説明

エノキタケ抽出物含有魚用飼料

【課題】変色防止剤を用いなくとも、流通時に魚肉の変色せず、鮮紅色を長期間にわたり保持することができる魚を提供すること。
【解決手段】エノキタケ抽出物を含む魚飼料を用いて魚を養殖することにより、養殖された魚の魚肉、特に血合い肉の経時的な変色が防止され、鮮紅色を長期間にわたり保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エノキタケ抽出物を含有する、魚用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
赤身魚肉若しくは畜肉またはこれらの加工品等の食肉類において、鮮やかな赤色の肉色を維持することは、商品価値を決定する重要なファクターである。食肉類の褐色化は、食肉類に含まれるミオグロビンのメト化が主な原因である。例えば、マグロ、カツオなどの赤身魚や牛肉、豚肉などの畜肉類に含まれるミオグロビン色素は空気中で光などに照射されると極短時間にメト化し、ミオグロビン分子中の鉄原子が二価から三価になることにより、この色素は鮮紅色から茶褐色に変化する。このような褐色化あるいは変色の防止方法として、従来、いわゆる“コールドチェーン”と呼ばれる−40℃以下の保管温度での物流方式が採用されているが、海外でのコールドチェーンは−20℃程度である。さらに、解凍後に急速に褐色化が進行するという問題もある。また、小売店などで商品として陳列、販売される際はチルド状態でおかれるが、このときに変色してしまうことがある。
ここで、生鮮魚肉、畜肉加工品において、還元物質であるL−アスコルビン酸ナトリウム、トコフェロール、没食子酸、カテキン類を単独又は他の物質と組み合わせて、また発色剤として亜硝酸ナトリウム等を、肉に直接添加して赤身肉の色調を保持することが試みられてきた(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、L−アスコルビン酸ナトリウム、没食子酸は効果に持続力が無い。また、カテキン類は特有の苦味や渋味があり、多量に使用することができない。また、亜硝酸ナトリウムの使用は安全という観点から望ましくない。
しかも従来の方法では、生鮮魚肉に対して変色防止剤を噴霧するなどの加工が必要であるが、食の安全性、衛生面を考慮すれば、生鮮魚肉に対する加工は出来る限り行わない方が望ましい。
【0003】
【特許文献1】特開平10−117730号公報
【特許文献2】特願平9−339271号公報
【特許文献3】特願平11−218398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、生鮮魚肉の加工を行わずとも、流通時あるいは保存時に魚肉の色、特に血合いの色の変色が起こりにくい魚を得ることができる養殖方法及び魚用の飼料を得ることを目的とする。
本発明は更に、流通時や保存時にコールドチェーンが途切れても変色防止効果が高くかつその持続性に優れ、更に安全性の高い魚肉を提供することを目的とする。
また、本発明は、鮮紅色が維持されるが、変色防止剤が添加されておらず、変色防止剤に由来する味や匂いが付与されていない、赤身魚肉の生鮮品またはその加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、エノキタケ抽出物を魚用飼料に添加し、前記試料を魚に与えて養殖したところ、驚くべきことに、養殖して得られた魚肉の特に赤身あるいは血合い肉部分の変色防止効果が高く、かつその持続性に優れていることを見出し完成された発明である。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
本発明の第一の実施態様は、エノキタケ抽出物を含有する、魚用飼料である。エノキタケ抽出物は、好ましくは、エノキタケ本体あるいはエノキタケ菌床の水あるいは熱水抽出物である。また、上記魚用飼料は、エノキタケ抽出物(乾燥重量換算)を、魚用飼料の全質量に対し0.1〜10質量%の範囲で含むことが好ましい。
本発明の魚用飼料は特に、養殖魚の飼料として有用であり、更に、魚が、マグロ、ブリ(ハマチ)、カンパチ、シマアジ、ヒラマサ、マサバ及びマアジからなる群より選択される養殖魚に対して与えられるときに大きな効果を奏する。
本発明の第二の実施態様は、上述した魚用飼料を魚に飼料として与えて養殖することを特徴とする、魚の養殖方法である。前記方法において、魚用飼料を、魚の体重や環境水温によって、期間を変えて適量与えることが好ましい。例えば、ハマチを水温21℃〜17℃程度で養殖する場合、上記魚用飼料を7日間以上与えることが好ましい。
本発明の第三の実施態様は、上述した魚用飼料を付与されて養殖された魚、あるいは上述した記載の養殖方法により養殖された魚またはその加工品に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の飼料を与えた魚は、市場に流通後、その赤身肉、血合い肉の変色が長期間にわたって防止される。すなわち魚肉またはその加工品の鮮紅色を長期間にわたり保存することができる。従って、−40℃以下のような極低温や、安全面あるいは味覚面で好ましくない他の変色防止剤を使用することなく、安全かつ低コストで、鮮紅色が保持された赤身魚肉の生鮮品またはその加工品を得ることができる。
また、赤身魚肉、畜肉の生鮮品またはその加工品の保存時あるいは流通時において、コールドチェーンが途切れても、変色あるいは退色を起こすことがなく、商品価値を低下させることがない。また、本発明により、赤身肉や血合い肉の鮮紅色が維持されるが、変色防止剤により加工されていないため、変色防止剤に由来する味や匂いが付与されていない、赤身魚肉、畜肉の生鮮品またはその加工品が提供される。
また、本発明の養殖方法により、市場に流通後、その赤身肉、血合い肉の変色が長期間にわたって防止される魚を容易に養殖することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔エノキタケ抽出物〕
本明細書において、エノキタケ抽出物とは、生、乾燥物、或いは凍結乾燥物のエノキタケあるいはエノキタケの菌床から、好ましくは水あるいは熱水により、液相中に抽出された水溶性画分を意味する。
水あるいは熱水は、使用するエノキタケの重量(乾燥重量)に対して、例えば1.0倍〜20倍程度の範囲内で使用することができる。また、抽出時間は5分以上、更に10分〜1時間程度であることが好ましい。また、抽出温度は室温であればよいが、各溶媒の沸点程度まで上昇させることは可能である。
【0008】
水あるいは熱水には、水溶性溶媒が含まれていてもよい。水溶性溶媒を用いる場合にはその量は、全体の溶媒量に対して80質量%以下が好ましく、65〜70質量%であることが更に好ましい。水溶性溶媒を用いると夾雑物の少ない画分が得られるため好ましいが、製造コストの観点からは水あるいは熱水抽出が好ましい。
水溶性溶媒とは、水と相溶性のある溶媒を意味し、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、などが挙げられるが、食品に用いるという観点からは安全性の確立されているエタノールが好ましい。
ただし、アセトン抽出物も効力の観点からはエタノール抽出物と同等である。
水と水溶性溶媒を用いる場合には、使用するエノキタケの重量に対して、例えば1.0倍〜20倍程度の範囲内で使用することができる。また、抽出時間は5分以上、更に10分〜30分間程度であることが好ましい。また、抽出温度は室温であればよいが、各溶媒の沸点程度まで上昇させることは可能である。
【0009】
エノキタケ(榎茸)は、キシメジ科の食用キノコであり、人工栽培あるいは天然物であってもよく、またいずれの産のものを用いてもよい。また、エノキタケは、食用部分(本体ともいう)を用いてもよく、また菌床部分を用いてもよい。エノキタケの菌床は、エノキタケの収穫後、通常廃棄される部分であるが、この部分を使用することにより、エノキタケの抽出物作成において大きなコストダウンを行うことができ、有利である。
【0010】
抽出方法は、天然物の抽出方法として一般に使用されているいずれの方法を用いてもよい。典型的には、エノキタケあるいはエノキタケの菌床をそのまま、あるいはそれらの凍結乾燥物を粉砕し、これに抽出溶媒を添加し、更に必要に応じてホモジネート等の処理を行い、ろ過、遠心分離等の方法により固形物と分離し、液相から溶媒を溜去して残渣を得る方法である。
例えば、水抽出の場合には、抽出効率から熱水を用いることが好ましく、熱水をエノキタケに添加して抽出を行い、ろ過、遠心分離等の方法により、固形物と分離することが好ましい。熱水を用いる場合には、例えば、使用するエノキタケの重量に対して、1.0倍〜20倍程度の範囲内で使用することができる。また、抽出時間は5分以上、更に15〜1時間程度であることが好ましい。過度の加熱は糖−アミノ反応による抽出液の著しい褐色化を促進することがあるので好ましくない。
【0011】
〔魚用飼料〕
本発明の魚用飼料は、上述したエノキタケ抽出物を含むものである。
ベースとなる魚用飼料は、いずれのものでもよく、特に制限されない。魚用飼料の成分の例として、魚粉を中心とした動物性原料、コーングルテンミール、大豆油粕などの植物性油粕類や、小麦粉、澱粉などの穀類等の植物性原料、精製魚油などの動物性油脂、大豆油、菜種油、コーン油などの植物性油脂、カカオ豆穀、マリーゴールド花弁粉末、ウコン粉末、海藻粉末、リン酸カルシウム、などの機能性成分、その他、ビタミン、ミネラル類、アミン酸、などを挙げることができる。更に、例えばEPA、DHA等の脂肪酸及びエステル類、あるいはpH調整剤等の添加剤を添加してもよい。
【0012】
ベースとなる魚用飼料は、ペレットタイプ、粉末タイプ等様々な型ものが販売されており、いずれのものでもよい。
ベースとなる魚用飼料の商品名としては、例えば、ハマチEPR(日清丸紅飼料株式会社製)、鰤皇(株式会社ヒガシマル社製)等が知られている。
【0013】
エノキタケ抽出物(溶液)をそのまま飼料に添加してもよく、溶媒に溶解若しくは懸濁して添加してもよく、あるいは凍結乾燥物のような固体としてそのまま添加してもよい。
また固形抽出物を溶媒に溶解若しくは懸濁して飼料に添加してもよい。また、油脂を用いてエマルションとして添加してもよい。
油脂を用いてエマルションとして用いる場合には、油脂として、イワシ、サバ、サンマ、タラ等を原料とする魚油、大豆、綿実、やし、パーム、パーム核、サフラワー、米、トウモロコシ、なたね等を原料とする植物油、乳、牛、豚等を原料とする動物油、及びこれらを加工した油脂(分別、硬化、エステル交換)を用いてもよい。エマルションの種類としては、O/W、W/O、O/W/O、W/O/Wのいずれのタイプでもよい。また、製造方法は従来公知の方法で行えばよく、水相部分にエノキタケ抽出物を溶解して用いればよい。
【0014】
エノキタケ抽出物は水溶性画分であるため、水に溶解しやすい。従って、飼料に混合したエノキタケ抽出物成分が水に溶解するのを防ぐために、展着剤あるいはバインダーと呼ばれる成分を飼料に更に添加することが好ましい。
展着剤の例としては、海藻粉末、飼料用酵母、甘草粉末、グアーガム、CMC、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。市販の展着剤を使用してもよいが、海藻粉末、グアーガム、甘草粉末などからなる群より選択された展着剤を用いることが好ましい。
展着剤の使用量は特に限定されないが、例えば、飼料全重量に対して0.1〜2質量%、好ましくは0.5〜1質量%程度用いることが好ましい。
【0015】
エノキタケ抽出物の飼料に対する添加量は、魚の種類や大きさ、養殖の目的により適宜決定することができるが、例えば、飼料全重量に対して、エノキタケ乾燥物の重量に換算して、エノキタケ抽出物を、0.1質量%〜10質量%、より好ましくは0.5質量%〜5質量%程度の濃度で用いることができる。
【0016】
飼料の調製方法は、ベースとなる魚用飼料に、任意に展着剤を加え、エノキタケ抽出物を添加する。例えば、乾燥したペレットタイプの魚用飼料の場合、エノキタケ抽出物を染み込ませるように添加して調製する。
【0017】
〔養殖方法〕
本発明では、上述したように調製された飼料を、魚に対して所定量与えて、通常の方法により養殖を行う。魚に対する給餌量は、魚体の大きさや水温により決定される。魚の体重1kgに対して3〜15g/日で与えることが好ましく、5〜10g/日で与えることが更に好ましい。給餌期間は、エノキタケ抽出物の飼料に対する濃度により異なるが、7日間以上とすることが好ましく、14日間以上が更に好ましく、28日間以上が最も好ましい。
【0018】
〔魚の種類〕
本発明の養殖方法の対象となる魚は特に制限されないが、特に赤身の魚において有用である。赤身魚としては、マグロ(ビン長マグロ、メバチマグロ、クロマグロ、インドマグロ)、カツオ、ブリ(ハマチ)、サンマ、サバ、イワシ、カンパチ、シマアジ、ヒラマサ、マサバ及びマアジが挙げられる。マグロ、ブリ(ハマチ)、カンパチ、シマアジ、ヒラマサ、マサバ及びマアジからなる群より選択されることが好ましい。
魚肉の加工品とは、さしみ、切り身、さく、ネギトロ等の剥き身、すり身等、あるいはその他の添加剤や食材を含むものを意味する。
【実施例】
【0019】
実施例1<魚用飼料の調製>
(1)エノキタケ熱水抽出物の調製
エノキタケ熱水抽出物を、下記に記載される手順(図1参照)により調製した。
エノキタケ菌床390.1kgに水2000L添加し、95℃で1時間、熱水抽出を行った。抽出物を振動フルイにかけて、残渣と溶液に分離し、溶液を遠心分離した(遠心分離条件11、700×g)。得られた溶液をAとした。
エノキタケ菌床380.7kgに水2000L添加し、95℃で1時間、熱水抽出を行った。抽出物を振動フルイをかけて、残渣と溶液に分離し、溶液を遠心分離した(遠心分離条件11、700×g)。得られた溶液をBとした。
上記AとBを混合し、真空濃縮を行い、比重1.177の液体を106kg得た。
【0020】
(2)魚用飼料の調製
市販の固形ペレット(ハマチEPR18(日清丸紅飼料株式会社製))(以下、EPという。)に飼料重量の1%の重さの市販の展着剤(シーパック(日清丸紅飼料株式会社製))を用いて、上記(1)で得たエノキタケ熱水抽出物(液体)を飼料重量+展着剤重量の1%、5%、10%の割合で含浸した(エノキタケ乾燥重量換算で、飼料重量+展着剤重量に対して0.4質量%、2.0質量%、4質量%のエノキタケ抽出物を含む)。含浸した各濃度の餌を海水中に入れて観察すると、エノキタケ熱水抽出物が短時間で溶け出すことは無く、ハマチがEPを投げ込んで数秒で摂餌することを考えると、エノキタケ熱水抽出物を含浸したEPでも、その効果を検証するには十分であることが分かった。
【0021】
実施例2<ハマチの養殖>
(1)養殖方法
愛媛県宇和島市戸島で養殖されている2年魚で、平均魚体重4.3kgに成長したハマチを試験魚とし、10m角の小割り生簀枠に4×4×4.5mの網生簀を4面張り、各区100尾を放養した。飼育開始14日間は予備飼育期間とし、市販の飼料(EP)を1日おきに与えたのち、4−1で示した飼料を1日おきに各区とも飽食給餌した。
サンプリングは実験開始0、7、14、28日目とし、網生簀を引き寄せ取り揚げた。 取り揚げられたハマチは尾柄部より真空採血管を用いて2−3ml採血し、直ちに活け締めとした。なお、活け締めとは鰓把切断により即殺することである。活け締めされた供試魚は脱血のため、海水氷に浸漬した状態で、戸島地先から愛媛県漁業協同組合連合会の水産加工センターに搬入した(所要時間約1時間)。搬入した魚は尾叉長、魚体重ならびに肝重量を測定したのち、愛媛県漁業協同組合連合会の宇和島加工センターのフィレ加工レーンを使用し、個体識別してスキンレスのロイン状に切り分け、真空パックしたのち、分析に供された。また、試験魚のコンディションを把握するため、魚体測定データから肥満度と比肝重量を以下の式により算出した。
肥満度 = 魚体重 / 〔尾叉長〕3 × 1000
比肝重量(%) = 肝臓重量 / 魚体重 × 100
飼育期間中の水温はアレック電子社製の超小型メモリー水温計を用いて10分間隔で測定した。
【0022】
水温は秋季から冬季であるため、右肩下がりに低下した。すなわち、実験開始時の約20.8℃から実験終了時には約17.5℃となった。この水温の推移は同海域の平年値に近い推移であった。
給餌試験期間中の生残率を以下の表1に示した。5%区を除き、概ね良好であったが、5%区は疾病が発生し、57%の生残率であった。発生した疾病は細菌検査を行わなかったが、外観から体腹面に黄疸が観察されたことから、細菌性溶血性黄疸と判断された。従って、5%区については今回の考察から除いた。
【0023】
表1 飼育期間中の生残率

【0024】
給餌試験期間中の尾叉長、魚体重、肥満度ならびに比肝重量を測定した(図2参照:図2において“C”はコントロール、“1”、“5”、“10”はそれぞれ1%区、5%区、10%区を意味する)。尾叉長の推移は細菌性溶血性黄疸に罹った5%区を除き、緩やかに増加する傾向であった。また、魚体重についても尾叉長と同様の変化を示した。肥満度については期間を通して18前後で推移し、5,10%区で低い傾向であったが有意差はなかった。比肝重量は疾病に罹った5%区で終始低い傾向であったが、データのばらつきが大きく、対照区に対する有意差はなかった。しかしながら、肝臓の色を比較すると、疾病時に多く観察される緑肝が多数観察され、5%区の魚のデータの信頼度は低いと推察された。
【0025】
実施例3<養殖ハマチの評価>
実施例2において養殖したハマチの給餌試験で給餌開始0、7、14、28日目に取り揚げたハマチを用いて、給餌の効果を検証した。
水揚げした各ハマチは以下のように処理を行い、保存時間に対する魚肉の色の変化(RGB値)及びメトミオグロビン量の変化、及びハイドロパーオキサイド(HPO)量の変化を測定した。
水揚げした各ハマチは、脊髄及び尾柄部血管を切断・脱血することで即殺した。試験区毎に海水に浸漬し、1時間以内に3枚に卸して、左右のフィレーを2枚得た。フィレーから表皮を除いた可食部を測定用試料とした。
【0026】
各値は以下のようにして測定した。
(1)魚肉の色の変化
0日目(水揚げ直後)、1日目、2日目、3日目及び4日目に、表面の同一箇所について写真撮影し、画像をImageJ画像変換ソフトにより処理して、R(Red)値及びG(Green)値を得た。保存期間とRG値の関係をプロットしたグラフを図3〜5に示す。
【0027】
(2)メトミオグロビンの生成量の変化
0日目(水揚げ直後)、1日目、2日目、3日目及び4日目に、一部を採取し、氷冷した蒸留水で抽出した。抽出液の540nm及び503nmにおける吸光度比を測定し、マグロ肉で公知の、「全ミオグロビンに対するメトミオグロビンの割合」を示すグラフに内挿することにより、メト化率(%)(測定試料中の、メトミオグロビン含量/全ミオグロビン含量)を測定した。メト化率と保存期間との関係をプロットしたグラフを図6に示す。
【0028】
(3)ハイドロパーオキサイド(HPO)量の変化
HPO量はジフェニル−1−ピレニルホスフィン(diphenyl-1-pyrenylphosphine=DPPP)を用いたフローインジェクション/ポストカラムリアクション蛍光分析法(FIA)(Sohn, J.-H., Taki, Y., Ushio, H., and Ohshima, T. (2005) Quantitative determination of total lipid hydroperoxides by a flow injection analysis system. Lipids, 40, 203-209.)によって定量した。すなわち、移動相には1−ブタノール/メタノール2:1(v/v)混合溶液を用い、流速0.5 mL/minとした。DPPP溶液はDPPP 5 mgとBHT 100 mgを1−ブタノール/メタノール2:1(v/v)200 mLに溶解し、流速0.3 mL/minとした。反応コイルとしてピークチューブストライプカラー(1/16×0.25 mm i.d.×40 m)、冷却コイルとしてステンレス製コイル(0.25 mm i.d.×1 m)を用いた。反応槽はデジタル温調水槽(デジタルサーモペットNTT,東京理化、東京)を設定温度89℃で用い、冷却槽として氷水を用いた。蛍光強度測定に励起波長535 nm、蛍光波長380 nmに設定した分光蛍光検出器RF535(島津製作所、京都)、内部標準物質NBDラベル化PCの蛍光強度については、分光蛍光検出器RF10AXL 535(島津製作所、京都)、励起波長460 nm、蛍光波長534 nmで測定した。インテグレータとして島津クロマトパックC-R6Aを用いた。o/wエマルション0.1 mLを10 mL容メスフラスコを用いて1−ブタノールで定容し、その20 μLを分析に供した。検量線はクメンハイドロパーオキサイド(cumene hydroperoxide)を標準試料として、内部標準物質とのモル比および面積比より作成した検量線を用いて算出した。
HPO量と保存期間との関係をプロットしたグラフを図7に示す。
【0029】
図3〜5の結果から、エノキタケ抽出物の量及び給餌期間と、血合いの色変化の関係がわかる。すなわち、給餌期間が7日間のものでは、1%区はコントロールと同様の色変化を示したが、10%区ではR値が高く、G値が低い傾向を示した。また、給餌期間が14日間、28日間のものは、1%区、10%区共に、コントロールと比べてR値が高く、G値が低い傾向を示し、水挙げ後4日間の間の色変化(褐変)が抑制された。
また、図6の結果から明らかなように、給餌期間が7日間のものでは、1%区はコントロールと同様のメトミオグロビン生成を示したが、10%区ではメトミオグロビンの生成が抑制された。給餌期間が14日間、28日間のものは、1%区、10%区共に、コントロールと比べて有意にメトミオグロビンの生成が抑制された。
また、図7の結果から明らかなように、給餌期間が7日間のものでは、1%区、10%区はHPOの抑制を示した。給餌期間が14日間のものは、1%区、10%区共に、コントロールと比べてHPOの生成が抑制された。給餌期間が28日間のものは、冷蔵3日目のコントロールでの異常測定値を除いては、HPOの抑制の生成が抑制された
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例におけるエノキタケ抽出物の調製手順を示す。
【図2】実施例においてエノキタケ抽出物を含む飼料を与えた魚の尾叉長、魚体重、肥満度ならびに比肝重量の経時変化を示す。
【図3】ハマチ血合い肉(コントロール)を4日間保存した場合のRGB値の変化を示す。
【図4】ハマチ血合い肉(7日目、14日目、28日目に水揚げ)を4日間保存した場合のR値の変化を示す。
【図5】ハマチ血合い肉(7日目、14日目、28日目に水揚げ)を4日間保存した場合のG値の変化を示す。
【図6】ハマチ血合い肉(7日目、14日目、28日目に水揚げ)を4日間保存した場合のメトミオグロビン(MetMb)濃度の変化を示す。
【図7】ハマチ血合い肉(7日目、14日目、28日目に水揚げ)を4日間保存した場合のHPO濃度の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エノキタケ抽出物を含有する、魚用飼料。
【請求項2】
エノキタケ抽出物が、エノキタケ本体あるいはエノキタケ菌床の水あるいは熱水抽出物である、請求項1記載の魚用飼料。
【請求項3】
エノキタケ抽出物(乾燥重量換算)を、魚用飼料の全質量に対し0.1〜10質量%の範囲で含む、請求項1または2に記載の魚用飼料。
【請求項4】
魚が、マグロ、ブリ(ハマチ)、カンパチ、シマアジ、ヒラマサ、マサバ及びマアジからなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の魚用飼料。
【請求項5】
魚に請求項1〜4のいずれか一項に記載の魚用飼料を与えて養殖することを特徴とする、魚の養殖方法。
【請求項6】
請求項5に記載の養殖方法により養殖された魚またはその加工品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−219377(P2009−219377A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64647(P2008−64647)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(506378326)
【出願人】(504066302)愛媛県漁業協同組合連合会 (1)
【出願人】(000114732)ヤマキ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】