説明

エポキシ樹脂含有ガラス繊維用集束剤

【課題】耐熱性及び集束性に十分に優れたガラス繊維用集束剤、このガラス繊維用集束剤で集束されてなるガラス繊維束を提供すること。
【解決手段】
エポキシ樹脂と、シランカップリング剤と、水とを含有するガラス繊維用集束剤であって、エポキシ樹脂の含有割合は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全質量を基準として、80〜95質量%であり、エポキシ樹脂は、(a)成分:重量平均分子量2500〜20000のビスフェノールA型又はF型エポキシ樹脂、(b)成分:重量平均分子量700以下のビスフェノールA型又はF型エポキシ樹脂を含んでおり、(a)成分100質量部に対する(b)成分の含有量は3〜30質量部である、ガラス繊維用集束剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維用集束剤、ガラス繊維束、ガラス繊維チョップドストランド、及び、ガラス繊維強化液晶ポリエステル樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化樹脂は、一般に、ガラス繊維束を所定の長さに切断したガラス繊維チョップドストランドとマトリックス樹脂とを混合し、射出成形することにより得られる。マトリックス樹脂との混合に先立って、ガラス繊維束は、通常、集束剤で被覆される。集束剤としては、皮膜形成剤、シランカップリング剤及び水を必須成分として含有するものが一般的である。ガラス繊維チョップドストランド用の集束剤に求められる特性としては、耐熱性、ガラス繊維束の集束性、切断性等がある。近年、ガラス繊維強化樹脂の用途拡大に伴って、ガラス繊維強化樹脂に求められる性能がますます高くなってきている。集束剤は得られるガラス繊維強化樹脂の性能に影響を与えることから、使用されるマトリックス樹脂の種類に合わせて種々の集束剤の開発がなされている。
【0003】
通常、ガラス繊維チョップドストランド用の集束剤として、皮膜形成剤としてウレタン樹脂を用いたウレタン樹脂系集束剤が用いられている。ウレタン樹脂系集束剤で処理したガラス繊維束は、集束性に優れ、樹脂と混練する際の作業性に優れているものの、耐熱性に劣り、溶融温度が高いマトリックス樹脂の場合は成形品の強度が十分に発揮され難い。また、ガラス繊維束の耐熱性を向上するために集束剤の付着量を低下すると、耐熱性は向上するものの、十分な集束性を発現し難くなる。一方、皮膜形成剤としてエポキシ樹脂とウレタン樹脂とを併用した集束剤は、耐熱性は向上するが、集束性が低下してしまう傾向がある。
【0004】
特許文献1では、引抜成形に供されるロービング用の集束剤として、エポキシ樹脂系集束剤が開示されている。特許文献1では、エポキシ当量が180〜1000、かつ分子量が360〜2000である比較的分子量の小さいエポキシ樹脂を用いているため、集束性に優れガラス繊維束の毛羽発生を抑制でき、透明性に優れた成形品を得ることができる。
【特許文献1】特開昭63−297249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で開示されている集束剤をガラス繊維チョップドストランド用の集束剤として用いる場合、ガラス繊維束の切断性が低下する傾向がある。また、特許文献1では、集束剤の耐熱性が十分でないため、溶融温度が高いマトリックス樹脂を用いた場合、成形品の強度が発揮され難くなる。
【0006】
そこで、本発明は、耐熱性及び集束性に十分に優れたガラス繊維用集束剤、このガラス繊維用集束剤で集束されてなるガラス繊維束を提供することを目的とする。また、このガラス繊維束を用いたガラス繊維チョップドストランド、ガラス繊維強化液晶ポリエステル樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エポキシ樹脂と、シランカップリング剤と、水とを含有するガラス繊維用集束剤であって、エポキシ樹脂の含有割合は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全質量を基準として、80〜95質量%であり、エポキシ樹脂は、(a)成分:重量平均分子量2500〜20000のビスフェノールA型又はF型エポキシ樹脂、(b)成分:重量平均分子量700以下のビスフェノールA型又はF型エポキシ樹脂を含んでおり、(a)成分100質量部に対する(b)成分の含有量は3〜30質量部である、ガラス繊維用集束剤を提供する。
【0008】
上記構成を備えることにより、ガラス繊維用集束剤は、耐熱性が向上し、且つ皮膜形成性及び柔軟性に優れるものとなり、集束性が向上する。
【0009】
上記ガラス繊維用集束剤は、乳化剤を更に含有することが好ましい。これにより、エポキシ樹脂のガラス繊維用集束剤中での分散性が向上し、集束性により一層優れるものとなる。
【0010】
本発明のガラス繊維用集束剤は、350℃での重量減少率が20質量%以下であることが好ましい。このようなガラス繊維用集束剤は、より耐熱性に優れるため、マトリックス樹脂として、液晶ポリエステル樹脂等の溶融温度が高い樹脂を用いる場合に好適である。
【0011】
本発明は、上記ガラス繊維用集束剤により、ガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなるガラス繊維束を提供する。このようなガラス繊維束は、本発明のガラス繊維用集束剤で被覆されているため、耐熱性及び集束性に十分に優れるものとなる。
【0012】
上記ガラス繊維束において、ガラス繊維用集束剤が、ガラス繊維フィラメント100質量部に対して、不揮発成分として0.2〜1.0質量部付着していることが好ましい。このような付着量であれば、耐熱性及び集束性により一層優れたものとなる。
【0013】
また、上記ガラス繊維フィラメントは、断面が扁平率1.5〜10の扁平断面を有することが好ましい。ガラス繊維フィラメントが扁平であると、円形のガラス繊維フィラメントに比べ比表面積が大きいため、ガラス繊維チョップドストランドはマトリックス樹脂との接着性を向上できるものの、ガラス繊維の単位重量に対するガラス繊維用集束剤の付着量が多くなる傾向にある。そのため、通常のガラス繊維用集束剤を用いた場合、特に耐熱性が低下する傾向にあり、集束性と耐熱性とを両立させることが難しい。本発明においては、扁平ガラス繊維フィラメントであっても、集束性及び耐熱性により優れるものとなる。
【0014】
本発明は、また、上記ガラス繊維束を切断してなる、ガラス繊維チョップドストランドを提供する。このようなガラス繊維チョップドストランドはマトリックス樹脂との接着性に優れ、耐熱性が十分に高いガラス繊維強化樹脂組成物を作製することができる。
【0015】
さらに、本発明は、上記ガラス繊維チョップドストランドと液晶ポリエステル樹脂とを含むガラス繊維強化液晶ポリエステル樹脂組成物を射出成形するガラス繊維強化液晶ポリエステル樹脂成形品の製造方法を提供する。
【0016】
液晶ポリエステル樹脂の溶融温度は340℃程度と他の熱可塑性樹脂に比べ高温であるため、マトリックス樹脂として液晶ポリエステル樹脂を用いた場合、耐熱性に対する要求が更に厳しくなる。本発明のガラス繊維チョップドストランドを用いることにより、耐熱性に十分に優れ、強度が十分に高いガラス繊維強化液晶ポリエステル樹脂成形品を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱性及び集束性に十分に優れたガラス繊維用集束剤を提供することができる。本発明は、また、このガラス繊維用集束剤で集束されてなるガラス繊維束、及びこのガラス繊維束を切断してなるガラス繊維チョップドストランドを提供することができる。更に、本発明は、このガラス繊維チョップドストランドを含む液晶ポリエステル樹脂組成物を成形してなるガラス繊維強化液晶ポリエステル樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0019】
まず、本発明に係るガラス繊維用集束剤について説明する。本発明のガラス繊維用集束剤は、エポキシ樹脂と、シランカップリング剤と、水とを必須成分として含有する。
【0020】
本発明で用いられるエポキシ樹脂は、(a)重量平均分子量2500〜20000のビスフェノールA型又はF型エポキシ樹脂と、(b)重量平均分子量700以下のビスフェノールA型又はF型エポキシ樹脂とを含む。
【0021】
(a)成分の重量平均分子量は、2500〜20000であるが、3000〜10000であることが好ましく、4000〜8000であることがより好ましい。(a)成分の重量平均分子量が2500未満では、耐熱性が不十分となり、20000を超えると、集束性が低下し、また、取り扱いが困難となる傾向がある。一方、(b)成分の重量平均分子量は、700以下であるが、300〜600であることが好ましい。(b)成分の重量平均分子量が700を超えると、ガラス繊維束の集束性や柔軟性が低下し、毛羽が発生しやすくなる。
【0022】
エポキシ樹脂中の(b)成分の含有割合は、(a)成分100質量部に対して、3〜30質量部であり、4〜25質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましい。(b)成分の含有割合が3質量部未満では、柔軟性が低下し集束性が不十分となる傾向があり、30質量部を超えると、皮膜形成性が不十分となり集束性が低下する傾向がある。
【0023】
上記エポキシ樹脂は、水、有機溶剤等の他の成分を含まない形で提供されてもよい。エポキシ樹脂が水を含む場合、エポキシ樹脂は水中で合成したものであっても、別途合成したものを水中に溶解又は分散したものであってもよい。また、本発明のガラス繊維用集束剤における水に溶解していてもよく、分散していてもよい。すなわち、エポキシ樹脂は水溶性であっても非水溶性であってもよい。本発明における(a)及び(b)成分であるエポキシ樹脂は、集束剤の調製に先立ち、事前に両者を混合したエマルジョン又はディスパージョンとすることが好ましい。
【0024】
本発明のガラス繊維用集束剤におけるエポキシ樹脂の含有割合は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全質量を基準として、65〜90質量%であり、70〜85質量%であることが好ましく、75〜80質量%であることがより好ましい。エポキシ樹脂の含有割合が65質量%未満では、集束性や耐熱性が低下する傾向があり、90質量%を超えると、ガラス繊維束の毛羽立ちが多くなる傾向がある。
【0025】
なお、本発明における「不揮発成分」とは、120℃の加熱により揮発しない成分をいい、「揮発成分」とは、このような加熱により揮発する成分をいう。
【0026】
本発明において用いられるシランカップリング剤は、加水分解性ケイ素基と疎水基(有機基)とを有するシラン化合物であり、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等の不飽和二重結合を有するシランカップリング剤;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。本発明においては、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0027】
シランカップリング剤は、ガラス繊維と反応性を有する加水分解性ケイ素基と、熱可塑性樹脂との親和性を有する疎水基(有機基)とを有していることから、シランカップリング剤を含む本発明のガラス繊維用集束剤を用いることにより、ガラス繊維束とマトリックス樹脂との界面接着性を向上させることができる。
【0028】
本発明のガラス繊維用集束剤は、上述したシランカップリング剤、エポキシ樹脂の他に、水を必須成分とする。水は上述した成分を溶解又は分散可能であればよく、例えば、イオン交換水、蒸留水が好適に用いられる。
【0029】
本発明のガラス繊維用集束剤は、シランカップリング剤及びエポキシ樹脂を、水に溶解及び/又は分散することにより得ることができる。保存安定性の観点から、シランカップリング剤はアルコール溶液等として提供される場合があり、又、エポキシ樹脂はエマルジョン又はディスパージョンとして提供される場合があるため、このような場合はこれらをそのまま水と混合すればよい。
【0030】
本発明のガラス繊維用集束剤における水の含有量は特に制限されないが、ガラス繊維に対する塗布性を考慮すると、水の含有量はガラス繊維用集束剤の全質量を基準として、90〜99質量%であることが好ましく、94〜98質量%であることがより好ましい。水の含有量が90質量%未満であると、不揮発成分の含有量が多くなるためガラス繊維に対する塗布が困難になる傾向にあり、99質量%を超えると、1回の塗布でガラス繊維に付着させることのできる不揮発成分の量が低下するため、毛羽立ちや切断が起こる傾向があり、重ね塗りが必要となる場合が生じる。
【0031】
また、本発明のガラス繊維用集束剤は、上述したエポキシ樹脂、シランカップリング剤及び水に加えて、乳化剤を含むことが好ましい。
【0032】
乳化剤としては、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩を含有するアニオン性界面活性剤、第1級〜3級のアミン塩、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、カルボキシベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤等を用いることができる。この中でも、加熱減量をより低減することから、乳化剤として、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコールエーテル又はポリオキシエチレンスチリルエーテルを用いることが好ましい。
【0033】
乳化剤の添加量は、ガラス繊維用集束剤の(a)及び(b)成分の総量100質量部に対して、15〜30質量部であることが好ましい。乳化剤の添加量が15質量部未満では集束性が低下し、30質量部を超えると耐熱性が低下することがある。
【0034】
さらに、本発明のガラス繊維用集束剤は、上述した成分に加えて、潤滑剤、pH調整剤、帯電防止剤、保型剤等の添加成分を更に含んでいてもよい。また、本発明のガラス繊維用集束剤は、固形分調整等のために、水(イオン交換水、蒸留水等)を更に含有してもよく、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールやその他有機溶剤を少量含有してもよい。
【0035】
pH調整剤としては、酢酸、ギ酸等が好ましく、pH調整剤の添加によりガラス繊維用集束剤のpHを3.0〜5.0に調整することが好ましい。pH調整により、シランカップリング剤の加水分解を促進させることができる。
【0036】
帯電防止剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルスルホネート、第4級アンモニウムクロライドを用いることができる。ガラス繊維用集束剤に帯電防止剤を添加することにより、ガラス繊維に生じる静電気の発生を低減させることができる。帯電防止剤は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分100質量部に対して1〜3質量部であることが好ましい。
【0037】
潤滑剤としては、高級飽和脂肪酸と高級飽和アルコールの縮合物等の合成油、ポリエチレンイミン等公知の潤滑剤がいずれも使用可能である。本発明において用いることのできる潤滑剤として特に好ましいものは、テトラエチレンペンタミンとステアリン酸の縮合物に酢酸を加えpHを4.5〜5.5に調整した調整物(以下、該調整物における固形分を「TEPA/SA」と記す。)である。TEPA/SAにおけるテトラエチレンペンタミンとステアリン酸の反応比率はモル比として、前者/後者=1/1〜1/2が好ましい。このような潤滑剤を用いることにより、ガラス繊維が機械摩擦から保護されるとともに、ガラス繊維束中のガラス繊維モノフィラメント同士の摩擦をも減少させ、更にはガラス繊維に柔軟性を付与することが可能になる。潤滑剤は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましく、1〜8質量部であることがより好ましい。
【0038】
耐熱性をより向上する観点から、ガラス繊維用集束剤は、350℃での重量減少率が、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。ここで、本発明における重量減少率は、以下のようにして算出することができる。
【0039】
まず、ガラス繊維用集束剤を120℃で1時間乾燥し、評価用サンプルを作製する。このサンプルを秤量し、空気雰囲気下、熱重量測定装置(TGA)に入れ、下記条件で昇温し350℃における重量減少率を測定する。なお、重量減少率が小さいものほど耐熱性に優れることを意味する。
測定機器:TG/DTA6300(セイコーインスツルメンツ社製、商品名)
測定温度:25〜350℃、
昇温速度:10℃/分。
【0040】
次に、本発明のガラス繊維束について説明する。本発明のガラス繊維束は、上述のガラス繊維用集束剤によりガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなるものである。すなわち、本発明のガラス繊維束は、複数本のガラス繊維フィラメントと本発明のガラス繊維用集束剤とから構成されており、ガラス繊維用集束剤は複数のガラス繊維フィラメント間に存在し、ガラス繊維フィラメントを束ねる接着剤(バインダ)として機能している。また、ガラス繊維用集束剤はガラス繊維フィラメントの外周を連続又は不連続膜として被覆し、ガラス繊維を保護する機能も有している。なお、本発明において、ガラス繊維束に存在するガラス繊維用集束剤は、該集束剤の不揮発成分であることが好ましい。
【0041】
ガラス繊維用集束剤は、ガラス繊維束の使用時にガラス繊維フィラメントを束状に保っておくだけの強度を有していればよく、ガラス繊維束内に一様に分布している必要はない。すなわち、ガラス繊維フィラメント同士の接着性の観点からは、ガラス繊維用集束剤はガラス繊維束の外縁部から中心部へ向けて略均一の濃度で分布していることが好ましいが、例えば、外縁部の濃度が高く中心部の濃度が低い場合であってもガラス繊維フィラメントを保持可能であり実用上問題とならない。そのため、このような構成のガラス繊維束も本発明において採用可能である。
【0042】
本発明のガラス繊維束に用いられるガラス繊維フィラメントのフィラメント径は3〜23μmであることが好ましく、ガラス繊維束は上記ガラス繊維フィラメントが50〜1200本集束されてなるものであることが好ましい。ガラス繊維フィラメントのガラス組成としては、例えば、Eガラス、Sガラス、Cガラスが挙げられる。
【0043】
また、本発明のガラス繊維束において、ガラス繊維用集束剤の付着量は、ガラス繊維フィラメント100質量部に対して、0.2〜1.0質量部であることが好ましく、0.3〜0.7質量部であることがより好ましい。ガラス繊維用集束剤の付着量が0.2質量部未満では、十分な集束性が得られ難くなり、1.0質量部を超えると柔軟性や耐熱性が低下する傾向がある。
【0044】
本発明のガラス繊維用集束剤は、皮膜形成剤として(a)及び(b)成分を含むエポキシ樹脂を所定の範囲で含有するエポキシ樹脂系集束剤であることから、ガラス繊維用集束剤の付着量を上述の範囲とすることで、得られるガラス繊維束は耐熱性及び集束性に優れるものとなる。そして、上記ガラス繊維束を切断することで、毛羽立ちを十分に低減したガラス繊維チョップドストランドを得ることができる。
【0045】
本発明のガラス繊維束は、例えば、白金ノズル(ブッシング)から引き出されたガラス繊維フィラメントにローラー型アプリケーターやベルト型アプリケーター等を用いてガラス繊維用集束剤を塗布し、これを集束機で集束することによってガラス繊維フィラメントを束ね、次いで、これを室温〜150℃で乾燥し、水等の揮発成分を除去することにより製造することができる。なお、適宜、加撚を施してもよい。このような方法により得られるガラス繊維束は長繊維であるが、必要に応じて、これを1.5〜9mmに切断してガラス繊維チョップドストランドに加工してもよい。
【0046】
また、ガラス繊維束のガラス繊維フィラメントの断面形状は、マトリックス樹脂の種類や成形品の要求特性により適宜選定することができるが、扁平であることが好ましく、その場合、より機械的強度が向上した成形品を製造することができる。すなわち、断面形状が扁平なガラス繊維であることがより好ましい。
【0047】
断面が扁平であるガラス繊維フィラメントを使用する場合、扁平率が1.5〜10(更には1.8〜6)のものが好適である。ここで「扁平率」について、図1を用いて説明する。図1に示すように、扁平ガラス繊維フィラメントの長手方向に対して直行する横断面に外接する最小面積の長方形Rを想定する。この長方形Rの長辺Raの長さA(繊維断面の最長寸法に相当)を扁平ガラス繊維フィラメントの長径とする。一方、長方形の短辺Rbの長さBを扁平ガラス繊維フィラメントの短径とする。そして、「扁平率」は、長辺の長さと短辺の長さの比(A/B)で示される。
【0048】
扁平率が1.5未満であると、円形断面のガラス繊維フィラメントと形状に大きな差がないため、機械的強度の向上が不十分となり、扁平率が10を超えると、マトリックス樹脂中におけるかさ密度が高くなり、ガラス繊維フィラメントを均一に分散し難くなる。
【0049】
また、ガラス繊維フィラメントの断面の好適な短径は3〜20μmであり、好適な長径が6〜100μmである。短径が3μmより細いガラス繊維フィラメントや短径が20μmを超えるガラス繊維フィラメントを用いた場合、紡糸が困難であり、紡糸効率が低下する。特に、短径が20μmを超えるガラス繊維フィラメントを含有するペレットを射出成形した成形物は強度が低下することがある。また、長径が6μm未満の強化繊維や長径が100μmを越えるガラス繊維フィラメントは、紡糸が困難になり、紡糸効率が低下しやすい。特に長径が100μmを越えるものは、扁平化効率が悪く、ガラス繊維の剛性が高くなり、折れやすくなってしまうことから、毛羽立ちやすくなる。
【0050】
なお、「扁平」には非円形状のものも含まれ、例えば、断面が楕円形状、長径方向に直線部を有する長円形状、繭型形状などが含まれる。
【0051】
ガラス繊維束は、マトリックス樹脂と混合してガラス繊維強化樹脂を作製することができる。マトリックス樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、PBT樹脂及びPET樹脂を用いることができる。本発明においては、耐熱性の観点から、マトリックス樹脂として、溶融粘度が高い液晶ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。この場合、ガラス繊維束は優れた特性を発揮することができる。
【0052】
液晶ポリエステル樹脂としては、表1に示す構造単位を同表に示すモル比で含むポリマー(1−1〜1−8)及び表2に示す構造単位を有するポリマー(2−1〜2−8、繰返し数nも同表に併記)が挙げられる。なお、このようなポリマーについては、高分子大辞典(三田達 監訳、丸善株式会社)等を参照することができる。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
ガラス繊維強化液晶ポリエステル樹脂成形品は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、上記ガラス繊維チョップドストランドを150〜200質量部添加した組成物を成形することで製造することができる。なお、上記組成物には、低収縮剤、充填剤、増粘剤等の添加成分を更に添加してもよい。成形は、液晶ポリエステル樹脂と、ガラス繊維チョップドストランド及びその他添加物とを必要量秤取り、これらを混合した後に行ってもよく、また、押出成形機や射出成形機等を用いて連続的に混合を行い、例えば、金型中で加熱・加圧して成形してもよい。
【0056】
ガラス繊維強化液晶ポリエステル組成物は、公知の射出成形機のフィーダに投入して、加熱溶融させて所望の形状に射出成形することができる。射出成形機のフィーダには、ガラス繊維強化液晶ポリエステル組成物の他、当該組成物と同種又は異種の熱可塑性樹脂を添加することができ、その他成形品に所望の特性を付与するために、添加剤(帯電防止剤、離型剤等)を添加することもできる。
【0057】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
[ガラス繊維用集束剤の作製]
(実施例1)
エポキシ樹脂として、(a)成分であるジャパンエポキシレジン社製、商品名「エピコート#1010」(重量平均分子量:5500)のエポキシ樹脂と、(b)成分であるジャパンエポキシレジン社製、商品名「エピコート#828」(重量平均分子量:340)のエポキシ樹脂とを混合し調製したビスフェノールA型エポキシ樹脂(「エピコート#1010」:「エピコート#828」のエポキシ樹脂の質量比=95:5)9.8質量部、乳化剤として、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコールエーテル(以下、「乳化剤A」という)1.0質量部を用い、水を加えて、不揮発成分45質量%のエポキシ樹脂水系液を調製した。
【0060】
次いで、上記エポキシ樹脂水系液9.8質量部、pH調整剤としてギ酸0.2質量部、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(チッソ社製、商品名「S330」、不揮発成分60質量%)0.5質量部、潤滑剤としてTEPA/SA(テトラエチレンペンタミンとステアリン酸とのモル比:前者/後者=1/2、不揮発成分30質量%)0.2質量部、帯電防止剤としてアルキル第4級アンモニウムクロライド(第一工業製薬社製、商品名「カチオーゲン08」、不揮発成分50質量%)0.2質量部を混合して、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0061】
(実施例2)
「エピコート#1010」と「エピコート#828」とのエポキシ樹脂の質量比が90:10であるビスフェノールA型エポキシ樹脂9.8質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂水系液を調製し、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0062】
(実施例3)
「エピコート#1010」と「エピコート#828」とのエポキシ樹脂の質量比が80:20であるビスフェノールA型エポキシ樹脂9.8質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂水系液を調製し、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0063】
(実施例4)
「エピコート#1010」のエポキシ樹脂9.3質量部に対し、乳化剤A0.9質量部を用い、水を加えて、不揮発成分45質量%のエポキシ樹脂水系液(4a)を調製した。また、「エピコート#828」のエポキシ樹脂0.4質量部に対し、乳化剤としてポリエチレングリコールステアリルエステル(以下、「乳化剤B」という)0.1質量部を用い、水を加えて、不揮発成分60質量%のエポキシ樹脂水系液(4b)を調製した。次いで、エポキシ樹脂水系液(4a)9.3質量部、エポキシ樹脂水系液(4b)0.4質量部、ギ酸0.2質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5質量部、TEPA/SA0.2質量部、「カチオーゲン08」0.2質量部を混合して、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0064】
(実施例5)
「エピコート#1010」のエポキシ樹脂9.3質量部に対し、乳化剤A0.9質量部を用い、水を加えて、不揮発成分45質量%のエポキシ樹脂水系液(5a)を調製した。また、「エピコート#828」のエポキシ樹脂0.4質量部に対し、乳化剤A0.1質量部を用い、水を加えて、不揮発成分60質量%のエポキシ樹脂水系液(5b)を調製した。次いで、エポキシ樹脂水系液(5a)9.3質量部、エポキシ樹脂水系液(5b)0.4質量部、ギ酸0.2質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5質量部、TEPA/SA0.2質量部、「カチオーゲン08」0.2質量部を混合して、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0065】
(比較例1)
ジャパンエポキシレジン社製、商品名「エピコート#1001」(重量平均分子量:1050、)のエポキシ樹脂7.6質量部に対し、乳化剤として乳化剤A0.8質量部を用い、水を加えて、不揮発成分55質量%のエポキシ樹脂水系液(1c)を調製した。また、「エピコート#828」のエポキシ樹脂0.4質量部に対し、乳化剤として乳化剤A0.1質量部を用い、水を加えて、不揮発成分60質量%のエポキシ樹脂水系液(1b)を調製した。次いで、エポキシ樹脂水系液(1c)7.6質量部、エポキシ樹脂水系液(1b)0.4質量部、ギ酸0.2質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5質量部、TEPA/SA0.2質量部、「カチオーゲン08」0.2質量部を混合して、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0066】
(比較例2)
「エピコート#1010」のエポキシ樹脂9.8質量部に対し、乳化剤A1.0質量部を用い、水を加えて、不揮発成分45質量%のエポキシ樹脂水系液(2a)を調製した。次いで、エポキシ樹脂水系液(2a)9.8質量部、ギ酸0.2質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5質量部、TEPA/SA0.2質量部、「カチオーゲン08」0.2質量部を混合して、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0067】
(比較例3)
「エピコート#1010」のエポキシ樹脂5.9質量部に対し、乳化剤A0.6質量部を用い、水を加えて、不揮発成分45質量%のエポキシ樹脂水系液(3a)を調製した。また、「エピコート#828」のエポキシ樹脂2.9質量部に対し、乳化剤B0.4質量部を用い、水を加えて、不揮発成分60質量%のエポキシ樹脂水系液(3b)を調製した。次いで、エポキシ樹脂水系液(3a)5.9質量部、エポキシ樹脂水系液(3b)2.9質量部、ギ酸0.2質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5質量部、TEPA/SA0.2質量部、「カチオーゲン08」0.2質量部を混合して、ガラス繊維用集束剤を得た。
【0068】
実施例及び比較例で得られたガラス繊維用集束剤における各成分の配合量(質量部)を表3に示す。なお、表3において、ギ酸を除く各成分については、「不揮発成分(質量%)×各成分の質量部」が、ガラス繊維用集束剤100質量部における各成分の実質の含有量(質量部)に相当する。
【表3】

【0069】
<ガラス繊維束及びガラス繊維チョップドストランドの作製>
実施例1〜5及び比較例1〜3で得られたガラス繊維用集束剤のそれぞれを、ガラスフィラメント長径28μm、短径7μmの扁平断面を有するガラス繊維フィラメント600本からなるガラス繊維糸に塗布し、このガラス繊維糸6本を束ねて110℃で乾燥してガラス繊維束を得た。この場合において上記ガラス繊維束100質量部に対して、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分が0.45質量部付着するようにした。次いで、上記ガラス繊維束を長さ3mmに切断し、ガラス繊維チョップドストランドを作製した。
【0070】
<射出成形品の作製>
上述のようにして作製したガラス繊維チョップドストランド30質量%と、溶融温度340℃のI型液晶ポリエステル樹脂70質量%とを360℃で混練し、樹脂温度360℃、金型温度135℃の条件で射出成形し、成形品を作製した。
【0071】
[耐熱性の評価]
上記実施例及び比較例で得られたガラス繊維用集束剤を120℃で1時間乾燥し測定用サンプルを調製した。次に、上記サンプルを秤量しTGA装置にセットし、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で25℃から350℃まで昇温した。そして、350℃における重量を測定し、重量減少率を算出した。
【0072】
[集束性の評価]
ニーダーに上記ガラス繊維チョップドストランド1kgを投入し、2kgの錘を乗せて5分間混練し、発生した毛羽の量を測定した。発生した毛羽の量が少ないものほど、集束性に優れることを意味する。
【0073】
[成形品の評価]
上述のようにして作製した成形品の試験片を用い、引張り試験(ASTM D638に準拠)及びアイゾッド衝撃試験(ASTM D256に準拠)を実施し、成形品の強度を測定した。
【0074】
上記ガラス繊維用集束剤、ガラス繊維チョップドストランド及び成形品の評価結果を表4に示す。
【表4】

【0075】
表4の結果から、実施例1〜5で得られたガラス繊維用集束剤は、比較例1及び3で得られたガラス繊維用集束剤に比較し、集束剤の耐熱性に優れ、かつガラス繊維束の集束性にも優れていて、それに伴い成形品の強度も優れたものであることが確認された。一方、比較例1及び3のガラス繊維束は集束性に劣り、ガラス繊維チョップドストランドを作製した際、切断トラブルが多かった。また、比較例2のチョップドストランドは毛羽が多く発生したため、流動性に劣り、マトリックス樹脂と混練する際、投入不良が多発した。
【0076】
なお、実施例4及び5において、(a)及び(b)成分に相当するエポキシ樹脂の含有量が実施例1と同程度であるにもかかわらず、毛羽量が実施例1に比べ多くなっている。これは、実施例4及び5では(a)成分を含むエポキシ樹脂水溶液と(b)成分を含むエポキシ樹脂水溶液とを別々に調製し、これらをガラス繊維用集束剤の作製時に混合しているため、エマルジョン化の程度が実施例1と異なるためと考えられる。さらに、実施例4において、成形品の強度が実施例1及び5に比べ若干低いのは、乳化剤Bを含むためと考えられえる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】扁平ガラス繊維フィラメントの扁平率を説明するための図である。
【符号の説明】
【0078】
10…扁平ガラス繊維フィラメントの横断面、R…扁平ガラス繊維フィラメントに外接する長方形、Ra…長方形に長辺、Rb…長方形の短辺、A…長径、B…短径。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、シランカップリング剤と、水とを含有するガラス繊維用集束剤であって、
前記エポキシ樹脂の含有割合は、ガラス繊維用集束剤の不揮発成分の全質量を基準として、80〜95質量%であり、
前記エポキシ樹脂は、
(a)成分:重量平均分子量2500〜20000のビスフェノールA型又はF型エポキシ樹脂
(b)成分:重量平均分子量700以下のビスフェノールA型又はF型エポキシ樹脂
を含んでおり、(a)成分100質量部に対する(b)成分の含有量は3〜30質量部である、ガラス繊維用集束剤。
【請求項2】
乳化剤を更に含有する、請求項1記載のガラス繊維用集束剤。
【請求項3】
350℃での重量減少率が20質量%以下である、請求項1又は2記載のガラス繊維用集束剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス繊維用集束剤により、ガラス繊維フィラメントが複数本集束されてなるガラス繊維束。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス繊維用集束剤が、前記ガラス繊維フィラメント100質量部に対して、不揮発成分として0.2〜1.0質量部付着している、請求項4記載のガラス繊維束。
【請求項6】
前記ガラス繊維フィラメントは、断面が扁平率1.5〜10の扁平断面を有する、請求項4又は5記載のガラス繊維束。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載のガラス繊維束を切断してなる、ガラス繊維チョップドストランド。
【請求項8】
請求項7記載のガラス繊維チョップドストランドと、液晶ポリエステル樹脂とを含むガラス繊維強化液晶ポリエステル樹脂組成物を射出成形する、ガラス繊維強化液晶ポリエステル樹脂成形品の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−91176(P2009−91176A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261312(P2007−261312)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】