説明

エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の製造方法

【課題】エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸、及び該化合物の脱アシル化による(S)−アゼチジン−2−カルボン酸の獲得方法を提供する。
【解決手段】N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の必要とするエナンチオマーと1−フェニルエチルアミンの一つのエナンチオマーとの間で生成されるジアステレオ異性体塩の選択的結晶化からなる光学分割法(d.e.=91%)、及びアルカリ金属水酸化物を用いた加水分解による、ラセミ化なしで進行する脱アシル化法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アゼチジン−2−カルボン酸は変わったアミノ酸である。それの(S)−エナンチオマーはとりわけ高分子量ポリペプチドの合成に有用であることが知られており、またよく知られたアミノ酸であるプロリンの類似体として特に知られている。
このアミノ酸は天然源からの入手可能性が限られており、実際には(S)−エナンチオマーとしてだけ見いだされている。そのために純粋なラセミ化合物および個々の(R)または(S)の単一エナンチオマーのいずれかを製造するための効率的かつ経済的な合成方法の開発が望まれている。
【0003】
以前に文書で証明された(S)−アゼチジン−2−カルボン酸のキラル合成には、N−トシルで保護されたL−メチオニンから出発してホモセリンラクトンを経る5段階製造(例えば特願昭49−14457号および Bull. Chem. Soc.Jpn. (1973) 46, 699参照)およびL−2,4−ジアミノ酪酸から出発してL−4−アミノ−2−クロロ酪酸を経る5段階製造(Biochem. J.(1956) 64, 323参照)がある。
【0004】
以前に文書で証明された、ラセミ化合物からのエナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸の製造は、長くてかなり複雑な多段階方法からなる。
【0005】
例えば、ラセミ体のアゼチジン−2−カルボン酸の保護、分割およびそれに続く脱保護からなる4段階製造は、J. Heterocyclic Chem.(1969) 6, 993で知られている。この方法では、N−カルボベンゾキシで保護されたラセミ体のアゼチジン−2−カルボン酸を分割剤としてのL−チロシンヒドラジドを用いて分割し、次いで最後の脱保護段階の前に単離する。この方法にはL−チロシンヒドラジドが高価であり、かつ一つのエナンチオマー形態で入手され得るだけであるという不利な点がある。この従来技術には、ラセミ体のアゼチジン−2−カルボン酸のいくつかのN−アシル誘導体の分割で普通の分割剤を用いる試みでは非結晶化性油状物が生成されるというさらに別の問題点も報告されている。
【0006】
意外なことに、本発明者等はアゼチジン−2−カルボン酸のN−アシル誘導体が普通の安価な分割剤、1−フェニルエチルアミンを用いて効率的かつ経済的に分割され得るということを見いだした。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明によれば、エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸を得る方法が提供される。その方法は、N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の必要とするエナンチオマーと1−フェニルエチルアミンの一つのエナンチオマーとの間で生成されるジアステレオ異性体塩の選択的結晶化からなる(以下、「本発明方法」と称する)。
【課題を解決するための手段】
【0008】
エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸は、本発明方法のジアステレオ異性体塩生成物から、当業者によく知られた方法、例えばそのような塩を強酸で処理する方法で常套的に得ることができる。
【0009】
「エナンチオマーに富む」とは、一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも多い割合で存在するN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の各エナンチオマーのいずれかの混合物、例えば50%より大きい、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%のエナンチオマー純度(エナンチオマー余剰;e.e.)を有する混合物を意味する。
【0010】
アゼチジン−2−カルボン酸の好ましいN−アシル誘導体としてはN−ベンゾイル誘導体を挙げることができる。
本発明方法は、ラセミ体のN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸と1−フェニルエチルアミンの一方または他方のエナンチオマーとの塩の過飽和溶液に、1−フェニルエチルアミンのそのエナンチオマーとN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の必要とするエナンチオマーとの間で生成される純粋なジアステレオ異性体塩の結晶を種晶として入れることにより遂行される。
【0011】
「純粋なジアステレオ異性体塩」とは、90%より大きい、好ましくは96%より大きいジアステレオ異性体余剰(d.e.)を有する、1−フェニルエチルアミンの一つのエナンチオマーとN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の一つのエナンチオマーとの間で生成される塩を意味する。
【0012】
本発明方法は、創意なくして当業者により、ジアステレオ異性体塩生成物の製造効率並びに収率増加およびエナンチオマー純度を高めるために最適化され得る。すなわち、本発明方法は種々の溶媒、例えば、その分割法を妨害しない水性溶媒および特に有機溶媒またはそのような溶媒の混合物中で実施することができる。好ましい溶媒としては酢酸エチルを挙げることができる。本発明方法はまた、−20℃と使用する溶媒系の沸点との間の温度で実施することもできる。さらに本発明方法は、撹拌してもまたはしなくても実施できる。撹拌の速度を変えることも可能である。
【0013】
本発明方法はまた、エナンチオマー富化用に、すなわち、例えば部分分割法または不斉合成の後に、部分的に分割されたN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸のエナンチオマー余剰を高めるために使用することができる。
【0014】
引き続きこのエナンチオマーに富む酸のN−アシル基を、当業者によく知られた技術、例えばアルカリの存在下での加水分解により除去して、エナンチオマー的に純粋なアゼチジン−2−カルボン酸を製造することができる。ケン化はこの方法で、水性媒体中で、室温と100℃との間の温度で、適当なアルカリ(例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物)の存在下において実施することができる。有利なことに、本発明者等はこのエナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸(および特にN−ベンゾイル誘導体)のケン化はラセミ化なしで進行することを見いだした。
【0015】
すなわち、本発明方法はエナンチオマーに富むアゼチジン−2−カルボン酸を製造する方法の一部分として使用され得る。
【0016】
本発明のさらに別の特徴によれば、エナンチオマーに富むアゼチジン−2−カルボン酸の製造方法が提供される。その方法は前記に定義した選択的結晶化、それに続くN−アシル基の除去からなる。
【0017】
本発明方法は、(R)−または(S)−アゼチジン−2−カルボン酸のいずれか一方を製造するのに使用することができる。しかし、(S)−エナンチオマーの前記用途を考慮すれば、本発明方法は後者の(S)−エナンチオマーの製造に使用する方が好ましい。
【0018】
本発明方法には1−フェニルエチルアミンがいずれのエナンチオマー形態でも容易に入手できるという利点がある。さらに、1−フェニルエチルアミンのどちらのエナンチオマーも、同じ容易さで(R)−または(S)−N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸塩の選択的結晶化に使用できる。さらに、本発明方法は操作が簡単であり、大規模分割に適している。
【実施例】
【0019】
(S)−N−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸と(−)−1−フェニルエチルアミンとの塩の分割
酢酸エチル(3ml)中に溶解したラセミ体のN−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸(500mg, 2.4mmol)の溶液に(−)−1−フェニルエチルアミン(295mg, 2.4mmol)を加えた。次いで得られた溶液に、(−)−1−フェニルエチルアミンと(S)−N−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸(7mg)との塩からなる単一ジアステレオ異性体の種晶を加えた。3時間撹拌を続け、得られた結晶をろ過により集めて、(S)−N−ベンゾイルアゼチジン−2−カルボン酸と(−)−1−フェニルエチルアミンとの塩(d.e.=91%)(252mg)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の必要とするエナンチオマーと1−フェニルエチルアミンの一つのエナンチオマーとの間で生成されるジアステレオ異性体塩の選択的結晶化からなる、エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸を得る方法。
【請求項2】
必要とするジアステレオ異性体塩の結晶化を、1−フェニルエチルアミンの一つのエナンチオマーとN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の必要とするエナンチオマーとの間で生成される純粋なジアステレオ異性体塩を種晶として入れることにより行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
アシル基がベンゾイルであることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の選択的結晶化、続いてN−アシル基の除去からなるエナンチオマーに富むアゼチジン−2−カルボン酸の製造方法。
【請求項5】
脱アシル化を、アルカリ存在の下での加水分解により行うことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
アルカリがアルカリ金属水酸化物であることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
アゼチジン−2−カルボン酸が(S)−アゼチジン−2−カルボン酸であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
N−アシルアゼチジン−2−カルボン酸の一つのエナンチオマーと1−フェニルエチルアミンの一つのエナンチオマーとの間で生成されるジアステレオ異性体塩。
【請求項9】
アシル基がベンゾイルであることを特徴とする請求項8記載の塩。
【請求項10】
エナンチオマーに富むN−アシルアゼチジン−2−カルボン酸を得るための選択的結晶化での1−フェニルエチルアミンの使用。

【公開番号】特開2009−108079(P2009−108079A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290440(P2008−290440)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【分割の表示】特願平10−505753の分割
【原出願日】平成9年7月15日(1997.7.15)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG