説明

エポキシドと二酸化炭素との立体選択的交互共重合

【課題】キラルエポキシドのラセミ混合物を用いて、一種類のエポキシド光学異体性と二酸化炭素とをエナンチオ選択的に重合させ、且つ、極めて高い転化率でエポキシド原料からポリカルボナートを生成させることが可能な触媒化合物を提供すること。
【解決手段】配位原子としてO、N、N、Oを有する四座配位子のコバルト−シッフ塩基錯体の存在下、エポキシド化合物をモノマー原料として、二酸化炭素と共重合させることによりポリカルボナート共重合体を製造する方法であって、前記コバルト−シッフ塩基錯体が式(I)で表される化合物であることを特徴とする前記方法によって上記課題を解決する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシドと二酸化炭素との交互共重合によるポリカルボナートの製造方法及び該製造方法のために使用する触媒に関する。特に、本発明は、高い立体規則性を有するポリカルボナートの製造方法及び該製造方法に用いる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の有効利用のための技術として、エポキシドと二酸化炭素との共重合によるポリカルボナートの製造方法が注目を集めている。
ポリカルボナートに関しては、立体規則性の制御によって新規な物性、機能の発現及び用途の拡大を目指した開発研究が行われてきた。
【0003】
例えば、ポリカルボナートの高分子鎖に規則的に光学活性中心を導入することによる立体規則性の制御方法が検討されており、この方法によれば、キラルなエポキシド原料に関して、光学異性体の一種類と二酸化炭素との交互共重合により光学活性を有するポリカルボナートが得られる可能性がある。このため光学活性ポリカルボナートは、クロマトグラフィー、分離膜などの分離媒体、生分解性材料、強誘電体材料及び圧電性焦電性材料への応用が期待されている。
【0004】
上記光学活性ポリカルボナートのモノマー原料となるキラルエポキシドは、1種類の光学異性体(純度100%)としてではなく、ラセミ混合物の形で入手する方が容易であることから、キラルエポキシドのラセミ混合物を用いてエナンチオ選択的に交互共重合反応を実施する製法の開発を目指した研究も行われている。
【0005】
近年、シッフ塩基−コバルト錯体と求核試薬を用いたエポキシドモノマーのラセミ混合物と二酸化炭素との交互共重合反応が報告されているが、その中には高いエナンチオ選択性を示すシッフ塩基−コバルト触媒が見出されている。しかしながら、これらの公知のコバルト錯体を用いると、ポリカルボナートのほかに環状カルボナートが副生成物として生じるために、エポオキシドモノマーのポリマーへの最終的な転化率は高くない(特許文献1、非特許文献1)。
【特許文献1】米国特許第7304172号明細書
【非特許文献1】X. Liu, et al., J. Am. Chem. Soc., 2006, 128, 1664-1674.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、エポキシドモノマー原料に対する高いエナンチオ選択性と、エポキシドモノマーからポリカルボナートへの高い転化率とを両方同時にもたらす新規な触媒化合物の開発が課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者らは、新規のコバルト−シッフ塩基錯体を用いてエポキシドとの重合反応を鋭意検討した結果、コバルト−シッフ塩基錯体のシッフ塩基配位子に特定の置換基を導入したものを用いることによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本願発明の一態様は、配位原子としてO、N、N、Oを有する四座配位子のコバルト−シッフ塩基錯体の存在下、エポキシド化合物をモノマー原料として、二酸化炭素と共重合させることによりポリカルボナート共重合体を製造する方法であって、前記コバルト−シッフ塩基錯体が式(I)で表される化合物であることを特徴とする前記方法である。
【0008】
【化1】


【0009】
(式中、R、R、R、Rは、独立に、H、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ、C6−20アリールオキシ、C6−20アリール、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、C1−20フルオロアルキル、SiG、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基(ただし、R、R、R、Rがすべて同一の置換基である場合は除外され、且つ、RとRが同一の場合には、RとRは異なり、また、RとRが同一の場合にはRとRは異なり、また、RとRが同一の場合にはRとRが異なり、また、RとRが同一の場合にはRとRが異なることが条件となる)を表すか、又は、
とRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素であるか、又は、
とRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素であり、
ここで、前記1,2−シクロへキシレン基には1個以上の単環式又は多環式の芳香族環が更に縮合していてもよく、前記芳香族環の1個の環を構成する炭素原子の数は4〜8個であり、且つ、前記芳香族環を構成する炭素原子数の合計は20個以下であり、
、R、R、Rは、独立に、X、Y及びZからなる群から選択される基であり、また、R、R、R、Rには少なくとも1個のX及び少なくとも1個のYが含まれるが、Zは存在しなくてもよく、さらに、R及びRの少なくとも一方は置換基Xであり、
Xは、C4−20三級アルキル、C3−60三級シリル及びC6−20アリールからなる群から選択される基であり、
Yは−CH−NG’G’で表されるアミノメチル基であり、
ZはH、メチル、C2−20一級アルキル、C13−20二級アルキル、C1−20アルコキシ、C6−20アリールオキシ、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基であり、
ZはH、メチル、C2−20一級アルキル、C3−20二級アルキル、C1−20アルコキシ、C6−20アリールオキシ、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基であり、
ここで、G、G及びGは、同一でも異なっていてもよく、独立に、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ及びC6−20アリールから選択される基を表し、
G’及びG’は、独立に、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ及びC6−20アリールから選択される基を表すか、あるいは、G’及びG’がNと一緒になって3員〜8員環の環状アミノ基を形成し、
さらに、前記1,2−シクロへキシレン基、前記芳香族環、前記C6−20アリール及び前記環状アミノ基の環を構成する炭素は、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ、C1−20アリールオキシ、C6−20アリール、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、C1−20フルオロアルキル、SiG(ただし、G、G、Gは上記定義のとおりの基である)、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1個以上の基によって置換されていてもよく、
Tは脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシラート、フェノキシラート、N、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1種類のアニオン配位子である。)
である。
【0010】
また、本発明の別の態様は、上記式により表されるコバルト−シッフ塩基錯体からなる、ポリカーボナート製造用の重合触媒である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原料エポキシドのラセミ混合物から一種類の光学異性体を選択的に二酸化炭素と重合させて、高い基質転化率で(すなわち、副生成物である環状エポキシドの生成反応に原料モノマーをほとんど消費されることなく)ポリカルボナート交互共重合体を製造することができる。
【本発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において触媒として使用されるコバルト錯体は、配位元素としてO、N,N、Oを有する4座配位子を含んでおり、この4座配位子は、1個の光学活性ジアミン化合物(又はその置換誘導体)と2個のサリチルアルデヒド類化合物との脱水縮合反応により形成される典型的なシッフ塩基化合物である。シッフ塩基化合物中、配位元素である2個の窒素原子は炭素数2のアルキレン鎖により架橋される。架橋鎖中の炭素原子の少なくともいずれか一方は不斉炭素となるようにアルキレン鎖上の置換基が選択される。このため、シッフ塩基配位子は光学活性を有する。
【0013】
また、アルキレン鎖は、アルキレン鎖自体に結合する置換基とともに環状構造を形成してもよい。好ましい環状アルキレン基の例として、1,2-シクロへキシレン基を挙げることができる。アルキレン鎖が1,2−シクロへキシレン基である場合には、アルキレン鎖の2個の不斉炭素は(R、R)又は(S,S)のいずれかの配置に限定される。
【0014】
以上のように、シッフ塩基化合物は光学活性を有するものに限定されているため、コバルトと錯形成させることにより得られる錯体も同様に光学活性を有することになる。
1,2−シクロへキシレン基には、1個以上の単環式又は多環式の芳香族環が更に縮合していてもよい。前記芳香族環の1個の環を構成する炭素原子の数は4〜8個、好ましくは5又は6個であり、且つ、前記芳香族環を構成する炭素原子数の合計は20個以下、好ましくは12〜18個である。
【0015】
シッフ塩基化合物中のサリチルアルデヒドに由来する芳香環の3位(又は3’位)および5位(又は5’位)には、X、Y及びZのいずれかの基が結合する。
Xは、例えば、三級アルキル基、三級シリル基、アリール基などの嵩高い基であり、好ましくは、C4−20三級アルキル、C3−60三級シリル及びC6−20アリールからなる群から選択される基であり、より好ましくは、C4−12三級アルキル、C3−24三級シリル及びC6−14アリールからなる群から選択される基である。Xとして、特に好ましい基はt-ブチル基である。
【0016】
Yは−CH−NG’G’で表されるアミノメチル基であり、ここで、G’及びG’は、独立に、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ及びC6−20アリールから選択される基を表すか、あるいは、G’及びG’がNと一緒になって3員〜8員環の環状アミノ基を形成する。好ましくは、Yは、上記アミノメチル基において、G’及びG’が、独立に、C1−8アルキル、C1−8アルコキシ及びC6−12アリールから選択される基を表すか、あるいは、G’及びG’がNと一緒になって3員〜6員環の環状アミノ基を形成する場合である。Yとして、特に好ましい基は
【0017】
【化2】

【0018】
である。
ZはH、メチル、C2−20一級アルキル、C3−20二級アルキル、C1−20アルコキシ、C6−20アリールオキシ、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基であり、好ましくはH、メチル、C2−12一級アルキル、C3−12二級アルキル、C1−12アルコキシ、C6−12アリールオキシ、C1−12カルボキシレート、C1−12アシル、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基であり、より好ましくは、H、メチル、C2−6一級アルキル、C3−6二級アルキル、C1−6アルコキシ、C6−10アリールオキシ、C1−6カルボキシレート、C1−6アシル、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基である。
【0019】
ただし、本発明においてエナンチオ選択性と高基質転化率を同時に実現するためには、X及びYが、それぞれ少なくも1個以上存在することが必要であり、更に、シッフ塩基化合物中のサリチルアルデヒドに由来する芳香環の3位及び/又は3’位に結合する置換基(式(I)のR、Rに相当)はXであることが必要である。
【0020】
以上に記載される1,2−シクロへキシレン基、芳香族環、C6−14アリール基及び環状アミノ基を構成する炭素は、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ、C6−20アリールオキシ、C6−20アリール、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、C1−20フルオロアルキル、C3−60三級シリル、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1個以上の基によって置換されていてもよく、好ましくはC1−8アルキル、C1−12アルコキシ、C6−12アリールオキシ、C6−12アリール、C1−8カルボキシレート、C1−8アシル、C1−8フルオロアルキル、C3−24三級シリル、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1個以上の基によって置換されていてもよい。
【0021】
本明細書中、三級シリルの用語は、SiGで表される基を包含し、ここで、G、G及びGは、同一でも異なっていてもよく、独立に、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ及びC6−20アリールから選択される基を表す。
【0022】
本発明に使用するために好ましいシッフ塩基配位子の例として、以下の化合物を挙げることができる。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
本発明の重合反応には上記コバルト錯体の中心金属が関与することから、基質に対してコバルト金属が作用しやすいように、中心金属の軸方向には1個又は2個の置換容易な配位子が配位し得る。もっとも典型的な配位子は、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシラート、フェノキシラート、N、F、Cl、Br及びIなどであり、好ましくはアセトナト(AcO)である。
【0026】
特に好ましい本発明のコバルト−シッフ塩基錯体は下式で表される化合物である。
【0027】
【化5】

【0028】
さらに別の好ましい本発明のコバルト−シッフ塩基錯体は、下式で表される化合物である。
【0029】
【化6】

【0030】
本発明のポリカルボナート製造用の重合触媒は、前記コバルト−シッフ塩基錯体からなるが、場合によっては助触媒の共存下で使用してもよい。助触媒としては、例えばオニウム塩化合物が好ましく、特に[NR’R’R’R’、[PR’R’R’R’及び[R’R’R’P=N=PR’R’R’からなる群から選択されるカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-及びカルボキシラートから選択されるアニオンとからなるオニウム塩化合物(R’、R’、R’、R’、R’及びR’は、同一でも異なっていてもよく、独立して、C1−20アルキル及びC6−20アリールから選択される基を表す)が好ましい。さらに、前記カルボキシラートには、ペンタフルオロベンゾアート(OC(=O)C)が好ましい。また、前記オニウム塩化合物の具体例として、特に限定するものではないが、[PhP=N=PPh]Cl、[PhP=N=PPh][OC(=O)C]などを挙げることができる。
【0031】
また、本発明の触媒は、原料モノマーをほぼ100%ポリカルボナートに転化することができる(すなわち、基質を完全にポリマー原料として消費することが可能である)ことから、この触媒を利用することにより以下のような、ポリカルボキナートの製法に関する具体的な実施態様を提供することができる。
(1)本発明の触媒の存在下、モノマー原料としてキラルエポキシドのラセミ混合物を使用して二酸化炭素との交互共重合を行わせた場合、最初にモノマー原料中に含まれる光学異性体の1種類が選択的に消費されることから、当該光学異性体が完全に消費されるまでの間、高分子鎖中に含まれる不斉炭素中心の絶対配置はSまたはRの一方を優先的に含む光学活性ポリマーが生成する。
【0032】
したがって、本発明の一態様によれば、モノマー原料に含まれる1種類の光学異性体が選択的に消費され、該光学異性体が完全になくなる前に、反応停止剤により重合反応を停止させることによって、高分子鎖中に含まれる不斉炭素中心の絶対配置がSまたはRの一方を優先的に含む光学活性ポリカルボナートを製造することができる。
(2)本発明の触媒の存在下、一方の光学異性体を完全に重合反応に消費させた後、引き続き重合反応を継続させると、選択されずに残存していたもう一方の光学異性体が高分子鎖に結合されて、従前の高分子鎖とは絶対配置の異なる連鎖構造が付加される。
【0033】
したがって、本発明の別の態様によれば、光学異性体の1種類が完全に消費された後、更に重合反応を継続させることによって、高分子鎖中の不斉炭素中心の絶対配置がSであるものを優先的に含むブロックと絶対配置がRであるものを優先的に含むブロックからなるポリカルボナートを製造することができる。
(3)本発明の触媒の存在下、モノマー原料としてメソエポキシド化合物を使用して二酸化炭素と交互共重合を行わせた場合には、エポキシ環の開環と重合が立体選択的に起こる。
【0034】
したがって、本発明の更に異なる態様によれば、高分子鎖中の不斉炭素中心の絶対配置が(R,R)または(S,S)の一方のみからなる光学活性ポリカルボナートを製造することもできる。
(4)本発明の触媒を利用した製造方法によれば、基質を完全に消費することが可能であることから、第一のエポキシドを完全に消費した後で、第二のエポキシドを投入することによって、ブッロク重合体を合成することができる。
【0035】
したがって、本発明の製造方法によれば、モノマー原料に含まれる光学異性体の構成比率のみならず、エポキシドの種類や投入する順序を適宜調整することによって、立体規則性が制御された多様なポリカルボナート共重合体を製造することができる。
(5)本発明の好ましい態様は、新規なブロック共重合体構造を有するポリカルボナートを包含する。すなわち、本発明のポリカルボナートは、高分子鎖中の不斉炭素中心の絶対配置がSであるものを優先的に含むブロックと絶対配置がRであるものを優先的に含むブロックからなるブロック共重合体となり得る。さらに、本発明のポリカルボナートは、高分子鎖中の不斉炭素中心の絶対配置がSのみであるものを含むブロックと絶対配置がRのみであるものを含むブロックからなるブロック共重合体となり得る。
【0036】
ここで、ブロック内に優先的に含まれる一方のエポキシド光学異性体のモル比は、ブロック内に含まれるエポキシドモノマーの全量を基準として60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上の値をとり得る。
【0037】
本発明の製造方法のモノマー原料として使用可能なエポキシド化合物には、キラルエポキシドおよびメソエポキシドのいずれもが包含される。
特に限定するものではないが、例えば、下式で表されるキラルエポキシドまたはメソエポキシドを挙げることができる。
【0038】
【化7】

【0039】
(上式中、R”1およびR”2は、同時に水素原子であることがないことを条件に、同一でも異なっていてもよく、更に、R”1およびR”は、独立に、水素原子、直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル若しくはC〜Cアルキニル、C〜Cシクロアルキル、C〜C16アリールまたはC〜C20アリールアルキルであり、あるいは、R1およびR2は、それらが結合する炭素原子と一緒になって飽和または不飽和のC〜C脂環式基を形成してもよく;前記アリールおよびアリールアルキル中のアリール部分並びに前記脂環式基は、ハロゲン原子、直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル若しくはC〜Cアルキニル、C〜Cシクロアルキルからなる群から選ばれる1個以上の置換基で置換されてもよく、あるいは、アリール環を構成する二個の隣接した炭素に結合する両置換基が該炭素原子と一緒になって飽和または不飽和のC〜C脂環式基を形成してもよく;前記アルキル、アルケニル、アルキニルおよびシクロアルキル、アリールおよび脂環式基は1個以上のヘテロ原子を含んでよく、前記ハロゲンはフッ素,塩素,臭素およびヨウ素の中から選択される1種類以上の原子である。)
本発明の製造方法にモノマー原料として特に好ましいキラルエポキシドの具体例としては、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−へキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−ドデセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロへキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシドなどが挙げられ、中でもプロピレンオキシドが好ましい。これらのキラルエポキシドはラセミ混合物として用いることができる。
【0040】
同様に、モノマー原料として特に好ましいメソエポキシドの具体例としては、2−ブテンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロへキセンオキシドをあげることができる(ただし、これらに限定されるわけではない)。
【0041】
一方、キラルエポキシドと共重合させる二酸化炭素は、気体のまま反応容器に導入して反応に使用する。また、本発明における交互共重合反応は、酸素などの影響を排除するために不活性雰囲気下で実施することが好ましく、二酸化炭素は不活性ガスとともに反応容器内に共存する。反応容器内の二酸化炭素の圧力は、0.1〜6MPa、好ましくは、1.0〜3.0MPaである。
【0042】
重合反応に使用するエポキシドと二酸化炭素のモル比は、典型的には1:0.1〜1:10であるが、好ましくは1:0.5〜1:3.0、より好ましくは1:1.0〜1:2.0である。
【0043】
本発明の共重合反応は、溶媒中で行ってもよいし、溶媒を使用せずに行ってもよい。溶媒を用いる場合には、トルエン、塩化メチレン、1,2-ジメトキシエタンなどを使用してもよく、好ましくは、1,2−ジメトキシエタンである。
【0044】
本発明における交互共重合は、約0〜60℃の温度範囲で実施可能であるが、通常は室温で実施される。交互共重合反応は、過剰量の二酸化炭素の存在下では、エポキシドが完全に消費されるまで続けることができるが、数時間〜数十時間にわたって反応を十分に進行させた後に適当な反応停止剤で反応を停止させてもよい。反応停止剤は、ポリカルボナートの重合反応を停止させる慣用の試薬であれば、特に制限なく使用してよい。例えば、アルコール(例えばメタノール)、水、酸(塩酸など)の活性プロトンをもつ化合物を使用することができる。交互共重合の終了後、未反応物および溶媒(溶媒を用いた場合)を留去し、生成した反応生成物を再沈殿その他の適切な方法で精製することができる。
【0045】
本発明のより製造されるポリカルボナートの分子量は、ゲルパミエーションクロマトグラフィー(GPC;ポリスチレン換算)によって測定した典型的な数平均分子量Mでは1000以上、好ましくは2,000〜1,000,000、さらに好ましくは3,000〜100,000である。
【0046】
本発明の製造方法により得られる光学活性ポリカルボナートは比較的狭い分子量分布(M/M)を有し得る。具体的には、4未満であり、好ましくは2.5未満、最も好ましくは、約1.0〜約1.6である。
【実施例】
【0047】
以下の実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例で得られた光学活性ポリカルボナートのHNMRスペクトルの測定は、JEOL社製JNM−ECP500(500 MHz)を用いて行った。
【0048】
光学活性ポリカルボナートの分子量測定は、ジーエルサイエンス社製高速液体クロマトグラフィーシステム(DG660B・PU713・UV702・RI704・CO631A)とSHODEX社製KF−804Fカラム2本を用いてテトラヒドロフランを溶出液として(40℃,1.0 mL/分)、ポリスチレン標準を基準に換算して測定し、解析ソフトウェア(Scientific Software社製EZChrom Elite)で処理して求めた。
【0049】
また、本実施例では、未反応の光学活性エポキシドの光学純度を、該エポキシドを対応する環状カルボナートに変換して算出した鏡像体過剰率(%ee)によって評価した。鏡像体過剰率を求めるために、島津製作所社製ガスクロマトグラフシステム(GC-2010)及び分析カラム(Chemopack社製CHIRASIL-DEX CB)を使用してヘリウムをキャリアガスとして測定を行った。鏡像体過剰率は、ガスクロマトグラフによって得られるそれぞれの光学異性体のピーク面積(R体、S体のピーク面積をそれぞれAR、ASとする)から下式により評価した。
【0050】
鏡像体過剰率(% ee)= 100×|AR-AS|/(AR+AS)
さらに、ラセミ体から一種類の鏡像異性体を優先的にポリマーに取り込んだかを示す選択性を以下の指標(krel)を下式により評価した。
【0051】
krel =ln[1-c(1+ee)]/ln[1-c(1-ee)]
ここで、eeは上記の方法で求めた未反応エポキシドの鏡像体過剰率であり、cはエポキシドの転化率である。
(1)触媒の調製
以下の合成例に溶媒として使用したジクロロメタン及びテトラヒドロフランは関東化学株式会社から入手した脱水グレードの試薬をGlassContour社製溶媒精製装置に通したものを使用した。また、エタノールは関東化学から入手した試薬を精製せずにそのまま用いた。
【0052】
酢酸コバルトは関東化学から入手可能した。氷酢酸はアルドリッチ社から入手した試薬を精製せずにそのまま用いた。(1R,2R)−1,2−ジアミノシクロヘキサンは、東京化成工業株式会社から入手した試薬をそのまま使用した。
【0053】
以下の配位子合成において原料に用いられるサリチルアルデヒド誘導体(3,5)は市販の試薬を入手してそのまま使用した。また、サリチルアルデヒド誘導体(1)は文献にも記載されている周知慣用の方法に従って調製したものを使用した。
【0054】
また、比較例に用いたコバルト錯体触媒(11)のシッフ塩基配位子は、公知文献(K.Nakano,et al., Angew. Chem., Int. Ed, 2006, 45, 7274-7277)に従って調製したものを用いた。
A.配位子の合成
[実施例1]シッフ塩基配位子4の合成
アルゴンガス雰囲気下,20 mL容のシュレンク管にサリチルアルデヒド誘導体1(922 mg, 3.35 mmol)とサリチルアルデヒド誘導体3 (2.35g, 10.0 mmol)と塩化メチレン(20 mL)を入れ,エタノール(8 mL)に溶解させた(1R,2R)−1,2−ジアミノシクロヘキサン[(1R,2R)-(2), 763 mg, 6.69 mmol]を加えた。室温で22時間攪拌し濃縮した後,得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル)で精製して目的の配位子4を得た(1.35 g, 収率69%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 8.31 (s, 1H), 8.27 (s, 1H), 7.34 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 7.30 (δ, J = 2.5 Hz, 1H), 7.05 (d, J= 2.1 Hz, 1H), 6.98 (d, J = 2.5 Hz, 1H), 3.55-3.58 (d, J = 13.8 Hz, 1H), 3.47-3.50 (d, J= 13.8 Hz, 1H), 3.25-3.35 (m, 2H), 2.42 (br s, 4H), 1.85-1.92 (m, 4H), 1.43-1.74 (m, 10H), 1.41 (s, 9H), 1.24 (s, 9H), 1.23 (s, 9H).
【0055】
【化8】

【0056】
[実施例2]シッフ塩基配位子7の合成
アルゴンガス雰囲気下,パラホルムアルデヒド(185 mg, 6.17mmol),酢酸(4.0 mL)を入れ,0℃に冷やしたところにピペリジン(0.61 mL, 6.17 mmol)を加え,室温で3時間攪拌した。ここにエタノール(16 mL)に溶かしたサリチルアルデヒド誘導体5(1.00 g, 5.61 mmol)を加え,3日間還流した。反応後濃縮し炭酸水素ナトリウムで洗い,塩化メチレンで抽出した。得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル)で精製して目的のサリチルアルデヒド誘導体6を得た(849 mg, 収率55%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 11.8 (br s, 1H), 9.86 (s, 1H), 7.48 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 7.39 (d, J= 1.8 Hz, 1H), 3.60 (s, 2H), 2.53 (br s, 4H), 1.63-1.68 (m, 4H), 1.48 (m, 2H), 1.41 (s, 9H).
【0057】
【化9】

【0058】
得られたサリチルアルデヒド誘導体6 (216 mg, 0.78 mmol)をエタノール(2.0 mL)に溶解させ,エタノール(2.0 mL)に溶解させた(1R,2R)−1,2−ジアミノシクロヘキサン[(1R,2R)-(2), 45 mg, 0.39 mmol]を加えた。室温で24時間攪拌し,濃縮して目的の配位子7を得た(収率99%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 8.27 (s, 2H), 7.16 (d, J = 2.1 Hz, 2H), 6.95 (d, J = 2.1 Hz, 2H), 3.44-3.46 (d, J = 13.1 Hz, 2H), 3.39-3.42 (d, J= 13.1 Hz, 2H), 3.32 (m, 2H), 2.39 (br s, 8H), 1.45-2.01 (m, 20H), 1.39 (s, 9H).
【0059】
【化10】

【0060】
B.コバルト錯体の合成
[実施例3]コバルト錯体8の合成
アルゴンガス雰囲気下,20 mL容のシュレンク管に酢酸コバルト (30 mg, 0.17 mmol),配位子4 (100 mg, 0.17 mmol),ジクロロメタン(2.0 mL)を入れ,室温で15分攪拌した後,35 °Cで2.5時間攪拌した。室温に降温し,ジクロロメタン(2.0 mL)に溶解させた氷酢酸(70 L)を加え,空気下で2.5 時間攪拌した。減圧下で揮発成分を除き,十分に乾燥させて,目的のコバルト錯体8を得た。MS (MALDI-TOF) m/z calcd for C38H55N3O2Co [M-2(AcO)]+ 644, found 644.
【0061】
【化11】

【0062】
[実施例4]コバルト錯体10の合成
アルゴンガス雰囲気下,20 mL容のシュレンク管に酢酸コバルト (101 mg, 0.16 mmol),配位子7,ジクロロメタン(2.0 mL)を入れ,室温で15分攪拌した後,35 °Cで2.5時間攪拌した。室温に降温し,ジクロロメタン(2.0 mL)に溶解させた氷酢酸(63 mL)を加え,空気下で3 時間攪拌した。減圧下で揮発成分を除き,十分に乾燥させた後,コバルト錯体9を得た。MS (MALDI-TOF) m/z calcd for C40H58N4O2Co [M-(AcO)] + 685, found 685.
【0063】
【化12】

【0064】
塩化メチレンに溶かしたコバルト錯体9(23 mg, 0.029 mmol)に対して別のフラスコで硫酸(80 L)と塩化ナトリウム(84 mg)から発生させた塩化水素を吹き込み,10分間反応させた。減圧下で塩化メチレンを除き,コバルト錯体10を得た。
【0065】
【化13】

【0066】
(2)重合反応
A.重合反応のエナンチオ選択性の検討
[実施例5]アルゴンガス雰囲気下,コバルト錯体 8(10.9 mg, 0.014 mmol),プロピレンオキシド(2.0 mL, 28.6 mmol)を耐圧反応容器に入れ,二酸化炭素(1.4 MPa)を圧入して25 ℃で7時間撹拌した。二酸化炭素圧を抜き,未反応のプロピレンオキシドの大部分を抜き取り,反応容器内に残った固体状の組成生物を塩化メチレンをもちいて丸底フラスコに移したあと,濃縮・真空乾燥して共重合体の粗生成物を得た。[NMR収率26%(内部標準物質:フェナントレン)]。
【0067】
【化14】

【0068】
上記で抜き取った未反応のプロピレンオキシド(0.1 mL),チオフェノール(0.3 mL),エタノール(25 mL)を100 mL丸底フラスコに入れた。トリエチルアミン(10 L)を加え,室温で15時間攪拌した。得られたアルコールの鏡像体過剰率をガスクロマトグラフィーによって決定した(11%)。下記の式により,krel = 2.1と見積もった。
【0069】
【化15】

【0070】
[実施例6]アルゴンガス雰囲気下,コバルト錯体10 (11.8 mg, 0.014 mmol),プロピレンオキシド(2.0 mL, 28.6 mmol)を耐圧反応容器に入れ,二酸化炭素(1.4 MPa)を圧入して25 ℃で12時間撹拌した。二酸化炭素圧を抜き,未反応のプロピレンオキシドの大部分を抜き取り,反応容器内に残った固体状の組成生物を塩化メチレンをもちいて丸底フラスコに移したあと,濃縮・真空乾燥して共重合体の粗生成物を得た[NMR収率25%(内部標準物質:フェナントレン)]。
【0071】
【化16】

【0072】
上記で抜き取った未反応のプロピレンオキシド(0.1 mL),チオフェノール(0.3 mL),エタノール(25 mL)を100 mL丸底フラスコに入れた。トリエチルアミン(10 mL)を加え,室温で15時間攪拌する.得られたアルコールの鏡像体過剰率をガスクロマトグラフィーによって決定する(16%)。下記の式により,krel = 3.3と見積もった。
【0073】
【化17】

【0074】
B.エポキシド原料からポリカルボナートへの転化率の検討
[実施例7]アルゴンガス雰囲気下,コバルト錯体8 (10.9 mg, 0.014 mmol),プロピレンオキシド(1.0 mL, 14.3 mmol),ジメトキシエタン(1.0 mL)を耐圧反応容器に入れ,二酸化炭素(1.4 MPa)を圧入して25 ℃で96時間撹拌した。二酸化炭素圧を抜き,反応容器内に残った固体状の組成生物を塩化メチレンをもちいて丸底フラスコに移したあと,濃縮・真空乾燥して共重合体の粗生成物を得た[NMR収率98%(内部標準物質:フェナントレン)]。
【0075】
【化18】

【0076】
[実施例8]アルゴンガス雰囲気下,コバルト錯体10 (11.8 mg, 0.014 mmol),プロピレンオキシド(1.0 mL, 14.3 mmol),ジメトキシエタン(1.0 mL)を耐圧反応容器に入れ,二酸化炭素(1.4 MPa)を圧入して25 ℃で72時間撹拌した。二酸化炭素圧を抜き,反応容器内に残った固体状の組成生物を塩化メチレンをもちいて丸底フラスコに移したあと,濃縮・真空乾燥して共重合体の粗生成物を得た[NMR収率99%(内部標準物質:フェナントレン)]。
【0077】
【化19】

【0078】
C.比較例:公知のコバルト錯体11を用いたポリプロピレンカルボネートの製造
【0079】
【化20】

【0080】
アルゴンガス雰囲気下,コバルト錯体11 (12 mg, 0.014 mmol),プロピレンオキシド(2.0 mL, 28.6 mmol)を耐圧反応容器に入れ,二酸化炭素(1.4 MPa)を圧入して25 ℃で2時間撹拌した。二酸化炭素圧を抜き,未反応のプロピレンオキシドの大部分を減圧下で回収し,反応容器内に残った固体状の組成生物をクロロホルムをもちいて丸底フラスコに移したあと、濃縮・真空乾燥して共重合体の粗生成物を得た[NMR収率29%(内部標準物質:フェナントレン)]。
【0081】
【化21】



【0082】
回収した未反応のエポキシド、ヨウ化ナトリウム(21 mg, 0.143 mmol)、トリフェニルホスフィン(38 mg, 0.143 mmol)、フェノール(14 mg, 0.143 mmol)を耐圧反応容器に入れ、二酸化炭素(4.0 MPa)を圧入して120 ℃で5時間攪拌した。二酸化炭素圧を抜き、反応混合物の一部を採取して、ガスクロマトグラフィーによって生成したプロピレンカルボナートの鏡像体過剰率を決定した(0% ee)。上述の式により、krel= 1.0と算出した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1にまとめられた重合反応の結果の比較から明らかなように、本発明に相当する実施例5,6で得られたkrelの値は、既知の錯体触媒を用いた比較例におけるkrelの値を上回っており、このことから本発明の錯体触媒がエポキシドモノマーのラセミ混合物から光学活性を有するエポキシドモノマーの一種類をエナンチオ選択的に二酸化炭素と交互共重合させていることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配位原子としてO、N、N、Oを有する四座配位子のコバルト−シッフ塩基錯体の存在下、エポキシド化合物をモノマー原料として、二酸化炭素と共重合させることによりポリカルボナート共重合体を製造する方法であって、前記コバルト−シッフ塩基錯体が式(I)で表される化合物であることを特徴とする前記方法。
【化1】

(式中、R、R、R、Rは、独立に、H、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ、C6−20アリールオキシ、C6−20アリール、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、C1−20フルオロアルキル、SiG、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基(ただし、R、R、R、Rがすべて同一の置換基である場合は除外され、且つ、RとRが同一の場合には、RとRは異なり、また、RとRが同一の場合にはRとRは異なり、また、RとRが同一の場合にはRとRが異なり、また、RとRが同一の場合にはRとRが異なることが条件となる)を表すか、又は、
とRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素であるか、又は、
とRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素であり、
ここで、前記1,2−シクロへキシレン基には1個以上の単環式又は多環式の芳香族環が更に縮合していてもよく、前記芳香族環の1個の環を構成する炭素原子の数は4〜8個であり、且つ、前記芳香族環を構成する炭素原子数の合計は20個以下であり、
、R、R、Rは、独立に、X、Y及びZからなる群から選択される基であり、また、R、R、R、Rには少なくとも1個のX及び少なくとも1個のYが含まれるが、Zは存在しなくてもよく、さらに、R及びRの少なくとも一方はXであり、
Xは、C4−20三級アルキル、C3−60三級シリル及びC6−20アリールからなる群から選択される基であり、
Yは−CH−NG’G’で表されるアミノメチル基であり、
ZはH、メチル、C2−20一級アルキル、C3−20二級アルキル、C1−20アルコキシ、C6−20アリールオキシ、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基であり、
ここで、G、G及びGは、同一でも異なっていてもよく、独立に、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ及びC6−20アリールから選択される基を表し、
G’及びG’は、独立に、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ及びC6−20アリールから選択される基を表すか、あるいは、G’及びG’がNと一緒になって3員〜8員環の環状アミノ基を形成し、
さらに、前記1,2−シクロへキシレン基、前記芳香族環、前記C6−20アリール及び前記環状アミノ基の環を構成する炭素は、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ、C1−20アリールオキシ、C6−20アリール、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、C1−20フルオロアルキル、SiG(ただし、G、G、Gは上記定義のとおりの基である)、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1個以上の基によって置換されていてもよく、
Tは脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシラート、フェノキシラート、N、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1種類のアニオン配位子である。)
【請求項2】
とRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素であるか、又は、RとRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
置換基Xがt−ブチルである、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
置換基Yが、
【化2】

である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記モノマー原料がキラルエポキシド化合物のラセミ混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ラセミ混合物中に含まれる光学異性体の1種類が重合反応に完全に消費される前に反応停止剤により重合反応を停止させ、高分子鎖中に含まれる不斉炭素中心が優先的にS配置又はR配置のいずれか一方を有するようにポリカルボナートを生成させることを含む請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ラセミ混合物中に含まれる光学異性体の1種類が完全に消費された後も更に重合反応を継続させて、高分子鎖中の不斉炭素中心が優先的にS配置を有するブロックとR配置を有するブロックからなるポリカルボナートを生成させることを含む請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記モノマー原料がメソエポキシド化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記コバルト−シッフ塩基錯体が、下式で表される化合物である(ただし、Tは請求項1に定義されたとおりのアニオン配位子を表す)ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【化3】

【請求項10】
前記コバルト−シッフ塩基錯体が、下式で表される化合物である(ただし、Tは請求項1に定義されたとおりのアニオン配位子を表す)ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【化4】

【請求項11】
式(I):
【化5】

(式中、R、R、R、Rは、独立に、H、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ、C6−20アリールオキシ、C6−20アリール、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、C1−20フルオロアルキル、SiG、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基(ただし、R、R、R、Rがすべて同一の置換基である場合は除外され、且つ、RとRが同一の場合には、RとRは異なり、また、RとRが同一の場合にはRとRは異なり、また、RとRが同一の場合にはRとRが異なり、また、RとRが同一の場合にはRとRが異なることが条件となる)を表すか、又は、
とRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素であるか、又は、
とRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素であり、
ここで、前記1,2−シクロへキシレン基には1個以上の単環式又は多環式の芳香族環が更に縮合していてもよく、前記芳香族環の1個の環を構成する炭素原子の数は4〜8個であり、且つ、前記芳香族環を構成する炭素原子数の合計は20個以下であり、
、R、R、Rは、独立に、X、Y及びZからなる群から選択される基であり、また、R、R、R、Rには少なくとも1個のX及び少なくとも1個のYが含まれるが、Zは存在しなくてもよく、さらに、R及びRの少なくとも一方はXであり、
Xは、C4−20三級アルキル、C3−60三級シリル及びC6−20アリールからなる群から選択される基であり、
Yは−CH−NG’G’で表されるアミノメチル基であり、
ZはH、メチル、C2−20一級アルキル、C3−20二級アルキル、C1−20アルコキシ、C6−20アリールオキシ、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、NO、シアノ、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される基であり、
ここで、G、G及びGは、同一でも異なっていてもよく、独立に、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ及びC6−20アリールから選択される基を表し、
G’及びG’は、独立に、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ及びC6−20アリールから選択される基を表すか、あるいは、G’及びG’がNと一緒になって3員〜8員環の環状アミノ基を形成し、
さらに、前記1,2−シクロへキシレン基、前記芳香族環、前記C6−20アリール及び前記環状アミノ基の環を構成する炭素は、C1−20アルキル、C1−20アルコキシ、C1−20アリールオキシ、C6−20アリール、C1−20カルボキシレート、C1−20アシル、C1−20フルオロアルキル、SiG(ただし、G、G、Gは上記定義のとおりの基である)、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1個以上の基によって置換されていてもよく、
Tは脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシラート、フェノキシラート、N、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1種類のアニオン配位子である。)
で表されるコバルト−シッフ塩基錯体からなる、ポリカルボナート製造用の重合触媒。
【請求項12】
とRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素であるか、又は、RとRが、それらと結合する炭素原子と一緒になって、1,2−シクロへキシレン基を形成し、他方、RとRは水素である、請求項11に記載の触媒。
【請求項13】
置換基Xがt−ブチルである、請求項11又は12に記載の触媒。
【請求項14】
置換基Yが、
【化6】

である、請求項11〜13のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項15】
前記コバルト−シッフ塩基錯体が、下式で表される化合物である(ただし、Tは請求項11に定義されたとおりのアニオン配位子を表す)ことを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の触媒。
【化7】

【請求項16】
前記コバルト−シッフ塩基錯体が、下式で表される化合物である(ただし、Tは請求項11に定義されたとおりのアニオン配位子を表す)ことを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項に記載の触媒。
【化8】

【請求項17】
下記式で表される化合物。
【化9】

【請求項18】
下記式で表される化合物。
【化10】


【公開番号】特開2010−1443(P2010−1443A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163864(P2008−163864)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】