説明

エマルジョン燃料

【課題】燃料油、特にA重油または軽油と水を乳化して得られる経時安定性、燃焼性および熱効率に優れ、省エネルギーと環境に配慮したエマルジョン燃料を提供する。
【解決手段】エチレン性不飽和単量体とエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とを含む不飽和単量体組成物をラジカル重合して得られる樹脂、燃料油および水を含有することを特徴とするエマルジョン燃料である。反応性乳化剤は、不飽和単量体組成物中に5質量%〜80質量%含まれることが好ましい。反応性乳化剤を上記範囲で配合して得られる樹脂を用いることで、エマルジョン燃料の経時安定性および燃焼効率をより向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、エマルジョン燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料油に水を分散させたエマルジョン燃料は、燃焼効率の向上やNOの低減効果が実証されており、環境負荷低減の有効な手段として、実用化への取り組みが盛んに行われている。燃料油に水を安定に分散させる手法として、界面活性剤とポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子とを併用することが知られている(例えば、特許文献1〜6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−97788号公報
【特許文献2】特開平6−57268号公報
【特許文献3】特開平6−88082号公報
【特許文献4】特開平6−108071号公報
【特許文献5】特開平6−322382号公報
【特許文献6】特開平7−233381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料油の中でも、大型船舶の内燃機関や工場等の大型ボイラーによく使用されるC重油は、水を取り込みやすい性質があるため比較的水を安定に分散させやすい。そのため、C重油は上記した従来の手法でもエマルジョン燃料にすることができる。
しかしながら、燃料油の中でもA重油や軽油は一般的に水を分散させるのが困難であることから、従来の手法では経時安定性に優れたエマルジョン燃料を得ることができないという問題があった。
従って、本発明の目的は、燃料油、特にA重油または軽油と水を乳化して得られる経時安定性、燃焼性および熱効率に優れ、省エネルギーと環境に配慮したエマルジョン燃料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エチレン性不飽和単量体とエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とを含む不飽和単量体組成物をラジカル重合して得られる樹脂をエマルジョン燃料用の乳化剤として用いることが有効であることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、エチレン性不飽和単量体とエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とを含む不飽和単量体組成物をラジカル重合して得られる樹脂、燃料油および水を含有することを特徴とするエマルジョン燃料である。
本発明において、エチレン性不飽和単量体は、水に対する溶解度が20℃において0質量%〜1.0質量%であるものが好ましく、炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル鎖を有するアルキル(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
本発明において、反応性乳化剤は、前記不飽和単量体組成物中に5質量%〜80質量%含まれることが好ましい。反応性乳化剤は、ノニオン系反応性乳化剤であることが好ましい。
本発明において、樹脂の重量平均分子量は、5,000〜300,000であることが好ましい。また、樹脂は、燃料油と水との合計100質量部に対して0.01質量部〜3.0質量部配合されていることが好ましい。
本発明において、燃料油は、A重油または軽油であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、燃料油、特にA重油または軽油と水を乳化して得られる経時安定性、燃焼性および熱効率に優れ、省エネルギーと環境に配慮したエマルジョン燃料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】横型円筒燃焼器の形状および排ガス温度・ガス分析位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明によるエマルジョン燃料(W/O型)は、燃料油および水に、エチレン性不飽和単量体とエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とを含む不飽和単量体組成物をラジカル重合して得られる樹脂(以下、樹脂と略記する)をエマルジョン燃料用乳化剤として添加したことに特徴がある。この樹脂は、燃料油と水との合計100質量部に対して有効成分換算で(不揮発分として)0.01質量部〜3.0質量部配合されていることが好ましい。樹脂の配合量が0.01質量部未満であると、十分な乳化安定性が得られない場合があり、また、3.0質量部を超えると、経済的に難がある。樹脂のさらに好ましい配合量は0.05質量部〜1.0質量部である。
【0009】
本発明における樹脂の原料となるエチレン性不飽和単量体としては、少なくとも1個の重合可能なビニル基を有するものであればよく、例えば、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキルアミノ(メタ)アクリレート、酢酸ビニルやアルカン酸ビニルに代表されるビニルエステル類、モノオレフィン類(エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等)、共役ジオレフィン類(ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等)、α,β−不飽和モノあるいはジカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等)、カルボキシル基含有ビニル化合物、アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、アクロレインやダイアセトンアクリルアミド等のカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。これらのエチレン性不飽和単量体は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0010】
上記したエチレン性不飽和単量体の中でも、ラジカル重合して得られる樹脂の親水性・疎水性のバランスの点で、水に対する溶解度が20℃において0質量〜1.0質量%であるものが好ましい。このような溶解度を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、n−ブチルアクリレート(溶解度0.2質量%)、イソブチルアクリレート(溶解度0.2質量%)、t−ブチルアクリレート(溶解度0.16質量%)、n−ブチルメタクリレート(溶解度0.6質量%)、2−エチルヘキシルアクリレート(溶解度0.01質量%)、ラウリルアクリート(溶解度0質量%)、ステアリルアクリレート(溶解度0質量%)、シクロヘキシルアクリレート(溶解度0.03質量%)、シクロヘキシルメタクリレート(溶解度0質量%)、スチレン(溶解度0.02質量%)が挙げられる。これらの中でも、2−エチルヘキシルアクリレートのような炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル鎖を有するアルキル(メタ)アクリレート類が好ましい。
【0011】
本発明における樹脂の原料となる反応性乳化剤(上記したエチレン性不飽和単量体は含まない)は、ラジカル重合性を有し(エチレン性不飽和基を有し)且つ乳化剤としての機能も有する公知のものが挙げられる。このような反応性乳化剤は、多数のメーカーから市販されており、例えば、アニオン系反応性乳化剤としては、アデカリアソープSE−10N、SE−20N、SR−10およびSR−20(株式会社ADEKA製)、アクアロン(登録商標)HS−10、HS−20、KH−5およびKH−10(第一工業製薬株式会社製)、エレミノール(登録商標)JS−2およびRS−30(三洋化成工業株式会社製)、アントックスMS−60(日本乳化剤株式会社製)、ラテムル(登録商標)PD−104およびS−180A(株式会社花王製)等のエーテルサルフェート型のアニオン系反応性乳化剤、アデカリアソープPP−70(株式会社ADEKA製)等のリン酸エステル型のアニオン系反応性乳化剤が挙げられる。ノニオン系反応性乳化剤としては、アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、ER−10、ER−20およびER−30(株式会社ADEKA製)、ラテムル(登録商標)PD−420、PD−430およびPD−450(株式会社花王製)、アクアロン(登録商標)RN−10、RN−20、RN−30およびRN−50(第一工業製薬株式会社製)が挙げられる。これらの中でも、乳化力が高くエマルジョン燃料の経時安定性が高まるという理由から、ノニオン系反応性乳化剤が好ましい。
【0012】
本発明では、上記した反応性乳化剤が不飽和単量体組成物中に5質量%〜80質量%含まれることが好ましく、10質量%〜50質量%含まれることがより好ましい。不飽和単量体組成物における反応性乳化剤の含有割合が5質量%未満であると、得られた樹脂をエマルジョン燃料用乳化剤として使用しても乳化力が弱く十分な経時安定性が得られない場合がある。また、80質量%を超えると、得られた樹脂をエマルジョン燃料用乳化剤として使用するとO/W型エマルジョンになりやすく、粘度が著しく高いエマルジョン燃料になる場合がある上に、水の急激な揮発によるミクロ爆発が発生しにくくなり、燃焼効率が低下する場合がある。
【0013】
本発明において、エマルジョン燃料用の乳化剤として用いる樹脂は、エチレン性不飽和単量体と反応性乳化剤とを含む不飽和単量体組成物のラジカル重合によって製造される。ラジカル重合反応時の温度は、特に限定されるものではないが、60℃〜130℃であることが好ましい。反応時間は、特に制限されることはなく、各成分の配合量および反応温度等に応じて適宜調整すればよい。
【0014】
ラジカル重合によって製造される樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、エマルジョン燃料の乳化安定性やエマルジョン燃料作製時の作業性の観点から、5,000〜300,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましい。樹脂の重量平均分子量を調整する際、必要に応じて連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤の具体例としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、β−メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
【0015】
また、本発明における不飽和単量体組成物は、公知の溶媒、重合開始剤、還元剤等を含み得る。
溶媒としては、特に限定されるものではなく、水溶性溶剤、親水性溶剤、疎水性溶剤等が用いられる。これらの具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルアルコール、エチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ターペン、灯油、軽油、重油等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、ラジカル重合の観点から、不飽和単量体組成物に対して20質量%〜400質量%であることが好ましい。
【0016】
重合開始剤としては、不飽和単量体もしくは溶媒に対する溶解性を考慮すると、油溶性重合開始剤を用いることが好ましい。油溶性重合開始剤の具体例としては、例えば、2,2−アゾビス−イソブチロニトリル、2,2−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)等のアゾ系開始剤、t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、アセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の有機過酸化物が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、必要に応じて還元剤を使用することができる。重合開始剤の使用量は、通常、不飽和単量体組成物に対して0.1質量%〜8質量%である。
【0017】
本発明における燃料油としては、石油留分、植物油、廃油等の内燃機関で使用可能なすべての燃料油が挙げられる。好ましくは、軽油、A重油、B重油およびC重油であり、さらに好ましくは軽油およびA重油である。また、本発明のエマルジョン燃料に対する水の含有量は、1質量〜50質量%であることが好ましく、10質量%〜30質量%であることがより好ましい。
【0018】
本発明のエマルジョン燃料は、上記した樹脂、燃料油および水を公知の乳化手段を用いて乳化することにより製造される。樹脂、燃料油および水の混合順序は任意であるが、燃料油と樹脂を混合した後、水を添加して乳化すると安定なエマルジョン燃料が得られやすく好ましい。乳化手段としては、例えば、ホモミキサー、ラインミキサー、超音波乳化等の乳化機や分散機が挙げられる。エマルジョンの粒子径は、より経時安定性の優れたエマルジョン燃料を得る観点から、1μm〜20μmであることが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。製造例、実施例および比較例における各種物性等の測定、エマルジョン燃料の調製は、下記の方法で実施した。
【0020】
(エチレン性不飽和単量体の20℃の水に対する溶解度)
危険物ハンドブック(ギュンター・ホンメル編、新居六郎訳、シュプリンガー・フェアラーク東京出版、1991年発行)に記載のデータを引用した。
【0021】
(不揮発分)
直径5cmのアルミ皿に樹脂約1gを秤量し、110℃で5時間乾燥させ、残分を秤量することで算出した。
【0022】
(粘度)
ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、液温23℃、回転数60rpmにて測定した。
【0023】
(重量平均分子量(M)の測定)
以下の装置を用いて、テトラヒドロフランをキャリアとして、サンプル濃度約0.2質量%、測定時の流量1mL/分で樹脂の重量平均分子量を測定した。
使用機器;ゲルパーミテ−ションクロマトグラフィー
カラム;昭和電工株式会社製 KF−806L
標準試料;ポリスチレン換算
【0024】
(エマルジョン燃料の調製)
エマルジョン燃料製造装置(特開2006−329438号公報の実施例に記載されるものに相当する装置、株式会社エヌ・エフ・ジー製)を用いて、燃料油と水と乳化剤とを混合し、エマルジョン燃料を調製した。本装置は、水と乳化剤とを供給するための体積計量式ポンプ、水と燃料油と乳化剤とを混合するスタティックミキサーと、スタティックミキサーからの混合液をさらに混合して分散液(エマルジョン燃料)を燃焼装置に供給するマグネットカスケードポンプと、マグネットカスケードポンプの下流側から上流側に分散液の一部を還流させるフィードバック部とから構成される。燃料油と乳化剤とは、まずスタティックミキサーにより1次混合され、スタティックミキサーにより1次混合された混合液はマグネットカスケードポンプに送られてさらに2次混合される。マグネットカスケードポンプから吐出されるエマルジョン燃料の一部をポンプの上流側に戻すことにより、ポンプにおける2次混合を促し、直径1μm〜20μmの微細水滴が均一に分散したエマルジョン燃料を調製した。
【0025】
(エマルジョン燃料の粒子径測定)
調製したエマルジョン燃料を顕微鏡により撮影し、燃料油中に分散している水滴500個の平均値を粒子径とした。
【0026】
(エマルジョン燃料の経時安定性)
調製したエマルジョン燃料を23℃で1日放置し、燃料油と水との分離状態を目視により観察し、下記基準に従って評価した。
○:水滴が若干沈降しているが、軽く攪拌することにより再乳化可能
△:水滴同士が凝集・合一し、燃料油と水が部分的に分離
×:燃料油と水が完全に分離
【0027】
(エマルジョン燃料の燃焼性)
調製したエマルジョン燃料の燃焼性を評価するために、以下に示す方法によりエマルジョン燃料の加熱試験を実施した。調製したエマルジョン燃料滴(初期液滴径1.5mm〜1.8mm)をR熱電対(線径100μm)に懸垂し、所定の温度(800℃)に設定した電気炉内に挿入することにより、エマルジョン燃料滴を急速加熱した。加熱中のエマルジョン燃料滴温度の時間変化を測定することができるように、エマルジョン燃料滴を懸垂したR熱電対はデータロガーに接続されている。加熱中のエマルジョン燃料滴の様子を高速度ビデオカメラにより撮影し、ミクロ爆発発生の有無を確認した。エマルジョン燃料滴がミクロ爆発した場合には、撮影した画像および液滴温度の測定結果からミクロ爆発発生時の温度を求めた。
燃料として良好なエマルジョン燃料滴を加熱した場合、エマルジョン燃料中の水滴が急激に蒸発してミクロ爆発と呼ばれる燃料滴の二次微粒化が起こり、燃料滴の燃焼性が向上することが知られている(例えば、F. L. Dryer, “Water addition to practical combustion systems - concepts and applications”, Proceedings of the Sixteenth (International) Symposium on Combustion, p. 279 - 295, 1977を参照)。つまり、ミクロ爆発が発生するエマルジョン燃料は、燃焼性に優れているということが言える。
【0028】
<製造例1>
攪拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器にプロピレングリコールモノメチルエーテル100質量部を仕込み、80℃に昇温した。また、エチレン性不飽和単量体として、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)105質量部、反応性乳化剤として、下記式(1)で表されるα−ヒドロ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)(株式会社ADEKA製、アデカリアソープER−10)45質量部、ラジカル重合開始剤として2,2−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)を均一に溶解するまで攪拌し、不飽和単量体組成物を準備し、これを2時間かけて反応器中に滴下した。なお、滴下中、反応器内の温度は約80℃に保った。滴下終了後、約80℃で1時間保持し、冷却した後、反応器から製造例1の樹脂溶液を取り出した。得られた製造例1の樹脂溶液は、不揮発分57質量%、粘度85mPa・s、重量平均分子量34,800であった。単量体組成および重量平均分子量を表1に示した。
【0029】
<製造例2>
反応性乳化剤を下記式(2)で表されるアクアロンRN−10(第一工業製薬株式会社製)に変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、製造例2の樹脂溶液を得た。得られた製造例2の樹脂溶液は、不揮発分58質量%、粘度180mPa・s、重量平均分子量48,200であった。単量体組成および重量平均分子量を表1に示した。
【0030】
<製造例3>
2−エチルヘキシルアクリレートを105質量部用いる代わりに、2−エチルヘキシルアクリレート75質量部およびスチレン30質量部を用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、製造例3の樹脂溶液を得た。得られた製造例3の樹脂溶液は、不揮発分57質量%、粘度40mPa・s、重量平均分子量18,300であった。単量体組成および重量平均分子量を表1に示した。
【0031】
<製造例4>
2−エチルヘキシルアクリレートの使用量を135質量部に変更し、アデカリアソープER−10の使用量を15質量部に変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、製造例4の樹脂溶液を得た。得られた製造例4の樹脂溶液は、不揮発分59質量%、粘度950mPa・s、重量平均分子量59,000であった。単量体組成および重量平均分子量を表1に示した。
【0032】
<製造例5>
反応性乳化剤であるアデカリアソープER−10を用いず、2−エチルヘキシルアクリレートの使用量を150質量部に変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、製造例5の樹脂溶液を得た。得られた製造例5の樹脂溶液は、不揮発分59質量%、粘度1,800mPa・s、重量平均分子量62,000であった。単量体組成および重量平均分子量を表1に示した。
【0033】
<製造例6>
エチレン性不飽和単量体である2−エチルヘキシルアクリレートを用いず、アデカリアソープER−10の使用量を150質量部に変更した以外は製造例1と同様の操作を行い、製造例6の樹脂溶液を得た。得られた製造例6の樹脂溶液は、不揮発分57質量%、粘度50mPa・s、重量平均分子量2,400であった。単量体組成および重量平均分子量を表1に示した。
【0034】
【化1】

【0035】
【化2】

【0036】
<実施例1>
市販のA重油80.7質量部、製造例1の樹脂溶液0.89質量部(不揮発分として約0.51質量部)および水19.3質量部の割合でエマルジョン燃料を調製した。評価結果を表2に示した。
【0037】
<実施例2>
市販のA重油80.1質量部、製造例1の樹脂溶液0.20質量部(不揮発分として約0.11質量部)および水19.9質量部の割合でエマルジョン燃料を調製した。評価結果を表2に示した。
【0038】
<実施例3>
市販のA重油80.2質量部、製造例3の樹脂溶液0.20質量部(不揮発分として約0.11質量部)および水19.8質量部の割合でエマルジョン燃料を調製した。評価結果を表2に示した。
【0039】
<実施例4>
市販のA重油80.4質量部、製造例4の樹脂溶液0.20質量部(不揮発分として約0.12質量部)および水19.6質量部の割合でエマルジョン燃料を調製した。評価結果を表2に示した。
【0040】
<実施例5>
市販のA重油69.6質量部、製造例1の樹脂溶液1.14質量部(不揮発分として約0.65質量部)および水30.4質量部の割合でエマルジョン燃料を調製した。評価結果を表2に示した。
【0041】
<実施例6>
市販のA重油79.7質量部、製造例2の樹脂溶液0.97質量部(不揮発分として約0.56質量部)および水20.3質量部の割合で、上記乳化方法にてエマルジョン燃料を調製した。評価結果を表2に示した。
【0042】
<比較例1>
市販のA重油80.0質量部、製造例5の樹脂溶液1.00質量部(不揮発分として約0.59質量部)、水20.0質量部の割合でエマルジョン燃料を調製しようと試みたが、乳化せず直ぐにA重油と水に分離した。評価結果を表3に示した。
【0043】
<比較例2>
市販のA重油80.4質量部、油剤用乳化剤としてソルビタンモノオレート(HLB4.3)0.99質量部および水19.6質量部の割合でエマルジョン燃料を調製した。評価結果を表3に示した。
【0044】
<比較例3>
市販のA重油80.0質量部、製造例6の樹脂溶液1.00質量部(不揮発分として約0.59質量部)および水20.0質量部の割合でエマルジョン燃料を調製しようと試みたが、乳化せず直ぐにA重油と水に分離した。評価結果を表3に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
以上の結果より、実施例1〜3および実施例5のエマルジョン燃料は、経時安定性および燃焼特性が共に優れていることが分かった。実施例4および6のエマルジョン燃料は、実施例1〜3よりも経時安定性が若干低下するものの実用上問題ないレベルであった。これに対し、比較例1および3では、A重油と水を乳化することができなかった。また、比較例2のエマルジョン燃料は、乳化直後の粒子径は小さいものの、粒子が不安定なため凝集が起こり、経時安定性の劣るものであった。さらに、比較例2のエマルジョン燃料では、ミクロ爆発も確認されず、燃焼性も劣るものであった。
【0049】
(燃焼試験による排ガス組成の測定および熱効率の算出)
エマルジョン燃料(またはA重油単独)を用いて、図1に示すような横型円筒燃焼器(内径φ312mm、全長1783mm)で燃焼試験を行った。この横型円筒燃焼器において、エマルジョン燃料(またはA重油単独)は6穴の二流体ノズルにより噴霧され、燃焼用空気はノズル周りのスワラーを通して燃焼器内に供給される。エマルジョン燃料(またはA重油単独)の供給量は10L/時間とし、排ガス温度およびガス組成を測定した。排ガス温度は、図1に示すT2の位置においてK型シース熱電対により測定し、排ガス中のO2、CO、CO2、NOおよびNO2濃度は、図1に示すT2の位置において燃焼排ガス分析計(TESTO 350XL、株式会社テストー製)により測定した。また、投入した燃料の発熱量に対する排ガスの保有する熱量より熱効率を算出した。
【0050】
<実施例7>
市販のA重油88.8質量部、製造例1の樹脂溶液0.3質量部(不揮発分として約0.17質量部)および水11.2質量部の割合でエマルジョン燃料を作製し、横型円筒燃焼器により燃焼試験を行った。試験結果を表4に示した。
【0051】
<実施例8>
市販のA重油77.8質量部、製造例1の樹脂溶液0.3質量部(不揮発分として約0.17質量部)および水22.2質量部の割合でエマルジョン燃料を作製し、横型円筒燃焼器により燃焼試験を行った。試験結果を表4に示した。
【0052】
<比較例4>
市販のA重油を用いて、横型円筒燃焼器により燃焼試験を行った。試験結果を表4に示した。
【0053】
【表4】

【0054】
燃焼試験結果より、実施例7および8のエマルジョン燃料は、比較例4のA重油単独よりも熱効率に優れ、排ガス中のNOx濃度が低下することが示され、省エネルギーと環境に配慮したものであると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体とエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とを含む不飽和単量体組成物をラジカル重合して得られる樹脂、燃料油および水を含有することを特徴とするエマルジョン燃料。
【請求項2】
前記反応性乳化剤が、前記不飽和単量体組成物中に5質量%〜80質量%含まれることを特徴とする請求項1に記載のエマルジョン燃料。
【請求項3】
前記樹脂の重量平均分子量が、5,000〜300,000であることを特徴とする請求項1または2に記載のエマルジョン燃料。
【請求項4】
前記反応性乳化剤が、ノニオン系反応性乳化剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエマルジョン燃料。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和単量体の水に対する溶解度が、20℃において0質量%〜1.0質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のエマルジョン燃料。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和単量体が、炭素数4以上の直鎖状または分岐鎖状のアルキル鎖を有するアルキル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項5に記載のエマルジョン燃料。
【請求項7】
前記樹脂が、燃料油と水との合計100質量部に対して0.01質量部〜3.0質量部配合されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のエマルジョン燃料。
【請求項8】
前記燃料油が、A重油または軽油であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のエマルジョン燃料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−249638(P2009−249638A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97027(P2009−97027)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【分割の表示】特願2008−95143(P2008−95143)の分割
【原出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【出願人】(502452576)株式会社エヌ・エフ・ジー (3)
【Fターム(参考)】