説明

エレクトロクロミックミラー

【課題】反射膜に銀を用いても、エレクトロクロミック膜の変色が抑制されたエレクトロクロミックミラーを得る。
【解決手段】本エレクトロクロミックミラー10では、エレクトロクロミック膜16と、銀を含む導電性反射膜18と、仕事関数が銀以下である金属からなる保護膜36とを設けているため、エレクトロクロミック膜16への銀の拡散が抑制され、エレクトロクロミック膜16の黄変を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の後方確認用としてアウタミラーやインナミラーに用いられて電圧を印加することにより反射率を可変できるエレクトロクロミックミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたエレクトロクロミックミラーでは、エレクトロクロミック膜と反射膜の間に透明なリチウムイオン透過膜が設けられている。これにより反射膜に含まれる銀がエレクトロクロミック膜に拡散することを防止し、エレクトロクロミック膜が着色することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−8747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エレクトロクロミック膜の着色は抑制できるものの、透明なリチウムイオン透過膜は一般に導電性が低く、十分な着色消色性を得ることが難しい場合があった。
本発明は、上記事実を考慮して、着色消色性を良好に保ちつつエレクトロクロミック膜の変色が抑制されたエレクトロクロミックミラーを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明にかかるエレクトロクロミックミラーは、還元反応することで着色されるエレクトロクロミック膜と、前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向一方の側に形成されて前記エレクトロクロミック膜を透過した光を反射すると共に導電性を有し、銀または銀を含む合金により形成された導電性反射膜と、前記導電性反射膜の厚さ方向一方の側で前記エレクトロクロミック膜とは反対側に設けられ、仕事関数が銀以下である金属を含んで形成された保護膜と、前記保護膜の厚さ方向一方の側で前記導電性反射膜とは反対側に設けられた導電性を有する導電性膜と、前記導電性膜の前記導電性反射膜の側で活性炭を含めて形成された導電性を有するカーボン膜と、リチウムイオンを含めて構成されて前記保護膜と前記導電性膜との間に封入され、前記導電性膜を正とし、前記導電性反射膜または前記保護膜を負として電圧を印加することで前記リチウムイオンが前記エレクトロクロミック膜の側へ移動して、前記エレクトロクロミック膜の還元反応に供される電解液と、を備えている。
【0006】
請求項1に記載の本発明にかかるエレクトロクロミックミラーでは、仕事関数が銀以下である金属を含めて形成された保護膜により、エレクトロクロミック膜への銀イオンの拡散を抑制し、エレクトロクロミック膜の変色が抑制される。
【0007】
請求項2に記載の本発明にかかるエレクトロクロミックミラーは、請求項1に記載の本発明において、前記銀よりも仕事関数が小さい金属は、モース硬度が4以下であることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の本発明にかかるエレクトロクロミックミラーでは、モース硬度が4以下の金属を含んで形成された保護膜により、前記導電性反射膜の耐久性が向上し、導電性反射膜の白濁化が抑制される。
【0009】
請求項3に記載の本発明にかかるエレクトロクロミックミラーは、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記銀よりも仕事関数が小さい金属は、ビスマスまたはスズであることを特徴としている。
【0010】
請求項3の本発明にかかるエレクトロクロミックミラーでは、ビスマスまたはスズを含んで形成された保護膜により、前記導電性反射膜の耐久性がさらに向上し、導電性反射膜の白濁化がより効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明にかかるエレクトロクロミックミラーでは、エレクトロクロミック膜の変色が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のエレクトロクロミックミラーの構成例の概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1には本発明にかかるエレクトロクロミックミラーの構成の一例が概略的な断面図により示されている。
図1に示されるように、エレクトロクロミックミラー10は表面側基板12を備えている。表面側基板12はガラス等により形成された透明の基板本体14を備えている。前記基板本体14を構成する材質は、ミラーの表面を構成するのに適する透明性(透光性)を有するものであれば特に制限はない。例えば、ガラス(無機ガラス)や樹脂を挙げることができる。
【0014】
この基板本体14の厚さ方向一方(図1の矢印W方向)側の面にはエレクトロクロミック膜16が形成されている。エレクトロクロミック膜16は、例えば、三酸化タングステン(WO)や三酸化モリブデン(MoO)、又は、このような酸化物が含まれる混合物により形成されており、特に、本発明においては、三酸化タングステンによりエレクトロクロミック膜16が形成されていることが好ましい。
また基板本体14の厚さ方向に沿ったエレクトロクロミック膜16の厚さには、特に制限はなく、例えば、300nm以上1000nm以下の範囲で設定することができる。本発明においては反射率低下の観点から、エレクトロクロミック膜16の厚さは400nm以上600nm以下であることが好ましい。
【0015】
前記基板本体上にエレクトロクロミック膜を形成する方法としては、特に制限なく通常用いられる方法を適用することができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法等を挙げることができる。
【0016】
このエレクトロクロミック膜16の基板本体14とは反対側の面には導電性反射膜18が形成されている。この導電性反射膜18は、導電性を有し、且つ、リチウムイオンの透過が可能な光沢を有する反射膜であって、銀または銀を含む合金から形成される。前記銀を含む合金は銀を主体としてその他の金属(好ましくは、カチオン透過性の高い金属材料)を含んで構成される。前記銀を含む合金を構成する銀以外の金属としては、例えば、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等を挙げることができ、中でもパラジウム(Pd)を含む合金であることが好ましい。かかる態様であることで導電性反射膜のカチオン透過性が向上し、応答速度が向上する。
また、基板本体14の厚さ方向に沿った導電性反射膜18の厚さには特に制限はく、例えば、30nm以上200nm以下の範囲で設定することができる。本発明においては、導電性と反射率の観点から、導電性反射膜18の厚さは、40nm以上60nm以下であることが好ましい。
【0017】
前記導電性反射膜は、種々の物理的または化学的蒸着法によって作製(成膜)することができる。例えば、銀を含むターゲット材料を用意し、そのターゲット材料を用いて種々のスパッタリングを行なうことによって銀を含む導電性反射膜を前記エレクトロクロミック膜上に形成することができる。
【0018】
また導電性反射膜18のエレクトロクロミック膜16とは反対側の面には保護膜36が形成されている。この保護膜36は、仕事関数が銀以下である金属を含むが、仕事関数が銀以下である金属のみからなることが好ましい。ここで仕事関数は、物質表面において、表面から1個の電子を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギーを意味する。
保護膜36が、仕事関数が銀以下ある金属を含んで形成されていることにより、導電性保護膜18に含まれる銀のエレクトロクロミック膜16中へ拡散が抑制され、銀によるエレクトロクロミック膜16の変色を抑制することができる。
【0019】
このことは例えば、以下のように考えることができる。エレクトロクロミック膜16は銀よりも仕事関数が大きい物質(例えば、三酸化タングステン)で構成されるため、エレクトロクロミック膜16と導電性反射膜18の境界においては、導電性反射膜18に含まれる銀原子の電子がエレクトロクロミック膜16を構成する物質に捕獲され、銀原子が銀イオンになりやすい状態におかれている。銀イオンは銀原子よりも容易に移動できるため、エレクトロクロミック膜16中へ拡散した銀イオンによりエレクトロクロミック膜の変色が発生しやすい。
これに対して、本発明においては導電性反射膜18のエレクトロクロミック膜16とは反対側の面に、仕事関数が銀以下である金属を含む保護膜36が形成されているため、保護膜36に含まれる金属原子からエレクトロクロミック膜16と導電性反射膜18の境界で生成する銀イオンに電子が供給され、導電性反射膜18に含まれる銀のイオン化を抑制すると考えることができる。
【0020】
前記保護膜36に含まれる銀の仕事関数(4.63eV)と比べて、仕事関数が銀以下である金属としては、ビスマス(Bi、4.34eV)、スズ(Sn、4.42eV)、モリブデン(Mo、4.57eV)、アンチモン(Sb、4.63eV)、ガリウム(Ga、4.32eV)、亜鉛(Zn、4.27eV)、クロム(Cr、4.50eV)、ニオブ(Nb、4.33)、バナジウム(V、4.30eV)、チタン(Ti、4.33eV)、タングステン(W、4.63eV)、セシウム(Cs、4.50eV)、ホウ素(B、4.45eV)、タンタル(Ta、4.30)等を挙げることができる。
中でも、エレクトロクロミック膜16の変色抑制の観点から、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)、クロム(Cr)であることが好ましい。
【0021】
また本発明における保護膜36に含まれる、仕事関数が銀以下である金属は、モース硬度が4以下であることが好ましい。モース硬度が4以下の金属を含んで保護膜36を構成することで、導電性反射膜18の白濁化を抑制することができる。これは例えば、保護膜36がモース硬度4以下の軟らかい金属を含んで構成されることで、本発明のエレクトロクロミックミラーの繰返し使用による保護膜36と面を接して構成される導電性反射膜18における微細なひび割れ(クラック)の発生を抑制できるためと考えることができる。
仕事関数が銀以下であり、モース硬度が4以下である金属としては、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、セシウム(Cs)等を挙げることができ、中でもビスマス(Bi)、スズ(Sn)であることが好ましい。
【0022】
前記保護膜36の厚さには特に制限はく、例えば、10nm以上200nm以下の範囲で設定することができる。本発明においては、エレクトロクロミック膜16の変色抑制と導電性反射膜18の白濁化抑制の観点から、保護膜36の厚さは、20nm以上80nm以下であることが好ましい。
【0023】
前記保護膜36は、前記導電性反射膜18と同様に、種々の物理的または化学的蒸着法によって作製(成膜)することができる。例えば、仕事関数が銀以下である金属(好ましくは、モース硬度が4以下の金属)を含むターゲット材料を用意し、そのターゲット材料を用いて種々のスパッタリングを行なうことによって、仕事関数が銀以下である金属を含む保護膜36を前記導電性反射膜18上に形成することができる。
【0024】
以上の構成の表面側基板12の厚さ方向一方の側には裏面側基板24が表面側基板12と対向するように設けられている。裏面側基板24はガラス等により形成された透明の基板本体26を備えている。この基板本体26の厚さ方向他方、すなわち、表面側基板12の側の面には導電性膜28が形成されている。導電性膜28は、クロム(Cr)やニッケル(Ni)等の金属や、インジウムチンオキサイド(In:Sn、所謂「ITO」)や酸化スズ(SnO)、フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)、酸化亜鉛(ZnO)等、更にはこれらの混合物により形成されていることが好ましい。
前記導電性膜28は、前記導電性反射膜18と同様に、種々の物理的または化学的蒸着法によって作製(成膜)することができる。
【0025】
この導電性膜28の表面側基板12の側の面には導電性を有するカーボン膜30が形成されている。カーボン膜30はグラファイト、カーボンブラック、及び活性炭から選ばれる少なくとも1種を含んで形成されるが、活性炭が50重量パーセント以上含まれていることが好ましい。カーボン材料として活性炭を含むことで、電極の表面積が増大し、電子(電流)の流れがよりスムーズになり電圧ロスも少なくなる。また活性炭表面は、水素イオンを容易に発生させ得る触媒の好適な担持場所にもなる。
さらに、グラファイト等のカーボン材料を含むことによって、当該電極層における水素イオン吸収能を向上させ、電圧の印加を解除した際にエレクトロクロミック膜から電解液への水素イオンの移行を促進することができる。さらに、活性炭やグラファイトとともにカーボンブラックを含むことにより、カーボン電極を構成する主要構成要素(活性炭、グラファイト等)同士の電気的接触度合いを向上させることができる。
前記カーボン膜30は、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、およびアクリル樹脂等の合成樹脂材の少なくとも1種をバインダーとしてさらに含んでいることが好ましい。
【0026】
基板本体26の厚さ方向に沿ったカーボン膜30の厚さ寸法は、50μm以上であることが好ましい。
また前記カーボン膜30の形成方法としては、例えば、数種のカーボン材料(例えば、上述した活性炭、グラファイト及びカーボンブラック)を適当なバインダー(例えば、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース系バインダー、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂系バインダー)とともに混合し、ドクターブレード法のような周知の方法によって、導電性膜28が形成された裏面側基板26上に塗布し、適当な温度(例えば150〜200℃)で加熱することによって成膜して形成することができる。
【0027】
以上の構成の表面側基板12と裏面側基板24との間には所定の隙間が形成されていると共に、表面側基板12の外周部と裏面側基板24の外周部との間は封止材32により封止されている。表面側基板12、裏面側基板24、及び封止材32により囲まれた空間内には電解液34が封入されている。電解液34は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド等、又はこれらの混合物により形成された溶媒を有しており、特に、本発明においてはプロピレンカーボネートが溶媒として用いられていることが好ましい。
【0028】
前記電解質34は、前記溶媒の他に、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(SO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)等やこれらの混合物を電解質として有しており、特に、本発明においては、過塩素酸リチウムが電解質として用いられていることが好ましい。
【0029】
さらに、以上の構成のエレクトロクロミックミラー10の導電性膜28は、回路40を構成するスイッチ42に接続されている。スイッチ42は、ON状態で接続される端子に車両に搭載されるバッテリー等で構成され定格電圧が1.3V程度の直流電源44の正極が接続されている。この直流電源44の負極は導電性反射膜18に接続されている。また、スイッチ42がOFF状態で接続される端子は、上記の直流電源44を介さずに導電性反射膜18に接続されており、OFF状態では導電性反射膜18と導電性膜28とが短絡される。
また、図示しないが、直流電源44の負極が保護膜36に接続され、スイッチ42がOFF状態で接続される端子は、上記の直流電源44を介さずに保護膜36に接続されており、OFF状態では保護膜36と導電性膜28とが短絡される態様であってもよい。
【0030】
以上の構成のエレクトロクロミックミラー10では、スイッチ42のOFF状態では、エレクトロクロミック膜16が略透明となっており、このため、基板本体14のエレクトロクロミック膜16とは反対側から入射した光は、基板本体14、エレクトロクロミック膜16を透過して導電性反射膜18にて反射される。さらに、導電性反射膜18にて反射された光はエレクトロクロミック膜16、基板本体14を透過する。本発明にかかるエレクトロクロミックミラーにおいて、光の反射率に特に制限はなく、例えば、55パーセント程度とすることができる。
【0031】
一方、スイッチ42をON状態に切り替えると、回路40を導電性反射膜18の側に移動した電子(e)がエレクトロクロミック膜16に侵入すると共に、電解液34の電解質を構成するリチウムイオン(Li)が、保護膜36と導電性反射膜18を透過してエレクトロクロミック膜16に侵入する。これにより、エレクトロクロミック膜16では以下の式1の還元反応が生じ、所謂タングステンブロンズと称される青色のLiWOがエレクトロクロミック膜16で形成される。
Li+e+WO→LiWO・・・(式1)
このようにしてエレクトロクロミック膜16が青色に着色されることでエレクトロクロミック膜16が着色される前では55パーセント程度であった反射率が例えば、7パーセント程度まで低下する。
【0032】
さらに、以上の還元反応が生じる際には、カーボン膜30を構成する炭素から直流電源44の側へ電子(e)が移動し、これにより、電解質を構成する塩に由来する負イオン、例えば、過塩素酸リチウムの負イオン(ClO)がカーボン膜30の側へ移動する。これにより、上記の還元反応に対する以下の式2のような補償反応が生じる。
ClO+C−e→C・ClO・・・(式2)
【0033】
また、カーボン膜30には、活性炭のみならず、グラファイトとカーボンインクが含まれており、これにより、カーボン膜30は充分な導電性が付与され、カーボン膜30における反応を早くできる。
さらに、カーボン膜30を備えることにより、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして導電性反射膜18と導電性膜28とを短絡させると上記の式1及び式2とは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0034】
以上のようなエレクトロクロミックミラー10を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にはスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
<実施例1>
85×114mmのガラス基板上に、以下のようにしてエレクトロクロミック膜を形成した。即ち、市販の真空蒸着装置を用いて、三酸化タングステン(WO)を蒸着し、厚さ500nmの三酸化タングステンからなるエレクトロクロミック膜をガラス基板上に形成した。
次に、上記得られたエレクトロクロミック膜に接して導電性光反射膜を形成した。即ち、上記エレクトロクロミック膜の形成において、三酸化タングステン(WO)の代わりに銀(Ag)を用いて、エレクトロクロミック膜上に厚さ50nmの導電性反射膜を形成した。
次に、上記得られた導電性反射膜に接して保護膜を形成した。即ち、上記導電性反射膜の形成において、銀の代わりにスズ(Sn)を用いて、導電性反射膜上に厚さ50nmのスズからなる保護膜を形成した。
【0037】
その一方、上記表面側基板と同じガラス基板を裏面側基板としても採用し、その表面に厚さ200nmのクロム(Cr)からなる導電性膜を、上記と同様にして蒸着により形成した。
次いでクロムからなる導電性膜上に、カーボン電極膜を形成した。即ち、グラファイト10質量%、カーボンブラック10質量%、活性炭70質量%及びポリイミド系バインダー10質量%からなるカーボン材料を適量の水と混合し、得られた混合材料を基板表面にドクターブレード法により塗布した。その後、180℃で1時間加熱し、厚さ約50μmのカーボン電極膜を形成した。
【0038】
こうして得られたカーボン電極膜の表面の周縁部にエポキシ系樹脂から成るシール材を塗布し、その内部に電解液を約0.2mmの厚さに塗布した。本実施例に係る電解液は、非プロトン溶媒であるプロピレンカーボネートに、濃度100mMとなるように過塩素酸リチウムを加えたものを使用した。
次いで、エレクトロクロミック膜、導電性反射膜および保護膜を備える表側面基板を重ね合わせ、上記シール材で封止することによって図1に示す構造を有するエレクトロクロミックミラーを得た。
【0039】
<実施例2〜7、比較例1〜2>
実施例1において、導電性反射膜を構成する金属と保護膜を構成する金属とを下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてエレクトロクロミックミラーを得た。
【0040】
<実施例8>
実施例1において、導電性反射膜を構成する金属としてAg37(三菱マテリアル社製、銀合金No37)を用いてスパッタリングで導電性反射膜を形成し、保護膜を、クロム(Cr)を用いて形成したこと以外は、実施例1と同様にしてエレクトロクロミックミラーを得た。
【0041】
<比較例3>
実施例1において、導電性反射膜を構成する金属としてAgBi(Bi添加銀合金)を用いてスパッタリングで導電性反射膜を形成し、保護膜を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてエレクトロクロミックミラーを得た。
【0042】
<評価>
(変色および白濁)
得られたエレクトロクロミックミラーについて、以下のようにしてエレクトロクロミック膜の変色および白濁を評価した。結果を表1に示した。
得られたエレクトロクロミックミラーの導電性反射膜が負極、導電性膜が正極となるように1.3Vの直流電源を接続し、スイッチのON/OFFを100回繰り返した後、目視にてエレクトロクロミック膜および導電性反射膜を観察し、下記評価基準に従って評価した。
〜評価基準〜
○:エレクトロクロミック膜の変色が認められず、24時間経過以降も導電性反射膜の白濁が認められなかった。
△:エレクトロクロミック膜の変色は認められなかったが、24時間経過後に導電性反射膜の白濁が認められた。
×:エレクトロクロミック膜の変色が認められ、導電性反射膜の白濁も認められた。
【0043】
(反射率)
得られたエレクトロクロミックミラーの電圧未印加時の反射率(DAY反射率(%))と電圧印加時の反射率(NIGHT反射率(%))とを分光反射率計を用いて測定した。結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から、仕事関数が銀以下である金属を用いて保護膜を構成することで、変色を抑制できることが分かる。さらにモース硬度が4未満の金属を用いて保護膜を構成することでミラーの白濁化も抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0046】
10 エレクトロクロミックミラー
16 エレクトロクロミック膜
18 導電性反射膜
28 導電性膜
30 カーボン膜
34 電解液
36 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元反応することで着色されるエレクトロクロミック膜と、
前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向一方の側に形成されて前記エレクトロクロミック膜を透過した光を反射すると共に導電性を有し、銀または銀を含む合金により形成された導電性反射膜と、
前記導電性反射膜の厚さ方向一方の側で前記エレクトロクロミック膜とは反対側に設けられ、仕事関数が銀以下である金属を含んで形成された保護膜と、
前記保護膜の厚さ方向一方の側で前記導電性反射膜とは反対側に設けられた導電性を有する導電性膜と、
前記導電性膜の前記導電性反射膜の側で活性炭を含めて形成された導電性を有するカーボン膜と、
リチウムイオンを含めて構成されて前記保護膜と前記導電性膜との間に封入され、前記導電性膜を正とし、前記導電性反射膜または前記保護膜を負として電圧を印加することで前記リチウムイオンが前記エレクトロクロミック膜の側へ移動して、前記エレクトロクロミック膜の還元反応に供される電解液と、
を備えるエレクトロクロミックミラー。
【請求項2】
前記銀よりも仕事関数が小さい金属は、モース硬度が4以下である請求項1に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項3】
前記銀よりも仕事関数が小さい金属は、ビスマスまたはスズである請求項1または請求項2に記載のエレクトロクロミックミラー。

【図1】
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【公開番号】特開2011−95406(P2011−95406A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247912(P2009−247912)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】