説明

エネルギー移動に基づく光ナノワイヤバイオセンサ

本発明は、生体分子検出のためのナノワイヤの光特性の使用に関する。ナノワイヤを用いることの利点は、受容体分子と結合する高い比表面積、及び、担体の強い量子閉じ込めに起因する、大きさに依存する光特性である。即ち、異なった直径を持つナノワイヤは異なった色を示す。提案された変換機構は、生体分子からナノワイヤへのエネルギー移動又はその逆方向のエネルギー移動に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学分子又は生体分子の存在及び/又は量を検出するための、更に、生化学、生物又は化学分析のための、方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロアレイ又はバイオチップの導入は、DNA(デスオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)及びタンパク質の分析に革命を起こしている。アプリケーションは、例えば、人間の遺伝子型決定(例えば病院内で又は個人の医師又は看護婦による)、細菌スクリーニング、生物学調査及び薬理調査である。
【0003】
バイオチップ(バイオセンサチップ、生物マイクロチップ、遺伝子チップ又はDNAチップとも呼ばれる)は、最も簡単な形態では、多数の異なったプローブ分子がチップ上の境界明瞭な領域上に取り付けられた基板であって、分析されるべき分子又は分子断片が、該基板に完全にマッチする場合に該基板に結合することができる、基板からなる。例えば、DNA分子の断片は、1つの固有の相補DNA(c−DNA)分子断片に結合する。結合反応の発生は、例えば、分析されるべき分子に結合される蛍光マーカーを使用することによって、検出されることができる。これは、小量ずつの多くの異なった分子又は分子断片を並行して短時間で分析する能力を提供する。1つのバイオチップは、1000個以上の異なった分子断片についての分析を行うことができる。バイオチップの使用から得ることができる情報の有用性は、ヒトゲノム解析計画等のプロジェクト並びに遺伝子及びタンパク質の機能に関する追跡研究の結果として、来たる10年の間に急激に向上すると予想されている。
【0004】
例えばAffymetrixから現在市販されているバイオチップの第1世代においては基板は補助機能しか持たない一方で、将来の世代では、基板が、一部又は全ての検出及び制御機能(例えば温度及びpHの測定)を実現する電子部品を含むことが期待されている。これは以下の利点を持つ。即ち、
−高価で大きな光学検出システムの使用を不必要にする。
−プローブされる分子の面密度を更に向上させる可能性を提供する。
−速度及び正確性を向上させる。
−必要とされる試験体積の量を減少させる。
−労働コストを低下させる。
【0005】
バイオチップが場所に関係なく(病院内においてだけでなく個人の医師及び/又は看護婦がいる他の場所でも)診療の安価な方法を提供するようになり、これらの使用が疾患管理の全体的なコストの削減につながるようになると、バイオチップは大量生産製品になる。
【0006】
ナノワイヤに基づくナノセンサは、生物種及び化学種の非常に高感度で選択的な検出のために最近になって提唱されている。ナノワイヤは、電界効果トランジスタ(FET)構造において化学ゲートとして用いられる。ナノワイヤの表面への分子の結合は、ナノワイヤの「バルク」におけるキャリヤの欠如又は蓄積に至る可能性があり、これに伴うナノワイヤの導電性の変化は、電子的に測定されることができる。
【0007】
Yi Cui、Qingqiao Wei、Hongkun Park及びCharles M. Lieberによる「Nanowire nanosensors for highly sensitive and selective detection of biological and chemical species」 Science 293、1289 (2001)において、機能化表面を有するホウ素添加シリコンナノワイヤが、pH、タンパク質ストレプトアビジン(ピコモルレベルで)及びCa2+を検出するために用いられることができることが示されている。この文書で説明される第1の側面において、酸化シリコン表面を3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)で修飾して、プロトン化及び脱プロトン化を経ることができる表面(表面電荷の変化がSiNWを化学的にゲート制御することができる)を提供することによって、シリコンナノワイヤ(SiNW)固体FETがpHナノセンサに変換される。他の側面においては、生体分子センサが、SiNWをビオチンで機能化することによって調査される。このバイオセンサによって、ビオチンとストレプトアビジンとの間のよく明らかにされているリガンド−受容体結合について調査することが可能である。上記文書のナノセンサは、タンパク質の高感度で選択的なリアルタイムの検出が可能である。更に、他の例では、生体内作用(例えば筋収縮、タンパク質分泌、細胞死)を活性化するのに重要であるCa2+イオンを検出するためにカルモジュリンをSiNWデバイスに固定することによってCa2+センサが作られる。
【0008】
上記のナノセンサは、化学ゲート材料としてナノワイヤを用いることについて幾つかの欠点を持つ。これらは、ナノワイヤへの接触並びに接触表面に対するナノワイヤのアセンブリ及び位置決めに関する。更に、CHEM−FET(化学感応性電界効果トランジスタ)は、感度/特異性に関する幾つかの本来的に存在する問題を持つ。被分析物中に存在する荷電した生体分子は、ゲートの荷電状態に影響を及ぼし、従って、達成されることができる感度/特異性を制限する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、感度が高く選択的な生物種、生化学種及び/又は化学種の検出のための方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、本発明による方法及び装置によって達成されることができる。1つの側面では、本発明は、生物分子検出のためのナノワイヤの光学特性の使用に関する。提案された変換機構は、生体分子とナノワイヤとの間のエネルギー移動に基づく。
【0011】
本発明は、例えば被分析物中の分子を検出し、この検出に従って信号を出力するための装置を提供する。この装置は、表面を有し光学特性を持つ少なくとも1つのナノワイヤを有する。上記少なくとも1つのナノワイヤの表面は、分子を選択的に結合することができる少なくとも1つの結合部位を備える。この装置は、分子が表面に選択的に結合するときにナノワイヤの光学特性を検出するための、そして、信号を出力するための、光検出器を更に有する。
【0012】
本発明の1つの実施例において、光検出器はフォトトランジスタであってよい。しかし、光検出器は、例えば、光ダイオード、光カソード又は光導電体等のいかなる適切な光検出器であってもよい。
【0013】
選択的に結合されるべき分子は、例えば、生体分子又は生物有機体であってよい。本発明の実施例において、生体分子は、第1のルミネセンススペクトルを有するルミネセント生体分子であってよい。
【0014】
本発明の1つの側面によれば、ナノワイヤは第2のルミネセンススペクトルを持っていることができる。ナノワイヤは、第1のルミネセンススペクトルが第2のルミネセンススペクトルとは異なるようなものであってもよい。更に、上記少なくとも1つのナノワイヤは、活性化イオンを有していることができる。
【0015】
本発明の実施例において、選択的に結合されるべき分子は、色素でラベリングされていてもよい。
【0016】
更に、本発明による装置は、ナノワイヤのアレイを有していることができる。1つの実施例において、少なくとも第1のナノワイヤは、少なくとも1つの第1の結合部位で修飾されることができ、少なくとも第2のナノワイヤは、少なくとも1つの第2の結合部位で修飾されることができる。第1の及び第2の結合部位は、異なった分子に結合することができる。このようにして、複数の分子を同時に同一のセンサ装置によって検出することが可能である。更に、装置は、異なったサイズを有する少なくとも2つのナノワイヤを有してよい。
【0017】
本発明の1つの実施例において、前記少なくとも1つのナノワイヤは、液体に分散され縣濁液を形成することができる。上記少なくとも1つのナノワイヤの縣濁液は、表面上に滴下堆積されることができる。
【0018】
他の実施例において、上記少なくとも1つのナノワイヤは、表面上で成長させられることができる。この表面は、例えば、エピタキシャル成長のために必要である結晶表面であってよい。
【0019】
更に、上記少なくとも1つのナノワイヤは、多孔質マトリクスに成長させられることができる。
【0020】
本発明は、更に、分子の検出のための方法を提供する。本方法は、少なくとも1つのナノワイヤの光学特性を使用する。本発明による方法においては、分子から少なくとも1つのナノワイヤへのエネルギー移動又はその逆のエネルギー移動が、分子の少なくとも存在を、必要ならば存在する分子の量を、決定する。1つの実施例では、エネルギー移動は、第1のルミネセンススペクトルを持つルミネセント生体分子と第2のルミネセンススペクトルを持つ少なくとも1つのナノワイヤとの間で起こり得る。本発明によれば、第1のルミネセンススペクトルは、第2のルミネセンススペクトルとは異なっていてよい。生体分子は、適当な波長の光によって励起されることができる。他の実施例において、エネルギー移動が、ルミネセンスを持つ上記少なくとも1つのナノワイヤと分子をラベルする色素との間で生じることができ、これにより、ナノワイヤのルミネセンスは消光する。本発明の更に他の実施例において、色素又はラベルが、ナノワイヤへのエネルギー移動のために用いられることができる。
【0021】
生物種及び化学種の光検出にナノワイヤを用いることは、幾つかの利点を持つ。第1に、酵素、抗体又はアプタマー等の受容体分子を結合するために高い比表面積が利用可能である。第2の利点は、担体の強い量子閉じ込めに起因する、大きさに依存する光学特性である。即ち、異なった直径を持つナノワイヤは、異なった色を示す。第3に、光学検出方法は、既知の電気ベースのナノワイヤセンサにおける接触の問題を避ける。
【0022】
更に、ナノワイヤは、例えば量子ドットと比較して、取扱いが比較的容易である。ナノテクノロジーの分野において、ナノワイヤのアレイを持つ表面を制御された態様で作製するための多くの安価な方法が開発されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のこれらの及び他の特性、特徴及び利点は、添付の図面と組み合わせて以下の詳細な説明から明らかになる。ここで、添付の図面は、本発明の原理を例示により示すものである。この説明は、本発明の範囲を制限することなく、例によってのみ与えられる。以下で引用される参照番号は、添付の図面を参照する。
【0024】
異なった図において、同一参照番号は、同一又は類似の要素を指す。
【0025】
本発明は、特定の実施例を参照して特定の図面を参照して説明されるが、本発明はそれらに限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ制限される。説明される図面は概略的なものであり、非制限的である。図面中では、幾つかの要素の大きさは誇張されていることがありえ、説明目的のため、縮尺どおりには描かれていない。本説明及び請求の範囲において用語「有する(comprising)」が用いられるとき、他の要素又はステップは排除されない。単数の名詞を示すときに不定冠詞又は定冠詞(例えば(「a」又は「an」、「the」)が用いられるとき、これは、そうでないと具体的に述べられない限り、複数のこの名詞を含む。
【0026】
本発明は、被分析物(例えば生物種、生化学種又は化学種)の検出のための方法及び装置を提供する。被分析物は、この説明において更に、生物分子とも呼ばれるが、これは、本発明における使用のための適切な被分析物の例としてのみである。マトリクスに結合されることができるあらゆる生体分子が、本出願において使用される可能性がある。例は:
−核酸:DNA、RNA(二重鎖若しくは一本鎖)、又は、DNA‐RNAハイブリッド若しくはDNAとタンパク質との複合体(修飾の有無にかかわらない)。核酸アレイは、よく知られている。
−タンパク質又はペプチド(修飾の有無にかかわらない)、例えば、抗体、DNA又はRNA結合タンパク質、酵素、受容体、ホルモン、シグナル伝達タンパク質。最近、イーストの完全なプロテオームを有するグリッドが発表された。
−オリゴ糖若しくは多糖又は糖。
−小分子(例えば阻害剤、リガンドであり、マトリクスに直接又はスペーサ分子を介して架橋されたもの)。
【0027】
本発明の方法は、ナノワイヤの光学特性を用いて生体分子等の被分析物の存在を検出する。本発明による方法において提案される変換機構は、被分析物(例えば生体分子)からナノワイヤへの(又はその反対の)エネルギー移動に基づく。
【0028】
ナノテクノロジー、又は、時には分子マニュファクチャリングと呼ばれるものは、物質の分子レベル又は高分子レベルで製造された電子回路及び機械的装置等の極小の装置の設計及び製造を扱う工学の一分野である。半導体ウェーハ又はチップ上に製造されることができる部品の数には制限がある。伝統的には、回路はいわゆるトップダウンアプローチによって、即ち連続的な層の堆積及びエッチングによって、製造されてきた。代わりに、カーボンナノチューブ、ナノワイヤ等のビルディングブロックを用いるいわゆるボトムアップアプローチ、及び、装置をナノメートルサイズスケールで構築する自己組織化技術を利用することも可能である。このようにして、(電子閉じ込め効果から生じる)新しい機能を持つ装置が作られることができる。本発明によれば、導体材料又は半導体材料から作られるナノワイヤに焦点が合わせられている。これらのナノワイヤのアスペクト比は、一般的に、100又はそれを超える(例えば10,000)オーダーである一方で、例えばロッド及びピラー(トップダウンアプローチによって作られる)は、一般的にアスペクト比10から最大100のオーダーである。サイズに依存する電子閉じ込め効果を観察するには、ナノワイヤの半径は、典型的にはエキシトンのボーア半径(20nm)よりも小さくなければならない。
【0029】
ナノワイヤは、例えば、触媒成長中心として働く例えば金粒子を有する表面を用いる、いわゆる気体−液体−固体(VLS)成長法によって成長されることができる(Xiangfeng Duan及びCharles, M. Lieber、Advanced Materials 12、298 (2000)を参照)。多様な、2元素又は3元素から成るIII−V、II−VI、IV−IV群元素(例えばGaAs、GaP、GaN、InP、GaAs/P、InAs/P、ZnS、ZnSe、CdS、CdSe、ZnO、SiGe等)が、この方法で合成されることができる。ナノワイヤの直径は、触媒Au粒子のサイズによって大まかなスケールで制御されることができる。必要ならば、光化学エッチングを通じてナノワイヤの直径の微調整が達成されることができ、ここで、ナノワイヤの直径は、エッチング最中の入射光の波長によって決定される。ナノワイヤに基づくセンサでは、バルクと比較したセンサの領域は極めて高い、即ち、ナノワイヤ上でエネルギー移動を達成するために多くの結合部位が利用可能である。所望のワイヤ長(d)を持つ半導体ナノワイヤの組を作製する代替の方法が、対応する特許出願EP03104900.0に開示され、これはここに参照によって組み込まれる。代替の方法は、
−既製の(pre-fabricated)半導体ナノワイヤの組を提供するステップであって、少なくとも1つの既製の半導体ナノワイヤは所望のワイヤ直径より大きいワイヤ直径を持つ、ステップと、
−少なくとも1つの既製のナノワイヤのワイヤ直径をエッチングによって低減するステップであって、前記エッチングは、前記少なくとも1つの既製のナノワイヤによって吸収される電磁放射線によって誘起され、前記電磁放射線の最短波長は、前記少なくとも1つの既製のナノワイヤが前記所望のワイヤ直径に到達すると、前記少なくとも1つの既製のナノワイヤの前記吸収がかなり低減されるように、選択される、ステップと、
を有する。
【0030】
図1に示される本発明の第1の実施例においては、被分析物を検出するためのナノワイヤ1の光学特性を用いる第1のオプションが説明される。ナノワイヤ1の表面1aが、少なくとも1つの受容体3によって修飾される。受容体3は、例えば、検出されなければならない被分析物を具体的に認識し結合する、生体分子によって定義される表面であってよい。このような生体分子は、例えば、高分子、酵素、抗体又はアプタマーであってよい。
【0031】
第1の実施例では、生体分子2等のターゲットルミネセント被分析物と、ナノワイヤ1又はナノワイヤ1中に存在する活性化イオン(図1には示されない)との間のエネルギー移動が、検出の手段を提供する。ターゲットルミネセント生体分子2は、第1の適当な波長の光によって励起されることができる。ターゲットルミネセント生体分子2がナノワイヤ1の表面1aで受容体3と結合すると、該生体分子2は、自身のエネルギーをナノワイヤ1に又はナノワイヤ1の活性化イオンに移動することができる。このエネルギー移動を通じて、ナノワイヤ1は第2の波長で放射線を発する。検出されるべきターゲットルミネセント生体分子2からナノワイヤ1へのエネルギー移動から、従って、ナノワイヤ1により発せられる放射線から、ターゲット生体分子2の存在が検出されることができる。更に、ターゲット生体分子2の量の定量測定は、例えば、発せられる光の量から行われることができる。ナノワイヤ1の直径又は活性化イオンは、ナノワイヤ1の特性ルミネセントスペクトルが、ターゲット生体分子2のルミネセンス波長と比較して異なった波長で発生するように、即ち、第1の及び第2の波長が異なるように、選択されることができる。このようにして、高い感度が達成されることができる。
【0032】
本発明のこの実施例の利点は、被分析物のタギングもラベリングも必要とされず、従って、ピコモル(pM=10−12M)のオーダー又は一層小さいオーダーの感度が達成可能である、ということである。
【0033】
ナノワイヤ1の表面1aは、1つ又は複数の受容体3を備えていることができ、1つのナノワイヤ上の全ての受容体3は同じものであるが、異なったナノワイヤ1については受容体3は異なっている。このようにして、ナノワイヤ1−受容体3の異なった組が作られることができ、各セットは、特定のターゲット生体分子2を検出する機能とリンクしており、ナノワイヤ1−受容体3の異なった組に応じて(例えば対応するナノワイヤ1の直径に応じて)随意に異なる特定の小帯域ルミネセントスペクトルを持つ。ナノワイヤ1−受容体3の異なった組の使用は、本発明の方法を使用して定性的に且つ定量的に、異なった被分析物を同時に検出することを可能にする。
【0034】
本発明の他の実施例において、図面に表されないパラレル検出器が実現されることができ、これは、ナノワイヤ1のアレイを有し、これらナノワイヤ1のうち少なくとも2つは上述の異なった受容体3を備える。この場合、ナノワイヤ1の異なった組は、異なった特定の小帯域ルミネセントスペクトルを持つ。ナノワイヤのこのようなアレイは、例えば、陽極処理されたアルミニウム基板を用いることにより作られることができる。陽極処理は、ナノポアの組織化された六方最密構造によってAlの表面上に多孔質アルミナ薄膜を生じる(S. Bandyopadhyay他、Nanotechnology 7、360 (1996)を参照されたい)。例えばC.R. Martin、Chem. Mater. 8, 1739 (1996)に示されるように、これらのポアの中にナノワイヤが成長されることができる。ナノワイヤの堆積の後、多孔質アルミナテンプレートは、湿式化学エッチングによって選択的に除去されることができる。
【0035】
本実施例において、一回の測定の間に、異なったターゲット生体分子2を異なった波長で検出することができる。なぜなら、一連の生体分子2が、ナノワイヤに基づくアレイの単一のルミネセンススペクトルを測定することにより同時に検出されることができるからである。結合された被分析物の数に対応する数のピークが、観測されるスペクトルにおいて見られる。ピークの高さは、存在する各被分析物の量の尺度であり、従って、濃度の尺度である。
【0036】
図2において示される本発明の他の実施例において、エネルギー移動の他の方法が、生体分子4の検出のために用いられる。ここで、エネルギー移動は、ナノワイヤ1のルミネセンスを消光するターゲット生体分子4に基づいている。
【0037】
第1の実施例におけるように、ナノワイヤ1の表面1aは、少なくとも1つの受容体3によって修飾される。受容体3は、検出されなければならないターゲット生体分子4を特に認識する。受容体3は、例えば酵素、抗体又はアプタマーであることができる。本実施例において、生体分子4は随意に色素5によってラベリングされることができ、この色素は、例えば、非蛍光性消光剤であってよく、例えばMolecular Probesから入手可能なQSY 7、QSY 9、QSY 21、QSY 35であってよい。ナノワイヤ1は、特性ルミネセンススペクトルを持つ。ラベリングされた生体分子6が、ナノワイヤ1の表面1a上の受容体3に又は特定の部位に結合すると、これは、ナノワイヤ1のルミネセンスを消光する。前述のとおり、生体分子4にラベリングすることは、オプションにすぎない。しかし、消光は、生体分子4が色素5によってラベリングされているときに最も効果的である。後者の場合、好適には、かなりの重複が、ドナー(ナノワイヤである)の発光スペクトルと受容体(色素である)の吸収スペクトルとの間に存在する(P.T. Tran、E.R. Goldman、G.P. Anderson、J. M. Mauro及びH. Mattoussi、Phys. Stat. Sol. B 229、427 (2002)を参照されたい)。
【0038】
第1の実施例と同様に、異なったナノワイヤ1の表面1aを異なった受容体で修飾し、ナノワイヤと受容体との組合せの異なった組を得ることも可能である。ナノワイヤと受容体との組合せの各組は、特定のターゲット生体分子2を検出する機能とリンクしており、随意に、例えばナノワイヤ1の直径に依存して、特定の小帯域ルミネセントスペクトルを持つ。このようにして、ナノワイヤと受容体との組合せの異なった組を用いることにより、本発明の方法を用いて異なった被分析物を検出することが可能でありうる。
【0039】
ここでも、ナノワイヤ1のアレイが本実施例において用いられることができる。ナノワイヤ1の表面1aを異なった受容体で修飾することによって、例えば、異なった直径を持ち、且つ異なったフォトルミネセントスペクトルを持つ、ナノワイヤを用いるとき、異なったターゲット生体分子4が同時に検出されることができる。
【0040】
本発明の方法及び装置の利点は、ナノワイヤ及び光学方法(例えばルミネセンス)を用いることにより、従来技術において要求されるような複雑な装置の構成及びナノワイヤの接触が、最早必要でなくなるということである。本発明の方法によって、生体分子の自動ルミネセンスに関連する感度の問題が、回避されることができる。
【0041】
ナノワイヤに基づくバイオセンサについての種々の追加の実施例が、本発明の範囲内に含まれる。例えば、ナノワイヤ1が、均一な溶液/懸濁液において用いられることができる。異なった大きさ(例えば直径)を有するとともに異なった受容体3でコーティングされたナノワイヤ1は、検出されるべき被分析物と溶媒タイプ、pHに関して共溶性である液体中に分散されて縣濁液を形成することができる。この懸濁液は、被分析物に加えられて完全に混合されることができる。被分析物中の異なったターゲット生体分子の存在は、ナノワイヤ1のルミネセントスペクトルの変化から得られる。
【0042】
更に、別の実施例では、ナノワイヤ1は表面上へ直接成長されることができる。基板の結晶性質に応じて、ナノワイヤの成長はランダムであってもよい(即ち基板表面に対するナノワイヤの優先的な配向性がない)し、又は、ナノワイヤは、エピタキシャル成長の場合には特定方向に配向していてもよい。
【0043】
更に他の実施例において、ナノワイヤ1は、多孔質酸化アルミニウムマトリクス内に成長されることができる。成長の後、マトリクス材料はエッチングによって選択的に除去されることができ、このとき、基板に垂直に並んだナノワイヤの密なアレイが残る。
更に、ナノワイヤ1は、基板に固定されて2次元型検出器を形成するか、又は、成形された基板に固定されて3次元型検出器を形成することができる。従って、1つの実施例において、ナノワイヤ1の懸濁液は、表面に滴下堆積されることができる。このようにして、ナノワイヤのランダムなネットワークが表面に形成され、これは、センサとして用いられることができる。
【0044】
本発明の他の実施例では、ナノワイヤ1を有する装置10が、分子2、4の検出のために提供される。装置10(図3に示される)は、光検出器11と、フィルタ12と、
少なくとも1つの受容体3によって修飾されていてよい少なくとも1つのナノワイヤとを有する。図3は、この実施例を説明するのを簡単にするためだけのものであり、本発明を制限するものではないことに注意されたい。
【0045】
光検出器11は、穴又は凹部14を有していることができる半導体基板上に形成される。光導電体11は、本実施例において、例えばフォトトランジスタであることができる。しかし、例えばフォトカソード、フォトダイオード又は光導電体等、更に他のタイプの光検出器11が用いられることができる。光検出器11の上に、フィルタ12が配置される。本発明によれば、特定の色又は波長を有する光のための特定のフィルタ12が用いられることができる。このようにして、関連する波長を持つ光のみがフィルタ12を通過することができ、他の全ての妨害光は除去されることができる。
【0046】
フィルタ12の上に、ナノワイヤ1が堆積されることができる。ナノワイヤ1は、例えば、ナノワイヤ1の懸濁液からフィルタ12上へ滴下堆積されることができる。ナノワイヤ1は、上述の実施例で既に議論された受容体によって修飾されることができる。ここでも、ナノワイヤ1は、同じ受容体3によって、又は、異なった受容体3によって修飾されることができる。
【0047】
図3において示される1つの実施例において、検出されるべき分子は、ルミネセント生体分子2であることができる。ルミネセント生体分子2は、第1の適当な波長の光によって励起されることができる。ルミネセント生体分子2は、受容体3と結合すると、自身のエネルギーをナノワイヤ1に又はナノワイヤ1の活性化イオンに移動することができる。このエネルギー移動を通じて、ナノワイヤ1は第2の波長で放射線を発する。第2の波長の発せられた放射線は、フィルタ12を通過して、次に光検出器11によって検出されることができる。光検出器11の信号出力は、ルミネセント生体分子2の存在の指示でありうる。更に、ターゲット生体分子2の量の量的測定が、例えば発せられる光の量からなされることができる。他の実施例(図3に示されない)において、検出されるべき分子4は、色素5によってラベリングされていてよい。ナノワイヤ1は、特性ルミネセンススペクトルを持つことができる。ラベリングされた生体分子6は、ナノワイヤ1の表面1a上の受容体3又は特定部位に結合すると、ナノワイヤ1のルミネセンスを消光する。ナノワイヤ1の消光されたルミネセンスは、特定のフィルタ12を通過することができ、このとき光検出器11によって検出されることができる。ここでも、光検出器11の出力は、分子4の存在の指示であることができる。分子4の量的検出をすることも可能でありうる。ナノワイヤ1のルミネセンスの消光の程度は、存在する分子4の量の尺度となりうる。
【0048】
本発明の更に他の実施例において、装置10は、2つの光検出器11を有することができ、これら光検出器は両方とも上にフィルタ12を持ち、このフィルタは両方とも同じであっても互いに異なっていてもよく、この上にナノワイヤ1が堆積される。異なったフィルタを、即ち、他の波長を持つ光を感知するフィルタを、用いることにより、
装置10は、2つの異なった周波数で動作することができ、従って、異なった分子2、4が同時に決定されることができる。
【0049】
ここで、本発明による装置について、好適な実施例、特定の構造及び構成並びに材料が議論されたが、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく形式及び詳細について種々の変化又は修正がなされることができることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施例による検査法の概略図である。
【図2】本発明の第2の実施例による検査法の概略図である。
【図3】本発明の1つの実施例による装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子と選択的に結合することができる少なくとも1つの結合部位を備えた表面を備えるとともに光学特性を持つ少なくとも1つのナノワイヤと、前記分子が前記表面に選択的に結合するときに前記ナノワイヤの前記光学特性を検出して、信号を出力するための、光検出器とを有する装置。
【請求項2】
前記光検出器はフォトトランジスタである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記分子は生体分子である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記生体分子は第1のルミネセンススペクトルを持つルミネセント生体分子である、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つのナノワイヤは第2のルミネセンススペクトルを持つ、請求項1乃至4の何れか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記ナノワイヤは、前記第1のルミネセンススペクトルが前記第2のルミネセンススペクトルとは異なるようなものである、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つのナノワイヤは、更に活性化イオンを有する、請求項1乃至6の何れか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記分子は色素によってラベリングされる、請求項1乃至3の何れか1項に記載の装置。
【請求項9】
ナノワイヤのアレイを有する請求項1乃至8の何れか1項に記載の装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の装置において、少なくとも第1のナノワイヤは、少なくとも1つの第1の結合部位によって修飾され、少なくとも第2のナノワイヤは、少なくとも1つの第2の結合部位によって修飾され、前記第1の及び第2の結合部位は、互いに異なった分子と結合する、装置。
【請求項11】
少なくとも2つのナノワイヤは異なった大きさを持つ、請求項1乃至10の何れか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つのナノワイヤは、液体中に分散されて懸濁液を形成する、請求項1乃至11の何れか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つのナノワイヤの前記懸濁液は、表面に滴下堆積される、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記少なくとも1つのナノワイヤは表面で成長させられる、請求項1乃至11の何れか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記少なくとも1つのナノワイヤは多孔質マトリクス内に成長させられる、請求項1乃至11の何れか1項に記載の装置。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れか1項に記載の装置において、当該装置は、被分析物の検出のためのナノワイヤセンサであり、前記少なくとも1つの結合部位は、被分析物と選択的に結合することが可能であり、前記ナノワイヤの前記光学特性は、被分析物検出のために用いられる、装置。
【請求項17】
分子の検出のための方法であって、当該方法は、少なくとも1つのナノワイヤの光学特性を用い、前記分子から前記少なくとも1つのナノワイヤへのエネルギー移動又はその逆方向のエネルギー移動は、少なくとも前記分子の存在を決定する、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、第1のルミネセンススペクトルを持つルミネセント生体分子と、第2のルミネセンススペクトルを持つ前記少なくとも1つのナノワイヤとの間でエネルギー移動が起こり、前記第1のルミネセンススペクトルは前記第2のルミネセンススペクトルとは異なる、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記ルミネセント生体分子は、適当な波長の光によって励起される、方法。
【請求項20】
請求項17に記載の方法において、エネルギー移動は、ルミネセンスを持つ少なくとも1つのナノワイヤと、前記分子がラベリングされる色素との間で起こり、これにより、前記ナノワイヤのルミネセンスは消光される、方法。
【請求項21】
請求項17乃至20の何れか1項に記載の方法において、前記分子は被分析物であり、前記被分析物から前記少なくとも1つのナノワイヤへのエネルギー移動又はその逆方向のエネルギー移動は、前記被分析物の存在及び/又は量を決定する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−515639(P2007−515639A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544638(P2006−544638)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【国際出願番号】PCT/IB2004/052686
【国際公開番号】WO2005/064337
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】