説明

エレクトレットシートの製造方法

【課題】 本発明は従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、生産効率を上昇させ、エネルギーコストも低く押さえることのできるエレクトレットシートの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の課題を解決するための手段は、熱可塑性樹脂からなるシート状物を少なくとも2枚以上重ねた状態で、極性液体を介して超音波振動を作用させて、前記シート状物を2枚以上同時にエレクトレット化することを特徴とするエレクトレットシートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルタやワイパーなどに好適に用いるエレクトレットシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気体中の塵埃等を除去するために、不織布からなる濾過材が使用されている。この不織布濾過材は主として物理的作用によるブラウン拡散、遮り、慣性衝突などによって塵埃等を除去するものであるため、不織布濾過材を構成する繊維の直径を小さくすれば、より小さな塵埃等を捕捉し、除去できるため、濾過効率を高めることができる。しかしながら、不織布濾過材を構成する繊維の直径を小さくすればするほど、圧力損失が大きくなり、不織布濾過材の寿命が短くなるという問題があった。
【0003】
この問題点を解決する方法として、不織布濾過材をエレクトレット化し、物理的作用に加えて静電気的作用を利用することにより、濾過効率と圧力損失の両立を図るという試みがなされている。このエレクトレット化方法として、例えば、コロナ帯電させる方法、不織布に対して水流を衝突させる方法などが知られている。
【0004】
しかしながら、前者のコロナ帯電させる方法では帯電量を十分に多くすることが困難であり、後者の水流の衝突による方法では水流の衝突によって不織布構成繊維が絡んでしまい、繊維配向が変わってしまうため、開口が形成されやすく、エレクトレット化による濾過効率と圧力損失を両立する不織布濾過材の設計が難しいなどの難点があった。
【0005】
そこで、本出願人は、特許文献1に、熱可塑性樹脂からなるシート状の構造体に対して、極性液体を介して超音波振動を作用させて、前記構造体をエレクトレット化させることを要旨とするエレクトレット体の製造方法を提案した。また、特許文献2に、熱可塑性樹脂からなるシート状の構造体に対し、極性液体を介して超音波振動を作用させてエレクトレット体を製造するに当たり、超音波発振部材と、これに対向して設けられた規制部材との距離を、前記構造体の20(g/cm)の圧縮荷重下における厚さの150倍未満としたことを要旨とするエレクトレット体の製造方法を提案した。
【0006】
しかし、これらの方法では、シート状の構造体に極性液体を均一に含ませる必要があり、生産速度を上昇させると、シート状の構造体に極性液体を均一に分散させることができなかったり、気泡が混入するなどの問題があり、生産速度を大きく上昇させることが困難であった。また、生産速度を上昇させると、シート状の構造体の巾方向に超音波振動を均一に作用させることが困難になるという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−205210号公報
【特許文献2】特開2005−29944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述のような点を解決するためになされたものであって、生産効率を上昇させ、エネルギーコストも低く押さえることのできるエレクトレットシートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決するための手段は、熱可塑性樹脂からなるシート状物を少なくとも2枚以上重ねた状態で、極性液体を介して超音波振動を作用させて、前記シート状物を2枚以上同時にエレクトレット化することを特徴とするエレクトレットシートの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、生産効率を上昇させ、エネルギーコストも低く押さえることのできるエレクトレットシートの製造方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のエレクトレットシートの製造方法では、熱可塑性樹脂からなるシート状物を少なくとも2枚以上重ねた状態で、極性液体を介して超音波振動を作用させる。前記シート状物とは、可とう性のある薄い板状物であれば特に限定されず、例えば織物、編物、不織布などの繊維からなる多孔質素材、樹脂フィルム、微孔性の樹脂フィルムなどが適用できる。本発明の製造方法では、これらの中でも濾過材などとして機能性に富む不織布が好適である。また、前記シート状物の厚さは0.05〜5mmであることが好ましく、0.1〜2mmであることがより好ましく、0.1〜1mmであることが更に好ましい。ここで、厚さとは、20(g/cm)圧縮荷重下での厚さであり、JIS L 1096の「一般織物試験方法」に準じて測定された値である。
【0012】
前記熱可塑性樹脂とは、熱可塑性の樹脂である限り特に限定されることはなく、濾過特性などに有効な帯電量を付与する目的で、1014(Ω・cm)以上の体積固有抵抗値、より好ましくは1016(Ω・cm)以上の体積固有抵抗値を示すものが好適である。尚、この体積固有抵抗値の上限は特に限定されない。また、この体積固有抵抗値とは、JIS K 6911に定められる「熱硬化性プラスチック一般試験法」に準じた、3端子法による絶縁抵抗試験で用いられる「体積固有抵抗値測定装置」によって測定して得られる数値を言う。上記体積固有抵抗値に該当する熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂など)、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン系樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂は特に体積固有抵抗値が高く、しかも繊維等への加工性に優れることから好適に用いられ、特にポリプロピレン系樹脂、或いはポリメチルペンテン系樹脂は耐熱性に優れるため、濾過材として好適なエレクトレットシートとすることができる。
【0013】
さらに、前記熱可塑性樹脂として、その帯電状態を安定して、より多くの電荷を帯びる様に、ヒンダードアミン系化合物、脂肪族金属塩(例えばステアリン酸のマグネシウム塩、ステアリン酸のアルミニウム塩など)、不飽和カルボン酸変性高分子のうちから選ばれた1種または2種以上の化合物を含有させることもできる。これら一連の化合物の中でも、ヒンダードアミン系化合物は、帯電量が多くなる点で特に好ましい。
【0014】
このようなヒンダードアミン系化合物の具体例として、ポリ[{(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル){(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}}、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)などを挙げることができる。
【0015】
このようなシート状積層物14に対して帯電性を高めることが可能な前記化合物の含有量は特に限定されるものではないが、前記シート状物若しくは得られるエレクトレットシートを構成する熱可塑性樹脂の全質量に対して、0.01〜8(mass%)の重量で含有されていることが望ましい。前記化合物の含有量が0.01(mass%)未満では、添加による帯電特性への効果が小さい傾向にあり、0.05(mass%)以上の含有量とするのが好ましい。また、前記含有量が8(mass%)を超えた場合、シート状物若しくはエレクトレットシートを構成する繊維等の強度が著しく低下する傾向にあり、より好ましくは前記含有量を5(mass%)以下とするのが好適である。
【0016】
本発明に適用される極性液体としては、電気伝導率をより低いものを用いるのが好ましい。ここに云う電気伝導率とはJIS K 0101「工業用水試験方法」、或いはJIS K 0552「超純水の電気伝導率試験方法」に規定された測定法で得られる数値を言う。極性液体としては、例えば水、アルコール、アセトン、アンモニアが溶解した水などを挙げることができるが、特に水は、エレクトレット化に際しての作業環境に優れること、並びに、エレクトレットシートを調製する最終段階での乾燥に際して引火ないしは発火を回避し得る点から好適である。
【0017】
なお、本発明において、熱可塑性樹脂からなるシート状物の好適な一例として、比較的細い繊維径からなる濾過材に広く用いられているメルトブロー技術で調製された不織布を挙げることができる。このメルトブロー不織布は、濾過特性の設計上、所定の繊維径分布とすることができる。また、前記不織布は繊維同士の絡合状態が比較的緩く、物理的な外力に対する繊維の動きが比較的大きいとされている。従って、極性溶媒との接触摩擦によって帯電するエレクトレット化技術のうち、例えば高圧水流との接触摩擦による従来技術に比べ、本発明による製造方法では、巨視的には極性溶媒の動きが小さい超音波振動による帯電が可能であるため、エレクトレット化を受けた後の品位低下や、所定の濾材設計が変わってしまう現象を効果的に回避することができる。
【0018】
次に、本発明のエレクトレットシートの製造方法について、本発明のエレクトレットシートを製造することのできる製造装置の模式的断面図である図1〜図3を参照しながら説明する。なお、図1〜図3において、同じ符号は同じ又は類似の部品を示している。
【0019】
まず、図1においては、供給ロール10からエレクトレット化されるべき熱可塑性樹脂からなる2枚以上重なったシート状積層物14を極性液体浴槽30へ供給する。なお、図1においては、シート状積層物14はロール状に巻かれた状態から巻き出して極性液体浴槽30へ供給しているが、シート状積層物14の製造装置からロール状に巻くことなく、直接、極性液体浴槽30へ供給しても良い。また、図1においては、シート状積層物14はロールによって搬送して極性液体浴槽30へ供給しているが、ロールに替えてコンベアなどの搬送装置によって搬送しても良い。
【0020】
また、図1においては、供給ロール10からロール状に巻かれたシート状積層物14を極性液体浴槽30へ供給しているが、図6に例示するように、熱可塑性樹脂からなるシート状物14aおよび14bをそれぞれ別の供給ロール10aおよび10bから巻き出した後、これらのシート状物14aおよび14bを重ねたシート状積層物14を極性液体浴槽30へ供給することも可能である。なお、図6では、2枚のシート状物14aおよび14bを示しているが、3枚以上のシート状物を3台以上の供給ロールを用いて巻き出した後、これらのシート状物を重ねたシート状積層物14とすることも可能である。
【0021】
このように、前記シート状物を重ねる枚数には、特に制限はないが、作業性および制御のし易さを考慮すると2〜5枚が好ましく、2〜3枚がより好ましい。また、前記シート状物を重ねてなるシート状積層物14の厚さは、0.1〜10mmであることが好ましく、0.1〜4mmであることがより好ましく、0.1〜2mmであることが更に好ましい。また、異なる材質、異なる面密度または異なる厚さのシート状物を重ねることも可能であるが、同一の製品を効率良く生産するには、同じ材質、同じ面密度または同じ厚さのシート状物を重ねることが好ましい。
【0022】
次いで、このように極性液体浴槽30へ供給したシート状積層物14を極性液体浴槽30の極性液体32中へ浸漬して、シート状積層物14に極性液体32を担持させる。なお、シート状積層物14に効率よく極性液体32を担持させるために、また、シート状積層物14中に残存する空気を排除し、特にシート状積層物14の各シート状物の層間に含まれる空気を排除し、より良好な帯電処理を実現するため、含浸装置(例えば、Rodney Hunt社のサチュレーター)などを備えていることも可能である。
【0023】
次いで、この極性液体32を担持したシート状積層物14を超音波振動発生装置20へ供給し、この超音波振動発生装置20により超音波振動を作り出し、この超音波振動を極性液体32を介してシート状積層物14へ伝え、シート状積層物14をエレクトレット化させる。この時、シート状積層物14が極性液体32を担持していないと、超音波振動発生装置20によって作り出された超音波振動が、シート状積層物14の内部へ十分に伝わりにくいため、超音波振動がシート状積層物14の内部まで伝わるように、シート状積層物14に十分な量の極性液体32を担持させるのが好ましい。この極性液体32の量はシート状積層物14の種類によって異なるが、実験を繰り返すことにより、適宜設定することができる。
【0024】
この超音波振動発生装置20は一般的に知られているものでよく、図1においては、パワーユニット22、変換機24、ブースター26、ホーン28から構成されている。この超音波振動発生装置20においては、パワーユニット22で発生させた電気エネルギーを変換機24により、変換機24に入力された電気エネルギーの大きさに合わせて機械的な振動を生じさせ、変換機24で作り出された振動は機械的な動きをするブースター26に伝達され、この伝達された機械的振動の振幅がブースター26により増幅され、この増幅された振動が、さらにホーン28へと伝達されて、超音波振動を発生させる。本発明における超音波振動の発生方法はこの方法に限定されるものではなく、超音波振動を発生させることのできる方法であればよい。なお、ホーン28の形状は、シート状積層物14のエレクトレット化に最適なように適宜改良することができる。例えば、ホーン28とシート状積層物14との接触面積を大きくしたり、小さくすることができる。
【0025】
また、図1においては、超音波振動発生装置20によりシート状積層物14に対して超音波振動を1回作用させているが、2回以上作用させても良い。このように2回以上超音波振動を作用させる場合には、例えば、2台以上の超音波振動発生装置20を設置したり、1台の超音波振動発生装置20にシート状積層物14を繰り返し供給して実施することができる。なお、超音波振動を2回以上作用させる場合には、シート状積層物14を極性液体浴槽30へ供給するなどの極性液体32の担持を、超音波振動を作用させる前に実施するのが好ましい。つまり、極性液体32の担持と超音波振動を繰り返し作用させるのが好ましい。この極性液体32の担持も、2つ以上の極性液体浴槽30を設置したり、1つの極性液体浴槽30に繰り返し供給して実施することができる。
【0026】
次いで、図1においては、このように前記シート状物を2枚以上同時にエレクトレット化させたシート状積層物14を乾燥装置60へ供給し、乾燥して、本発明のエレクトレットシートを形成し、その後、巻き取りロール12により巻き取る。この乾燥装置60での乾燥温度は、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。なお、エレクトレットシートは巻き取りロール12で巻き取ることなく、次の後処理工程へと供給しても良い。また、図1においては乾燥装置60を設置しているが、超音波振動発生装置20によりシート状積層物14をエレクトレット化させると共に、超音波振動によりシート状積層物14から極性液体32を除去して乾燥することもできる。この場合、乾燥装置60は必ずしも必要ではない。なお、この超音波振動による乾燥条件は、例えば、シート状積層物14の種類、シート状積層物14による極性液体32の担持量、極性液体32の種類などによって異なるため、特に限定できるものではない。なお、この超音波振動による乾燥条件は、実験を繰り返すことによって適宜設定することができる。
【0027】
また、図1においては、乾燥装置60で乾燥して得られたエレクトレットシートの積層物を巻き取りロール12により巻き取っているが、図7に例示するように、エレクトレットシートの積層物15をエレクトレットシート15aおよび15bに分離して、それぞれ別の巻き取りロール12aおよび12bで巻き取ることも可能である。なお、図7では、2枚のエレクトレットシート15aおよび15bを示しているが、3枚以上のエレクトレットシートを3台以上の巻き取りロールで巻き取ることも可能である。また、図8に例示するように、エレクトレット化されたシート状積層物14をエレクトレット化されたシート状物14aと14bとに分離した後、それぞれのシート状物を一つの乾燥装置60の上段部と下段部へ通して、それぞれ別個に乾燥して、それぞれエレクトレットシート15aおよび15bとして、それぞれ別の巻き取りロール12aおよび12bで巻き取ることも可能である。このようにすれば、乾燥効率を向上させることができる。
【0028】
次に、図2におけるエレクトレットシートの製造方法においては、極性液体32を介在させる方法のみが、図1におけるエレクトレットシートの製造方法と相違するため、この点に関してのみ説明する。
【0029】
図2においては、図1のようにシート状積層物14を極性液体浴槽30へ供給してシート状積層物14に極性液体32を担持させるのに替えて、シート状積層物14に極性液体32を供給できる極性液体付与装置40(例えば、フローコーターなど)を備えており、この極性液体付与装置40から極性液体32をシート状積層物14に供給した地点で、極性液体32を介して超音波振動を作用させている。このエレクトレットシートの製造方法においても、図1の場合と同様に、超音波振動発生装置20により作り出した超音波振動を極性液体32を介してシート状積層物14へ伝え、シート状積層物14をエレクトレット化させる。
【0030】
なお、図2においては、極性液体32を供給した地点で、極性液体32を介して超音波振動を作用させているが、極性液体32を供給した地点よりも後で極性液体32を介して超音波振動を作用させると、図1と同様に、シート状積層物14が極性液体32を担持した状態で超音波振動を作用させることができる。
【0031】
また、図2においては、一対の極性液体付与装置40と超音波振動発生装置20とを設置しているが、これら二対以上設置して、2回以上超音波振動を作用させてもよい。なお、極性液体付与装置40と超音波振動発生装置20とは必ずしも対で用いられる必要はないし、極性液体付与装置40と超音波振動発生装置20とは必ずしも、交互に設置されている必要もない。例えば、1つの極性液体付与装置40により極性液体32を供給した後、2つ以上の超音波振動発生装置20により2回以上超音波振動を作用させてもよい。
【0032】
次に、図3におけるエレクトレットシートの製造方法においては、極性液体32を介在させる方法のみが、図1におけるエレクトレットシートの製造方法と相違するため、この点に関してのみ説明する。
【0033】
図3においては、図1のようにシート状積層物14を極性液体浴槽30へ供給してシート状積層物14に極性液体32を担持させるのに替えて、シート状積層物14を極性液体浴槽30の極性液体中に浸漬した状態で、極性液体32を介して超音波振動を作用させている。このエレクトレットシートの製造方法においても、図1の場合と同様に、超音波振動発生装置20により作り出した超音波振動を極性液体32を介してシート状積層物14へ伝え、シート状積層物14をエレクトレット化させる。
【0034】
図3においては、一対の極性液体浴槽30と超音波振動発生装置20を設置して、1回だけ超音波振動を作用させているが、二対以上設置して、2回以上超音波振動を作用させてもよい。また、図3においては、1機の極性液体浴槽30中に、1台の超音波振動発生装置20を設置しているが、1機の極性液体浴槽30中に超音波振動発生装置20を2台以上設置してもよい。
【0035】
また、図3において、超音波を発振する超音波発振部材であるホーン28と、これに対向して規制部材33を設けてなる図4の形態とすることも好ましい。また、超音波発振部材28と規制部材33との距離を調節固定するための可変固定手段を設ける構成となっている。また、この場合、超音波発振部材28と規制部材33との距離は、前記シート状積層物14の20(g/cm)の圧縮荷重下における厚さの150倍未満とすることが好ましい。このような構造により、超音波発振部材28と、これに対向する規制部材33との間で極性液体の超音波による振動が効率的にシート状積層物14に伝わり、前記極性液体によって優れた帯電効果を実現することができる。
【0036】
また、図4の要部を説明した図5に示すように、規制部材33と超音波発振部材28とは、シート状積層物14を搬送しながら処理する領域として、距離Dを以って対向配置されている。この距離Dは、前述したシート状積層物14の20(g/m)圧縮荷重下での厚さに応じて種々に調節固定されるものである。このような調節固定に際しては、規制部材33と超音波発振部材28との一方または双方に、例えばラック(鋸歯状の刻みを設けた直線状の部品)と歯車とを組み合わせた、図示していない可変固定手段を設け、特定のシート状積層物14に対しては上記部材間の距離Dを固定すると共に、搬送部材18a及び18bと協働して、搬送処理されているシート状積層物14と、規制部材33及び/または超音波発振部材28との接触によるシート状積層物14の損傷を回避することが可能となる。
【0037】
なお、規制部材33と超音波発振部材28との搬送方向に渡る寸法は、周知の通り、超音波が超音波発振部材28の端面から略放射状に伝搬するため、必ずしも対向する面の寸法を一致させて配設する必要はない。これと同様に、シート状積層物14の幅(図示紙面奥行き方向に渡る寸法)と、規制部材33及び/または超音波発振部材28との寸法関係も種々に選択することができる。また、規制部材33の好適な形態として、平板状の部材を例示したが、所定の曲率を有する円柱状、または楕円状のロール形状として配設することもできる。
【0038】
なお、本発明では、図1〜図3に示すようなエレクトレット化させる手段を併用することができる。つまり、(1)図1のように、シート状積層物14に極性液体32を担持させた後に、極性液体32を介して超音波振動を作用させて、シート状積層物14をエレクトレット化させる手段、(2)図2のように、シート状積層物14に極性液体32を供給した地点で、極性液体32を介して超音波振動を作用させて、シート状積層物14をエレクトレット化させる手段、(3)図3のように、シート状積層物14を極性液体中に浸漬した状態で、極性液体32を介して超音波振動を作用させて、シート状積層物14をエレクトレット化させる手段、を併用することができる。例えば、シート状積層物14を極性液体浴槽30へ供給して極性液体32を担持させた後に、極性液体32を介して超音波振動を作用させて、シート状積層物14を1度エレクトレット化させた後、このシート状積層物14に極性液体付与装置40から極性液体32を供給した地点で、極性液体32を介して超音波振動を再度作用させて、シート状積層物14を再度エレクトレット化させてエレクトレットシートを製造することができる。
【0039】
本発明のエレクトレットシートの製造方法によって製造したエレクトレットシートは、帯電量の多いものであるため、例えば、空気などの気体フィルタ用濾過材、オイルや水などの液体フィルタ用濾過材、成型マスクなどのマスク用濾過材、ワイピング材、防塵衣料、音波又は振動の検出素子などの各種用途に使用することができる。
【0040】
また、本発明のエレクトレットシートは上記のような用途に好適に使用できるものであるが、各種用途に適合するように、各種後加工を実施することができる。例えば、エレクトレットシートを好適である濾過材として使用する場合、襞折り加工を実施して濾過面積を広くするのが好ましい。
【0041】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本願発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
(エレクトレットシートの評価方法)
エレクトレットシートの評価に当たっては、粒径0.3(μm)のDOP(フタル酸ジオクチル)粒子を用い、面風速5.3(cm/秒)の条件で捕集効率E(%)を測定した。また、評価結果として、捕集効率測定試験開始前、面風速5.3(cm/秒)の条件での圧力損失ΔP(Pa)と捕集効率E(%)とから、次の数式1(但し「ln」は自然対数)に基いてγ値を算出し、その百倍の値として100γを得た。
γ=−ln(1−E/100)/ΔP
一般に、この値が大きいほど捕集効率に優れ、しかも圧力損失が低い濾過特性を持つ。
【0043】
(実施例1)
実施例1では、図3〜5に示す製造装置を用いてエレクトレットシートを作製した。
まず、熱可塑性樹脂から成るシート状積層物14として、体積固有抵抗値が1016程度(Ω・cm)である市販のポリプロピレン樹脂に対して、市販のヒンダードアミン『CHIMASSORB 944FDL』(チバ・スペシャルティーケミカルズ株式会社製,登録商標)を樹脂全体の4.0(mass%)含むメルトブロー不織布(面密度25(g/m)、厚さ0.34mm)を調製し、熱可塑性樹脂からなるシート状物を得た。次いで、このようにして得られたシート状物を2枚重ねてシート状積層物14として、ロール状に巻いた供給ロール10を準備した。
次いで、供給ロール10からシート状積層物14を極性液体浴槽30へ供給した。なお、この極性液体浴槽30には、極性液体32として電気伝導度が17.3(MΩ・cm)、温度25(℃)の純水(蒸留、イオン交換を経た二次蒸留水に相当)を収容してあり、図4及び5に示す規制部材20を配置した。また、この規制部材33と超音波発振部材28との距離Dを2.0mmに設定した。また、超音波発生装置20としては、定格出力1100(W)の市販装置を用いた。
次いで、シート状積層物14の搬送速度を7(m/min)として、超音波発生装置20により、周波数20.0kHzの超音波振動を作用させた。また、超音波発振部材28から発生する超音波の振幅を20.0(μm)とした。
次いで、このように前記シート状物を2枚同時にエレクトレット化させたシート状積層物14を乾燥装置60へ供給し、乾燥した後、エレクトレットシートが2枚積層した状態で巻き取りロール12により巻き取った。この乾燥装置60での乾燥温度は、80℃であった。
次いで、2枚積層した状態エレクトレットシートを分離して実施例1a及び実施例1bのエレクトレットシートとした。なお、用いたシート状は比較的面密度が小さく、形態安定性に劣るため変形し易いものであったが、2枚積層することにより、形態安定性に優れエレクトレット化に際して、加工性に優れていた。これらのエレクトレットシートの評価結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
実施例1において、シート状物を2枚重ねたシート状積層物14の替わりに、シート状物を1枚を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、エレクトレットシートを得た。このエレクトレットシートの評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
上記表1からも理解できるように、本発明の方法により得られた実施例1a及び実施例1bのエレクトレットシートは、従来技術である比較例1のエレクトレットシートと対比して、同等の物性であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のエレクトレットシートを製造することのできる製造装置の模式的断面図
【図2】本発明のエレクトレットシートを製造することのできる別の製造装置の模式的断面図
【図3】本発明のエレクトレットシートを製造することのできる更に別の製造装置の模式的断面図
【図4】図3の製造装置の別の例を示す模式的断面図
【図5】図4の製造装置の要部拡大図
【図6】図1〜4の製造装置の巻き出し部における別の例を示す模式的断面図
【図7】図1〜4の製造装置の巻き取り部における別の例を示す模式的断面図
【図8】図1〜4の製造装置の巻き取り部における別の例を示す模式的断面図
【符号の説明】
【0048】
10、10a、10b 供給ロール
12、12a、12b 巻き取りロール
14 シート状積層物
14a、14b シート状物
15、15a、15b エレクトレットシート
18a、18b 搬送部材
20 超音波振動発生装置
22 パワーユニット
24 変換機
26 ブースター
28 ホーン(超音波発振部材)
30 極性液体浴槽
32 極性液体
33 規制部材
40 極性液体付与装置
60 乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるシート状物を少なくとも2枚以上重ねた状態で、極性液体を介して超音波振動を作用させて、前記シート状物を2枚以上同時にエレクトレット化することを特徴とするエレクトレットシートの製造方法。
【請求項2】
2枚以上の前記シート状物が同じシート状物であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットシートの製造方法。
【請求項3】
エレクトレット化させる手段が、下記(1)〜(3)の中から選ばれる少なくとも1つの手段であることを特徴とする、請求項1記載のエレクトレットシートの製造方法。

(1)熱可塑性樹脂からなるシート状物を少なくとも2枚以上重ねた積層体に極性液体を担持させた後に、極性液体を介して超音波振動を作用させて、前記シート状物をエレクトレット化させる手段。
(2)熱可塑性樹脂からなるシート状物を少なくとも2枚以上重ねた積層体に極性液体を供給した地点で、極性液体を介して超音波振動を作用させて、前記シート状物をエレクトレット化させる手段。
(3)熱可塑性樹脂からなるシート状物を少なくとも2枚以上重ねた積層体を極性液体中に浸漬した状態で、極性液体を介して超音波振動を作用させて、前記シート状物をエレクトレット化させる手段。
【請求項4】
前記シート状物が、体積固有抵抗値が1014Ω・cm以上の熱可塑性樹脂からなるシート状物であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のエレクトレットシートの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂中に、ヒンダードアミン系化合物、脂肪酸金属塩、不飽和カルボン酸変性高分子の中から選ばれる化合物を含有していることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のエレクトレットシートの製造方法。
【請求項6】
前記極性液体が水であることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のエレクトレットシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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