説明

エネルギー線硬化型エラストマー組成物

【課題】塗布時の加工性と塗布後の形状維持性を両立することができ、かつ熱履歴やせん断履歴に対する安定性が良好で、長期保存安定性の高いエネルギー線硬化型エラストマー組成物を提供すること。
【解決手段】(A)(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物、(B)分子内にメルカプト基2〜6個を有するポリチオール化合物、(C)(メタ)アクリレート化合物、及び(D)揺変剤を含むエネルギー線硬化型エラストマー組成物であって、(A)成分中の(メタ)アクリロイル基と(B)成分中のメルカプト基との官能基数比が、100:0.1〜100:5n(nは、ポリチオール化合物1分子中のメルカプト基の数である。)であり、かつ(D)揺変剤がアマイドワックスからなることを特徴とする、エネルギー線硬化型エラストマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエネルギー線硬化型エラストマー組成物に関し、さらに詳しくは、塗布時の加工性と塗布後の形状維持性を両立し得るエネルギー線硬化型エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に柔軟性、伸縮性、弾性といった、所謂ゴム特性を与える組成物はエラストマーと呼ばれ、その振動に対する疲労耐久性が、他の高分子素材と比較し抜きんでて優れているため、タイヤ等の自動車部材、土木、建築等の構造物用シール部材、Oリング等のパッキング部材、ガスケット部材、スピーカー等の音響用部材、携帯電話用キーシート等のシート部材、防振材料、各種機構部材等として適用されている。
【0003】
ところで、近年、コンピュータのHDD(ハードディスク装置)においては、高性能化、小型化が進み、複雑な回路構成を有するようになっており、わずかな塵によっても障害が起こるため、実用上、防塵の必要性が高まっており、ガスケットを使って塵の侵入を防ぐことが一般に行われている。
HDDのガスケットの製造方法としては、熱可塑性エラストマーなどを射出成形する方法、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)やフッ素ゴムなどからなるシートを所定の形状に打ち抜き、これを接着するなどの方法が採られてきた。
一方、近年、設備投資や加工費削減を図るため、光硬化性シール材用組成物を、ディスペンサーを用いて被着体に塗布し、成形した後、主として紫外線により硬化させることにより、ガスケットを製造する方法が採られるようになってきた(例えば、特許文献1参照)。ガスケットとしての十分なシール性を得るため、この光硬化性シール材用組成物には、硬化物が低硬度のものとなるように、ウレタンアクリレートオリゴマーが主成分として用いられている。
【0004】
ところで、小型化した電子機器においては、上述のようなガスケットを狭い範囲に寸法制度よく、高アスペクト比に成型する必要が生じている。この問題を解決するために、エネルギー線硬化性の溶液状樹脂に無機充填材や有機増粘剤などの揺変剤を含有させ、チクソ性を付与することによって、ディスペンサーから押し出されたガスケット形状が、自重により潰れないように、ガスケットの形状の精度向上の工夫も種々提案されている(特許文献1参照)。
揺変剤として有用な有機増粘剤、特に水添ひまし油やアマイドワックスは材料中に分散した状態で温度をかけることによって膨潤し網目構造を形成することによってチクソ性を発現する。通常、一定温度で材料とチクソ剤を膨潤に必要な時間だけミキサーで混煉する。しかし、この膨潤には時間がかかることが多く、混練中に十分に膨潤するための時間を取ろうとすると生産性が低下し、膨潤が不十分な状態で混練を終了すると材料が経時的に増粘しこれをシーリング用材料として用いた場合材料の貯蔵安定性が悪くなり、高い精度での押出し形状が得られないという問題がある。
【0005】
これに対して、エネルギー線硬化性液状樹脂及び増粘剤をミキサーにより攪拌・混合する工程に次いで、該混合液を恒温槽にて熟成(養生)する工程を有するシーリング用材料の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2では、有機増粘剤としてアマイドワックス、水添ひまし油、及びこれらの混合物が開示されるが、アマイドワックスは、原料に由来するアミンの存在により架橋密度を高めて硬度が大きくなることがあるので、特に水添ひまし油が好ましいとされている(特許文献2、段落0021参照)。したがって、特許文献2では、有機増粘剤として、水添ひまし油又はこれにアマイドワックスを混合したものが使用されている。
【0006】
有機増粘剤であるアマイドワックスは、揺変剤として有用であるが、上述のように、弾性体を硬化させたときに硬度が高くなりすぎるという欠点がある。そこで、従来は、水添ひまし油などの他の揺変剤と併用されてきた。
しかしながら、このような併用系では、熱履歴やせん断履歴に対する安定性が良好ではなく、一度ガスケット等として使用したものを再利用する場合や、ある程度以上の期間保存した保存品を用いる場合には、ガスケットなどのシール材料を製造する際の条件を、最適化する必要があり、必ずしも生産性が高いということはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−7047号公報
【特許文献2】特開2007−51239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、塗布時の加工性と塗布後の形状維持性を両立することができ、かつ熱履歴やせん断履歴に対する安定性が良好で、長期保存安定性の高いエネルギー線硬化型エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、分子内にメルカプト基2〜6個を有するポリチオール化合物を含有し、かつ揺変剤としてアマイドワックスのみを用いたエネルギー線硬化型エラストマー組成物により、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1](A)(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物、(B)分子内にメルカプト基2〜6個を有するポリチオール化合物、(C)(メタ)アクリレート化合物、及び(D)揺変剤を含むエネルギー線硬化型エラストマー組成物であって、(A)成分中の(メタ)アクリロイル基と(B)成分中のメルカプト基との官能基数比が、100:0.1〜100:5n(nは、ポリチオール化合物1分子中のメルカプト基の数である。)であり、かつ(D)揺変剤がアマイドワックスからなることを特徴とする、エネルギー線硬化型エラストマー組成物、
[2]エネルギー線照射による硬化物が、Flory−Rehnerの式より算出される架橋点間分子量4,000〜55,000のものである、上記[1]に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物、
[3](A)(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物が、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物である、上記[1]又は[2]に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物、
[4](メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物が、エネルギー線硬化型オリゴマーである、上記[3]に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物、
[5]エネルギー線硬化型オリゴマーが、ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル系(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ系(メタ)アクリレートオリゴマー、共役ジエン重合体系(メタ)アクリレートオリゴマー及びその水素添加物の中から選ばれる少なくとも1種である、上記[4]に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物、
【0011】
[6](B)分子内にメルカプト基2〜6個を有するポリチオール化合物が、水酸基2〜6個を有する多価アルコールのβ−メルカプトプロピオン酸エステルである、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物、
[7]水酸基2〜6個を有する多価アルコールが、炭素数2〜20のアルカンジオール、ポリ(オキシアルキレン)グリコール、グリセロール、ジグリセロール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールである、上記[6]に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物、
[8]エネルギー線が、紫外線であり、(E)光ラジカル重合開始剤を含む、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物、
[9]光ラジカル重合開始剤が、分子内開裂型及び/又は水素引抜き型である、上記[8]に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物、及び
[10]ガスケット用材料である上記[1]〜[9]のいずれかに記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱履歴やせん断履歴に対する安定性が良好で、長期保存安定性の高い、塗布時の加工性と塗布後の形状維持性を両立し得るエネルギー線硬化型エラストマー組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のエネルギー線硬化型エラストマー組成物(以下、単にエラストマー組成物と称することがある。)は、(A)(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物、(B)分子内にメルカプト基2〜6個を有するポリチオール化合物、(C)(メタ)アクリレート化合物、及び(D)揺変剤を含み、(A)成分中の(メタ)アクリロイル基と(B)成分中のメルカプト基との官能基数比が、100:0.1〜100:5n(nは、ポリチオール化合物1分子中のメルカプト基の数である。)であり、(D)揺変剤がアマイドワックスからなることを特徴とする。
【0014】
[(A)エネルギー線硬化型化合物]
本発明のエラストマー組成物においては、(A)成分として、(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物が用いられる。このエネルギー線硬化型化合物としては、得られるエラストマーの性能及び加工性などの観点から、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有するものを、好適に用いることができる。1分子中の(メタ)アクリロイル基の個数は、通常2〜6個程度、好ましくは2〜4個である。
なお、上記(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を指す。
このようなエネルギー線硬化型化合物としては、(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型オリゴマーであることが好ましい。
【0015】
((メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型オリゴマー)
(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型オリゴマーとしては、特に制限はなく、例えばウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル系(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ系(メタ)アクリレートオリゴマー、共役ジエン重合体系(メタ)アクリレートオリゴマー及びその水素添加物などを挙げることができる。
ここで、ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールと、ポリイソシアナートとの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
ポリエステル系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる、両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0016】
ポリエーテル系(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、エポキシ系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ系(メタ)アクリレートオリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレートオリゴマーも用いることができる。
また、共役ジエン重合体系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、液状スチレン−ブタジエン共重合体をアクリル変性して得られるSBRジアクリレート、ポリイソプレンをアクリル変性して得られるポリイソプレンジアクリレートなどが挙げられ、水素添加共役ジエン重合体系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば両末端に水酸基を有する、水素添加ポリブタジエン又は水素添加ポリイソプレンの前記水酸基を、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを指し、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を指す。
【0017】
本発明においては、前記(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型オリゴマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、例えばガスケットなどのシール部材用途に用いる場合には、前記オリゴマーの中で、得られるエラストマーの性能及び加工性などの観点から、2官能ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーが好適である。なお、2官能ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーとは、ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーの1分子中に、(メタ)アクリロイル基が2個含まれていることを意味する。
【0018】
[(B)ポリチオール化合物]
本発明のエネルギー線硬化型エラストマー組成物において、(B)成分として用いられるポリチオール化合物は、分子内にメルカプト基を2〜6個有する化合物である。
このようなポリチオール化合物としては、分子内にメルカプト基を2〜6個有するものであればよく、特に制限されず、例えば、炭素数2〜20程度のアルカンジチオールなどの脂肪族ポリチオール類、キシリレンジチオールなどの芳香族ポリチオール類、アルコール類のハロヒドリン付加物のハロゲン原子をメルカプト基で置換してなるポリチオール類、ポリエポキシド化合物の硫化水素反応生成物からなるポリチオール類、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコール類と、チオグリコール酸、β−メルカプトプロピオン酸、又はβ−メルカプトブタン酸とのエステル化物からなるポリチオール類などを挙げることができる。
【0019】
これらのポリチオール類の中で、反応性がよく、かつ化学構造の制御が容易な、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコールと、チオグリコール酸、β−メルカプトプロピオン酸、又はβ−メルカプトブタン酸とのエステル化物、特にβ−メルカプトプロピオン酸とのエステル化物、及びβ−メルカプトブタン酸とのエステル化物からなるポリチオール類が好適である。
前記の分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコール類としては、炭素数2〜20のアルカンジオール、ポリ(オキシアルキレン)グリコール、グリセロール、ジグリセロール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどを挙げることができる。
【0020】
前記炭素数2〜20のアルカンジオールは、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えばエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,12−ドデカンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、水添ビスフェノールAなどが挙げられる。
ポリ(オキシアルキレン)グリコールとしては、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールエチレンオキサイド付加物、水添ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールプロピレンオキサイド付加物、水添ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0021】
本発明においては、(B)成分のポリチオール化合物として、例えばエチレングリコールジ(チオグリコレート)、エチレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、トリメチレングリコールジ(チオグリコレート)、トリメチレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、トリメチレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、プロピレングリコールジ(チオグリコレート)、プロピレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、プロピレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、1,3−ブタンジオールジ(チオグリコレート)、1,3−ブタンジオールジ(β−メルカプトプロピオネート)、1,3−ブタンジオールジ(β−メルカプトブタネート)、1,4−ブタンジオールジ(チオグリコレート)、1,4−ブタンジオールジ(β−メルカプトプロピオネート)、1,4−ブタンジオールジ(β−メルカプトブタネート)、ネオペンチルグリコールジ(チオグリコレート)、ネオペンチルグリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、ネオペンチルグリコールジ(β−メルカプトブタネート)、1,6−ヘキサンジオールジ(チオグリコレート)、1,6−ヘキサンジオールジ(β−メルカプトプロピオネート)、1,6−ヘキサンジオールジ(β−メルカプトブタネート)、1,8−オクタンジオールジ(チオグリコレート)、1,8−オクタンジオールジ(β−メルカプトプロピオネート)、1,8−オクタンジオールジ(β−メルカプトブタネート)、1,9−ノナンジオールジ(チオグリコレート)、1,9−ノナンジオールジ(β−メルカプトプロピオネート)、1,9−ノナンジオールジ(β−メルカプトブタネート)、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールジ(チオグリコレート)、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールジ(β−メルカプトプロピオネート)、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールジ(β−メルカプトブタネート)、ジエチレングリコールジ(チオグリコレート)、ジエチレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、トリエチレングリコールジ(チオグリコレート)、トリエチレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、トリエチレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、ポリエチレングリコールジ(チオグリコレート)、ポリエチレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、ポリエチレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、ジプロピレングリコールジ(チオグリコレート)、ジプロピレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、ジプロピレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、トリプロピレングリコールジ(チオグリコレート)、トリプロピレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、トリプロピレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、ポリプロピレングリコールジ(チオグリコレート)、ポリプロピレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、ポリプロピレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、ポリテトラメチレンエーテルグリコールジ(チオグリコレート)、ポリテトラメチレンエーテルグリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、ポリテトラメチレンエーテルグリコールジ(β−メルカプトブタネート)、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールエチレンオキサイド付加物のジ(チオグリコレート)、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールエチレンオキサイド付加物のジ(β−メルカプトプロピオネート)、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールエチレンオキサイド付加物のジ(β−メルカプトブタネート)、水添ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジ(チオグリコレート)、水添ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジ(β−メルカプトプロピオネート)、水添ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジ(β−メルカプトブタネート)、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールプロピレンオキサイド付加物のジ(チオグリコレート)、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールプロピレンオキサイド付加物のジ(β−メルカプトプロピオネート)、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールプロピレンオキサイド付加物の(β−メルカプトブタネート)、水添ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物のジ(チオグリコレート)、水添ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物のジ(β−メルカプトプロピオネート)、水添ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物のジ(β−メルカプトブタネート)、グリセロールトリ(チオグリコレート)、グリセロールトリ(β−メルカプトプロピオネート)、グリセロールトリ(β−メルカプトブタネート)、ジグリセロールテトラ(チオグリコレート)、ジグリセロールテトラ(β−メルカプトプロピオネート)、ジグリセロールテトラ(β−メルカプトブタネート)、トリメチロールプロパントリ(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリ(β−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(β−メルカプトブタネート)、ジトリメチロールプロパンテトラ(チオグリコレート)、ジトリメチロールプロパンテトラ(β−メルカプトプロピオネート)、ジトリメチロールプロパンテトラ(β−メルカプトブタネート)、ペンタエリスリトールテトラ(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラ(β−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラ(β−メルカプトブタネート)、ジペンタエリスリトールヘキサ(チオグリコレート)、ジペンタエリスリトールヘキサ(β−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサ(β−メルカプトブタネート)などを好ましく用いることができる。
【0022】
これらのポリチオール化合物の中で、ポリ(β−メルカプトプロピオネート)及びポリ(β−メルカプトブタネート)が好ましく、特に、ポリエチレングリコールジ(β−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラ(β−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサ(β−メルカプトプロピオネート)、ポリエチレングリコールジ(β−メルカプトブタネート)、ペンタエリスリトールテトラ(β−メルカプトブタネート)及びジペンタエリスリトールヘキサ(β−メルカプトブタネート)が、入手性及び得られるエラストマーの性能の観点から好適である。
【0023】
前記(B)成分のポリチオール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明のエラストマー組成物における当該(B)成分のポリチオール化合物の含有量は、(A)成分中の(メタ)アクリロイル基と、当該(B)成分中のメルカプト基との官能基数比が、100:0.1〜100:5n(nは、ポリチオール化合物1分子中のメルカプト基の数である。)の範囲にあるように選定される。
すなわち、ポリチオール化合物として、分子内にメルカプト基2個を有する2官能化合物を用いる場合は、(メタ)アクリロイル基/メルカプト基の官能基数比は、100:0.1〜100:10であり、メルカプト基4個を有する4官能化合物を用いる場合は、(メタ)アクリロイル基/メルカプト基の官能基数比は、100:0.1〜100:20であり、メルカプト基6個を有する6官能化合物を用いる場合は、(メタ)アクリロイル基/メルカプト基の官能基数比は、100:0.1〜100:30である。
メルカプト基が、(メタ)アクリロイル基100に対して、0.1未満では、ポリチオール化合物を配合した効果が十分に発揮されず、本発明の目的が達せられない。一方、メルカプト基が、(メタ)アクリロイル基100に対して、用いるポリチオール化合物に応じて加えられる上限値を超えると、得られるエラストマー硬化体は流動性破壊が生じるようになる。以上の観点から、(メタ)アクリロイル基/メルカプト基の官能基数比は、100:n〜100:5nの範囲が好ましく、100:2n〜100:5nの範囲がより好ましい。
【0024】
[(C)(メタ)アクリレート化合物]
本発明における(メタ)アクリレート化合物としては特に制限はなく、単官能の(メタ)アクリレートモノマー、多官能の(メタ)アクリレートモノマー、エネルギー線硬化型でない(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリマーを含むものである。本発明では、エラストマー組成物の粘度調整や、得られるエラストマーの物性調整のために、必要に応じ、適宜量用いられる化合物である。
【0025】
[単官能(メタ)アクリレートモノマー]
単官能(メタ)アクリレートモノマーは、分子内に一つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物であって、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
[多官能(メタ)アクリレートモノマー]
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートであればよく、特に制限はない。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス((メタ)アクリロキシ)ホスフェートなどの3官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能(メタ)アクリレート;プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、PPZ(2,2,4,4,6,6−ヘキサ{2−(メタクロイルオキシ)−エトキシ}−1,3,5−トリアザ−2,4,6−トリホスホリン)などの6官能(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの多官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明のエラストマー組成物中の上記(C)成分の配合量は、(C)成分としていずれの化合物を用いるかによって異なる。(C)成分として単官能(メタ)アクリレートモノマーを用いる場合には、(A)成分を100質量部としたときに、通常5〜40質量部の範囲にあることが好ましく、5〜20質量部の範囲にあることがより好ましい。当該(C)成分の含有量が5〜40質量部の範囲にあれば、得られる材料は適度の流動性を有し、ハンドリング性が良好であると共に、押出成形した際などに形状を保持することができ、また、破断伸びの向上した良好な性能を有する硬化体を与えることができる。
【0028】
また、(C)成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーを用いる場合には、通常、(A)成分を100質量部としたときに1〜10質量部の範囲である。1質量部以上であると良好な圧縮永久歪が得られ、一方、10質量部以下であると、硬度が硬くなりすぎることがないため、ゴムとしての性能を維持することができる。以上の観点から、多官能(メタ)アクリレートモノマーの場合は、その配合量は2〜6質量部の範囲がより好ましい。
【0029】
[(D)揺変剤]
本発明では、(D)揺変剤としてアマイドワックスを単独で使用することが重要である。アマイドワックスは、植物油脂肪酸とアミンにより合成され、アミド結合を有する化合物である。市販品としては、「ディスパロン(登録商標)6200」、「ディスパロン(登録商標)6500」(商品名、楠本化成株式会社製)、「A−S−Aシリーズ」(伊藤製油株式会社)などが挙げられる
(D)成分の含有量としては、(A)成分100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましい。0.1質量部以上であると、十分なチクソ性が得られ、10質量部以下であると、熱履歴やせん断履歴に対する安定性が良好で、長期保存安定性が高い。以上の観点から、(D)成分の含有量は、0.5〜8質量部であることがより好ましく、1〜5質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明のエラストマー組成物は、エネルギー線硬化型であり、エネルギー線としては、紫外線及び電子線、α線、β線、γ線などの電離放射線を用いることができるが、本発明においては、操作性や生産性及び経済性などの観点から、紫外線を用いることが好ましい。紫外線を用いる場合には、当該エラストマー組成物は、(E)成分として光ラジカル重合開始剤を含むことが好ましい。なお、電子線やγ線のような電離放射線を用いる場合には、光重合開始剤を含有させなくても、速やかに硬化を進めることができる。
本発明のエラストマー組成物に含有させる光ラジカル重合開始剤の量は、該組成物に含まれる全エネルギー線硬化型化合物100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部程度、好ましくは0.5〜3質量部である。また、本発明においては、上記光ラジカル重合開始剤と共に、公知の光増感剤を併用することができる。
【0031】
[(E)光ラジカル重合開始剤]
(E)成分の光ラジカル重合開始剤としては、分子内開裂型及び/又は水素引き抜き型を用いることができる。
分子内開裂型としては、ベンゾイン誘導体類、ベンジルケタール類[例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名:イルガキュア651]、α−ヒドロキシアセトフェノン類[例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名:ダロキュア1173、イルガキュア184、イルガキュア127、イルガキュア2959]、α−アミノアセトフェノン類[例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名:イルガキュア907、イルガキュア369]、α−アミノアセトフェノン類とチオキサントン類(例えば、イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン)との併用、アシルホスフィンオキサイド類[例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名:イルガキュア819]などが挙げられる。
【0032】
水素引き抜き型としては、ベンゾフェノン類とアミンの併用、チオキサントンとアミンの併用などが挙げられる。また、分子内開裂型と水素引き抜き型を併用してもよい。中でもオリゴマー化したα−ヒドロキシアセトフェノン及びアクリレート化したベンゾフェノン類が好ましい。より具体的には、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン][例えば、Lamberti S.p.A製、商品名:ESACURE KIP150など]、アクリル化ベンゾフェノン[例えは、ダイセル・ユー・シー・ビー(株)製、商品名:Ebecryl P136など]、イミドアクリレートなどが挙げられる。
【0033】
(E)成分の光ラジカル重合開始剤としては、これらの他に、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンとベンゾフェノンの混合物、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[(4−メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾイルエチルエーテル、ベンゾイルブチルエーテル、ベンゾイルイソプロピルエーテル、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマーと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノンの混合物、イソプロピルチオキサントン、o−ベンゾイル安息香酸メチル及び[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタンなども用いることができる。
【0034】
[任意成分]
本発明のエラストマー組成物においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じ、任意成分として、例えば、無機充填剤、カップリング剤、酸化防止剤、光安定剤、接着性向上剤、補強剤、内部離型剤、軟化剤、着色剤、レベリング剤、難燃剤、帯電防止剤などを用いることができる。
【0035】
(無機充填剤)
無機充填剤は、本発明のエラストマー組成物に配合することにより、該組成物に増粘性などを付与し、組成物の成形性を向上させることができる。
無機充填剤としては、シリカ(SiO2)、アルミナ、チタニア及び粘度鉱物などが挙げられ、中でもシリカ粉末、疎水処理したシリカ粉末又はこれらの混合物が好ましい。より具体的には、乾式法により微粉化したシリカ微粉末[例えば、日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジル300など]、このシリカ微粉末をトリメチルジシラザンで変性した微粉末[例えば、日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジルRX300など]及び上記シリカ微粉末をポリジメチルシロキサンで変性した微粉末[例えば、日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジルRY300など]などが挙げられる。
無機充填剤の平均粒径は、増粘性などの効果を付与するとの観点から、5〜50μmが好ましく、5〜12μmがより好ましい。
【0036】
(カップリング剤)
カップリング剤は、得られるエラストマーと基材との密着性を向上させるために、本発明のエラストマー組成物に、必要に応じて適宜量用いられる。このカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などがあるが、中でもシラン系カップリング剤が好適である。
上記シラン系カップリング剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどの不飽和基含有シランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシジル基含有シランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有シランカップリング剤等が挙げられる。これらのシラン系カップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(酸化防止剤)
本発明のエラストマー組成物に用いられる酸化防止剤としては、フェノール系、イオウ系、リン系酸化防止剤などが挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール,ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール),2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニルブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−〔メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ビス〔3,3'−ビス−(4'−ヒドロキシ−3'−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、1,3,5−トリス(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、α−トコフェロール等が例示される。
【0038】
イオウ系酸化防止剤としては、ジラウリル3,3'−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3'−チオジプロピオネート等が例示され、またリン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2'−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が例示される。
【0039】
これらの酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中でフェノール系酸化防止剤が好適である。
この酸化防止剤の配合量は、その種類に応じて適宜選定されるが、前記(A)成分のエネルギー線硬化型化合物と、(B)成分のポリチオール化合物と、所望により用いられる単官能(メタ)アクリレートモノマーとの合計量100質量部に対して、通常0.01〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部である。
【0040】
(光安定剤)
本発明のエラストマー組成物に用いられる光安定剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、トリアジン系などの紫外線吸収剤や、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられるが、これらの中でヒンダードアミン系光安定剤が好ましい。
このヒンダードアミン系光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル−メタクリレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)〔〔3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル〕メチル〕ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル,N,N',N",N"'−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミン−1,3,5−トリアジン−N,N'−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ〔〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕〕、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ〔5.1.11.2〕ヘネイコサン−21−オン、β−アラニン,N,−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−ドデシルエステル/テトラデシルエステル、N−アセチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、2,2,4,4−テトラメチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ〔5.1.11.2〕ヘネイコサン−21−オン、2,2,4,4−テトラメチル−21−オキサ−3,20−ジアザジシクロ−〔5.1.11.2〕−ヘネイコサン−20−プロパン酸ドデシルエステル/テトラデシルエステルプロパンジオイックアシッド、〔(4−メトキシフェニル)−メチレン〕−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)エステル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールの高級脂肪酸エステル、1,3−ベンゼンジカルボキシアミド−N,N'−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)等が挙げられる。
【0041】
これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この光安定剤の配合量は、その種類に応じて適宜選定されるが、前記(A)成分のエネルギー線硬化型化合物、(B)成分のポリチオール化合物、及び(C)成分の(メタ)アクリレート化合物の合計量100質量部に対して、通常0.01〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部である。
【0042】
(接着性向上剤、その他)
本発明のエラストマー組成物において、所望により用いられる接着性向上剤としては、例えばテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、石油系炭化水素、ロジン誘導体などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、当該エラストマー組成物は、所望により、ガラス繊維や炭素繊維などの補強剤;水添ヒマシ油、無水硅酸微粒子などの垂れ止め剤;ステアリン酸などの脂肪酸、ステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩、ステアリン酸アマイドなどの脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスなどの内部離型剤;プロセスオイルなどの軟化剤;着色剤;レベリング剤;難燃剤;帯電防止剤等を配合することができる。
本発明のエラストマー組成物は、基本的には無溶媒であるが、必要に応じ溶媒を加えてもよい。
【0043】
[エラストマー組成物の調製]
本発明のエラストマー組成物の調製方法に特に制限はなく、公知の方法を適用することができる。例えば、前記の(A)〜(D)成分及び所望により用いられる各添加成分を温度調節可能な混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、プラネタリーミキサー、二軸ミキサー、高剪断型ミキサーなどを用いて混練することにより、調製することができる。
このようにして得られたエラストマー組成物の粘度は、50℃で、1〜1000Pa・sであることが好ましい。1Pa・s以上であれば、液漏れ等を起こし目的の形状の成形体が得られないことが防止できる。一方、1000Pa・s以下であれば、充填が容易に行え、また、型を用いる場合に型を押し上げてしまうことがないため、目的の形状の硬化体が容易に得られる。以上の観点から、50℃におけるエラストマー組成物の粘度は、10〜500Pa・sの範囲がさらに好ましい。
【0044】
[エラストマー硬化体の作製]
本発明においては、前記のようにして調製したエネルギー線硬化型エラストマー組成物に、エネルギー線を照射することにより、エラストマー硬化体を得ることができる。
エネルギー線としては、前述したように、操作性、生産性及び経済性などの観点から、紫外線が好適である。なお、紫外線を用いる場合には、本発明のエラストマー組成物として、光ラジカル重合開始剤を含むものを用いることが好ましい。
紫外線源としては、キセノンランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、マイクロ波方式エキシマランプ等を挙げることができる。紫外線を照射する雰囲気としては、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気あるいは酸素濃度を低下させた雰囲気が好ましいが、通常の空気雰囲気でも十分に硬化させることができる。照射雰囲気温度は、通常10〜200℃とすることができる。
なお、当該エラストマー組成物のエネルギー線、好ましくは紫外線照射による硬化方法としては、得られるエラストマー硬化体の用途に応じて、適宜選択することができる。
【0045】
次に、当該エラストマー組成物を、コンピュータのHDD(ハードディスク装置)用ガスケットのようなシール層付き部材及び独立したエラストマー硬化体(支持体や被着体を有しない)を作製する場合、並びに光学式貼合わせディスク用接着剤などとして用いる場合の例を挙げ、それぞれにおける硬化方法の好ましい態様について説明する。
なお、本発明のエラストマー組成物の用途に関しては、後で説明する。
【0046】
(シール層付き部材)
本発明のエネルギー線硬化型エラストマー組成物を被着体に塗布し、エネルギー線、好ましくは紫外線照射により硬化させることにより、シール層付き部材を製造することができる。被着体としては、例えば、硬質樹脂からなるものも使用することができるが、加工性等から金属製のものが好ましい。金属としては特に制限はなく、例えば、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム/亜鉛合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、マグネシウム板、マグネシウム合金板などの中から、適宜選択して用いることができる。また、マグネシウムを射出成形したものも用いることができる。耐食性の点から、ニッケルめっき処理を施した金属が好適である。
また、シール層付き部材としては、シール材やHDD用等のガスケット、インクタンク用シール、液晶シールなどが挙げられる。シール層の厚さは、用途により適宜選定することができるが、通常0.1〜2.0mm程度である。
【0047】
上記組成物の被着体への塗布は、上記組成物を必要に応じて温度調節し、一定粘度に調整した塗液を用いて任意の方法で行うことができ、例えばグラビアコート、ロールコート、スピンコート、リバースコート、バーコート、スクリーンコート、ブレードコート、エアーナイフコート、ディッピング、ディスペンシングなどの方法を用いることができる。上記組成物を塗布し、成形した後、エネルギー線、好ましくは紫外線を照射することにより塗布層を硬化させて、シール層付き部材を得ることができる。
【0048】
(独立したエラストマー硬化体)
独立したエラストマー硬化体とは、支持体や被着体のないエラストマー硬化体そのものを指す。
上記の独立したエラストマー硬化体を紫外線照射により製造する場合、その手段としては種々の方法を採用することができるが、好ましくは、(1)上型、下型よりなる一組の成形型の少なくともいずれか一方を紫外線が透過する材料にて形成し、硬化前の当該エラストマー組成物を所定量滴下する。次に上型と下型を圧着して、型閉じし、紫外線を透過する材料からなる型の外側から紫外線を照射し、組成物を硬化させて目的の硬化体を得る方法、および(2)上型、下型よりなる一組の成形型の少なくともいずれか一方を紫外線が透過する材料にて形成し、次いで上型と下型を圧着して、型閉じし、次に型に予め形成しておいた注入口より、硬化前の当該エラストマー組成物を所定量注入する。そして、紫外線を透過する材料からなる型の外側から紫外線を照射し、組成物を硬化させて目的のエラストマー硬化体を得る方法が好ましい。
【0049】
紫外線を透過する型に用いられる材料としては、例えば石英、石英ガラス、硼珪酸ガラス、ソーダガラス等のガラス材料、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、セルロース樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の樹脂材料が例示できるが、これらに限定されない。特に好ましくは、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂である。
【0050】
(光学式貼合わせディスク用接着剤)
本発明のエネルギー線硬化型エラストマー組成物を、光学式に情報を記録してあるディスク部材同士、あるいは情報を記録してあるディスク部材と他の同形状のディスク部材とを情報の再生が可能なように貼合わせる光学式貼合わせディスク用接着剤として用いる場合、通常下記の操作が行われる。
ポリカーボネートやポリメチルメタクリレート等のプラスチックス基材をベースにしたディスク部材の貼合わせ面上にスピンコーティング法、ロールコーター法、シルクスクリーン法等により、当該エラストマー組成物を塗布し、これにもう一方のディスク部材を貼合わせ後、ディスク部材の片面または両面からエネルギー線、好ましくは紫外線を照射して当該エラストマー組成物を硬化させる方法が行われる。前記塗布厚さとしては、エネルギー線照射後の厚さで、20〜50μm程度であることが好ましい。
【0051】
[エラストマー硬化体の性状]
本発明のエネルギー線硬化型エラストマー組成物は、(A)成分のエネルギー線硬化型化合物と、(B)成分のポリチオール化合物とを含有させて、エン−チオール系のエネルギー線硬化システムを採用することにより、硬化物の架橋点間分子量を大きくすることができ、破断伸びと加工性の両立したエラストマー硬化体が得られるとともに、(D)揺変剤としてアマイドワックスを単独で使用することを可能としたものである。
当該エラストマー組成物を、エネルギー線照射により硬化させることによって得られたエラストマー硬化体は、以下に示すFlory−Rehnerの式より算出される架橋点間分子量が4,000〜55,000の範囲にあることが好ましい。架橋点間分子量が4,000以上であれば、エラストマー硬化体における破断伸びの向上効果が良好に発揮され、一方架橋点間分子量が55,000以下であれば、エラストマー硬化体は、加工性に優れ、かつ、エラストマーとしての実用的な強度を有するものになる。
【0052】
(架橋点間分子量Mc)
エラストマー硬化体の架橋点間分子量Mcは、下記の方法により算出することができる。
Flory−Rehnerの式
【0053】
【数1】

【0054】
[ただし、Mc:架橋点間分子量[g/mol]、ρ:密度[g/cm3]、ν1:溶剤(トルエン)のモル体積[cm3/mol]、ν2:体積膨潤率[−]、χ1:Floryのχパラメータ[−](溶剤とエラストマー硬化体のsp値より概算)である。]
により、架橋点間分子量Mcを算出することができる。
本発明においては、架橋点間分子量Mcとして、Flory−Rehnerの式より算出される値を採用する。
【0055】
この架橋点間分子量Mcは、使用する(B)成分のポリチオール化合物の種類の選択及び(A)成分の(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物に対する該ポリチオール化合物の使用割合の選定によって制御することができ、ひいては破断伸びを制御することができる。
本発明においては、前述したように、前記(B)成分のポリチオール化合物として、分子内にメルカプト基2〜6個を有する2〜6官能チオール化合物が用いられ、かつ前記(A)成分のエネルギー線硬化型化合物における(メタ)アクリロイル基と、前記(B)成分におけるメルカプト基との官能基数比([CH=C(R)−COO]/SH比、但しRは水素原子又はメチル基)が、100/0.1〜100/5n(nは、ポリチオール化合物1分子中のメルカプト基の数)の範囲になるように、選定することにより、得られるエラストマー硬化体の架橋点間分子量Mcを4,000〜55,000の範囲内の所望の値に制御することができる。
【0056】
例えば、後述の実施例で示すように、(A)成分として2官能のウレタン系アクリレートオリゴマーを、(B)成分として2官能チオール化合物を用い、[CH=C(R)−COO]/SH比を、100/2から100/10に変化させた場合、架橋点間分子量Mcは、約5,600から31,900に増大し、かつエラストマー硬化体の室温における破断伸びEbは360%から875%に増大する。
一方、上記と同様にして、(A)成分として2官能のウレタン系アクリレートオリゴマーを、(B)成分として4官能チオール化合物を用い、[CH=C(R)−COO]/SH比を、100/5から100/20に変化させた場合、架橋点間分子量Mcは、約6,500から51,000に増大し、かつエラストマー硬化体の室温における破断伸びEbは400%から955%に増大する。
また、上記と同様に、(A)成分として2官能のウレタン系アクリレートオリゴマーを、(B)成分として6官能チオール化合物を用い、[CH=C(R)−COO]/SH比を、100/5から100/30に変化させた場合、架橋点間分子量Mcは、約4,900から36,000に増大し、かつエラストマー硬化体の室温における破断伸びEbは335%から775%に増大する。
【0057】
なお、上記破断伸びEbの測定方法としては、以下のような方法を用いることができる。
[破断伸びEbの測定方法]
DIN3ダンベル形状に打ち抜いた厚み2mmのエラストマー硬化体シートについて、引張試験機[ORIENTEC社製、機種名「テンシロンRTC−1225A」]を用い、JIS K 6251に準拠して、試験温度23℃及び80℃、引張速度200mm/minの条件にて引張試験を行い、破断伸びEbを測定する。
【0058】
このように、2〜6官能チオール化合物のいずれを用いても、少量の添加でエラストマー硬化体の架橋点間分子量が増大し、その結果、室温における破断伸びを大幅に改善することができる。なお、80℃における破断伸びについても同様な傾向が見られる。
また、2〜6官能チオール化合物の中で、架橋密度が最も小さくなる2官能チオール化合物を用いた場合に、破断伸びの改善効果が大きく、1分子中のメルカプト基の数が4(4官能)、6(6官能)と増加するに伴い、破断伸びの改善効果が小さくなる傾向にある。
【0059】
また、一般に架橋点間分子量が増大すると、C.S.(コンプレッション・セット:圧縮永久歪)が悪くなるが、本発明においては、エン−チオール系のエネルギー線硬化システムを採用しているため、架橋点間分子量が増大しても、大きく悪くなるのを抑制することができる。
【0060】
[エネルギー線硬化型エラストマー組成物の用途]
本発明のエネルギー線硬化型エラストマー組成物は、エン−チオール系のエネルギー線硬化システムを採用することにより、硬化物の架橋点間分子量を大きくすることができ、破断伸びと加工性の両立したエラストマー硬化体を提供することができる。また、揺変剤としてアマイドワックスの単独使用を可能としたことで、長期保存安定性が向上し、硬化体の製造過程において、製造条件を都度最適化することを不要とすることができ、高い生産性を維持することができる。
このエラストマー硬化体は、例えばHDD用などのガスケット、インクタンク用シール材、各種表示装置のシール材、土木、建築などの構造物用シール材、Oリングなどのパッキング、防振部材などの用途が期待できる。
また、当該エラストマー組成物は、プラスチック同士の接着剤、例えば光学式に情報を記録してあるディスク部材同士、あるいは情報を記録してあるディスク部材と他の同形状のディスク部材とを情報の再生が可能なように貼合わせる光学式貼合わせディスク用接着剤などの用途に、さらには、インクジェット記録用のインク組成物用途などにも期待できる。
特に、熱履歴やせん断履歴に対する安定性が良好で、長期保存安定性が高く、かつ塗布時の加工性と塗布後の形状維持性を兼ね備えることから、シール材として有用であり、中でも、狭い範囲に寸法制度よく、高アスペクト比に成型する必要のあるガスケット材料として有用である。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)硬化前の組成物の物性(粘度(Pa・s))
各実施例及び比較例にて製造されたエラストマー組成物において、製造直後の粘度、熱履歴を与えた後の粘度、及び熱履歴に加えてせん断をかけた後の粘度をそれぞれ、レオメーター(HAAKE社製「RS600」)を用いて測定した。ここでの粘度は、せん断速度1(s-1)としたときの、20秒後の見かけの粘度を用いた。熱履歴及びせん断の条件は以下のとおりである。
熱履歴の条件;50℃で4日間放置した。
せん断の条件;上記熱履歴を与えた後、せん断速度100(s-1)で20秒間シェアをかけた。
【0062】
(2)硬化物の物性
(2−1)エラストマー硬化体の架橋点間分子量Mc
エラストマー硬化体の架橋点間分子量Mcは、明細書本文に記載のFlory−Rehnerの式により算出した。なお、式中の体積膨潤率は、以下の方法で測定した。
(体積膨潤率)
25×12×2mmの試験片を、50mLのトルエンに24時間浸漬させ、浸漬前後での寸法を測定することにより求めた。
(2−2)硬度
JIS K6253(15秒後)に準じて、JIS−A硬度を測定した。
(2−3)塗布性
各実施例及び比較例にて製造されたエラストマー組成物において、製造直後の組成物を用い、これに紫外線(フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)「ライトハンマー−6」使用)を、照度700mW/cm2、積算光量10,000mJ/cm2の条件で照射して硬化物を得た。次いで、熱履歴及びせん断をかけた後の組成物を用いて、上記と同様の条件でそれぞれ硬化物を得、製造直後の組成物から得た硬化物に対する寸法精度の差で評価した。評価基準は以下の通りである。なお、熱履歴及びせん断の条件は上記と同様である。
○;寸法精度が±5%以内
×;寸法精度が±5%を超える
【0063】
(3)ガスケットでの評価(柔軟性)
各実施例及び比較例にて製造されたエラストマー組成物を用いて、ニッケルメッキしたアルミプレート上に一段目の塗膜を形成し、次いでその上に同じエラストマー組成物を用いて二段目の塗膜を、全体の厚みが1.1mmになるように形成したのち、紫外線(フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)「ライトハンマー−6」使用)を、照度700mW/cm2、積算光量10,000mJ/cm2の条件で照射し、該塗膜を硬化させてガスケット層付き部材を作製した。該ガスケットを挟む形で他のニッケルメッキしたアルミプレートを重ね、理論上の圧縮率が18%となるように圧縮した状態でシール性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○;リークが見られた。
×;リークが見られなかった。
【0064】
実施例1〜5及び比較例1〜8
第1表に示す配合組成の紫外線硬化型エラストマー組成物を調製し、上記方法にて評価した。結果を第1表に示す。なお、(A)成分及び(C)成分としては、両者を含有する共栄社化学社製、商品名「ライトタックPUA−KH32M」を用いた。これは、(A)成分である2官能ウレタン系アクリレートオリゴマーと(C)成分であるイソボルニルアクリレート及びフェノキシエチルアクリレート、さらには光重合開始剤であるイルガキュア2959相当品の混合物であり、(A)成分と(C)成分の含有比率は75:25である。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
[注]
1)エネルギー線硬化型オリゴマー:共栄社化学社製、商品名「ライトタックPUA−KH32M」(2官能ウレタン系アクリレートオリゴマー、イソボルニルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、及びイルガキュア2959相当品(光重合開始剤)の混合物)中の2官能ウレタン系アクリレートオリゴマー
2)4官能チオール化合物:SC有機化学社製、商品名「PEMP」、ペンタエリスリトールテトラ(β−メルカプトプロピオネート)
3)エネルギー線硬化型オリゴマー:共栄社化学社製、商品名「ライトタックPUA−KH32M」(2官能ウレタン系アクリレートオリゴマー、イソボルニルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、及びイルガキュア2959相当品(光重合開始剤)の混合物)中のイソボルニルアクリレート及びフェノキシエチルアクリレート
4)揺変剤A:楠本化成(株)製、商品名「ディスパロン6200」、アマイドワックス
5)揺変剤B:楠本化成(株)製、商品名「ディスパロン6500」、アマイドワックス
6)揺変剤C:伊藤製油(株)製、商品名「A−S−A T−550F」、アマイドワックス
7)揺変剤D:伊藤製油(株)製、商品名「A−S−A T−1700」、アマイドワックス
8)揺変剤E:伊藤製油(株)製、商品名「A−S−A T−1800」、アマイドワックス
9)揺変剤F:楠本化成(株)製、商品名「ディスパロン308」、水添ひまし油
10)揺変剤G:ズードケミー触媒(株)製、商品名「ADVITROL 100」、水添ひまし油とアマイドワックスの混合物(混合比7:3)
11)揺変剤H:楠本化成(株)製、商品名「ディスパロン4110」、水添ひまし油とアマイドワックスの混合物(混合比7:3)
12)揺変剤I:楠本化成(株)製、商品名「ディスパロン6100」、水添ひまし油とアマイドワックスの混合物(混合比2:8)
13)揺変剤J:伊藤製油(株)製、商品名「A−S−A T−75F」、水添ひまし油とアマイドワックスの混合物(混合比7:3)
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のエネルギー線硬化型エラストマー組成物は、塗布時の加工性と塗布後の形状維持性を両立することができ、かつ熱履歴やせん断履歴に対する安定性が良好で、長期保存安定性が高い。該エラストマー組成物を用いて得たエラストマー硬化体は、例えばHDD用などのガスケット、インクタンク用シール材、各種表示装置のシール材、土木、建築などの構造物用シール材、Oリングなどのパッキング、防振部材、各種接着剤などの用途が期待できる。また、当該エラストマー組成物は、プラスチック同士の接着剤、例えば光学式に情報を記録してあるディスク部材同士、あるいは情報を記録してあるディスク部材と他の同形状のディスク部材とを情報の再生が可能なように貼合わせる光学式貼合わせディスク用接着剤などの用途に、さらには、インクジェット記録用のインク組成物用途などにも期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物、(B)分子内にメルカプト基2〜6個を有するポリチオール化合物、(C)(メタ)アクリレート化合物、及び(D)揺変剤を含むエネルギー線硬化型エラストマー組成物であって、(A)成分中の(メタ)アクリロイル基と(B)成分中のメルカプト基との官能基数比が、100:0.1〜100:5n(nは、ポリチオール化合物1分子中のメルカプト基の数である。)であり、かつ(D)揺変剤がアマイドワックスからなることを特徴とする、エネルギー線硬化型エラストマー組成物。
【請求項2】
エネルギー線照射による硬化物が、Flory−Rehnerの式より算出される架橋点間分子量4,000〜55,000のものである、請求項1に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物。
【請求項3】
(A)(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物が、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物である、請求項1又は2に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型化合物が、エネルギー線硬化型オリゴマーである、請求項3に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物。
【請求項5】
エネルギー線硬化型オリゴマーが、ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル系(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ系(メタ)アクリレートオリゴマー、共役ジエン重合体系(メタ)アクリレートオリゴマー及びその水素添加物の中から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物。
【請求項6】
(B)分子内にメルカプト基2〜6個を有するポリチオール化合物が、水酸基2〜6個を有する多価アルコールのβ−メルカプトプロピオン酸エステルである、請求項1〜5のいずれかに記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物。
【請求項7】
水酸基2〜6個を有する多価アルコールが、炭素数2〜20のアルカンジオール、ポリ(オキシアルキレン)グリコール、グリセロール、ジグリセロール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールである、請求項6に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物。
【請求項8】
エネルギー線が、紫外線であり、(E)光ラジカル重合開始剤を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物。
【請求項9】
光ラジカル重合開始剤が、分子内開裂型及び/又は水素引抜き型である、請求項8に記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物。
【請求項10】
ガスケット用材料である請求項1〜9のいずれかに記載のエネルギー線硬化型エラストマー組成物。

【公開番号】特開2011−46774(P2011−46774A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194270(P2009−194270)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】