説明

エマルジョンを利用した核酸増幅方法、及び核酸増幅反応用キット

【課題】 鋳型核酸の効率的且つ高速な増幅が可能で、蛋白質(表現型)と遺伝子型が、容易に対応させられる方法を提供する。
【解決手段】 親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を使用して作製した、油中水型エマルジョン内のビーズ上で核酸増幅反応を行う。次に、無細胞合成したtag付き蛋白質をビーズに結合させることにより、上記対応、選別を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエマルジョンを利用した核酸増幅方法及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多様性を持つ集団から目的の機能を有する蛋白質を選択する技術の開発が盛んに行われている。これらの選択技術は、in vitroで行うものとin vivoで行うもの(例、DNAライブラリーを大腸菌に形質転換し、寒天培地上で選択を行うもの)に大別されているが、in vitroにおける選択技術では、蛋白質の発現に際して無細胞蛋白質合成系を利用するものも多数報告されている。この場合、発現された蛋白質(表現型)とその遺伝子型とを対応づけることが重要である。
1998年、Griffithsらのグループは油中水型(water-in-oil (w/o))エマルジョンを人工的な細胞と位置付け、コンパートメント化する技術を開発した(非特許文献1)。これをIVC (in vitro compartmentalization)法という。DNAが一分子ずつ封入されたエマルジョン内で無細胞蛋白質合成を行うことで、合成反応後にエマルジョン内に一種類の表現型とそれに対応する遺伝子型を共存させるという手法である。さらに2002年、同グループはIVC法を用いたビーズディスプレイ法を構築した(非特許文献2)。標的蛋白質を末端にtagを有する融合蛋白質として発現するよう鋳型DNAを作成し、1ビーズ上に1鋳型DNA分子を固定した状態でエマルジョン内で無細胞蛋白質合成を行い、合成させたtag付蛋白質をあらかじめ同一ビーズ上に固定させておいた抗tag抗体に結合させることによって、ビーズを介して蛋白質(表現型)と遺伝子型を対応させることができる。このビーズ上にディスプレイされたライブラリーはFACSを用いて選別を行うことができる。
尚、関連する技術が以下の文献に開示されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特表2004−533833号公報
【特許文献2】特開2003−153692号公報
【非特許文献1】Tawfik, D., S. and Griffiths, A., D.(1998) Man-made cell-like compartments for molecule evolution. Nature Biotechnol.,16,652-656
【非特許文献2】Sepp, A., Tawfik, D., S and Griffiths, A., D.(2002) Microbead display by in vitro compartmentalisation: selection for binding using flow cytometry. FEBS Lett., 532,455-458
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、核酸増幅反応の場としてエマルジョンが利用されるに至っている。エマルジョン内において核酸増幅反応を行えば、微少な系において複数個の鋳型核酸から同時に増幅反応が進行することから、鋳型核酸の効率的且つ高速な増幅が可能となる。
上記報告では、核酸増幅反応用のエマルジョンを作製するための界面活性剤としてSpan80、Tween80、Triton X-100を用いている。そこで、この報告に倣い同様の油相組成を用いてエマルジョンを作製し、核酸増幅反応としてのPCRを実施した。その結果、PCRの前後でエマルジョンの一部が破壊され、油相と水相に分離しまう現象が観察された。これは、PCRの激しい熱変化のためにエマルジョンの形態を維持できなくなったものと推定される。このように、従来使用されている界面活性剤を使用した場合には、エマルジョンの強度に問題のあることが明らかとなった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは熱安定性に優れたエマルジョンを得るべく種々の界面活性剤を用いてエマルジョンを作製し、その熱安定性を比較した。その結果、エマルジョンの熱安定は界面活性剤のHLB値によって大きく異なり、低HLB値を有する非イオン性界面活性剤を用いれば非常に熱安定性に優れたエマルジョンを作製できることが明らかとなった。また、ポリグリセリン酸脂肪酸エステルの一つである縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルを用いて作製したエマルジョンはPCR後においてもほぼ完全な状態を維持していることが確認されたことから、低HLB値のポリグリセリン酸脂肪酸エステルを用いることが熱安定性に優れたエマルジョンの作製に特に有効であると考えられた。ここで、熱安定性に優れたエマルジョンを用いれば、PCR法などの高温処理を伴う核酸増幅反応の間、エマルジョンの各コンパートメント(ミセル)を維持することができ、コンパートメント内での期待される核酸増幅が進行し、またコンパートメント間でコンタミネーションが起こることを防止できる。従って、各コンパーメント内で効率的かつ独立した核酸増幅が行われる。これによって、例えば各コンパーメント内に鋳型核酸が一分子含まれるように条件設定すれば、各コンパーメント内において鋳型一分子に由来する核酸分子を大量に得ることが可能となる。従って、特定の活性を有する核酸を選択する(又はそのような核酸が含まれたコンパーメントを選択する)際の検出感度が向上する。また、核酸増幅反応に続いて転写反応、又は転写及び翻訳反応を実施し、転写産物又は翻訳産物を検出対象とする場合においても、転写反応における鋳型核酸の分子数が多くなるから、同様に高感度での検出が可能となる。
また、長時間の熱変化にも安定なエマルジョンが使用できることは、核酸増幅反応のサーマルサイクルの設定時に高い自由度を与えることを意味し、その意義は大きい。
一方、熱安定性に優れたエマルジョンを使用することは、PCR法などの高温処理を伴う核酸増幅反応を実施する系において特に有効であるが、PCRほどの高温処理を伴わない核酸増幅反応を実施する系においても、(1)一層安定した状態のエマルジョン内で反応を行えると考えられること、(2)核酸増幅反応の前後で熱処理(例えば酵素反応の停止)が必要な場合にエマルジョン状態のままで熱処理を実施できること、(3)核酸増幅反応中に誤って高温状態になってもエマルジョン状態を維持できること等を考慮すれば、有効に作用すると考えられる。
【0006】
本発明は以上の成果に少なくとも部分的に基づくものであって、以下の構成を提供する。
即ち、本発明は以下のステップを含む核酸増幅方法を提供する。
(1)複数個の鋳型核酸、該鋳型核酸の一部領域にハイブリダイズするプライマー、及び核酸増幅反応用試薬を含む水性成分を用意するステップ、
(2)前記水性成分、油性成分、及び親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を混合して油中水型エマルジョンを調製するステップ、及び
(3)エマルジョン内で核酸増幅反応を実施するステップ。
【0007】
本発明の好ましい一態様では、親水親油バランス(HLB)値が2.5以下の非イオン性界面活性剤を使用してエマルジョン化が行われる。また、本発明の一態様では、非イオン性界面活性剤としてポリグリセリン酸脂肪酸エステルが使用される。中でも縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルを使用することが好ましい。特に好ましくは、親水親油バランス(HLB)値が約2.2である縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルを使用する。
【0008】
ステップ3における増幅反応として、PCR法若しくはその変法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、3SR(Self-sustained Sequence Replication)法、SDA(Standard Displacement Amplification)法、TMA(Transcription Mediated Amplification)法、又はRCA(Rolling Circle Amplification)を採用することができる。中でも、PCR法による増幅反応を利用することが好ましい。
【0009】
本発明の一態様では、プライマーとしてPCR用の第1プライマー及び第2プライマーが使用される。また、第2プライマーが結合した複数の固相担体が使用される。そして、ステップ2において、エマルジョン1個あたり平均1個以上の固相担体と平均1分子以下の鋳型核酸とが含まれるようにエマルジョン化する。この態様では、複数種類の核酸の集合を鋳型核酸として用いることが好ましい。複数種類の増幅産物を同時に得ることが可能となるからである。また、第2プライマーの一部を遊離状態で使用することが好ましい。遊離状態の第2プライマーによって、PCRの最初の数サイクルで鋳型核酸を効率的に増幅することができ、結果として多数の鋳型核酸分子を用いて固相PCR(固相担体上のプライマーを使用したPCR)を行うことができるからである。
【0010】
本発明の他の一態様では、プライマーとしてPCR用の第1プライマー及び複数種類の第2プライマーが使用され、第2プライマーは種類毎に特定の固相担体に結合した状態となっている(一つの固相担体には一種類のプライマーが結合している)。そしてステップ2において、エマルジョン1個あたり平均1個以下の前記固相担体が含まれるようにエマルジョン化する。この態様では、単一種類の核酸の集合を鋳型核酸として用いることが好ましい。
【0011】
本発明の更なる一態様では、プライマーとしてPCR用の複数種類のプライマーセットが使用され、プライマーセットは種類毎に特定の固相担体に結合した状態となっている(一つの固相担体には一種類のプライマーセットが結合している)。そしてステップ2において、エマルジョン1個あたり平均1個以下の前記固相担体が含まれるようにエマルジョン化する。さらに前記ステップ3に先行して、(2-1)前記固相担体から前記プライマーセットを遊離させるステップを実施する。この態様では、単一種類の核酸の集合を鋳型核酸として用いることが好ましい。
【0012】
本発明の核酸増幅方法では、ビーズ状の固相担体を使用することが好ましい。特に磁性ビーズを固相担体として使用することが好ましい。
【0013】
本発明は更に、以下のステップを含む、所望の活性を有する核酸の選択方法を提供する。
(i)複数種類の鋳型核酸の集合、該鋳型核酸の一部領域にハイブリダイズするPCR用の第1プライマー及び第2プライマー、及びPCR用試薬を含む水性成分を用意するステップであって、前記第2プライマーが結合した複数の固相担体が使用されるステップ、
(ii)前記水性成分、油性成分、及び親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を混合して油中水型エマルジョンを調製するステップであって、エマルジョン1個あたり平均1個以上の前記固相担体と平均1分子以下の前記鋳型核酸とが含まれるようにエマルジョン化するステップ、
(iii)各エマルジョン内でPCR反応を実施するステップ、
(iv)前記エマルジョンを破壊し、エマルジョン内の前記固相担体をまとめて回収するステップ、及び
(v)回収した固相担体の集合から、所望の活性を有する核酸分子が結合した固相担体を選択するステップ。
本発明の一態様では、ステップvの後に、(vi)選択された固相担体に結合した核酸分子を同定するステップを実施する。
【0014】
本発明の一態様では、ステップvが以下のステップa1〜a4を含むことを特徴とする。
(a1)回収した複数の固相担体を、各区画に平均1個以下の固相担体が含まれるように区画化するステップ、
(a2)各区画内で無細胞転写反応を進行させるステップ、
(a3)所望の活性を有するmRNAを発現する区画を特定するステップ、及び
(a4)特定された区画に含まれる固相担体を選択するステップ。
本発明の他の態様では、ステップvが以下のステップb1〜b4を含むことを特徴とする。
(b1)回収した固相担体の集合を、各区画に平均1個以下の固相担体が含まれるように区画化するステップ、
(b2)各区画内で無細胞転写/翻訳反応を進行させるステップ、
(b3)所望の活性を有するペプチドないし蛋白質を発現する区画を特定するステップ、及び
(b4)特定された区画に含まれる固相担体を選択するステップ。
【0015】
本発明の更なる一態様の核酸選択方法では、第1結合成分をコードする領域を有する鋳型核酸が使用される。また、当該第1結合成分に特異的結合性を有する第2結合成分を含む第1プライマーが使用される。そして、ステップvが以下のステップc1〜c4を含むことを特徴とする。
(c1)回収した固相担体の集合を、各区画に平均1個以下の固相担体が含まれるように区画化するステップ、
(c2)各区画内で無細胞転写/翻訳反応を進行させるステップ、
(c3)各区画内の固相担体をまとめて回収するステップ、及び
(c4)所望の活性を有するペプチドないし蛋白質が結合した固相担体を選択するステップ。
ステップc1における区画化は例えばエマルジョン化である。
【0016】
本発明は更に、核酸増幅反応に使用される油中水型エマルジョンを提供する。本発明のエマルジョンは、界面活性剤として親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤が使用されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の更なる一態様の油中水型エマルジョンは以下の手順で作製されることを特徴とする。
(1)複数個の鋳型核酸、該鋳型核酸の一部領域にハイブリダイズするプライマー、及び核酸増幅反応用試薬を含む水性成分を用意するステップ、
(2)前記水性成分、油性成分、及び親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を混合するステップ。
【0018】
本発明は更に核酸増幅反応用キットを提供する。本発明のキットは、油中水型エマルジョン作製用の界面活性剤として親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする。本発明のキットは好適にはPCR反応用として提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第1の局面は核酸増幅反応に関する。本発明の核酸増幅反応は、次のステップを実施することを特徴とする。
(1)複数個の鋳型核酸、該鋳型核酸の一部領域にハイブリダイズするプライマー、及び核酸増幅反応用試薬を含む水性成分を用意するステップ、
(2)前記水性成分、油性成分、及び親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を混合して油中水型エマルジョンを調製するステップ、
(3)各エマルジョン内で核酸増幅反応を実施するステップ。
【0020】
ステップ1において使用される用語「鋳型核酸」は、DNA(cDNA及びゲノムDNAを含む)、RNA(mRNAを含む)、DNA類似体、及びRNA類似体を含む。鋳型核酸の形態は限定されず、即ち1本鎖及び2本鎖のいずれであってもよい。好ましくは2本鎖DNAが鋳型核酸として使用される。本発明では複数個の鋳型核酸が使用される。後述のように実施形態に応じて、単一種類の核酸の集合、又は複数種類の核酸の集合が「複数個の鋳型核酸」として用いられる。単一種類の核酸の集合としては例えば、ある細胞から抽出されたゲノムDNAの集合を用いることができる。他方、複数種類の核酸としては、市販の又は常法で調製した各種cDNAライブラリーを好適に用いることができる。
プライマーは、鋳型核酸を増幅する際の開始領域を提供する。複数種類の核酸分子の集合から鋳型核酸が構成されている場合には、少なくとも一種類の鋳型核酸を合成可能なように、一種類以上の鋳型核酸の一部領域に対してハイブリダイズ可能なプライマーを設計する。
【0021】
プライマーの一部が固相担体に結合した状態で使用されることが好ましい。換言すれば、プライマーの一部を予め固相化しておくことが好ましい。かかる態様では固相化されたプライマーを介して固相担体に結合した状態で増幅産物を得ることができる。従って、増幅産物を回収するためには、固相担体を回収すればよいことになる。例えば磁性ビーズに固相化させたプライマーを使用すれば、磁力によって増幅産物を回収することができ、回収操作や精製操作が簡便化される。
【0022】
本発明においてプライマーの固相化は、ビオチンとアビジンとの結合を利用した方法、ペプチド結合を利用した方法等を利用して行うことができる。例えば、固相担体の表面をストレプトアビジンで被覆し、他方でプライマーをビオチン化しておく。そして両者を接触させることによって、固相化されたプライマーを得る。ビオチンとアビジンとの結合を利用してプライマーを固相化すれば、特異的且つ十分な結合力による固相下が可能なばかりか、加熱処理という簡便な手段によってプライマーを固相担体から遊離させることができる。従って、本発明の増幅反応後にプライマーを介して固相担体に増幅産物が結合している場合において、増幅産物の回収を加熱処理によって行うことができる。このように簡便な回収操作を実現できる。一方、増幅反応前にプライマー(又はプライマーセット)を固相担体から遊離させる場合においても同様に、簡便な操作で目的を達成することができる。
【0023】
プライマーの固相化に使用する担体は微少なビーズ状であることが好ましい。エマルジョン内への効率的な取り込み、及び高い操作性が得られるからである。担体の材料は特に限定されない。例えば、ガラス、ポリスチレン、アクリルアミドゲル、磁性材料等を用いて固相担体を構成することができる。磁性ビーズからなる担体を採用することが特に好ましい。磁性ビーズを用いれば、磁石を利用して容易に固相担体(及びそれに結合した増幅産物など)を回収することができる。また、固相担体及びそれに結合した増幅産物を簡便な手段で洗浄することが可能である。このように、通常の核酸増幅反応後に必要とされる煩雑な精製操作(ゲル電気泳動、有機溶媒抽出、遠心処理、カラムクロマトグラフィーなど)を省略することができる。
尚、固相化に関してAdessi, C., Matton, G., Kawashima, E. (2000) Solid phase DNA amplification: characterisation of primer attachment and amplification mechanisms.Nucleic Acids Res., 28, e87、及びMitra, R., D. and Church, G., M.(1999)In situ localized amplification and contact replication of many individual DNA molecules.Nucleic Acids Res., 27, e34などを参照することができる。
ビーズ状の固相担体を用いる場合の大きさは特に限定されないが、例えば粒径が1μm〜20μm、好ましくは2μm〜10μmの微少ビーズを採用する。
【0024】
本発明の一態様では、鋳型核酸の特定領域をPCR反応で増幅可能な一対のプライマーセット(以下、便宜上「第1プライマーと第2プライマー」と称する)が用いられる。この態様において片方のプライマー(第2プライマー)を固相化しておけば、第2プライマーを介して固相担体に結合した状態で増幅産物を得ることができる。
一方、鋳型核酸として核酸ライブラリー(例えばcDNAライブラリー)を採用し、上記のように固相化されたプライマーを用いれば、核酸ライブラリーが固相ライブラリー(例えばビーズライブラリー)に変換される。即ち、ベクターへの結合や微生物の形質転換といった煩雑な操作を経ることなく、鋳型核酸をクローニングできる。さらに、磁性ビーズなど、回収が容易な固相担体を採用すれば、クローニングされた鋳型核酸を簡便に回収することができ、併せて精製(洗浄など)も容易となる。従って、通常の核酸増幅反応(典型的にはPCR)後に要求される増幅産物の精製、即ちゲル電気泳動、有機溶媒抽出、遠心処理、カラムクロマトグラフィーなどの煩雑な操作を省略することができる。
【0025】
採用する核酸増幅反応に合わせて適当な核酸増幅反応用試薬を使用する。例えば、核酸増幅反応としてPCRを採用する場合には、PCRを構成する各反応に必要な試薬、即ちdNTP及びポリメラーゼ(Taqポリメラーゼ、Pfuポリメラーゼなど)が用いられる。これらの試薬は市販されており、容易に入手可能である。
【0026】
鋳型核酸、プライマー、及び核酸増幅反応用試薬を含む水相成分は、核酸増幅反応に適した溶液として調製される。例えば、PCR反応が良好に進行するように、トリス−塩酸等のバッファーを用いて、pH7.0〜pH9.0程度の溶液とする。
【0027】
ステップ2では、上記のように調製した水性成分に、油性成分、及び親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を混合して油中水型エマルジョンを調製する。これによって、複数個の鋳型核酸が複数のエマルジョン(逆ミセル)によって区画化される。即ち、鋳型核酸を内包する複数のエマルジョン(逆ミセル)が得られる。
エマルジョンの調製には、攪拌処理(磁気攪拌子、プロペラ式などの使用)、ホモジナイズ(ホモジナイザー、乳鉢などの使用)、超音波処理(ソニケーターなどの使用)などを利用できる。
エマルジョンの大きさは特に限定されないが、平均粒径が例えば1μm〜100μm、好ましくは5μm〜50μm、更に好ましくは10μm〜30μmのエマルジョンを形成するとよい。例えば、平均粒径を15μmとすれば20μl中に1.13×107個のエマルジョンミセルが存在することになる。エマルジョン全体の体積(総量)、及び反応系全体の体積(エマルジョンと油相の総量)は必要に応じて適宜設定できる。例えば、前者を1μL〜10L、好ましくは5μL〜1Lとし、後者を1μL〜20L、好ましくは10μl〜5Lとすることができる。
【0028】
油性成分としては通常、ミネラルオイル(鉱物油)が使用される。
本発明者らの検討したところ、界面活性剤の親水親油バランス(HLB)値と、得られるエマルジョンの熱安定性との間に相関が認められ、HLB値の低い界面活性剤を採用することがエマルジョンの熱安定性の向上に有利に働くことが明かとなった。この知見より、本発明では親水親油バランス(HLB)値が低い非イオン性界面活性剤が使用される。具体的にはHLB値が4以下の非イオン性界面活性剤が使用される。好ましくはHBL値が2.5以下の非イオン性界面活性剤が使用される。例えば、以上の条件を満たすポリグリセリン酸脂肪酸エステルを非イオン性界面活性剤として使用することができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの中でも縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルを使用することが好ましい。後述の実施例に示すように、HLB値が約2.2の縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルを使用することによって極めて熱安定性に優れたエマルジョンの作製に成功した。縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルは、ポリグリセリンと縮合リノシレイン酸との間でエステル化することによって得ることができる。縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルの構造式を示す。尚、説明の便宜上、単純化した構造式を示す。
【化1】

ポリグリセンと縮合リノシレイン酸をエステル化して製造される縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルを用いることが特に好ましい。いくつかの縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルが市販されており、例えば太陽化学株式会社(四日市市、日本)が提供するサンソフトNo.818SK(カタログ番号)を好適に使用することができる。
2種類以上の界面活性剤を使用してエマルジョン化を行ってもよい。この場合、少なくとも一つは親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を使用する。
【0029】
本発明の一態様では、ステップ1におけるプライマーとして、PCR用の第1プライマーと、固相化第2プライマー(第2プライマーが結合した複数の固相担体)を使用する。そしてステップ2において、エマルジョン1個あたり平均1個以上の固相担体(第2プライマーが結合した固相担体)と平均1分子の鋳型核酸が含まれるようにエマルジョン化する。これによって、各エマルジョン内において理論上、鋳型核酸1分子からの核酸増幅反応が進行し、各エマルジョン内に含まれる増幅産物が実質的に同一分子の集合となる。即ち、各エマルジョン内において、実質的に同一分子の集合からなる増幅産物を固相担体に結合した状態で得ることが可能となる。ここで、複数種類の集合からなる鋳型核酸を用いれば、複数のエマルジョン内においてそれぞれ、他のエマルジョン内に含まれる鋳型核酸とは種類の異なる鋳型核酸より増幅が生じ、その結果、内包する増幅産物の種類が異なる複数のエマルジョンが得られる。これらのエマルジョンを破壊し、その中の固相担体をまとめて回収すれば、固相担体毎に特定の増幅産物が結合した固相担体の集合(固相化核酸ライブラリー)が得られる。
尚、上記のように、エマルジョン1個あたりに平均1分子の鋳型核酸が含まれる条件下でエマルジョン化することが好ましいが、エマルジョン1個あたり平均して1分子よりも少ない数(例えば平均0.3〜0.9分子、好ましくは平均0.5〜0.9分子)の鋳型核酸が含まれる条件を採用することもできる。この場合、理論的にはエマルジョンの中のいくつかは鋳型核酸を内包しないことになる。しかし、1分子の鋳型核酸を内包する複数のエマルジョンが存在する限りこれらのエマルジョン内において上記同様の反応が進行し、特定の増幅産物が結合した固相担体の集合(固相化核酸ライブラリー)を得ることが可能である。一方、このような条件設定とすれば、2分子以上の鋳型核酸を内包するエマルジョンが形成されてしまう確率を低下させることができるという利点がある。
【0030】
ここで、各エマルジョンに含まれる鋳型核酸の数に関し、理論的には以下の関係が成り立つ。
(1)鋳型核酸の数=エマルジョン1個に含まれる鋳型核酸の数×エマルジョンの数
(2)エマルジョンの数=水性成分の体積/エマルジョン1個の体積
従って、エマルジョン1個あたり平均1分子の鋳型核酸が含まれるようにするには、
(3)鋳型核酸の数=水性成分の体積/エマルジョン1個の体積
となるように、使用する鋳型核酸の数を調整すればよい。
尚、エマルジョン1個の体積はエマルジョンの平均粒径を基に算出できる。図9にエマルジョンの粒径、エマルジョンの総数、及び鋳型核酸の数の関係について例示する。
【0031】
本発明の一態様ではステップ1におけるプライマーとしてPCR用の第1プライマーと、複数種類の第2プライマーとを使用する。第2プライマーは種類毎に特定の固相担体に結合した状態で提供される(複数種類の固相化第2プライマー)。そしてステップ2において、エマルジョン1個あたり平均1個の固相担体(第2プライマーが結合した固相担体)が含まれるようにエマルジョン化する。これによって、各エマルジョン内において理論上、1個の固相担体に結合した第2プライマーを利用して核酸増幅反応が進行し、各エマルジョン内に含まれる増幅産物が実施的に同一分子の集合となる。即ち、各エマルジョン内において、実質的に同一分子の集合からなる増幅産物を固相担体に結合した状態で得ることが可能となる。ここで、互いに種類の異なる複数の固相化第2プライマーを使用していることから、複数のエマルジョン内においてそれぞれ、他のエマルジョン内に含まれる固相化第2プライマーとは種類の異なる固相化第2プライマーを利用して増幅が生じ、その結果、内包する増幅産物の種類が異なる複数のエマルジョンが得られる。これらのエマルジョンを破壊し、その中の固相担体をまとめて回収すれば、固相担体毎に特定の増幅産物が結合した固相担体の集合(固相化核酸ライブラリー)が得られる。例えば、鋳型核酸としてゲノムDNA(単一種類)を用いれば、多数の領域がそれぞれ固相化された集合からなるDNAライブラリーを構築することができる。
尚、上記のように、エマルジョン1個あたりに平均1個の固相担体が含まれる条件下でエマルジョン化することが好ましいが、エマルジョン1個あたり平均して1個よりも少ない数(例えば平均0.3〜0.9個、好ましくは平均0.5〜0.9個)の固相担体が含まれる条件を採用することもできる。この場合、理論的にはエマルジョンの中のいくつかは固相担体を内包しないことになる。しかし、固相担体を内包する複数のエマルジョンが存在する限りこれらのエマルジョン内において上記同様の反応が進行し、特定の増幅産物が結合した固相担体の集合(固相化核酸ライブラリー)を得ることが可能である。一方、このような条件設定とすれば、2個以上の固相担体を内包するエマルジョンが形成されてしまう確率を低下させることができるという利点がある。
【0032】
尚、各エマルジョンに含まれる固相担体の数は、エマルジョンに含まれる鋳型核酸の数の場合と同様の数式(上記参照)で算出することができる。従って、エマルジョン1個あたり平均1個の固相担体が含まれるようにするには、
(4)固相担体の数=水性成分の体積/エマルジョン1個の体積
となるように、使用する固相担体の数を調整すればよい。
【0033】
本発明の更に他の態様では、ステップ1におけるプライマーとして、PCR用の複数種類のプライマーセットを使用する。尚、プライマーセットを構成するいずれかのプライマーが、比較対象のプライマーセットにおいて対応するプライマーと異なっている場合には、これら二つのプライマーセットは種類が異なるといえる。
各プライマーセットはそれぞれ特定の固相担体に結合した状態で提供される(複数種類の固相化プライマーセット)。そしてステップ2において、エマルジョン1個あたり平均1個の固相担体(固相化プライマーセット)が含まれるようにエマルジョン化する。これによって、各エマルジョン内において理論上、1個の固相担体に結合したプライマーセットを利用した核酸増幅反応が可能となり、核酸増幅反応後において各エマルジョン内に含まれる増幅産物が実施的に同一分子の集合となる。この態様では、エマルジョン化の後、核酸増幅反応に先行して、固相担体から各プライマーセットを遊離させる。これによってPCR反応に必要な一組のプライマーが遊離状態で各エマルジョン内に存在することになり、当該プライマーセットを利用したPCR反応が可能となる。プライマーの遊離は、例えばビオチン−アビジン間の結合を利用してプライマーセットを固相化した場合などでは熱処理(例えば95℃、2分間)によって行うことができる。プライマーセットの遊離方法は熱処理に限られるものではなく、プライマーセットと固相担体との間の結合様式を考慮して、適当な方法を採用すればよい。
この態様では互いに種類の異なる複数のプライマーセットを使用していることから、複数のエマルジョン内においてそれぞれ、他のエマルジョン内に含まれるプライマーセットとは種類の異なるプライマーセットを利用して増幅が生じ、その結果、内包する増幅産物の種類が異なる複数のエマルジョンが得られる。例えば鋳型核酸としてゲノムDNA(単一種類)を用いれば、多数の領域が個別に且つ効果的にエマルジョン内で増幅されることになる。このようにして得られたエマルジョンを利用すれば、ゲノムDNA上の複数箇所を同時に且つ短時間で検出することができる。例えば、鋳型核酸の複数領域について、ある遺伝型の場合のみに特異的な増幅が生ずるように設計した複数のプライマーセットを用いれば、複数の一塩基多型(SNPs)を迅速に検出(タイピング)することが可能である。増幅産物の検出は例えば、(1)増幅反応後のエマルジョンを破壊し、その中の増幅産物をまとめて回収する、(2)増幅産物を電気泳動などに供し、目的の核酸領域が増幅されたか否かを確認する、といった手順で実施できる。
【0034】
尚、上記のように、エマルジョン1個あたりに平均1個の固相担体(固相化プライマーセット)が含まれる条件下でエマルジョン化することが好ましいが、エマルジョン1個あたり平均して1個よりも少ない数(例えば平均0.3〜0.9個、好ましくは平均0.5〜0.9個)の固相担体が含まれる条件を採用することもできる。この場合、理論的にはエマルジョンの中のいくつかは固相担体を内包しないことになる。しかし、固相担体を内包する複数のエマルジョンが存在する限りこれらのエマルジョン内においてプライマーセットに対応した特異的な増幅が進行する。一方、このような条件設定とすれば、2個以上の固相担体を内包するエマルジョンが形成されてしまう確率を低下させることができるという利点がある。
【0035】
(核酸増幅反応)
ステップ3では、ステップ2で得られる複数のエマルジョン(逆ミセル)内で核酸増幅反応を実施する。典型的には、適当な容器内でエマルジョン化させた後、引き続きその容器内で核酸増幅反応を実施する。但し、エマルジョン化の後、一部又は全部を他の容器に移し(この場合、複数の容器に分注してもよい)、その後に核酸増幅反応を実施してもよい。この場合エマルジョンが複数の容器に分けられることになるが、一部の容器内のエマルジョンを用いて核酸増幅反応を実施してもよい。他の容器内のエマルジョンについては後に核酸増幅反応に供することができる。
核酸増幅反応として例えば、PCR法若しくはその変法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、3SR(Self-sustained Sequence Replication)法、SDA(Standard Displacement Amplification)法、TMA(Transcription Mediated Amplification)法、又はRCA(Rolling Circle Amplification)による増幅反応を実施することができる。中でもPCR法又はその変法による増幅反応を実施することが好ましい。PCR法による増幅反応を実施することが特に好ましい。本発明では熱安定性に優れたエマルジョンが使用される。従って、高温での反応を伴う核酸増幅反応(典型的にはPCR法が該当する)を実施する系において高い効果を発揮する。
尚、本明細書において、固相化したプライマーを用いて核酸増幅反応を行い、増幅産物を担体上に獲得する技術を「固相核酸増幅反応又はsolid-pahse核酸増幅反応」とよび、特に核酸増幅法がPCRの場合を「固相PCR又はsolid-pahsePCR」と呼ぶ。
【0036】
(所望の活性を有する核酸の選択方法)
固相化されたプライマーを用いて本発明の核酸増幅方法を実施した場合、各エマルジョン内には、プライマーを介して固相担体に結合した状態、即ち固相化された増幅産物が存在する。本発明は更に、本発明の核酸増幅方法で得られた増幅産物を指標として利用することで、所望の活性を有する核酸を選択する方法を提供する。本発明の核酸選択方法の一態様は、以下のステップを含むことを特徴とする。尚、説明しない用語については、上記本発明の核酸増幅方法における対応する説明が援用される。
(i)複数種類の鋳型核酸の集合、該鋳型核酸の一部領域にハイブリダイズするPCR用の第1プライマー及び第2プライマー、及びPCR用試薬を含む水性成分を用意するステップであって、前記第2プライマーが結合した複数の固相担体が使用されるステップ、
(ii)前記水性成分、油性成分、及び親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を混合して油中水型エマルジョンを調製するステップであって、エマルジョン1個あたり平均1個以上の前記固相担体と平均1分子の前記鋳型核酸が含まれるようにエマルジョン化するステップ、
(iii)各エマルジョン内でPCR反応を実施するステップ、
(iv)前記エマルジョンを破壊し、エマルジョン内の前記固相担体をまとめて回収するステップ、及び
(v)回収した固相担体の集合から、所望の活性を有する核酸分子が結合した固相担体を選択するステップ。
【0037】
この態様では、第1プライマーと固相化第2プライマーが使用され、各エマルジョンに平均1個以上の固相化第2プライマーと平均1分子の鋳型核酸が含まれるようにエマルジョン化される。尚、エマルジョンあたり平均して1分子より少ない数の鋳型核酸が含まれるような条件設定としてもよく、この場合には理論的には鋳型核酸が含まれないエマルジョンができる。
続いてPCR反応による核酸増幅反応が実施される。これによって各エマルジョン内では理論的には、1分子の鋳型核酸から第1プライマー及び固相化第2プライマーを利用して特異的な核酸増幅が進行する。その結果、エマルジョン内において第2プライマーを介して固相担体に結合した増幅産物(固相化増幅産物)が得られる。尚、種類の異なる固相化第2プライマーを使用すれば、内包する増幅産物の種類が異なる複数のエマルジョン(逆ミセル)が得られる。
核酸増幅反応の後、エマルジョンを破壊し、各エマルジョン内の固相担体をまとめて回収する。これによって固相担体に結合した増幅産物(固相化増幅産物)の集合が得られる。次に、回収した固相化増幅産物の集合から、所望の活性を有する核酸分子が結合した固相担体(即ち固相化増幅産物)を選択する。ここでの所望の活性とは例えば、特定の核酸に対する親和性や、特定の蛋白質に対する結合活性、切断活性等である。
目的の固相担体を選択したら、それに結合している核酸分子(即ち増幅産物)を同定することができる(選択された固相担体に結合した核酸分子を同定するステップ)。このように、以上の方法によれば、所望の活性を有する核酸分子を同定することができる。
【0038】
回収した固相担体の集合から、所望の活性を有する核酸分子が結合した固相担体を選択するステップを以下のステップa1〜a4によって実施することもできる。
(a1)回収した固相担体の集合を、各区画に平均1個の固相担体が含まれるように区画化するステップ、
(a2)各区画内で無細胞転写反応を進行させるステップ、
(a3)所望の活性を有するmRNAを発現する区画を特定するステップ、及び
(a4)特定された区画に含まれる固相担体を選択するステップ。
或いは、回収した固相担体の集合から、所望の活性を有する核酸分子が結合した固相担体を選択するステップを以下のステップb1〜b4によって実施してもよい。
(b1)回収した固相担体の集合を、各区画に平均1個の固相担体が含まれるように区画化するステップ、
(b2)各区画内で無細胞転写/翻訳反応を進行させるステップ、
(b3)所望の活性を有するペプチドないし蛋白質を発現する区画を特定するステップ、及び
(b4)特定された区画に含まれる固相担体を選択するステップ。
【0039】
これらの態様ではまず、回収した固相担体の集合を、各区画に平均1個の固相担体が含まれるように区画化するステップを実施する。これによって理論的には1個の固相担体、即ち1種類の固相化増幅産物を含む複数の区画ができる。尚、区画あたり平均して1個より少ない数の固相担体が含まれるような条件設定としてもよく、この場合には理論的には固相担体が含まれない区画ができる。
続いて、各区画内において無細胞転写反応(a2)、又は無細胞転写/翻訳反応(b2)を進行させる。即ち、各区画内に無細胞転写反応、又は無細胞転写/翻訳反応に必要な試薬を添加し(これとは逆に、予め当該試薬が添加された区画に固相担体を添加することにしてもよい)、必要な温度環境等とする。
無細胞転写反応を採用した場合には、各区画内において固相化増幅産物からの転写によってmRNAが生ずる。他方、無細胞転写/翻訳反応を採用した場合には、各区画内において固相化増幅産物からの転写、及びそれに続く翻訳によってペプチドないし蛋白質(以下まとめて「蛋白質等」という)が生ずる。このようにして転写産物(又は翻訳産物)を得た後、所望の活性を指標として目的の転写産物を含む区画(又は目的の蛋白質等を含む区画)を特定する。続いて、特定された区画に含まれる固相担体を選択し、その後は上記と同様に、選択された固相担体に結合した核酸分子を同定する。このように以上の方法では、無細胞反応系の適用によって得られるmRNA又は蛋白質等の活性を利用して特定の核酸の選択、同定が行われる。ここでの所望の活性としては例えば、特定の核酸に対する親和性、特定の蛋白質に対する結合性、特定の抗体に対する結合性、酵素活性、触媒活性等である。
【0040】
本発明の更に他の態様では、無細胞転写/翻訳反応の結果得られる蛋白質等を、その鋳型となる核酸増幅産物を介して固相化された状態で得る。当該方法によれば、蛋白質等との特異的な結合を利用して直接、当該蛋白質をコードする核酸(鋳型核酸)を回収することができる。具体的には、鋳型核酸として第1結合成分をコードする領域を有するもの用い、PCRプライマーの中で固相化されない方のPCRプライマー(第1プライマー)として、前記第1結合成分に特異的結合性を有する第2結合成分を含むものを用いる。このような条件下で上記と同様のエマルジョン化、PCR反応、及び固相担体の回収(ステップi〜iv)を実施した後、回収した固相担体の集合から、所望の活性を有する核酸分子が結合した固相担体を選択するステップ(ステップv)として以下のステップを実施する。
(c1)回収した複数の固相担体を、各区画に平均1個以下の固相担体が含まれるように区画化するステップ、
(c2)各区画内で無細胞転写/翻訳反応を進行させるステップ、
(c3)各区画内の固相担体をまとめて回収するステップ、及び
(c4)所望の活性を有するペプチドないし蛋白質が結合した固相担体を選択するステップ。
ステップc1では固相担体の区画化が実施される。この区画化は例えば96穴プレートなど複数の区画を有する容器を利用して行うことができる。或いは、エマルジョンによって区画化してもよい。例えば、上記本発明の核酸増幅方法における場合と同様の材料を用い、同様の手順でエマルジョン化することができる。
ステップc2では、固相化された増幅産物(鋳型核酸)からの転写、翻訳が行われる。ここで、増幅産物の鋳型として使用された核酸(鋳型核酸)が第1結合成分をコードする領域を有することから、増幅産物もまた第1結合成分をコードする領域を有する。従って、増幅産物の転写・翻訳産物である蛋白質等は第1結合成分を含む。一方、固相担体に結合した増幅産物はその合成(増幅)の際に利用された第1プライマーを含む。ここで第1プライマーには第2結合成分が結合しているから、増幅産物には第1プライマーを介して第2結合成分が結合していることになる。
以上のように、発現した蛋白質は第1結合成分を有し、一方で、固相化された増幅産物には第2結合成分が結合している。従って、第1結合成分と第2結合成分が結合することによって、発現した蛋白質等は固相担体上の増幅産物と複合体を形成する。換言すれば、発現した蛋白質等と、それをコードする核酸とが複合体を形成しつつ固相化されることになる。このようにステップc2の結果、各区画内には固相化された蛋白質−核酸複合体が生ずる。次に、各区画内の固相化された蛋白質−核酸複合体をまとめて回収する。そして、所望の活性を指標として特定の蛋白質を選択する。上記の通り蛋白質はそれをコードする核酸と複合体を形成していることから、特定の蛋白質が選択されれば同時にそれをコードする核酸が得られることになる。従って、選択された蛋白質をコードする核酸を迅速に同定することが可能となる。
ここで、第1結合成分としては例えばストレプトアビジンを採用することができる。この場合には第2結合成分としてビオチンを用いる。一方、ここでの所望の活性としては例えば、特定の蛋白質に対する結合性、特定の抗体に対する結合性等である。
【0041】
本発明において無細胞合成系(無細胞転写系、無細胞転写/翻訳系)とは、生細胞を用いるのではく、生細胞由来の(或いは遺伝子工学的手法で得られた)リボソームや転写・翻訳因子などを用いて、鋳型である核酸(DNAやmRNA)からそれがコードするmRNAや蛋白質をin vitroで合成することをいう。無細胞合成系では一般に、細胞破砕液を必要に応じて精製して得られる細胞抽出液が使用される。細胞抽出液には一般に、蛋白質合成に必要なリボソーム、開始因子などの各種因子、tRNAなどの各種酵素が含まれる。蛋白質の合成を行う際には、この細胞抽出液に各種アミノ酸、ATP、GTPなどのエネルギー源、クレアチンリン酸など、蛋白質の合成に必要なその他の物質を添加する。勿論、蛋白質合成の際に、別途用意したリボソームや各種因子、及び/又は各種酵素などを必要に応じて補充してもよい。
【0042】
蛋白質合成に必要な各分子(因子)を再構成した転写/翻訳系の開発も報告されている(Shimizu, Y. et al.: Nature Biotech., 19, 751-755, 2001)。この合成系では、バクテリアの蛋白質合成系を構成する3種類の開始因子、3種類の伸長因子、終結に関与する4種類の因子、各アミノ酸をtRNAに結合させる20種類のアミノアシルtRNA合成酵素、及びメチオニルtRNAホルミル転移酵素からなる31種類の因子の遺伝子を大腸菌ゲノムから増幅し、これらを用いて蛋白質合成系をin vitroで再構成している。本発明ではこのような再構成した合成系を利用してもよい。
【0043】
用語「無細胞転写/翻訳系」は、無細胞蛋白質合成系、in vitro翻訳系又はin vitro転写/翻訳系と交換可能に使用される。in vitro翻訳系ではRNAが鋳型として用いられて蛋白質が合成される。鋳型RNAとしては全RNA、mRNA、in vitro転写産物などが使用される。他方のin vitro転写/翻訳系ではDNAが鋳型として用いられる。鋳型DNAはリボソーム結合領域を含むべきであって、また適切なターミネータ配列を含むことが好ましい。尚、in vitro転写/翻訳系では、転写反応及び翻訳反応が連続して進行するように各反応に必要な因子が添加された条件が設定される。
【0044】
無細胞転写/翻訳系には以下の利点がある。まず第1に、生細胞を維持する必要がないため操作性が良好で系の自由度も高い。したがって、目的の蛋白質の性質に応じて様々な修正や修飾を施した合成系を設計することが可能となる。次に、細胞系の合成では使用する細胞に毒性のある蛋白質の合成は基本的にできないが、無細胞系ではそのような毒性の蛋白質であっても生産することができる。さらに、多種類の蛋白質を同時にかつ迅速に合成できることからハイスループット化が容易である。生産される蛋白質の分離・精製が容易であるという利点も備え、これはハイスループット化に有利に働く。加えて、非天然型のアミノ酸を取り込ませるなどして非天然型蛋白質を合成することも可能であるという利点も併せ持つ。
現在広く利用されている無細胞合成系には以下のものがある。即ち、大腸菌S30画分抽出液の系(原核細胞の系)、コムギ胚芽抽出液の系(真核細胞の系)、及びウサギ網状赤血球可溶化物の系(真核細胞の系)である。これらの系はキットとしても市販されており、容易に利用することが可能である。
【0045】
歴史的には大腸菌S30画分抽出液の系の開発が最も古く、この系を利用して様々な蛋白質の合成が試みられてきた。大腸菌30S画分は、大腸菌の集菌、菌体破砕、精製の工程を経て調製される。大腸菌30S画分の調製及び、無細胞転写・翻訳共役反応はPrattらの方法(Pratt, J. M.: Chapter 7, in “Transcription and Translation: A practical approach”, ed. by B. D. Hames & S. J. Higgins, pp. 179-209, IRL Press, New York (1984))やEllmanらの方法(Ellman, J. et al.: Methods Enzymol., 202, 301-336(1991))を参考にして行うことができる。
コムギ胚芽抽出液の系は、高品質の真核生物蛋白質を効率的に合成できるという利点を有し、大腸菌S30画分抽出液の系では合成が困難な真核生物の蛋白質を合成する際によく利用される。最近になって、種子胚乳成分を洗浄除去した胚芽から抽出液を調製することによって高効率かつ安定な合成系が構築されることが報告され注目を集めている(Madin, K. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97: 559-564, 2000)。その後、高翻訳促進能を有するmRNA非翻訳配列、PCRを利用した多品目機能解析用の蛋白質合成法、専用高発現ベクターの構築などの技術開発が行われ(Sawasaki, T. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99: 14652-14657, 2002)、様々な分野への応用が期待されている。
コムギ胚芽抽出液は、コムギ胚芽をすり潰して遠心分離した後、上澄み液をゲルろ過で分離することによって得ることができる。翻訳反応については、Andersonらの方法(Anderson, C. W. et al.: Methods Enzymol., 101, 638-644(1983))を参考にできる。改良法についても報告されており、例えば河原崎らの方法(Kawarasaki, Y. et al.: Biotechnol. Prog., 16, 517-521(2000))やMadinらの方法(Madin, K. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97: 559-564, 2000)等を参考にできる。
ウサギ網状赤血球可溶化物の系はグロブリン生産に適する。ウサギ網状赤血球可溶化物は、ウサギにフェニルヒドラジンを数日間静脈注射して貧血状態とし、所定期間後(例えば第8日目)に採血し、その後溶血させた液から超遠心分離処理などを経て得られる。ウサギ網状赤血球可溶化物の調製法は、JacksonとHuntの方法(Jackson, R. J. and Hunt, T.: Methods Enzymol., 96, 50-74(1983))を参考にして行うことができる。
尚、本発明の実施に際して利用できる無細胞合成系は上記のもの限られるものではなく、例えば大腸菌以外のバクテリアやコムギ以外の植物の抽出液、昆虫由来の抽出液、動物細胞由来の抽出液、又はゲノム情報を基に構築した系などを利用してもよい。
【0046】
本発明の核酸選択方法によれば、予めエマルジョン内において鋳型核酸を増幅することで系内の核酸分子数が増大する。従って、以降の蛋白質合成の際に多数の核酸分子からの発現が生じ、効率的な蛋白質合成が行われる。従って、特定の蛋白質を選択する際の検出感度が格段に向上する。また、核酸増幅反応に使用するプライマーとして磁性ビーズに固定してものを使用すれば、増幅産物を磁性ビーズに結合した状態で回収可能となる。
【0047】
無細胞蛋白質合成系を用いた本発明の適用例を図1に示す。この例では、蛋白質を発現させる前に、エマルジョン内にある鋳型DNA1分子をPCRにより増幅し、系中のDNAの分子数を増大させる。エマルジョン内には、DNA1分子と共にあらかじめプライマーを固定した磁性ビーズを導入することで、増幅産物を磁性ビーズ上に固定させた状態で回収可能となる。
【0048】
本発明は更に、本発明の核酸増幅反応又は核酸の選択方法に使用されるエマルジョンを提供する。本発明のエマルジョンは、上記の通り、親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤が使用される。好ましい界面活性剤の種類やHBL値、エマルジョンの作製方法等は上記の通りである。
本発明は更に、本発明の界面活性剤を成分の一つとして含む、核酸増幅反応用又は核酸の選択方法用のキットを提供する。本発明のキットは、それを用いた核酸増幅反応に必要な他の成分(試薬)を含んでいても良い。例えばPCR反応用のキットとして構成する場合を例にとれば、プライマー(第1プライマー、第2プライマー)、PCR用酵素、反応用緩衝液、及び使用説明書など(この中の一部又は全部)をキットに含めることができる。
【0049】
尚、特に記載のない限り、本明細書における遺伝子工学的操作は例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)或いはCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参考にして行うことができる。
【実施例1】
【0050】
<エマルジョン化に使用する界面活性剤の検索>
既にエマルジョン内での鋳型1分子によるPCRの例が報告されている(Dressman, D., Yan, H. and Vogelstein, B.(2003) Transforming single DNA molecules into fluorescent magnetic particles for detection and enumeration of genetic variations.Proc.Natl.Acad.Sci.USA ,100, 8817-8822)が、この報告におけるエマルジョンの作成における使用界面活性剤はSpan80、Tween80、Triton X-100であった。本発明者らも、この報告に倣い同様の油相組成でエマルジョンを作成したが、PCRの前後でエマルジョンの状態を顕微鏡で観察した結果、エマルジョンの一部が破壊され、油相と水相に分離してしまっているものが確認された(図2)。これはPCRの激しい熱変化のために、エマルジョンの形態を維持できなくなったためと推定される。そこで、PCRのサーマルサイクルにも耐えうる、熱安定性に優れたエマルジョンを作製するため、最適な界面活性剤を検索することにした。
【0051】
PCR法をはじめ核酸増幅反応用のエマルジョンを作製する際には非イオン性界面活性剤が好適であると考え、以下の界面活性剤を試験対象とした。
サンソフトNo.818SK(縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステル:太陽化学、日本)、サンソフトO-30V(オレイン酸グリセリル:太陽化学、日本)、サンソフトQ-177S(オレイン酸ポリグリセリル:太陽化学、日本)、Span 80(モノオレイン酸ソルビタン:Fluka、日本)、Tween 80(ポリオキシエチレン ソルビタンモノオレエイト:ナカライ、
日本)
各界面活性剤のHLB値は、次の通りである。
サンソフトNo.818SK:2.2
サンソフトO-30V:4.2
サンソフトQ-177S:5.5
Span 80:5.1
Tween 80:15.0
尚、HLB値は以下のGriffin の式によって算出される。
HLB値=20×MH/M(MH:親水基部分の分子量、M:界面活性剤の分子量)
【0052】
以上の各界面活性剤を用いてそれぞれエマルジョンを作製し、エマルジョンの熱安定性を比較した。エマルジョンの作製方法を以下に示す。
(1)油相の用意:2mlのアシストチューブ(SARSTEDT)に入れたミネラルオイル(SIGMA)380μlに約1%の界面活性剤(サンソフトNo.818SK、サンソフトO-30V、又はサンソフトQ-177S(以上、太陽化学))を添加し撹拌する。Span80とTween80を使用する場合にはそれぞれ4.5%、0.5%の割合で併用して油相に添加する。
(2)翼付きマイクロ撹拌子(5.5×9.5mm)によって撹拌しながら(750〜1000rpm)、水相20μlを加える。水相は、5μlずつ約30秒間隔で油相へと添加する。全ての水相を添加後、さらに3分間撹拌する。
【0053】
エマルジョン形成後、PCR(55サイクル:95℃で15分、55℃で9分、72℃で1分;その後72℃で7分保持)を実施し、その形態を観察した。その結果、サンソフトNo.818SKでは熱安定性に優れたエマルジョンを作製できた。一方、その他の界面活性剤では熱安定性に優れたエマルジョンは作製できなかった。ここで各界面活性剤のHLB値に注目すれば、試験した界面活性剤の中でサンソフトNo.818SKが最も低いHLB値を有することが分かる。一方、サンソフトNo.818SKはポリグリセリン酸脂肪酸エステルの一つである縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルである。これらの事実を考え合わせれば、まず、エマルジョンの熱安定性にとって界面活性剤のHLB値が重要であり、低HLB値(4以下、特に2.5以下)を有する非イオン性界面活性剤を用いれば熱安定性に優れたエマルジョンを作製できることが分かる。一方、有効な界面活性剤として、HLB値の低いポリグリセリン酸脂肪酸エステル(特に縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステル)を用いることができると言える。
尚、サンソフトNo.818SKを使用して作製したエマルジョン内でPCRを行った場合のエマルジョンの状態を図3に示す。PCR後においても、ほぼ完全にエマルジョンが維持されていることが分かる。
【実施例2】
【0054】
<油中水型エマルジョン内1分子solid phase PCR>
以上の検討の結果、熱安定性に優れたエマルジョンの形成を可能にすることが明かとなった縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリンエステル「サンソフトNo.818SK」を用いて、油中水型エマルジョン内1分子solid phase PCRを実施した。
プライマーを固相化する担体として、DYNAL社製のDynabeads M-270 Carboxylic Acidを選択した。これは直径2.8ミクロンほどの磁性ビーズであり、各ビーズの表面上は無数のカルボキシル基で修飾されている。このビーズに対し、5'末端をアミノ基修飾したプライマーを触媒1-ethyl-3-(3-dimethylpropyl)-carbodiimide hydrochloride(EDC)を用いてビーズ、プライマー間をペプチド結合により結合させた。
【0055】
1.エマルジョン作成、ビーズ回収の手順
(1)油相を用意する。2mlアシストチューブ(SARSTEDT)に入れたミネラルオイル(SIGMA)380μlに約1%の界面活性剤サンソフトNo.818SK(太陽化学)を添加し、撹拌した。
(2)翼付きマイクロ撹拌子(5.5×9.5mm)によって撹拌しながら(750〜1000rpm)、水相(PCR反応液+鋳型DNA+マイクロビーズ)20μlを加える。水相は、5μlずつ約30秒ずつ間隔をあけて油相へと添加した。水相添加後、さらに3分間撹拌した。
(3)撹拌終了後、PCR反応チューブへ50μlずつ分注した。その後、PCR反応を行う。
(4)PCR終了後、各チューブを17400G、3minで遠心した。エマルジョンをエッペン底部に沈降させ、油相のみを除いた。エマルジョンはまだ完全に破壊されていない状態であった。
(5)失活剤(2M NaCl,10mM Tris-HCl,1mM EDTA pH8)を各チューブに50μlずつ加え撹拌し、続いて遠心処理(17400G、3min)した。
(6)ヘキサン450μlを加え、撹拌、遠心処理後、ヘキサン層のみを除去した。この操作を3回繰り返した。
(7)ヘキサンによる洗浄後、磁石でビーズをチューブ壁面に残しながら、全ての油相部と失活剤を除去した。ビーズはTEで3回洗浄し、TEに懸濁して4℃で保存した。
【0056】
2.固相(solid phase)PCR
モデル実験として、本実験では鋳型DNAとしてgfp-uv遺伝子断片(1052bp)を使用した。
この断片はプラスミドpGGFPHをプライマーF1、R1で増幅したものである(図4)。エマルジョン内の1分子solid phase PCRには5'末端をアミノ化し、マイクロビーズに固定したP1-T10-NH2と、R-18をプライマーとして使用した。PCR終了後のマイクロビーズ上の増幅産物の多寡は、回収したビーズを制限酵素EcoRIで処理し、ビーズから解離した増幅産物の一部(903bp)を電気泳動によって確認した。エマルジョン内の1分子solid phase PCRの反応条件を図5に示す。図5の反応条件の中で特筆すべき事項は、まずF側のプライマーをビーズ上のみだけでなく、水相部にフリーの状態でわずかに導入した点である(図6)。これによって、PCRの最初の数サイクルでフリーのプライマーによって、鋳型1分子をできるだけ水相部内で増幅させることができ、結果として多数の鋳型分子でsolid phase PCRを行うことができる。
実際にPCRを行い、終了後にビーズを回収し、制限酵素EcoRIで処理したビーズを電気泳動することによって、増幅産物の存在を確認することができた(図7)。
電気泳動の結果をゾーンデンシトメトリーによってバンドを検出し、ビーズ1つ当たりの増幅産物の分子数を算出したところ、ビーズ1つ当たりにおいて約6000分子の増幅産物が存在していることが推測された。また、エマルジョン水相部にもバンドが確認されたが、これはビーズ上に固定されていないフリーのプライマーによって増幅されたものだけでなく、PCRの最中にビーズ上からはずれてしまったプライマーによる増幅産物も含まれている。
また、図5におけるサーマルサイクルのアニールの時間が9分と極端に長いが、アニールの時間を通常のサーマルサイクルのものと比較すると、確実にアニール時間を延長させた場合の方がビーズ上に多量の増幅産物を獲得することができた(図8)。
なお、一つのエマルジョン内に鋳型1分子となるように調整するには、理論的には系中のエマルジョンの個数と鋳型DNAの分子数とを同数にすればよい。
すなわち、エマルジョンの平均粒径よりエマルジョン1つの体積を求め、
「エマルジョン水層部のPCR試薬(20μl)/エマルジョン1つの体積=エマルジョンの総数=鋳型PCR産物の分子数」となるように、投入する鋳型分子数を調整する必要がある(図9)。
【0057】
3..エマルジョン内1分子solid phase PCRの進行の確認
エマルジョン内で無事に1分子PCRが行われているか確認するために、PCR終了後にビーズを回収し、1ウェルあたり1もしくは3ビーズとなるようにビーズを分注しPCRの鋳型とした。このPCRの増幅産物のDNA配列を決定した。
使用した鋳型は以前に作成されたgfp-uv遺伝子の6種類の変異体である(図10)。また、平均的なエマルジョンのサイズを直径30ミクロンとして、1エマルジョンあたり鋳型DNAを0.38分子となるように調整した。
シーケンスの結果、多少のバラつきがあるものの、6種類の鋳型すべてを確認できた(図11)。「その他」は配列が決定できなかったものだが、これはエマルジョン中に鋳型分子が複数混入してしまったか、1ウェル中にビーズが多数入ってしまったためと思われる。
【実施例3】
【0058】
<油中水型エマルジョンを用いた生体高分子間相互作用の検出>
ポストゲノムシーケンス時代を迎えた今、DNA、RNAなどの情報資源を、効率的にかつ大量に機能性分子である蛋白質に変換し、その機能を解析することが求められている。そしてこの機能はすなわち、生体分子間相互作用に依存している。医薬、食品、化学工業等の分野において、有用な酵素、抗体等の機能性蛋白質を獲得するため、protein-protein相互作用の検出にはファージディスプレイ(Smith, G. P. (1985) Filamentous fusion phage: novel expression vectors that display cloned antigens on the virion surface. Science, 228, 1315-1317)、yeast two-hybrid system (Fields, S. and Song, O. (1989) A novel genetic system to detect protein-protein interactions. Nature, 340, 245-246)、DNA-protein 相互作用の検出にはyeast one-hybrid system (Wilson, T. E., Fahrner, T. J., Johnston, M., and Milbrandt, J. (1991) Identification of DNA binding site for NGFI-B by genetic selection in yeast. Science, 252, 1296-1300、Wang, M. M. and Reed, R. R. (1993) Molecular cloning of the olfactory neuronal transcription factor Olf-1 by genetic selection in yeast. Nature, 364, 121-126、Joachim, J. L. and Herskowitz, I. (1993) Isolation of ORC6, a component of the yeast origin recognition complex by a one-hybrid system. Science, 262, 1870-1874)などの様々な分子ツールを用いて、大規模な変異ライブラリーよりスクリーニングすることが試みられている。これらin vivoでのセレクション法に対し、無細胞蛋白質合成を用いたリボソームディスプレイ(Hanes, J. and Pluckthun, A. (1997) In vitro selection and evolution of functional proteins by using ribosome display. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 4937-4942)、 in vitro virus (Nemoto, N., Miyamoto-Sato, E., Husimi, Y. and Yanagawa, H. (1997) In vitro virus: Bonding of mRNA bearing puromycin at the 3’-terminal end to the C-terminal end of its encoded protein on the ribosome in vitro. FEBS Lett., 414, 405-408) 、 in vitro compartmentalization (IVC) (Tawfik, D., S. and Griffiths, A., D. (1998) Man-made cell-like compartments for molecular evolution. Nature Biotechnol., 16, 652-656、Doi, N. and Yanagawa, H. (1999) STABLE: protein-DNA fusion system for screening of combinatorial protein libraries in vitro. FEBS Lett., 457, 227-230、Sepp, A., Tawfik, D., S. and Griffiths, A., D. (2002) Microbead display by in vitro compartmentalisation: selection for binding using flow cytometry. FEBS Lett., 532, 455-458、Cohen, H., M., Tawfik, D., S. and Griffiths, A., D. (2004) Altering the sequence specificity of Hae III methyltransferase by directed evolution using in vitro compartmentalization. Protein Eng. Des. Sel., 17, 3-11) のようなin vitroセレクションシステムも開発されている。とりわけ、IVCは大変有用であり、注目すべき技術である。これは、生体内で遺伝子型−表現型の分画をしている細胞膜の代わりにマイクロエマルジョンを用いる。1エマルジョンあたり平均一分子の鋳型DNAが含まれるように分画し、そのエマルジョン中で無細胞蛋白質合成を行うことで遺伝子型と表現型をリンクさせることができる。GriffithsらはこのIVCを用いてメチルトランスフェラーゼ, M.HaeIIIのディレクティドエボリューションを行い、670倍もの触媒活性を保持する変異体を得ることに成功している(Cohen, H., M., Tawfik, D., S. and Griffiths, A., D. (2004) Altering the sequence specificity of Hae III methyltransferase by directed evolution using in vitro compartmentalization. Protein Eng. Des. Sel., 17, 3-11)。また、ビーズなどの固相支持体上でのin vitro DNAライブラリー提示技術 (リンクスセラピューティックス、特開2004-89198号)はフローサイトメトリーによる迅速なスクリーニングを可能とする為、様々な形で利用されている。この技術は大変有用であるが、クローニング、蛍光標識など、ビーズライブラリー構築の際に煩雑な作業を要する。またDressmanらは、ビーズへ固定化されたDNAライブラリーセレクション法、BEAMingを開発し、変異DNAの選択に成功している(Dressman, D., Yan, H., Traverso, G., Kinzler, K. W. and Vogelstein, B. (2003) Transforming single DNA molecules into fluorescent magnetic particles for detection and enumeration of genetic variations. Proc. Natl. Acad. Sci., 100, 8817-8822)。
【0059】
近年、我々は平均一分子の鋳型DNAより増幅を行うSingle-Molecule PCR (SM-PCR)と無細胞蛋白質合成系を組み合わせた、Single-molecule-PCR-linked in vitro expression (SIMPLEX)を開発した(Ohuchi, S., Nakano, H. and Yamane, T. (1998) In vitro method for the generation of protein libraries using PCR amplification of a single DNA molecule and coupled transcription/translation. Nucleic Acids Res., 26, 4339-4346、Rungpragayphan, S., Kawarasaki, Y., Imaeda, T., Kohda, K., Nakano, H. and Yamane, T. (2002) High-throughput, Cloning-independent Protein Library Construction by Combining Single-molecule DNA Amplification with in Vitro Expression. J. Mol. Biol., 318, 395-405、Rungpragayphan, S., Nakano, H. and Yamane, T. (2003) PCR-linked in vitro expression : a novel system for high-throughput construction and screening of protein libraries. FEBS Lett., 540, 147-150、Koga, Y., Kato, K., Nakano, H. and Yamane, T. (2003) Inverting Enantioselectivity of Burkholderia cepacia KWI-56 Lipase by Combinatorial Mutation and High-throughput Screening Using Single-molecule PCR and In Vitro Expression. J. Mol. Biol., 331, 585-592)。このSIMPLEXは、蛋白質ライブラリーの迅速な構築を可能とし、注目されている技術である。本研究において、我々は新たにIVCとビーズ上でのSM-PCRとを組み合わせたSolid-Phase Single-Molecule PCR in water-in-oil Emulsionsを開発した。その特色は、W/Oエマルジョン内部で、ビーズとともに1分子PCRを行うことで,DNAライブラリーを「ビーズライブラリー」に変換できることである。すなわちベクターへの結合や、微生物の形質転換を行なうことなく、わずか数時間程度のPCR反応で遺伝子を「クローニング」できる。さらに磁性マイクロビーズを採用することで、PCR増幅産物は、マグネットを利用して容易に回収、洗浄が可能である。そのため通常PCR後に行う増幅産物の精製、つまり、ゲル電気泳動、有機溶媒抽出、遠心、カラム精製などの煩雑な操作を省くことができる。
この方法を用いて本発明者らはDNA結合蛋白質、PhaR (Maehara, A., Doi, Y., Nishiyama, T., Takagi, Y., Ueda, S., Nakano, H. and Yamane, T. (2001) PhaR, a protein of unknown function conserved among short-chain-length polyhydroxyalkanoic acids producing bacteria, is a DNA-binding protein and represses. FEMS Microbiol. Lett., 200, 9-15、Maehara, A., Taguchi, S., Nishiyama, T., Yamane, T. and Doi, Y. (2002) A repressor protein, PhaR, regulates polyhydroxyalkanoate (PHA) synthesis via its direct interaction with PHA. J. Bacteriol., 184, 3992-4002)の結合DNA断片の濃縮を試みた(図12)。尚、使用材料、エマルジョン調製方法、PCRの条件などにおいて特に言及しない事項は実施例2と同様とした。
【0060】
1.PhaR-Hisの精製
E. coli BL21(DE3)にpETphaRHisを導入し、IPTGで誘導後、ソニケーションによって菌体を破砕した(図13)。破砕後の上清をHiTrapカラムを用いて分画を行った(図14)。PhaR-Hisが含まれているフラクションをT buffer (20mM Tris-HCl, pH7.5)+50% グリセロールで透析し、-25℃で保存とした。尚、得られたPhaR-Hisの蛋白質濃度は360μMであった。その活性はゲルシフトアッセイで確認した。
【0061】
2.PhaR結合領域を用いた油中水型エマルジョン内1分子Solid-phase PCR(single molecule-PCR in w/o emulsions)
続いて、pBluescriptPp, pBluescript GFP+を鋳型として、PhaR結合領域(以下Pp)を含む断片と、含まないGFP配列の一部(以下GFP+)の断片を用いて、エマルジョン中でのビーズ一分子PCRを行った。反応組成、プログラムは図15に示した。このPCRによって上に挙げたDNA断片がビーズに固定化されることを確認した。
【0062】
3.FACSを用いたPhaR結合ビーズの同定
先に示したPCRで得られたビーズDNA複合体を用いてPhaR結合反応の検出およびポジティブビーズの獲得を試みた。検出手段としてfluorescence activated cell sorting (FACS)を用いた。まず、ビーズDNAとPhaRの結合反応を確認するために、PhaR結合領域を持つビーズ(ポジティブビーズ)とPhaR結合領域を持たないビーズ(ネガティブビーズ)用い、図16のスキーム1で示した手順でビーズをFACSにかけた。すると、ポジティブとネガティブとで、かなり顕著な波形の差が確認された(図17)。そこで以後、この手順で実験を進めることにした。
【0063】
4.DNAミックスからのPhaR結合領域の濃縮
Pp:GFP+=1:100、Pp:GFP+=1:1000を鋳型として、先に示したPCRで得られたビーズ(それぞれ1:100ビーズ、1:1000ビーズ) を用いて、PhaR結合反応を行い、PhaRと結合するビーズの獲得、さらにPhaR結合領域の濃縮を試みた。全体のおおまかな手順はFig. 1に示した。FACSにかけて得られたビーズ(図17で示したゲートAかつリージョンBでソーティング)は、1ビーズ/wellとなるように希釈したPCRをかけて1ビーズ由来のDNA断片を獲得した。また、さらなるサイクルを行う場合はビーズミックスのままPCRにかけ、そのPCR産物を一分子/エマルジョンになるように希釈を行い、再度、油中水型エマルジョン内1分子Solid-phasePCR(single molecule-PCR in w/o emulsions)にかけた。PhaR結合はゲルシフトアッセイで確認した(図18)。その結果、1:100, 1:1000ともに目的のPhaR結合領域が濃縮されていることが確認された。1:100では1サイクル後に2/14、2サイクル後には7/14となり、1:1000では2サイクル後に3/13となっていた。尚、二本のバンドが検出されているサンプルも見られ、これはエマルジョン内に二分子以上の鋳型が入ったか、もしくは一ビーズPCRの際、wellに複数のビーズが入った為であると推測される。
【0064】
以上のように、本発明の方法を適用することによって、DNA結合蛋白質、PhaR (17, 18)の結合DNA断片の濃縮に成功した。ポジティブクローンのセレクションにはフローサイトメトリーを用いることで、ビーズへの固定化からセレクション、ポジティブクローンの確認まで、わずか一日という、迅速なスクリーニングが可能となる。その結果、目的DNA断片がわずか二サイクルで50-200倍に濃縮されたことを確認した(図18)。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の方法によれば、熱安定性に優れたエマルジョン内で核酸増幅反応を行える。従って、安定した核酸増幅、コンタミネーションの少ない反応系を構築可能となる。また、エマルジョン内で核酸増幅反応を実施することから、反応系を微小化できる。微少な系による反応では、(1)高価な試薬の使用量の軽減によるコストダウンや軽量でコンパクトなシステムの実現、(2)操作の簡略化による反応システムの集積化、並列化、(3)操作の効率化や高速化、といった効果が期待され、これらはハイスループットスクリーニングシステムを構築する上で重要な要素である。
【0066】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の適用例を示す図である。
【図2】従来の界面活性剤を使用して作製したエマルジョンの熱安定性を示す図である。左がPCR前のエマルジョンの状態、右がPCR後のエマルジョンの状態である。
【図3】縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルを使用して作製したエマルジョンの熱安定性を示す図である。左がPCR前のエマルジョンの状態、右がPCR後のエマルジョンの状態である。
【図4】核酸増幅反応に使用する鋳型DNAの調製に使用したベクターの構造を示す図である。
【図5】実施例で使用した油中水型エマルジョンの組成、及びPCR反応のサーマルサイクルを示す図である。
【図6】PCR反応の初期段階におけるエマルジョン内の状態を示す図である。
【図7】PCR終了後にビーズから回収した増幅産物を電気泳動した結果を示す図である。
【図8】PCRにおけるアニールの時間と増幅効率の関係を示す図である。
【図9】系中のエマルジョンの総数と鋳型DNA量(pg)との関係を示す表である。
【図10】実施例で使用した鋳型DNAのリストである。
【図11】PCRによる増幅産物をシークエンスした結果である。
【図12】油中水型エマルジョン内での1分子固相PCR法を利用してDNA蛋白質間相互作用を検出するアッセイ(スクリーニングアッセイ)のスキームを概念的に示す図である。1.油中水型エマルジョン内での1分子固相PCR、2.エマルジョンの破壊、及び磁石を利用したビーズの洗浄、3.エピトープタグを有するDNA結合蛋白質をビーズに対して添加、4.蛍光標識化抗タグ抗体を複合体に対して添加、5.フローサイトメトリーを用いたポジティブ(陽性)クローンの選択、及び選択されたビーズを用いたマルチビーズPCR、6.フローサイトメトリーを用いたポジティブクローンの選択、及び選択されたビーズを用いたシングルビーズPCR、7.ゲルシフトアッセイ。
【図13】鋳型DNAの調製に使用したプラスミドを示す図である。
【図14】Hitrapカラムを用いてRhaR-Hisを精製した結果を示す図である。
【図15】油中水型エマルジョン内1分子固相PCRにおける反応液の組成、条件等を示す図である。
【図16】ビーズDNAを用いたPhaR結合反応と検出手順を示す図である。
【図17】実施例においてFACSより得られたヒストグラムである。(A)FS(前方散乱)及びSS(測方散乱)解析。ゲートA内のイベント(全体の約80%)を解析に供した。(B)FITC蛍光強度によるネガティブコントロールビーズのヒストグラム解析(ゲートA)。B領域のイベントはゲートAの1.6%である。(C)FITC蛍光強度によるポジティブコントロールビーズのヒストグラム解析(ゲートA)。B領域のイベントはゲートAの51.5%である。(D)FITC蛍光強度によるDNA混合ビーズのヒストグラム解析(ゲートA)。領域B内のイベントをソーティング及び解析に供した。PMT2、蛍光チャネル2(FITC)シグナル強度。
【図18】実施例におけるゲルシフトアッセイの結果である。PBS中に終濃度4.0μM PhaRと10〜20ng DNAを加え、25分間、室温で放置した。5%アクリルアミドゲル(0.5×TBE)で泳動して確認した。A;コントロール、B;1:100ソート前、C;1:100ソート後1サイクル目、D;1:100ソート後2サイクル目、1回目のソートで得られたビーズ50個を鋳型としてPCR産物より得られたビーズ-DNAを使用、E;1:1000ソート前、F;1:1000ソート後2サイクル目、1回目のソートで得られたビーズ約700を鋳型としたPCR産物より得られたビーズ-DNAを使用。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む核酸増幅方法:
(1)複数個の鋳型核酸、該鋳型核酸の一部領域にハイブリダイズするプライマー、及び核酸増幅反応用試薬を含む水性成分を用意するステップ、
(2)前記水性成分、油性成分、及び親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を混合して油中水型エマルジョンを調製するステップ、及び
(3)各エマルジョン内で核酸酸増幅反応を実施するステップ。
【請求項2】
前記非イオン系界面活性剤の親水親油バランス(HLB)値が2.5以下である、請求項1に記載の核酸増幅方法。
【請求項3】
前記非イオン系界面活性剤がポリグリセリン酸脂肪酸エステルである、請求項1又は2に記載の核酸増幅方法。
【請求項4】
前記非イオン系界面活性剤が縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルである、請求項1又は2に記載の核酸増幅方法。
【請求項5】
前記非イオン系界面活性剤が、親水親油バランス(HLB)値が約2.2の縮合リシノレイン酸ポリグリセリンエステルである、請求項1に記載の核酸増幅方法。
【請求項6】
前記ステップ3において、PCR法若しくはその変法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、3SR(Self-sustained Sequence Replication)法、SDA(Standard Displacement Amplification)法、TMA(Transcription Mediated Amplification)法、又はRCA(Rolling Circle Amplification)による増幅反応が実施される、請求項1〜5のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項7】
前記ステップ3においてPCR法による増幅反応が実施される、請求項1〜5のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項8】
前記プライマーが、PCR用の第1プライマー及び第2プライマーからなり、
前記第2プライマーが結合した複数の固相担体が使用され、
前記ステップ2において、エマルジョン1個あたり平均1個以上の前記固相担体と平均1分子以下の前記鋳型核酸とが含まれるようにエマルジョン化する、請求項7に記載の核酸増幅方法。
【請求項9】
前記複数個の鋳型核酸が、複数種類の核酸の集合である、請求項8に記載の核酸増幅方法。
【請求項10】
前記第2プライマーの一部は遊離状態で使用される、請求項8又は9に記載の核酸増幅方法。
【請求項11】
前記プライマーが、PCR用の第1プライマー及び複数種類の第2プライマーからなり、
前記第2プライマーは種類毎に特定の固相担体に結合した状態で使用され、
前記ステップ2において、エマルジョン1個あたり平均1個以下の前記固相担体が含まれるようにエマルジョン化する、請求項7に記載の核酸増幅方法。
【請求項12】
前記プライマーが、PCR用の複数種類のプライマーセットからなり、
前記プライマーセットが種類毎に特定の固相担体に結合した状態で使用され、
前記ステップ2において、エマルジョン1個あたり平均1個以下の前記固相担体が含まれるようにエマルジョン化し、及び
前記ステップ3に先行して以下のステップを実施する、請求項7に記載の核酸増幅方法:
(2-1)前記固相担体から前記プライマーセットを遊離させるステップ。
【請求項13】
前記複数の鋳型核酸が単一種類の核酸の集合からなる、請求項11又は12に記載の核酸増幅方法。
【請求項14】
前記固相担体がビーズ状である、請求項8〜13のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項15】
前記固相担体が磁性ビーズである、請求項8〜13のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項16】
以下のステップを含む、所望の活性を有する核酸の選択方法:
(i)複数種類の鋳型核酸の集合、該鋳型核酸の一部領域にハイブリダイズするPCR用の第1プライマー及び第2プライマー、及びPCR用試薬を含む水性成分を用意するステップであって、前記第2プライマーが結合した複数の固相担体が使用されるステップ、
(ii)前記水性成分、油性成分、及び親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を混合して油中水型エマルジョンを調製するステップであって、エマルジョン1個あたり平均1個以上の前記固相担体と平均1分子以下の前記鋳型核酸とが含まれるようにエマルジョン化するステップ、
(iii)各エマルジョン内でPCR反応を実施するステップ、
(iv)前記エマルジョンを破壊し、エマルジョン内の前記固相担体をまとめて回収するステップ、及び
(v)回収した固相担体の集合から、所望の活性を有する核酸分子が結合した固相担体を選択するステップ。
【請求項17】
前記ステップvが、以下のステップa1〜a4又はステップb1〜b4を含む、請求項16に記載の選択方法:
(a1)回収した複数の固相担体を、各区画に平均1個以下の固相担体が含まれるように区画化するステップ、
(a2)各区画内で無細胞転写反応を進行させるステップ、
(a3)所望の活性を有するmRNAを発現する区画を特定するステップ、及び
(a4)特定された区画に含まれる固相担体を選択するステップ;
(b1)回収した固相担体の集合を、各区画に平均1個以下の固相担体が含まれるように区画化するステップ、
(b2)各区画内で無細胞転写/翻訳反応を進行させるステップ、
(b3)所望の活性を有するペプチドないし蛋白質を発現する区画を特定するステップ、及び
(b4)特定された区画に含まれる固相担体を選択するステップ。
【請求項18】
前記鋳型核酸がそれぞれ、第1結合成分をコードする領域を有し、
前記第1プライマーが、前記第1結合成分に特異的結合性を有する第2結合成分を含み、及び、
前記ステップvが以下のステップc1〜c4を含む、請求項16に記載の選択方法:
(c1)回収した固相担体の集合を、各区画に平均1個以下の固相担体が含まれるように区画化するステップ、
(c2)各区画内で無細胞転写/翻訳反応を進行させるステップ、
(c3)各区画内の固相担体をまとめて回収するステップ、及び
(c4)所望の活性を有するペプチドないし蛋白質が結合した固相担体を選択するステップ。
【請求項19】
前記ステップc1における区画化がエマルジョン化である、請求項18に記載の選択方法。
【請求項20】
界面活性剤として親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤が使用されている、核酸増幅反応用の油中水型エマルジョン。
【請求項21】
以下の手順で作製されることを特徴とする、請求項20に記載の油中水型エマルジョン:
(1)複数個の鋳型核酸、該鋳型核酸の一部領域にハイブリダイズするプライマー、及び核酸増幅反応用試薬を含む水性成分を用意するステップ、
(2)前記水性成分、油性成分、及び親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を混合するステップ。
【請求項22】
油中水型エマルジョン作製用の界面活性剤として親水親油バランス(HLB)が4以下の非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする、核酸増幅反応用キット。
【請求項23】
PCR反応用である、請求項22に記載の核酸増幅反応用キット。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図14】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−211984(P2006−211984A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29809(P2005−29809)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】