説明

エポキシ樹脂粉体塗料及びその製造方法

【課題】 エポキシ樹脂粉体塗料の基本特性を維持しつつ、靭性を付与することにより優れた硬化後の塗膜割れ防止効果が得られるエポキシ樹脂粉体塗料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料であり、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有する原材料混合物を溶融混練後、これを粉砕してエポキシ樹脂粉体塗料を得ることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂粉体塗料は、電気的特性、機械的特性、熱的特性に優れており、従来の溶剤型塗料と比較して、塗料中に溶剤を含有しないため、低公害で作業環境性にも優れたものであること、塗装直後でも使用できること、多層の重ね塗りが可能で塗膜厚みを厚くできること、比較的安価であること、塗装時に余過剰分の塗料が回収利用できることなどの利点から、電子部品、OA機器、家電製品、建材、自動車部品等の絶縁保護装飾用塗料として、広く使用されている。
【0003】
しかしながら、車載モーター等のスロット絶縁の目的で塗装した場合、コイル巻線時の銅線の喰い込みによりエッジ部の塗膜割れが発生し、耐圧不良を引き起こすという不具合がある。塗膜割れを防ぐ方法としてはエラストマーを粉体塗料に配合し、塗膜の靭性を向上させる方法等がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−329955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料の基本特性を維持しつつ、靭性を付与することにより優れた硬化後の塗膜割れ防止効果が得られるエポキシ樹脂粉体塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(6)により達成される。
(1)エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
(2)前記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)の含有量が、前記粉体塗料全体に対して3〜15重量%である(1)に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
(3)前記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)が、スチレン、ブタジエン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれる1種以上である(1)または(2)に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
(4)エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有する原材料混合物を溶融混練後、これを粉砕してエポキシ樹脂粉体塗料を得ることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法。
の製造方法。
(5)前記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)の含有量が、前記粉体塗料全体に対して3〜15重量%である(4)に記載のエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法。
(6)前記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)が、スチレン、ブタジエン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれる1種以上である(4)または(5)に記載のエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エポキシ樹脂粉体塗料の基本特性を維持しつつ、靭性を付与することにより優れた硬化後の塗膜割れ防止効果が得られるエポキシ樹脂粉体塗料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の粉体塗料は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有することを特徴とする。
以下、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料(以下、単に「粉体塗料」ということがある)について詳細に説明する。
【0009】
本発明の粉体塗料に用いられるエポキシ樹脂(A)としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などを用いることができ、これらを単独または混合して用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、塗膜が機械的特性、電気的特性に優れたものになり好ましい。また、これらのエポキシ樹脂の分子量やエポキシ当量なども特に限定されず、粉体塗料の配合や要求される性状に合わせて適宜選択すればよい。
一例を挙げると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、エポキシ当量が450〜2000であるのものを用いると、粉体塗料の塗装性が優れたものになり好ましい。
【0010】
エポキシ樹脂(A)の含有量についても特に限定されないが、後述する硬化剤(B)、及び、無機充填材(C)との合計量に対して25〜55重量%であることが好ましく、さらに好ましくは35〜50重量%である。エポキシ樹脂(A)をかかる範囲の含有量とすることで、粉体塗料の塗装性、即ち塗膜の平滑性や塗装後の硬化工程である焼成時に外観を良好なものにできる。
【0011】
本発明の粉体塗料に用いられる硬化剤(B)としては特に限定されず、一般にエポキシ樹脂用の硬化剤として用いられている公知のものが使用できる。例えば、ジシアンジアミド、アジピン酸、イミダゾール化合物、アミン系硬化剤、芳香族系酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、ジシアンジアミドやイミダゾール化合物、酸無水物を用いると、硬化性、密着性、耐熱性等が優れ好ましい。なお、硬化剤(B)の含有量についても特に限定されず、用いるエポキシ樹脂の種類、硬化剤の種類などを考慮して適宜設定すればよい。
【0012】
本発明の粉体塗料に用いられる無機充填材(C)としては特に限定されないが、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、タルク等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
無機充填材(C)の含有量についても特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、及び、無機充填材(C)の合計量に対して35〜65重量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜55重量%である。無機充填材(C)をかかる範囲の配合量とすることで、粉体塗料の塗装性を良好なものにできる。配合量が上記下限値よりも少ないと焼成時にタレやトガリといった外観上の不具合を起こすことがあり、一方、上記上限値よりも多いと塗膜の平滑性が低下することがある。
また、無機充填材(C)の粒径は特に限定されないが、通常、平均粒径として2〜30μmのものが用いられる。かかる平均粒径を有する無機充填材を用いることにより、粉体塗料に良好な流動性と塗膜の強度を付与することができる。
【0013】
本発明の粉体塗料は、熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有することを特徴とする。
上記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有することで、硬化後の塗膜の靭性向上と機械的特性の維持を両立させることができる。特に、靭性を向上させることで、巻線等による塗膜エッジ部の塗膜割れを防止することができ、巻線後の耐圧性を良好なものにすることができる。
【0014】
熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)の含有量は、粉体塗料全体に対して3〜15重量%であることが好ましく、さらに好ましくは5〜10重量%である。これにより、硬化後の塗膜の靭性、耐電圧性、耐熱性、機械的特性等を良好なものとすることができる。
【0015】
また、上記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)が、ブタジエン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれる1種以上であることが好ましい。更に好ましくは熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)の配列がスチレン、ブタジエン、メタクリル酸エステルである三元ブッロク共重合体あるいはメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルである三元ブロック共重合体である。これらの熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を選択することにより、耐熱性と塗膜の強靭性の向上を両立させることができる。
【0016】
なお、本発明の粉体塗料には上記配合物のほかにも、本発明の目的を損なわない範囲内で酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料、レベリング剤、硬化促進剤等を配合してもよい。
【0017】
次に本発明のエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある)について説明する。
本発明の製造方法は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有する原材料混合物を溶融混練後、これを粉砕してエポキシ樹脂粉体塗料を得ることを特徴とする。上記原材料混合物を溶融混錬後、粉砕するにより、粉体塗料中における各成分の均一分散性を高めることができる。
【0018】
本発明の製造方法において、上記原材料混合物を溶融混練して粉砕する方法を具体的に示すと、例えば、上記原材料混合物を、エクストルーダー等の溶融混練装置により80〜120℃で溶融混合し、冷却後ハンマーミル等で粗砕する。これを、粉砕装置を用いて適当な粒度に粉砕した後、分級することができる。
【0019】
本発明の製造方法においては、上記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)の含有量が、上記粉体塗料全体に対して3〜15重量%であることが好ましく、さらに好ましくは5〜10重量%である。これにより、硬化後の塗膜の靭性、耐電圧性、耐熱性、機械的特性等を良好なものとすることができる。
【0020】
本発明の製造方法においては、上記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)が、スチレン、ブタジエン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれる1種以上であることが好ましい。
これらの熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を選択することにより、耐熱性と塗膜の強靭性の向上を両立させることができる。
【0021】
また、本発明の粉体塗料については、粉体の流動性向上のため、シリカなどの微粉末で粉体塗料粒子の表面を被覆することもできる。このような処理を行なう方法としては、粉砕時に微粉末を添加しながら混合する粉砕混合やヘンシェルミキサー等による乾式混合を用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0023】
<実施例1>
エポキシ樹脂40重量部、硬化剤2.9重量部、硬化促進剤0.1重量部、無機充填材として炭酸カルシウム57重量部、熱可塑性樹脂ブロック共重合体A3重量部をヘンシェルミキサーにより20分間混合して、原材料混合物を調製した。これを、エクストルーダーを用いて混練後、粉砕装置にて粉砕して粉体塗料を得た。
【0024】
<実施例2>
熱可塑性樹脂ブロック共重合体Aを5重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0025】
<実施例3>
熱可塑性樹脂ブロック共重合体Aを8重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0026】
<実施例4>
熱可塑性樹脂ブロック共重合体Aを10重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0027】
<実施例5>
熱可塑性樹脂ブロック共重合体Aを15重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0028】
<実施例6>
熱可塑性樹脂ブロック共重合体Aを18重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0029】
<実施例7>
熱可塑性樹脂ブロック共重合体Aの代わりに熱可塑性樹脂ブロック共重合体Bを用いた以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0030】
<実施例8>
熱可塑性樹脂ブロック共重合体Aの代わりに熱可塑性樹脂ブロック共重合体Bを用いた以外は、実施例2と同様にして粉体塗料を得た。
【0031】
<実施例9>
熱可塑性樹脂ブロック共重合体Aの代わりに熱可塑性樹脂ブロック共重合体Bを用いた以外は、実施例3と同様にして粉体塗料を得た。
【0032】
<比較例>
熱可塑性樹脂ブロック共重合体を用いず、エポキシ樹脂40重量部、硬化剤2.9重量部、硬化促進剤0.1重量部、無機充填材として炭酸カルシウム57重量部をヘンシェルミキサーにより20分間混合して、原材料混合物を調製した。これを、エクストルーダーを用いて混練後、粉砕装置にて粉砕して平均粒子径20〜50μmの粉体塗料を得た。
【0033】
実施例及び比較例の粉体塗料について、その配合を表1に示す。なお、表1に記載されている原材料の配合量は「重量部」を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
1.使用原材料
(1)エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製・エピコート1055、エポキシ当量850)
(2)硬化剤:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
(3)硬化促進剤:2−フェニルイミダゾール
(4)無機充填材:炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製・タンカルN−35、平均粒径22μm)
(5)熱可塑性樹脂ブロック共重合体A:NANOSTREMGTH E40(アルケマ社製・スチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体)
(6)熱可塑性樹脂ブロック共重合体B:NANOSTREMGTH M22(アルケマ社製・メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体)
【0036】
2.評価
(1)曲げ強度・弾性率の測定
所定温度、所定時間でプレス焼成したプレス板(厚さ2mm)を幅10mm、長さ100mmに切り出す。切り出した試験片を用いてJIS K 7171に準拠して測定した。
【0037】
(2)耐熱性
鋼板(1.6×70×100mm)に塗膜の厚さが平坦部で約250μmとなるように静電塗装装置により塗装した。これを300kHzの高周波により、120秒間で230℃まで加熱して硬化した。この塗装物を240℃の乾燥機中に放置して塗膜が割れるまでの時間を測定した。
上記評価の結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例1〜8は、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、及び、熱可塑性樹脂ブロック共重合体を含有する本発明の粉体塗料であり、熱可塑性樹脂ブロック共重合体を含有しない比較例に比較していずれも曲げ強度、耐熱性等の基本特性は同等であったが、曲げ弾性率が低くなっており塗膜に靭性が付与されていることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)の含有量が、前記粉体塗料全体に対して3〜15重量%である請求項1に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)が、スチレン、ブタジエン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれる1種以上である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項4】
エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)を含有する原材料混合物を溶融混練後、これを粉砕してエポキシ樹脂粉体塗料を得ることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法。
の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)の含有量が、前記粉体塗料全体に対して3〜15重量%である請求項4に記載のエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂ブロック共重合体(D)が、スチレン、ブタジエン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの中から選ばれる1種以上である請求項4または5に記載のエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法。