造方法を提供すことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エステル化反応粗液を蒸留前に中和処理しなくても、低沸点成分を留去した後、蒸留塔のサイドカットラインよりエステル系溶剤を留出させることにより、特に、蒸留時に還流により塔頂部に低沸酸分を濃縮させ、この状態でサイドカット法にて製品を留出させることにより、酸分の極めて低い製品を得ることができ、しかも、中和処理を行っていないので、従来の中和処理工程を含む製造方法で問題となっていたナトリウム等のアルカリ金属の混入をも解消でき、アルカリ金属含有量及び酸分が極めて低い、高純度の高沸点エステル系溶剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は、シクロヘキサノールアセテート、1,3−ジアセトキシブタン、プロピレングリコールジアセテート、1,6−ジアセトキシヘキサンから選ばれ、アルカリ金属含有量が2重量ppb以下であり、かつ酸分が0.008重量%以下であるエステル系溶剤を提供する。
【0007】
本発明のエステル系溶剤としては、1,3−ジアセトキシブタン、1,6−ジアセトキシヘキサンが挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エステル化反応粗液の中和処理を行わないため、エステル系溶剤中に中和処理によるナトリウム等のアルカリ金属の混入が発生しない。従って、ナトリウム等のアルカリ金属含有量の極めて少ないエステル系溶剤が得られる。しかも、エステル化反応粗液中の低沸点成分を留去した後、サイドカットで製品を留出させるので、蒸留精製後のエステル系溶剤中の酸分は極めて少ない。
また、中和処理を行わないので精製作業は簡易であり、ナトリウム等のアルカリ金属や、酸成分等の不純物の含有量が極めて少ないエステル系溶剤を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のエステル系溶剤の製造方法の実施に使用し得る装置(バッチ式蒸留装置)の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[エステル系溶剤の製造方法]
以下に、本発明のエステル系溶剤の製造方法を必要に応じて図面を参照して説明する。図1は本発明のエステル系溶剤の製造方法に好適に使用できる装置(バッチ式蒸留装置)の一例を示す概略図である。このようなバッチ蒸留装置を用いれば、反応及びその後の蒸留精製を効率的に行うことができる。図1中、1は内部でアルコールと酸とを反応させることが可能な蒸留缶(以下、蒸留缶と称する。)、2は蒸留塔、3は真空ユニット、4はデカンターを示し、4−1はデカンター内の水層を、4−2はデカンター内の有機層をそれぞれ表す。5はポンプを示し、6及び7は熱交換器(コンデンサー)を示す。図中A〜Hはそれぞれラインを表す。蒸留缶1はラインBにより蒸留塔2塔底部と連結している。蒸留塔2の中段部にはサイドカットラインHが設けられ、塔頂部にはデカンター4及び蒸留塔2内部の圧力を調整可能な真空ユニット3が連結されている。
【0011】
[エステル化反応]
以下に、図1に示す装置(バッチ式蒸留装置)を用いてエステル系溶剤の製造を行う場合を例に、本発明のエステル系溶剤の製造方法を詳細に説明する。なお、バッチ式蒸留装置を使用する場合において、蒸留塔2としては、理論段数5〜50である蒸留塔を使用するのが好ましい。原料であるアルコール、カルボン酸、及び酸触媒並びに必要に応じて後述の共沸溶媒等を蒸留缶1中にラインAを通じて供給し、エステル化反応に付す。
【0012】
上記アルコールとしては特に制限されないが例えば、シクロヘキサノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の脂肪族モノアルコール類、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。これらの中で、常圧において沸点120〜300℃であるアルコールを好適に使用することができ、このようなアルコールとしてシクロヘキサノール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオールを例示できる。
【0013】
カルボン酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸などの脂肪族飽和カルボン酸;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の脂肪族不飽和カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の多価カルボン酸;安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸などを例示できる。これらの中で、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸などの飽和脂肪族カルボン酸が好ましく用いられ、特に酢酸が好ましく用いられる。
【0014】
なお、アルコールとしてシクロヘキサノールを採用し、酸として酢酸を採用した場合は、エステル系溶剤としてはシクロヘキサノールアセテートが得られ、1,3−ブチレングリコールと酢酸とをそれぞれ採用した場合は、エステル系溶剤として1,3−ジアセトキシブタンが得られ、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルと酢酸とをそれぞれ採用した場合は、エステル系溶剤としてジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートが得られ、プロピレングリコールと酢酸とをそれぞれ採用した場合には、エステル系溶剤としてプロピレングリコールジアセテートが得られ、1,6−ヘキサンジオールと酢酸をそれぞれ採用した場合には、エステル系溶剤として1,6−ジアセトキシヘキサンが得られる。
【0015】
酸触媒としては、通常エステル化反応に用いられる公知乃至慣用の酸触媒をいずれも使用でき、特に制限されないが、例えば、硫酸などの鉱酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸(スルホン酸)、BF3などのルイス酸などを例示できる。なお、反応時は、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのような水と共沸する成分(共沸溶媒)を添加してもよい。
【0016】
原料の配合割合は特に制限されず、通常アルコールとカルボン酸との反応によるエステル系溶剤の製造に用いられる配合割合を適用できる。例えば、酸はアルコールに対して0.8〜10倍モル程度、好ましくは0.8〜5倍モル程度の範囲から選択することができる。また、酸触媒の使用量は、例えば、酸に対して0.01〜10重量%の範囲から選択することができる。
【0017】
反応温度、圧力、時間などは原料であるアルコールと酸の種類により適宜設定でき、特に制限されない。例えば、原料アルコールとして、シクロヘキサノール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオールなどの沸点が常圧で120〜300℃であるアルコールを使用し、原料酸として酢酸を使用する場合であれば、反応温度は、80〜180℃、反応時圧力は1kPa〜常圧、反応時間は5〜20時間程度が好ましい。蒸留缶1としては、これらの温度、圧力管理が可能なものを用いればよい。
【0018】
また、反応時は、蒸留塔2塔頂部の圧力を1kPa.A〜常圧、好ましくは40kPa.A前後(例えば、35〜45kPa.A、特に、38〜42kPa.A)、温度は80〜200℃、好ましくは80〜170℃に調整して行われる。エステル化反応中は、図1中破線で表したラインCを留出物が循環する。蒸留塔2の塔頂部に連結されたデカンター4において、留出液はエステル化反応の進行により発生する水を含む水層と未反応原料及び共沸溶媒からなる有機層とに分離される。水層はラインDから系外に抜き取ると共に、有機層はポンプ5により再び蒸留塔2塔頂部に送り込まれ、エステル化反応の終了まで有機層を還流させる。なお、水の生成が止まることにより、エステル化反応が完了したことを判断することができる。
【0019】
[蒸留精製]
本発明では、上述のようにして得られたエステル化反応粗液を中和処理することなしに蒸留精製してエステル系溶剤を製造するが、蒸留塔2は、塔中段前後にサイドカットラインHが設けられている。サイドカットラインHを設ける位置は、塔頂部と塔底部を除く蒸留塔2の中間部分に、条件に応じて適宜設定できるが、理論段で例えば、1/5〜4/5、好ましくは1/4〜3/4、特に好ましくは1/3〜2/3に設定することができる。
【0020】
蒸留精製に際しては、まず残存する未反応カルボン酸、未反応アルコール及び共沸溶媒などの低沸点成分に加えて、蒸留中に熱分解等により発生する低沸点成分を蒸留塔2の塔頂部から留去する。蒸留精製時、蒸留缶1の温度及び圧力は、例えば、それぞれ、80〜180℃、1kPa.A〜常圧の範囲から選択できる。通常、低沸点成分の中でも比較的沸点の低い成分(共沸溶媒、カルボン酸など)が先に留出し、その後、比較的沸点の高いアルコール類が留出する。従って、蒸留開始当初は低い還流比(例えば、全留出〜5、好ましくは0.1〜3、特に0.2〜1)で蒸留を行い、アルコール類の留出時には還流比を高くして(例えば、0.5〜20、好ましくは3〜15、特に8〜12)蒸留を行うと、効率よく高精度の蒸留を行うことができる。また、蒸留精製時は蒸留缶1内部温度を所定温度以下(例えば、180℃以下、好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下)に保ち、段階的に蒸留塔2内部圧力を低下させることが好ましい。なお、留出した低沸点成分はラインGより除去することができ、また、一部をラインFにより蒸留塔2へと還流することができる。
【0021】
エステル化反応粗液中の低沸点成分のほとんどが留出した(例えば、95重量%以上、好ましくは99重量%以上)後、還流により、塔頂部に残余の低沸点成分を濃縮させ、この状態で蒸留塔の中間部分に設けたサイドカットラインHよりエステル系溶剤を留出させる。エステル系溶剤をサイドカットラインHより留出させる際、蒸留塔2に残留する低沸点成分が多すぎると、エステル系溶剤中に混入する酸成分の量が増加して、得られるエステル系溶剤の純度が所望の範囲とならない場合がある。又、残留する低沸点成分の量を過度に低減させることは、非効率的であり工業生産上不利である。
【0022】
残存アルコールが留出し、エステル化反応粗液中の低沸点成分の濃度が上記範囲となったら、エステル化反応粗液中に残存する低沸点成分を蒸留塔2塔頂部に濃縮させる。この際の還流比は、好ましくは20以上、更に好ましくは30以上、特に全還流が好ましい。この状態でサイドカットラインHから高度に精製されたエステル系溶剤を留出させる。なお、サイドカット留出時の分配比率(塔頂還流液量:サイドカット液量)は、例えば、10:1〜1:5の範囲、好ましくは5:1〜1:3の範囲、特に好ましくは3:1〜1:2の範囲から選択される。分配比率が10:1より大きい場合は、生産効率が低下し、加熱蒸気量が多く、コスト高となる。分配比率が1:5より小さい場合は、製品の品質(特に酸分)が低下しやすい。なお、サイドカットラインから高純度のエステル系溶剤を得た後は、蒸留缶1に残った残分をラインIを通して除去することができる。
【0023】
上述のようにして得られたエステル系溶剤、すなわち、酸触媒存在下でアルコールとカルボン酸とをエステル化反応させることにより得られたエステル化反応粗液を、中和処理を行うことなしに蒸留塔を用いて蒸留精製に供し、低沸点成分を留去した後、蒸留塔の中間部分に設けたサイドカットラインより留出することにより得られたエステル系溶剤は、アルカリ金属含有量が2重量ppb以下であり、特に、塔底部の温度や、分配比率を調整することによりアルカリ金属含有量は1重量ppb以下とすることができる。また、酸の含有量は0.01重量%以下と極めて微量であり、これは、中和工程を含む方法により精製した場合と同程度である。特に、常圧沸点が220〜250℃である1,3−ジアセトキシブタン等のエステル系溶剤を製造した場合該エステル系溶剤の酸分は0.005%以下であり、シクロヘキサノールアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート等の常圧沸点が220℃以下であるエステル系溶剤を製造した場合では該エステル系溶剤の酸分は0.001重量%以下である。なお、本発明のエステル系溶剤の製造方法は、エステル系溶剤の沸点が、原料であるアルコールの沸点及びカルボン酸の沸点よりも高いものの製造に特に適している。
【0024】
[電子材料製造用溶剤組成物]
【0025】
本発明により製造されたエステル系溶剤、及びこれを構成成分として含む本発明の電子材料製造用溶剤組成物は、半導体レジスト、カラーレジスト、カラーフィルター用インクジェットインキ、オーバーコート用樹脂組成物、フォトスペーサー用レジスト、VAパターン用レジストなど高品質が要求される電子材料製造用溶剤として好適に用いられ、特にナトリウムなどの金属分を1重量ppb以下と極微量に制御する必要がある半導体レジスト用溶剤に好適に用いられる。なお、本発明の電子材料製造用溶剤組成物は、必要に応じて上記エステル系溶剤以外の溶剤を含んでいても良い。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例3は、参考例として記載するものである。
実施例1〜5及び比較例1〜10では、図1に示されるバッチ蒸留装置を使用し、脱水エステル化反応および精留を実施した。なお、蒸留塔の理論段数は、10段であり、サイドカットラインの位置は理論段で塔低から6段の部位である。
【0027】
(実施例1)
シクロヘキサノール100重量部、酢酸66重量部、p−トルエンスルホン酸一水和物2重量部、酢酸イソブチル19重量部を蒸留缶に仕込んだ。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。留出液中に水が発生してきたら、留出液をデカンターにて液々分離した。有機層を塔頂部に還流し、水層は系外に抜き取った。水発生の終了時を脱水エステル化反応終了とし、反応粗液を得た。
この反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル及び酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、シクロヘキサノールを除去した。シクロヘキサノールを除去後、塔頂部は全還流とし、サイドカットラインよりシクロヘキサノールアセテートを留出させた。この際分配比率(塔頂還流液量:サイドカット液量)は3:2とした。
【0028】
(実施例2)
1,3−ブチレングリコール100重量部、酢酸147重量部、p−トルエンスルホン酸一水和物4重量部、酢酸イソブチル28重量部を蒸留缶に仕込んだ。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。留出液中に水が発生してきたら、留出液をデカンターにて液々分離した。有機層を塔頂部に還流し、水層は系外に抜き取った。水発生の終了時を脱水エステル化反応終了とし、反応粗液を得た。
この反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、1,3−ブチレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールモノアセテートを除去した。1,3−ブチレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールモノアセテートを除去後、塔頂部は全還流とし、サイドカットラインより1,3−ジアセトキシブタンを留出させた。この際分配比率(塔頂還流液量:サイドカット液量)は3:2とした。
【0029】
(実施例3)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル100重量部、酢酸45重量部、p−トルエンスルホン酸一水和物1重量部、酢酸イソブチル16重量部を蒸留缶に仕込んだ。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。留出液中に水が発生してきたら、留出液をデカンターにて液々分離した。有機層を塔頂部に還流し、水層は系外に抜き取った。水発生の終了時を脱水エステル化反応終了とし、反応粗液を得た。
この反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル及び酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを除去した。ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを除去後、塔頂部は全還流とし、液相サイドカットラインよりジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートを留出させた。この際分配比率(塔頂還流液量:サイドカット液量)は3:2とした。
【0030】
(実施例4)
プロピレングリコール100重量部、酢酸174重量部、p−トルエンスルホン酸一水和物5重量部、酢酸イソブチル31重量部を蒸留缶に仕込んだ。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。留出液中に水が発生してきたら、留出液をデカンターにて液々分離した。有機層を塔頂部に還流し、水層は系外に抜き取った。水発生の終了時を脱水エステル化反応終了とし、反応粗液を得た。
この反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル及び酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、プロピレングリコールおよびプロピレングリコールモノアセテートを除去した。プロピレングリコールおよびプロピレングリコールモノアセテートを除去後、塔頂部は全還流とし、サイドカットラインよりプロピレングリコールジアセテートを留出させた。この際分配比率(塔頂還流液量:サイドカット液量)は3:2とした。
【0031】
(実施例5)
1,6−ヘキサンジオール100重量部、酢酸112重量部、p−トルエンスルホン酸一水和物3重量部、酢酸イソブチル24重量部を蒸留缶に仕込んだ。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。留出液中に水が発生してきたら、留出液をデカンターにて液々分離した。有機層を塔頂部に還流し、水層は系外に抜き取った。水発生の終了時を脱水エステル化反応終了とし、反応粗液を得た。
この反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル及び酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を165℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、1,6−ヘキサンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールモノアセテートを除去した。1,6−ヘキサンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールモノアセテートを除去後、塔頂部は全還流とし、液相サイドカットラインより1,6−ジアセトキシヘキサンを留出させた。この際分配比率(塔頂還流液量:サイドカット液量)は3:2とした。
【0032】
(比較例1)
実施例1と同様に合成した反応粗液を、図1に示されるバッチ蒸留装置とは別に設けた撹拌槽に移液し、苛性ソーダフレーク0.6重量部を投入した。5時間攪拌し、酸触媒を中和した。
中和完了後の反応粗液を、図1のバッチ蒸留装置に再度移液し、バッチ蒸留を実施した。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。塔内が全還流状態で安定後、還流比を変更し、塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、シクロヘキサノールを除去した。シクロヘキサノールを除去後、還流比を0.5とし、塔頂よりシクロヘキサノールアセテートを留出させた。
【0033】
(比較例2)
実施例2と同様に合成した反応粗液を、図1に示されるバッチ蒸留装置とは別に設けた撹拌槽に移液し、苛性ソーダフレーク1.3重量部を投入した。5時間撹拌し、酸触媒を中和した。
中和完了後の反応粗液を、図1のバッチ蒸留装置に再度移液し、バッチ蒸留を実施した。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。塔内が全還流状態で安定後、還流比を変更し、塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、1,3−ブチレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールモノアセテートを除去した。1,3−ブチレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールモノアセテートを除去後、還流比を0.5とし、塔頂より1,3−ジアセトキシブタンを留出させた。
【0034】
(比較例3)
実施例3と同様に合成した反応粗液を、図1に示されるバッチ蒸留装置とは別に設けた撹拌槽に移液し、苛性ソーダフレーク0.4重量部を投入した。5時間撹拌し、酸触媒を中和した。
中和完了後の反応粗液を、図1のバッチ蒸留装置に再び移液し、バッチ蒸留を実施した。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。塔内が全還流状態で安定後、還流比を変更し、塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを除去した。ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを除去後、還流比を0.5とし、塔頂よりジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートを留出させた。
【0035】
(比較例4)
実施例4と同様に合成した反応粗液を、図1に示されるバッチ蒸留装置とは別に設けた撹拌槽に移液し、苛性ソーダフレーク1.6重量部を投入した。5時間撹拌し、酸触媒を中和した。
中和完了後の反応粗液を、図1のバッチ蒸留装置に再び移液し、バッチ蒸留を実施した。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。塔内が全還流状態で安定後、還流比を変更し、塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、プロピレングリコールおよびプロピレングリコールモノアセテートを除去した。プロピレングリコールおよびプロピレングリコールモノアセテートを除去後、還流比を0.5とし、塔頂よりプロピレングリコールジアセテートを留出させた。
【0036】
(比較例5)
実施例5と同様に合成した反応粗液を、図1に示されるバッチ蒸留装置とは別に設けた撹拌槽に移液し、苛性ソーダフレーク1重量部を投入した。5時間撹拌し、酸触媒を中和した。
中和完了後の反応粗液を、図1のバッチ蒸留装置に再び移液し、バッチ蒸留を実施した。蒸留塔塔頂部圧力を40kPa.Aに減圧し、全還流とした。塔内が全還流状態で安定後、還流比を変更し、塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を165℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、1,6−ヘキサンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールモノアセテートを除去した。1,6−ヘキサンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールモノアセテートを除去後、還流比を0.5とし、塔頂より1,6−ジアセトキシヘキサンを留出させた。
【0037】
(比較例6)
実施例1と同様に合成した反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、シクロヘキサノールを除去した。シクロヘキサノールを除去後、還流比を0.5とし、塔頂よりシクロヘキサノールアセテートを留出させた。
【0038】
(比較例7)
実施例2と同様に合成した反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、1,3−ブチレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールモノアセテートを除去した。1,3−ブチレングリコールおよび1,3−ブチレングリコールモノアセテートを除去後、還流比を0.5とし、塔頂より1,3−ジアセトキシブタンを留出させた。
【0039】
(比較例8)
実施例3と同様に合成した反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを除去した。ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを除去後、還流比を0.5とし、塔頂よりジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートを留出させた。
【0040】
(比較例9)
実施例4と同様に合成した反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を150℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、プロピレングリコールおよびプロピレングリコールモノアセテートを除去した。プロピレングリコールおよびプロピレングリコールモノアセテートを除去後、還流比を0.5とし、塔頂よりプロピレングリコールジアセテートを留出させた。
【0041】
(比較例10)
実施例5と同様に合成した反応粗液をそのまま図1の装置でバッチ蒸留を実施した。塔頂より酢酸イソブチル、酢酸を蒸留分離した。この際、還流比は0.5とし、蒸留缶温度上限を165℃とし、段階的に塔頂部圧力を2.7kPa.Aまで低下させた。
留出液中の酢酸イソブチルおよび酢酸濃度が低下してからは還流比を10とし、1,6−ヘキサンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールモノアセテートを除去した。1,6−ヘキサンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールモノアセテートを除去後、還流比を0.5とし、塔頂より1,6−ジアセトキシヘキサンを留出させた。
【0042】
実施例及び比較例で得られた製品(エステル系溶剤)のNa含有量、及び酸分を下記の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0043】
(Na含有量測定方法)
ICP−MS(Agilent HP−7500型)を用いて標準添加法で測定を実施した。
標準混合液はSPEX社製 XSTC−22 100ppm(23元素含有)をイソプロピルアルコール(和光純薬工業 電子材料用)で100倍希釈して用いた。
(酸分測定方法)
JIS K1514 の 3.10 に準拠して測定を行った。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の測定結果が示すように、実施例1〜5で得られたエステル系溶剤はいずれも、中和処理を行わずに蒸留精製に供し、低沸点成分を留去した後、蒸留塔の中間部分に設けたサイドカットラインより留出しているため、Na含有量及び酸分ともに極めて低濃度である。これに対して、比較例1〜5で得られたエステル系溶剤は中和処理を行っているため、残存Na含有量が高濃度であり、蒸留塔塔頂部からエステル系溶剤を留出させている比較例6〜10は、酸分が高い値となっている。
【符号の説明】
【0046】
1 :内部でアルコールと酸を反応させることが可能な蒸留缶
2 :蒸留塔
3 :真空ユニット
4 :デカンター
4−1 :デカンター内の水層
4−2 :デカンター内の有機層
5 :ポンプ
6 :熱交換器
7 :熱交換器
A〜I :ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキサノールアセテート、1,3−ジアセトキシブタン、プロピレングリコールジアセテート、1,6−ジアセトキシヘキサンから選ばれ、アルカリ金属含有量が2重量ppb以下であり、かつ酸分が0.008重量%以下であるエステル系溶剤。
【請求項2】
エステル系溶剤が、1,3−ジアセトキシブタン又は1,6−ジアセトキシヘキサンである請求項1に記載のエステル系溶剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−275327(P2010−275327A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206477(P2010−206477)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【分割の表示】特願2008−36631(P2008−36631)の分割
【原出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】